説明

カリックスアレーンダイマー化合物およびその製造方法

【課題】新規なカリックスアレーンダイマー化合物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】カリックスアレーンダイマー化合物の製造方法は、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを酸触媒の存在下反応させる工程を経ることによりカリックスアレーンダイマー化合物を得ることを特徴とし、カリックスアレーンダイマー化合物の構造はレゾルシノールの2,4位にアルデヒド炭素が脱水縮合して架橋し、ダイマー化したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリックスアレーンダイマー化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状化合物は、直鎖状化合物にはない特性や機能の発現が期待されているが、その一方で従来の環状化合物の合成方法には、合成反応が希釈条件下において行われ、多段階にわたる上、合成目的物である環状化合物を高い収率で得ることができないなどの問題があることからも、その物性の他、合成方法に関する研究が盛んに行われている。
而して、近年、例えばエステル結合、イミン結合、ジスルフィド結合、アセタール結合などの動的共有結合(平衡に支配された共有結合)を利用して選択的に環状化合物を合成することが可能であることが報告されている。
【0003】
また、環状化合物の1種であるカッリクスアレーン化合物は、その合成反応を高温下で行うことにより、希釈条件が必ずしも必要ではなくなり、また高い収率を得ることができ、しかも、最近においては、その可逆反応性が指摘されている。
【0004】
然して、本発明者らによっても、動的共有結合を利用することによる環状化合物を選択的に合成する手法、およびカリックスアレーン化合物の有する可逆反応性に着目することによって見出された、レゾルシノールと1,5−ペンタンジアールとを反応させることによって大環状化合物(発明者らによって「Noria」と命名)を合成する方法が提案されており、この手法によれば83%もの高い収率で合成目的物である環状化合物が得られることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
【非特許文献1】H.Kudo,R.Hayashi,K.Mitani,T.Yokozawa,N.C.Kasuga,T.Nishikubo.Angew,Chem,lnt,Ed.,45,7948−7952(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいて、発明者らによって見出された、レゾルシノールと、2官能性アルデヒドである1,5−ペンタンジアールとを反応させることによって環状化合物が得られることに着目し、レゾルシノールと、2官能性アルデヒドとを反応させることによる環状化合物の合成方法について研究を重ねた結果、完成されたものであって、その目的は、新規なカリックスアレーンダイマー化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のカリックスアレーンダイマー化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
〔式中、R1 は、水素原子または1価の有機基を示す。〕
【0010】
本発明のカリックスアレーンダイマー化合物の製造方法は、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを反応させる工程を経ることによりカリックスアレーンダイマー化合物を得ることを特徴とする。
また、本発明のカリックスアレーンダイマー化合物の製造方法においては、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを酸触媒の存在下において反応させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カリックスアレーン骨格を有する環状オリゴマーである新規なカリックスアレーンダイマー化合物およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明のカリックスアレーンダイマー化合物の製造方法によれば、カリックスアレーンダイマー化合物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカッリクスアレーンダイマー化合物は、カリックスアレーン骨格を有する環状オリゴマーであって、上記一般式(1)で表される化合物(以下、「特定カッリクスアレーンダイマー化合物」ともいう。)である。
【0013】
特定カリックスアレーンダイマー化合物を示す一般式(1)において、R1 は、水素原子または1価の有機基である。
基R1 を示す1価の有機基としては、例えばt−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。
【0014】
このような特定カリックスアレーンダイマー化合物は、例えばレゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを酸触媒の存在下において付加縮合反応させる工程(以下、「付加縮合工程」ともいう。)を経ることにより合成することができる。
特定カリックスアレーンダイマー化合物の付加縮合工程における合成過程を下記反応式(1)に示す。
【0015】
【化2】

【0016】
この付加縮合工程において、反応に供する、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとの割合は、好ましくは仕込み量比(レゾルシノール:1,6−ヘキサンジアール)がモル比で20:1〜20:20であり、特に好ましくは仕込み量比(レゾルシノール:1,6−ヘキサンジアール)がモル比で20:5〜20:6である。
【0017】
酸触媒としては、例えば塩酸などを用いることができる。
酸触媒の使用量は、例えばレゾルシノール20mmol(官能基当量40mmol)と1,6−ヘキサンジアール5mmol(官能基当量10mmol)との反応系において、12規定の濃塩酸1.5ミリリットルである。
【0018】
また、この付加縮合工程に係る反応式(1)で示される反応は、適宜の溶媒中において行われ、溶媒としては、例えばエタノール、イソプロパノール、n−プロパノールなどを用いることができ、これらの中では、高い収率が得られることから、エタノールが好ましい。
溶媒の使用量は、例えばレゾルシノール20mmol(官能基当量40mmol)と1,6−ヘキサンジアール5mmol(官能基当量10mmol)との反応系において、4.5ミリリットルである。
【0019】
反応温度は、80℃であることが好ましく、また、反応時間は、24時間以上であることが好ましく、特に48時間以上であることが好ましい。
【0020】
以上の付加縮合工程においては、反応中間体として2種類の化合物が存在しており、それらは、下記式(a)で表される化合物および式(b)で表される化合物であると考えられる。
【0021】
【化3】

