カドミウムおよびセレン含有ナノ結晶複合材料を形成する方法ならびに該方法から得られるナノ結晶複合材料
CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法が、提供される。そのナノ結晶複合材料は、(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有し、MはCd以外のPSEの第12族元素であり、AはOおよびSe以外のPSEの第16族元素である。一実施形態において、元素Cdまたはその前駆体と、適宜Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成する。元素Seおよび適宜Aをその溶液に添加して、それにより反応混合物を形成する。反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却する。最後に、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離する。別実の施形態において、元素Cdまたはその前駆体、Se、適宜Mおよび適宜Aを適当な溶媒に添加することにより、反応混合物を形成する。この実施形態において、反応混合物を加熱して、工程の間に形成された水を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法に関する。
本願は、米国特許商標庁に2007年8月6日に出願され、シリアル番号第60/541,179号が割り当てられた「Visible Light Excitable Nanocrystals and Methods of Preparing Them」を参照しており、それらの出願の優先権の利益を主張するものである。本明細書に含まれず、PCTの規則4.18を準用するPCTの規則20.5(a)を参照する明細書、特許請求の範囲または図面のいずれかの要素または部分を援用するなど、2007年8月6日に提出された上記出願の内容は、全ての目的で本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノ粒子は、着色剤(例えばステンドグラス窓中の)、触媒、磁気薬物送達物、癌低体温療法、磁気共鳴画像での造影剤、生物学での磁気および蛍光タグ、太陽光発電、ナノバーコードまたはディーゼル車両での排ガス制御など広範囲の適用が見いだされている。
【0003】
(3つの空間方向全ての)伝導帯電子、価電子帯正孔、または励起子の運動を制限する半導体ナノ粒子、代表的にはナノ結晶は、電荷の「液滴」として働き、量子ドットと呼ばれる。量子ドットは、2〜10ナノメートルと小さくすることが可能で、自己組織化量子ドットは、代表的には寸法が10〜50ナノメートルの範囲内である。
【0004】
量子ドットは、エレクトロニクス、蛍光画像および光符号化など、様々な使用で関心を集めた。それらは、理論的に高い量子収率ゆえに光学的適用では特に重要である。電子的適用では、それらは単電子トランジスタのように作用して、クーロンブロッケード効果を示すことが立証されている。
【0005】
量子収率の高い水溶性量子ドットは、蛍光標識に基づく生物学的研究での中心的存在の一つであった。この目的で最も早く入手できた量子ドットは、半導体のコアおよび有機リガンドのシェル(CdSeが代表的)を含む量子ドットから製造された。異なる安定化剤の存在下で複雑なリガンド交換法に従いチオグリコール酸を使用するか、または疎水性−疎水性相互作用を利用して製造されたままの脂溶性量子ドットを両親媒性分子/高分子でコーティングするか、または量子ドットをシリカシェルでカプセル化して、水溶性化を実現した。これらのアプローチの複雑さにとは無関係に、得られた量子ドットの量子収率は低かった。これは、一方ではCdSeコア型量子ドットの低い量子収率を譲り受けたため、他方では半導体表面があまり不動態化されておらず、発光中心がプロセスの間に容易に損傷されて、量子収率が更に低くなるためである。合金量子ドットは、高い量子収率を有するが、脆い表面が水溶性化において問題となる。
【0006】
不動態化した半導体材料という更なる層を発光コアとリガンド層の間に追加することにより、量子ドットにコア−シェル構造を導入すると、量子ドットの光学特性が大幅に改善される(非特許文献1〜3参照)。それと同時に、これらのコア−シェル型量子ドットの水溶性化処理がより簡便になり、得られた生成物の脆性が低くなる(非特許文献4〜6参照)。コア−シェル型量子ドットの製造は、2つの基本的ステップを有する:(1)高品質のコア型量子ドットの製造および精製、(2)有機金属剤および他の第VIA族物質供給源(例えばSまたはSe)を用いたコア型量子ドットのコーティングと、続いての逐次イオン層吸着および反応(Successive Ion Layer Adsorpti
on and Reaction)(SILAR)成長法(上記の非特許文献3参照)。製造の2番目のステップは、最終生成物の品質のために極めて重要であるが、手間がかかり制御が困難である(特に大量の生成物を望む場合)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.A.HinesおよびP. Guyot−Sionnest著、J. Phys. Chem. 1996年、100巻、p468
【非特許文献2】B. O. Dabbousiら、J. Phys. Chem. B、1997年、101巻、p9463
【非特許文献3】X. Pengら、J. Am. Chem. Soc. 1997年、119巻、7019号、p16〜18
【非特許文献4】S. Kimら、J. Am. Chem. Soc.2003年、125巻、p11466
【非特許文献5】D.R.Larsonら、Science、2003年、300巻、p1434
【非特許文献6】J.K.Jaiswalら、Nat.Biotech、2003年、21巻、p47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ本発明の目的は、上記説明の問題の少なくとも一部を克服するナノ結晶複合材料、詳細にはナノ粒子を形成するのに用いられ得る方法またはプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法を提供する。
第1の態様の一実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、MおよびSeから構成される。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。それにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することも含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0010】
第1の態様の別の実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、M、SeおよびAから構成される。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。その方法は、Aをその溶液に添加することも含む。AおよびSeをその溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0011】
第1の態様の別の実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、SeおよびAから構成される。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であ
る。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体の溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。代表的にはその溶媒は、アミンを少なくとも本質的に含まない。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。その方法は、Aをその溶液に添加することも含む。AおよびSeをその溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0012】
関連する第2の態様において、本発明は、(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成のナノ結晶を形成する方法を提供する。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。その方法は、元素CdまたはCd前駆体を、適当な溶媒に添加することを含む。その方法は、元素Seをその溶媒に添加することも含む。(a)Cd、M、Seまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、その方法は、Mまたはその前駆体を添加することも含む。(b)Cd、Se、A、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、その方法は、Aを添加することも含む。各化合物を溶媒に添加することにより、反応混合物が形成される。更にその方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを含む。反応混合物の加熱は、反応混合物中に形成された水を除去することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0013】
本発明の方法により得られるナノ結晶は、複合材料で不均一である。代表的な実施形態において、ナノ結晶は、コア−シェル型である。
第3の態様において、本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料に関する。そのナノ結晶複合材料は、(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有する。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。そのナノ結晶複合材料は、第1または第2の態様での方法により得ることができる、または得られる。
【0014】
第4の態様において、本発明は、発光体の製造における、上記方法の一つにより得られるナノ結晶の使用にも関する。
本発明は、詳細な説明を添付の図面と併せて参照することにより、より良好に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、コア型量子ドットの構造、例えばCdSe、CdS、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、PbS、PbSe、ZnOなどを概略的に示す。図1Bは、コア−シェル型量子ドットの構造、例えばCdSe/ZnS、CdTe/ZnS、CdSe/ZnSeなどを概略的に示す。図1Cは、合金量子ドットの構造、例えばCdSexTe1-x、ZnxCd1 -xSe、ZnxCd1-xS、CdSxSe1-xなどを概略的に示す。
【図2】コア−マントル−シェル構造を有するナノ結晶/量子ドットとして記載され得る、本明細書で得られたナノ結晶複合材料を概略的に示す。一実施形態において、コアは、例えばCdSeから構成され、マントルは、CdZnSeから構成され、シェルは、ZnSeから構成されてもよい。別の実施形態において、コアは、例えばCdSeから構成され、マントルは、CdSeSから構成され、シェルは、CdSから構成されてもよい。
【図3】厚さの大きい本発明のナノ結晶複合材料のシェルの転位を防ぐ効果の可能な説明を示すが、格子不整合は、相分離の原因である可能性がある(図3の左部分)。コアとシェルの境界で、部分的に合金化が起こる可能性がある(温度(T)制御)。こうしてマントルは、コアとシェルの間の接着層として働くと見なすことができる。
【図4】予測された反応進行を、力学的に制御された反応として示す。コアは、インサイチュで(in−situ)形成され、一段階の操作が実施されたため、連続および交互の注入は必要ない。
【図5】フォトルミネッセンススペクトルの時間経過により示された、出発原料中のZn:Cdのモル比が(A)9:1、(B)1:1の2種の室内灯励起性量子ドット(room−light excitable quantum dots)の形成の進行を示す。1と表示された曲線は、波長(左の縦座標)を示し、2と表示された曲線は、スペクトルの半値全幅(右の縦座標)を示す。
【図6】本発明の方法により得られた室内灯励起性量子ドットの写真を示す。A:弱い室内灯での量子ドット、B:UV照射の下での量子ドット。両方の例で、カメラのフラッシュは使用しなかった。
【図7】室内灯励起性量子ドット(細い実線)の一種および従来の量子ドット(太い点線)のUV−可視スペクトルを示す。可視光波長では、前者の吸収が弱い。
【図8】室内灯励起性Cd+Zn+Se複合材料量子ドットのフォトルミネッセンススペクトルを示す。左から右に向かって、量子ドット中の亜鉛の量が一様に減少し、発光が528nmから689nmにシフトした。
【図9】複合材料Cd+Zn+Seの異なる室内灯励起性ナノ結晶複合材料(量子ドット)(予測される構造CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSe)のX線回折パターンを示す。各図の上の数値は、対応する量子ドットを製造するための出発原料中のZn/Cdモル比を示す。最上部および最下部のデータは、それぞれ純粋なZnSeおよびCdSe量子ドットのXRDパターンである。
【図10】300℃でTOPO/HDA中で製造された室内灯励起性量子ドット(点線)および同じ室内灯励起性量子ドットを十分に高い温度に加熱することにより形成されたその合金対応物(実線)のフォトルミネッセンススペクトルを示す。出発原料中のZn/Cdのモル比は、1:1または9:1で、その量子ドットはそれぞれ細い(1)線または太い(2)線のスペクトルである。
【図11】スピンコーティングにより得られた高分子/量子ドットハイブリッド薄膜(ポリ(メタクリル酸メチル)中の室内灯励起性量子ドット)を示す。
【図12】室内灯励起性量子ドットの透過型電子顕微鏡像を示す。A:Cd+Zn+Se(予測される構造CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSe)、B:Cd+Se+S(予測される構造CdSe/CdSexS1-x/CdS)
【図13】Zn+Cd+Se+Sから構成された四成分の室内灯励起性ナノ結晶の透過型電子顕微鏡像を示す。2つの画像(A)および(B)は、異なる倍率である。
【図14】Cd+Se+Sから構成された室内灯励起性量子ドット(予測される構造CdSe/CdSexS1-x/CdS)のX線回折パターンを示す。破線の曲線は、より高いS/Se比の生成物から測定される。
【図15】コア−シェル型量子ドットの製造に関する従来法と本発明の方法の比較。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これらの添付された図から理解されるとおり、ナノ結晶は、本発明の方法を用いて形成することができる。例として、本発明の方法により得られたナノ結晶は、発光体、増幅体、生物学的センサー内で、または計算法に用いてもよい。発光体、即ち発光装置、例えばランプ、発光ダイオード、レーザダイオード、フルオロフォア(例えば腫瘍の検出)、TV画面またはコンピュータモニタに用いられる場合、本発明の方法で工程パラメータの値を選択することにより、発光のピークを含む波長を調整することができる。本発明のそのような一実施形態は、白色光を発光するナノ結晶である。したがって本発明は、本発明の方法により得ることができる、または得られたナノ結晶の使用にも関する。例示的な図から理解されるとおり、発光ピークを含む各波長範囲は、元素Aが添加される温度、反応時
間、用いられる溶媒、用いられる分散剤、および添加される分散剤の量などの因子により制御することができる。
【0017】
いかなる適当な溶媒を、本発明の方法に用いてよい。溶媒は、配位性溶媒、例えばチオール、アミン、ホスフィンまたはホスフィンオキシドであっても、またはそれを含んでいてもよい。溶媒が非配位性溶媒、例えばオクタデセンである場合、表面結合リガンド、例えばオレイン酸が用いられてもよい。溶媒は、幾つかの実施形態において、エーテルまたはアミン、例えばアルキルアミンまたはジアルキルアミンを含んでいてもよい。それは、イオン液体、例えばホスホニウムイオン液体であっても、またはそれを含んでいてもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は弱配位性溶媒である。それは、非配位性成分、例えばアルカンもしくはアルケン、または強配位性成分、例えばトリ−n−オクチルホスフィンを含んでいてもよい。
【0018】
本発明の方法で用いられる溶媒は、代表的には、例えば約120℃、150℃、180℃を超える、約220℃を超える、約250℃を超える、約280℃、約300℃、または約330℃を超える沸点を有する高沸点溶媒である。幾つかの実施形態において、本発明の方法の際に最高の選択温度を超える沸点を有する溶媒成分の組合せが、選択される(例えばカドミウムまたはカドミウム化合物を溶解するため)。エーテルまたはアミンそのものが、高沸点溶媒であってもよい。適当なエーテルの例としては、非限定的に、ジオクチルエーテル(CAS−No.629−82−3)、ジデシルエーテル(CAS−No.2456−28−2)、ジウンデシルエーテル(CAS−No.43146−97−0)、ジドデシルエーテル(CAS−No.4542−57−8)、1−ブトキシドデカン(CAS−No.7289−38−5)、ヘプチルオクチルエーテル(CAS−No.32357−84−9)、オクチルドデシルエーテル(CAS−No.36339−51−2)、および1−プロポキシヘプタデカン(CAS−No.281211−90−3)が挙げられる。適当なアミンの例としては、非限定的に、1−アミノ−9−オクタデセン(オレイルアミン)(CAS−No.112−90−3)、1−アミノ−4−ノナデセン(CAS−No.25728−99−8)、1−アミノ−7−ヘキサデセン(CAS−No.225943−46−4)、1−アミノ−8−ヘプタデセン(CAS−No.712258−69−0、純粋なZ−異性体のCAS−No.:141903−93−7)、1−アミノ−9−ヘプタデセン(CAS−No.159278−11−2、Z−異性体のCAS−No.:906450−90−6)、1−アミノ−9−ヘキサデセン(CAS−No.40853−88−1)、1−アミノ−9−エイコセン(CAS−No.133805−08−0)、1−アミノ−9,12−オクタデカジエン(CAS−No.13330−00−2)、1−アミノ−8,11−ヘプタデカジエン(CAS−No.141903−90−4)、1−アミノ−13−ドコセン(CAS−No.26398−95−8)、N−9−オクタデセニルプロパンジアミン(CAS−No.29533−51−5)、N−オクチル−2,7−オクタジエニルアミン(CAS−No.67363−03−5)、N−9−オクタデセン−1−イル−9−オクタデセン−1−アミン(ジオレイルアミン)(CAS−No.40165−68−2)、ビス(2,7−オクタジエニル)アミン(CAS−No.31334−50−6)、およびN,N−ジブチル−2,7−オクタジエニルアミン(CAS−No.63407−62−5)が挙げられる。
【0019】
溶媒に含まれ得る他の化合物としては、非限定的に、アルキル−またはアリールホスフィン、ホスフィンオキシド、アルカン、またはアルケンが挙げられる。各化合物は、長鎖アルキルまたはアリール基、例えばドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどを含んでいてもよい。しかし、そのような長鎖部分を含む化合物が本発明の方法に必要ではないことに、留意されたい。アルケンの例としては、非限定的に、1−ドデセン(CAS−No.112−41−4)、1−テトラデセン(CAS−No.1120−36−1)、1−ヘキサデセン(CAS−No.629−73−2)、1−ヘプタデセ
ン(CAS−No.6765−39−5)、1−オクタデセン(CAS−No.112−88−9)、1−エイコセン(CAS−No.3452−07−1)、7−テトラデセン(CAS−No.10374−74−0)、9−ヘキサコセン(CAS−No.71502−22−2)、1,13−テトラデカジエン(CAS−No.21964−49−8)、または1,17−オクタデカジエン(CAS−No.13560−93−5)が挙げられる。アルカンの例は、デカン(CAS−No.124−18−5)、ウンデカン(CAS−No.1120−21−4)、トリデカン(CAS−No.629−50−5)、ヘキサデカン(CAS−No.544−76−3)、オクタデカン(CAS−No.593−45−3)、ドデカン(CAS−No.112−40−3)およびテトラデカン(CAS−No.629−59−4である。ホスフィンの例は、トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(ドデシル)ホスフィンである。ホスフィンオキシドの例は、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、およびフェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドである。
【0020】
本発明の方法の幾つかの実施形態において、溶媒は、アルケンおよびアミンの両方を含む。アルケンおよびアミンは、任意の比で、例えば約100:1(v/v)〜約1:100
(v/v)、10:1(v/v)〜約1:10(v/v)または約5:1(v/v)〜約1:5(v/v
)の範囲内で存在してもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は、アルキルホスフィンまたはアリールホスフィンと、アミンとの両方を含む。ホスフィンおよびアミンは、任意の比で、例えば約100:1(v/v)〜約1:100(v/v)、約10:1(v/v)〜約1
:10(v/v)または約5:1(v/v)〜約1:5(v/v)の範囲内で存在してもよい。
【0021】
本発明の方法がいかなるアミンの非存在下でも実施され得ることに、留意されたい。これは特に、元素Cd、SeおよびAから構成されたナノ結晶複合材料が形成される方法に当てはまる。しかし、本発明の範囲内では、本明細書に記載された他の全ての方法が、本質的にアミンを含まない溶媒中で実施される。したがって幾つかの実施形態において、用いられる溶媒は、少なくとも実質的にアミンがない、即ちアミンを含まない溶媒である。本明細書で用いられる用語「アミン」は、その標準的意味で用いられ、つまり本発明で用いられる金属、例えばCdまたはZnと反応し得る、少なくとも1個の第1級、第2級または第3級アミン基(一般式R1R2R3Nで示される化合物であり、ここでR1、R2およびR3は、例えば水素またはアルキル基である)を有する化合物を指す。これは、本発明の範囲では、用いられる用語「アミンを含まない」が、本明細書で引用された方法のステップ(i)での適当な溶液の形成において、金属と相互作用し得るいずれかのアミン化合物を指す、ということである。つまり定義の境界内で用語「アミンを含まない」は、本明細書で用いられる反応混合物中で、PSEの第12族の金属、例えばCdと反応する能力を有さないアミンを含むことも包含する。用語「アミンを含まない」の定義に含まれるそのような反応性アミンの例としては、非限定的に、長鎖アルキルまたはアリール基を有するアミン、例えばドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン、またはトリオクチルアミンが挙げられる。上記の境界内で、溶媒に関して本明細書で用いられる用語「少なくとも本質的に含まない」は、全ての液体内容物に重要な影響を及ぼさない溶媒量の使用を指す。この用語は、つまりアミンの完全な不含、および微量の存在、例えば約0.01%、約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%または約5%(用いられる溶媒全量に関して)を包含する。したがって本発明の方法のこれらの実施形態において、本明細書で定義された溶液または反応混合物を調製する主溶媒(アミン以外の異なる溶媒の混合物であってもよい)が、アミン化合物とは異なる溶媒であるか、またはそれが優占的および支配的である。例として、そのような実施形態において、非配位性溶媒、例えばアルケン(オレフィン)、例えば1−オクタデシルエチレン、1−オクタデセニルエチレン、1−エイコセン(1−イコセン)、ドコサエン、トリコサエン、テトラコサエン、7,11−オクタデカジエニレン、2−メチルヘプタメチレン、1−ブチルヘキサメチレン、2−メチル−5−エチルヘプタメチレン、2,3,
6−トリメチルヘプタメチレン、6−エチルデカメチレン、7−メチルテトラデカメチレン、7−エチルヘキサデカメチレン、7,12−ジメチルオクタデカメチレン、8,11−ジメチルオクタデカメチレン、7,10−ジメチル−7−エチルヘキサデカメチレン、オクタデカメチレンまたはウンデカメチレンを、溶媒として用いてもよく、それに界面活性剤などの分散剤を添加してもよい。
【0022】
本発明の方法を実施するのに2種の一般的実施形態が存在するが、その組み合わせおよび改変は当業者の技術範囲内である。第1の実施形態において、金属またはその各前駆体の溶液は、適当な溶媒、例えば先に列挙された溶媒(または溶媒混合物)中で形成される。それにより形成された溶液に、1または2種のカルコゲンが添加される。第2の実施形態において、あらかじめ金属溶液を形成させずに、金属またはその各前駆体と、1種または2種のカルコゲンとが、各溶媒に添加される。つまりこの第2の実施形態は、「ワンポット反応」と記載することもできる。この第2の実施形態において、本発明の方法でナノ結晶複合材料を形成する反応を実施しながら、反応系から水を除去することが望ましい場合がある。水を除去すれば、発生した水の副反応による発火および/または爆発のリスクが回避または予防される。水の除去は、有機化学で用いられるいずれか公知の各(標準的)方法を用いて実施することができる。例えば冷却器を分水器と一緒に用いることにより、水を除去することができる。あるいは、またはそれに加えて、反応の途中で形成される水の濃縮および続いての分離などの(唯一の)物理的方法を用いる代わりに、酸化カルシウムなどの乾燥剤との反応など、化学反応により水を除去することが可能である。乾燥剤が反応を妨害しないのであれば、それを反応混合物に含めることができる。その他に、乾燥剤を反応混合物の外部に設置して、蒸発した水と反応させることができる。
【0023】
