説明

カチオン性ロジウム錯体の製造方法

本発明は、式:[Rh(配位子)m(ジオレフィン)]+-(式中、配位子は、1個又は2個の連結リン原子を有する、エナンチオマー的に富化された有機化合物である)を有する非無定形カチオン性ロジウム錯体の製造及び単離方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業的規模で操作するのに適した、リン含有キラル配位子(ligand)のカチオン性ロジウム錯体(complex)の製造の改良方法に関する。特に、本発明は、非対称合成、特に非対称水素化のための触媒として使用されるロジウム錯体の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル単一エナンチオマー化合物の効率的な製造は、最近のファインケミカル及び薬物製造に於ける最も重要な課題の一つである。キラルリン配位子で変性された遷移金属錯体による置換オレフィンの非対称水素化は、分子内にキラリティーを導入する特別に強力な方法である。これは、遷移金属/リン配位子錯体によってオレフィンの一つの面に優先的に結合し、続く水素化によって1種の立体異性体に富んだ生成物が生じることによって達成される。非対称水素化は、種々の要因、即ち化学量論よりも少ない量の触媒の使用、反応のきれいな性質(clean nature)及び大規模装置の利用性のために、大規模水素化に特に適している。非対称オレフィン水素化のために多くの種類のリン配位子及び遷移金属錯体が開発されてきた。最も有効な触媒の中には、カチオン性ロジウムキラルリン配位子錯体がある。それらの特別の成功は、それらの高い触媒活性、生産性及びエナンチオ選択性のためである。
【0003】
カチオン性ロジウムキラルリン配位子錯体によって水素化されたファインケミカルズ及び薬物中間体は、しばしば複雑な多官能性分子であり、そしてこの複雑性は、しばしば、構造が同様に複雑であり、そしてしばしば多段合成によって製造される、必須のキラルリン配位子に反映される。その結果、最も有効なキラルリン配位子の多くは、合成することが非常に困難であり且つ多大の費用を要し、そしてカチオン性ロジウムホスフィン錯体の有効な形成は、非対称水素化触媒又は水素化工程に於けるその次の応用の経済的実行可能性の重要な面である。
【0004】
原則として、カチオン性ロジウムキラルリン配位子錯体は、二つの方法、即ち1)その場で(in situ)、キラル配位子と適当な金属前駆体とを混合することにより、又は2)予備形成した錯体を使用することにより、生じさせることができる。その場で形成した触媒を使用することは、幾つかの明瞭な欠点を有する。即ち、1)多くの配位子が非常に酸素感受性であり、そして誤った取扱によって容易に酸化され得る、2)その場での触媒形成は、余分のプロセス工程を導入する、3)触媒のその場での発生は、矛盾する結果を生じ得る、4)不正確な金属/配位子化学量論は、触媒活性及び選択率に悪影響を与え得ることを有する。このような要因は、規制及び技術的観点から薬物製造に於ける適用性を制限する。しかしながら、予備形成した錯体を使用することによって、これらの困難を克服することができる。即ち1)金属中心による感受性配位子の錯化により、配位子を安定化することができる、2)予備形成した触媒は容易に取扱うことができ、且つ追加の工程を回避してプロセスの中に導入することができる、そして3)予備形成した触媒は、一層一致する結果を与える、よく規定され、そして特徴付けられた種(species)である。
【0005】
非対称水素化触媒(asymmetric hydrogenation catalyst)は、高価値活性薬物成分、薬物中間体及び他のファインケミカルズの合成で最もしばしば使用されるので、これは触媒の完全性を保証するために最も重要なものであり、そしてこれは予備形成した種の使用によって容易に達成することができる。しかしながら、このようなカチオン性ロジウム錯体を、貯蔵のために適した形で製造し、そして単離するための、信頼性があり且つ経済的な方法を確立することは大変である。この点は、今日まで、市販のキラル配位子RoPHOSで、適切な貯蔵安定性の結晶性カチオン性ロジウム触媒を形成することの不可能性によって強調されている。RoPHOSから製造された、単離された固体カチオン性ロジウム触媒は、自発分解(spontaneous decomposition)を受け、価値のある触媒及び配位子の損失に至る(非特許文献1)。
【0006】
文献に記載されている多数のキラルリン配位子錯体は、それらの対応するカチオン性ロジウム触媒への種々の合成経路を生じさせた。カチオン性ロジウムリン錯体を製造するための最も一般的な方法は、必須のキラルリン配位子による、[(1,5−シクロオクタジエン)2Rh][X](式中、Xは、アニオン、典型的に[BF4-、[PF6-、[SbF6-、[ClO4-又は[OSO2CF3-である)の処理である。代表例については、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5及び非特許文献6を参照されたい。生成物の回収を助けるために、低極性溶媒を使用する場合、生成物中に金属前駆体を含有させることは、低極性溶媒中の[(1,5−シクロオクタジエン)2Rh][X]の比較的不溶性のために危険である。アキラル金属前駆体によるキラルカチオン性ロジウム触媒の汚染は、非対称水素化の総立体選択率を低下し得る。この問題は、過剰の配位子を使用することによって克服することができる。しかしながら、高価な配位子を使用する場合、この選択肢は望ましくない。更に、予備形成した錯体と過剰の配位子との更なる反応は、所望の触媒よりも低い選択性の種を生じさせるおそれがある。より極性の溶媒、例えばテトラヒドロフラン中での[(1,5−シクロオクタジエン)2Rh][X]の使用は、しばしば、蒸発、抗溶媒(anti-solvent)との粉砕及び純粋な生成物を得るための結晶化工程を必要とする。
【0007】
