説明

オリゴ核酸担持複合体、当該複合体を含有する医薬組成物

本発明は、主成分として2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロールとリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームにオリゴ核酸が担持されている複合体を提供する。また本発明は、前記複合体が生体に投与可能であり、生体内での薬効発揮により医薬品として実用可能であることから、前記複合体を含む、前記オリゴ核酸の標的分子(標的DNA、標的RNA、標的タンパク質)が関与する疾患の治療用または予防用医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、主成分として2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロールとリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームにオリゴ核酸が担持されている複合体に関するものである。
ここで本発明でいう「オリゴ核酸」とは、一分子内に10〜50の核酸塩基を有する、RNAないしDNAからなる核酸分子またはその誘導体であって、細胞内において生理活性作用を発揮し、標的となるDNA、RNA、ないしその発現産物であるタンパク質に作用することによって本来の細胞機能を制御または破壊せしめるものをいい、その構造は一本鎖の核酸分子、もしくは一分子内に二重鎖もしくは多重鎖を含む核酸分子、またはその組み合せ(例えば、2つの一本鎖核酸分子から形成される二本鎖核酸分子)によりなる。
【背景技術】
細胞の遺伝子発現を塩基配列特異的に阻害する方法としてアンチセンス核酸の技術が知られている。ここで言うアンチセンス核酸とは、20塩基程度の鎖長を有する一本鎖DNA誘導体であり、ホスホロチオエート体が最も知られている化合物であり、この分子単独でのin vivo投与が可能である。ホスホロチオエート体のアンチセンス核酸は、本発明の対象であるカチオニックリポソームのような担体と複合体を形成することなしに細胞内の標的RNAを切断することが可能であり、生体内における生理機能抑制や医薬品としての作用を発揮するとされている。その他にもRNA切断活性を有する化合物としてリボザイムやDNAエンザイム(DeoxyribozymeまたはDNAzyme)が知られている。しかし、これらの化合物は天然の核酸構造を含むことから核酸分解酵素による分解を受けやすく、また細胞内への取り込みが極めて低いという性質を有している。従って、その生理活性作用を細胞内で効率的に発揮させるためにはカチオニックリポソームのような担体が必要である。
最近においては、RNA干渉作用(相補鎖mRNAの分解)を示すオリゴRNAとしてsiRNA(small interfering RNA) が見いだされている。siRNAは、細胞内に存在するダイサー(Dicer)と呼ばれるRNAaseIII様の活性をもつ酵素によって二本鎖RNAから生成される19から23塩基程度の二本鎖RNA型の分子であり、それぞれの鎖の3’末端に2〜3塩基の一本鎖構造をもつ突出型の構造を有している。siRNAの誘導体も幾つか報告されているが、少なくとも3’末端に突出をもつ分子が十分なRNA干渉作用を示すとされている。また一本鎖のRNAからなり、ステムループ構造(分子内で二本鎖構造)を持つオリゴRNAもsiRNAの前駆体(一般的にshort hairpin RNA、shRNAと呼ばれる)として働くことが知られている。この分子はダイサー(Dicer)によってプロセッシングされ、siRNAと同様の構造になることによってRNA干渉作用を示すものである。しかしながら、前述したように、以上のような天然の構造およびそれに近い誘導体の核酸分子の場合は、細胞内に効率よく安定に移入されることが医薬品としての実用化に極めて重要な課題となっている。
水溶液中で正に荷電する脂質により構成されるリポソーム(カチオニックリポソーム)が遺伝子等の核酸の細胞内移入に有効であることが知られている。遺伝子等の核酸は負に荷電しているためカチオニックリポソームと容易に複合体を形成し、細胞の食作用により複合体が細胞内に取り込まれると考えられている。培養細胞を使った実験においては、アンチセンスDNAやsiRNAはカチオニックリポソームで細胞内に移入されることで、初めて十分な効果を発揮することが広く知られている。
しかしながら、これまでに前記のような核酸分子とカチオニックリポソームからなる複合体を動物に投与したときに標的遺伝子の発現を抑制するような、医薬品としての実用化が可能な複合体は未だ見いだされていない。その主要な理由として、カチオニックリポソームの細胞毒性があると考えられている。
ところで、ある種のグリセロール誘導体とリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームがpoly(I):poly(C)などの長鎖の二本鎖RNA(50〜10,000塩基対)を細胞内へ移入するのに有効であることが知られている(例えば、WO94/19314、WO99/20283、WO99/48531)。このとき形成される複合体は100nmを超える平均粒子径をもち、肝臓や脾臓の細網内皮系に多く分布する傾向にある(例えば、WO99/48531)。
WO94/19314、WO99/20283およびWO99/48531号公報においては、50塩基対以上の二本鎖RNAが用いられている。50塩基対未満の長さのオリゴ核酸と当該文献記載のカチオニックリポソームとの複合体形成が、複合体として物性的に十分な安定性を有し、かつin vivo投与が十分に可能な複合体形成ができるかどうかは未知である。また、その複合体をin vivo投与した場合、医薬品としての実用化に耐え得る安全性と薬効の発揮がなされるかどうかについては全くわかっていない。
【発明の開示】
