説明

オボアルブミンプロモーターによる卵白特異的物質生産

【課題】医薬品向け高機能性タンパク質の生産方法としてトランスジェニックニワトリによる卵での生産手法が提案されているが、全身発現系のプロモーターでは発現量は多いが目的タンパク質によっては宿主に毒性を呈することから発現致死にいたる問題がある。そこで、普遍的な卵での高機能性タンパク質生産方法として鳥類の卵管特異的に機能するプロモーター配列を用いて卵管特異的な発現と実用レベルでのタンパク生産方法が必要とされる。
【解決手段】鳥類卵管細胞で外来性目的タンパク質を高生産させるためにはオボアルブミンプロモーターを利用して卵管特異的な発現を実現することと、その転写活性を増強することにより達成される。オボアルブミンプロモーター配列を切り詰め、卵管特異的発現が可能な出来るだけ短い配列を得、転写活性化因子としてテトラサイクリン応答型のヘルペスウイルス由来VP16因子を組込み、オボアルブミンプロモーターの転写活性を増強するレトロウイルスベクターを作製し、トランスジェニックニワトリを作製したところ、卵管で高発現するトランスジェニックニワトリを作製することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来目的タンパク質を卵管特異的に発現するトランスジェニック鳥類作製方法、並びに、該トランスジェニック鳥類と子孫により産卵される卵に外来目的タンパク質を蓄積させて回収するタンパク医薬品生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術により、従来生体試料より微量抽出しかできなかった、また化学合成では生産困難なタンパク医薬品を微生物や真核細胞に生産させることにより工業生産されてきた。組換え技術を用いた有用タンパク質の生産方法としては、大腸菌に代表される原核生物、酵母に代表される真核生物による発現系や哺乳動物細胞や昆虫細胞の培養細胞を利用した系が成功している。
だが近年の目ざましい研究成果により細胞内でのタンパク質動態がより詳細に明らかになるにつれ、医薬品として望まれるタンパク質の生産方法として翻訳後修飾やフォールディング、高次構造に注目した特異的、機能的なタンパク質を生産する技術が望まれている。高機能性タンパク質製剤の製造方法としては哺乳動物細胞を利用した系が主流となっているが、この生産方法はコストが高い、生産性が悪い、ウイルスの混入による感染症の恐れといったデメリットが存在する。
【0003】
そこで着目したのがトランスジェニック動物によるタンパク医薬品の生産方法である。トランスジェニック動物の開発が世界中で報告され、サイトカイン類や血液製剤用の有用タンパク質を乳中に蓄積したトランスジェニックヤギやヒツジはすでに実用段階にある。これらトランスジェニック動物によるタンパク質生産のメリットは、哺乳動物細胞での生産系と同様の翻訳後修飾、フォールディング、高次構造を有した高機能性タンパク質を大量、安価に生産できる点である。トランスジェニック動物によるタンパク医薬品生産に於いては大型哺乳動物が用いられているが、これらウシ、ヒツジ、ヤギといった大型哺乳動物の乳に生産させる手法ではその広い飼育スペースと成熟して生産ラインが確立するまでに長い期間かかる欠点がある。
そこで我々はニワトリに着目した。トランスジェニックニワトリで有用タンパクを生産させる手法が開発され(特許文献1)、この卵から目的タンパク質を回収する手法では、広い飼育スペースを必要とせず、産卵までが6ヶ月と短い点、長年の食経験から安全性が確認されている点が有用である。このトランスジェニックニワトリでの生産方法として、従来は全身発現系のプロモーターを用いていたが、ニワトリに毒性を呈するタンパク質の生産には向いていない。そこでニワトリの卵特異的に目的タンパク質を発現、蓄積させる技術が必要とされている。
【0004】
卵特異的に目的タンパク質を蓄積させるには、卵白を生成する卵管細胞で特異的に発現するプロモーターを応用すればよい。特許文献2には卵白プロモーターを用いたトランスジェニック鳥類作製方法が開示されるが、レトロウイルスをX期受精卵にマイクロインジェクションする該手法では目的配列を宿主に組込むことができても、機構不明の遺伝子サイレンシングにより発現が抑制されることがわかり(特許文献1)卵管細胞特異的に発現させることは不可能であった。
また特許文献3ではニワトリオボアルブミンプロモーターを利用したトランスジェニックニワトリ作製方法が開示されているが、生産性が低く実用向きではなかった。特許文献3では発現量は非常に低いながらも組織特異的な発現は実現できたことから、この発現量を向上するためには、転写活性を増強する遺伝子配列を導入する解決策が考えられる。しかし長い遺伝子配列を導入することができないウイルスベクターの特性上、長鎖のオボアルブミンプロモーターと目的遺伝子以外の配列を導入することは不可能である。
【特許文献1】国際公開第2004/016081号パンフレット
【特許文献2】特表2000−512149号公報
【特許文献3】特開2004−236626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医薬品向け高機能性タンパク質の生産方法としてトランスジェニックニワトリによる卵での生産手法が提案されているが、全身発現系のプロモーターでは発現量は多いが目的タンパク質によっては宿主に毒性を呈することから発現致死にいたる問題がある。そこで普遍的な卵での高機能性タンパク質生産方法として鳥類の卵管特異的に機能するプロモーター配列を用いて卵管特異的な外来目的タンパク質遺伝子の発現を可能とする技術が必要とされている。特開2004−236626号公報にはニワトリオボアルブミンプロモーターを組込んだレトロウイルスベクターを用いたトランスジェニックニワトリ作製方法を開示するが、該手法においては実用レベルの発現量が得られなかった。卵管特異的な発現と実用レベルでのタンパク生産方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、オボアルブミンプロモーターを組織特異的な転写活性を示す鎖長まで切り詰め、転写活性化配列を挿入することによって微量転写活性を増強することで、卵管細胞特異的に目的タンパク質を強発現させるベクターシステムを構築、トランスジェニック鳥類に応用することで、トランスジェニックニワトリによる卵特異的な外来目的タンパク質の生産方法を確立した。
本発明は、トランスジェニック鳥類において外来目的タンパク質を鳥類の卵管細胞特異的に高発現させ、該鳥類によって産卵される卵に特異的に外来目的タンパク質を高度に蓄積させ、これを回収することによって得られる外来目的タンパク質の生産方法である。
鳥類卵管細胞で外来目的タンパク質を高生産させるには、オボアルブミンプロモーターを利用して卵管特異的な発現を実現することと、その転写活性を増強することにより達成される。特開2004−236626号公報に開示のオボアルブミンプロモーターは配列自体が長く、レトロウイルスベクターに用いられる長さから鑑みて、他の転写活性化配列を挿入することができない。
