説明

カムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造

【課題】基地組織の異なる低速カムと高速カムを単一鋳型によって成形可能で且つ低速カムと高速カムの隙間を鋳込み工程で形成可能なカムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造を提供すること。
【解決手段】鋳型20内に、低速カムのノーズ部を成形する冷金27を配置し、低速カムキャビティ25と高速カムキャビティ23の間の隙間溝にこれら両カムキャビティの軸心と直交状の環状の側端面28dを成形する遮熱プレート28を配置したため、低速カムのノーズ部の基地組織をチル化でき、高速カムのノーズ部のチル化を防止できる。単一の鋳型20による鋳込み工程後、鋳型20を型ばらしして、カムシャフトから冷金27を除去し、カムシャフトをガラスショットブラスト処理し、カムシャフトの隙間溝から遮熱プレート28を破壊、除去したため、隙間溝の成形性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造に関し、特に、基地組織の異なる低速カムと高速カムを単一の鋳型によって成形可能なカムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジンでは、低速側運転状態でのトルクを高め、高速側運転状態での出力を高めるため、吸気用カムシャフトの吸気カムに、高速側運転状態と低速側運転状態で夫々吸気弁を開閉する高速カムと低速カムを設け、排気用カムシャフトの排気カムに、高速側運転状態と低速側運転状態で夫々排気弁を開閉する高速カムと低速カムを設けた構造は公知である。
【0003】
高速側運転状態では吸気弁と排気弁のバルブリフト量を大きくして各行程における吸排気量を増すことが望ましく、高速カムのノーズ部の高さ(ノーズ高さ)は低速カムのノーズ高さよりも高く構成されている。高速カムと低速カムの組み合わせ構造については種々の構造が存在するが、例えば、高速カムの両側にこの高速カムよりもノーズ高さが低い2つの低速カムを設け、これら高速カムと低速カムを切換えるよう構成したものが提案されている。
【0004】
エンジン運転中には、カムシャフトのカムは各弁を駆動するロッカーアームやタペットと回転摺動しているため、カムのノーズ部には高い耐磨耗性が要求されている。
それ故、このノーズ部の耐磨耗性を向上させるために、例えば、ダクタイル鋳鉄製のカムシャフトを鋳造する際に、鋳型内のノーズ部を形成するキャビティにおいて、溶湯を急速凝固させてノーズ部の表面の金属組織をチル化する目的で、熱伝導率の高い金属、例えば、鋳鉄の冷金が用いられている。
【0005】
特許文献1のカムシャフトの製造方法は、高速側運転状態で高速用タペット分割体を押動して排気弁を開閉駆動するための高速カムと、この高速カムの両側に低速側運転状態で低速用タペット分割体を押動して排気弁を開閉駆動するための低速カムとを備えた、所謂摺動式動弁機構のカムシャフトの製造方法において、高速カムのノーズ部と低速カムのノーズ部を鋳造する鋳型のキャビティ部分に鋳鉄製冷金を組み込むように構成されている。
【0006】
このカムシャフトの製造方法では、鋳型に溶湯を注入した後、溶湯を急速冷却すると、鋳鉄製冷金は鋳型よりも熱伝導率が高いため、ノーズ部に対応するキャビティ部分の溶湯が急速凝固してノーズ部が鋳造されると同時に基地組織がチル化されている。それ故、タペット表面と摺動する高速カムと低速カムは、ともに高い耐磨耗性を備えることができる。
【0007】
吸排気弁を駆動する機構は、前述した摺動式動弁機構以外にカムをローラ部材と接触させて各弁を駆動させるローラ式動弁機構も知られている。このローラ式動弁機構は、ローラ部材が転動するため、摺動式動弁機構に比べてカムの摺動抵抗が低く、高速運転に適している。それ故、低速カムを摺動式動弁機構とし、高速カムをローラ式動弁機構とする併用式動弁機構も存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−39136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のカムシャフトの製造方法は、高速カムのノーズ部と低速カムのノーズ部の両者がタペットと摺動する摺動式動弁機構を前提技術としている。つまり、両カムのノーズ部は耐摩耗性が必要であるため、両ノーズ部の基地組織を冷金を用いてチル化する構成となっている。
