説明

オルダムカップリング用ハブ及びオルダムカップリング

【課題】摺動による焼付きを抑制することができるとともに、長期間に亘って潤滑剤の塗布を不要にすることができるオルダムカップリング用ハブ及びオルダムカップリングを提供する。
【解決手段】両面に90度位相をずらせて一対の溝部15を形成した金属製のスペーサ14の両側には金属製のハブ本体13aが配置され、前記スペーサ14の溝部15にハブ本体13aの突条部12が嵌り合うように構成されている。前記ハブ本体13aの突条部12には、潤滑剤としてのグリースを封入するグリース孔24が貫通形成されている。このグリース孔24は、スペーサ14の溝部15を形成する内側面15aに対向するようにハブ本体13aの突条部12の両側面12aに設けられている。また、グリース孔24は、ハブ本体13aの突条部12の内周側に位置するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面に溝部が設けられたスペーサの両側に配置されるハブ本体の突条部がスペーサの溝部に嵌り合い、滑らせながら動力を伝達する継手としてのオルダムカップリングに用いられるオルダムカップリング用ハブ及びオルダムカップリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オルダムカップリングは、自動車、ポンプ等に設けられている回転体の回転軸相互間を連結するために用いられる。このオルダムカップリングは、突条部が形成された一対のハブと、両ハブ間に介在され、両端面に前記ハブの突条部が嵌り合う溝部が形成されたスペーサとにより構成されている。一般にスペーサは耐摩耗性に優れたポリアセタール樹脂等により形成されるが、高トルク、高剛性の要請に対応するために金属で形成される場合がある。その場合には、ハブとスペーサはともに金属であることから、オルダムカップリングの高速回転時にはそれら金属間の摺動熱によってハブとスペーサの摺動面が高温に達し、焼付きが発生する。そのような焼付きを防止するために、ハブとスペーサとの間にグリースが塗布される。
【0003】
摺動部に潤滑油を供給する供給構造を備えたベーン式バキュームポンプが特許文献1に開示されている。すなわち、この潤滑油の供給構造では、給油ジョイントの外周にスナップリングが装着され、このスナップリングがカップリング部材及びシャフトに係合されることにより、これら給油ジョイント、カップリング部材及びシャフトが一体に連結されている。そして、給油ジョイントの内部には給油穴が貫通形成され、該給油穴に達したオイルがシャフトの絞り穴を通ってオイルポケットに流れ、連通溝を介してベーン式ポンプに導かれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−92504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の従来構成においては、給油ジョイントの給油穴に達したオイルはシャフトとハウジングとの間のオイルポケットに流れ込み、ハウジング内周面に対するシャフトの摺動を円滑にし、さらにはオイルがポンプ室内に流れ、スリット溝に対するベーンの摺動を円滑にするなどの潤滑を行うことができる。しかしながら、この潤滑油供給構造では、カップリング部材とカム軸との間に潤滑油が供給されないことから、シャフトの高速回転時にカップリング部材とカム軸との間で発生する摩擦熱によりカップリング部材やカム軸が損傷を受けるおそれがあった。
【0006】
また、そのような摺動箇所にグリースを塗布した場合には、シャフトの高速回転時に遠心力と摺動によってグリースが飛散しやすいことから、カップリング部材やカム軸に焼付きが発生するおそれがある。このため、摺動箇所に対して短期間に繰り返してグリースを塗布しなければならず、非常に煩雑であるとともに、ポンプの運転効率が悪いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、摺動による焼付きを抑制することができるとともに、長期間に亘って潤滑剤の塗布を不要にすることができるオルダムカップリング用ハブ及びオルダムカップリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のオルダムカップリング用ハブは、両面に90度位相をずらせて一対の溝部を形成した金属製のスペーサの両側に配置され、該スペーサの溝部には金属製のハブ本体の突条部が嵌り合うように構成されるとともに、前記ハブ本体の突条部には潤滑剤を封入する封入部を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