説明

オートクレーブ滅菌を利用した自動細胞培養装置及びその使用方法

【課題】複数の被検者の細胞培養に使用しても交叉汚染が生じず、冷蔵保管部や常温保管部を含めて滅菌可能な自動細胞培養装置。
【解決手段】被検者の細胞培養に必要な培養操作部、細胞培養のインキュベータ部、試薬類を保存するための冷蔵保管部、培養器具類の常温保管部、試薬類及び培養器具類の入出庫部、オートクレーブ滅菌の蒸気供給部とを備えた自動細胞培養装置に於いて、インキュベータ部、冷蔵保管部、常温保管部及び入出庫部は、それぞれ操作部に連通すると共に、操作部との間にそれぞれ密閉扉を設け、更に操作部に供給される気流の除塵及び除菌を行うフィルタ部、フィルタ部及び前記操作部の間に密閉扉とを設ける。これらの密閉扉を選択して開閉することにより、操作部、操作部に通ずるインキュベータ部、冷蔵保管部、常温保管部及び入出庫部の何れかに蒸気供給部からの蒸気を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ滅菌を利用した自動細胞培養装置及びその使用方法に関し、更に詳細には、複数の被検者の細胞培養に使用しても交叉汚染が生じることがなく、しかも保管部を含めて完全に滅菌することが可能な自動細胞培養装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の皮膚、軟骨、骨、血管、臓器等の細胞、組織等を取り出して、対外で培養した後、同一人又は他人の治療に使用するという再生医療が発達し、一部では実用化され始めている。このような再生医療に於いては、人体から採取した少量の細胞が体外で培養されるが、この細胞培養に際しては、培養細胞の汚染を防止することが重要である。特に複数の被検者の細胞培養を同時に行う場合には、培養中に他人の細胞やこれに付着していた感染症の細菌、ウィルス、マイコプラズマ等が混入するという交叉汚染を如何にして防止するかが重要な問題となる。
【0003】
一方、再生医療の実用化には安全で低コストの細胞培養が求められており、インキュベーション、培地交換操作、継代操作等を細胞培養完了まで繰り返して自動で行う自動化装置の必要性が検討されている。このような培養操作の自動化に際しては、上述の交叉汚染の問題を避けるため、現状では、一人の被検者に一台の細胞培養装置を専用で細胞培養完了まで使用する、ダウンフローの気流を使用した不完全な汚染対策の下で培養装置を使用する、等の方法が採用されているが、上記の問題の十分な解決策とはなっていない。
【0004】
即ち、一人に一台の細胞培養装置を専用で使用する場合、他人の細胞はその装置内には存在しないため、培養中に交叉汚染が起こるという問題はない。しかし、装置の利用効率の点からコストが高くなるという問題がある。また、ダウンフローの気流を使用した培養装置では、他人の細胞が同じ装置内に存在することとなり、その細胞やこれに付着している細菌、ウィルス、マイコプラズマ等が他の被検者用の容器などに付着することを完全に防止することができず、交叉汚染の問題の十分な解決策とはなっていない。
【0005】
このような問題を解決するため、交叉汚染を防止しつつ複数の被検者の細胞培養を可能とする装置の開発が行われている(特許文献1)。この自動培養装置ではインキュベータ部を複数備え、培地交換操作、継代操作等の培養操作を行う操作部は共通で使用し、一人の被検者の培養操作が終わる度にオゾン等によるガス滅菌が行われるが、これらの残留ガスが装置内に存在すると、培養すべき細胞が死滅するという問題点がある。また、この自動培養装置では、装置本体内のインキュベータ部や操作部は滅菌することができるが、培養装置に付随した、例えば培養に使用する試薬類や培養器具類を保管する保管部、試薬類や培養器具類の搬入及び搬出を行うための入出庫部等を滅菌することはできない。そのため、保管部や入出庫部を含めて完全に交叉汚染を防ぐことはできない。
