説明

カゼインキナーゼ2アンチセンス療法

本発明はカゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびそのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてカゼインキナーゼ2の発現を阻害し、固形腫瘍のサイズを低減させる方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は癌療法、より具体的にはカゼインキナーゼ2アンチセンス分子を用いる癌療法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
カゼインタンパク質キナーゼ2(CK2)は、細胞の成長および増殖ならびにアポトーシスの調節を含む、細胞における複数の機能への関与が示唆されている普遍的タンパク質セリン/スレオニンキナーゼである(たとえば、Tawfic et al., 2001, Histol. Histopathol., 16:573-82を参照されたい)。CK2は高度に保存された酵素であり、細胞生存に必須であると示唆されている。本キナーゼは2つのβサブユニットと複合体を形成している2つの触媒サブユニット(αおよび/またはα’)からなるヘテロ四量体である。CK2が細胞成長を調節する手段の一つは、核マトリックスおよびクロマチンがCK2の選択的標的であると考えられる核内でのシグナリングを介したものである。
【0003】
CK2は様々な腫瘍におけるそのレベルの上昇のために、新生物プロセスへの関与が強く示唆されている。CK2のトランスジェニック発現を伴う研究から、CK2-αの中程度の過剰発現が細胞に発癌能を付与すること、さらに別の発癌シグナルの存在下で新生物発生率が著しく増大することを示唆する証拠がもたらされた。
【発明の開示】
【0004】
概要
本発明はCK2核酸配列にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびそのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてCK2の発現を阻害し固形腫瘍のサイズを低減する方法を提供する。
【0005】
本開示は前立腺または膀胱腫瘍異種移植片に異なる経路から送達されたCK2αアンチセンスの効果を報告する。ヌードマウス内の前立腺癌異種移植片はマウスの皮下組織へ注射されたPC3-LN4細胞を用いて作成された。CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドの腫瘍内注射により、用量および時間依存的にインビボでの前立腺癌腫瘍の根絶がもたらされた。CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドで処置された腫瘍の分析からCK2メッセージおよび核関連活性のダウンレギュレーションが示された。同様の実験条件下で、正常な細胞および組織は、最小限のアポトーシスの徴候を示し、CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果に対し比較的耐性であった。正所性前立腺腫瘍を有するヌードマウスへの裸のCK2αホスホロチオアートアンチセンスオリゴヌクレオチドの静脈内送達もまた効果的にCK2をダウンレギュレートし、腫瘍でアポトーシスの誘導を引き起こすことができる。50nm未満のテネイシンナノカプセルに封入されたホスホジエステル型CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドも使用された。静脈内経路から送達された場合、これらのナノ封入された製剤は裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドよりも有意により効果的であることが見いだされた。
【0006】
一つの局面において、本発明は固形腫瘍におけるカゼインキナーゼ2の発現を阻害する方法を提供する。そのような方法は腫瘍にアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達する段階であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドがカゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させる段階を含む。
【0007】
もう一つの局面において、本発明は個体内の固形腫瘍のサイズを低減させる方法を提供する。そのような方法は腫瘍にアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達する段階であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドがカゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させる段階を含む。通常、カゼインキナーゼ2の発現の低減は腫瘍のサイズの低減をもたらす。
【0008】
カゼインキナーゼ2アンチセンスオリゴヌクレオチドを送達する方法には、たとえば腫瘍内または静脈内が含まれ得る。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドは封入されてもよい。本発明のある態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドはホスホロチオアートアンチセンスオリゴヌクレオチドである。代表的なアンチセンスオリゴヌクレオチドはSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に示されている配列を有する。本発明のもう一つの態様において、カゼインキナーゼ2はカゼインキナーゼ2-αまたはカゼインキナーゼ2-βである。本発明の方法によって処置できる代表的な固形腫瘍は前立腺、膀胱、乳房、肝臓、腎臓、脳、頭部、または頚部などの位置に由来するものを含む。
【0009】
さらにもう一つの局面において、本発明はアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドがカゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させる組成物を提供する。そのような組成物は封入型で提供されてもよい。一つの態様において、組成物はSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に示されている配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含み得る。
【0010】
特に定義されていない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において記載されているものに類似のまたは同等の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載されている。さらに、材料、方法、および実施例は例に過ぎず、限定的であることを意図しない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、それらの全体が参照により組み入れられる。対立する場合は定義を含む本明細書が規定する。
【0011】
本発明の一つまたは複数の態様の詳細は添付の図面およびおよび以下の説明に示されている。本発明のその他の特徴、目的、および利点は図面および詳細な説明、ならびに特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【0012】
詳細な説明
本発明はアンチセンス化合物、具体的にはオリゴヌクレオチドを、標的核酸分子の発現を阻害するために使用する。本明細書において用いられているように、「標的核酸」という用語は、cDNA、ゲノムDNA、および合成(たとえば、化学的に合成された)DNAを含む、RNAならびにDNAの両方を指す。標的核酸は二本鎖でも一本鎖(すなわち、センスまたはアンチセンス一本鎖)でもよい。いくつかの態様において、標的核酸はカゼインキナーゼ2(CK2)ポリペプチドをコードする。このため、「標的核酸」はCK2をコードするDNA、そのようなDNAから転写されたRNA(プレ-mRNAおよびmRNAを含む)、ならびにそのようなRNAに由来するcDNAも包含する。「アンチセンス」化合物は、1)標的核酸に特異的にハイブリダイズして標的核酸の機能、調節、またはプロセシングを妨げることができる、2)タンパク質に特異的に結合して標的タンパク質の機能を妨げることができる、もしくは3)病原性感染を模倣して、細胞プロセスを標的核酸種に対抗させることができる、核酸または核酸アナログを含む化合物である。アンチセンスオリゴヌクレオチドによる標的核酸またはタンパク質の発現阻害は通常、アンチセンス技術と呼ばれる。このように、アンチセンス分子はsiRNA、アンタゴミール(antagomir)、アプタマー、およびmRNAまたはその他の任意の標的RNA、DNA、もしくはタンパク質に相補的な配列を含む。
【0013】
