説明

オーディオチャネル変換

第1の数(M)の入力オーディオチャネルを、より大きな数(N)の出力オーディオチャネルに変換する装置(1)は、入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルのセットに分解する非相関化ユニット(3)と、非相関化された補助チャネルを出力オーディオチャネルへと結合する少なくとも1つのアップミックスユニット(4)と、入力オーディオチャネルを前処理し、前処理された入力オーディオチャネルを非相関化ユニット(3)に供給する少なくとも1つの前処理ユニット(2)とを有する。前処理ユニット(2)は及びアップミックスユニット(4)は、好ましくはオーディオパラメータによって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオチャネル変換に関する。更に詳細には、本発明は、第1の数の入力オーディオチャネルを、第2の数の出力オーディオチャネルに変換する装置及び方法に関し、ここで前記第1の数は前記第2の数よりも小さい。
【背景技術】
【0002】
幾つかのオーディオチャネルを、他のより大きな数のオーディオチャネルに変換することは良く知られている。このことは、種々の理由により為され得る。第1の理由は、新たなフォーマットへの変換である。ステレオ録音物は例えば2つだけのチャネルを持つが、現代のオーディオシステムは一般に、「5.1」システムにおけるように、5又は6個のチャネルを持つ。従って、2つのステレオチャネルは、先進のオーディオシステムを完全に利用するために、5又は6個のチャネルへと変換される必要がある。第2の理由は、符号化の効率である。ステレオオーディオ信号は、オーディオ信号の空間的特性を記述するパラメータビットストリームと結合された単一チャネルのオーディオ信号としてエンコードされ得ることが分かっている。デコーダは、非常に十分な精度でステレオオーディオ信号を再生することができる。このようにして、かなりのビットレートの削減が得られる。
【0003】
オーディオ信号の空間的特性を記述する、幾つかのパラメータがある。これらパラメータの1つはチャネル間の相互相関であり、例えばステレオ信号においてはLチャネルとRチャネルとの間の相互相関である。他のパラメータは、チャネルのパワー比である。所謂パラメトリック空間オーディオエンコーダにおいては、これら及びその他のパラメータは、例えば1つだけのチャネルのような、減少された数のチャネルと、それに加えて元のオーディオ信号の空間的特性を記述するパラメータのセットとを持つオーディオ信号を生成するため、元のオーディオ信号から抽出される。所謂パラメトリック空間オーディオデコーダにおいては、元のオーディオ信号が略復元される。
【0004】
パラメトリック空間オーディオデコーダは一般に、各入力オーディオチャネルの非相関化(decorrelate)された補助チャネルのセットを生成するための、幾つかの非相関化フィルタを有する。これら非相関化された補助チャネルは次いで、所謂アップミックス(upmix)ユニットにおいて、元の入力チャネルと結合され、所望の相関即ち元のオーディオ信号に対応する相関を持つ出力チャネルを生成する。相関を設定することに加えて、アップミックスユニットは一般に、オーディオチャネルのパワー比をも設定し、及び/又は他のチャネルに基づくオーディオチャネルの予測のような他の信号処理ステップをも実行する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、非相関化フィルタが、オーディオ信号の時間遅延及び時間的な「汚れ(smearing)」をもたらすこと、及びその結果信号部分(例えば時間フレームに含まれる信号)と対応するパラメータとの間に時間的な不一致があることを見出した。信号部分が遅延されるため、そのパラメータは他の信号部分に適用され、信号の歪に帰着する。このことは明らかに望ましくない。しかしながら、デコーダから非相関化ユニットを削除することは実行可能ではない。なぜなら、正しいチャネル間相関を持つオーディオチャネルを提供することを不可能にするからである。
【0006】
本発明の目的は、先行技術のこれら及びその他の問題を克服し、非相関化フィルタの不利な影響がかなり低減され又は除去される、オーディオ信号のオーディオチャネルの数を変換するための装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って本発明は、
