説明

カラーフィルターの製造方法

【発明の詳細な説明】
〈産業上の利用分野〉 本発明は、カラー固体撮像素子において色分解のために使用されるカラーフィルターの製造方法に関する。
〈従来の技術とその問題点〉 従来カラービデオカメラ等に使用するカラーフィルターの製造方法としては、ガラス基板上にレリーフパターン状の樹脂層を設け該樹脂層を染料等により染色して着色樹脂層を形成していく工程をフィルターが必要とする色数だけ複数回繰り返して作る(この方法を一部ではレリーフ染色法と称している)有機系フィルターが一般的であるが、このレリーフ染色法においてレリーフパターンを形成する感光性樹脂としてゼラチン、カゼイン、フィッシュグルー、卵白等の天然蛋白貫に重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウム、重クロム酸アンモニウム等の重クロム酸塩を添加したものが用いられている。これらの組成物は、天然高分子を主成分とすものであり、染色に係わりを持つアミノ基等の官能基濃度や分子量分布に一定なものが得られにくく、感光液が腐敗し易い、得られた硬化膜のガラス等の支持体への接着性が悪く、光硬化剤として人体に有害なクロム化合物を用いる等の欠点を有している。また、数千ppmものアルカリ金属元素(Na,K等)を含有しており、これらのアルカリ金属イオンが拡散するために固体撮像素子の暗時電圧の上昇等の経時劣化の原因の一つとなっている。
これらの問題点を解決するために、着色樹脂層としてアクリル酸エステルやメタアクリル酸エステルと、アクリルアミド、メタアクリルアミドとの共重合体を用いることが提案されている。例えば、特開昭58-199342号公報には、2−ヒドロキシエチルメタアクリレートなどの水酸基含有アクリル酸エステルと、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミドやそのメチルクロライド塩等の窒素含有アクリル酸エステルを用いた共重合体に光架橋剤としてジアゾ化合物やアジト化合物を添加した感光性樹脂組成が提案されている。しかしながら、この様な、染色性の官能基としてジアルキルアミノ基やトリアルキルアンモニウム基を有するアクリル酸アミドやメタクリル酸アミドを含んだ共重合体は、上記官能基が大きな親水性有することから、露光、現像して形成したレリーフパターンをそのまま染色したのでは、樹脂層の剥離、表面の膜荒れが生じることから、通常100〜200℃での加熱処理が必要である。この、加熱処理の際の温度は、感光性樹脂組成物の組成に応じて、その最適値が決定されるが、一般に低温度では膜荒れや剥離が発生し、高温度では染色性が低下する傾向を示す。特に、シアン系の染料として、その耐熱性、耐光性が良好なことから広く使用されている銅フタロシアニン系の染料では加熱処理温度を高くした時の染色性の低下が著しい。従って、加熱処理の際には、その最適温度を通常±5℃以内に厳密に制御しなければならず、通常使用されている温風循環方式の加熱装置では温度分布、昇温速度の不均一性などから染色濃度のばらつきや着色樹脂層の膜荒れが生じやすく、アクリル酸エステルやメタアクリル酸エステルと、アクリル酸アミド、メタアクリル酸アミドとの共重合体からなる感光性樹脂組成物は固体撮像素子のカラーフィルターの着色樹脂層として実用化されていない。
〈発明が解決しようとする課題〉 本発明は、上記問題点を解消し、アクリル酸エステルやメタルアクリル酸エステルと、アクリル酸アミド、メタアクリル酸アミドとの共重合体からなる着色樹脂層からなる固体撮像素子用カラーフィルターの製造方法提供することである。
本発明者らは、アクリル酸エステルやメタルアクリル酸エステルとアクリル酸アミド、メタアクリル酸アミドとの共重合体にアジド化合物、ジアゾ化合物を添加してなる感光性樹脂組成物について種々検討した結果、重合体成分として、酸性染料で良好に染色される窒素含有単量体と、基板への接着性及び架橋反応性の良好な水酸基含有単量体に加えてN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドなどのアクリル酸アミド化合物を構成成分とする共重合体が染色前の加熱処理温度を高くした際の染色性の低下が少ないことに着目し、本発明を完成するに至った。
〈課題を解決するための手段〉 すなわち、本発明は、基板上に感光性樹脂からなる被染色色パターンを形成し、これを染色して着色層とするカラーフィルターの製造方法において、感光性樹脂として、(a)式で表わされる窒素含有単量体5〜70重量%及び(b)式で表わされる窒素含有単量体85〜21重量%及び(c)式で表わされる水酸基含有単量体9〜75重量%を構成単位として含有する共重合体にジアゾ化合物またはアジド化合物を添加したものを用いるカラーフィルターの製造方法である。


