説明

カルボキシアルキル化寒天、それを含むハイドロゲル組成物、及びそのハイドロゲル組成物の製造方法

【課題】熱湯でなくても溶解し、かつ、それを均一にゲル化させることができ、ゲル化したものが熱可逆性であるカルボキシアルキル化寒天、それを含むハイドロゲル組成物、及びそのハイドロゲル組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】寒天をカルボキシアルキル化したカルボキシアルキル化寒天において、カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であるカルボキシアルキル化寒天である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天をカルボキシアルキル化したカルボキシアルキル化寒天、それを含むハイドロゲル組成物、及びそのハイドロゲル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天草等の紅藻類より抽出される寒天は、熱可逆性のハイドロコロイドとして水で加熱溶解させ、冷却することによりゲル組成物を作製することができる。ジェランガムやカラギーナンは、熱湯に溶解し、カリウムやカルシウムなどのカチオンを添加することによりゲル組成物を作製することができる。しかしながら、これらのゲル化剤は、加熱設備が無いところでは使用できず、また、加熱により不安定になるものは添加できない等の問題がある。
【0003】
一方、熱湯でなくとも溶解し、カチオンを加えることによりゲル化させることができるゲル化剤がある。これらのゲル化剤として、アルギン酸ナトリウムやペクチンが挙げられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−184400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの物質は、いったんゲル化すると溶液状態とはならない熱不可逆性であり、用途が制限されるという問題がある。また、アルギン酸ナトリウムやペクチンと、カルシウムなどのカチオンとは、即時に反応し、カルシウムと接触した部分から即時にゲル化してしまうため不均一なゲルとなり、均一化するために撹拌するとゲルが破壊され、均一のゲルができないという問題がある。そこで本発明は、熱湯でなくても溶解し、かつ、それを均一にゲル化させることができ、ゲル化したものがさらに再溶解する熱可逆性であるカルボキシアルキル化寒天、それを含むハイドロゲル組成物、及びそのハイドロゲル組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、寒天を所定の置換度でカルボキシアルキル化することによって、熱湯でなくても溶解し、かつ、それを均一にゲル化させることができ、ゲル化したのもがさらに再溶解する熱可逆性であることを見出した。すなわち、本発明は、寒天をカルボキシアルキル化したカルボキシアルキル化寒天において、カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であることを特徴とするカルボキシアルキル化寒天である。また、本発明は、前記カルボキシアルキル化寒天を含む水溶液がカチオンによりゲル化されたことを特徴とするハイドロゲル組成物である。またさらに、本発明は、カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であるカルボキシアルキル化寒天を水に加えて溶解させる溶解工程と、前記水にカチオンを加える添加工程とを備えることを特徴とするハイドロゲル組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、熱湯でなくても溶解し、かつ、それを均一にゲル化させることができ、ゲル化したのもが熱可逆性であるカルボキシアルキル化寒天、それを含むハイドロゲル組成物、及びそのハイドロゲル組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】経過時間とゲル強度の関係との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、寒天分子中に存在するヒドロキシル基の一部のプロトンをカルボキシアルキル基で置換した寒天である。アルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。アルキル基の炭素数が多すぎると、合成が困難となり好ましくない。
【0010】
カルボキシアルキル基の置換度は、0.25〜1.0であり、より溶解温度を下げるためには、0.5〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることがさらに好ましい。置換度が上記範囲より小さい場合は、熱湯でなければ溶解せず、上記範囲より大きい場合は、置換基を導入するのが困難であり好ましくない。置換度とは、寒天分子の構成糖であるガラクトース又は3,6−アンヒドロガラクトースの1単位(炭素数6)あたりに置換されたカルボキシアルキル基の平均数である。置換度は、置換基となる試薬の量を増やしたり、反応温度を高くしたり、反応時間を長くすることにより、数を増やすことができる。逆に、置換基となる試薬の量を減らしたり、反応温度を低くしたり、反応時間を短くすることにより、数を減らすことができる。
