説明

カチオン交換樹脂の製造方法、カチオン交換樹脂、混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法

【課題】不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得、得られた架橋共重合体をスルホン化してカチオン交換樹脂を製造するに当たり、特定の溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下である架橋共重合体に対してスルホン化を行なって、カチオン交換樹脂を製造する。重合の段階で溶出性ポリスチレン等の特定の溶出性化合物を固定化するため、不純物の残存が少なく、かつ使用時における溶出物の発生が少ないカチオン交換樹脂を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出物の少ないカチオン交換樹脂とおよびその製造方法と、該カチオン交換樹脂を用いた混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からイオン交換樹脂は、水の浄化のみならず、医薬、食品、化学工業など広い産業分野で使用されている。一般に、イオン交換樹脂は、架橋した三次元の高分子基体に、アニオン交換基あるいはカチオン交換基を導入した化学構造を持っており、カチオン交換基としては、例えばスルホン基やカルボキシル基、ホスホニル基などがよく知られている。
カチオン交換樹脂は、一般にモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合体にスルホン化剤を反応させて製造される。
【0003】
従来、架橋共重合体を基体としたイオン交換樹脂は、その使用時に有機物等の溶出が発生するという課題があった。こうした樹脂からの溶出物は、分離や精製の対象となる被処理液の着色・毒性化、樹脂の表面の汚染による脱塩阻害・臭気発生・処理量低下、樹脂の分解による水分の増加等を招く原因となる。特に、半導体の材料となるシリコンウエハの洗浄等に用いられる超純水にあっては、微量の溶出物であっても、かかる溶出物がシリコンウエハ表面に吸着し、それが原因で製品に悪影響を及ぼすおそれがあるため、超純水製造用途においては、樹脂からの溶出物量が著しく少ないカチオン交換樹脂が望まれていた。
【0004】
樹脂からの溶出物が発生する原因としては、まず、架橋共重合体の製造時に残存する不純物、例えば、未重合の単量体成分(モノマー)、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の存在が挙げられる。例えば、スチレン系樹脂の場合、未重合の単量体成分としてスチレンモノマー、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン等が、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマー等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子等が、重合反応による副生物としてホルムアルデヒドやベンズアルデヒド等が、それぞれ不純物として残留する。
しかしながら、このような不純物の残存を防ぐための有効な手段は知られておらず、従来はこのような不純物を除去するために、イオン交換樹脂や合成吸着剤の製造後や使用前に、蒸留水等でこれを洗浄する工程が必要となり、コストの高騰や工程の煩雑化を招いていた。
【0005】
また、溶出物発生の別の原因として、架橋共重合体がその使用時や保存時に、時間の経過に伴い酸化等によって分解され、分解物を生じることが挙げられる。
従来、このような分解物の発生を防ぐために、抗酸化能を付与する置換基を導入する技術が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかしながら、その効果は十分ではなかった。
【0006】
また、特許文献4には、スルホン化の段階でスルホン架橋反応を利用して溶出を抑制する方法が開示されている。しかしながら、超純水の製造、特に電子部品・材料洗浄用超純水の製造のためのカチオン交換樹脂においては、その効果面でさらに改良が望まれる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1078940号明細書
【特許文献2】特開平2−115046号公報
【特許文献3】特開平10−137736号公報
【特許文献4】特表平10−508061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景から、架橋共重合体を用いたカチオン交換樹脂について、不純物の残存や分解物の発生を防ぎ、使用時における溶出物の発生を抑制するための技術が望まれていた。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、その目的は、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂とその製造方法、並びに、該カチオン交換樹脂を用いた混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて得られる架橋共重合体において、溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下であるものを使ってスルホン化を行ない、カチオン交換樹脂を合成したところ、特定の超純水通水試験におけるΔTOC測定値が特定値以下である、溶出性化合物の少ないカチオン交換樹脂が得られることを見出した。
更に、このカチオン交換樹脂およびこれを用いて形成された混床樹脂を用いることにより、溶出物の発生が著しく抑制された高純度の電子部品・材料洗浄用超純水を製造することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記〔1〕〜〔8〕に存する。