明のオルダムカップリング用ハブは、請求項1に係る発明において、前記封入部は孔又は溝であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明のオルダムカップリング用ハブは、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記封入部は、スペーサの溝部を形成する内側面に対向するようにハブの突条部の両側面に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明のオルダムカップリング用ハブは、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記封入部は、ハブの突条部の内周側に位置するように設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明のオルダムカップリングは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の一対のオルダムカップリング用ハブと、それらのオルダムカップリング用ハブの突条部が各々嵌り合う溝部を有するスペーサとにより構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のオルダムカップリング用ハブは、両面に90度位相をずらせて一対の溝部を形成した金属製のスペーサの両側に配置され、該スペーサの溝部には金属製のハブ本体の突条部が嵌り合うように構成されている。そして、ハブ本体の突条部には、潤滑剤を封入する封入部が設けられている。このため、オルダムカップリングの回転時には、回転による遠心力及びハブ本体とスペーサとの間の摺動により、潤滑剤が封入部から徐々に染み出して摺動面に供給される。従って、ハブ本体とスペーサとの間の摺動面には潤滑剤が常に介在され、良好な摺動が得られる。
【0013】
よって、本発明のオルダムカップリング用ハブによれば、摺動による焼付きを抑制することができるとともに、長期間に亘って潤滑剤の塗布を不要にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるオルダムカップリングを示す分解斜視図。
【図2】(a)は一方のオルダムカップリング用ハブを示す正面図、(b)は(a)とは90度異なる位置から見た他方のオルダムカップリング用ハブを示す正面図。
【図3】オルダムカップリング用ハブを示す側面図。
【図4】オルダムカップリングについて作用を示す断面図。
【図5】図4の状態からオルダムカップリングを90度回した状態のオルダムカップリングについて作用を示す断面図。
【図6】オルダムカップリング用ハブの別例を示す側面図。
【図7】別例として、(a)は一方のオルダムカップリング用ハブを示す正面図、(b)は(a)とは90度異なる位置から見た他方のオルダムカップリング用ハブを示す正面図、(c)はオルダムカップリング用ハブを示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図5に基づいて詳細に説明する。
図1及び図4に示すように、オルダムカップリング10は、各対向面11に90度位相をずらせて各一対の突条部12を形成した金属製の2つのハブ本体13a間に金属製のスペーサ14が介在され、両ハブ本体13aの突条部12がスペーサ14の溝部15に嵌り合うように構成されている。各ハブ本体13aはCリング状に形成されてその中心部に挿通孔16が形成されるとともに、スペーサ14は円筒状に形成されてその中心部に貫通孔17が形成されている。両ハブ本体13aの挿通孔16には軸(回転軸)18a、18bが嵌入されて接続されるようになっている。ハブ本体13a及びスペーサ14を形成する金属としては、鋳鉄、鋼材(ステンレス鋼)、銅合金等が用いられる。
【0016】
各ハブ本体13aのCリングの端部間にはわずかの隙間19が形成されるとともに、各ハブ本体13aの内周面には前記隙間19の延長方向に切込み20が形成されている。また、各ハブ本体13aの外周面には締付操作用孔21が開口され、該締付操作用孔21内にはねじ孔22が螺刻されている。このねじ孔22に六角穴付きボルト23が螺合されて締付けられるようになっている。
【0017】
そして、オルダムカップリング10の両側方から2つの軸18a、18bがハブ本体13aの挿通孔16にそれぞれ嵌め込まれ、両ハブ本体13aの六角穴付きボルト23が図示しない六角棒スパナで締付けられることにより、両軸18a、18bがオルダムカップリング10で連結されるようになっている。
