説明

オルガノクロロシランの直接合成の液状残留物の後処理方法

【課題】塩化水素を用いてシラン中のMueller-Rochowによる直接合成の高沸点残留物を熱分解する方法。
【解決手段】二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子の流動層中で熱分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素を用いてシラン中のミュラー・ロショー(Mueller-Rochow)による直接合成の高沸点残留物を熱分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素金属及びアルキル塩化物から式RabSiCl4-a-b[ここでa=1〜4及びb=0、1又は2]で示されるオルガノクロロシラン[ここでR=メチルが特に好ましい]を直接合成する際に、副生物としてオリゴシラン、カルボシラン、シロキサン及び高沸点分解生成物が生じる。さらにまた、蒸留残留物中には直接合成由来の固体が見出され、これら固体は超微細含分としてサイクロン及びフィルターによっても保持されない。これら固体は、ケイ素、金属塩化物、金属ケイ化物及びすすからなる。
【0003】
これらの蒸留残留物の大部分は、オリゴシラン、特にジシランRcCl6-cSi2[ここでc=0〜6]により構成される。故に、これらジシランをモノシランへ変換する方法が早くから開発されてきた。この方法は例えば、例示的に米国特許(US)第2,709,176号明細書に記載された、塩化水素でのアミン触媒された分解によってうまくいく。もっとも、この方法により分解できるのは、4個未満のメチル基を有するジシランだけである。さらにまた、前記ジシランは、前もって固体残留物から分離されなければならない、それというのも、これらの残留物、例えば塩化アルミニウムは、触媒毒として作用するからである。
【0004】
また、いわゆる分解できないジシランを利用するために、分解可能できないジシランを分解できるジシランへ変換し、ついで分解する方法、例えば米国特許(US)第4,393,229号明細書、前記方法においてこれらのジシランは直接、たいてい貴金属を含有する特殊な触媒上でHClで分解される、例えば独国特許(DE)第44 31 995号明細書又は前記方法においてジシランは水素で金属触媒上で分解される、例えば米国特許(US)第4,079,071号明細書が開発されていた。前記水素化の利点は、タイプR′3Si−CH2−SiR′3[ここでR′=H、C1〜C4−アルキル又はハロゲン]のカルボシランも、含水素モノシランに分解できることにある。金属触媒された反応にとって不利であるのは、いつの場合も残留物由来の不純物による前記触媒の被毒傾向である。水素化は、そのうえより高い圧力を必要とする。それにより、装置費用は明らかに上昇する。
【0005】
一工程における最後に挙げた方法の組合せは、米国特許(US)第5,430,168号明細書に記載されており、その際に金属触媒の添加が放棄されることができるが、しかしながらより高い圧力は放棄されることはできない。
【0006】
独国特許第(DE)第936 444号明細書には、メチルクロロシランの直接合成のより高沸点の残留物を、オートクレーブ中で又は空管(Leerrohr)中で塩化水素と、400〜900℃の温度で、モノマーシランに触媒なしでかつ純粋に熱的に変換する方法が記載されている。そこでは、管形反応器を使用する際の大きな利点として、僅かなコークス化傾向が強調されており、それによりプロセスはより長い時間にわたって運転することができる。
しかしながら、固体を含有するために概して迅速に反応管の閉塞(Zuwachsen)をまねきうる残留物は、前処理されなければならない。独国特許(DE)第10354262号明細書には、必要な反応温度を、塩化水素流を通じて導入しかつ装置ジャケットを通じて導入しないことによる、反応器壁上での固体残留物を最小限にしながらの分解が記載されている。
独国特許(DE)第19711693号明細書には付加的に、反応管中の粘着物を掻き取る回転可能な内部構造物が記載されている。
【0007】
ケイ素流動層中での独国特許(DE)第10039172号明細書による塩化水素での固体含有の高沸点メチルクロロシラン残留物の分解は、確かに良好な分解結果をもたらすが、この方法の場合に得ることができるトリクロロシラン、四塩化ケイ素及びメチルクロロシラン混合物を有する生成物混合物は、より費用のかかる分離プロセスを必要とする、それというのも、この混合物は工業的規模では、トリクロロシランプラントにもメチルクロロシランプラントにも適合しないからである。欧州特許(EP)第635510号明細書には、白金を含有する酸化アルミニウム担体、塩化アルミニウム担体又はゼオライト、あるいはアルミノケイ酸塩上での流動床中での固体含有高沸成分混合物の反応が記載されている。しかしながら貴金属含有触媒はかなり費用がかかる。塩化アルミニウム担体及びゼオライトは、製造されたシラン混合物から困難を伴ってのみ分離できる塩化アルミニウムを処理条件下で遊離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許(US)第2,709,176号明細書