そこでオボアルブミンプロモーター配列を切り詰め、卵管特異的発現が可能な出来るだけ短い配列を得、転写増強因子を組込むことにより卵管特異的な外来目的タンパク質発現を可能とするレトロウイルスベクターの作製と、該ベクターによるトランスジェニック鳥類作製を試みた。オボアルブミンプロモーターDNA配列は、ニワトリのオボアルブミン遺伝子の転写開始点を0(基準)とし、上流に、−3860〜−1568までの約2.3kbpを用いた(配列表配列番号2)。転写活性化因子としてテトラサイクリン応答型のヘルペスウイルス由来VP16因子を組込み、オボアルブミンプロモーターの転写活性を増強するレトロウイルスベクターを作製し、トランスジェニックニワトリを作製したところ卵管で高発現するトランスジェニックニワトリを作製することに成功した。
【0007】
よって、本発明が提供するのは、以下のとおりである。
(1)
遺伝子発現用プロモーターであって、オボアルブミンプロモーターの、
a)ホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIIの全部または一部を有し、
b)ホルモン依存性DNaseI超感受性部位I及び/またはホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIを含まず、
c)鳥類において卵管特異的に機能し、3kbp以下でかつ1.0kbpを超え、
d)TATAボックスを含む、
部分領域からなるプロモーター。
(2)
オボアルブミンプロモーターが鳥類オボアルブミンプロモーターである(1)に記載のプロモーター。
(3)
鳥類オボアルブミンプロモーターがニワトリオボアルブミンプロモーターである(2)に記載のプロモーター。
(4)
ニワトリオボアルブミンプロモーターが配列表配列番号1に記載のニワトリオボアルブミンプロモーターである(3)に記載のプロモーター。
(5)
配列番号2に示す塩基配列からなるか、又は、配列番号2に示す塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ鳥類において卵管特異的に機能する活性を有するプロモーター。
(6)
配列番号3に示す塩基配列からなるか、又は、配列番号3に示す塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ鳥類において卵管特異的に機能する活性を有するプロモーター。
(7)
(1)から(6)のいずれか1項に記載のプロモーターを有するウイルスベクター。
(8)
レトロウイルスベクターである(7)記載のウイルスベクター。
(9)
更に外来目的タンパク質遺伝子が組込まれた(8)記載のウイルスベクター。
(10)
(1)〜(6)のいずれか1項に記載のプロモーターがアクチベータータンパク質の卵管特異的発現を誘導し、該アクチベータータンパク質によりシス及び/またはトランスに外来目的タンパク質遺伝子の発現を誘導する請求項9記載のウイルスベクター。
(11)
更にエンハンサー、シグナル配列、転写後調節因子を有する(10)記載のウイルスベクター。
(12)
(7)〜(11)のいずれか1項に記載のウイルスベクターにより作製されたトランスジェニック鳥類。
(13)
ウイルスベクターを鳥類受精卵の発生段階において胚胎の心臓にマイクロインジェクションし、孵化させることにより得られる(12)のトランスジェニック鳥類。
(14)
(12)又は(13)記載のトランスジェニック鳥類を他鳥類と交配し得られる後代トランスジェニック鳥類。
(15)
雌個体の卵管細胞で優位に外来目的タンパク質を発現する(14)記載の後代トランスジェニック鳥類。
(16)
(15)の後代トランスジェニック鳥類により産卵される、卵白または卵黄に外来目的タンパク質を含有する卵。
(17)
(12)又は(13)に記載のトランスジェニック鳥類、又は、(14)又は(15)に記載の後代トランスジェニック鳥類による外来目的タンパク質の生産方法。
(18)
外来目的タンパク質が、抗体、サイトカイン、インスリン、ホルモン、生理活性タンパク質又はこれらからなる融合タンパク質である(17)記載の外来目的タンパク質の生産方法。
(19)
トランスジェニック鳥類がトランスジェニックニワトリである(17)又は(18)記載の外来目的タンパク質の生産方法。
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の外来目的タンパク質の生産方法は、トランスジェニック鳥類において外来目的タンパク質を卵特異的に高発現させることよりなり、組織特異的な転写活性を示す鎖長まで切り詰めたオボアルブミンプロモーターを用いることを特徴とする。
切り詰めたオボアルブミンプロモーターとしては、ホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIIの全部または一部を有し、ホルモン依存性DNaseI超感受性部位Iまたはホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIを含まず、鳥類において卵管特異的に機能する3kbp以下でかつ1.0kbpを超え、TATAボックスを含む部分領域(フラグメント)であれば本発明の技術範囲に含まれる。
上記オボアルブミンプロモーターは、鳥類オボアルブミンプロモーターであることが好ましく、ニワトリオボアルブミンプロモーターであることがより好ましい。配列表配列番号1に、ニワトリオボアルブミンプロモーターの配列を示す。
本発明の切り詰めたオボアルブミンプロモーターの部分領域は、3kbp以下であり、1.4kbp以下であることが好ましい。この切り詰めたプロモーターは、1.1kbp以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の切り詰めたオボアルブミンプロモーターとしては、配列表配列番号2又は3に記載のものが挙げられる。
また、配列番号2または配列番号3に示す塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ鳥類において卵管特異的に機能する活性を有するプロモーターも、本発明のプロモーターに含まれる。より好ましくは、90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列のプロモーターである。
ここで、「同一性(%)」とは、対比される2つのポリヌクレオチドを最適に整列させ、核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が両方の配列で一致した位置の数を比較塩基総数で除し、そして、この結果に100を乗じた数値で表される。