【0022】
付加縮合工程において目的合成物として得られるカリックスアレーンダイマー化合物は、反応式(1)にも示されているように、一般式(1)においてR1 が水素原子である構造のものであるが、この一般式(1)においてR1 が水素原子であるカリックスアレーンダイマー化合物(以下、「カリックスアレーンダイマー化合物(1)」ともいう。)は、反応性基としての水酸基を有するものであることから、必要に応じて適宜の置換基を導入することができる。
具体的に、例えばカリックスアレーンダイマー化合物(1)に対するt−ブトキシカルボニル基の導入は、カリックスアレーンダイマー化合物(1)と、ジ−tert−ブチルジカーボネートとを、溶解促進剤としてのテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)および塩基としてのピリジンの存在下において置換反応させることによって行うことができる。これにより、一般式(1)においてR1 がt−ブトキシカルボニル基であるカリックスアレーンダイマー化合物を得ることができる。
カリックスアレーンダイマー化合物(1)と、ジ−tert−ブチルジカーボネートとの反応過程を下記反応式(2)に示す。
【0023】
【化4】

【0024】
〔式中、R2 は、t−ブトキシカルボニル基を示す。〕
【0025】
このような特定カリックスアレーンダイマー化合物は、8当量のレゾルシノールと、4当量の1,6−ヘキサンジアールとから形成されてなる構成を有し、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを付加縮合反応させる工程を経ることによって得られる新規な環状化合物であり、例えばt−ブトキシカルボニル基が導入されてなるものはレシスト材料などとして用いることができる可能性がある。
【0026】
そして、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを付加縮合反応させる工程を有する特定カリックスアレーンダイマー化合物の製造方法によれば、特定カリックスアレーンダイマー化合物を容易に得ることができる。
【0027】
また、レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを付加縮合反応させる工程において得られる、一般式(1)においてR1 が水素原子であるカリックスアレーンダイマー化合物は、反応性基として水酸基を有するものであることから、置換基を導入することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例および実験例の各々においては、下記の試薬および測定機器を用いた。
(試薬および溶媒)
・レゾルシノール、1,6−ヘキサンジオール、塩化クロム酸ピリジウム(PCC)、エタノール、12N塩酸(HCl)、ジ−tert−ブチルカーボネートとしては、市販品をそのまま用いた。
・テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)としては、酢酸エチルを用いて再結晶したものを用いた。
・ピリジンとしては、水素化カルシウムを用いて予備乾燥を行った後、水素化カルシウム(CaH2 )の存在下において蒸留精製したものを用いた。
(測定機器)
・赤外分光光度計(IR):島津製作所(株)「NICOLET 380 FT−IR」・核磁気共鳴スペクトル(NMR):日本電子(株)「JNM−ECA−500型(500MHz)」、日本電子(株)「JNM−ECA−600型(600MHz)」
・質量分析装置(MALDI−TOF−MASS):島津製作所(株)「SHIMAZU/KRATOS マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置KOMPACT MALDI tDE」
・ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC):東ソー(株)「HLC−8220 システム」;(検出器)「HLC−8200」内蔵RI・UV−8200、(カラム)「TSK GEL SUPER AW3000×1+2500×3」、(標準)ポリスチレン、(溶媒)DMF(20mM 無水LiBr、20mM H3 PO4 含有)
【0030】
〔実施例1〕
(1,6−ヘキサンジアールの合成例1)
酸化剤として塩化クロム酸ピリジウム(PCC)40g(180mmol)とシリカゲル(300メッシュ)40gとを混合して粉砕し、塩化メチレン260ミリリットルに懸濁させた後、1,6−ヘキサンジオール7.2g(60mmol)を塩化メチレン50ミリリットルに溶解した溶液を加え、室温において2時間にわたって撹拌を行った。反応が終了した後、この系に、ジエチルエーテル500ミリリットルを加え、傾瀉することによってエーテル層を回収し、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:エーテル)を行い、展開溶媒を減圧留去した後、減圧蒸留精製を行うことにより、収率74%で無色透明の液体5.3gを得た。
【0031】
得られた液体は、IR測定および 1H NMR測定により、下記式(c)で表される1,6−ヘキサンジアール(沸点:40.5〜41.1℃(2.0mmHg))であることが確認された。IR測定および 1H NMR測定の結果を下記に示す。
【0032】
【化5】

