説明

カカオマスの乳酸発酵食品組成物およびその製造方法

【課題】発酵による風味とカカオマスの風味とを兼ね備えるという今までにない新しい風味を有した乳酸発酵食品組成物、および該乳酸発酵食品組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】カカオマス、水分および糖を含む原料を乳酸菌により乳酸発酵して得られることを特徴とする乳酸発酵食品組成物。前記乳酸発酵食品組成物は、カカオマスと水分を主原料とし、少なくとも糖を原料としたものに乳酸菌を接種せしめて乳酸発酵させることで製造する。また、前記の製造方法では、乳酸発酵させたものをさらに凍結乾燥させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオマスを主原料とした乳酸発酵食品組成物およびその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
カカオマスはチョコレートやココアの原料として古くから利用されてきた食材であり、現在に至るまで主に嗜好品として親しまれてきた。しかし、カカオマスにはミネラルやカカオポリフェノールが豊富に含まれていることから、近年その健康効果が期待され注目されている。
【0003】
カカオマスの主な作用は、抗菌作用、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗ストレス作用などが挙げられる。また香りによる集中力や記憶力を高める効果があるとされている(非特許文献1、2、3、特許文献1、2)。
【0004】
チョコレートの起源は紀元前にまでさかのぼるが、18世紀ごろまではすりつぶしたカカオに香辛料や砂糖を混ぜた飲料として用いられてきた。今日のような固形の甘くておいしいチョコレートが誕生したのは、19世紀になって近代的な産業として発展を始めてからである。
【0005】
工業化されたチョコレートの製造工程を以下に述べる。カカオマスの原料であるカカオ豆は収穫後すぐに発酵させる。この工程はカカオ豆の渋みや苦味を減じチョコレートらしい香りや色調を出す重要な工程とされる。発酵したカカオ豆を水洗いし乾燥させ、これを原料として一次加工(焙煎、破砕、磨砕など)経たものがカカオマスである。更に、カカオマスに糖類や乳製品、油脂、香料などを加え、微粒化などの二次加工を経たものがチョコレートである。また、カカオマスから搾油したものがココアパウダーである。
【0006】
カカオマスの原料であるカカオ豆の発酵は、カカオ豆の栽培地の土着の酵母やその他多くの細菌によって行われるものである。発酵方法は産地によって異なるが、大きく分けてヒープ法(Heap法)とボックス法(box法)の2種類がある。ヒープ法はバナナの葉を地面に敷きその上にカカオ豆をパルプと供に積み重ね、上からバナナの葉で包んで発酵させる方法である。ボックス法は木箱による方法である。このような発酵工程はカカオ豆の香りや色を出すための重要な工程ではあるが、慣例的な方法による自然に任せた発酵であり、ビールや発酵乳のように工業的に管理されたものではない。したがって、カカオマスを工業的に発酵させたものはこれまでに例がない。
【0007】
一方、乳酸菌は食品の保存性や風味の付与や栄養価の改善に効果的であることから、チーズ、ヨーグルト、発酵バターなどの乳製品をはじめ、多くの食品に古くから利用されてきた。乳酸菌は、人間の消化器官にすみつくことができる細菌の一種である。研究が進むにつれ、生体への有効な効果も多岐に渡り報告されている。経口摂取での有効性も多く報告されており、特に生きた乳酸菌の摂取によって腸内菌叢を改善し、おなかの調子を整える作用が多く示されている(非特許文献4)。この機能性を証明した食品は「おなかの調子を整える」など機能をうたった特定保健用食品としても販売されている。さらに経口投与で急性下痢症状の抑制(非特許文献5)、乳酸菌が産生する多糖類による免疫機能の調整作用(非特許文献6)、アトピー湿疹症や花粉症などの免疫系疾患に対する効果も示されている(非特許文献7、8、9、10)。これらの乳酸菌の機能性を積極的に利用しようという観点から、プロバイオティクスといわれる概念が提唱され、乳酸菌の利用範囲はますます拡大しており、健康への関心の高まる現在において、乳酸発酵食品は注目を集めている食品の一つである。
【0008】
これまでに、乳製品以外の乳酸発酵食品として、果汁、野菜汁および豆乳などを用いた乳酸発酵物(特許文献3、4、5)が提案されているが、カカオマスを主成分とした乳酸発酵食品組成物は見当たらない。なお、乳酸菌とカカオ由来成分を利用した食品の提案に、凍結乾燥した乳酸菌を含む食品組成物(特許文献6)をチョコレートに添加するものや、調味発酵乳(特許文献7)で発酵乳にチョコレートの味を調味するものもあるが、前者は乳酸菌を含んでいるが発酵食品ではないため発酵の風味を有するものではなく、後者は呈味を目的としたものであり、カカオに含まれる有効な成分を活かす目的のものではない。また、ヨーグルトもしくはチョコレートに水とカカオバターを加えて凍結乾燥した食品(特許文献8)の報告もあるが、これは凍結乾燥食品が滑らかな口溶けを呈することを目的にヨーグルトやチョコレート溶液に食品油脂やカカオバターを添加して凍結乾燥させたものである。そのため、前者はカカオマスを含んでおらず、後者は発酵食品ではないことから、乳酸発酵物およびカカオマスの風味と機能性を併せ持つものではない。
【0009】
カカオマスやチョコレートを主成分とした乳酸発酵食品が見当たらない要因として、カカオマスにポリフェノールが豊富に含まれていることや、カカオマスが抗菌活性を有する(非特許文献11〜13)ことが挙げられる。また、乳酸発酵には、水分が欠かせないが、チョコレートやカカオマスには水分がほとんど含まれておらず、加水なくしては乳酸発酵させられないことも一因に挙げられる。チョコレートへの加水は、チョコレートを変質させることから、ココアやホットチョコレートのような飲料や、チョコレートに少量の生クリームなどの水分を加えた含水チョコレートを除いて、一般的に水を用いることは好ましくない。また、カカオマスに水とスターター乳酸菌を加えただけでは乳酸菌の増殖は見られず、発酵が起こらない。