【0011】
〔1〕 下記(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするカチオン交換樹脂の製造方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)下記式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、前記(a)工程で得られる架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化3】

(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(c)前記溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体をスルホン化する工程
【0012】
〔2〕 前記(c)工程の後に、さらに下記(d)工程を含む〔1〕に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
(d)スルホン化された架橋共重合体から、下記式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化4】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0013】
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のカチオン交換樹脂の製造方法によって製造されたカチオン交換樹脂。
【0014】
〔4〕 下記(A)の超純水通水試験におけるΔTOCが1ppb以下であることを特徴とするカチオン交換樹脂。
(A)超純水通水試験
(1)直径30mm、長さ1000mmの空の測定カラムに、室温条件下、比抵抗が18MΩ・cm以上、水温20以上40℃以下の超純水を満たし、該超純水をSV=30hr−1で通水し、測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(2)前記カチオン交換樹脂500mLを前記測定カラムに流し込み充填した後、室温条件下、前記超純水をカラムにSV=30hr−1で通水し、20時間後の測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(3)下記式によってΔTOCを算出する。
ΔTOC(ppb)=TOC−TOC
【0015】
〔5〕 アニオン交換樹脂と混合した場合における体積増加率が混合前の150%以下であることを特徴とする〔3〕または〔4〕に記載のカチオン交換樹脂。
【0016】
〔6〕 カチオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させて得られる〔3〕ないし〔5〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
【0017】
〔7〕 〔3〕ないし〔6〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂を用いて形成されることを特徴とする混床樹脂。
【0018】
〔8〕 〔3〕ないし〔6〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂を提供することができ、このカチオン交換樹脂をそのまま、またはこれを用いた混床樹脂により、高純度の超純水を製造することができる。
【0020】
本発明のカチオン交換樹脂が、従来樹脂と比べて、不純物の残存が少なく、かつ使用時における溶出物の発生が少ない理由は、
1)重合の段階で純度の高い原料を用いること、
2)重合の段階で、溶出性ポリスチレン等の特定の溶出性化合物を固定すること、
3)重合後の架橋共重合体の洗浄により溶出性ポリスチレン等の特定の溶出性化合物を除去すること、
4)スルホン化された架橋共重合体から溶出性ポリスチレンスルホン酸等の特定の溶出性化合物を除去すること
によると考えられる。
即ち、例えば、前記特許文献4における溶出制御方法では、スルホン架橋が加水分解反応を受ける可能性があるので、再び溶出物となることが懸念されるが、本発明の技術は、このようなことがなく、効果面において十分に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明する。尚、以下の記載は、本発明の実施態様の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載に限定されるものではない。
【0022】
[1]カチオン交換樹脂の製造方法
本発明のカチオン交換樹脂の製造方法は、下記(a)〜(c)の工程、好ましくはさらに(d)の工程を含む。
【0023】
(a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)下記式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化5】

(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(c)前記溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体をスルホン化する工程
(d)スルホン化された架橋共重合体から下記式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化6】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0024】
以下、各工程について説明する。
【0025】