本明細書において用いられているように、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的なヌクレオシドもしくはヌクレオチド塩基間の、ワトソン・クリック、フーグスティーン、または逆フーグスティーン水素結合であり得る、水素結合を意味する。たとえば、アデニンおよびチミン、ならびにグアニンおよびシトシンは、それぞれ水素結合の形成により対合する相補的な核酸塩基(当技術分野では単に「塩基」と呼ぶことが多い)である。本明細書において用いられているように、「相補的」とは2つのヌクレオチド間で正確に対合する能力を指す。たとえば、オリゴヌクレオチドのある特定の位置のヌクレオチドが標的核酸分子内のヌクレオチドと水素結合可能である場合、オリゴヌクレオチドと標的核酸はその位置で互いに相補的であると見なされることになる。各分子の十分な数の対応する位置が互いに水素結合可能なヌクレオチドにより占められている場合に、オリゴヌクレオチドと標的核酸は互いに相補的である。したがって、「特異的にハイブリダイズ可能」を用いて、オリゴヌクレオチドと標的核酸の間で安定的かつ特異的な結合を生じる、十分な度合いの相補性または正確な対合を示す。
【0014】
当技術分野において、特異的にハイブリダイズ可能であるために、アンチセンスオリゴヌクレオチドの配列はその標的核酸の配列に100%相補的である必要はないことが理解される。(a)オリゴヌクレオチドの標的核酸への結合が標的核酸の正常な機能を妨げる場合、および(b)特異的な結合が望ましい条件下で、すなわちインビトロアッセイが実施される条件下で、またはインビボアッセイもしくは治療的使用のための生理的条件下で、非標的配列へのアンチセンスオリゴヌクレオチドの非特異的結合を回避するのに十分な相補性が存在する場合に、アンチセンスオリゴヌクレオチドは特異的にハイブリダイズ可能である。
【0015】
インビトロでのストリンジェンシー条件は温度、時間、および塩濃度に依存する (たとえば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY (1989)を参照されたい)。典型的には、高から中等度のストリンジェンシーの条件は、ハイブリダイゼーションが実質的に類似の核酸間で起こり、非類似の核酸間では起こらない、特異的なインビトロハイブリダイゼーションのために用いられる。特異的なハイブリダイゼーションの条件は、5×SSC(0.75M塩化ナトリウム/0.075Mクエン酸ナトリウム)中で40℃で1時間ハイブリダイゼーションさせ、次に40℃の1×SSC中で10回および室温の1×SSC中で5回洗浄することである。
【0016】
インビボでのハイブリダイゼーションの条件は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの標的配列とのハイブリダイゼーションを左右する細胞内条件(たとえば、生理的pHおよび細胞内イオン条件)からなる。インビボの条件はインビトロで比較的低いストリンジェンシー条件により模倣できる。たとえば、ハイブリダイゼーションはインビトロで2×SSC(0.3M塩化ナトリウム/0.03Mクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS、37℃で実施され得る。4×SSC、0.1%SDSを含む洗浄液を37℃で用いることができ、最終洗浄は1×SSC中、45℃で行う。
【0017】
アンチセンス分子とその標的核酸の特異的なハイブリダイゼーションは標的核酸の正常な機能を妨げる可能性がある。標的DNA核酸について、アンチセンス技術は複製および転写を妨害し得る。標的RNA核酸について、アンチセンス技術は、たとえばタンパク質翻訳部位へのRNAの移行、RNAからのタンパク質の翻訳、一つまたは複数のmRNA種を生じるRNAのスプライシング、およびRNAの触媒活性を妨害し得る。標的核酸機能へのそのような干渉の総体的な効果は、CK2をコードする核酸の場合には、CK2の発現の阻害である。本発明の文脈において、「CK2の発現を阻害すること」はCK2核酸配列の転写および/または翻訳を妨害し、CK2ポリペプチドのレベルの低減またはCK2ポリペプチドの完全な欠如をもたらすことを意味する。
【0018】
CK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの標的配列の同定
アンチセンスオリゴヌクレオチドはCK2核酸分子内の特異的な標的に向けられることが好ましい。マウス由来の代表的なCK2-α配列はGenBankアクセッション番号NM 009974に見いだすことができ;ヒト由来の代表的なCK2-α配列はGenBankアクセッション番号NM 001892、S72393、およびX70251に見いだすことができ;ならびにヒト由来の代表的なCK2-β配列はGenBankアクセッション番号NM 001320に見いだすことができる。代表的なCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドは本明細書ならびに米国特許出願公開第2002/0147163号に開示されている。
【0019】
標的化プロセスは、所望の効果、たとえばCK2発現の阻害がもたらされるようにアンチセンス相互作用が起こり得るCK2核酸分子内の部位の同定を含む。従来、アンチセンスオリゴヌクレオチドの好ましい標的部位は、遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳開始または終止コドンを包含する領域を含んできた。さらに、ORFは5'および3'非翻訳領域と同様にアンチセンス技術において効果的に標的化されてきた。その上、アンチセンスオリゴヌクレオチドはイントロン領域およびイントロン-エクソン接合領域に成功裏に向けられてきた。
【0020】
しかしながら、標的核酸の配列およびドメイン構造(たとえば、翻訳開始コドン、エクソン、またはイントロンの位置)の単純な知識は、特異的な領域に向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドが効果的に標的核酸に結合し、その転写および/または翻訳を阻害することを確実にするためには、通常十分ではない。mRNA分子は、その天然状態において、複雑な二次および三次構造に折り畳まれており、そのような構造の内部にある配列にはアンチセンスオリゴヌクレオチドが到達できない。最大の有効性を得るためには、アンチセンスオリゴヌクレオチドは最も到達しやすい、すなわち折り畳まれたmRNA分子の表面またはその付近の領域の標的mRNAの領域に向けられ得る。mRNA分子の到達可能な領域は、RiboTAG(商標)またはmRNA Accessible Site Tagging(MAST)技術の使用を含む、当技術分野で公知の方法により同定できる。RiboTAG(商標)技術はPCT出願第SE01/02054号に開示されている。
【0021】
CK2アンチセンスオリゴヌクレオチド
一つまたは複数の標的部位が同定されたならば、標的に対し十分相補的な(すなわち、所望の効果を与えるのに十分な強度および特異性を持ってハイブリダイズする)アンチセンスオリゴヌクレオチドを合成することができる。本発明の文脈において、所望の効果とはCK2の細胞レベルが低減するようにCK2の発現を阻害することである。標的核酸の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドの有効性は、たとえばノーザンブロッティング、RT-PCR、ウエスタンブロッティング、ELISA、または免疫組織化学染色を用いて、CK2のmRNAまたはタンパク質のレベルを測ることで評価できる。抗CK2抗体についての説明は、たとえばFaust et al. (1999, Int. J. Biochem. Cell. Biol., 31:941-9)、Nastaincyzyk et al. (1995, Hybridoma, 14:335-9)およびそれらにおける参考文献に見いだすことができる。
【0022】
いくつかの態様において、標的核酸の複数の到達可能な領域を標的化することも有用であり得る。そのような態様において、それぞれが異なる到達可能な領域に特異的にハイブリダイズする複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることができる。複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドは一緒にまたは逐次的に用いることができる。
【0023】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは約10〜約50ヌクレオチド長(たとえば、12〜40、14〜30、または15〜25ヌクレオチド長)であり得る。15〜23ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドが特に有用である。しかしながら、10よりさらに少ないヌクレオチドを含むアンチセンスオリゴヌクレオチド(たとえば、好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの一つの部分)は、それがCK2の発現を阻害する所望の活性を示す限り、本発明に含まれると理解される。
【0024】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は本明細書において記載されているオリゴヌクレオチドであり得る。「オリゴヌクレオチド」という用語はリボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはそれらのアナログのオリゴマーあるいはポリマーを指す。この用語は、天然の核酸塩基、糖、および共有結合形のヌクレオシド間(バックボーン)結合からなるオリゴヌクレオチド、ならびに同様に機能する非天然部分を有するオリゴヌクレオチドを含む。そのような修飾された、または置換されたオリゴヌクレオチドは、たとえば細胞の取り込みの増大、核酸標的に対する親和性の増大、およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増加のような望ましい特性のために、天然型よりも好ましいことが多い。
