説明

カチオン性液体デンプン質組成物及びその使用

本発明は新規なカチオン性液体デンプン質組成物、及び産業におけるその使用、とりわけ紙製造またはボール紙製造用の添加剤及び、紙製造またはボール紙製造から生じるかまたはそうでないプロセス水の処理用の添加剤からなる群から選択される添加剤としての、あるいはこうした添加剤の調製のためのその使用に関する。前記カチオン性液体デンプン質組成物は、選択的乾燥物質、粘度、全窒素含量、及びpH値によって特徴づけられる。特に、粘度は最大で少なくとも10%、好ましくは10乃至50%の乾燥物質1000mPa・sである200mPa・s、特に250乃至950 mPa・s(T試験による)。窒素濃度は、少なくとも0.6%であり最大で1.4%である(乾燥/乾燥)。前記カチオン性液体デンプン質組成物は特に、少なくとも1つのポリオール、好ましくは少なくとも1つのサッカリド性のポリオールを含有可能であり、そのまままたは希釈後に用いられる。前記組成物は、特に直接的または間接的に高いカルシウムイオン含量を有する繊維組成物を接触させるために、特に接着剤、とりわけASAタイプのものに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥物質、粘度、全窒素濃度、及びpHの選択的特性を示す、新規なカチオン性液体デンプン質組成物に関する。
【0002】
これはまた、工業用、特に紙製造、ボール紙製造、及びプロセス水の処理における、前記カチオン性液体デンプン質組成物の使用に関する。
【0003】
最後に、これは特に、紙及びボール紙の内的または外的処理に使用されるサイジング剤組成物の分野におけるその使用を目的とする。
【背景技術】
【0004】
工業分野において、とりわけ紙製造、ボール紙製造、並びに紙製造またはボール紙製造から生じるまたはそうでないプロセス水の処理の分野においては、カチオン性液体デンプン質組成物が添加剤としてそのまま、または添加剤の調製を企図する手段として、通常用いられる。
【0005】
例えば、こうした使用は、出願人による特許WO01/96403に開示される。
【0006】
こうした組成物の応用の別の分野は、化学全般、接着剤及び粘着物一般、繊維産業、水硬性バインダー、可燃性または不燃性ブリケット、金属の処理、洗剤組成物、写真、孔あけ、植物保護生成物、化粧用生成物等に関する。
【0007】
前記カチオン性液体デンプン質組成物がどのような使用を企図するかによらず、これは一般的に粉末の形態で、完成品または半完成品の製造のためにデンプン製造業者から製造業者に提供される。
【0008】
所望の時点で、すなわちその応用的使用の直前に、前記製造業者は前記粉末を適切な処理に処する。
【0009】
かくしてこの処理は、現場で使用直前に実行されるが、最大で10%の乾燥物質(「DM」)を示すカチオン性デンプン質物質の懸濁液または「スラリー」の調製、通常はこれに続く蒸解装置での前記カチオン性デンプン質物質の溶解、及びさらに続けてかくして得られる高温接着剤の希釈からなる。
【0010】
かくしてその応用的使用のまさにその場で調製される希釈接着剤は、通常0.5乃至9%、一般的には1乃至7%のDMを示す。
【0011】
しかしながら、製造業者が液体デンプン質組成物を直接処置できること、前記組成物がそれ自体で、そうでないにせよ水で希釈する単純操作の後に、使用可能であることを望む場合がある。
【0012】
この提示形態により、カチオン性デンプン質物質を現場で溶解させる必要がなくなり、然るに現場で装置(連続蒸解器、または特にジェットクッカー)及びこの溶解に必要な人員を用いる必要がなくなる。
【0013】
さらに、例えば水回路中に存在する厄介な物質の低減を企図する添加剤として、またはサイジング剤に基づく組成物の調製を企図する添加剤としてのその応用的使用の時点での、カチオン性液体デンプン質物質のより正確な計測及び/またはより容易な混合が可能になる。
【0014】
いずれにせよ、この液体提示形態により、製造業者がその特性、とりわけ濃度及び温度において不変一定な組成物を得ることが可能になる。
【0015】
しかしながら、経済的に満足のいくものとするためには、大量の水の輸送及び貯蔵を回避するため、こうしたカチオン性液体デンプン質組成物は十分に高いDMを備えて販売されねばならない。
【0016】
然るに少なくとも10%のDMが要求され、これによれば使用者の全ての要望に応えることができるようになることに加えて、とりわけ現場に市販のカチオン性液体デンプン質組成物の再濃縮のための高価な装置が全く不要となる。
【0017】
さらに、それ自体でまたは水での単純な希釈により使用可能なカチオン性液体デンプン質組成物を得られるようにするためには、これらの組成物が、
・製造業者及び使用者のいずれの元にある場合でも優れた貯蔵安定性、
