説明

カチオン電着塗料組成物およびそれを用いる二次タレ防止方法

【課題】カチオン電着塗装における二次タレ性を防止する方法の提供。
【解決手段】pKa6以上のpH緩衝剤を含有するカチオン電着塗料組成物、それを用いた二次タレ防止方法および被塗物の水洗の効率を上げる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物およびそれを用いた焼付硬化時に生じる二次タレを防止する方法および被塗物の水洗効率を上げる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
自動車車体の被塗物は、通常複数の鋼板が組合されて構成され、鋼板と鋼板の継目には狭い隙間が形成されている。電着塗装は、理想的には、このような隙間部分でもそれぞれの面に均一な塗膜が形成され、電着塗装工程の後の水洗工程で不用な塗料は除去され、焼付工程において焼付硬化されて均一な硬化塗膜が形成される。しかしながら、焼付硬化時に、上述の鋼板と鋼板の隙間から塗料が漏れ出し、塗料の二次タレと呼ばれる現象が発生することがある。勿論この二次タレが発生したまま、硬化すると、その部分に均一な塗膜が形成されず、塗膜欠陥となる。二次タレは、上述のごとき被塗物の隙間に侵入した塗料が水洗工程で除去されずに、焼付硬化時に漏れ出す現象と考えられ、種々の防止策が提案されている。しかしながら、それらこれまでに提案されている手段は、主として機械的あるいは構造的な解決策である。
【0004】
たとえば、特開平5−93299号公報(特許文献1)および特開平5−93298号公報(特許文献2)などには、電着塗膜の二次タレ防止装置が開示されており、これらは電着塗装後の被塗物の細い隙間に侵入した塗料を、超音波振動やその他の物理的手段を用いて隙間から流出させて、二次タレを防止する方法をとっている。
【0005】
特開2003−138400号公報(特許文献3)には、本願と同一出願人による、二次タレ防止方法が提案されており、被塗物の隙間に存在するアルカリ液が二次タレを引き起こすという考えから、隙間にアルカリ液が入らない方法を提案している。
【0006】
カチオン電着塗料自体の成分を検討して、二次タレ性を防止する点についてはこれまでなされていない。
【特許文献1】特開平5−93299号公報
【特許文献2】特開平5−93298号公報
【特許文献3】特開2003−138400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、二次タレ性の生じるメカニズムを解明した上で、その解決をカチオン電着塗料組成物の成分を検討することにより行なった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、pKa6以上のpH緩衝剤を含有するカチオン電着塗料組成物を提供する。
【0009】
上記pH緩衝剤がホウ酸、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ナフトール、サリチルアルコール、バニリン、アセチルアセトンおよびそれらの2つ以上の混合物から成る群から選択されるのが好ましい。
【0010】
さらに、pH緩衝剤がホウ酸、レゾルシノールまたはアセチルアセトンである。
【0011】
またさらに、pH緩衝剤は塗料に対し0.001〜10重量%の量で包含する。
【0012】
本発明は、また、被塗物をカチオン電着塗料中で電着塗装し、水洗した後焼付硬化するカチオン電着塗装方法において、該カチオン電着塗料中にpKa6以上のpH緩衝剤を塗料に対して0.001〜10重量%の量で配合することにより、焼付硬化時に生じる二次タレを防止する方法を提供する。
【0013】
また、本発明は被塗物をカチオン電着塗料中で電着塗装し、焼付硬化前に水洗をする場合であって、該カチオン電着塗料中にpKa6以上のpH緩衝剤を塗料に対して0.001〜10重量%の量で配合することにより、被塗物の水洗効率を上げる方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
電着塗装においては、陰極部(すなわち、被塗物)部分では電着塗膜の形成と同時に、水の電気分解も起こっている。水の電気分解は以下の式:
【数1】

にしたがって進行する。被塗物の継目などの間隙部というのは塗料の撹拌が行き届かずに発生した水酸イオンが拡散されない状態で残る。その結果、過剰になった水酸イオン(OH)により、電着塗料中のカチオン性樹脂が異常析出してブリッジングが形成される。ブリッジングが形成されると、水洗時に内部に溜まった塗料が水に置換されずに、その部分に残存し、加熱硬化時に二次タレとして漏れ出すことになる。ブリッジング現象は、後述する比較例1の写真(図3)に見られるように、隙間内に両方の金属面から塗料が積み重なってつながったような状態になっていることをいう。
【0015】
本発明では、このブリッジング現象の原因となる水酸化物イオン(OH)を所定範囲のpKa値を持つ物質(pH緩衝剤)を配合することにより、塗料の他の特性に影響を与えることなく、塗料撹拌の行き届かない場所での水酸化物イオンの過剰残存を防ぎ、ブリッジングを抑制することにより、二次タレを防止するのである。
【発明の実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をより詳細に説明する。一般にカチオン電着塗料は、カチオン性のエポキシ樹脂(特に、アミン変性エポキシ樹脂)とその樹脂の硬化剤(特に、ブロック化イソシアネート硬化剤)を基本的成分としており、その他に顔料や添加剤を含み、水性媒体中に分散したものである。
【0017】
pH緩衝剤