第1の数の入力オーディオチャネルを第2の数の出力オーディオチャネルに変換する装置であって、前記第1の数は前記第2の数よりも小さく、前記装置は、
1以上の非相関化された補助チャネルを含む、非相関化された補助チャネルのセットを入力オーディオチャネルから生成する、少なくとも1つの非相関化ユニットと、
チャネルを出力オーディオチャネルへと結合する少なくとも1つのアップミックスユニットと、を有し、前記少なくとも1つのアップミックスユニットは、時間変化するチャネル間相互相関パラメータに基づき、入力オーディオチャネル又は前処理された入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルと結合するように動作可能であり、前記装置は更に、
前記入力オーディオチャネルを前記少なくとも1つの非相関化ユニットに供給する前に前記入力オーディオチャネルを前処理する、少なくとも1つの前処理ユニットを有し、前記少なくとも1つの前処理ユニットは、相関の設定以外の時間変化する信号処理を実行するように動作可能な装置を提供する。
【0008】
非相関化ユニットによる処理に先立って入力オーディオチャネルを前処理する前処理ユニットを備えることにより、非相関化ユニットにより遅延又は「汚れ」がもたらされる前に、オーディオチャネルが(前)処理されることができる。結果として、当該処理のために適切なパラメータが利用され、信号部分とパラメータとの不整合が回避される。
【0009】
前記少なくとも1つの前処理ユニットは、入力オーディオチャネルが非相関化ユニットに供給される前に前処理が実行されるように配置される。従って、前処理ユニットは、前記装置の入力端子と、前記少なくとも1つの相関ユニットとの間に配置される。
【0010】
単一の入力オーディオチャネルから導出される補助チャネルのセットは、1個、2個、3個又はそれ以上のチャネルから成っても良い。補助チャネルはまた中間チャネル即ち、例えば本発明の前処理ユニットにおいて実行され得るような予測により、非相関化以外の信号処理によって入力オーディオチャネルから導出されるチャネルから導出されても良い。
【0011】
前記アップミックスユニットは、入力オーディオチャネル、非相関化された補助チャネル、及び/又はいずれかの中間チャネルを、既知の方法で結合しても良い。結合(即ち混合)に加えて、前記アップミックスユニットはスケーリングをも実行しても良い。しかしながら、本発明によれば、補助チャネル及び入力オーディオチャネルの、結合以外の処理は、前記前処理ユニットにおいて主に又は独占的に実行される。
【0012】
前記前処理ユニット及び/又はアップミックスユニットは好ましくは、オーディオパラメータにより制御される。これらユニットはそれ故、これらユニットにより制御されるように設計される。このことは大きな柔軟性を提供し、前処理の特性及び/又はアップミックスユニットの特性が変更されることを可能とする。
【0013】
従って、前記前処理ユニットは好ましくは、時間によって変化する前処理のために構成される。即ち、前記前処理ユニットにより実行される処理は、時間によって変化する。より具体的には、該処理は時間によって変化する信号パラメータにより決定される。前記アップミックスユニットもまた好ましくは、時間によって変化する非相関化のような、時間によって変化する処理のために構成される。一方、前記非相関化ユニットは好ましくは、時間によって変化しない非相関化のために構成される。
【0014】
前記前処理ユニットは有利にも、オーディオチャネル及び/又は予測のパワー比を設定するように構成されても良い。該予測は、他のチャネルの特性及び予測パラメータに基づく、特定のオーディオチャネルの信号の予測を含む。
【0015】
オーディオチャネルの相関の設定は、非相関化ユニットの後で、即ち従来のアップミックスユニットにより実行されるべきであることは留意されたい。しかしながら、他の全ての信号処理は、前記前処理ユニットにおいて実行されても良い。
【0016】
本発明また、以上に定義されたような装置を有するオーディオシステムを提供する。該オーディオシステムは更に、1以上のオーディオ源、増幅器及びラウドスピーカユニット又はこれらの同等物を有しても良い。
【0017】
本発明は加えて、
第1の数の入力オーディオチャネルを第2の数の出力オーディオチャネルに変換する方法であって、前記第1の数は前記第2の数よりも小さく、前記方法は、