・輸送、ポンプ押し出し、及び希釈操作に適した粘度、
・できるだけ多くの潜在的使用に適した物理化学特性(粘度特性を含む)、
を示すことが要求される。
【0018】
これらの制約のゆえに、出願人の知る限りでは、真に商業的な成長を経ているカチオン性液体デンプン質組成物は非常に少数しか存在しない。
【0019】
Raisio Chemicals Ltd (「Raisio」)により推奨され、且つとりわけ特許WO93/10305、WO95/18157、WO98/24972、及びWO99/18288に開示される技術は、およそその半分がカチオン化試薬単独に起因する高い乾燥物質(DM>50%)を有する反応媒質から得られる、高度カチオン性ジャガイモデンプン質接着剤の調製及び適用の全般からなる。
【0020】
使用のために好ましく推奨される組成物の窒素濃度は、全般に2%より大であり、一般的には2.5乃至5%である。
【0021】
しかしながら、こうした接着剤には多数の欠点がある。
【0022】
第一に、「Raifix」なる名称で市販される製品について出願人によって行われた分析により確認されるように、これらの高度カチオン性接着剤は比較的に低濃度、一般的に65%未満の窒素の固定を示す。これはとりわけ、実際にこうした組成物中にカチオン性試薬及び/またはその加水分解生成物の大量残留をもたらすが、これは、紙製造回路中に存在する厄介な物質の除去用剤として、またはサイジング剤組成物の調製における添加剤としてのこれらの真の有効性にとって有害である。
【0023】
さらにまた、窒素カチオン性試薬のこの非常に部分的な固定により、プロセス水、特にヒトまたは動物による消費を企図する水の処理用の添加剤としてのこれら接着剤の使用を行うことが困難になる。
【0024】
さらに、一般的に9を超えるこれら接着剤の高いpHにより、アルカリ性生成物の調製、取扱い、及び使用に内在する、安全性及び腐食の問題を呈しうる。
【0025】
さらにまた、これら接着剤の高いpHは、加水分解を促進し、よってサイジング剤の有効性を失わせるため、前記サイジング剤、例えばアルケニルコハク酸無水物(「ASA」)に基づく組成物の調製におけるこれらの使用にとって有害である。この加水分解現象は、生産装置(乳化機、紙製造機等)中及びこれら装置の上流及び下流へのパイプ中で起泡またはファウリングの問題をさらに引き起こしうる。
【0026】
最後に、その比較的高い粘度のため、これら高度カチオン性接着剤は、一般的に水性媒質での希釈のため、ひいては水性媒質中への導入のための操作に対して、とりわけこれらの操作が周囲温度でまたは比較的に低い温度(50℃未満)で行われる場合には適性に乏しい。
【0027】
また、上述の「Raifix」組成物よりもカチオン性の低い、「Raibond 15」の名称でRaisioにより市販のカチオン性デンプン質組成物もまた入手可能である。
【0028】
しかしながら、これらは依然として高い、すなわち一般的に少なくともおよそ1.6%の窒素濃度を示す。これらのpHもまた高く、すなわち9より大にとどまる。
【0029】
対照的に、出願人の知る限り、製造業者に提供されているまたはこれまで提供されてきた他のカチオン性液体デンプン質組成物は、比較的に低い、すなわち0.5%未満の窒素濃度を示す。
【0030】
特に、カチオン性waxyコーンスターチの8%溶液に相当する、National Starch and Chemical Company (「National」)により市販の「Redisizse 132」組成物の場合が前記に該当し、これは特許US6296696に開示されるサイジング剤組成物の調製に使用可能である。
【0031】
特に「ASA」または「AKD」(アルキルケテンダイマー)タイプのサイジング剤組成物の調製において使用する目的のための、市販品が(一般的に粉末の形態で)実際に入手可能なカチオン性デンプン質物質の分野では、比較的に低い(0.5%未満)窒素濃度を示すカチオン性デンプンに依存していることに留意すべきである。
【0032】
これらの弱カチオン性生成物は、一般的に、アミロペクチン(waxyデンプン)が豊富な基剤から生じる。これは、例えば特許EP353212、より最近ではUS6001166に開示されるこうしたデンプン質基剤の使用により、生成する弱カチオン性生成物に溶液状態での十分な安定性を与えることができるためである。さらに、これら生成物の「分枝状」構造はサイジング剤の安定性及び有効性を改善する(EP353212)であろうし、この理由のため、最近の特許WO00/49226には、その「分枝状」構造が化学的架橋によって増強された(waxy基剤を含む)全基剤のカチオン性生成物を入手可能にすることが提唱されている。
【特許文献1】WO93/10305
【特許文献2】WO95/18157
