説明

カテーテルおよびその製造方法

【課題】柔軟性および操作性に優れたカテーテルの先端部位を開発する。
【解決手段】カテーテル10は、3次元の網目構造を有するポリマーファイバーからなる中空管12で構成され、中空管12は、ヤング率および内径が一定であり、先端(遠位)13になるほど外径が細くなり、壁厚が薄くなる構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管などに挿入して検査、治療に用いられる医療用のカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテルと呼ばれる柔軟性を有する中空の管を経皮的に血管に通し、血管造影剤の注入や血栓の除去を行うカテーテル検査・治療が盛んになっている。特に、カテーテル治療は、従来の外科的手法に比べて、患者に与える身体的な負担が大幅に軽減されるとともに、経皮的血管内手術等において高い治療効果が認められていることから、今後より一層の発展が期待されている。
【0003】
カテーテルは、血管のような複雑な経路を安全かつスムーズに通ることが要求される。カテーテルが複雑な経路を通過して、目的の部位に到達するためには、特に、カテーテルの先端部位の柔軟性および操作性の向上が重要となっている。
【0004】
従来のカテーテルは、たとえば、特許文献1に示すように、金属メッシュなどの補強部材の周囲に高分子材料からなるチューブを被覆した構造を有する。
【特許文献1】特開2002−282366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カテーテル検査・治療のさらなる高度化にともない、カテーテルをより複雑な形態の血管に挿入できるようにすることが求められており、カテーテル先端部位の柔軟性および操作性をより一層向上させることが急務となっている。また、柔軟性および操作性を備えたカテーテルの製造においては、所望の先端構造を有するカテーテルの設計および加工が容易であることが、製造コスト削減という点からも不可欠となっている。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、先端部位の柔軟性および操作性が向上したカテーテルの提供にある。また、本発明の他の目的は、先端部位の柔軟性および操作性が向上したカテーテルを容易に製造する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、カテーテルである。当該カテーテルは、ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、中空管の内径が一定であり、中空管の外径が先端になるほど細くなっていることを特徴とする。上記態様において、中空管の外径が先端になるほど段階的に細くなっていてもよい。
【0008】
この態様によれば、カテーテル先端部位の屈曲性が向上し、より複雑な形態の血管における操作性を高めることができる。
【0009】
本発明の他の態様は、カテーテルである。当該カテーテルは、ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、中空管の内径および外径が先端になるほど細くなっていることを特徴とする。
【0010】
この態様によれば、カテーテル先端部位の屈曲性が向上し、より複雑な形態の血管における操作性を高めることができる。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、カテーテルである。当該カテーテルは、ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、中空管のヤング率が先端になるほど小さくなっていることを特徴とする。この態様において、中空管のヤング率が先端になるほど段階的に小さくなっていてもよい。
【0012】
この態様によれば、カテーテル先端部位の屈曲性が向上し、より複雑な形態の血管における操作性を高めることができる。
【0013】
上述した各態様のカテーテルにおいて、ポリマーファイバーがエレクトロスピニングによって形成されていてもよい。
【0014】
本発明のさらに他の態様は、カテーテルの製造方法である。当該カテーテルの製造方法は、ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一定の棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、射出口の軸上にあたるマンドレルの位置を、マンドレルの一方の端部を基点として段階的に短くしながら、エレクトロスピニングにより射出口から射出されたポリマーファイバーをマンドレルの周りに被覆させてポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とする。この態様によれば、柔軟性および操作性に優れたカテーテルの設計、加工を容易にし、カテーテル製造を簡便化することができる。
【0015】
