説明

カルバミン酸エステルの製造方法

【課題】ハロゲン化合物を用いずに、原料としてアミン及びアルコールと二酸化炭素を用いて高収率・高選択率でカルバミン酸エステル類を与える工業的に有利なカルバミン酸エステルの製造方法を提供する
【解決手段】アミンとアルコールと二酸化炭素とを(i)金属化合物と(ii)カルベン類若しくはジカルベン類の組み合わせからなる触媒の存在下で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素とアミン及びアルコールとを特定の触媒の存在下で反応させてカルバミン酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、年間500万トン以上の需要がある有用な化合物である。
従来、このものは、アミンとホスゲンから合成されるイソシアナートをアルコールと反応させる方法によって製造されている。しかし、ホスゲンは猛毒であり、またホスゲンの反応では塩酸が多量に発生するため、より環境に優しい合成法の開発が強く望まれていた。
【0003】
ホスゲンを用いないイソシアナートの製造方法としては、カルバミン酸エステルを熱分解する方法が有効とされている。このカルバミン酸エステルの合成方法としては、(1)ニトロ化合物をアルコール存在下に一酸化炭素と反応させる方法、(2)アミンをアルコール存在下に一酸化炭素と反応させる方法、(3)アミン及び有機ハロゲン化合物と二酸化炭素を反応させる方法等が知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、上記(1)及び(2)の反応では毒性ガスである一酸化炭素を加圧下に使用するため、製造設備の維持管理や作業員の安全確保に多大なコストと労力を要し、また(3)の方法ではカルボニル源が二酸化炭素であるが、イソシアナート一分子を合成するのに一分子の有機ハロゲン化物を消費し、かつ一分子のハロゲン化水素が副生するという欠点等があった。
【0005】
本発明者等は、このような欠点を解消する方法として、先に、二酸化炭素とアミン及びアルコールとを反応させてカルバミン酸エステルを得る新規な方法および該反応をスズ又はニッケル触媒の存在下で行う方法を提案した(特許文献1)。
【0006】
この方法は、環境に無害で毒性のない二酸化炭素、安価で取り扱いやすいアミン及びアルコールを用いることから、安全かつ簡易な設備でカルバミン酸エステルを得ることができるといった、メリットを有するものであるが、その後の本発明者らの検討によれば、工業的規模で実施するに当たっては、カルバミン酸エステルの収率を更に向上することが必要であることが判明した。
【0007】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry誌、1999年、64巻、3940頁
【特許文献1】特開2002−212159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のカルバミン酸エステルの合成における上記の問題点を克服し、ハロゲン化合物を用いずに、アミン及びアルコールと二酸化炭素から高収率・高選択率でカルバミン酸エステルを与える工業的に有利なウレタン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来法の問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ハロゲン化合物を用いずにアミン及びアルコールと二酸化炭素からカルバミン酸エステルを製造する方法においては、(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなる触媒が有効であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記一般式(I)で表されるアミンと下記一般式(II)で表されるアルコール及び二酸化炭素とを、(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなる触媒の存在下で、反応させることを特徴とする下記一般式(III)で表されるカルバミン酸エステルの製造方法。
12NH (I)
(式中、R1は炭化水素基を、R2は炭化水素基又は水素を表す。)
3OH (II)
12NC(=O)OR3 (III)
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ)
(2)金属化合物が周期律表6,8,9又は10族の金属化合物であることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
(3)副生する水を分離することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
(4)脱水剤を用いて副生する水を分離することを特徴とする上記(3)に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
(5)脱水剤が下記一般式(IV)で表されるアセタール、又はモレキュラーシーブであることを特徴とする上記(4)に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
45C(OR32 (IV)
(式中、R4、R5は炭化水素基又は水素を表す。R3は前記と同じ。)
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、ポリウレタンの原料として有用なカルバミン酸エステルを、金属化合物とカルベン類若しくはジカルベン類の組み合わせからなる触媒を用いることにより、高収率、高選択率で得ることができる。