【0010】
一方、ローラ式動弁機構のカムのノーズ部は、その機構上、耐摩耗性(硬度)よりも靭性が要求されており、逆に硬度が高い場合、ローラ部材がノーズ部とピッチングを起こすという虞がある。一般に、鋳鉄部材の靭性を増すためには、鋳造後、鋳鉄部材に焼入れ処理を行い、フェライトとパーライトから形成された基地組織を靭性に優れたベイナイトとパーライトから形成された基地組織に変化させることが行われている。
【0011】
前記カムシャフトの製造方法では、高速カムと低速カムの両方が摺動式動弁機構であるため、両カムのキャビティ部分に鋳鉄製冷金を組み込む構成とし、所望のカム組織を得ることができる。しかし、高速カムをローラ式動弁機構とし、低速カムを摺動式動弁機構とした併用式動弁機構を対象したカムシャフトにおいて、低速カムのキャビティ部分に冷金を組み込む場合、熱伝導率の高い冷金が高速カムのキャビティ部分の溶湯温度を急激に低下させるため、高速カムのノーズ部の基地組織をチル化してしまうという問題がある。特に、エンジンのコンパクト化のため、高速カムと低速カムとの隙間が小さい場合、高速カムの冷却速度が増し、高速カムのノーズ部のチル化傾向は増加する。そして、チル化された高速カムを焼入れ処理した場合、焼き割れの発生を招く虞がある。
【0012】
本発明の目的は、基地組織の異なる低速カムと高速カムを単一鋳型によって成形可能で且つ低速カムと高速カムの隙間を鋳込み工程で形成可能なカムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1のカムシャフトの製造方法は、従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを備え、前記低速カムと高速カムを隣接配置したカムシャフトの製造方法において、低速カムを成形する冷金を配置すると共に低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置した鋳型を用いてカムシャフトを鋳造する第1工程と、次に、鋳型を型ばらしすると共に前記カムシャフトから前記冷金を除去する第2工程と、前記カムシャフトをショットブラスト処理し、前記カムシャフトから前記遮熱プレートを破壊、除去する第3工程と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項1の発明では、低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置した鋳型を用いてカムシャフトを鋳造したため、低速カムの鋳造時の冷却傾向を高速カムの鋳造時の冷却傾向に影響させることなく、鋳込み工程で低速カムと高速カムの隙間を形成することができる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第2工程の後且つ第3工程の前に、第1粒径の球体を前記カムシャフトに衝突させて鋳物砂を除去するショットブラスト工程を備え、前記第3工程において、前記第1粒径よりも小さい第2粒径の球体を前記遮熱プレートに衝突させて前記カムシャフトから前記遮熱プレートを破壊、除去することを特徴としている。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記遮熱プレートは、カーボンから構成されたことを特徴としている。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1つの発明において、前記カムシャフトは、1対の低速カムと、これら低速カムの間に配置された高速カムを備えたことを特徴としている。
【0018】
請求項5のカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造は、従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを備え、前記低速カムと高速カムを隣接配置したカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造において、低速カムを成形する冷金を配置すると共に、低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置したことを特徴としている。
【0019】