【特許文献3】WO98/24972
【特許文献4】WO99/18288
【特許文献5】EP353212
【特許文献6】US6001166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
しかしながら、こうした生成物はこの上なく粘性であり、その使用は非常に高温を有する媒質中においてのみ現実に実行可能である。しかしながら、高温は、サイジング剤の加水分解の危険性を増大させる。
【0034】
20%に調節されたDMについて、制限された窒素濃度(最大で2%)及び非常に低い粘度、すなわち1600mPa.s未満を示すカチオン性の固体または液体のデンプン質組成物の、非常に一般的な方法での使用、特にサイジング剤の調製における使用が、出願人によって上述の特許WO01/96403に提唱されている。
【0035】
この粘度は、然るにDM20%にて測定され、非常に好ましくは50乃至700mPa.sの範囲である。
【0036】
とりわけ前記特許の実施例において使用されるデンプン質組成物について出願人によって確認されているように、この粘度は、10%(20%の代わりに)に調節したDMについて測定するならば、200mPa.sよりも(格段に)低いであろう。
【0037】
このことは特に、前記特許の実施例6によるASAエマルションの調製において想定される、「組成物2」を用いた場合に該当するが、これは既に20%に調節したDMにおいて、200mPa.sより格段に低い粘度(100mPa.s)を示している。
【0038】
この特許に開示されるカチオン性液体デンプン質組成物によれば、現行の産業の技術的/経済的要求に応えることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0039】
出願人はここに、更に改善され、且つ乾燥物質(DM)、粘度、全窒素濃度、及びpHの四つの基準により選択されるカチオン性液体組成物を製造することが可能であり、前記組成物がとりわけサイジング剤組成物の調製に有利に適合していることを見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
従って、本発明の主題は、
・少なくとも10%、好ましくは10乃至50%の乾燥物質(DM)、
・T試験によって決定され、200mPa・sより大であり最大で1000mPa・sである粘度、
・少なくとも0.6%であり最大で1.4%である全窒素濃度(これらパーセンテージは当該組成物の乾燥重量に対する乾燥重量で表される)、
・9未満、好ましくは3.5乃至8.5のpH、
を示すことを特徴とする新規なカチオン性液体デンプン質組成物である。
【0041】
本発明による液体組成物の粘度を測定するために使用されるT試験は、第一に、当業者の範囲内のあらゆる定法による前記組成物の乾燥物質の測定からなり、これは本発明によれば少なくとも10%である。
【0042】
この乾燥物質が10%を超えるならば、これは蒸留水での単純な希釈によって10%に調節される。この乾燥物質が10%であるならば、希釈は行われない。引き続いて、係る組成物のB型粘度が、それ自体既知の方法において25℃にて20回転/分で測定されるが、然るに該組成物は(希釈後または希釈なしで)10%のDMを示す。
【0043】
有利な別の形態によれば、本発明によるカチオン性液体デンプン質組成物の粘度は、T試験により測定して、少なくとも250mPa.sであって最高では950mPa.s、好ましくは少なくとも275mPa.sであって最高では930mPa.sである。
【0044】
本発明によるカチオン性液体デンプン質組成物の乾燥物質は、特に示されるように、50%の値に達してよい。しかしながら、好ましくはこの乾燥物質は10乃至35%である。
【0045】
この乾燥物質は、下記のように、塩を含むカチオン性デンプン質物質(実質的には)のみを、カチオン性試薬及び/またはその加水分解生成物を、及び/またはカチオン化により生じ、且つ前記カチオン性デンプン質物質中に依然存在しうる他の化合物を含みうる。
【0046】
しかしながら、前記カチオン性デンプン質物質に加えて、この乾燥物質はカチオン化工程から生じるものではなく、また前記工程の前及び/または後に使用された化合物を含みうる。
【0047】
これらの化合物は、とりわけ保存料、例えば殺生物剤及び殺菌剤、レオロジー剤、例えばポリオール及びヒドロキシカルボン酸の塩、例えば乳酸塩またはグルコン酸塩、顔料及びフィラー、アルミニウム塩、スケール除去剤等からなる群より選択することができる。
【0048】
出願人は、特に、本発明によるカチオン性デンプン質組成物中で、少なくとも1つのカチオン性物質と少なくとも1つのポリオールとを混合すると有利であり、前記ポリオールがとりわけ前記組成物の粘度を調整し、特に必要に応じてこれを特定の用途に適合させる目的で、または必要に応じて本発明に従う値に到達させる目的で、前記組成物の粘度を低下させることを可能にすることを見いだした。