すなわち、本発明方法は、触媒として、(i)金属化合物と(ii)カルベン類若しくはジカルベン類の組み合わせからなる触媒を用い、原料として、環境に無害で毒性のない二酸化炭素、安価で取り扱いやすいアミン及びアルコールを用いることから、安全かつ簡易な設備でカルバミン酸エステルを高収率・高選択率で得ることができるので、工業的に極めて有利な方法ということができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカルバミン酸エステルの製造方法は、前記一般式(I)で表されるアミンと前記一般式(II)で表されるアルコールと二酸化炭素との反応を(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなる触媒の存在下で行うことを特徴としている。
この反応工程は、基本的には下記反応式で表わされる。
12NH + CO2 + R3OH → R12NC(=O)OR3+H2O (式中、R1、R2及びR3は前記と同じ。)
【0013】
本発明で用いられるアミンは前記一般式(I)で表されるが、式中、Rは脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアルコールと反応しない置換基、例えばアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等で置換されていてもよい。Rは脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基または水素であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアルコールと反応しない置換基、例えばアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等で置換されていてもよい。
【0014】
このようなアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、t−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等が例示される。
【0015】
本発明で用いることのできるアルコールは前記一般式R3OH で表されるが、式中、R3は脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基等の炭化水素基であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアミンと反応しない前記置換基で置換されていても良い。好ましくは脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基である。具体的には例えばメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0016】
このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサノールなどの脂肪族または脂環式アルコールなどが挙げられる。
本発明においては、前記の一価のアルコールの他にジオールなどの多価アルコールを用いてもよい。
【0017】
本発明においては、上記エステル化反応は、(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなる触媒の存在下で行われる。
【0018】
(i)の金属化合物の金属原子に特に制限はないが、周期律表第6族(クロム、モリブデン、タングステン)、第8族(鉄、ルテニウム、オスミウム)、第9族(コバルト、ロジウム、イリジウム)、第10族(ニッケル、パラジウム、白金)に含まれる金属原子が好ましく、更に好ましくはニッケルが好ましい。
【0019】
このような金属化合物としては、特に制限がないが、例えば、(C6H6)Cr(CO)3, (C6H6)2Cr,Cp2Cr, Cp*2Cr, Cr(OAc)3, Cr(acac)3,CrX3, Cr(CO)6, Cr(NO3)3, Cp2MoX2,(C7H8)Mo(CO)3,CpMoX4, [CpMo(CO)3]2, [Mo(OAc)2]2,Mo(CO)6, MoXn (n = 3, 5), MoO2(acac)2,[Cp*Mo(CO)2]2, CpWX2, (C9H12)W(CO)3,W(CO)6, WXn (n = 4, 6), FeXn (n = 2, 3), Fe(CO)5, Fe3(CO)12, Fe(CO)3(EN),Fe(CO)3(DE), Fe(DE)2, CpFeX(CO)2, [CpFe(CO)2]2,[Cp*Fe(CO)2]2, Fe(acac)3, Fe(OAc)n(n = 2, 3), RuX3, Ru3(CO)12, CpRuX(EN),Cp*RuX(EN), [CpRuX2]2, [Cp*RuX2]2,CpRuX(CO)2, CpRuX(CO)2, RuX2(DE)2, Ru(acac)3,OsX3, Os3(CO)12, Na2OsX6, CoX2, Co2(CO)8, Co(acac)n(n = 2, 3), Co(OAc)2, CpCo(CO)2, Cp*Co(CO)2,RhX3, Rh4(CO)12, Rh4X2(CO)2,Rh(acac)(CO)2, RhX(acac), [RhX(CO)2]2,[RhX(EN)]2, [RhX(DE)]2, IrXn (n = 3, 4), Na3IrCl6,HnIrX6 (n = 2, 3), Ir4(CO)12,[IrX(EN)2]2, [IrX(DE)2]2,Ir(acac)(CO)2, Ir(acac)3, NiX2, Ni(CO)4,Ni(DE)2, Ni(acac)2, Ni(OAc)2, PdX2,PdX2(RCN)2, PdX2(EN)2, PdX2(DE)2,Pd(acac)2, Pd(OAc)2, PtX2, K2PtX4,PtX2(RCN)2, H2PtX6, PtX2(EN)2,PtX2(DE)2, Pt(acac)2, Pt(OAc)2などが挙げられるが、本発明は周期律表第6族、8族、9族又は10族が含まれる金属化合物であればよい。
【0020】