【0010】
ここで、カカオマスに含まれる栄養成分は、およそ50〜55%が油脂であるカカオバターであり、タンパク質は10%強、その他炭水化物(約15%の炭水化物、約6%のデンプン、1%未満のショ糖なとの糖類)などが含まれている。また、食物繊維やミネラルも豊富である。ビタミンはビタミンEを除いては豊富とはいえないが、少なからず含まれている。また、微量成分として近年注目されているγ−アミノ酪酸(GABA)も、カカオマスに僅かに含有され、0.09mg/gといわれている。しかしながらGABAの有益な作用を期待する含有量としては低い。
【0011】
カカオマスの他にもGABAを含む食品として、玄米や発酵食品などが知られており、それら食品中のGABA濃度を高める試みも多く見られる。例えば、玄米を発芽させることによりGABA濃度を高めた発芽玄米、茶葉を嫌気処理工程を取り入れることでGABA濃度を高めた茶の製造方法(特許文献9)、牛乳にグルタミン酸(塩)を添加し乳酸発酵させることでGABA濃度を高める(特許文献10)、あるいは工業的にGABAを高含有する食品素材の製造方法等の特許(特許文献11、12)など数多くの例があげられる。なお、GABAは、哺乳類をはじめとした多くの生物に存在する抑制性神経伝達物質と考えられているアミノ酸である。GABAを経口投与することで高血圧者の血圧を低下させることが証明され、商品化されている((株)ヤクルト本社、GABA含有発酵乳飲料「プレティオ」)。また、リラックス効果を有するとの報告も散見され、通常のチョコレートに添加物としてGABAを加える製造方法も知られている(特許文献13)。また、チョコレートにGABAを配合した商品(江崎グリコ(株)GABA含有チョコレート「GABA」)も販売されている。
【0012】
工業的なGABAの製造方法として、培地中に基質となるグルタミン酸、或いはグルタミン酸ナトリウムを添加し、乳酸菌で発酵させGABAを生成する方法がある。これは乳酸菌の有する酵素、グルタミン酸デカルボキシラーゼの作用により、グルタミン酸がGABAに変換される反応を利用したものである。GABAそのものの製造や、お茶、味噌など多くの食品中のGABA濃度を高めるためにこの原理が応用されているが、カカオマスを乳酸発酵せしめてGABA濃度を高めた例は現在までにない。
【0013】
【特許文献1】特許第3095605号公報
【特許文献2】特許第3594152号公報
【特許文献3】特開2006−42796号公報
【特許文献4】特公平7−4205号公報
【特許文献5】特許第3947083号公報
【特許文献6】特開平10−286078号公報
【特許文献7】特開平11−56231号公報
【特許文献8】特許第3652603号公報
【特許文献9】特許第3038373号公報
【特許文献10】特開平7−227245号公報
【特許文献11】特開2000−210075号公報
【特許文献12】特開2002−300862号公報
【特許文献13】特開2005−348656号公報
【非特許文献1】Eur. J. Oral Sci. 2006 Aug;114(4):p343-8.
【非特許文献2】J. Agric. Food. Chem., 2006, May 31; 55(11):p4062-8
【非特許文献3】福場博保、木村修一、板倉弘重、大澤俊彦編、「チョコレート・ココアの科学と機能」、アイ・ケイコーポレーション、2004年
【非特許文献4】「健康・栄養食品研究」,1998年,Vol.1,No3/4,20-28頁
【非特許文献5】J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr., 1997, Apr; 24(4): p399-404
【非特許文献6】Milk Science, 2004, 53(3),p161-164
【非特許文献7】Clin. Exp. Allergy, 2000, Nov;30(11):p1604-10
【非特許文献8】J. Allergy. Cllin. Immunol., 1997, Feb. 99(2), p179-85
【非特許文献9】Lancet, 2001, Apr. 7, 357(9262), p1076-9
【非特許文献10】Int. Arch. Allergy. Immuno., 2004, Nov; 135(3), p205-15
【非特許文献11】感染症学雑誌(Kansenshogaku Zasshi), 1999, Jul.73(7),p694-701
【非特許文献12】Appl. Environ. Microbiol. 1984, Apr., 47(4),p886-887
【非特許文献13】Appl. Microbiol., 1968, Feb., 16(2), p424-5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記のように、カカオマスは飲食品の原料として幅広く利用されているものの、カカオマスを乳酸発酵させたものはなかった。
【0015】
また、カカオマスを加工したチョコレートに乳酸菌を添加するなどして乳酸菌入りチョコレートを得ることはできるが、これは発酵による独特の風味を有しない。また、チョコレートにヨーグルトを添加した場合、発酵の風味は有するが乳成分が多くなり、チョコレートの風味の印象が薄くなる。したがってこれらの方法では、発酵による風味とカカオマスの風味および機能を兼ね備えた食品になりえない。
【0016】