[1−1](a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
本発明に係るモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このうち、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0026】
また、架橋性芳香族モノマーとしてはジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このうち、ジビニルベンゼンが好ましい。
工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンも使用できる。
【0027】
架橋性芳香族モノマーの使用量としては、通常全モノマー重量に対して0.5〜30重量%、好ましくは2.5〜18重量%、更に好ましくは7〜14重量%である。架橋性芳香族モノマーの使用量が多く、架橋度が高くなるほど、得られるカチオン交換樹脂の耐酸化性が向上する傾向にある。一方、架橋度が高すぎると、後工程で溶出性オリゴマーの水洗除去が不完全となりやすい。また、架橋度が高いカチオン交換樹脂の場合、超純水用途のカチオン交換樹脂としての使用時に、精製対象の原水中の不純物(金属イオンやコロイド物質、アミン類やアンモニウム塩)との反応速度が低下し、イオン交換効率が低下して処理水の純度が低下する傾向にある。
【0028】
モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の1種又は2種以上が用いられ、通常、全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用いられる。
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0029】
なお、共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
また、特開2006−328290号公報に記載の重合法も好適に使用できる。
なお、均一粒径の架橋共重合体を得る公知の方法も好適に使用できる。
例えば、特願2000−219991、特願2000−111587、特開昭57−102905号公報、特開平3−249931号公報の方法が好適に使用できる。
【0030】
[1−2](b)特定構造を有する溶出性化合物の含有量を、架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
本発明のカチオン交換樹脂の製造方法は、[1−1]章で得られた架橋共重合体をスルホン化する前に、下記式(I)で示される溶出性化合物の含有量(以下「溶出性化合物(I)」と称す場合がある。)を、架橋共重合体1gに対して400μg以下、好ましくは300μg以下、より好ましくは200μg以下とする工程を含む。
【0031】
【化7】

(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
【0032】
ここで、Zのアルキル基は、通常炭素数1〜8のアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0033】
スルホン化に供する架橋共重合体中の前記溶出性化合物(I)の含有量が400μgより多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂を得ることができない。該溶出性化合物(I)の含有量は少ない程好ましいが、通常その下限は50μg程度である。
【0034】
なお、本発明に係る前記溶出性化合物(I)とは、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合する際に得られる未反応、または反応不十分である副生物である。この溶出性化合物(I)は、製品時におけるイオン交換樹脂の溶出物の原因となるものであり、ポリスチレン換算における重量平均分子量が、通常200以上、好ましくは300以上であり、通常1,000,000以下、好ましくは100,000以下である。例えばスチレン系樹脂の場合、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマー等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子等が挙げられる。また重合反応における連鎖移動反応での副生物として、モノマー中に含まれる重合禁止剤の結合した低重合体成分や遊離重合体成分が挙げられる。
【0035】
架橋共重合体中の溶出性化合物(I)の含有量は、例えば、後述の実施例の項に記載される溶出試験により求めることができる。
【0036】
本発明に係る(b)工程は、特に、前記(a)工程における重合条件を調整することにより、(a)工程と同時に行われる。また、重合後、得られた架橋共重合体を洗浄することによって溶出性化合物(I)を除去して、溶出性化合物含有量が低減された架橋共重合体を得ることもできる。
【0037】
前記(a)工程における重合条件を調整することにより、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得る場合、かかる重合条件の調整方法としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0038】
[1−2−1]重合温度の調整
前述の如く、本発明における共重合反応における重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下し、逆に、重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となり、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。従って、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの重合温度は、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下の範囲で適宜調整する。