1以上の非相関化された補助チャネルを含む、非相関化された補助チャネルのセットを入力オーディオチャネルから生成するステップと、
チャネルを出力オーディオチャネルへと結合するステップと、を有し、前記結合するステップは、時間変化するチャネル間相互相関パラメータに基づき、入力オーディオチャネル又は前処理された入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルと結合するステップを有し、前記方法は更に、
前記入力オーディオチャネルから非相関化された補助チャネルのセットを生成するステップに先立ち、前記入力オーディオチャネルを前処理するステップを有し、前記前処理するステップは、相関を設定すること以外の時間変化する信号処理を実行するステップを有する方法を提供する。
【0018】
好ましくは、オーディオパラメータは、前記結合するステップと前記前処理するステップとを制御するために利用される。
【0019】
本発明は更に、以上に定義された方法を実行するためのコンピュータプログラムを提供する。コンピュータプログラムは、CD又はDVDのようなデータ担体に保存されるコンピュータ実行可能な命令のセットを有しても良い。プログラム可能なコンピュータが以上に定義された方法を実行することを可能とする、コンピュータ実行可能な命令のセットは、例えばインターネットを介して、リモートのサーバからのダウンロードが可能であっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、添付図面に示された実施例を参照しながら、以下に更に説明される。
【0021】
図1に示された先行技術の装置1'は、非相関化ユニットのアレイ3及びアップミックスユニット4を有する。該装置は、M個の入力部5とN個の出力部6とを持ち、これらは全てアップミックスユニット4に結合される。各入力部5は、合わせて多チャネルオーディオ信号を構成するオーディオチャネルのセットのうちの、1つのオーディオチャネルを受信する。
【0022】
出力チャネル(N個の出力部6)の数は、入力チャネル(M個の入力部5)の数よりも大きい。値の例は、ステレオオーディオ信号が5.1オーディオ信号に変換される場合のN=6及びM=2、又はステレオオーディオ信号がモノラル信号に付加情報を加えたものとしてエンコードされる場合のN=2及びM=1である。しかしながら、他のM及びNの値も可能である。出力チャネルは一般に、アップミックスユニット4に供給されるパラメータにより定義される(相互の)相関を持つ。所望の相関を持つ出力チャネルを生成するため、相互に相関したチャネルのセットが、入力チャネルから導出される。この目的のため、非相関化ユニット3が、相関していない入力チャネルのセットを生成するために、各入力部5に結合される。本分野において良く知られた、非相関化フィルタの実際の数は変更されても良く、図に示された数に限定されない。
【0023】
非相関化ユニット31、・・・、39は一般に、全通過特性を持つフィルタを含む。斯かるフィルタは、オーディオ信号のスペクトル包絡線を略維持する。しかしながら、該全通過特性は、時間遅延をもたらすという欠点を持つ。加えて該全通過特性は、しばしば入力信号の「汚れ」を引き起こす。即ち、非相関化された信号は、元の信号の時間包絡線よりも良く定義されない。時間遅延及び「汚れ」の双方は、オーディオ信号と対応するパラメータとの間の不一致に帰着する。幾つかの信号部分(即ち、非相関化フィルタにより生成された信号の時間セグメント)は、対応するパラメータよりも後に前記アップミックスユニットに到達する。その結果、不適切なパラメータがこれら信号部分に適用され、オーディオ信号が不適切に処理され、例えばクロストークのような知覚され得る信号の歪をもたらす。このことはかなり望ましくないことは、理解されるであろう。
【0024】
パラメータ及び信号のタイミングをより良く合致させるために、パラメータは遅延させられ得る(例えば遅延ユニットによって)ことは留意されたい。しかしながら、アップミックスユニット4は、遅延させられていない非相関化されていない入力信号をも受信する。加えて、「汚れ」は周波数に依存する。結果として、パラメータと対応する信号部分とを合致させることは困難である。
【0025】
本発明は、非相関化に先立ちオーディオ信号を処理することにより当該問題を解決する。即ち、信号処理のかなりの部分が、オーディオ信号が非相関化フィルタに供給される前に実行される。このようにして、非相関化フィルタにより引き起こされる不整合が、大きく回避できる。