よって、本発明の課題は、発酵による風味とカカオマスの風味とを兼ね備えるという今までにない新しい風味を有した乳酸発酵食品組成物、および該乳酸発酵食品組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、カカオマスを主原料とした乳酸発酵食品組成物の製造について研究を重ねた結果、意外にも、乳を原料に加えなくとも乳発酵用乳酸菌を用いてカカオマスを発酵させることが可能であることを見出し、得られたカカオマス乳酸発酵食品組成物の特徴についての検討をさらに詳細に行い本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕カカオマス、水分および糖を含む原料を乳酸菌により乳酸発酵して得られることを特徴とする乳酸発酵食品組成物、
〔2〕 乳酸菌の含有量が1×109〜1×107cfu/gであり、水分が0.5%以下である前記〔1〕記載の乳酸発酵食品組成物、
〔3〕 前記糖が、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、乳化オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトースからなる群より選ばれる1種類以上である、前記〔1〕または〔2〕記載の乳酸発酵食品組成物、
〔4〕 カカオマスと水分を主原料とし、少なくとも糖を原料としたものに乳酸菌を接種せしめて乳酸発酵させることを特徴とする、乳酸発酵食品組成物の製造方法、
〔5〕 グルタミン酸またはその塩を原料として添加する請求項4記載の乳酸発酵食品の製造方法、
〔6〕 乳酸発酵させたものをさらに凍結乾燥させる前記〔4〕または〔5〕記載の乳酸発酵食品組成物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、カカオマスの風味と発酵の風味を兼ね備えた新しい風味および食感を有する乳酸発酵食品組成物を得ることができる。
【0019】
また、本来のカカオマス由来の有益な成分、例えばカカオポリフェノール、テオブロミン、ミネラル、さらに食物繊維などに加えて、発酵の結果生じた大量の乳酸菌、必要であればGABAなどのアミノ酸などを強化した、健康維持、増進に極めて有益な乳酸発酵飲食品組成物を製造することができる。
【0020】
また、本発明の乳酸発酵食品組成物を、凍結乾燥させて固形物(凍結乾燥発酵チョコレート)とすることで、従来のチョコレートとは異なる種々の食感と風味が得られる。具体的には、前記凍結乾燥発酵チョコレートは、爽やかな酸味と冷感、さくさくとした食感を有する。また、乳酸発酵食品組成物中に分散する水分を氷結させた後、昇華により水分を除去するため、微細な氷結晶が存在していた部分が空隙となることから、微細な多孔質となり、軽くて口溶けがよく、従来のチョコレート菓子で感じるような油っぽさはなく、さっぱりとした後味を奏する。
【0021】
また、本発明で得られた乳酸発酵食品組成物を飲食品に利用することで、カカオマス由来の有益な成分、例えばカカオポリフェノール、テオブロミン、ミネラル、さらに食物繊維などに加えて、発酵の結果生じた大量の乳酸菌、GABAなどのアミノ酸などを含む、健康維持、増進に極めて有益な飲食品(乳酸菌含有飲料、アイスクリーム、タブレット、乾燥チョコレートなど)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の乳酸発酵食品組成物は、カカオマス、水分および糖を含む原料を乳酸菌により乳酸発酵して得られることを特徴とする。本発明の乳酸発酵食品組成物は、例えば、カカオマスと水を主原料とし、糖を該原料に添加し、乳発酵用乳酸菌用いて乳酸発酵させることにより得られる。
【0023】
主原料とするカカオマスは、その産地や品種を特に制限されない。また、カカオマスに限らず、カカオニブやカカオ豆でも良い。
【0024】
なお、本発明においてカカオマスは、カカオバターなどの油脂成分を45%以上含有するものをいう。したがって、カカオマスに搾油処理を施して得られるココアマスやココアマスに油脂成分を30%未満程度添加したものは、カカオマスの風味、具体的には、チョコレート風味を奏するものではないことから、本発明で用いるカカオマスには含まれない。
【0025】
ここで、チョコレートのおいしさの要素は、原料のカカオ豆が高品質、つまりあらゆる構成成分の総合的な効果であることはいうまでもないが、主要な構成成分である油脂が大きなウェイトを占めている。例えば、カカオマスでは、油脂含量を減らしたり、あるいは元来の構成油脂であるカカオバターをいわゆる代用油脂(他の植物油脂や水素添加やエステル交換など人工的に改変した油脂)に置換したりすると、得られるチョコレートのおいしさは低下してしまう。また、チョコレートの方が、脱脂したココアよりも好まれるという市場の状況からも、カカオマスに含まれる油脂の組成を変えたり、油脂含量を低下させることはチョコレートとしてのおいしさを損ねる一因となる。
このように、カカオマスにおける油脂成分の存在が重要である理由としては、趣向性が油脂そのものの風味に依存していることや、摂食時に前記油脂成分が口中の温度で適度に融解し、口中にカカオ風味が広がるという油脂の物理的特性にも依存していることが考えられる。
したがって、上記のように油脂含量が45%以上と高い状態のカカオマスを発酵させることは、おいしさなどの風味などの観点から、本発明にとっては必要な手法である。さらに、油脂含量の高いカカオマスを発酵させた後に、後述のように凍結乾燥させた発酵チョコレートの固形物は、従来にない溶解性と風味を兼ね備えたものとなる。
【0026】
本発明で全原料中に含有せしめるカカオマスの量は乳酸発酵がスムーズに行え、かつカカオマスの風味が得られる量であればよく、原料の配合比で多少変動するが、通常全原材料に対してカカオマスを固形分として5重量%以上含有させるのが好適であり、より望ましくは10〜35重量%が好適である。
【0027】