配列同一性は、例えば、以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:GCG Wisconsin Package(Program Manual for the Wisconsin Package、Version8、1994年9月、Genetics Computer Group、575 Science Drive Madison、Wisconsin、USA53711;Rice、P.(1996)Program Manual for EGCG Package、Peter Rice、The Sanger Centre、Hinxton Hall、Cambridge、CB10 1RQ、England)、および、the ExPASy World Wide Web分子生物学用サーバー(Geneva University Hospital and University of Geneva、Geneva、Switzerland)。
【0010】
本発明の外来目的タンパク質の生産方法に用いるトランスジェニック鳥類は、上述の切り詰めたオボアルブミンプロモーターを含むウイルスベクターを鳥類に導入することにより得られる。
上記ウイルスベクターは、複製能欠失型ウイルスベクターであることが好ましい。複製能欠失型ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ボックスウイルス、ヘルペスウイルス等、宿主鳥類に目的遺伝子配列が導入可能なベクターであれば特に限定されない。
本発明において、上記ウイルスベクターは、トランスジェニック鳥類に外来目的タンパク質を生産させるため、更に外来目的タンパク質遺伝子が組込まれたものであることが好ましい。後述の実施例では、外来目的タンパク質遺伝子としてDsRedを用いた。
上記外来目的タンパク質としては、抗体、サイトカイン、インスリン、ホルモン、生理活性タンパク質又はこれらからなる融合タンパク質が好ましい。
【0011】
上記複製能欠失型ウイルスベクターに組込む配列は、切り詰めたオボアルブミンプロモーターを含み、外来性目的タンパク質をトランスジェニック鳥類の卵に効率的に蓄積できるベクターコンストラクトであれば特に限定されないが、例えば転写活性化因子をコードする遺伝子配列および該転写活性化因子により下流の目的遺伝子を強発現させるシスまたはトランスアクチベーターシステムを組込んだベクターコンストラクトが好ましい。
さらに好ましいシステムとしては、テトラサイクリン応答配列およびヘルペスウイルス由来VP16トランスアクチベーターを利用した系が好ましいがこれに限定されることはなく、ガラクトース応答配列等も用いることができる。
【0012】
またこのウイルスベクターには、転写後調節因子やエンハンサー配列、シグナル配列等、外来導入遺伝子を効率的に発現させることを目的としたDNA配列を組込んでも良い。
【0013】
上述のウイルスベクターを宿主鳥類に導入することより、トランスジェニック鳥類(G0トランスジェニックキメラ鳥類)を作製することができる。
本発明においては、外来目的タンパク質遺伝子を、切り詰めたオボアルブミンプロモーターを導入したウイルスベクターとは別のウイルスベクターに導入し、2種のウイルスベクターを宿主鳥類に導入してG0トランスジェニックキメラ鳥類を作製することもできる。
本発明で用いられるG0トランスジェニックキメラ鳥類の作製方法の一例としては、本発明者らにより実施された方法が挙げられるが(特開2002−176880号公報、特開2004−236626号公報および国際公開第2004/016081号パンフレット)、これに限定せず、特表2005−535331号公報および特開2006−262875号公報に開示される非ウイルス法によるトランスジェニック鳥類作製方法にも応用可能であるがこれらに限定されない。複製能欠失型ウイルスベクターを鳥類受精卵の胚胎、心臓または血管にマイクロインジェクションするあらゆる公知の手法は、後代取得効率が良い理由から好ましい。本発明においては、ウイルスベクターを鳥類受精卵の発生段階において胚胎の心臓にマイクロインジェクションし、孵化させることが好ましい。
【0014】
宿主鳥類としては限定されることはなく、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、カモなどが用いられるが、なかでもニワトリやウズラは入手が容易であり産卵種としても多産であり、長年の飼育経験により安全性が認められている点で好ましい。より好ましくはニワトリである。
【0015】
ここでG0トランスジェニックキメラ鳥類とは、本発明のトランスジェニック作製方法により作製された一代目の鳥類のことを示し、その体細胞にモザイクキメラ状に遺伝子が導入された鳥類を示す。
【0016】
作製されたG0トランスジェニックキメラ鳥類の選抜方法としては特に限定されないが、例えばゲノム抽出後、PCR、サザンブロット法等により目的配列が導入されたか確認することが可能である。このG0のうち雌個体をあらゆる公知の畜産学的手法を用いて産卵するまで成長させ、その卵に目的タンパク質が蓄積しているかを確認する。確認に用いる手法は特に限定されることはなく、例えば特異抗体を用いて免疫化学的に定量、測定する方法または培養細胞での活性測定や動物試験等によるインビトロ、インビボ活性を測定しても良い。
【0017】
G0トランスジェニックキメラ鳥類を交配させることにより、後代はすべての体細胞に導入遺伝子を有する完全トランスジェニック個体が得られる。交配手法は自然交配または人工交配等特に限定されない。交配はG0トランスジェニックキメラ鳥類に野生型鳥類をかけても良く、またG0トランスジェニック同士をかけあわせても良い。この後代完全トランスジェニック鳥類をG1、G2、G3などとする。
本発明の外来目的タンパク質の生産方法においては、雌個体の卵管細胞で優位に外来目的タンパク質を発現するトランスジェニック鳥類を用いることが好ましい。
このG0またはG1以降の完全トランスジェニック鳥類の卵を回収し、該卵の卵白または卵黄より目的タンパク質を回収する。回収する方法としては特に限定されず、濾過、アフィニティークロマトグラフや陽イオン、陰イオン交換クロマトグラフ等あらゆる公知の精製または分離手法が用いられる。
このようにして得られた目的タンパク質は、医薬品用途等に用い得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、トランスジェニック鳥類で卵管特異的に外来性目的タンパクを高発現させることが可能となる。本技術を用いて宿主に毒性を呈するタンパク質を含めトランスジェニック鳥類で医薬品向け高機能性タンパク質を安価に大量生産可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施する好ましい形態を詳述するが、本発明の本質は記載の内容により不当に限定されるべきではない。
(実施例1)切り詰め型オボアルブミンプロモーター配列の取得
1−1 pBlueOVA(d)の構築
