カテーテル
【課題】 膨張可能な部材(18)を備えたカテーテル(12)を有するシステムを提供する。
【解決手段】 この膨張可能な部材は、膨張したとき、通路を囲む環状体を形成する。膨張状態の膨張可能な部材はカテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って、摺動することなく転動するようになっている。このシステムは対象物を体内の部位に搬送したり、体内から対象物を回収したり、血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去したり、あるいは血管壁の患部を拡張及び/又は膨張させるのに使用することができる。
【解決手段】 この膨張可能な部材は、膨張したとき、通路を囲む環状体を形成する。膨張状態の膨張可能な部材はカテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って、摺動することなく転動するようになっている。このシステムは対象物を体内の部位に搬送したり、体内から対象物を回収したり、血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去したり、あるいは血管壁の患部を拡張及び/又は膨張させるのに使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は侵襲性医療器具に係り、特に対象物を体内に搬送し、又は体内から回収するための医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、対象物を体内に搬送し、又は体内から回収するために使用される医療器具である。カテーテル先端は生来の、又は人工の開口部を介して体内に挿入され、所望の位置に導入される。例えば、カテーテルはステントを動脈狭窄部に搬送し、展開するのに使用される。内視鏡カテーテルは胃腸内での使用のための撮像装置を搬送するのに使用される。
【0003】
Bowmanに対する米国特許5,437,638号明細書(特許文献1)には、先端に複数の膨張可能なチューブを有するマルチルーメンカテーテルが開示されている。各チューブが異なるルーメンに取着され、それにより各チューブを個々に膨らませたり、収縮させたりすることができる。これらのチューブは、最初に、その夫々のルーメン内に挿入される。狭くなった体内通路を開く手法において、チューブはその狭窄部にて膨張されることになる。これらのチューブには更に摘み面が備えられていて、適当な流体圧により操作され、体内通路内で対象物を掴み、回収するようになっている。
【0004】
Mylerらに対する米国特許5,941,895号明細書(特許文献2)には、ステントを回収するためのカテーテルが開示されている。このカテーテルは、筒体と、軸方向に移動自在なガイドワイヤーを有し、これらは、回収されるべきステントに対する係合部材を握持できるようになっている。
【0005】
Choに対する米国特許5,109,830号明細書(特許文献3)には、心臓血管系を通るカテーテルの通り抜けを容易にする先端を有するカテーテルが開示されている。この先端には、予備成形された記憶湾曲形状を有する内部部材が設けられており、この湾曲形状は、外側拘束スリーブ内から延出させた場合に採ることができるようになっている。つまり、このスリーブ内に配置されているときは、内部部材はスリーブの剛性によりまっすぐになっている。この内部部材は、血管の湾曲部又は折曲部を先端部が通り抜けるのを容易にするためにこのスリーブ内から取り出される。この内部部材は、血管のまっすぐな領域を通過させるときは、このスリーブ内に配置されることになる。
【0006】
Ibrahimに対する米国特許No.4,597,389号明細書(特許文献4)には、対象物を掴むため環状バルーンを先端に備えたカテーテルが開示されている。このカテーテルの先端を、握持されるべき対象物の部位までバルーンを収縮させた状態で搬送させる。ついで、対象物が環状バルーンの中心通路に位置するようにする。この状態で、バルーンを膨張させることにより、環状バルーンの中心通路が閉じて対象物を握持する。ついで、バルーンが体内から引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許No.5,437,638号明細書
【特許文献2】米国特許No.5,941,895号明細書
【特許文献3】米国特許No.5,109,830号明細書
【特許文献4】米国特許No.4,597,389号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カテーテルと、膨張可能な部材とを備えたシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
膨張可能な部材は、例えば、膨張可能なバルーンであってもよい。膨張状態において、この膨張可能な部材は環状のもので、その中央に中心通路を有する。この膨張可能な部材は、中心通路内にカテーテルシャフトの少なくとも一部があるとき、カテーテルシャフト上を摺動することなく転動するよう構成されている。この膨張可能な部材はカテーテルシャフト上に装着され、非膨張状態で体内部位に搬送される。ついで、この膨張可能な部材が膨張状態に拡張される。以下に詳述するように、このカテーテルは体内通路へ対象物を搬送し、又は体内通路から対象物を回収するのに使用することができる。このカテーテルは更に、疾患している血管に存在するアテローム斑壊死組織片、他の粒状物、個体、半固体物質を回収し、体内からこれらの物質を除去するのにも使用することができる。このシステムは、狭い又は湾曲している体内通路をカテーテル先端が通り抜けるのを補助するのにも使用することができる。
すなわち、本発明の第1の形態は以下の構成からなるシステムを提供するものである。すなわち、
(a)シャフトを備えたカテーテルと;
(b)膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を採り得る膨張可能な部材と;
を具備してなり;
前記カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態は、対象物を体内の或る部位に搬送する方法を提供するものである。すなわち、
(a)カテーテル上に対象物を装着する工程であって、カテーテルが、シャフトと、膨張可能な部材とを有し、膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)カテーテル上の対象物を体内部位に搬送する工程と;
(c)前記膨張可能な部材を膨張状態にし、この膨張可能な部材を1又はそれ以上の体内構造物を押圧させる工程と;
(d)前記シャフトを前方に移動させ、膨張可能な部材を、摺動させることなく、該シャフト上を後方の転動させる工程と;
を具備してなる方法である。
【0011】
本発明の第3の形態は、対象物を体内部位から回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)体内部位にカテーテルを搬送する工程であって、このカテーテルが;
(aa)シャフトと;
(ab)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;適宜、更に、
(ac)膨張可能な部材を、シャフト上を前方に転動させる押圧機構と;
を具備してなり;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、前方に転動させ、対象物を前記中心通路内に捕らえる工程と;
(d)前記カテーテルを体内から取り出す工程と;
を具備してなる方法である。
【0012】
本発明の第4の形態は、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を血管から回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、後方、前方又は双方に転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
(e)前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0013】
本発明の第5の形態は、血管の疾患部位を拡大及び/又は膨張させ、該血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位より遠位の部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、基端、先端又はその双方に向けて転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえ、圧迫又は転動機構により血管を拡大させる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
(e)前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0014】
