説明

オレフィンの水和方法

【課題】炭素数2〜5のオレフィンの水和反応によりアルコールを効率的に製造するためのオレフィン水和方法を提供することにある。
【解決手段】炭素数2〜5のオレフィンの水和反応を、有機物の炭化およびスルホン化により得られるカーボン系固体酸触媒の存在下、100℃〜250℃で行うオレフィン水和方法。前記方法において、有機物が、芳香族炭化水素類または糖類であるオレフィン水和方法。前記方法において、オレフィンがプロピレンまたはブテン類であるオレフィン水和方法。前記方法において、水和反応の反応温度が120℃以上であるオレフィン水和方法。前記方法において、水和反応の反応温度が150℃以上であるオレフィン水和方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの水和反応をカーボン系固体酸触媒の存在下で行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンの水和反応は、アルコール類の製造等のために重要な反応であり、工業的に利用されている。イソプロピルアルコールや2−ブタノールは、プロピレンまたはn−ブテンの水和を利用した各種方法によって製造される(非特許文献1、非特許文献2)。現在、世界のプラントで主に採用されている方法として、プロピレンまたはn−ブテンと硫酸を反応させて硫酸エステルにしたのち加水分解する方法(間接水和法)があるが、副生物が多く、しかも大量の硫酸を必要とし、硫酸による装置の腐食、硫酸の再利用処理および廃液処理などの問題がある。直接水和法として種々の触媒を用いる方法もある。例えば、イオン交換樹脂を触媒とする方法やりん酸等の鉱酸を担体に担持した固体酸を触媒とする方法があるが、イオン交換基(スルホン酸基)が加水分解により脱離したり、担持した酸が反応中に担体から脱離することにより、活性の低下や装置の腐食が起こるおそれがあり、そのような場合の対策を施す必要がある。また、イオン交換樹脂触媒の場合、触媒が高価であることや、樹脂の耐熱性の点から反応温度に制限がある等の問題もある。モリブデン系やタングステン系などのポリアニオン均一溶液(ヘテロポリ酸水溶液)を触媒とする方法もあるが、反応条件を高温高圧にする必要がある。いずれにせよ、どの方法においても酸触媒が必要であり、それぞれ触媒に起因する問題を抱えている。
【0003】
一方、酸触媒は工業プロセスにおいて種々の反応に用いられているが、性能、省エネルギーおよびコストなどの点でより優れた触媒が要求されている。特に、固体酸触媒は、簡便なプロセスが可能になる等の理由から期待されており、様々な触媒が開発されてきている。そうした中、有機物の炭化およびスルホン化により得られるカーボン系固体酸が開発されて最近注目を集めており、その応用も試みられている(非特許文献3、特許文献1)。オレフィンの水和反応に関しては、2,3−ジメチル−2−ブテンを低温(70℃)で反応させている例はあるが、反応性の異なるそれより低級のオレフィンの水和反応については全く知られていない(非特許文献4)。
【非特許文献1】触媒, Vol.18, No.6 p.180-184, 1976
【非特許文献2】石油学会誌, Vol.34, No.3, p.201-209, 1991
【非特許文献3】高垣敦、野村淳子、原亨和、林繁信、堂免一成「カーボン系固体強酸の合成条件と触媒作用」,日本化学会第85回春季年会(2005),2B5-43
【非特許文献4】Angew.Chem.Int.Ed., 43, 2955-2958 (2004)
【特許文献1】特開2004-238311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オレフィンの水和反応によりアルコールを効率的に製造するための、新規な触媒作用を利用したオレフィン水和方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、炭素数2〜5のオレフィンを水和してアルコールを得る水和反応を、有機物の炭化およびスルホン化により得られるカーボン系固体酸触媒の存在下、100℃〜250℃で行うことを特徴とするオレフィンの水和方法である。
本発明の第2は、本発明の第1において、有機物が、芳香族炭化水素類または糖類であることを特徴とするオレフィンの水和方法である。
本発明の第3は、本発明の第1または第2において、オレフィンがプロピレンまたはブテン類であることを特徴とするオレフィンの水和方法である。
本発明の第4は、本発明の第1ないし第3において、水和反応の反応温度が120℃以上であることを特徴とするオレフィンの水和方法である。
