説明

オフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法

【課題】デラミネーションの発生をより確実に低減できるようにした、オフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を提供する。
【解決手段】互いに対向するとともにウェブ10の進行方向に上流側の第1の印刷胴9b及び下流側の第2の印刷胴9aの順にシフトして配設された一対の印刷胴9a,9bのニップ部で、ウェブ10に印刷を行うオフセット輪転印刷機において、ウェブ10の搬送方向に直交する面に対する一対の印刷胴9a,9bの両軸心を結ぶ面の傾斜角度αを調整する傾斜角度調整機構20と、一対の印刷胴9a,9bのうち下流側の第2の印刷胴9aの印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータに基づいて、傾斜角度調整機構を制御する制御手段30と、をそなえている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブのデラミネーション対策に用いて好適の、オフセット輪転印刷機及びオフセット輪転印刷機における印刷胴の傾斜角度調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット輪転印刷機は図13に示すように給紙装置1に取り付けられたロール状のウェブ(連続紙)10をインフィード装置2により繰り出し、適宜の数の印刷ユニット7を備えた印刷装置3で印刷を行い、印刷されたウェブ10は、ドライヤ装置51,冷却装置52,ウェブパス装置53を通って折機6へ搬送されて折機6で折帳が作成される。多色印刷を行う場合には印刷装置には印刷色数だけの印刷ユニット7が設けられる。また、オフセット輪転印刷機は印刷ユニットでウェブの両面に印刷を行う両面印刷機であることが一般的である。
【0003】
図14はウェブを略水平に走行させる両面印刷機にそなえられた一組の印刷ユニットを示す構成図である。図14に示すように、印刷ユニット7は、ウェブ10上面に印刷を行う上ユニット7aと、ウェブ10下面に印刷を行う下ユニット7bとを備えている。
上下の各ユニット7a,7bには、印刷する絵柄が形成された刷版(図示省略)が装着される版胴8a,8bと、版胴8a,8bにインキを供給するインキ装置18a,18bと、版胴8a,8bに湿し水を供給する湿し装置19a,19bと、版胴8a,8bに装着された版の画像をウェブ10表面に転写する転写胴であるブランケット胴9a,9bと、を備えている。
【0004】
上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bは所定の印圧で互いに対向して接しており、各ブランケット胴9a,9bの表面にはそれぞれ板状の可撓性のブランケット(図示省略)が装着されている。これら上ブランケット胴9aと下ブランケット胴9bとの間のニップ部において、ウェブ10の両面に印刷が行われる。
なお、各ブランケット胴の表面にはブランケットを装着可能とするために軸方向にわたって溝部が形成されており、この溝部にブランケットの咥え側及び咥え尻側の両端部が嵌め込まれブランケットがブランケット胴の表面に巻き付けられている。
【0005】
したがって、ブランケット胴の溝部付近にはウェブ10と接触しないギャップが生じる。さらに、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bは、互いのギャップがニップ部で一致するように(互いに向き合うように)同期して回転しているため、互いのギャップがニップ部に位置したときに上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9b間の印圧が変化してウェブ10にかかるテンション(引張応力)が変動する。これにより、ウェブ10が搬送方向前後にずれてしまい、印刷の位置ずれが生じてしまう。また、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bが振動して、ウェブ10がニップ部出口でばたついて挙動が安定しない。
【0006】
このようなウェブのテンション変動を抑制するため、従来のオフセット輪転印刷機では、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bの互いの軸中心を結ぶ面がウェブ搬送方向と直交する面に対して所定角度(以下、これをスタッガード角度と呼ぶ)αだけ傾くように上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bを配置してウェブ10を上ブランケット胴9a表面及び下ブランケット胴9b表面のニップ部以外の領域でも支持するようにしている。
【0007】
なお、近年、技術開発に伴い、上述のギャップの長さは小さくなる傾向にあるため、必要なスタッガード角度αも減少する傾向にある。また、ギャップを生じないギャップレス方式のブランケット胴等も開発されているため、スタッガード角度は比較的自由に設定しうる状況にある。
このようなオフセット輪転印刷機では、図15に二点鎖線で示すように、ウェブ10が上ブランケット胴9aから離れる際、上ブランケット胴9aとウェブ10との間にあるインキの粘着性により、ウェブ10は上ブランケット胴9a表面にしばらく貼り付いて走行した後、ウェブテンションの作用により剥がれる。このとき、例えば図16(A),(B)に示すように、デラミネーション模様(以下、単にデラミネーションという)16と呼ばれる不定形の模様(色濃度低下)が発生する場合がある。このようなデラミネーション16が印刷面に発生すると、この印刷物は損紙として扱われる。
【0008】
このようなデラミネーションの発生を低減するために特許文献1には上述のスタッガード角度を適切な角度に設定することによりデラミネーションを低減する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2005−305752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、デラミネーションは印刷条件に応じて生じるものであり、印刷条件に応じてデラミネーションをより効果的に低減しうる最適なスタッガード角度も異なるものと考えられる。
しかしながら、特許文献1の技術はこのような印刷条件を総合的に考慮したものでを印刷条件に応じて変更するものではないため、それぞれの印刷条件によってはデラミネーションを必ずしも効果的に低減できない場合が考えられる。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑み創案されたもので、デラミネーションの発生をより確実に低減できるようにした、オフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、請求項1記載の本発明のオフセット輪転印刷機は、互いに対向するとともにウェブの進行方向に上流側の第1の印刷胴及び下流側の第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部で、上記ウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度(スタッガード角度)αを調整する傾斜角度調整機構と、上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータに基づいて、上記傾斜角度調整機構を制御する制御手段と、をそなえていることを特徴としている。
【0012】
また、請求項1のものにおいて、上記制御手段は、印刷する絵柄情報と、使用するインキ情報と、上記ウェブの材料情報と、上記第2の印刷胴の下流側における上記ウェブの支持スパン情報とを含む、上記パラメータに相当する印刷関連情報に基づいて、上記デラミネーションの発生確率と上記傾斜角度との対応関係を設定する対応関係設定手段と、上記対応関係設定手段により設定された上記対応関係に基づいて、上記発生確率を予め設定された所定の確率以下にする上記傾斜角度の最適範囲を算出する最適範囲算出手段と、上記傾斜角度が上記最適範囲算出手段により算出された最適範囲となるように、上記傾斜角度調整機構に指令信号を出力する指令手段とをそなえていることが好ましい(請求項2)。
このようにすれば、具体的な印刷関連情報に基づいて、デラミネーションの発生確率と傾斜角度との対応関係を求めることで、傾斜角度の最適範囲を算出でき、傾斜角度を最適範囲とすることにより、より確実にデラミネーションの発生を抑制できる。
【0013】