カカオマスと共に使用される水分は、水の他に牛乳、還元乳、獣乳、果汁、ワインなどカカオマスと混和するのに使用できるものであって、最終製品の出来上がりに影響を及ぼさない水系液体であれば特に限定されるものでない。ただし、これらの添加によって、原料混合物のpHが5.0未満になる場合、他の飲食品や食品添加物など、pH調整作用を有する原料を加えてpHを5.0以上に調整して乳酸菌の増殖を促す必要がある。
【0028】
本発明で全原料中に含有せしめる水分の量は乳酸発酵がスムーズに行える量であればよい。原料の配合比で多少変動するが、通常全原材料に対して50重量%以下では発酵が難しい場合が多いため、これを超える水分量が好適であり、カカオの風味の観点から、より好ましくは60〜90重量%が好適である。
【0029】
本発明で使用する糖はスクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、乳化オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトースなど食品や飲料に添加されるものであれば特に限定されるものではないが、発酵速度すなわち生産効率を考慮すると、ラクトース、グルコースおよび乳化オリゴ糖が望ましい。また、これらの糖が含まれるもの、たとえば乳清の添加は発酵効率を上げるため好ましい。
【0030】
本発明で全原料中に含有せしめる糖の量は全原料中に0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。上限値は特に限定されないが目的とする最終製品の呈味の上で支障のない量が好ましい。
【0031】
また、前記原料に乳成分を加えることも可能である。乳成分としては牛乳、獣乳のほか、乳から調整される物質である生クリーム、濃縮乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、乳清など、ラクトースの含まれているものであれば制限されない。添加量は特に限定されないが目的とする最終製品の呈味の上で支障のない量が好ましい。
【0032】
また、本発明では、カカオマスに、水分、糖および乳成分を添加する代わりに、チョコレートを用いてもよい。チョコレートを用いる場合、スイートチョコレートやミルクチョコレートまた準チョコレートといった種類は制限されない。また、乳成分の添加についても特に制限はないが、最終製品の風味に合わせて所望量を添加することが可能である。
【0033】
また、本発明者らは、上記のようにカカオマスを乳酸発酵させることでGABAの含有量が有意に増加することを見出した。これはもともとカカオマス中に含まれるグルタミン酸が、乳酸菌の作用によりGABAに変換されたものであると思われる。つまり、本発明の乳酸発酵食品組成物は、通常のカカオマスに比較してGABA含量が高い健康維持に有益な飲食品用組成物といえる。したがって、乳酸発酵時に食品添加物であるグルタミン酸、或いはグルタミン酸塩、例えばグルタミン酸ナトリウムを添加すると、乳酸発酵後のGABA濃度も添加したグルタミン酸量に応じて増加するため、本発明では、食品添加物としては安価なグルタミン酸あるいはグルタミン酸塩を発酵前に原料に添加することにより、より低コストで発酵後に高濃度のGABAを産生させることを容易に達成できる。
【0034】
本発明の乳酸発酵食品組成物中のGABAの量は、乳酸発酵時に添加するグルタミン酸またはその塩の添加量に反映される。しかし、GABA含有量を増やすために過剰なグルタミン酸またはその塩を添加すると、グルタミン酸またはその塩をGABAに変換するのに必要な発酵時間が長くなり、効率的ではない。ヒトなどの哺乳類におけるGABAの有効摂取量は30〜500mg/日とされていることから、本発明による乳酸発酵食品組成物を用いて食品を作製することを考慮し、本発明の乳酸発酵食品組成物には、GABAが1〜6mg/g含まれるように、原料中にグルタミン酸またはその塩を添加することが望ましい。例えば、原料1g中のグルタミン酸またはその塩の含有量としては、1〜60mgが好ましい。
【0035】
上記の乳酸発酵食品組成物の製造に際しては、カカオマス、糖、乳成分およびチョコレートの原料に含まれるものの他に、ゼラチン、香料、果肉など通常発酵食品の製造に使用されている原料を添加することもできる。
【0036】
上記の各成分を混合することで、乳酸発酵用の原料を調製することができる。
【0037】
乳酸発酵に用いられる乳酸菌としては特に制限されるものではなく、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus), ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis),ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ガゼリ(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)から選ばれる、2種類以上の乳酸菌が用いられる。製造上の簡便性をもたせるには、上記の乳酸菌が含まれる公知のヨーグルト作製用のスターター乳酸菌を用いることも可能である。また、GABAを多く生産させるためには、グルタミン酸デカルボキシラーゼを多く産生する乳酸菌であるラクトバチルス属の乳酸菌などの使用が望ましい。
【0038】
本発明において乳酸発酵は、乳酸菌数と、pHを確認することで調整することができる。例えば、前記原料を乳酸発酵させている場合、発酵物中の乳酸菌数が5×108〜1×107cfu/gであれば発酵物中の乳酸菌は増殖において対数増殖期から安定期に達していることがわかる。また、前記発酵物のpHが3.8〜4.5であれば、カカオマスの乳酸発酵が十分に進んでいることを確認することができる。なお、乳酸発酵の到達pHが4.5を越えると、発酵感が薄れる傾向があるため、pHの上限は4.5以内が好ましい。
【0039】