その方法で用いられる金属の一種は、カドミウムである。カドミウムは、例えば、元素カドミウムの形態またはカドミウム前駆体の形態で用いてもよい。カドミウム前駆体は、一般にカドミウム化合物または元素カドミウムから形成され、提供されて溶媒に添加される。選択された溶媒に溶解させることができ、ナノ結晶の形成に十分な反応性を有する、いかなるカドミウム化合物を用いてもよい。幾つかの実施形態において、特定の反応性、例えば中等度の反応性を有していて、反応工程の進行を簡便に制御できるカドミウム化合物を選択することが望ましい場合がある。その工程が代表的な実験室規模を超える規模、例えば約1リットルまたは約10または100リットルの規模で実行されるなら、そのような選択が望ましい可能性がある。カドミウム化合物は、例えば炭酸カドミウムおよび塩化カドミウムなどの無機カドミウム塩であってもよい。カドミウム化合物は、酢酸カドミウムまたはカドミウムアセチルアセトナートなどの有機カドミウム化合物(例えば塩)であってもよい。幾つかの実施形態において、有機化合物とは異なる、即ち有機化合物でないカドミウム化合物が、用いられる。そのような化合物は、酸化カドミウムまたは水酸化カドミウムであってもよい。それでも、各カドミウム化合物を、無機または有機塩などのカドミウム塩に溶解および変換してもよい(以下参照)。それぞれカドミウム化合物の溶液の形成は、幾つかの実施形態において、溶媒を高温にすることを含んでいてもよい。カドミウムまたはカドミウム化合物を溶解させた後、溶液の温度を変化させても、例えば選択した温度に低下させてもよい。
【0024】
カドミウム前駆体も、カドミウム化合物であるが、幾つかの実施形態において、本発明の方法を実施するために提供されたカドミウムまたはカドミウム化合物とは異なっていてもよい。例としては、幾つかの実施形態において、カドミウム前駆体は、有機カドミウム化合物である。そのようなカドミウム有機化合物の溶液を、用いられた溶媒中で形成させてもよい。カドミウム有機化合物は、可能ならば溶媒の存在下で、無機対応物を長鎖有機酸と反応させることにより得てもよい。無機または有機カドミウム化合物のほとんどは、可溶性有機塩を選択された溶媒中で形成するのに用いてもよい。適当な出発カドミウム化合物の4例が、酸化カドミウム、水酸化カドミウム、炭酸カドミウム(CdCO3)、お
よび塩化カドミウム(CdCl2)である。反応時に形成され得る有機化合物の例は、オレイン酸カドミウムおよびステアリン酸カドミウムなどの有機塩である。幾つかの実施形態において、カドミウム前駆体は、無機カドミウム塩である。代表的には長鎖有機カルボン酸である有機カルボン酸などの有機酸を無機カドミウム塩(酸化カドミウムを溶解することにより得ることもできる)の溶液に添加する際、有機カドミウム塩、例えば有機カルボン酸のカドミウム塩を形成させてもよい。
【0025】
これに関連して本発明の方法は、分散剤、例えば界面活性剤(同じく上記参照)を添加することを含んでいてもよい。分散剤は、本発明の方法で用いられる金属のリガンドとして作用し得る。分散剤が各金属の配位の補助もなし得る。カドミウムまたはカドミウム化合物の溶液を形成する前、それと同時に、またはその後に、分散剤を溶媒に添加してもよい。各溶媒で形成されたカドミウムまたはカドミウム化合物の溶液に、分散剤を添加してもよい。代表的には硫黄もしくはセレン(以下も参照)、またはそれらの前駆体を添加する前に、分散剤を添加する。分散剤は一般に、極性頭部基を含み、それは水素含有基であってもよい。例えば、いかなる界面活性剤を、分散剤として用いてもよい。界面活性剤は、例えば有機カルボン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、有機スルホン酸またはそれらの混合物であってもよい。適当な有機カルボン酸の例としては、非限定的に、ステアリン酸(オクタデカン酸)、ラウリン酸、オレイン酸([Z]−オクタデカ−9−エン酸)、n−ウンデカン酸、リノレン酸、((Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、アラキドン酸((全ての−Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、リノールエライジン酸((E,E)−9,12−オクタデカジエン酸)、ミリストレイン酸(9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデセン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)パルミチン酸(ヘキサデカン酸)およびγ−ホモリノレン酸((Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸)が挙げられる。他の界面活性剤(例えば、有機ホスホン酸)の例としては、ヘキシルホスホン酸およびテトラデシルホスホン酸が挙げられる。過去にオレイン酸がナノ結晶を安定化し得て、オクタデセンを溶媒として使用し得ることが観察された(Yu, W, W.およびPeng, X.著、Angew. Chem. Int. Ed.(2002年)41巻、13号、p2368−2371)。他のナノ結晶の合成において、界面活性剤が、形成されたナノ結晶の結晶形態に影響を及ぼすことが示された(Zhou, G.ら、Materials Lett.(2005年)59巻、p2706−2709)。金属またはその各前駆体の溶液が、適当な溶媒中で形成される実施形態において、界面活性剤は、幾つかの実施形態において、1種以上の金属またはその各前駆体と共に添加されてもよい。金属溶液を予め形成させずに、金属またはその各前駆体と1または2種のカルコゲンとを接触させる実施形態において、界面活性剤を、例えば金属と共に、そして/または1もしくは2種のカルコゲンと共に添加してもよい。
【0026】
幾つかの実施形態において、更なる金属Mまたはその前駆体が用いられる。更なる金属Mの前駆体は、一般に金属Mの化合物または元素の金属Mから形成される。各化合物または金属元素が、本発明の方法を実施するために提供され、溶媒に添加される。選択された溶媒に溶解し得る、いかなる金属化合物を用いてもよい。金属化合物は、例えば炭酸塩もしくは塩化物などの無機金属塩、または酢酸塩もしくはアセチルアセトナートなどの有機化合物(例えば塩)であってもよい。金属MおよびCdまたはその前駆体の両方が用いられるそのような実施形態において、カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体との両方の溶液が形成される。金属Mは、Cd以外の化学元素の周期表の第12族元素である(新しいIUPAC命名法による。CAS命名法および古いIUPAC命名法によれば第IIB族)。金属Mは、例えばZnまたはその前駆体であってもよい。先に述べたCdの前駆体への関連を、金属Mに必要な変更を加えて適用する。例えばZn化合物、例えば炭酸亜鉛もしくは塩化亜鉛などの無機亜鉛塩、または酢酸亜鉛もしくは亜鉛アセチルアセトナートなどの有機亜鉛塩が用いられてもよい。化合物は、同じく酸化亜鉛ま
たは水酸化亜鉛であってもよい。
【0027】
2種の金属または金属前駆体、例えばカドミウムおよび亜鉛またはその酸化物が用いられる場合、2種の金属/前駆体はいかなる所望の比で用いられてもよい。カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体は、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内のモル比で用いられ得る。幾つかの実施形態において、カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体との比は、約1:1である。幾つかの実施形態において、金属M(またはその前駆体)に対するカドミウム(またはその前駆体)のわずかなモル過剰、またはその逆が用いられてもよい。例えば各金属を形成されるナノ結晶の成分に少なくとも実質的に変換するために、例えばコアまたはシェルを確実に特定の最小幅(例えば厚さ)にすることが望ましい場合、または各金属を可能な限り反応させることが望ましい場合に、そのようなわずかな過剰が用いられてもよい。
【0028】
CdまたはCd前駆体と、適宜金属Mまたは金属Mの前駆体との溶液を形成することは、各金属成分(CdまたはCd前駆体、MまたはM前駆体)を適当な溶媒に添加することを含む。幾つかの実施形態において、CdまたはCd前駆体と、適宜金属Mまたは金属Mとの前駆体の溶液を形成することは、溶媒の温度を上昇させることを更に含む。溶媒を、例えば温度を約50℃〜約450℃、例えば約50℃〜約400℃、約100℃〜約400℃、約100℃〜約350℃、約100℃〜約300℃、約150℃〜約300℃、約200℃〜約300℃、または約250℃〜約300℃にしてもよい。
【0029】
先に述べたとおり、本発明の方法の幾つかの実施形態において、金属またはその各前駆体の溶液を適当な溶媒で形成させ、1または2種のカルコゲンを対応する溶液に添加する。カルコゲンを代表的には溶媒に添加するが、溶媒はいかなる溶媒であってもよい。幾つかの実施形態において、配位性溶媒、例えばチオール、アミン、ホスフィン(例えばトリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリノニルホスフィン、トリフェニルホスフィン)またはホスフィンオキシド(例えばトリオクチルホスフォンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフィンオキシド)。幾つかの実施形態において、カルコゲンを各溶媒に溶解させる。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、両方のカルコゲンを同一の溶媒に添加(溶解を含む)してもよい。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、両方のカルコゲンを共通の溶媒に一緒に提供してもよい。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、同じ溶媒を用いて形成された異なる懸濁液、分散体、溶液などに、2種のカルコゲンを別々に添加する。
【0030】
カルコゲンは、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。代表的にはカルコゲンは、元素のカルコゲンの形態で添加される。本発明の方法の全ての実施形態で用いられるカルコゲンの1種は、セレンである。幾つかの実施形態において、セレン以外の更なるカルコゲンが用いられる。このカルコゲンは、酸素およびセレン以外の化学元素の周期表のいずれの第16族元素であってもよい(新しいIUPAC命名法によるもの。CAS命名法によれば第VIA族、古いIUPAC命名法によれば第VIB族)。適当なカルコゲンの例が、硫黄およびテルルである。カルコゲンを、任意の適当な溶媒に、例えばホスフィン、例えばトリ−n−オクチルホスフィン(TOP、CAS No.4731−53−7)、トリ−n−ノニルホスフィン(CAS No.17621−06−6)、トリ−n−ヘプチルホスフィン(CAS No.17621−04−4)、トリ−n−ヘキシルホスフィン(CAS No.4168−73−4)、トリ−n−ブチルホスフィン(CAS No.998−40−3)、トリ−p−トリルホスフィン(CAS No.1038−95−5)、トリ−l−ナフチルホスフィン(CAS No.3411−48−1)またはトリフェ
ニルホスフィン(CAS No.603−35−0)に添加してもよい。金属溶液を予め形成させずに、金属またはその各前駆体と1または2種のカルコゲンとを接触させる実施形態において、同じカルコゲンを用いてもよい。
【0031】
2種のカルコゲン、例えばセレンおよび硫黄が用いられる場合、2種のカルコゲンはいかなる望ましい比で用いられてもよい。セレンおよびカルコゲンAは、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内のモル比で用いられてよい。幾つかの実施形態において、SeとAとの比は、約1:1である。これに関連して、用いられるカドミウムまたはカドミウム前駆体とセレンとのモル比を、同様に望むとおり選択してもよい。つまりCdまたはCd前駆体とセレンとのモル比を、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内で選択してもよい。幾つかの実施形態において、CdまたはCd前駆体とSeとの比は、約1:1である。一実施形態において、カドミウムと他の金属Mとの組合せを、セレンに関して等モル量で、またはPSEの第12族の他の元素と一緒のセレンに関して等モル量で用いる。更なる実施形態において、例えば各金属を本発明の方法で確実に完全に反応させるために、カドミウムに対する、またはカドミウムと他の第12族PSE元素との配合量に対してカルコゲンのわずかなモル過剰を用いてもよい。例示の目的で、本明細書では、形成されたナノ結晶の構造に影響を及ぼすような2種のカルコゲン間のモル比を用い得ることが言及される。例示の目的で式CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSeの組成が用いられるが、CdおよびZnが等モル比(1:1)で用いられる場合、図2に示されたとおり、どちらかといえば厚いマントル構造(このマントルは、若干の均質合金型構造ZnxCd1-xSeを有していてもよい)およびどちらかといえば薄いシェルZnSeが形成されてもよい。あるいはCdおよびZnが1:9のモル比で用いられる場合(Seに対するカルコゲンのモル比が一定に保たれて)、図2に示されたとおり、どちらかといえば薄いZnxCd1-xSeマントル構造およびどちらかといえば厚いZnSeシェルが形成
される。理論に束縛されるのを望むものではないが、このシェルは標準のコア−シェルCdSe/ZnSeナノ結晶中よりも厚くなり得ると考えられる。この厚さ増加の理由は、Cdに比較してZnが9倍のモル過剰であるため、CdSeコアの形成(Cdのほとんどが反応した)後、そして分析方法により検出し得ない非常に薄いマントルの形成後に、より多くのZnが残留するためである。
【0032】
金属またはその各前駆体の溶液が形成される幾つかの実施形態において、溶液は、カルコゲンの添加前に更に加熱されてもよい。それを、例えば約100℃〜約400℃、約150℃〜約500℃、約150℃〜約300℃、約200℃〜約400℃、約250℃〜約350℃または約300℃〜約350℃の範囲内で選択された温度にしてもよい。各温度では、元素A、即ち単独または硫黄もしくはテルルと一緒に用いられるセレンが、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。先に述べられたとおり、この目的で、カルコゲンをTOPなどの溶媒に溶解することができる。
【0033】
カルコゲンを1または2種の金属の溶液に添加する場合、この添加は、カルコゲンを注入することにより実施してもよい。実験室規模、例えば約500ml以下の規模では、この目的で例えばシリンジが用いられてもよい。幾つかの実施形態において、ポンプが、カルコゲンの注入に用いられてもよい。幾つかの実施形態において、カルコゲンは、急速に添加される。幾つかの実施形態において、カルコゲンは別個に添加される。幾つかの実施形態において、カルコゲンは一緒に添加される。カルコゲンをカドミウムまたはカドミウム前駆体の溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。先に述べられたとおり、幾つかの実施形態において、金属の溶液を形成させずに、金属またはその各前駆体および
カルコゲンの両方を溶媒に添加する。それにより、反応混合物がこれらの実施形態で形成される。
【0034】
本発明の方法において、反応混合物が更に加熱される。それは、例えば約100℃〜約400℃、約150℃〜約500℃、約150℃〜約300℃、約150℃〜約400℃、約200℃〜約400℃、約250℃〜約350℃または約300℃〜約350℃の範囲内で選択された温度にしてもよい。各温度では、元素A、即ち、硫黄またはセレンが、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。各元素を、任意の適当な溶媒に、例えばホスフィン、例えばトリ−n−オクチルホスフィン(TOP、CAS No.4731−53−7)、トリ−n−ノニルホスフィン(CAS No.17621−06−6)、トリ−n−ヘプチルホスフィン(CAS No.17621−04−4)、トリ−n−ヘキシルホスフィン(CAS No.4168−73−4)、トリ−n−ブチルホスフィン(CAS No.998−40−3)、トリ−p−トリルホスフィン(CAS No.1038−95−5)、トリ−l−ナフチルホスフィン(CAS No.3411−48−1)またはトリフェニルホスフィン(CAS No.603−35−0)に添加してもよい。
【0035】
反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に十分な時間加熱する。所望の時間は、当該技術分野で利用できる標準的技術を用いて決定してもよい。反応の進行を、例えば図5に示されたとおりフォトルミネッセンスを検出することにより、モニタリングしてもよい。反応は、数分、例えば2もしくは5分、約10〜約15分、〜約30分、または〜約45分などを含むミリ秒〜数時間の範囲内で、いずれか所望の時間実施してもよい。所望なら反応は、用いられる試薬および溶媒に関して、不活性雰囲気で、即ち反応性のない、または少なくとも検出可能な程度に反応性のない気体の存在下で、実施する。反応性不活性雰囲気の例は、窒素または希ガス、例えばアルゴンもしくはヘリウムである。
【0036】
代表的には、反応混合物の選択された加熱時間が経過したら、反応混合物を冷却する。その後、形成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離してもよい。
本発明の方法は、発光量子ドットをはじめとするナノ結晶の製造に簡便に用いることができる。これに関して、例えばWO2004/054923に記載されたような、当該技術分野で公知の他の方法とは逆に、本発明人が意外にも、本発明の利用で均質合金以外の複合体ナノ結晶が形成されるのを見出したことに留意されたい。代表的には形成されたナノ結晶は、コア−シェル型である。コア材料とシェル材料の間の動的反応速度の差が、この複合体構造の形成をもたらすと仮定される。理論に束縛されるのを望むものではないが、その兆候から、用いられた出発原料に応じて、本発明の方法により得られたナノ結晶複合体が、以下の構造の一つを有していてもよいことが示唆された:コア/マントル/シェルの形態で概略的に示すと、(1)CdSe/Cd1-xMxSe/MSe、(2)CdSe/Cd1-xSeAx/CdA、および(3)Cdx/SeyM1-x/A1−y。これらの式において、xは、0〜1、例えば約0.001〜約0.999、約0.01〜約0.99または約0.5〜約0.95のいずれかの値である。幾つかの実施形態において、xは、約0.5であってもよい。3番目の概略的に示された構造において、yは、0〜1、例えば約0.001〜約0.999、約0.01〜約0.99または約0.5〜約0.95のいずれかの値である。幾つかの実施形態において、yは、約0.5であってもよい。この構造において、x:yの比は、いかなる所望の値であってもよい。それは、例えば約100:1〜約1:100、約10:1〜約1:10または約5:1〜約1:5の範囲内で選択してもよい。幾つかの実施形態において、x:yの比は、約1:1であってもよい。
【0037】
発光中心であるコアでのインタクトな不動態化により、量子ドットが水溶性に極めて容易に変換され、合理的蛍光強度が保持される。本発明人は、本発明の方法を用いれば、シェルに関して特別に小さなコアを有するナノ結晶が形成され得るという兆候を更に見出し
た。理論に束縛されるのを望むものではないが、コアとシェルの間にマントルが形成される兆候が存在する(図2)。このマントル層が、格子パラメータ転移の「接着剤」層として働き、従来のコア−シェル型量子ドットに共通する格子不整合の問題を軽減することができる。コア−シェル構造が最初に形成され、そして薄いマントル層の形成がナノ結晶のアニーリング時に生じると仮定される。おそらく、薄い合金層が形成されて、コアおよびシェル材料の両方を格子パラメータに整合させるのであろう。
【0038】
シェルがマントルよりも厚さの大きなナノ結晶を、本発明の方法を用いて形成することができる。例として、本発明の方法により形成されたナノ結晶のコアは、5nm未満または3nm未満など10nm未満の幅(例えば口径)であってもよく、全体的なナノ結晶は約2〜約50nmの範囲内、例えば約5〜約20nm、約6〜約15nmの範囲内、例えば約7nm、約8nm、約9nm、約10nm、約11nmまたは約12nmの幅(例えば口径)であってもよい。用いられる金属の比、例えばカドミウムと亜鉛などの金属Mとの比を変動させることにより、そして/または用いられるセレンとテルルもしくは硫黄などの第2のカルコゲンとの比を変動させることにより、異なる寸法のコアおよびシェルを更に形成することができる。
【0039】
これに関連して、別個に、最初はコアを形成させて、次にシェルを形成する必要はなく、複合材料のナノ結晶が形成されることに留意されたい。むしろ複合材料ナノ結晶は、本発明の方法を用いれば、インサイチュで形成される。したがってコア−シェル構造を有する量子ドットは、「一回注入」アプローチにより形成することができ、そのような量子ドットおよび得られる誘導体化生成物の大量生産(容易かつ安価な)の機会が与えられる(実施例11〜13参照)。更にこの複合材料、例えばコア−シェル構造は、加熱時にインタクトのままであるため、本発明の方法により形成されるナノ結晶を再加熱しても、均質な合金は形成されない。先に述べたとおり、本発明の方法により形成されたこれらのナノ結晶は、代表的な実施形態において、蛍光性で発光が可能であり、つまり量子ドットとして取り扱うことができる。代表的にはこれらの量子ドットは、更なる励起光源を使用せずに、弱い室内灯でも蛍光を発する。用いられる金属の対応する比、例えばカドミウムと亜鉛などの金属Mとの比を選択することにより(例えば図8参照)、そして/またはセレンとテルルもしくは硫黄などの用いられるカルコゲンとの比を変動させることにより、これらの量子ドットの所望の蛍光発光波長を選択することができる。
【0040】
例えば高密度充填されたドットのアレイの形態で、本発明の方法により形成されたナノ結晶複合材料(その複数を含む)を、発光層などのナノ結晶の発光配列を形成するため、そして/または発光装置を形成するために用いてもよい。
【0041】
本発明の方法は、ナノ結晶の後処理を含んでいてもよい。本発明の方法により得られたナノ結晶は一般に、少なくとも本質的に、または少なくともほとんど単分散であるが、所望なら粒度分布を狭くするステップを(例えば予防措置または安全性基準として)実施してもよい。そのような技術、例えば粒度選択的沈殿は、当業者に周知である。ナノ結晶の表面を変化させてもよく、例えばコーティングしてもよい。
【0042】
幾つかの実施形態において、本発明の方法により形成されたナノ結晶(またはその複数)は、選択された標的分子、例えば微生物、ウイルス粒子、ペプチド、ペプトイド、タンパク質、核酸、ペプチド、オリゴ糖、多糖、無機分子、合成ポリマー、小有機分子または薬物への結合アフィニティーを有する分子に結合される。
【0043】
本明細書で用いられる用語「核酸分子」は、いずれかの可能な形態、例えば一本鎖、二本鎖またはそれらの組合せのいずれかの核酸を指す。核酸としては、例えばDNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類
似体を用いてまたは核酸化学を用いて生成させたDNAまたはRNAの類似体、ロックされた核酸分子(LNA)、およびタンパク質核酸分子(PNA)が挙げられる。DNAまたはRNAは、ゲノムまたは合成の起源であってもよく、そして一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明のこの方法では、必ずではないが代表的にはRNAまたはDNA分子が用いられる。そのような核酸は、例えばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとのコポリマー、オリゴヌクレオチドなどであってもよい。各核酸は、その上、非天然ヌクレオチド類似体を含んでいてもよく、そして/またはアフィニティータグもしくはラベルに結合していてもよい。幾つかの実施形態において、核酸分子は、単離、濃縮、または精製されてもよい。核酸分子は、例えばcDNAクローニングにより、またはサブトラクティブ・ハイブリダーゼーションにより、天然供給源から単離されてもよい。天然供給源は、ホ乳類、例えばヒト、血液、精液、または組織であってもよい。核酸は、例えばトリエステル法により、または自動DNA合成装置を用いて合成されてもよい。
【0044】
多くのヌクレオチド類似体が公知であり、本発明のナノ結晶複合材料への結合のために用いられる核酸およびヌクレオチド中で用いることができる。ヌクレオチド類似体は、例えば塩基、糖、またはリン酸部分の修飾を含むヌクレオチドである。塩基部分の修飾としては、A、C、G、およびT/U、異なるプリンまたはピリミジン塩基、例えばウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イル、および2−アミノアデニン−9−イル、ならびに非プリンまたは非ピリミジンヌクレオチド塩基の天然および合成の修飾が挙げられる。他のヌクレオチド類似体は、ユニバーサルベースとして作用する。ユニバーサルベースとしては、3−ニトロピロールおよび5−ニトロインドールが挙げられる。ユニバーサルベースは、他の塩基と塩基対を形成することができる。塩基の修飾は、多くの場合、例えば二本鎖の安定性向上などの独特の性質を実現するために、例えば糖修飾、例えば2’−O−メトキシエチルを含むことができる。
【0045】
ペプチドは、合成起源であってもよく、または当該技術分野で周知の方法により天然起源から単離されてもよい。天然起源は、ホ乳類、例えばヒト、血液、精液、または組織であってもよい。ポリペプチドなどのペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成装置を用いて合成してもよい。ポリペプチドの例は、抗体、そのフラグメントおよび抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子である。(組換え)抗体フラグメントの例は、Fabフラグメント、Fvフラグメント、単鎖Fvフラグメント(scFv)、二重特異性抗体、三重特異性抗体(Iliades, P.ら、FEBS Lett(1997年)409巻、p437〜441)、十重特異性抗体(Stone, E.ら、Journal of Immnological Methods(2007年)318巻、p88−94)および他のドメイン抗体(Holt, L. J.ら、Trends Biotechnol.(2003年)、21巻、11号、p484−490)である。抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子の例が、リポカリンファミリーのポリペプチドを基にした突然変異タンパク質である(WO/03029462、Beste他、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1999年)96巻、p1898−1903)。ビリン結合タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ結合リポカリン、ヒトアポリポタンパク質Dまたはグリコデリンなどのリポカリンは、修飾が可能な中性リガンド結合部位を有するため、ハプテンとして知られる選択された小タンパク質領域に結合する。他のタンパク質性結合分子の例は、いわゆるグルボディ(例えば国際特許出願WO96/23879を参照)、アンキリンスカフォールドを基にしたタンパク質(Mosavi, L. K.ら、Protein Science(2004年)13巻、6号、p1435−1448)または結晶スカフォールド(例えば国際特許出願WO01/04144)を基にしたタンパク質、Skerra著 J.Mol. Recognit.(2000年)13巻、p167−187に記載されたタンパク質、アドネクチン、テトラネクチンおよびアビマーである。アビマーは、複数の細胞表面受容体中のマルチドメインの列として生じるい
