説明

カテーテル装置

【課題】過剰な手動操作などによりスライド操作線に所定以上の張力が作用することを防止できるカテーテル装置を提供する。
【解決手段】回動操作部材70による相対移動によりスライド操作線40に作用する所定以上の張力を張力解除機構100が解除する。このため、シース16を屈曲させるスライド操作線40に所定以上の張力が作用することがない。従って、過剰な手動操作などによりスライド操作線40に所定以上の張力が作用し、スライド操作線40が破断して操作不能となることを防止できる。さらに、細血管などに挿通されたシース16の遠位端部が強引に屈曲されて血管壁を損傷するようなことも防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シースに挿通されたスライド操作線を牽引操作することにより、シースの遠位端部を屈曲させて体腔への進入方向が可変に操作可能なカテーテル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シースに挿通されたスライド操作線を牽引操作することにより、シースの遠位端部を屈曲させて体腔への進入方向が可変に操作可能なカテーテル装置が提供されている。
【0003】
この種の技術に関し、シースに挿通された一本のスライド操作線(押し/引きワイヤ)の後端部が接続されたダイヤル式またはスライド式の手動操作部材によってスライド操作線を牽引操作するカテーテル装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、シースに挿通された一対のスライド操作線(操縦ワイヤ)の近位端部が両側に接続されたダイヤル式の回動操作部材(カムホイール)を回転させることにより、シースの遠位端部を少なくとも二方向に屈曲させることのできるカテーテル装置も提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−507305号公報
【特許文献2】特開平07−59863号公報
【特許文献3】特開平07−79993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のカテーテル装置は、例えば、大動脈などにシースを挿通させることを想定している。シースを大動脈などに挿通させる場合でも、過剰な手動操作などによりスライド操作線に所定以上の張力が作用すると、スライド操作線が破断して操作不能となることがある。
【0007】
また、現在は、シースを細血管などまで到達させる要望がある。しかし、細血管などは大動脈などに比較して血管壁も薄く弱いため、挿通されたシースの遠位端部が強引に屈曲されると、血管壁を損傷する可能性がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、過剰な手動操作などによりスライド操作線に所定以上の張力が作用し、スライド操作線が破断したり、シースの遠位端部が強引に屈曲されるようなことを防止できるカテーテル装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカテーテル装置は、大径のルーメンと少なくとも一つの偏心した小径のスライド穴とが長手方向に形成されているシースと、シースの遠位端部の近傍に前端部分が連結されていてスライド穴にスライド自在に挿通されている少なくとも一本のスライド操作線と、シースの近位端部とスライド穴から引き出されたスライド操作線の後端部分とを長手方向に相対移動させる巻取操作機構と、相対移動によりスライド操作線に作用する所定以上の張力を解除する張力解除機構と、を有する。
【0010】
従って、本発明のカテーテル装置では、シースは大径のルーメンと少なくとも一つの偏心した小径のスライド穴とが長手方向に形成されている。シースの遠位端部の近傍に前端部分が連結されている少なくとも一本のスライド操作線がスライド穴にスライド自在に挿通されている。シースの近位端部とスライド穴から引き出されたスライド操作線の後端部分とを長手方向に巻取操作機構が相対移動させる。相対移動によりスライド操作線に作用する所定以上の張力を張力解除機構が解除する。このため、シースを屈曲させるスライド操作線に所定以上の張力が作用することがない。
【0011】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、シースの遠位端部からスライド操作線を経由した巻取操作機構までの連結を少なくとも一時的に解除してもよい。
【0012】
また、上述のようなカテーテル装置において、巻取操作機構は、手動操作により回動してスライド操作線を巻き取ることでスライド移動させ、張力解除機構は、巻取操作機構の回動によるスライド操作線の巻き取りを解除してもよい。
【0013】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、スライド操作線を巻き取る巻取操作機構の回動を空転させてもよい。
【0014】
また、上述のようなカテーテル装置において、巻取操作機構は、回動自在に軸支されてスライド操作線を巻き取る小径の操作線巻取部と、操作線巻取部と同軸状に軸支されて手動操作される大径の手動操作部と、を有し、張力解除機構は、操作線巻取部と手動操作部とを弾発的に係合させて連動させてもよい。
【0015】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、操作線巻取部と手動操作部とを連動させる応力が回転方向で相違してもよい。
【0016】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、所定の張力が作用したスライド操作線の前端部分に連通する前側部分と後端部分に連通する後側部分とを少なくとも一時的に分断してもよい。
【0017】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、スライド操作線の前側部分に連結されている前側磁性体と、スライド操作線の後側部分に連結されていて前側磁性体と磁力により着脱自在に連結されている後側磁性体と、を有してもよい。