本発明の第5は、本発明の第1ないし第3において、水和反応の反応温度が150℃以上であることを特徴とするオレフィンの水和方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法は、オレフィンの水和反応の活性が高く、反応後の中和精製工程が不要で、触媒の分離が容易で再利用が可能であり、装置の腐食の問題もなく、低コストかつ効率的にアルコールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に用いられるカーボン系固体酸触媒は、有機物を炭化およびスルホン化することにより得られ、前記の非特許文献3および特許文献1に開示されているものを使用することができる。
前記固体酸触媒の原料となる有機物としては、炭化およびスルホン化できるものであれば特に限定されないが、芳香族炭化水素類や糖類が好ましい。芳香族炭化水素類としては、ナフタレン、アントラセン、ぺリレン、コロネン等の多環式芳香族炭化水素類が好ましく、特に芳香族環が5以上縮合しているものが好ましい。また、それらの芳香族炭化水素類を含むもの、例えばピッチやタール等でもよい。糖類としては、グルコース等の単糖類、マルトースやセルロース等の多糖類を例示することができる。それらの有機物は、混合して用いることもできる。
【0008】
前記有機物の炭化は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理することにより行われ、それによりアモルファス状の黒色固体(炭化物)が得られる。スルホン化は、濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理することにより行われ、それにより前記炭化物の骨格にスルホン基が付加される。炭化した後にスルホン化してもよいし、炭化とスルホン化を同時に行ってもよく、炭化およびスルホン化の処理温度は、用いる有機物の種類によって適宜選択される。スルホン化した炭化物を熱水で洗浄することにより余剰の硫酸を除去し、さらに乾燥することによって、本発明に用いるカーボン系固体酸触媒を得ることができる。
【0009】
有機物として多環式芳香族炭化水素類を用いる場合は、濃硫酸または発煙硫酸中、100〜450℃、好ましくは200〜350℃で加熱処理することにより、炭化およびスルホン化を同時に行うことが好ましい。
有機物として糖類を用いる場合は、250〜500℃で焼成して炭化した後、濃硫酸または発煙硫酸中、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で加熱処理することによりスルホン化を行うことが好ましい。
以上のようにして得られるカーボン系固体酸触媒は、安価な原料を用いて簡便に調製することができるため、低コストで製造可能である。また、固体触媒中にスルホン酸基が固定化されているため、水和反応に用いた場合に、液体硫酸のような装置の腐食の問題もない。
【0010】
本発明に用いられる炭素数2〜5のオレフィンは、特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、プロピレンや1−ブテン、2−ブテン、イソブテン等のブテン類が好ましい。また、水和に用いる水は、特に制限はないが、イオン交換水、蒸留水(蒸気凝縮水を含む)を用いることが好ましい。オレフィンに対する水のモル比は、特に制限はないが、通常は0.1〜10、好ましくは0.3〜7、さらに好ましくは1〜5である。水の量が少なすぎると、オレフィンの二量化などの副反応が起こり、多すぎると生産性が悪くなるので好ましくない。
【0011】
オレフィン水和反応における反応温度は、100℃〜250℃であることが必要であり、高い活性を得るために120℃以上が好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また、高温になると触媒が分解するおそれがあるため250℃以下にする。反応圧力は、反応を進行させるため1MPa以上、好ましくは3MPa、さらに好ましくは5MPa以上である。また、高圧になると設備コストが増大するため20MPa以下が好ましい。反応形式によって適宜選択することができる。反応形式は、気相、液相、気液混相のいずれも採用することができる。
【0012】
水和反応を行う際、溶媒を使用することもできる。溶媒としては、反応液が水相と油相に分離しないようにするために両親媒性のものが好ましく、例えばエーテル類、グリコールエーテル類、アルコール類、ケトン類などを使用することができる。
【0013】
本発明の方法は、直接水和法(1段反応)であるため、硫酸触媒を用いた間接水和法(硫酸エステル化および加水分解の2段反応)よりも工程が簡略である。また、間接水和法では硫酸除去のための中和精製工程と硫酸再利用のための濃縮工程等が必要であり工程が複雑であるが、本発明の方法では、触媒が固体であるため、濾過や遠心分離等により触媒を容易に分離して再使用することが可能であり、また、触媒除去後の反応液には酸触媒成分が含まれないため、間接水和法のような中和精製工程が不要である。触媒除去後は、蒸留等により適宜精製することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0015】