上記の乳酸発酵は、常法により40℃前後で8〜24時間行うのが好ましく、最終的にpHが3.8〜4.5の範囲内に収まるように発酵させれば、所望の乳酸発酵物が得られる。カカオマスに添加する水分量や糖、乳成分の違いや添加量によって発酵時間は異なるが、製造上の要求から製造時間を短縮させる場合は、水やスターター乳酸菌の添加量を増加させることで8時間から短縮させることが可能である。ただし、GABA含有量の増加を望む場合10〜20時間発酵させることが望ましい。
【0040】
以上のようにして得られる乳酸発酵物は、本発明の乳酸発酵食品組成物としてそのまま使用することができるが、発酵終了後に室温もしくは冷蔵庫に数時間放置した後、軽く攪拌することで均質化し安定させてもよい。これは乳酸発酵物に含まれるカカオバターの融点を下回る温度になることによって粘性が上がることによる。
【0041】
以上の構成を有する本発明の乳酸発酵食品組成物は、種々の食品に使用することができる。例えば、乳酸発酵食品組成物を所望の型に充填し、凍結乾燥させて固形物(凍結乾燥発酵チョコレート)とすることができる。得られる。得られる凍結乾燥発酵チョコレートは、従来のチョコレートとは異なり、爽やかな酸味と冷感、さくさくとした食感を有する。その上、乳酸発酵食品組成物中に分散する水分を氷結させた後、昇華により水分を除去するため、微細な氷結晶が存在していた部分が空隙となることから、微細な多孔質となり、軽くて口溶けがよく、油っぽさはなくさっぱりとした後味を奏する。
【0042】
前記凍結乾燥させた乳酸発酵食品組成物としては、乳酸菌の活性維持および食感の観点から、乳酸菌の含有量が1×109〜1×107cfu/gであり、水分が0.5%以下であるものが好ましい。
【0043】
また、本発明の乳酸発酵食品組成物を熱をかけずに二次加工して、カカオマスの風味と乳酸発酵の爽やかな酸味を兼ね備えた各種の飲食品を製造することもできる。例えば、本発明の乳酸発酵食品組成物に、糖分や香料その他必要に応じたものを添加することで、生きた乳酸菌を含む発酵カカオマスペーストや発酵カカオマス飲料が得られる。また、アイスクリームなどに本発明の乳酸発酵食品組成物を配合することも可能である。また、上記のように本発明の乳酸発酵食品組成物を凍結乾燥することで、乳酸菌の活性を維持したまま長期保存することが可能な食品が得られる。また、前記凍結乾燥品をそのまま食品として利用してもよいし、これを粉末化して食品を製造する場合に配合することで、粉末飲料や顆粒やタブレットなどの食品組成物として使用してもよい。
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これにより本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1〔乳酸発酵食品組成物の製造〕
カカオマス(大東カカオ株式会社「QM−D」)(50℃に加温して液化させたもの)10重量%、グルコース1重量%を温水89重量%に溶解し攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行い、その後43℃に冷却した。これに、ヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を106cfu/gとなるように接種し、43℃で24時間の静置培養を行った。これによってpH4.2の発酵物を得た。得られた発酵物(乳酸発酵食品組成物)中の乳酸菌量は3×108cfu/gであった。
【0046】
上記の方法で、他の糖類を添加したときの発酵物の継時的なpHの推移を以下に示す。ラクトースは12時間以内、乳化オリゴ糖は36時間以内にpH4.5以下になることが確認された(図1)。その他の糖についても培養期間を長くすることでpHの低下が確認された(表1)。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2〔乳酸発酵食品組成物の製造〕
カカオマス(大東カカオ株式会社 「QM−D」)(50℃に加温して液化させたもの)10重量%、乳清1重量%を温水89重量%に溶解し攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行い、43℃に冷却した。これにヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を106cfu/gとなるように接種し、43℃で12時間の静置培養を行った。これによって、pH4.07の発酵物を得た。得られた発酵物(乳酸発酵食品組成物)中の乳酸菌量は2×108cfu/gであった。
【0049】
実施例3〔乳酸発酵食品組成物の製造〕
チョコレート(大東カカオ株式会社「CMS1」)(50℃に加温して液化させたもの)33重量%を温水67重量%に溶解し、攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行った後、43℃に冷却した。これに、これにヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を106cfu/gとなるように接種し、43℃で8時間の静置培養を行った。これによって、pH4.0の発酵物を得た。得られた発酵物(乳酸発酵食品組成物)中の乳酸菌量は5×108cfu/gであった。
また、乳酸発酵物のpHと菌数について継時的な推移を調べたところ、図2に示すようにpHの低下にしたがって、乳酸菌数が増加した。
なお、本実施例において菌数の測定は、乳酸菌数測定用の公定培地であるBCP(ブロムクレゾールパープル)加プレートカウント寒天培地を用いた希釈平板法で行った。試料の希釈には生理食塩水(0.85%NaCl)を用いた。試料を培地に塗布し、43℃で3日間培養し、黄変コロニーの数を計測した。
【0050】
実施例4〔乳酸発酵食品組成物の製造〕