なお、上記式において、Xは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アルコキシ基、カルボキシラト基又はチオシアナト基、Phはフェニル基、Etはエチル基、CNはニトリル基、Rはアルキル基又はアリール基、Cpはシクロペンタジエニル基、Cpはペンタメチルシクロペンタジエニル基、acacはアセチルアセトナト基、DEはノルボルナジエン、1,5−シクロオクタジエン又は1,5−ヘキサジエン、ENはエチレン又はシクロオクテン、OAcはアセテイト基を示す。
【0021】
(i)の金属化合物として組み合わせて用いられる、(ii)カルベン類に特に制限はないが、下記の構造式で示されるカルベン誘導体、R3基を持つジカルベン誘導体が好ましく、特にカルベン誘導体が好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R1〜R5は、反応を阻害しない置換基を表し、同一であっても異なっていてもよい。R1、R2、R4およびR5は、水素、置換されていてもよい炭素数が1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは0〜2の整数であり、R3は置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、アリーレン基、アルキルデン基である。)
【0024】
上記のR1、R2、R4およびR5の具体例としては、例えば、水素、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピレン基、n―ブチル基、イソブチル基、tert―ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、メシチル基、tert―オクチル基、α―クミル基等が挙げられ、中でもメチル基、メシチル基が好ましい。また、R3の炭素数1〜20のアルキレン基、アルキルデン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基、ヘキシレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、ベンジリデン基が挙げられる。これらのアルキレン基およびアルキリデン基は、芳香環、―O―、―S―、―NH―を含んでいても、ハロゲン置換されていても良い。
【0025】
さらに、カルベン誘導体としては、一般式(A〜D)で示される化合物等が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、R6〜R9は反応を阻害しない種置換基を表し、同一でも異なっていてもよい。)
上記R6、R7、R8およびR9は具体例としては、水素、炭素数が1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピレン基、n―ブチル基、イソブチル基、tert―ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、メシチル基、tert―オクチル基、ハロゲン、ニトロ、ニトロソ、アルコキシ、カルボニル、チオ、スルホニル基等が例示される。特にR7とR8は、同じまたは独立に異なるハロゲン、ニトロ、ニトロソ、アルコキシ、カルボニル、チオ、スルボニル基等であることが好ましい。
【0028】
本発明で好ましく使用される代表的なカルベン誘導体およびその前駆体は、1,3-ビス(1-アダマンチル)イミダゾリウム塩、1,3-ビス(1-アダマンチル)イミダゾール-2-イリデン、1,3-ビス(4-クロロフェニル)イミダゾリウム塩、1,3-ビス(2,6-i-プロピルフェニル)イミダゾリウム塩、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾリウム塩、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1,3-ジ-t-ブチルイミダゾリウム塩、1,3-ジ-t-ブチルイミダゾール-2-イリデン塩、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1,3-ジ-i-プロピルイミダゾリウム塩、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-オクチルチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム塩等が挙げられるが、本発明はカルベン誘導体およびその前駆体であればよい。
【0029】
本発明の反応で用いる触媒は前記したように、(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなるものであるが、(A)(i)金属化合物と(ii)カルベン類をそれぞれ別途に調製して反応系に加えてもよいし、(B)(i)の金属化合物と(ii)のカルベン類をあらかじめ反応系外で反応させ、若しくは反応系に共存させ、系外や系中(in situ)において所望の遷移金属錯体を形成させたものを用いてもよい。
(B)の方法としては、1)(i)金属化合物と(ii)遊離カルベン類若しくは遊離ジカルベン類をインシチュで反応させる方法、2)(ii)カルベン類若しくはジカルベン類の前駆体であるイミダゾリウム塩と塩基(例えば、アルカリ金属アルコキシド、有利にはカリウムt−ブトキシド)を反応させインシチュで生成したカルベンを(i)金属化合物と反応させる方法、3)(i)金属化合物とカルベン類若しくはジカルベン類からカルベン錯体を形成した上で、触媒に用いる方法、のいずれでもよい。
【0030】
本反応においては、反応液中からの効率的な水分の除去を目的とし、脱水工程を組み合わせて実施することが好ましい。この脱水工程で使用される操作法としては、従来公知の脱水操作、具体的には、有機系や無機系の脱水剤を添加する方法、これらを充填した脱水塔を用いる方法、蒸留法、膜分離法などが挙げられるが、脱水剤を用いる工程の方法が好ましい。
