説明

オルダムカップリング用スペーサ及びオルダムカップリング

【課題】オルダムカップリングに接続される軸間に偏角が生じたときにその偏角を許容することができるとともに、軸反力に基づく曲げモーメントの発生を抑制することができるオルダムカップリング用スペーサ及びオルダムカップリングを提供する。
【解決手段】オルダムカップリング用スペーサ14は、各対向面11に90度位相をずらせて一対の突条部12を形成した金属製の2つのハブ13間に介在され、両ハブ13の突条部12が金属製のスペーサ14の溝部15に嵌り合うように構成されている。前記スペーサ14の両端面14aには、前記溝部15とは90度位相の異なる位置に、合成樹脂により形成された一対の突起25が設けられている。該突起25は軸部と頭部25bにより断面T字状に形成され、軸部がスペーサ14の端面14aに凹設された支持穴に埋め込まれ、頭部25bがスペーサ14の端面14aから突出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のハブの突条部がハブ間に介装されるスペーサの溝部に嵌り合い、滑らせながら動力を伝達する継手としてのオルダムカップリングに用いられるスペーサ及びオルダムカップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
オルダムカップリングは、自動車、ポンプ等に設けられている回転体の回転軸相互間を連結するために用いられる。このオルダムカップリングは、突条部が形成された一対のハブと、両ハブ間に介在され、両端面に前記ハブの突条部が嵌り合う溝部が形成されたスペーサとにより構成されている。
【0003】
この種のオルダムカップリングが例えば特許文献1に開示されている。すなわち、該オルダムカップリングは、球の一部分がオルダムカップリングの継手ボス(ハブ)の嵌め合い突起部(突条部)の嵌め合い接触面より露出して自在に回動するように球を嵌め合い突起部に埋め込み、嵌め合い突起部と嵌め合う嵌め合い溝(溝部)が中間トルクディスク(スペーサ)の両面側に直角に交叉するように配置されたものである。このオルダムカップリングによれば、自在に回動する球を介した点接触の嵌め合いにより、嵌め合い摩擦を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−185205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、オルダムカップリングを高剛性にし、高トルクに耐え得るようにするためにスペーサを金属で製作する場合がある。その場合、オルダムカップリングに接続される軸間に偏角が存在するとき、ハブとスペーサの外径部分とが干渉する。このため、軸間に大きな偏角が生じることは許されず、許容される偏角が小さい。さらに、軸間に偏角が存在する状態で両軸をオルダムカップリングに接続すると、軸反力による曲げモーメントがオルダムカップリングに作用する。
【0006】
前記特許文献1に記載の従来構成においては、スペーサの溝部と対向するハブの突条部の端面及び両側面にそれぞれ複数個の球が配置されていることから、ハブの突条部がスペーサの溝部内で該突条部と直交する軸線を中心にして、或いは突条部の延びる方向の軸線を中心にして回動させることはできない。このため、軸間に偏角が存在するときにはその偏角を許容することができず、オルダムカップリングには軸反力に基づく曲げモーメントが作用する。従って、軸間に偏角が存在する場合に許容偏角が十分であるとともに、軸反力に基づく曲げモーメントが発生しないオルダムカップリングが求められる。
【0007】
本発明はそのような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであって、その目的とするところは、軸間に偏角が生じたときにその偏角を許容することができるとともに、軸反力に基づく曲げモーメントの発生を抑制することができるオルダムカップリング用スペーサ及びオルダムカップリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のオルダムカップリング用スペーサは、各対向面に90度位相をずらせて一対の突条部を形成した金属製の2つのハブ間に介在され、両ハブの突条部が金属製のスペーサの溝部に嵌り合うように構成されたオルダムカップリング用スペーサであって、前記スペーサの両端面には、前記溝部とは90度位相の異なる位置に、合成樹脂により形成された一対の突起を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明のオルダムカップリング用スペーサは、請求項1に係る発明において、前記突起は軸部と頭部により断面T字状に形成され、軸部がスペーサの端面に凹設された支持穴に埋め込まれ、頭部がスペーサの端面から突出するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明のオルダムカップリング用スペーサは、請求項2に係る発明において、前記突起の頭部は円板状に形成されていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明のオルダムカップリング用スペーサは、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記突起を形成する合成樹脂はエンジニアリングプラスチックであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明のオルダムカップリングは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のオルダムカップリング用スペーサと、その両端面の溝部に各々嵌り合う突条部を有するハブとにより構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のオルダムカップリング用スペーサは、各対向面に90度位相をずらせて一対の突条部を形成した金属製の2つのハブ間に介在され、両ハブの突条部が金属製のスペーサの溝部に嵌り合うように構成されている。