説明

オレフィンの水添方法

【課題】固体水添触媒の充填層にオレフィンを含有する液と水素を含むガスを通過させるオレフィンの水添方法であって、反応器の差圧を低減できるという優れた効果を有するオレフィンの水添方法を提供する。
【解決手段】固体水添触媒の充填層にオレフィンを含む液と水素を含むガスとの液ガス混合物を通過させるオレフィンの水添方法において、該触媒充填層中に含有する直径1mm以下の触媒微紛の割合を5重量%以下であって、かつ、通過させる液ガス混合物の流速がガス空塔速度3cm/sec以上であるオレフィンの水添方法。固体水添触媒としては、成分としてCuO、Cr23、ZnO、FeO3、Al23、La23、Sm23、CeO2、ZrO2、TiO2、SiO2、MnO2、Co23、NiO、BaO、CaO、MgOを少なくとも1種類含有する金属酸化物や、Pd、Rh、Pt、Ruを含む貴金属触媒があげられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの水添方法に関するものである。更に詳しくは、固体水添触媒の充填層にオレフィンを含む液と水素を含むガスとの液ガス混合物を通過させるオレフィンの水添方法において、高流速で液ガス混合物を通過させ、かつ、充填層の差圧を低減できるという優れた効果を有するオレフィンの水添方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体水添触媒の充填層にオレフィンを含有する液と水素を含むガスを通過させるオレフィンの水添方法としては、例えば、α―メチルスチレンと水素をアップフローまたはダウンフローで触媒層に供給し、水添する技術が開示されている(特許文献1参照)。しかし、このような固体の水添触媒の充填層に液とガスの混合物を供給するに際し、充填層の差圧は工業的に安定運転を行うという観点で重要な因子であるにも拘わらず、ほとんど有用な記載がなく一層の改良が求められていた。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3127452号明細書(第1欄〜第4欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、固体水添触媒の充填層にオレフィンを含む液と水素を含むガスとの液ガス混合物を通過させるオレフィンの水添方法において、高流速で液ガス混合物を通過させ、かつ、充填層の差圧を低減できるという優れた効果を有するオレフィンの水添方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、固体水添触媒の充填層にオレフィンを含む液と水素を含むガスとの液ガス混合物を通過させるオレフィンの水添方法において、該触媒充填層中に含有する直径1mm以下の触媒微紛の割合を5重量%以下であって、かつ、通過させる液ガス混合物の流速がガス空塔速度3cm/sec以上であることを特徴とするオレフィンの水添方法に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、固体水添触媒の充填層にオレフィンを含有する液と水素を含むガスをガス空塔速度3cm/sec以上の流速で通過させるオレフィンの水添方法であって、反応器の差圧を低減できるという優れた効果を有するオレフィンの水添方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
固体水添触媒としては、オレフィンを水添するもので、たとえば、成分としてCuO、Cr23、ZnO、FeO3、Al23、La23、Sm23、CeO2、ZrO2、TiO2、SiO2、MnO2、Co23、NiO、BaO、CaO、MgOを少なくとも1種類含有する金属酸化物や、Pd、Rh、Pt、Ruを含む貴金属触媒があげられる。
【0008】
本発明の固体水添触媒としては担体を用いたもの、用いないものいずれでも良い。担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカアルミナなどの金属酸化物及びこれらの複合酸化物;ベントナイト、モンモリロナイト、ケイソウ土、酸性白土、活性炭、セラミック等をあげることができる。固体水添触媒の形状としては、打錠成型触媒(タブレット円柱状)/球形触媒/押出成型触媒(円柱状)等をあげることができ、各実施する各々の反応様式により最適な形状の触媒が選択される。
【0009】
固体水添触媒の充填層としては、単純固定床型/ラジアルフロー型等の形式のものをあげることができ、充填操作の容易さの観点から単純固定床型が好ましい。
【0010】
水添するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン等の脂肪族系不飽和炭化水素、またスチレン等の芳香族系不飽和炭化水素をあげることができる。スチレン類としては、スチレン、α―メチルスチレン等をあげることができる。側鎖にオレフィン部分を有する芳香族化合物の場合は、側鎖のオレフィン部分を水素添加し、芳香族環は水素添加されない。
【0011】
本発明においては、固体水添触媒の充填層にオレフィンを含有する液と水素を含むガスとの液ガス混合物をガス空塔速度3cm/sec以上の流速で通過させる。液ガス混合物の流れ方向は、反応流体を反応器下部より供給し、反応生成物を反応器上部より抜き出すアップフローまたはその逆方向であるダウンフローのいずれでも良い。
