説明

カツラ専用変性シリコン粘着剤

【課題】つや消し及び剥離性に優れ、速乾性で抗菌作用を有し、長期装着に耐えるカツラ専用粘着剤を提供する。
【解決手段】変性シリコン粘着剤に微粒子のナイロン末及び抗炎症剤、殺菌剤を添加することで解決できる。特に、ナイロン末の添加量が3〜7%、抗炎症剤及び殺菌剤の添加量が0.001%〜0.005%であるものが好ましく、抗炎症剤又は殺菌剤としてはレゾルシン、グリチルリチン酸ジカリウムの内1種以上及び殺菌剤として塩化セチルピリジニウム、塩化リゾチウム、イソプロピルメチルフェノールの内1種以上を含み、抗炎症剤・殺菌剤合計で3種以上を使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カツラ専用粘着剤に関するもので、特につや消し及び剥離性に優れ、速乾性で抗菌作用を有し、長期装着に耐えるカツラ専用変性シリコン粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カツラの技術が急速に進歩し、女性のみならず男性も躊躇なく愛用し、老若男女が着用する時代となっている。
【0003】
しかしながら、カツラの技術は、毛髪の状態、すなわちいかに天然の毛髪に見せるかに集中しており、カツラを頭皮に留める方法の技術はそれに比べて進歩していないのが現状である。
【0004】
従来、カツラを頭皮に留める方法としては、クリップによる方法、両面テープによる方法、あるいは天然ゴム系の粘着剤による方法等があった。例えば、合成ポリイソプレンラテックスを主基剤とする義髪類用粘着剤が開示されている(特開昭57−92073号公報(特許文献1))が、装着保持時間が1日程度であり、また水泳時に離脱する等の欠点があり、一方強固に固定するとはずし難く、また有害な成分を含んだ粘着剤である等、カツラを常用している人たちからは不満の声が上がっていた。
【0005】
そこで本発明者は、上記のような問題を解決できる粘着剤を開発し、既に特許出願をしている(特開2002−317164号公報(特許文献2))。すなわち、アクリルと酢酸ビニル樹脂との共重合エマルジョンを主成分とする水性粘着剤を発明した。
【0006】
更に、長期使用に耐えられるような水性粘着剤として、水性ウレタン樹脂剤を主成分とする水性粘着剤用効果延長剤を開発し、特許出願をしている(特開2005−132950号公報(特許文献3))。
【0007】
また、電気・電子部品用の粘着剤としてはシリコン粘着剤が知られているが、シリコン粘着剤は空気中の水分を取り込み硬化するので、乾燥接着に長時間を要するため、カツラの接着には不向きであると考えられていた。
【0008】
本発明者は、この粘着剤に粉状抗炎症剤及び粉状殺菌剤を添加して、乾燥時間の短縮化を図ったが、剥離性の点で満足いくものではなかった(特開2010−77355号公報(特許文献4))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−92073号公報
【特許文献2】特開2002−317164号公報
【特許文献3】特開2005−132950号公報
【特許文献4】特開2010−77355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
つや消し及び剥離性に優れ、速乾性で抗菌作用を有し、長期装着に耐えるカツラ専用変性シリコン粘着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意努力した結果、変性シリコン粘着剤に微粒子のナイロン末を添加することで解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)変性シリコン粘着剤にナイロン末を添加したことを特徴とするカツラ専用粘着剤、
(2)抗炎症剤及び殺菌剤を添加したことを特徴とする(1)記載のカツラ専用粘着剤、
(3)ナイロン末の添加量が3〜7%、抗炎症剤及び殺菌剤の添加量が0.001%〜0.005%であることを特徴とする(2)記載のカツラ専用粘着剤、
(4)抗炎症剤としてレゾルシン、グリチルリチン酸ジカリウムの内1種以上及び殺菌剤として塩化セチルピリジニウム、塩化リゾチウム、イソプロピルメチルフェノールの内1種以上を含み、抗炎症剤・殺菌剤合計で3種以上を使用することを特徴とする(2)又は(3)記載のカツラ専用粘着剤
に関する。
【0013】
シリコンは、オイル、エマルジョン、ゴム状、樹脂状及びモノマーに分けられ、主に剥離・離型剤として使用されており、他に撥水剤や電気絶縁体、潤滑剤としても用いられている。また乳液やクリーム等の油剤や界面活性剤、ファンデーション・日焼け止め等の皮膜剤、粉体の処理剤・分散剤としても使用されている。更には、シリコンは基本的に無害であるところから、食品の消泡剤、医療用皮膚再生パットとしても用いられている。
【0014】
更に、前述のように電気・電子部品用の粘着剤あるいは建築用構造粘着剤が最近の用途として脚光を浴びている。
【0015】
しかしながら、前述のように、シリコン粘着剤は乾燥接着に長時間を要するので、カツラの接着には不向きであると考えられていた。そして、カツラを装着した場合、粘着剤に毛髪が付着して硬化し、剥離する際にカツラの毛髪が抜けたり、カツラに付着した粘着剤が剥離し難いという欠点も有していた。
【0016】
本発明者等は、これらの問題をナイロン末を添加することで解決できることを見出したのである。更に、抗炎症や抗菌作用をもたらす為に、粉状抗炎症剤・粉状殺菌剤を添加することも有効である。
【0017】
ナイロン末を添加することで、シリコン硬化後のツヤを消すことができ、地肌と同じ色調を保つことができるという効果も奏することが見出された。ナイロン末の添加量は、3〜7%が好ましく、3%未満では剥離し難くなり、7%を超えると接着し難くなる。また、粒子径は1μ〜80μが好ましい。
【0018】
本発明の粘着剤は乾燥後に表面が硬化するので、耐水・耐薬品性に優れ、水性粘着剤の場合のベタツキや毛髪の展着を予防する効果も発揮する。
【0019】
なお、変性シリコンとは、シリコンの中で側鎖、末端に有機基を導入したものを称しているが、本発明における変性シリコン粘着剤とは、通常市販されている変性シリコン粘着剤を使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、つや消し及び剥離性に優れ、速乾性で抗菌作用を有し、長期装着に耐えるカツラ専用粘着剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明をより詳細に説明するために、以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
(抗炎症剤・殺菌剤の選択)
抗炎症剤・殺菌剤は各種あるので、それぞれテストを行い、最も効果的なものを選択した。
【0023】
◎テスト抗炎症剤・殺菌剤名
安息香酸、安息香酸塩、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化リゾチウム、オクトピロックス、感光素、グリチルリチン酸ジカリウム、サリチル酸、サリチル酸塩、ジンクピリチオン、チモール、トリクロロカルバニリド、パラベン、ハロカルバン、ピリチオン亜鉛、レゾルシン(アイウエオ順)
【0024】
上記のうち、抗炎症剤としては、レゾルシン及びグリチルリチン酸ジカリウムが、殺菌剤としてはイソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化リゾチウムが、分散性、透過性の点で好ましい結果が得られた。
【0025】
抗炎症剤及び殺菌剤の添加量については、粘着剤総量に対して0.001%〜0.005%が好ましいが、最も好ましいのは0.002%〜0.003%であることも分かった。そして、抗炎症剤と殺菌剤の比は、1:1程度が好ましい。
【0026】
なお、抗炎症剤と殺菌剤はいずれも粉体であることが望ましい。液体の場合は、粘着力が弱まり速乾性も悪くなる。
【0027】
また、抗炎症剤・殺菌剤の単体使用と複数使用の良否について検討したところ、抗炎症剤を1種以上と殺菌剤を1種以上含み、合計で3種以上の抗炎症剤・殺菌剤を混合使用することにより、速乾性の点でより好ましい結果が得られることも分かった。
【0028】
[実施例2]
(速乾性のテスト)
速乾性に関して、本発明品と従来製品との比較を行った結果を表1にまとめた。なお、本発明品は、次の成分で構成されているものを使用した。
【0029】
変性シリコン 94.877%(100.0g)
微粒子ナイロン末 5.12%(5.4g)
レゾルシン(抗炎症剤) 0.001%
グリチルリチン酸ジカリウム(抗炎症剤) 0.001%
塩化セチルピリジニウム(殺菌剤) 0.001%
【0030】
テストの方法は、30cm×20cmの長方形の透明ポリエチレン板に1gの各「変性シリコン粘着剤」を塗布し、乾燥性の速度を確認した。また、耐水及び耐薬品性を確認するために、表面が完全に乾燥し固形化した状態までの時間も測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分かるように、本発明品は他社の変性シリコン粘着剤(ナイロン末、抗炎症剤、殺菌剤を含まず)に比べて、表面完全乾燥迄の乾燥時間が1/3から1/4程度であるから、本発明品はカツラの粘着剤として好適であることを証明している。
【0033】
[実施例3]
(装着持続時間等のテスト)
実施例2に記載の本発明品と従来品とを用いたカツラを20名の被験者に装着し、装着持続期間等の比較試験を行った。その結果を表2にまとめた。
【0034】
【表2】