【0039】
[1−2−2]脱酸素モノマーの添加
脱酸素モノマーとは、モノマー中の酸素濃度を飽和酸素濃度よりも下げたものをいい、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生を抑制する役割がある。例えば、通常のスチレン系モノマーの飽和酸素濃度は5重量%から10重量%程度であるが、本発明においては、飽和酸素濃度が5重量%未満、特に3重量%以下の脱酸素モノマーを用いることが好ましい。
【0040】
脱酸素モノマーの具体的な調製法としては、モノマーを不活性ガスでバブリングする方法、膜脱気する方法、不活性ガスをモノマー貯槽の上面気相部に流通する方法、シリカゲルなどのカラムで処理する方法が挙げられる。あるいは市販の脱酸素モノマーも使用できる。中でも好ましくはモノマーを不活性ガスでバブリングする方法であり、この場合、使用する不活性ガスは、窒素、二酸化炭素、アルゴンが好ましい。また、脱酸素モノマーは不活性ガス雰囲気中で保管する。
【0041】
脱酸素モノマーの添加量は、モノマー混合物の総量に対し、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。脱酸素モノマーの添加量が少なすぎると、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生量が多くなる。
【0042】
[1−2−3]重合禁止剤を除去したモノマーの使用
重合で使用するモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの混合物中の重合禁止剤を除去することにより、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生を抑制することができ、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得ることができる。
【0043】
[1−2−4]不純物の少ない架橋性芳香族モノマーの使用
通常、架橋性芳香族モノマー、例えば、ジビニルベンゼン中には、ジエチルベンゼン等の非重合性の不純物が存在し、これが溶出性化合物(I)の生成の原因となることから、重合に用いる架橋性芳香族モノマーは、不純物含有量の少ないものであることが好ましい。
かかる不純物含有量の少ない架橋性芳香族モノマーとしては、当該架橋性芳香族モノマー含有量(純度)が57重量%よりも高い、特定のグレードを選択して使用することが好ましい。その他、例えば蒸留等により不純物を除去することにより、不純物含有量の少ない架橋性芳香族モノマーを得ることもできる。
【0044】
本発明で用いる架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)は、特に好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量は、モノマー重量当り通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。この不純物含有量が多すぎると、重合時に不純物に対する連鎖移動反応を起こしやすくなるため、重合終了後のポリマー中に残存する溶出性オリゴマー(ポリスチレン)の量が増加することがあり、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。
【0045】
[1−2−5]架橋性芳香族モノマーの使用量の調整
前述の如く、共重合に供する架橋性芳香族モノマーが多くなるほど樹脂の耐酸化性が向上する傾向にある一方で、架橋度が高すぎると、後工程で溶出性オリゴマーの水洗除去が不完全となりやすく、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得にくくなるため、架橋性芳香族モノマーの使用量は、全モノマー重量に対して0.5〜30重量%、好ましくは2.5〜18重量%、更に好ましくは7〜14重量%の範囲で適宜調整する。
【0046】
また、前記(a)工程後に、(b)工程を行う場合、以下の洗浄工程を採用することができる。
【0047】
[1−2−6]架橋共重合体を洗浄する工程
本発明では、必要に応じて、前記(a)工程でモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとから製造した架橋共重合体を、後述の(c)スルホン化工程の前に、溶媒を用いて洗浄することにより、前記溶出性化合物(I)を除去することができる。
【0048】
この洗浄方法は、架橋共重合体をカラムに詰めて溶媒を通液するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは90℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎると架橋共重合体の分解を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上で、通常4時間以下である。溶媒との接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0049】