本発明は、主として、医薬品として十分な薬効の発揮と安全性が確保され得る、オリゴ核酸とカチオニックリポソームとの複合体を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ある種のカチオニックリポソームとオリゴ核酸との複合体が生体に投与可能であり、生体内での薬効発揮により医薬品として実用可能であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、例えば、主成分として2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロールとリン脂質とから構成されるカチオニックリポソーム(以下、「当該リポソーム」という)にオリゴ核酸が担持されている複合体を提供する。
また、本発明者らは、更に鋭意努力を重ねた結果、複合体粒子の平均粒子径が代謝動態に大きな変動を与えることを見出した。即ち、平均粒子径が100nmを超える複合体を動脈あるいは静脈内に投与したときには、それが主に肝臓部位に集積するのに比べ、100nm以下、例えば80nmに満たない複合体の場合は、それが肝臓や脾臓のような細網内皮系での補足を逃れ、全身に広く分布することを見出した。このことは、医薬品治療の標的となる疾患部位が肝臓以外の肺や、循環器系臓器などを対象とした用途にも拡大することを明らかにしている。
従って、本発明は、当該リポソームにオリゴ核酸が担持されている、平均粒子径が100nm以下の複合体を提供する。
また本発明は、当該リポソームにオリゴ核酸が担持させてなる複合体を含む、当該オリゴ核酸の標的分子(標的DNA、標的RNA、標的タンパク質)が関与する疾患の治療用または予防用医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、推奨される方法でオリゴフェクトアミンのsiRNA複合体を調製したときの複合体分散液の様子である。10μMの複合体では凝集体が見える。
図2は、当該リポソームでsiRNA複合体を調製したときの複合体分散液の様子である。
図3は、A431細胞にbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を添加し、Bcl−2タンパク質の発現抑制効果をウエスタンブロッティングで調べた図である。
図4は、A549細胞にbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を添加し、Bcl−2タンパク質の発現抑制効果をウエスタンブロッティングで調べた図である。
図5は、A431細胞にbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を添加し、bcl−2 mRNAの発現抑制効果を準定量的RT−PCRで調べた図である。
図6は、A549細胞にbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を添加し、細胞の増殖抑制効果を調べた図である。グラフの縦軸は吸光度で生細胞数を反映している。
図7は、A549細胞肝転移マウスにbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を投与し、投与5分後の癌増殖巣内でのsiRNAの分布を調べた図である。左図はヘマトキシリン−エオシン染色、右図はフルオレセイン抗体を用いて免疫組織染色を行った図である。上段はsiRNA複合体を投与したマウスの、下段は裸のsiRNAを投与したマウスのA549細胞の増殖部位である。
免疫組織染色では陽性シグナルが青色で確認される。
図8は、A549細胞肝転移マウスにbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を投与したとき、転移癌の増殖を抑制している結果を示した図である。
図9は、A549細胞肝転移マウスにbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を投与したときのマウスの生存曲線を示した図である。
図10は、A549細胞肝転移マウスにbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を投与したときのマウスの生存曲線を示した図である。
図11は、A549細胞肝転移マウスにbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体を投与したときの延命作用における用量依存性を示した図である。
図12は、A549細胞肝転移マウスにおけるbcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体の投与スケジュール検討結果を示した図である。
図13は、bcl−2 siRNAと当該リポソームの複合体の局所投与効果を示した図である。
図14は、マウスに二種類の粒子径のsiRNA複合体をそれぞれ投与し、血漿、肝臓、脾臓におけるsiRNAの組織内濃度を比較した図である。
図15は、A431細胞にbcl−2 アンチセンスDNAと当該リポソームの複合体を添加し、Bcl−2タンパク質の発現抑制効果をウエスタンブロッティングで調べた図である。
図16は、A431細胞にBcl−2 DNA エンザイムと当該リポソームの複合体を添加し、Bcl−2タンパク質の発現抑制効果をウエスタンブロッティングで調べた図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
(1)当該リポソーム
当該リポソームの構成成分である2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロール(以下、「グリセロール誘導体A」という)は、 WO94/19314号公報に開示されており、下記の構造式を有する。グリセロール誘導体Aの合成方法に関しては WO94/19314号公報を参照されたい。
グリセロール誘導体Aの構造式

