オーディオ再生装置
【課題】スイートスポットを拡張し、複数のリスナーが横に並んだ状態においても仮想音像定位効果が得られるオーディオ再生装置を提供する。
【解決手段】オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカ20a,20b,30a,30bと、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのクロストークキャンセル処理部10a,10bとを備え、2対のステレオスピーカ20a,20b,30a,30bは、一方のステレオスピーカ対20a,30aを結ぶ線分Xと、他方のステレオスピーカ対20b,30bを結ぶ線分Yとが、少なくとも1点で交わる位置に配置される。
【解決手段】オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカ20a,20b,30a,30bと、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのクロストークキャンセル処理部10a,10bとを備え、2対のステレオスピーカ20a,20b,30a,30bは、一方のステレオスピーカ対20a,30aを結ぶ線分Xと、他方のステレオスピーカ対20b,30bを結ぶ線分Yとが、少なくとも1点で交わる位置に配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカ再生によって、任意の位置への仮想的な音像定位を実現するオーディオ再生技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つのスピーカのみを用いて、空間の任意の位置に音源が存在するようにリスナーに知覚させるオーディオ再生技術(以下、仮想音像定位技術と称する。)が知られている。
仮想音像定位技術の実現方法は、例えば、非特許文献1に開示されている。当該非特許文献1によると、ある空間における任意の音源位置から、同じ空間内の任意の位置にいる人間の両耳までの伝達特性を測定ないし推定しておき、これを入力音源に畳み込むことにより、両耳に到達するのと同等の信号を生成する。このようにして生成した信号をバイノーラル信号と呼び、ヘッドホンなどの再生機器を用いてバイノーラル信号を両耳に提示することにより、任意の位置に音源があるかのようにリスナーに錯覚させることができる。
【0003】
ただし、再生機器がスピーカである場合には、バイノーラル信号を正しく両耳に届けるために、以下に述べるクロストークキャンセル処理が必要となる。すなわち、スピーカ再生において、片方の耳(例えば右耳)に提示する信号を片方のスピーカ(例えば右スピーカ)からそのまま再生すると、反対側の耳(例えば左耳)にも音が到達するという、いわゆるクロストークが発生するため、バイノーラル信号を正しく両耳に提示することができず、想定した位置に音像が定位しなくなるという問題が起こる。
【0004】
図8は、ステレオ再生系におけるクロストークを示す図である。図8において左スピーカ101から再生した音は、伝達経路201を通ってリスナー103の左耳に到達するが、伝達経路202を通ってリスナー103の右耳にも到達する。また、右スピーカ102から再生した音は、伝達経路203を通ってリスナー103の右耳に到達するが、伝達経路204を通ってリスナー103の左耳にも到達する。伝達経路202ないし204を通ってリスナー103の反対側の耳に到達する音成分がクロストークである。
【0005】
図9は、従来のクロストーク抑制方法を示す図である。非特許文献1には、図9に示す4つのフィルタ104,105,106,107を用いた処理構成によってクロストークを抑圧する方法が示されている。図9の動作原理は、一方のスピーカから発生するクロストークを、他方のスピーカから、リスナー耳元でちょうどクロストークと逆相になるような信号(以下、抑圧信号と称する。)を再生することで、リスナー耳元に到達するクロストーク成分を打ち消す原理となっている。これにより、スピーカ再生でも、バイノーラル信号を正しくリスナー両耳に届けることが可能となる。
【0006】
ただし、上述した非特許文献1のクロストークキャンセル処理(以下、従来のクロストークキャンセル処理と称する。)は、想定している再生系と実環境が完全に一致するときに良好に働くが、想定している再生系と実環境が異なる場合、例えば、リスナーの位置が想定した位置からずれている場合にはクロストークの抑圧性能が劣化することが、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1によると、従来のクロストークキャンセル処理では、リスナーの奥行き方向の動きに対しては1m程度ずれても効果が持続するが、左右の動きに対しては、僅か10cmのずれでも良好なクロストークキャンセル効果が得られなくなることが示されている。すなわち、抑圧効果が得られるエリア(以下、スイートスポットと称する。)は、おおよそ図10に示されるエリア108のような形となる。
【0007】
ここで、クロストークキャンセル処理は、一方のスピーカから発生するクロストーク信号がリスナーに到達するタイミングと、他方のスピーカから再生する抑圧信号がリスナーに到達するタイミングとを合わせる必要があり、このタイミングがずれると互いに逆相関係とはならなくなるため、クロストーク抑圧効果が大幅に劣化してしまう。ここで、リスナーが前後方向に動くと、一方のスピーカとリスナーとの距離は近くまたは遠くなり、他方のスピーカとリスナーとの距離も同様に近くまたは遠くなることで、リスナーと左右スピーカの距離差の変化が少ないため、1m以上のロバスト性を確保できる。すなわち、リスナーの前後方向の動きに対しては、リスナーとスピーカ間の距離よりも、リスナーと左右スピーカとの見開き角のほうが、抑圧性能を左右する大きな要因であると言える。言い換えると、リスナーと左右スピーカとの見開き角度が等しければ、リスナーとスピーカ間の距離が大きく異なっていてもほぼ同様の抑圧効果が得られると言える。
【0008】
また、リスナーが左右方向に動くと、リスナーと一方のスピーカとの距離は近くなり、他方のスピーカとの距離は遠くなることで、リスナーと左右スピーカの距離差の変化が大きくなるため、僅かな動きでも抑圧信号の到達タイミングがあわなくなって抑圧効果が得られなくなる。すなわち、リスナーの左右方向の動きに対しては、スピーカ間隔や距離によらず、僅かな位置のずれでもクロストーク抑圧効果が得られなくなると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−92274号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大賀寿朗、山崎芳男、金田豊共著、「音響システムとデジタル処理」社団法人 電子情報通信学会、平成7年3月出版(P.234−P.236)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、非特許文献1および特許文献1に記載された従来のクロストークキャンセル処理では、良好な仮想音像定位効果を得るためにはリスナーはスイートスポット(左右スピーカの中央付近)に頭を保持し続けることを強要され、極めて限定的で不便であるという課題がある。