代替方法に於いて、クロリド前駆体[(1,5−シクロオクタジエン)RhCl]2を、AgBF4、AgPF6、AgClO4、AgSbF6、NH4PF6、NaBF4、NaSbF6及びNaClO4のような塩で処理して、塩化物を取り除くことができ、そして必須のリン配位子で処理して、カチオン性ロジウム触媒を生じさせることができる。代表例については、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11及び非特許文献12を参照されたい。この経路は、AgBF4及びAgPF6のような銀塩が高価な試薬であるので、大規模応用のために不利である。更に、発生するAgClを、次の反応で触媒を使用する前に、濾過によって除去しなくてはならない。NaBF4又はNH4PF6のような塩を使用する場合、発生する塩化物塩を水洗によって除去しなくてはならず、従って、塩及び水を除去するための追加の分離及び乾燥工程を追加しなくてはならない。また、ホスホルアミダイト(phosphoramidite)、ホスホナイト(phosphonite)及びホスファイトのような置換活性配位子は、水分に対する反応性のために、この方法のためには適していない。更に、塩化物によるカチオン性触媒の汚染は、特許文献13に於いてCobleyらによって強調されているように、触媒性能のために特に有害である。
【0008】
[(1,5−シクロオクタジエン)Rh(アセチルアセトネート)]をHClO4水溶液で処理する別の方法に於いて、適切なリン配位子を添加することによって、カチオン性ロジウム触媒を生じさせることができる、非特許文献14。収量は、この方法を使用して変化させることができ、そして31P−NMRによる反応液体の綿密な検査によって、生成物以外の種々の種の存在が明らかになり、従って反応の最高収率を限定する。HClO4のような酸水溶液の使用によって、この方法に於いて適用可能なキラルリン配位子の範囲が限定される。ホスファイト、ホスホナイト及びホスホルアミダイトのような一般的なキラルリン配位子は、適用される反応条件が配位子の分解に至るので、酸水溶液と共に使用することができない。
【0009】
関連する方法に於いて、Schmutzler(非特許文献15及び非特許文献16)は、[(1,5−シクロオクタジエン)Rh(アセチルアセトネート)]と、ホスファイト及びビウレットから誘導されるカリクサレン(calixarene)との−78℃での直接反応、続くエーテル性HBF4との反応によって、低下した収率で、そして空気及び水分感受性形としてではあるが、カチオン性ロジウムリン錯体が生じ得ることを示した。
【0010】
カチオン性ロジウムリン錯体を製造する別の方法は、[(ノルボルナジエン)Rh(アセチルアセトネート)]とPh3CBF4及び適切なキラルリン配位子との反応である、非特許文献17。工業的ケースに於けるこの方法の応用性は、試薬Ph3CBF4の法外なコスト、更にこの反応は−78℃の反応温度を必要としたこと並びに生成物は、濃縮、粉砕及び再結晶の後でのみ得られたことのために低い。
【0011】
上記の触媒製造の共通の特徴は、触媒を単離するための粗製反応混合物の更なる処理の必要性である。殆どの触媒製造は、均一な溶液になり、それによって、非溶媒を添加することによって、反応混合物から触媒を沈殿させなくてはならない。非溶媒の添加は、一般的に、大きい表面積を有する微結晶性又は無定形物質の急速な沈殿を生じさせる。これは、微結晶性及び無定形物質が結晶性物質よりも熱力学的に安定ではなく、そして触媒の劣った貯蔵能力、劣った取り扱い能力及び加速された分解になり得る。触媒が、しばしば、その使用よりも遙かに前に購入されるか又は製造される工業的ケースに於いて、触媒の劣った貯蔵能力は、製造活動の結果に悪影響を有し、触媒の損失並びに低下した選択率及び収率のために顕著な金銭上の関係を有する。しばしば、この物質が微結晶性であるか又は不十分な純度のものであるとき、沈殿によって単離した触媒を再結晶する必要がある。これは、更なる工程を追加し、そして低下した全体収率になる。
【0012】
広い範囲のリン含有配位子を有する高純度の結晶性物質を一貫して製造するカチオン性ロジウム触媒の製造方法は、特に有利である。先行技術とは反対に、本発明の方法は、工業的実行可能性のためのこれらの必要条件に適合する。
【0013】
【非特許文献1】会議録、キラル・ヨーロッパ(Chiral Europe)2003年、M.Thommen、ゾルビアス社(Solvias AG)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.、1971年、第73巻、第2397頁
【非特許文献3】Helv.Chem.Acta.、1991年、第74巻、第370頁
【非特許文献4】Organometallics、2003年、第93巻、第1356頁
【非特許文献5】Organometallics、2002年、第21巻、第4611頁
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.1993年、第115巻、第10125頁
【非特許文献7】J.Organometall.Chem.、1999年、第577巻、第346頁
【非特許文献8】J.Organometall.Chem.、1983年、第251巻、第79頁
【非特許文献9】Helv.Chim.Acta.1988年、第71巻、第897頁
【非特許文献10】Bull.Chem.Soc.Jpn.、1984年、第57巻、第2171頁
【非特許文献11】Inorg.Chem.、1980年、第19巻、第577頁
【非特許文献12】J.Organometall.Chem.、1982年、第239巻、第1頁
【非特許文献13】Organic Process Research & Development、2003年、第7巻、第407頁
【非特許文献14】Inorg.Chem.1981年、第20巻、第3616頁
【非特許文献15】Z.Anorg.Allg.Chem.、2002年、第628巻、第545頁
【非特許文献16】Z.Anorg.Allg.Chem.、2002年、第628巻、第779頁
【非特許文献17】J.Am.Chem.Soc.1983年、第105巻、第7288頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、式:[Rh(配位子)m(ジオレフィン)]+-(式中、配位子は、1個又は2個の連結リン原子を有する、エナンチオマー的に富化された有機化合物である)を有する非無定形カチオン性ロジウム錯体の製造及び単離方法を含む。本発明は、広範囲の種々の構造的サブタイプからのリン含有配位子への一般的応用性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、式(1):