本発明では、pKa6以上のpH緩衝剤をカチオン電着塗料中に配合する。ここで、pKaとは、20℃における酸解離定数の対数(10を底にする)の負値を表す。pKaは好ましくは14以下であり、より好ましくは9〜11の範囲である。pKa6.0以上のpH緩衝剤は具体的には、ホウ酸、フェノール系化合物(たとえば、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ナフトール、サリチルアルコールまたはバニリン)、エノール系化合物(たとえば、アセチルアセトン)などが挙げられる。これらのpH緩衝剤の中で、好ましくはホウ酸、フェノール、レゾシルシノールまたはアセチルアセトンである。最も好ましくはホウ酸である。
【0018】
pH緩衝剤は、カチオン電着塗料中に塗料に対し、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは1.0〜5.0重量%の量で含有する。0.001重量%より少ないと、pH緩衝剤の効果が発現されなく、二次タレ性がよくならない。10重量%を越えるとpH緩衝効果が飽和して、無意味となる。
【0019】
電着塗料組成物
本発明の電着塗装方法において、一般に使用される任意の電着塗料組成物を用いることができる。電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および必要に応じて顔料や添加剤を含むものが挙げられる。以下、それぞれの成分について説明する。
【0020】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0021】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0022】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0023】
【化1】

【0024】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0025】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0026】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0027】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0028】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0029】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0030】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0031】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0032】
硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましく、ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0033】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0034】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0035】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0036】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0037】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0038】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0039】
カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤とを含むバインダーは、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85質量%、好ましくは40〜70質量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0040】
顔料
本発明で用いられる電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0041】
顔料は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の1〜35質量%、好ましくは10〜30質量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0042】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0043】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂ワニスは5〜40質量部、顔料は10〜30質量部の固形分比で用いる。
【0044】
上記顔料分散用樹脂ワニスおよび顔料を、樹脂固形分100質量部に対し10〜1000質量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0045】
電着塗料組成物の調製
電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0046】
硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分質量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0047】
電着塗料は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないものが好ましいため、その量はブロックポリイソシアネート化合物の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0048】