【特許文献1】国際公開第2004/011593号パンフレット(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点を解決するために為されたものであり、本発明の課題は、複数の被検者の細胞培養に使用しても交叉汚染が生じることがなく、しかも保管部、入出庫部等を含めて完全に滅菌することが可能な自動細胞培養装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のオートクレーブ滅菌を利用した自動細胞培養装置は、被検者の細胞培養に必要な培養操作を行うための操作部と、細胞を培養するためのインキュベータ部と、培養に必要な試薬類や培養器具類を保管する保管部と、オートクレーブ滅菌を行うための蒸気供給部とを備え、前記インキュベータ部、前記保管部は、それぞれ前記操作部に連通すると共に、前記操作部との間にそれぞれ密閉扉を備えており、該密閉扉を選択して開閉することにより、前記操作部と、該操作部に通ずる前記インキュベータ部及び前記保管部の何れかとに前記蒸気供給部からの滅菌蒸気が供給されることを特徴とする。
【0008】
本発明の自動細胞培養装置ではオートクレーブ滅菌が採用されているため、ガス滅菌とは異なり残留ガスの心配がないため、短時間で滅菌を完了することが可能である。また、オートクレーブ滅菌は、通常、病院等の医療機関で使用される滅菌装置で採用されており、滅菌効果が高いため、確実に交叉汚染を防止することができる。
【0009】
また、操作部に通ずるインキュベータ部及び保管部は、密閉扉を開閉することにより、操作部と連通させることができるため、滅菌が必要なときに操作部と共に滅菌を行うことが可能となっている。
また、前記自動細胞培養装置に於いては、試薬及び培養器具類の出し入れを行うための入出庫部を更に備え、前記入出庫部は前記操作部に連通すると共に、前記操作部との間に密閉扉を備えており、前記密閉扉を開閉することにより前記蒸気供給部からの滅菌蒸気が供給されるように構成される。
これにより、入出庫部は密閉扉を開閉することにより、操作部と連通させることができるため、滅菌が必要な時に操作部と共に滅菌を行うことが可能となっている。
【0010】
また、上記自動細胞培養装置に於いては、前記操作部に供給される気流の除塵及び除菌を行うフィルタ部と、該フィルタ部及び前記操作部の間に設けられた密閉扉とを更に備え、オートクレーブ滅菌に際して前記フィルタ部を前記操作部から遮断するように構成される。
【0011】
これにより、オートクレーブ滅菌に際してフィルタ部が熱や蒸気により損傷を受けることを防止することができる。
【0012】
ここで、前記操作部には、操作ロボットと、遠心分離器と、細胞培養に必要な培養操作機器等を設け、前記操作部は、前記操作ロボット及び前記遠心分離器を配置した機器設置部と、前記培養操作機器を配置した培養操作部とを備えた構成とし、前記機器設置部と前記培養操作部との間に遮断装置を設けてもよい。これにより、前記培養操作部のみを滅菌することが可能となる。
【0013】
本発明に於いて、前記細胞培養に必要な培養操作機器には、ターンテーブルと、ピペット装置と、遠心管ハンドリング装置とが含まれ、前記細胞培養に必要な前記培養操作には、培地交換操作と継代操作とが含まれる構成とすることができる。
【0014】
本発明の自動細胞培養装置の使用方法は、上記何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、一人の被検者についての前記培養操作を行った後、前記全ての密閉扉を閉じることにより、前記操作部のみの滅菌を行うことを特徴とする。
【0015】
これにより、インキュベータ部に於いて複数の被検者の細胞培養を行うと共に、共通の操作部で複数の被検者についての個別の培養操作を交叉汚染を防止しつつ行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明の自動細胞培養装置の使用方法は、上記何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、一人の被検者についての細胞培養が完了した後、前記インキュベータ部と前記操作部との間の密閉扉を開けると共に、当該密閉扉以外の密閉扉を閉じることにより、前記インキュベータ部及び前記操作部のみの滅菌を行うことを特徴とする。
【0017】
これにより、各インキュベータ部を異なる複数の被検者のために独立して使用することが可能となり、自動細胞培養装置の利用効率を高めることができる。
【0018】