わゆるA−ドメインを含む(Silverman,J.ら、Nature Biotechnoligy(2005年)23巻、p1556−1561)。ヒトフィブロネクチンのドメインから得られるアドネクチンは、標的への免疫グロブリン様結合のための処理が可能な3つのループを含む(Gill, D. S.およびDamle, N. K.著、Current Opinion in Biotechnology(2006年)17巻、p653−658)。各ヒトホモトリマー性タンパク質から得られるテトラネクチンも、同様にC型レクチンドメイン中に、所望の結合のための処理が可能なループ領域を含む(同書)。タンパク質リガンドとして作用し得るペプトイドが、側鎖がα炭素原子ではなくアミド窒素に結合したペプチドとは異なるオリゴ(N−アルキル)グリシンである。ペプトイドは、代表的にはプロテアーゼおよび他の修飾酵素への抵抗性があり、ペプチドよりもかなり高い細胞透過性を有し得る(例えばKwon, Y.−U.およびKodadek, T.著、J. Am. Chem. Soc.(2007年)129巻、p1508−1509を参照)。
【0046】
更なる例として、アフィニティータグなどの結合部分を用いて、各分子に固定化してもよい。そのような結合部分は、例えば窒素基、リン基、硫黄基、炭素基、ハロゲン基もしくは擬ハロゲン基を含む炭化水素系(高分子を含む)分子などの分子、またはその一部であってもよい。例として、選択された表面は、例えば短い側鎖を有するブラシ状高分子を含んでいてもよく、例えばそれでコーティングされてもよい。固定化表面も、例えばグラフティングにより、ブラシ状構造を含む高分子を含んでいてよい。それは、例えば生体分子、例えばタンパク質、核酸分子、多糖またはそれらの組合せなどの分子を共有結合させる官能基を含んでいてもよい。各官能基の例としては、非限定的に、アミノ基、アルデヒド基、チオール基、カルボキシル基、エステル、酸無水物、スルホナート、スルホナートエステル、イミドエステル、ハロゲン化シリル、エポキシド、アジリジン、ホスホラミダイトおよびジアゾアルカンが挙げられる。
【0047】
アフィニティータグの例としては、非限定的に、ビオチン、ジニトロフェノールもしくはジゴキシゲニン、オリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合タンパク質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、FLAG’−ペプチド、T7エピトープ(Ala−Ser−Met−Thr−Gly−Gly−Gln−Gln−Met−Gly)、マルトース結合タンパク質(MBP)、単純ヘルペスウイルスグルコタンパク質Dの配列Gln−Pro−Glu−Leu−Ala−Pro−Glu−Asp−Pro−Glu−AspのHSVエピトープ、配列Tyr−Pro−Tyr−Asp−Val−Pro−Asp−Tyr−Alaのヘマグルチニン(HA)エピトープ、配列Glu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leuの転写因子c−mycのエピトープ、またはオリゴヌクレオチドタグが挙げられる。そのようなオリゴヌクレーチドタグを用いて、例えば相補的配列を備えた固定化オリゴヌクレオチドにハイブリダイズしてもよい。結合部分の更なる例は、抗体、そのフラグメントまたは抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子である(同じく上記参照)。
【0048】
結合部分の更なる例は、ククルビツリル、またはククルビツリルと錯体を形成し得る部分である。ククルビツリルは、代表的にはグリコールウリルとホルムアルデヒドとの酸触媒縮合反応から自己組織化されたグリコールウリル単位を含む大環状化合物である。グリコールウリル単位を含むククルビツリル[n](CB[n])は、代表的には極性ウレイドカルボニル基を含むポルタルを2個有する。これらのウレイドカルボニル基を通して、ククルビツリルは、該当するイオンおよび分子に結合することができる。例としてククルビツリル[7](CB[7])は、フェロセンメチルアンモニウムまたはアダマンチルアンモニウムイオンと強固な錯体を形成することができる。ククルビツリル[7]または例えばフェロセンメチルアンモニウムのいずれかを生体分子に結合させてもよく、残りの結
合パートナー(例えばそれぞれフェロセンメチルアンモニウムまたはククルビツリル[7])を、選択された表面に結合させることができる。その後、生体分子が表面と接触して、生体分子が固定化される。アルカンチオラートを通して金表面に結合した官能基化CB[7]単位が、例えばフェロセンメチルアンモニウム単位を担うタンパク質を固定化させることが示された(Hwang, I.他、J. Am. Chem. Soc.(2007年)129巻、p4170−4171)。
【0049】
結合部位の更なる例としては、非限定的に、オリゴ糖、オリゴペプチド、ビオチン、ジニトロフェノール、ジゴキシゲニンおよび金属キレート剤が挙げられる(以下も参照)。例として、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N,N−ビス(カルボキシメチル)グリシン(ニトリロ三酢酸、NTAとも呼ばれる)、1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(ジメルカプロール)、ポルフィンまたはヘムなどの各金属キレート剤を、標的分子が金属イオンである場合に用いてもよい。例として、EDTAは、ほとんどの一価、二価、三価および四価金属イオン、例えば銀(Ag+)、カルシウム(Ca2+)、マンガン(Mn2+)、銅(Cu2+)、鉄(Fe2+)、コバルト(Co3+)およびジルコニウム(Zr4+)と錯体を形成するが、BAPTAは、Ca2+に特異的である。幾つかの実施形態において、各金属イオンとの錯体中の各金属キレート剤が、結合部分を画定する。そのような錯体は、例えば画定された配列のペプチドのための受容体分子であり、タンパク質中に含まれてもよい。例として、当該技術分野で用いられる標準的方法は、キレート剤であるニトリロ三酢酸(NTA)により示されるオリゴヒスチジンタグと銅(Cu2+)、ニッケル(Ni2+)、コバルト(Co2+)、または亜鉛(Zn2+)イオンとの錯体形成である。
【0050】
アビジンまたはストレプトアビジンを用いて、ビオチン化核酸を固定化してもよく、または金のビオチン含有単層を用いてもよい(Shumaker−Parry, J. S.ら、Anal. Chem.(2004年)、76巻、p918)。更に別の例として生体分子を、例えばピロール−オリゴヌクレオチドパターンを通して、例えば走査型電気化学顕微鏡により、局所的に付着させてもよい(例えばFortin, E.ら、Electroanalysis(2005年)17巻、p495)。詳細には生体分子が核酸である他の実施形態において、生体分子を、例えば光活性化および失活を利用して、固定化単位の表面で直接合成してもよい。例として、選択された表面領域での核酸またはオリゴヌクレオチドの合成(いわゆる「固相」合成)を、電極を利用した電気化学反応を用いて実施してもよい。EgelandおよびSouthern(Nucleic Acids Research(2005年)33巻、14号、e125)により記載された電気化学的脱ブロックステップが、例えばこの目的で用いられてもよい。適当な電気化学的合成は、米国特許出願US2006/0275927にも開示されている。幾つかの実施形態において、UV結合または光依存性5’−脱保護など、生体分子、詳細には核酸分子の光指向性合成(light−directed synthesis)が、実施されてもよい。
【0051】
選択された標的分子への結合アフィニティーを有する分子を、いずれかの手段でナノ結晶に固定化してもよい。例として、各部分を含むオリゴ−またはポリペプチドを、例えばω−官能基化チオールを用いて、チオ−エーテル結合を通してナノ結晶の表面に共有結合させてもよい。選択された結合アフィニティーを有する分子に本発明のナノ結晶を結合させ得る適当な分子を用いて、それをナノ結晶に固定化してもよい。例えば(二官能基)結合剤、例えばエチル−3−ジメチルアミノカルボジイミド、N−(3−アミノプロピル)−3−メルカプトベンズアミド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルマレイミド、また
は3−(トリメトキシシリル)プロピルヒドラジドを用いてもよい。遊離メルカプト酢酸基を生成させ、その後に結合剤を通して被分析物の結合パートナーと共有結合することができるよう、結合剤との反応の前に、ナノ結晶の表面を、例えば氷メルカプト酢酸で処理することにより、修飾させることができる。
【0052】
本発明が容易に理解され実行に移せるよう、以下の非限定的実施例により、特定の実施形態を説明する。
発明の例示的実施形態
概説
コロイド状湿式化学アプローチを、以下の実施例に全般的に採用した。トリ−n−オクチルホスフィン(TOP、90%)、トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO、99%)、n−ヘキサデシルアミン(99%)、1−オクタデセン(ODE、90%)、1−エイコセン(90%)、オレイン酸(90%)、炭酸カドミウム(99.999%)、酢酸カドミウム水和物(99.99+%)、酸化亜鉛(99.999%)、酢酸亜鉛(99.99%)、硫黄粉末(99.98%)およびセレン(100メッシュ、99.999%)は、全てアルドリッチ(Aldrich)の製品であり、酸化カドミウム(99.999%)は、米国のストレム・ケミカルズ(Strem Chemicals)の製品であり、塩基性炭酸亜鉛一水和物(ZnCO3・2Zn(OH)2・H2O、97%)は、ランカスター・ケミカルズ(Lancaster Chemicals)のものであった。用いられた溶媒は全て、アルドリッチのものでAR級の純度であった。
【0053】
量子ドットは、高沸点の非水系溶媒、例えば1−オクタデセン中で製造する。三成分量子ドットの場合、一般にそれらはCdSe/CdMSe/MSe(図2参照。Mは、第IIB族金属元素であり、CdMSeは、合金、例えばZnxCd1-xSeを示す)またはCdSe/CdSeA/CdA(図2参照。Aは、第VIA族非金属元素であり、CdSeAは、合金、例えばCdxSe1-xを示す)の構造を有するが、または四成分量子ドットを同様のアプローチに従って製造する場合には、より複雑な構造を有する。量子ドットの高エネルギー表面を不動態化するのに用いられるキャッピング剤は、オレイン酸またはステアリン酸である。製造したままの量子ドットは、例えばヘキサン、クロロホルムおよびトルエンなどの非水系溶媒に容易に分散される。非水系量子ドット溶液(ほとんどのチオールが可溶性のクロロホルムまたはトルエンが好ましい)をチオールまたはその溶液と単に混合し、振とうして遠沈し、クロロホルムで洗浄して、水またはリン酸緩衝生理食塩水に再分散させることにより、表面のリガンド交換工程を実施する場合には、それらの水溶性対応物を利用することができる。
【0054】
三成分CdSe/CdMSe/MSeの製造(図2参照)
このアプローチでは、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばZnが多いほど波長の短い発光が得られる)の2種のカチオン提供材料(例えばCdOおよびZnO、CdAc2およびZnAc2、CdCO3およびZnCO3・2Zn(OH)2・H2O。これらの組合せは全て試験では成功した)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸塩混合物の均一溶液を形成させた。高温(ほとんどの場合300℃)で、第VIA族非金属元素(例えばTOP/SE)のトリオクチルホスフィン(TOP)溶液を注入した。その温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。試験の多くから、出発時のカチオン提供材料の比を単に変動させることにより、蛍光発光を緻密に調節し得ることが示唆された。2つの実施例を以下に示す。
【0055】
実施例1:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。光沢のある明赤色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
【0056】
実施例2:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。明緑黄色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
三成分CdSe/CdSeA/CdAの製造(図2参照)
このアプローチでは、第IIB族カチオン提供材料(例えばCdO、CdAc2およびCdCO3)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸カドミウム溶液を形成する。高温(ほとんどの場合300℃)で、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えば硫黄が多いほど波長の短い発光が得られる)のアニオン提供材料の2種のTOP溶液の混合物(例えばTOP/SおよびTOP/Se)を注入した。その反応温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。2、3回の試験から、アニオン提供材料の比を単に変動させることにより、蛍光発光を緻密に調節し得ることが示唆された。2つの実施例を以下に示す。
【0057】
実施例3:CdSe/CdxSe1-x/CdS(Cd:S:Se=1:0.45:0.45)の製造
材料
1. 0.128g 酸化カドミウム(CdO、1.0mmol)
2. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
3. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
4. 0.45mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
5. 0.45mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、4と5の混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。緑黄色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
【0058】
実施例4:CdSe/CdSxSe1-x/CdS(Cd:S:Se=1:0.09:0.81)の製造
材料
1. 0.128g 酸化カドミウム(CdO、1.0mmol)
2. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
3. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
4. 0.09mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
5. 0.81mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、4と5との混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。橙色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
四成分Cd/Se/M/Aの製造(仮定された錯体構造)
このアプローチでは、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばZnが多いほど波長の短い発光が得られる)の2種のカチオン提供材料(例えばCdOおよびZnO、CdAc2およびZnAc2、CdCO3およびZnCO3・2Zn(OH)2・H2O)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸塩混合物の均一溶液を形成させた。高温(ほとんどの場合300℃)で、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばより硫黄が多いほど波長の短い発光が得られる)のアニオン提供材料の2種のTOP溶液(例えばTOP/SおよびTOP/Se)の混合物を注入した。その反応温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。2、3回の試験から、蛍光発光の調節が極めて複雑であるにもかかわらず、この場合、室内灯励起性量子ドットが製造されることが示唆された。実施例を以下に示す。
【0059】
実施例5:CdxSeyZn1-xS1−y(Cd:Zn:S:Se=1:1:0.2:1.8)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 0.6mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.6mmol)
6. 0.6mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.6mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5と6の混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。橙色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
三成分の室内灯励起性量子ドットでの合金化試験
この実験は、コア−マントル−シェル型の室内灯励起性量子ドットが、十分に高温に加熱された場合に、合金化工程を受けるかどうかについて試験した。高温で合金化すると、これらの量子ドットは層構造(コア−マントル−シェル)の兆候がみられる。このため、2種の異なる方法を適用した。実施例6では、単に非配位性溶媒ODEをより高沸点の類似体1−エイコセンと交換し、他の材料は全て不変のままであった。反応を300℃で30分間実施し、次に生成物を380℃まで2、3時間加熱した。実施例7および8に示された2番目の試験では、TOPO/HDAの混合物を、ODEの代わりに溶媒として用いた。最初に量子ドットを300℃で製造し、次に340℃でそれぞれ1〜2、3時間加熱した。合金化工程は、実施例7および8の両方で観察されたが、実施例6では観察されなかった。
【0060】
実施例6:1−エイコセン中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−エイコセン
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4(4は、70℃のオーブンで予め加温して融解させた)を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5mlを高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。その後、温度を340℃まで30分間上昇させたが、明白な色の変化は観察されなかった。温度を360℃および380℃に上昇させた場合でも、色の変化は認められなかった。反応温度を380℃で10時間保持した後、わずかな分解(おそらく溶媒から)以外は何も起こらなかった。室温まで冷却すると、反応混合物が赤色を示した。
【0061】
実施例7:TOPO/HDA中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.12g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 7.70g TOPO(20mmol)
5. 4.80g HDA(20mmol)
6. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50m L三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3
回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、その後4および5を反応フラスコに添加した。窒素ガスで更に1サイクル脱気/浄化した後、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、300℃で6を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。粗生成物(赤色)2mLが得られた後、反応温度を340℃まで1時間上昇させた。最終的な反応混合物は、室温に冷却すると緑色を示し、340℃での変化が示され、それがおそらく合金化工程であった。
【0062】
実施例8:TOPO/HDA中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.12g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 7.70g TOPO(20mmol)
5. 4.80g HDA(20mmol)
6. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、その後4および5を反応フラスコに添加した。窒素ガスで更に1サイクル脱気/浄化した後、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、300℃で6を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。粗生成物(緑色)2mLが得られた後、反応温度を340℃まで4時間上昇させた。最終的な反応混合物は、室温に冷却すると青色を示し、340℃での変化が示され、それがおそらく合金化工程であった。
成長の反応速度論
コア−マントル−シェル型量子ドットの成長をよりよく理解して、提案された構造の更なる証拠を得るために、異なる手順を組合わせた2つの実施例を示す。反応混合物のアリコートの溶液を、異なる反応時間でUV−可視およびフォトルミネッセンス分光法により測定した。
【0063】
実施例9:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、反応混合物のアリコートを、それぞれ1分目、2分目、3分目、4分目、5分目、10分目、15分目、20分目、25分目、30分目、60分目、120分目および240分目に採取し、直ちに低温n−ヘキサン溶液で急冷した。UV−可視およびフォトルミネッセンススペクトルを、これらの試料の希釈n−ヘキサン溶液から得た。結果を以下に示す。
【0064】
実施例10:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、反応混合物のアリコートを、それぞれ5分目、20分目、40分目、2分目、ならびに4分目、8分目、16分目、32分目および128分目に採取し、直ちに低温n−ヘキサン溶液で急冷した。UV−可視およびフォトルミネッセンススペクトルを、これらの試料の希釈n−ヘキサン溶液から得た。結果を以下に示す。
ステアリン酸とオレイン酸との比較
よりコストの低いステアリン酸をオレイン酸の代替品にすることは、そのような交換が製造された量子ドットの品質を損なわないのであれば可能である(特に大量工業生産の場合)。その交換により最終的な量子ドット生成物に明白な違いが生じるかどうかを、以下の試験で検出した。
【0065】
実施例11:ステアリン酸を用いたCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.13g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。室内灯励起性量子ドットが得られ、ステアリン酸が事実、オレイン酸の適格な代替品となることが示された。
N2気体での脱気/浄化を含まない周囲条件での製造
空気または水分が量子ドットの製造に対して顕著な影響を有するかどうか、即ち窒素での脱気/浄化が必要かどうかを、更なる一つの試験で確認した。これは、製造コストを考慮すべきかどうかをみる、大量生産に必要な試験でもある。
【0066】
実施例12:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造−窒素浄化なし
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素で脱気/浄化せずに、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。約10分後に、透明かつ無色の溶液が形成された。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。光沢のある明赤色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られ、量子ドットが少量の空気および水分の存在下、周囲条件で直接製造し得ることが示された。
規模拡大試験
空気開放系で量子ドットを数百ミリグラム製造するのに成功したため、我々の関心はシングルバッチ式で量子ドットを数グラム製造することに拡がった。このため、規模拡大試験を、以下の実施例13に示すとおり実施した。
【0067】
実施例13:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の規模を拡大した製造
材料
1. 3.20g 酸化カドミウム(CdO、25mmol)
2. 2.04g 酸化亜鉛(ZnO、25mmol)
3. 64mL オレイン酸(OA、200mmol)
4. 120mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 60mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、60mmol)
材料1〜5を、分水器上に冷却器を備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。反応で発生した水が高温の反応混合物に滴下すると爆発的沸騰または関連の減少が誘発される可能性があるため、装置から生じた水を除去し得る装置または方法を用いることが高く推奨される。亜鉛およびオレイン酸カドミウムを予め調製していれば、そのような爆発的沸騰が回避され得ることに留意した。混合物を撹拌しながら加熱して沸騰させ、沸点で30分間反応させた後、撹拌しながら室温まで自然に冷却させた。明赤色の量子ドットが得られた。反応開始前に酸化物を溶解させなかったにもかかわらず、実験では規模拡大した反応が実行されたことが示された。生成物の収量は、リガンドシェルの重量を含め、〜8.0グラムであった。