(但し、R1はHまたはCH3を表わし、XはOまたはNHを表わし、R2は炭素数2または3のアルキレン基を表わし、R3,R4,R5はHまたは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Yは酸基を表わす。)


(但し、R6はHまたはCH3を表わし、R7,R8はHまたは炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)


(但し、R9,R10はH、CH3またはC25を表わし、nは1〜3の整数を表わす。)
上記の共重合体の構成単位として用いられる(a)式で表される窒素含有単量体の好適な例としては、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルメタアクリルアミド等と塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、パラトルエンスルホン酸メチル、ジメチル硫酸との反応で形成される第4級アンモニウム塩等が挙げられ、その使用量は、少な過ぎると樹脂層の染色性が不十分で、多過ぎると共重合体の光硬化性が充分となるので、共重合体に対し5〜70重量%、好ましくは30〜50重量%の範囲とされる。
上記(b)式で表わされる窒素含有単量体の好適な例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられ、その使用量は少な過ぎると、染色前の加熱処理による染色性の低下が起こるため共重合体合体に対し21重量%以上必要であり、他の構成成分の必要量により85重量%以下より好ましくは25〜50重量%の範囲とされる。
上記(c)式で表わされる水酸基含有単量体の好適な例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート等が挙げられ、架橋反応性、基板への接着性が優れている点で、特に2−ヒドロキシエチルメタアクリレートが好ましく用いられる。これら水酸基含有単量体の使用量は少な過ぎると共重合体の架橋反応性即ち光硬化性が不十分となり、共重合体に対して9〜75重量%より好ましくは15〜40重量%とされる。
本発明に用いられる上記共重合体には、(a)(b)(c)式で表わされる単量体と共に、アクリル酸、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル)、メタアクリル酸エステル(例えばメタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチリ)等の単量体が含有されていても良い。
上記重合体に実用上充分な程度の感光性を付与するために添加される光硬化剤としては、4,4′−ジアジドカルコン、4,4′−ジアジドスチルベン−2,2′−ジスルホン酸、4,4′−ジアジドスチルベン−2,2′−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)4−メチルシクロヘキサノン、1,3−ビス(4′−アジドベンザル)−2−プロパノン、3,3′−ジアジドジフェニルスルホン、4,4′−ジアジドジフェニルケトン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、1,3−ビス(4′−アジドベンザル)−2−プロパノン、ジアゾ樹脂(P−ジアゾジフェニルアミンとホルムアルデヒドの重縮合物)などが挙げられる。これらの光硬化剤の含有量は特に限定されないが、充分な光硬化性を付与すること、硬化膜の着色が小さいことなどの点から、共重合体100重量部に対して2〜10重量部添加することが好ましい。
上記共重合体からなる感光性樹脂を用いてカラーフィルターを形成するには、上記共重合体を水、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等に溶解したのちアジド化合物又はジアゾ化合物を添加し、感光性樹脂溶液とする。
共重合体濃度は、通常5〜20重量%程度に調整する。
次いで、予め洗浄、乾燥したガラス基板上に上記感光性樹脂溶液を塗布し、50〜90℃の乾燥機中で乾燥し、得られた感光膜にフォトマスクを介して紫外線を照射して感光膜を硬化させる。その後メタノール、エタノール、メチルセロソルブ等によって未露光部を溶解除去してレリーフパターンを得る。次いで、該レリーフパターンを170〜180℃で加熱処理したのち、酸性染料からなる染浴に浸漬して着色層を形成する。加熱温度は共重合体組成に応じてその最適温度が決められるが、一般に160℃以下では膜荒れを生じやすく、190℃以下で染色性の低下が著しいため170〜180℃が望ましい。