[Rh(配位子)m(ジオレフィン)]+- (1)
(式中、配位子は、1個又は2個の連結リン原子を有する、エナンチオマー的に富化された有機化合物を表し、そして配位子が単座であるときm=2であり、配位子が二座であるときm=1である)の非無定形カチオン性ロジウム錯体の製造及び単離方法を含む。
【0016】
本発明の方法は、下記の工程、即ち、
(a)1種又はそれ以上のエーテル性溶媒中へのRh(ジオレフィン)(acac)の溶解、
(b)ロジウムと1種又はそれ以上の反応溶媒との可溶性溶媒和錯体を形成するための、フッ素化非鉱酸(non-mineral acid)HX及びアルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物の、同時又は逐次的添加、
(c)有機溶媒の溶液中又は生での配位子の添加、
(d)錯体(1)の結晶性沈殿の収集
を含んでなる。
【0017】
好ましくは、この方法の工程(b)には、同時添加が含まれる。更に好ましくは、工程(b)は、アルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物中の溶液としての、HXの添加を含む。
【0018】
好ましくは、この方法に於いて使用されるジオレフィンは、環式ジオレフィンである。更に好ましくは、このジオレフィンは、1,5−シクロオクタジエン(COD)又は2,5−ノルボルナジエン(NBD)から選択される。最も好ましい態様に於いて、ジオレフィンはCODである。その代わりに、式(1)中のジオレフィンは、エチレン及びC5〜C10シクロアルケンからなる群から選択されたオレフィンの2種の分子を表す。この方法の好ましいフッ素化非鉱酸HXは、HBF4、HPF6及びHSbF6又はトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選択された過フッ素化非鉱酸である。
【0019】
好ましい方法に於いて、エーテル性溶媒は、ジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及び1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される。本発明の方法のためのエーテル溶媒としてジアルキルエーテルを使用する場合に、これらは、好ましくは、t−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びジ−n−ブチルエーテルからなる群から選択される。最も好ましくは、ジアルキルエーテルはt−ブチルメチルエーテルである。代わりの態様に於いて、ジアルキルエーテルは、テトラヒドロフランとの混合物中にある。好ましくは、ジアルキルエーテル:テトラヒドロフランの比は、約10:1〜約1:1の範囲内である。更に好ましくは、ジアルキルエーテル:テトラヒドロフランの比は、約6:1〜約2:1の範囲内である。
【0020】
好ましくは、アルコール溶媒は、直鎖又は分枝鎖C1〜C6アルカノールであり、このアルカノールはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及び1−ブタノールからなる群から選択される。本発明の方法に於いて、配位子の溶解のために使用される有機溶液は、エーテル性溶媒、非極性炭化水素溶媒及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0021】
本発明の方法に於いて使用される配位子に於いて、連結リン原子(又は原子群)は、第三級ホスフィンの形であってよく、又は1個若しくはそれ以上のヘテロ原子に共有結合されていてよい。本発明の種々の態様の下記の説明は、適当な配位子の代表的であるが、限定ではない実施例を表すために、例示の目的のために示す。二座及び単座キラルリン配位子の多数の設計が報告されており、これは科学的努力の非常に活性の領域であり続ける。最近の包括的なレビューについて、Tang及びZhang、Chem.Rev.、2003年、第103巻、第3029頁を参照されたい。
【0022】
錯体(1)に於いてm=1であり、そして配位子が二座であるとき、本発明の一つの態様に於いて、配位子はジホスフィンである。このジホスフィンは、好ましくは、2個のホスホラン(phospholane)環又は2個のホスフェタン(phosphetane)環を含有するビスホスファサイクル(bisphosphacycle)であってよい。ビスホスホランの場合に、よく確立された種類の配位子は、一般式(2)又はその逆エナンチオマー(opposite enantiomer)によって表され、この式中で、Xは、有機又は有機金属橋架け基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又は任意的に置換された炭化水素基を表すが、R1及びR2は共にHではなく、何れか又は両方のホスホラン環の3位及び4位は、1個又はそれ以上の非干渉基によって任意的に置換されていてよく、そしてそれぞれのホスホラン環は、表示されるような分離した環であるか又は多環式環システム内に埋め込まれていてよい。好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立に、C1〜C20アルキル、アリール又はアラルキルである。更に好ましくは、R1=R2=C1〜C20アルキルであるか又はR1=R2=フェニルである。R1=R2=C1〜C20アルキルである場合に、アルキルは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びt−ブチルからなる群から選択される。本発明の方法は、式中の配位子が(2)のヒドロキシル化変形である錯体(1)の製造に適用可能である。この態様のために、酸置換活性ヒドロキシル保護基(これは、ロジウム錯体の形成の間に開裂される)を有する配位子前駆体を使用することが便利であろう。
【0023】
【化1】

