説明

オレフィン類の選択的水素化方法

オレフィン類と芳香族化合物を含んでなる炭化水素原料に含有されるオレフィン類の、選択的水素化方法である。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
[0001] 本発明に関連する技術分野は、オレフィン類と芳香族化合物を含んでなる炭化水素ストリームに含有されるオレフィン類の、選択的水素化である。水素化方法は、より有益な炭化水素生成物を生産するために、石油精製者および石油化学生産者により用いられてきた。オレフィン類と芳香族化合物を含有する炭化水素ストリームは、同時に芳香族化合物を水素化することなくオレフィン類を選択的に水素化可能な場合にのみ、有用である。これまで、選択的水素化は、ニッケルに特に関連した第VIII族を始めとする金属類を含有する担持触媒により行われてきた。しかしながら、ニッケル触媒は、オレフィン類を選択的に水素化するときに、芳香族化合物のかなりの部分を水素化する傾向が強いため、選択性が十分ではない。この選択性は、水素化操作をおよそ30〜50barの低圧、および50〜180℃の低温で行う場合においても、十分には改良されない。これらの触媒の選択性を、触媒と反応原料とを接触させる前に硫黄化合物を注入することによって改良可能なことを、先行技術は教示している。
【0002】
[0002] 様々なプロセスフロー案、運転条件、および触媒が、オレフィン系炭化水素の選択的水素化に用いられているが、コストを低下させ、要求品質を満たす新たな選択的水素化法に対する需要は依然として存在する。
【0003】
[0003] US 5,417,844 B1(Boitiauxら)には、ニッケル触媒存在下での水蒸気分解ガソリン中のジオレフィン類の選択的水素化方法が開示されており、触媒の使用前に、硫黄含有有機化合物を、使用前に反応器の外側で触媒に取り込ませることを、特徴とする。
【0004】
発明の簡単な概要
[0004] 本発明は、オレフィン類と芳香族化合物を含有する炭化水素ストリーム中のオレフィン類を、芳香族化合物をほとんど水素化することなく選択的に飽和するための、改良された方法である。反応原料を、比較的低温、かつ、低い水素体オレフィン類の理論混合比にてニッケル元素触媒と反応させると、オレフィン類の選択的飽和度が高く、芳香族化合物の水素化度が低いことが、予想外にも発見された。
【0005】
[0005] 本発明は、オレフィン類と芳香族化合物を含んでなる炭化水素原料に含有されるオレフィン類の選択的水素化方法に関し、この方法は、(a)ニッケル元素を含んでなる触媒を含有する選択的水素化ゾーンにおいて、20℃〜90℃の温度、618kPa〜7000kPaの圧力、および1:1〜5:1の水素対オレフィン類の理論混合比を含むオレフィン水素化条件で、炭化水素原料を水素と反応させる工程と、(b)オレフィン類の濃度が低下した、芳香族化合物を含んでなる炭化水素生成物ストリームを回収する工程と、を含む。
【0006】
発明の詳細な説明
[0006] 改良されたオレフィン類の選択的水素化を、穏和な操作条件かつ限定された水素対オレフィン類の理論混合比で、オレフィン類および芳香族化合物を含有する炭化水素原料を、ニッケル元素を含んでなる触媒と反応させることによって成し遂げうることが、発見された。
【0007】
[0007] 本発明は、ナフサの沸点範囲の炭化水素ストリームに含有されるオレフィン類の選択的水素化に特に有用であるが、本発明においては、任意の適切な炭化水素原料を用いてもよい。好ましい原料は、38℃〜204℃の範囲で沸騰するナフサであり、0.1〜5重量パーセントの量のオレフィン類を含有する。
【0008】
[0008] 本発明にしたがって、オレフィン類と芳香族化合物を含有する炭化水素原料を、ニッケル元素を含んでなる選択的水素化触媒を含有する選択的水素化ゾーンにおいて、水素とともに導入し、温度20℃〜90℃、圧力618kPa〜7000kPa、および水素対オレフィン類の理論混合比1:1〜5:1を含む選択的水素化条件で、運転する。より好ましい水素化ゾーンの温度は、50℃〜90℃である。別の好ましい水素化ゾーンの温度は、20℃〜50℃である。
【0009】
[0009] 本発明における適切な選択的水素化触媒は、表面積の大きい担体材料に好ましくは担持されたニッケル元素を含有し、好ましくはアルミナである。ニッケル元素が担体上に存在する場合、ニッケルは、好ましくは、触媒総重量の2〜40重量パーセントの量で存在する。
【0010】