【0018】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、前側磁性体と後側磁性体との少なくとも一方をスライド自在に支持して他方と着脱自在に対向させる磁性体支持機構を有してもよい。
【0019】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、所定以上の張力が作用したスライド操作線の前端部分とシースの遠位端部との連結を解除してもよい。
【0020】
また、上述のようなカテーテル装置において、張力解除機構は、所定以上の張力が作用したスライド操作線の後端部分と巻取操作機構との連結を解除してもよい。
【0021】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0022】
また、本発明で云う磁性体とは、磁性を帯びることが可能な物質、および、磁性を帯びた物質を意味しており、例えば、鉄やフェライトやネオジム、これらに着磁したマグネット、等である。
【0023】
さらに、本発明で云う巻き取りの解除とは、巻取操作機構の巻取操作が継続されても、スライド操作線の張力の増大が少なくとも一時的に停止されることを意味しており、少なくとも、巻取操作機構の空転や停止や反転、スライド操作線の巻き取りの停止や解除や延長、巻取操作機構とスライド操作線との連結の解除、スライド操作線とシースとの連結の解除、等を含む。
【0024】
また、本発明で云う操作線巻取部と手動操作部との連動とは、スライド操作線の張力が所定以下のときに手動操作部が手動操作で回動されると、これと一体に操作線巻取部が回動することを意味している。ただし、操作線巻取部と手動操作部とが完全に一体に回動する必要はなく、多少の機械誤差が発生することは許容する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のカテーテル装置では、巻取操作機構による相対移動によりスライド操作線に作用する所定以上の張力を張力解除機構が解除する。このため、シースを屈曲させるスライド操作線に所定以上の張力が作用することがない。従って、過剰な手動操作などによりスライド操作線に所定以上の張力が作用し、スライド操作線が破断して操作不能となることを防止できる。さらに、細血管などに挿通されたシースの遠位端部が強引に屈曲されて血管壁を損傷するようなことも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態のカテーテル装置の要部を示す縦断側面図である。
【図2】カテーテル装置の全体を示す側面図である。
【図3】カテーテル装置のシースの遠位端部分の縦断側面図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】図6に示す領域Vを拡大した縦断側面図である。
【図6】カテーテル装置の内部構造を示し、(a)は縦断側面図、(b)は横断平面図である。
【図7】位置調整機構の動作を示す側面図である。
【図8】スライド操作線を牽引操作した状態のカテーテル装置を説明する側面図である。
【図9】(a)はダイヤル部の構造を示す側面図、(b)はドラム部の構造を示す側面図、である。
【図10】張力解除機構の動作を示す工程図である。
【図11】一の変形例の張力解除機構の構造を示す縦断側面図である。
【図12】他の変形例の張力解除機構の構造を示す縦断側面図である。
【図13】さらに他の変形例の張力解除機構の構造を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、である。
【図14】さらに他の変形例の張力解除機構の動作を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態のカテーテル装置10の要部を示す縦断側面図である。図2は、カテーテル装置10の全体を示す側面図である。
【0028】
図3は、図2に破線で示した領域IIIの拡大断面図であり、カテーテル装置10の遠位端部15の縦断側面図である。図4は、図3のIV−IV断面図(縦断正面図)である。
【0029】
図6は、本実施の形態のカテーテル装置10の断面図である。同図(a)は縦断側面図であり、同図(b)は横断平面図である。同図(b)は、図2に示すVI−VI断面図に相当する。図5は、図6に示す領域Vの拡大した縦断側面図である。
【0030】
図7は位置調整機構の動作を示す側面図である。図8は、第一のスライド操作線40aと第二のスライド操作線40b(ともに図3を参照)を牽引操作した状態のカテーテル装置10を説明する側面図である。
【0031】
本実施の形態のカテーテル装置10は、図示するように、大径のルーメン20と少なくとも一つの偏心した小径のスライド穴30とが長手方向に形成されているシース16と、シース16の遠位端部の近傍に前端部分41が連結されていてスライド穴30にスライド自在に挿通されている少なくとも一本のスライド操作線40と、シース16の近位端部とスライド穴30から引き出されたスライド操作線40の後端部分とを長手方向に相対移動させる巻取操作機構である回動操作部材70と、相対移動によりスライド操作線40に作用する所定以上の張力を解除する張力解除機構100と、を有する。
【0032】
より詳細には、シース16には一対の小径のスライド穴30が長手方向に形成されており、そこに一対のスライド操作線40(40a、40b)がスライド自在に挿通されている。
【0033】
回動操作部材70は回転自在に軸支されており、手動操作により回動してスライド操作線40を巻き取ることでスライド移動させる。図8に示すように、スライド操作線40は、少なくともスライド穴30をスライド移動することで張力によりシース16の遠位端部15を屈曲させる。
【0034】
回動操作部材70は、図6等に示すように、実際にスライド操作線40が捲回される円筒状の操作線巻取部であるドラム部742、このドラム部742を操作本体部材72に回動自在に軸支している軸部741、ドラム部742より大径の円盤状で手動操作される手動操作部であるダイヤル部74、ドラム部742とダイヤル部74とを弾発的に係合させて連動させる張力解除機構100、等からなる。
【0035】
ダイヤル部74は操作本体部材72より幅方向(図6(a)における上下方向)に突出している。操作者はダイヤル部74の周面を指の腹(図示せず)等で回動させることにより、ドラム部742を軸部741回りに正逆方向に回動操作することができる。