さらに、複数のリスナーがスピーカ列に対して横に並んだ状態では、平均的な人頭の幅は10cm以上あるため、必ずスイートスポットから外れるリスナーが存在することになり、良好な効果が得られなくなるという課題があった。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、スイートスポットを拡張し、複数のリスナーが横に並んだ状態においても仮想音像定位効果が得られるオーディオ再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るオーディオ再生装置は、オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、2対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのキャンセル処理部とを備え、2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されるものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカそれぞれに対応するキャンセル処理部を備え、2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されるように構成したので、スイートスポットを拡張することができ、さらにステレオスピーカ列に対して平行方向にユーザが並んで位置した場合にも良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
【図3】実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
【図4】図2のステレオスピーカの配置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図5】図3のステレオスピーカの配置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図6】実施の形態2によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図7a】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7b】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7c】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7d】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図8】ステレオ再生系におけるクロストークを示した図である。
【図9】従来のオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。図1において、オーディオ再生装置は、第1および第2クロストークキャンセル処理部(キャンセル処理部)10a,10bを備える再生処理部1と、当該再生処理部1から出力される出力信号を再生する2対の第1左右ステレオスピーカ20a,30aおよび第2左右ステレオスピーカ20b,30bで構成されている。
再生処理部1には、バイノーラル音生成処理(図示せず)により生成された左バイノーラル信号および右バイノーラル信号が、左入力信号Linおよび右入力信号Rinとして入力される。左入力信号Linおよび右入力信号Rinは、通常のステレオオーディオ信号や5.1chなどのマルチチャネルオーディオ信号を2chにミックスダウンした信号でもよい。
【0017】
左入力信号Linは2つに分岐され、一方は第1クロストークキャンセル処理部10aへ入力され、他方は第2クロストークキャンセル処理部10bへ入力される。同様に右入力信号Rinも2つに分岐され、一方は第2クロストークキャンセル処理部10bへ入力され、他方は第1クロストークキャンセル処理部10aへ入力される。
【0018】
第1および第2クロストークキャンセル処理部10a,10bは、入力信号に対して再生時に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施す。
具体的には、第1クロストークキャンセル処理部10aは、入力された左右入力信号Lin,Rinに対して第1左ステレオスピーカ20aおよび第1右ステレオスピーカ30aで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L1outおよび右出力信号R1outを得る。当該左出力信号L1outおよび右出力信号R1outは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して第1左右ステレオスピーカ20a,30aから再生される。
【0019】
第2クロストークキャンセル処理部10bは、入力された左右入力信号Lin,Rinに対して第2左ステレオスピーカ20bおよび第2右ステレオスピーカ30bで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L2outおよび右出力信号R2outを得る。当該左出力信号L2outおよび右出力信号R2outは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して第2左右ステレオスピーカ20b,30bから再生される。
なお、クロストークキャンセル処理は、例えば非特許文献1において開示されている処理を用いればよい。また、これに限定されず、クロストークを抑制する機能をもった任意の処理技術を用いても良い。
【0020】
次に、この実施の形態1のオーディオ再生装置を構成するステレオスピーカの配置について説明する。図2および図3は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
図2および図3に示すように、実施の形態1のオーディオ再生装置は2対のステレオスピーカ、すなわち第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30a、および第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを備えている。これらのステレオスピーカは、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分とが少なくとも1点で交わるように配置する。
【0021】
図2に示す例では、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分Xと、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分Yとが、交点Gで交わっている。