特開2004−236626号公報に記載のベクターpLGOGを制限酵素EcoRV(TAKARA)、BamHI(TAKARA)で処理し、1%アガロース電気泳動により目的である2.4kbの断片を分離後、ゲルから切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−(TOYOBO)により精製した。この断片をインサートとした。また、pBluescript KS−(Novagen)を制限酵素EcoRV、BamHIで処理後、ゲルからの切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製により出来た断片をベクターとした。
精製した各DNA断片の濃度及び精製度を1%アガロース電気泳動による確認後、Ligation、大腸菌DH5α(TAKARA)へのtransformationを行った。尚、Ligation反応は、LigaFast Rapid DNA Ligation System(登録商標、Promega)を用い、プロトコールに準じて行った。Transformationは、まず、液体窒素内で凍結しているコンピテントセルDH5αを融解し、その溶液に、上記のLigation反応後の溶液10μlを加え氷上で30分静置した。その後、heat shockを42℃で45秒行い、5分氷冷した。この菌体懸濁液に1mlのLB培地を加え、37℃で1時間振とうさせ、0.1mg/mlアンピシリン入りのLBプレートに播き、37℃で14時間培養した。その後、アルカリ法によりLBプレート上に培養したコロニーから目的プラスミドが得られた。
【0020】
1−2 pETOVA(BglII−XhoI)の構築
まず、特開2004/236626の実施例記載の手法により樹立されたウイルス生産パッケージング細胞pLGOGからMag Extractor −genome− (TOYOBO)によりgenome DNAを抽出した。パッケージング細胞pLGOGとは、gag、pol遺伝子を染色体上に持つGP293をウイルスプロデューサー細胞とし、そのGP293細胞に目的遺伝子であるウイルスベクターpLGOG(GFP、Ovalbumin promoter、hGH(cDNA))を遺伝子導入することで取得された安定に発現する細胞株のことである。
上記の方法で得られたgenome DNAを鋳型とし、以下のプライマーを用いてPCR反応を行った。
5’プライマー(配列表配列番号4)
3’プライマー(配列表配列番号5)
また、PCR反応の酵素としてはKOD−Plus−DNA Polymerase(TOYOBO)を用い、条件は次に示す通りに行った。
(1)94℃で15秒、(2)58℃で30秒、(3)68℃で15秒、(1)から(3)を35サイクル。
PCR反応後の溶液はフェノールクロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行い、さらにBglII(TAKARA)、XhoI(TAKARA)により制限酵素反応を行った。その後、1%アガロース電気泳動により目的である約220bpの断片を分離後、ゲルから切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−により精製した。
pET Blue2(Novagen)も同様に、BglII、XhoIによる制限酵素反応後、1%アガロース電気泳動により目的断片を分離後、ゲルから切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−により精製した。精製した各DNA断片の濃度及び精製度を1%アガロース電気泳動による確認後、Ligation、大腸菌DH5αへのtransformationを行った。インサートとしては上記PCRで増幅後調製した約220bpの断片、ベクターとしては上記pET Blue2の断片を用いた。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0021】
1−3 pBlueOVA(d)ΔBglIIの構築
pETOVA(BglII−XhoI)及びpBlue OVA(d)を BglII、XhoIにより制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pETOVA(BglII−XhoI)から得られた約220bpの断片をインサートとし、また、制限酵素処理されたpBlue OVA(d)をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0022】
1−4 pBlueOVAの構築
pBlueOVA(d)及びpBlueOVA(d)ΔBglIIをそれぞれBglIIにより制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pBlueOVA(d)から得られた断片1.2kbをインサート、pBlueOVA(d)ΔBglIIから得られた断片をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0023】
1−5 pETOVAの構築
pBlueOVA及びpET Blue2をそれぞれNotI(TAKARA)、XhoIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pBlue OVA(complete)から得られた断片をインサート、pET Blue2から得られた断片をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0024】
1−6 配列の確認
クローニングした約2.3kbのovalbumin配列を下記のプライマーを用いて塩基配列を確認した。鋳型はpBlueOVAとして用いた。
OVA−1(5’プライマー)(配列表配列番号6)
OVA−2(5’プライマー)(配列表配列番号7)
OVA−3(5’プライマー)(配列表配列番号8)
OVA−4(5’プライマー)(配列表配列番号9)
OVA−5(5’プライマー)(配列表配列番号10)
OVA−6(5’プライマー)(配列表配列番号11)
OVA−7(3’プライマー)(配列表配列番号12)
【0025】
上記のようにして切り詰め型オボアルブミンプロモーター配列(配列番号2)を取得した。
【0026】
(実施例2)pQeGOVATREtTAW自己活性型ウイルスベクターの構築
2−1 pMSCVeGTREGItTAWの構築
2−1−1 pMSCVeGTREGの構築
pIRES2−EGFP(Clontech)よりEGFP配列をPCRで増幅し、制限酵素EcoRIおよびBamHIで処理した後、pBluescript KS−(Novagen)のEcoRIおよびBamHIサイトに組み込んだベクターをpBlue/eGとした。pBlue/eGを制限酵素EcoRIおよびXhoIで処理した断片をインサートとし、pMSCVneo(Clontech)のEcoRI、XhoIサイトに組込んだベクターをpMSCV/eGとした。pTRE2(Clontech)よりTRE配列を制限酵素XhoI、HindIIIで処理した断片をインサートとし、pMSCV/eGのXhoI、HindIIIサイトに組込んだベクターをpMSCV/eGTREとした。