【0011】
本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、寒天に所定量のカルボキシアルキル基を導入することにより、熱湯でなくとも溶解させることができる。すなわち、70℃以下の水、カルボキシアルキル基の導入量を上げることで40℃以下、さらに導入量を上げることで0〜30℃の水に溶解させることができる。
【0012】
寒天の利用に関する研究(第5報)〔農化,第43巻,第6号,p365〜369(1969)〕には、カルボキシメチル化された寒天の記載があるが、カルボキシメチル基の置換度は、最大でも0.226である。また、カルボキシメチル化された寒天について、水に溶解するかどうかについて、何ら検討されていない。本発明者らが追試したところ、この置換度では、熱湯でなければ溶解させることができなかった。また、特開平5−214001号には、カルボキシアルキルポリサッカライドの一例として、カルボキシアルキル寒天が例示されている。しかし、具体的には、水不溶性のカルボキシアルキルセルロースが記載されているだけであり、寒天については具体的な検討が何らなされていない。
【0013】
本発明のカルボキシアルキル化寒天は、従来の寒天に比べ、ゲル化剤として用いると、ゲル組成物の凝固点及び融点が低いという特性を有している。寒天の凝固点および融点を低下させる方法としては、特公昭61−030680に、アガロースのヒドロキシエチル化が記載されている。しかし、ヒドロキシエチル化寒天は、カチオンと反応しないため、凝固点、及び融点をより下げようとするとゲル化がおこらず、ゲル組成物を形成することが困難である。そのため、より凝固点及び融点の低下したヒドロキシエチル化寒天は、一定のゲル化力を持つゲル化剤として機能しない。従って、ゲル組成物を形成させる目的では融点の低下の程度が小さいものになるために、ヒドロキシエチル化寒天は、本発明に係るカルボキシアルキル化寒天と異なり、熱湯でなければ溶解させることができない。
【0014】
本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、寒天を熱水に溶解又は含水エタノール等に膨潤させる。その後、それにモノクロロ酢酸や3−クロロプロピオン酸等の置換基となる試薬と、水酸化ナトリウムとを添加し、加温状態で一定時間反応させる。この反応物を、エタノールで洗浄し、乾燥することによりカルボキシアルキル化した寒天を製造することができる。
【0015】
本発明に係るハイドロゲル組成物は、前記カルボキシアルキル化寒天、水、及びカチオンを含む。カルボキシアルキル化寒天は、上述の本発明に係るカルボキシアルキル化寒天を用いることが好ましい。カチオンとしては、プラスにイオン化するものであればよく、1価、2価、及び3価の金属イオン、カチオン化された多糖類、並びに酸性アミノ酸よりも塩基性アミノ酸を多く含むペプチドやタンパク質などが挙げられ、好ましくは、2価及び3価の金属イオン、カチオン化された多糖類、並びに酸性アミノ酸よりも塩基性アミノ酸を多く含むペプチド及びタンパク質、さらに好ましくは、2価、及び3価の金属イオン、並びにカチオン化された多糖類が挙げられる。1価の金属イオンとしては、Li,Na,K,Rb,Cs,及びAg等が挙げられる。2価の金属イオンとしては、Ca2+,Mg2+,Cu2+,Fe2+,Zn2+,Sn2+,Ba2+,Sr2+,Co2+,Mn2+,Pb2+,Cd2+,Ni2+,及びHg2+等が挙げられる。3価の金属イオンとしては、Fe3+,Al3+,及びRu3+等が挙げられる。これらの金属イオンは、無機塩や有機塩として加えることができる。また、これらの無機塩は錯体の形になっていてもよい。無機塩としては、塩化リチウム,塩化ナトリウム,塩化カリウム,水酸化バリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,硝酸鉛,塩化銅,塩化第一鉄,塩化第二鉄,塩化ニッケル硫酸銅,硫酸第一鉄,硫酸第二鉄,塩化亜鉛,硫酸アルミニウム,塩化ルテニウム,塩化水銀,及び硝酸銀等が挙げられる。有機塩としては、クエン酸カルシウム,及び乳酸カルシウム等が挙げられる。カチオン化された多糖類としては、キトサン,カチオン化グアー,カチオン化澱粉,及びカチオン化セルロース等が挙げられる。塩基性アミノ酸を多く含むペプチドとしては、ポリリジン等が挙げられる。本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、アルギン酸ナトリウムやペクチンでは反応しないMg2+や1価のカチオン、カチオン化された多糖類、塩基性アミノ酸を多く含むペプチドやタンパク質などでも反応してゲル化することができる。
【0016】
