説明

カルシア質材料およびその製造方法

【課題】従来の水和防止技術が有していた課題を解決しようとするものであり、安価な添加物を使用し、カルシアに十分な耐水和性を付与する方法及び高耐水和性カルシア質材料を提供する。
【解決手段】鉄成分およびカルシウム成分を含む出発原料からなる混合物に対して段階的な熱処理を行うことにより、CaO−FeO系固溶体を形成させた後、固溶体にCaO−Fe−Fe系化合物を析出させることを特徴とする。また、熱処理後のカルシア質材料中の酸化鉄含有量が0.3〜15質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水和性の高いカルシア質材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシア(CaO)は、自然界に豊富にあり、耐火度が高く、塩基性溶融スラグなどの溶融物に対する耐食性も良いなどの優れた特性を有するため、製鋼用耐火物やセメント製造用耐火物などの耐火物の製造分野に原料として使用することができるが、水和しやすい欠点があるため、その実用が制限されている。
カルシアの耐水和性を改善すべく、従来から種々の検討がなされている。例えば、カルシアにAl、Cr、Ti、Zr、Fe、Y、W、NiおよびCuの金属またはB、SiおよびCの半金属をコーティングし、大気雰囲気、酸化雰囲気、カーボン雰囲気、一酸化炭素雰囲気、窒素雰囲気またはシリコン雰囲気のいずれかの雰囲気中で加熱処理することによりカルシア原料に金属反応物の被覆層を形成させる方法が特許文献1に開示されている。
また、カルシア質原料の表面にチタン系有機金属化合物またはコロイド状チタニアを被覆、乾燥、熱処理する方法が特許文献2に開示されている。
【0003】
【特許文献1】 特開平8−104574号公報
【特許文献2】 特開平10−245284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上に述べた従来の水和防止技術では、添加物の被覆効果が不十分で、カルシアに十分な耐水和性を付与することが困難である。さらに、高価な添加物の使用でコストが高い問題も含まれている。
【0005】
本発明は、従来の水和防止技術が有していた課題を解決しようとするものであり、安価な添加物を使用し、カルシアに十分な耐水和性を付与する方法および高耐水和性カルシア質材料を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鉄成分およびカルシウム成分を含む出発原料からなる混合物に対して段階的な熱処理を行うことにより、CaO−FeO系固溶体を形成させた後、固溶体にCaO−Fe−Fe系化合物を析出させることを特徴とする。
【0007】
また、熱処理後のカルシア質材料中の酸化鉄含有量が0.3〜15質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述したように本発明の水和防止技術は、安価な添加物を使用し、カルシアに十分な耐水和性を付与することができ、耐水和性の高いカルシア質材料を提供できる。。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明において、鉄成分およびカルシウム成分を含む出発原料からなる混合物を段階的に熱処理するところに特徴がある。
【0011】
鉄成分含有の出発原料としては、金属鉄および鉄化合物の中の1種または2種以上を用いることができる。鉄化合物には、鉄の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、塩化物やフッ化物などが含まれる。ただし、低コスト面から酸化鉄が好ましい。
【0012】
また、鉄成分含有原料以外の原料中の鉄成分、例えば炭酸カルシウム原料中の酸化鉄不純物も含まれる。カルシウム成分含有の出発原料としては、カルシア、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどを用いることができる。
【0013】
前段階の熱処理として、上述した出発原料からなる混合物を加熱し、Ca、FeおよびO元素が均一に分布するCaO−FeO系固溶体を形成させる。加熱温度を800〜2500℃の範囲にすることが好ましく、加熱温度が800℃未満であると、CaO−FeO系固溶体の形成速度が遅く、FeO固溶量も小さすぎる。温度が2500℃を超えると、鉄成分の蒸発が問題となる。
【0014】
また、雰囲気中の酸素分圧を10−30〜0.1atmの範囲にすることが好ましく、酸素分圧が10−30atm未満であると、あるいは0.1atmを超えると、FeOが不安定となり、CaO−FeO系固溶体は形成されない可能性がある。
【0015】
後段階の熱処理においては、前段階の熱処理で得られたCaO−FeO系固溶体を前段階と異なる雰囲気および加熱温度下で熱処理し、固溶体中のFeOを雰囲気中の酸素と反応させ、CaO−Fe−Fe系化合物で析出させる。雰囲気と接する固溶体粒の表面にその化合物が優先的に生成するため、表面被覆層が形成する。
【0016】
また、その表面被覆層を介して粒の内部へ拡散する酸素が結晶粒間の界面へ集積しやすいため、結晶粒界にもCaO−Fe−Fe系化合物の被覆層が生じる。
【0017】