また、図3に示す例では、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分が、線分Z上に位置するように配置される。このとき、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aとの間に第2左ステレオスピーカ20bが位置している。これにより、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分が一部共通部分を有し、少なくとも1点で交わるという配置条件を満たすこととなる。
【0022】
次に、図2および図3で示したステレオスピーカの配置を適用した場合に形成されるスイートスポットについて説明する。図4および図5は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図であり、図4は図2のステレオスピーカの配置を適用した場合のスイートスポットを示し、図5は図3のステレオスピーカの配置を適用した場合のスイートスポットを示している。
【0023】
まず、図4に示すスイートスポットについて説明を行う。図4では4つのスイートスポットが形成されている。第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア41のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア42のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bおよび第2右ステレオスピーカ30bによりエリア43のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア44のスイートスポットが形成される。ここで、エリア44がエリア42よりもステレオスピーカ位置に近くなっているのは、上述したとおりスイートスポットはステレオスピーカの見開き角度に依存して形成されるためである。
【0024】
次に、図5に示すスイートスポットについて説明を行う。図5においても、同様に4つのスイートスポットが形成されている。第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア51のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア52のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア53のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア54のスイートスポットが形成される。ここで、エリア54がエリア52よりもステレオスピーカ位置に近くなっているのは、上述したとおりスイートスポットはステレオスピーカの見開き角度に依存して形成されるためである。
【0025】
図2および図3に示したステレオスピーカの配置を採用すると、図4および図5に示すようにステレオスピーカ列に対して平行方向に3列のスイートスポットが形成される。これにより、ステレオスピーカ列に対して平行方向に横並びで3人のユーザが位置した場合でも良好にクロストークが抑制され、仮想音像定位効果を得ることができる。また、ステレオスピーカの中央位置では、ステレオスピーカ列に対して垂直方向に長いスイートスポットが形成される。これにより、ユーザのステレオスピーカ列に対して垂直方向の動きに対しても良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0026】
以上のように、この実施の形態1によれば、2対のステレオスピーカである、第1左右ステレオスピーカ20a,30aおよび第2左右ステレオスピーカ20b,30bを備え、第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分Xと第2左右ステレオスピーカ20b,30bを結ぶ線分Yとが少なくとも1点で交わるように配置するように構成したので、ステレオスピーカ列の平行方向に3列のスイートスポットが形成され、ユーザが横並びに3人位置した場合であっても良好にクロストークを抑制することが可能となり、良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
また、上記構成により、ステレオスピーカ列に対して垂直方向のスイートスポットの長さが従来よりも長くなり、ユーザのステレオスピーカ列に対して垂直方向の動きに対しても良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0027】
なお、この実施の形態1では、ステレオスピーカの個数(2個)分のクロストークキャンセル処理部10a,10bを設ける構成を示したが、第1左右ステレオスピーカ20a,30aの左右間隔と、第2左右ステレオスピーカ20b,30bの左右間隔とを共通とすることで、1つのクロストークキャンセル処理部で対応可能となる。これにより本発明の実現コストを抑制することができる。
【0028】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。この実施の形態2では、N個のクロストーク処理部およびN対のステレオスピーカを備える構成について示す。なお以下では、実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成要素と同一または相当する部分には、実施の形態1で使用した符号と同一の符号を付して説明を省略または簡略化する。
【0029】
この実施の形態2のオーディオ再生装置は、第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nを備える再生処理部1と、当該再生処理部1から出力される出力信号を再生する第1左右ステレオスピーカ20a,30a、第2左右ステレオスピーカ20b,30b、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nのN対のステレオスピーカで構成されている。
再生処理部1には、バイノーラル音生成処理(図示せず)により生成された左バイノーラル信号および右バイノーラル信号が、左入力信号Linおよび右入力信号Rinとして入力される。左入力信号Linおよび右入力信号Rinは、通常のステレオオーディオ信号や5.1chなどのマルチチャネルオーディオ信号を2chにミックスダウンした信号でもよい。
【0030】
第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nは、入力信号に対して再生時に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施す。
具体的には、左入力信号LinはN個に分岐され、それぞれ第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nへ入力される。同様に右入力信号RinもN個に分岐され、それぞれ第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nへ入力される。
