説明

カリーナサイクルを用いた原子力発電プラント

【課題】 様々な付随する設備を不要とし、原子炉格納容器を小型化することを可能とした原子力発電プラントを提供する。
【解決手段】 一次冷却材が循環する一次系と、沸点の異なる2以上の物質の混合溶液からなる二次冷却材が循環する二次系とを有するカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントであって、一次系は、一次冷却材の加熱を行う原子炉と、原子炉で加熱された一次冷却材と二次冷却材との間で熱交換を行い、二次冷却材の混合蒸気を発生させて一次系から二次系に熱輸送を行う蒸気発生器とを有し、二次系は、蒸気発生器で二次冷却材を加熱することにより発生した混合蒸気から、蒸気を気液分離する分離槽と、分離槽からの蒸気により回転して発電を行うタービン及び発電機を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリーナサイクルを用いることにより原子炉温度及び圧力を上げずに発電を行うことを可能とした原子力発電プラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の原子力発電プラントでは、発電サイクルに水(蒸気)を媒体として用いていた。水を媒体とした発電サイクルの場合には、系内の圧力を上げて蒸発させているため、高温の蒸気を生成する必要がある。このため、原子力発電所の運転においては、原子炉温度(圧力)も高温、高圧とする必要がある。
【0003】
従来の原子力発電所について、加圧水型(PWR)原子力発電所を例として説明する。図2は、一般的なPWR原子力発電所の主要な系統を示す図である。PWR原子力発電所の場合には、原子炉容器を含む一次冷却材系統内の一次冷却材は沸騰しないよう(325℃、15.4MPa程度に)加圧されている。
【0004】
また、原子力プラントでは、配管破断などの事故を想定した場合には、原子力安全の基本である「止める」、「冷やす」、及び、「閉じ込める」を確実に実行する必要がある。このうち、「冷やす」については、水(一次冷却材)が蒸発し炉心が空焚きにならないように、急速に水を注入する設備(以下、非常用炉心冷却系(ECCS))が設置してある。非常用炉心冷却系(ECCS)は、蓄圧注入系、高圧注入系、低圧注入系および燃料取扱替用水タンクで構成されている。
【0005】
一次冷却材喪失事故(LOCA)等が発生した場合には、原子炉容器内の燃料から除熱する機能が喪失するので、燃料の破損およびこれにともなって放射性物質が環境へ放散する可能性が生じる。このような場合には、非常用炉心冷却設備の働きで緊急に炉心にホウ酸水(ホウ酸:中性子吸収剤)又は水が注水され炉心が冷却されるので、燃料および燃料被覆管の損傷が防止され、かつ、燃料被覆管のジルコニウムと水の反応(水素発生)を十分小さな量に抑えることができる。またホウ酸水が炉心に注水されると、原子炉の停止に必要な負の反応度が添加される。
【0006】
蓄圧注入系は蓄圧タンク(ホウ酸水)及び逆止弁などで構成されている。一次冷却材の喪失などで、一次冷却系の圧力が蓄圧タンクの保持圧力以下に低下すると、逆止弁が自動的に開き(外部電源等の駆動源は必要としない)、ホウ酸水が炉心に注入される。
【0007】
高圧注入系は、高圧注入ポンプ、配管、弁類などで構成されている。一次冷却材喪失事故が発生した場合には、「非常用炉心冷却設備作動」信号が発せられて、高圧注入系の弁が開き高圧注入ポンプが起動し、燃料取替用水タンクのホウ酸水が炉心に注入される。燃料取替用水タンクの水位が低くなると、水源を格納容器再循環サンプに切替えて注水が継続され、再循環モードに移行する。ポンプ電動機はおのおの独立した2系統の非常用母線に接続されており、外部電源喪失時にはディーゼル発電機が起動し給電する。
【0008】
低圧注入系は、余熱除去ポンプおよび余熱除去冷却器などから構成されている。「非常用炉心冷却設備作動」信号により起動し、燃料取替用水タンクのホウ酸水が炉心に注入される。燃料取替用水タンクの水位が低くなると、水源を格納容器再循環サンプに切替えて注水が継続され再循環モードに移行する。ポンプ電動機はおのおの独立した2系統の非常用母線に接続されており、外部電源喪失時にはディーゼル発電機から給電される。
【0009】
このように、非常用炉心冷却系は、上述した様々な機器を必要とする。
【0010】
さらに、「閉じ込める」では、蒸発した放射性物質を含む蒸気が環境に放出されないように大きな原子炉格納容器が必要であった。特に、PWR原子力発電所は、原子炉温度(圧力)も高温、高圧とする必要があり、確実に防護を行うためには、原子炉格納容器を強固なものとする必要がある。また、PWR原子力発電所は、一次系を加圧するための加圧器や上述した蓄圧タンク、蒸気発生器などの機器を格納するため、強固かつ大型の容器が必要であった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-150846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来の原子力発電所は、原子炉温度及び圧力も高温、高圧とする必要があるため、安全のために様々な付随する設備が必要となり、また、原子炉格納容器を大きくする必要があった。