さらに、上記絵柄情報には、上記第2の印刷胴により印刷する第2の絵柄の画線面積率M2と、上記第1の印刷胴により印刷する第1の絵柄の画線面積率M1との各情報が含まれ、上記インキ情報には、インキタックtの情報が含まれ、上記ウェブの材料情報には、ウェブの剛度Gの情報が含まれ、上記支持スパン情報には、隣接する他のインキ色の一対の印刷胴との各ニップ間の距離である色間長さL*の情報が含まれ、上記対応関係設定手段は、上記の第1及び第2の印刷胴によるニップ部分の下流側における上記ウェブの幅方向各部における張力状態のバラツキを示す紙面内のテンション変動量Tnを、上記印刷関連情報に相関する量として設定すると共に、上記テンション変動量Tnが上記発生確率φに対して式φ=c・exp(Tn)を満たすものとして、上記対応関係を設定することが好ましい(請求項3)。
このようにすれば、テンション変動量Tnに着目することで傾斜角度の最適範囲を算出でき、傾斜角度を最適範囲とすることにより、より確実にデラミネーションの発生を抑制できる。
【0014】
さらに、上記テンション変動量Tnは、上記第2の絵柄の画線面積率M2,上記インキタックt及び上記傾斜角度αに相関する角度であって上記ウェブが上記第2の印刷胴の表面から剥がれる際の上記第2の印刷胴の表面に対する上記ウェブの角度であるウェブ剥がれ角度θと、上記ウェブの剛度Gと、上記第2の絵柄の画線面積率M2と、上記傾斜角度αに対応した量であって上記ウェブの上記第1の印刷胴の表面への巻き付け量βとの関数とされることが好ましい(請求項4)。
【0015】
また、上記制御手段は、デラミネーションが発生しうる特定条件下において、上記傾斜角度調整機構を制御することが好ましい(請求項5)。
このようにすれば、デラミネーションが発生し得ない場合に無駄な制御を行うことを防止することができる。
上記特定条件は、上記ウェブの各面の何れにも印刷が行なわれること、上記ウェブの各面の平均画線面積率に予め設定された閾値以上の差があること、下流側の上記第2の印刷胴にかかる第2の絵柄に白抜け部分が存在すること、上流側の上記第1の印刷胴にかかる第1の絵柄における上記白抜け部分に対応した箇所に予め設定された値以上の画線面積率の絵柄部分が存在すること、の何れもが成立していることであることが好ましい(請求項6)。
【0016】
また、上記特定条件は、上記ウェブの各面の平均画線面積率が何れも第1基準値以上の大画線面積率となっていることも好ましい(請求項7)。
さらに、上記特定条件は、下流側の上記第2の印刷胴にかかる第2の絵柄の画線面積率が第2基準値以上の大画線面積率となっていること、上流側の上記第1の印刷胴にかかる第1の絵柄の一部の画線面積率が第3基準値以上の大画線面積率となっていること、の何れもが成立していることが好ましい(請求項8)。
このようにすれば、デラミネーションが発生しうる条件を判定することができる。
【0017】
また、請求項1のものにおいて、上記一対の印刷胴による印刷による発生する騒音レベルを上記デラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして検知する騒音検知手段を備え、上記制御手段は、上記騒音検知手段により検知された騒音レベル情報に基づいて上記傾斜角度調整機構を制御して上記騒音レベルが低下する側に上記傾斜角度αを調整することが好ましい(請求項9)。
【0018】
このようにすれば、デラミネーションの発生確率に相関するパラメータとしての騒音レベルに基づく傾斜角度αの調整により、確実にデラミネーションの発生を抑制できる。
また、上記制御手段は、本印刷前の調整段階で上記騒音レベル情報に基づく上記傾斜角度αの調整を行うことが好ましい(請求項10)。
このようにすれば、本印刷前に傾斜角度αを調整し、本印刷中は傾斜角度αを一定とし、印刷条件を変えないので印刷に支障がない。
【0019】
請求項11記載の本発明の印刷胴の傾斜角度設定方法は、互いに対向するとともにウェブの進行方向に上流側の第1の印刷胴及び下流側の第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部でウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度(スタッガード角度)αを設定する方法であって、印刷する絵柄情報と、使用するインキ情報と、上記ウェブの材料情報と、上記第2の印刷胴の下流側における上記ウェブの支持スパン情報とを含む印刷関連情報を、上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして取得する情報取得ステップと、上記情報取得ステップにより取得された情報に基づいて、上記デラミネーションの発生確率と上記傾斜角度との対応関係を設定する対応関係設定ステップと、上記対応関係設定ステップにより設定された対応関係に基づいて、上記発生確率を予め設定された所定の確率以下にするような範囲内に上記傾斜角度αを設定する角度設定ステップと、をそなえていることを特徴としている。
【0020】
また、請求項11のものにおいて、上記絵柄情報には、上記第2の印刷胴により印刷する第2の絵柄の画線面積率M2と、上記第1の印刷胴により印刷する第1の絵柄の画線面積率M1との各情報が含まれ、上記インキ情報には、インキタックtの情報が含まれ、上記ウェブの材料情報には、ウェブの剛度Gの情報が含まれ、上記支持スパン情報には、隣接する他のインキ色の一対の印刷胴との各ニップ間の距離である色間長さL*の情報が含まれ、上記対応関係設定ステップでは、上記の第1及び第2の印刷胴によるニップ部分の下流側における上記ウェブの幅方向各部における張力状態のバラツキを示す紙面内のテンション変動量Tnを、上記印刷関連情報に相関する量として設定すると共に、上記テンション変動量Tnが上記発生確率φに対して式φ=c・exp(Tn)を満たすものとして、上記対応関係を設定することが好ましい(請求項12)。
【0021】
上記テンション変動量Tnは、上記第2の絵柄の画線面積率M2,上記インキタックt及び上記傾斜角度αに相関する角度であって上記ウェブが上記第2の印刷胴の表面から剥がれる際の上記第2の印刷胴の表面に対する上記ウェブの角度であるウェブ剥がれ角度θと、上記ウェブの剛度Gと、上記第2の絵柄の画線面積率M2と、上記傾斜角度αに対応した量であって上記ウェブの上記第1の印刷胴の表面への巻き付け量βとの関数とされることが好ましい(請求項13)。
【0022】
上記情報取得ステップに先立って、上記ウェブの材料及び上記インキの種類の少なくとも何れかと上記発生確率との対応関係に基づいて、上記ウェブの材料及び上記インキの種類の少なくとも何れかを選定する材料選定ステップを備えていることも好ましい(請求項14)。
また、請求項15記載の本発明の印刷胴の傾斜角度設定方法は、互いに対向するとともにウェブの進行方向に第1の印刷胴及び第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部でウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度(スタッガード角度)αを調整する方法であって、上記一対の印刷胴による印刷による発生する騒音レベルを、上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして検知する騒音検知ステップと、上記騒音検知ステップにより検知された騒音レベル情報に基づいて上記傾斜角度調整機構を制御して上記騒音レベルが低下する側に上記傾斜角度を調整する角度調整ステップと、をそなえたことを特徴としている。
【0023】
また、請求項15のものにおいて、上記角度調整ステップは、本印刷前の調整段階で実施されることが好ましい(請求項16)。
【発明の効果】
【0024】
したがって、本発明のオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度設定方法によれば、デラミネーションの発生確率に相関するパラメータに基づく傾斜角度(スタッガード角度)αの調整により、より確実にデラミネーションの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(デラミネーション発生のメカニズム)
以下、本発明の実施の形態の説明に先立ち本発明者が究明したデラミネーションの発生メカニズムについて説明する。なお、従来技術の説明で用いたものと同じものについては同符号を用いて説明する。
まず、表面(ウェブの表側の面であり上ブランケット胴により印刷される面)の絵柄に白抜け部分(非画線部)あるいは白抜け部分に準ずる程度の低画線面積率の絵柄部分が存在する場合におけるデラミネーションの発生メカニズムについて説明する。
【0026】
図1は上ブランケット胴9aからウェブ10に転写される印刷絵柄(表面の絵柄)を示す図、図2(A)〜(D)は、ウェブ10が上下の各ブランケット胴9a,9bを通過するときの態様を模式的に示す図である。なお、ここでは上ブランケット胴9aが下流側(第2の印刷胴)に配置されており,下ブランケット胴9bが上流側(第1の印刷胴)に配置されているが、各ブランケット胴の配置構成についてはこれに限定するものではない。