【0068】
リガンド交換反応
製造されたままの量子ドットのリガンドシェルであるオレイン酸塩を、リガンド交換反応により所望の官能基を有するシェルに変換することができる。得られた量子ドットが非水系溶媒、例えばクロロホルムに不溶性であるならば、粗量子ドットをリガンド交換反応に直接用いてもよい。この場合、不純物は全て、生成物から簡単に洗い流すことができる。リガンド交換後に量子ドットの疎水性が保持される場合には、量子ドットの精製が必要となる。一般的手順は、以下のとおりである。
【0069】
粗量子ドット生成物0.5mLを、遠沈管中のトルエン2mLに添加する。短時間ボルテックスにかけた後、メタノール8mLを添加する。更にボルテックスにかけると、懸濁溶液が得られ、10000rpmで10分間遠沈した後、管の底に有色のペレットが得られる。そ
の後、上部の溶液をデカンテーションし、底のペレットで全工程を繰り返し行った。その後、2回目に得られたペレットを、チオールまたはその溶液と共に、リガンド交換反応用のクロロホルムに分散させる。
【0070】
これらの量子ドットのリガンド交換反応は、極めて簡便である。以下に示された実施例は、水溶性−COOH末端の量子ドットの製造である。量子ドットクロロホルム溶液5mLを含む遠沈管に、チオグリコール酸0.5mL(過剰量)を添加する。振とう後、溶液は懸濁する。5分間音波処理した後、10000rpmで5分間遠沈することにより、生成物を
回収する。上部の無色溶液を除去して、ペレットをクロロホルムで2回洗浄し、それぞれ遠沈して、ペレットを回収する。得られたペレットは、水またはPBS緩衝液に直接分散させることができる。
2.結果
この部は、第三部で実施された試験から得た幾つかの結果を示し、新規なコア−マントル−シェル構造の量子ドットの有望な光学特性の解釈を試みる。
2.1 全般的比較
コア−シェル型量子ドットを製造する従来の方法と比較して、本発明の方法はかなり簡便であり、生成物はより良好な光学特性を有する。2種のアプローチの間の詳細な比較を、表Iに示す。
2.2 可視光励起性の蛍光
上記のとおり、本発明で製造された量子ドットの新規な特徴は、室内灯励起性の蛍光であり、即ち、その量子ドットは正式な励起光源の非存在下で蛍光色を示す。弱い室内灯でデジタルカメラで撮影された多数のそのような量子ドットの映像の一つを、図6Aに示す。左から右にむかって、亜鉛塩の初期濃度が一様に低下しており、亜鉛およびオレイン酸カドミウムの総濃度は一定である。これによりフォトルミネッセンス発光波長は、緑黄色から近赤外へ徐々に赤色シフトする。これは、亜鉛塩濃度が低いほど、ZnSeシェルの形成がより後期に開始し(より小さい反応速度)、より後期にCdSeが成長して(より大きな寸法)、発光波長の赤色シフトが起こるためと思われる。蛍光は、図6Aの右側の2試料でかなり弱いことが分かる。そのような視覚的差には2つの理由があると思われる:1)右側の2試料の発光波長が近赤外にかなり近く(667nmおよび689nm)、我々の視覚センサーがこれらの波長に感受性がない;2)吸収バンドが可視光波長の範囲全体に及び、黒色に似た色が示され、可視光の全てが吸収される。つまりそれらは、室内灯では蛍光に見えない。
【0071】
UVランプを点灯してこれらの量子ドットを励起させると、直ちに強い蛍光が見られる(図6B)。左側の3試料でも、明白色発光に似た強い輝きが示され、高い量子収率および低い自己吸収(高濃度で)が示された。低い自己吸収は、室内灯での励起可能性を実現し、高濃度溶液で従来の量子ドットと差を生じる重要な因子でもある。
【0072】
本発明の方法により得られた量子ドットのUV可視吸収スペクトルを幾つかの従来の量子ドットのそれと比較すると、低吸収の特徴が明白になる。実施例を図7に示すが、比較
のために吸収を正規化すると、量子ドット試料が両者とも、非常に似たフォトルミネッセンススペクトルを有する。従来の量子ドットの650nm〜450nm範囲のそれらのピークは、室内灯励起性量子ドットでは低いか、または見られない。図7の別の観察は、室内灯励起性量子ドットの最初の吸収ピークが、従来のものよりもわずかに長い波長位置にあり、より小さなストックシフトが示されたことであり、それは結晶品質の改善(特に量子ドット表面)の結果と考えられる。
2.3 出発原料の比率の変動による調節可能な蛍光
室内灯励起性量子ドットの蛍光発光波長は、他の全反応パラメータを不変のまま、製造反応での出発原料の比率を変動させることにより、簡単に調節することができる。反応でのCd/Znの比は、1:19〜9:1の範囲内であり、発光波長はλ=528nm〜λ=698nmの発光波長になる。反応条件および反応時の操作を注意深く繰り返せば、反応は再現性があり、発光波長の位置はばらつきが小さくなる。室内灯励起性量子ドットの幾つかの蛍光スペクトルを、図8に示す。
【0073】
Δλ>160nmの発光ピークの調節可能な波長以外では、波長が短いほど発光ピークが狭くなることが分かる。λ〜560nmの発光では、スペクトルの半値全幅は19nmと小さく、これまで報告されたコア−シェル型量子ドットよりも良好である。
【0074】
誘導結合プラズマ質量分析法(Inductivity Coupled Plasma Mass Spectrometry)(PSB、シンガポール)による室内灯励起性量子ドットの元素分析から、得られた量子ドットの組成が出発原料での結果とほぼ同一であり(Zn/Cd、w/w:2.84/5.38、出発時の比1:1ではモル比0.91
:1に対応する;w/w:4.43/0.85、出発時の比9:1ではモル比8.96:1
に対応する)、合金量子ドット製造で報告されたものとは非常に異なることが示された(X. Zhongら、J. Am. Chem. Soc. 2003年、125巻、p8589;X. Zhongら、J. Am. Chem. Soc. 2003年、125巻、p13539)。室内灯励起性量子ドットの発光ピークは、類似構成の合金量子ドットと比較すると、かなり長い波長にある。これは、室内灯励起性量子ドットのコア−シェル構造がここで製造されたことを示唆している。
2.4 コア−マントル−シェル構造の更なる証拠
コア−マントル−シェル構造を更に立証するために、類似の反応(セクション3.4を参照)を、異なるZn/Cd比で、それぞれ1−エイコセン中、またはn−ヘキサデシルアミン(HDA)(合金化工程が容易)の存在下でトリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)中で実施した。1−エイコセンでは、コア−マントル−シェル型量子ドットが300℃で形成された後、反応混合物を380℃に加熱してその温度で10時間保持したとしても、合金化工程が起こらない。これは、コア−シェル−マントル型量子ドットが極めて良好な熱安定性を有することを示唆している。
【0075】
同様の量の出発原料、同じ温度および同じ反応時間でTOPO/HDAの組合せを用いた場合、ピークはかなり広いが、類似の波長で発光する室内灯励起性量子ドットが得られた(図10の破線を参照;異なる色は、出発原料の比が異なる2種の手順を示す)。これは、この溶媒の組合せがそのような量子ドットの製造には適当でないが、類似の構造を持つ量子ドットが形成されることを示唆している。温度を340℃に上昇させ、その温度を1時間〜2、3時間保持すると(セクション3.4を参照)、発光スペクトルのピークがΔλ80〜100nmでより短い波長に劇的にシフトし(図10の対応する実線を参照)、発光スペクトルが全般的に狭くなった。これらの2種の新しいスペクトルは、合金量子ドットのそれらと類似している。つまり合金化工程の前に2種の対応物は、コア−マントル−シェル構造を有している。
【0076】
コア−マントル−シェル構造の更なる証拠が、それらの製造反応の反応速度により提供
される。図5に示されたのは、出発原料の比が異なる2種の実施例である(セクション3.5)。亜鉛塩の初期濃度が高いと、反応開始時に形成されるCdSeコアが小さくなる(図5A、PL〜532nm)。亜鉛塩類が吸着されるにもかかわらず、コアは〜580nmの発光に対応する寸法にまで成長する。更に加熱すれば、発光の青色シフトが誘導され、それはCdSeおよびZnSeの境界での合金化工程が実施されて、マントル層が形成され、つまりより小さなコアサイズでより短い発光波長になるためと理解される。しかし亜鉛塩の初期濃度が一桁低い規模であれば、合金化工程は不可視になる(図5B)。これは、異なる寸法のCdSe間で融点に差が生じることが原因の可能性が高い(亜鉛塩濃度が低いほど、CdSeコアサイズが大きくなる)。合金の形成には、幾種かの融解工程が必要で、それにより代替のカチオンまたはアニオンを浸透させて、既存の対応物に交換する。本明細書で適用された反応温度は、より高い亜鉛塩濃度で形成されたCdSe核の融点を超える可能性があるが、より低い亜鉛塩濃度で形成されたCdSe量子ドットのそれよりも低い(ナノ結晶の融点は、寸法が小さいほど低くなる)。図5の両方の例で見られたこの合成アプローチのより興味深い特徴は、反応開始時がどれほど不十分であるかにかかわらず、生成物は通常、明確な生成物状態、つまり高い量子収率に達し、量子ドットの品質基準である半値全幅(FWHM)が比較的狭くなる、ということである。
2.5 室内灯励起性量子ドットのXRDパターン
コア−マントル−シェル構造の更なる証拠が、室内灯励起性量子ドットのX線回折(XRD)パターンである。異なる出発Zn/Cd比(19:1〜1:9)を有するコア−マントル−シェル型量子ドットを精製して、XRD測定用にSi(100)基板上に薄いドロップキャスティング膜として製造した。これらの量子ドットのXRDパターンを、図9のセレン化カドミウム量子ドット(下部)およびセレン化亜鉛量子ドット(上部)のそれと共に示す。
【0077】
小さな格子パラメータでは、セレン化亜鉛(ZnSe、最上部)量子ドットの回折ピークが、セレン化カドミウム(CdSe、最下部)量子ドットのそれに比較して、高い角度位置にあることが分かる。本発明において製造された室内灯励起性量子ドットは、同じパターン(ウルツ鉱構造(Wurzite structure))を示し、回折ピークの角度位置は両者のちょうど間にある。室内灯励起性量子ドット中のZnSeの量が徐々に増加するにつれ(シェルの厚さの増加に対応して)、回折パターンが高い角度位置に一様にシフトする。これらの量子ドットのウルツ鉱構造は、CdSe量子ドットの最も共通す
る構造に似ている。これは、CdSeコアが最初に形成して結晶構造を決定し、ZnSeが同じ原子配列をとり(格子を整合させる)シェルとして成長するためと理解することができる。
【0078】
三成分CdSe/CdSeA/CdA量子ドット、例えばCdをSおよびSeに共有される共通物質とするCdSe/CdSexS1-x/CdSでは、状況が変わる。この場合に製造された生成物は、強いフォトルミネッセンスを示すが、それらの結晶構造はもはやウルツ鉱(CdSeに一般的)ではなく、図14に示すとおり閃亜鉛鉱(CdSに一般的)になる。CdS核が最初に形成して(成長のための結晶型を画定する)コア−シェル構造が存在すると考えれば、シェルは、特に水溶性化のために、表面修飾に不安定なCdSeになろう。チオグリコール酸での強固なリガンド交換(試験ごと)により、CdSeシェルの可能性が排除される。その上、CdSはコア−マントル−シェル構造でのコアであれば、最大発光(強度の低いバンド端発光を除く)は、〜480nmになろう。これは、製造された生成物が600nmを超える発光ピークを有し得るとの実験結果と単に矛盾する。長波長の発光からも、発光コアとして、青色光波長範囲の可能性が高いCdSxSe1-xの存在も排除される。これらの事実は全て、生成物の発光中心がおそらくCdSeである可能
性が高く、それが硫黄の存在下でコア−マントル−シェル構造を備えた閃亜鉛鉱構造を形成した、という結論につながる。量子ドットの蛍光がフラスコに注入された溶液中のS/Se比の変動によっても調節し得ることが見いだされた。硫黄の量が増加するにつれ、回
折ピークがより高い角度位置にシフトする(図14の赤い破線)。
【0079】
走査型電子顕微鏡像を量子ドットで撮影すると、CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSeの室内灯励起性ナノ結晶の全てが、ドット形状であることが見いだされた。例を図12Aに示す。これらの量子ドットの単層分散性は十分であり、図8に示される狭い蛍光発光ピークの説明がつく。CdSe/CdSexS1-x/CdSでは、得られたナノ結晶は、図12Bに示すとおり、ほぼ棒状構造でアスペクト比が低い(2未満)。そのような異方性構造の形成は、主に反応時のナノ結晶の異なる面のエネルギー差に関係する。しかし、閃亜鉛鉱構造のナノ結晶では、六面全てのエネルギーが極めて類似していなければならず、それでも異方性の成長を説明するのに十分でない。その上、硫黄が多量であるため、XRDパターンはもはや純粋な閃亜鉛鉱ではない(図14の赤い破線では〜30°にショルダーピーク)。棒状であったことと併せると、複雑な成長メカニズムがCdSe/CdSexS1-x/CdSナノ結晶の形成に関与することが示唆される。
【0080】
2種のカチオン(Cd2+およびZn2+)と2種のアニオン(S2-およびSe2-)との反応から製造された四成分ナノ結晶では、Cd/ZnとS/Seの間で特定の比が用いられると、花の形状が観察される。図13は、そのような生成物の像を異なる倍率で示す。口径が20nmよりも大きいと、これらの結晶は強い蛍光を示す。
【0081】
本明細書内の過去に刊行された文書の列挙または議論は、その文書が技術水準の一部または共通の一般常識であるとの認識として、必ずしも捉えられるべきではない。個々の文書が特別に、そして個別に援用されるものとして示されていたとしても、列挙された全ての文書が、全ての目的のために全体が本明細書に援用される。
【0082】
本発明を、本明細書内に広範かつ包括的に記載した。その包括的開示に含まれる狭い種(species)およびジェネリックより下位のグループ(subgenerics)の各々も、本発明の一部を形成する。これは、本発明の包括的(generic)な記載を含むが、対象物が属(genus)から除去されることを前提または否定的制約とし、除去された材料が具体的に本明細書に引用されたかどうかにかかわらない。
【0083】
本明細書に例示的に記載された発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素または限定を用いずに適宜実施してもよい。つまり例えば、用語「含む」「包含する」「含有する」などは、広範に、限定なしに読み取られる。加えて、本明細書で用いられる用語および表現は、説明に関して用いられ、限定として用いられるものではなく、図示および説明された特徴またはその一部の均等物を除外するそのような用語および表現の使用を意図するものではなく、請求された本発明の範囲内で様々な改良が可能であることを認識されたい。本発明の更なる目的、利益、および特徴は、前述の実施例の実験および添付の特許請求の範囲から当業者に明白となろう。つまり本発明が、例示的実施形態および任意の特徴により具体的に開示されるが、そこに具体化され本明細書に開示された発明の改良および変更を当業者が頼りにしてよいこと、そしてそのような改良および変更が本明細書の範囲内とみなされることを理解すべきである。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、それにより本発明がマーカッシュ群の各構成メンバーまたは構成メンバーのサブグループに関しても記載されていることが、当業者には認識されよう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法に関する。
本願は、米国特許商標庁に2007年8月6日に出願され、シリアル番号第60/541,179号が割り当てられた「Visible Light Excitable Nanocrystals and Methods of Preparing Them」を参照しており、それらの出願の優先権の利益を主張するものである。本明細書に含まれず、PCTの規則4.18を準用するPCTの規則20.5(a)を参照する明細書、特許請求の範囲または図面のいずれかの要素または部分を援用するなど、2007年8月6日に提出された上記出願の内容は、全ての目的で本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノ粒子は、着色剤(例えばステンドグラス窓中の)、触媒、磁気薬物送達物、癌低体温療法、磁気共鳴画像での造影剤、生物学での磁気および蛍光タグ、太陽光発電、ナノバーコードまたはディーゼル車両での排ガス制御など広範囲の適用が見いだされている。
【0003】
(3つの空間方向全ての)伝導帯電子、価電子帯正孔、または励起子の運動を制限する半導体ナノ粒子、代表的にはナノ結晶は、電荷の「液滴」として働き、量子ドットと呼ばれる。量子ドットは、2〜10ナノメートルと小さくすることが可能で、自己組織化量子ドットは、代表的には寸法が10〜50ナノメートルの範囲内である。
【0004】
量子ドットは、エレクトロニクス、蛍光画像および光符号化など、様々な使用で関心を集めた。それらは、理論的に高い量子収率ゆえに光学的適用では特に重要である。電子的適用では、それらは単電子トランジスタのように作用して、クーロンブロッケード効果を示すことが立証されている。
【0005】
量子収率の高い水溶性量子ドットは、蛍光標識に基づく生物学的研究での中心的存在の一つであった。この目的で最も早く入手できた量子ドットは、半導体のコアおよび有機リガンドのシェル(CdSeが代表的)を含む量子ドットから製造された。異なる安定化剤の存在下で複雑なリガンド交換法に従いチオグリコール酸を使用するか、または疎水性−疎水性相互作用を利用して製造されたままの脂溶性量子ドットを両親媒性分子/高分子でコーティングするか、または量子ドットをシリカシェルでカプセル化して、水溶性化を実現した。これらのアプローチの複雑さにとは無関係に、得られた量子ドットの量子収率は低かった。これは、一方ではCdSeコア型量子ドットの低い量子収率を譲り受けたため、他方では半導体表面があまり不動態化されておらず、発光中心がプロセスの間に容易に損傷されて、量子収率が更に低くなるためである。合金量子ドットは、高い量子収率を有するが、脆い表面が水溶性化において問題となる。
【0006】
不動態化した半導体材料という更なる層を発光コアとリガンド層の間に追加することにより、量子ドットにコア−シェル構造を導入すると、量子ドットの光学特性が大幅に改善される(非特許文献1〜3参照)。それと同時に、これらのコア−シェル型量子ドットの水溶性化処理がより簡便になり、得られた生成物の脆性が低くなる(非特許文献4〜6参照)。コア−シェル型量子ドットの製造は、2つの基本的ステップを有する:(1)高品質のコア型量子ドットの製造および精製、(2)有機金属剤および他の第VIA族物質供給源(例えばSまたはSe)を用いたコア型量子ドットのコーティングと、続いての逐次イオン層吸着および反応(Successive Ion Layer Adsorpti
on and Reaction)(SILAR)成長法(上記の非特許文献3参照)。製造の2番目のステップは、最終生成物の品質のために極めて重要であるが、手間がかかり制御が困難である(特に大量の生成物を望む場合)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.A.HinesおよびP. Guyot−Sionnest著、J. Phys. Chem. 1996年、100巻、p468
【非特許文献2】B. O. Dabbousiら、J. Phys. Chem. B、1997年、101巻、p9463
【非特許文献3】X. Pengら、J. Am. Chem. Soc. 1997年、119巻、7019号、p16〜18
【非特許文献4】S. Kimら、J. Am. Chem. Soc.2003年、125巻、p11466
【非特許文献5】D.R.Larsonら、Science、2003年、300巻、p1434
【非特許文献6】J.K.Jaiswalら、Nat.Biotech、2003年、21巻、p47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ本発明の目的は、上記説明の問題の少なくとも一部を克服するナノ結晶複合材料、詳細にはナノ粒子を形成するのに用いられ得る方法またはプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法を提供する。
第1の態様の一実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、MおよびSeから構成される。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。それにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することも含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0010】
第1の態様の別の実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、M、SeおよびAから構成される。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。その方法は、Aをその溶液に添加することも含む。AおよびSeをその溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0011】
第1の態様の別の実施形態において、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料は、元素Cd、SeおよびAから構成される。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であ
る。この実施形態において、その方法は、元素CdまたはCd前駆体の溶液を、適当な溶媒で形成することを含む。代表的にはその溶媒は、アミンを少なくとも本質的に含まない。更にその方法は、元素Seをその溶液に添加することを含む。その方法は、Aをその溶液に添加することも含む。AおよびSeをその溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。その方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0012】
関連する第2の態様において、本発明は、(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成のナノ結晶を形成する方法を提供する。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素である。Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。その方法は、元素CdまたはCd前駆体を、適当な溶媒に添加することを含む。その方法は、元素Seをその溶媒に添加することも含む。(a)Cd、M、Seまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、その方法は、Mまたはその前駆体を添加することも含む。(b)Cd、Se、A、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、その方法は、Aを添加することも含む。各化合物を溶媒に添加することにより、反応混合物が形成される。更にその方法は、反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱することを含む。反応混合物の加熱は、反応混合物中に形成された水を除去することを更に含む。その方法は、その後、反応混合物を冷却することを更に含む。その方法は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離することも含む。
【0013】
本発明の方法により得られるナノ結晶は、複合材料で不均一である。代表的な実施形態において、ナノ結晶は、コア−シェル型である。
第3の態様において、本発明は、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料に関する。そのナノ結晶複合材料は、(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有する。Mは、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aは、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である。そのナノ結晶複合材料は、第1または第2の態様での方法により得ることができる、または得られる。
【0014】
第4の態様において、本発明は、発光体の製造における、上記方法の一つにより得られるナノ結晶の使用にも関する。
本発明は、詳細な説明を添付の図面と併せて参照することにより、より良好に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、コア型量子ドットの構造、例えばCdSe、CdS、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、PbS、PbSe、ZnOなどを概略的に示す。図1Bは、コア−シェル型量子ドットの構造、例えばCdSe/ZnS、CdTe/ZnS、CdSe/ZnSeなどを概略的に示す。図1Cは、合金量子ドットの構造、例えばCdSexTe1-x、ZnxCd1 -xSe、ZnxCd1-xS、CdSxSe1-xなどを概略的に示す。
【図2】コア−マントル−シェル構造を有するナノ結晶/量子ドットとして記載され得る、本明細書で得られたナノ結晶複合材料を概略的に示す。一実施形態において、コアは、例えばCdSeから構成され、マントルは、CdZnSeから構成され、シェルは、ZnSeから構成されてもよい。別の実施形態において、コアは、例えばCdSeから構成され、マントルは、CdSeSから構成され、シェルは、CdSから構成されてもよい。
【図3】厚さの大きい本発明のナノ結晶複合材料のシェルの転位を防ぐ効果の可能な説明を示すが、格子不整合は、相分離の原因である可能性がある(図3の左部分)。コアとシェルの境界で、部分的に合金化が起こる可能性がある(温度(T)制御)。こうしてマントルは、コアとシェルの間の接着層として働くと見なすことができる。
【図4】予測された反応進行を、力学的に制御された反応として示す。コアは、インサイチュで(in−situ)形成され、一段階の操作が実施されたため、連続および交互の注入は必要ない。
【図5】フォトルミネッセンススペクトルの時間経過により示された、出発原料中のZn:Cdのモル比が(A)9:1、(B)1:1の2種の室内灯励起性量子ドット(room−light excitable quantum dots)の形成の進行を示す。1と表示された曲線は、波長(左の縦座標)を示し、2と表示された曲線は、スペクトルの半値全幅(右の縦座標)を示す。
【図6】本発明の方法により得られた室内灯励起性量子ドットの写真を示す。A:弱い室内灯での量子ドット、B:UV照射の下での量子ドット。両方の例で、カメラのフラッシュは使用しなかった。
