説明

カタラーゼ高生産性リゾビウム属微生物

【課題】熱安定性に優れたカタラーゼを大量に生産する微生物を用いて、培地当たりのカタラーゼ活性を高めることにより、低コストでカタラーゼを提供すること。
【解決手段】蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕して得られるカタラーゼ活性が培地あたり10,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物および当該微生物が生産するカタラーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカタラーゼを大量に生産するリゾビウム属微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、繊維やパルプの漂白剤、食品の殺菌剤、酸化剤、半導体ウェハーの洗浄剤として広く使用されている。この過酸化水素は廃水中に残留すると化学的酸素要求量(COD)を増加させる事や生物処理工程へ悪影響を及ぼす事が懸念されるため分解することが必要とされている。
【0003】
過酸化水素の分解方法としては、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を用いる方法が実施されてきたが過酸化水素と当量添加しなければ化学的酸素要求量(COD)を増加させることや作業の安全性の問題から、酵素(カタラーゼ)による処理が実施されるようになってきた。しかしながら、製品としての価格が高いため酵素による過酸化水素の処理は十分普及するに至っていない。
【0004】
従来カタラーゼを生産する微生物として、カビの一種であるサーモアスカス オーランティアカス(Thermoascus aurantiacus)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)(特許文献1)や、細菌の一種であるミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)等が使用されてきた。しかしながら、製品にするには酵素の活性値を十分に高めるために精製などの濃縮工程を要していた。さらに、サーモアスカス オーランティアカスやアスペルギルス ニガーなどのカビは培養に5〜10日間要するため生産効率が悪かった。細菌については培養効率が良いが熱安定性が低いなどそれぞれに欠点を抱えている。
【特許文献1】特開平9−47285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は熱安定性に優れたカタラーゼを大量に生産する細菌を用いて、効率良く培養し、かつ培地当たり、または菌体湿重量当たりのカタラーゼ活性を高めることにより、低コストでカタラーゼを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために本発明者は効率的にカタラーゼを生産する微生物を自然界よりスクリーニングした。その結果、熱安定性の高いカタラーゼを高収量で得られるリゾビウム(Rhizobium)属(旧分類による名称:アグロバクテリウム(Agrobacterium)属)微生物を分離した。また、この微生物は従来用いられてきたカタラーゼ生産菌と比較しても、培養液あたり5〜10倍のカタラーゼを生産するため、または菌体湿重量あたり10倍以上のカタラーゼを生産するため、精製など価格高の原因となる工程を得ずに菌体抽出液の状態で過酸化水素の分解に使用することができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明はリゾビウム属微生物に適した培養条件での培養にて培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕して得られるカタラーゼ活性が培地あたり10,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物である。より具体的には、蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕して得られるカタラーゼ活性が培地あたり10,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物である。好ましくは、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物である。
【0008】
また、本発明は、リゾビウム属微生物に適した培養条件による培養にて得られる菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性が1,000kU/g以上であり、かつタンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物である。より具体的には、蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養して得られる菌体の湿重量あたりのカタラーゼ活性が1,000kU/g以上であり、かつタンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物である。好ましくは、菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性は4,000kU/g以上であり、さらに好ましくは6,000kU/g以上である。