【0031】
第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nは、それぞれ入力された左右入力信号Lin,Rinに対して該当するステレオスピーカで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L1out,L2out,・・・,Lnout、および右出力信号R1out,R2out,・・・,Rnoutを得る。これらの左出力信号L1out,L2out,・・・,Lnout、および右出力信号R1out,R2out,・・・,Rnoutは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して該当するステレオスピーカから再生される。
【0032】
第1左右ステレオスピーカ20a,30a、第2左右ステレオスピーカ20b,30b、・・・、第n左右ステレオスピーカ20n,30nの配置は、実施の形態1と同様に第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分と、第2ステレオスピーカ20b、30bを結ぶ線分、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nを結ぶ線分とが互いに少なくとも1点で交わるように配置する。
【0033】
次に、実施の形態2のオーディオ再生装置を構成するステレオスピーカの配置について説明する。図7は、この発明の実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。図7では3対(N=3)のステレオスピーカを配置する構成を示しており、図7aから図7cは3対のステレオスピーカにより形成されるスイートスポットを分割して示した説明図であり、図7dは図7aから図7cで示したスイートスポット全体を示した説明図である。
【0034】
まず、図7aは、第1左ステレオスピーカ20aと3つの右ステレオスピーカ30a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア61のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア62のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第3右ステレオスピーカ30cによりエリア63のスイートスポットが形成される。
【0035】
次に、図7bは、第2左ステレオスピーカ20bと3つの右ステレオスピーカ20a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア71のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aにより72のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第3右ステレオスピーカ30cにより73のスイートスポットが形成される。
【0036】
図7cは、第3左ステレオスピーカ20cと3つの右ステレオスピーカ30a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第3左ステレオスピーカ20cと第3右ステレオスピーカ30cによりエリア81のスイートスポット、第3左ステレオスピーカ20cと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア82のスイートスポット、第3左ステレオスピーカ20cと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア83のスイートスポットが形成される。
【0037】
図7dは、3対のステレオスピーカによって形成されるスイートスポット全体を示す図であり、図7aから図7cにおいて示したスイートスポットを合せて表示したものである。図7dに示すように、ステレオスピーカ列に対して平行方向および垂直方向共にスイートスポットが拡大して形成されている。
【0038】
以上のように、この実施の形態2によれば、N対のステレオスピーカを備え、第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分と、第2ステレオスピーカ20b、30bを結ぶ線分、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nを結ぶ線分とが互いに少なくとも1点で交わるように配置するように構成したので、ステレオスピーカ列に対して平行方向および垂直方向に良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0039】
なお、この実施の形態2では、ステレオスピーカ対の個数N=3の場合のスイートスポットを示したが、N≧3の場合にはステレオスピーカ総数は2N個、クロストークキャンセル処理部の数はN個となるが、任意の左右ステレオスピーカの組み合わせによって生成されるスイートスポットの数はNの二乗となるため、スピーカ総数やクロストークキャンセル処理部の個数よりも多くの個数のスイートスポットが生成され、結果として全体のスイートスポットを拡大することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0040】
1 再生処理部、10a,10b,10n クロストークキャンセル処理部、20a,20b,20c,20n 左ステレオスピーカ、30a,30b,30c,30n 右ステレオスピーカ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカ再生によって、任意の位置への仮想的な音像定位を実現するオーディオ再生技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つのスピーカのみを用いて、空間の任意の位置に音源が存在するようにリスナーに知覚させるオーディオ再生技術(以下、仮想音像定位技術と称する。)が知られている。
仮想音像定位技術の実現方法は、例えば、非特許文献1に開示されている。当該非特許文献1によると、ある空間における任意の音源位置から、同じ空間内の任意の位置にいる人間の両耳までの伝達特性を測定ないし推定しておき、これを入力音源に畳み込むことにより、両耳に到達するのと同等の信号を生成する。このようにして生成した信号をバイノーラル信号と呼び、ヘッドホンなどの再生機器を用いてバイノーラル信号を両耳に提示することにより、任意の位置に音源があるかのようにリスナーに錯覚させることができる。
【0003】
ただし、再生機器がスピーカである場合には、バイノーラル信号を正しく両耳に届けるために、以下に述べるクロストークキャンセル処理が必要となる。すなわち、スピーカ再生において、片方の耳(例えば右耳)に提示する信号を片方のスピーカ(例えば右スピーカ)からそのまま再生すると、反対側の耳(例えば左耳)にも音が到達するという、いわゆるクロストークが発生するため、バイノーラル信号を正しく両耳に提示することができず、想定した位置に音像が定位しなくなるという問題が起こる。