【図7】室内灯励起性量子ドット(細い実線)の一種および従来の量子ドット(太い点線)のUV−可視スペクトルを示す。可視光波長では、前者の吸収が弱い。
【図8】室内灯励起性Cd+Zn+Se複合材料量子ドットのフォトルミネッセンススペクトルを示す。左から右に向かって、量子ドット中の亜鉛の量が一様に減少し、発光が528nmから689nmにシフトした。
【図9】複合材料Cd+Zn+Seの異なる室内灯励起性ナノ結晶複合材料(量子ドット)(予測される構造CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSe)のX線回折パターンを示す。各図の上の数値は、対応する量子ドットを製造するための出発原料中のZn/Cdモル比を示す。最上部および最下部のデータは、それぞれ純粋なZnSeおよびCdSe量子ドットのXRDパターンである。
【図10】300℃でTOPO/HDA中で製造された室内灯励起性量子ドット(点線)および同じ室内灯励起性量子ドットを十分に高い温度に加熱することにより形成されたその合金対応物(実線)のフォトルミネッセンススペクトルを示す。出発原料中のZn/Cdのモル比は、1:1または9:1で、その量子ドットはそれぞれ細い(1)線または太い(2)線のスペクトルである。
【図11】スピンコーティングにより得られた高分子/量子ドットハイブリッド薄膜(ポリ(メタクリル酸メチル)中の室内灯励起性量子ドット)を示す。
【図12】室内灯励起性量子ドットの透過型電子顕微鏡像を示す。A:Cd+Zn+Se(予測される構造CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSe)、B:Cd+Se+S(予測される構造CdSe/CdSexS1-x/CdS)
【図13】Zn+Cd+Se+Sから構成された四成分の室内灯励起性ナノ結晶の透過型電子顕微鏡像を示す。2つの画像(A)および(B)は、異なる倍率である。
【図14】Cd+Se+Sから構成された室内灯励起性量子ドット(予測される構造CdSe/CdSexS1-x/CdS)のX線回折パターンを示す。破線の曲線は、より高いS/Se比の生成物から測定される。
【図15】コア−シェル型量子ドットの製造に関する従来法と本発明の方法の比較。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これらの添付された図から理解されるとおり、ナノ結晶は、本発明の方法を用いて形成することができる。例として、本発明の方法により得られたナノ結晶は、発光体、増幅体、生物学的センサー内で、または計算法に用いてもよい。発光体、即ち発光装置、例えばランプ、発光ダイオード、レーザダイオード、フルオロフォア(例えば腫瘍の検出)、TV画面またはコンピュータモニタに用いられる場合、本発明の方法で工程パラメータの値を選択することにより、発光のピークを含む波長を調整することができる。本発明のそのような一実施形態は、白色光を発光するナノ結晶である。したがって本発明は、本発明の方法により得ることができる、または得られたナノ結晶の使用にも関する。例示的な図から理解されるとおり、発光ピークを含む各波長範囲は、元素Aが添加される温度、反応時
間、用いられる溶媒、用いられる分散剤、および添加される分散剤の量などの因子により制御することができる。
【0017】
いかなる適当な溶媒を、本発明の方法に用いてよい。溶媒は、配位性溶媒、例えばチオール、アミン、ホスフィンまたはホスフィンオキシドであっても、またはそれを含んでいてもよい。溶媒が非配位性溶媒、例えばオクタデセンである場合、表面結合リガンド、例えばオレイン酸が用いられてもよい。溶媒は、幾つかの実施形態において、エーテルまたはアミン、例えばアルキルアミンまたはジアルキルアミンを含んでいてもよい。それは、イオン液体、例えばホスホニウムイオン液体であっても、またはそれを含んでいてもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は弱配位性溶媒である。それは、非配位性成分、例えばアルカンもしくはアルケン、または強配位性成分、例えばトリ−n−オクチルホスフィンを含んでいてもよい。
【0018】
本発明の方法で用いられる溶媒は、代表的には、例えば約120℃、150℃、180℃を超える、約220℃を超える、約250℃を超える、約280℃、約300℃、または約330℃を超える沸点を有する高沸点溶媒である。幾つかの実施形態において、本発明の方法の際に最高の選択温度を超える沸点を有する溶媒成分の組合せが、選択される(例えばカドミウムまたはカドミウム化合物を溶解するため)。エーテルまたはアミンそのものが、高沸点溶媒であってもよい。適当なエーテルの例としては、非限定的に、ジオクチルエーテル(CAS−No.629−82−3)、ジデシルエーテル(CAS−No.2456−28−2)、ジウンデシルエーテル(CAS−No.43146−97−0)、ジドデシルエーテル(CAS−No.4542−57−8)、1−ブトキシドデカン(CAS−No.7289−38−5)、ヘプチルオクチルエーテル(CAS−No.32357−84−9)、オクチルドデシルエーテル(CAS−No.36339−51−2)、および1−プロポキシヘプタデカン(CAS−No.281211−90−3)が挙げられる。適当なアミンの例としては、非限定的に、1−アミノ−9−オクタデセン(オレイルアミン)(CAS−No.112−90−3)、1−アミノ−4−ノナデセン(CAS−No.25728−99−8)、1−アミノ−7−ヘキサデセン(CAS−No.225943−46−4)、1−アミノ−8−ヘプタデセン(CAS−No.712258−69−0、純粋なZ−異性体のCAS−No.:141903−93−7)、1−アミノ−9−ヘプタデセン(CAS−No.159278−11−2、Z−異性体のCAS−No.:906450−90−6)、1−アミノ−9−ヘキサデセン(CAS−No.40853−88−1)、1−アミノ−9−エイコセン(CAS−No.133805−08−0)、1−アミノ−9,12−オクタデカジエン(CAS−No.13330−00−2)、1−アミノ−8,11−ヘプタデカジエン(CAS−No.141903−90−4)、1−アミノ−13−ドコセン(CAS−No.26398−95−8)、N−9−オクタデセニルプロパンジアミン(CAS−No.29533−51−5)、N−オクチル−2,7−オクタジエニルアミン(CAS−No.67363−03−5)、N−9−オクタデセン−1−イル−9−オクタデセン−1−アミン(ジオレイルアミン)(CAS−No.40165−68−2)、ビス(2,7−オクタジエニル)アミン(CAS−No.31334−50−6)、およびN,N−ジブチル−2,7−オクタジエニルアミン(CAS−No.63407−62−5)が挙げられる。
【0019】
溶媒に含まれ得る他の化合物としては、非限定的に、アルキル−またはアリールホスフィン、ホスフィンオキシド、アルカン、またはアルケンが挙げられる。各化合物は、長鎖アルキルまたはアリール基、例えばドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどを含んでいてもよい。しかし、そのような長鎖部分を含む化合物が本発明の方法に必要ではないことに、留意されたい。アルケンの例としては、非限定的に、1−ドデセン(CAS−No.112−41−4)、1−テトラデセン(CAS−No.1120−36−1)、1−ヘキサデセン(CAS−No.629−73−2)、1−ヘプタデセ
ン(CAS−No.6765−39−5)、1−オクタデセン(CAS−No.112−88−9)、1−エイコセン(CAS−No.3452−07−1)、7−テトラデセン(CAS−No.10374−74−0)、9−ヘキサコセン(CAS−No.71502−22−2)、1,13−テトラデカジエン(CAS−No.21964−49−8)、または1,17−オクタデカジエン(CAS−No.13560−93−5)が挙げられる。アルカンの例は、デカン(CAS−No.124−18−5)、ウンデカン(CAS−No.1120−21−4)、トリデカン(CAS−No.629−50−5)、ヘキサデカン(CAS−No.544−76−3)、オクタデカン(CAS−No.593−45−3)、ドデカン(CAS−No.112−40−3)およびテトラデカン(CAS−No.629−59−4である。ホスフィンの例は、トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(ドデシル)ホスフィンである。ホスフィンオキシドの例は、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、およびフェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドである。
【0020】
本発明の方法の幾つかの実施形態において、溶媒は、アルケンおよびアミンの両方を含む。アルケンおよびアミンは、任意の比で、例えば約100:1(v/v)〜約1:100
(v/v)、10:1(v/v)〜約1:10(v/v)または約5:1(v/v)〜約1:5(v/v
)の範囲内で存在してもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は、アルキルホスフィンまたはアリールホスフィンと、アミンとの両方を含む。ホスフィンおよびアミンは、任意の比で、例えば約100:1(v/v)〜約1:100(v/v)、約10:1(v/v)〜約1
:10(v/v)または約5:1(v/v)〜約1:5(v/v)の範囲内で存在してもよい。
【0021】
本発明の方法がいかなるアミンの非存在下でも実施され得ることに、留意されたい。これは特に、元素Cd、SeおよびAから構成されたナノ結晶複合材料が形成される方法に当てはまる。しかし、本発明の範囲内では、本明細書に記載された他の全ての方法が、本質的にアミンを含まない溶媒中で実施される。したがって幾つかの実施形態において、用いられる溶媒は、少なくとも実質的にアミンがない、即ちアミンを含まない溶媒である。本明細書で用いられる用語「アミン」は、その標準的意味で用いられ、つまり本発明で用いられる金属、例えばCdまたはZnと反応し得る、少なくとも1個の第1級、第2級または第3級アミン基(一般式R1R2R3Nで示される化合物であり、ここでR1、R2およびR3は、例えば水素またはアルキル基である)を有する化合物を指す。これは、本発明の範囲では、用いられる用語「アミンを含まない」が、本明細書で引用された方法のステップ(i)での適当な溶液の形成において、金属と相互作用し得るいずれかのアミン化合物を指す、ということである。つまり定義の境界内で用語「アミンを含まない」は、本明細書で用いられる反応混合物中で、PSEの第12族の金属、例えばCdと反応する能力を有さないアミンを含むことも包含する。用語「アミンを含まない」の定義に含まれるそのような反応性アミンの例としては、非限定的に、長鎖アルキルまたはアリール基を有するアミン、例えばドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン、またはトリオクチルアミンが挙げられる。上記の境界内で、溶媒に関して本明細書で用いられる用語「少なくとも本質的に含まない」は、全ての液体内容物に重要な影響を及ぼさない溶媒量の使用を指す。この用語は、つまりアミンの完全な不含、および微量の存在、例えば約0.01%、約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%または約5%(用いられる溶媒全量に関して)を包含する。したがって本発明の方法のこれらの実施形態において、本明細書で定義された溶液または反応混合物を調製する主溶媒(アミン以外の異なる溶媒の混合物であってもよい)が、アミン化合物とは異なる溶媒であるか、またはそれが優占的および支配的である。例として、そのような実施形態において、非配位性溶媒、例えばアルケン(オレフィン)、例えば1−オクタデシルエチレン、1−オクタデセニルエチレン、1−エイコセン(1−イコセン)、ドコサエン、トリコサエン、テトラコサエン、7,11−オクタデカジエニレン、2−メチルヘプタメチレン、1−ブチルヘキサメチレン、2−メチル−5−エチルヘプタメチレン、2,3,
6−トリメチルヘプタメチレン、6−エチルデカメチレン、7−メチルテトラデカメチレン、7−エチルヘキサデカメチレン、7,12−ジメチルオクタデカメチレン、8,11−ジメチルオクタデカメチレン、7,10−ジメチル−7−エチルヘキサデカメチレン、オクタデカメチレンまたはウンデカメチレンを、溶媒として用いてもよく、それに界面活性剤などの分散剤を添加してもよい。
【0022】
本発明の方法を実施するのに2種の一般的実施形態が存在するが、その組み合わせおよび改変は当業者の技術範囲内である。第1の実施形態において、金属またはその各前駆体の溶液は、適当な溶媒、例えば先に列挙された溶媒(または溶媒混合物)中で形成される。それにより形成された溶液に、1または2種のカルコゲンが添加される。第2の実施形態において、あらかじめ金属溶液を形成させずに、金属またはその各前駆体と、1種または2種のカルコゲンとが、各溶媒に添加される。つまりこの第2の実施形態は、「ワンポット反応」と記載することもできる。この第2の実施形態において、本発明の方法でナノ結晶複合材料を形成する反応を実施しながら、反応系から水を除去することが望ましい場合がある。水を除去すれば、発生した水の副反応による発火および/または爆発のリスクが回避または予防される。水の除去は、有機化学で用いられるいずれか公知の各(標準的)方法を用いて実施することができる。例えば冷却器を分水器と一緒に用いることにより、水を除去することができる。あるいは、またはそれに加えて、反応の途中で形成される水の濃縮および続いての分離などの(唯一の)物理的方法を用いる代わりに、酸化カルシウムなどの乾燥剤との反応など、化学反応により水を除去することが可能である。乾燥剤が反応を妨害しないのであれば、それを反応混合物に含めることができる。その他に、乾燥剤を反応混合物の外部に設置して、蒸発した水と反応させることができる。
【0023】
その方法で用いられる金属の一種は、カドミウムである。カドミウムは、例えば、元素カドミウムの形態またはカドミウム前駆体の形態で用いてもよい。カドミウム前駆体は、一般にカドミウム化合物または元素カドミウムから形成され、提供されて溶媒に添加される。選択された溶媒に溶解させることができ、ナノ結晶の形成に十分な反応性を有する、いかなるカドミウム化合物を用いてもよい。幾つかの実施形態において、特定の反応性、例えば中等度の反応性を有していて、反応工程の進行を簡便に制御できるカドミウム化合物を選択することが望ましい場合がある。その工程が代表的な実験室規模を超える規模、例えば約1リットルまたは約10または100リットルの規模で実行されるなら、そのような選択が望ましい可能性がある。カドミウム化合物は、例えば炭酸カドミウムおよび塩化カドミウムなどの無機カドミウム塩であってもよい。カドミウム化合物は、酢酸カドミウムまたはカドミウムアセチルアセトナートなどの有機カドミウム化合物(例えば塩)であってもよい。幾つかの実施形態において、有機化合物とは異なる、即ち有機化合物でないカドミウム化合物が、用いられる。そのような化合物は、酸化カドミウムまたは水酸化カドミウムであってもよい。それでも、各カドミウム化合物を、無機または有機塩などのカドミウム塩に溶解および変換してもよい(以下参照)。それぞれカドミウム化合物の溶液の形成は、幾つかの実施形態において、溶媒を高温にすることを含んでいてもよい。カドミウムまたはカドミウム化合物を溶解させた後、溶液の温度を変化させても、例えば選択した温度に低下させてもよい。
【0024】
カドミウム前駆体も、カドミウム化合物であるが、幾つかの実施形態において、本発明の方法を実施するために提供されたカドミウムまたはカドミウム化合物とは異なっていてもよい。例としては、幾つかの実施形態において、カドミウム前駆体は、有機カドミウム化合物である。そのようなカドミウム有機化合物の溶液を、用いられた溶媒中で形成させてもよい。カドミウム有機化合物は、可能ならば溶媒の存在下で、無機対応物を長鎖有機酸と反応させることにより得てもよい。無機または有機カドミウム化合物のほとんどは、可溶性有機塩を選択された溶媒中で形成するのに用いてもよい。適当な出発カドミウム化合物の4例が、酸化カドミウム、水酸化カドミウム、炭酸カドミウム(CdCO3)、お
よび塩化カドミウム(CdCl2)である。反応時に形成され得る有機化合物の例は、オレイン酸カドミウムおよびステアリン酸カドミウムなどの有機塩である。幾つかの実施形態において、カドミウム前駆体は、無機カドミウム塩である。代表的には長鎖有機カルボン酸である有機カルボン酸などの有機酸を無機カドミウム塩(酸化カドミウムを溶解することにより得ることもできる)の溶液に添加する際、有機カドミウム塩、例えば有機カルボン酸のカドミウム塩を形成させてもよい。
【0025】
これに関連して本発明の方法は、分散剤、例えば界面活性剤(同じく上記参照)を添加することを含んでいてもよい。分散剤は、本発明の方法で用いられる金属のリガンドとして作用し得る。分散剤が各金属の配位の補助もなし得る。カドミウムまたはカドミウム化合物の溶液を形成する前、それと同時に、またはその後に、分散剤を溶媒に添加してもよい。各溶媒で形成されたカドミウムまたはカドミウム化合物の溶液に、分散剤を添加してもよい。代表的には硫黄もしくはセレン(以下も参照)、またはそれらの前駆体を添加する前に、分散剤を添加する。分散剤は一般に、極性頭部基を含み、それは水素含有基であってもよい。例えば、いかなる界面活性剤を、分散剤として用いてもよい。界面活性剤は、例えば有機カルボン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、有機スルホン酸またはそれらの混合物であってもよい。適当な有機カルボン酸の例としては、非限定的に、ステアリン酸(オクタデカン酸)、ラウリン酸、オレイン酸([Z]−オクタデカ−9−エン酸)、n−ウンデカン酸、リノレン酸、((Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、アラキドン酸((全ての−Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、リノールエライジン酸((E,E)−9,12−オクタデカジエン酸)、ミリストレイン酸(9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデセン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)パルミチン酸(ヘキサデカン酸)およびγ−ホモリノレン酸((Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸)が挙げられる。他の界面活性剤(例えば、有機ホスホン酸)の例としては、ヘキシルホスホン酸およびテトラデシルホスホン酸が挙げられる。過去にオレイン酸がナノ結晶を安定化し得て、オクタデセンを溶媒として使用し得ることが観察された(Yu, W, W.およびPeng, X.著、Angew. Chem. Int. Ed.(2002年)41巻、13号、p2368−2371)。他のナノ結晶の合成において、界面活性剤が、形成されたナノ結晶の結晶形態に影響を及ぼすことが示された(Zhou, G.ら、Materials Lett.(2005年)59巻、p2706−2709)。金属またはその各前駆体の溶液が、適当な溶媒中で形成される実施形態において、界面活性剤は、幾つかの実施形態において、1種以上の金属またはその各前駆体と共に添加されてもよい。金属溶液を予め形成させずに、金属またはその各前駆体と1または2種のカルコゲンとを接触させる実施形態において、界面活性剤を、例えば金属と共に、そして/または1もしくは2種のカルコゲンと共に添加してもよい。
【0026】
幾つかの実施形態において、更なる金属Mまたはその前駆体が用いられる。更なる金属Mの前駆体は、一般に金属Mの化合物または元素の金属Mから形成される。各化合物または金属元素が、本発明の方法を実施するために提供され、溶媒に添加される。選択された溶媒に溶解し得る、いかなる金属化合物を用いてもよい。金属化合物は、例えば炭酸塩もしくは塩化物などの無機金属塩、または酢酸塩もしくはアセチルアセトナートなどの有機化合物(例えば塩)であってもよい。金属MおよびCdまたはその前駆体の両方が用いられるそのような実施形態において、カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体との両方の溶液が形成される。金属Mは、Cd以外の化学元素の周期表の第12族元素である(新しいIUPAC命名法による。CAS命名法および古いIUPAC命名法によれば第IIB族)。金属Mは、例えばZnまたはその前駆体であってもよい。先に述べたCdの前駆体への関連を、金属Mに必要な変更を加えて適用する。例えばZn化合物、例えば炭酸亜鉛もしくは塩化亜鉛などの無機亜鉛塩、または酢酸亜鉛もしくは亜鉛アセチルアセトナートなどの有機亜鉛塩が用いられてもよい。化合物は、同じく酸化亜鉛ま
たは水酸化亜鉛であってもよい。
【0027】
2種の金属または金属前駆体、例えばカドミウムおよび亜鉛またはその酸化物が用いられる場合、2種の金属/前駆体はいかなる所望の比で用いられてもよい。カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体は、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内のモル比で用いられ得る。幾つかの実施形態において、カドミウムまたはカドミウム前駆体と、金属MまたはMの前駆体との比は、約1:1である。幾つかの実施形態において、金属M(またはその前駆体)に対するカドミウム(またはその前駆体)のわずかなモル過剰、またはその逆が用いられてもよい。例えば各金属を形成されるナノ結晶の成分に少なくとも実質的に変換するために、例えばコアまたはシェルを確実に特定の最小幅(例えば厚さ)にすることが望ましい場合、または各金属を可能な限り反応させることが望ましい場合に、そのようなわずかな過剰が用いられてもよい。
【0028】
CdまたはCd前駆体と、適宜金属Mまたは金属Mの前駆体との溶液を形成することは、各金属成分(CdまたはCd前駆体、MまたはM前駆体)を適当な溶媒に添加することを含む。幾つかの実施形態において、CdまたはCd前駆体と、適宜金属Mまたは金属Mとの前駆体の溶液を形成することは、溶媒の温度を上昇させることを更に含む。溶媒を、例えば温度を約50℃〜約450℃、例えば約50℃〜約400℃、約100℃〜約400℃、約100℃〜約350℃、約100℃〜約300℃、約150℃〜約300℃、約200℃〜約300℃、または約250℃〜約300℃にしてもよい。
【0029】
先に述べたとおり、本発明の方法の幾つかの実施形態において、金属またはその各前駆体の溶液を適当な溶媒で形成させ、1または2種のカルコゲンを対応する溶液に添加する。カルコゲンを代表的には溶媒に添加するが、溶媒はいかなる溶媒であってもよい。幾つかの実施形態において、配位性溶媒、例えばチオール、アミン、ホスフィン(例えばトリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリノニルホスフィン、トリフェニルホスフィン)またはホスフィンオキシド(例えばトリオクチルホスフォンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフィンオキシド)。幾つかの実施形態において、カルコゲンを各溶媒に溶解させる。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、両方のカルコゲンを同一の溶媒に添加(溶解を含む)してもよい。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、両方のカルコゲンを共通の溶媒に一緒に提供してもよい。2種のカルコゲンを添加する幾つかの実施形態において、同じ溶媒を用いて形成された異なる懸濁液、分散体、溶液などに、2種のカルコゲンを別々に添加する。
【0030】
カルコゲンは、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。代表的にはカルコゲンは、元素のカルコゲンの形態で添加される。本発明の方法の全ての実施形態で用いられるカルコゲンの1種は、セレンである。幾つかの実施形態において、セレン以外の更なるカルコゲンが用いられる。このカルコゲンは、酸素およびセレン以外の化学元素の周期表のいずれの第16族元素であってもよい(新しいIUPAC命名法によるもの。CAS命名法によれば第VIA族、古いIUPAC命名法によれば第VIB族)。適当なカルコゲンの例が、硫黄およびテルルである。カルコゲンを、任意の適当な溶媒に、例えばホスフィン、例えばトリ−n−オクチルホスフィン(TOP、CAS No.4731−53−7)、トリ−n−ノニルホスフィン(CAS No.17621−06−6)、トリ−n−ヘプチルホスフィン(CAS No.17621−04−4)、トリ−n−ヘキシルホスフィン(CAS No.4168−73−4)、トリ−n−ブチルホスフィン(CAS No.998−40−3)、トリ−p−トリルホスフィン(CAS No.1038−95−5)、トリ−l−ナフチルホスフィン(CAS No.3411−48−1)またはトリフェ
ニルホスフィン(CAS No.603−35−0)に添加してもよい。金属溶液を予め形成させずに、金属またはその各前駆体と1または2種のカルコゲンとを接触させる実施形態において、同じカルコゲンを用いてもよい。
【0031】
2種のカルコゲン、例えばセレンおよび硫黄が用いられる場合、2種のカルコゲンはいかなる望ましい比で用いられてもよい。セレンおよびカルコゲンAは、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内のモル比で用いられてよい。幾つかの実施形態において、SeとAとの比は、約1:1である。これに関連して、用いられるカドミウムまたはカドミウム前駆体とセレンとのモル比を、同様に望むとおり選択してもよい。つまりCdまたはCd前駆体とセレンとのモル比を、例えば約500:1〜約1:500、約100:1〜約1:100、約50:1〜約1:50、約20:1〜約1:20、約15:1〜約1:15、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5または約2:1〜約1:2の範囲内で選択してもよい。幾つかの実施形態において、CdまたはCd前駆体とSeとの比は、約1:1である。一実施形態において、カドミウムと他の金属Mとの組合せを、セレンに関して等モル量で、またはPSEの第12族の他の元素と一緒のセレンに関して等モル量で用いる。更なる実施形態において、例えば各金属を本発明の方法で確実に完全に反応させるために、カドミウムに対する、またはカドミウムと他の第12族PSE元素との配合量に対してカルコゲンのわずかなモル過剰を用いてもよい。例示の目的で、本明細書では、形成されたナノ結晶の構造に影響を及ぼすような2種のカルコゲン間のモル比を用い得ることが言及される。例示の目的で式CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSeの組成が用いられるが、CdおよびZnが等モル比(1:1)で用いられる場合、図2に示されたとおり、どちらかといえば厚いマントル構造(このマントルは、若干の均質合金型構造ZnxCd1-xSeを有していてもよい)およびどちらかといえば薄いシェルZnSeが形成されてもよい。あるいはCdおよびZnが1:9のモル比で用いられる場合(Seに対するカルコゲンのモル比が一定に保たれて)、図2に示されたとおり、どちらかといえば薄いZnxCd1-xSeマントル構造およびどちらかといえば厚いZnSeシェルが形成