請求項5の発明では、低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置した鋳型を用いてカムシャフトを鋳造したため、低速カムの鋳造時の冷却傾向を高速カムの鋳造時の冷却傾向に影響させることなく、鋳込み工程で低速カムと高速カムの隙間を形成する鋳型を得ることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記カムシャフトは、1対の低速カムと、これら低速カムの間に配置された高速カムを備え、1対の冷金の間に1対の遮熱プレートを配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを隣接配置したカムシャフトにおいて、基地組織の異なる低速カムと高速カムを単一の鋳型によって成形することができる。
【0022】
つまり、低速カムの基地組織を冷金によってチル化する一方、低速カムに隣接した高速カムと冷金との間を遮熱する遮熱プレートを備えたため、高速カムをチル化させることなく、後工程による高速カムに靭性を高める焼入れ処理を行うことができる。しかも、低速カムと高速カムの隙間を鋳型に配置された遮熱プレートによって形成でき、鋳込み工程で低速カムと高速カムの隙間を成形できるため、カムシャフトの成形性を高めることができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、第2工程の後且つ第3工程の前でカムシャフトの鋳造品から鋳物砂を除去でき、第3工程で低速カムと高速カムの隙間から遮熱プレートを確実に除去することができる。
請求項3の発明によれば、低速カムに隣接した高速カムと冷金との間の遮熱性と遮熱プレートの破壊除去性を両立することができる。
請求項4の発明によれば、1対の低速カムをチル化でき、これら低速カムの間に配置された高速カムに対して靭性を高める後工程の焼入れ処理を行うことができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを隣接配置したカムシャフトを鋳造する鋳型において、基地組織の異なる低速カムと高速カムを成形可能な単一の鋳型を得ることができる。
請求項6の発明によれば、1対の低速カムをチル化でき、これら低速カムの間に配置された高速カムに対して靭性を高める後工程の熱処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係るカムシャフト付近の平面図である。
【図2】カムシャフトの外観図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】高速運転状態における図3相当図である。
【図6】高速運転状態における図4相当図である。
【図7】鋳型の縦断面図である。
【図8】図7における要部拡大図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【図11】冷金の斜視図である。
【図12】遮熱プレートの斜視図である。
【図13】カムシャフト製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0027】
以下、この発明の実施例について、図1〜図13に基づいて説明する。
【0028】
本実施例に係る自動車用エンジンのカムシャフトは、直列多気筒、例えば、4気筒の4バルブDOHCエンジンに搭載されるものである。
図1に示すように、エンジン1のシリンダヘッド2に、吸気用カムシャフト3と排気用カムシャフト4が配設され、これら2本のカムシャフト3,4の左端部には夫々タイミングプーリー5,6が設けられている。これらのタイミングプーリー5,6は、タイミングベルト7によりクランクシャフト(図示略)に連結されている。それ故、カムシャフト3,4は、タイミングベルト7によりクランクシャフトの回転がカムシャフト3,4に伝達されて回転駆動されるように構成されている。
【0029】
2本のカムシャフト3,4は略同様の構造であるため、排気用カムシャフト4について説明する。図2に示すように、カムシャフト4には、高速側運転状態で一方の排気弁9(図3参照)を開閉駆動する為の高速カム10と、この高速カム10の左右両側に所定の間隔、例えば、2mmの隙間溝13を空けて位置し低速側運転状態で前記排気弁9を開閉駆動する為の2つの低速カム11と、低速用カム11と離間して位置し全運転状態で他方の排気弁(図示略)を開閉駆動する為の全領域カム12が、各気筒8(図1参照)に対応するように合計4組設けられている。尚、カムシャフト4と、高速カム10と、低速カム11と、全領域カム12は、共通の軸心回りに回転可能に構成されている。