【0049】
前記ポリオールは、非サッカライド性の生成物、例えばグリセロール、ポリエチレングリコール等から構成されて良い。
【0050】
非常に有利には、前記ポリオールはサッカライド性であり、とりわけ水素添加単糖類、水素添加二糖類、水素添加三糖類、水素添加オリゴ糖類、及び水素添加多糖類、並びにこれら生成物の少なくとも2つのあらゆる混合物からなる群より選択される。
【0051】
これは、とりわけソルビトール、イソソルビド、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、または水素添加デンプン水解物であってよい。
【0052】
別の有利な代替形態によれば、本発明による液体組成物の全窒素濃度は、少なくとも0.7%であり、最大で1.3%(乾燥/乾燥)である。
【0053】
さらにまた、前記組成物のpHは好ましくは9よりも著しく低い値、とりわけ3.5乃至7.5、さらに好適には4乃至7である。
【0054】
本発明による液体組成物は、「それ自体で」販売、貯蔵、及び任意に使用が可能であり、一般的に60℃未満、好ましくは最高で50℃、特に10乃至40℃の温度を示す。
【0055】
これらの温度は、従来通り粉末から、非常に低いDM値をもって製造業者(例えば紙製造業者)のもとで製造される糊剤(sizes)の、通常は格段に高い温度とは、明確に識別される。
【0056】
本発明による液体組成物中に存在するデンプン質物質は、waxyデンプン類、例えば通常推奨されるものまたは従来工業的に使用されているものに限定されない。これは、遺伝子突然変異または操作により発生するものを含む、天然またはハイブリッド由来の全てのデンプンから生成されて良い。前記デンプンは、特にジャガイモ、waxyジャガイモ、トウモロコシ、waxyトウモロコシ、小麦、waxy小麦、高アミローストウモロコシ、米、エンドウ豆、高アミロースエンドウ豆、大麦、またはタピオカ、調製または入手可能なフラクション、例えばアミロース、アミロペクチン、小麦デンプン「A」及び小麦デンプン「B」の用語で当業者に知られる粒子サイズフラクション、並びに上述の生成物の少なくとも2つのあらゆる混合物、例えば少なくとも1つの塊茎デンプン(特にジャガイモデンプン)と少なくとも1つの穀物デンプン(とりわけ小麦「A」、小麦「B」、トウモロコシまたはwaxyトウモロコシ)との混合物、あるいは2つの穀物デンプンの混合物から生成されて良い。
【0057】
本発明による組成物中に存在するカチオン性デンプン質物質は、両性生成物、すなわちカチオン性とアニオン性との両方である生成物を更に含んで良い。アニオン性置換基は、例示すれば、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホアルキル、カルボキシル、カルボキシアルキル、及びスルホカルボキシル基から選択することができる。
【0058】
これらは、有利には燐酸化、スクシニル化、スルホスクシニル化、ヒドロキシアルキル化、及びアセチル化されていてよい。
【0059】
本発明による組成物の粘度はまた、カチオン化工程の前、前記工程中またはその後に1つ以上の工程において連続的にまたはバッチ毎に適用される多数の手段によって、特に化学的、酵素学的、及び/または物理的な手段によって、得ることができる。これら手段には、上述の特許のいずれかに開示されるものが含まれる。但し、これらが直接的または間接的に、本発明により特に選択される粘度、すなわちT試験によって決定される200mPa・sより大であり最大で1000mPa・sである粘度を達成可能であることとする。
【0060】
然るに、
・a)貯蔵の際の優れた安定性及びb)輸送、ポンプ押し出し、及び希釈操作に適した粘度のみならず、
・従来の液体カチオン性組成物と比較して、よりすぐれた操作可能性
をも示す新規な工業製品が入手可能である。
【0061】
この使用は、導入部において言及した全応用分野(化学、接着剤及び粘着物、繊維産業、紙製造、ボール紙製造、水処理など)に想定することができる。場合により、本発明によるカチオン性デンプン質組成物は、「それ自体で」またはその乾燥物質が0.5乃至9%、好ましくは1乃至7%の値に低減されるように予め希釈して使用可能である。
【0062】
しかしながら、本発明によるカチオン性デンプン質組成物は、第一に、それ自体でまたは希釈後に、紙製造またはボール紙製造用の添加剤及び、紙製造またはボール紙製造から生じるかまたはそうでないプロセス水の処理用の添加剤からなる群から選択される添加剤として使用可能であり、あるいはこうした添加剤の調製を企図する。