当該リポソームの構成成分であるリン脂質は、医薬品として許容されるものであれば特に制限されるものではない。例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、レシチンを挙げることができる。好ましいリン脂質としては卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン等を挙げることができる。
当該リポソーム担体中のグリセロール誘導体Aおよびリン脂質の混合比は、リン脂質の種類にもよるが、グリセロール誘導体A 1重量部に対してリン脂質0.1〜10重量部の範囲内が適当であり、0.5〜3重量部の範囲内が好ましく、1〜2重量部の範囲がより好ましい。
当該リポソームは、グリセロール誘導体Aとリン脂質を混合し、水溶液中で分散させることにより調製することができる。分散には超音波分散装置、乳化分散装置等の装置を適宜用いることができる。
(2)オリゴ核酸
本発明でいう「オリゴ核酸」とは、前述のとおり、一分子内に10〜50の核酸塩基を有する、RNAないしDNAからなる核酸分子またはその誘導体であって、細胞内において生理活性作用を発揮し、標的となるDNA、RNA、ないしその発現産物であるタンパク質に作用することによって本来の細胞機能を制御または破壊せしめるものをいい、その構造は一本鎖の核酸分子、もしくは一分子内に二重鎖もしくは多重鎖を含む核酸分子、またはその組み合せ(例えば、2つの一本鎖核酸分子から形成される二本鎖核酸分子)によりなる。
本発明で使用されるオリゴ核酸の制限的でない例として、一般的なRNAおよびDNA、およびそれらの誘導体を挙げることができる。具体的なオリゴ核酸としてはsiRNA、shRNA、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、DNAエンザイム、リボザイム、アプタマー等の文献的にもよく知られた核酸分子を挙げることができる。
オリゴ核酸は、ほとんど全ての標的となるRNAあるいはDNAの配列に対して設計可能であり、また標的がタンパク質の場合においても同様である。いずれの場合においても本発明に用いることができる。オリゴ核酸の標的分子の制限的でない例としては、bcl−2、c−myc、bcr−ablなどの癌遺伝子、HIVウイルス、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスなどのウイルス遺伝子、TNF−αやFasなどの炎症関連遺伝子が挙げられる。また上記の遺伝子の転写産物のみならず翻訳産物もオリゴ核酸の標的になり得る。更に構造遺伝子のみならず、任意のタンパク質をコードしないゲノムDNAやタンパク質発現の調節に働くRNA分子、例えばスプライシング配列をもつtRNA前駆体のマチュレーションに働くRNA分子やmicroRNAのようなRNA分子も標的に含まれる。
本発明に使用されるオリゴ核酸は天然型に限定されるものではなく、ヌクレアーゼ耐性など、生体内における安定性を高めるために、そのヌクレオチドを構成している糖またはリン酸バックボーンなどの、少なくとも一部が修飾されていてもよい。修飾される場合、望ましい修飾は、糖の2’位の修飾、糖のその他の部分の修飾、オリゴ核酸のリン酸バックボーンの修飾等である。糖の2’位の修飾として、OR、R、R’OR、SH、SR、NH、NHR、NR、N、CN、F、Cl、Br、Iなどの置換基が挙げられる。ここで、Rはアルキルまたはアリール、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基を、R’はアルキレン、好ましくは炭素数1〜6のアルキレンを示す。糖のその他の部分の修飾体としては、4’チオ体などが挙げられる。オリゴ核酸のリン酸バックボーンの修飾体としては、ホスホロチオエート体、ホスホロジチオエート体、アルキルホスホネート体、ホスホロアミデート体などが挙げられる。
本発明に係るオリゴ核酸は、一分子中に10〜50の核酸塩基を有するが、15〜35の核酸塩基のものや、18〜25の核酸塩基のものも挙げることができる。
オリゴ核酸は、当業者に既知のホスホアミダイト法またはトリエステル法により固相で、または液相で合成できる。最も一般的な態様はホスホアミダイト法による固相合成法であり、核酸自動合成機または手動にて合成することができる。固相での合成が終了した後は、固相からの脱離、保護基の脱保護および目的物の精製等を行う。精製により、純度90%以上、好ましくは95%以上の核酸を得るのが望ましい。
(3)複合体
複合体を形成させるときのオリゴ核酸と当該リポソームの構成比率は、オリゴ核酸の種類にもよって異なるが、オリゴ核酸1重量部に対して当該リポソーム0.01から100重量部が適当であり、1から30重量部が好ましく、10から20重量部がさらに好ましい。
当該リポソームは中性以下のpHでは正電荷を有しているので、負に荷電したオリゴ核酸とは容易に複合体を形成することができる。従って、本発明の複合体は、水性溶媒中でグリセロール誘導体Aおよびリン脂質をまず分散処理して当該リポソームを形成させ、続いてオリゴ核酸を加え再度分散処理する方法、またはグリセロール誘導体A、リン脂質およびオリゴ核酸を水性溶媒中で分散処理することにより製造することができる。
複合体形成のために用いる水性溶媒としては、注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水等の電解質液、ブドウ糖液やマルトース液などの糖液を挙げることができる。
分散処理は例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、高圧乳化分散機、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、アルティマイザー(商品名)、DeBEE2000(商品名)、マントン−ガウリン型高圧ホモジナイザー等が挙げられる。処理条件や処理時間、処理温度等は適宜選択される。また、当該分散処理は、粗分散を経るなど数段階に分けて行うことができる。