【0009】
また使用する菌株は上記リゾビウム属微生物の変種または変異株でもよい。変種および変異株は、当業者に知られた方法で作成・分離することができる。
【0010】
また、本発明は以下の理化学的性質を有するリゾビウム属微生物由来のカタラーゼである。
(a)熱安定性
60℃で15分間放置したとき放置前の75%以上の活性を保持する。
65℃で15分間放置したとき放置前の45%以上の活性を保持する。
【0011】
更に、本発明は上記リゾビウム属微生物を培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕してカタラーゼを抽出することを特徴とするカタラーゼの製造方法である。本発明の微生物は培養液あたり、または菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性が高いので、菌体破砕後のカタラーゼの濃縮工程は必須ではない。
【0012】
また更に、本発明は上記カタラーゼを過酸化水素に作用させることを特徴とする過酸化水素の分解方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリゾビウム属微生物は、短い培養日数でしかも高活性のカタラーゼを生産するため、従来工業的に使用されてきた微生物よりもカタラーゼを効率良く得ることができる。
【0014】
また、本発明のリゾビウム属微生物はカタラーゼを菌体内に蓄積するので、菌体外に放出する微生物と比較してカタラーゼの回収が容易である。例えば、本発明のリゾビウム属微生物を培養して、得られる菌体を少量の液体中で破砕することによって高活性のカタラーゼを含む菌体抽出液を得ることができる。
【0015】
本発明のリゾビウム属微生物より得られるカタラーゼは、従来工業的に使用されてきたものよりも培地あたりの活性値およびタンパク質あたりの活性値が数倍高く、または菌体湿重量あたりの活性値が10倍以上高いので使用範囲がより広い。
【0016】
更に、本発明のリゾビウム属微生物より得られるカタラーゼは熱安定性に優れているので使用範囲が比較的広い。菌体抽出液を4、30、50℃にそれぞれ4ヶ月間静置した後も、酵素活性の低下は認められないため、常温での長期保存が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕して得られるカタラーゼ活性が培地あたり10,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物(以下、単に「本発明微生物」ということもある)は、工場廃水や土壌等からスクリーニングすることにより得られる。なお、本発明においてカタラーゼ活性は、30℃にて1分間に過酸化水素を1μmol分解する活性を1単位(1U:1ユニット)と定義する。
【0018】
同様に、培養により得られる菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性が1,000kU/g以上であり、かつタンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上であることを特徴とする本発明のリゾビウム属微生物(以下、単に「本発明微生物」ということもある)は、工場廃水や土壌等からスクリーニングすることにより得られる。
【0019】
上記スクリーニングは、例えば次のようにして行われる。まず、工場廃水や土壌等を過酸化水素含有培地に添加し培養する。過酸化水素存在下で増殖することを指標に、さらにその菌体そのものまたは菌体抽出液を、過酸化水素溶液に添加し過酸化水素を分解する速度を指標に選択する。菌体抽出液は培養液を超音波照射やフレンチプレス等によって破砕して得ることができる。そして培地あたりのカタラーゼ活性およびタンパク質あたりのカタラーゼ活性を測定し、培地あたりのカタラーゼ活性が10,000U/ml以上、好ましくは15,000U/ml以上、特に好ましくは20,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上、好ましくは10,000U/mg以上、特に好ましくは15,000U/mg以上であるものを本発明微生物として選択すればよい。
【0020】
上記のようなスクリーニングで得られる微生物の一例としては、本発明者が飲料メーカーの工場廃水より見出した2−1株(旧名称:SG2−1株)が挙げられる。以下にこの微生物の菌学的諸性質を以下に示す。
【0021】
< 形態 >
細胞の形態:桿菌
運動性:有り
胞子形成:無し
<生育状態>
コロニーの形態:円形
コロニーの色調:ベージュ
コロニーの表面:平滑
生育温度:4℃、30℃、40℃で生育する。45℃で生育しない
生育pH:5.5〜9.5(至適生育pH:6.5〜7.5)
酸素要求性:好気
<生理学的性質>
グラム染色性:陰性
O−Fテスト:oxidative
カタラーゼテスト:陽性
オキシダーゼテスト:陽性
資化性(D−フルクトース、マルトース、D−マンノース、メリビオース、D−マンニトール、グリセロール、Lアラビノース、スクロース、D−ソルビトール、D−ガラクトース、L−ラムノース):有り
【0022】