【0030】
図3、図5に示すように、高速カム10と低速カム11には、排気弁9を下方へ押動する為にカムシャフト4の外周側へ突出状に形成されたノーズ部10a,11aが設けられ、高速側運転状態での排気量を大きくする為に高速カム10のノーズ部10aの高さ(以下、ノーズ高さという)は低速カム11のノーズ部11aのノーズ高さに比べ高く形成されている。
【0031】
図3〜図6に示すように、カムシャフト4の上側には、排気弁9のバルブリフト量をエンジン1の運転状態に応じて変更可能なリフト量可変機構Mが設けられている。この可変機構Mは、シリンダヘッド2に対して上下揺動可能に一端側を軸支されており、エンジン1の運転状態に応じて、高速カム10と低速カム11の何れか一方によって他端側に連結された排気弁9を開閉駆動するように切換可能に構成されている。
【0032】
リフト量可変機構Mは、機構本体14と、可動部材15と、ロックピン16と、このロックピン16を図3において右方へ駆動する油圧シリンダ(図示略)と、ロックピン16を図3において左方へ付勢するスプリング17等を備えている。尚、図3、図4は低速側運転状態、図5、図6は高速側運転状態における可変機構Mの作動状態を示している。
【0033】
機構本体14は、カムシャフト4の軸心と直交状の1対の側壁部14aと、夫々の側壁部14aの下部から下方に延設された側面視で略円弧状の摺動部14bと、これら側壁部14aを所定間隔空けて連結する連結部14c等から構成されている。
夫々の摺動部14bの下端面は、低速側運転状態で低速カム11と摺動可能に構成されている。連結部14cは、油圧通路14dと、ロックピン16とスプリング17を格納可能な格納部14eと、排気弁9の基端部と連結且つ押動可能な部分球面形状の凹部14fから形成されている。
【0034】
可動部材15は、夫々対向する側壁部14aの間に位置し、ばね等の付勢手段(図示略)によって常時下方へ弾性付勢されて配置されている。可動部材15は、カムシャフト4の軸心と直交状の1対の側壁部15aと、これら側壁部15a間に架着された軸部15bと、これら側壁部15aを所定間隔空けて連結する連結部15cと、軸部15bに複数のローラベアリングを介して回転可能に枢支されたローラ部材18等から構成されている。
【0035】
連結部15cは、連結部14cに対向する側に係合穴15dが形成されている。係合穴15dは、格納部14eから油圧が排出されたとき、スプリング17に付勢されたロックピン16が係合可能に構成されている。この構成によって、可動部材15と機構本体14が一体的に連結され高速カム10に従動するように一体動作する連結状態と、可動部材15と機構本体14が分離されて低速カム11に従動する非連結状態とに切換えることができる。ローラ部材18の外周面は、常時、高速カム10と接触可能に構成されている。
【0036】
リフト量可変機構Mにより高速用カム10と低速用カム11を切換える場合について説明する。図3、図4に示すように、低速側運転状態において、格納部14eに油圧が供給されている。この油圧によりスプリング17が圧縮され、ロックピン16が右方に駆動されている。それ故、可動部材15と機構本体14が独立動作可能な非連結状態とされ、高速カム10はローラ部材18と接触し、低速カム11は摺動部14bと摺動している。そして、ロックピン16が係合穴15dへ係合していないため、高速カム10のノーズ部10aの形状に沿って可動部材15は機構本体14に対して上下動するものの、排気弁9に開閉駆動力を伝達しない。従って、2つの低速カム11のノーズ部11aにより押動される機構本体14が排気弁9を駆動する。これにより、排気弁9のリフト及び開閉タイミングは低速カム11のノーズ部11aの形状により決定される。
【0037】
図5、図6に示すように、高速側運転状態において、エンジン1の制御ユニットからの指令により、油圧通路14dを介して格納部14eから油圧が排出される。これにより、ロックピン16がスプリング17の付勢力によって左方に駆動され、係合穴15dに内嵌し、可動部材15と機構本体14が一体的に連結された連結状態となる。
このとき、高速カム10のノーズ高さは低速カム11のノーズ高さよりも高いため、高速カム10とローラ部材18が当接すると、2つの低速カム11と摺動部14bは接触しない。従って、高速カム10のノーズ部10aにより押動される可動部材15と連結された機構本体14が排気弁9を駆動する。これにより、排気弁9のリフト及び開閉タイミングは高速用カム10のノーズ部10aの形状により決定される。