本発明に係る複合体の平均粒子径は特に制限されないが、300nmまでの粒子サイズが適当である。本発明に係る複合体の好ましい平均粒子径は10〜100nmの範囲内であり、20〜80nmがより好ましく、30nmから50nmが更に好ましい。分散処理条件の設定を変えることによって、10nmから300nmまでの適宜サイズ調節が可能である。
(4)複合体の用途
本発明の複合体は、細胞内に取り込まれ、標的分子であるRNA、DNAあるいはタンパク質に対する生理活性作用あるいは薬効薬理作用を発揮する。本発明の複合体を用いることにより、体内における細胞内でのRNA、あるいはDNAやタンパク質に対するターゲティング作用を発揮させることが可能である。このような細胞内ターゲティングによって、標的RNAの分解、標的DNAの発現制御、標的タンパク質への結合による機能阻害を生じさせることが可能であり、最終的には疾患治療の標的であるタンパク質の発現抑制あるいは機能阻害をおこすことができる。これらの作用はオリゴ核酸のもつ諸機能を医薬品用途に用いることを可能せしめ、本発明の複合体はオリゴ核酸医薬品による種々の疾患の治療および予防をすることができる医薬組成物の成分として有用である。
(5)医薬組成物
本発明は、オリゴ核酸と当該リポソームとの複合体を含むことを特徴とする医薬組成物、すなわちヒトに安全に投与できる医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、たとえば、本複合体が水溶液中に分散している液剤(注射剤、点滴剤等)やその凍結乾燥製剤の形態をとることができる。液剤の場合、本複合体が、0.001〜25%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものが適当であり、0.01〜5%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものが好ましく、0.1〜2%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものがより好ましい。本発明の医薬組成物は、任意の医薬上許容される添加剤、例えば、乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤を適当量含有していてもよい。具体的には、炭素数6〜22の脂肪酸(例、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリステン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸)やその医薬上許容される塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、アルブミン、デキストラン等の乳化補助剤、コレステロール、ホスファチジン酸等の安定化剤、塩化ナトリウム、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等の等張化剤、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤などを挙げることができる。
医薬上許容される任意の添加剤は、分散前でも分散後でも適当な工程で添加することができる。
また、十分な除菌または滅菌処置を行うことによって、医薬品として供することが可能である。
上記分散処理によって得られた本複合体を凍結乾燥処理することにより、本発明医薬組成物の凍結乾燥製剤を調製することができる。凍結乾燥処理は、常法により行うことができる。例えば、上記分散処理して得られた本複合体を滅菌後、所定量をバイアル瓶に分注し、約−40〜−20℃の条件で予備凍結を約2時間程度行い、約0〜10℃で減圧下に一次乾燥を行い、次いで、約15〜25℃で減圧下に二次乾燥して凍結乾燥することができる。そして、一般的にはバイアル内部を窒素ガスで置換し、打栓して本複合体の凍結乾燥製剤を得ることができる。
本発明医薬組成物の凍結乾燥製剤は、一般には任意の適当な溶液(再溶解液)の添加によって再溶解し使用することができる。このような再溶解液としては、注射用水、生理食塩水、その他一般輸液を挙げることができる。この再溶解液の液量は、用途等によって異なり特に制限されないが、凍結乾燥前の液量の0.5〜2倍量、又は500mL以下が適当である。
本発明の医薬組成物は、投与単位形態で投与することが望ましく、ヒトを含む動物に対し、静脈内投与、動脈内投与、経口投与、組織内投与、経皮投与、経粘膜投与または経直腸投与することができる。特に静脈内投与、経皮投与、経粘膜投与が望ましい。また癌内局所投与などの局所投与も行うことができる。これらの投与に適した剤型、例えば各種の注射剤、経口剤、点滴剤、吸収剤、点眼剤、軟膏剤、ローション剤、座剤等で投与されるのはもちろんである。
例えば、本発明組成物の医薬としての用量は、薬物、剤型、年齢や体重等の患者の状態、投与経路、疾患の性質と程度を考慮した上で調製することが望ましいが、通常は、成人に対してオリゴ核酸量として、1日当たり0.1mgから10g/ヒトの範囲が、好ましくは1mgから数gの範囲が一般的である。この数値は標的とする疾患の種類、投与形態、標的分子によっても異なる場合がある。従って、場合によってはこれ以下でも十分であるし、また逆にこれ以上の用量を必要とするときもある。また1日1回から数回の投与または1日から数日間の間隔で投与することができる。
【実施例】
以下にbcl−2のmRNAを標的分子としたオリゴ核酸を例に説明するが、本発明はこれらの例に示される範囲に限定されるものではない。その際に用いたオリゴ核酸の配列については以下に示した。
配列番号1 (bcl−2 siRNAセンス鎖)