【0027】
図1に示すように、表面の絵柄の一部分には白抜け部分(あるいは低画線面積率部分)Wが存在する。また、図示省略するが、下ブランケット胴9bからウェブ10に転写される裏面の絵柄は表面の絵柄の白抜け部分Wに対応した箇所を含む全面に予め設定された閾値以上の画線面積率の絵柄部分が存在している。
また、図2(A)に示すように、ブランケット胴9a及びブランケット胴9bは所定の印圧で互いに対向して接しており、これらブランケット胴9aとブランケット胴9bとの間のニップ部において、ウェブ10の両面に印刷が行われる。また、上ブランケット胴9aと下ブランケット胴9bとはウェブ10の進行方向に対して上ブランケット胴9aが下流側、下ブランケット胴9bが上流側となるように傾斜角度(スタッガード)角度αが設定されている。
【0028】
以下、図1に示す絵柄部分が転写されるウェブ10がニップ部を通過する際のウェブ10と各ブランケット胴9a,9bの態様について説明する。
まず、図1の区間X1〜X2のように表裏共に一定レベル以上の高画線面積率での印刷が行われている場合には、図2(A)に示すようにウェブ10がニップ部Nを通過後、ウェブ10が下ブランケット胴9bから剥離して上ブランケット胴9aに接した状態となる。
【0029】
これは下ブランケット胴9bよりも上ブランケット胴9aの方がウェブ10の進行方向下流側にシフトしていることからニップN通過後はウェブ10の起動に接近した位置にあるため上ブランケット胴9a外周のインキ粘性による付着力の方が強くなるためのと考えられる。したがって、反対にスタッガード角度αの設定を変更して上ブランケット胴9aよりも下ブランケット胴9bの方がウェブ10の進行方向下流側にシフトしている状態である場合にはまず先にウェブ10が上ブランケット胴9aから剥離する。
【0030】
ウェブ10が下ブランケット胴9bから剥離した後は、上ブランケット胴9a側から転写されるインキに起因する上ブランケット胴9aとウェブ10との付着力(上ブランケット胴9aの径方向に加わる)のため、ウェブ10が上ブランケット胴9aと接触した状態で剥れ位置Aまで剥離することなくウェブ10が上ブランケット胴9aに巻き付き、剥れ位置Aでウェブ10が上ブランケット胴9aから剥離する。なお、ニップ部から剥れ位置までの上ブランケット胴9aの回転角度を巻き角γという。
【0031】
次に図1の区間X2〜X3のように白抜け部分Wを含む区間がニップ部Nを通過したときには、図2(B)中実線で示すように、ウェブ10の幅方向の白抜け部分Wにあたる部分では上ブランケット9aから転写されるインキの付着力が小さいため下ブランケット胴9bから転写されるインキの付着力によってウェブ10が下ブランケット胴9bから剥離せず、反対に上ブランケット胴9aの方から先に剥離する。
【0032】
一方、白抜け部分Wの印刷幅方向両端に位置する白抜け部分Wでない部分(以下、白抜け部分W以外の画線部分を網部分という)は、図2(B)中破線で示すように、図2(A)の状態と同様にウェブ10と上ブランケット胴9aが剥がれた後に剥れ位置Aでウェブ10と上ブランケット胴9aとが剥離する。
その後ウェブ10がさらに進行すると、図2(C)に示すように、白抜け部分Wが下ブランケット胴9bから剥離し始める。一方、網部分は変わらず剥れ位置Aで上ブランケット胴9aから剥離する。
【0033】
そして、白抜け部分Wが下ブランケット胴9bから完全に剥離した場合には、図2(D)に示すように、図1の区間X2〜X3においては既にウェブ10は上ブランケット胴9aから剥離した状態であるので、ウェブ10と上ブランケット胴9aとの剥れ位置は剥れ位置Aから剥れ位置Bへと移動する。なお、網部分については剥れ位置Aは変わらない。
このように、表面の絵柄に白抜け部分Wを有し、白抜け部分Wに対応する裏面に一定レベル以上の画線面積率の画線部が存在するような場合に白抜け部分Wに対応する位置のみウェブ10の上ブランケット胴9aからの剥れ位置が変動する。
【0034】
ここで、図2(A)の状態(剥れ位置A)と図2(D)の状態(剥れ位置B)とのウェブ10の軸方向(進行方向)にかかる引張応力(テンション)及びウェブ10にかかる上ブランケット胴9aに対する付着力について図3に示す。
図3に示すように、剥れ位置Aにおいてウェブ10には上ブランケット胴9aの径方向に付着力F1が生じる。
【0035】
また、剥れ位置Aにおいてウェブ10が上ブランケット胴9aから剥離するので、剥れ位置Aでは図中破線で示すように付着力F1と大きさが等しく向きが反対の剥離力が加わることになる。この剥離力はウェブ10にかかるテンションT1により生じる。つまり、剥れ位置Aにおいて、上ブランケット胴9aの周面(接線方向)に対するウェブ10が剥離する方向の角度を剥がれ角度θ1とすると剥離力はテンションT1の正弦(つまり、T1・sinθ1)で表すことができる。
【0036】
剥れ位置Bにおいては、ウェブ10には上ブランケット胴9aの径方向に付着力F2が生じる。そして、剥れ位置Bにおいてウェブ10が上ブランケット胴9aから剥離するので、剥れ位置Bには図中破線で示すように付着力F2と大きさが等しく向きが反対の剥離力が加わることになる。この剥離力は剥れ位置Bにおけるウェブ10の剥がれ角度θ2とウェブ10にかかるテンションT2とを用いて表すとテンションT2の正弦(つまり、T2・sinθ2)で表すことができる。
【0037】
ここで、剥れ位置A及び剥れ位置Bにおけるそれぞれ付着力について検討すると、付着力F1,F2は主にインキの粘性に起因するものであり、インキの粘度を示すインキタック値tや表面の絵柄の画線面積率(つまりはインキ量)によって決定される。つまり、インキの種類を選定したら、所定の画線面積率が同じあるいは無視できる程度の差である場合には、付着力F1,F2の大きさは略同じといえる。
【0038】
付着力F1,F2がそれぞれ略同じ大きさであれば、ウェブ10に加わるテンションT1,T2の大きさによって各剥れ位置A,B及び剥がれ角度θ1,θ2が決定される。
即ち、剥がれ角度が大きく(例えば、90°に近く)なるのはウェブ10にかかるテンションが小さい状態であり、剥がれ角度が小さく(例えば、0°に近く)なるのはウェブ10にかかるテンションが大きい状態であるといえる。
【0039】
ウェブ10にかかるテンションの変化は、紙剥れ位置が変動する(つまり、巻き角γが変動する)ことによっても生じる。つまり、図2(A)〜(D)を用いて上述したように印刷運転中にウェブ10の剥れ位置が変動(剥れ位置Aから剥れ位置Bへ移動)するような場合にはウェブ10にかかるテンションが剥れ位置の移動とともに変化する。
図4は図2(A)〜(D)におけるウェブ10にかかるテンションの経時変化を示す図である。なお、図4では白抜き部分WにかかるテンションTwを実線で示し、白抜き部分Wの両端に位置する網部分にかかるテンションTcを破線で示す。
【0040】
図4に示すように、図2(A)の時点(図中0〜t1の期間)では、ウェブ10にかかるテンションは白抜き部分Wも網部分もほぼ同程度である。
そして、図2(B)及び図2(C)の時点(図中t1〜t2の期間)では白抜け部分Wが下ブランケット胴9b側に付着し、白抜き部分Wの上流側の網部分は剥れ位置Aまで上ブランケット胴9aに付着しているので、白抜き部分Wにかかるテンションは徐々に上昇する。
【0041】
そして、図2(D)の時点付近(図中t2〜t3の期間)では白抜け部分Wが下ブランケット胴9bから完全に剥離して剥れ位置Aが非画線部(つまり、上ブランケット胴9aから剥離済み)となるため一瞬だけウェブ10にかかるテンションTwが急減する。このとき剥れ位置が剥れ位置Aから剥れ位置Bへ移動する。
そして、表面の白抜け部分Wの後につづく網部分が紙剥れ位置Bに達した時点でウェブ10と上ブランケット胴9aとの付着力F2が急激に加わるためウェブ10にかかるテンションTwが急増する。
【0042】
その後(図中t3以降の期間)、剥れ位置は再び剥れ位置Aに戻り剥れ位置が安定して白抜き部分WにかかるテンションもTwがテンションTcと略等しくなるように収束する。
このようにウェブ10にかかるテンションTwが急激に変化することにより、ウェブ10の幅方向において白抜き部分WのテンションTwと網部分のテンションTcとに差が生じ、ウェブ10の幅方向においてテンションにバラツキが生じる(以下、ウェブ10の幅方向各部のテンションのバラツキを「テンション変動Tn」という)。
【0043】
そして、テンション変動Tnが生じると白抜け部分Wとのウェブ進行方向の境界部WS(図1参照)においてウェブ10に皺が生じる。これを剥がれシワあるいはテンションシワという。この剥がれシワが生じることにより、印刷絵柄に濃淡境界(つまり、デラミネーション)が発生するものと考えられるのである。
【0044】
次に、表面及び裏面のいずれにも一様な高画線面積率(80%総網)の絵柄を印刷する場合におけるデラミネーション発生メカニズムについて説明する。