そして、スペーサの両端面には、前記溝部とは90度位相の異なる位置に、合成樹脂により形成された一対の突起が設けられている。このため、スペーサの両側にハブを組付けたオルダムカップリングにおいては、スペーサ両端面に突出形成された各一対の突起を通る線を中心にして両ハブは回動することができる。従って、オルダムカップリングにより接続される軸間に偏角が存在しても、その偏角を許容することができる。
【0013】
よって、本発明のオルダムカップリング用スペーサによれば、オルダムカップリングに接続される軸間に偏角が生じたときにその偏角を許容することができるとともに、軸反力に基づく曲げモーメントの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるオルダムカップリングを示す分解斜視図。
【図2】(a)はオルダムカップリング用スペーサを示す正面図、(b)は(a)の状態から90度回した状態のオルダムカップリング用スペーサを示す正面図。
【図3】オルダムカップリング用スペーサの支持穴に突起を嵌め込む前の状態を示す要部断面図。
【図4】オルダムカップリングについて作用を示す断面図。
【図5】図4の状態からオルダムカップリングを90度回した状態のオルダムカップリングについて作用を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図5に基づいて詳細に説明する。
図1及び図4に示すように、オルダムカップリング10は、各対向面11に90度位相をずらせて各一対の突条部12を形成した金属製の2つのハブ13間に金属製のオルダムカップリング用スペーサ(以下、単にスペーサと称する)14が介在され、両ハブ13の突条部12がスペーサ14の溝部15に嵌り合うように構成されている。各ハブ13はCリング状に形成されてその中心部に挿通孔16が形成されるとともに、スペーサ14は円筒状に形成されてその中心部に貫通孔17が形成されている。両ハブ13の挿通孔16には軸(回転軸)18が嵌入されて接続されるようになっている。ハブ13及びスペーサ14を形成する金属としては、鋳鉄、鋼材(ステンレス鋼)、銅合金等が用いられる。
【0016】
各ハブ13のCリングの端部間にはわずかの隙間19が形成されるとともに、各ハブ13の内周面には前記隙間19の延長方向に切込み20が形成されている。また、各ハブ13の外周面には締付操作用孔21が開口され、該締付操作用孔21内にはねじ孔22が螺刻されている。このねじ孔22に六角穴付きボルト23が螺合されて締付けられるようになっている。
【0017】
そして、オルダムカップリング10の両側方から2つの軸18がハブ13の挿通孔16にそれぞれ嵌め込まれ、両ハブ13の六角穴付きボルト23が図示しない六角棒スパナで締付けられることにより、両軸18がオルダムカップリング10で連結されるようになっている。
【0018】
図1〜図3に示すように、前記スペーサ14の両端面14aには、前記溝部15とは90度位相の異なる位置に円孔状をなす一対の支持穴24が穿設されている。この支持穴24には軸部25aと頭部25bにより断面T字状をなす合成樹脂製の突起25の軸部25aが埋め込まれ、円板状に形成された頭部25bがスペーサ14の両端面14aから突出するように構成されている。突起25を形成する合成樹脂としては、機械的強度や耐熱性の高いポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが好適に使用される。
【0019】
図4及び図5の一点鎖線に示すように、スペーサ14の両端面14aに突出形成された突起25の頭部25bにより、各一対の突起25を結ぶ線を中心にして両ハブ13が若干回動できるようになっている。このような両ハブ13の回動により、オルダムカップリング10に連結された両軸18に若干の偏りがあってもその偏角が許容されるように構成されている。
【0020】
次に、上記のように構成されたオルダムカップリング用スペーサ14を用いたオルダムカップリング10の作用について説明する。
さて、スペーサ14の両側にハブ13を、スペーサ14の溝部15にハブ13の突条部12が嵌り込むように配置することによってオルダムカップリング10が形成される。このとき、図4及び図5に示すように、スペーサ14の両端面14aには各一対の突起25が突出形成されていることから、スペーサ14と両ハブ13とが密着することなく、スペーサ14と各ハブ13との間には突起25の頭部25bの高さに相当する幅の回動用スペース26が形成される。
【0021】
オルダムカップリング10の各ハブ13に軸18を接続する場合には、各軸18をハブ13の挿通孔16に嵌め込んだ後、各ハブ13の六角穴付きボルト23を六角棒スパナで締付けることにより、両軸18がオルダムカップリング10の両側に接続される。両軸18の接続後には、両軸18間に偏角が生ずる場合がある。この場合、本実施形態のオルダムカップリング10においては、スペーサ14の両端面14aに突出形成された突起25により回動用スペース26が形成され、図4の一点鎖線に示すように、スペーサ14の一端面14aに形成された一対の突起25を結ぶ線を中心にして一方のハブ13が若干回動することができる。また、図5の一点鎖線に示すように、スペーサ14の他端面14aに形成された一対の突起25を結ぶ線を中心にして他方のハブ13が若干回動することができる。これら両ハブ13の回動方向は90度相違している。