【0025】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、本質的に標的核酸内の到達可能な領域と特異的にハイブリダイズするヌクレオチド配列からなり得ることを留意すべきである。しかしながら、そのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは片側に5〜10ヌクレオチドの付加的な隣接配列を含むこともある。隣接配列は、たとえば標的核酸の付加的な配列、増幅プライマーに相補的な配列、または制限酵素部位に相当する配列を含み得る。
【0026】
最大の有効性を得るために、アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計にさらなる判断基準を適用してもよい。そのような判断基準は当技術分野において周知であり、かつ、たとえばオリゴヌクレオチドプライマーの設計において広く用いられている。この判断基準は、仮想的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの予測二次構造の欠如、適当なGおよびCヌクレオチド含有量(たとえば、約50%)、ならびに単一ヌクレオチド反復(たとえば、GGGG連続)のような配列モチーフの欠如を含む。
【0027】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがアンチセンス化合物の好ましい型であるが、本発明は以下に記載されるもののようなオリゴヌクレオチドアナログを含むが、それに限定されない、その他のオリゴマーのアンチセンス化合物を含む。当技術分野において公知のように、ヌクレオシドは塩基-糖の組み合わせであり、塩基部分は通常複素環塩基である。そのような複素環塩基の最も一般的な2つのクラスはプリンおよびピリミジンである。ヌクレオチドはヌクレオシドの糖部分に共有結合しているリン酸基をさらに含むヌクレオシドである。ペントフラノシル(pentofuranosyl)糖を含むヌクレオシドについては、リン酸基は糖の2'、3'、または5'ヒドロキシル部分のいずれかに結合し得る。オリゴヌクレオチドを形成するにあたって、リン酸基は隣接するヌクレオシドを互いに共有結合し、直鎖状の重合体分子を形成する。この直鎖状重合体分子の各々の末端をさらに連結して環状分子を形成することもあるが、直鎖状分子が通常は好ましい。オリゴヌクレオチド分子内で、リン酸基がオリゴヌクレオチドのヌクレオシド間バックボーンを形成すると通常見なされている。RNAおよびDNAのバックボーンの通常の結合は3'から5'へのホスホジエステル結合である。
【0028】
本発明において有用なCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されたバックボーンまたは非天然のヌクレオシド間結合を含むオリゴヌクレオチドを含む。本明細書において定義されているように、修飾されたバックボーンを有するオリゴヌクレオチドは、バックボーンにリン原子を有するものおよびバックボーンにリン原子を有さないものを含む。本明細書の目的のために、かつ当技術分野において時折参照されているように、そのヌクレオシド間バックボーンにリン原子を有さない修飾オリゴヌクレオチドもまたオリゴヌクレオチドであると見なされ得る。
【0029】
修飾オリゴヌクレオチドバックボーンは、たとえばホスホロチオアート、キラルホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよびその他のアルキルホスホナート(たとえば、3'-アルキレンホスホナートおよびキラルホスホナート)、ホスフィナート、ホスホラミダート(phosphoramidate)(たとえば、3'-アミノホスホラミダートおよびアミノアルキルホスホラミダート)、チオノホスホラミダート、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステル、および通常の3'-5'結合を有するボラノホスファート、ならびにこれらの2'-5'結合アナログ、およびヌクレオシド単位の隣接する組が3'-5'から5'-3'へまたは2'-5'から5'-2'へ結合されている反転した極性を有するものを含み得る。様々な塩、混合塩、および遊離酸型も含まれる。そのような修飾バックボーンオリゴヌクレオチドの調製を教示する参考文献はたとえば米国特許第4,469,863号および第5,750,666号に提供されている。
【0030】
その内部にリン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチドバックボーンを有するCK2アンチセンス分子は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または一つまたは複数の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合により形成されるバックボーンを有する可能性がある。これらにはモルホリノ結合(ヌクレオシドの糖部分から一部形成される)を有するもの;シロキサンバックボーン;スルフィド、スルホキシド、およびスルホンバックボーン;ホルムアセチル(formacetyl)およびチオホルムアセチルバックボーン;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチルバックボーン;アルケン含有バックボーン;スルファマートバックボーン;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノバックボーン;スルホナートおよびスルホンアミドバックボーン;アミドバックボーン:ならびに混合N、O、SおよびCH2成分構成物を有するその他のものが含まれる。そのような修飾バックボーンオリゴヌクレオチドの調製を教示する参考文献はたとえば米国特許第5,235,033号および第5,596,086号に提供されている。
【0031】
もう一つの態様において、CK2アンチセンス化合物は、適当な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために塩基単位は維持されているものの、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合(すなわち、バックボーン)の両方が新規の基により置換されているオリゴヌクレオチドアナログであってもよい。優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているそのようなオリゴヌクレオチドアナログの一つはペプチド核酸(PNA)と呼ばれている。PNA化合物においては、オリゴヌクレオチドの糖バックボーンはアミド含有バックボーン(たとえば、アミノエチルグリシンバックボーン)で置換されている。核酸塩基は保持され、バックボーンのアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。そのような修飾バックボーンオリゴヌクレオチドの調製を教示する参考文献はたとえばNielsen et al., Science 254:1497-1500 (1991)および米国特許第5,539,082号に提供されている。
【0032】
その他の有用なCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドはホスホロチオアートバックボーンおよびヘテロ原子バックボーンを有するオリゴヌクレオシド、ならびに具体的には米国特許第5,489,677号に教示されているように、CH2NHOCH2、CH2N(CH3)OCH2、CH2ON(CH3)CH2、CH2N(CH3)N(CH3)CH2、およびON(CH3)CH2CH2(天然のホスホジエステルバックボーンはOPOCH2と表される)、ならびに米国特許第5,602,240号に開示されているアミドバックボーンを有し得る。
【0033】
修飾オリゴヌクレオチドには置換糖部分も含まれ得る。本発明のCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドは2'位置に以下の一つまたは複数を含み得る:OH;F;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-、もしくはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル、ここで、アルキル、アルケニル、およびアルキニルは置換または非置換のC1〜C10アルキルまたはC2〜C10アルケニルおよびアルキニルであり得る。有用な修飾には、O[(CH2)nO]mCH3、O(CH2)nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)nCH3、O(CH2)nONH2、およびO(CH2)nON[(C2)nCH3)]2も含まれ得、式中、nおよびmは1〜約10である。さらに、オリゴヌクレオチドは2'位置に以下の一つを含み得る:C1〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O-アルカリルもしくはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態特性もしくは薬力学特性を改良するための基、および同様の特性を有するその他の置換基。その他の有用な修飾には、アルコキシアルコキシ基、たとえば2'-メトキシエトキシ(2'-OCH2CH2OCH3)、ジメチルアミノオキシエトキシ基(2'-O(CH2)2ON(CH3)2)、またはジメチルアミノエトキシエトキシ基(2'-OCH2OCH2N(CH2)2)が含まれる。その他の修飾には2'-メトキシ(2'-OCH3)、2'-アミノプロポキシ(2'-OCH2CH2CH2NH2)、または2'-フルオロ(2'-F)が含まれ得る。同様な修飾がオリゴヌクレオチド内のその他の位置、たとえば3'末端ヌクレオチドまたは2'-5'結合オリゴヌクレオチドの糖の3'位、および5'末端ヌクレオチドの5'位でも行われ得る。オリゴヌクレオチドはまた、ペントフラノシル基の代わりにシクロブチル部分のような糖模倣体を有してもよい。そのような置換糖部分の調製を教示する参考文献には米国特許第4,981,957号および第5,359,044号が含まれる。