【0038】
以上のように、このエンジン1は、低速側運転状態において低速カム11が機構本体14の摺動部14bと摺動する摺動式動弁機構と、高速側運転状態において高速カム10がローラ部材18と接触回転するローラ式動弁機構を夫々作動可能な併用式動弁機構を備えている。それ故、エンジン1の運転状態に応じて、高速用カム10と低速用カム11の何れか一方により排気弁9を開閉駆動するように切換えることで、低速側運転状態でのトルクを確保すると共に、高速側運転状態での出力を向上させることができる。
【0039】
次に、カムシャフト4の鋳型について説明する。
カムシャフト4は、例えば、球状黒鉛を含有したダクタイル鋳鉄製で構成される。このカムシャフト4を鋳造する為の鋳型には、図7〜図10に示すように、コーテッドサンドで形成された鋳型20(シェル鋳型)が用いられる。この鋳型20は、上側鋳型20Aと下側鋳型20Bとを上下に接合固定して構成されている。鋳型20の内部には、カムシャフト4を鋳造する為のカムシャフト用キャビティ21が形成され、このキャビティ21には、矢印で示すように、溶湯供給口22を介して外部からダクタイル鋳鉄の溶湯が供給される。
【0040】
カムシャフト用キャビティ21には、高速カム10を鋳造する高速カム用キャビティ23と、高速カム用キャビティ23の両側の2つの低速カム11を鋳造する2つの低速カム用キャビティ24と、全領域カム12を鋳造する全領域カム用キャビティ25と、高速カム用キャビティ23と2つの低速カム用キャビティ24とを連結し且つカム10,11の間の隙間溝13を形成する隙間溝用キャビティ26等を含んで構成されている。
【0041】
上側鋳型20Aにより、高速カム用キャビティ23の上端側部分に高速カム10のノーズ部10aを鋳造するノーズ部用キャビティ23aが形成される。
鋳型20に組み込まれた冷金27により、低速カム用キャビティ24の上端側部分に低速カム11のノーズ部11aを鋳造するノーズ部用キャビティ24aが形成される。この冷金27は、前記キャビティ24a内の溶湯を急速凝固させることによりノーズ部11aの表面の基地組織をチル化して、ノーズ部11aの耐磨耗性(硬度)を確保するためのものである。
【0042】
ノーズ部用キャビティ23a,24aはノーズ部10a,11aの形状に応じて上方へ突出状に形成され、高速カム10のノーズ部10aを低速カム11のノーズ部11aよりもノーズ高さが高くなるように鋳造するため、高速カム10のノーズ部キャビティ23aは、低速カム11のノーズ部キャビティ24aよりもさらに上方へ突出するように構成されている。
【0043】
鋳型20に組み込まれた遮熱プレート28により、隙間溝用キャビティ26が形成される。この遮熱プレート28は、前記冷金27とノーズ部用キャビティ23aとの間の熱伝導を遮断することで、前記キャビティ24a内の溶湯の急速凝固によるチル化を防止するためのものである。この構成により、ノーズ部10aの基地組織のチル化を防止でき、後行程における焼入れ処理によって、ノーズ部10aの靭性を確保することができる。
【0044】
次に、冷金27の構造について説明する。
図7〜図9、図11に示すように、鋳鉄製の冷金27は、例えば、略鞍状の板部材から形成されている。冷金27は、低速カム11のノーズ部用キャビティ24aを形成するキャビティ形成部27aと、上側鋳型20Aの内面20aと当接する上側外周面27bと、下側鋳型20Bの内側上面20bに当接して冷金27を支持可能な下側面27cと、低速カム11の回転軸心と直交状に配置される1対の側端面27dを備えている。
【0045】
この冷金27は、低速カム11のノーズ部用キャビティ24a毎に鋳型20に配置されている。尚、キャビティ形成部27aに、キャビティ21の軸心側から反対側まで連通したガス抜き溝を形成することも可能である。ガス抜き溝を形成することにより、低速カム11のノーズ部用キャビティ24a内のガスが上方へ抜けやすくなり、ノーズ部用キャビティ内24aにガスが滞留することがなく、ノーズ部11aに鋳造欠陥が生じることを防止できる。
【0046】
前述した冷金27の作用について説明する。
ノーズ部用キャビティ24a内の溶湯がキャビティ形成部27aと接触することにより、この溶湯が急速凝固され、ノーズ部11aの表面の基地組織にオーステナイトとセメンタイトとの共晶、所謂レデブライトが共出する。従って、冷金27のキャビティ形成部27aに接触する所定範囲がチル化され、キャビティ形成部27aに沿ってチル化層を所定深さに亙って形成することができ、例えば、HrC50以上の高硬度の基地組織を得ることができる。