配列番号2 (bcl−2 siRNAアンチセンス鎖)

配列番号3 (ルシフェラーゼ siRNAセンス鎖)

配列番号4 (ルシフェラーゼ siRNAアンチセンス鎖)

配列番号5 (bcl−2 アンチセンスDNA)

配列番号6 (bcl−2 アンチセンスDNA逆向き配列/陰性対照)

配列番号7 (bcl−2 DNAエンザイム)


配列番号8 (bcl−2 DNAエンザイム ミュータント/陰性対照)

配列番号9 (bcl−2 siRNAセンス鎖)

配列番号10 (bcl−2 siRNAアンチセンス鎖)

配列番号11 (bcl−2 siRNAセンス鎖)

配列番号12 (bcl−2 siRNAアンチセンス鎖)

上記の一部のオリゴ核酸の合成はDharmacon社(コロラド州、米国)、日本バイオサービス(埼玉県)および北海道システム・サイエンス株式会社(北海道)に依頼した。なおsiRNAは3’末端の2塩基が2’デオキシ体である。アンチセンスDNAおよびDNAエンザイムはすべて2’デオキシ体であるが、sで表記した部分のリン酸バックボーンはホスホロチオエート体で修飾されている。
製造例1 bcl−2 siRNAの合成
配列番号1および2ならびに配列番号9および10のsiRNAの合成は、標準的なアミダイト法(Nucleic Acid Research 1984,12, 4539.)で自動DNA合成装置(アプライド・バイオシステムズ、Expedite 8909)により合成した。濃水酸化アンモニウム−エタノール(3/1)混合液を用いてCPGより開裂させ、さらに同溶液中で55℃(18時間)において脱保護した。その後、1Mテトラブチルアンモニウムフルオライドのテトラヒドロフラン溶液を用いて室温(20時間)で2’位のシリル基を脱保護した。得られたオリゴリボヌクレオチドを逆相クロマトグラフィーにて精製した。さらに、80%酢酸水溶液にて室温(30分)で5’位のDMTr基を脱保護した後、イオン交換クロマトグラフィーにて再度精製した。脱塩後に得られたオリゴリボヌクレオチドは、キャピラリーゲル電気泳動により90%以上が全長物質であると判定された。
参考例1 当該リポソームの調製
グリセロール誘導体A1.2gと高純度卵黄レシチン2gに100mLの注射用水に溶解したマルトース20gを添加し、実験用小型乳化分散機を用いて30分間分散処理した。注射用水で200mLに定容して16mg/mLの当該リポソームを得た。
実施例1 siRNAと当該リポソームとの複合体の調製(1)
200μMの二本鎖siRNA溶液(配列番号1および2)100μLに10%マルトースを900μL添加し、20μM(268μg/mL)濃度のsiRNA溶液1mLを調製した。また16mg/mLの参考例1記載の当該リポソーム液268μLに10%マルトース732μLを添加し、4.3mg/mLの当該リポソーム液1mLを調製した。この当該リポソーム液1mLに上記siRNA溶液1mLを、攪拌しながら徐々に添加した。以上の操作によりsiRNAとしての終濃度が10μMであるsiRNA複合体を得た。この複合体の平均粒子径を動的光散乱方式による粒子径測定装置(NICOMP 380ZLS、Particle Sizing Systems社,米国)にて、測定モードとしてVesicleモードを用いて(以下、平均粒子径の測定は同機により、同測定モードにて行った)測定すると181nmであった。この複合体をさらに水浴型超音波装置により分散処理することにより、平均粒子径が155nmの複合体を得た。
配列番号9および10からなる二本鎖RNAないし配列番号11および12からなる二本鎖RNAと当該リポソームとの複合体についても上記siRNA複合体と同様に調製した。
実施例2 siRNAと当該リポソームとの複合体の調製(2)
グリセロール誘導体A300mg、高純度卵黄レシチン500mg、マルトース1gに蒸留水8mLを加え、激しく攪拌し分散させた。プローブ型の超音波破砕機で、氷水で冷却しながら15分間超音波を照射した。この照射後の分散液を蒸留水で10mLに定容後、0.22μmのフィルターでろ過し、平均粒子径44.4nmの当該リポソーム (80mg/mL)を得た。この当該リポソーム液1mLに2.61mLの15.3%マルトース水溶液を加え攪拌した。この溶液を再び氷冷し、超音波照射しながら、3.6mg/mLのsiRNA(配列番号1および2)1.39mLを当該リポソーム液に注入した。その後、超音波照射を行い、平均粒子径38.5nm、1mg/mLのsiRNA複合体を得た。
実施例3 アンチセンスDNAと当該リポソームの複合体の調製
200μMのアンチセンスDNA(配列番号5)溶液100μLに10%マルトースを900μL添加し、20μM(114μg/mL)濃度のアンチセンスDNA溶液 1mLを調製した。また16mg/mLの参考例1記載の当該リポソーム液114μLに10%マルトース886μLを添加し、1.8mg/mLの当該リポソーム液1mLを調製した。この当該リポソーム液1mLに上記アンチセンスDNA溶液1mLを、攪拌しながら徐々に添加した。以上の操作によりアンチセンスDNAとしての終濃度が10μMであるアンチセンスDNA複合体を得た。この複合体粒子を水浴型超音波装置により分散処理することにより、平均粒子径が120.5nmの複合体粒子を得た。
実施例4 DNAエンザイムと当該リポソームの複合体の調製
200μMのDNAエンザイム(配列番号7)溶液100μLに10%マルトースを900μL添加し20μM(191μg/mL)の濃度のDNAエンザイム溶液1mLを調製した。また16mg/mLの参考例1記載の当該リポソーム液191μLに10%マルトース809μLを添加し、3.1mg/mLの当該リポソーム液1mLを調製した。この当該リポソーム液1mLに上記DNAエンザイム溶液1mLを、攪拌しながら徐々に添加した。以上の操作によりDNAエンザイムとしての終濃度が10μMであるDNAエンザイム複合体を得た。この複合体粒子を水浴型超音波装置で分散処理することにより、平均粒子径が135.1nmの複合体粒子を得た。
比較例1 市販の担体と当該リポソームの溶血性比較
一般的にカチオン性担体は界面活性作用を有するものが多いことから、担体自身の赤血球溶血性について各種市販担体と当該リポソームの比較を行った。市販担体として、Oligofectamine(商品名)、Trans IT−TKO(商品名)、Trans Messenger(商品名)、Lipofectamine 2000(商品名)、Lipofectamine(商品名)、およびDMRIE−C(商品名)を用いた。
ヘパリン処理して回収したラット血液を3000rpmで10分間遠心分離した後、上層の血漿および白血球層を除いた。得られた赤血球に対し2倍量の注射用生理食塩水を加え、混和後3000rpmで5分間遠心分離した。この操作をさらに2回繰り返して得られた赤血球は注射用生理食塩水を用いて1×10個/mLになるように希釈し、赤血球懸濁液とした。850μLの測定用バッファー(74mM NaCl、147mM Sucrose、 6mM Glucose、20mM Tris−HCl pH7.2)に生理食塩水で適当な濃度に希釈した当該リポソームもしくは市販担体を100μL添加し、37℃で予備加温した後、上記赤血球懸濁液50μLを加え混和し、37℃で45分間インキュベートした。反応液を3000rpmで3分間遠心分離し、543nmにおける上清の吸光度を測定し、式1を用いて溶血率(%)を算出した。
式1

表1にラット赤血球を40%溶血させる担体濃度を示した。
このように当該リポソームは他の市販担体と比較して、溶血作用が極めて低いことが判った。

比較例2 市販の担体と当該リポソームの細胞毒性比較
ヒトさい帯静脈内皮細胞(三光純薬)を3,000cells/wellとなるように96ウェルプレートに播種し、一晩培養した。当該リポソームもしくは市販担体とホタルルシフェラーゼ遺伝子を標的としたsiRNA(配列番号3および4)との複合体を調製して1/10容量添加した。72時間培養後、Cell Counting Kit8(WST−8、同仁化学)を加えて生存細胞数を吸光度により測定した。ただしsiRNAと担体の混合比率(重量比)は1:16で、複合体調製は各試薬の添付プロトコルに準じて行った。
表2に、ヒトさい帯静脈内皮細胞の増殖を50%阻害する各種担体の濃度を示した。当該リポソームを用いた複合体は他の市販担体(比較例1で用いた市販品)からなる複合体より低毒性であることが判った。