[0010] 芳香族化合物とオレフィン類を含有する炭化水素ストリームを、ダウンストリーム処理において利用する場合、オレフィン類の存在は、それに続く処理において用いられる触媒に有害であるか、または生成物ストリームにおいて望ましくない。したがって、このような炭化水素ストリームを用いるときには、オレフィン類を選択的に飽和させる一方で、芳香族化合物の飽和を妨げるかまたは少なくとも最小限にすることが、好ましく、望ましい。適切な炭化水素ストリームは、いずれの源に由来してもよく、このような炭化水素ストリームの一般的な源は、ナフサ原料を処理する接触改質装置からの流出液である。接触改質装置の流出液ストリームの場合、芳香族化合物は有益であるが、同時に生成するオレフィン類は、混入物であるとみなされ、芳香族化合物は保ちながら、除去されなければならない。本選択的水素化方法を使用して、芳香族化合物とオレフィン類を含有する炭化水素原料中のオレフィン類濃度を低下させることが可能である。
【0011】
[0011] したがって、オレフィン類を選択的に水素化するための方法であって、芳香族化合物とオレフィン類を含有する原料を、ニッケル元素を含んでなる触媒と、反応ゾーンにおいて選択的水素化条件で接触させて、実質的にオレフィン系化合物を含まない生成物を生産することを含む方法が提供される。選択的水素化条件には、温度20℃〜90℃、圧力618kPa〜7000kPa、および水素対オレフィン類の理論混合比1:1〜5:1が含まれる。最適な条件の一式は、これらの条件から選択され、かつ、フィードストリームの組成によって決まるであろう。いずれにしても、選択的水素化反応ゾーンから得た生成物は、実質的にオレフィン類を含まないであろう。「実質的に含まない」との語は、オレフィン系化合物が重量ベースで1000wppm未満(0.1重量パーセント)であることを意味する。加えて、水素化された芳香族化合物は、炭化水素原料中0.5重量パーセント未満であることが好ましい。
【0012】
[0012] 本発明によると、選択的水素化触媒を、好ましくは、反応物質が垂直方向に移動する円筒型触媒床を含有する固定床反応器において使用する。触媒は、例えば、ペレット、球、成形品または不揃いな形の顆粒として、反応器内に存在してもよい。触媒を使用するには、反応物質を、好ましくは、望ましい反応ゾーンの入口温度に上昇させ、水素と混合し、次いで、反応器に投入して通すことになる。
【0013】
[0013] あるいは、反応物質を、所望の量の水素と混合し、次いで、所望の入口温度に加熱してもよい。いずれの場合も、反応ゾーンの流出液を、残留水素を除去するための生成物回収設備に投入するか、あるいは、残留水素が存在する場合許容可能ならダウンストリームの生成物利用ゾーンに直接投入してもよい。流出液ストリームをより低圧方向に送流するか、または、流出液ストリームをストリッピングもしくは単段フラッシュカラムに投入することによって、水素を除去してもよい。
【0014】
[0014] 好ましい触媒の形は、直径0.4mm〜6.3mmの球である。固体触媒担体材料の球を、圧延および圧縮技術を始めとする多様な方法で作製することが可能である。しかしながら、球状のアルミナ粒子を触媒担体として利用し、球状のアルミナ粒子をアルミナゾルのゲル化法によって形成させることが大変好ましい。球を形成するためのこのアルミナのゲル化方法は、一般的には、油滴法として当該技術分野において公知である。また、アルミナゾルを、多様な方法で形成してもよい。典型的なものは、アルミニウム金属を、およそ12パーセントの塩酸水溶液に溶解させ、塩化アルミニウムゾルを生成させるものである。別の方法は、電解槽中での塩化アルミニウム溶液の電解を含んでなる。アルミナゾルを調製する一般的な方法は、アルミニウム金属を塩化アルミニウム水溶液に加え、この混合物を加熱し、沸点にて溶解させることである。
【0015】