更に、本発明の自動細胞培養装置の使用方法は、上記何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、該自動細胞培養装置の保守時に、滅菌が必要な前記インキュベータ部、前記冷蔵保管部及び前記常温保管部と前記操作部との間の前記密閉扉を開いて、前記操作部と同時に前記インキュベータ部、前記冷蔵保管部及び前記常温保管部の滅菌を行うことを特徴とする。
【0019】
これにより、自動細胞培養装置の内部の滅菌が必要な部分の保守を簡単に行うことが可能となる。
【0020】
ここで、上記の自動細胞培養装置の使用方法に於いては、前記入出庫部と前記操作部との間の前記密閉扉を更に開いて、前記入出庫部の滅菌を同時に行ってもよい。
【0021】
また、前記機器設置部と前記培養操作部との間に遮断装置を設けた自動細胞培養装置では、この遮断装置を閉じることにより、前記培養操作部のみの滅菌を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の自動細胞培養装置ではオートクレーブ滅菌が採用されているため、ガス滅菌のように残留ガスの心配がなく、短時間で滅菌が完了する。しかも、オートクレーブ滅菌の採用により、病院等のような通常の医療機関で使用される滅菌装置と同様に高い滅菌効果が発揮される。
【0023】
また、密閉扉の選択的な開閉により、被検者ごと、培養操作ごとに必要な部分のみを滅菌することができるので、一台の装置で複数の被検者の細胞培養を行う装置でありながら、確実に交叉汚染を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のオートクレーブ滅菌を利用した自動細胞培養装置及びその製造方法について、図面を参照しながら以下に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係る自動細胞培養装置の平面図であり、図1の装置をP−P線で破断して矢視右側上方から見た場合の斜視図を図2に示す。また、図3及び図4は、図1のQ−Q線矢視断面図を表している。本実施形態の自動細胞培養装置は、図1及び図2に示すように、操作部11と、複数のインキュベータ部14と、保管部としての冷蔵保管部16及び常温保管部17と、入出庫部15と、蒸気供給部22とを備えている。
【0026】
操作部11は被検者の細胞培養に必要な培養操作を行うためのスペースであり、図1に示すように、培養操作部13とそれ以外の機器設置部12とにより構成されている。培養操作部13には、図1に示すように、ターンテーブル31と、ピペット装置32と、遠心管ハンドリング装置33と、図示しない使用済み薬剤廃棄装置が設置されている。また、機器設置部12には、人手に代わって実際の培養操作を行う操作ロボット19と、遠心分離器21とが設置されている。これらの操作ロボット19、遠心分離器21、ターンテーブル31、ピペット装置32、遠心管ハンドリング装置33等は、図1に示すコントローラ23の制御の下に動作している。
【0027】
インキュベータ部14は細胞を培養するためのスペースであり、図3及び図4に示すように、インキュベータ部14のそれぞれの内部には、細胞培養に使用される多数のシャーレ34を保持する多段式のシャーレラック35が配されている。また、図1に示すように、各インキュベータ部14には、培養雰囲気を調整するための二酸化炭素ガスを供給する配管14aが接続されている。なお、図2では配管14aは2本のみ画かれているが、実際には全てのインキュベータ部14に二酸化炭素ガスを供給する配管14aが接続されている。本実施形態では、一つのインキュベータ部14内で培養される培養細胞は同一の被検者に由来するものに限定され、インキュベータ部14ごとに異なる被検者の培養細胞を培養することができるようになっている。
【0028】
冷蔵保管部16は、培養に必要な試薬類を冷蔵保存するために設けられており、この試薬類として、培地、培養細胞剥離用のトリプシン溶液等を例示することができる。冷蔵保管部16には、既に滅菌済みの試薬類が収蔵されている。
【0029】