【特許文献2】米国特許(US)第4,393,229号明細書
【特許文献3】独国特許(DE)第44 31 995号明細書
【特許文献4】米国特許(US)第4,079,071号明細書
【特許文献5】米国特許(US)第5,430,168号明細書
【特許文献6】独国特許第(DE)第936 444号明細書
【特許文献7】独国特許(DE)第10354262号明細書
【特許文献8】独国特許(DE)第19711693号明細書
【特許文献9】欧州特許(EP)第635510号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の課題は、従来技術の欠点を解消する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象は、二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子の流動層中で、塩化水素を用いてシラン中のMueller-Rochowによる直接合成の高沸点残留物を熱分解する方法である。
【0011】
本方法は、極めて単純に実施されることができる。Mueller-Rochowによるオルガノクロロシランの直接合成の、固体も含有する全ての液状残留物が僅かな圧力で後処理されることができ、かつ有機ケイ素成分は利用可能なモノシランへ変換されることができる。
反応器壁上の固体沈着物はかなり大幅に回避される。
【0012】
直接合成の残留物は1013hPaで、好ましくは70℃を上回る沸点、特に少なくとも100℃の沸点を有する。
【0013】
本方法の場合に、残留物の好ましくはより高沸点の成分がモノシランに分解される。より好ましくはオリゴシランが、及び特に一般式RcCl6-cSi2[ここでc=0〜6、R=アルキル]のジシランが分解される。直接合成の残留物は、金属又はそれらの化合物を、溶解されて又は微細に懸濁されて含有していてよい。特に、前記残留物は、Al、Cu、Zn、Sn、Fe、Tiの群からの金属及び/又はそれらの化合物を含有する。前記残留物は、さらに別の固体、例えばケイ素及びすすを含有していてよい。
【0014】
好ましくは、本方法において触媒及び別の供給材料は使用されない。
【0015】
好ましくは、一般式MeabSiCl4-a-bのメチルクロロシランが製造され、ここで、Meはメチル基を表し、aは1、2又は3の値を表し、かつbは0又は1の値を表す。
【0016】
二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子として、二酸化ケイ素を含有するセラミック材料又は鉱物質材料、例えば石英、セラミック又は酸洗浄砂及び焼成砂(gegluehter Sand)が使用されることができる。好ましくは、二酸化ケイ素含量は少なくとも90質量%、特に少なくとも99質量%である。二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子は、好ましくは多くとも0.1質量%、特に多くとも0.01質量%のアルミニウムを含有する。特に好ましいのは石英である。
【0017】
前記粒子は、使用される反応器タイプに好都合な粒度分布で使用される。好ましくは、前記粒子の粒度は、小さくとも50μm、特に小さくとも80μm及び好ましくは大きくとも1000μm、特に大きくとも500μmである。
【0018】
70℃を上回る沸点を有する直接合成の残留物は、塩化水素と一緒に流動層反応器中へ供給される。混合は、円錐形の流入板(Anstroemboden)が使用される場合には、反応器の前又は反応器中ではじめて行われることができる。流動床がガス整流板上にある場合には、塩化水素での流入は下から行われるのに対し、反応すべき液状残留物は前記板の上方で適した方法で、場合により部分量の塩化水素でノズル噴霧されて、導入される。
【0019】
使用されるのは、少なくとも、前記残留物中に含まれるオリゴシラン、特にジシランに相応するモル等量の塩化水素、しかしながら好ましくは流動層の維持に必要な量以下の塩化水素である。好ましくは、1.1〜10倍のモル量の塩化水素が使用される。前記残留物及び塩化水素は、好ましくは廃熱利用により、予熱されることができ、並びに外界温度で反応器中へ計量供給されることができ、その際にこれらの流れは好ましくは連続的に計量供給される。
【0020】
流動層反応器は、直接又は間接的に650℃まで加熱可能であるジャケットからなる。付加的に、前記反応器に1種又はそれ以上の温度制御フィンガー(Temperierfingern)が設けられていてよい。加熱のためには、耐高温性の熱媒体油、電気抵抗加熱、誘導加熱又はそれらの組合せが考慮に値する。
【0021】
前記反応器は、好ましくは少なくとも400℃、特に少なくとも500℃及び好ましくは高くとも650℃で、特に高くとも600℃で操作される。
圧力は、好ましくは少なくとも50hPa、特に少なくとも1000hPa及び好ましくは高くとも10000hPa、特に高くとも3000hPaである。
【0022】