【0004】
図8は、ステレオ再生系におけるクロストークを示す図である。図8において左スピーカ101から再生した音は、伝達経路201を通ってリスナー103の左耳に到達するが、伝達経路202を通ってリスナー103の右耳にも到達する。また、右スピーカ102から再生した音は、伝達経路203を通ってリスナー103の右耳に到達するが、伝達経路204を通ってリスナー103の左耳にも到達する。伝達経路202ないし204を通ってリスナー103の反対側の耳に到達する音成分がクロストークである。
【0005】
図9は、従来のクロストーク抑制方法を示す図である。非特許文献1には、図9に示す4つのフィルタ104,105,106,107を用いた処理構成によってクロストークを抑圧する方法が示されている。図9の動作原理は、一方のスピーカから発生するクロストークを、他方のスピーカから、リスナー耳元でちょうどクロストークと逆相になるような信号(以下、抑圧信号と称する。)を再生することで、リスナー耳元に到達するクロストーク成分を打ち消す原理となっている。これにより、スピーカ再生でも、バイノーラル信号を正しくリスナー両耳に届けることが可能となる。
【0006】
ただし、上述した非特許文献1のクロストークキャンセル処理(以下、従来のクロストークキャンセル処理と称する。)は、想定している再生系と実環境が完全に一致するときに良好に働くが、想定している再生系と実環境が異なる場合、例えば、リスナーの位置が想定した位置からずれている場合にはクロストークの抑圧性能が劣化することが、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1によると、従来のクロストークキャンセル処理では、リスナーの奥行き方向の動きに対しては1m程度ずれても効果が持続するが、左右の動きに対しては、僅か10cmのずれでも良好なクロストークキャンセル効果が得られなくなることが示されている。すなわち、抑圧効果が得られるエリア(以下、スイートスポットと称する。)は、おおよそ図10に示されるエリア108のような形となる。
【0007】
ここで、クロストークキャンセル処理は、一方のスピーカから発生するクロストーク信号がリスナーに到達するタイミングと、他方のスピーカから再生する抑圧信号がリスナーに到達するタイミングとを合わせる必要があり、このタイミングがずれると互いに逆相関係とはならなくなるため、クロストーク抑圧効果が大幅に劣化してしまう。ここで、リスナーが前後方向に動くと、一方のスピーカとリスナーとの距離は近くまたは遠くなり、他方のスピーカとリスナーとの距離も同様に近くまたは遠くなることで、リスナーと左右スピーカの距離差の変化が少ないため、1m以上のロバスト性を確保できる。すなわち、リスナーの前後方向の動きに対しては、リスナーとスピーカ間の距離よりも、リスナーと左右スピーカとの見開き角のほうが、抑圧性能を左右する大きな要因であると言える。言い換えると、リスナーと左右スピーカとの見開き角度が等しければ、リスナーとスピーカ間の距離が大きく異なっていてもほぼ同様の抑圧効果が得られると言える。
【0008】
また、リスナーが左右方向に動くと、リスナーと一方のスピーカとの距離は近くなり、他方のスピーカとの距離は遠くなることで、リスナーと左右スピーカの距離差の変化が大きくなるため、僅かな動きでも抑圧信号の到達タイミングがあわなくなって抑圧効果が得られなくなる。すなわち、リスナーの左右方向の動きに対しては、スピーカ間隔や距離によらず、僅かな位置のずれでもクロストーク抑圧効果が得られなくなると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−92274号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大賀寿朗、山崎芳男、金田豊共著、「音響システムとデジタル処理」社団法人 電子情報通信学会、平成7年3月出版(P.234−P.236)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、非特許文献1および特許文献1に記載された従来のクロストークキャンセル処理では、良好な仮想音像定位効果を得るためにはリスナーはスイートスポット(左右スピーカの中央付近)に頭を保持し続けることを強要され、極めて限定的で不便であるという課題がある。さらに、複数のリスナーがスピーカ列に対して横に並んだ状態では、平均的な人頭の幅は10cm以上あるため、必ずスイートスポットから外れるリスナーが存在することになり、良好な効果が得られなくなるという課題があった。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、スイートスポットを拡張し、複数のリスナーが横に並んだ状態においても仮想音像定位効果が得られるオーディオ再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るオーディオ再生装置は、オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、2対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのキャンセル処理部とを備え、2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されるものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカそれぞれに対応するキャンセル処理部を備え、2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されるように構成したので、スイートスポットを拡張することができ、さらにステレオスピーカ列に対して平行方向にユーザが並んで位置した場合にも良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
【図3】実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
【図4】図2のステレオスピーカの配置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図5】図3のステレオスピーカの配置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図6】実施の形態2によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図7a】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7b】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7c】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図7d】実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【図8】ステレオ再生系におけるクロストークを示した図である。