常温保管部17は、細胞培養に使用する培養器具類や常温保存が必要な薬剤を保管するために設けられており、この培養器具類として、培地交換に際して使用するピペットチップ、遠心管等を例示することができる。常温保管部17には、既に滅菌済みの培養器具類が収蔵されている。さらに、常温保管部17には常温保管が必要な薬品(例えばリン酸干渉バッファ(PBS)や生理食塩水)などが収蔵されている。
【0030】
入出庫部15は、培養すべき細胞、培養後の細胞、試薬類及び培養器具類の出し入れを行うために設けられている。さらに入出庫部は、培養する細胞の搬入口、培養後の搬出口としても利用しても良い。
【0031】
また、蒸気供給部22はオートクレーブ滅菌を行うための蒸気を供給するものであり、例えば121℃の飽和蒸気(滅菌蒸気)を供給することができる。
【0032】
本実施形態では、複数のインキュベータ部14及び一つの入出庫部15は、図2に示すように、上下に3段に設けられた複数の縦列を為して操作部11に取り付けられている。入出庫部15は、図2に示すように、上下3段の縦列の中央に位置している。冷蔵保管部16及び常温保管部17は上下2段の縦列を為し、上側に冷蔵保管部16、下側に常温保管部17が位置している。
【0033】
また、本実施形態の自動細胞培養装置は、図2〜図4に示すように、操作部11の機器設置部12の上方にフィルタ部20a、培養操作部13の上方にフィルタ部20bを備えている。フィルタ部20a及び20bは、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)からなる。
【0034】
本実施形態の装置では、操作部11とインキュベータ部14との間には自動開閉式の密閉扉18a、操作部11と入出庫部15との間には自動開閉式の密閉扉18b、操作部11と冷蔵保管部16との間には自動開閉式の密閉扉18c、操作部11と常温保管部17との間には自動開閉式の密閉扉18dがそれぞれ設けられている。また、図3及び図4に示すように、フィルタ部20aと機器設置部12との間、及びフィルタ部20bと培養操作部13との間には、それぞれ自動開閉式の密閉扉30a及び30bが設けられている。更に、操作部11の機器設置部12及び培養操作部13との間には、遮断装置としての密閉シャッター28が設けられている。これらの密閉扉18a〜d,30a及び30b、並びに密閉シャッター28は、高い機密性と断熱性とを有する材料で形成されており、オートクレーブ滅菌の際には、操作部11からの蒸気の漏れを防ぐとともに、操作部11からの熱伝導を極力抑えることが可能となっている。
【0035】
従って、密閉扉18a〜dが開いている状態では、インキュベータ部14、入出庫部15、冷蔵保管部16及び常温保管部17は操作部11と空間的に連通し、蒸気供給部22からの蒸気により操作部11とともに滅菌されることとなるが、密閉扉18a〜dを閉じたときには、インキュベータ部14、入出庫部15、冷蔵保管部16及び常温保管部17は操作部11からほぼ完全に隔離されることとなり、滅菌蒸気の影響は及ばない。また、フィルタ部20a及び20bに設けられている密閉扉30a及び30bは、操作部11の滅菌に際して閉じることにより、フィルタ部20a及び20bを滅菌蒸気から保護するために設けられている。更に、密閉シャッター28は、これを閉じることにより、機器設置部12又は培養操作部13のみを滅菌することが可能となっている。本実施形態では、密閉扉18a〜d,30a及び30bの開閉、密閉シャッター28の開閉もコントローラ23の制御の下に行われる。
【0036】
図3及び図4に示すように、本実施形態では操作部11の機器設置部12及び培養操作部13には、給気用ファン24及び排気用ファン25により、ダウンフローの気流が供給されている。この気流は、給気用ファン24によりプレフィルタ24aを介して吸引され、その大部分はフィルタ部20aで除塵された後に機器設置部12に供給され、培養操作部13の下方から排気用ファン25によりプレフィルタ25aを介して外部に排気される。また、給気用ファン24で吸引された気流の一部は、フィルタ部20bで除塵された後に培養操作部13に供給され、機器設置部12の下方から排気用ファン25を介して外部に排気される。フィルタ25aを通過した気流は、外部に廃棄することなく吸気用のフィルタ24aを介して後にHEPAフィルタ20aあるいは20bを通すことによって、装置に戻す内部循環を行うことも可能である。機器設置部12及び培養操作部13に供給される気流の量は、シャッター26及びダンパー27により調節される。