流動層は、生じうる粘着物(Anbackungen)を防止し、かつこれらを細かくする。粒上の析出物は細かく砕かれ、かつガス流と共に排出される。熱処理は、肯定的な副作用として固体粒子の焼結を必然的に伴い、それにより、困難にろ過するのが難しく、場合によりコロイド分散された固体を、ろ過できる成分へ変換することができるか、もしくはサイクロンを経て粉末として外に出し、かつ公知の方法により直接合成由来のダスト残留物の処理のために加工することができる。
【0023】
排出された混合物は、好ましくは凝縮され、場合により固体が除去され、かつ直接合成の際に発生されるシラン混合物に再び供給されることができるか、又は別個に純物質にも分離されることができる。過剰の塩化水素は、公知の方法により回収されることができ、かつ前記反応に再び供給されることができる。
【0024】
次の実施例において、それぞれ他に示されない場合には、全ての量及びパーセントの記載は質量を基準としており、全ての圧力は1000hPa(絶対)であり、かつ全ての温度は20℃である。
【実施例】
【0025】
例1(独国特許(DE)第936 444号明細書に類似;本発明によらない):
管形炉中に存在する、長さ700mm及び内径25mmを有する空で水平の鋼管中へ、沸点>150℃を有するシラン合成の高沸点残留物180ml/hを、ガス状塩化水素25l/hと一緒に並流で、室温及び周囲圧力で計量供給した。管形炉は、550℃の温度に調節されていた。高沸点残留物は、ジシラン(1,1,2,2−テトラクロロジメチルジシラン、1,1,2−トリクロロトリメチルジシラン及び1,2−ジクロロテトラメチルジシランからなる混合物)80%、固体成分2%及びシロキサンとカルボシラン18%からなっていた。より正確な割り当ては、多数の副生物に基づき困難であった。操作17時間後に試験を中断した、それというのも、管形反応器は反応帯域中で固体及び分解生成物により閉塞していた(zugewachsen)からである。
【0026】
試験中に、第1表に示された組成を有する分解シランが生じた:
【表1】

【0027】
例2〜4(本発明による)
ガス整流板として組み込まれたフリットを備え、100〜315μmの粒子画分の石英粉末270gの充填されたガラス製の実験室用流動層反応器(長さ500mm、直径40mm)中へ、ガス状塩化水素25l/hを室温及び周囲圧力で導通して、流動層を発生させた。前記反応器を、電気加熱を用いて550℃に加熱した。反応すべき高沸成分混合物を、ポンプを用いて、フリットの上方で60g/hでノズル噴霧した。操作50時間後にも、反応器中に及び変色していない石英上にスケール(Belag)は見出されなかった。試験中に、第2表に示された生成物混合物の組成を有する多様な高沸成分混合物からなる以下の分解シランが生じた:
【表2】

【0028】
省略形は次の意味を有する:
HM2 ジメチルクロロシラン
Sitri トリクロロシラン
HM メチルジクロロシラン
M3 トリメチルクロロシラン
M1 メチルトリクロロシラン
M2 ジメチルジクロロシラン
EMDCS/ETS エチルメチルジクロロシラン/エチルトリクロロシラン
M6-Di ヘキサメチルジシラン
M5-Di クロロペンタメチルジシラン
M4-Di-uns ジクロロテトラメチルジシラン 非対称
M4-Di-sym ジクロロテトラメチルジシラン 対称
M3-Di トリクロロトリメチルジシラン
M2-Di テトラクロロジメチルジシラン。
【0029】
100%に足りない物質は、さらに詳しく述べていない中沸成分及びより高沸点の成分である。前記反応の廃ガス中には、未反応の塩化水素及び完全に凝縮しなかったシランに加えて、3質量%までの水素及びメタン、エタン、エテン、ブタン、ブテン等の炭化水素が含まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子の流動層中で塩化水素を用いてシラン中のミュラー・ロショー(Mueller-Rochow)による直接合成の高沸点残留物を熱分解する方法。
【請求項2】
一般式RcCl6-cSi2[ここでc=0〜6、R=アルキル]で示されるジシランを分解する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
二酸化ケイ素を含有し、アルミニウムを含まない粒子を、石英、セラミック又は酸洗浄砂及び焼成砂から選択する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記粒子の粒度が50μm〜1000μmである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
400〜650℃の温度で実施する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2012−111686(P2012−111686A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255807(P2011−255807)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】