【0063】
特に有利には、本発明によるカチオン性液体デンプン質組成物は、ウェットエンド添加剤、水回路中に存在する及び/または紙製造に関連するもしくはしない処理のための装置に滞留する厄介な物質の低減を企図する添加剤、紙またはボール紙の内的もしくは外的処理に使用されるサイジング剤組成物の調製を企図する添加剤、紙またはボール紙のクレーピング、表面処理、またはコーティング用の組成物の調製を企図する添加剤、または蛍光増白剤、フィラー、顔料、アルミニウム塩、コロイドシリカ、染料、及び/または合成ポリマーから選択される添加剤として使用可能である。
【0064】
出願人は、本発明による組成物が、上述の特許のいずれかに開示されるサイジング剤を含むサイジング剤組成物の調製に特に好適であることを見いだした。
【0065】
サイジング剤は、アルケニルコハク酸及び誘導体、とりわけその塩及び無水物、アルキルケテンダイマー及び誘導体、ロジン及び誘導体、アルデヒドアルキルアセタール、アルキルイソシアネート、合成(コ)ポリマー、及び前記生成物の少なくとも2つのあらゆる混合物から選択される生成物を含んでよい。
【0066】
これは特に、後に例示するようにアルケニルコハク酸無水物(ASA)を含むサイジング剤であってよい。
【0067】
本発明によって選択されるデンプン質組成物の物理化学特性、とりわけpH、粘度、及び全窒素濃度の特性により、保護の点で、ひいてはとりわけASAタイプのサイジング剤の有効性の点で、この上ない結果を達成可能であることが判明している。
【0068】
とりわけ、これらの結果がより粘性の低い生成物、例えば上述の特許WO01/06403に開示されるもの、またはpH及び全窒素についてより大きな値を示す生成物を用いて得られる結果と比較して改善されていることが観察されている。
【0069】
さらにまた、出願人は、本発明によるカチオン性液体デンプン組成物が、任意に希釈され、カルシウムイオン高含量、すなわち少なくとも200mg/l、とりわけ250乃至1000mg/lの含量を示す繊維組成物(例えば紙製造用パルプ)と(直接的または間接的に、例えばサイジング剤組成物を介して)接触させられるかまたは接触を企図されると有効であることを見いだした。
【0070】
他にも記載するとおり、本発明による組成物は、とりわけ
・ティッシュペーパー、
・表面加工もしくはコーディングされた紙またはボール紙、及び/または
・波形紙、例えば波形ボール紙の調製を企図するひだ付き紙、
の製造を目的とする添加剤として高度に適切なものであることもまた判明している。
【0071】
本発明による組成物はまた、紙製造用の水回路中に存在する厄介な物質低減を企図する添加剤として非常に有利に使用可能である。
【0072】
さらにまた、本発明による組成物は、様々な繊維材料(繊維、糸、巻糸、生地)、例えば木綿またはポリエステル/綿ベースのものに対するその高い親和性のため、こうした材料の処理、とりわけガム引き、サイジング、表面仕上げ、またはのり付けに使用可能であることが観察されている。
【0073】
したがって、これは摩擦に対してとりわけ優れた耐性を付与する。
【0074】
本発明は、非限定的な下記の実施例を用いて、より詳細に説明される。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
1.2%(乾燥/乾燥)の全窒素濃度を示し、且つ出願人による特許FR2434821に従って乾燥相中に得られるジャガイモデンプン粉末を、脱塩冷水と混合して懸濁させ、乾燥物質(「DM」)11.5%のカチオン性デンプンスラリーを得る。
【0076】
前記スラリーの様々な試料を、開口容器中にて、様々な濃度のα-アミラーゼ及び/または様々な処理条件(添加温度、持続時間等)で処理する。この目標は、およそ250乃至300mPa.sのB型粘度(25℃にて20回転/分で測定)及び10%またはごく僅かにこれを上回るDMを示すカチオン性デンプン質組成物が得られることである。
【0077】
かくして、10.2%の乾燥物質(DM)、330mPa.sのB型粘度(すなわちDMを10%に調整した後のT試験によれば290mPa.s)、1.2%の全窒素濃度、及び5.3のpHを示すカチオン性デンプン質組成物(これ以降「組成物A」と呼称)が得られた。
【0078】
組成物Aは、非常に優れた貯蔵安定性を示し、25℃にて1ヶ月に亘り貯蔵した後でも粘度の増大または劣化の現象は全く観察されない。
【0079】
(実施例2)
0.8%(乾燥/乾燥)の全窒素濃度を示し、且つ出願人による特許FR2434821に従って乾燥相中に得られるジャガイモデンプン粉末を、脱塩冷水と混合して懸濁させ、乾燥物質(「DM」)22%のカチオン性デンプンスラリーを得る。
【0080】