比較例3 オリゴフェクトアミンとsiRNAの複合体、当該リポソームとsiRNAの複合体の形態比較
オリゴフェクトアミンTM(インビトロジェン社)を用いてbcl−2 siRNA(配列番号1,2)との複合体を形成させた。siRNAとオリゴフェクトアミンの混合比は、Tuschlらの手引き書(http://www.mpibpc.gwdg.de/abteilungen/100/105/siRNA.html)に従い、60pmoleのsiRNA(二本鎖)に対してオリゴフェクトアミン3μLの比で混合した。siRNAについては同手引書に従いアニーリング操作を行って用いた。この方法で10μM、3μMおよび1μMのsiRNA複合体をそれぞれ調製し、その形態を比較した。ただしsiRNA複合体の濃度は複合体に含まれている二本鎖siRNAのモル濃度で示している。その結果1μMの複合体調製品では若干白濁する程度であったが、3μMの複合体では凝集体が見え始め、10μMの複合体では完全に粗大な粒子が目視できる状態になった(図1)。
一方、実施例1と同様の方法により、終濃度が10μM、3μM、および1μMのsiRNA複合体となるように、当該リポソームとsiRNAとの複合体を調製し、その形態を比較した(図2)。
オリゴフェクトアミンの場合、3μM以上で目視できる凝集体が形成されていたが、当該リポソームを用いた場合10μMの濃度でも目立った凝集体は認められなかった。
試験例1 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(1)−タンパク質レベル
6cm径のシャーレにA431細胞(ヒト類表皮癌細胞)を2×10個/dishで播種し一晩培養した。翌日新鮮な上記培地2.7mLに交換し、これに実施例1記載の方法により調製した、bcl−2 siRNA(配列番号1および2)を含む複合体分散液0.3mLを培地に添加した。添加時の複合体分散液は10%マルトース液により終濃度の10倍濃度に調製して添加している。なお陰性対照としてホタルルシフェラーゼに対するsiRNA(配列番号3および4)を含む複合体も同時に調製し添加した。添加72時間後に細胞を回収し、回収した細胞は細胞溶解緩衝液〔50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、1%NP−40、1mM PMSF、1xCompleteTM(ロシュ・ダイアグノスティックス)〕で溶解した。1レーンあたり総タンパク質の量を15μgとしたサンプルをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(5−20%グラディエントゲル)に供した。分離したタンパク質を、セミドライ式ブロッティング装置を用いてPVDF膜に転写後、抗ヒトBcl−2抗体(M0887、DAKO)または抗アクチンポリクローナル抗体(sc−1616、Santa Cruz Biotechnology社)を用いてウエスタンブロット解析を行った。なお、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体または同標識抗ヤギIgG抗体を用い、化学発光試薬(ルネッサンス・ルミノール、第一化学薬品社)を用いて目的タンパク質のバンドを検出した。
図3に示すようにbcl−2 siRNAは濃度依存的にBcl−2タンパク質の発現を抑制しており、陰性対照であるルシフェラーゼのsiRNAでは抑制は認められなかった。また他の内在性タンパク質であるベータアクチンの発現にはまったく影響を及ぼしていなかった。このことからbcl−2 siRNAは配列特異的にBcl−2タンパク質の発現を抑制することが判り、当該リポソームがsiRNAのin vitroでの効果発現に有効であることが判った。また、配列番号11および12からなるbcl−2 siRNAについても、濃度依存的にBcl−2タンパク質の発現を抑制した。
試験例2 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(2)−タンパク質レベル
試験例1記載の方法と同様にA549細胞(ヒト肺上皮癌細胞)に対するBcl−2タンパク質発現抑制効果を調べた。図4に示すように、当該リポソームの有効性が示された。
試験例3 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(3)−mRNAレベル−
当該リポソームによるsiRNAのタンパク質抑制作用はmRNAの発現抑制に起因するものかどうかを調べるため、標的遺伝子のmRNAの発現量を調べた。
試験例1と同様の処理を行い、複合体添加24時間後に回収したA431細胞からISOGEN(ニッポンジーン)を用いてトータルRNAを抽出した。続いて、一定量のトータルRNAを鋳型に、THERMOSCRIPT RT−PCR System(インビトロジェン)を用いた逆転写反応でcDNAを合成した。さらに、この逆転写反応液の一定量をPCR反応の鋳型に用い、キャピラリーPCR法による検出・定量システム(ライトサイクラー、ロッシュ・ダイアグノスティックス)により、bcl−2の mRNAレベルの準定量を行った。
その結果、10nM、24時間のbcl−2 siRNA複合体の処理でbcl−2の mRNAの量は陰性対照の複合体を添加した場合の20%程度に減少していた(図5)。この結果から当該リポソームを用いたsiRNAのタンパク質抑制作用はmRNAの発現抑制に起因するものであることが確認できた。
試験例4 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(4) −細胞増殖抑制−
A549細胞を96穴プレートに1×10cells/wellの密度で培養し、翌日これに実施例1で述べた方法により調製した、bcl−2 siRNA(配列番号1および2)を含む複合体分散液1/10容量を培地に添加した。なお陰性対照としてホタルルシフェラーゼに対するsiRNA(配列番号3および4)を含む複合体も同時に調製し添加した。複合体添加6日後に、生細胞数をCell Proliferation Kit 1(ロシュ・ダイアグノスティックス)にて測定した。図6に示すようにbcl−2 siRNA複合体でBcl−2タンパク質の発現を抑制したA549細胞は濃度依存的に増殖が抑制されることが確認できた。
試験例5 当該リポソームを用いたsiRNAの癌病巣へのデリバリー
ヌードマウス(BALB/c、nu/nu、オス、5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。この操作によりA549細胞は肝臓に着床し、転移増殖巣を形成する。手術から5週間後に5’末端をフルオレセイン標識したsiRNA(配列番号お1よび2)と当該リポソームの複合体を実施例1と同様の方法で調製し、5mg/kgで上記マウスの尾静脈より投与した。このとき投与した複合体の平均粒子径は235.4nmであった。複合体投与5分および1時間後にマウスから肝臓を摘出し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS中で固定した。さらに定法に従いパラフィン包埋した後、厚さ3ミクロンの組織切片を作成した。それぞれの組織切片に対してアルカリフォスファターゼ標識の抗フルオレセイン抗体(D5101、DAKO)を用いた免疫組織染色を行い、組織中のsiRNAの分布を調べた。なおアルカリフォスファターゼの発色にはBCIP/NBT発色基質(DAKO)を用いた。その結果、複合体投与後5分および1時間後にA549細胞の増殖部位において広範囲に陽性シグナルが確認できた。しかしフルオレセイン標識したsiRNAを裸で投与した場合は癌病巣でのシグナルはまったく確認できなかった。図7は複合体投与5分後のマウス肝臓における癌病巣の連続切片である。上段は複合体を投与したマウスの癌病巣であり、下段は裸のsiRNAを投与したマウスの癌病巣である。フルオレセインが検出された上段右の図では広範囲に青色に染色された。したがって当該リポソームを用いることにより、増殖巣の癌細胞へsiRNAがデリバリーされる可能性が示唆された。
試験例6 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(5)−in vivo効果−
ヌードマウス(BALB/c,nu/nu,オス,5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。移植6日後から45日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号1および2)を含む複合体を週1回(計6回)または週3回(計18回)の頻度で各回10mg/kg静脈内投与した。コントロール群には週3回、10%マルトース溶液を投与した(計18回)。図8および表3に、移植34日後(投与期間途中)の各群のマウス肝臓観察結果と肝重量を示す。