【0026】
本発明による装置1は、図2において限定するものではない単なる例として示され、非相関化フィルタ(31、・・・)のアレイ3及びアップミックスユニット4を有する。しかしながら、図1の先行技術の装置1'とは異なり、本発明の装置1は加えて、非相関化に先立ちオーディオ信号を前処理するための前処理ユニット2を有する。
【0027】
前処理ユニット2は、M個の入力部5を通して、オーディオ信号のM個の入力チャネルを受信する。ユニット2はまた、所望の信号特性を示す、オーディオ信号に関連するパラメータを受信する。これらパラメータを利用して、前処理ユニット2は、オーディオチャネルのパワー比の調整、及び他のオーディオチャネルに基づく幾つかのオーディオチャネルの予測のような信号処理を実行する。その結果、パワー比調節及び予測は、非相関化フィルタ3により影響を受けることなく実行され、これら動作に関連するオーディオ信号とパラメータとの間の時間不整合が回避される。
【0028】
全ての信号処理が前処理ユニットによって実行され得るわけではないことは理解されるであろう。オーディオチャネルの所望の相関を設定することは一般に、非相関化フィルタ3により生成されるような相関していないチャネルの利用可能性を必要とする。従って、相関を設定することは、アップミックスユニット4により実行される。加えて、オーディオチャネルのパワーレベルの付加的な調節のような付加的な信号調節が、アップミックスユニット4により為されても良い。この場合、パワー調節は前処理ユニット2及びアップミックスユニット4のいずれにおいて実行されても良いが、該動作をこれらユニットのうちの一方でのみ実行することが考えられ得る。
【0029】
本発明の更なる利点は、特定の信号処理動作のために、ユニット2と4とのいずれが最も適切であるかを選択する可能性である。単一のユニット(4)の代わりに、2つのユニット(2及び4)を備えることにより、より大きな設計の柔軟性が達成され、非相関化ユニットの好ましくない影響が、可能な限り最も回避され得る。
【0030】
本発明の好適な実施例においては、前処理ユニット2及びアップミックスユニット4は共に時間によって変化する。即ち、これらユニットの信号処理特性が、時間によって変化し得る信号パラメータにより制御される。しかしながら、非相関化フィルタ3は好ましくは、時間によって変化しない。即ち、非相関化フィルタ3の特性は時間に依存せず、好ましくは時間によって変化する信号パラメータにより制御されない。前処理ユニット2又はアップミックスユニット4のいずれかが時間により変化する実施例も想定され得る。
【0031】
他の有利な実施例においては、前処理ユニット2及び/又はアップミックスユニット4により実行される処理は、周波数に依存する。即ち、これらユニットの信号処理特性が、周波数に依存して変化するパラメータにより制御されても良い。
【0032】
上述したように、出力チャネルの数(N)は、入力チャネルの数(M)よりも大きい。例えば、2つの入力チャネルと5又は6個の出力チャネルとが存在し得、又は単一の入力チャネルと2以上の出力チャネルとが存在し得る。しかしながら、他の組み合わせも可能である。
【0033】
出力チャネル6の数が、入力チャネル5の数と等しい(即ちM=N)場合も可能である。この場合、本発明の装置は、オーディオチャネルのリミックス(remix)を提供する。このことは、特定の信号特性を調整するために、及びオーディオ信号を強調するために有用であり得る。
【0034】
オーディオ信号は、連続する時間セグメントに含まれる一連の信号部分により構成され得ることは留意されたい。斯かる時間セグメントは、時間フレーム、又は時間により制限された信号部分を定義する他の単位であり得る。非相関化ユニットにより、時間セグメントと対応するパラメータとの間の同期は失われ得る。この問題は、本発明により解決される。
【0035】
本発明の装置の単なる実施例が、図3においてより詳細に示される。図3の装置1は、単一チャネルのオーディオ入力信号(M=1)を受信する。図3の実施例においては、前処理ユニット2は、それぞれ利得G及びGを持つ、2つの利得ユニット22及び23を有する。利得ユニット22及び23は、オーディオ補助チャネルが、非相関化ユニットのセット(アレイ)3のそれぞれの非相関化ユニット31、32及び33により非相関化される前に、これら補助チャネルのレベルを設定する。各非相関化ユニット31、32及び33は、それぞれの伝達関数H、H及びHを持ち、それぞれ非相関化された補助チャネルS、S及びSを生成する。