電着塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び顔料などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0049】
本発明のpH緩衝剤は、電着塗料組成物に直接添加しても良いが、前述の樹脂や顔料ペーストに予め配合した形で電着塗料組成物中に導入しても良い。
【0050】
電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであっても良い。また、導体とは、電着塗装を行うに当り、陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0051】
電着が実施される条件は一般的に他の型の電着塗装に用いられるものと同様である。印加電圧は大きく変化してもよく、1ボルト〜数百ボルトの範囲であってよい。電流密度は通常約10アンペア/m〜160アンペア/mであり、電着中に減少する傾向にある。
【0052】
本発明の電着塗装方法によって電着した後、被膜を昇温下に通常の方法、例えば焼付炉中、焼成オーブン中あるいは赤外ヒートランプで焼付ける。焼付け温度は変化してもよいが、通常約140℃〜180℃である。本発明の電着塗装システムによって塗装された塗装物は、最終水洗の後、乾燥、焼付けされることによって、硬化電着塗膜が形成され、これにより塗装工程が完了する。
【0053】
本発明では、電着塗料中にpH緩衝剤を0.001〜10重量%の量で配合して焼付硬化時に生じる二次タレを防止する方法を提供する。
【0054】
また本発明では、カチオン電着塗装をした後被塗物を水洗するのであるが、カチオン電着塗料中にpKa6以上のpH緩衝剤を塗料に対し0.001〜10重量%の量で配合すれば、水洗の効率が上がり、二次タレが防止することができる。水洗の効率が上がるのは、ブリッジングという塗膜沈着を防止するからである。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0056】
電着塗装試験片の作成
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)をサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)で処理することにより、リン酸亜鉛処理された冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板2枚を図1に示すようにスペーサを挟んで重ね合わせて固定して、所定のクリアランスを有する試験片を作成した。試験片のクリアランスは、0.1mmとなるように調整した。
【0057】
製造例1
水酸基を有するカチオン性樹脂(A)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計及び滴下ロートを備えたフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(MIBK)95部及びジブチル錫ジラウレート0.5部を加え、これらを撹拌しながらメタノール21部を更に滴下した。反応は室温から始めたが、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後に、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル57部を滴下ロートから滴下し、更にビスフェノールA−プロピオンオキサイド5モル付加体42部を加えた。反応は主に60〜65℃の範囲で行い、赤外線スペクトルを測定しながら、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0058】
このようにして得られたブロックポリイソシアネートに、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとから合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を加え、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA87部を前記フラスコに加えて、120℃で反応させたところ、エポキシ当量が1190となった。その後、冷却し、ジエタノールアミン11部、N−メチルエタノールアミン24部及びアミノエチルエタノールアミンのケチミン化合物(79質量%MIBK溶液)25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%になるまで希釈し、水酸基を有するカチオン性樹脂(A)を得た。
【0059】
製造例2
硬化剤(B)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計及び滴下ロートを備えたフラスコに、イソホロンジイソシアネート723部、メチルイソブチルケトン333部及びジブチル錫ジラウレート0.01部を加えて70℃まで昇温した。
【0060】
そして内容物が均一に溶解した後、メチルエチルケトンオキシム610部を2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応温度70℃を保持したまま、赤外線スペクトルを測定しながら、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで反応を継続して硬化剤(B)を得た。
【0061】
製造例3
メインエマルション(C)
製造例1で得た水酸基を有するカチオン性樹脂(A)67部(固形分換算)、製造例2で調製した硬化剤(B)33部(固形分換算)を均一に混合し、その後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して2%とジブチル錫ジラウレートを固形分に対して2%添加した。ここへ酢酸を加え、中和率50.0%(樹脂のカチオン性基に対する中和率)となるようにし、イオン交換水を加えて固形分が37.0質量%となるまで希釈した。