[0015] ゾルのゲル化を生じさせるための好ましい方法は、ゾルをゲル化温度以下でゲル化剤と混合し、次いで、生じた混合物を液滴として熱油浴中に分散させて、硬い球状ゲル粒子の形成によりゲル化を生じさせる工程を、含んでなる。次いで、アルミナヒドロゲル球を、所望の物理学的特徴を与えるために、特定のエージング処理にかける。一般に、完全なエージング処理は、熱油中で少なくとも10時間エージングし、適切な液体アルカリ媒体中で少なくとも10時間エージングし、最終的には水で洗浄して、アルカリ媒体の濃度を低下させることを、含んでなる。このようなアルミナ粒子の形成およびエージング方法では、ヒドロゲル球を、液体アルカリ媒体中でエージングする前に、水と接触させてはならない。該ヒドロゲル球は、該方法のこれらの初期段階では水溶性であり、水と接触させることで破壊される可能性がある。エージング処理は、49℃〜260℃の温度で行ってもよく、そして、100℃を超えるとガスが急速に発生する傾向があり、ヒドロゲル球を破裂させ、破裂しない場合はこれを弱化する。形成工程およびエージング工程の間、超気圧を維持することによって、エージングを高温で行ってもよい。より高温の利用により、アルカリ溶液中でのエージングをなくすといった利点がもたらされる。したがって、球を、油でのエージング工程後、直ちに水で洗浄してもよい。典型的には、ゲル化粒子を、1〜24時間、90℃〜150℃の温度および大気圧〜1000kPaの圧力範囲にて、油浴中でエージングする。大気圧条件下にて油でエージングするならば、一般に、ゲル化粒子を、希アンモニア性水溶液中で2〜4時間、さらにエージングする。エージングした後、粒子を水で洗浄し、乾燥させ、か焼する。
【0016】
[0016] アルミナヒドロゲルのゲル化を、ゾルを、pH4〜10にて強い緩衝作用を有する弱塩基であるヘキサメチレンテトラミン(HMT)と混合することによって、行ってもよい。さらに、この材料は、温度上昇させると、急激にガスを発生させることなく、加水分解速度を上昇させ、このことは、ゲル化手順において好都合である。さらに、尿素およびHMTの混合物を、ゲル化剤として使用してもよいことが知られている。該混合物を高温に加熱すると、ゲル化剤が分解してアンモニアを形成し、これがヒドロゲルをゲル化させ、アルミナヒドロゲル球を形成させる。ゲル化およびエージング後に、粒子を110℃にてオーブン乾燥させ、次いで、徐々に650℃に加熱して、この温度にて空気中で2時間、か焼してもよい。空気か焼後に生じた材料は、基本的には、ガンマアルミナである。「基本的には」の語は、生じたアルミナ担体が、少なくとも90重量パーセントのガンマアルミナからなることを、意味する。担体材料が基本的にはガンマアルミナであることを確実にするために、担体材料を850℃を超える温度に曝露しないことが、非常に望ましい。850℃を超える温度への曝露は、アルミナの相変化をもたらし、これをガンマアルミナからデルタアルミナ、シータアルミナ、さらに場合によってはアルファアルミナへ変換するであろう。このような相変化は、通常、小孔(100オングストローム未満)を崩壊させて、総孔容積の増加をもたらすより大きな孔を作り出すことを伴う。しかしながら、表面積は、小孔の量および孔サイズと正比例するため、これらの孔の崩壊により、担体材料の表面積は劇的に減少する。したがって、総孔容積が1.4cc/gを超え、表面積が150m/gを超えるガンマアルミナ担体材料を形成することによって、代替の形成技術に関して直近に記載の付随する問題を避けることが、油滴法を利用することにより可能である。
【0017】
[0017] 基本的なアルミナ担体材料に加えて、ニッケル元素が、本発明において用いられる触媒の性能に必要とされる。ニッケルは、アルミナ担体材料の外表面にのみ存在するか、または、担体全体にわたって均一に存在してもよい。担体の外表面にニッケルがあることは、基本的には担体上に存在するすべてのニッケルが、担体の最外部の200ミクロンの層内に濃縮されるように、ニッケルが表面沈着していることを意味する。完成した触媒中のニッケル濃度は、好ましくは、金属元素を基にして5〜25重量パーセントである。ニッケル成分を、非常に望ましい場合は、球を形成する手順中に触媒に加えることが可能である。しかしながら、形成されたアルミナ球をニッケル化合物の溶液に浸す含浸のように、触媒のニッケル成分は、予め形成されたアルミナ球に加えることが好ましい。好ましくは、形成されたか焼アルミナ球を、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケルもしくは酢酸ニッケル、または他の水溶性ニッケル化合物の水溶液に浸す。次いで、好ましくは、該溶液を、回転蒸気エバポレーターを利用して、球と接触させながら蒸発乾燥させる。次いで、乾燥させた粒子を150℃の温度で1時間、次に525℃で1時間、か焼させてもよい。次いで、形成された球を乾燥させ、窒素をパージさせてもよく、好ましくは、水素含有ガスと接触させながら還元工程にかけてもよい。球状アルミナ球が触媒のニッケル成分の好ましい担体ではあるが、任意の適切な担体を本発明において利用してもよい。