【0036】
利得Gを持つ第1の利得ユニット21は、入力端子と第1の非相関化ユニット31との間に追加されても良いが、第1の利得Gが1に等しい図示された実施例からは省略されている。
【0037】
アップミックスユニット4は、図示された例においては、3つの混合ユニット41、42及び43を有し、これらユニット41、42及び43は、入力チャネルとその3つの補助チャネルとを混合し、4つの出力チャネルLf(左前)、Ls(左サラウンド)、Rf(右前)及びRs(右サラウンド)を生成する。混合ユニット41は(時間依存の)パラメータIID_lr(チャネル間強度差_左−右)及びICC_lr(チャネル間相互相関_左−右)を受信し、混合ユニット42は(時間依存の)パラメータIID_l(チャネル間強度差_左前−左サラウンド)及びICC_l(チャネル間相互相関_左前−左サラウンド)を受信する。一方、混合ユニット43は、(時間依存の)パラメータIID_r(チャネル間強度差_右前−右サラウンド)及びICC_r(チャネル間相互相関_右前−右サラウンド)を受信する。
【0038】
上述のパラメータは一般に、所望の出力信号を決定するため、所謂混合行列において利用される。例えば出力信号Rf(右前)及びRs(右サラウンド)は、混合ユニット43の混合行列M:
【数1】

により決定され得る。ここで、行列Mは係数m11・・・m22を持ち、H(G.S)=Sは非相関化ユニット33の出力信号である。信号Rf及びRsの正規化された相関係数ICCは、
【数2】

によって与えられる。ここで、σは、信号xのパワーである。強度比IIDは、
【数3】

によって与えられる。
【0039】
全体のパワーは変化されないため、本式は以下を導く:
【数4】

【0040】
更なる制約条件m12=−m22が効果的であることが分かっている。換言すれば、両方の信号Rf及びRsにおける中間信号(補助チャネル)Sのパワーは等しいが、逆の符号を持つ(逆位相)。m12=−m12が成り立つ場合、因子m12及びm22は、非相関化ユニット33の上流(例えば利得ユニット23)に移動させられることができ、非相関化に先立つ処理を可能とする。式(1)はこのとき、
【数5】

のように書き直される。
【0041】
式(1')は、パラメータcを利用して、
【数6】

のように一般化されることができる。
【0042】
c=1については、非相関化信号経路の全ての時間変化する処理は非相関化器の上流で実行され、一方c=G.m12については、非相関化信号経路の全ての時間変化する処理は非相関化器の下流で実行される。本発明によれば、パラメータcは好ましくは約1又は略1である値を持つ。
【0043】
上述の実施例においては、アップミックスユニット4は、4つの出力チャネルの相互相関及び強度差の双方を設定する。このことは勿論必須ではなく、幾つかの実施例においては、チャネル間強度が前処理ユニット2において設定されても良い。このことは、例えば入力信号Sを直接利用して、前処理ユニット2において全ての混合操作を実行することにより達成され得る。
【0044】
本発明によれば、図示された例においては利得(即ちパワー)調節である、前処理動作が実行されることが、図3から分かる。
【0045】
本発明による装置1の他の例が、図4に示される。本図においては、2つの入力オーディオチャネルL及びRから成るオーディオ信号が、5個の出力オーディオチャネルLf、Ls、C(Center)、Rf及びRsから成るオーディオ信号に変換される。前処理ユニット2は、(時間依存の)信号パラメータc_1及びc_2を受信する単一の混合ユニット25を有する。パラメータc_1及びc_2は、入力信号L及びRに基づいて混合ユニット25により出力される中間信号L、C及びRを予測するための予測パラメータである。相関ユニット31及び32は、後にアップミックスユニット4に供給される中間チャネルL及びRの相関していない対応物を生成する。アップミックスユニット4の混合ユニット41及び42の動作は、図3の実施例における混合ユニット41乃至43の動作と類似する。
【0046】
図4から分かるとおり、処理の一部は、非相関化に先立ち、処理ユニット4によって実行される。非相関化器は元の波形を歪ませる傾向がある一方で、適切な予測は元の波形が変更されないことを必要とするため、このことは予測が利用される場合に特に有利である。それ故、非相関化の前に実行される予測は、より優れた結果をもたらす。単一の前処理ユニット2の代わりに、例えば予測演算を実行する前処理ユニットと混合及び/又はスケーリング演算を実行する他の前処理ユニットとのような、2以上の斯かるユニットが存在しても良いことは理解されるであろう。