【0033】
・IR(film,cm-1):2925,2853,and2712(νC−H),1730,1712(νC=O)
1H NMR(600MHz,CDCl3 ,TMS),δ(ppm)
1.26(s,4.0H,Hc ),
4.17(m,4.0H,Hb ),
9.76(bs,2.0H,Ha
【0034】
(カリックスアレーンダイマー化合物の合成例1)
回転子を入れた容積100ミリリットルのナスフラスコ内において、レゾルシノール2.2g(20mmol:官能基当量40mmol)をエタノール4.5ミリリットルに溶解させ、更に触媒として塩酸1.5ミリリットルを加えた後、氷冷下において1,6−ヘキサンジアール0.58g(5mmol:官能基当量10mmol)を滴下した。その後、エタノール4.5ミリリットル中において、80℃で48時間加熱することによって赤色の懸濁液を得た。反応が終了した後、反応母液をジエチルエーテルに注ぐことによって固体を析出させ、ジエチルエーテルで洗浄したのち、得られた固体を24時間かけて減圧乾燥することにより、収率44%で赤色固体0.67gを得た。
【0035】
得られた赤色固体は、IR測定、 1H NMR測定および質量分析により、下記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物であることが確認された。IR測定、 1H NMR測定および質量分析の結果を下記および図1〜図3に示す。
【0036】
【化6】

【0037】
・Mn:1800,Mw/Mn:1.02
・IR(film,cm-1):3269(νO−H),2933and2859(νC−H),1920,1500,and1443(νC=C aromatic )
1H NMR(500MHz,DMSO−d6 ,TMS),δ(ppm)
1.06〜2.35(b,32.0H,Ha ,Hb ),
4.05〜4.22(m,8.0H,Hc ),
6.14(bs,8.0H,aromatic He ,Hh ,Hi ),
6.91(bs,8.0H,aromatic Hd ,Hg ),
9.13(m,16.0H,OHf
・質量分析(MALDI−TOF MS);(matrix:DHBA)
実測値(m/z)1195.22[M+H]+
計算値(m/z)1194.32[M+H]+
【0038】
〔実施例2〜実施例6〕
実施例1に係るカリックスアレーンダイマー化合物の合成例1において、反応温度を表1に示す温度に変更し、反応母液をジエチルエーテルに注ぐことによって固体を析出させ、得られた固体を24時間かけて減圧乾燥することにより赤色固体を得た。
生成物の粗収率を表1および図4に示す。
【0039】
得られた赤色固体について、IR測定、 1H NMR測定およびゲル浸透クロマトグラフィー測定(SEC測定(DMF))したところ、上記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物(カリックスアレーンダイマー化合物(1))の生成が確認された。
得られた赤色固定のSEC測定の結果を図5に示す。
図5において、曲線(a)は実施例2に係るデータ、曲線(b)は実施例3に係るデータ、曲線(c)は実施例4に係るデータ、曲線(d)は実施例5に係るデータおよび曲線(e)は実施例6に係るデータを示し、これらの曲線の各々において、(イ)はカリックスアレーンダイマー化合物に由来のピークであり、また(ロ)および(ハ)は反応中間体に由来のピークである。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2〜実施例6を比較することにより、反応温度が低温である場合には、合成目的物の他に多量のポリマーが生成されるが、反応温度が高くなるに従って反応系に存在する当該ポリマーが減少し、合成目的物であるカリックスアレーンダイマー化合物(1)へと収束していくことが確認された。また、反応温度が高くなるに従って収率が減少する要因は、前記ポリマー中にはレゾルシノールが含まれており、反応温度が高くなるに従ってその含有量が小さくなることにあると推測される。