洗浄に用いる溶媒としては、炭素数5以上の脂肪族炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等;芳香族炭化水素類、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等;ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等;エーテル類、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチラール等;塩素系溶媒、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等;フェノール類、例えばフェノール等;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタンである。また、これらの溶媒に水を混合して昇温し、共沸状態で洗浄する方法も採ることができる。
【0050】
[1−3](c)架橋共重合体をスルホン化する工程
前記[1−1]、[1−2]章の工程を経て得られた架橋共重合体は、次いで、公知の方法に従ってイオン交換基を導入するためにスルホン化する。
例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、特開平5−132565号公報、特表平10−508061号公報等に記載の方法が用いられる。
【0051】
[1−4](d)スルホン化された架橋共重合体(スルホン化架橋共重合体)から、特定構造を有する溶出性化合物を除去する工程
本発明では、前記[1−3]章で得られたスルホン化架橋共重合体は、次いで、下記式(II)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(II)」と称する場合がある)を除去する処理を行って、スルホン化架橋共重合体1gに対して、前記溶出性化合物(II)の含有量が好ましくは400μg以下、より好ましくは100μg以下、特に好ましくは50μg以下、とりわけ好ましくは30μg以下となるように、スルホン化架橋共重合体を精製することが好ましい。この溶出性化合物(II)含有量が多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂を得ることができない。溶出性化合物(II)の含有量は少ない程好ましい。
【0052】
【化8】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0053】
ここで、Xのハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基は、通常炭素数1〜10のアルキル基又はハロアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ハロメチル基、ハロエチル基、ハロプロピル基、ハロブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、ハロメチル基、ハロエチル基である。
Yの金属原子は、例えばナトリウム、カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、ニッケルなどの陽イオン金属が挙げられる。
【0054】
なお、本発明に係る前記溶出性化合物(II)は、前記溶出性化合物(I)と同様、製品時におけるイオン交換樹脂の溶出物の原因となるものである。その内訳は、スルホン化の母体となる架橋共重合体に本来含まれる溶出性化合物に由来する物質と、スルホン化の段階で発生する物質とが挙げられる。
スルホン化の母体となる架橋共重合体に本来含まれる溶出性化合物に由来する物質とは、[1−2](b)項記載の溶出性化合物(I)のスルホン化物であり、上記式(II)で示される物質に相当する。また、複数のスルホン基が導入された物質も含まれる。
スルホン化の段階で発生する物質とは、スルホン化時の酸化に起因する物質が挙げられ、これも上記式(II)で示される。例えば、架橋共重合体の主鎖の開裂により発生する低分子および高分子のポリマーやオリゴマー成分である。
【0055】
これらの溶出性化合物(II)のポリスチレンスルホン酸換算における重量平均分子量は、通常200以上、好ましくは300以上であり、通常1,000,000以下、好ましくは100,000以下である。溶出性化合物(II)は、例えばスチレン系樹脂の場合、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマーのスルホン化物等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子のスルホン化物が挙げられる。また重合反応における連鎖移動反応での副生物として、モノマー中に含まれる重合禁止剤の結合した低重合体成分や遊離重合体成分のスルホン化物が挙げられる。
【0056】
このような前記溶出性化合物(II)は、例えば、(c)工程で得られたスルホン化架橋共重合体を、水および/または有機溶媒により洗浄することにより除去することができる。
【0057】
この洗浄方法は、スルホン化架橋共重合体をカラムに詰めて有機溶媒および/または水を通水するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは90℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎると重合体の分解やスルホン基脱落を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
水および/または有機溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上で、通常4時間以下である。この接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0058】