本発明の第6の形態は、血管の疾患部位を拡大及び/又は膨張させ、該血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位より近位の部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、基端、先端又はその双方に向けて転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえ、圧迫又は転動機構により血管を拡大させる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0015】
本発明の第7の形態は、外表面にスリーブを設けたバルーンを提供するものであり、この場合、このスリーブの内側壁面の一部が、このバルーンの外表面に対し1又はそれ以上の接合点で取着され、該スリーブと、このバルーンの外表面の少なくとも一部との間に環状空間を、該接合点の少なくとも一側に形成させている。
本発明の理解、並びにそれが、どのように実施されるのかについての理解のため、好ましい実施例について添付図面を参照して記載するが、これらの実施例は本発明の制限を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1実施例に係るシステムを示す側面図。
【図2】バルーンを膨張させた後の状態を示す図1のシステムの側面図。
【図3】図1のシステムを使用して対象物を体内通路に搬送する状態を示す断面図。
【図4】本発明の他の実施例に係るシステムであって、カテーテルが押し込み機構を備えた例を示す側面図。
【図5】バルーンを膨張させた後の状態を示す図4のシステムの側面図。
【図6】体内部位から対象物を回収する場合の図4のカテーテルの使用を示す断面図。
【図7】バルーンのカテーテルシャフトへの取付けの2つの異なるモード:すなわち、点接合(aで示す)と、周面接合(bで示す)とを示す側面図。
【図8】カテーテルシャフトに組み込まれる3つの異なるタイプの保持部材:すなわち、図8の(a)収集カップ;(b)溝;(c)突起を示す側面図。
【図9】バルーンの位置との関連におけるカテーテルシャフト上の保持部材の位置についての3つの異なる構成:すなわち、図9の(a)バルーンに対し遠位;図9の(b)バルーンに対し近位;図9の(c)バルーンに対し遠位および近位のものを示す側面図。
【図10】バルーンへの保持スリーブの取着についての3つの可能性:すなわち、図10の(a)基端での接合;図10の(b)先端での接合;図10の(c)中間点での接合のものを示す断面図。
【図11】膨張可能なステントをバルーン外表面に装着した本発明のカテーテルシステムの具体例を示す断面図であって、図11のAはバルーンおよびステントの双方が非膨張状態にあるカテーテルシステムを示すもの;図11のBはバルーンおよびステントの双方を膨張させたカテーテルシステムを示すもの;図11のCはカテーテルを基端方向に短距離移動させ、バルーンがカテーテルを越えて先端方向に転動させた状態のカテーテルシステムを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の1実施例に係るカテーテル10である。このカテーテル10はその基端14から先端16に延出する円筒状シャフト12を有する。この円筒状シャフト12は図1に示すような単一のルーメン(管腔:lumen)13を有するもの、あるいは2又はそれ以上のルーメンを有するもの(図示しない)であってもよい。本発明において、この先端16には膨張可能な部材18が設けられている。この膨張可能な部材18は図1に示すように膨張可能なバルーン18であってもよい。これは単なる例示に過ぎず、本発明では他のタイプの膨張可能な部材も当然、考慮されている。例えば、この膨張可能な部材は、拘束スリーブにより圧縮状態に維持される圧縮自在な弾性部材であってもよい。この弾性部材は、この拘束スリーブから外されたとき、その膨張状態を採ることができるものである。その他、この膨張可能な部材は、回収コイル、自己膨張性部材、形状記憶物質から形成された部材、又はその他の手段であってもよい。図1に示すバルーン18は収縮した状態にある。この状態において、このバルーン18は、内側層20と、外側層21とから形成された円筒状シェルとなっている。これら内側層20および外側層21は、生物学的適合性可撓性の液体不透過性材料から作られている。侵襲性医療器具に使用されるバルーンの製造のための材料は公知であり、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテンなど)、ポリエステル(マイラーなど)、ポリウレタン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアミン、ポリビニール(可撓性ポリビニルクロリド、PVAなど)、液晶ポリマー、スチレン系ポリマー(ABS)、その他のポリマー、例えば、シリコーン、ラテックス、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ピーク(Peek)などを使用することができる。その他、適当な生体力学的特性を有するものであれば、上述の材料又は他の材料とのコポリマー、ブレンドポリマー、変形態(例えば、放射線、架橋、化学処理により変性したもの)を使用することもできる。
【0018】
これら内側層20および外側層21は互いに連続したものである。例えば、これら内側層20および外側層21を円形継ぎ目22で互いに溶接したものでもよい。従って、このバルーンは環状ルーメン24を有する。このルーメン24はバルーン18が図1に示すような収縮状態のときは潰れている。このルーメン24は、前記カテーテルシャフト壁面の開口部26および内側層20の重層開口部28を介してカテーテルシャフトのルーメンと連通している。
【0019】
環状ルーメン(上述したような)を有するバルーンは、その内側周面の1又はそれ以上の箇所を介してカテーテルシャフトに取着されている。これらの接合点の1又はそれ以上においてバルーンに開口部が形成されていて、この開口部はシャフト壁面中の同様の大きさ、形状の開口部と重なるようにして配置されていて、それによりカテーテルシャフトのルーメンと、バルーンの内部空間との間での膨張用媒体の流通を可能にしている。この接合点の数について特に制限はなく、これら接合点は適当に、又は適宜配列させることができる。例えば(特に制限するものではないが)、長手方向に、周方向に、螺旋状に、又は他の配列で配置させることができる。
【0020】
本発明の好ましい1実施例(図7aに示す)においては、内側層20はカテーテルシャフト12の外側表面に対し2つの別々の接合領域64,66にて取着されている。本発明の他の実施例(図7bに示す)においては、内側層20はカテーテルシャフト12に対し、カテーテル開口部26およびバルーン開口部28を囲むようにして、その周方向の単一の環状バンド32を介して接合されている。特に好ましい実施例においては、バルーンの内側層20はカテーテルシャフトに対し、シャフト開口部26の周辺にできるだけ近づけて取着される(図7aおよび図7bに示す2つの前記実施例で記載した2つの別々の領域又は単一の環状バンドのいずれにおいても)。このようにすることにより、図7aに示す実施例の場合、接合領域64の先端側と、接合領域66の基端側との距離がシャフト開口部26の直径に近いものとなる。環状バンドによる接合を用いた場合(図7bに示す)の特に好ましい実施例の場合、この環状バンドの幅(すなわち、その基端縁と、先端縁との間の距離)は、バルーンが転動することができるカテーテルシャフトの長さを最大にするために可能な限り小さく保持されている。特定の取着形状に関係なく、その接合部位でのカテーテルシャフトに対するバルーンの接合は、適当な生物学的適合性の接着剤、加熱溶接、超音波溶接又は機械的手段により達成することができる。
【0021】
再び図1を参照すると、バルーン18は、圧縮空気、二酸化炭素、コントラスト媒体(contrast media)又は水などの流体をカテーテルシャフトのルーメン13を介して供給源30からバルーン18のルーメンに導入することにより膨張させることができる。
【0022】
図2はバルーン18を膨張させた状態を示している。バルーン18は、カテーテルシャフト12により少なくとも部分的に占められている中心通路25を囲んでいる。バルーンの壁面がカテーテルシャフトに対し、継ぎ目32部分だけで接合されているから、バルーンは、最も後方に延出した図2aに示す第1の位置と、最も前方に延出した図2bに示す第2の位置との間を、シャフトに沿って移動することができる。図2に示す2つの位置間のバルーンの動きは、バルーン18が摺動することなくシャフト12上を転動することにより生じるものであり、それによりバルーン18の外側表面21は内側表面20を通り越すことになる。
【0023】