【図9】従来のオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。図1において、オーディオ再生装置は、第1および第2クロストークキャンセル処理部(キャンセル処理部)10a,10bを備える再生処理部1と、当該再生処理部1から出力される出力信号を再生する2対の第1左右ステレオスピーカ20a,30aおよび第2左右ステレオスピーカ20b,30bで構成されている。
再生処理部1には、バイノーラル音生成処理(図示せず)により生成された左バイノーラル信号および右バイノーラル信号が、左入力信号Linおよび右入力信号Rinとして入力される。左入力信号Linおよび右入力信号Rinは、通常のステレオオーディオ信号や5.1chなどのマルチチャネルオーディオ信号を2chにミックスダウンした信号でもよい。
【0017】
左入力信号Linは2つに分岐され、一方は第1クロストークキャンセル処理部10aへ入力され、他方は第2クロストークキャンセル処理部10bへ入力される。同様に右入力信号Rinも2つに分岐され、一方は第2クロストークキャンセル処理部10bへ入力され、他方は第1クロストークキャンセル処理部10aへ入力される。
【0018】
第1および第2クロストークキャンセル処理部10a,10bは、入力信号に対して再生時に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施す。
具体的には、第1クロストークキャンセル処理部10aは、入力された左右入力信号Lin,Rinに対して第1左ステレオスピーカ20aおよび第1右ステレオスピーカ30aで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L1outおよび右出力信号R1outを得る。当該左出力信号L1outおよび右出力信号R1outは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して第1左右ステレオスピーカ20a,30aから再生される。
【0019】
第2クロストークキャンセル処理部10bは、入力された左右入力信号Lin,Rinに対して第2左ステレオスピーカ20bおよび第2右ステレオスピーカ30bで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L2outおよび右出力信号R2outを得る。当該左出力信号L2outおよび右出力信号R2outは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して第2左右ステレオスピーカ20b,30bから再生される。
なお、クロストークキャンセル処理は、例えば非特許文献1において開示されている処理を用いればよい。また、これに限定されず、クロストークを抑制する機能をもった任意の処理技術を用いても良い。
【0020】
次に、この実施の形態1のオーディオ再生装置を構成するステレオスピーカの配置について説明する。図2および図3は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置のステレオスピーカの配置を示す説明図である。
図2および図3に示すように、実施の形態1のオーディオ再生装置は2対のステレオスピーカ、すなわち第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30a、および第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを備えている。これらのステレオスピーカは、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分とが少なくとも1点で交わるように配置する。
【0021】
図2に示す例では、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分Xと、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分Yとが、交点Gで交わっている。
また、図3に示す例では、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分が、線分Z上に位置するように配置される。このとき、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aとの間に第2左ステレオスピーカ20bが位置している。これにより、第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aを結ぶ線分と、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bを結ぶ線分が一部共通部分を有し、少なくとも1点で交わるという配置条件を満たすこととなる。
【0022】
次に、図2および図3で示したステレオスピーカの配置を適用した場合に形成されるスイートスポットについて説明する。図4および図5は、この発明の実施の形態1によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図であり、図4は図2のステレオスピーカの配置を適用した場合のスイートスポットを示し、図5は図3のステレオスピーカの配置を適用した場合のスイートスポットを示している。
【0023】
まず、図4に示すスイートスポットについて説明を行う。図4では4つのスイートスポットが形成されている。第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア41のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア42のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bおよび第2右ステレオスピーカ30bによりエリア43のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア44のスイートスポットが形成される。ここで、エリア44がエリア42よりもステレオスピーカ位置に近くなっているのは、上述したとおりスイートスポットはステレオスピーカの見開き角度に依存して形成されるためである。
【0024】
次に、図5に示すスイートスポットについて説明を行う。図5においても、同様に4つのスイートスポットが形成されている。第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア51のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア52のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア53のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア54のスイートスポットが形成される。ここで、エリア54がエリア52よりもステレオスピーカ位置に近くなっているのは、上述したとおりスイートスポットはステレオスピーカの見開き角度に依存して形成されるためである。