実施例3で得られた生きた乳酸菌を含む乳酸発酵食品組成物(水分67重量%)を−80℃で凍結乾燥したものについて菌数測定したところ1×109〜107cfu/g(dry)であった。また、水分は0.5重量%以下であった。したがって、凍結乾燥後も乳酸菌数は維持され、活性を維持したまま長期保存が可能となることがわかる。
【0051】
実験例1〔チョコレートの乳酸発酵におけるチョコレートと水との比および添加する乳酸菌の量の影響〕
チョコレート(大東カカオ株式会社「CMS1」)(50℃に加温して液化させたもの)と添加する温水の割合を変えた3タイプ(チョコレート:水=1:1、1:2、1:4(重量比))のチョコレート溶液と、それぞれのタイプのチョコレート溶液に3濃度(107、106、105cfu/g)となるようにヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を添加した。それぞれのチョコレート溶液を、80℃、1時間の加熱殺菌を行った後、43℃に冷却し、各濃度に調整した乳酸菌を添加した。43℃で静置培養を行い、このときのpHの継時的変化を追跡した。結果を図3に示す。図3より、チョコレート:水=1:1ではpHの低下がほとんど見られず、乳酸菌の増殖が進んでいないことがうかがえる。水の添加量が多いほどpHの低下スピードが速く、乳酸菌の増加は乳酸菌の増殖に影響していることがうかがえる。また、乳酸菌の添加量が多いほど、pH低下は速いことから、乳酸菌の添加量を増やすことで発酵速度を速めることができると考えられる。チョコレート:水=1:4、乳酸菌添加濃度107cfu/gのとき、培養開始から4時間でpH4.5以下となった。
【0052】
実験例2〔チョコレートの乳酸発酵における培養温度の影響〕
チョコレート(大東カカオ株式会社「CMS1」)(50℃に加温して液化させたもの)33重量%を温水67重量%に溶解し、攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行った後、43℃に冷却した。これに、これにヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を106cfu/gとなるように摂取し、50℃、43℃、37℃、30℃、23℃で24時間の静置培養を行った。結果を図4に示す。なお、今回使用した乳酸菌においては43℃での培養が適していることが確認されたが、菌種により培養温度を設定することが望ましい。
【0053】
実験例3〔チョコレートの乳酸発酵における発酵開始pHの影響〕
カカオマスやチョコレートに加える水分が果汁などである場合、カカオマス溶液のpHは低下する。そこで、pHをクエン酸で調整したカカオマス溶液を用いて乳酸菌の増殖を検討した。チョコレート(大東カカオ株式会社「CMS1」)(50℃に加温して液化させたもの)33重量%を温水67重量%に溶解し、攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行った後、43℃に冷却した。これに、これにヨーグルト作製用乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社、「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(登録商標);ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を106cfu/gとなるように摂取し、クエン酸にてpHを調整した後、43℃で24時間の静置培養を行った。結果を図5に示す。開始pHがpH5.0を下回ると、発酵しにくくなることが確認された。一般的な乳酸菌はpH5.0〜8.0の範囲で良く生育するといわれているが、カカオマスが主成分の培地でも同様の結果が得られた。
【0054】
実験例4〔チョコレートの乳酸発酵におけるGABA含有量の測定〕
チョコレートを乳酸発酵させることにより、GABA濃度が上昇することを下記の方法で確認した。
【0055】
チョコレート50g(大東カカオ株式会社「CMS1」)に水100gを加えて加温溶解させた後に43℃に冷却し、乳酸菌スターター「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(クリスチャンハンセン社製)を106cfu/gとなるように加えて、43℃にて発酵を行った。試料溶液を0、2、4、6、8、24時間ごとに1mLずつ採取し、以下の方法で各試料中のGABA濃度を測定した。結果を図6に示す。
【0056】
〔GABA濃度測定法〕
1mLの試料を水を用いて10倍に希釈し、4℃、15000rpmにて20分間、遠心操作(久保田製作所製、ユニバーサル冷却遠心機、型式5922)を行った。上清300μLを4℃、7390rpmで60分間の遠心操作にて限外ろ過(MILLIPORE社製、「ULTRAFREE(登録商標)−MC 5000NMWL Filter Unit」)し、ろ液100μLをSep−Pak(Waters社製、「Sep−Pak(登録商標)Plus C18 Cartridges」)に吸着後、水1mLを用いて溶出し、減圧下にて乾固した。乾固物に水1mLを加え、溶液200μLを減圧下にて乾固した。メタノール700μL/水100μL/トリエチルアミン100μL/イソチオシアン酸フェニル100μLの反応試薬20μLを加え、10秒間撹拌後、密栓して室温(約25℃)で20分間静置した。乾燥後、Pico−Tag希釈液(Waters社製、「Pico−Tag(登録商標)Sample Diluent for free amino acid analysis」)100μLを加え、メンブレンフィルターろ過(MILLIPORE社製、「Millex(登録商標)−LG」)を行い、HPLC(Waters社製)を用いて分析を行った。HPLCの分析条件は「Pico−Tag(登録商標)Columm」(Waters社製、3.9×300mm Column、For Free Amino Acid Analysis)を用い、移動相にA(70mM 酢酸ナトリウム(pH6.45 with 10% 酢酸)/アセトニトリル=975/25)とB(水/アセトニトリル/メタノール=40/45/15)の調製溶液をそれぞれ用いた。カラム温度、サンプル温度をそれぞれ46℃、5℃とし、注入量を10μL、流速を1mL/min、検出波長は254nmで行った。グラジエント条件を下記の表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