【0013】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、原子炉温度及び圧力を上げずに発電を行うことを可能とし、ひいては、様々な付随する設備を不要とし、原子炉格納容器を小型化することを可能とした原子力発電プラントを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントは、一次冷却材が循環する一次系と、沸点の異なる2以上の物質の混合溶液からなる二次冷却材が循環する二次系とを有するカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントであって、一次系は、一次冷却材の加熱を行う原子炉と、原子炉で加熱された一次冷却材と二次冷却材との間で熱交換を行い、二次冷却材の混合蒸気を発生させて一次系から二次系に熱輸送を行う蒸気発生器とを有し、二次系は、蒸気発生器で二次冷却材を加熱することにより発生した混合蒸気から、蒸気を気液分離する分離槽と、分離槽からの蒸気により回転して発電を行うタービン及び発電機を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントによれば、原子炉温度及び圧力を上げずに発電を行うことを可能とし、ひいては、様々な付随する設備を不要とし、原子炉格納容器を簡素化、小型化することを可能とした原子力発電プラントを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントの全体構成を示す図である。
【図2】従来の原子力発電所の内、一般的な加圧水型(PWR)原子力発電所の主要な系統を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態であるカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントについて、加圧水型(PWR)原子力発電所を例に、図を参照して詳細に説明をする。
【0018】
まず、カリーナサイクルについて簡単に説明をする。カリーナサイクルとは、沸点の違う2以上の物質の混合溶液の蒸発・凝縮特性を応用してシステム全体の発電効率を改良したサイクルのことをいう。混合溶液としては、沸点がマイナス33℃のアンモニアと水とを混合したアンモニア水が媒体として用いられることが多い。
【0019】
カリーナサイクルは、熱源が比較的低温でも発電できる技術であるため、海洋温度差発電や廃熱を利用した発電として実証された技術である。本実施形態は、このカリーナサイクルを原子力発電プラントの発電サイクルに用いることにより、原子炉温度(圧力)を上げずに発電を行うものである。
【0020】
次に、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントについて説明をする。図1は、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントの全体構成を示す図である。図1の左側が一次系(原子炉系)Aであり、図の右側が二次系(水/蒸気系)Bである。
【0021】
一次系Aには、原子炉格納容器1、原子炉2、蒸気発生器3、一次冷却材ポンプ4、及び、一次系配管14a〜14cが備わる。なお、一次冷却材の自然循環が可能な場合には、一次冷却材ポンプ4は不要となる。一次系A内を循環する一次冷却材には、一般的に軽水を用いるが、これに限られるものではない。
【0022】
原子炉格納容器1は、原子炉2、蒸気発生器3、一次冷却材ポンプ4、及び、一次系配管14a〜14cを格納し、一次冷却材喪失時には、原子炉格納容器1は、放射性物質の最終障壁(原子炉格納容器バウンダリ)を形成して、放射性物質の環境への放散を抑制して、発電所周辺の一般公衆および発電所従業員の安全を確保する。ただし、本実施形態のカリーナサイクルを用いたシステムでは、原子炉格納容器1には従来のような圧力がかからないため圧力障壁の機能は不要であり、原子炉格納容器の強度を一層低減することを可能としている。この点で従来の原子炉格納容器と大きく相違する。
【0023】
原子炉2は、燃料集合体と制御棒及び周辺装置、遮へい体等を備える。原子炉2は、配管14aを介して蒸気発生器3と接続し、原子炉2内で発生した熱を用いて加熱された一次冷却材を蒸気発生器3へ供給する。
【0024】