【0034】
有用なCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドは核酸塩基修飾または置換も含み得る。本明細書において用いられるように、「非修飾」または「天然の」核酸塩基にはプリン塩基アデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシルメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよびその他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよびその他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよびその他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ(特に5-ブロモ)、5-トリフルオロメチルおよびその他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニン、ならびに3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンのようなその他の合成および天然の核酸塩基が含まれ得る。その他の有用な核酸塩基にはたとえば米国特許第3,687,808号に開示されているものが含まれる。
【0035】
ある特定の核酸塩基置換は本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの結合親和性を増加させるのに特に有用であり得る。たとえば、5-メチルシトシン置換は核酸二重鎖の安定性を0.6〜1.2℃増加させることが示されている(Sanghvi et al., eds., Antisense Research and Applications, pp. 276-278, CRC Press, Boca Raton, FL(1993))。その他の有用な核酸塩基置換には5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびに2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル、および5-プロピニルシトシンのようなN-2、N-6、およびO-6置換プリンが含まれる。
【0036】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、もしくは細胞取り込みを増大する一つまたは複数の部分またはコンジュゲートへの化学結合によっても修飾され得る。そのような部分には、脂質部分(たとえば、コレステロール部分);コール酸;チオエーテル部分(たとえば、ヘキシル-S-トリチルチオール);チオコレステロール部分;脂肪族鎖(たとえば、ドデカンジオールもしくはウンデシル残基);リン脂質部分(たとえば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくはトリエチル-アンモニウム 1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホナート);ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖;アダマンタン酢酸;パルミチル部分;またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分が含まれるが、これらに限定されるわけではない。そのようなオリゴヌクレオチドコンジュゲートの調製は、たとえば米国特許第5,218,105号および第5,214,136号に開示されている。
【0037】
所与のアンチセンスオリゴヌクレオチドの全ての核酸塩基位置が一律に修飾される必要はない。複数の前述の修飾を単一のオリゴヌクレオチドに組み入れても、またはオリゴヌクレオチド内の単一のヌクレオシドに組み入れてさえもよい。本発明はキメラオリゴヌクレオチドであるアンチセンスオリゴヌクレオチドも含む。「キメラ」アンチセンスオリゴヌクレオチドは、それぞれが少なくとも一つのモノマー単位(たとえば、オリゴヌクレオチドの場合はヌクレオチド)からなる、2つまたはそれ以上の化学的に異なる領域を含み得る。キメラオリゴヌクレオチドは、たとえばヌクレアーゼ分解に対する耐性の増加、細胞取り込みの増加、および/または標的核酸への親和性の増加を付与するためにオリゴヌクレオチドが修飾されている少なくとも一つの領域を通常含む。たとえば、キメラオリゴヌクレオチドの領域は、標的mRNAとアンチセンスオリゴヌクレオチドの間に形成されるような、RNA:DNA二重鎖のRNA鎖を切断できる、RNase Hのような酵素の基質として機能し得る。したがって、RNase Hによるそのような二重鎖の切断は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの有効性を著しく増大することができる。
【0038】
本発明のCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドはインビトロで合成され、対象のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含み、かつ生物材料から精製または単離されたオリゴヌクレオチドを除いて、生物起源のアンチセンス組成物を含まない。本発明に従って用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、周知の手法である固相合成で都合良く産生できる。そのような合成のための装置は、たとえばApplied Biosystems(Foster City, CA)を含むいくつかの供給業者から市販されている。当技術分野において公知である、そのような合成のためのその他の任意の手段を付加的にまたは代替的に使用してもよい。同様な手法を用いて、ホスホロチオアートまたはアルキル化誘導体のような修飾オリゴヌクレオチドを調製することもできる。
【0039】
CK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用法
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは研究、診断、および治療的使用に有用である。たとえば、CK2をコードする核酸へのアンチセンスオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションに基づくアッセイを用いて組織試料におけるCK2レベルを評価することができる。CK2をコードする核酸と本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは当技術分野において公知の手段で検出できる。そのような手段には、アンチセンスオリゴヌクレオチドに酵素を結合させること、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放射標識すること、またはその他の任意の適切な検出手段が含まれ得る。
【0040】
当業者はアンチセンス技術の特異性および感度を治療的使用に利用することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトを含む動物での疾患状態の処置における治療的部分として用いられている。治療法のためには、細胞または組織は通常、脊椎動物(たとえば、ヒトのような哺乳動物)内にある。
【0041】
本発明は固形腫瘍内でのCK2の発現を阻害し、固形腫瘍のサイズを低減させるための治療法を提供する。これらの方法により、本発明記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドはCK2の発現を阻害するために固形腫瘍に腫瘍内導入される。本発明の方法および組成物を用いて、細胞を殺すか、細胞成長を阻害するか、転移を阻害するか、血管形成を阻害するか、または別の方法で腫瘍細胞の悪性表現型を後退させるかもしくは低減させることができる。重要なことには、固形腫瘍のサイズはCK2の発現を阻害することによって低減できる。本発明の方法を用いて処置できる固形腫瘍には前立腺、乳房、肝臓、腎臓、脳、頭部、および頚部のような位置または身体部分に由来する腫瘍が含まれる。
【0042】