本発明のさらに他の態様は、カテーテルの製造方法である。当該カテーテルの製造方法は、ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一方の端部に向けて徐々に細くなっている棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、射出口の軸上にあたるマンドレルの位置を、マンドレルの一方の端部から他方の端部まで往復させながら、エレクトロスピニングにより射出口から射出されたポリマーファイバーをマンドレルの周りに被覆させてポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とする。この態様によれば、柔軟性および操作性に優れたカテーテルの設計、加工を容易にし、カテーテル製造を簡便化することができる。
【0016】
本発明のさらに他の態様は、カテーテルの製造方法である。当該カテーテルの製造方法は、ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一定の棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、射出口の軸上にあたるマンドレルの位置を、マンドレルの一方の端部を基点とする領域から順にずらすとともに、各領域にエレクトロスピニングによって被覆されるポリマーファイバーのヤング率を段階的に増加あるいは減少させて、ポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とする。この態様によれば、柔軟性および操作性に優れたカテーテルの設計、加工を容易にし、カテーテル製造を簡便化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カテーテルの先端部位の柔軟性および操作性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。本実施の形態のカテーテル10は、3次元の網目構造を有するポリマーファイバーからなる中空管12で構成されている。当該中空管12は、ヤング率および内径が一定であり、先端(遠位)13になるほど外径が細くなり、壁厚が薄くなる構造を有する。中空管12の外径は、先端13になるほど段階的に細くなってもよく、連続的に徐々に細くなっていてもよい。本実施の形態のカテーテルによれば、先端になるほど壁厚を薄くすることにより、先端13になるほど柔軟性、屈曲性が高くなる。このため、より複雑な形態の血管における操作性が向上し、目的の部位にカテーテルを挿入することが容易となる。
【0020】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。本実施の形態のカテーテル20は、実施の形態1と同様に3次元の網目構造(メッシュ構造ともいう)を有するポリマーファイバーからなる中空管22で構成されている。当該中空管22は、ヤング率が一定であり、壁厚は一定のまま先端になるほど内径および外径が先端23になるほど細くなっている。本実施の形態のカテーテルによれば、先端になるほど内径および外径を細くすることにより、先端23になるほど柔軟性、屈曲性が高くなる。このため、より複雑な形態の血管における操作性が向上し、目的の部位にカテーテルを挿入することが容易となる。
【0021】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。本実施の形態のカテーテル30は、実施の形態1と同様に3次元の網目構造を有するポリマーファイバーからなる中空管32で構成されている。当該中空管32は、内径および外径が一定であるが、ヤング率が先端36になるほど小さくなっている。具体的には、中空管32の領域を先端側から順に領域33、領域34および領域35と区分けした場合に、領域33のヤング率<領域34のヤング率<領域35のヤング率という関係が成り立っている。なお、本実施の形態では、中空管32の領域が3つに区分されているが、区分数はこれに限られず、区分数は2、または4以上であってもよい。さらに、ヤング率は、先端36になるほど連続的に徐々に小さくなっていてもよい。本実施の形態のカテーテルによれば、先端36になるほどヤング率を小さくすることにより、先端36になるほど柔軟性、屈曲性が高くなる。このため、より複雑な形態の血管における操作性が向上し、目的の部位にカテーテルを挿入することが容易となる。
【0022】
上述した実施の形態1乃至3における中空管は、後述するエレクトロスピニングを応用した製造方法によって作製されることが好適である。これによれば、ポリマーファイバーが3次元の網目構造となり、柔軟性を備えつつ、血管内の走行に耐える強度を得ることができる。
【0023】
上記実施の形態1乃至3に係るカテーテルを製造可能なカテーテル製造装置および製造方法について説明する。
【0024】
(カテーテル製造装置)
図4は、カテーテル製造装置の概略構成を示す図である。カテーテル製造装置100は、エレクトロスピニング法を用いてカテーテルを製造する装置である。カテーテル製造装置100はマンドレル110、回転機構120、反復移動機構130、注射器140、直流電源150および制御部160を備える。
【0025】
マンドレル110は、ステンレスなどの金属で構成された棒状の形態であり、導電性を有する。マンドレルの長さ、形状などは作製するカテーテルの内径に合わせて用意される。なお、マンドレル110は、棒状の絶縁体の表面に導電性フィルムを被覆した形態であってもよい。マンドレル110は、モータ、アクチュエータなどの回転機構120により所定の回転速度で軸の周りに回転可能である。また、マンドレル110は、モータ、アクチュエータなどの反復移動機構130により、軸方向に反復移動が可能になっている。