試験例7−1 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(6) −in vivo 効果−
ヌードマウス(BALB/c,nu/nu,オス,5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。移植6日後から45日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号1および2)を含む複合体を週1回(計6回)または週3回(計18回)の頻度で静脈内投与した。コントロール群には週3回、10%マルトース溶液を投与した(計18回)。図9は移植後100日までのマウスの生存匹数を示したグラフである。
両薬物投与群とコントロール群との間のカプランマイヤー曲線を一般化ウイルコクソン検定したところ、統計的に有意差が認められた(P<0.01)。
試験例7−2 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(7) −in vivo効果−
ヌードマウス(BALB/c、nu/nu、オス、5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。移植6日後から44日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号9および10)を含む複合体を、週2回(計12回)の頻度で静脈内投与した。1回当たりの投与量は、当該siRNAとして10mg/kg体重とした。コントロール群には週2回、10%マルトース溶液を投与した(計12回)。図10は移植後100日までのマウスの生存匹数を示したグラフである。
bcl−2 siRNA投与群とコントロール群との間のカプランマイヤー曲線を一般化ウイルコクソン検定したところ、統計的に有意差が認められた(P<0.01)。
試験例7−3 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(8) −用量依存性
ヌードマウス(BALB/c、nu/nu、オス、5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。移植6日後から44日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号9および10)を含む複合体を、週2回(計12回)の頻度で静脈内投与した。1回当たりの投与量は、当該siRNAとしてそれぞれ1mg/kg体重、3mg/kg体重、10mg/kg体重とした。コントロール群には週2回、10%マルトース溶液を投与した(計12回)。その結果を図11に示す。
1mg/kg体重投与群、3mg/kg体重投与群、10mg/kg体重投与群とコントロール群との間の、癌移植69日後までのカプランマイヤー曲線を一般化ウイルコクソン検定したところ、統計的に有意差が認められた(それぞれP<0.05、P<0.01、P<0.01)。
試験例7−4 当該リポソームを用いたsiRNAの効果(9) −連続投与スケジュールの検討−
ヌードマウス(BALB/c、nu/nu、オス、5週齢)の脾臓にA549細胞(10細胞/マウス)を移植し、10分後に脾臓を摘出した。移植5日後から10日後まで、または移植5日後から20日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号9および10)を含む複合体を、週5回(計5回または12回)の頻度で静脈内投与した。1回当たりの投与量は、当該siRNAとして10mg/kg体重とした。コントロール群には週5回、10%マルトース溶液を投与した(計12回)。その結果を図12に示す。
癌移植69日後において、5回投与群および12回投与群共に10匹全てが生存していた。そして、両薬物投与群とコントロール群との間の、癌移植69日後までのカプランマイヤー曲線を一般化ウイルコクソン検定したところ、統計的に有意差が認められた(P<0.01)。
試験例7−5 当該リポソームを用いた局所投与効果 −in vivo効果−
ヌードマウス(BALB/c、nu/nu、オス、5週齢)の右脇腹皮下に、100μLのPBSに懸濁した2.5×10個のPC−3細胞を移植した。移植7日後から18日後まで、実施例1で示した方法で調製したbcl−2 siRNA(配列番号1および2、配列番号9および10)を含む複合体を、週5回(計10回)の頻度で癌周辺部の皮下へ投与した。1回当たりの投与量は、当該siRNAとして0.1mg/マウスとした。コントロール群には週5回、10%マルトース溶液を投与した(計10回)。腫瘍体積は、腫瘍を楕円体とみなし、「体積=短径×短径×長径÷2」の式により求めた。その結果を図13に示す。
腫瘍体積の増加は、各複合体投与群とコントロール群との間でいずれも癌移植14日後から36日後に渡って統計的に有意に減少した(P<0.01、ダネット検定)。
試験例8 siRNA/当該リポソーム複合体の組織内濃度
(1)トリチウム標識siRNAの合成
トリチウム(H)による内部標識のsiRNAの合成にはSilencer siRNA Construction kit(Ambion)を用い、T7ポリメラーゼの転写反応の際、H標識ATP(NET−420、パーキンエルマーライフサイエンス)を基質の一部として取り込ませた。H標識ATPは反応液20μLにつき3.7Mbq(2.7nmole)を添加し、キットの添付書類に従い二本鎖siRNAを合成した。その後反応液をフェノール/クロロホルム処理してタンパク質を除去し、さらにG−25スピンカラム(ファルマシア)による未反応モノマーの除去を行った。得られたH標識二本鎖siRNAを12%アクリルアミドゲルで電気泳動し、イメージアナライザー(BAS2500、富士写真フィルム)で検定したところ、サイズは20から21塩基対でモノマーを含まないことを確認した。
(2)複合体の調製
実施例1の方法および実施例2の方法によりそれぞれ平均粒子径が187.5nmのsiRNA複合体と43.3nmのsiRNA複合体を調製した。それぞれの複合体はH標識体と未標識体を混合したもので調製し、比活性は1000dpm/μgから2000dpm/μgに調整した。
(3)組織内濃度の測定
マウス(ddy、4週齢、オス、日本エスエルシー)に5mg/kg(siRNA濃度)で上記の2種類の大きさの複合体を尾静脈より投与した。投与後、5、15および60分後にマウスをエーテル麻酔下で採血致死させた。血漿取得のための抗血液凝固剤にはヘパリンを用いた。次いで肝臓、肺、心臓、脾臓および腎臓を摘出し、それぞれの湿重量を測定した。摘出した臓器を含むバイアル中に1mLの組織溶解剤(ソルバブルTM、パッカード)を加え、40℃で一晩振とうして組織を溶解させた(ただし肝臓と腎臓は一部を秤量し溶解した)。赤血球由来の着色が認められるサンプルには30%過酸化水素水を100μL添加して脱色した後、各バイアルに10mLのシンチレーションカクテル(ハイオニックフローTM、パッカード)を添加、混合した。液体シンチレーションカウンター(2500TR、パッカード)により各臓器の単位重量あたりに含まれる放射活性を測定し、複合体として投与したsiRNAの組織内濃度を算出した。
(4)結果
図14から明らかなように、平均粒子径が43.3nmの複合体は187.5nmの複合体に比べて肝臓および脾臓といった細網内皮系における捕捉が極めて減少し、血漿中濃度が著しく上昇していることが判った。
試験例9 当該リポソームを用いたアンチセンスDNAの効果
6cm径のシャーレにA431細胞を2.5×10個/dishで播種し一晩培養した。翌日新鮮な上記培地2.25mLに交換し、これに実施例3で述べたのと同様の方法で調製したbcl−2に対するアンチセンスDNA(配列番号5)を含む複合体分散液0.25mLを培地に添加した。添加時の複合体分散液は10%マルトース液により終濃度の10倍濃度に濃度調整して添加している。なお陰性対照として逆向き配列(配列番号6)を含む複合体も調製し、同時に添加した。添加72時間後に細胞を回収し、試験例1記載の方法と同様にBcl−2タンパク質の発現を解析した。
図15に示すように当該リポソームでbcl−2に対するアンチセンスDNAを細胞に移入させることにより、Bcl−2タンパク質の発現が特異的に抑制できた。
試験例10 当該リポソームを用いたDNAエンザイムの効果
6cm径のシャーレにA431細胞を2.5×10個/dishで播種し一晩培養した。翌日新鮮な上記培地1.8mLに交換し、これに実施例4で述べたのと同様の方法で調製したBcl−2に対するDNAエンザイム(配列番号7)を含む複合体分散液0.2mLを培地に添加し終濃度1μMとした。添加時の複合体分散液は10%マルトース液により終濃度の10倍濃度に濃度調整して添加している。なお陰性対照の DNAエンザイムとして、その酵素活性を消失するようにポイントミューテーションを導入したもの(配列番号8)を含む複合体も同時に調製し添加した。さらに複合体添加後24時間に新鮮な培地に交換し、再度同様の複合体を添加し、最初の複合体添加から72時間後に細胞を回収し、試験例1記載の方法と同様にBcl−2タンパク質の発現を解析した。
図16に示した結果のように、当該リポソームでBcl−2に対するDNAエンザイムを細胞に移入させることにより、Bcl−2のタンパク質の発現を特異的に抑制することが示された。
【産業上の利用可能性】
本発明は、主成分として2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロールとリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームにオリゴ核酸が担持されている複合体を提供する。前記複合体は生体への投与が可能であり、生体内での薬効発揮により医薬品として実用可能であり、前記複合体を含む前記オリゴ核酸の標的分子(標的DNA、標的RNA、標的タンパク質)が関与する疾患の治療用または予防用医薬組成物として利用することができる。
【配列表】