pCEP4(invitrogen)の制限酵素BamHI、MluIサイトに、特開2004−236626号公報でクローニングしたhGH(cDNA)を組込んだpCEP4−hGH(cDNA)をBamHI、MluIで切り出した断片をインサートとし、ベクターとしてpMSCV/eGTREをBamHI、MluIで制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、Ligation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpMSCVeGTREGとした。
【0027】
2−1−2 cellular IRES(5’側制限酵素MluIサイト、3’側制限酵素EcoRIサイト)の取得
細胞性IRESの配列の5’側に制限酵素MluIサイト、3’側に制限酵素EcoRIサイトをつけた5’DNA配列(配列表配列番号13)、細胞性IRESの配列の3’側に制限酵素MluIサイト、5’側に制限酵素EcoRIサイトをつけた3’DNA配列(配列表配列番号14)を合成DNA配列とした。ただし、この合成DNAを通常の5’側の制限酵素MluIサイト、3’側の制限酵素EcoRIサイトにLigationしたとき、制限酵素EcoRIでは切れない塩基配列になっている。
【0028】
2−1−3 pET−IRES(r)の構築
ベクターとしてpET Blue2(Novagen)を制限酵素MluI、制限酵素EcoRIで制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、ベクターDNAと2−1−2で合成により作った細胞性IRESをインサートとしてLigation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpET−IRES(r)とした。
【0029】
2−1−4 pBlue−tTAの構築
pIRES2−EGFP (Clontech)よりIRESをPCRにて増幅、制限酵素BamHIおよびPstIで処理した断片をインサートとし、pBluescript KS−(Novagen)のBamHIおよびPstIサイトに組込んだベクターをpBlue/Iとした。
pTET−OFF(Clontech)をBamHIで消化し、Klenow(TAKARA)で平滑化後、EcoRIで処理した断片をインサートとし、pBlue/IのEcoRI、EcoRvサイトに組込んだベクターをpBlue/ItTAとした。インサートとしてpBlue/I tTAを制限酵素EcoRI、HindIIIで、ベクターとしてpBluescript KS−(Novagen)を制限酵素EcoRI、HindIIIで、それぞれ制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、Ligation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpBlue−tTAとした。
【0030】
2−1−5 pET−ItTAの構築
インサートとしてpBlue−tTAを制限酵素BamHI、PvuIIで、ベクターとしてpET−IRES(r)を制限酵素BamHI、EcoRVで制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、Ligation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpET−ItTAとした。
【0031】
2−1−6 pMSCVeGTREGItTAの構築
インサートとしてpET−ItTAを制限酵素MluI、HindIIIで、ベクターとしてpMSCVeGTREGを制限酵素MluI、HindIIIで制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、Ligation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpMSCVeGTREGItTAとした。
【0032】
2−1−7 pMSCVeGTREGItTAWの構築
インサートとして特開2006/271266に記載のpBlue/WPREを制限酵素ClaIで、ベクターとしてpMSCVeGTREGItTAを制限酵素ClaIで制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動(1%)により目的バンドを分離し、切り出し、Mag Extractor−PCR&Gel Clean up−で回収した。回収したDNA濃度をアガロース電気泳動(1%)で確認後、Ligation、形質転換、アルカリ法により得られたプラスミドをpMSCVeGTREGItTAWとした。
【0033】
2−2 pMSCVeGOVATREGItTAWの構築
実施例1で構築されたpETOVAをSalI(TAKARA)、XhoIで、また、pMSCVeGTREGItTAWをXhoIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pETOVAから得られた約2.3kbの断片をインサートとし、また、制限酵素処理されたpMSCVeGTREGItTAWをベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0034】
2−3 pETtTAWの構築
2−2で構築されたウイルスベクタープラスミドpMSCVeGOVATREGItTAW及びpET Blue2をそれぞれEcoRIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pMSCVeGOVATREGItTAWから得られた約1.7kbの断片をインサートとし、また、制限酵素処理されたpET Blue2をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0035】
2−4 pQtTAWの構築
2−3で構築されたpETtTAW及びpQCXIN(Clontech)をそれぞれKpnIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pET tTA Wの断片をインサート、また、制限酵素処理されたpET Blue2をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0036】
2−5 pQeGTREtTAWの構築
2−2で構築されたpMSCVeGOVATREGItTAW及び2−4で構築されたpQtTAWをそれぞれEcoRIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pMSCVeGOVATREGItTAWから得られた約1.5kbの断片をインサートとし、また、pQtTA Wをベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0037】