【0018】
[0018] 本発明の方法を、以下の実施例によりさらに実証する。これらの実施例は、本発明の方法を不当に限定するためではなく、先に記載した実施態様の利点をさらに例示するために示される。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
[0019] 99重量パーセントのトルエンおよび1重量パーセントのC〜Cオレフィン系炭化水素を含有するモデル原料を、ガンマアルミナ担体上にニッケル元素を含有する選択的水素化反応ゾーンにおいて、圧力5600kPa、温度40℃、液空間時速10、および水素対オレフィンモル比1.5を含む選択的水素化条件にて反応させた。原料の臭素指数(オレフィン含量に直接関係する)は1000であり、そして、選択的水素化反応ゾーンからの流出液の分析によって、該生成物の臭素指数はわずか20であると測定された。原料のすべてのオレフィン類が基本的には変換(転化)されたが、トルエンは、原料中0.2重量パーセント未満しか飽和しなかった。
【0020】
(実施例2)
[0020] 99重量パーセントのトルエンおよび1重量パーセントのC〜Cオレフィン系炭化水素を含有するモデル原料を、ガンマアルミナ担体上にニッケル元素を含有する選択的水素化反応ゾーンにおいて、圧力5600kPa、液空間時速10、および水素対オレフィンモル比1.5にて反応させた。反応ゾーンの温度を90℃に上昇させることによって水素化反応を開始し、生成物ストリームの臭素指数は150だった。他の運転条件を変更せずに、反応ゾーンの温度を90℃から50℃へと低下させ、臭素指数は、予想外にも150から40へと低下した。反応ゾーンの温度を50℃から40℃へさらに低下させると、臭素指数は40から20へと低下した。本実施例において、トルエンは、原料中0.2重量パーセント未満しか飽和しなかった。
【0021】
[0021] 以上の記載および実施例は、本発明の方法により包含される利点、およびそれの使用により与えられる利益を、明確に例証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン類と芳香族化合物を含んでなる炭化水素原料に含有されるオレフィン類の、選択的水素化方法であって、
(a)ニッケル元素を含んでなる触媒を含有する選択的水素化ゾーンにおいて、20℃〜90℃の温度、618kPa〜7000kPaの圧力、および1:1〜5:1という水素対オレフィン類の理論混合比を含むオレフィン水素化条件で、炭化水素原料を水素と反応させる工程と、
(b)オレフィン類の濃度が低下した、芳香族化合物を含んでなる炭化水素生成物ストリームを回収する工程と、
を含む、上記方法。
【請求項2】
炭化水素原料が、ナフサの沸点範囲のストリームである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
原料が、0.02〜5重量パーセントの量のオレフィン類を含有する、請求項1〜2に記載の方法。
【請求項4】
炭化水素生成物ストリームが、0.1重量パーセント未満のオレフィン類を含有する、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
炭化水素原料中0.5重量パーセント未満の芳香族化合物が水素化される、請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
触媒がアルミナ担体を含んでなる、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
触媒が球状である、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
触媒が、総触媒重量の2〜40重量パーセントの量のニッケルを含有する、請求項1〜7に記載の方法。
【請求項9】
オレフィン水素化条件が、20℃〜50℃の温度を含む、請求項1〜8に記載の方法。

【公表番号】特表2009−514949(P2009−514949A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539998(P2008−539998)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/040741
【国際公開番号】WO2007/055690
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】