【0018】
両軸18a、18bが各ハブ本体13aに連結された状態で、両軸18a、18bの軸心には若干の位置ずれが存在し、そのような位置ずれを許容した状態でオルダムカップリング10により両軸18a、18b間に回転力が伝達される。この場合、両軸18a、18b間の位置ずれの大きさに応じ、両ハブ本体13a間に介在されるスペーサ14が両ハブ本体13aに対して所定の運動を行って摺動するようになっている。すなわち、主たる摺動面としてのハブ本体13aの突条部12の両側面12aと、スペーサ14の溝部15を形成する内側面15aとが摺動するように構成されている。
【0019】
図1〜図3に示すように、前記各ハブ本体13aの突条部12には潤滑剤としてのグリースが封入される封入部としてのグリース孔24が円孔状に貫通形成されている。潤滑剤としては、グリースのほか、鉱物油、合成油等の粘稠な潤滑油が用いられる。グリースとしては、カルシウム石鹸グリース、ナトリウム石鹸グリース、リチウム石鹸グリース等が用いられる。このグリース孔24は、スペーサ14の溝部15を形成する内側面15aに対向するようにハブ本体13aの突条部12の両側面12aに設けられている。
【0020】
また、グリース孔24は、ハブ本体13aの突条部12の両側面12aにおける中央位置より内周側に位置するように設けられ、グリース孔24内に封入されたグリースが回転するハブ本体13aの遠心力により突条部12の両側面12aの外周側へ染み出すように構成されている。ハブ本体13aの両突条部12にそれぞれグリース孔24が設けられてオルダムカップリング用ハブ(単にハブとも称する)13が構成されている。
【0021】
次に、上記のように構成されたオルダムカップリング用ハブ13を用いたオルダムカップリング10の作用について説明する。
さて、スペーサ14の両側にオルダムカップリング用ハブ13を、スペーサ14の溝部15に対しハブ13の突条部12が嵌り込むように配置することによってオルダムカップリング10が形成される。このとき、図4及び図5に示すように、両ハブ13の対向面11とスペーサ14の両端面14aとは密接した状態にある。その状態で、オルダムカップリング10の各ハブ13に軸18a、18bを接続する場合には、各軸18a、18bをハブ13の挿通孔16に嵌め込んだ後、各ハブ13の六角穴付きボルト23を六角棒スパナで締付けることにより、両軸18a、18bがオルダムカップリング10の両側に接続される。
【0022】
そして、両軸18a、18bの軸心の延びる方向(平行方向)に位置ずれがある場合、その状態を保持したまま両軸18a、18bを回転させるために、両ハブ13間に存在するスペーサ14が両ハブ13に対して摺動する。つまり、ハブ13の突条部12に対してスペーサ14の溝部15が嵌合した状態で、スペーサ14が該溝部15の方向に移動する。次いで、両軸18a、18bの回転が高速になるに伴って両ハブ13とスペーサ14との間に摩擦抵抗に基づく発熱が生じ、摺動面の温度が上昇する。
【0023】
このとき、本実施形態におけるオルダムカップリング用ハブ13の突条部12には、グリースが封入されたグリース孔24が貫通形成されている。このため、オルダムカップリング10の回転時には、該オルダムカップリング10の回転による遠心力及び両ハブ13の突条部12の両側面12aとスペーサ14の溝部15の両内側面15aとの間の摺動に基づいて、グリース孔24に溜まったグリースがグリース孔24の開口部から徐々に染み出して摺動面に供給される。従って、ハブ13の突条部12とスペーサ14の溝部15との間には潤滑剤が常に補給されて摩擦抵抗が低減され、発熱が抑えられる。
【0024】
以上詳述した実施形態により発揮される効果について以下にまとめて説明する。
(1)本実施形態におけるハブ本体13aの突条部12には、グリースを封入したグリース孔24が設けられている。このため、オルダムカップリング10の回転時には、その回転による遠心力及びハブ13とスペーサ14との間の摺動により、グリースがグリース孔24から徐々に染み出して摺動面に連続的に供給される。従って、ハブ13とスペーサ14との間の摺動面には潤滑剤が補給され、良好な摺動が維持される。
【0025】
よって、本実施形態のオルダムカップリング用ハブ13によれば、摺動による焼付きを抑制することができるとともに、長期間に亘って潤滑剤の塗布を不要にすることができるという効果を発揮することができる。
(2)前記封入部はハブ13の突条部12に貫通形成されたグリース孔24である。このため、グリース孔24に封入されたグリースがグリース孔24の両開口部から摺動面に容易かつ速やかに染み出すようにすることができる。