上記2−1株をBIOLOG簡易同定システムに供し、95種類の炭素源の資化パターンを得た。資化パターンについて類似性の高い菌種を検索したところ、リゾビウム属に最も高い類似性を示していた。また、上記微生物のDNAを常法により抽出し16S rDNAの部分をPCR法により増幅して塩基配列を決定し、その塩基配列についてFASTAサーチを行ったところリゾビウム属に属することが判明した。
【0023】
上記解析により2−1株はリゾビウム エスピー(Rhizobium sp.)(旧分類による名称:アグロバクテリウム エスピー(Agrobacterium sp.))と同定された。本出願人はこれをリゾビウム エスピー 2−1(Rhizobium sp. 2-1)と命名し(旧分類による名称:アグロバクテリウム エスピー 2−1(Agrobacterium sp. 2−1))、平成16年12月22日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(郵便番号305-8566、茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託番号FERM P−20348として寄託した。
【0024】
次に、本発明微生物を使用するカタラーゼの製造について説明する。本発明微生物はカタラーゼを菌体内に生産するので、本発明微生物からカタラーゼを得るためには、まず、本発明微生物を培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕すればよい。必要に応じ、破砕液からカタラーゼを抽出することにより、より高活性のカタラーゼ懸濁液を得ることができる。
【0025】
本発明微生物の培養に用いる培地の炭素源としてはグルコース、酵母エキス等を使用することができ、窒素源としてはペプトン、トリプトン、酵母エキス、肉エキス等を使用することができる。また、無機塩としてはリン酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることが出来る。下記に具体的な培地の一例を示す。
【0026】
(培地組成)
トリプトン 10g
酵母エキス 5g
塩化ナトリウム 10g
蒸留水 1L
pH 6.5
【0027】
上記培地を用いた本発明微生物の培養は通常20℃〜35℃好ましくは30℃、pH5.5〜9.5、好ましくは6.5〜7.5の好気条件で行われる。培養時間は対数増殖期後期から定常期前期までの時間でよく、定常期に達するまでの時間はおよそ15〜20時間程度である。
【0028】
上記培養で得られる培養液中の微生物を破砕する方法は、微生物を破砕できる方法であれば特に限定されないが、リン酸緩衝液等で洗浄後、超音波照射、フレンチプレス、酵素(リゾチウム)等で破砕されることが好ましく、特に、フレンチプレスが好ましい。更に、培養液中の菌体を破砕後には未破砕の菌体を分離するために遠心分離、ろ過等を行ってもよい。
【0029】
上記培養液中の微生物を破砕することにより得られる菌体抽出液はカタラーゼ活性が十分に高いため、コスト高の一因となる濃縮過程を経ずに菌体抽出液のまま過酸化水素の分解等に使用することができる。
【0030】
斯くして得られる本発明のカタラーゼは過酸化水素に作用し、酸素と水に分解するものであり、更に以下の理化学的性質を有するものである。
(a)熱安定性
60℃で15分間放置したとき放置前の75%以上、好ましくは85%以上の活性を保持する。
65℃で15分間放置したとき放置前の45%以上、好ましくは55%以上の活性を保持する。
(b)pH安定性
30℃で30分間処理したときpH5〜11で80%以上、好ましくは90%以上の活性を保持する。
(c)至適温度
至適温度は4〜65℃、好ましくは30〜50℃である。
(d)至適pH
至適pHは5〜9、好ましくは6〜9である。
【0031】
上記に示された本発明微生物およびカタラーゼは繊維やパルプの漂白剤、食品の殺菌、酸化剤、半導体ウェハーの洗浄を行う工場の排水や下水の処理に好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0033】
なお、以下の実施例においてカタラーゼ活性は次のようにして算出した。まず、30mM過酸化水素を含む50mMリン酸緩衝液(pH7)を調整し、この1mlを1cmの光透過石英セルに入れ、菌体抽出液を数μl添加して反応を開始させた。分光光度計により過酸化水素の減少を240nmの吸光値で測定し、その初速度から活性値を計算した。
【0034】
実施例1
カタラーゼを生産する微生物のスクリーニング:
工場廃水や土壌約200サンプルについて、カタラーゼ活性が高い微生物をスクリーニングした。まず、工場廃水や土壌等を下記に示す培地に添加し培養した。過酸化水素存在下で増殖することを指標に、さらにその菌体そのものまたは菌体抽出液を、過酸化水素溶液に添加し過酸化水素を分解する速度を指標に選択した。菌体抽出液は培養液を超音波照射やフレンチプレス等によって破砕して菌体抽出液を調製し、そのカタラーゼ活性を測定した。
【0035】
(培地組成)
トリプトン 10g
酵母エキス 5g
塩化ナトリウム 10g
過酸化水素 500ppm
蒸留水 1L
【0036】
上記スクリーニングの結果、工場廃水から一般的にカタラーゼ活性が高いといわれているミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)NBRC3333よりも数倍高いカタラーゼ活性を有する微生物として2−1株を取得した。この2−1株についてBIOLOG簡易同定システムおよび16S rDNAの塩基配列を用いたFASTAサーチを行った結果、リゾビウム エスピーと同定された。本発明者は2−1株をリゾビウム エスピー 2−1と名付けた。リゾビウム エスピー 2−1株の分類学上の位置を図1に示した。尚、旧分類による名称アグロバクテリウム エスピーSG2−1株の分類学上の位置を図2に示した。