本願発明の1実施例として、バルーン18をカテーテルシャフト12の先端に近づけて取着させてもよい。それにより、このバルーンを、カテーテルシャフト上を先端方向に転動させたとき、このバルーンは最先端を占めることになり、その少なくとも一部がこのカテーテルシャフトの先端を越えて延出することになる。しかし、より好ましい実施例として、バルーン18の如何なる部分も転動時においてカテーテルシャフト12の先端を越えて延出することがないようにバルーン18をカテーテルシャフトの部位に取着させるようにする。言い換えれば、このより好ましい実施例において、カテーテルシャフトの長さが常にバルーンの先端周縁部を越えて延出するようにバルーンとカテーテルとを相対的に配置する。この配置は、“オーバー・ザ・ワイヤー(over the wire)”法により患者の脈管内に、ここに開示した本発明のシステムを挿入しようとする場合に特に好ましい。更に、或るバルーンの材料および構成によっては、図1に示す末端バルーン位置の場合、カテーテルの先端を越えて延出するバルーンの部分が潰れることになり、バルーンのこの領域により捕捉された対象物、壊死組織片、他の物質又は独立体を放出することになる。従って、ここに記載したより好ましい実施例(バルーンをより中央位置に配置させるもの)は、バルーンの構成および材料の選択に依存するものである。このより好ましい実施例におけるバルーンの位置が図7および9に模式的に示されている。
【0024】
上述のように、本発明のカテーテルシステムは、1つの操作モードにおいて、疾患している血管に存在するアテローム斑壊死組織片、他の粒状物、個体、半固体物質を回収し、体内からこれらの物質を除去するのにも使用することができる。更に、この操作モードの変形例(以下に記載する)として、本発明のカテーテルシステムを、このプロセスにより放出されたあらゆる斑壊死組織片を安全に回収することに加えて、血管壁の疾患部位(例えば、アテローム斑が蓄積した血管内壁の領域において)を拡大及び/又は拡張するのに使用することもできる。このような壊死組織片(並びに、実際にカテーテルバルーンの領域に存在する他の全ての粒状又は半固体物質)は、バルーン壁面と、カテーテルシャフトとの間の空間内に‘捕捉’されることにより回収される。バルーンの先端部分の下に捕捉された壊死組織片の場合、カテーテルの基端方向の動きの間において注射器のような吸引作用(すなわち、基端方向に移動する膨張バルーンの先端側の血管内の減圧領域の形成による)により壊死組織片が所定位置にて保持される。反対に、バルーンの基端部分の下に捕捉された壊死組織片の場合、動脈血流により働く先端方向の流体力学的力により、カテーテルの動きの間に壊死組織片が所定位置にて保持される。壊死組織片がバルーンのどちらの端部に捕捉されたかに関係なく、この捕捉プロセスはバルーン(又は、他の膨張可能な部材)を収縮させることにより完了する。その結果、壊死組織片がバルーンと、カテーテルシャフトとの間に確実に保持され、脈管を介してのカテーテルシステムの安全な引抜き、体内からのこのシステムの除去を可能にする。
【0025】
本発明のシステムの他の特に好ましい実施例において、カテーテルシャフトは更に、アテローム斑壊死組織片および他の個体、半固体粒状物又は凝縮物をカテーテルシャフト表面に保持させるのに役立つ表面構造を有する。これらの保持部材により、膨張したバルーンとカテーテルシャフトとの間の環状空間に捕捉された壊死組織片を保持させ、その後、カテーテルの引抜き時に体内から除去することができる。図8は、特に限定されるものではないが、保持部材についての3つの可能な形態を示している。第1に(図8a)、この保持部材は収集カップ68の形のもので、カテーテルシャフトを囲むようにしている。これらの手段により、バルーンにより捕捉された如何なる壊死組織片をも、このカップの凹状内表面により保持することができ、これはバルーンがカテーテルシャフトのこれらカップを有する領域から離れて転動した後及び/又はバルーンが収縮した後でも同様に保持される。図8bに示す他の実施例において、この保持部材は一連の溝70からなる形のものからなる。この溝70は任意の形状および輪郭のもの、例えばカテーテルシャフトに対し、半径方向又は軸方向に延びたもの、又はカテーテルシャフトに対し任意の角度をなすものであってもよい。その他、図8cに示すように、この保持部材は一連の突起が配列したもので、各隣接する一対の突起74間に壊死組織片保持環状溝又は凹み72を形成したものであってもよい。この突起74は任意の形状および輪郭のもの、例えばカテーテルシャフトに対し、半径方向又は軸方向に延びたもの、又はカテーテルシャフトに対し任意の角度をなすものであってもよい。その他、この保持部材は上述の溝および突起の任意の組み合わせからなるものであってもよい。これらの保持部材はカテーテルシャフト12の表面の、バルーン18の先端側(図9a)、バルーン18の基端側(図9b)、又はバルーン18の両側(図9c)に配置させることができる。これら保持部材の上記3つの例は、限定的なものとして理解されるべきではない。つまり、任意の適当な保持部材をカテーテルシャフトの壁面に適宜形成することができ、それらは特許請求の範囲に記載したカテーテルシステムによる壊死組織片の保持を増大させるため付加的に使用することができる。
【0026】
本発明の更なる特に好ましい実施例として、ここに開示し、特許請求の範囲に記載したカテーテルシステムは更に、壊死組織片(更に、上述のように、他の粒状物質)の収集を助けるため、並びに体内からカテーテルを取り出す前又は取り出す間において壊死組織片の貯蔵のための保持スリーブを有する。この壊死組織片は、このスリーブと、バルーンに囲まれていないカテーテルシャフトの部分との間の空間に収集、貯蔵される。このようにして、このスリーブは壊死組織片の捕捉能に関してのバルーンの‘延長’として機能する。更に(その他)、壊死組織片はこのスリーブの少なくとも一部と、バルーンとの間に捕捉、貯蔵することができる。バルーンの外表面に取着されたスリーブは、一実施例において、前記バルーンの全長の僅か一部のみを覆うことができる。その他、このスリーブはバルーンの長さと同じ長さであって、このバルーンを正確に重なり覆うように配置させてもよい。更なる変形例として、このスリーブはバルーンの長さよりも長く、それにより、バルーンを完全に覆うものであってもよい。このスリーブはバルーンの任意の外側表面部位に対し、1又はそれ以上の離した接合点で取着させることができ、それによりこの接合点の少なくとも一側における該スリーブとカテーテルシャフトとの間に環状空間が形成されるようにする。更に、又は適宜、同様の環状空間を、該スリーブ接合点の少なくとも一側における該スリーブとバルーンの外側表面との間に同様の環状空間が形成されるようにする。このスリーブは、その表面の任意の部位を介して、バルーンに対し、1又はそれ以上の離した接合点で取着させることができる。
【0027】
スリーブ78の接合点76は、図10に示すように、バルーン18の基端に近づけて配置させること(図10a)、あるいはバルーン18の先端に近づけて配置させること(図10b)、あるいはバルーン18の中間点、又はその近傍に配置させること(図10c)ができる。スリーブの一端をバルーンに取着させると共に、他端を適宜、バルーンに対し先端の、又は基端のシャフト部分に、少なくとも1つのスリーブの延長部、又は別の固定具(例えば、特に制限されないが、任意の材料、金属、ポリマーなどから作られた任意の適当な形状のフック又はバスケット)を用いて取着させてもよい。どのような特定の取着手段を使用するか否かに関係なく、取着手段のカテーテルシャフトへの接合は、適当な生物学的適合性の接着剤、加熱溶接、超音波溶接又は機械的手段により達成することができる。このスリーブは任意の形状のもの、例えば、特に制限されないが、円筒状、半円筒状、円錐状、裁頭円錐状、ウェブ状などであってもよい。このスリーブは、適当な生体力学的特性を有するものであれば、任意の適当な生物学的適合性の金属、ポリマー、他の有機質材料などから構築することができる。適当なポリマーの例としては、バルーンの製造で使用される前述のようなポリマーを挙げることができる。
【0028】