【0026】
注射器140は、外筒142および内筒146を有する。外筒142は、柔軟性を有するポリマー(エラストマー)が溶解した溶液を収容可能である。溶液中の溶媒としては、たとえば、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールを用いることがでる。また、柔軟性を有するポリマーとしては、ポリ(乳酸・カプロラクトン)共重合体、ポリウレタンなどを用いることができる。外筒142の先端には、外筒142の内部と連通する射出口143が設けられた金属製のニードル144が取り付けられている。ニードル144は、その軸方向がマンドレル110の軸方向に対して垂直になるように設置されている。
【0027】
内筒146は、外筒142の中に挿入可能であり、内筒146を外筒142に押し込むことにより、外筒142に収容された溶液を射出口143からマンドレル110に向けて射出することができる。
【0028】
なお、本例で用いられている注射器に代えて、溶液を収容可能なタンク、ポンプなどを用いて、所定量の液体を射出口が設けられたニードルに供給する構成としてもよい。
【0029】
直流電源150の正極はニードル144に電気的に接続され、直流電源150の負極はマンドレル110に電気的に接続されている。直流電源150の電圧は、たとえば、5〜40kVである。これにより、ニードル144に電圧が印加され、内筒146を外筒142の中に押し込むことによりニードル144を通過する溶液が荷電される。
【0030】
制御部160は、マンドレル110を所定の回転速度で回転させるように回転機構120を駆動する。また、制御部160は、マンドレル110を所定の範囲内で反復移動させるように、反復移動機構130を駆動する。また、制御部160は、直流電源150のオンオフ、電圧などを制御可能である。
【0031】
制御部160を用いて、マンドレル110を所定の速度で回転させるとともに、マンドレル110を反復移動させ、ニードル144の軸線上に当たるマンドレル110の位置をずらしながら、ニードル144に所定の電圧を印加する。この状態で、内筒146を外筒142の中に押し込むことにより、射出口143の近傍で荷電された溶液で形成されたテーラーコーン147からポリマーファイバーがマンドレル110に向けて射出される。テーラーコーン147から射出されたポリマーファイバーがマンドレル110の周りに巻き取られ、3次元の網目構造を持つ被膜が形成される。マンドレル110をこの被膜から引き抜くことにより、所定の形状を備える中空管、すなわちカテーテルを作製することができる。
【0032】
上述したカテーテル製造装置における特徴として以下が挙げられる。すなわち、(1)使用するマンドレルの外径、長さおよび形状、(2)印加電圧、射出時間、溶液濃度などのエレクトロスピニングにおける操作条件によって、作製するカテーテルの壁厚、長さ、形状、口径を自在に変えることが可能である。
【0033】
図5は、上述したカテーテル製造装置100を用いて実際に作製したチューブの電子顕微鏡写真(30倍、200倍、4000倍)である。溶液は、ポリ(乳酸・カプロラクトン)共重合体(等モル組成)0.25mgをヘキサフルオロイソプロピルアルコール5mlに溶解させたものを用いた。印加電圧は、30kV、マンドレルの回転速度は、200回転/分である。得られたチューブのファイバー径は、2.5μm、壁厚は250μmであった。図5から分かるように、チューブを形成するポリマーファイバーは、3次元の網目構造を持ち、チューブとしての強度および柔軟性を兼ね備えている。
【0034】
カテーテルを構成する繊維のファイバー径を決定するパラメータとしては、図4の射出口143から射出される溶液の濃度C、マンドレル110と射出口143との間の距離である射出高H、ニードル144に印加される電圧V、および射出時間Tが挙げられる。これらのパラメータとカテーテルの壁厚との関係について、ポリ(乳酸・カプロラクトン)共重合体(等モル組成)を溶解した溶液を用いて調べた。溶媒として、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールを用いた。
【0035】
図6は、濃度Cとファイバー径との関係を示すグラフである。具体的には、射出高H、電圧Vおよび射出時間Tを、それぞれ、30cm、30kV、30分に固定し、濃度Cを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルを構成するファイバー径を電子顕微鏡を用いて観察および計測した。図6からわかるように、濃度Cが濃くなるにつれて、ファイバー径が線形的に増加することがわかった。
【0036】
図7は、射出高Hとファイバー径との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、電圧Vおよび射出時間Tを、それぞれ、3wt%、30kV、30分に固定し、射出高Hを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルを構成するファイバー径を電子顕微鏡を用いて観察および計測した。図7からわかるように、射出高Hが大きくなるにつれて、ファイバー径が線形的に増加することがわかった。