【0036】
ドラム部742には、周囲から径方向の内側に切れ込むように操作線固定部79(79a、79b)が削成されている。操作線固定部79a、79bは、ドラム部742上の二箇所に形成されている。
【0037】
操作本体部材72の内部には、シース16から分岐した二本の中空管32を各々回動操作部材70のダイヤル部74に向かって案内するガイドローラー77(77a〜77d)が設けられている。
【0038】
ガイドローラー77aと77bは、中空管32を、シース16からダイヤル部74の軸方向にオフセットさせる回転機構である。ガイドローラー77aと77bは、各々操作本体部材72に対して回転可能に取り付けられ、互いに平行である。ガイドローラー77aと77bの回転軸は、シース16の長手方向およびダイヤル部74の軸方向に対してともに直交する方向に延在している。
【0039】
ガイドローラー77cと77dはシース16を挟んでダイヤル部74の径方向に対向して設けられて、二本の中空管32をドラム部742の接線方向に案内する回転機構である。
【0040】
ガイドローラー77cと77dは、各々操作本体部材72に対して回転可能に取り付けられ、互いに平行である。ガイドローラー77cと77dの回転軸は、シース16の長手方向に対して直交し、ダイヤル部74の軸方向と平行である。
【0041】
なお、シース16の遠位端部15とは、シース16の遠位端部分DEを含む所定領域を云う。また、シース16の近位端部17とは、図示するように、シース16の近位端部分PEを含む所定領域をいい、回動操作部材70の内部に挿通された領域を含む。
【0042】
同様に、スライド操作線40の前端部分41とは、スライド操作線40の前端を含む所定領域をいい、スライド操作線40の後端部分43とは、スライド操作線40の後端を含む所定領域を云う。
【0043】
そして、本実施の形態の張力解除機構100は、上述のような回動操作部材70の回動によるスライド操作線40の巻き取りを解除することで、スライド操作線40を巻き取る回動操作部材70の回動を空転させ、シース16の遠位端部からスライド操作線40を経由した回動操作部材70までの連結を少なくとも一時的に解除する。
【0044】
このため、本実施の形態の張力解除機構100では、ドラム部742はダイヤル部74に回転自在に軸支されており、張力解除機構100は、前述のようにドラム部742とダイヤル部74とを弾発的に係合させて連動させる。
【0045】
より具体的には、図1および図9および図10に示すように、ドラム部742には、複数の凹凸が内面に円滑に連続する異形孔110が形成されており、この異形孔110の凹部に弾発的に係合する一対の係合凸部120がダイヤル部74に形成されている。
【0046】
係合凸部120は、ダイヤル部74に円弧孔121が貫通されることで湾曲したアーチ状に形成されており、その中央の凸部が異形孔110の凹部に弾発的に係合する。また、ドラム部742の異形孔110の内面の凹凸は、左右の回転方向で対称の形状に形成されている。
【0047】
なお、係合凸部120は、ダイヤル部74の軸心を中心に対称な位置に一対が形成されているので、ダイヤル部74の一対の係合凸部120はドラム部742の支持軸を兼用している。
【0048】
ダイヤル部74及びドラム部742の具体的な材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂、または、ステンレス鋼(SUS)、チタン、アルミニウムなどの金属を用いることができる。なお、ダイヤル部74とドラム部742の材料は、同種でもよいし、異種でもよい。
【0049】
<シースの構造>
図3ないし図5に示すように、本実施の形態のシース16は、内視鏡を通じて、または直接に体腔内に挿通される可撓性の管状体である。
【0050】
シース16は、樹脂材料からなり、ルーメン20が内部に形成された管状の内層21と、内層21の周囲にワイヤ52を編成してなるブレード層50と、内層21と同種または異種の樹脂材料からなり内層21の周囲に形成されてブレード層50を内包する外層60と、を含む。スライド穴30は、外層60の内部であってブレード層50の外側に形成されている。
【0051】
ここで、本実施の形態のシース16の代表的な寸法について説明する。シース16の最外径は直径1mm未満、具体的には700〜900μm程度である。ルーメン20の直径は400〜600μm程度、内層21の厚さは10〜30μm程度、外層60の厚さは100〜150μm程度、ブレード層50の厚さは20〜30μmである。
【0052】
また、シース16の軸心からスライド穴30の中心までの半径は300〜350μm程度、スライド穴30の内径は40〜100μmとし、スライド操作線40の太さは30〜60μmである。
【0053】
本実施の形態のシース16は、腹腔動脈などの血管、および肝動脈枝や内頚動脈枝などの末梢血管に挿通可能な寸法である。また、本実施の形態のカテーテル装置10は、スライド操作線40a、40bの牽引により進行方向が自在に操作されるため、分岐する血管内においても所望の方向にシース16を進入させることが可能である。
【0054】
内層21には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。内層21にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル装置10のルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0055】
外層60には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0056】
ブレード層50を構成するワイヤ52には、ステンレス鋼(SUS)やニッケルチタン合金などの金属細線のほか、PI、PAIまたはPETなどの高分子ファイバーの細線を用いることができる。ワイヤ52の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0057】