(3)前記グリース孔24は、スペーサ14の溝部15の内側面15aに対向するハブ13の突条部12の両側面12aに設けられている。従って、ハブ13の突条部12の両側面12aとスペーサ14の溝部15の内側面15aとの間の摺動面に対してグリース孔24からグリースを直接的に供給することができる。
(4)前記グリース孔24は、ハブ13の突条部12の内周側に位置するように設けられている。そのため、オルダムカップリング10の回転時における遠心力を利用して、グリース孔24から染み出すグリースを外周側へ移動させてハブ13とスペーサ14との摺動面にグリースを有効に供給することができる。
(5)オルダムカップリング10は、前記一対のハブ13と、それらのハブ13の突条部12が各々嵌り合う溝部15を有するスペーサ14とにより構成されている。このため、オルダムカップリング10は、ハブ13の突条部12に設けられたグリース孔24に基づく前述の効果を発揮することができる。
【0026】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 図6に示すように、グリースの封入部を、前記実施形態のハブ13の突条部12を貫通するグリース孔24ではなく、ハブ13の突条部12の両側面12aに穿設したグリース孔24aで構成することも可能である。この場合、各グリース孔24aに封入された所定量のグリースが各グリース孔24aの開口部から突条部12の各側面12aに染み出すようにすることができる。
【0027】
・ 図7(a)〜(c)に示すように、グリースの封入部を、ハブ13の各突条部12の両側面12aに凹設した溝(スリット)25で構成することも可能である。この溝25は、各突条部12の両側面12aの外端側から両側面12aの中間部まで延びるように刻設されている。この場合には、前記実施形態のグリース孔24に比べて開口面積を広くすることができ、十分な量のグリースを染み出させることができる。
【0028】
・ グリースの封入部を、ハブ13の突条部12の頂面12bに設けることも可能である。この場合、封入部から染み出されるグリースは、スペーサ14の溝部15を形成する内底面15bに向けて供給される。
【0029】
・ グリースの封入部を、ハブ13の突条部12の両側面12aに複数個設けることもできる。
・ 前記グリース孔24を、内部ほど孔径を大きくしてグリースの封入量を増大させるように構成することもできる。
【符号の説明】
【0030】
10…オルダムカップリング、12…突条部、12a…側面、13…オルダムカップリング用ハブ、13a…ハブ本体、14…スペーサ、15…溝部、15a…内側面、24…封入部としてのグリース孔、24a…封入部としてのグリース孔、25…封入部としての溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に90度位相をずらせて一対の溝部を形成した金属製のスペーサの両側に配置され、該スペーサの溝部には金属製のハブ本体の突条部が嵌り合うように構成されるとともに、前記ハブ本体の突条部には潤滑剤を封入する封入部を設けたことを特徴とするオルダムカップリング用ハブ。
【請求項2】
前記封入部は孔又は溝であることを特徴とする請求項1に記載のオルダムカップリング用ハブ。
【請求項3】
前記封入部は、スペーサの溝部を形成する内側面に対向するようにハブの突条部の両側面に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオルダムカップリング用ハブ。
【請求項4】
前記封入部は、ハブの突条部の内周側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオルダムカップリング用ハブ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の一対のオルダムカップリング用ハブと、それらのオルダムカップリング用ハブの突条部が各々嵌り合う溝部を有するスペーサとにより構成されていることを特徴とするオルダムカップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−57372(P2013−57372A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196329(P2011−196329)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(592153953)鍋屋バイテック株式会社 (13)