される。理論に束縛されるのを望むものではないが、このシェルは標準のコア−シェルCdSe/ZnSeナノ結晶中よりも厚くなり得ると考えられる。この厚さ増加の理由は、Cdに比較してZnが9倍のモル過剰であるため、CdSeコアの形成(Cdのほとんどが反応した)後、そして分析方法により検出し得ない非常に薄いマントルの形成後に、より多くのZnが残留するためである。
【0032】
金属またはその各前駆体の溶液が形成される幾つかの実施形態において、溶液は、カルコゲンの添加前に更に加熱されてもよい。それを、例えば約100℃〜約400℃、約150℃〜約500℃、約150℃〜約300℃、約200℃〜約400℃、約250℃〜約350℃または約300℃〜約350℃の範囲内で選択された温度にしてもよい。各温度では、元素A、即ち単独または硫黄もしくはテルルと一緒に用いられるセレンが、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。先に述べられたとおり、この目的で、カルコゲンをTOPなどの溶媒に溶解することができる。
【0033】
カルコゲンを1または2種の金属の溶液に添加する場合、この添加は、カルコゲンを注入することにより実施してもよい。実験室規模、例えば約500ml以下の規模では、この目的で例えばシリンジが用いられてもよい。幾つかの実施形態において、ポンプが、カルコゲンの注入に用いられてもよい。幾つかの実施形態において、カルコゲンは、急速に添加される。幾つかの実施形態において、カルコゲンは別個に添加される。幾つかの実施形態において、カルコゲンは一緒に添加される。カルコゲンをカドミウムまたはカドミウム前駆体の溶液に添加することにより、反応混合物が形成される。先に述べられたとおり、幾つかの実施形態において、金属の溶液を形成させずに、金属またはその各前駆体および
カルコゲンの両方を溶媒に添加する。それにより、反応混合物がこれらの実施形態で形成される。
【0034】
本発明の方法において、反応混合物が更に加熱される。それは、例えば約100℃〜約400℃、約150℃〜約500℃、約150℃〜約300℃、約150℃〜約400℃、約200℃〜約400℃、約250℃〜約350℃または約300℃〜約350℃の範囲内で選択された温度にしてもよい。各温度では、元素A、即ち、硫黄またはセレンが、ナノ結晶の生成に適した形態で添加される。各元素を、任意の適当な溶媒に、例えばホスフィン、例えばトリ−n−オクチルホスフィン(TOP、CAS No.4731−53−7)、トリ−n−ノニルホスフィン(CAS No.17621−06−6)、トリ−n−ヘプチルホスフィン(CAS No.17621−04−4)、トリ−n−ヘキシルホスフィン(CAS No.4168−73−4)、トリ−n−ブチルホスフィン(CAS No.998−40−3)、トリ−p−トリルホスフィン(CAS No.1038−95−5)、トリ−l−ナフチルホスフィン(CAS No.3411−48−1)またはトリフェニルホスフィン(CAS No.603−35−0)に添加してもよい。
【0035】
反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に十分な時間加熱する。所望の時間は、当該技術分野で利用できる標準的技術を用いて決定してもよい。反応の進行を、例えば図5に示されたとおりフォトルミネッセンスを検出することにより、モニタリングしてもよい。反応は、数分、例えば2もしくは5分、約10〜約15分、〜約30分、または〜約45分などを含むミリ秒〜数時間の範囲内で、いずれか所望の時間実施してもよい。所望なら反応は、用いられる試薬および溶媒に関して、不活性雰囲気で、即ち反応性のない、または少なくとも検出可能な程度に反応性のない気体の存在下で、実施する。反応性不活性雰囲気の例は、窒素または希ガス、例えばアルゴンもしくはヘリウムである。
【0036】
代表的には、反応混合物の選択された加熱時間が経過したら、反応混合物を冷却する。その後、形成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離してもよい。
本発明の方法は、発光量子ドットをはじめとするナノ結晶の製造に簡便に用いることができる。これに関して、例えばWO2004/054923に記載されたような、当該技術分野で公知の他の方法とは逆に、本発明人が意外にも、本発明の利用で均質合金以外の複合体ナノ結晶が形成されるのを見出したことに留意されたい。代表的には形成されたナノ結晶は、コア−シェル型である。コア材料とシェル材料の間の動的反応速度の差が、この複合体構造の形成をもたらすと仮定される。理論に束縛されるのを望むものではないが、その兆候から、用いられた出発原料に応じて、本発明の方法により得られたナノ結晶複合体が、以下の構造の一つを有していてもよいことが示唆された:コア/マントル/シェルの形態で概略的に示すと、(1)CdSe/Cd1-xMxSe/MSe、(2)CdSe/Cd1-xSeAx/CdA、および(3)Cdx/SeyM1-x/A1−y。これらの式において、xは、0〜1、例えば約0.001〜約0.999、約0.01〜約0.99または約0.5〜約0.95のいずれかの値である。幾つかの実施形態において、xは、約0.5であってもよい。3番目の概略的に示された構造において、yは、0〜1、例えば約0.001〜約0.999、約0.01〜約0.99または約0.5〜約0.95のいずれかの値である。幾つかの実施形態において、yは、約0.5であってもよい。この構造において、x:yの比は、いかなる所望の値であってもよい。それは、例えば約100:1〜約1:100、約10:1〜約1:10または約5:1〜約1:5の範囲内で選択してもよい。幾つかの実施形態において、x:yの比は、約1:1であってもよい。
【0037】
発光中心であるコアでのインタクトな不動態化により、量子ドットが水溶性に極めて容易に変換され、合理的蛍光強度が保持される。本発明人は、本発明の方法を用いれば、シェルに関して特別に小さなコアを有するナノ結晶が形成され得るという兆候を更に見出し
た。理論に束縛されるのを望むものではないが、コアとシェルの間にマントルが形成される兆候が存在する(図2)。このマントル層が、格子パラメータ転移の「接着剤」層として働き、従来のコア−シェル型量子ドットに共通する格子不整合の問題を軽減することができる。コア−シェル構造が最初に形成され、そして薄いマントル層の形成がナノ結晶のアニーリング時に生じると仮定される。おそらく、薄い合金層が形成されて、コアおよびシェル材料の両方を格子パラメータに整合させるのであろう。
【0038】
シェルがマントルよりも厚さの大きなナノ結晶を、本発明の方法を用いて形成することができる。例として、本発明の方法により形成されたナノ結晶のコアは、5nm未満または3nm未満など10nm未満の幅(例えば口径)であってもよく、全体的なナノ結晶は約2〜約50nmの範囲内、例えば約5〜約20nm、約6〜約15nmの範囲内、例えば約7nm、約8nm、約9nm、約10nm、約11nmまたは約12nmの幅(例えば口径)であってもよい。用いられる金属の比、例えばカドミウムと亜鉛などの金属Mとの比を変動させることにより、そして/または用いられるセレンとテルルもしくは硫黄などの第2のカルコゲンとの比を変動させることにより、異なる寸法のコアおよびシェルを更に形成することができる。
【0039】
これに関連して、別個に、最初はコアを形成させて、次にシェルを形成する必要はなく、複合材料のナノ結晶が形成されることに留意されたい。むしろ複合材料ナノ結晶は、本発明の方法を用いれば、インサイチュで形成される。したがってコア−シェル構造を有する量子ドットは、「一回注入」アプローチにより形成することができ、そのような量子ドットおよび得られる誘導体化生成物の大量生産(容易かつ安価な)の機会が与えられる(実施例11〜13参照)。更にこの複合材料、例えばコア−シェル構造は、加熱時にインタクトのままであるため、本発明の方法により形成されるナノ結晶を再加熱しても、均質な合金は形成されない。先に述べたとおり、本発明の方法により形成されたこれらのナノ結晶は、代表的な実施形態において、蛍光性で発光が可能であり、つまり量子ドットとして取り扱うことができる。代表的にはこれらの量子ドットは、更なる励起光源を使用せずに、弱い室内灯でも蛍光を発する。用いられる金属の対応する比、例えばカドミウムと亜鉛などの金属Mとの比を選択することにより(例えば図8参照)、そして/またはセレンとテルルもしくは硫黄などの用いられるカルコゲンとの比を変動させることにより、これらの量子ドットの所望の蛍光発光波長を選択することができる。
【0040】
例えば高密度充填されたドットのアレイの形態で、本発明の方法により形成されたナノ結晶複合材料(その複数を含む)を、発光層などのナノ結晶の発光配列を形成するため、そして/または発光装置を形成するために用いてもよい。
【0041】
本発明の方法は、ナノ結晶の後処理を含んでいてもよい。本発明の方法により得られたナノ結晶は一般に、少なくとも本質的に、または少なくともほとんど単分散であるが、所望なら粒度分布を狭くするステップを(例えば予防措置または安全性基準として)実施してもよい。そのような技術、例えば粒度選択的沈殿は、当業者に周知である。ナノ結晶の表面を変化させてもよく、例えばコーティングしてもよい。
【0042】
幾つかの実施形態において、本発明の方法により形成されたナノ結晶(またはその複数)は、選択された標的分子、例えば微生物、ウイルス粒子、ペプチド、ペプトイド、タンパク質、核酸、ペプチド、オリゴ糖、多糖、無機分子、合成ポリマー、小有機分子または薬物への結合アフィニティーを有する分子に結合される。
【0043】
本明細書で用いられる用語「核酸分子」は、いずれかの可能な形態、例えば一本鎖、二本鎖またはそれらの組合せのいずれかの核酸を指す。核酸としては、例えばDNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類
似体を用いてまたは核酸化学を用いて生成させたDNAまたはRNAの類似体、ロックされた核酸分子(LNA)、およびタンパク質核酸分子(PNA)が挙げられる。DNAまたはRNAは、ゲノムまたは合成の起源であってもよく、そして一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明のこの方法では、必ずではないが代表的にはRNAまたはDNA分子が用いられる。そのような核酸は、例えばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとのコポリマー、オリゴヌクレオチドなどであってもよい。各核酸は、その上、非天然ヌクレオチド類似体を含んでいてもよく、そして/またはアフィニティータグもしくはラベルに結合していてもよい。幾つかの実施形態において、核酸分子は、単離、濃縮、または精製されてもよい。核酸分子は、例えばcDNAクローニングにより、またはサブトラクティブ・ハイブリダーゼーションにより、天然供給源から単離されてもよい。天然供給源は、ホ乳類、例えばヒト、血液、精液、または組織であってもよい。核酸は、例えばトリエステル法により、または自動DNA合成装置を用いて合成されてもよい。
【0044】
多くのヌクレオチド類似体が公知であり、本発明のナノ結晶複合材料への結合のために用いられる核酸およびヌクレオチド中で用いることができる。ヌクレオチド類似体は、例えば塩基、糖、またはリン酸部分の修飾を含むヌクレオチドである。塩基部分の修飾としては、A、C、G、およびT/U、異なるプリンまたはピリミジン塩基、例えばウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イル、および2−アミノアデニン−9−イル、ならびに非プリンまたは非ピリミジンヌクレオチド塩基の天然および合成の修飾が挙げられる。他のヌクレオチド類似体は、ユニバーサルベースとして作用する。ユニバーサルベースとしては、3−ニトロピロールおよび5−ニトロインドールが挙げられる。ユニバーサルベースは、他の塩基と塩基対を形成することができる。塩基の修飾は、多くの場合、例えば二本鎖の安定性向上などの独特の性質を実現するために、例えば糖修飾、例えば2’−O−メトキシエチルを含むことができる。
【0045】
ペプチドは、合成起源であってもよく、または当該技術分野で周知の方法により天然起源から単離されてもよい。天然起源は、ホ乳類、例えばヒト、血液、精液、または組織であってもよい。ポリペプチドなどのペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成装置を用いて合成してもよい。ポリペプチドの例は、抗体、そのフラグメントおよび抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子である。(組換え)抗体フラグメントの例は、Fabフラグメント、Fvフラグメント、単鎖Fvフラグメント(scFv)、二重特異性抗体、三重特異性抗体(Iliades, P.ら、FEBS Lett(1997年)409巻、p437〜441)、十重特異性抗体(Stone, E.ら、Journal of Immnological Methods(2007年)318巻、p88−94)および他のドメイン抗体(Holt, L. J.ら、Trends Biotechnol.(2003年)、21巻、11号、p484−490)である。抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子の例が、リポカリンファミリーのポリペプチドを基にした突然変異タンパク質である(WO/03029462、Beste他、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1999年)96巻、p1898−1903)。ビリン結合タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ結合リポカリン、ヒトアポリポタンパク質Dまたはグリコデリンなどのリポカリンは、修飾が可能な中性リガンド結合部位を有するため、ハプテンとして知られる選択された小タンパク質領域に結合する。他のタンパク質性結合分子の例は、いわゆるグルボディ(例えば国際特許出願WO96/23879を参照)、アンキリンスカフォールドを基にしたタンパク質(Mosavi, L. K.ら、Protein Science(2004年)13巻、6号、p1435−1448)または結晶スカフォールド(例えば国際特許出願WO01/04144)を基にしたタンパク質、Skerra著 J.Mol. Recognit.(2000年)13巻、p167−187に記載されたタンパク質、アドネクチン、テトラネクチンおよびアビマーである。アビマーは、複数の細胞表面受容体中のマルチドメインの列として生じるい
わゆるA−ドメインを含む(Silverman,J.ら、Nature Biotechnoligy(2005年)23巻、p1556−1561)。ヒトフィブロネクチンのドメインから得られるアドネクチンは、標的への免疫グロブリン様結合のための処理が可能な3つのループを含む(Gill, D. S.およびDamle, N. K.著、Current Opinion in Biotechnology(2006年)17巻、p653−658)。各ヒトホモトリマー性タンパク質から得られるテトラネクチンも、同様にC型レクチンドメイン中に、所望の結合のための処理が可能なループ領域を含む(同書)。タンパク質リガンドとして作用し得るペプトイドが、側鎖がα炭素原子ではなくアミド窒素に結合したペプチドとは異なるオリゴ(N−アルキル)グリシンである。ペプトイドは、代表的にはプロテアーゼおよび他の修飾酵素への抵抗性があり、ペプチドよりもかなり高い細胞透過性を有し得る(例えばKwon, Y.−U.およびKodadek, T.著、J. Am. Chem. Soc.(2007年)129巻、p1508−1509を参照)。
【0046】
更なる例として、アフィニティータグなどの結合部分を用いて、各分子に固定化してもよい。そのような結合部分は、例えば窒素基、リン基、硫黄基、炭素基、ハロゲン基もしくは擬ハロゲン基を含む炭化水素系(高分子を含む)分子などの分子、またはその一部であってもよい。例として、選択された表面は、例えば短い側鎖を有するブラシ状高分子を含んでいてもよく、例えばそれでコーティングされてもよい。固定化表面も、例えばグラフティングにより、ブラシ状構造を含む高分子を含んでいてよい。それは、例えば生体分子、例えばタンパク質、核酸分子、多糖またはそれらの組合せなどの分子を共有結合させる官能基を含んでいてもよい。各官能基の例としては、非限定的に、アミノ基、アルデヒド基、チオール基、カルボキシル基、エステル、酸無水物、スルホナート、スルホナートエステル、イミドエステル、ハロゲン化シリル、エポキシド、アジリジン、ホスホラミダイトおよびジアゾアルカンが挙げられる。
【0047】
アフィニティータグの例としては、非限定的に、ビオチン、ジニトロフェノールもしくはジゴキシゲニン、オリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合タンパク質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、FLAG’−ペプチド、T7エピトープ(Ala−Ser−Met−Thr−Gly−Gly−Gln−Gln−Met−Gly)、マルトース結合タンパク質(MBP)、単純ヘルペスウイルスグルコタンパク質Dの配列Gln−Pro−Glu−Leu−Ala−Pro−Glu−Asp−Pro−Glu−AspのHSVエピトープ、配列Tyr−Pro−Tyr−Asp−Val−Pro−Asp−Tyr−Alaのヘマグルチニン(HA)エピトープ、配列Glu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leuの転写因子c−mycのエピトープ、またはオリゴヌクレオチドタグが挙げられる。そのようなオリゴヌクレーチドタグを用いて、例えば相補的配列を備えた固定化オリゴヌクレオチドにハイブリダイズしてもよい。結合部分の更なる例は、抗体、そのフラグメントまたは抗体様機能を備えたタンパク質性結合分子である(同じく上記参照)。
【0048】
結合部分の更なる例は、ククルビツリル、またはククルビツリルと錯体を形成し得る部分である。ククルビツリルは、代表的にはグリコールウリルとホルムアルデヒドとの酸触媒縮合反応から自己組織化されたグリコールウリル単位を含む大環状化合物である。グリコールウリル単位を含むククルビツリル[n](CB[n])は、代表的には極性ウレイドカルボニル基を含むポルタルを2個有する。これらのウレイドカルボニル基を通して、ククルビツリルは、該当するイオンおよび分子に結合することができる。例としてククルビツリル[7](CB[7])は、フェロセンメチルアンモニウムまたはアダマンチルアンモニウムイオンと強固な錯体を形成することができる。ククルビツリル[7]または例えばフェロセンメチルアンモニウムのいずれかを生体分子に結合させてもよく、残りの結
合パートナー(例えばそれぞれフェロセンメチルアンモニウムまたはククルビツリル[7])を、選択された表面に結合させることができる。その後、生体分子が表面と接触して、生体分子が固定化される。アルカンチオラートを通して金表面に結合した官能基化CB[7]単位が、例えばフェロセンメチルアンモニウム単位を担うタンパク質を固定化させることが示された(Hwang, I.他、J. Am. Chem. Soc.(2007年)129巻、p4170−4171)。
【0049】
結合部位の更なる例としては、非限定的に、オリゴ糖、オリゴペプチド、ビオチン、ジニトロフェノール、ジゴキシゲニンおよび金属キレート剤が挙げられる(以下も参照)。例として、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N,N−ビス(カルボキシメチル)グリシン(ニトリロ三酢酸、NTAとも呼ばれる)、1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(ジメルカプロール)、ポルフィンまたはヘムなどの各金属キレート剤を、標的分子が金属イオンである場合に用いてもよい。例として、EDTAは、ほとんどの一価、二価、三価および四価金属イオン、例えば銀(Ag+)、カルシウム(Ca2+)、マンガン(Mn2+)、銅(Cu2+)、鉄(Fe2+)、コバルト(Co3+)およびジルコニウム(Zr4+)と錯体を形成するが、BAPTAは、Ca2+に特異的である。幾つかの実施形態において、各金属イオンとの錯体中の各金属キレート剤が、結合部分を画定する。そのような錯体は、例えば画定された配列のペプチドのための受容体分子であり、タンパク質中に含まれてもよい。例として、当該技術分野で用いられる標準的方法は、キレート剤であるニトリロ三酢酸(NTA)により示されるオリゴヒスチジンタグと銅(Cu2+)、ニッケル(Ni2+)、コバルト(Co2+)、または亜鉛(Zn2+)イオンとの錯体形成である。
【0050】
アビジンまたはストレプトアビジンを用いて、ビオチン化核酸を固定化してもよく、または金のビオチン含有単層を用いてもよい(Shumaker−Parry, J. S.ら、Anal. Chem.(2004年)、76巻、p918)。更に別の例として生体分子を、例えばピロール−オリゴヌクレオチドパターンを通して、例えば走査型電気化学顕微鏡により、局所的に付着させてもよい(例えばFortin, E.ら、Electroanalysis(2005年)17巻、p495)。詳細には生体分子が核酸である他の実施形態において、生体分子を、例えば光活性化および失活を利用して、固定化単位の表面で直接合成してもよい。例として、選択された表面領域での核酸またはオリゴヌクレオチドの合成(いわゆる「固相」合成)を、電極を利用した電気化学反応を用いて実施してもよい。EgelandおよびSouthern(Nucleic Acids Research(2005年)33巻、14号、e125)により記載された電気化学的脱ブロックステップが、例えばこの目的で用いられてもよい。適当な電気化学的合成は、米国特許出願US2006/0275927にも開示されている。幾つかの実施形態において、UV結合または光依存性5’−脱保護など、生体分子、詳細には核酸分子の光指向性合成(light−directed synthesis)が、実施されてもよい。
【0051】
選択された標的分子への結合アフィニティーを有する分子を、いずれかの手段でナノ結晶に固定化してもよい。例として、各部分を含むオリゴ−またはポリペプチドを、例えばω−官能基化チオールを用いて、チオ−エーテル結合を通してナノ結晶の表面に共有結合させてもよい。選択された結合アフィニティーを有する分子に本発明のナノ結晶を結合させ得る適当な分子を用いて、それをナノ結晶に固定化してもよい。例えば(二官能基)結合剤、例えばエチル−3−ジメチルアミノカルボジイミド、N−(3−アミノプロピル)−3−メルカプトベンズアミド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルマレイミド、また
は3−(トリメトキシシリル)プロピルヒドラジドを用いてもよい。遊離メルカプト酢酸基を生成させ、その後に結合剤を通して被分析物の結合パートナーと共有結合することができるよう、結合剤との反応の前に、ナノ結晶の表面を、例えば氷メルカプト酢酸で処理することにより、修飾させることができる。
【0052】
本発明が容易に理解され実行に移せるよう、以下の非限定的実施例により、特定の実施形態を説明する。
発明の例示的実施形態
概説
コロイド状湿式化学アプローチを、以下の実施例に全般的に採用した。トリ−n−オクチルホスフィン(TOP、90%)、トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO、99%)、n−ヘキサデシルアミン(99%)、1−オクタデセン(ODE、90%)、1−エイコセン(90%)、オレイン酸(90%)、炭酸カドミウム(99.999%)、酢酸カドミウム水和物(99.99+%)、酸化亜鉛(99.999%)、酢酸亜鉛(99.99%)、硫黄粉末(99.98%)およびセレン(100メッシュ、99.999%)は、全てアルドリッチ(Aldrich)の製品であり、酸化カドミウム(99.999%)は、米国のストレム・ケミカルズ(Strem Chemicals)の製品であり、塩基性炭酸亜鉛一水和物(ZnCO3・2Zn(OH)2・H2O、97%)は、ランカスター・ケミカルズ(Lancaster Chemicals)のものであった。用いられた溶媒は全て、アルドリッチのものでAR級の純度であった。
【0053】
量子ドットは、高沸点の非水系溶媒、例えば1−オクタデセン中で製造する。三成分量子ドットの場合、一般にそれらはCdSe/CdMSe/MSe(図2参照。Mは、第IIB族金属元素であり、CdMSeは、合金、例えばZnxCd1-xSeを示す)またはCdSe/CdSeA/CdA(図2参照。Aは、第VIA族非金属元素であり、CdSeAは、合金、例えばCdxSe1-xを示す)の構造を有するが、または四成分量子ドットを同様のアプローチに従って製造する場合には、より複雑な構造を有する。量子ドットの高エネルギー表面を不動態化するのに用いられるキャッピング剤は、オレイン酸またはステアリン酸である。製造したままの量子ドットは、例えばヘキサン、クロロホルムおよびトルエンなどの非水系溶媒に容易に分散される。非水系量子ドット溶液(ほとんどのチオールが可溶性のクロロホルムまたはトルエンが好ましい)をチオールまたはその溶液と単に混合し、振とうして遠沈し、クロロホルムで洗浄して、水またはリン酸緩衝生理食塩水に再分散させることにより、表面のリガンド交換工程を実施する場合には、それらの水溶性対応物を利用することができる。
【0054】
三成分CdSe/CdMSe/MSeの製造(図2参照)
このアプローチでは、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばZnが多いほど波長の短い発光が得られる)の2種のカチオン提供材料(例えばCdOおよびZnO、CdAc2およびZnAc2、CdCO3およびZnCO3・2Zn(OH)2・H2O。これらの組合せは全て試験では成功した)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸塩混合物の均一溶液を形成させた。高温(ほとんどの場合300℃)で、第VIA族非金属元素(例えばTOP/SE)のトリオクチルホスフィン(TOP)溶液を注入した。その温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。試験の多くから、出発時のカチオン提供材料の比を単に変動させることにより、蛍光発光を緻密に調節し得ることが示唆された。2つの実施例を以下に示す。
【0055】