【0025】
図2および図3に示したステレオスピーカの配置を採用すると、図4および図5に示すようにステレオスピーカ列に対して平行方向に3列のスイートスポットが形成される。これにより、ステレオスピーカ列に対して平行方向に横並びで3人のユーザが位置した場合でも良好にクロストークが抑制され、仮想音像定位効果を得ることができる。また、ステレオスピーカの中央位置では、ステレオスピーカ列に対して垂直方向に長いスイートスポットが形成される。これにより、ユーザのステレオスピーカ列に対して垂直方向の動きに対しても良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0026】
以上のように、この実施の形態1によれば、2対のステレオスピーカである、第1左右ステレオスピーカ20a,30aおよび第2左右ステレオスピーカ20b,30bを備え、第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分Xと第2左右ステレオスピーカ20b,30bを結ぶ線分Yとが少なくとも1点で交わるように配置するように構成したので、ステレオスピーカ列の平行方向に3列のスイートスポットが形成され、ユーザが横並びに3人位置した場合であっても良好にクロストークを抑制することが可能となり、良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
また、上記構成により、ステレオスピーカ列に対して垂直方向のスイートスポットの長さが従来よりも長くなり、ユーザのステレオスピーカ列に対して垂直方向の動きに対しても良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0027】
なお、この実施の形態1では、ステレオスピーカの個数(2個)分のクロストークキャンセル処理部10a,10bを設ける構成を示したが、第1左右ステレオスピーカ20a,30aの左右間隔と、第2左右ステレオスピーカ20b,30bの左右間隔とを共通とすることで、1つのクロストークキャンセル処理部で対応可能となる。これにより本発明の実現コストを抑制することができる。
【0028】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2によるオーディオ再生装置の構成を示すブロック図である。この実施の形態2では、N個のクロストーク処理部およびN対のステレオスピーカを備える構成について示す。なお以下では、実施の形態1によるオーディオ再生装置の構成要素と同一または相当する部分には、実施の形態1で使用した符号と同一の符号を付して説明を省略または簡略化する。
【0029】
この実施の形態2のオーディオ再生装置は、第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nを備える再生処理部1と、当該再生処理部1から出力される出力信号を再生する第1左右ステレオスピーカ20a,30a、第2左右ステレオスピーカ20b,30b、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nのN対のステレオスピーカで構成されている。
再生処理部1には、バイノーラル音生成処理(図示せず)により生成された左バイノーラル信号および右バイノーラル信号が、左入力信号Linおよび右入力信号Rinとして入力される。左入力信号Linおよび右入力信号Rinは、通常のステレオオーディオ信号や5.1chなどのマルチチャネルオーディオ信号を2chにミックスダウンした信号でもよい。
【0030】
第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nは、入力信号に対して再生時に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施す。
具体的には、左入力信号LinはN個に分岐され、それぞれ第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nへ入力される。同様に右入力信号RinもN個に分岐され、それぞれ第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nへ入力される。
【0031】
第1クロストークキャンセル処理部10a、第2クロストークキャンセル処理部10b、・・・、第Nクロストークキャンセル処理部10nは、それぞれ入力された左右入力信号Lin,Rinに対して該当するステレオスピーカで再生する際に発生するクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を施し、左出力信号L1out,L2out,・・・,Lnout、および右出力信号R1out,R2out,・・・,Rnoutを得る。これらの左出力信号L1out,L2out,・・・,Lnout、および右出力信号R1out,R2out,・・・,Rnoutは、D/A回路やパワーアンプなど(図示せず)を経由して該当するステレオスピーカから再生される。
【0032】
第1左右ステレオスピーカ20a,30a、第2左右ステレオスピーカ20b,30b、・・・、第n左右ステレオスピーカ20n,30nの配置は、実施の形態1と同様に第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分と、第2ステレオスピーカ20b、30bを結ぶ線分、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nを結ぶ線分とが互いに少なくとも1点で交わるように配置する。
【0033】
次に、実施の形態2のオーディオ再生装置を構成するステレオスピーカの配置について説明する。図7は、この発明の実施の形態2によるオーディオ再生装置により形成されるスイートスポットを示す説明図である。図7では3対(N=3)のステレオスピーカを配置する構成を示しており、図7aから図7cは3対のステレオスピーカにより形成されるスイートスポットを分割して示した説明図であり、図7dは図7aから図7cで示したスイートスポット全体を示した説明図である。
【0034】
まず、図7aは、第1左ステレオスピーカ20aと3つの右ステレオスピーカ30a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第1左ステレオスピーカ20aと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア61のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア62のスイートスポット、第1左ステレオスピーカ20aと第3右ステレオスピーカ30cによりエリア63のスイートスポットが形成される。
【0035】