図3は、例えば対象物42を小さな血管40内へ搬送するため、カテーテル先端をこの血管内に挿入する例を示している。この対象物42は、例えば、図3に示すようなステントであってもよい。他の実施例として、この対象物42は体内の部位に搬送される作業ツールであってもよい。この作業ツールは、狭窄症に対する作業のためのツール、例えば、ドリル、ダガー(ブレード)、プローブ、近距離放射線療法のための放射性線源などであってもよい。更に、この作業ツールは、ライトガイド、光源、無線周波数電極、又は超音波プローブであってもよい。このカテーテルを体内に挿入する前に、対象物42をカテーテルの先端に装着する。図3aに示すように、カテーテル先端はバルーン18を収縮させた状態で、動脈44を介して血管40のオリフィス34に移送される。ついで、バルーン18を膨張させるが、膨張したバルーン18が依然としてその最初の基端方向の位置、つまり、図3bに示すように、その先端がカテーテルシャフト12の先端近傍に存在する位置にあるようにする。この膨張したバルーン18は血管44の壁面を押圧している。図3cに示すように、カテーテル先端をついで、狭い血管40内を先端方向に前進させる。このカテーテル先端を、血管44内を前進させると、バルーン18も同じく血管44内を前進する。従って、バルーン18はカテーテルシャフトに沿って、更に血管44の壁面に沿って転動する。このバルーン18の血管44内での速度はカテーテルシャフトの速度のほぼ半分である。バルーン18が血管44内を、カテーテルシャフト12よりも遅い速度で前進するから、図3cに示すように、バルーン18はカテーテルシャフト12に沿って後方に動き、かつ、シャフト上をバルーン18の第2の位置に向けて移動することになる。血管40内でのカテーテル先端の更なる前方方向への前進により、バルーンが前記シャフトに沿って後方に更に移動し、これは、ステントを支持したカテーテル先端がバルーンを越えるようにして完全に延出し、ステントが血管40内に配置されるまで継続される。バルーンの外側表面と、血管の内壁面との間に高いレベルの摩擦があるから、バルーンの外側表面は血管の内壁面上を摺動することがなく、従って、血管内壁面への損傷は生じない。対象物がステントの場合、ついで血管40内にて、公知の任意のステント展開用機構(図示しない)を用いて展開することができる。ステントの展開後、バルーン18を収縮させ、ついでカテーテルが体内から引き出される。
【0029】
図11Aは本発明の更なる好ましい実施例を示すものであり、この場合、膨張性ステント42が、治療部位へのカテーテルシステムの移送前に収縮させたバルーン18上に装着されている。この実施例は、単一のカテーテルシステムを使用して血管(例えば、冠状動脈)の疾患部を拡張すること、および拡張プロセスの結果として放出された(あるいは、何らかの理由により治療領域に存在する)壊死組織片を安全に回収することの双方を行うことを欲する場合に特に有用である。同じ実施例で、バルーン18の膨張およびステント42の拡張後の状態が図11Bに示されている。このプロセスの後、このステントおよび、ステントで覆われていないバルーンの領域の双方が血管44の内壁面と接触することになる。この段階において、バルーンが血管壁に沿って転動するよう処理され(前述のように)、それによりステント配置プロセスの間にバルーンと、カテーテルシャフト12との間に放出された壊死組織片を捕捉する。このバルーン18の動きの1例が図11Cに示されている。ここに、カテーテルシャフト12が基端方向に短距離、移動し、バルーン18が先端方向(カテーテルシャフトとの関係で)に転動した後のバルーン18の状態が示されている。その他、バルーンはもちろん、基端方向に転動させたり、あるいは、他の好ましいモードにおいて、バルーンを基端方向および先端方向に交互に転動させ、壊死組織片の収集および捕捉を増大させるようにすることもできる。この実施例においても、バルーンに、上述のように保持スリーブを装着させることもできる。これに加えて、又はこれとは別に、この実施例で使用したカテーテルシャフトに前述のような保持面を備えさせることもできる。
【0030】
図4は本発明の他の実施例に係るカテーテル60を示している。このカテーテル60は、図1および図2のカテーテル10と共通する幾つかの部材を有する。従って、カテーテル10とカテーテル60で同様の部材には同じ参照番号を付し、更なるコメント又は説明を省略する。このカテーテル60は押し込み機構を有し、これはバルーンを、図5aに示す第1の位置から図5bに示す第2の位置へ向けて付勢させるのに使用される。この押し込み機構は、円筒状可撓性カバー56を有し、これはカテーテルシャフト12の少なくとも一部を覆っている。この可撓性カバー56の先端は環状の押し込みプレート57に取着されている。この可撓性カバー56および押し込みプレート57はカテーテルシャフト12に沿って摺動自在となっている。バルーン18が図5aに示す第1の位置にあるとき、カバー56の基端を掴み、このシャフト上を先端方向に押し込み、拡大させたバルーン18を、その第1の位置から図5bに示す第2の位置へ向けて移動させる。
【0031】
図6は、体内通路52から対象物50を回収するためのカテーテル10の使用を示している。この対象物50は、例えば、体内から除去されるべきステントであってもよい。他の実施例において、この対象物50は体内から除去されるべき望ましくない壊死組織片であってもよい。図6aに示すように、カテーテルシャフト12の先端を、バルーン18を収縮させ、第1の位置にある状態で通路52内に前進させる。この前進は、カテーテル先端がバルーンを収縮させた状態で対象物50近傍に来るまで行われる。ついで、バルーン18を、その第1の位置のままで、膨張させる(図6b)。この第1の位置において、バルーン18の先端は、カテーテルの先端に近接している。ついで、バルーン18を、上述のように押し込み機構を用いて、その第2の位置へ向けて付勢させる(図6c)。バルーン18がカテーテル先端上を先端方向に転動すると、対象物50がバルーン18のルーメン54内に入り込み、バルーン18により握持される(図6c)。バルーン18は、それが図6dに示すように対象物50を完全に包み込むまでカテーテル先端上を転動し続ける。ついで、このバルーン18は収縮され、カテーテルが対象物50と共に体内から取り出される。
【0032】
上述の使用モードに加えて、本発明は、ここに記載するように、アテローム斑物質を除去すること、およびアテローム斑物質の血流への医原性放出を防止することの二重の目的のための逆行バルーン操作を行うのにも使用することができる。まず最初に、血管形成術が、バルーンカテーテルを所望の処置部位に導入し、バルーンを拡大させ、十分に加圧させ、動脈壁の拡張を生じさせ、それにより、先にブロックされ、又は部分的にブロックされていた動脈ルーメンを拡大、開口させることにより行われることを留意すべきである。しかし、このような手法は、或る病状の場合には旨く適応させることができない。例えば、傷つき易い斑が破裂し易い非常に薄いキャップ(cap)を伴って存在し、脂質コアおよびアテローム斑物質を下流側に血流に向けて放出させることがある。これは多くの場合、後の末端塞栓形成および血栓症につながることがある。更に、このような斑にステントを配置することは、ステントのメッシュを介して脂質コアおよびアテローム斑物質の脱出を誘起させことがあり、塞栓形成および血栓症による罹患率および死亡率を増大させることになる。
【0033】
しかし、本発明のカテーテルシステムは、新規な物理療法の使用を可能にする。この場合、オペレータは非膨張バルーンを、治療すべき患部の遠位に導入する。ついで、バルーンを拡張(膨張)させ、カテーテルシャフトを基端方向に静かに引っ張ることにより、バルーンを後退、転動、タンクトラック様動きを以って基端方向に移動させる。この物理療法において、動脈患部が基端肩部まで圧迫され、脂質コアおよびアテローム斑物質を膨張バルーンの基端側の血流中に放出させる。この手法の最終段階において、オペレータがカテーテルシャフトを静かに押すと(すなわち、先端方向に)、カテーテルシャフトに沿ってのバルーンの前方への転動、タンクトラック様動きを生じさせ、それにより脂質コアおよびアテローム斑物質をカテーテルシャフトと、バルーンとの間(又は、もし存在する場合は、上述のような保持スリーブと、バルーンとの間、又はシャフト保持部材内)に捕捉することができる。ついで、オペレータはバルーンを収縮させ、収集された物質の完全な捕捉を確実にする。上述の方法は反対方向でも適用することができる。すなわち、バルーンを患部の基端側にて膨張させ、ついでバルーンを先端方向に転動させる。このように、本発明のシステムをここに記載したように使用することにより、末端塞栓形成の危険性を抑制しつつ壊死組織片の最大の収集を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0034】
10:カテーテル,12:円筒状シャフト,13:ルーメン,16:先端,18:膨張可能な部材,20:内側層,21:外側層,22:円形継ぎ目,24:環状ルーメン,25:中心通路,26:開口部,28:重層開口部,32:環状バンド,40:血管,42:対象物,44:動脈,50:対象物,52:体内通路,56:可撓性カバー,64,66:接合領域,68:収集カップ,70:溝,74:突起,76:接合点,78:スリーブ
【技術分野】
【0001】
本発明は侵襲性医療器具に係り、特に対象物を体内に搬送し、又は体内から回収するための医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、対象物を体内に搬送し、又は体内から回収するために使用される医療器具である。カテーテル先端は生来の、又は人工の開口部を介して体内に挿入され、所望の位置に導入される。例えば、カテーテルはステントを動脈狭窄部に搬送し、展開するのに使用される。内視鏡カテーテルは胃腸内での使用のための撮像装置を搬送するのに使用される。
【0003】