2−6 pQeGOVATREtTAWの構築
2−5で構築されたpQeGTREtTAW及び実施例1で構築されたpETOVAをそれぞれXhoIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pET OVAから得られた約2.3kbの断片をインサートとし、また、制限酵素処理されたpQeGTREtTAWをベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0038】
2−7 pQeGOVA(DHSIII)TREtTAWの構築
2−6で構築されたpQeGOVATREtTAWをBglIIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。pQeGOVATREtTAWから得られた約8.7kbの断片をベクターとして、self−ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0039】
図2に、実施例2で調製したレトロウイルスベクターの模式図を示す。図2では、tTA融合タンパク質(tetR+VP16)が発現して、TRE配列(tetra cyclin responsive element)に結合し、下流のCMV最小プロモーター(CMV mini=CMV minimum promoter)から転写されることを示す。
【0040】
(実施例3)Ds−RED発現用ウイルスベクターの構築
3−1 pET DsRedの構築
pIRES2−DsRed−Express(Clontech)よりDsRedをPCR法により増幅した。
5’プライマー(配列表配列番号15)
3’プライマー(配列表配列番号16)
PCR反応の酵素としてはKOD−Plus−DNA Polymeraseを用い、条件は次に示す通りに行った。
(1)94℃で15秒、(2)56℃で30秒、(3)68℃で45秒、(1)から(3)を30サイクル。
PCR反応後の溶液は、フェノールクロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行った。
その後、PCRにより増幅したDsRed及びpET Blue2をそれぞれBamHI、MluIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。DsRedの断片をインサート、また、制限酵素処理されたpET Blue2をベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0041】
3−2 pQeGTREDsRedWの構築
3−1で構築されたpETDsRed及び2−5で構築されたpQeGTREtTAWをそれぞれBamHI、MluIで制限酵素処理し、1%アガロース電気泳動により目的断片の分画、切り出し、Mag Extractor −PCR&Gel Clean up−による精製を行った。DsRedの断片をインサート、また、制限酵素処理されたpQeGTREtTAWをベクターとして、Ligation、transformationを行った。その後、アルカリ法により目的プラスミドを取得した。
【0042】
(実施例4)レトロウイルスの産生
まず、ウイルス産出細胞であるGP−293細胞を24well collagen−coated tissue culture dish(IWAKI)に播種した。播種24時間後、細胞密度90〜95%の状態のときに、Lipofectamine2000(インビトロジェン社製)を用いて、2−5で構築されたウイルスベクタープラスミドpQeGTREtTAWとpVSV−Gのコトランスフェクションを行った。トランスフェクションはLipofectamine2000のプロトコールに準じて行い、トランスフェクション時の培地としては10mM HEPES入りのDMEMを用いた。その後、超遠心によりウイルスを濃縮し、インジェクション実験に用いた。また、2−6で構築したpQeGOVAtTAWと3−2で構築したpQeGTREDsRedWの各ベクターに関しても上記と同様にpVSV−Gとのコトランスフェクションを行い、ウイルス濃縮を行った。
【0043】
(実施例5)マイクロインジェクションおよび胚体外培養
マイクロインジェクションによるトランスジェニックニワトリの作製は、国際公開第2004/016081号パンフレットおよび特開2004−236626号公報で実施の手法に従った。
インジェクションに用いたウイルスベクターは組織特異的にtTA遺伝子の発現を解析するため、実施例4記載の手法により得られたpQeGOVATREtTAレトロウイルスベクターをニワトリ受精卵55時間孵卵胚の心臓にマイクロインジェクションしてG0トランスジェニックニワトリを作製した。またコントロールとしてOVA配列を持たないpQeGTREtTAWレトロウイルスを同様に用いてG0トランスジェニックニワトリを作製した。
またターゲット遺伝子として蛍光タンパク質をコードするDsRedを組みこんだpQeGTREDsRedWとpQeGOVATREtTAWの2つのウイルスベクターを混合してインジェクションし、卵管特異的に発現するtTAにより増強されたDsRedタンパク質発現の組織特異性を解析した。
インジェクション後の胚体外培養法は同様に国際公開第2004/016081号パンフレットおよび特開2004−236626号公報で実施の手法に従い、G0トランスジェニックニワトリを孵化させた。
【0044】
(実施例6)個体解析
6−1 ステロイドホルモンによる誘導
マイクロインジェクション及び胚体外培養により得られたトランスジェニックニワトリ(G0個体)2週齢の筋肉、特に胸筋に100%エタノールに溶かしたdiethylstilbestrol(DES:Sigma)10mg/mlを0.1ml/dayで10日間、連続投与を行うことで、Estrogen誘導により輸卵管の膨大部を肥大させた。その後、5日以上何も処理しない状態を経て再び1週間以上DESのインジェクションを行い、解剖を行った。
【0045】
6−2 発現解析
ホルモン処理の済んだ野生型のニワトリ及びトランスジェニックニワトリを解剖し、各組織のサンプリングを行った。サンプリングされた組織からtotal RNA及びgenome DNAを取得し、real−time PCRにより目的遺伝子の発現解析を行った。
【0046】
6−2−1 total RNAの取得及びRT−PCRによるcDNA合成