詳細については後述するが表面及び裏面のいずれにも高画線面積率の絵柄を印刷する場合においても上述の白抜け部分Wが存在する場合と同様に、ウェブ10にかかるテンションの変動によってデラミネーションが発生するという点では共通している。
しかし、表面及び裏面のいずれにも高画線面積率の絵柄を印刷する場合はテンション変動の大きな要因である剥れ位置の変動が上ブランケット胴9aの周面に存在するギャップ(溝)に起因して生じるという点で上述のものと異なる。
【0045】
つまり、図5に示すように、上ブランケット胴9aの周面にギャップGが存在する場合、ギャップGの部分ではウェブ10へのインキの転写が行われないため、ギャップG付近では上ブランケット胴9aとウェブ10との付着力は無くなる。
また、上下共に絵柄の画線面積率が同じであるから一見テンション変化は無いように見えるが紙の剛性と伸縮のバランスによってテンションシワが発生している。
【0046】
このテンションシワは一定しておらず、ウェブ10の幅方向(ウェブ進行方向と直交する方向)の任意の位置に発生し得る。
このテンションシワの発生原因について説明すると、上ブランケット胴9aの周面に存在するギャップ(溝)が紙剥れ位置を通過する際にはギャップ部分ではウェブ10に対する付着力が無くなり、ギャップ通過後はウェブ10に再び付着力が作用する。
【0047】
これによって、ウェブ10の幅方向の各位置においてテンションにバラツキが生じ、ブランケット胴への巻き角γ(つまり、紙剥れ位置)が図17(A)に点線で示すようにウェブ幅方向の各位置において不均一になって、図17(B)に示すように各紙剥れ位置でのテンション(矢印参照)に大きなバラツキが生じて、これによりテンションシワが発生するのである。ただしこのとき、ウェブ10の全幅方向にかかるテンションを合計したトータルテンションは変わらない。
つまり、紙の付着力と剥がし力(テンション)とのバランスによってウェブ10が版胴から剥がれる位置や方向が決まり、ウェブ幅方向でこのバランスが異なるのでウェブが剥がれる位置や角度が異なることとなる。このようなテンションバランスのウェブ幅方向の変化(相違)によりテンションバランスの伝播が発生し、これによりテンションシワが生じ、末広がり形状や途中からのデラミネーション発生が起こり得ることになる。
【0048】
(デラミネーション発生のメカニズムまとめ)
以上、2つの場合についてデラミネーションの発生メカニズムを説明したが、いずれも、ウェブ10にかかるテンションの急変によりテンション変動Tnが大きくなることによってデラミネーションが発生することから、ウェブ10のテンション変動Tnが大きい程デラミネーション発生確率φが大きいと言える。
【0049】
そして、テンション変動Tnに関する条件として以下の(1)〜(6)のことが言える
(1)傾斜角度(スタッガード角度)αが大きい程巻き角γが大きい。
(2)巻き角(γ)が大きい程、テンション変動Tnは大きい。
(3)紙の剛度Gが大きい程、テンション変動Tnは小さい
なお、紙の剛度Gとは紙の変形しにくさに関する値である。
(4)付着力FはテンションTnに比例する。
(5)紙伸び量Lが大きい程、テンション変動Tnは大きい。
つまり、紙伸び量Lが大きい場合にはウェブ10の幅方向の剛性が小さくなり、ウェブ10の幅方向に作用するテンション変動Tnが大きくなる。
(6)色間長さが短い程、テンション変動Tnは小さい。
デラミネーションの発生確率φを低減するためにはテンション変動Tnを極力小さくすることが必要である。
【0050】
テンション変動Tnを低減するためにはスタッガード角度αを適宜設定することが考えられる。スターガード角αを小さくすることにより巻き角rが小さくなる(つまり、紙剥がれ位置が下方に移動する)し、これによってテンション変動Tnが低減されてデラミネーション低減にも効果的である。
ただし、テンション変動Tnは付着力F,紙の剛度G,紙伸び量L等に影響されるため、テンション変動Tnを低減するためには単純にスタッガード角度αをより小さく設定すればよいというものではない。
【0051】
例えば、スタッガード角を0度(垂直)に設定した場合には、ウェブ10が上下のブランケット胴9a,9bから剥がれる際にウェブ10の挙動が安定せず、ニップ部における転写位置にズレが生じて網点が再付着して2重転写となる所謂「ダブリ」が生じる等、デラミネーション以外の印刷障害が発生する可能性が大きくなる。
また、上ブランケット胴9aから転写される絵柄が面積的に非常に小さな絵柄(あるいは画線面積率が小さい絵柄)であるのに対して下ブランケット胴9bから転写される絵柄が面積的に非常に大きな絵柄(あるいは画線面積率が大きい絵柄)である場合には、ウェブ10の表面と上ブランケット胴9aとの付着力,及び,ウェブ10の裏面と下ブランケット胴9bとの付着力の付着力の差が異なるため、適正なスタッガード角度αも異なる。
【0052】
また、スタッガード角度αの設定により、巻きつけ量β(図15参照)が変わることもデラミネーションの発生確率に大きな影響となる。
つまり、テンション変動Tnは使用するインキの種類,ウェブ10の紙種類,上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bから転写されるそれぞれの絵柄の絵柄面積率(転写されるインキの量に対応する),絵柄の配置位置及び巻き付け量βによっても変わるため、スタッガード角αを設定する際にはこれらの条件を考慮した上で適正なスタッガード角度αを設定する必要がある。
【0053】
[第1実施形態]
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。また、従来技術の説明で用いた図面も適宜用いて説明する。
【0054】
図6〜図11はいずれも本発明の一実施形態としてのオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、図6は一対の印刷胴を模式的に示す側面図、図7は制御装置の機能構成を示す機能ブロック図、図8(A)〜(K)それぞれ、印刷関連情報とテンション変動との対応関係に関するマップ、図9はテンション変動とデラミネーション発生確率との対応関係を示すグラフ、図10は傾斜角度調整機構の一例を模式的に示す図、図11(A),(B)はいずれも傾斜角度調整機構の一例を模式的に示す図である。なお、本実施形態は従来技術の説明において説明したものと同様の印刷機に本発明を適用したものである。
【0055】
即ち、図13に示すように本実施形態にかかるオフセット輪転印刷機は給紙装置1,インフィード装置2,印刷装置3,ドライヤ装置51,冷却装置52,ウェブパス装置53及び折機6を備えて構成されており、給紙装置1に取り付けられたロール状のウェブ(連続紙)10をインフィード装置2により繰り出し、印刷装置3で印刷を行うようになっている。
【0056】
印刷装置3はC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)のプロセスカラーのインキ色に対応した4機の印刷ユニット7を備えている。なお、印刷ユニット7の設置個数は一でも良く印刷色数に応じて設置される。
そして、印刷装置3で印刷されたウェブ10は、ドライヤ装置51,冷却装置52,ウェブパス装置53を通って折機6へ搬送されて折機6で折帳が作成されるようになっている。
【0057】
(印刷ユニットの構成)
図14に示すように印刷ユニット7は、ウェブ10上面に印刷を行う上ユニット7aと、ウェブ10下面に印刷を行う下ユニット7bとを備えている。
上下の各ユニット7a,7bには、印刷する絵柄が形成された刷版(図示省略)が装着される版胴8a,8bと、版胴8a,8bにインキを供給するインキ装置18a,18bと、版胴8a,8bに湿し水を供給する湿し装置19a,19bと、版胴8a,8bに装着された版の画像をウェブ10表面に転写する転写胴であるブランケット胴9a,9bと、を備えている。
【0058】
また、図6に示すように、各印刷ユニット7は下流側のブランケット胴(第2の印刷胴)9a及び下流側のブランケット胴(第1の印刷胴)9bは所定の印圧で互いに対向して接しており、これらブランケット胴9aとブランケット胴9bとの間のニップ部において、ウェブ10の両面に印刷が行われる。
ここでは、ウェブ10の上側に配置されてウェブ10上面にインキを転写するブランケット9aを上ブランケット胴といい、また、ウェブ10の下側に配置されてウェブ10下面にインキを転写するブランケット9bを下ブランケット胴というが各ブランケット胴9a,9bの配置構成はこれに限定するものではない。
【0059】
なお、各ブランケット胴9a,9bの表面にはブランケットを装着可能とするために軸方向にわたって溝部が形成されており、この溝部にブランケットの咥え側及び咥え尻側の両端部が嵌め込まれ可撓性のブランケットがブランケット胴の表面に巻き付けられている。