洗浄に用いる有機溶媒はとしては、炭素数5以上の脂肪族炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等;芳香族炭化水素類、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等;ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等;エーテル類、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチラール等;塩素系溶媒、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等;フェノール類、例えばフェノール等;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、好ましくは、水、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、メチラールである。
【0059】
[1−5]その他の処理
上述のようにして得られる本発明のカチオン交換樹脂は、更に、カチオン交換樹脂の処理として通常行われる各種の処理を施してもよい。例えば、公知の方法によるからみ防止処理を実施してもよい。
【0060】
即ち、一般に、カチオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂との混床で用いる場合に、アニオン交換樹脂と電気的にからみあう「からみ現象」のため、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂で形成される混床樹脂の体積が増加しすぎるため、ハンドリングの点で問題となる。
【0061】
従って、本発明のカチオン交換樹脂にからみ防止処理を実施することにより、アニオン交換樹脂と混合した場合における体積増加率が混合前の150%以下、好ましくは130%以下、さらに好ましくは110%以下とすることが好適である。なお、この体積増加率とはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合する前の各々の体積の合計に対する混合後の混床樹脂の体積の割合の百分率である。
【0062】
このからみ防止処理としては、例えば、特開平10−202118号公報記載の公知の方法を適用することができる。
具体的には、カチオン交換樹脂1リットルに対して、通常、0.01mmol/L以上、好ましくは0.1mmol/L以上、また、通常10mmol/L以下、好ましくは2mmol/L以下のカチオン性解離基を含有する水溶性高分子で処理することで実施することができる。処理に用いる水溶性高分子としては、具体的には、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。中でもポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドが好適に用いられる。
【0063】
[1−6]カチオン交換樹脂の再生方法
本発明のカチオン交換樹脂は公知の再生方法により再生することができる。
【0064】
[2]カチオン交換樹脂
本発明のカチオン交換樹脂は、下記(A)の超純水通水試験におけるΔTOCが1ppb以下であることを特徴とし、好ましくは、前述の体積増加率が150%以下のものである。
このような本発明のカチオン交換樹脂の製造方法には特に制限はないが、好ましくは、上述の本発明のカチオン交換樹脂の製造方法により製造される。
【0065】
(A)超純水通水試験
(1)直径30mm、長さ1000mmの空の測定カラムに、室温条件下、比抵抗が18MΩ・cm以上、水温20〜40℃の超純水を満たし、該超純水をSV=30hr−1で通水し、測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(2)前記カチオン交換樹脂500mLを前記測定カラムに流し込み充填した後、室温条件下、前記超純水をカラムにSV=30hr−1で通水し、20時間後の測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(3)下記式によってΔTOCを算出する。
ΔTOC(ppb)=TOC−TOC
【0066】
上記(A)超純水通水試験における比抵抗、およびTOC濃度の測定装置は、本発明の技術的意義を失わない程度に市販の測定機器が用いられるが、電子部品・材料洗浄用超純水の製造に用いられるカチオン交換樹脂の場合は精度の高いものが望ましい。
比抵抗測定器としては、例えばDKK社製「AQ−11」を挙げることができる。また、TOC測定器としては、例えばアナテル社製「A−1000XP型」、「A−1000型」、「A−100SE」、「S20P」、シーバース社製「500RL」を挙げることができる。
【0067】
上述の(A)超純水通水試験におけるΔTOCが1ppbを超えるものでは、超純水、特に電子部品・材料洗浄用超純水を製造するためのカチオン交換樹脂としては、溶出物による純度低下の問題があり、好ましくない。ΔTOCは特に0.5ppb以下であることが好ましい。
【0068】
本発明のカチオン交換樹脂の体積あたりの交換容量(meq/mL)は通常1.5以上、好ましくは1.7以上、また通常3.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0069】
また、本発明のカチオン交換樹脂の水分含有率としては、多すぎると耐酸化性が悪くなり、少なすぎると高速通水時のイオン交換反応速度が低下することから、通常25重量%以上75重量%以下のものが用いられる。実用的には30重量%以上60重量%以下の範囲とするのが好ましい。この水分含有率は後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