スライド穴30a、30bは、ルーメン20に沿って外層60の内部に貫通して設けられている。本実施の形態のカテーテル装置10では、スライド穴30a、30bは、外層60の内部に埋設された中空管32によって形成されている。
【0058】
すなわち、外層60には、スライド操作線40a、40bが各々スライド自在に挿通された二本の中空管32が長手方向に延在して埋設されている。なお、中空管32(スライド穴30)がシース16の長手方向に延在しているとは、シース16に対する長手方向成分を有することを意味する。
【0059】
すなわち、中空管32(スライド穴30)はシース16に対して一部または全部が螺旋状に設けられて長手方向成分とともに周回方向成分を含んでもよい。以下、スライド操作線40aを第一のスライド操作線、スライド操作線40bを第二のスライド操作線と云う場合がある。
【0060】
本実施の形態のカテーテル装置10においては、スライド操作線40a、40bが各々挿通された一対のスライド穴30a、30bは、ルーメン20の周囲に対向して配置されている。
【0061】
すなわち、本実施の形態では、カテーテル装置10の軸心を中心にスライド穴30aとスライド穴30bとは対称な位置に形成されている。そして、スライド穴30aにはスライド操作線40aが挿通され、スライド穴30bにはスライド操作線40bが挿通されている。
【0062】
中空管32(スライド穴30)をブレード層50の外部に設けることにより、摺動するスライド操作線40(40a、40b)に対して、ブレード層50の内部、すなわちルーメン20が保護される。
【0063】
また、後述するように中空管32をシース16から分岐させてダイヤル部74に案内するに際してブレード層50の内側から中空管32を引き出す必要がなく、ブレード層50を切開する必要がない。
【0064】
中空管32は、外層60を構成する樹脂材料と共に押し出して外層60に埋設することができる。中空管32の材料は、外層60の樹脂材料よりも耐熱性に優れ、またスライド操作線40との摺動性の観点から、例えば、PEEK、PSF、PTFE、PVDF、などのフッ素系高分子材料を好適に用いることができる。
【0065】
スライド操作線40をスライド穴30に挿通する方法は、種々をとることができる。予め中空管32が埋設されたシース16に対して、その一端側からスライド操作線40を挿通してもよい。または、予めスライド操作線40が挿通された中空管32を外層60の樹脂材料と共に押し出しシース16を成形してもよい。
【0066】
スライド操作線40の具体的な材料としては、例えば、PEEK、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
【0067】
なお、中空管32が予め埋設されたシース16に対してスライド操作線40を挿通する場合など、スライド操作線40に耐熱性が求められない場合には、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
【0068】
外層60の周囲には、カテーテル装置10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層64が任意で設けられている。コート層64には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0069】
カテーテル装置10の遠位端部15には、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状のマーカー66が設けられている。具体的には、マーカー66には白金などの金属材料を用いることができる。本実施の形態のマーカー66は、ルーメン20の周囲であって外層60の内部に設けられている。
【0070】
スライド操作線40の前端部分(遠位端部分)41は、カテーテル装置10の遠位端部15に固定されている。スライド操作線40の前端部分41を遠位端部15に固定する態様は特に限定されない。
【0071】
例えば、スライド操作線40の前端部分41をマーカー66に締結してもよく、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、または接着剤によりマーカー66またはシース16の遠位端部15に接着固定してもよい。
【0072】
第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bは、ダイヤル部74の牽引操作により個別に牽引される。
【0073】
第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bは、図3等に示すように、前端部分41が各々シース16の遠位端部15に固定されている。このため、後端部分43を牽引することでシース16には軸心から径方向にオフセットした位置に張力が付与されるため、当該オフセット方向に遠位端部15が屈曲する。
【0074】
<カテーテル装置の使用態様>
図8は、第一のスライド操作線40aと第二のスライド操作線40b(ともに図3を参照)を牽引操作した状態のカテーテル装置10を説明する側面図である。同図(a)は、ダイヤル部74を図中の時計回りに回転させて第一のスライド操作線40aを牽引した第一状態を示している。
【0075】
また、同図(b)は、ダイヤル部74を図中の反時計回りに回転させて第二のスライド操作線40bを牽引した第二状態を示している。以下、ダイヤル部74の回転方向に関し、同図の時計回りの回転方向を正方向、反時計回りの回転方向を逆方向と云う場合がある。本実施の形態のカテーテル装置10は、シース16の近位端部17を収容し回動操作部材70のダイヤル部74が固定された操作本体部材72も備えている。
【0076】
中立状態では、第一のスライド操作線40aと第二のスライド操作線40bはともに初期状態、すなわち牽引されていない状態となり、張力がゼロとなる。そして、中立状態を基準として、ダイヤル部74を図8(a)のように時計回り(正方向)に回転させると、第一のスライド操作線40aが牽引された第一状態となる。そして、中立状態を基準として、ダイヤル部74を同図(b)のように反時計回り(逆方向)に回転させると、第二のスライド操作線40bが牽引された第二状態となる。
【0077】