したがって、ブランケット胴の溝部付近にはウェブ10と接触しないギャップが形成されている。さらに、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bは、互いのギャップがニップ部で一致するように(互いに向き合うように)同期して回転するようになっている。
【0060】
さらに、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bの両軸心を結ぶ面が、ウェブ10の搬送方向と直交する面に対して所定の傾斜角度(これをスタッガード角度という)αだけ傾斜するように、上ブランケット胴9a及び下ブランケット胴9bが配置されている。言い換えると、上ブランケット胴9aを下ブランケット胴9bの直上位置よりも下ブランケット胴9b回転方向下流側(ウェブ搬送方向下流側)へ、或いは、下ブランケット胴9bを上ブランケット胴9aの直下位置よりも上ブランケット胴9a回転方向上流側(ウェブ搬送方向上流側)へ、スタッガード角度αだけずらして配置されている。
【0061】
そしてこのスタッガード角度αはアクチュエータ(傾斜角度調整手段)20によって調整可能となっており、アクチュエータ20は制御装置30によって制御されるようになっている。なお、アクチュエータ20の詳細な構成については後述する。
【0062】
(制御装置の機能構成)
制御装置30の機能構成について説明すると図7に示すように制御装置30はパソコン等で構成されており、機能要素として記憶部31,演算部(対応関係設定手段,最適範囲算出手段)32,指令部33を備えている。
【0063】
記憶部31には上ブランケット胴9aからのインキの転写(印刷)により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータ情報としての後述する種々の印刷関連情報が入力され、記憶されている。
そして、演算部32ではこれらの印刷関連情報に基づいてデラミネーションの発生確率と上記傾斜角度との対応関係を設定し、対応関係に基づいてデラミネーションの発生確率を予め設定された所定の確率以下にするための傾斜角度の最適範囲を算出する。そして、指令部34ではスタッガード角度αが演算部33で算出された傾斜角度となるようにアクチュエータ20を駆動するための駆動信号を送信するようになっている。
【0064】
(印刷関連情報)
記憶部31には印刷関連情報として印刷する絵柄情報,インキ情報,ウェブ10の材料情報,支持スパン情報が入力され、記憶されている。
【0065】
これらの印刷関連情報は予め記憶部31に入力するようにすればよい(情報取得ステップ)。また、これに先立って、ウェブの材料及びインキの種類の少なくとも何れかを後述するデラミネーションの発生確率φとの対応関係に基づいて予め選定しておく(材料選定ステップ)。
絵柄情報としては上ブランケット胴9aからウェブ10に転写される絵柄(表面の絵柄)の画線面積率データ(第2の絵柄の画線面積率M2)Mt,下ブランケット胴9bからウェブ10に転写される絵柄(裏面の絵柄)の画線面積率データ(第1の絵柄の画線面積率M1)Mbが入力され、記憶されている。
【0066】
また、インキ情報としては使用する各色のインキに対してインキの付着力(粘度)に関する値であるインキタックtの情報が入力され記憶されている。
ウェブ10の材料情報としてはウェブの剛性(変形しにくさ)を示す剛度G及び紙伸び量Lの情報が記憶されている。なお、紙伸び量Lは剛度Gと関連してウェブ10にかかるテンションによるウェブ10の変形量であるが、この紙伸び量Lはウェブ10の紙質(紙種)とテンションとに応じて求めることができ、予め実験等によって紙種及びテンションに応じた紙伸び量Lを求めておくことができる。
【0067】
支持スパン情報として、各印刷ユニット7間のニップ部の距離(色間長さ)L*(図13参照)の情報が記憶されている。また、記憶部31には現在のスタッガード角度αも記憶されている。
また、記憶部31には支持スパン情報の関連情報として巻き付け量βが入力され、記憶されている。
【0068】
ここで、巻き付け量βとは図6に示すように、ウェブ10が下ブランケット胴9bと接触してからニップ部までの間の長さとして表されるが、下ブランケット胴の回転角度として表すこともできる。
なお、巻き付け量βはウェブ10の水平走行位置(ウェブ10が下ブランケット胴9bと接触する前の状態におけるウェブ10の走行位置)とスタッガード角度αの関係から算出することができる。
【0069】
さらに、記憶部31には巻き角γに関する情報が入力され、記憶されている。巻き角γはウェブ10の紙質、インキ種類、画線面積率に対応して予め実験により求めることができる。
また、記憶部31には印刷関連情報として上ブランケット胴9aの表面の粗さを表す表面粗さAが入力され、記憶されている。
【0070】
そして、記憶部31には図8(A)〜(K)に示すように上述の各情報とそれに相関する量との対応関係を表すマップ(関数)がそれぞれ予め記憶されている。特にこれらのマップを用いてテンション変動量Tnが上記の各印刷関連情報に相関する量として設定されることになる。
なお、これらのマップデータは上述したデラミネーション発生のメカニズム等に基づいて予め実験で求めておけばよい。
【0071】
これらのマップデータについて説明すると図8(A)は、巻き角γとテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、巻き角γが増加するとテンション変動Tnも増加(ここでは、略線形増加)する。つまり、巻き角γに対応するテンション変動Tnは次式
Tn=a11(γ)(a1は定数)・・・・(1)
で表される関数である。
【0072】
図8(B)は、ウェブ10の剛度Gとテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、剛度Gが増加するとテンション変動Tnが減少し、テンション変動Tnは剛度Gに反比例する。つまり、スタッガード角度αに対応するテンション変動は次式
Tn=a22(1/G)(a2は定数)・・・・(2)
で表される関数である。
【0073】
図8(C)は、スタッガード角度αと剥れ角θとの対応関係を示すものであり、スタッガード角度αが増加すると剥れ角θも増加(ここでは、略線形増加)する。つまり、スタッガード角度αはに対応する剥れ角θは次式
θ=a33(α)(a3は定数)・・・・(3)
で表される関数である。
【0074】
図8(D)は、上ブランケット胴9aとウェブ10との付着力Fと剥れ角θとを乗算した値F・θとウェブ10にかかるテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、値F・θが増加するとテンション変動Tnも増加する。つまり、インキタックtやウェブ10の紙質(紙種)が変わらない場合には付着力Fとこれに関連する量としての剥れ角θは一対のパラメータとすることができ、このF・θに対応するテンションTnは次式
T=a44(F・θ)(a4は定数)・・・・(4)
で表される関数である。
【0075】
図8(E)は、ウェブ10の紙伸び量Lとテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、紙伸び量Lが増加するとテンション変動Tnも増加する。つまり、紙伸び量Lに対応するテンション変動Tnは次式
Tn=a55(L)(a5は定数)・・・・(5)
で表される関数である。
【0076】
図8(F)は、色間長さL*とテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、色間長さL*が増加するとテンション変動Tnも増加(ここでは、略線形増加)する。つまり、紙伸び量Lに対応するテンション変動Tnは次式
Tn=a66(L)(a6は定数)・・・・(6)
で表される関数である。
【0077】
図8(G)は、巻き付け量βとテンション変動Tnとの対応関係を示すものであり、テンション変動Tnは所定の極小値を有しており、この極小値に対応する巻き付け量βからの変化(増加及び減少)に応じてテンション変動Tnが増加する。巻き付け量βに対応するテンション変動Tnは次式
Tn=a77(β)(a7は定数)・・・・(7)
で表される関数である。
【0078】
図8(H)は上ブランケット胴9aとウェブ10との付着力Fと表面(オモテ面)の画線面積率Mtとの対応関係を示すものであり値Mtが増加すると付着力Fも増加(ここでは、略線形増加)する。つまり、画線面積率Mtに対応する付着力Fは次式
F=a88(Mt)(a8は定数)・・・・(8)
で表される関数である。
【0079】
図8(I)は上ブランケット胴9a表面の粗さAと付着力Fとの対応関係を示すものであり値Aが増加する(即ち、上ブランケット胴9a表面がより粗くなる)につれて略反比例するように付着力Fは減少する。つまり、上ブランケット胴の表面粗さAに対応する付着力Fは次式