【0024】
ビスホスホラン(2)中の好ましいP−X−P橋架け基は、式(3)〜(8)からなる群から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されていてよく、(4)に於けるnは0〜5の範囲内であり、(8)に於けるXは、O又はN−アルキルである。更に好ましくは、P−X−Pは、(3)又は(4)(式中、nは1である)である。主鎖構造(3)〜(8)に関して、代替主鎖構造の置換により、本発明の方法によってロジウム錯体に転化することができる配位子を得ることが可能であることが、当業者によって容易に認められるであろう。
【0025】
【化2】

【0026】
本発明の方法によってロジウム錯体に転化することができる代替ビスホスホラン配位子は、化合物(9)を含む2個のステレオジェニック(stereogenic)中心を含有するもの、その逆エナンチオマー及びその置換された類似体である。
【0027】
【化3】

【0028】
ビスホスフェタンの場合に、本発明の方法の更なる態様に於いて、式(10)によって表される配位子又はその逆エナンチオマーが使用され、この式中で、Xは、有機又は有機金属橋架け基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又は任意に置換された炭化水素基を表わすが、R1及びR2は共にHではなく、何れか又は両方のホスフェタン環の3位は、1個又はそれ以上の非干渉基によって任意に置換されていてよい。好ましくは、Xは1,1′−フェロセニルであり、そしてR1及びR2は、それぞれ独立に、C1〜C20アルキル、アリール又はアラルキルである。更に好ましくは、R1=R2=C1〜C20アルキルであるか又はR1=R2=フェニルである。R1=R2=C1〜C20アルキルである場合に、アルキルは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びt−ブチルからなる群から選択される。
【0029】
【化4】

【0030】
本発明の方法の更に別の態様に於いて、2個のP(Ar)2基(式中、Ar=1個又はそれ以上のアルキル又はアルコキシ基によって任意的に置換された、フェニルである)を含有するアトロプ異性ジホスフィンを含むジホスフィン配位子が使用される。好ましくは、アトロプ異性ジホスフィンは、ビアリール単位が任意にヘテロ芳香族であってよいビアリールジホスフィンである。本発明の好ましいビアリールジホスフィンは、式(11)のBINAP配位子又はその逆エナンチオマーである。代表的ヘテロ芳香族類似体は、ジホスフィン(12)又はその逆エナンチオマーである。
【0031】
【化5】

【0032】
本発明の別の態様は、ジホスフィンが,式(13)の配位子又はその逆エナンチオマーである方法からなる。任意的に、(13)の[2,2′]−パラシクロファン主鎖は、更に置換されていてよい。
【0033】
【化6】

【0034】
本発明の更なる態様は、配位子がキラルフェロセン系ジホスフィンである方法を含む。式中、X=1,1′−フェロセニルであるビスホスフェタン(10)に加えて、Tang及びZhang、同書により記載されたような、このようなジホスフィンの幾つかのよく確立されたサブクラスが存在する。Togni等(J.Am.Chem.Soc.、1994年、第116巻、第4062頁)の非−C2−対称ジョシホス型(Josiphos-type)配位子は、最もよく知られた実施例を提供する。
【0035】
錯体(1)に於いてm=1であるとき、配位子中の連結リン原子の少なくとも1個は、1個又はそれ以上のヘテロ原子に共有結合されていてよい。本発明のこの態様に於いて、好ましくは、両方の連結リン原子が、1個又はそれ以上のヘテロ原子に共有結合されている。更に好ましくは、配位子は、ビスホスファイト、ビスホスフィナイト、ビスホスホナイト及びビスホスホルアミダイトからなる群から選択される。
【0036】
本発明の更に別の態様は、配位子がモノホスフィンであり、従って錯体(1)中でm=2である方法を含む。好ましくは、このモノホスフィン配位子は、P−アリールホスファサイクルからなる。本発明の更に別の態様は、配位子が、式(14)のホスホルアミダイト又はその逆エナンチオマーであり、従って錯体(1)中でm=2である方法からなる。
【0037】
【化7】