実施例1:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。光沢のある明赤色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
【0056】
実施例2:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。明緑黄色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
三成分CdSe/CdSeA/CdAの製造(図2参照)
このアプローチでは、第IIB族カチオン提供材料(例えばCdO、CdAc2およびCdCO3)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸カドミウム溶液を形成する。高温(ほとんどの場合300℃)で、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えば硫黄が多いほど波長の短い発光が得られる)のアニオン提供材料の2種のTOP溶液の混合物(例えばTOP/SおよびTOP/Se)を注入した。その反応温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。2、3回の試験から、アニオン提供材料の比を単に変動させることにより、蛍光発光を緻密に調節し得ることが示唆された。2つの実施例を以下に示す。
【0057】
実施例3:CdSe/CdxSe1-x/CdS(Cd:S:Se=1:0.45:0.45)の製造
材料
1. 0.128g 酸化カドミウム(CdO、1.0mmol)
2. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
3. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
4. 0.45mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
5. 0.45mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、4と5の混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。緑黄色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
【0058】
実施例4:CdSe/CdSxSe1-x/CdS(Cd:S:Se=1:0.09:0.81)の製造
材料
1. 0.128g 酸化カドミウム(CdO、1.0mmol)
2. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
3. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
4. 0.09mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
5. 0.81mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.45mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、4と5との混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。橙色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
四成分Cd/Se/M/Aの製造(仮定された錯体構造)
このアプローチでは、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばZnが多いほど波長の短い発光が得られる)の2種のカチオン提供材料(例えばCdOおよびZnO、CdAc2およびZnAc2、CdCO3およびZnCO3・2Zn(OH)2・H2O)を、最初、ODE中でオレイン酸と反応させて、オレイン酸塩混合物の均一溶液を形成させた。高温(ほとんどの場合300℃)で、異なる比(所望の発光波長に応じて、例えばより硫黄が多いほど波長の短い発光が得られる)のアニオン提供材料の2種のTOP溶液(例えばTOP/SおよびTOP/Se)の混合物を注入した。その反応温度を30分間保持した後、ヒータを除去し、激しく撹拌しながら溶液を室温まで冷却した。2、3回の試験から、蛍光発光の調節が極めて複雑であるにもかかわらず、この場合、室内灯励起性量子ドットが製造されることが示唆された。実施例を以下に示す。
【0059】
実施例5:CdxSeyZn1-xS1−y(Cd:Zn:S:Se=1:1:0.2:1.8)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 0.6mL 1M 硫黄 TOP溶液(TOP/Se、0.6mmol)
6. 0.6mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、0.6mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5と6の混合物を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。橙色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られた。
三成分の室内灯励起性量子ドットでの合金化試験
この実験は、コア−マントル−シェル型の室内灯励起性量子ドットが、十分に高温に加熱された場合に、合金化工程を受けるかどうかについて試験した。高温で合金化すると、これらの量子ドットは層構造(コア−マントル−シェル)の兆候がみられる。このため、2種の異なる方法を適用した。実施例6では、単に非配位性溶媒ODEをより高沸点の類似体1−エイコセンと交換し、他の材料は全て不変のままであった。反応を300℃で30分間実施し、次に生成物を380℃まで2、3時間加熱した。実施例7および8に示された2番目の試験では、TOPO/HDAの混合物を、ODEの代わりに溶媒として用いた。最初に量子ドットを300℃で製造し、次に340℃でそれぞれ1〜2、3時間加熱した。合金化工程は、実施例7および8の両方で観察されたが、実施例6では観察されなかった。
【0060】
実施例6:1−エイコセン中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−エイコセン
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4(4は、70℃のオーブンで予め加温して融解させた)を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5mlを高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。その後、温度を340℃まで30分間上昇させたが、明白な色の変化は観察されなかった。温度を360℃および380℃に上昇させた場合でも、色の変化は認められなかった。反応温度を380℃で10時間保持した後、わずかな分解(おそらく溶媒から)以外は何も起こらなかった。室温まで冷却すると、反応混合物が赤色を示した。
【0061】
実施例7:TOPO/HDA中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.12g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 7.70g TOPO(20mmol)
5. 4.80g HDA(20mmol)
6. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50m L三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3
回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、その後4および5を反応フラスコに添加した。窒素ガスで更に1サイクル脱気/浄化した後、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、300℃で6を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。粗生成物(赤色)2mLが得られた後、反応温度を340℃まで1時間上昇させた。最終的な反応混合物は、室温に冷却すると緑色を示し、340℃での変化が示され、それがおそらく合金化工程であった。
【0062】
実施例8:TOPO/HDA中でのCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造。合金化試験。
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.12g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 7.70g TOPO(20mmol)
5. 4.80g HDA(20mmol)
6. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜3を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、その後4および5を反応フラスコに添加した。窒素ガスで更に1サイクル脱気/浄化した後、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、300℃で6を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた。粗生成物(緑色)2mLが得られた後、反応温度を340℃まで4時間上昇させた。最終的な反応混合物は、室温に冷却すると青色を示し、340℃での変化が示され、それがおそらく合金化工程であった。
成長の反応速度論
コア−マントル−シェル型量子ドットの成長をよりよく理解して、提案された構造の更なる証拠を得るために、異なる手順を組合わせた2つの実施例を示す。反応混合物のアリコートの溶液を、異なる反応時間でUV−可視およびフォトルミネッセンス分光法により測定した。
【0063】
実施例9:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、反応混合物のアリコートを、それぞれ1分目、2分目、3分目、4分目、5分目、10分目、15分目、20分目、25分目、30分目、60分目、120分目および240分目に採取し、直ちに低温n−ヘキサン溶液で急冷した。UV−可視およびフォトルミネッセンススペクトルを、これらの試料の希釈n−ヘキサン溶液から得た。結果を以下に示す。
【0064】
実施例10:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=9:1:10)の製造
材料
1. 0.013g 酸化カドミウム(CdO、0.1mmol)
2. 0.073g 酸化亜鉛(ZnO、0.9mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、反応混合物のアリコートを、それぞれ5分目、20分目、40分目、2分目、ならびに4分目、8分目、16分目、32分目および128分目に採取し、直ちに低温n−ヘキサン溶液で急冷した。UV−可視およびフォトルミネッセンススペクトルを、これらの試料の希釈n−ヘキサン溶液から得た。結果を以下に示す。
ステアリン酸とオレイン酸との比較
よりコストの低いステアリン酸をオレイン酸の代替品にすることは、そのような交換が製造された量子ドットの品質を損なわないのであれば可能である(特に大量工業生産の場合)。その交換により最終的な量子ドット生成物に明白な違いが生じるかどうかを、以下の試験で検出した。
【0065】
実施例11:ステアリン酸を用いたCdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.13g ステアリン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素ガスで3回、脱気/浄化した後、透明かつ無色の溶液が形成されるまで、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。室内灯励起性量子ドットが得られ、ステアリン酸が事実、オレイン酸の適格な代替品となることが示された。
N2気体での脱気/浄化を含まない周囲条件での製造
空気または水分が量子ドットの製造に対して顕著な影響を有するかどうか、即ち窒素での脱気/浄化が必要かどうかを、更なる一つの試験で確認した。これは、製造コストを考慮すべきかどうかをみる、大量生産に必要な試験でもある。
【0066】
実施例12:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の製造−窒素浄化なし
材料
1. 0.064g 酸化カドミウム(CdO、0.5mmol)
2. 0.041g 酸化亜鉛(ZnO、0.5mmol)
3. 1.28mL オレイン酸(OA、4.0mmol)
4. 12mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 1.2mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、1.2mmol)
材料1〜4を、温度計センサを備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。窒素で脱気/浄化せずに、混合物を撹拌しながら300℃に加熱した。約10分後に、透明かつ無色の溶液が形成された。その後、5を高温の反応混合物に急速に注入し、30分間(注入の開始から)反応させた後、ヒータを除去した。反応混合物が室温になるまで、それを更に撹拌した。光沢のある明赤色の量子ドット(UVランプを用いず)が得られ、量子ドットが少量の空気および水分の存在下、周囲条件で直接製造し得ることが示された。
規模拡大試験
空気開放系で量子ドットを数百ミリグラム製造するのに成功したため、我々の関心はシングルバッチ式で量子ドットを数グラム製造することに拡がった。このため、規模拡大試験を、以下の実施例13に示すとおり実施した。
【0067】
実施例13:CdSe/ZnxCd1-xSe/ZnSe(Zn:Cd:Se=1:1:2)の規模を拡大した製造
材料
1. 3.20g 酸化カドミウム(CdO、25mmol)
2. 2.04g 酸化亜鉛(ZnO、25mmol)
3. 64mL オレイン酸(OA、200mmol)
4. 120mL 1−オクタデシルエチレン(ODE)
5. 60mL 1M セレン TOP溶液(TOP/Se、60mmol)
材料1〜5を、分水器上に冷却器を備えた50mL三ツ口フラスコに入れた。反応で発生した水が高温の反応混合物に滴下すると爆発的沸騰または関連の減少が誘発される可能性があるため、装置から生じた水を除去し得る装置または方法を用いることが高く推奨される。亜鉛およびオレイン酸カドミウムを予め調製していれば、そのような爆発的沸騰が回避され得ることに留意した。混合物を撹拌しながら加熱して沸騰させ、沸点で30分間反応させた後、撹拌しながら室温まで自然に冷却させた。明赤色の量子ドットが得られた。反応開始前に酸化物を溶解させなかったにもかかわらず、実験では規模拡大した反応が実行されたことが示された。生成物の収量は、リガンドシェルの重量を含め、〜8.0グラムであった。
【0068】
リガンド交換反応
製造されたままの量子ドットのリガンドシェルであるオレイン酸塩を、リガンド交換反応により所望の官能基を有するシェルに変換することができる。得られた量子ドットが非水系溶媒、例えばクロロホルムに不溶性であるならば、粗量子ドットをリガンド交換反応に直接用いてもよい。この場合、不純物は全て、生成物から簡単に洗い流すことができる。リガンド交換後に量子ドットの疎水性が保持される場合には、量子ドットの精製が必要となる。一般的手順は、以下のとおりである。
【0069】
粗量子ドット生成物0.5mLを、遠沈管中のトルエン2mLに添加する。短時間ボルテックスにかけた後、メタノール8mLを添加する。更にボルテックスにかけると、懸濁溶液が得られ、10000rpmで10分間遠沈した後、管の底に有色のペレットが得られる。そ
の後、上部の溶液をデカンテーションし、底のペレットで全工程を繰り返し行った。その後、2回目に得られたペレットを、チオールまたはその溶液と共に、リガンド交換反応用のクロロホルムに分散させる。
【0070】
これらの量子ドットのリガンド交換反応は、極めて簡便である。以下に示された実施例は、水溶性−COOH末端の量子ドットの製造である。量子ドットクロロホルム溶液5mLを含む遠沈管に、チオグリコール酸0.5mL(過剰量)を添加する。振とう後、溶液は懸濁する。5分間音波処理した後、10000rpmで5分間遠沈することにより、生成物を
回収する。上部の無色溶液を除去して、ペレットをクロロホルムで2回洗浄し、それぞれ遠沈して、ペレットを回収する。得られたペレットは、水またはPBS緩衝液に直接分散させることができる。
2.結果
この部は、第三部で実施された試験から得た幾つかの結果を示し、新規なコア−マントル−シェル構造の量子ドットの有望な光学特性の解釈を試みる。
2.1 全般的比較
コア−シェル型量子ドットを製造する従来の方法と比較して、本発明の方法はかなり簡便であり、生成物はより良好な光学特性を有する。2種のアプローチの間の詳細な比較を、表Iに示す。
2.2 可視光励起性の蛍光
上記のとおり、本発明で製造された量子ドットの新規な特徴は、室内灯励起性の蛍光であり、即ち、その量子ドットは正式な励起光源の非存在下で蛍光色を示す。弱い室内灯でデジタルカメラで撮影された多数のそのような量子ドットの映像の一つを、図6Aに示す。左から右にむかって、亜鉛塩の初期濃度が一様に低下しており、亜鉛およびオレイン酸カドミウムの総濃度は一定である。これによりフォトルミネッセンス発光波長は、緑黄色から近赤外へ徐々に赤色シフトする。これは、亜鉛塩濃度が低いほど、ZnSeシェルの形成がより後期に開始し(より小さい反応速度)、より後期にCdSeが成長して(より大きな寸法)、発光波長の赤色シフトが起こるためと思われる。蛍光は、図6Aの右側の2試料でかなり弱いことが分かる。そのような視覚的差には2つの理由があると思われる:1)右側の2試料の発光波長が近赤外にかなり近く(667nmおよび689nm)、我々の視覚センサーがこれらの波長に感受性がない;2)吸収バンドが可視光波長の範囲全体に及び、黒色に似た色が示され、可視光の全てが吸収される。つまりそれらは、室内灯では蛍光に見えない。
【0071】
UVランプを点灯してこれらの量子ドットを励起させると、直ちに強い蛍光が見られる(図6B)。左側の3試料でも、明白色発光に似た強い輝きが示され、高い量子収率および低い自己吸収(高濃度で)が示された。低い自己吸収は、室内灯での励起可能性を実現し、高濃度溶液で従来の量子ドットと差を生じる重要な因子でもある。
【0072】
本発明の方法により得られた量子ドットのUV可視吸収スペクトルを幾つかの従来の量子ドットのそれと比較すると、低吸収の特徴が明白になる。実施例を図7に示すが、比較
のために吸収を正規化すると、量子ドット試料が両者とも、非常に似たフォトルミネッセンススペクトルを有する。従来の量子ドットの650nm〜450nm範囲のそれらのピークは、室内灯励起性量子ドットでは低いか、または見られない。図7の別の観察は、室内灯励起性量子ドットの最初の吸収ピークが、従来のものよりもわずかに長い波長位置にあり、より小さなストックシフトが示されたことであり、それは結晶品質の改善(特に量子ドット表面)の結果と考えられる。
2.3 出発原料の比率の変動による調節可能な蛍光
室内灯励起性量子ドットの蛍光発光波長は、他の全反応パラメータを不変のまま、製造反応での出発原料の比率を変動させることにより、簡単に調節することができる。反応でのCd/Znの比は、1:19〜9:1の範囲内であり、発光波長はλ=528nm〜λ=698nmの発光波長になる。反応条件および反応時の操作を注意深く繰り返せば、反応は再現性があり、発光波長の位置はばらつきが小さくなる。室内灯励起性量子ドットの幾つかの蛍光スペクトルを、図8に示す。
【0073】
Δλ>160nmの発光ピークの調節可能な波長以外では、波長が短いほど発光ピークが狭くなることが分かる。λ〜560nmの発光では、スペクトルの半値全幅は19nmと小さく、これまで報告されたコア−シェル型量子ドットよりも良好である。
【0074】
誘導結合プラズマ質量分析法(Inductivity Coupled Plasma Mass Spectrometry)(PSB、シンガポール)による室内灯励起性量子ドットの元素分析から、得られた量子ドットの組成が出発原料での結果とほぼ同一であり(Zn/Cd、w/w:2.84/5.38、出発時の比1:1ではモル比0.91
:1に対応する;w/w:4.43/0.85、出発時の比9:1ではモル比8.96:1
に対応する)、合金量子ドット製造で報告されたものとは非常に異なることが示された(X. Zhongら、J. Am. Chem. Soc. 2003年、125巻、p8589;X. Zhongら、J. Am. Chem. Soc. 2003年、125巻、p13539)。室内灯励起性量子ドットの発光ピークは、類似構成の合金量子ドットと比較すると、かなり長い波長にある。これは、室内灯励起性量子ドットのコア−シェル構造がここで製造されたことを示唆している。
2.4 コア−マントル−シェル構造の更なる証拠
コア−マントル−シェル構造を更に立証するために、類似の反応(セクション3.4を参照)を、異なるZn/Cd比で、それぞれ1−エイコセン中、またはn−ヘキサデシルアミン(HDA)(合金化工程が容易)の存在下でトリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)中で実施した。1−エイコセンでは、コア−マントル−シェル型量子ドットが300℃で形成された後、反応混合物を380℃に加熱してその温度で10時間保持したとしても、合金化工程が起こらない。これは、コア−シェル−マントル型量子ドットが極めて良好な熱安定性を有することを示唆している。
【0075】
同様の量の出発原料、同じ温度および同じ反応時間でTOPO/HDAの組合せを用いた場合、ピークはかなり広いが、類似の波長で発光する室内灯励起性量子ドットが得られた(図10の破線を参照;異なる色は、出発原料の比が異なる2種の手順を示す)。これは、この溶媒の組合せがそのような量子ドットの製造には適当でないが、類似の構造を持つ量子ドットが形成されることを示唆している。温度を340℃に上昇させ、その温度を1時間〜2、3時間保持すると(セクション3.4を参照)、発光スペクトルのピークがΔλ80〜100nmでより短い波長に劇的にシフトし(図10の対応する実線を参照)、発光スペクトルが全般的に狭くなった。これらの2種の新しいスペクトルは、合金量子ドットのそれらと類似している。つまり合金化工程の前に2種の対応物は、コア−マントル−シェル構造を有している。
【0076】
コア−マントル−シェル構造の更なる証拠が、それらの製造反応の反応速度により提供
される。図5に示されたのは、出発原料の比が異なる2種の実施例である(セクション3.5)。亜鉛塩の初期濃度が高いと、反応開始時に形成されるCdSeコアが小さくなる(図5A、PL〜532nm)。亜鉛塩類が吸着されるにもかかわらず、コアは〜580nmの発光に対応する寸法にまで成長する。更に加熱すれば、発光の青色シフトが誘導され、それはCdSeおよびZnSeの境界での合金化工程が実施されて、マントル層が形成され、つまりより小さなコアサイズでより短い発光波長になるためと理解される。しかし亜鉛塩の初期濃度が一桁低い規模であれば、合金化工程は不可視になる(図5B)。これは、異なる寸法のCdSe間で融点に差が生じることが原因の可能性が高い(亜鉛塩濃度が低いほど、CdSeコアサイズが大きくなる)。合金の形成には、幾種かの融解工程が必要で、それにより代替のカチオンまたはアニオンを浸透させて、既存の対応物に交換する。本明細書で適用された反応温度は、より高い亜鉛塩濃度で形成されたCdSe核の融点を超える可能性があるが、より低い亜鉛塩濃度で形成されたCdSe量子ドットのそれよりも低い(ナノ結晶の融点は、寸法が小さいほど低くなる)。図5の両方の例で見られたこの合成アプローチのより興味深い特徴は、反応開始時がどれほど不十分であるかにかかわらず、生成物は通常、明確な生成物状態、つまり高い量子収率に達し、量子ドットの品質基準である半値全幅(FWHM)が比較的狭くなる、ということである。
2.5 室内灯励起性量子ドットのXRDパターン
コア−マントル−シェル構造の更なる証拠が、室内灯励起性量子ドットのX線回折(XRD)パターンである。異なる出発Zn/Cd比(19:1〜1:9)を有するコア−マントル−シェル型量子ドットを精製して、XRD測定用にSi(100)基板上に薄いドロップキャスティング膜として製造した。これらの量子ドットのXRDパターンを、図9のセレン化カドミウム量子ドット(下部)およびセレン化亜鉛量子ドット(上部)のそれと共に示す。
【0077】
小さな格子パラメータでは、セレン化亜鉛(ZnSe、最上部)量子ドットの回折ピークが、セレン化カドミウム(CdSe、最下部)量子ドットのそれに比較して、高い角度位置にあることが分かる。本発明において製造された室内灯励起性量子ドットは、同じパターン(ウルツ鉱構造(Wurzite structure))を示し、回折ピークの角度位置は両者のちょうど間にある。室内灯励起性量子ドット中のZnSeの量が徐々に増加するにつれ(シェルの厚さの増加に対応して)、回折パターンが高い角度位置に一様にシフトする。これらの量子ドットのウルツ鉱構造は、CdSe量子ドットの最も共通す
る構造に似ている。これは、CdSeコアが最初に形成して結晶構造を決定し、ZnSeが同じ原子配列をとり(格子を整合させる)シェルとして成長するためと理解することができる。
【0078】
三成分CdSe/CdSeA/CdA量子ドット、例えばCdをSおよびSeに共有される共通物質とするCdSe/CdSexS1-x/CdSでは、状況が変わる。この場合に製造された生成物は、強いフォトルミネッセンスを示すが、それらの結晶構造はもはやウルツ鉱(CdSeに一般的)ではなく、図14に示すとおり閃亜鉛鉱(CdSに一般的)になる。CdS核が最初に形成して(成長のための結晶型を画定する)コア−シェル構造が存在すると考えれば、シェルは、特に水溶性化のために、表面修飾に不安定なCdSeになろう。チオグリコール酸での強固なリガンド交換(試験ごと)により、CdSeシェルの可能性が排除される。その上、CdSはコア−マントル−シェル構造でのコアであれば、最大発光(強度の低いバンド端発光を除く)は、〜480nmになろう。これは、製造された生成物が600nmを超える発光ピークを有し得るとの実験結果と単に矛盾する。長波長の発光からも、発光コアとして、青色光波長範囲の可能性が高いCdSxSe1-xの存在も排除される。これらの事実は全て、生成物の発光中心がおそらくCdSeである可能
性が高く、それが硫黄の存在下でコア−マントル−シェル構造を備えた閃亜鉛鉱構造を形成した、という結論につながる。量子ドットの蛍光がフラスコに注入された溶液中のS/Se比の変動によっても調節し得ることが見いだされた。硫黄の量が増加するにつれ、回
折ピークがより高い角度位置にシフトする(図14の赤い破線)。