回動操作部材70のダイヤル部74が第一状態にあるときに、第一のスライド操作線40aは牽引されて緊張するとともに第二のスライド操作線40bは弛緩する。そして、ダイヤル部74が第二状態にあるときに、第一のスライド操作線40aは弛緩するとともに第二のスライド操作線40bは牽引されて緊張する。
【0078】
ここで、第一のスライド操作線40aは、シース16の内部において同図の上方に挿通されている(図3を参照)。また、第二のスライド操作線40bは、同じく同図の下方に挿通されている。
【0079】
本実施の形態のカテーテル装置10において、第一のスライド操作線40aまたは第二のスライド操作線40bを牽引した場合には、シース16の遠位端部15に張力が与えられて、当該スライド操作線が挿通されている側に遠位端部15が屈曲する。
【0080】
すなわち、本実施の形態のカテーテル装置10では、ダイヤル部74を回転操作して第一のスライド操作線40aを後端側(図8における右方向)に牽引すると、シース16の遠位端部15は同図の上方に屈曲する。
【0081】
また、第二のスライド操作線40bを後端側に牽引すると、シース16の遠位端部15は同図の下方に屈曲する。ここで、シース16が屈曲するとは、シース16の一部または全部が湾曲または折れ曲がることを云う。
【0082】
従って、第一のスライド操作線40aまたは第二のスライド操作線40bを牽引して遠位端部15を当該スライド操作線の側に屈曲させた状態で、回動操作部材70の全体を軸回りに右ネジ方向または左ネジ方向に最大90度だけ回動させることで、遠位端部15を所望の向きに指向させることができる。
【0083】
すなわち、本実施の形態のカテーテル装置10によれば、カテーテル装置10(回動操作部材70)全体の回動を90度以下に抑えつつ、所望の方向に遠位端部15を屈曲させることができる。このため、操作者はカテーテル装置10の遠位端部15を所望の方向に迅速に指向させることができる。
【0084】
<操作機構の構造>
シース16の近位端部17は、ダイヤル部74の操作本体部材72の内部に長手方向に貫通して収容されている。シース16の近位端部分PEは操作本体部材72および位置調整機構80よりも後方(図6における右方)に位置している。
【0085】
操作本体部材72の前端部分には折止管78が長手方向に装着されている。折止管78は中空の管状部材であり、内部にシース16の近位端部17が挿通されている。折止管78は、シース16の近位端部17に付与される。
【0086】
図5に示すように、操作本体部材72の前端側の内部において、中空管32の後端部33はスライド操作線40とともにシース16から分岐している。より具体的には、操作本体部材72の内部に収容されたシース16の近位端部17には外層60の表面に切込部62が形成されている。中空管32は切込部62を通じて外層60から外部に露出し、シース16の径方向の外方に分岐されている。
【0087】
一方、シース16、すなわち外層60、ブレード層50および内層21は、操作本体部材72に対してスライド自在に長手方向に挿通され、図6に示すように、操作本体部材72の後方まで伸びている。
【0088】
本実施の形態のカテーテル装置10では、スライド操作線40(第一および第二のスライド操作線40a、40b)のみならず、中空管32をシース16から分岐させて、ガイドローラー77によってダイヤル部74に案内している。これにより、細径のスライド操作線40がガイドローラー77と直接に接触して摩耗および破断することを防止している。
【0089】
中空管32の後端部33から突出した第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bは、各々ドラム部742の周囲に約半周に亘って、互いに逆向きに捲回されている。
【0090】
具体的には、図1等に示すように、第一のスライド操作線40aはドラム部742の上側半分に対して、前端側から後端側に向かって時計回りに捲回されている。一方、第二のスライド操作線40bはドラム部742の下側半分に対して、前端側から後端側に向かって反時計回りに捲回されている。
【0091】
すなわち、第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bの後端部分43は、回動操作部材70のダイヤル部74に対して互いに異なる位置に係合している。
【0092】
本実施の形態の場合、第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bは、ダイヤル部74のドラム部742に対してシース16を挟んで対称位置に係合している。
【0093】
なお、ダイヤル部74がスライド操作線40に対して牽引力を付与することができる限り、スライド操作線40とダイヤル部74との係合の態様は特に限定されない。本実施の形態では、スライド操作線40の後端44が操作線固定部79に固定されるとともに、所定長さの後端部分43がドラム部742の周囲に当接している。
【0094】
ただし、本実施の形態に代えて、スライド操作線40の後端44を操作本体部材72に固定するとともに、偏心回転するダイヤル部(カム)によってスライド操作線40の後端部分43に牽引力を与えてもよい。
【0095】
第一のスライド操作線40aおよび第二のスライド操作線40bの後端44は、ドラム部742の操作線固定部79a、79bに対して各々固着されている。回動操作部材70のダイヤル部74は、ドラム部742の周囲に捲回された第一のスライド操作線40a、第二のスライド操作線40bの脱離を防止している。
【0096】
図6(a)に示すカテーテル装置10の初期状態では、操作線固定部79a、79bはシース16を挟んで対称位置にある。この状態から、ダイヤル部74を正方向(時計回り)に回転させると、ガイドローラー77cから操作線固定部79aまでの、ドラム部742の周長が増大し、第一のスライド操作線40aは後端側に牽引されることとなる。
【0097】
逆に、図6(a)の初期状態からダイヤル部74を逆方向(反時計回り)に回転させると、ガイドローラー77dから操作線固定部79bまでの、ドラム部742の周長が増大し、第二のスライド操作線40bは後端側に牽引されることとなる。これにより、図8各図を用いて上述したように、ダイヤル部74の正逆方向への回転操作によってシース16の遠位端部15の屈曲方向が選択される。