F=a99(A)(a8は定数)・・・・(9)
で表される関数である。
【0080】
図8(J)はスタッガード角度(傾斜角度)αと付着力Fとの対応関係を示すものであり値αが増加するにつれて略反比例するように付着力Fは減少する。つまり、スタッガード角度αに対応する付着力Fは次式
F=a1010(α)(a10は定数)・・・・(10)
で表される関数である。
【0081】
図8(K)はインキタックtとテンション変動Tnとの対応関係を示すものでありインキタックtが増加するにつれてテンション変動Tnも増加する。つまり、インキタックtに対応するテンション変動Tnは次式
t=a1111(t)(a11は定数)・・・・(11)
で表される関数である。
【0082】
演算部32では、記憶部31に記憶されている各印刷関連情報及びそれらの対応関係を規定するマップデータを用いて、各パラメータを勘案した上でのウェブ10に生じるテンション変動Tnを算出する。
記憶部31には図9に示すようにデラミネーションの発生確率φとテンション変動Tnとの関数(式12で表される指数関数)がマップデータとして記憶されており、演算部32において印刷関連情報に相関する量として後述するように算出されたテンション変動Tnが次式
φ=c・exp(Tn)(ただしcは定数)・・・・(12)
を満たすものとしてデラミネーション発生確率φとスタッガード角度αとの対応関係を設定する。
【0083】
そして、この対応関係に基づいてデラミネーション発生確率φが予め設定された所定の確率φ0以下にするためのスタッガード角度αの範囲(最適範囲)を算出する。
テンション変動量Tnは、巻き角r,ウェブ10の剛度G,剥れ角θ,付着力Fと剥れ角θとを乗算したものF・θ,ウェブ10の紙伸び量L,色間長さL*,巻き付け量β,インキタックtの関数であり、
Tn∝r,G,θ,F・θ,L,L*,β,t
と表すことができる。
【0084】
なお、付着力Fは、表面の画線面積率Mt,上ブランケット胴9aの表面粗さA,スタッガード角度αの関数であり、
F∝Mt,A,α
と表すことができる。
また、テンション変動Tnは、図8のマップデータに示される各関数(1)〜(11)を用い、それぞれの関数に適当な重み付けをして全て加算することによって演算することができる。
【0085】
つまり、テンション変動Tnは例えば以下の式(13)のように表すことができる。
Tn=k1γ+k2G+k3θ+k4F・θ+k5L+k6L*+k7β+k8t・・(13)
ただし、k1〜k8は各パラメータに重み付けをするための係数であり、実験等により適宜設定される。なお、各パラメータ同士もそれぞれ相関しているため複数のパラメータを代表するパラメータに対応する係数の値を大きく設定し、その他のパラメータに対応する係数の値を小さく(あるいは0に)設定してもよい。
【0086】
例えば、印刷情報としての表面の各画線面積率Mt、ウェブ10の紙質(剛度G,紙伸び量L,必要であれば紙表面の粗さ)、インキタックt、上ブランケット胴9aの表面の粗さAは、通常、印刷時に変更されることはなく固定されるので、図18(B)〜(D)及び図8(H),(I)に示すようにこれらの各パラメータと付着力との対応関係を示すマップ等を用いて、記憶部31に入力された各パラメータMt,G,L,t,A と対応する付着力Fを導出し、図18(A)に示すような付着力Fと剥がれ角θとの対応関係を示すマップに基づいてウェブ10の剥れ角θを想定する。
【0087】
なお、剥れ角θは付着力Fとウェブ10の全幅方向に加わるトータルテンションTとによって決まる。トータルテンションTは予め記憶部31に入力されるようにしてもよい。
トータルテンションTは各印刷ユニット7間に例えば音波式の張力計等の非接触型のテンションセンサを設置して各印刷ユニット7間においてのウェブ10のトータルテンションを計測するようにしても良い。あるいは、給紙装置1近傍及び冷却装置52近傍でテンションを計測し、計測した給紙装置1近傍のテンションと冷却装置52近傍のテンションとを加重平均して各印刷ユニット7間におけるトータルテンションを設定するようにしてもよい。さらに、より簡易には給紙装置1近傍あるいは冷却装置52の近傍において計測されたウェブ10のテンションをトータルテンションTとして用いても良い。
【0088】
そして、想定した剥れ角θから図8(A)のマップを用いてテンション変動Tnを算出し、図9に示すマップデータを用いてデラミネーションの発生確率φを求め、適正なスタッガード角度αの最適範囲を導出する。
また、ブランケット胴や使用するインキの種類あるいは色間長さL*は、通常、印刷物件毎に交換されるものではなく所定の長期間に亘って変更されないので、付着力Fを算出する場合、より簡易的には、上ブランケット表面粗さA,インキタックt,色間長さL*については、常時同一のものが使用されるものとして表面の画線面積率Mtとウェブ10の紙質(剛度G)とから求めるようにしてもよい。
【0089】
また、予め、これらの各パラメータと付着力Fとの対応関係を実験等により取得しておくようにしてもよい。この場合取得した対応関係のデータ群をデータベース化しておき、各パラメータの値を入力すれば、これに対応する付着力Fが出力されるように構成することができる。
そして、指令部33では、記憶部31に記憶されている現在のスタッガード角度αが演算部32で設定された上記の最適範囲から外れた場合には、スタッガード角度αが上記の最適範囲となるように、アクチュエータ20に指令信号を送信するようになっている。
【0090】
なお、指令部33ではデラミネーションが発生しうる特定条件が成立した場合においてのみ、上記の指令信号を送信するように構成されている。つまり、特定条件が成立していない場合は図9中矢印で示す範囲のようにデラミネーションの発生確率φが0あるいは略0となる。
この特定条件は
(1)ウェブ10の両面共に絵柄の印刷が行われること
(2)表面の画線面積率データMtと裏面の画線面積率データMbとの画線面積率の差が予め設定された閾値よりも大きいこと
(3)表面の絵柄に白抜け部分が存在すること
(4)裏面の絵柄の表面の絵柄の白抜け部分に対応した箇所に予め設定された値以上の画線面積率の絵柄部分が存在すること
(1)〜(4)がいずれも成立した場合に上記特定条件が成立するように構成されている。
【0091】
また、上記(1)〜(4)に加えて
(5)表面の画線面積率データMtと裏面の画線面積率データMbとの各面の平均画線面積率がいずれも基準値(第1基準値)以上の大きい画線面積率であること
の上記(5)が成立することを特定条件の成立条件に加えてもよい。また、(5)が成立すれば(1)〜(4)が成立しなくても特定条件が成立するように構成してもよい。
さらに、
(6)表面の画線面積率Mtが基準値(第2基準値)以上の大きい画線面積率であること
(7)裏面の画線面積率Mbが基準値(第3基準値)以上の大きい画線面積率であること
の(6)及び(7)を条件に加えてもよい。また、(6),(7)がいずれも成立すれば特定条件が成立するように構成してもよい。
【0092】
(傾斜角度調整機構)
ここで傾斜角度調整機構としてのアクチュエータ20の実施態様について説明する。アクチュエータ20の実施態様としては種々の構成が考えられるが、ここではその中の幾つかの具体例について説明する。
【0093】
図10はアクチュエータ20の実施態様の一例を模式的に示す図である。なお、図10では上下の版胴8a,8b及びブランケット胴9a,9bの大きさやスタッガード角度αについて実際のものよりも誇張して表現している。
図10に示すように、印刷ユニット7の下部には印刷ユニット7を回動可能とする支点軸40が設けられており、図示省略の駆動機器により印刷ユニット7自体を回動するように構成されている。これにより、図中一点鎖線で示すようにスタッガード角度αを調整可能となる。
なお、駆動機器としてはネジとモータとを組み合わせたものやエアシリンダー等を用いればよく、制御装置30の指令部33からの指令信号を受けて適切なスタッガード角度αを設定しうるものであればよい。
【0094】
また、図11はアクチュエータ20の実施態様の別の例を模式的に示す図である。
図11(A)及び図11(B)に示すように本例ではアーム41〜43を用い、図示しない駆動機器により版胴8a,8b及びブランケット胴9a,9bを旋回させることにより、スタッガード角度αを調整するように構成されている。
【0095】
図11(A)のものは、上ブランケット胴9aを中心もしくは中心近辺よりアーム41によって旋回させ、下ブランケット胴9bの旋回に追従するように下版胴8bをアーム42によって旋回させるように構成されている。
図11(B)のものは、下ブランケット胴9bと下版胴8bとを一体で旋回させるように構成されている。
このように構成することによって指令部33からの指令信号に応じて適切なスタッガード角度αを設定することができる。
【0096】
(作用効果)