脱水剤としては、従来公知の脱水剤が使用でき、これらの具体例としては、例えば、一般式(IV)で示されるアセタールなど有機系脱水剤、モレキュラーシーブ(3A)、モレキュラーシーブ(4A)等のゼオライト類、塩化カルシウム(無水)、硫酸カルシウム(無水)、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(無水)、炭酸カリウム(無水)、硫化カリウム(無水)、亜硫化カリウム(無水)、硫酸ナトリウム(無水)、亜硫酸ナトリウム(無水)、硫酸銅(無水)などの無機無水塩類等が挙げられる。
【0031】
一般式(IV)で示されるアセタールとしては、2,2−ジメトキシプロパン、2,2−ジエトキシプロパン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、ジメトキシフェニルメタン、1,1−ジメトキシエタンなどが挙げられる。
【0032】
本発明で好ましく使用される脱水剤は、2,2−ジメトキシプロパン、2,2−ジエトキシプロパン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、ジメトキシフェニルメタン、1,1−ジメトキシエタンなどのアセタール及びモレキュラーシーブ(3A)、モレキュラーシーブ(4A)等である。
【0033】
反応温度は特に制限はないが、室温〜300℃、好ましくは150〜250℃である。反応圧力は特に制限なく、反応に使用する耐圧装置の製造コストなどによって定められるが、通常1〜1000気圧、好ましくは50〜500気圧更に好ましくは100〜300気圧であり、収率向上の観点からできるだけ高圧下で行うのが好ましい。
反応時間は用いる原料であるアミンやアルコールの種類、反応温度、反応圧力など諸条件により異なるが、1〜100時間で充分である。
【0034】
また、本発明の反応は、特に溶媒を必要としないが、反応を阻害しないような溶媒を用いることもできる。このような溶媒としては、例えば、炭化水素類、エーテル類などが挙げられ、具体的には、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどが例示される。
【0035】
本発明方法は、バッチ式あるいは連続式の何れの方式でも実施可能である。
バッチ方式は、例えば、次のようにして行われる。
攪拌装置を具備したオートクレーブに、アミン、アルコール、触媒及び脱水剤を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封する。その後、オートクレーブ内を攪拌しながら設定温度まで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより内圧を調整し、所定時間反応させた後、生成するカルバミン酸エステルを所望の手段で分離する。
【0036】
連続方式の場合は次のようにすればよい。攪拌装置を具備したオートクレーブに、アミン、アルコール及び触媒を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封する。別途に脱水剤を脱水塔に充填する。オートクレーブを冷却装置、高圧循環ポンプ及び脱水塔に連結し、循環システムを構築する。その後、オートクレーブ内を攪拌しながら設定温度まで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより内圧を調整後、高圧ポンプにより反応液を所定時間循環させた後、生成するカルバミン酸エステルを適宜、所望の手段で分離する。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0038】
実施例1(バッチシステム)
撹拌装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、t−ブチルアミン 10mmol、2,2’−ジメトキシプロパン10mmol、メタノール100mmol、酢酸ニッケル0.2mmol及び配位子として下記カルベン化合物10.6mmolを仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスを充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ200℃にまで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより、内圧を300気圧に昇圧後、24時間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した。N−ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で33.7%であった。
なお、触媒として、あらかじめ化合物1の配位子を有するニッケル錯体を合成し、このものを反応系に添加しても上記と同様な結果が得られた。
【化3】

【0039】
実施例2(連続システム)
攪拌装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、t−ブチルアミン 10mmol、メタノール100mmol、酢酸ニッケル 0.2mmol及び配位子として前記カルベン化合物10.6mmol を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封した。別途にモレキュラーシーブ3A(脱水剤)12gを脱水塔に充填した。オートクレーブを冷却装置、高圧循環ポンプ及び脱水塔に連結し、循環システムを構築した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ200℃にまで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより、内圧を300気圧に昇圧後、高圧ポンプにより反応液を24時間循環させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した、N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で10%であった。