本発明の薬学的組成物は通常腫瘍内投与される。腫瘍内投与は、急速であっても(たとえば、直接注射により)、またはある期間にわたって(たとえば、緩徐注入により)行われてもよい。注射または注入使用に適した薬学的形態には、滅菌水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、または水性プロピレングリコールを含有する製剤;および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、前記形態は滅菌である必要があり、かつ形態がシリンジを介して容易に注射可能である程度には流動性である必要がある。前記形態は製造および貯蔵条件下で安定である必要があり、かつ細菌および真菌のような微生物の混入作用から保護される必要がある。
【0043】
CK2アンチセンスオリゴヌクレオチドがCK2発現を阻害する能力は、たとえば処理の前後に対象内のCK2のmRNAまたはタンパク質レベルを測定することにより評価することができる。組織または生物試料中のmRNAおよびタンパク質レベルを測定する方法は当技術分野において周知であり、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、インサイチューハイブリダイゼーション、および免疫組織化学染色を含む。
【0044】
治療組成物を調剤しその後投与するための方法は当業者に周知である。たとえば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., Gennaro & Gennaro, eds., Lippincott, Williams & Wilkins (2000)を参照されたい。腫瘍内注射用の投与量は、患者のサイズよりも腫瘍の質量および密度によって決定されると考えられる。投薬はまた、処置される腫瘍の重症度および応答性に依存し得、処置経過は単回処置から数日間もしくは数ヶ月間の処置、または治癒がもたらされるかもしくは腫瘍のサイズの低減が達成されるまでからなる。通常、アンチセンスオリゴヌクレオチドは阻害量で(すなわち、アンチセンスオリゴヌクレオチドが接触する細胞または組織においてCK2の産生を阻害するのに有効な量で)投与される。したがって、約2.5μg〜約10μgまたはそれ以上のCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの単回腫瘍内注射は3〜5mmの腫瘍のサイズを有意に低減することができる。その他の量を、様々な組織密度、サイズ、および細胞間透過性の腫瘍に用いることができる。当業者は至適投与量、投薬技法、および反復率をルーチンに決定する。至適投与量は個々のオリゴヌクレオチドの相対効力に依存して変わる可能性があり、インビトロおよびインビボモデルにおいて有効であると見いだされているEC50に基づいて通常概算できる。成功裏の処置後、腫瘍がその後拡大するのを予防するため、患者に維持療法を施すことが望ましい可能性がある。
【0045】
本発明は、本発明のCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む薬学的組成物および製剤を提供する。「薬学的に許容される担体」(本明細書においては「賦形剤」とも呼ばれる)とは、対象に一つまたは複数の治療化合物(たとえば、CK2アンチセンスオリゴヌクレオチド)を送達するための、薬学的に許容される溶媒、懸濁剤、またはその他の任意の薬理学的に不活性なビヒクルである。薬学的に許容される担体は、腫瘍内投与を考慮して、一つまたは複数の治療化合物および所与の薬学的組成物のその他の任意の成分と組み合わされた場合に、所望の嵩、粘稠度、ならびに妥当な輸送および化学特性を提供するために選択され得る。核酸と有害に反応しない典型的な薬学的に許容される担体には、例として非限定的に以下が含まれる:水;食塩水;結合剤(たとえば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(たとえば、ラクトースおよびその他の糖、ゼラチン、または硫酸カルシウム);滑沢剤(たとえば、デンプン、ポリエチレングリコール、または酢酸ナトリウム);崩壊剤(たとえば、デンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);ならびに湿潤剤(たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム)。
【0046】
本発明のCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドは、任意の薬学的に許容される塩、エステル、またはそのようなエステルの塩、またはヒトを含む動物への投与の際に、生物学的に活性なその代謝産物もしくは残基を提供する(直接的にもしくは間接的に)ことができる、その他の任意の化合物をさらに包含する。したがって、たとえば、本発明はCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの薬学的に許容される塩を提供する。「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明のオリゴヌクレオチドの生理的におよび薬学的に許容される塩(すなわち、望ましくない毒性効果を付与せずに親オリゴヌクレオチドの所望の生物活性を保持する塩)を指す。オリゴヌクレオチドの薬学的に許容される塩の例には、陽イオン(たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、またはスペルミンのようなポリアミン)と形成された塩;無機酸(たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、または硝酸)と形成された酸付加塩;有機酸(たとえば、酢酸、クエン酸、シュウ酸、パルミチン酸、またはフマル酸)と形成された塩;ならびに元素陰イオン(たとえば、塩素、臭素、およびヨウ素)と形成された塩が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0047】
本発明のある特定の態様は、(a)一つまたは複数のアンチセンスオリゴヌクレオチド、および(b)非アンチセンス機構によって機能する一つまたは複数のその他の作用物質を含む薬学的組成物を提供する。たとえば、非ステロイド系抗炎症薬およびコルチコステロイドを含むがこれらに限定されるわけではない抗炎症薬、ならびにリビビリン(ribivirin)、ビダラビン、アシクロビル、およびガンシクロビルを含むがこれらに限定されるわけではない抗ウイルス薬を本発明の組成物に含めてもよい。その他の非アンチセンス作用物質(たとえば、化学療法剤)もまた本発明の範囲内である。そのような組み合わせ化合物を一緒にまたは逐次的に用いて固形腫瘍を処置することができる。
【0048】
本発明のアンチセンス組成物は薬学的組成物に従来から見いだされるその他の添加成分を付加的に含有してもよい。したがって、組成物は、たとえば鎮痒薬、収斂剤、局所麻酔薬もしくは抗炎症剤のような適合性の薬学的に活性な物質、あるいは色素、矯味矯臭剤、保存剤、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、湿潤剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝剤、および安定剤のような、組成物の貯蔵寿命を維持するか、または貯蔵もしくは出荷時に組成物の完全な状態を維持するのに有用な付加的な物質を含んでもよい。しかしながら、そのような物質が添加された場合に、本発明の組成物に含まれるアンチセンス成分の生物活性を過度に妨げるべきではない。滅菌が製剤の核酸に有害な影響を及ぼさなければ、望ましい場合、製剤は滅菌されてもよい。
【0049】
核酸コンストラクト
核酸コンストラクト(たとえば、プラスミドベクター)は核酸を宿主細胞に輸送することができる。適切な宿主細胞には原核または真核細胞が含まれる(たとえば、大腸菌(E. coli)のような細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞)。コンストラクトの中にはそれらが導入される宿主細胞内で自律的に複製することができるものもある(たとえば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。その他のベクター(たとえば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製される。
【0050】
核酸コンストラクトは、たとえばプラスミドベクターまたはウイルスベクター(たとえば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)であり得る。核酸コンストラクトは、関心対象の核酸(たとえば、その天然の形態でCK2 mRNAに特異的にハイブリダイズする転写産物をコードする核酸)に機能的に連結された、一つまたは複数の調節配列を含む。調節エレメントに関して、「機能的に連結された」とは核酸配列が転写されるように(たとえば、ベクターが宿主細胞に導入された場合に)、調節配列および関心対象の核酸が配置されることを意味する。
【0051】
調節配列にはプロモーター、エンハンサー、およびその他の発現制御エレメント(たとえば、ポリアデニル化シグナル)が含まれる。(たとえば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)を参照されたい)。調節配列には、多くの型の宿主細胞においてヌクレオチド配列の発現を導くもの、およびある特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を導くもの(たとえば、細胞型または組織特異的調節配列)が含まれる。
【0052】
製造品目