本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法はこのように構成されているので、印刷する絵柄の種類毎に値の異なる表面及び裏面の画線面積率データMt,Mbや使用する各色のインキの種類(インキの製造業者の別など)により異なるインキタックtやウェブ10として使用する紙の種類毎に異なる剛度G等、印刷を行う毎に異なる印刷関連情報にかかるパラメータと相関するテンション変動量Tnに着目することでスタッガード角度αの最適範囲を算出でき、スタッガード角度αをデラミネーション発生確率φ0が所定の確率以下となるような最適範囲とすることにより、より確実にデラミネーションの発生を抑制できる。
【0097】
また、スタッガード角度αの調整はデラミネーションが発生しうる特定条件が成立した時にのみ行われるので、例えば片面のみ印刷を行う場合等、デラミネーションが発生し得ない状態においてはスタッガード角度αの調整が行われないので無駄な制御を低減することができる。
さらに、ウェブの材料やインキの種類を予めデラミネーションの抑制に有利なものを選定することにより、デラミネーションの発生をより抑制できる。
【0098】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では騒音検知手段としての音圧センサを備える点と制御装置による制御態様とを除いて第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様である部分については説明を省略し、同符号を用いて説明する。
【0099】
図12に示すように本実施形態では音圧センサ60が制御手段としての制御装置61の入力側に接続されている。
音圧センサ60は各印刷ユニット7の印刷胴(特に、上ブランケット胴9a)で発生する騒音レベル(音圧レベル)を測定し、測定結果を制御装置61に入力するようになっている。
【0100】
つまり、ウェブ10のテンション変動Tnが大きい場合にはウェブ10の紙剥れ位置の変動などにより大きな騒音が生じるためデラミネーションの発生確率と印刷により発生する騒音レベルとは相関関係にあることが判っている。特に騒音レベルが大きい場合であるほどデラミネーションの発生確率が大きい。
そこで、制御装置61では入力された騒音レベル情報をデラミネーションの発生確率φと相関するパラメータとし、デラミネーション発生確率φが所定の閾値以上である場合には、傾斜角度調整機構(アクチュエータ)20を制御して騒音レベル情報が低下する側にスタッガード角度αを調整するようになっている。
【0101】
なお、制御装置61は、製品となる印刷物の印刷を行う前の印刷調整段階(例えば、印刷機の運転開始後から印刷絵柄の色合わせが完了するまでの段階)を示す信号が入力されているときにのみアクチュエータ20への指令信号の送信してスタッガード角度αの調整を行うように構成されている。
【0102】
本発明の第2実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度設定方法はこのように構成されているので、印刷時に印刷胴から発生する騒音レベルに基づいて、印刷機の運転状態に応じて精度良くスタッガード角度αを調整することができ、デラミネーションの発生をより効果的に低減することができる。
また、騒音レベルが大きくなりすぎた場合に騒音レベルが低下させるので、印刷運転にかかる騒音を低減することができるという利点もある。
また、スタッガード角度の調整は印刷調整段階に行われるのでスタッガード角度αの調整にかかる印刷作業の効率低下を低減することができる。
【0103】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態ではデラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして、印刷関連情報や騒音レベルを用いたがこれに限るものではなく、デラミネーションの発生確率と相関するパラメータであれば何を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】デラミネーション発生のメカニズムを説明するためのものであって、第2の印刷胴から転写される絵柄の絵柄態様を示す図である。
【図2】(A)〜(D)はいずれもデラミネーション発生のメカニズムを説明するためのものであって、それぞれ、ウェブが上下の各ブランケット胴9a,9bを通過するときの態様を模式的に示す図である。
【図3】デラミネーション発生のメカニズム及び本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、ウェブにかかる付着力及びテンションについて模式的に説明する図である。
【図4】デラミネーション発生のメカニズムを説明するためのものであって、白抜け部分を有するウェブが上下の各ブランケット胴9a,9bを通過する際にウェブの白抜け部分と網部分とのそれぞれに生じるテンションの経時変化を示す図である。
【図5】デラミネーション発生のメカニズムを説明するためのものであって、ギャップによってウェブに生じるテンション変化を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、左半部は一対の印刷胴を模式的に示す側面図である。
【図7】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、制御装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図8】(A)〜(K)はいずれも本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、印刷関連情報とテンション変動との対応関係に関するグラフである。
【図9】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、テンション変動とデラミネーション発生確率との対応関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、傾斜角度調整機構の一例を模式的に示す図である。
【図11】(A),(B)はいずれも本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、それぞれ傾斜角度調整機構の一例を模式的に示す図である。
【図12】本発明の第2実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、オフセット輪転印刷機の概略構成を模式的に示す側面図である。
【図14】本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、印刷ユニットの構成を模式的に示す図である。
【図15】従来技術のオフセット輪転印刷機を説明するためのものであって、一対の印刷胴を模式的に示す側面図である。
【図16】(A),(B)はそれぞれ、印刷により生じるデラミネーション一例を示すものであり、ウェブに転写された絵柄態様を示す図である。
【図17】(A),(B)はいずれもデラミネーション発生のメカニズムを説明するためのものであって、テンション変動によって生じるテンションシワを模式的に示す図である。
【図18】(A)〜(D)はいずれも本発明の第1実施形態にかかるオフセット輪転印刷機及び印刷胴の傾斜角度調整方法を説明するためのものであって、印刷関連情報とテンション変動との対応関係に関するグラフである。
【符号の説明】
【0105】
1 給紙装置
2 インフィード装置
3 印刷装置
6 折機
7 印刷ユニット
7a 上ユニット
7b 下ユニット
8a,8b 版胴
9a 上ブランケット胴(第2の印刷胴)
9b 下ブランケット胴(第1の印刷胴)
10 ウェブ
18a,18b インキ装置
19a,19b 湿し装置
20 アクチュエータ(傾斜角度調整機構)
30 制御装置
31 記憶部
32 演算部(対応関係設定手段,最適範囲算出手段)
33 指令部(指定手段)
51 ドライヤ装置
52 冷却装置
53 ウェブパス装置
60 音圧センサ(騒音検知手段)
61 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するとともにウェブの進行方向に上流側の第1の印刷胴及び下流側の第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部で、上記ウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、
上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度αを調整する傾斜角度調整機構と、
上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータに基づいて、上記傾斜角度調整機構を制御する制御手段と、をそなえている