【0047】
次に、遮熱プレート28の構造について説明する。
図7,図8,図10、図12に示すように、遮熱プレート28は、例えば、外周形状が楕円状のカーボン製の板部材から形成されている。遮熱プレート28は、隙間溝用キャビティ26を形成するキャビティ形成部28aと、上側鋳型20Aの内面20aと当接する上側外周面28bと、下側鋳型20Bの内面20cに当接して支持される下側外周面28cと、カムシャフト4の軸心と直交状且つ1対の環状の側端面28dを備えている。
【0048】
キャビティ形成部28aの上端部から上側外周面28bの上端部までの幅は、キャビティ形成部28aの下端部から下側外周面28cの下端部までの幅に比べて大きく形成されている。この遮熱プレート28は、隙間溝用キャビティ26毎に鋳型20に配置されている。
【0049】
前述した遮熱プレート28の作用について説明する。
高速カム10のノーズ部10aのノーズ高さは低速カム11のノーズ部11aのノーズ高さに比べて高く設定されているため、冷金27を上側鋳型20Aに配置したとき、キャビティ形成部27aとノーズ部用キャビティ23aは隣接状に位置している。キャビティ形成部27aとノーズ部用キャビティ23aとの間に、ノーズ部用キャビティ23aよりも上方に高く形成された遮熱プレート28が設置されたため、ノーズ部用キャビティ23aに充填された溶湯がキャビティ形成部27aと直接接触することがなく、ノーズ部用キャビティ23aの溶湯が冷金27によって急速冷却されることがない。それ故、ノーズ部10aのチル化を防止することができる。しかも、高速カム10と低速カム11の間隔が狭い場合であっても、遮熱プレート28を鋳型20に設置することによって、隙間溝用キャビティ26を鋳込み段階で成形することができる。
【0050】
カムシャフト4の製造方法について、図13の工程図に基づいて説明する。
尚、Si(i=1,2…)は各ステップを示す。
まず、S1の造型工程において、鋳型20を造型する。コーテッドサンドで形成された上側鋳型20Aと下側鋳型20Bを準備し、夫々所定の配置位置に設置する。また、鋳鉄製の冷金27とカーボン製の遮熱プレート28を夫々必要数準備する。
【0051】
S2の型込め工程において、各冷金27の下側面27cが下側鋳型20Bの内側上面20bに当接するように設置する。次に、各遮熱プレート28の下側外周面28cが下側鋳型20Bの内面20cに当接ように設置する。冷金27と遮熱プレート28が設置された下側鋳型20Bに対して、上方から上側鋳型20Aを被せて型込めし、キャビティ21を内部に形成した鋳型20を形成する。
【0052】
S3の鋳込み工程において、球状黒鉛を含有したダクタイル鋳鉄の溶湯を溶湯供給口22から注湯し、キャビティ21に溶湯を充填する。注湯完了後、溶湯が凝固するまで所定時間放置する。S4の解枠(型ばらし)工程において、鋳型20を粉砕する。このとき、冷金27はカムシャフト4のノーズ部11aから取り外され、遮熱プレート28はカムシャフト4の隙間溝13に嵌合した状態である。
【0053】
カムシャフト4の冷却(S5)後、カムシャフト4に付着した鋳物砂を取り除くスチールショットブラストを行う(S6)。スチールショットの条件は、粒径1〜2mmのスチール粒子を使用し、カムシャフト4に付着した鋳物砂の残量が5mg以下になるように噴射速度と噴射時間が設定されている。ここで、スチール粒子の粒径が1mm未満の場合、鋳物砂の除去に長時間を要し、スチール粒子の粒径が2mmよりも大きな場合、鋳肌を傷める可能性があるため、粒径1〜2mmのスチール粒子を使用している。
【0054】
S7において、鋳仕上げ工程を行う。S7では、バリ取りやカムシャフト4等の軸心矯正等の機械加工を行う。ここで、高速カム10のノーズ部10aの基地組織は、遮熱プレート28の遮熱効果によってチル化されてないため、切削機等によって容易に軸心矯正等の切削加工を行うことができる。
【0055】