触媒製造例1
グルコース20gを窒素雰囲気下で400℃,15hr加熱処理して炭化物を得た。この炭化物に発煙硫酸(SO3:25%)100mLを加え、窒素雰囲気下で150℃,15hr加熱処理してスルホン化を行った。余剰の硫酸を除去するため250℃,5hr減圧蒸留を行い固形物を得た。さらに、この固形物を熱水により洗浄を繰り返し行い、5回行ったところで洗浄液中に硫酸が検出されなくなった。最後に乾燥を行い、黒色粉末(アモルファス状)のカーボン系固体酸触媒Aを得た。逆滴定により触媒の酸量を調べた結果、3.1mmol/gであった。
【0016】
触媒製造例2
発煙硫酸の代わりに濃硫酸(96%)を用いた以外は触媒製造例1と同様に行い、黒色粉末(アモルファス状)のカーボン系固体酸触媒Bを得た。逆滴定により触媒の酸量を調べた結果、3.3mmol/gであった。
【0017】
触媒製造例3
ナフタレン10gを100mLの濃硫酸(96%)に加えて窒素雰囲気下で250℃,15hr加熱処理した。その後、余剰の濃硫酸を除去するため250℃,5hr減圧蒸留を行い炭化した固形物を得た。さらに、この固形物を熱水により洗浄を繰り返し行い、5回行ったところで洗浄液中に硫酸が検出されなくなった。最後に乾燥を行い、黒色粉末(アモルファス状)のカーボン系固体酸触媒Cを得た。逆滴定により触媒の酸量を調べた結果、2.7mmol/gであった。
【0018】
水和反応実施例1〜7および比較例1〜2
50ccの攪拌機付きオートクレーブに、水9gとジオキサン(溶媒)15gを仕込み、上記触媒製造例1〜3で得られたカーボン系固体酸触媒A、B、Cのいずれかを所定量加えて密閉し、プロピレンまたは1−ブテンを所定量封入した。次に、700 rpmで攪拌しながら所定温度まで昇温し、必要に応じて窒素により圧力調整を行った後、所定温度に維持して2時間水和反応を行った。反応終了後は、反応液を冷却してからTCD-GCにより定量分析を行った。反応条件および反応結果(実施例1〜7、比較例1〜2)を表1に示す。
【0019】
比較例3〜4
上記触媒製造例2で得られたカーボン系固体酸触媒Bを用い、1−ヘキセンを反応原料とした以外は実施例と同様にして水和反応を行った。反応条件および反応結果は表1に示す。
【0020】
比較例5〜6
カーボン系固体酸触媒の代わりに、陽イオン交換樹脂であるアンバーリスト(酸量4.2mmol/g)(比較例5)または硫酸(酸量20.4mmol/g)(比較例6)を用いた他は、実施例と同様にして水和反応を行った。なお、硫酸を用いた比較例6は、間接水和法ではなく直接水和法による実験例を示した。反応条件および反応結果は表1に示す。
【0021】
カーボン系固体酸触媒は、実施例1、4、6および比較例6に示すように、酸量が多い硫酸触媒と比較して同等以上の活性を有することがわかる。また、実施例2、5、7、比較例5に示すように、アンバーリストの耐熱上限温度(120℃)よりも高温(180℃)にすることにより、酸量が多いアンバーリストと比較して高い活性を示すことがわかる。さらに、比較例1、2に示すように、温度が低いと反応が進まず、比較例3、4に示すように、1−ヘキセンでは反応が進まないことがわかる。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜5のオレフィンを水和してアルコールを得る水和反応を、有機物の炭化およびスルホン化により得られるカーボン系固体酸触媒の存在下、100℃〜250℃で行うことを特徴とするオレフィンの水和方法。
【請求項2】
有機物が、芳香族炭化水素類または糖類であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オレフィンがプロピレンまたはブテン類であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水和反応の反応温度が120℃〜250℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水和反応の反応温度が150℃〜250℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2007−153762(P2007−153762A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348038(P2005−348038)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】