【0035】
上記表2の「炎症者」、「ベタツキ感」及び「毛髪の展着」については、全て本発明品に対する結果である。また、従来品とは、ナイロン末・抗炎症剤・殺菌剤を含まない変性シリコン粘着剤である。
【0036】
上記表2から明らかなように、従来品は10日までしか固定されておらず、一方、本発明の粘着剤は、10日以上であっても装着に耐えることができた。しかもベタツキ感がなく、毛髪への展着も少なく、炎症者も皆無である。なお、装着に耐えるとは、入浴洗髪時にシャンプーを3g手に取り、頭髪に塗布しシャワーにて洗髪することに耐えることを意味する。
【0037】
[実施例4]
(皮膚刺激性テスト)
試験日時・期間 平成23年2月10日(AM10:00)〜2月14日(AM10:00)
場所 日本フィリン(株) 社内(埼玉工場)
検体 1.本発明品(ツヤ消しタイプ)
2.絆創膏円形布地タイプ(R社製)
試験方法 1.男性5名を被験者
2.本発明品を0.1g上腕部内側に塗布し延ばして乾燥放置
絆創膏円形布地タイプを本発明品と並列に皮膚面に接触
接触96時間後に両試験品の対象部位の皮膚の状態を目視により
確認する。
判定は日本バッチテスト研究会の基準により評価する。
試験結果 表3に示すように、96時間の簡易バッチテストの結果、本発明品も 被験者全員に刺激性が認められなかった。
【0038】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性シリコン粘着剤にナイロン末を添加したことを特徴とするカツラ専用粘着剤。
【請求項2】
抗炎症剤及び殺菌剤を添加したことを特徴とする請求項1記載のカツラ専用粘着剤。
【請求項3】
ナイロン末の添加量が3〜7%、抗炎症剤及び殺菌剤の添加量が0.001%〜0.005%であることを特徴とする請求項2記載のカツラ専用粘着剤。
【請求項4】
抗炎症剤としてレゾルシン、グリチルリチン酸ジカリウムの内1種以上及び殺菌剤として塩化セチルピリジニウム、塩化リゾチウム、イソプロピルメチルフェノールの内1種以上を含み、抗炎症剤・殺菌剤合計で3種以上を使用することを特徴とする請求項2又は3記載のカツラ専用粘着剤。

【公開番号】特開2012−172042(P2012−172042A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34684(P2011−34684)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(593084627)日本フイリン株式会社 (14)
【Fターム(参考)】