【0062】
その後、固形分が41.9質量%となるまで減圧下でMIBK及び水の混合物を除去し、メインエマルション(C)を調製した。
【0063】
製造例4
顔料分散ペースト(D)
エポキシ当量450のビスフェノール型エポキシ樹脂に2−エチルヘキサノールのハーフブロック化イソホロンジイソシアネートを反応させ、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール及びジメチロールプロピオン酸で3級スルホニウム化して3級スルホニウム化率70.6質量%、樹脂固形分60質量%の顔料分散用樹脂ワニスを調製した。
【0064】
顔料分散用樹脂ワニスを50.0部、イオン交換水100.0部及び下記表1の粒状混合物100.0部をサンドグラインドミルで分散し、これをさらに粒度が5μm以下になるまで粉砕して顔料分散ペースト(D)(固形分52.0質量%)を得た。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1
製造例3で得られたメインエマルション(C)979.5部、製造例4で得られた顔料分散ペースト(D)284.0部、イオン交換水1236.5部を混合することで、固形分20.0%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0067】
4Lステンレスビーカに、上記カチオン電着塗料組成物を入れた。この塗料にホウ酸(pKa=9.24)を水に溶解して、カチオン電着塗料組成物の固形分で0.03%になるように配合した。作成した試験片をクリアランスとなる部分がすべてつかるように浸漬し、液温30℃で30秒間200ボルトとなるように昇温し、150秒間200ボルトを保持して電圧を印加して、電着塗膜を形成した。この電着塗膜を形成した試験片を水洗した後、160℃で10分間加熱硬化した。
【0068】
試験を行った電着塗料のpHおよび電気伝導度、さらには得られた塗膜の塗料性能としてブリッジングと二次タレ性を評価した。結果を表2および表3に示す。
【0069】
実施例2〜6
pH緩衝剤としてホウ酸(pKa=9.24)あるいはレゾルシノール(pKa=9.30)、またはアセチルアセトン(pKa=8.80)を表2および表3に示す配合量で配合して、実施例1と同様に評価を行なった。結果を表2および表3に示す。実施例3のブリッジングの状態を写真に撮り、図2として提出する。
【0070】
比較例1
pH緩衝剤を配合せずに実施例1を行なった。塗料特性と塗膜性能を同様に評価した。結果を表3に示す。ブリッジングの状態を写真に撮り、図3として提出する。
【0071】
ブリッジング性の評価
電着塗装後に焼付け前に、図1の試験片の2枚の塗板の間隙部の閉塞状態を顕微鏡にて目視で観察する。評価は次の通り行った。
○…間隙部の閉塞率20%以下
△…間隙部の閉塞率20〜50%
×…間隙部の閉塞率50%以上
【0072】
二次タレ性の評価
焼付け後の試験片(図1)の間隙部からタレ流れた塗料跡の量およびワキ状態を目視で観察する。評価は次の通り行った。
○…タレ筋、ワキ跡なし。
△…タレ筋1〜2本、ワキ跡なし。
×…タレ筋3本以上、ワキ跡有り。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
上記試験結果から明らかなように、本発明のpH緩衝剤を配合しない例(比較例1)では、ブリッジングおよび二次タレ性両方とも非常に悪い結果が得られている。一方、pH緩衝剤を配合した例(実施例)では、すべての場合に非常に優れたブリッジング性と二次タレ性が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例および比較例で用いた試験片の模式的説明図。
【図2】実施例3のブリッジングの状態を撮影した写真。
【図3】比較例1のブリッジングの状態を撮影した写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pKa6以上のpH緩衝剤を含有するカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
pH緩衝剤がホウ酸、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ナフトール、サリチルアルコール、バニリン、アセチルアセトンおよびそれらの2つ以上の混合物から成る群から選択される請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
pH緩衝剤がホウ酸、レゾルシノールまたはアセチルアセトンである請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
pH緩衝剤が塗料に対して0.001〜10重量%の量で含む請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
被塗物をカチオン電着塗料中で電着塗装し、水洗した後焼付硬化するカチオン電着塗装方法において、該カチオン電着塗料中にpKa6以上のpH緩衝剤を塗料に対して0.001〜10重量%の量で配合することにより、焼付硬化時に生じる二次タレを防止する方法。
【請求項6】
被塗物をカチオン電着塗料中で電着塗装し、焼付硬化前に水洗をする場合であって、該カチオン電着塗料中にpKa6以上のpH緩衝剤を塗料に対して0.001〜10重量%の量で配合することにより、被塗物の水洗効率を上げる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−246608(P2007−246608A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69309(P2006−69309)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】