【0038】
本発明の全態様を通して、錯体(1)が結晶形で得られること及び錯体(1)が、不活性雰囲気下、周囲温度(ambient temperature)で、少なくとも3日間貯蔵するために安定であることが好ましい。本発明の方法の好ましい態様に従って、配位子は、少なくとも95%eeまでエナンチオマー的に富化される。更に好ましくは、配位子は、少なくとも99%eeまでエナンチオマー的に富化される。最も好ましくは、配位子はエナンチオマー的に純粋である。
【実施例】
【0039】
下記の実施例は本発明を例示する。
【0040】
例1:((−)−1,2−ビス−((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−MeDuPHOS)Rh(COD)][BF4]の合成
プログラム可能循環器、接触温度計、オーバーヘッド攪拌機、還流凝縮器、凝縮器循環器、底出口バルブ、3個の添加ポート、2個の膜供給ポンプ及び10リットルの受器フラスコを有するフィルターアセンブリーを取り付けた、10リットルのジャケット付きガラス容器を、窒素/真空アセンブリーに連結し、そして不活性窒素雰囲気下に置いた。この反応器に、0.600kg(1.934モル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、0.411kgの脱気したテトラヒドロフラン及び1.708kgの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入した。還流凝縮器温度を10℃に設定した。容器内容物を攪拌し、そしてプログラム可能循環器により加熱して、全ての物質が溶解するまで穏やかに還流させた。インラインフィルターを有するサイドアームを取り付け、供給ポンプを介して反応器に連結したシュレンクフラスコに、0.726kgの脱気したプロパン−2−オールを装入し、0.376kg(2.322モル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートを、プロパン−2−オールに、35℃以下の温度を維持しながら攪拌下にゆっくり添加した。第二膜ポンプを介して反応器に連結した、サイドアーム及びインラインフィルターを有する第二シュレンクフラスコに、1.069kgの脱気したテトラヒドロフラン及び0.593kg(1.935モル)の((−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)を、全ての物質が溶解するまで攪拌下に装入した。テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートのプロパン−2−オール溶液を、穏やかな還流を維持しながら、膜供給ポンプを使用して、反応器に25分間かけて連続的に添加して、透明な黄/褐色均一溶液を得た。供給ポンプラインを3×20mLの脱気したプロパン−2−オールで洗浄し、そして反応器内容物を、還流下で約20分間攪拌した。脱気したテトラヒドロフラン中の((−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)の溶液を、穏やかな還流を維持しながら、膜供給ポンプを使用して、約22分間かけて連続的に添加し、そしてポンプラインを3×20mLの脱気したテトラヒドロフランで洗浄した。((−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)溶液の添加によって、深赤色結晶性生成物の殆ど即座の沈殿が起こった。((−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)溶液の添加が完結した後、容器内容物を還流下で約26分間攪拌し、その後、容器循環器を、直線方式で6時間かけて約25℃まで冷却するようにプログラムした。容器内容物を、N2圧力下で底出口バルブを経て、N2圧力下でフィルターアセンブリーに移した。反応器及びフィルターアセンブリーを、2×1.25kgの脱気したプロパン−2−オールで、容器を経て2回洗浄し、そして残留溶媒を真空下で除去した。フィルターケークを、最後に3×0.384kgの脱気した3:2テトラヒドロフラン/t−ブチルメチルエーテル溶液で洗浄し、そして一定重量にまで真空乾燥させた。この反応により、1.102kg、94.3%の((−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0041】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ77.1ppm、二重線JRh-P 148.6Hz。
【0042】
例2:((−)−1,2−ビス−((2R,5R)−2,5−ジエチルホスホラノ)ベンゼン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−EtDuPHOS)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、1.5988g(5.154ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、1.239gの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び6.147gの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。1.918gの脱気したプロパン−2−オール中の1.001g(6.1848ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。7.400gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の1.8687g(5.154ミリモル)の(−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジエチルホスホラノ)ベンゼンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後−20℃に冷却した。反応溶媒を注射器によって除去し、そして物質を2×1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、3.211g、97%収率の((−)−1,2−ビス−((2R,5R)−2,5−ジエチルホスホラノ)ベンゼン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0043】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ70.4ppm、二重線JRh-P 148.7Hz。
【0044】
例3:((+)−1,2−ビス−((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)エタン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−MeBPE)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、6.00g(19.356ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、4.656gの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び23.082gの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。7.20gの脱気したプロパン−2−オール中の3.76g(23.22ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。22.2gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の5g(19.356ミリモル)の1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)エタンの溶液を、20分間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後−20℃に冷却した。反応物を窒素下で濾過し、そして真空下で乾燥させて、10.19g、96.4%収率の(1,2−ビス−((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)エタン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0045】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ77.49ppm、二重線JRh-P 144.7Hz。
【0046】
例4:(1,2−ビス−((2S,5S)−2,5−ジフェニルホスホラノ)エタン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−PhBPE)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、340mg(1.096ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、445mgの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び2.59gの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。392mgの脱気したプロパン−2−オール中の214mg(1.322ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に30分間攪拌した。4.445gの脱気したテトラヒドロフラン中の556mg(1.0975ミリモル)の1,2−ビス((2S,5S)−2,5−ジフェニルホスホラノ)エタンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に30分間攪拌し、その後、室温に冷却した。反応物を窒素下で濾過し、そして物質を3.925gの脱気したプロパン−2−オール、8.89gの脱気したテトラヒドロフランで洗浄し、真空下で乾燥させて、860mg、97.5%収率の(1,2−ビス−((2S,5S)−2,5−ジフェニルホスホラノ)エタン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0047】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ79.64ppm、二重線JRh-P 153.9Hz。
【0048】