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは包装材料と組み合わされ、CK2の発現を阻害するためのキットとして販売され得る。製造品目を産生するための成分および方法は周知である。製造品目は上記の節に詳述された一つまたは複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドを組み合わせてもよい。さらに、製造品目は緩衝剤、ハイブリダイゼーション試薬、またはCK2の発現を低減および/またはモニターするためのその他のコントロール試薬をさらに含んでもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてCK2の発現を阻害することができる方法について記載している説明書がそのようなキットに含まれていてもよい。
【0053】
本発明は以下の実施例においてさらに記載されるが、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
実施例
実施例1-CK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの腫瘍内投与
様々な癌細胞株(ALVA-41、PC-3、LNCaP、およびCa9-22)においてCK2シグナルを妨げることの効果を、CK2のαおよびβサブユニットに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて調べた。結果から、アンチセンスCK2αおよびアンチセンスCK2βは、細胞を低濃度のアンチセンスオリゴヌクレオチドに曝露した場合に、細胞に強力なアポトーシス応答を誘発したことが示された。結果から、癌細胞において強力なアポトーシス応答を達成するにはCK2αの中程度のダウンレギュレーションのみが必要であることが示唆された。
【0055】
CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドがインビボで前立腺腫瘍を除去する能力を決定した。転移性ヒト前立腺癌細胞株PC3-LN4(200μl中2×106細胞)を無胸腺のヌードマウスの皮下組織に注射した。腫瘍をサイズが3〜5mmになるまで3週間成長させた。マウスを無作為に4つの群に4匹ずつ分けた。アンチセンスCK2αオリゴヌクレオチド[5'-cct gct tgg cac ggg tcc cga cat-3'(SEQ ID NO:1)(高純度無塩、1.0umolスケール、MWG Biotech, Highpoint, NCにより調製された)ホスホロチオアート;50または200μg/mlの濃度で50μlの溶液]を0日目および3日目に腫瘍に直接注射し、腫瘍をその後7〜10日間観察した。DNAオリゴヌクレオチドおよび食塩水をコントロール処置として用いた。
【0056】
低用量(2.5μg)での処理は2度目の注射後7日間以内で腫瘍サイズに30〜40%の低減をもたらした。高用量(10μg)での処理は、7日目までに腫瘍サイズに95%の低減をもたらし、比較的低用量のCK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドが本モデルにおいてアポトーシスの誘導に有効であることが示唆された(表1)。腫瘍サイズを評価する実験は2日に1度繰り返され、CK2アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた腫瘍内療法への用量依存的応答が示された(図1)。
【0057】
アンチセンスCK2αの効果を評価するため、パラフィンに包埋された腫瘍切片を、組織学的解析のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、アポトーシス解析のためにTUNELで染色した。染色後、個々の癌細胞はネクローシス性およびアポトーシス性の間質に散在していた。5つの異なる視野内でのアポトーシス細胞の目視検査から、ナンセンス対アンチセンス処理された異種移植片腫瘍それぞれについて、9±5および56±22(アポトーシス細胞の割合(%)±S.D.)の値が得られた。CK2αシグナルの低減は免疫ブロットおよびキナーゼ活性アッセイにより確認した(Slaton et al., Mol. Can. Res., 2004; 2 (12): 1-10)。したがって、CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドの腫瘍内注射は前立腺癌異種移植片モデルにおいてアポトーシスを誘導した。
【0058】
(表1)

【0059】
実施例2-前立腺癌正所性モデルにおける裸のアンチセンスCK2αの全身投与
直接注射できない腫瘍または遠隔転移を処置するために静脈内投与が必要であるので、静脈内投与後にCK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドがインビボで前立腺腫瘍および膀胱腫瘍を除去する能力を決定した。始めに、転移性ヒト前立腺癌細胞株PC3-LN4(200μl中2×106細胞)を雄の無胸腺のヌードマウスに前立腺内注射した。腫瘍をサイズが6〜8mmになるまで3週間成長させた。マウスを無作為に3つの群に3〜4匹ずつ分けた。アンチセンスCK2αオリゴヌクレオチド(5'-cct gct tgg cac ggg tcc cga cat-3'(SEQ ID NO:1)ホスホロチオアート;高純度無塩、1.0μmolスケール、MWG Biotech, Highpoint, NCにより調製された;200μlの食塩水中に300μgまたは約10mg/kg)を0日目および3日目に尾静脈から注射し、腫瘍をその後7日間観察した。無作為配列のDNAオリゴヌクレオチドまたは食塩水をコントロール処置に用いた。腫瘍を初回処置から10日後に回収し、測定、計量、およびネクローシスをスコア化した。ホスホロチオアートCK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた静脈内処置は2度目の処置から7日後に腫瘍容積で65%の低減をもたらし、CK2αが限られた回数の静脈内投薬のみの後で、腫瘍サイズの低減に有効であるこを示唆した(表2)。
【0060】
(表2)正所性前立腺腫瘍モデルにおける静脈内アンチセンスCK2療法

ネクローシススケール:0=なし、1=腫瘍面積の5%未満、2=中央部ネクローシスを伴わず25%未満、3=中央部ネクローシスを伴って25%未満、4=中央部ネクローシスを伴って腫瘍面積の25%超。
【0061】
付加的なコントロールとして、正常なマウス前立腺におけるアンチセンスCK2α ODNの効果を評価した。マウスの前立腺に、20μgのナンセンスODN(コントロール)または20μgのアンチセンスCK2α ODNホスホロチオアート(処置)のいずれかを上記のように前立腺内注射した。マウスを7日目に屠殺した。コントロールおよび処置マウスの組織切片を組織学的(H & E染色)に染色し、アポトーシスをTUNLにより検出し、CK2αを免疫組織蛍光により検出した。アンチセンスCK2αで処置した正常な前立腺には、ナンセンスCK2αと比較して、インタクトな腺構造に違いは観察されなかった。アンチセンスCK2αで処置された正常な前立腺には、CK2α免疫シグナルもアポトーシスの徴候も観察されなかった。
【0062】
実施例3-前立腺癌正所性モデルにおけるナノ封入したアンチセンスCK2αの全身投与
アンチセンスオリゴヌクレオチドの送達を全身に供与することはできるが、腫瘍を特異的に標的化できないためにその有効性は限定的である。GeneSegues, Inc.(Chaska, MN)は、分子サイズのカーゴを新生物上の受容体に特異的なリガンドでコーティングしたナノカプセル(50nm未満)に封入することを含む送達システムを開発した。PC3-LN4(200μl中2×106細胞)を雄の無胸腺のヌードマウスに前立腺内注射した。腫瘍をサイズが6〜8mmになるまで3週間成長させた。CK2αホスホロチオアートアンチセンスオリゴヌクレオチド(SEQ ID NO:1;200μlの食塩水中に300μgまたは約10mg/kg)をカーゴとしてナノカプセルにパッケージした(GeneSegues, Inc.;たとえば米国特許第6,632,671号を参照されたい)。このナノ封入したアンチセンスCK2αを0日目および3日目に尾静脈から注射し、腫瘍をその後7日間観察した。DNAオリゴヌクレオチドおよび食塩水をコントロール処置として用いた。腫瘍を初回処置から10日後に回収し、腫瘍低減およびネクローシスについて評価した。ナノ封入したCK2aを用いた静脈内処置は7日後に前立腺腫瘍の完全な液状化(liquification)をもたらし、結果的にごくわずかな生存可能な腫瘍が残存している嚢腫性病変が生じた(表3)。
【0063】
(表3)

ネクローシススケール:0=なし、1=腫瘍面積の5%未満、2=中央部ネクローシスを伴わず25%未満、3=中央部ネクローシスを伴って25%未満、4=中央部ネクローシスを伴って腫瘍面積の25%超。
【0064】
実施例4-正所性前立腺癌異種移植片におけるアポトーシスの誘導、増殖の阻害