図6の結果より、乳酸発酵によって、培養24時間後にはチョコレート中グルタミン酸量が減少し、GABAの含有量がもともとの約1.5倍量に増えたことが確認された。グルタミン酸の減少に比例するようにGABAの増加が確認された。また、失活した乳酸菌添加区ではグルタミン酸の減少がみられず、GABAの増加も見られなかった。したがってカカオマス乳酸発酵物中のGABAの増加は乳酸発酵に起因するものと考えられる。
【0059】
更に、チョコレートにグルタミン酸ナトリウムを強化し乳酸発酵させることにより、GABA濃度が経時的に高まり、最終的にGABA強化の乳酸発酵食品組成物が得られることを下記の方法で確認した。
【0060】
チョコレート50g(大東カカオ株式会社「CMS1」)に水100g、およびグルタミン酸ナトリウム460mg(味の素社製)を添加し、加温溶解させた後に43℃に冷却し、乳酸菌スターター「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(クリスチャンハンセン社製)を106cfu/gとなるように加えて、43℃にて発酵を行った。試料溶液を0、2、4、6、8、24時間ごとに1mLずつ採取し、以下の方法で各試料中のGABA濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0061】
図7の結果より、GABA含有量は培養開始から24時間で約2.6mg/gとなり、もともと含まれていた量の2.5倍以上に増加したことが確認された。また、グルタミン酸の減少に比例するようにGABAの増加が確認され、添加したグルタミン酸ナトリウムが消費されていることがわかった。
【0062】
以下に、上記の製造方法によって得られた乳酸発酵食品組成物を食品組成物として用いた食品の製造方法例を挙げる。いずれも、新しい風味と生きた乳酸菌を含むことを特徴とする。また、発酵時にグルタミン酸ナトリウムなどを添加しGABAを強化した乳酸発酵食品組成物を食品組成物として用いれば、新しい風味と生きた乳酸菌に加えてGABAを含む食品の製造が可能である。
【0063】
実施例5〔発酵カカオマス飲料の製造〕
実施例3で得られた乳酸発酵食品組成物(発酵カカオマス液)にペクチン(安定剤)、香料および常法に従って滅菌した冷えた果汁または牛乳を添加し(発酵カカオマス液:70重量%、ペクチン:0.3重量%、香料:0.2重量%、牛乳もしくは果汁29.5重量%)、この混合液を攪拌して均質化し、容器に充填して乳酸発酵飲料を得た。本品は生きた乳酸菌の活性維持と風味や品質の維持のため、冷蔵保存する必要がある。濃厚かつ滑らかな食感を呈する飲料が得られた。
【0064】
実施例6〔発酵カカオマスアイスクリームの製造〕
実施例3で得られた乳酸発酵食品組成物(発酵カカオマス液)にホイップした生クリーム、グラニュー糖、ラム酒(発酵カカオマス液40重量%、生クリーム40重量%、グラニュー糖17重量%、ラム酒3重量%)を添加し攪拌混合し、容器に入れ、凍結して製品を得た。本品は爽やかなヨーグルトとカカオの風味を呈するものであった。また、凍結品は、油っぽさはなくさっぱりとし、しかしながら油特有の口溶けの良さを奏するものであった。
【0065】
実施例7〔凍結乾燥発酵チョコレートの製造〕
実施例3で得られた乳酸発酵食品組成物を室温もしくは冷蔵庫に数時間放置した後、軽く攪拌することで均質化した。これを適当な型に分注し、−80℃で数時間静置することで凍結固化品を得た。これを凍結乾燥させることで水分を取り除き、固形物を得た。これを試食したところ、さくさくとした食感で口溶けの良い爽やかな酸味を呈するものであった。また、前記固化物は、油っぽさはなくさっぱりとし、しかしながら油特有の口溶けの良さを奏するものであった。
【0066】
実施例8〔発酵カカオマス粉末の製造〕
実施例4で得られた乳酸発酵食品組成物を粉砕し、発酵カカオマス粉末を得た。これは、顆粒やタブレットなど、製造工程において熱のかからない飲食品の製造に添加することで、生きた乳酸菌とカカオの風味、またGABAを添加することができる。
【0067】
実施例9〔タブレットの製造〕
実施例8で得られた粉末を使用し、以下の配合(発酵カカオマス粉末10重量%、スクロース87重量%、ステアリン酸マグネシウム0.1重量%、ラクトース0.1重量%、水2.8重量%)になるように発酵粉末と粉糖(スクロース)を均一に混合した後、水を用いて湿式造粒し、粒状物を43℃以下の温度で乾燥させた。得られた粒状物にステアリン酸マグネシウムおよびラクトース添加して混合し、圧縮成型することでタブレットを製造した。
【0068】
実施例10
〔カカオマスとココアマスの発酵溶液の製造例〕
カカオマス(大東カカオマス社製「カカオマスOM−M」;油脂含量53%)(50℃に加温して液化させたもの)10重量%、グルコース2重量%を温水89重量%に溶解し、攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行い、その後43℃に冷却した。これに、ヨーグルト作製用乳酸菌スターター「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(クリスチャンハンセン社製)を106cfu/gとなるように接種し、43℃で24時間の静地培養により発酵物を得た。また、発酵開始から8、24時間での発酵液のpHおよび乳酸菌数をそれぞれ測定した。その結果、8時間ではpH5.45、菌数は3.0×106cfu/ml、24時間ではpH4.57、菌数は8.0×106cfu/mlであった。次に、得られた発酵物を凍結乾燥させ、カカオマス乳酸発酵固形物を得た(試料Aとする)。この乳酸菌数は、7.5×107cfu/mlであった。