【0022】
従って、オルダムカップリング10に接続される両軸18に若干の偏りが生じても、オルダムカップリング10に両軸18の偏角に基づく力が作用することが回避される。
以上詳述した実施形態により発揮される効果について以下にまとめて説明する。
(1)実施形態のオルダムカップリング用スペーサ14は、各対向面11に90度位相をずらせて一対の突条部12を形成した2つのハブ13間に介在され、両ハブ13の突条部12がスペーサ14の溝部15に嵌り合うように構成されている。そして、スペーサ14の両端面14aには、溝部15とは90度位相の異なる位置に一対の合成樹脂製の突起25が設けられている。このため、スペーサ14の両側にハブ13を組付けたオルダムカップリング10においては、スペーサ14の両端面14aに突出形成された各一対の突起25を通る線を中心にして両ハブ13は90度異なる方向に回動することができる。従って、オルダムカップリング10により連結される軸18間に偏角が存在しても、その偏角を許容することができる。
【0023】
よって、本実施形態のオルダムカップリング用スペーサ14によれば、その両側にハブ13が組付けられたオルダムカップリング10の軸18間に偏角が生じたときにその偏角を許容することができるとともに、軸反力に基づく曲げモーメントの発生を抑制することができるという効果を発揮することができる。
(2)前記突起25は軸部25aと頭部25bにより断面T字状に形成され、軸部25aがスペーサ14の端面14aに凹設された支持穴24に埋め込まれ、頭部25bがスペーサ14の端面14aから突出するように構成されている。このため、突起25を合成樹脂により容易に成形することができるとともに、突起25の軸部25aをスペーサ14の支持穴24に埋め込むだけで、所望厚さの突起25を容易に形成することができる。
(3)前記突起25の頭部25bは円板状に形成されている。そのため、突起25の厚さを容易に一定値に設定することができる。
(4)前記突起25を形成する合成樹脂はエンジニアリングプラスチックである。従って、突起25は優れた耐摩耗性や滑り性を発揮することができ、スペーサ14とハブ13との間の金属同士の摺動による焼付きを防止することができる。
(5)オルダムカップリング10は、前記スペーサ14と、その両端面14aの溝部15に各々嵌り合う突条部12を有するハブ13とにより構成されている。このため、オルダムカップリング10は、スペーサ14の突起25に基づく前記効果を発揮することができる。
【0024】
なお、前記各実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 前記突起25の頭部25bを、楕円板状、多角板状等の形状に形成することもできる。或いは、該頭部25bを断面円弧状に形成することも可能である。
【0025】
・ 前記突起25を、一対の突起25を結ぶ線上に複数個並べて設けることも可能である。
・ 前記突起25を形成する合成樹脂として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルホン(PES)等のスーパーエンジニアリングプラスチックを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
10…オルダムカップリング、11…対向面、12…突条部、13…ハブ、14…オルダムカップリング用スペーサ、14a…端面、15…溝部、24…支持穴、25…突起、25a…軸部、25b…頭部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各対向面に90度位相をずらせて一対の突条部を形成した金属製の2つのハブ間に介在され、両ハブの突条部が金属製のスペーサの溝部に嵌り合うように構成されたオルダムカップリング用スペーサであって、
前記スペーサの両端面には、前記溝部とは90度位相の異なる位置に、合成樹脂により形成された一対の突起を設けたことを特徴とするオルダムカップリング用スペーサ。
【請求項2】
前記突起は軸部と頭部により断面T字状に形成され、軸部がスペーサの端面に凹設された支持穴に埋め込まれ、頭部がスペーサの端面から突出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のオルダムカップリング用スペーサ。
【請求項3】
前記突起の頭部は円板状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のオルダムカップリング用スペーサ。
【請求項4】
前記突起を形成する合成樹脂はエンジニアリングプラスチックであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオルダムカップリング用スペーサ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のオルダムカップリング用スペーサと、その両端面の溝部に各々嵌り合う突条部を有するハブとにより構成されていることを特徴とするオルダムカップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50197(P2013−50197A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189759(P2011−189759)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(592153953)鍋屋バイテック株式会社 (13)