【0098】
なお、本実施の形態ではダイヤル部74が操作本体部材72に対して並進方向が固定されているため、ダイヤル部74の回転方向の選択によって第一のスライド操作線40aまたは第二のスライド操作線40bのいずれか一方のみが牽引される。
【0099】
しかしながら、本発明はこれに限定されず、第一のスライド操作線40aと第二のスライド操作線40bとを同時に牽引してもよい。具体的には、ダイヤル部74を操作本体部材72に対して回転可能であるとともに長手方向にスライド可能に取り付けてもよい。
【0100】
すなわち、長手方向を長径方向とする長孔を操作本体部材72に設け、かかる長孔に対してダイヤル部74の軸部741を装着することにより、ダイヤル部74は操作本体部材72に対して回転かつスライド可能となる。そして、ダイヤル部74をスライドすることで第一のスライド操作線40aと第二のスライド操作線40bをともに牽引することができる。
【0101】
ただし、本実施の形態のカテーテル装置10では、図10(a)に示すように、手動操作で回動されるダイヤル部74の一対の係合凸部120がドラム部742の異形孔110の内面の凹凸に弾発的に係合することで、張力解除機構100がダイヤル部74とドラム部742とを係合させて連動させている。
【0102】
そして、回動操作部材70による相対移動によりスライド操作線40に所定以上の張力が作用しようとすると、図10(b)(c)に示すように、ダイヤル部74の一対の係合凸部120が、弾発的に係合しているドラム部742の異形孔110の凹部から、凸部を経由して隣接する凹部まで移動する。
【0103】
このため、シース16の遠位端部からスライド操作線40を経由した回動操作部材70までの連結が一時的に解除されることになり、スライド操作線40を巻き取る回動操作部材70の回動が空転する。
【0104】
従って、回動操作部材70の回動によるスライド操作線40の巻き取りが解除されるので、シース16を屈曲させるスライド操作線40に所定以上の張力が作用することがない。
【0105】
このため、過剰な手動操作などによりスライド操作線40に所定以上の張力が作用し、スライド操作線40が破断して操作不能となることを防止できる。さらに、細血管などに挿通されたシース16の遠位端部が強引に屈曲されて血管壁を損傷するようなことも防止できる。
【0106】
しかも、上述のように張力解除機構100が作動すると、いわゆるクリック音とともにダイヤル部74にクリック感が発生するので、操作者はダイヤル部74の操作が過剰となったことを自覚できる。
【0107】
<位置調整機構>
本実施の形態のカテーテル装置10の位置調整機構80は、図7に示すように、回動操作部材70とシース16とをシース16の長手方向に相対移動させることにより、スライド操作線40a、40bの張力を調整する。
【0108】
図6に示すように、本実施の形態のカテーテル装置10は、シース16の近位端部分PEが固定されるとともに位置調整機構80と係合するコネクタ90も備えている。コネクタ90は、シース16の近位端部分PEに対して装着される筒状の部材であり、後端には開口部92が形成されている。コネクタ90の前端はシース16の近位端部分PEを除いて閉止されている。
【0109】
開口部92には、薬液等を充填したシリンジ(図示せず)が装着される。シリンジからシース16に対して供給された薬液等は、シース16のルーメン20(図3等を参照)を通じてシース16の遠位端部分DEから吐出される。
【0110】
位置調整機構80には、シース16の近位端部分PEが取り付けられている。本実施の形態の場合、コネクタ90を介して間接的にシース16の近位端部分PEが位置調整機構80に取り付けられている。
【0111】
また、位置調整機構80は操作本体部材72に対して長手方向に螺合されており、位置調整機構80が操作本体部材72に対して螺進することにより、ダイヤル部74およびスライド操作線40a、40bとシース16とは長手方向に相対移動する。
【0112】
具体的には、本実施の形態の位置調整機構80は、外周面にネジ溝86が螺刻された雄ネジ部材82と、ネジ溝86に装着されたストッパー部84とで構成されている。雄ネジ部材82は、長手方向に延在する通孔83を内部に備えている。
【0113】
通孔83は両端が開口し、コネクタ90の前端部分およびシース16の近位端部分PEが挿通されている。コネクタ90の前端部分には、前端側に向かって縮径するテーパー部91が形成されている。
【0114】
コネクタ90のテーパー部91は、雄ネジ部材82の通孔83に対して嵌合固定されている。一方、操作本体部材72の後端部分には長手方向に延在する雌ネジ部81が刻設されている。
【0115】
雌ネジ部81と雄ネジ部材82とは互いに螺合する。そして、位置調整機構80が操作本体部材72に対して螺進することにより、コネクタ90は長手方向に移動する。
【0116】
なお、本実施の形態において位置調整機構80が操作本体部材72に対して螺進するとは、操作本体部材72に螺合された位置調整機構80が後端側または前端側の少なくとも一方に移動することを云う。
【0117】
本実施の形態の場合、雄ネジ部材82を操作本体部材72よりも後端側に螺進させることにより、通孔83に嵌合しているコネクタ90とともにシース16が後方に移動する。
【0118】
カテーテル装置10は、図6における位置調整機構およびコネクタ(破線で図示)に比べて、矢印で示すように位置調整機構80とコネクタ90を操作本体部材72から後方(同図における右方)に螺進させた状態にある。
【0119】
ここで、ダイヤル部74は操作本体部材72に対して長手方向の前後移動が規制されている。従って、同図に示すように、位置調整機構80の雄ネジ部材82を操作本体部材72に対して後方に螺進させると、コネクタ90を介してシース16の近位端部分PEは後方に牽引される。その結果、ダイヤル部74とシース16とは長手方向に相対移動する。
【0120】
すると、図1に矢印で示すように、シース16は全体に後方に移動する。また、シース16から分岐してガイドローラー77a〜77dによってダイヤル部74に案内されている中空管32もまた全体にダイヤル部74に近づくこととなる。