Bowmanに対する米国特許5,437,638号明細書(特許文献1)には、先端に複数の膨張可能なチューブを有するマルチルーメンカテーテルが開示されている。各チューブが異なるルーメンに取着され、それにより各チューブを個々に膨らませたり、収縮させたりすることができる。これらのチューブは、最初に、その夫々のルーメン内に挿入される。狭くなった体内通路を開く手法において、チューブはその狭窄部にて膨張されることになる。これらのチューブには更に摘み面が備えられていて、適当な流体圧により操作され、体内通路内で対象物を掴み、回収するようになっている。
【0004】
Mylerらに対する米国特許5,941,895号明細書(特許文献2)には、ステントを回収するためのカテーテルが開示されている。このカテーテルは、筒体と、軸方向に移動自在なガイドワイヤーを有し、これらは、回収されるべきステントに対する係合部材を握持できるようになっている。
【0005】
Choに対する米国特許5,109,830号明細書(特許文献3)には、心臓血管系を通るカテーテルの通り抜けを容易にする先端を有するカテーテルが開示されている。この先端には、予備成形された記憶湾曲形状を有する内部部材が設けられており、この湾曲形状は、外側拘束スリーブ内から延出させた場合に採ることができるようになっている。つまり、このスリーブ内に配置されているときは、内部部材はスリーブの剛性によりまっすぐになっている。この内部部材は、血管の湾曲部又は折曲部を先端部が通り抜けるのを容易にするためにこのスリーブ内から取り出される。この内部部材は、血管のまっすぐな領域を通過させるときは、このスリーブ内に配置されることになる。
【0006】
Ibrahimに対する米国特許No.4,597,389号明細書(特許文献4)には、対象物を掴むため環状バルーンを先端に備えたカテーテルが開示されている。このカテーテルの先端を、握持されるべき対象物の部位までバルーンを収縮させた状態で搬送させる。ついで、対象物が環状バルーンの中心通路に位置するようにする。この状態で、バルーンを膨張させることにより、環状バルーンの中心通路が閉じて対象物を握持する。ついで、バルーンが体内から引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許No.5,437,638号明細書
【特許文献2】米国特許No.5,941,895号明細書
【特許文献3】米国特許No.5,109,830号明細書
【特許文献4】米国特許No.4,597,389号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カテーテルと、膨張可能な部材とを備えたシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
膨張可能な部材は、例えば、膨張可能なバルーンであってもよい。膨張状態において、この膨張可能な部材は環状のもので、その中央に中心通路を有する。この膨張可能な部材は、中心通路内にカテーテルシャフトの少なくとも一部があるとき、カテーテルシャフト上を摺動することなく転動するよう構成されている。この膨張可能な部材はカテーテルシャフト上に装着され、非膨張状態で体内部位に搬送される。ついで、この膨張可能な部材が膨張状態に拡張される。以下に詳述するように、このカテーテルは体内通路へ対象物を搬送し、又は体内通路から対象物を回収するのに使用することができる。このカテーテルは更に、疾患している血管に存在するアテローム斑壊死組織片、他の粒状物、個体、半固体物質を回収し、体内からこれらの物質を除去するのにも使用することができる。このシステムは、狭い又は湾曲している体内通路をカテーテル先端が通り抜けるのを補助するのにも使用することができる。
すなわち、本発明の第1の形態は以下の構成からなるシステムを提供するものである。すなわち、
(a)シャフトを備えたカテーテルと;
(b)膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を採り得る膨張可能な部材と;
を具備してなり;
前記カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態は、対象物を体内の或る部位に搬送する方法を提供するものである。すなわち、
(a)カテーテル上に対象物を装着する工程であって、カテーテルが、シャフトと、膨張可能な部材とを有し、膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)カテーテル上の対象物を体内部位に搬送する工程と;
(c)前記膨張可能な部材を膨張状態にし、この膨張可能な部材を1又はそれ以上の体内構造物を押圧させる工程と;
(d)前記シャフトを前方に移動させ、膨張可能な部材を、摺動させることなく、該シャフト上を後方の転動させる工程と;
を具備してなる方法である。
【0011】
本発明の第3の形態は、対象物を体内部位から回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)体内部位にカテーテルを搬送する工程であって、このカテーテルが;
(aa)シャフトと;
(ab)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;適宜、更に、
(ac)膨張可能な部材を、シャフト上を前方に転動させる押圧機構と;
を具備してなり;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、前方に転動させ、対象物を前記中心通路内に捕らえる工程と;
(d)前記カテーテルを体内から取り出す工程と;
を具備してなる方法である。
【0012】
本発明の第4の形態は、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を血管から回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、後方、前方又は双方に転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
(e)前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0013】
本発明の第5の形態は、血管の疾患部位を拡大及び/又は膨張させ、該血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位より遠位の部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、基端、先端又はその双方に向けて転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえ、圧迫又は転動機構により血管を拡大させる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
(e)前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0014】
本発明の第6の形態は、血管の疾患部位を拡大及び/又は膨張させ、該血管から壊死組織片及び/又は他の粒状物質を回収する方法を提供するものである。すなわち、
(a)血管の疾患部位より近位の部位に、抹消管脈構造を介してカテーテルシステムを搬送する工程であって、このカテーテルシステムが;
i)シャフトと;
ii)膨張可能な部材であって、該膨張可能な部材が、膨張状態を有しかつ該膨張状態において中心に通路を形成する環状形状を有し、カテーテルおよび膨張可能な部材が、中心通路内にカテーテルシャフトの一部があるとき、カテーテルシャフトの少なくとも一部に沿って膨張状態の膨張可能な部材が摺動することなく転動するよう構成されているものと;
(b)膨張可能な部材を膨張状態にする工程と;
(c)膨張状態の膨張可能な部材を、対象物を越えて転動するように、基端、先端又はその双方に向けて転動させ、壊死組織片及び/又は他の粒状物質を前記中心通路内に捕らえ、圧迫又は転動機構により血管を拡大させる工程と;
(d)前記膨張可能な部材を収縮させ、それにより壊死組織片及び/又は他の粒状物質を、収縮させた膨張可能な部材と、前記カテーテルシャフトとの間に捕捉する工程と;
前記カテーテルシステムを、前記管脈構造を介して引き出すことにより、前記カテーテルシステムと共に壊死組織片及び/又は他の粒状物質を除去する工程と;
を具備してなる方法である。
【0015】
本発明の第7の形態は、外表面にスリーブを設けたバルーンを提供するものであり、この場合、このスリーブの内側壁面の一部が、このバルーンの外表面に対し1又はそれ以上の接合点で取着され、該スリーブと、このバルーンの外表面の少なくとも一部との間に環状空間を、該接合点の少なくとも一側に形成させている。
本発明の理解、並びにそれが、どのように実施されるのかについての理解のため、好ましい実施例について添付図面を参照して記載するが、これらの実施例は本発明の制限を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1実施例に係るシステムを示す側面図。
【図2】バルーンを膨張させた後の状態を示す図1のシステムの側面図。
【図3】図1のシステムを使用して対象物を体内通路に搬送する状態を示す断面図。