鋳仕上げ工程後、ガラスショットブラストを行う(S8)。スチールショットブラスト工程では、隙間溝13から突出した遮熱プレート28を部分的には破壊、除去することができるが、隙間溝13内部や角部等に遮熱プレート28の残部(カーボン)が残っている。特に、隙間溝13の幅が小さいほど、また、スチール粒子の粒径が大きいほど、溝内部に残るカーボン割合が増加する。そこで、S8では、隙間溝13に残るカーボンを取り除くガラスショットブラストを行う。ガラスショットの条件は、隙間溝13の幅に応じた粒径、例えば、隙間溝13の幅が2mmの場合、粒径0.5mm程のガラス粒子を使用している。隙間溝13に残るカーボン残量が予め設定した所定量以下になるように噴射速度と噴射時間が設定されている。尚、S8の後、高速カム10のノーズ部10aに対して、基地組織を靭性の高い基地組織(ベイナイトとパーライト)に変換する焼入れ工程を行う。
【0056】
次に、本カムシャフトの製造方法の作用、効果について説明する。
本カムシャフトの製造方法は、機構本体14の摺動部14bと摺動して排気弁9を昇降駆動するための低速カム11と、ローラ部材18と接触して排気弁9を昇降駆動するための高速カム10を備えたため、低速側運転状態と高速側運転状態において、バルブリフト量を変更可能なカムシャフト4を製造することができる。
【0057】
造型及び型込め工程では、鋳型20内に、低速カム11のノーズ部11aを成形する冷金27を配置したため、低速カム11のノーズ部11aの基地組織をチル化でき、ノーズ部11aを摺動動作に適した高硬度の基地組織に変換することができる。更に、鋳型20内に、低速カム11と高速カム10の間の隙間溝13にこれら両カム10,11の軸心と直交状の環状の側端面28dを成形する遮熱プレート28を配置したため、ノーズ部用キャビティ23aの溶湯とキャビティ形成部27aとが直接接触することを防止でき、ノーズ部10aのチル化を防止でき、ノーズ部10aをローラ部材18との接触回転動作に適した靭性を備え、ピッチングを生じない基地組織に変換することができる。
【0058】
しかも、鋳型20へ冷金27と遮熱プレート28を配置することで、高速カム10と低速カム11に異なる基地組織を単一の鋳型20によって形成することができる。鋳込み工程後、鋳型20を型ばらしして、カムシャフト4から冷金27を除去し、カムシャフト4をガラスショットブラスト処理し、カムシャフト4の隙間溝13から遮熱プレート28を破壊、除去したため、隙間溝13の成形性を高めることができる。
【0059】
つまり、低速カム11を冷金27によってチル化する一方、低速カム11に隣接した高速カム10のキャビティ23aと冷金27との間を遮熱する遮熱プレート28を備えたため、高速カム10のノーズ部10aをチル化することなく、後工程により高速カム10に靭性を高める焼入れ処理を行うことができる。しかも、低速カム11と高速カム10の間の隙間溝13を鋳型20に配置された遮熱プレート28によって形成でき、単一の鋳型20による鋳込み工程で隙間溝13を成形できるため、カムシャフト4の成形性を高めることができる。
【0060】
型ばらし後且つガラスショットブラスト工程の前に、所定粒径のスチール粒子をカムシャフト4に衝突させて鋳物砂を除去するスチールショットブラスト工程を備え、ガラスショットブラスト工程において、スチール粒径よりも小さい粒径のガラス粒子を遮熱プレート28に衝突させてカムシャフト4に付着する遮熱プレート28を破壊、除去したため、カムシャフト4の鋳肌を傷つけることなく、低速カム11と高速カム10の間の隙間溝13から遮熱プレートを確実に除去することができる。
【0061】
遮熱プレート28は、カーボンから構成されたため、低速カム11に隣接した高速カム10と冷金27との遮熱性と遮熱プレート28の破壊除去性を両立することができる。
カムシャフト4は、1対の低速カム11と、これら低速カム11の間に配置された高速カム10を備えたため、1対の低速カム11をチル化でき、これら低速カム11の間に配置された高速カム10に対して靭性を高める焼入れ処理を後工程で行うことができる。
【0062】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、1気筒に対して排気弁が2つ配置され、一方の排気弁にリフト量可変機構を装着した例について説明したが、両方の排気弁にリフト量可変機構を装着することも可能である。また、1対の低速カムとこのカム間に配置された高速カムの3つのカムが単独の排気弁を駆動する例について説明したが、単独の排気弁に対して高速カムと低速カムを各々1つ設けることも可能である。更に、リフト量可変機構は、吸気、排気両方のカムシャフトに装着するものでも良く、何れか一方のカムシャフトに装着するものであっても良い。
【0063】