【0047】
本発明によるステレオデコーダの例が、図5に示される。図5のステレオデコーダは基本的に、単一の入力部(M=1)及び2つの出力部(N=2)を持つ本発明による装置1である。前処理ユニット2は、スケーリング演算(利得G)を実行し、2つの中間チャネルを生成する。該中間チャネルの一方は、非相関化ユニット3(伝達関数H)により非相関化される。アップミックスユニット4は、信号の空間配向を回転させるために、回転演算(Rot)を実行する。多チャネル信号回転は、本分野において良く知られていることは留意されたい。信号回転は、国際特許出願公開WO03/090206(整理番号PHNL020639EPP、ここで全体が本明細書に組み込まれたものとする)により詳細に議論されている。
【0048】
本発明によるオーディオシステム10が、図6に模式的に示される。オーディオシステム10は、以上に議論したように、第1の数の入力オーディオチャネルを第2の数の出力オーディオチャネルに変換する装置1を有するように図示される。
【0049】
従って本発明は、オーディオ増幅器及び/又はシステムにおいて利用され得る。斯かるオーディオシステムは、1以上のオーディオ源、増幅器及びラウドスピーカユニット又はこれらの同等物を含んでも良い。前記オーディオ源は、CDプレイヤ、DVDプレイヤ、MP3又はAACプレイヤ、ラジオチューナ、ハードディスク及び/又はその他のソースを含んでも良い。前記オーディオシステムは、エンターテイメントセンター又はコンピュータシステムに組み込まれても良い。
【0050】
以上に議論したように、本発明は装置及び方法の両方を提供する。方法ステップは図2から明らかであり、ここでは入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルのセットに分解するステップに先立ち入力オーディオチャネルを前処理するステップは前処理ユニット2によって実行され、入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルのセットに分解するステップは非相関化ユニット(31、32、・・・)のアレイ3により実行され、好ましくは入力オーディオチャネル及び/又はいずれかの中間チャネルと組み合わせて非相関化された補助チャネルを出力オーディオチャネルに変換するステップは、アップミックスユニット4により実行される。
【0051】
本発明は、オーディオデコーダにおける非相関化により引き起こされる時間遅延及び起こり得る「汚れ」が、信号パラメータと対応する信号部分との間に時間的な整合の不一致を引き起こし得るという洞察に基づく。本発明は、少なくとも特定の信号処理動作について、これら動作を非相関化に先立ち実行することにより、該不一致が除去され得るという更なる洞察から利益を得ている。
【0052】
本明細書において利用されるいずれの用語も、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。とりわけ、「有する(comprise及びcomprising)」なる語は、明示されていないいずれの要素をも除去することを意図したものでない。単一の(回路)要素は、複数の(回路)要素又はその同等物で代用されても良い。
【0053】
本発明は以上に説明された実施例に限定されるものではなく、添付される請求項に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変更及び追加が為され得ることは、当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】先行技術によるチャネル変換装置を模式的に示す。
【図2】本発明によるチャネル変換装置の第1の実施例を模式的に示す。
【図3】本発明によるチャネル変換装置の第2の実施例を模式的に示す。
【図4】本発明によるチャネル変換装置の第3の実施例を模式的に示す。
【図5】本発明によるチャネル変換装置の第4の実施例を模式的に示す。
【図6】本発明によるオーディオシステムを模式的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の数の入力オーディオチャネルを第2の数の出力オーディオチャネルに変換する装置であって、前記第1の数は前記第2の数よりも小さく、前記装置は、