例5:(1,1′−ビス−((2R,5R)−2,5−ジイソプロピルホスホラノ)フェロセン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−i−Pr−5−Fc)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、200mg(0.6448ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、155mgの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び769mgの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。240mgの脱気したプロパン−2−オール中の125mg(0.7719ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の338.2mg(0.6448ミリモル)の1,1′−ビス((2R,5R)−2,5−ジイソプロピルホスホラノ)フェロセンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に10分間攪拌し、その後、−20℃に冷却した。反応溶媒を注射器により除去し、そして物質を2×1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、507mg、96.9%収率の(1,1′−ビス−((2R,5R)−2,5−ジイソプロピルホスホラノ)フェロセン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0049】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ30.3ppm、二重線JRh-P 141.2Hz。
【0050】
例6:((+)−1,1′−ビス−((2R,4R)−2,4−ジエチルホスフェタノ)フェロセン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−EtFerroTANE)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、3.522g(11.355ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、2.729gの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び13.541gの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。4.225gの脱気したプロパン−2−オール中の2.206g(13.626ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。14.80gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の5g(11.355ミリモル)の(+)−1,1′−ビス((2R,4R)−2,4−ジエチルホスフェタノ)フェロセンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、−20℃に冷却した。反応物を窒素下で濾過し、真空下で乾燥させて、7.55g、91%収率の((+)−1,1′−ビス−((2R,4R)−2,4−ジエチルホスフェタノ)フェロセン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0051】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ51.74ppm、二重線JRh-P 146.4Hz。
【0052】
例7:((R)−(+)−2,2′−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−1,1′−ビナフチル)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R,R)−BINAP)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、100mg(0.322ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、68.5mgの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び384.7mgの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。120mgの脱気したプロパン−2−オール中の62.6mg(0.387ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。0.889gの脱気したテトラヒドロフラン及び2.2gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の200.6mg(0.322ミリモル)の(R)−(+)−2,2′−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1′−ビナフチルの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、−20℃に冷却した。反応溶媒を注射器により除去し、そして物質を2×1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、292mg、99%収率の((R)−(+)−2,2′−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−1,1′−ビナフチル)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0053】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ26.6ppm、二重線JRh-P 146.8Hz。
【0054】
例8:((R)−(−)−4,12−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−[2.2]−パラシクロファン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R)−PhanePhos)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、50mg(0.1612ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、34.25mgの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び192.4mgの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。60mgの脱気したプロパン−2−オール中の31.3mg(0.1934ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に25分間攪拌した。1.78gの脱気したテトラヒドロフラン及び2.2gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の92.95mg(0.1612ミリモル)の(R)−(−)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−[2.2]−パラシクロファンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、−20℃に冷却した。反応溶媒を注射器により除去し、そして物質を2×1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、134mg、95%収率の((R)−(−)−4,12−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−[2.2]−パラシクロファン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0055】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ33.3ppm、二重線JRh-P 147Hz。
【0056】
例9:(ビス−((R)−(−)−(3,5−ジオキサ−4−ホスファ−シクロヘプタ[2,1−a;3,4−a′]ジナフタレン−4−イル)ジメチルアミン))(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((R)−Monophos)2Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、100mg(0.322ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、68.5mgの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び384.7mgの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。120mgの脱気したプロパン−2−オール中の62.6mg(0.387ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に20分間攪拌した。1.33gの脱気したテトラヒドロフラン及び2.2gの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の231.6mg(0.644ミリモル)の(R)−(−)−(3,5−ジオキサ−4−ホスファ−シクロヘプタ[2,1−a;3,4−a′]ジナフタレン−4−イル)ジメチルアミンの溶液を、10分間かけて滴下により添加して、橙/黄色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、−20℃に冷却した。反応溶媒を注射器により除去し、そして物質を2×1.48gの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、281mg、87%収率の(ビス−((R)−(−)−(3,5−ジオキサ−4−ホスファ−シクロヘプタ[2,1−a;3,4−a′]ジナフタレン−4−イル)ジメチルアミン))(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0057】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ138ppm、多重項のブロード二重線。
【0058】