アンチセンスCK2αの分子的効果を評価するために、パラフィンに包埋された腫瘍切片を、CK2α、ヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)、活性型カスパーゼ3(aC3)、およびCd 31(Pecam-1)の存在について免疫組織蛍光により解析した。これらのタンパク質はそれぞれ、アンチセンスCK2αのその分子標的に対する効果、細胞分化のプロセス、アポトーシスのプロセス、および腫瘍血管系の優勢を特徴付ける。CK2の直接的な標的であるHDAC1は、クロマチンに作用し、転写因子に対し染色体結合部位の利用可能性を変化させる酵素である。高活性のHDAC1は細胞の増殖活性に相当し、低活性は最終分化および成長休止のプログラムと合致する。CK2の免疫シグナルは明るく、核で、未処置の腫瘍にわたってきわめて均一である。付随して、i)活性型カスパーゼ3の上昇がない、ii)明るく、均一なHDAC1免疫シグナル、およびiii)Cd31/Pecam-1により検出される血管の豊富な存在によりそれぞれ明示されるように、アポトーシスの徴候も、分化/HDAC1阻害の徴候も、抗アポトーシスの徴候も存在しない。残存している生存可能な腫瘍領域において、アンチセンスCK2は、組織分化の誘導と合致する、HDAC1の免疫シグナルの抑制に随伴して、CK2の核免疫シグナルの部分的な低減をもたらす。これらのデータはアンチセンスCK2が限定的な静脈内投薬後に腫瘍組織に所望の分子的変化をもたらすことができることを示す。
【0065】
アンチセンスCK2αの静脈内投与後にアポトーシスの徴候は観察されないが、送達を増大させるためにコロイド剤形に調剤されたアンチセンスCK2αの投与はi)CK2の核免疫シグナルの均一な低減、ii)均一に明るいaC3免疫シグナルによって示されるアポトーシスの誘導、iii)HDAC1阻害の維持、およびiv)腫瘍血管の均一な低減によって明示される抗血管形成をもたらした。送達の増大に続くこのアポトーシスの誘導は、著しい中央部ネクローシスの出現およびナノカプセル処置された腫瘍で剖検時に観察される体液うっ滞と合致した。前立腺癌の正所性モデルにおけるそのような結果は、腫瘍内投与後に観察されるアポトーシスの誘導に合致する。したがって、CK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドは静脈内投与後に前立腺癌異種移植片モデルにおいてアポトーシスを誘導した。
【0066】
実施例5-アンチセンスCK2αの静脈内投与による変異体p53の阻害
ヒトの腫瘍の半分より多くには、p53腫瘍サプレッサータンパク質に、それを過剰に安定にする変異(Mutp53)が見られる。多剤トランスポーター(たとえばMDR-1)および複数の成長/生残カスケードを活性化する優性の変異体タンパク質として作用することで、Mutp53発癌タンパク質は薬物耐性現象および進行疾患の進行において幅広い役割を果たすと考えられている。直接的なタンパク質結合を介して、変異体p53はまた野生型のp53を不活性化し、著しい細胞損傷後の正常なアポトーシスの活性化ができないようにする。腫瘍細胞におけるゲノム不安定性の増大もMutp53と高度に相関し、かつゲノム不安定性の増大はMutp53のトポイソメラーゼIとの直接的な結合およびそれに伴うミスマッチDNA修復酵素であるmshのダウンレギュレーションによって媒介される可能性がある。したがって、この中心的なタンパク質の安定性の増大が患者へもたらす結果は、化学療法、放射線療法への耐性および予後不良である。
【0067】
高悪性度のヒト膀胱癌細胞株、253J-BV(200μl中2×106細胞)を雄の無胸腺のヌードマウスの膀胱内に注射した。腫瘍をサイズが3〜4mmになるまで3週間成長させた。マウスを無作為に2つの群に、それぞれの群に3〜4匹ずつ分けた。CK2ホスホロチオアートアンチセンスオリゴヌクレオチド(5'-gtc ccg aca tgt cag aca gg-3'(SEQ ID NO:2);Oligos, Etc., Wilsonville, OR;200μlの食塩水中に300μgまたは約10mg/kg)をナノ封入し(たとえば、米国特許第6,632,671号;GeneSegues, Inc.;Chaska, MNを参照されたい)、0日目および3日目に腹腔内(i.p.)注射した。腫瘍をその後7日間観察した。対照として、同様に封入したDNAナンセンスオリゴヌクレオチドを用いた。腫瘍を初回処置から10日後に回収し、測定および計量した。ナノ封入したCK2αアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた静脈内処置は、2度目の処置から7日後に腫瘍容積に有意に22%の低減をもたらした。これらの実験から、CK2αが前立腺以外の臓器にある固形腫瘍のサイズの低減に有効であることが示される(表4)。
【0068】
(表4)正所性膀胱腫瘍モデルにおける静脈内アンチセンスCK2療法

【0069】
CK2はp53のC末端への直接的なタンパク質結合を介するp53の主要な調節因子である。タンパク質結合はCK2の細胞タンパク質安定化機構である。単離したp53 C末端領域がCK2酵素活性を、該発癌タンパク質との直接結合の後に増加させることがインビトロで示されている。変異体および正常なp53の両方に特異的な汎親和性のモノクローナル抗体(クローンDO-1)を用いて、パラフィンに包埋された切片を、免疫組織蛍光を用いてp53について調べた。免疫組織蛍光は変異体の53のみを検出し、野生型のp53は検出できなかった。ナンセンスCK2αに比べ、アンチセンスCK2αで処置した腫瘍において、CK2αの核免疫シグナルおよびp53の両方の均一な抑制を観察した。アンチセンスCK2αで処置した組織の核の対比染色を、アンチセンス処置した組織に生存組織が存在していることを確認するために行った。
【0070】
膀胱異種移植片組織CK2αおよびp53の両方の低減をウエスタンブロッティングにより確認した。それぞれの処理について、単一のタンパク質ライセートを作成するために腫瘍をプールした。これらのライセートを4〜12%アクリルアミドゲル上で電気泳動し、ニトロセルロースにトランスファーし、CK2の3つのアイソフォームを全て検出するポリクローナルチキン抗体を用いてCK2を検出した。市販のラット小脳ライセートを陽性コントロール参照レーンとして用いた。タンパク質負荷が同等であることをクマシー染色ゲルを用いて確認した。ウエスタンブロットから、無作為オリゴヌクレオチドおよび食塩水で処理したライセートに比べ、アンチセンスで処理したプールライセートでは、CK2αがこの方法の検出レベル未満に低減していたことが示された。この構造を安定化するCK2αの役割と合致して、CK2αおよびCK2βの両方の低減を観察した。
【0071】
汎親和性のモノクローナルのDO-1を用いて、p53を検出した。食塩水で処理した膀胱腫瘍のプールライセートをその他のプールライセートとの対照として用いた。組み換えの市販のp53タンパク質を陽性コントロールとして含めた。このタンパク質は7kDの融合タグを含み、総分子量は60kDであった。タンパク質負荷が同等であることをクマシー染色ゲルを用いて確認した。ウエスタンブロットから、p53がナンセンスで処理したプールライセートに比べ、>70%低減していたことが示された。p53はセンスで処理したライセートでは歴史的対照に比べ著しく上昇していた。この結果は、p53およびCK2αの両方のストレスへの応答を媒介する役割に合致している。これらの結果に基づくと、アンチセンスCK2αの静脈内投与は腫瘍において変異体p53のレベルを低減させる。
【0072】
実施例6-CK2に対する多特異的なおよび単一特異的なアンチセンス配列のインビトロでの比較
CK2作用を阻害する効果的なアンチセンス配列を同定するため、表5に示したアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下で、インビトロでいくつかのSSCHN(squamous cell carcinoma of the head and neck)腫瘍株において、チミジン取り込みにより成長阻害をアッセイした。
【0073】
(表5)アンチセンス配列

3'キメラのRNA含有量をダッシュ記号の後の数字、たとえば-6により示す。
【0074】
アンチセンス配列を癌細胞に以下の2つのうちいずれか一つの方法で投与した;1)ホスホジエステルおよびキメラ配列をTE緩衝液中の800μMの濃縮原液から終濃度1〜3.75μMで投与した、または2)製造者の使用説明書(Roche Biochemicals)にしたがってDotapとsiRNA配列を複合体形成させ、終濃度を0.5μMにした。癌細胞を、モデル腫瘍間質(テネイシン:フィブロネクチン 2:1)で前処理した96または6ウェルプレートに、細胞培養培地(MEM、0.5%ウシ胎仔血清)に0.5μg/cm2の濃度でプレーティングした。細胞を48時間1μキュリーのチミジンを含むウェルで処理し、最後の16〜18時間の間、増殖状態の指標とした。処理したウェルからの増殖指標を緩衝液またはDotapのいずれかで処理したウェルに関して計算した。実験は二つ組で実施し、少なくとも一回繰り返した。
【0075】
試験した3つのSSCHN腫瘍細胞株において、LCK配列が最も高レベルの成長阻害(RNAキメラについて、Fadu下咽頭:61±4%、UM-11b喉頭:67±4%、SCC-15舌:56±5%、平均±SE)をもたらし、この効果は配列医薬化学に依存しなかった。結果を、LCKベースの配列が腫瘍細胞成長を、用いられた医薬化学に関わらず、同じ医薬化学によって作られたその他の配列に比べ、一貫してより強力に阻害したことを示す、図2Aおよび2Bにまとめた。調剤されていないホスホジエステルおよびsiRNAアンチセンス配列によるCK2タンパク質レベルに対するアンチセンス効果を、処理から24時間後にウエスタンブロッティングによりアッセイし、β-アクチンに対する総CK2(a、a'、およびβ)の割合として濃度測定することにより定量化した。タンパク質キナーゼCK2は、複数のストレスに対する細胞応答の、たとえば化学療法の適用などのストレスの後での、媒介において中心的な役割を果たしており、腫瘍細胞がCK2αの活性および核レベルを共に増加させることにより応答することが公知である(Wang, 2001)。Dotapの使用により惹起されたCK2レベルの増加に比して、siLCKはこの増加を57%阻害したが、もう一つのsiRNAはタンパク質レベルの阻害を示さなかった。ホスホジエステルLCKでさえasCK2配列の後で観察された増加を20%阻害した。