【図4】本発明の他の実施例に係るシステムであって、カテーテルが押し込み機構を備えた例を示す側面図。
【図5】バルーンを膨張させた後の状態を示す図4のシステムの側面図。
【図6】体内部位から対象物を回収する場合の図4のカテーテルの使用を示す断面図。
【図7】バルーンのカテーテルシャフトへの取付けの2つの異なるモード:すなわち、点接合(aで示す)と、周面接合(bで示す)とを示す側面図。
【図8】カテーテルシャフトに組み込まれる3つの異なるタイプの保持部材:すなわち、図8の(a)収集カップ;(b)溝;(c)突起を示す側面図。
【図9】バルーンの位置との関連におけるカテーテルシャフト上の保持部材の位置についての3つの異なる構成:すなわち、図9の(a)バルーンに対し遠位;図9の(b)バルーンに対し近位;図9の(c)バルーンに対し遠位および近位のものを示す側面図。
【図10】バルーンへの保持スリーブの取着についての3つの可能性:すなわち、図10の(a)基端での接合;図10の(b)先端での接合;図10の(c)中間点での接合のものを示す断面図。
【図11】膨張可能なステントをバルーン外表面に装着した本発明のカテーテルシステムの具体例を示す断面図であって、図11のAはバルーンおよびステントの双方が非膨張状態にあるカテーテルシステムを示すもの;図11のBはバルーンおよびステントの双方を膨張させたカテーテルシステムを示すもの;図11のCはカテーテルを基端方向に短距離移動させ、バルーンがカテーテルを越えて先端方向に転動させた状態のカテーテルシステムを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の1実施例に係るカテーテル10である。このカテーテル10はその基端14から先端16に延出する円筒状シャフト12を有する。この円筒状シャフト12は図1に示すような単一のルーメン(管腔:lumen)13を有するもの、あるいは2又はそれ以上のルーメンを有するもの(図示しない)であってもよい。本発明において、この先端16には膨張可能な部材18が設けられている。この膨張可能な部材18は図1に示すように膨張可能なバルーン18であってもよい。これは単なる例示に過ぎず、本発明では他のタイプの膨張可能な部材も当然、考慮されている。例えば、この膨張可能な部材は、拘束スリーブにより圧縮状態に維持される圧縮自在な弾性部材であってもよい。この弾性部材は、この拘束スリーブから外されたとき、その膨張状態を採ることができるものである。その他、この膨張可能な部材は、回収コイル、自己膨張性部材、形状記憶物質から形成された部材、又はその他の手段であってもよい。図1に示すバルーン18は収縮した状態にある。この状態において、このバルーン18は、内側層20と、外側層21とから形成された円筒状シェルとなっている。これら内側層20および外側層21は、生物学的適合性可撓性の液体不透過性材料から作られている。侵襲性医療器具に使用されるバルーンの製造のための材料は公知であり、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテンなど)、ポリエステル(マイラーなど)、ポリウレタン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアミン、ポリビニール(可撓性ポリビニルクロリド、PVAなど)、液晶ポリマー、スチレン系ポリマー(ABS)、その他のポリマー、例えば、シリコーン、ラテックス、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ピーク(Peek)などを使用することができる。その他、適当な生体力学的特性を有するものであれば、上述の材料又は他の材料とのコポリマー、ブレンドポリマー、変形態(例えば、放射線、架橋、化学処理により変性したもの)を使用することもできる。
【0018】
これら内側層20および外側層21は互いに連続したものである。例えば、これら内側層20および外側層21を円形継ぎ目22で互いに溶接したものでもよい。従って、このバルーンは環状ルーメン24を有する。このルーメン24はバルーン18が図1に示すような収縮状態のときは潰れている。このルーメン24は、前記カテーテルシャフト壁面の開口部26および内側層20の重層開口部28を介してカテーテルシャフトのルーメンと連通している。
【0019】
環状ルーメン(上述したような)を有するバルーンは、その内側周面の1又はそれ以上の箇所を介してカテーテルシャフトに取着されている。これらの接合点の1又はそれ以上においてバルーンに開口部が形成されていて、この開口部はシャフト壁面中の同様の大きさ、形状の開口部と重なるようにして配置されていて、それによりカテーテルシャフトのルーメンと、バルーンの内部空間との間での膨張用媒体の流通を可能にしている。この接合点の数について特に制限はなく、これら接合点は適当に、又は適宜配列させることができる。例えば(特に制限するものではないが)、長手方向に、周方向に、螺旋状に、又は他の配列で配置させることができる。
【0020】
本発明の好ましい1実施例(図7aに示す)においては、内側層20はカテーテルシャフト12の外側表面に対し2つの別々の接合領域64,66にて取着されている。本発明の他の実施例(図7bに示す)においては、内側層20はカテーテルシャフト12に対し、カテーテル開口部26およびバルーン開口部28を囲むようにして、その周方向の単一の環状バンド32を介して接合されている。特に好ましい実施例においては、バルーンの内側層20はカテーテルシャフトに対し、シャフト開口部26の周辺にできるだけ近づけて取着される(図7aおよび図7bに示す2つの前記実施例で記載した2つの別々の領域又は単一の環状バンドのいずれにおいても)。このようにすることにより、図7aに示す実施例の場合、接合領域64の先端側と、接合領域66の基端側との距離がシャフト開口部26の直径に近いものとなる。環状バンドによる接合を用いた場合(図7bに示す)の特に好ましい実施例の場合、この環状バンドの幅(すなわち、その基端縁と、先端縁との間の距離)は、バルーンが転動することができるカテーテルシャフトの長さを最大にするために可能な限り小さく保持されている。特定の取着形状に関係なく、その接合部位でのカテーテルシャフトに対するバルーンの接合は、適当な生物学的適合性の接着剤、加熱溶接、超音波溶接又は機械的手段により達成することができる。
【0021】
再び図1を参照すると、バルーン18は、圧縮空気、二酸化炭素、コントラスト媒体(contrast media)又は水などの流体をカテーテルシャフトのルーメン13を介して供給源30からバルーン18のルーメンに導入することにより膨張させることができる。
【0022】
図2はバルーン18を膨張させた状態を示している。バルーン18は、カテーテルシャフト12により少なくとも部分的に占められている中心通路25を囲んでいる。バルーンの壁面がカテーテルシャフトに対し、継ぎ目32部分だけで接合されているから、バルーンは、最も後方に延出した図2aに示す第1の位置と、最も前方に延出した図2bに示す第2の位置との間を、シャフトに沿って移動することができる。図2に示す2つの位置間のバルーンの動きは、バルーン18が摺動することなくシャフト12上を転動することにより生じるものであり、それによりバルーン18の外側表面21は内側表面20を通り越すことになる。
【0023】
本願発明の1実施例として、バルーン18をカテーテルシャフト12の先端に近づけて取着させてもよい。それにより、このバルーンを、カテーテルシャフト上を先端方向に転動させたとき、このバルーンは最先端を占めることになり、その少なくとも一部がこのカテーテルシャフトの先端を越えて延出することになる。しかし、より好ましい実施例として、バルーン18の如何なる部分も転動時においてカテーテルシャフト12の先端を越えて延出することがないようにバルーン18をカテーテルシャフトの部位に取着させるようにする。言い換えれば、このより好ましい実施例において、カテーテルシャフトの長さが常にバルーンの先端周縁部を越えて延出するようにバルーンとカテーテルとを相対的に配置する。この配置は、“オーバー・ザ・ワイヤー(over the wire)”法により患者の脈管内に、ここに開示した本発明のシステムを挿入しようとする場合に特に好ましい。更に、或るバルーンの材料および構成によっては、図1に示す末端バルーン位置の場合、カテーテルの先端を越えて延出するバルーンの部分が潰れることになり、バルーンのこの領域により捕捉された対象物、壊死組織片、他の物質又は独立体を放出することになる。従って、ここに記載したより好ましい実施例(バルーンをより中央位置に配置させるもの)は、バルーンの構成および材料の選択に依存するものである。このより好ましい実施例におけるバルーンの位置が図7および9に模式的に示されている。
【0024】