2〕前記実施例においては、ロッカーアーム式の動弁系構造に適用した例を説明したが、高速側運転状態において、高速カムがローラ部材と接触回転するものであれば良く、タペット式の動弁系構造に適用することも可能である。
【0064】
3〕前記実施例においては、カーボン製の遮熱プレートの例を説明したが、ショットブラストによる崩壊性と遮熱性を満たす素材であれば良く、カーボン以外の素材による遮熱プレートも適用可能である。
【0065】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、高速側運転状態と低速側運転状態でバルブリフト量を変更可能なカムシャフトの製造方法及びカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造において、単一鋳型に冷金と遮熱プレートを組み込むことよって基地組織の異なる低速カムと高速カムを鋳込み工程によって成形することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン
4 カムシャフト
9 排気弁
10 高速カム
11 低速カム
13 隙間溝
14 機構本体
14b 摺動部
15 可動部材
18 ローラ部材
20 鋳型
20A 上側鋳型
20B 下側鋳型
27 冷金
27a キャビティ形成部
28 遮熱プレート
28d 側端面
M リフト量可変機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを備え、前記低速カムと高速カムを隣接配置したカムシャフトの製造方法において、
低速カムを成形する冷金を配置すると共に低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置した鋳型を用いてカムシャフトを鋳造する第1工程と、
次に、鋳型を型ばらしすると共に前記カムシャフトから前記冷金を除去する第2工程と、
前記カムシャフトをショットブラスト処理し、前記カムシャフトから前記遮熱プレートを破壊、除去する第3工程と、
を備えたことを特徴とするカムシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程の後且つ第3工程の前に、第1粒径の球体を前記カムシャフトに衝突させて鋳物砂を除去するショットブラスト工程を備え、
前記第3工程において、前記第1粒径よりも小さい第2粒径の球体を前記遮熱プレートに衝突させて前記カムシャフトから前記遮熱プレートを破壊、除去することを特徴とする請求項1に記載のカムシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記遮熱プレートは、カーボンから構成されたことを特徴とする請求項1に記載のカムシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記カムシャフトは、1対の低速カムと、これら低速カムの間に配置された高速カムを備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載のカムシャフトの製造方法。
【請求項5】
従動部材と摺動して低速用バルブ部材を昇降駆動するための低速カムと、ローラ部材と接触して高速用バルブ部材を昇降駆動するための高速カムを備え、前記低速カムと高速カムを隣接配置したカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造において、
低速カムを成形する冷金を配置すると共に、低速カムと高速カムの間にこれら両カムの軸心と直交状の環状の端面を成形する遮熱プレートを配置したことを特徴とするカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造。
【請求項6】
前記カムシャフトは、1対の低速カムと、これら低速カムの間に配置された高速カムを備え、1対の冷金の間に1対の遮熱プレートを配置したことを特徴とする請求項5に記載のカムシャフトを鋳造する鋳型の鋳型構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−20127(P2011−20127A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165473(P2009−165473)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】