CaO−Fe−Fe系化合物は、熱処理中において液相または固相を呈し室温まで冷却されると2CaO・FeやCaO・Feなどの結晶相または非結晶相となる。このように形成される耐水和性が高いCaO−Fe−Fe系化合物の被覆層により、良い被覆効果が現れ、得られるカルシア質材料が高い耐水和性を示す。ただし、後段階の熱処理では、加熱温度が800〜2500℃の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、雰囲気中の酸素分圧を10−25〜1atmの範囲にすることが好ましい。加熱温度が800℃未満であると、CaO−Fe−Fe系化合物の析出が遅すぎ、2500℃を超えると、鉄成分の蒸発が問題となる。
【0019】
さらに、酸素分圧が10−25atm未満になると、CaO−Fe−Fe系化合物が析出せず、1atmを超えると、CaO−Fe−Fe系化合物は析出するが、耐高圧処理装置が必要となり処理コストが高くなる。
【0020】
なお、熱処理で得られるカルシア質材料中酸化鉄の含有量が0.3〜15質量%であることが好ましい。0.3質量%未満であると、均一なCaO−Fe−Fe系化合物の被覆層が生成できず、あるいはその層の厚みが薄すぎるため、カルシア質材料の耐水和性が低下する可能性がある。
【0021】
酸化鉄の含有量が15質量%を超えると、その量が多すぎてカルシア材料の耐食性などの特性が損なわれる可能性がある。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
炭酸カルシウムの粉体に酸化鉄(Fe)の粉体を[Fe/(CaO+Fe)]×100%=5質量%の比率で添加し、混合した後、直径25mm×高さ10mmの円柱体に成形した。円柱体を酸素分圧が10−6atmの(Ar+O)雰囲気(全圧力は1atm)中において1600℃で5時間加熱し、CaO−FeO固溶体を生成させた。次に、雰囲気を大気(酸素分圧が約0.2atm)に変更し5時間加熱して、液相のCaO−Fe−Fe系化合物を析出させた。室温まで冷却するとき、2CaO・Feの結晶相からなる被覆層が生じた。熱処理後のカルシア質材料を温度が70℃、湿度が90%の恒温恒湿装置の中に48時間静置し、質量増加率から耐水和性を評価した。質量増加率が小さいほど耐水和性が良くなる。
[実施例2]
炭酸カルシウムの粉体に酸化鉄(Fe)の粉体を[Fe/(CaO+Fe)]×100%=5質量%の比率で添加し、混合した後、直径25mm×高さ10mmの円柱体に成形した。円柱体を酸素分圧が10−5atmの(Ar+O)雰囲気(全圧力は1atm)中において1600℃で5時間加熱し、CaO−FeO固溶体を生成させた後、雰囲気を変更せずに温度を1200℃まで下げて5時間保持し、2CaO・Fe結晶相の被覆層を形成させた。熱処理後のカルシア質材料を実施例1に示した方法で耐水和性を評価した。
[比較例1]
酸化鉄が添加されていない炭酸カルシウムの粉体を直径25mm×高さ10mmの円柱体に成形した後、円柱体を大気雰囲気中において1600℃で5時間加熱した。熱処理後のカルシア材料を実施例1に示した方法で耐水和性を評価した。
[比較例2]
炭酸カルシウムの粉体に酸化鉄(Fe)の粉体を[Fe/(CaO+Fe)]×100%=5質量%の比率で添加し、混合した後、直径25mm×高さ10mmの円柱体に成形した。円柱体を大気雰囲気中において1600℃で5時間加熱した。加熱後の試料中酸化鉄は、2CaO・Fe粒の状態でCaO粒の間に分布した。熱処理後のカルシア質材料を実施例1に示した方法で耐水和性を評価した。
水和試験結果を図1に示す。図中の水和指数は、水和テスト前後における各材料の質量増加率と比較例1のカルシア材料のそれとの比である。
図1から、本発明のカルシア質材料は高い耐水和性を示すことがわかる。これは、段階的熱処理によりCaO−FeO固溶体に被覆効果の良いCaO−Fe−Fe系化合物の被覆層を析出させたためである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のカルシア質材料は、浸漬ノズルなどの製鉄・製鋼用耐火物へ応用できるし、セメント製造用耐火物などの分野にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 実施例および比較例のカルシア質材料の水和指数である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄成分およびカルシウム成分を含む出発原料からなる混合物を段階的に熱処理することにより、CaO−FeO系固溶体を形成させた後、固溶体にCaO−Fe−Fe系化合物を析出させることを特徴とするカルシア質材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造され、酸化鉄を0.3〜15質量%含有することを特徴とするカルシア質材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−285393(P2008−285393A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158051(P2007−158051)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(591240722)岡山セラミックス技術振興財団 (13)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】