上述のように、本発明のカテーテルシステムは、1つの操作モードにおいて、疾患している血管に存在するアテローム斑壊死組織片、他の粒状物、個体、半固体物質を回収し、体内からこれらの物質を除去するのにも使用することができる。更に、この操作モードの変形例(以下に記載する)として、本発明のカテーテルシステムを、このプロセスにより放出されたあらゆる斑壊死組織片を安全に回収することに加えて、血管壁の疾患部位(例えば、アテローム斑が蓄積した血管内壁の領域において)を拡大及び/又は拡張するのに使用することもできる。このような壊死組織片(並びに、実際にカテーテルバルーンの領域に存在する他の全ての粒状又は半固体物質)は、バルーン壁面と、カテーテルシャフトとの間の空間内に‘捕捉’されることにより回収される。バルーンの先端部分の下に捕捉された壊死組織片の場合、カテーテルの基端方向の動きの間において注射器のような吸引作用(すなわち、基端方向に移動する膨張バルーンの先端側の血管内の減圧領域の形成による)により壊死組織片が所定位置にて保持される。反対に、バルーンの基端部分の下に捕捉された壊死組織片の場合、動脈血流により働く先端方向の流体力学的力により、カテーテルの動きの間に壊死組織片が所定位置にて保持される。壊死組織片がバルーンのどちらの端部に捕捉されたかに関係なく、この捕捉プロセスはバルーン(又は、他の膨張可能な部材)を収縮させることにより完了する。その結果、壊死組織片がバルーンと、カテーテルシャフトとの間に確実に保持され、脈管を介してのカテーテルシステムの安全な引抜き、体内からのこのシステムの除去を可能にする。
【0025】
本発明のシステムの他の特に好ましい実施例において、カテーテルシャフトは更に、アテローム斑壊死組織片および他の個体、半固体粒状物又は凝縮物をカテーテルシャフト表面に保持させるのに役立つ表面構造を有する。これらの保持部材により、膨張したバルーンとカテーテルシャフトとの間の環状空間に捕捉された壊死組織片を保持させ、その後、カテーテルの引抜き時に体内から除去することができる。図8は、特に限定されるものではないが、保持部材についての3つの可能な形態を示している。第1に(図8a)、この保持部材は収集カップ68の形のもので、カテーテルシャフトを囲むようにしている。これらの手段により、バルーンにより捕捉された如何なる壊死組織片をも、このカップの凹状内表面により保持することができ、これはバルーンがカテーテルシャフトのこれらカップを有する領域から離れて転動した後及び/又はバルーンが収縮した後でも同様に保持される。図8bに示す他の実施例において、この保持部材は一連の溝70からなる形のものからなる。この溝70は任意の形状および輪郭のもの、例えばカテーテルシャフトに対し、半径方向又は軸方向に延びたもの、又はカテーテルシャフトに対し任意の角度をなすものであってもよい。その他、図8cに示すように、この保持部材は一連の突起が配列したもので、各隣接する一対の突起74間に壊死組織片保持環状溝又は凹み72を形成したものであってもよい。この突起74は任意の形状および輪郭のもの、例えばカテーテルシャフトに対し、半径方向又は軸方向に延びたもの、又はカテーテルシャフトに対し任意の角度をなすものであってもよい。その他、この保持部材は上述の溝および突起の任意の組み合わせからなるものであってもよい。これらの保持部材はカテーテルシャフト12の表面の、バルーン18の先端側(図9a)、バルーン18の基端側(図9b)、又はバルーン18の両側(図9c)に配置させることができる。これら保持部材の上記3つの例は、限定的なものとして理解されるべきではない。つまり、任意の適当な保持部材をカテーテルシャフトの壁面に適宜形成することができ、それらは特許請求の範囲に記載したカテーテルシステムによる壊死組織片の保持を増大させるため付加的に使用することができる。
【0026】
本発明の更なる特に好ましい実施例として、ここに開示し、特許請求の範囲に記載したカテーテルシステムは更に、壊死組織片(更に、上述のように、他の粒状物質)の収集を助けるため、並びに体内からカテーテルを取り出す前又は取り出す間において壊死組織片の貯蔵のための保持スリーブを有する。この壊死組織片は、このスリーブと、バルーンに囲まれていないカテーテルシャフトの部分との間の空間に収集、貯蔵される。このようにして、このスリーブは壊死組織片の捕捉能に関してのバルーンの‘延長’として機能する。更に(その他)、壊死組織片はこのスリーブの少なくとも一部と、バルーンとの間に捕捉、貯蔵することができる。バルーンの外表面に取着されたスリーブは、一実施例において、前記バルーンの全長の僅か一部のみを覆うことができる。その他、このスリーブはバルーンの長さと同じ長さであって、このバルーンを正確に重なり覆うように配置させてもよい。更なる変形例として、このスリーブはバルーンの長さよりも長く、それにより、バルーンを完全に覆うものであってもよい。このスリーブはバルーンの任意の外側表面部位に対し、1又はそれ以上の離した接合点で取着させることができ、それによりこの接合点の少なくとも一側における該スリーブとカテーテルシャフトとの間に環状空間が形成されるようにする。更に、又は適宜、同様の環状空間を、該スリーブ接合点の少なくとも一側における該スリーブとバルーンの外側表面との間に同様の環状空間が形成されるようにする。このスリーブは、その表面の任意の部位を介して、バルーンに対し、1又はそれ以上の離した接合点で取着させることができる。
【0027】
スリーブ78の接合点76は、図10に示すように、バルーン18の基端に近づけて配置させること(図10a)、あるいはバルーン18の先端に近づけて配置させること(図10b)、あるいはバルーン18の中間点、又はその近傍に配置させること(図10c)ができる。スリーブの一端をバルーンに取着させると共に、他端を適宜、バルーンに対し先端の、又は基端のシャフト部分に、少なくとも1つのスリーブの延長部、又は別の固定具(例えば、特に制限されないが、任意の材料、金属、ポリマーなどから作られた任意の適当な形状のフック又はバスケット)を用いて取着させてもよい。どのような特定の取着手段を使用するか否かに関係なく、取着手段のカテーテルシャフトへの接合は、適当な生物学的適合性の接着剤、加熱溶接、超音波溶接又は機械的手段により達成することができる。このスリーブは任意の形状のもの、例えば、特に制限されないが、円筒状、半円筒状、円錐状、裁頭円錐状、ウェブ状などであってもよい。このスリーブは、適当な生体力学的特性を有するものであれば、任意の適当な生物学的適合性の金属、ポリマー、他の有機質材料などから構築することができる。適当なポリマーの例としては、バルーンの製造で使用される前述のようなポリマーを挙げることができる。
【0028】
図3は、例えば対象物42を小さな血管40内へ搬送するため、カテーテル先端をこの血管内に挿入する例を示している。この対象物42は、例えば、図3に示すようなステントであってもよい。他の実施例として、この対象物42は体内の部位に搬送される作業ツールであってもよい。この作業ツールは、狭窄症に対する作業のためのツール、例えば、ドリル、ダガー(ブレード)、プローブ、近距離放射線療法のための放射性線源などであってもよい。更に、この作業ツールは、ライトガイド、光源、無線周波数電極、又は超音波プローブであってもよい。このカテーテルを体内に挿入する前に、対象物42をカテーテルの先端に装着する。図3aに示すように、カテーテル先端はバルーン18を収縮させた状態で、動脈44を介して血管40のオリフィス34に移送される。ついで、バルーン18を膨張させるが、膨張したバルーン18が依然としてその最初の基端方向の位置、つまり、図3bに示すように、その先端がカテーテルシャフト12の先端近傍に存在する位置にあるようにする。この膨張したバルーン18は血管44の壁面を押圧している。図3cに示すように、カテーテル先端をついで、狭い血管40内を先端方向に前進させる。このカテーテル先端を、血管44内を前進させると、バルーン18も同じく血管44内を前進する。従って、バルーン18はカテーテルシャフトに沿って、更に血管44の壁面に沿って転動する。このバルーン18の血管44内での速度はカテーテルシャフトの速度のほぼ半分である。バルーン18が血管44内を、カテーテルシャフト12よりも遅い速度で前進するから、図3cに示すように、バルーン18はカテーテルシャフト12に沿って後方に動き、かつ、シャフト上をバルーン18の第2の位置に向けて移動することになる。血管40内でのカテーテル先端の更なる前方方向への前進により、バルーンが前記シャフトに沿って後方に更に移動し、これは、ステントを支持したカテーテル先端がバルーンを越えるようにして完全に延出し、ステントが血管40内に配置されるまで継続される。バルーンの外側表面と、血管の内壁面との間に高いレベルの摩擦があるから、バルーンの外側表面は血管の内壁面上を摺動することがなく、従って、血管内壁面への損傷は生じない。対象物がステントの場合、ついで血管40内にて、公知の任意のステント展開用機構(図示しない)を用いて展開することができる。ステントの展開後、バルーン18を収縮させ、ついでカテーテルが体内から引き出される。
【0029】