前記スラリーの様々な試料を、開口容器中にて、様々な濃度のα-アミラーゼ及び/または様々な処理条件(添加温度、持続時間等)で処理する。この目標は、およそ2500乃至3000mPa.sのB型粘度(25℃にて20回転/分で測定)及び20%のDMを示すカチオン性デンプン質組成物が得られることである。
【0081】
かくして、19.7%の乾燥物質(DM)、2580mPa.sのB型粘度(すなわちDMを10%に調整した後のT試験によれば350mPa.s)、0.8%の全窒素濃度、及び5.1のpHを示すカチオン性デンプン質組成物(これ以降「組成物B」と呼称)が得られた。
【0082】
組成物Bは、非常に優れた貯蔵安定性を示し、25℃にて1ヶ月に亘り貯蔵した後でも粘度の増大または劣化の現象は全く観察されない。
【0083】
さらに、下記の安定なカチオン性液体デンプン質組成物が得られた。
・組成物C:10.6%のDM、1.2%の全窒素濃度、T試験による580mPa.sの粘度、及び4.9のpHを示すカチオン性ジャガイモデンプン接着剤、
・組成物D:10.2%のDM、0.8%の全窒素濃度、T試験による910mPa.sの粘度、及び5.0のpHを示すカチオン性ジャガイモデンプン接着剤、
・組成物E:27%のDM、0.65%の全窒素濃度、T試験による330mPa.sの粘度、及び5.2のpHを示すカチオン性waxyトウモロコシデンプン接着剤。
【0084】
(実施例3)
上述の本発明による組成物の性能を、サイジング剤組成物の調製に関して評価する。これは、それぞれ下記:
・特許WO01/96403の実施例で使用される組成物と同一であり、然るに低粘度(20%のDMに調節して100mPa.s)、1.5%の全窒素濃度(乾燥/乾燥)、及び5.8のpHを示すコントロールカチオン性液体デンプン質組成物(これ以降「組成物T1」と呼称);
・約19%の乾燥物質、1.75%の全窒素濃度(乾燥/乾燥)、650mPa.sのB型粘度(すなわちDMを10%に調整した後のT試験によれば120mPa.s)、及び11のpHを示す市販のコントロールカチオン性液体デンプン質組成物(これ以降「組成物T2」と呼称);
と比較して行われる。
【0085】
組成物A、B、T1、及びT2は、約25℃の温度を示す。それぞれを、まず第一にその温度がおよそ25℃であるポンプ水で希釈し、これら組成物それぞれのDMを4%に低減する。
【0086】
3.33gの、ASAに基づくサイジング剤「Fibran 76」を、かくしてDM4%に希釈され、然るにおよそ25℃の温度を有するこれら各組成物100gに加える。
【0087】
かくして、希釈組成物A、B、T1、及びT2それぞれと「Fibran 76」とからこうして得られるサイジング剤組成物(これ以降「添加剤A」、「添加剤B」、「添加剤T1」、及び「添加剤T2」と呼称)は、およそ1.2/1のデンプン質物質(乾燥ベースで)/サイジング剤重量比を呈する。
【0088】
引き続き添加剤A、B、T1、及びT2それぞれに、周囲温度にて、高剪断処理、すなわち20000回転/分にて5分間に亘って均質化を行う。
【0089】
こうして各添加剤A、B、T1、及びT2から得られるサイジング剤エマルションの平均粒径を、引き続き前記処理直後(「T0」)及び前記処理の24時間後(「T24」)に評価する。
【0090】
平均粒径を、「Beckman Coulter LS Particle Size Analyzer」装置で測定するが、粒子の体積を考慮に入れる。これはμmで表される。
下記の「平均」粒径の値が、T0及びT24にて得られる。
【0091】
【表1】

【0092】
最適化されていない本試験の条件下では、本発明の組成物A及びBから得られる添加剤A及びBは、
・組成物T1から得られる添加剤T1と比較して、より改善された安定性、
・組成物T2から得られる添加剤T2と比較して、いっそう著しく優れた微細性及び安定性、
を示すことが観察される。
【0093】
出願人は、組成物T1及びT2の粘度と比較して、本発明による組成物A及びBの粘度の方が高いことは、そのサイジング剤に対する保護力もより高いことを完全にまたは部分的に説明しうると考える。
【0094】
組成物T2の非常に高いpHは、前記pHがサイジング剤の加水分解を促進しているという点でこの組成物の劣悪な性能を更に説明できる。この加水分解については、添加剤T2から調製されるエマルション中に褐色を帯びた泡沫が出現することによってさらに明らかである。
【0095】
さらにまた、前記エマルションの平均粒径の大きな値は、前記エマルションが別々の粒子の集団を呈するとの観察結果と共に、組成物T2が本質的に安定性の低いものであることを示唆している。
【0096】
出願人はさらに、工業スケールでは、技術的及び経済的のいずれの観点からも、とりわけ低い全窒素濃度を示すカチオン性デンプン質組成物と比較して、本発明によるカチオン性液体デンプン質組成物を使用すると実際に有利であることを観察している。