【0069】
ココアマス(BARRY CALLEBAUT社製「ガンホーテンココアパウダー」;油脂含量23%)(50℃に加熱して液化させたもの)10重量%、グルコース1重量%を温水89重量%に溶解して攪拌したものを、80℃、1時間の加熱殺菌を行い、その後43℃に冷却した。これに、ヨーグルト作製用乳酸菌スターター「FD−DVS YC−370−Yo−Flex」(クリスチャンハンセン社製)を106cfu/gとなるように接種し、43℃で24時間の静地培養より発酵物を得た。また、発酵開始から8、24時間での発酵液のpHおよび乳酸菌数をそれぞれ測定した。その結果、8時間ではpH6.21、菌数は1.3×107cfu/ml、24時間ではpH4.75、菌数は9.6×107cfu/mlであった。次に、得られた発酵物を凍結乾燥させ、ココアマス乳酸発酵固形物を得た(試料Bとする)。この乳酸菌数は、1.5×108cfu/mlであった。
【0070】
pHと乳酸菌数の結果から、上記試料A、Bのいずれもスムーズに発酵したことがわかる。特に、従来では乳酸発酵が困難であると考えられていたカカオマスについて、本製造方法を用いることにより、乳酸発酵が容易であるココアマスと比べて、遜色ない程度の乳酸発酵を行うことが可能であることがわかる。
【0071】
(官能試験評価)
次に、上記試料Aと試料Bの嗜好性を調査するために、10名の被験者に官能評価試験を行った。5名の被験者は、(試料A→試料B)の順に摂取し、残り5名の被験者は、(試料B→試料A)の順で摂取し、「マイルド感」、「渋み」、「カカオ感」、「なめらかさ」、「口溶け」および「総合的なおいしさ」について表3に示す5段階で評価した。なお、官能検査時に際して、試料の試食間には、ぬるま湯でのうがいと2分間の間隔をあけるようにし、前サンプルの持込がないようにした。得点の平均点を表4に示した。
なお、マイルド感、渋み、カカオ感、なめらかさ、及び総合的なおいしさのいずれかが顕著に上回っていれば、趣向性の優位性があるとする。ただし、総合評価については、嗜好として「非常に好ましい」5点、「好ましい」4点、「普通」3点、「好ましくない」2点、「非常に好ましくない」1点で評価した。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
表4に示すように、試料Aは、マイルド感、なめらかさ、および口溶けの項目で、試料Bよりも評価が高かった。油脂の直接的な効果と思われた。渋みについては、渋みを抑える結果となったが、これは油脂がカカオの渋み成分をマスキングしているからであると思われた。カカオ感について、差異は認められず、油脂含量の差異はカカオ感には影響を及ぼさないものと思われた。総合的な評価では、試料Aが顕著に優れた結果となった。
以上のことから、カカオマス発酵固形食品は、その油脂含量の高さから優れた嗜好性を有した食品であるといえた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、カカオマスの乳酸発酵における糖の添加によるpHの変化の様子を示すグラフである。
【図2】図2は、チョコレートの乳酸発酵において、発酵物中の乳酸菌数とpHとの経時的な変化を示すグラフである。
【図3】図3は、チョコレートの乳酸発酵において、チョコレートと水との比および添加される乳酸菌濃度を変化させた場合のpHの経時的な変化を示すグラフである。
【図4】図4は、チョコレートの乳酸発酵において、培養温度およびpHを変化させた場合の経時的な変化を示すグラフである。
【図5】図5は、チョコレートの乳酸発酵において、培養開始pHを変化させた場合の経時的なpH変化を示すグラフである。
【図6】図6は、チョコレートの乳酸発酵において、グルタミン酸塩とGABAの含有量の経時的な変化を示すグラフである。
【図7】図7は、チョコレートの乳酸発酵において、グルタミン酸塩とGABAの含有量の経時的な変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオマス、水分および糖を含む原料を乳酸菌により乳酸発酵して得られることを特徴とする乳酸発酵食品組成物。
【請求項2】
乳酸菌の含有量が1×109〜1×107cfu/gであり、水分が0.5%以下である請求項1記載の乳酸発酵食品組成物。
【請求項3】
前記糖が、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、乳化オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトースからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項1または2記載の乳酸発酵食品組成物。
【請求項4】
カカオマスと水分を主原料とし、少なくとも糖を原料としたものに乳酸菌を接種せしめて乳酸発酵させることを特徴とする、乳酸発酵食品組成物の製造方法。
【請求項5】
グルタミン酸またはその塩を原料として添加する請求項4記載の乳酸発酵食品の製造方法。
【請求項6】
乳酸発酵させたものをさらに凍結乾燥させる請求項4または5記載の乳酸発酵食品組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−167747(P2008−167747A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320592(P2007−320592)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】