さらに、該着色パターン上に透明な防染層をコートしたのち、同様の工程を経て第2の着色層を形成する。この操作を必要な着色層の数だけ繰り返してカラーフィルターを得る。
また、本発明によって製造されるカラーフィルターは、全く同一の方法で、固体撮像素子を形成したシリコンウエハー上に直接形成することも可能である。
〈作用〉 着色樹脂層にの形成に用いる感光性樹脂として、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等(b)式で表わされる窒素含有単量体を含む共重合体を用いることで、従来のアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルとアクリル酸アミド、メタアクリル酸アミドとの共重合体からなる感光性樹脂に見られた染色前の加熱処理による染色性の低下が解消され、該感光性樹脂を用いた固体撮像素子用カラーフイルターの製造が可能となる。
第1図に、染色前の加熱処理2時間における、加熱温度による染色性の変化を示した。図は、染色前の膜厚1μm当りの染色後のそれぞれの染料の最大吸収波長における吸光度にて示している。
〈実施例〉 表1−(1)示した比率の単量体を、通常の溶液重合法を用いて重合し、酢酸エチル中に滴下して沈澱精製し、乾燥後、上記共重合体10gに対しエチルセロソルブ90gを加えて樹脂液とした。上記樹脂液100gに4,4′−ジアジドスチルベンジスルホン酸0.4gを溶解し感光性樹脂液とした。
洗浄、乾燥したガラス基板上に上記の感光性樹脂液をスピンコートし、露光、現象してレリーフパターンを形成した。現像液には、エタノール1.5重量部に2−プロパノール1重量部からなる溶液を用いた。このレリーフパターンは2μm幅のラインアンドスペースが解像でき、残膜率も90%以上を示し、膜荒れも見られなかった。このレリーフパターンを170℃にて2時間加熱したのち下記組成のイエロー染色液にて60℃で5分間浸漬し、水洗、乾燥して黄色の着色層とした。染色前の加熱温度は、160℃以下では膜荒れを生じ、また第1図の実線に示すごとく180℃を超えるまでは染色性があまり低下しなかった。
次に、感光性樹脂FVR(富士薬品工業社製)をコートし、防染層としたのち、順に、マゼンダ、シアンの着色層を同様の手順にて形成し、カラーフィルターを得た。マゼンタ、シアンは下記組成の染色液で染色した。
イエロー:スミノールミーリングイエロー4G (住友化学(株)社製)0.5%水溶液 60℃5分間染色マゼンタ:カヤノールミーリングレッド3BW (日本化薬(株)社製)0.5%水溶液 60℃5分間染色シアン: ダイアミラターキスブルーG (三菱化成(株)社製)0.5%水溶液 60℃5分間染色〈実施例2〉 表1−(2)に示した比率の単量体を用いて、実施例1と同様の手順にて感光性樹脂溶液とした。アジト化合物には、4,4′−ジアジドスチルベン−2,2′−ジルスホン酸ナトリウムを用いた。
固体撮像素子を形成したシリコンウエハー上にFVRを用いて下引き処理を行なったのち、感光剤樹脂液を塗布し、露光、現像を行ない、レリーフパターンを得た。これを170℃にて2時間加熱したのち、ダイワグリーンCFT1%溶液(ダイワ化成株式会社製)にて73℃15分間染色し緑色の着色層とした。
以下、実施例1と同様の操作を行なって、順に赤色、青色の着色層を形成し、カラーフィルターを得た。各着色層における染色条件は下記のとおりである。
赤色:ダイワレッドCFT(ダイワ化成株式会社製) 1%溶液 65℃5分間染色青色:ダイワブルーCFT(ダイワ化成株式会社製) 0.5%溶液 65℃5分間染色 本実施例に用いた感光製樹脂も加熱処理160℃〜180℃で染色時の膜荒れ、染色性の低下は見られなかった。
〈比較例〉 表1、比較例に示した組成の単量体を用いて実施例1と同様の操作を行ない、レリーフパターンを得た。これを加熱処理したのち、染色した。染色液には実施例1と同一のものを用いた。本感光性樹脂は、160℃以下の加熱処理では膜荒れを生じ、第1図の一点鎖線で示すしように170℃以上では染色性が著しく低下し、カラーフィルターの製造には使用出来なかった。