本発明に係るハイドロゲル組成物は、カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であるカルボキシアルキル化寒天を水に加えて溶解させる溶解工程、前記水にカチオンを加える添加工程によって製造することができる。カチオンは、カルボキシアルキル化寒天を水に溶解した後に加えてもよいし、カチオンを含有する成分の溶解速度を遅くすることにより、カルボキシアルキル化寒天と同時に水に溶解してもよい。なお、ここでいう水とは、熱湯ではない水をいう。また、カチオンとキレート剤を併用することにより、カチオンを含む水にカルボキシアルキル寒天を溶解してもよい。キレート剤としては、例えば、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、及びリン酸2ナトリウムなどのリン酸塩、並びにクエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0017】
溶解工程においては、カルボキシアルキル化寒天は、水を加温して溶解させてもよい。カルボキシアルキル基の導入量を上げることで、より強いカチオンとの反応によりゲル化するハイロドロゲル組成物を得ることができる。
【0018】
本発明に係るハイドロゲル組成物を製造するには、カルボキシアルキル化寒天を水100重量部に対して0.1〜20重量部添加することが好ましく、0.5〜10重量部添加することがさらに好ましい。カルボキシアルキル化寒天の量が上記範囲より多いとカルボキシアルキル化寒天の水への溶解が困難となることがあり、上記範囲より少ないとハイドロゲル組成物のゲル化力が弱くなることがあり、好ましくない。カチオンの濃度は特に限定されないが、カチオンが金属イオンである場合は、水に対して、カチオン濃度が1mmol/L〜1mol/Lとなるように添加することが好ましく、5mmol/L〜500mmol/Lとなるように添加することがさらに好ましい。カチオンが、カチオン化多糖類の場合は、水に対して、0.1〜3重量%となるように添加することが好ましく、0.2〜2重量%となるように添加することがさらに好ましい。カチオンの量が前記範囲より多いと、ゲル化反応が不均一となることがあり、前記範囲より少ないとゲル化しないことがあり、好ましくない。
【0019】
カルボキシアルキル化寒天は、熱湯でなくとも溶解し、カチオンを加えることにより均一にゲル化する。ゲル化機構については、導入されたカルボキシアルキル基中のカルボキシル基と加えられたカチオンとがコンプレックスを作り、高次構造をとるためと思われる。さらに、カチオンにより寒天分子同士が接近し、カルボキシアルキル化寒天の未置換部分のヒドロキシル基同士の水素結合が従来の寒天同様に強くなるためと推察される。寒天以外の多糖類、例えば、澱粉、セルロース、グルコマンナン、及びローカストビーンガムをカルボキシメチル化することは知られているが、本発明のカルボキシアルキル化寒天とは異なり、低濃度において、金属イオン等のカチオンを加えることによって一定のゲル強度を有するゲルを経時的に形成することはない。
【0020】
本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、前記カチオンを加えても、即時にゲル化は起こらず、経時的にゲル化が起こる。すなわち、ゆっくりゲル化が進行するので、均一なゲル組成物を得ることができる。水溶液でイオン反応のあることが知られているアルギン酸ナトリウムやペクチンは、Ca2+との反応が即時的であり、イオンと接触した部分のみが即時にゲル化し、それ以外の部分はゲル化しないため均一なゲルを作製するのは困難である。しかし、本発明に係るカルボキシアルキル化寒天は、前記カチオンとの反応が経時的であるため、水溶液全体がゆっくりゲル化し、均一なゲルを作製することが可能である。
【0021】
本発明に係るカルボキシアルキル寒天は、熱湯でなくても溶解し、かつ金属イオン等のカチオンを加えることにより、アルギン酸ナトリウムやペクチンと異なり遅延的にゲル化していくためゲル化速度をコントロールでき、容易に均一なゲルを作製することができ、そのハイドロゲル組成物は熱可逆性なので、医薬品、化粧品、化成品、生化学材料、工業材料、及び食品などに応用できる。具体的には、熱に不安定である抗体などを含有するゲル状医薬品、香料などの熱に不安定な揮発成分を含有するジェル状化粧品、芳香剤、コーティング基剤、電気泳動の支持体などの分離剤、製紙、結着剤、カルボキシアルキル化寒天をフィルム化した化粧品パック、傷の保護フィルム、揮発成分を含有した食品用フィルム、及び金属を均一に含んだ工業用フィルムなど様々な用途に適用することができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明に係るカルボキメチル化寒天及びそれを含むゲル組成物の実施例について説明する。本実施例及び比較例においては、以下の原料を用いた。
寒天A: 伊那寒天S−7(伊那食品工業社製)
寒天B: 伊那寒天Z−10(伊那食品工業社製)
乳酸カルシウム顆粒: 乳酸カルシウム(磐田化学社製)100gに15%プルランPI−20(林原商事社製)40g添加し、よく混錬後、10メッシュ篩を通過させ、90℃にて乾燥することにより乳酸カルシウム顆粒を得た。