一次冷却材は蒸気発生器3内で伝熱管によって熱交換され、一次系Aから二次系Bに熱輸送され、アンモニアの蒸気を発生する。なお、図1では、蒸気発生器3は原子炉格納容器1の内部に配置されているが、配管破断(SG伝熱管破断)でも二次系Bの方が圧力が高くなるため、蒸気発生器3を原子炉格納容器1の外に配置することも可能である。この場合には、原子炉格納容器1の外形を図1中の点線Cの位置まで縮小することが可能となる。一般に、原子炉格納容器1の大きさは環境に放射性物質を出さないために大きくしているが、蒸気発生器3を原子炉格納容器1の外におくことにより、さらに原子炉格納容器1を小さくすることが可能となる。
【0025】
蒸気発生器3は配管14bを介して一次冷却材ポンプ4と接続する。また、蒸気発生器3内で発生したアンモニア蒸気とアンモニア水については、配管12aを介して後述する二次系Bの分離槽5へ供給される。ここで、一次系内における一次冷却材の温度及び圧力は100℃、1気圧をベースとする。ただし、ECCS系などを設置しないで設計できる範囲で、温度、圧力を上げることも可能である。
【0026】
一次冷却材ポンプ4は配管14cを介して原子炉2と接続し、一次系A内の各機器及び配管内に一次冷却材を循環させる。
【0027】
二次系Bには、分離槽5、タービン6、発電機7、凝縮器8、アンモニア水凝縮槽9、作動流体ポンプ10、再生器11、配管12a〜12h、及び、配管13a、13bが備わる。
【0028】
二次系B内を循環する二次冷却材にはアンモニア水が好適に用いられる。ただし、これに限られず、沸点の違う2以上の物質の混合溶液であればよい。例えば、フロン134aに若干のフロン32を加えたものや、フロン134aに若干のフロン32と123を加えたものを用いることができる。また、アンモニア単体やn-ペンタンを使用することも可能である。
【0029】
分離槽5は、配管12aを介して供給される蒸気発生器3内で発生したアンモニア蒸気とアンモニア水に気液分離する。高濃度アンモニアの蒸気については配管12bを介してタービン6へ供給する。また、低濃度アンモニア水については再生器11へ供給する。
【0030】
蒸気発生器3から供給されるアンモニア蒸気が仕事を行うことによりタービン6が回転し、タービン6に連結した発電機7により発電を行う。
【0031】
タービン6から排出されたアンモニア蒸気については、配管12cを介して凝縮器8へ供給される。また、分離槽5で分離された低濃度のアンモニア水は再生器11を通り、配管12gを介して凝縮器8へ供給される。
【0032】
凝縮器8は、配管13a、13bを介して冷却水が供給され、タービン6からのタービン排気の凝縮及び分離槽5で分離された低濃度のアンモニア水を冷却して、アンモニア/水の混合媒体を生成する。アンモニア/水の混合媒体は、配管12dを介してアンモニア水凝縮槽9へ供給される。
【0033】
アンモニア水凝縮槽9に貯留されたアンモニア/水の混合媒体については配管12eを介して作動流体ポンプ10へ供給される。
【0034】
作動流体ポンプ10は、二次系B内の各機器及び配管に二次冷却材を循環させる。作動流体ポンプ10は、配管12fを介して再生器11へ二次冷却材を供給する。
【0035】
再生器11では、分離槽5で分離された低濃度のアンモニア水と作動流体ポンプ10から送られた二次冷却材との間で熱交換が行われる。再生器11で熱交換された二次冷却材は、配管12hを介して一次系A内の蒸気発生器3へ供給される。
【0036】
次に、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントの運転方法について説明をする。上述したように、カリーナサイクルはアンモニアと水を媒体としており、低温でも発電できる技術である。
【0037】
一次系Aでは、原子炉格納容器1内の一次冷却材は原子炉2の出力を制御して発生した熱を用いて加熱される。この際、一般的な加圧水型(PWR)原子力のように一次冷却材への加圧は行わない、又は安全系を不要とする程度の圧力で制御される。したがって、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントでは、一般的な原子力発電所のような高い圧力を必要としない運転を行う。
【0038】
一次冷却材ポンプ4によって、原子炉2からの一次冷却材を蒸気発生器3(一次系A側)に輸送する。蒸気発生器3内では伝熱管によって熱交換され、一次系A側から二次系B側に熱輸送されアンモニア蒸気を発生する。この蒸気はタービン6に送られ発電機7により発電が行われる。
【0039】
本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントでは、原子炉温度(圧力)の低温、低圧化により、高圧注入系、低圧注入系、蓄圧タンク等のECCS、格納容器スプレイ等の安全設備、及び、一次冷却材へ加圧するための加圧器等の補器類が不要となる。また、収納する補器類が減少し、さらに、原子炉温度(圧力)の低温、低圧化により、原子炉格納容器1の強度や大きさを低減しても確実に防護を行うことが可能であり、従来のごとく強固・大型化する必要はない。