【0012】
オレフィンと水素の比率は、通常1.0〜30.0倍モル数である。ガス空塔速度は3cm/sec以上であり、好ましくは3.5cm/sec以上である。ガス空塔速度が低すぎるとオレフィンの水添反応速度が速いため、気相中の水素が液に溶解する速度が律速になり、見かけの反応速度の低下、すなわち、充填層単位あたりの反応量が低下する。更に、オレフィンの水添反応速度の低下により、オレフィンの2量化やそれ以上の重合物の生成によるタール化反応が起こり、収率が低下する。
【0013】
ガス空塔速度は3cm/sec以上、10cm/sec以下であることが好ましい。ガス空塔速度が高すぎると、触媒同士の摩擦により摩耗粉が発生し、充填層の圧力損失が増加する場合がある。低すぎると生産性が低くて実用的でない。ガス空塔速度は、下記式(1)により算出できる。
(ガス空塔速度)=(実ガス体積流量)/(反応器断面積) (式1)
【0014】
本発明の最大の特徴は、充填触媒層中に含有される直径1mm以下の触媒微紛の割合が5重量%以下である触媒充填層を使用する点にある。好ましくは、直径1mm以下の触媒微紛の割合が3重量%以下である充填層を使用する。該触媒微紛の割合が多すぎると充填触媒層の圧力損失が増加する。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0016】
以下の実施例、比較例において、直径1mm以下の触媒微紛の割合を下記の方法により測定した。充填触媒の代表サンプルを用意し、開口幅が1mmである金属製篩に投入させ、手動又は自動振動器等により、一定時間振動させた後、篩を通過したものを触媒微紛とし、通過触媒微紛量を秤量して全投入サンプル量から重量%を算出した。
【0017】
実施例1
直径68mmの流通テスト管の入口部及び出口部に圧力計を設置し、直径1mm以下の微粉の含有量が0.18重量%である固体触媒を流通テスト管に充填して、液を0.6cm/sec、ガスを3.9cm/secで流通させ、固体触媒充填層部分の差圧を実測した。流通テスト管に液及びガスを流通させると触媒充填層の差圧は約13kPa/m(充填層相当)であった。
【0018】
実施例2
直径1mm以下の微粉の含有量が2.0重量%である触媒を流通テスト管に充填した以外は、実施例1と同様にして、流通テスト管に充填し液及びガスを流通させた。触媒充填層の差圧は約12kPa/m(充填層相当)であった。
【0019】
比較例1
直径1mm以下の微粉の含有量が5.2重量%である触媒を流通テスト管に充填した以外は、実施例1と同様にして、流通テスト管に充填し液及びガスを流通させた。触媒充填層の差圧は増大し、ガス流通規定量3.9cm/secを流通することが不可能であった。ガス流通1.8cm/secの時の、触媒充填層の差圧は約22kPa/m(充填層相当)であった。
【0020】
比較例2
直径1mm以下の微粉の含有量が6.7重量%である触媒を流通テスト管に充填した以外は、実施例1と同様にして、液及びガスを流通させた。触媒充填層の差圧は増大し、ガス流通規定量3.9cm/secを流通することが不可能であった。ガス流通0.9cm/secの時の、触媒充填層の差圧は約43kPa/m(充填層相当)であった。
【0021】
実施例3
反応器に直径1.5mm、長さ6mm程度の大きさの押出成型触媒(円柱状)を充填した。直径1mm以下の微粉の含有量は0.33重量%であった。反応器下部よりα−メチルスチレンを含有するクメン及び水素を含むガスを通過させ、水添反応させることによりα−メチルスチレンをクメンに転化させた。液空塔速度は0.5cm/sec、ガス空塔速度は3.8cm/secであった。このときの触媒充填層の差圧は約13kPa/m(充填層相当)であり、触媒層の差圧は問題ないレベルであった。
【0022】
以上の実施例、比較例から次のことが分かる。実施例1、2および比較例1、2から、触媒充填層中に含有する直径1mm以下の触媒微紛の割合が5重量%より大きい場合は、触媒充填層の差圧は増大し、ガス空塔速度3.0cm/sec以上の液ガス混合物を通過させることが実用上不可能であることがわかった。また、実用的な反応器および微粉が0.33重量%の触媒を用いた実施例3の反応例では、触媒層の差圧は問題ないレベルであり、反応は円滑に行われた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体水添触媒の充填層にオレフィンを含む液と水素を含むガスとの液ガス混合物を通過させるオレフィンの水添方法において、該触媒充填層中に含有する直径1mm以下の触媒微紛の割合を5重量%以下であって、かつ、通過させる液ガス混合物の流速がガス空塔速度3cm/sec以上であることを特徴とするオレフィンの水添方法。
【請求項2】
前記触媒充填層中に含有する直径1mm以下の触媒微紛の割合を3重量%以下である請求項1記載のオレフィンの水添方法。
【請求項3】
前記オレフィンがスチレン類である請求項1または2記載のオレフィンの水添方法。


【公開番号】特開2007−254413(P2007−254413A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82764(P2006−82764)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】