〈発明の効果〉 本発明のカラーフィルターの製造方法によれば、着色樹脂層に用いる感光性樹脂として、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN−メチルアクリルアミドなどの窒素含有単量体21〜85重量%を構成単位として含有する共重合体を主成分とする感光性樹脂を用いることで、従来の天然蛋白質を用いた場合に問題となる感光性樹脂の保存安定性の悪さ、不紙物の混存に起因する個体撮像素子の経時劣化を解決出来る。また、フィルターの製造上重要となる染色前の加熱処理工程における許容温度範囲が、従来公知のアクリル系の合成高分子からなる感光性樹脂に比べて、広いことから、加熱処理工程での温度のばらつきによる染色性の低下がなく、安定した品質のカラーフィルターの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の実施例および比較例について、染色前の加熱処理温度による染色性の変化を、染色前膜厚1μm当りの染色後のそれぞれの染料の最大吸収波長における吸光度にて示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に感光性樹脂からなる被染料色パターンを形成し、これを染色して着色層とするカラーフィルターの製造方法において、感光性樹脂として、(a)式で表わされる窒素含有単量体5〜70重量%及び(b)式で表わされる窒素含有単量体85〜21重量%及び(c)式で表わされる水酸基含有単量体9〜75重量%を構成単位として含有する共重合体にジアゾ化合物またはアジド化合物を添加してなる感光性樹脂を用いたことを特徴とするカラーフィルターの製造方法。


(但し、R1はHまたはCH3を表わし、XはOまたはNHを表わし、R2は炭素数2または3のアルキレン基を表わし、R3.R4.R5はHまたは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Yは酸基を表わす。)


(但し、R6はHまたはCH3を表わし、R7.R8はHまたは炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)


(但し、R9.R10はH、CH3またはC2H5を表わし、nは1〜3の整数を表わす。)
【請求項2】(a)式で表わされる窒素含有単量体が、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミドのメチルクロライド塩またはパラトルエンスルホン酸メチル塩である請求項(1)に記載のカラーフィルターの製造方法。
【請求項3】(b)式で表わされる窒素含有単量体が、N,N−ジメチルアクリルアミドまたはN−メチルアクリルアミドである請求項(1)に記載のカラーフィルター。
【請求項4】水酸基含有単量体(c)が2−ヒドロキシエチルメタクリレートである請求項(1)に記載のカラーフィルターの製造方法。
【請求項5】アジド化合物が4、4′−ジアジドスチルベン−2、2′−ジスルホン酸ナトリウム又は、4、4′−ジアジドスチルベン−2、2′−ジスルホン酸である請求項(1)に記載のカラーフィルターの製造方法。

【第1図】
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【特許番号】第2696921号
【登録日】平成9年(1997)9月19日
【発行日】平成10年(1998)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−114093
【出願日】昭和63年(1988)5月11日
【公開番号】特開平1−283503
【公開日】平成1年(1989)11月15日
【出願人】(999999999)凸版印刷株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭58−199342(JP,A)