【0097】
更にまた、これらの利点は、本発明による組成物がそれ自体でまたは希釈された後に、直接的に(例えばウェットエンド添加剤として)または間接的に(例えばサイジング剤組成物の調製の為の添加剤として)、カルシウムイオンの高い濃度を示す繊維組成物(特に紙パルプ)と接触させられる場合にとりわけ強調される。
【0098】
これらの利点により、とりわけ、
・ あらゆる性質の、あらゆる目的のための紙(印刷/筆記用紙、波形紙、ティッシュペーパー等)の所定の物理特性の改善、及び/または
・ あらゆる性質(ASA、AKD他)の、あらゆる目的(紙またはボール紙の内部及び/または外部サイジング)のためのサイジング剤組成物の特性及び性能の改善、
がもたらされる。
【0099】
特に、上述の組成物A乃至E等のカチオン性液体デンプン質組成物では、より低い全窒素濃度を有し、且つ連続蒸解装置を用いて現場で溶解されたカチオン性デンプン質組成物と比較して、使用するサイジング剤の量を非常に著しく低減させることが可能であり、しかもその有効性の低減を伴わず、一方では紙の一般的な物理特性を保持し、実際にはそのいくつかを改善しさえするものであることが判明している。
【0100】
さらにまた、本発明の組成物、例えば上述の組成物B及びEによれば、ティッシュペーパーを製造する場合に、
・ 前記紙の湿った状態及び乾燥状態における物理特性を非常に一般的な意味での改善のみならず、
・ 前記紙の厚さの著しい改善、及び
・ 貼り合わせ操作の間の前記紙の強度の増強、または「毛羽立ち」現象の改善、
を可能にする。
【0101】
これは、機械の機能及びシステムの全生産量を低減することなく、実際には増大させさえしつつ、達成される。
【0102】
本発明によるカチオン性組成物はまた、表面処理またはコーティングした紙またはボール紙の製造において、
・ 所定の顔料、特に「インクジェット印刷」の応用において使用されるアニオン性の顔料と組み合わせて、
・ より一般的には、紙の印刷性能を改善する目的での表面処理またはコーティング用の組成物のための添加剤として、
・ コーティング組成物または表面処理組成物中に使用され、特にサイズプレスまたはフィルムプレスタイプの装置に応用される、非デンプン由来のカチオン性ポリマー(ポリDADMAC、ポリ塩化アルミニウム等)の代替物として、
有利に使用することができる。
【0103】
更にまた出願人は、本発明による組成物、例えば上述の組成物Aは、波型紙、とりわけおよそ140g/m2の坪量を示す古紙ベースのひだ付き紙の製造において有利に使用可能であることを見出した。
【0104】
組成物Aは、特定の保持システム中のカチオン性ポリアクリルアミドの代わりに使用すると、前記保持のみならず、得られるひだ付き紙の物理特性(とりわけCMT指数及びMullen指数)を著しく改善することが可能である。
【0105】
同じ組成物Aが更に、紙製造用水回路中に存在する厄介な物質の低減を機とする添加剤として、とりわけ有用であることが判明した。組成物Aは、0.1%(繊維物質の重量に対する乾燥/乾燥)の割合で使用されると、主に「化学的/熱的/機械的」タイプのパルプを含む繊維組成物中の多数の望ましからぬアニオン性物質の存在によってその有効性が低減される、ウェットエンド添加剤として従来使用されているカチオン性デンプンの有効性を改善することができる。
【0106】
前記組成物Aは、従来のウェットエンド添加剤の導入レベルを著しく、すなわちおよそ14%低減する一方で、合計保持(すなわち従来のウェットエンド添加剤の保持を含む)とフィラー単独の保持または繊維単独の保持との両方を著しく、すなわち少なくとも5乃至10%増大させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性液体デンプン質組成物であって、
・少なくとも10%、好ましくは10乃至50%の乾燥物質、
・T試験によって決定され、200mPa・sより大であり最大で1000mPa・sである粘度、
・少なくとも0.6%であり最大で1.4%である全窒素濃度(これらパーセンテージは当該組成物の乾燥重量に対する乾燥重量で表される)、
・9未満、好ましくは3.5乃至8.5のpH、
を示すことを特徴とする組成物。
【請求項2】
T試験によって決定され、少なくとも250mPa・sであり最大で950mPa・sである粘度を示すことを特徴とする、請求項1に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項3】
T試験によって決定され、少なくとも275mPa・sであり最大で930mPa・sである粘度を示すことを特徴とする、請求項2に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項4】