また、本発明のカチオン交換樹脂の形状も特に限定されず、一般的に用いられているビーズ状のものの他、繊維状、粉状、板状、膜状のような各種形状としたものが挙げられる。ビーズ状のカチオン交換樹脂の場合、その平均粒径は通常100μm以上、好ましくは550μm以上であり、通常1500μm以下、好ましくは1000μm以下である。
【0070】
[3]混床樹脂、超純水の製造方法
本発明の混床樹脂は、本発明のカチオン交換樹脂と任意のアニオン交換樹脂とを用いて、例えば、特開2002−102719号公報などの公知の方法により製造することができる。
また、本発明のカチオン交換樹脂を用いた混床樹脂により、例えば、特開2002−102719号公報などの公知の方法により、樹脂からの溶出物の少ない、高純度の超純水を製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」とは「重量部」を示す。
【0072】
[実施例1]
スチレン(工業グレード、出光社製)497部、ジビニルベンゼン(工業グレード、純度63重量%、非重合性の不純物含有量0.09重量%、ダウ社製)93部を混合し、該混合モノマー槽の上面気相部(モノマー体積と同量)にモノマー混合物の体積の5倍量の窒素ガスを1時間かけて流通させ、酸素濃度3mg/Lの脱酸素モノマー混合物を調製した。このモノマー混合物に、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品。日本油脂製)1.0部、t−ブチルパーオキシベンゾエート(純度99重量%、日本油脂製)0.8部を混合し、0.1%ポリビニルアルコール(工業用、日本合成化学社製、グレードGH−20)水溶液1950部に懸濁させた。該懸濁液を攪拌しながら80℃で5時間保持、その後120℃で4時間反応させ、架橋共重合体を得た。
【0073】
得られた架橋共重合体に対して下記手順により溶出試験を行って、溶出性化合物(I)である溶出性ポリスチレン量を定量した。
【0074】
<溶出性ポリスチレン量の定量>
1)架橋共重合体1部を三角フラスコにとる。
2)テトラヒドロフラン(和光純薬製高速液体クロマトグラフィー用グレード)5倍量を
添加する。
3)40℃で5時間保持する。
4)得られたテトラヒドロフラン上澄み液と水とを1:7の割合で混合する。
5)得られた溶液の濁度をUV法で測定し、同様の手法で測定されたポリスチレン標品の
テトラヒドロフラン溶液の検量線に基づいて溶出性ポリスチレン量を決定する。
【0075】
上記架橋共重合体300部を反応器に入れ、ニトロベンゼン(和光純薬製試薬)900部を加え、共重合体を十分膨潤させた。その後、98%硫酸(キシダ化学製特級)を3150部添加し、浴の温度を105℃にして攪拌しながら8時間反応させてスルホン化を行い、平均粒径650μmのビーズ状のカチオン交換樹脂を得た。
【0076】
得られたカチオン交換樹脂を、カチオン交換樹脂の体積あたり1.3倍の水に分散し、120℃に昇温し、120分間のバッチ洗浄を4回繰り返した。その後、希釈塩酸(和光純薬35%塩酸を希釈したもの)で再生し、さらに超純水をカチオン交換樹脂の体積あたり140倍量通水して洗浄を行なった。
【0077】
得られたカチオン交換樹脂について、イオン交換容量、及び水分含有量を下記方法で測定した。
【0078】
<イオン交換容量の測定>
試料約8gを採取し、その試料を正確に秤量したあと、5重量%食塩水溶液250mLをダウンフローSV=70hr−1で流し、濾液を250mLのメスフラスコに受け定容とした。これよりホールピペットで50mLの液を正確に取り、メチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を用い0.1mol/L−NaOHで滴定し、交換容量を算出した。
【0079】
<水分含有量の測定>
試料約5gを秤量瓶に採取し、その試料を正確に計量した。それを105±2℃の電気乾燥器中に入れ、4時間乾燥した。次に、デシケーター中で放冷し、その重量(g)を測定し、水分含有量を算出した。
【0080】
また、得られた架橋共重合体について、前述の(A)超純水通水試験により、ΔTOCを求めた。
これらの結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
過酸化ジベンゾイルの量を1.6部、t−ブチルパーオキシベンゾエートの量を1.2部にした以外は実施例1と同様にして架橋共重合体を得、得られた架橋共重合体を用いて実施例1と同様の方法でカチオン交換樹脂を得た。
得られた架橋共重合体およびカチオン交換樹脂について、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表1に示した。
【0082】
[実施例3]
カチオン交換樹脂を水に分散して120℃に昇温するバッチ洗浄の回数を2回にした以外は実施例2と同様にして架橋共重合体およびカチオン交換樹脂を得た。
得られた架橋共重合体およびカチオン交換樹脂について、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表1に示した。
【0083】
[比較例1]
スチレン(工業グレード、出光社製)667部、ジビニルベンゼン(工業グレード、純度57重量%、非重合性の不純物含有量4.8重量%、新日鉄化学製)89部、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品。日本油脂製)0.6部を混合し、0.1%ポリビニルアルコール水溶液(日本合成化学社製、GH−20)1764部に懸濁させた。該懸濁液を攪拌しながら75℃で8時間反応させて、架橋共重合体を得た。
【0084】
上記架橋共重合体300部を反応器に入れ、ニトロベンゼン(和光純薬製試薬)600部を加え、共重合体を十分膨潤させた。その後、98%硫酸(キシダ化学製特級)を2100部添加し、浴の温度を105℃にして攪拌しながら8時間反応させ、スルホン化共重合体を得た。