【0076】
実施例7-新規CK2アンチセンス配列のインビボ試験
いくつかのSSCHN異種移植片腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性について、新規の配列をインビボでアッセイした。マウスにUM-11bまたはFadu株のいずれかの3×106細胞を側腹部に皮内接種した。両方の腫瘍株はその放射線抵抗性について調べられている。さらに、UM-11b株は高度に炎症性かつ即時転移性である一方、Fadu株はもっと後で転移するが、変異体p53-(+)でありかつ高度に化学療法抵抗性である。マウスを、腫瘍の直径が4〜5mmであるか容積が約50〜100mm3である時に被験物をi.v.注射して処置した。局所的な腫瘍の容積をカリパス測定により追跡し、各群につき3〜8匹のマウスの平均値を図3Aおよび3Bにプロットする。通常、マウスに48時間空けて2用量を投与した。ホスホジエステルキメラおよびPBS中(「裸」)またはテンフィブゲン(tenfibgen)ベースのナノ粒子(「ナノ粒子」; Wang et al., 2005, MoI. Cell Biochem., 274:77-84)に調剤されたかのいずれかで投与されて、シーケンスが実行された。
【0077】
ナノ粒子ベースのシーケンスには25〜50mg/kgの範囲の開始用量を選択した。この範囲で、Fadu(およびSCC-15)腫瘍は、パイロット研究で3〜4週間にわたって完全な収縮または分化を示した。UM-11b腫瘍はナノ粒子に調剤されたasCK2配列には部分的にしか応答しなかった。UM-11bモデルにおいては、ホスホジエステルキメラ化学を使用しCK2aおよびa'(SEQ NO. 7)の両方の3'UTR領域を扱う、調剤されていないLCK配列が、驚くべきことに、ネクローシスの機構により2×25mg/kgの用量で2ヶ月間にわたって小さな腫瘍を消散させた(約625mcg、5/5マウス、矢印付きの灰色線)。通常、調剤されていないアンチセンス配列はマウスで単一作用物質として細胞増殖抑制性である(制御または成長遅滞には長期的な投薬を必要とする)。同等の結果を、ゆっくりではあるがナノ粒子に調剤された配列について観察した(8/8、点線および矢印)。腫瘍サイズは高用量ナノ粒子群では即時に制御されなかった(4/8、点線)ことから、低用量の方がより至適であることが示され、腫瘍サイズがナノ粒子に調剤されたセンス配列を投与したマウスで制御されなかったことから、薬物媒介効果が実存していることが示された。
【0078】
Faduモデルにおいて、25〜50mg/kgの用量は、免疫無防備状態のマウスでは処置し難い、急速に死滅した腫瘍に由来する開放創を生じた。図3Bは0.01〜10mg/kg処置群からの腫瘍成長データをまとめている。これらの用量範囲のこのモデルにおいては、調剤されていない配列は部分的な抗腫瘍活性を示すに過ぎない(1/7、矢印付きの灰色線)。ナノ粒子に調剤された糖またはコントロール配列で処置したマウスにおいて成長阻害は観察されず、1×50mg/kg(1250mcg)では活性を示した(調剤されて)ナノ粒子に調剤されたペパーコック(Pepperkok)配列のキメラバージョンを2×0.01mg/kg(0.5mcg)で処置したマウスでも活性は全く観察されなかった。両方のナノ粒子群とも初期の腫瘍制御を示した(矢印付きの点線)。より低い用量群において、混合型消散ではなく完全消散および分化に関してより望ましい結果が示された(0.5mcg対500mcg;3/3対4/8)。これらの結果は、CK2に対する新規のアンチセンス配列が、現在利用可能な配列に比して、有意な抗血管形成活性および抗腫瘍活性をインビボで有することを示す。
【0079】
その他の態様
本発明はその詳細な説明に関連して記載されてきたが、前述の説明は例示を意図し、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解される。その他の局面、利点、および改変が特許請求の範囲に含まれる。
【0080】



【図面の簡単な説明】
【0081】
様々な図面における同様な参照記号は同様な要素を示す。
【図1】無胸腺のヌードマウスにおけるCK2アンチセンスオリゴヌクレオチドの腫瘍内投与後の前立腺腫瘍サイズを示すグラフである。腫瘍サイズは2日ごとに評価した。各点は3つの腫瘍を表す。
【図2】多特異的なアンチセンス配列の効果を示すグラフである。配列(表5に示されている)をインビトロで癌細胞に投与し、チミジン取り込み法によって成長率を評価した。実験は96ウェルフォーマットを用いて二つ組で実施し、1〜2回繰り返した。
【図3】アンチセンス配列での処置後の腫瘍成長のグラフを表す。腫瘍の直径をカリパス測定により追跡し、容積を式V=0.5(L*W*W)(式中、Lは2つの腫瘍測定値の長い方である)を用いて概算した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させるアンチセンスオリゴヌクレオチドを、固形腫瘍に送達する段階
を含む、固形腫瘍におけるカゼインキナーゼ2の発現を阻害する方法。
【請求項2】
送達が腫瘍内または静脈内である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが封入アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがホスホロチオアートアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に示されている配列を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがSEQ ID NO:3、4、5、6、7、または8に示されている配列を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
カゼインキナーゼ2がカゼインキナーゼ2-αである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
カゼインキナーゼ2がカゼインキナーゼ2-βである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
固形腫瘍が前立腺、膀胱、乳房、肝臓、腎臓、脳、頭部、および頚部からなる群より選択される位置に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
カゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させるアンチセンスオリゴヌクレオチドを、固形腫瘍に送達する段階
を含む、個体内の固形腫瘍のサイズを低減する方法であって、カゼインキナーゼ2の発現の低減が該腫瘍のサイズの低減をもたらす、方法。
【請求項11】
カゼインキナーゼ2核酸配列にハイブリダイズし、かつその発現を低減させるアンチセンスオリゴヌクレオチド、および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項12】
封入されている、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に示されている配列を有する、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがSEQ ID NO:3、4、5、6、7、または8に示されている配列を有する、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
SEQ ID NO:1または2の少なくとも8核酸塩基部分を含む、最長50核酸塩基長のアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、ヒトカゼインキナーゼ2-αの発現を阻害する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
SEQ ID NO:3、4、5、6、7、または8の少なくとも8核酸塩基部分を含む、最長50核酸塩基長のアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、ヒトカゼインキナーゼ2-αの発現を阻害する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−522639(P2008−522639A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546978(P2007−546978)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/045820
【国際公開番号】WO2006/066154
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【出願人】(507196941)
【出願人】(507196952)
【出願人】(507196963)
【出願人】(507196974)
【出願人】(507196985)
【Fターム(参考)】