少なくとも0.7%であり最大で1.3%である全窒素濃度を示すことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項5】
3.5乃至7.5、とりわけ4乃至7のpHを示すことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのポリオール、好ましくは少なくとも1つのサッカリド性のポリオールを含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項7】
60℃未満、好ましくは最高で50℃、とりわけ10乃至40℃の温度を示すことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカチオン性液体デンプン質組成物。
【請求項8】
紙製造またはボール紙製造用の添加剤及び、紙製造またはボール紙製造から生じるかまたはそうでないプロセス水の処理用の添加剤からなる群から選択される添加剤としての、あるいはこうした添加剤の調製のための、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のカチオン性液体デンプン質組成物の使用。
【請求項9】
前記添加剤が、ウェットエンド添加剤、水回路中に存在する及び/または紙製造に関連するもしくはしない処理のための装置に滞留する厄介な物質の低減を企図する添加剤、紙またはボール紙の内的もしくは外的処理に使用されるサイジング剤組成物の調製を企図する添加剤、紙またはボール紙のクレーピング、表面処理、またはコーティング用の組成物の調製を企図する添加剤、または蛍光増白剤、フィラー、顔料、アルミニウム塩、コロイドシリカ、染料、及び/または合成ポリマーを含む組成物の調製を企図する添加剤からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記添加剤が、アルケニルコハク酸及び誘導体、とりわけその塩及び無水物、アルキルケテンダイマー及び誘導体、ロジン及び誘導体、アルデヒドアルキルアセタール、アルキルイソシアネート、合成(コ)ポリマー、及び前記生成物の少なくとも2つのあらゆる混合物から選択される生成物を含むサイジング剤組成物の調製を企図することを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記添加剤が、アルケニルコハク酸無水物(ASA)を含むサイジング剤組成物の調製を企図することを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記カチオン性液体デンプン質組成物が、その乾燥物質が0.5乃至9%に、好ましくは1乃至7%の値に低減するように予め希釈されることを特徴とする、請求項8乃至11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記カチオン性液体デンプン質組成物が、任意に希釈され、少なくとも200mg/l、とりわけ250乃至1000mg/lのカルシウムイオン含量を示す繊維組成物と接触させられるかまたは接触を企図されることを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記添加剤が、ティッシュペーパーの製造を企図することを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項15】
前記添加剤が、表面加工もしくはコーティングされた紙の製造を企図することを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項16】
前記添加剤が、波形紙の製造を企図することを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項17】
前記添加剤が、紙製造用水回路中に存在する厄介な物質の低減を企図する添加剤であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。

【公表番号】特表2007−516308(P2007−516308A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518279(P2006−518279)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001708
【国際公開番号】WO2005/014709
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(592097428)ロケット・フルーレ (58)
【Fターム(参考)】