【0079】
走査型電子顕微鏡像を量子ドットで撮影すると、CdSe/CdxZn1-xSe/ZnSeの室内灯励起性ナノ結晶の全てが、ドット形状であることが見いだされた。例を図12Aに示す。これらの量子ドットの単層分散性は十分であり、図8に示される狭い蛍光発光ピークの説明がつく。CdSe/CdSexS1-x/CdSでは、得られたナノ結晶は、図12Bに示すとおり、ほぼ棒状構造でアスペクト比が低い(2未満)。そのような異方性構造の形成は、主に反応時のナノ結晶の異なる面のエネルギー差に関係する。しかし、閃亜鉛鉱構造のナノ結晶では、六面全てのエネルギーが極めて類似していなければならず、それでも異方性の成長を説明するのに十分でない。その上、硫黄が多量であるため、XRDパターンはもはや純粋な閃亜鉛鉱ではない(図14の赤い破線では〜30°にショルダーピーク)。棒状であったことと併せると、複雑な成長メカニズムがCdSe/CdSexS1-x/CdSナノ結晶の形成に関与することが示唆される。
【0080】
2種のカチオン(Cd2+およびZn2+)と2種のアニオン(S2-およびSe2-)との反応から製造された四成分ナノ結晶では、Cd/ZnとS/Seの間で特定の比が用いられると、花の形状が観察される。図13は、そのような生成物の像を異なる倍率で示す。口径が20nmよりも大きいと、これらの結晶は強い蛍光を示す。
【0081】
本明細書内の過去に刊行された文書の列挙または議論は、その文書が技術水準の一部または共通の一般常識であるとの認識として、必ずしも捉えられるべきではない。個々の文書が特別に、そして個別に援用されるものとして示されていたとしても、列挙された全ての文書が、全ての目的のために全体が本明細書に援用される。
【0082】
本発明を、本明細書内に広範かつ包括的に記載した。その包括的開示に含まれる狭い種(species)およびジェネリックより下位のグループ(subgenerics)の各々も、本発明の一部を形成する。これは、本発明の包括的(generic)な記載を含むが、対象物が属(genus)から除去されることを前提または否定的制約とし、除去された材料が具体的に本明細書に引用されたかどうかにかかわらない。
【0083】
本明細書に例示的に記載された発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素または限定を用いずに適宜実施してもよい。つまり例えば、用語「含む」「包含する」「含有する」などは、広範に、限定なしに読み取られる。加えて、本明細書で用いられる用語および表現は、説明に関して用いられ、限定として用いられるものではなく、図示および説明された特徴またはその一部の均等物を除外するそのような用語および表現の使用を意図するものではなく、請求された本発明の範囲内で様々な改良が可能であることを認識されたい。本発明の更なる目的、利益、および特徴は、前述の実施例の実験および添付の特許請求の範囲から当業者に明白となろう。つまり本発明が、例示的実施形態および任意の特徴により具体的に開示されるが、そこに具体化され本明細書に開示された発明の改良および変更を当業者が頼りにしてよいこと、そしてそのような改良および変更が本明細書の範囲内とみなされることを理解すべきである。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、それにより本発明がマーカッシュ群の各構成メンバーまたは構成メンバーのサブグループに関しても記載されていることが、当業者には認識されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素Cd、M、およびSeから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素Seを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項2】
元素Cd、M、Se、およびAから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素SeおよびAを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項3】
元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を形成することが、前記元素CdまたはCd前駆体とMまたはその前駆体とを適当な溶媒に添加すること、および該溶媒を加熱することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒を約100℃〜約400℃の温度に加熱する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
元素Cd、Se、およびAから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体の溶液を、アミンを少なくとも本質的に含まない適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素SeおよびAを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項6】
前記元素CdまたはCd前駆体の溶液を形成することが、元素CdまたはCd前駆体を適当な溶媒に添加すること、および該溶媒を加熱することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒を約100℃〜約400℃の温度に加熱する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒がアミンを少なくとも本質的に含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
元素Seを注入により添加する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
元素Seを急速に添加する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Aおよび元素Seを一緒に添加する、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有するCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、
Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記工程が、
(i)元素CdまたはCd前駆体を適当な溶媒に添加し、元素Seを添加し、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成ではMまたはその前駆体を添加し、そして(b)Cd、Se、Aまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成ではAを添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(ii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱し、前記加熱が反応混合物中で形成された水を除去することを更に含み、その後、反応混合物を冷却すること、
(iii)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
を含む方法。
【請求項13】
前記溶媒が配位性化合物を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記カドミウム前駆体を無機カドミウム化合物から形成する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記無機カドミウム化合物が酸化カドミウムまたは無機カドミウム塩である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Mの前駆体をその無機化合物から形成する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記Mの無機化合物が金属酸化物または無機金属塩である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、(i)CdまたはCd前駆体、および(ii)Mまたはその前駆体を所定のモル比で使用し、CdまたはCd前駆体:MまたはMの前駆体の前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜4および6〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
CdまたはCd前駆体:MまたはMの前駆体の前記所定のモル比を約1:10〜約10:1の範囲内で選択する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(b)Cd、Se、Aまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、AおよびSeを所定のモル比で使用し、A:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項2〜19のいずれか1項に記載
の方法。
【請求項21】
AおよびSeを約1:10〜約10:1の比で使用する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(i)CdまたはCd前駆体、および(ii)Seを所定のモル比で使用し、CdまたはCd前駆体:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
CdまたはCd前駆体、およびSeを約1:15〜約15:1のモル比で使用する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、Mまたはその前駆体、およびSeを所定のモル比で使用し、MまたはMの前駆体:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜4および6〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
Mまたはその前駆体と、Seとを、約1:10〜約10:1の比で使用する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
Mが元素Znである、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
Aが元素SおよびTeの一方である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で加熱することが、反応混合物を150℃〜400℃の温度に加熱することを含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記反応混合物を200℃〜400℃の温度に加熱する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ナノ結晶複合材料がコア−シェル型ナノ結晶である、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記反応を不活性雰囲気で実施する、請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
界面活性剤を添加することを更に含む、請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記界面活性剤を有機カルボン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
反応混合物を形成することが界面活性剤を添加することを更に含み、前記界面活性剤が有機カルボン酸であり、それによりカルボン酸のカドミウム塩を形成させ、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成では、Mにより、カルボン酸とMとの塩を形成する、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
溶液が元素Cdの前駆体で形成され、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成では、溶液がMまたはMの前駆体で形成され、前記溶液を形成することが界面活性剤を添加することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記有機カルボン酸が、ステアリン酸(オクタデカン酸)、ラウリン酸、オレイン酸([
Z]−オクタデカ−9−エン酸)、n−ウンデカン酸、リノレン酸、((Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、アラキドン酸((全ての−Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、リノールエライジン酸((E,E)−9,12−オクタデカジエン酸)、ミリストレイン酸(9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデセン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、γ−ホモリノレン酸((Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項33〜35に記載の方法。
【請求項37】
(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有するCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料であって、Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である、請求項1〜35のいずれか1項に記載の方法により得られるナノ結晶複合材料。
【請求項38】
前記ナノ結晶複合材料がコア−シェル型ナノ結晶である、請求項37に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項39】
所定の被分析物のための結合アフィニティーを有する分子に共役させた、請求項37または38に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項40】
プラスチックビーズに組込まれた、請求項37または38に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項41】
発光体の製造における、請求項37または38に記載のナノ結晶の使用。
【請求項1】
元素Cd、M、およびSeから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素Seを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項2】
元素Cd、M、Se、およびAから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を、適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素SeおよびAを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項3】
元素CdまたはCd前駆体と、Mまたはその前駆体との溶液を形成することが、前記元素CdまたはCd前駆体とMまたはその前駆体とを適当な溶媒に添加すること、および該溶媒を加熱することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒を約100℃〜約400℃の温度に加熱する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
元素Cd、Se、およびAから構成されたCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記方法が、
(i)元素CdまたはCd前駆体の溶液を、アミンを少なくとも本質的に含まない適当な溶媒で形成すること、
(ii)元素SeおよびAを前記溶液に添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(iii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度
で十分な時間加熱し、その後、反応混合物を冷却すること、
(iv)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
からなる方法。
【請求項6】
前記元素CdまたはCd前駆体の溶液を形成することが、元素CdまたはCd前駆体を適当な溶媒に添加すること、および該溶媒を加熱することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒を約100℃〜約400℃の温度に加熱する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒がアミンを少なくとも本質的に含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
元素Seを注入により添加する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
元素Seを急速に添加する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Aおよび元素Seを一緒に添加する、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有するCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を形成する方法であって、
Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、
Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素であり、
前記工程が、
(i)元素CdまたはCd前駆体を適当な溶媒に添加し、元素Seを添加し、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成ではMまたはその前駆体を添加し、そして(b)Cd、Se、Aまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成ではAを添加し、それにより反応混合物を形成すること、
(ii)前記反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で十分な時間加熱し、前記加熱が反応混合物中で形成された水を除去することを更に含み、その後、反応混合物を冷却すること、
(iii)CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料を単離すること、
を含む方法。
【請求項13】
前記溶媒が配位性化合物を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記カドミウム前駆体を無機カドミウム化合物から形成する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記無機カドミウム化合物が酸化カドミウムまたは無機カドミウム塩である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Mの前駆体をその無機化合物から形成する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記Mの無機化合物が金属酸化物または無機金属塩である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、(i)CdまたはCd前駆体、および(ii)Mまたはその前駆体を所定のモル比で使用し、CdまたはCd前駆体:MまたはMの前駆体の前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜4および6〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
CdまたはCd前駆体:MまたはMの前駆体の前記所定のモル比を約1:10〜約10:1の範囲内で選択する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(b)Cd、Se、Aまたは(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、AおよびSeを所定のモル比で使用し、A:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項2〜19のいずれか1項に記載
の方法。
【請求項21】
AおよびSeを約1:10〜約10:1の比で使用する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(i)CdまたはCd前駆体、および(ii)Seを所定のモル比で使用し、CdまたはCd前駆体:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
CdまたはCd前駆体、およびSeを約1:15〜約15:1のモル比で使用する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成において、Mまたはその前駆体、およびSeを所定のモル比で使用し、MまたはMの前駆体:Seの前記所定のモル比を約1:100〜約100:1の範囲内で選択する、請求項1〜4および6〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
Mまたはその前駆体と、Seとを、約1:10〜約10:1の比で使用する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
Mが元素Znである、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
Aが元素SおよびTeの一方である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
反応混合物を、CdおよびSe含有ナノ結晶複合材料の形成に適した温度で加熱することが、反応混合物を150℃〜400℃の温度に加熱することを含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記反応混合物を200℃〜400℃の温度に加熱する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ナノ結晶複合材料がコア−シェル型ナノ結晶である、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記反応を不活性雰囲気で実施する、請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
界面活性剤を添加することを更に含む、請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記界面活性剤を有機カルボン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
反応混合物を形成することが界面活性剤を添加することを更に含み、前記界面活性剤が有機カルボン酸であり、それによりカルボン酸のカドミウム塩を形成させ、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成では、Mにより、カルボン酸とMとの塩を形成する、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
溶液が元素Cdの前駆体で形成され、(a)Cd、M、Se、または(c)Cd、M、Se、Aの組成を有するナノ結晶複合材料の形成では、溶液がMまたはMの前駆体で形成され、前記溶液を形成することが界面活性剤を添加することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記有機カルボン酸が、ステアリン酸(オクタデカン酸)、ラウリン酸、オレイン酸([
Z]−オクタデカ−9−エン酸)、n−ウンデカン酸、リノレン酸、((Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、アラキドン酸((全ての−Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、リノールエライジン酸((E,E)−9,12−オクタデカジエン酸)、ミリストレイン酸(9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデセン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、γ−ホモリノレン酸((Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項33〜35に記載の方法。
【請求項37】
(a)Cd、M、Se、(b)Cd、Se、A、および(c)Cd、M、Se、Aのうちの一つの組成を有するCdおよびSe含有ナノ結晶複合材料であって、Mが、Cd以外のPSEの第12族元素であり、Aが、OおよびSe以外のPSEの第16族元素である、請求項1〜35のいずれか1項に記載の方法により得られるナノ結晶複合材料。
【請求項38】
前記ナノ結晶複合材料がコア−シェル型ナノ結晶である、請求項37に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項39】
所定の被分析物のための結合アフィニティーを有する分子に共役させた、請求項37または38に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項40】
プラスチックビーズに組込まれた、請求項37または38に記載のナノ結晶複合材料。
【請求項41】
発光体の製造における、請求項37または38に記載のナノ結晶の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図6】
【公表番号】特表2010−535692(P2010−535692A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519895(P2010−519895)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000290
【国際公開番号】WO2009/020436
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000290
【国際公開番号】WO2009/020436
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
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