【0121】
一方、スライド操作線40a、40bの後端44はダイヤル部74の操作線固定部79に固定されている。よって、シース16の遠位端部15(図3を参照)が後退することにより、スライド操作線40a、40bはダイヤル部74への捲回張力が減少するか、または弛むこととなる。
【0122】
なお、本実施の形態において、位置調整機構80によりスライド操作線40a、40bの張力が調整されるとは、一対のスライド操作線40a、40bのいずれか一本以上に関して、所定の基準状態から張力を少なくとも増大させるか、または減少させることができることを云う。
【0123】
本実施の形態のカテーテル装置10では、位置調整機構80を操作本体部材72に対して螺進させることによりスライド操作線40a、40bの張力を増減調整する方式であるため、ダイヤル部74とシース16との相対移動量の微調整が可能である。
【0124】
以上より、本実施の形態のカテーテル装置10においては、位置調整機構80の操作によってスライド操作線40a、40bの張力が増大および減少調整される。このため、弛みおよび張力のない状態にスライド操作線40a、40bを調節することが可能となる。
【0125】
従って、シース16の屈曲操作時の「遊び」が抑制され、またシース16の不測の屈曲の発生が抑えられる。位置調整機構80のストッパー部84は、雄ネジ部材82のネジ溝86に螺合されており、雄ネジ部材82とともに雌ネジ部81に対して螺進する。
【0126】
ここで、雄ネジ部材82を操作本体部材72に対して前進させてスライド操作線40a、40bの張力を増大させる場合、所定以上の前進長さで雄ネジ部材82を螺進させることでストッパー部84が操作本体部材72の後端部分に当接する。これにより、雄ネジ部材82を誤って過大に螺進させてスライド操作線40a、40bを破断させることがない。
【0127】
また、シース16を体腔内に挿通する際に、操作者が誤って雄ネジ部材82を回転させた場合も、ストッパー部84によって雄ネジ部材82の前進が規制されていることにより、スライド操作線40a、40bに不測の張力が発生することがない。このため、シース16の遠位端部15(図2および図3を参照)に不測の屈曲が生じることがない。
【0128】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では異形孔110の凹部に係合する凸部が中央に位置する湾曲したアーチ状に、一対の係合凸部120がダイヤル部74の軸心を中心に対称な位置に形成されていることを例示した。
【0129】
しかし、図11に示すように、ダイヤル部74の軸部741から放射方向に突設されている張力解除機構130の一つの係合凸部131が、ドラム部742の異形孔110の凹部に弾発的に係合していてもよい。
【0130】
なお、この場合は、ドラム部742は回動操作部材とは別個に回転自在に軸支される必要がある。また、当然ながら、このような係合凸部131が複数でもよい。この複数の係合凸部131を軸心に対して対称な位置に配置することで、ドラム部742を回転自在に軸支してもよい(図示せず)。
【0131】
さらに、上記形態では張力解除機構130の係合凸部131がドラム部742の左右の回転方向で対称の形状に形成されていることを例示した。しかし、図12に示すように、ドラム部742の左右の回転方向の一方で係合凸部141に切り欠き142が形成されていてもよい。
【0132】
この場合、図12(b)(c)に示すように、ドラム部742とダイヤル部74とを連動させる応力を回転方向で相違させることができる。これにより、シース16の遠位端部15が図中上方に屈曲する応力と下方に屈曲する応力とを相違させることができる。
【0133】
そこで、例えば、シース16に大動脈などを挿通させるときには、遠位端部15を大応力で屈曲させ、細血管などを挿通させるときには小応力で屈曲させることで、挿通の作業性と細血管の保護とを両立させるようなことができる。
【0134】
また、図13に示すように、ダイヤル部150とドラム部151とを共通する支持軸152で回転自在に軸支してスプリング153で圧接させ、その一方の盤面に形成されている張力解除機構160の凹穴161に他方の盤面の凸部162を弾発的に係合させてもよい。
【0135】
この場合、張力解除機構160の凸部162が凹穴161にスプリング153の張力で弾発的に係合することで、ダイヤル部150とドラム部151とが係合して連動する。なお、上述のような支持軸152をボルトとしておくことにより、スプリング153の弾発力を支持軸152の螺合の深度で調節することもできる。
【0136】
そこで、例えば、シース16に大動脈などを挿通させるときには、スプリング153の弾発力を強化して遠位端部15を大応力で屈曲させ、細血管などを挿通させるときにはスプリング153の弾発力を弱化して小応力で屈曲させることで、やはり挿通の作業性と細血管の保護とを両立させるようなことができる。
【0137】
さらに、図14に示すように、張力解除機構170として、所定の張力が作用したスライド操作線40の前端部分41に連通する前側部分45と後端部分43に連通する後側部分46とを少なくとも一時的に分断してもよい。
【0138】
より具体的には、張力解除機構170は、スライド操作線40の前側部分に連結されている前側磁性体171と、スライド操作線40の後側部分に連結されていて前側磁性体171と磁力により着脱自在に連結されている後側磁性体172と、を有する。
【0139】
前側磁性体171と後側磁性体172とは、例えば、ネオジム磁石などのマグネットからなり、円筒状の磁性体支持機構173でスライド自在に各々支持されて相互に着脱自在に対向されている。
【0140】
この場合、図14(a)に示すように、通常は張力解除機構170の前側磁性体171と後側磁性体172とが磁力で連結された状態で、スライド操作線40が操作される。しかし、そのスライド操作線40に所定以上の張力が作用すると、図14(b)に示すように、前側磁性体171と後側磁性体172とが分離するので、スライド操作線40の張力が解除される。
【0141】