ことを特徴とする、オフセット輪転印刷機。
【請求項2】
上記制御手段は、
印刷する絵柄情報と、使用するインキ情報と、上記ウェブの材料情報と、上記第2の印刷胴の下流側における上記ウェブの支持スパン情報とを含む、上記パラメータに相当する印刷関連情報に基づいて、上記デラミネーションの発生確率と上記傾斜角度との対応関係を設定する対応関係設定手段と、
上記対応関係設定手段により設定された上記対応関係に基づいて、上記発生確率を予め設定された所定の確率以下にする上記傾斜角度の最適範囲を算出する最適範囲算出手段と、
上記傾斜角度が上記最適範囲算出手段により算出された最適範囲となるように、上記傾斜角度調整機構に指令信号を出力する指令手段とをそなえている
ことを特徴とする、請求項1記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項3】
上記絵柄情報には、上記第2の印刷胴により印刷する第2の絵柄の画線面積率M2と、上記第1の印刷胴により印刷する第1の絵柄の画線面積率M1との各情報が含まれ、
上記インキ情報には、インキタックtの情報が含まれ、
上記ウェブの材料情報には、ウェブの剛度Gの情報が含まれ、
上記支持スパン情報には、隣接する他のインキ色の一対の印刷胴との各ニップ間の距離である色間長さL*の情報が含まれ、
上記対応関係設定手段は、上記の第1及び第2の印刷胴によるニップ部分の下流側における上記ウェブの幅方向各部における張力状態のバラツキを示す紙面内のテンション変動量Tnを、上記印刷関連情報に相関する量として設定すると共に、上記テンション変動量Tnが上記発生確率φに対して式
φ=c・exp(Tn)
を満たすものとして、上記対応関係を設定する
ことを特徴とする、請求項2記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項4】
上記テンション変動量Tnは、上記第2の絵柄の画線面積率M2,上記インキタックt及び上記傾斜角度αに相関する角度であって上記ウェブが上記第2の印刷胴の表面から剥がれる際の上記第2の印刷胴の表面に対する上記ウェブの角度であるウェブ剥がれ角度θと、上記ウェブの剛度Gと、上記第2の絵柄の画線面積率M2と、上記傾斜角度αに対応した量であって上記ウェブの上記第1の印刷胴の表面への巻き付け量βとの関数とされる
ことを特徴とする、請求項3記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項5】
上記制御手段は、デラミネーションが発生しうる特定条件下において、上記傾斜角度調整機構を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項6】
上記特定条件は、上記ウェブの各面の何れにも印刷が行なわれること、上記ウェブの各面の平均画線面積率に予め設定された閾値以上の差があること、下流側の上記第2の印刷胴にかかる第2の絵柄に白抜け部分が存在すること、上流側の上記第1の印刷胴にかかる第1の絵柄における上記白抜け部分に対応した箇所に予め設定された値以上の画線面積率の絵柄部分が存在すること、の何れもが成立していることである
ことを特徴とする、請求項5記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項7】
上記特定条件は、上記ウェブの各面の平均画線面積率が何れも第1基準値以上の大画線面積率となっていることである
ことを特徴とする、請求項5又は6記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項8】
上記特定条件は、下流側の上記第2の印刷胴にかかる第2の絵柄の画線面積率が第2基準値以上の大画線面積率となっていること、上流側の上記第1の印刷胴にかかる第1の絵柄の一部の画線面積率が第3基準値以上の大画線面積率となっていること、の何れもが成立していることである
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項9】
上記一対の印刷胴による印刷による発生する騒音レベルを上記デラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして検知する騒音検知手段を備え、
上記制御手段は、上記騒音検知手段により検知された騒音レベル情報に基づいて上記傾斜角度調整機構を制御して上記騒音レベルが低下する側に上記傾斜角度αを調整する
ことを特徴とする、請求項1記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項10】
上記制御手段は、本印刷前の調整段階で上記騒音レベル情報に基づく上記傾斜角度αの調整を行う
ことを特徴とする、請求項9記載のオフセット輪転印刷機。
【請求項11】
互いに対向するとともにウェブの進行方向に上流側の第1の印刷胴及び下流側の第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部でウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度αを設定する方法であって、
印刷する絵柄情報と、使用するインキ情報と、上記ウェブの材料情報と、上記第2の印刷胴の下流側における上記ウェブの支持スパン情報とを含む印刷関連情報を、上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして取得する情報取得ステップと、
上記情報取得ステップにより取得された情報に基づいて、上記デラミネーションの発生確率と上記傾斜角度との対応関係を設定する対応関係設定ステップと、
上記対応関係設定ステップにより設定された対応関係に基づいて、上記発生確率を予め設定された所定の確率以下にするような範囲内に上記傾斜角度αを設定する角度設定ステップと、をそなえている
ことを特徴とする、印刷胴の傾斜角度設定方法。
【請求項12】
上記絵柄情報には、上記第2の印刷胴により印刷する第2の絵柄の画線面積率M2と、上記第1の印刷胴により印刷する第1の絵柄の画線面積率M1との各情報が含まれ、
上記インキ情報には、インキタックtの情報が含まれ、
上記ウェブの材料情報には、ウェブの剛度Gの情報が含まれ、
上記支持スパン情報には、隣接する他のインキ色の一対の印刷胴との各ニップ間の距離である色間長さL*の情報が含まれ、
上記対応関係設定ステップでは、上記の第1及び第2の印刷胴によるニップ部分の下流側における上記ウェブの幅方向各部における張力状態のバラツキを示す紙面内のテンション変動量Tnを、上記印刷関連情報に相関する量として設定すると共に、上記テンション変動量Tnが上記発生確率φに対して式
φ=c・exp(Tn)
を満たすものとして、上記対応関係を設定する
ことを特徴とする、請求項11記載の印刷胴の傾斜角度設定方法。
【請求項13】
上記テンション変動量Tnは、上記第2の絵柄の画線面積率M2,上記インキタックt及び上記傾斜角度αに相関する角度であって上記ウェブが上記第2の印刷胴の表面から剥がれる際の上記第2の印刷胴の表面に対する上記ウェブの角度であるウェブ剥がれ角度θと、上記ウェブの剛度Gと、上記第2の絵柄の画線面積率M2と、上記傾斜角度αに対応した量であって上記ウェブの上記第1の印刷胴の表面への巻き付け量βとの関数とされる
ことを特徴とする、請求項12記載の印刷胴の傾斜角度設定方法。
【請求項14】
上記情報取得ステップに先立って、上記ウェブの材料及び上記インキの種類の少なくとも何れかと上記発生確率との対応関係に基づいて、上記ウェブの材料及び上記インキの種類の少なくとも何れかを選定する材料選定ステップを備えている
ことを特徴とする、請求項11〜13の何れか1項に記載の印刷胴の傾斜角度設定方法。
【請求項15】
互いに対向するとともにウェブの進行方向に第1の印刷胴及び第2の印刷胴の順にシフトして配設された一対の印刷胴のニップ部でウェブに印刷を行うオフセット輪転印刷機において、上記ウェブの搬送方向に直交する面に対する上記一対の印刷胴の両軸心を結ぶ面の傾斜角度αを調整する方法であって、
上記一対の印刷胴による印刷による発生する騒音レベルを、上記一対の印刷胴のうち下流側の上記第2の印刷胴の印刷により生じるデラミネーションの発生確率に相関するパラメータとして検知する騒音検知ステップと、
上記騒音検知ステップにより検知された騒音レベル情報に基づいて上記傾斜角度調整機構を制御して上記騒音レベルが低下する側に上記傾斜角度を調整する角度調整ステップと、をそなえた
ことを特徴とする、印刷胴の傾斜角度調整方法。
【請求項16】
上記角度調整ステップは、本印刷前の調整段階で実施される
ことを特徴とする、請求項15記載の印刷胴の傾斜角度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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