【0037】
図8は、電圧Vとファイバー径との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、射出高Hおよび射出時間Tを、それぞれ、3wt%、30cm、30分に固定し、射電圧Vを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルを構成するファイバー径を電子顕微鏡を用いて観察および計測した。図8からわかるように、電圧Vを変えてもファイバー径はほぼ一定、さらには、電圧Vが30kVになるとファイバー径が減少傾向となり、電圧Vがファイバー径に与える影響が少ないことがわかった。
【0038】
図9は、射出時間Tとファイバー径との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、射出高Hおよび電圧Vを、それぞれ、3wt%、30cm、30kVに固定し、射出時間Tを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルを構成するファイバー径を電子顕微鏡を用いて観察および計測した。図9からわかるように、射出時間Tを変えてもファイバー径はほとんど変化せず、射出時間Tがファイバー径に与える影響が少ないことがわかった。
【0039】
以上、図6から図9に示した結果から、エレクトロスピニングにより生成されるファイバーの径は主に濃度Cおよび射出高Hに依存し、射出高Hが一定の条件下では、濃度Cを変えることにより、ファイバー径を所望の太さに制御できることがわかった。
【0040】
次に、カテーテルの壁厚を決定するパラメータとしては、図4の射出口143から射出される溶液の濃度C、マンドレル110と射出口143との間の距離である射出高H、ニードル144に印加される電圧V、および射出時間Tが挙げられる。これらのパラメータとカテーテルの壁厚との関係について、ポリ(乳酸・カプロラクトン)共重合体(等モル組成)を溶解した溶液を用いて調べた。溶媒として、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールを用いた。
【0041】
図10は、濃度Cとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。具体的には、射出高H、電圧Vおよび射出時間Tを、それぞれ、30cm、30kV、30分に固定し、濃度Cを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルの壁厚を計測した。図10からわかるように、濃度Cが濃くなるにつれて、カテーテルの壁厚が線形的に増加することがわかった。
【0042】
図11は、射出高Hとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、電圧Vおよび射出時間Tを、それぞれ、3wt%、30kV、30分に固定し、射出高Hを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルの壁厚を計測した。図11からわかるように、射出高Hが大きくなるにつれて、カテーテルの壁厚は厚くなるが、射出高Hを大きくすると、増加割合がやや減少することがわかった。
【0043】
図12は、電圧Vとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、射出高Hおよび射出時間Tを、それぞれ、3wt%、30cm、30分に固定し、電圧Vを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルの壁厚を計測した。図12からわかるように、電圧Vを変えてもカテーテルの壁厚は一定であり、電圧Vがカテーテルの壁厚に与える影響が少ないことがわかった。
【0044】
図13は、射出時間Tとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。具体的には、濃度C、射出高Hおよび電圧Vを、それぞれ、3(wt%)、30(cm)、30(kV)に固定し、射出時間Tを変えて、カテーテルを作製し、得られたカテーテルの壁厚を計測した。図13からわかるように、射出時間Tが長くなるにつれて、カテーテルの壁厚が線形的に増加することがわかった。
【0045】
以上、図10から図13に示した結果から、カテーテルの壁厚は、主に、濃度C、射出高H、射出時間Tに依存し、射出高Hを一定にし、さらに、ファイバーの径が所定の太さになるように濃度Cを設定した条件下では、射出時間Tを変えることにより、カテーテルの壁厚を所定の厚さにすることができることがわかった。
【0046】
(カテーテルの製造方法1)
実施の形態1に係るカテーテルの製造方法について以下で説明する。まず、図14(A)に示すように、ニードル144を通る軸線上に直交するマンドレル110を回転させながら図面左側の端部から図面右側の端部まで反復移動させ、エレクトロスピニングにより射出口143から射出されたファーバーがマンドレル全体に巻き取られるようにする。
【0047】