【0040】
実施例3
実施例1において、カルベン化合物1を下記化合物2のニッケル−カルベン錯体触媒に代え、ナトリウムメトキシド1 mmolを添加した以外は実施例1と同様にして反応を行った。N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で15%であった。
【化4】

【0041】
実施例4
撹拌装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、まず、メタノール100mmolをいれ、配位子としてカルベンの前駆体である下記化合物30.6mmolとカリウムt−ブトキシド1mmolを反応させ、カルベンを生成した後、酢酸ニッケル0.2mmolを添加し、t−ブチルアミン 10mmol、2,2’−ジメトキシプロパン10mmolを仕込んだ。次の手準は実施例1と同様にして反応を行った。N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で63.3%であった。
【化5】

【0042】
実施例5
実施例4において、化合物3に代えて下記化合物4を用いた以外は、実施例4と同様して反応を行った。N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で50.1%であった。
【化6】

【0043】
実施例6
実施例4において、化合物3を下記化合物5に代えた以外は、実施例4と同様して反応を行った。N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で34.7%であった。
【化7】

【0044】
実施例7
実施例4において、原料及び反応条件は実施例4と同様にして、化合物3からカルベンを生成した後、酢酸ニッケル0.2mmolを添加し、シクロヘキシルアミン 10mmol、2,2’−ジメトキシプロパン10mmolを仕込んだ。次の手準は実施例4と同様にして反応を行った。N−シクロヘキシルメチルカーバメートの収率は仕込みのシクロヘキシルアミン基準で37.3%であった。
【0045】
実施例8
実施例7において、原料及び反応条件は実施例7と同様にして、化合物5からカルベンを生成した後、次の手準は実施例7と同様にして反応を行った。N−シクロヘキシルメチルカーバメートの収率は仕込みのシクロヘキシルアミン基準で37.2%であった。
【0046】
実施例9
実施例4において、原料及び反応条件は実施例4と同様にして、化合物3からカルベンを生成した後、酢酸モリブデンダイマー0.1mmolを添加し、シクロヘキシルアミン 10mmol、2,2’−ジメトキシプロパン10mmolを仕込んだ。次の手準は実施例4と同様にして反応を行った。N−シクロヘキシルメチルカーバメートの収率は仕込みのシクロヘキシルアミン基準で36.9%であった。
【0047】
比較例1(バッチシステム)
撹拌装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、t−ブチルアミン 10mmol、2,2−ジメトキシプロパン10mmol、メタノール100mmol、酢酸ニッケル0.2mmolを仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスを充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ200℃にまで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより、内圧を300気圧に昇圧後、24時間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した。N-t-ブチルメチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で2.1%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアミンと下記一般式(II)で表されるアルコール及び二酸化炭素とを、(i)金属化合物と(ii)カルベン類の組み合わせからなる触媒の存在下で、反応させることを特徴とする下記一般式(III)で表されるカルバミン酸エステルの製造方法。
12NH (I)
(式中、R1は炭化水素基を、R2は炭化水素基又は水素を表す。)
3OH (II)
(R3は炭化水素基を表す。)
12NC(=O)OR3 (III)
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ)
【請求項2】
金属化合物が周期律表6,8,9又は10族の金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
副生する水を分離することを特徴とする請求項1又は2に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
脱水剤を用いて副生する水を分離することを特徴とする請求項3に記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
脱水剤が下記一般式(IV)で表されるアセタール、又はモレキュラーシーブであることを特徴とする請求項4記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
45C(OR32 (IV)
(式中、R4、R5は炭化水素基又は水素を表す。R3は前記と同じ。)

【公開番号】特開2006−22043(P2006−22043A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201636(P2004−201636)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】