1以上の非相関化された補助チャネルを含む、非相関化された補助チャネルのセットを入力オーディオチャネルから生成する、少なくとも1つの非相関化ユニットと、
チャネルを出力オーディオチャネルへと結合する少なくとも1つのアップミックスユニットと、を有し、前記少なくとも1つのアップミックスユニットは、時間変化するチャネル間相互相関パラメータに基づき、入力オーディオチャネル又は前処理された入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルと結合するように動作可能であり、前記装置は更に、
前記入力オーディオチャネルを前記少なくとも1つの非相関化ユニットに供給する前に前記入力オーディオチャネルを前処理する、少なくとも1つの前処理ユニットを有し、前記少なくとも1つの前処理ユニットは、相関の設定以外の時間変化する信号処理を実行するように動作可能な装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの前処理ユニット及び前記少なくとも1つのアップミックスユニットは、オーディオパラメータにより制御される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの前処理ユニットは、時間変化する前処理のために構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの非相関化ユニットは、時間変化する非相関化のために構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記アップミックスユニットは、時間変化する非相関化のために構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記前処理ユニットは、オーディオチャネルのパワー比の設定及び/又は予測のために構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の数は1に等しい、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の数は2に等しい、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
請求項1に記載の装置を有するオーディオシステム。
【請求項10】
第1の数の入力オーディオチャネルを第2の数の出力オーディオチャネルに変換する方法であって、前記第1の数は前記第2の数よりも小さく、前記方法は、
1以上の非相関化された補助チャネルを含む、非相関化された補助チャネルのセットを入力オーディオチャネルから生成するステップと、
チャネルを出力オーディオチャネルへと結合するステップと、を有し、前記結合するステップは、時間変化するチャネル間相互相関パラメータに基づき、入力オーディオチャネル又は前処理された入力オーディオチャネルを非相関化された補助チャネルと結合するステップを有し、前記方法は更に、
前記入力オーディオチャネルから非相関化された補助チャネルのセットを生成するステップに先立ち、前記入力オーディオチャネルを前処理するステップを有し、前記前処理するステップは、相関を設定すること以外の時間変化する信号処理を実行するステップを有する方法。
【請求項11】
前記結合するステップ及び前記前処理するステップにおいてオーディオパラメータが利用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理するステップは、オーディオチャネルのパワー比を設定する及び/又は予測するサブステップを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−507184(P2008−507184A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520954(P2007−520954)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052293
【国際公開番号】WO2006/008697
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【出願人】(506427990)コディング テクノロジーズ エイビー (24)
【Fターム(参考)】