【0037】
本実施形態の装置では、細胞培養に必要な培養操作である培地交換操作と継代操作とを自動で行うことができる。本実施形態の自動細胞培養装置に於いては、培地交換操作は以下のようにして行われる。まず、図3に示すように、操作ロボット19がインキュベータ部14内のシャーレラック35に載置されている細胞培養中のシャーレ34を取り出し、図4に示すように培養操作部13の方向に向きを変え、培養操作部13のターンテーブル31上にシャーレ34を移動させる。次に、操作ロボット19はシャーレ34の蓋を開ける。続いて、ピペット装置32がシャーレ内の培地を吸引して廃棄し、新たな培地をシャーレに供給する。次に、操作ロボット19がシャーレ34の蓋を閉じ、インキュベータ部14内のシャーレラック35の元の位置に戻す。このような一連の操作は、コントローラ23の制御の下に行われる。
【0038】
次に、本実施形態の自動細胞培養装置に於ける継代操作は、以下のようにして行われる。まず、前述と同様に操作ロボット19がインキュベータ部14内のシャーレラック35に載置されている細胞培養中のシャーレ34を取り出し、培養操作部13のターンテーブル31上にシャーレ34を移動させ、シャーレ34の蓋を開け、ピペット装置32がシャーレ内の培養液を吸引して廃棄する。次に、ピペット装置32は、培養細胞をシャーレから剥離するためのトリプシン溶液を滴下する。次に、操作ロボット19はシャーレを傾けて回転することにより、トリプシン溶液をシャーレ34の全体に行き渡らせる。細胞がシャーレから剥離したことが例えばTVカメラ(図示せず)等で確認されると、ピペット装置32はシャーレ34内の細胞を含んだ液を、遠心管ハンドリング装置33に保持されている遠心管に移す。遠心管ハンドリング装置33は遠心管にキャップをした後、これを遠心分離器21にセットする。遠心分離器21での遠心分離が終了すると、遠心管ハンドリング装置33は遠心管からキャップを外す。次に、ピペット装置32は遠心管の上澄み液を廃棄し、遠心管の底部に沈降している細胞を吸い出し、ターンテーブル31上の複数の新たなシャーレに少量ずつ分配する。次に、操作ロボット19はこれらのシャーレの蓋を閉じ、インキュベータ部14内のシャーレラック35に一つづつ入れ、その位置が次回の培地交換操作と継代操作のためにコントローラ23に記憶される。
【0039】
本実施形態の自動細胞培養装置に於いては、オートクレーブ滅菌は、一人の被検者についての培養操作後、一人の被検者についての細胞培養が完了した後、自動細胞培養装置の保守時の他、培養細胞、試薬類、培養器具類等をこの装置内に搬入又はこの装置から搬出した時にも行われる。以下、本実施形態の自動細胞培養装置を用いたオートクレーブ滅菌の方法について説明する。
【0040】
図5〜図7は、図1のP−P線矢視断面図を表しており、これらの図に於いては、操作ロボット19は省略してある。まず、一人の被検者について上記の培地交換操作、継代操作等の培養操作を行った後、別の被検者の培養操作を行う場合に行われるオートクレーブ滅菌について説明する。この場合、滅菌すべき場所は操作部11のみなので、各インキュベータ部14の密閉扉18a、入出庫部15の密閉扉18b、冷蔵保管部16の密閉扉18c、常温保管部17の密閉扉18d、並びにフィルタ部20a及び20bの密閉扉30a及び30bが閉じられる。次に、蒸気供給部22から操作部11に、例えば121℃の飽和蒸気が供給される(図6)。その際、密閉扉18a〜dは前述のように高い機密性及び断熱性を有するので、各インキュベータ部14内の培養中の細胞、冷蔵保管部16及び常温保管部17に収蔵されている試薬類、培養器具類に損傷を与えることはない。滅菌に十分な時間が経過した後、蒸気供給を止め、操作部11が常温に戻れば、引き続いて別の被検者の細胞の培養操作を行うことが可能となる。
【0041】