次に、図7bは、第2左ステレオスピーカ20bと3つの右ステレオスピーカ20a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第2左ステレオスピーカ20bと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア71のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第1右ステレオスピーカ30aにより72のスイートスポット、第2左ステレオスピーカ20bと第3右ステレオスピーカ30cにより73のスイートスポットが形成される。
【0036】
図7cは、第3左ステレオスピーカ20cと3つの右ステレオスピーカ30a,30b,30cによって形成されるスイートスポットを示した図である。
第3左ステレオスピーカ20cと第3右ステレオスピーカ30cによりエリア81のスイートスポット、第3左ステレオスピーカ20cと第1右ステレオスピーカ30aによりエリア82のスイートスポット、第3左ステレオスピーカ20cと第2右ステレオスピーカ30bによりエリア83のスイートスポットが形成される。
【0037】
図7dは、3対のステレオスピーカによって形成されるスイートスポット全体を示す図であり、図7aから図7cにおいて示したスイートスポットを合せて表示したものである。図7dに示すように、ステレオスピーカ列に対して平行方向および垂直方向共にスイートスポットが拡大して形成されている。
【0038】
以上のように、この実施の形態2によれば、N対のステレオスピーカを備え、第1左右ステレオスピーカ20a,30aを結ぶ線分と、第2ステレオスピーカ20b、30bを結ぶ線分、・・・、第N左右ステレオスピーカ20n,30nを結ぶ線分とが互いに少なくとも1点で交わるように配置するように構成したので、ステレオスピーカ列に対して平行方向および垂直方向に良好な仮想音像定位効果を得ることができる。
【0039】
なお、この実施の形態2では、ステレオスピーカ対の個数N=3の場合のスイートスポットを示したが、N≧3の場合にはステレオスピーカ総数は2N個、クロストークキャンセル処理部の数はN個となるが、任意の左右ステレオスピーカの組み合わせによって生成されるスイートスポットの数はNの二乗となるため、スピーカ総数やクロストークキャンセル処理部の個数よりも多くの個数のスイートスポットが生成され、結果として全体のスイートスポットを拡大することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0040】
1 再生処理部、10a,10b,10n クロストークキャンセル処理部、20a,20b,20c,20n 左ステレオスピーカ、30a,30b,30c,30n 右ステレオスピーカ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、
前記2対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのキャンセル処理部とを備え、
前記2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【請求項2】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、
前記2対のステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う1つクロストークキャンセル処理部とを備え、
前記2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対の配置間隔と、他方のステレオスピーカ対の配置間隔とを同一とし、さらに一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【請求項3】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させるN(Nは、N≧3の整数)対のステレオスピーカと、
前記N対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行うN個のキャンセル処理部とを備え、
前記N対のステレオスピーカは、ある一対のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、残りのステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、全ての組み合わせにおいて少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【請求項1】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、
前記2対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う2つのキャンセル処理部とを備え、
前記2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【請求項2】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させる2対のステレオスピーカと、
前記2対のステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行う1つクロストークキャンセル処理部とを備え、
前記2対のステレオスピーカは、一方のステレオスピーカ対の配置間隔と、他方のステレオスピーカ対の配置間隔とを同一とし、さらに一方のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、他方のステレオスピーカ対を結ぶ線分とが少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【請求項3】
オーディオ信号を再生して所定の聴取位置に仮想音源を定位させるN(Nは、N≧3の整数)対のステレオスピーカと、
前記N対のステレオスピーカのうち、それぞれ対応するステレオスピーカに入力されるオーディオ信号に対してクロストークを抑制するクロストークキャンセル処理を行うN個のキャンセル処理部とを備え、
前記N対のステレオスピーカは、ある一対のステレオスピーカ対を結ぶ線分と、残りのステレオスピーカ対を結ぶ線分とが、全ての組み合わせにおいて少なくとも1点で交わる位置に配置されることを特徴とするオーディオ再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−54669(P2012−54669A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193949(P2010−193949)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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