得られたカチオン交換樹脂を塩酸で再生し、さらに超純水をカチオン交換樹脂の体積あたり600倍量通水して洗浄を行なった。
得られた架橋共重合体およびカチオン交換樹脂について、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1のΔTOCの値を比較することより明らかなように、本発明で得られたカチオン交換樹脂は、従来法による樹脂に比し、いずれも低いΔTOC値である。さらに、重合段階での溶出性ポリスチレン量も、従来法による重合ポリマーに比し、いずれも低い値を示す。
実施例1〜3では140BVしか洗浄していないにもかかわらず、ΔTOCは0.3〜0.5ppbにまで下がっていた。
一方、比較例1では、超純水で600倍量も洗浄したにもかかわらず、ΔTOCは3.5ppbも検出された。
【0087】
これは、実施例1〜3と比較例1とで次のように架橋共重合体の合成条件が異なることにより、実施例1では溶出性ポリエチレン含有量の少ない架橋共重合体を得ることができたことによる。即ち、実施例1〜3では純度の高いジビニルベンゼンを用い、2種類の重合開始剤を添加した上で重合温度を最高120℃で行ったことにより、実施例1〜3では溶出性ポリスチレン含有量の少ない架橋共重合体を得ることができたことによる。
【0088】
{超純水通水試験におけるΔTOC}
[実施例4]
直径40mm、長さ500mmの空カラムに室温条件下、抵抗率=18.2MΩ・cm以上、水温=25℃、TOC=0.5μg/Lの超純水を満たし、該超純水をSV=60hr−1で通水し、測定カラム出口のTOC濃度(TOC)を測定した。
次に、実施例1のカチオン交換樹脂500mLを前記測定カラムに充填した後、室温条件下、前記超純水をカラムにSV=60hr−1で通水し、測定カラム出口のTOC濃度(TOC)を測定した。
下記式によりΔTOCを算出した。結果を図1に示す。
ΔTOC=TOC−TOC
尚、TOC測定装置としてはアナテル社製「A−1000」を使用した。
【0089】
[比較例2]
栗田工業社製超純水製造用アニオン交換樹脂(品名EX−CG)を用いた以外は実施例4と同様にしてΔTOCを算出した。結果を図1に示す。
図1より明らかなように、実施例4のものは、通水初期からΔTOCが低く、本発明で得られたカチオン交換樹脂が他のカチオン交換樹脂に比してTOCの溶出が低いことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例4及び比較例2の超純水通水試験におけるΔTOCの径時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするカチオン交換樹脂の製造方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)下記式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、前記(a)工程で得られる架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化1】

(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(c)前記溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体をスルホン化する工程
【請求項2】
前記(c)工程の後に、さらに下記(d)工程を含む請求項1に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
(d)スルホン化された架橋共重合体から、下記式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化2】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法によって製造されたカチオン交換樹脂。
【請求項4】
下記(A)の超純水通水試験におけるΔTOCが1ppb以下であることを特徴とするカチオン交換樹脂。
(A)超純水通水試験
(1)直径30mm、長さ1000mmの空の測定カラムに、室温条件下、比抵抗が18MΩ・cm以上、水温20以上40℃以下の超純水を満たし、該超純水をSV=30hr−1で通水し、測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(2)前記カチオン交換樹脂500mLを前記測定カラムに流し込み充填した後、室温条件下、前記超純水をカラムにSV=30hr−1で通水し、20時間後の測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(3)下記式によってΔTOCを算出する。
ΔTOC(ppb)=TOC−TOC
【請求項5】
アニオン交換樹脂と混合した場合における体積増加率が混合前の150%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項6】
カチオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させて得られる請求項3ないし5のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂を用いて形成されることを特徴とする混床樹脂。
【請求項8】
請求項3ないし6のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266443(P2008−266443A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110653(P2007−110653)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】