次に、一人の被検者についての細胞培養が完了した後に行われるオートクレーブ滅菌について説明する。この場合の滅菌は、培地交換操作、継代操作等の培養操作を繰り返して行うことにより、所定の程度までの培養が完了し、その培養細胞を取り出した後において行われるものである。この場合、滅菌すべき場所は操作部11と特定のインキュベータ部14のみなので、そのインキュベータ部14の密閉扉18aを開けると共に、他の全ての密閉扉18a〜d、並びに密閉扉30a及び30bが閉じられる。次に、蒸気供給部22から例えば121℃の飽和蒸気が供給される。その際、滅菌すべきインキュベータ部14の密閉扉18aは開けられているので、滅菌蒸気により操作部11及び当該インキュベータ部14のみの滅菌が行われることとなる。滅菌に十分な時間が経過した後、蒸気供給を止め、当該インキュベータ部14及び操作部11が常温に戻れば、滅菌済みのインキュベータ部14を用いて別人の細胞培養が開始されることとなる。
【0042】
更に、オートクレーブ滅菌は、自動細胞培養装置の保守時にも行われる。この場合の滅菌は、冷蔵保管部16の密閉扉18c及び常温保管部17の密閉扉18dの何れか一方又は両方と、滅菌が必要なインキュベータ部14の密閉扉18aを開き、他の全ての密閉扉18a〜b、並びに密閉扉30a及び30bが閉じられる。この状態で、蒸気供給部22から例えば121℃の飽和蒸気が供給される。これにより、操作部11と、冷蔵保管部16、常温保管部17及び滅菌すべきインキュベータ部14とが同時に滅菌されることとなる。なお、図7は、インキュベータ部14及び常温保管部17の滅菌は行わず、冷蔵保管部16及び操作部11のみの滅菌を行う場合を表している。
【0043】
また、本実施形態の自動細胞培養装置に於いては、入出庫部15のオートクレーブ滅菌も適宜行われる。入出庫部15の滅菌は、入出庫部15の密閉扉18bを開けておくことにより行うことができ、培養細胞、試薬類、培養器具類等をこの装置内に搬入又はこの装置から搬出した時に随時行うことができ、上述の培養操作後の操作部11の滅菌、一人の被検者の細胞培養完了後に於ける操作部11とインキュベータ部14の滅菌、自動細胞培養装置の保守時の滅菌等と同時に行うことができる。
【0044】
加えて、本実施形態の自動細胞培養装置では、機器設置部12と培養操作部13との間に密閉シャッター28が設けられているので、蒸気供給部22からの滅菌蒸気を培養操作部13のみに導入するようにすれば、密閉シャッター28を閉じることにより、培養操作部13のみの滅菌を行うことができる。また、蒸気供給部22からの滅菌蒸気を機器設置部12のみに導入するようにすれば、密閉シャッター28を閉じることにより、機器設置部12のみの滅菌を行うこともできる。
【0045】
更に、本実施形態の自動細胞培養装置は、その内部全体の滅菌を行うこともできる。即ち、密閉扉30a及び30bを閉じるとともに全ての密閉扉18a〜dを開けることにより、操作部11の機器設置部12及び培養操作部13、インキュベータ部14、入出庫部15、冷蔵保管部16並びに常温保管部17を同時に滅菌することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のオートクレーブ滅菌を利用した自動細胞培養装置及びその使用方法によれば、細胞の培養操作を自動で行うことができるので、再生医療の分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動細胞培養装置の平面図である。
【図2】図1の装置をP−P線で破断して矢視右側上方から見た場合の斜視図である。
【図3】図1のQ−Q線矢視断面図である。
【図4】図1のQ−Q線矢視断面図である。
【図5】図1のP−P線矢視断面図である。
【図6】図5に於いて、蒸気供給部22から操作部11に滅菌蒸気を供給した場合を表している。
【図7】図1のP−P線矢視断面図であり、冷蔵保管部16と操作部11とを滅菌する場合を表している。
【符号の説明】
【0048】
11 操作部
12 機器設置部
13 培養操作部
14 インキュベータ部
15 入出庫部
16 冷蔵保管部
17 常温保管部
18a〜d 密閉扉
30a,30b 密閉扉
19 操作ロボット
20a,20b フィルタ部
21 遠心分離器
22 蒸気供給部
23 コントローラ
24 給気用ファン
24a,25a プレフィルタ
25 排気用ファン