【0037】
実施例2
菌体抽出液の調製:
リゾビウム エスピー 2−1株(以下、単に「2−1株」という)を下記に示す培地で定常期前期まで培養し、遠心分離(10,000g、15分)によって集菌した。回収した菌体約5g(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH7)にて洗浄後、培地量と同量(1L)の50mMリン酸緩衝液(pH7)に懸濁し、菌体懸濁液を得た。この菌体懸濁液をフレンチプレス(20,000lb/in2)で菌体破砕して破砕液を得、更に遠心分離(10,000g、15分)することによって未破砕の微生物が除かれ、カタラーゼを含む菌体抽出液を得た。また、比較としてミクロコッカス ルテウス NBRC3333(以下、単に「NBRC3333」という)の菌体抽出液を2−1株と同様にして得た。これら菌体抽出液のカタラーゼ活性とタンパク質あたりのカタラーゼ活性を測定した。
【0038】
(培地組成)
トリプトン 10g
酵母エキス 5g
塩化ナトリウム 10g
蒸留水 1L
【0039】
2−1株の菌体抽出液あたりのカタラーゼ活性は22,540U/mlであり、タンパク質あたりのカタラーゼ活性は21,550U/mgであった。一方、NBRC3333の菌体抽出液あたりのカタラーゼ活性は3,140U/mlであり、タンパク質あたりのカタラーゼ活性は2,870U/mgであった。
また、菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性としては、2−1株は6,508kU/gであり、NBRC3333株では236kU/gであった。
【0040】
実施例3
カタラーゼの性質の測定:
実施例2で得られた2−1株の菌体抽出液に含まれるカタラーゼについて以下の性質を測定した。また、比較としてNBRC3333の菌体抽出液に含まれるカタラーゼについても同様に測定した。
【0041】
(1)熱安定性および至適温度
試験管に実施例2で得られた菌体抽出液1mlを入れ、各温度(30、35、40、45、50、55、60、65、70、75)で15分間インキュベートした後、カタラーゼ活性を測定した。その結果を図3に示した。
【0042】
2−1株が生産するカタラーゼはインキュベート前のカタラーゼ活性を100%とした場合に、60℃で88%、65℃で57%の活性を保持していた。一方、NBRC3333が生産するカタラーゼは60℃で42%、65℃で16%の活性を保持していた。また、2−1株が生産するカタラーゼの至適温度は30〜50℃であった。
【0043】
(2)pH安定性
菌体抽出液を各pH(4、5、6、7、8、9、10、11)の緩衝液に添加し、30℃で30分静置後のカタラーゼ活性を測定した。緩衝液は、50mMクエン酸緩衝液(pH3〜6)、50mMリン酸緩衝液(pH6〜8)、50mMトリス緩衝液(pH8〜9)、50mMグリシン緩衝液(pH10〜11)を使用した。
【0044】
2−1株が生産するカタラーゼはpH5〜11でpH7のときの約90%以上の活性を保持した。また、NBRC3333が生産するカタラーゼもほぼ同様の結果であった。
【0045】
(3)至適pH
過酸化水素を30mM含む各pH(3、4、5、6、7、8、9、10、11)の緩衝液を調整し、その緩衝液中でのカタラーゼ活性を測定した。
【0046】
2−1株が生産するカタラーゼの至適pHは6〜9であった。また、NBRC3333が生産するカタラーゼもほぼ同様の結果であった。
【0047】
以上の通り、2−1株が生産するカタラーゼは、従来カタラーゼ活性が高いといわれていたNBRC3333より培地あたり、また、タンパク質あたりの活性値が数倍高く、しかも熱安定性に優れたものであった。
【0048】
実施例4
カタラーゼを用いた過酸化水素の分解:
2−1株を実施例2と同様に定常期前期まで培養し、遠心分離(10,000g、15分)によって集菌した。得られた菌体約5g(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH7)で洗浄後、培地量の1/5(200ml)の50mMリン酸緩衝液に懸濁し、菌体懸濁液を得た。この菌体懸濁液をフレンチプレス(20,000lb/in2)で菌体破砕して破砕液を得、更に遠心分離(10,000g、15分)することによって未破砕の微生物が除かれ、カタラーゼを含む菌体抽出液を得た。この菌体抽出液のカタラーゼ活性は126,600U/mlであった。この菌体抽出液を終濃度0.1%になるように過酸化水素を1%含む工場廃水に添加し、過酸化水素分解試験を行った。廃水中の過酸化水素の濃度を経時的に測定した結果を図4に示した。
【0049】
工場廃水に含まれていた1%の過酸化水素は、1分後には0.20%、3分後には0.05%、5分後にはほぼ完全に分解した。
【0050】
実施例5
カタラーゼを用いた過酸化水素の分解:
2−1株を下記に示す培地で定常期前期まで培養し、遠心分離(10,000g、10分)によって集菌した。得られた菌体約23g(湿重量)を200mlの50mMリン酸緩衝液に懸濁し、菌体懸濁液を得た。この菌体懸濁液をフレンチプレス(20,000lb/in2)で菌体破砕して破砕液を得、更に遠心分離(10,000g、15分)することによって未破砕の微生物が除かれ、カタラーゼを含む菌体抽出液を得た。この菌体抽出液のカタラーゼ活性は212,840U/mlであった。この菌体抽出液を終濃度100U/mlになるように過酸化水素を1%含む工場廃水に添加し、過酸化水素分解試験を行った。NBRC3333の菌体抽出液についても同時に試験を行い、比較した。
【0051】
(培地組成)
酵母エキス 5g
塩化ナトリウム 10g
クエン酸ナトリウム 1g
グルタミン酸ナトリウム 10g
コーンスティープリカー 5g
蒸留水 1L
【0052】
廃水に含まれていた1%の過酸化水素は、1分後には0.38%に、5分後には0.05%、20分後にはほぼ完全に分解した。一方、NBRC3333は、1分後に0.44%、5分後に0.27%、20分後も0.20%が残存したままだった。廃水中の過酸化水素の濃度を経時的に測定した結果を図5に示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明微生物はカタラーゼを大量に、かつ、菌体内に生産するので高活性カタラーゼの製造に好適である。また、これより得られる本発明のカタラーゼは、熱安定性に優れたものであり、過酸化水素の分解に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明微生物2−1株の分類学上の位置を示す系統樹である。
【図2】図2は、本発明微生物の旧名称での分類学上の位置を示す系統樹である。
【図3】図3は、本発明のカタラーゼを含む菌体抽出液の温度安定性を示す図面である。
【図4】図4は、本発明のカタラーゼを工場廃水に作用させ、過酸化水素が減少する様子を示す図面である。
【図5】図5は、本発明のカタラーゼを工場廃水に作用させ、過酸化水素が減少する様子を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾビウム属微生物に適した培養条件での培養にて培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕して得られるカタラーゼ活性が培地あたり10,000U/ml以上であり、かつ、タンパク質あたりのカタラーゼ活性が5,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物。
【請求項2】
培養が、蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養するものである、請求項1記載のリゾビウム属微生物。
【請求項3】
タンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上である、請求項1または2記載のリゾビウム属微生物。
【請求項4】
リゾビウム属微生物に適した培養条件での培養にて得られる菌体湿重量あたりのカタラーゼ活性が1,000kU/g以上であり、かつタンパク質あたりのカタラーゼ活性が10,000U/mg以上であることを特徴とするリゾビウム属微生物。
【請求項5】
培養が、蒸留水1Lあたりトリプトンを10g、酵母エキスを5gおよび塩化ナトリウムを10g含む培地で1日培養するものである、請求項4記載のリゾビウム属微生物。
【請求項6】
以下の菌学的性質を有する請求項第1〜5のいずれか一項記載のリゾビウム属微生物。
< 形態 >
細胞の形態:桿菌
運動性:有り
胞子形成:無し
<生育状態>
コロニーの形態:円形
コロニーの色調:ベージュ
コロニーの表面:平滑
生育温度:4℃、30℃、40℃で生育する。45℃で生育しない
生育pH:5.5〜9.5(至適生育pH:6.5〜7.5)
酸素要求性:好気
<生理学的性質>
グラム染色性:陰性
O−Fテスト:oxidative
カタラーゼテスト:陽性
オキシダーゼテスト:陽性
資化性(D−フルクトース、マルトース、D−マンノース、メリビオース、D−マンニトール、グリセロール、Lアラビノース、スクロース、D−ソルビトール、D−ガラクトース、L−ラムノース):有り
【請求項7】
リゾビウム エスピー 2−1(寄託番号FERM P−20348)である、請求項第1〜6のいずれか一項記載のリゾビウム属微生物。
【請求項8】
以下の理化学的性質を有するリゾビウム属微生物由来のカタラーゼ。
(a)熱安定性
60℃で15分間放置したとき放置前の75%以上の活性を保持する。
65℃で15分間放置したとき放置前の45%以上の活性を保持する。
【請求項9】
請求項第1〜7項の何れかに記載のリゾビウム属微生物を培養して培養液を得、次いで培養液中の菌体を破砕してカタラーゼを抽出することを特徴とするカタラーゼの製造方法。
【請求項10】
請求項第9項に記載のカタラーゼを過酸化水素に作用させることを特徴とする過酸化水素の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−304786(P2006−304786A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98029(P2006−98029)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(505122575)有限会社S.Gラボラトリー (3)
【Fターム(参考)】