次に、図14(B)に示すように、マンドレル110の反復移動部分を、図面左側の端部を基点とし、マンドレルの長さより短くする。この状態で、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。これにより、図面右側の先端部とその左側とで、壁厚が段階的に変わった構造が得られる。
【0048】
次に、図14(C)に示すように、マンドレル110の反復移動部分を、図面左側の端部を基点とし、図14(B)に示した反復移動部分に比べて短くする。この状態で、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。これにより、図14(D)に示すように、図面右側の先端部から壁厚が2段階で増加した構造が得られる。
【0049】
以下、上述のように、マンドレル110の反復移動部分を、図面左側の端部を基点として徐々に短くしてエレクトロスピニングを行うことにより、先端部から所望の段階数だけ段階的に壁厚が増加したカテーテルを製造することができる。
【0050】
なお、エレクトロスピニングにおけるマンドレルの反復移動部分の長さを徐々に減少させることにより、先端部分を基点として壁厚が連続的に増加したカテーテルを簡便かつ再現性よく製造することができる。
【0051】
(カテーテルの製造方法2)
実施の形態2に係るカテーテルの製造方法について以下で説明する。実施の形態2に係るカテーテルの製造方法では、図15に示すように、先端部にテーパを有するマンドレルが用いられる。たとえば、マンドレルの形状は、基部からテーパ部にかけての直径が3mmであり、テーパ部において徐々に直径が小さくなり、先端部における直径が1mmとする。このようなマンドレルを上記カテーテル製造装置に設置して、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。これにより、壁厚が一定で、かつ、カテーテルの先端部位がマンドレルのテーパ形状と同様に、先端になるにつれて細くなるカテーテルが得られる。
【0052】
(カテーテルの製造方法3)
実施の形態3に係るカテーテルの製造方法について以下で説明する。まず、図16(A)に示すように、マンドレルの図面左1/3が露出するように、マンドレル110の周りに絶縁体200aを被覆する。絶縁体200aとしては、たとえば、紙、ポリマーフィルムなどを用いることができる。このマンドレル110を上述したカテーテル製造装置に設置し、たとえば、ヤング率が6.9MPaのポリウレタンを溶解した溶液を用いて、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。当該エレクトロスピニングの後、図16(A)の矢印Aの部分で、マンドレル110の周りに形成されたポリウレタン210aを切断する。また、マンドレル110から絶縁体200aを取り外す。
【0053】
次に、図16(B)に示すように、ポリウレタン210aの図面右側1cm程度を残して、ポリウレタン210aの周りに紙、ポリマーフィルムなどの絶縁体200bを被覆する。また、マンドレル110の図面右側1/3に紙、ポリマーフィルムなどの絶縁体200cを被覆する。この状態で、上述したカテーテル製造装置を用いて、たとえば、ヤング率が90MPaのポリウレタンを溶解した溶液を用いて、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。当該エレクトロスピニングの後、図16(B)の矢印Bの部分で、マンドレル110の周りに形成されたポリウレタン210bを切断するとともに、絶縁体200bを取り外す。また、図16(B)の矢印Cの部分で、ポリウレタン210bを切断するとともに、絶縁体200cを取り外す。
【0054】
次に、図16(C)に示すように、ポリウレタン210bの図面右側1cm程度を残して、ポリウレタン210a、ポリウレタン210bの周りに紙、ポリマーフィルムなどの絶縁体200dを被覆する。この状態で、上述したカテーテル製造装置を用いて、たとえば、ヤング率が635MPaのポリウレタンを溶解した溶液を用いて、マンドレルを回転させながらエレクトロスピニングを行う。当該エレクトロスピニングの後、図16(C)の矢印Dの部分で、ポリウレタン210cを切断するとともに、絶縁体200dを取り外す。
【0055】
以上の工程により、図16(D)に示すような、先端(図面左側)に近いほどヤング率が段階的に小さくなっているカテーテル30が製造される。これにより、カテーテル30は先端に近いほど屈曲性が高くなるので、血管内に挿入して用いた場合の走行操作性が向上し、より複雑な形態の血管にカテーテルを挿入することができる。
【0056】
(実施例1)
上述したカテーテル製造方法1を用い、上述のように判明したカテーテルの壁厚と射出時間Tとの関係に基づいて先端になるにつれて壁厚が段階的に細くなったカテーテルを作製した。具体的には、濃度C、射出高Hおよび電圧Vを、それぞれ、3(wt%)、30(cm)、30(kV)に固定し、ニードルに対してマンドレルを反復移動させる領域ごとに射出時間Tを変えて、カテーテルを作製した。
【0057】
図17は、実施例1に係るカテーテル10aの形状を示す図である。実施例1のカテーテルの寸法およびヤング率を以下に示す。
【0058】
長さ:12cm
先端から1.5cmの箇所における壁厚h1:110μm
先端から4.5cmの箇所におけるh2:160μm