26 シャッター
27 ダンパー
28 密閉シャッター
31 ターンテーブル
32 ピペット装置
33 遠心管ハンドリング装置
34 シャーレ
35 シャーレラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の細胞培養に必要な培養操作を行うための操作部と、細胞を培養するためのインキュベータ部と、培養に必要な試薬類や培養器具類を保管する保管部と、オートクレーブ滅菌を行うための蒸気供給部とを備え、
前記インキュベータ部及び前記保管部は、それぞれ前記操作部に連通すると共に、前記操作部との間にそれぞれ密閉扉を備えており、該密閉扉を選択して開閉することにより、前記操作部と、該操作部に通ずる前記インキュベータ部及び前記保管部の何れかとに前記蒸気供給部からの滅菌蒸気が供給されることを特徴とする自動細胞培養装置。
【請求項2】
試薬及び培養器具類の出し入れを行うための入出庫部を更に備え、
前記入出庫部は前記操作部に連通すると共に、前記操作部との間に密閉扉を備えており、前記密閉扉を開閉することにより前記蒸気供給部からの滅菌蒸気が供給されることを特徴とする請求項1又は2記載の自動細胞培養装置。
【請求項3】
前記操作部に供給される気流の除塵及び除菌を行うフィルタ部と、該フィルタ部及び前記操作部の間に設けられた密閉扉とを更に備え、オートクレーブ滅菌に際して前記フィルタ部を前記操作部から遮断することを特徴とする請求項1又は2記載の自動細胞培養装置。
【請求項4】
前記操作部は、操作ロボットと、遠心分離器と、細胞培養に必要な培養操作機器とを備えている請求項1乃至3記載の自動細胞培養装置。
【請求項5】
前記操作部は、前記操作ロボット及び前記遠心分離器を配置した機器設置部と、前記培養操作機器を配置した培養操作部とを備え、前記機器設置部と前記培養操作部との間に遮断装置が設けられている請求項4記載の自動細胞培養装置。
【請求項6】
前記培養操作機器には、ターンテーブルと、ピペット装置と、遠心管ハンドリング装置とが含まれる請求項4又は5記載の自動細胞培養装置。
【請求項7】
前記細胞培養に必要な前記培養操作には、培地交換操作と継代操作とが含まれる請求項1又は2記載の自動細胞培養装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、一人の被検者についての前記培養操作を行った後、前記全ての密閉扉を閉じることにより、前記操作部のみの滅菌を行う自動細胞培養装置の使用方法。
【請求項9】
請求項1乃至7の何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、一人の被検者についての細胞培養が完了した後、前記インキュベータ部と前記操作部との間の密閉扉を開けると共に、当該密閉扉以外の密閉扉を閉じることにより、前記インキュベータ部及び前記操作部のみの滅菌を行うことを特徴とする自動細胞培養装置の使用方法。
【請求項10】
請求項1乃至の7何れかの自動細胞培養装置の使用方法であって、該自動細胞培養装置の保守時に、滅菌が必要な前記インキュベータ部、前記保管部と前記操作部との間の前記密閉扉を開いて、前記操作部と同時に前記インキュベータ部、前記保管部の滅菌を行うことを特徴とする自動細胞培養装置の使用方法。
【請求項11】
前記入出庫部と前記操作部との間の前記密閉扉を更に開いて、前記入出庫部の滅菌を同時に行うことを特徴とする請求項8乃至10の何れかに記載の自動細胞培養装置の使用方法。
【請求項12】
請求項5記載の自動細胞培養装置の使用方法であって、前記機器設置部と前記培養操作部との間の遮断装置を閉じることにより、前記培養操作部のみの滅菌を行うことを特徴とする自動細胞培養装置の使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−115798(P2006−115798A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309295(P2004−309295)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(504397240)
【Fターム(参考)】