この場合も、ダイヤル部74にクリック感が発生するので、操作者はダイヤル部74の操作が過剰となったことを自覚できる。そして、ダイヤル部74を逆転させると、張力解除機構170の前側磁性体171と後側磁性体172とが磁力で再度連結されるので、スライド操作線40を所定の張力以下で安全に操作できる状態となる。
【0142】
なお、上述の張力解除機構170では、前側磁性体171と後側磁性体172との両方が着磁されているマグネットからなることを例示したが、一方のみ着磁されたマグネットでもよい。
【0143】
さらに、前側磁性体171と後側磁性体172との両方がスライド自在に支持されていることを例示したが、一方は磁性体支持機構173に固定されていて他方のみスライド自在に支持されていてもよい。
【0144】
また、張力解除機構(図示せず)として、所定以上の張力が作用したスライド操作線40の前端部分41とシース16の遠位端部15との連結が解除されてもよい。この場合、スライド操作線40が一時的に操作不能となるが、例えば、スライド操作線40の前端部分41とシース16の遠位端部15とを手動操作で再度連結することにより、スライド操作線40を操作可能に復元することができる。
【0145】
さらに、張力解除機構(図示せず)として、所定以上の張力が作用したスライド操作線40の後端部分43と回動操作部材70との連結が解除されてもよい。この場合も、スライド操作線40が一時的に操作不能となるが、例えば、スライド操作線40の後端部分43と回動操作部材70とを手動操作で再度連結することにより、スライド操作線40を操作可能に復元することができる。
【0146】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0147】
10 カテーテル装置
15 遠位端部
16 シース
17 近位端部
20 ルーメン
21 内層
30 スライド穴
30a スライド穴
30b スライド穴
32 中空管
33 後端部
40 スライド操作線
40a スライド操作線
40b スライド操作線
41 前端部分
43 後端部分
44 後端
45 前側部分
46 後側部分
50 ブレード層
52 ワイヤ
60 外層
62 切込部
64 コート層
66 マーカー
70 回動操作部材
72 操作本体部材
74 ダイヤル部
77 ガイドローラー
77a ガイドローラー
77b ガイドローラー
77c ガイドローラー
77d ガイドローラー
78 折止管
79 操作線固定部
79a 操作線固定部
79b 操作線固定部
80 位置調整機構
81 雌ネジ部
82 雄ネジ部材
83 通孔
84 ストッパー部
86 ネジ溝
90 コネクタ
91 テーパー部
92 開口部
100 張力解除機構
110 異形孔
120 係合凸部
121 円弧孔
130 張力解除機構
131 係合凸部
140 張力解除機構
141 係合凸部
142 切り欠き
150 ダイヤル部
151 ドラム部
152 支持軸
153 スプリング
160 張力解除機構
161 凹穴
162 凸部
170 張力解除機構
171 前側磁性体
172 後側磁性体
173 磁性体支持機構
741 軸部
742 ドラム部
DE 遠位端部分
PE 近位端部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径のルーメンと少なくとも一つの偏心した小径のスライド穴とが長手方向に形成されているシースと、
前記シースの遠位端部の近傍に前端部分が連結されていて前記スライド穴にスライド自在に挿通されている少なくとも一本のスライド操作線と、
前記シースの近位端部と前記スライド穴から引き出された前記スライド操作線の後端部分とを長手方向に相対移動させる巻取操作機構と、
前記相対移動により前記スライド操作線に作用する所定以上の張力を解除する張力解除機構と、
を有するカテーテル装置。
【請求項2】
前記張力解除機構は、前記シースの遠位端部から前記スライド操作線を経由した前記巻取操作機構までの連結を少なくとも一時的に解除する請求項1に記載のカテーテル装置。
【請求項3】
前記巻取操作機構は、手動操作により回動して前記スライド操作線を巻き取ることでスライド移動させ、
前記張力解除機構は、前記巻取操作機構の回動による前記スライド操作線の巻き取りを解除する請求項2に記載のカテーテル装置。
【請求項4】
前記張力解除機構は、前記スライド操作線を巻き取る前記巻取操作機構の回動を空転させる請求項3に記載のカテーテル装置。
【請求項5】
前記巻取操作機構は、回動自在に軸支されて前記スライド操作線を巻き取る小径の操作線巻取部と、前記操作線巻取部と同軸状に軸支されて手動操作される大径の手動操作部と、を有し、
前記張力解除機構は、前記操作線巻取部と前記手動操作部とを弾発的に係合させて連動させる請求項4に記載のカテーテル装置。
【請求項6】
前記張力解除機構は、前記操作線巻取部と前記手動操作部とを連動させる応力が回転方向で相違する請求項5に記載のカテーテル装置。
【請求項7】
前記張力解除機構は、所定の張力が作用した前記スライド操作線の前記前端部分に連通する前側部分と前記後端部分に連通する後側部分とを少なくとも一時的に分断する請求項1または2に記載のカテーテル装置。
【請求項8】
前記張力解除機構は、前記スライド操作線の前記前側部分に連結されている前側磁性体と、前記スライド操作線の前記後側部分に連結されていて前記前側磁性体と磁力により着脱自在に連結されている後側磁性体と、を有する請求項7に記載のカテーテル装置。
【請求項9】
前記張力解除機構は、前記前側磁性体と前記後側磁性体との少なくとも一方をスライド自在に支持して他方と着脱自在に対向させる磁性体支持機構を有する請求項8に記載のカテーテル装置。
【請求項10】
前記張力解除機構は、前記所定以上の張力が作用した前記スライド操作線の前端部分と前記シースの遠位端部との連結を解除する請求項1または2に記載のカテーテル装置。
【請求項11】
前記張力解除機構は、前記所定以上の張力が作用した前記スライド操作線の後端部分と前記巻取操作機構との連結を解除する請求項1または2に記載のカテーテル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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