先端から7.5cmの箇所におけるh3:240μm
先端から10.5cmの箇所におけるh4:360μm
内径:2.5mm
ヤング率:2.9±0.8MPa
図18(A)は、実施例1に係るカテーテル10aを伸ばした状態を示す写真である。また、図18(B)は、実施例1に係るカテーテル10aの先端部分を屈曲した状態を示す写真である。図18(B)からわかるように、実施例1に係るカテーテル10aは、先端部分がしなやかに屈曲可能であることが確認された。
【0059】
図19は、作製したカテーテルの操作性を調べるために用いられた血管モデル300である。当該血管モデル300は、エポキシ樹脂を成形・加工することによって作製された。血管モデル300の奥行、幅、高さは、それぞれ、は21.5mm、48mm、52mmである。血管モデル300の内部に、血管を模した、内径5mmの分岐路を有するY字状の管310が形成されている。図19に示す血管モデルの下部から挿入した実施例1のカテーテルの基部を回転させることにより、カテーテルの先端を所望の分岐方向へ挿入可能であり、実施例1のカテーテルの操作性が高いことが確認された。
【0060】
(実施例2)
上述したのカテーテル製造方法2で示した寸法のマンドレルを用いて、先端になるにつれて内径および外径が細くなったカテーテルを作製した。具体的には、濃度C、射出高H、電圧V、射出時間Tを、それぞれ、3wt%、30cm、30kV、45分とした。実施例2のカテーテルの寸法およびヤング率を以下に示す。
【0061】
長さ:12cm
壁厚:240μm
先端部における内径:0.9mm
先端から5cmの箇所における内径:2.8mm
ヤング率:2.9±0.8MPa
図20(A)は、実施例2に係るカテーテル20aを伸ばした状態を示す写真である。カテーテル20aの横に、エレクトロンスピニングで用いたマンドレル400が並置してある。また、図20(B)は、実施例2に係るカテーテル20aの先端部分を屈曲した状態を示す写真である。図20(B)からわかるように、実施例2に係るカテーテル20aは、先端部分がしなやかに屈曲可能であることが確認された。
【0062】
実施例1と同様に、図19に示した血管モデルを用いて、実施例2に係るカテーテルの操作性を確かめた。その結果、実施例2のカテーテルの先端を所望の分岐方向へ挿入可能であり、実施例2のカテーテルの操作性が高いことが確認された。
【0063】
(実施例3)
上述したカテーテル製造方法3を用いて、先端になるほどヤング率が段階的に小さくなったカテーテルを作製した。具体的には、濃度C、射出高H、および電圧Vを、それぞれ、5wt%、30cm、30kVとした。また、壁厚を200μmで統一するために、後述する領域A、領域B、領域Cにおける射出時間Tは、それぞれ、35分、20分、60分とした。図21(A)は、実施例3に係るカテーテル30aを伸ばした状態を示す写真である。また、図21(B)は、実施例3に係るカテーテル30aの先端部分を屈曲した状態を示す写真である。実施例3のカテーテル30aは、先端39を基準として、0〜5.2cmまでの領域A、5.2〜9.8cmまでの領域B、9.8〜13cmまでの領域Cごとにヤング率が異なり、領域Aのヤング率<領域Bのヤング率<領域Cのヤング率となっている。実施例3のカテーテル30aの寸法およびヤング率を以下に示す。
【0064】
長さ:13cm
壁厚:280μm
内径:2.95μm
領域Aのヤング率:6.9MPa
領域Bのヤング率:90MPa
領域Cのヤング率:635MPa
図21(B)からわかるように、実施例3に係るカテーテルは、先端部分に近いほどヤング率が段階的に小さく、すなわち、ヤング率が段階的に小さくなることにより、先端部分がしなやかに屈曲可能であることが確認された。
【0065】
実施例1と同様に、図19に示した血管モデルを用いて、実施例3に係るカテーテル30aの操作性を確かめた。その結果、実施例3のカテーテル30aの先端を所望の分岐方向へ挿入可能であり、実施例3のカテーテルの操作性が高いことが確認された。
【0066】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施の形態1に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。
【図2】実施の形態2に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。
【図3】実施の形態3に係るカテーテルの構造を示す概略斜視図である。
【図4】カテーテル製造装置の概略構成を示す図である。
【図5】カテーテル製造装置を用いて実際に作製したカテーテルの電子顕微鏡写真(30倍、200倍、4000倍)である。
【図6】濃度Cとファイバー径との関係を示すグラフである。
【図7】射出高Hとファイバー径との関係を示すグラフである。
【図8】電圧Vとファイバー径との関係を示すグラフである。
【図9】射出時間Tとファイバー径との関係を示すグラフである。
【図10】濃度Cとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。
【図11】射出高Hとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。