【0040】
さらに、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントでは、1次系A内の配管部は大気圧程度又は低圧化できる。したがって、配管が破断しても、破断口からの流出する冷却材量は少なく、燃料の露出がなくなり、さらに安全性が高い。
【0041】
なお、原子炉温度を低温化することにより発電効率は低下する。しかしながら、火力発電と比較して、原子力発電の発電コストにおける燃料費の占める割合は低いため、発電効率の低下の影響は小さい。本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントは、原子力発電のこのような燃料コスト構造を考慮に入れつつ安全性を追及したものである。
【0042】
以上説明したように、本実施形態のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントによれば、原子炉温度(圧力)を上げないため、配管破断事故などを仮定したした場合にも、非常用炉心冷却系を設置しなくても炉心は水に浸っており炉心冷却が可能となる。また、原子炉圧力が低いため、水(冷却材)の蒸発量は限られ、放射性物質の外部拡散を防ぐ格納容器の耐圧性を低くすることができる。
【0043】
その上、主要機器の設計は従来の原子力発電プラントの技術を活用でき、さらに、原子炉圧力が低いため、耐圧設計(容器の厚さやポンプのシール構造など)が楽になる。このような圧力の低い原子炉は、照射炉や研究炉として実在している。これらにより、原子炉の物量を削減できるとともに、高度・複雑な技術を用いることなく既存技術の範囲内で、安全を確保できる原子力発電プラントを構築できる。
【0044】
なお、上記説明においては、説明の便宜上、主にPWR原子力発電所をモデルとして説明を行ったが原子力発電所のタイプはこれに限られない。つまり、熱源である原子炉(一次系)がどのような炉のタイプであっても、二次系にカリーナサイクルを適用することによって、上記説明と同様の効果が得られ、安全系の設備を不要とすることが、または安全系の設計条件を緩和することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1:原子炉格納容器
2:原子炉
3:蒸気発生器
4:一次冷却材ポンプ
5:分離槽
6:タービン
7:発電機
8:凝縮器
9:アンモニア水凝縮槽
10:作動流体ポンプ
11:再生器
12a〜12h:二次系配管
13a、13b:冷却用配管
14a〜14c:一次系配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次冷却材が循環する一次系と、沸点の異なる2以上の物質の混合溶液からなる二次冷却材が循環する二次系とを有するカリーナサイクルを用いた原子力発電プラントであって、
前記一次系は、
前記一次冷却材の加熱を行う原子炉と、
前記原子炉で加熱された一次冷却材と前記二次冷却材との間で熱交換を行い、前記二次冷却材の混合蒸気を発生させて前記一次系から前記二次系に熱輸送を行う蒸気発生器と、
を有し、
前記二次系は、
前記蒸気発生器で前記二次冷却材を加熱することにより発生した混合蒸気から、蒸気を気液分離する分離槽と、
前記分離槽からの蒸気により回転して発電を行うタービン及び発電機と、
を有することを特徴とするカリーナサイクルを用いた原子力発電プラント。
【請求項2】
前記一次系内において、前記一次冷却材は加圧されず又は安全系を不要とする程度の圧力で制御されることを特徴とする請求項1に記載のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラント。
【請求項3】
前記二次冷却材は、アンモニア水であることを特徴とする請求項1または2に記載のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラント。
【請求項4】
前記蒸気発生器は原子炉格納容器の外に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカリーナサイクルを用いた原子力発電プラント。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−128090(P2011−128090A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288685(P2009−288685)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)