PBSでよく血を洗い流した各組織から極少量の組織を切り取り、それをハサミで出来るだけ細かく切った。それから、QuickPrep Total RNA Extraction Kit(登録商標、TAKARA社製)を用いて得られたtotal RNAの濃度をBioPhotometer(eppendorf)で測定し、一定濃度に希釈をし、逆転写反応を行った。RNA取得の操作はプロトコールに準じた。また、逆転写反応にはReverTra Ace(TOYOBO)を用いた。一定濃度に合わせたtotal RNAと10pmol/μl Oligo(dT)1μlを混ぜた計12μlを70℃で10分間反応させ、氷上で15分静置した。その溶液に5×Bufferを4μl、2mM dNTPsを5μl加え、よく懸濁し、42℃で5分間反応させた。その後、ReverTra Aceを1μl加え42℃で50分間の逆転写反応を行い、70℃で15分酵素の失活処理を行い、氷上で10分静置した。
【0047】
6−2−2 genome DNAの取得
まず、PBSでよく血を洗い流した各組織から極少量の組織を切り取り、それをハサミで出来るだけ細かく切った。MagExtactor−Genome−を用いてgenome DNAを取得した。操作はプロトコールに従った。尚、MagExtactor−Genome−の溶解・吸着液を組織に加えた後、22Gテルモ注射針(TERUMO)及び1mlツベルクリン用26G注射針付テルモシリンジを用いて組織の塊を非常に細かくすることでgenome DNAの収量を増加させた。genome DNA濃度はBioPhotometerで測定した。
【0048】
6−2−3 real−time PCR
LightCycler FastStart DNA Master HybProbe(登録商標、Roche)を用いて、6−2−1、6−2−2で取得したcDNA及びgenome DNAそれぞれのreal−time PCRを行った。操作はプロトコールに準じた。使用したチップ、エッペンチューブ、希釈用のMilliQ水は2回オートクレーブにより滅菌し、一晩以上UV滅菌しておいた。ピペットマンはプラスミドを扱っていないgenome DNA専用のものを用いた。尚、cDNAの定量にはtTAプライマー及びプローブのセット、genome DNAの定量にはパッケージングシグナルを検出可能なパッケージングシグナルプライマー及びプローブのセットを用いた。
【0049】
・real−time PCRの条件
Mg2+濃度は4mM、アニーリング温度は58℃のときLightCyclerによる特異的かつ効果的な増幅が見られたため、この条件でreal−time PCRを行った。どちらのプローブを用いた時も下記の条件で行った。
95℃、10min、20℃/s 1cycle
(区分1)95℃、10s、20℃/s(区分2)58℃、15s、20℃/s(区分3)72℃、5s、20℃/s 45cycle
40℃、30s、20℃/s 1cycle
【0050】
・primer(packaging signal)
5’プライマー(配列表配列番号17)
3’プライマー(配列表配列番号18)
【0051】
・hybridization probe(packaging signal)
3’FITC (配列表配列番号19)5’LCRed640 (配列表配列番号20)
【0052】
・primer(tTA)5’プライマー (配列表配列番号21)3’プライマー (配列表配列番号22)
【0053】
・hybridization probe(tTA)3’FITC (配列表配列番号23)5’LCRed640 (配列表配列番号24)
【0054】
<Samples>RNA濃度を800ngに統一して逆転写反応を行って得られたcDNAはサンプルとして2μl用い、各組織から得られたgenome DNAは全て10ng/μlに希釈してサンプルとして2μl用いた。<Positive Control&Standard>1コピーのフルトランスジェニックニワトリの血餅から得られたgenome DNAをスタンダード及びpositive controlとして用いるため6段階希釈してreal−time PCRを行った。<Negative Control>オートクレーブ及びUV滅菌したMilliQ水とwild typeの胚、又はwild typeのニワトリの血餅から得られたgenome DNAを用いた。モザイク率計算各組織における導入遺伝子コピー数を統一化するため、組織ゲノムでのリアルタイムPCRを行いモザイク率を計算することで組織毎のmRNA発現量を補正した。
【0055】
6−2−5 共焦点顕微鏡による組織切片の観察6−1でホルモン誘導を行ったトランスジェニックニワトリの卵管部を3%ホルマリンで固定した後、カミソリで20μmの厚さにして、共焦点顕微鏡(オリンパス社製Fluoview FV1000)での観察を行った。サンプルとしては、個体#219、#220を用いた。
【0056】
(実施例7)OVAプロモーターの更なる切り詰め
7−1 pET−OVA△PvuIIの構築
実施例1によって得られた約2.3kbpのオボアルブミンプロモーター配列をさらに切り詰め、組織特異性を示しつつさらに短くするべく以下のベクターを構築した。実施例1−5で得られたpET−OVAを制限酵素PvuII(TaKaRa)で消化し、切断したベクターをセルフライゲーションした。このベクターを再度、制限酵素PvuIIで消化後、pET−OVAを制限酵素PvuIIで消化して得られる200bpの断片をインサートとしてライゲーションした。このベクターをpET−OVA△PvuIIとした。
【0057】
7−2 pET−OVA△BglIIXhoIの構築
実施例1−5で得られたpET−OVAを制限酵素BglII(TaKaRa)と制限酵素XhoI(TaKaRa)で消化した後、Klenow(TaKaRa)を用いてブラントエンドとした後セルフライゲーションした。このベクターをpET−OVA△BglIIXhoIとした。
【0058】
7−3 pQeGOVA(ΔPvuII)TREtTAWおよびpQeGOVA(△BglIIXhoI)TREtTAWの構築
実施例2と同様の手法により、上記7−1で得られたpET−OVA△PvuII、および上記7−2で得られたpET−OVA△BglIIXhoIをウイルスベクター化した。このベクターをそれぞれpQeGOVA(ΔPvuII)TREtTAW、pQeGOVA(ΔBglIIXhoI)TREtTAWとした。
【0059】
7−4 レトロウイルスの産生
実施例4と同様にpQeGOVA(ΔPvuII)TREtTAWおよびpQeGOVA(ΔBglIIXhoI)TREtTAWレトロウイルスベクターを産生させた。
【0060】
7−5 トランスジェニックニワトリの作製
上記7−4で得られたレトロウイルスベクターを用いて実施例5と同様にトランスジェニックニワトリを作製した。
【0061】
7−6 個体解析
実施例6と同様に、ホルモン処理した個体より卵管組織を摘出し、total RNA抽出およびgenome DNAを抽出し、リアルタイムPCRによりtetR/mosaicを算出した(図7)。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明で用いたオボアルブミンプロモーター領域の模式図を示す。図1aは特開2004/236626号公報の実施例に用いられたオボアルブミンプロモーター領域(3.8kbp)である。図1bは本発明に用いた切り詰め型オボアルブミンプロモーター領域(2.3kbp)である(実施例1)。