【図12】電圧Vとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。
【図13】射出時間Tとカテーテルの壁厚との関係を示すグラフである。
【図14】実施の形態1に係るカテーテルの製造方法を示す工程図である。
【図15】実施の形態2に係るカテーテルの製造方法を示す図である。
【図16】実施の形態3に係るカテーテルの製造方法を示す工程図である。
【図17】実施例1に係るカテーテルの形状を示す図である。
【図18】実施例1に係るカテーテルの写真である。
【図19】カテーテルの操作性試験に用いた血管モデルである。
【図20】実施例2に係るカテーテルの写真である。
【図21】実施例3に係るカテーテルの写真である。
【符号の説明】
【0068】
10、20、30 カテーテル、100 カテーテル製造装置、110 マンドレル、120 回転機構、130 反復移動機構、140 注射器、150 直流電源、160 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、
前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、
前記中空管の内径が一定であり、前記中空管の外径が先端になるほど細くなっていることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記中空管の外径が先端になるほど段階的に細くなっていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、
前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、
前記中空管の内径および外径が先端になるほど細くなっていることを特徴とするカテーテル。
【請求項4】
ポリマーファイバーからなる中空管を備えたカテーテルであって、
前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造を有し、
前記中空管のヤング率が先端になるほど小さくなっていることを特徴とするカテーテル。
【請求項5】
前記中空管のヤング率が先端になるほど段階的に小さくなっていることを特徴とする請求項4に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記ポリマーファイバーがエレクトロスピニングによって形成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項7】
ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一定の棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、
前記マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、前記マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、前記マンドレルの位置を、前記マンドレルの一方の端部を基点として段階的に短くしながら、エレクトロスピニングにより前記射出口から射出されたポリマーファイバーを前記マンドレルの周りに被覆させて前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とするカテーテルの製造方法。
【請求項8】
ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一方の端部に向けて徐々に細くなっている棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、
前記マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、前記マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、前記マンドレルの位置を、前記マンドレルの一方の端部から他方の端部まで往復させながら、エレクトロスピニングにより前記射出口から射出されたポリマーファイバーを前記マンドレルの周りに被覆させて前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とするカテーテルの製造方法。
【請求項9】
ポリマー溶液が収容された収容部に連通する射出口が設けられた射出部と外径が一定の棒状のマンドレルとの間に直流電圧を印加し、
前記マンドレルを軸の周りに回転させるとともに、前記マンドレルを軸方向に反復移動させることにより、前記マンドレルの位置を、前記マンドレルの一方の端部を基点とする領域から順にずらすとともに、各領域にエレクトロスピニングによって被覆されるポリマーファイバーのヤング率を段階的に増加あるいは減少させて、前記ポリマーファイバーが3次元の網目構造となった中空管を形成することを特徴とするカテーテルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【図5】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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