例10:((R)−2,2′,6,6′−テトラメトキシ−4,4′−ビス(ジ(3,5−キシリル)ホスフィノ)−3,3′−ビピリジン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[(CTH−(R)−Xylyl−P−Phos)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、42mg(0.135ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、100μLの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び200μLの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。100μLの脱気したプロパン−2−オール中の18μL(0.132ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に25分間攪拌した。0.5mLの脱気したテトラヒドロフラン及び2mLの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の102mg(0.135ミリモル)の((R)−2,2′,6,6′−テトラメトキシ−4,4′−ビス(ジ(3,5−キシリル)ホスフィノ)−3,3′−ビピリジン)の溶液を、30分間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、室温に冷却した。更に8mLの脱気したt−ブチルメチルエーテルを滴下により添加した。この混合物を−20℃に冷却し、反応溶媒を注射器により除去し、そして物質を真空下で乾燥させて、66mg、46%収率の((R)−2,2′,6,6′−テトラメトキシ−4,4′−ビス(ジ(3,5−キシリル)ホスフィノ)−3,3′−ビピリジン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0059】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ24.7ppm、二重線JRh-P 143Hz。
【0060】
例11:((1S,1S′,2R,2R′)−1,1′−ジ−t−ブチル−[2,2′]ジホスホラン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート:[((S,S,R,R)−TangPhos)Rh(COD)][BF4]の合成
窒素下のシュレンクフラスコに、121mg(0.395ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、300μLの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び600μLの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。100μLの脱気したプロパン−2−オール中の54μL(0.397ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に25分間攪拌した。1mLの脱気したテトラヒドロフラン及び2mLの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の113mg(0.135ミリモル)の(1S,1S′,2R,2R′)−1,1′−ジ−t−ブチル−[2,2′]ジホスホランの溶液を、1時間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。この反応物を更に20分間攪拌し、その後、室温に冷却し、次いで氷水浴中で冷却した。生成物をシュレンクフィルター中に集め、別の2×2mLの脱気したt−ブチルメチルエーテルで洗浄した。物質を真空下で乾燥させて、166mg、72%収率の((1S,1S′,2R,2R′)−1,1′−ジ−t−ブチル−[2,2′]ジホスホラン)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0061】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ97.7ppm、二重線JRh-P 143Hz。
【0062】
例12:配位子前駆体のその場での脱保護による、{(1,2−ビス[(2S,5S)−2,5−ジメチル−(3S,4S)−3,4−ジヒドロキシホスホラノ]ベンゼン}(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートの合成
窒素下のシュレンクフラスコに、70mg(0.226ミリモル)の(1,5−シクロオクタジエン)(アセチルアセトネート)ロジウム(I)、200μLの乾燥した脱気したテトラヒドロフラン及び400μLの脱気したt−ブチルメチルエーテルを装入し、そして攪拌下で、全ての物質が溶解するまで55℃に加熱した。100μLの脱気したプロパン−2−オール中の25μL(0.13ミリモル)のテトラフルオロホウ酸ジエチルエーテレートの溶液を、注射器から10分間かけて滴下により添加して、均一な黄/褐色溶液を得た。得られた溶液を更に30分間攪拌した。0.5mLの脱気したテトラヒドロフラン及び2mLの脱気したt−ブチルメチルエーテル中の101mg(0.224ミリモル)の(S,S,S,S)−MeKetalPhosの溶液を、1時間かけて滴下により添加して、橙/赤色結晶性沈殿を得た。別の2mLのt−ブチルメチルエーテルを滴下により添加した。この反応物を更に60分間攪拌し、その後、室温に冷却し、次いで氷水浴中で冷却した。上澄み液を除去し、そして残渣を真空下で乾燥させて、赤色粉末としての生成物、55mg、63%収率の{(1,2−ビス[(2S,5S)−2,5−ジメチル−(3S,4S)−3,4−ジヒドロキシホスホラノ]ベンゼン}(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートを得た。
【0063】
31P NMR(162MHz、CDCl3)δ77.6ppm、二重線JRh-P 152Hz。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
[Rh(配位子)m(ジオレフィン)]+- (1)
(式中、配位子は1個又は2個の連結リン原子を有する、エナンチオマー的に富化された有機化合物を表し、そして配位子が単座であるときm=2であり、配位子が二座であるときm=1である)の非無定形カチオン性ロジウム錯体の製造及び単離方法であって、下記の工程:
(a)1種又はそれ以上のエーテル性溶媒中へのRh(ジオレフィン)(acac)の溶解、
(b)フッ素化非鉱酸HX及びアルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物の、同時又は逐次的添加によるロジウムと1種又はそれ以上の反応溶媒との可溶性溶媒和錯体の形成
(c)有機溶媒溶液中又は生での配位子の添加、
(d)錯体(1)の結晶性沈殿の収集
を含んでなる方法。
【請求項2】
工程(b)が、HXとアルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物との同時添加を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)がアルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物中の溶液としてのHXの添加を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)がHXとアルコール溶媒又はアルコール含有溶媒混合物との何れかの順序での逐次添加を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ジオレフィンが環式ジオレフィンである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジオレフィンが1,5−シクロオクタジエン(COD)又は2,5−ノルボルナジエン(NBD)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ジオレフィンがCODである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ジオレフィンがエチレン及びC5〜C10シクロアルケンからなる群から選択されたオレフィンの2種の分子を表す請求項1に記載の方法。
【請求項9】
HXが過フッ素化非鉱酸である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
HXがHBF4、HPF6、HSbF6及びCF3SO3Hからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
HXがHBF4である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エーテル性溶媒がジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及び1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ジアルキルエーテルがt−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びジ−n−ブチルエーテルからなる群から選択される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ジアルキルエーテルがテトラヒドロフランとの混合物中にある請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ジアルキルエーテル:テトラヒドロフランの比が約10:1〜約1:1の範囲内である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ジアルキルエーテル:テトラヒドロフランの比が約6:1〜約2:1の範囲内である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ジアルキルエーテルがt−ブチルメチルエーテルである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
アルコールが直鎖又は分枝鎖C1〜C6アルカノールである請求項1に記載の方法。
【請求項19】
アルカノールがメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及び1−ブタノールからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
配位子の溶解のために使用される有機溶液がエーテル性溶媒、非極性炭化水素溶媒及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項21】
m=1である請求項1に記載の方法。
【請求項22】
配位子がジホスフィンである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ジホスフィンがビスホスファサイクルである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ビスホスファサイクルがビスホスホランである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ビスホスファサイクルが式(2):
【化1】