図11Aは本発明の更なる好ましい実施例を示すものであり、この場合、膨張性ステント42が、治療部位へのカテーテルシステムの移送前に収縮させたバルーン18上に装着されている。この実施例は、単一のカテーテルシステムを使用して血管(例えば、冠状動脈)の疾患部を拡張すること、および拡張プロセスの結果として放出された(あるいは、何らかの理由により治療領域に存在する)壊死組織片を安全に回収することの双方を行うことを欲する場合に特に有用である。同じ実施例で、バルーン18の膨張およびステント42の拡張後の状態が図11Bに示されている。このプロセスの後、このステントおよび、ステントで覆われていないバルーンの領域の双方が血管44の内壁面と接触することになる。この段階において、バルーンが血管壁に沿って転動するよう処理され(前述のように)、それによりステント配置プロセスの間にバルーンと、カテーテルシャフト12との間に放出された壊死組織片を捕捉する。このバルーン18の動きの1例が図11Cに示されている。ここに、カテーテルシャフト12が基端方向に短距離、移動し、バルーン18が先端方向(カテーテルシャフトとの関係で)に転動した後のバルーン18の状態が示されている。その他、バルーンはもちろん、基端方向に転動させたり、あるいは、他の好ましいモードにおいて、バルーンを基端方向および先端方向に交互に転動させ、壊死組織片の収集および捕捉を増大させるようにすることもできる。この実施例においても、バルーンに、上述のように保持スリーブを装着させることもできる。これに加えて、又はこれとは別に、この実施例で使用したカテーテルシャフトに前述のような保持面を備えさせることもできる。
【0030】
図4は本発明の他の実施例に係るカテーテル60を示している。このカテーテル60は、図1および図2のカテーテル10と共通する幾つかの部材を有する。従って、カテーテル10とカテーテル60で同様の部材には同じ参照番号を付し、更なるコメント又は説明を省略する。このカテーテル60は押し込み機構を有し、これはバルーンを、図5aに示す第1の位置から図5bに示す第2の位置へ向けて付勢させるのに使用される。この押し込み機構は、円筒状可撓性カバー56を有し、これはカテーテルシャフト12の少なくとも一部を覆っている。この可撓性カバー56の先端は環状の押し込みプレート57に取着されている。この可撓性カバー56および押し込みプレート57はカテーテルシャフト12に沿って摺動自在となっている。バルーン18が図5aに示す第1の位置にあるとき、カバー56の基端を掴み、このシャフト上を先端方向に押し込み、拡大させたバルーン18を、その第1の位置から図5bに示す第2の位置へ向けて移動させる。
【0031】
図6は、体内通路52から対象物50を回収するためのカテーテル10の使用を示している。この対象物50は、例えば、体内から除去されるべきステントであってもよい。他の実施例において、この対象物50は体内から除去されるべき望ましくない壊死組織片であってもよい。図6aに示すように、カテーテルシャフト12の先端を、バルーン18を収縮させ、第1の位置にある状態で通路52内に前進させる。この前進は、カテーテル先端がバルーンを収縮させた状態で対象物50近傍に来るまで行われる。ついで、バルーン18を、その第1の位置のままで、膨張させる(図6b)。この第1の位置において、バルーン18の先端は、カテーテルの先端に近接している。ついで、バルーン18を、上述のように押し込み機構を用いて、その第2の位置へ向けて付勢させる(図6c)。バルーン18がカテーテル先端上を先端方向に転動すると、対象物50がバルーン18のルーメン54内に入り込み、バルーン18により握持される(図6c)。バルーン18は、それが図6dに示すように対象物50を完全に包み込むまでカテーテル先端上を転動し続ける。ついで、このバルーン18は収縮され、カテーテルが対象物50と共に体内から取り出される。
【0032】
上述の使用モードに加えて、本発明は、ここに記載するように、アテローム斑物質を除去すること、およびアテローム斑物質の血流への医原性放出を防止することの二重の目的のための逆行バルーン操作を行うのにも使用することができる。まず最初に、血管形成術が、バルーンカテーテルを所望の処置部位に導入し、バルーンを拡大させ、十分に加圧させ、動脈壁の拡張を生じさせ、それにより、先にブロックされ、又は部分的にブロックされていた動脈ルーメンを拡大、開口させることにより行われることを留意すべきである。しかし、このような手法は、或る病状の場合には旨く適応させることができない。例えば、傷つき易い斑が破裂し易い非常に薄いキャップ(cap)を伴って存在し、脂質コアおよびアテローム斑物質を下流側に血流に向けて放出させることがある。これは多くの場合、後の末端塞栓形成および血栓症につながることがある。更に、このような斑にステントを配置することは、ステントのメッシュを介して脂質コアおよびアテローム斑物質の脱出を誘起させことがあり、塞栓形成および血栓症による罹患率および死亡率を増大させることになる。
【0033】
しかし、本発明のカテーテルシステムは、新規な物理療法の使用を可能にする。この場合、オペレータは非膨張バルーンを、治療すべき患部の遠位に導入する。ついで、バルーンを拡張(膨張)させ、カテーテルシャフトを基端方向に静かに引っ張ることにより、バルーンを後退、転動、タンクトラック様動きを以って基端方向に移動させる。この物理療法において、動脈患部が基端肩部まで圧迫され、脂質コアおよびアテローム斑物質を膨張バルーンの基端側の血流中に放出させる。この手法の最終段階において、オペレータがカテーテルシャフトを静かに押すと(すなわち、先端方向に)、カテーテルシャフトに沿ってのバルーンの前方への転動、タンクトラック様動きを生じさせ、それにより脂質コアおよびアテローム斑物質をカテーテルシャフトと、バルーンとの間(又は、もし存在する場合は、上述のような保持スリーブと、バルーンとの間、又はシャフト保持部材内)に捕捉することができる。ついで、オペレータはバルーンを収縮させ、収集された物質の完全な捕捉を確実にする。上述の方法は反対方向でも適用することができる。すなわち、バルーンを患部の基端側にて膨張させ、ついでバルーンを先端方向に転動させる。このように、本発明のシステムをここに記載したように使用することにより、末端塞栓形成の危険性を抑制しつつ壊死組織片の最大の収集を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0034】
10:カテーテル,12:円筒状シャフト,13:ルーメン,16:先端,18:膨張可能な部材,20:内側層,21:外側層,22:円形継ぎ目,24:環状ルーメン,25:中心通路,26:開口部,28:重層開口部,32:環状バンド,40:血管,42:対象物,44:動脈,50:対象物,52:体内通路,56:可撓性カバー,64,66:接合領域,68:収集カップ,70:溝,74:突起,76:接合点,78:スリーブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面にスリーブを設けたバルーンであって、
前記スリーブの内側壁面の一部が、前記バルーンの外表面に対し1又はそれ以上の接合点で取着され、
それにより、前記接合点の少なくとも一側における、該前記スリーブと前記バルーンの外表面の少なくとも一部との間に、環状空間が形成されているバルーン。
【請求項1】
外表面にスリーブを設けたバルーンであって、
前記スリーブの内側壁面の一部が、前記バルーンの外表面に対し1又はそれ以上の接合点で取着され、
それにより、前記接合点の少なくとも一側における、該前記スリーブと前記バルーンの外表面の少なくとも一部との間に、環状空間が形成されているバルーン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−200689(P2011−200689A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132174(P2011−132174)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【分割の表示】特願2007−509059(P2007−509059)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(508111844)アンジオスライド リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】AngioSlide Ltd.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【分割の表示】特願2007−509059(P2007−509059)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(508111844)アンジオスライド リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】AngioSlide Ltd.
【Fターム(参考)】
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