【0042】
〔実施例7〜実施例14〕
実施例2〜6に係るカリックスアレーンダイマー化合物の合成例1において、1,6−ヘキサンジアールの使用量を表2に示す量に変更したこと以外は実施例2〜6と同様にして、表2および図6に示す粗収率で赤色固体を得た。
表2および図6には、参照するため実施例1の結果を併せて示す。
図6において、縦軸は粗収率(%)を示し、横軸は仕込み量の比(レゾルシノールに対する1,6−ヘキサンジアールの仕込み量の比)を示す。
【0043】
得られた赤色固体について、IR測定、 1H NMR測定およびゲル浸透クロマトグラフィー測定(SEC測定(DMF))したところ、上記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物(カリックスアレーンダイマー化合物(1))の生成が確認された。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1および実施例7〜実施例14を比較することにより、反応に供するレゾルシノールと1,6−ヘキサンジアールとの割合が仕込み量比(レゾルシノール:1,6−ヘキサンジアール)で20:5〜20:6である場合に高い収率が得られることが確認された。
【0046】
〔実験例1〕
この実験例1は、カリックスアレーンダイマー化合物を得るための反応系における好ましい溶媒を確認するために行った実験である。
【0047】
回転子を入れた容積100ミリリットルのナスフラスコ内において、レゾルシノール2.2g(20mmol:官能基当量40mmol)を下記表3に示す溶媒に溶解させ、更に触媒として塩酸1.5ミリリットルを加えた後、氷冷下において1,6−ヘキサンジアール溶液5mmol(官能基当量10mmol)をゆっくり滴下し、溶媒4.5ミリリットル(4.8mol/L)中において、反応温度80℃または90℃、反応時間48時間の条件で反応を行った。反応が終了した後、反応母液をメタノールに注ぎ、沈殿物をろ取してメタノールで3回洗浄し、得られた固体を24時間かけて減圧乾燥することにより、赤色固体を得た。
また、洗浄に用いたメタノールを炭酸水素ナトリウムで中和した後減圧濃縮し、エーテルに注ぐことによって白色固体を得た。
ここに、メタノール不溶部(赤色固体)およびメタノール可溶部(白色固体)の収率をSEC測定によって確認した。結果を表3に示すと共に、SEC測定の結果を図7および図8に示す。
図7において、曲線(f)は溶媒としてエタノールを用いた反応系に係るデータ、曲線(g)は溶媒としてイソプロパノールを用いた反応系に係るデータ、曲線(h)は溶媒としてn−プロパノールを用いた、反応温度80℃の反応系に係るデータおよび曲線(i)は溶媒としてn−プロパノールを用いた、反応温度90℃の反応系に係るデータを示し、これらの曲線の各々において、(ニ)は合成目的物であるカリックスアレーンダイマー化合物以外のポリマーに由来のピークであり、(ホ)は、カリックスアレーンダイマー化合物に由来のピークであり、また(ヘ)はレゾルシノールに由来のピークである。また、図8において、曲線(j)は溶媒としてエタノールを用いた反応系に係るデータ、曲線(k)は溶媒としてイソプロパノールを用いた反応系に係るデータ、曲線(l)は溶媒としてn−プロパノールを用いた、反応温度80℃の反応系に係るデータおよび曲線(m)は溶媒としてn−プロパノールを用いた、反応温度90℃の反応系に係るデータを示す。
【0048】
得られた赤色固体について、IR測定、 1H NMR測定およびゲル浸透クロマトグラフィー測定(SEC測定(DMF))並びに質量分析したところ、上記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物の生成が確認された。
【0049】
【表3】