【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロールとリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームに10〜50の核酸塩基を有するオリゴ核酸が担持されている複合体。
【請求項2】
前記リン脂質がレシチンである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
平均粒子径が10〜100nmの範囲内である、請求項1または2記載の複合体。
【請求項4】
前記オリゴ核酸が、RNAもしくはDNA、またはそれらいずれかの誘導体である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記RNAもしくはDNA、またはそれらいずれかの誘導体が、siRNA、shRNA、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、DNAエンザイム、リボザイム、またはアプタマーである、請求項4記載の複合体。
【請求項6】
前記オリゴ核酸が、配列番号1に示す配列における3’末端の2塩基のdTを除いた部分からなるセンス鎖RNAと、配列番号2に示す配列における3’末端の2塩基のdTを除いた部分からなるアンチセンス鎖RNAを二重鎖形成部として含むオリゴ2本鎖RNAである、請求項1ないし4記載の複合体。
【請求項7】
オリゴ核酸の標的分子(標的DNA、標的RNA、標的タンパク質)が存在する細胞内へデリバリーされる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
オリゴ核酸の標的分子が、bcl−2、c−myc、bcr−ablに代表される癌遺伝子、HIVウイルス、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスに代表されるウイルス遺伝子、もしくはTNF−α、Fasに代表される炎症関連遺伝子、もしくはこれら遺伝子の転写産物もしくは翻訳産物、または任意のタンパク質をコードしないゲノムDNAもしくはタンパク質発現の調節に働くRNAである、請求項7記載の複合体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の複合体を含む、オリゴ核酸の標的分子(標的DNA、標的RNA、標的タンパク質)が関与する疾患の治療用または予防用医薬組成物。
【請求項10】
該疾患が癌である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
該疾患がウイルス性疾患である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
該疾患が炎症性疾患である、請求項9記載の医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/105774
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506579(P2005−506579)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007785
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】