【図2】図1bのオボアルブミンプロモーター領域を組込んだ、実施例2で調製したレトロウイルスベクターの模式図を示す。オボアルブミンプロモーターによる卵管特異的な発現と、トランスアクチベーターによる転写増強効果の得られる自己活性型ベクター構造を示す。
【図3】実施例5及び実施例6記載のpQeGOVATREtTAWのレトロウイルスベクターにより作製された個体(#2、#205、#21、#5)およびpQeGTREtTAWのレトロウイルスベクターにより作製された個体(#49)の各組織でのtetR/mosaicを示す。リアルタイムPCRによりtTAのmRNAの測定(tetR配列の検出)を行い、同様にモザイク率(パッケージングシグナル領域の検出)を算出して補正した。なお、DES非投与個体(#2)をコントロールとし、DESによる卵管特異的発現ではないことを同様に確認している。
【図4】外来性の目的タンパク質としてDsRedを卵管特異的に発現させるためのベクター構造を示す。記載の2つのウイルスベクターを混合し、インジェクション実験に用いトランスジェニックニワトリを作製した。
【図5】ダブルインジェクションにより孵化した個体の組織切片を共焦点顕微鏡で確認し(実施例6)、目的であるDsRedの蛍光を卵管組織特異的に観察した(個体#219)。対照実験として、DsRed単独でインジェクションした個体(個体#220)の解析では、オボアルブミンプロモーターによる卵管特異的なtTA遺伝子が機能しないため、蛍光を観察することができなかった。以上より、使用したオボアルブミンプロモーターが卵管特異的にtTA遺伝子を発現し、それにより目的タンパク質であるDsRedを卵管特異的に発現させることを実証した。
【図6】個体#219における発現の組織特異性をリアルタイムPCR法により測定した。
【図7】実施例7でのトランスジェニックニワトリ作製に用いたレトロウイルスベクターの模式図及びtetR/mosaicを示す。OVAは実施例1によって得られた約2.4kbpのオボアルブミンプロモーター配列である(配列表配列番号2)。OVA(△PvuII)は実施例7−1で得られた約1.4kbpのオボアルブミンプロモーター配列である(配列表配列番号3)。OVA(ΔBglIIXhoI)は実施例7−2で得られた約1.0kbpのオボアルブミンプロモーター配列である。各オボアルブミンプロモーター配列を有するウイルスベクターにより作製されたトランスジェニックニワトリをDES処理し、卵管組織を摘出し、tetR/mosaicを算出した。OVAおよびOVA(△PvuII)のプロモーターで卵管細胞での発現が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子発現用プロモーターであって、オボアルブミンプロモーターの、
a)ホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIIの全部または一部を有し、
b)ホルモン依存性DNaseI超感受性部位I及び/またはホルモン依存性DNaseI超感受性部位IIを含まず、
c)鳥類において卵管特異的に機能し、3kbp以下でかつ1.0kbpを超え、
d)TATAボックスを含む、
部分領域からなるプロモーター。
【請求項2】
オボアルブミンプロモーターが鳥類オボアルブミンプロモーターである請求項1に記載のプロモーター。
【請求項3】
鳥類オボアルブミンプロモーターがニワトリオボアルブミンプロモーターである請求項2に記載のプロモーター。
【請求項4】
ニワトリオボアルブミンプロモーターが配列表配列番号1に記載のニワトリオボアルブミンプロモーターである請求項3に記載のプロモーター。
【請求項5】
配列番号2に示す塩基配列からなるか、又は、配列番号2に示す塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ鳥類において卵管特異的に機能する活性を有するプロモーター。
【請求項6】
配列番号3に示す塩基配列からなるか、又は、配列番号3に示す塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ鳥類において卵管特異的に機能する活性を有するプロモーター。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のプロモーターを有するウイルスベクター。
【請求項8】
レトロウイルスベクターである請求項7記載のウイルスベクター。
【請求項9】
更に外来目的タンパク質遺伝子が組込まれた請求項8記載のウイルスベクター。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロモーターがアクチベータータンパク質の卵管特異的発現を誘導し、該アクチベータータンパク質によりシス及び/またはトランスに外来目的タンパク質遺伝子の発現を誘導する請求項9記載のウイルスベクター。
【請求項11】
更にエンハンサー、シグナル配列、転写後調節因子を有する請求項10記載のウイルスベクター。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のウイルスベクターにより作製されたトランスジェニック鳥類。
【請求項13】
ウイルスベクターを鳥類受精卵の発生段階において胚胎の心臓にマイクロインジェクションし、孵化させることにより得られる請求項12のトランスジェニック鳥類。
【請求項14】
請求項12又は13記載のトランスジェニック鳥類を他鳥類と交配し得られる後代トランスジェニック鳥類。
【請求項15】
雌個体の卵管細胞で優位に外来目的タンパク質を発現する請求項14記載の後代トランスジェニック鳥類。
【請求項16】
請求項15の後代トランスジェニック鳥類により産卵される、卵白または卵黄に外来目的タンパク質を含有する卵。
【請求項17】
請求項12又は13に記載のトランスジェニック鳥類、又は、請求項14又は15に記載の後代トランスジェニック鳥類による外来目的タンパク質の生産方法。
【請求項18】
外来目的タンパク質が、抗体、サイトカイン、インスリン、ホルモン、生理活性タンパク質又はこれらからなる融合タンパク質である請求項17記載の外来目的タンパク質の生産方法。
【請求項19】
トランスジェニック鳥類がトランスジェニックニワトリである請求項17又は18記載の外来目的タンパク質の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−220224(P2008−220224A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61038(P2007−61038)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】