(式中、Xは有機又は有機金属橋架け基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又は任意的に置換された炭化水素基を表すが、R1及びR2は共にHではなく、そして何れか又は両方のホスホラン環の3位及び4位は、1個又はそれ以上の非干渉基によって任意的に置換されていてよい)
に係るビスホスホラン又はその逆エナンチオマーである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ビスホスホランのP−X−Pが式(3)〜(8):
【化2】

からなる群から選択され、これらのそれぞれは、任意的に置換されていてよく、式(4)に於けるnは0〜5の範囲内であり、式(8)に於けるXはO又はN−アルキルである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
P−X−Pが式(3)のものである請求項26に記載の方法。
【請求項28】
P−X−Pが式(4)のものであり、そしてn=1である請求項26に記載の方法。
【請求項29】
P−X−Pが式(5)のものである請求項26に記載の方法。
【請求項30】
ビスホスファサイクルが、式(9)に係るビスホスホラン、その逆エナンチオマー及びその置換された類似体である請求項24に記載の方法。
【請求項31】
ビスホスファサイクルが式(10):
【化3】

(式中、Xは有機又は有機金属橋架け基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又は任意的に置換された炭化水素基を表すが、R1及びR2は共にHではなく、何れか又は両方のホスフェタン環の3位は1個又はそれ以上の非干渉基によって任意的に置換されていてよい)
のビスホスフェタンである請求項23に記載の方法。
【請求項32】
Xが1,1′−フェロセニルである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
1及びR2が、それぞれ独立に、C1〜C20アルキル、アリール又はアラルキルである請求項25〜29又は31〜32の何れか1項に記載の方法。
【請求項34】
1=R2=C1〜C20アルキルである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
アルキルがメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びt−ブチルからなる群から選択される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
1=R2=フェニルである請求項33に記載の方法。
【請求項37】
ジホスフィンが2個のP(Ar)2基(式中、Ar=1個又はそれ以上のアルキル又はアルコキシ基によって任意的に置換されたフェニルである)を含有するアトロプ異性ジホスフィンである請求項19に記載の方法。
【請求項38】
ジホスフィンがビアリールジホスフィンである請求項32に記載の方法。
【請求項39】
ビアリールジホスフィンが式(11):
【化4】

のBINAP配位子又はその逆エナンチオマーである請求項33に記載の方法。
【請求項40】
ビアリール単位がヘテロ芳香族である請求項38に記載の方法。
【請求項41】
ジホスフィンが式(13):
【化5】

のPHANEPHOS配位子又はその逆エナンチオマーである請求項32に記載の方法。
【請求項42】
配位子中の連結リン原子の少なくとも1個が1個又はそれ以上のヘテロ原子に共有結合されている請求項21に記載の方法。
【請求項43】
両方の連結リン原子が1個又はそれ以上のヘテロ原子に共有結合されている請求項42に記載の方法。
【請求項44】
配位子がビスホスファイト、ビスホスフィナイト、ビスホスホナイト及びビスホスホルアミダイトからなる群から選択される請求項43に記載の方法。
【請求項45】
m=2である請求項1に記載の方法。
【請求項46】
配位子がモノホスフィンである請求項45に記載の方法。
【請求項47】
ホスフィンがP−アリールホスファサイクルである請求項46に記載の方法。
【請求項48】
配位子中の連結リン原子が1個又はそれ以上のヘテロ原子に共有結合されている請求項45に記載の方法。
【請求項49】
配位子がホスホルアミダイトである請求項48に記載の方法。
【請求項50】
ホスホルアミダイトが式(14):
【化6】

のもの又はその逆エナンチオマーである請求項49に記載の方法。
【請求項51】
錯体(1)が1個又はそれ以上の酸置換活性ヒドロキシル保護基(これは錯体形成の間に除去される)を含有する配位子前駆体から直接製造される請求項1に記載の方法。
【請求項52】
錯体(1)が結晶形で得られる請求項1に記載の方法。
【請求項53】
錯体(1)が不活性雰囲気下、周囲温度で、少なくとも3日間、貯蔵に対して安定である請求項1に記載の方法。
【請求項54】
配位子が少なくとも95%eeまでエナンチオマー的に富化されている請求項1に記載の方法。
【請求項55】
配位子が少なくとも99%eeまでエナンチオマー的に富化されている請求項54に記載の方法。
【請求項56】
配位子がエナンチオマー的に純粋である請求項55に記載の方法。

【公表番号】特表2007−508304(P2007−508304A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534118(P2006−534118)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/032255
【国際公開番号】WO2005/032712
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】