【0050】
以上の結果から、溶媒としてエタノールを用いた場合には、合成目的物である式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物(カリックスアレーンダイマー化合物(1))が、当該カリックスアレーンダイマー化合物(1)以外のポリマー(以下、「他のポリマー」ともいう。)に比して多く生成されるが、イソプロパノールを用いた場合には、カリックスアレーンダイマー化合物(1)が殆ど生成されずに他のポリマーが多く生成された。また、溶媒としてn−プロパノールを用いた場合には、カリックスアレーンダイマー化合物(1)および他のポリマーの生成比がエタノールを用いた場合とイソプロパノールを用いた場合の間の値を示した。このような結果は、溶媒の極性に依るものであり、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールの順に誘電率が小さくなっているため、極性の小さいイソプロパノールを溶媒として用いた場合には、生成された他のポリマーが溶解せずに系中からはずれ、平衡が他のポリマーの方に傾いたことに起因してカリックスアレーンダイマー化合物(1)が殆ど生成されなかったと考えられる。
【0051】
〔実験例2〕
この実験例2は、カリックスアレーンダイマー化合物を得るための反応系の経時変化を確認するために行った実験である。
【0052】
実施例1に係るカリックスアレーンダイマー化合物の合成例1において、反応時間を、各々、5分間、1時間、3時間、6時間、24時間および168時間(1週間)に変更し、反応母液をジエチルエーテルに注ぐことによって固定を析出させ、得られた固体を24時間かけて減圧乾燥することにより赤色固体を得た。
得られた赤色固体について、各々、IR測定、 1H NMR測定およびゲル浸透クロマトグラフィー測定(SEC測定(DMF))したところ、上記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物(カリックスアレーンダイマー化合物(1))の生成が確認された。SEC測定の結果を図9に示す。この図9には、参照するため実施例1の結果を併せて示す。
図9において、曲線(n)は反応時間5分間の反応系に係るデータ、曲線(o)は反応時間1時間の反応系に係るデータ、(p)は反応時間3時間の反応系に係るデータ、(q)は反応時間6時間の反応系に係るデータ、(r)は反応時間24時間の反応系に係るデータ、(s)は実施例1に係るデータ(反応時間48時間の反応系に係るデータ)および(t)は反応時間168時間(1週間)の反応系に係るデータを示し、これらの曲線の各々において、(ト)はカリックスアレーンダイマー化合物に由来のピーク、(チ)および(リ)は反応中間体に由来のピークである。
また、反応時間168時間の反応系における収率を確認したところ、40%であった。
【0053】
以上の結果から、反応初期においては、合成目的物である上記式(1)で表されるカリックスアレーンダイマー化合物(カリックスアレーンダイマー化合物(1))の他、高分子量のポリマーや反応中間体としてのオリゴマーの生成が多く確認されるが、反応が進行するに従って反応系に存在する高分子量のポリマーやオリゴマーが徐々に減少し、カリックスアレーンダイマー化合物(1)へと収束することが確認された。
また、反応中間体が2種類存在することが確認された。
【0054】
〔実施例15〕
回転子を入れた容積5ミリリットルのナスフラスコ内に、カリックスアレーンダイマー化合物(1)0.30g(0.25mmol:OH基当量4mmol)を仕込み、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.065g(OH基に対して5mol%)と共にピリジン3ミリリットルを加えることによってカリックスアレーンダイマー化合物(1)を溶解させた後、氷冷下においてジ−tert−ブチルジカーボネート(DiBoc)1.3g(6mmol)をゆっくり滴下し、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、母液をクロロホルムで希釈し、1Nの塩酸によって3回および水道水で1回洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムよりなる乾燥剤を用いて乾燥させ、乾燥剤をろ別した後に濃縮し、良溶媒としてクロロホルムおよび貧溶媒としてヘキサンを用いて再沈処理することにより、収率52%で白色固体0.37gを得た。
【0055】
得られた白色固体は、IR測定および 1H NMR測定により、一般式(1)においてR1 がt−ブトキシカルボニル基であるカリックスアレーンダイマー化合物であることが確認され、またエーテル化率が100%であることが確認された。IR測定および 1H NMR測定の結果を下記並びに図10および図11に示す。
【0056】
・IR(film,cm-1):2981,2934,and2864(νC−H),1760(νC=O),1615,1592,and1497(νC=C aromatic),1371(νt−butyl ),1272and1143(νC−O−C ether )・ 1H NMR(500MHz),DMSO,TMS:δ(ppm)
0.86〜2.01(m,176.0H,t-butyl H,−CH2 CH2 CH2 −),
3.79〜4.12(m,8.0H,>CH−),
6.81〜7.13(m,16.0H,aromaticH)
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1に係るカリックスアレーンダイマー化合物のIRスペクトル図である。
【図2】実施例1に係るカリックスアレーンダイマー化合物の 1H NMRスペクトル図である。
【図3】実施例1に係るカリックスアレーンダイマー化合物のMALDI−TOF MS測定(質量分析)のデータである。
【図4】実施例2〜実施例6の各々に係るカリックスアレーンダイマー化合物の粗収率と、反応温度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2〜実施例6の各々に係るカリックスアレーンダイマー化合物のSEC測定のデータである。
【図6】実施例1、実施例7〜実施例14の各々に係るカリックスアレーンダイマー化合物の粗収率と、レゾルシノールに対する1,6−ヘキサンジアールの仕込み量との関係を示すグラフである。
【図7】実験例1に係るメタノール不溶部のSEC測定のデータである。
【図8】実験例1に係るメタノール可溶部のSEC測定のデータである。
【図9】実験例2に係るSEC測定のデータである。
【図10】実施例15に係るカリックスアレーンダイマー化合物のIRスペクトル図である。
【図11】実施例15に係るカリックスアレーンダイマー化合物の 1H NMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするカリックスアレーンダイマー化合物。
【化1】

〔式中、R1 は、水素原子または1価の有機基を示す。〕
【請求項2】
レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを反応させる工程を経ることによりカリックスアレーンダイマー化合物を得ることを特徴とするカリックスアレーンダイマー化合物の製造方法。
【請求項3】
レゾルシノールと、1,6−ヘキサンジアールとを酸触媒の存在下において反応させることを特徴とする請求項2に記載のカリックスアレーンダイマー化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−280269(P2008−280269A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124324(P2007−124324)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】