キトサン: キミツキトサンM(キミカ社製)
カチオン化グアーガム: ジャガーC−13S(メイホール社製)
コンニャクマンナン: マンナン100(伊那食品工業社製)
【0023】
実験例1
(実施例1)
60重量%エタノール750gに、NaOHを10重量%及びクロロ酢酸を17.5重量%添加した。このエタノール溶液に寒天Aを15重量%添加して分散させ、60℃にて3時間静置した。その後、得られた寒天溶液を濾過して、残渣を60重量%エタノールで洗浄して、酢酸で中和した。その後、さらに濾過して、残渣を60重量%エタノールで洗浄して、60℃で乾燥させ、粉砕することにより、実施例1に係るカルボキシメチル化寒天を得た。
【0024】
得られたカルボキシメチル化寒天について、置換度を滴定法により測定した。具体的にはカルボキシメチル化された寒天10.0gに60重量%エタノールを50mL添加し分散後、濃塩酸を2mL添加し、濾過してカルボキシメチル化寒天を回収した。回収したカルボキシメチル化寒天1.0gを蒸留水99.0gに分散し、1NのNaOHで滴定しpH7.0になる量を求めて算出した。また、透過率(%)を次のように求めた。25℃のイオン交換水に、1重量%となるように得られたカルボキシメチル化寒天を分散させ、それぞれ25℃、40℃、60℃、及び80℃に10分間加温(25℃除く)したサンプルを作製した。各サンプルについて、25℃に冷却した際の透過率(%)を吸光光度計(UVmini1240,島津科学社製,波長660nm,比較液:蒸留水)にて測定した。透過率が100%は、カルボキシアルキル化寒天が完全に溶解した状態(比較液と同じ状態)を示す。なお、明らかに溶解せず、カルボキシアルキル化寒天が沈殿していると目視できる場合は、“沈殿”とした。結果を表1に示す。
【0025】
(実施例2〜5)
クロロ酢酸を17.5重量%添加する代わりに、それぞれ25.0重量%、37.5重量%、及び50.0重量%添加した以外は実施例1と同様にして、実施例2乃至4に係るカルボキシメチル化寒天を得た。また、クロロ酢酸を17.5重量%添加する代わりに50.0重量%添加し、3時間静置する代わりに24時間静置した以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るカルボキシメチル化寒天を得た。実施例1と同様にして置換度及び透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0026】
(比較例1〜2)
実施例1において、クロロ酢酸を添加しなかったこと以外は同様にして、比較例1に係る寒天を得た。また、クロロ酢酸の添加量を17.5重量部添加する代わりに、12.5重量%添加した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るカルボキシメチル化寒天を得た。実施例1と同様にして置換度及び透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実験例1より、カルボキシメチル基の置換度が0.25〜1.0の範囲においては、透過率が高く、カルボキシメチル寒天が熱湯でなくとも溶解していることが分かる。
【0029】
実験例2
(実施例6〜10,比較例3〜4)
寒天Aの代わりに寒天Bを用いた以外は、実施例1乃至5並びに比較例1及び2と同様にして、実施例6乃至10並びに比較例3及び4に係るカルボキシメチル化寒天を得た。置換度及び透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
実験例2より、カルボキシメチル基の置換度が0.25〜1.0の範囲においては、透過率が高く、カルボキシメチル寒天が熱湯でなくとも溶解していることが分かる。
【0032】
実験例3
(実施例11)
実施例1に係るカルボキシメチル化寒天3.0gを精製水300gに25℃にて溶解させた。これに、表3に示した無機塩をカチオン濃度として精製水全体に対して10mmol/L(無機塩はすべて解離したものとした)となるように、無機塩が溶解した10gの精製水を加え、実施例11に係るハイドロゲル組成物を得た。無機塩を添加して5時間後にゲル強度を測定した。ゲル強度はレオメーター(COMPAC−100,サン化学社製,プランジャー1cm円柱状,侵入速度20mm/分、測定温度25℃)で測定した。結果を表3に示す。
【0033】
(実施例12〜15,比較例5)
実施例1に係るカルボキシメチル化寒天を用いる代わりに、実施例2乃至5に係るカルボキシメチル化寒天を用いた以外は、実施例11と同様にして、実施例12乃至15に係るハイドロゲル組成物を得た。また、無機塩を添加しなかった以外は実施例11と同様にして比較例5に係るカルボキシアルキル化寒天組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表3又は4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
実施例11乃至15に係るゲル組成物について、90℃に加温したところ、ゲル組成物は溶解し溶液状となった。この溶液を20℃に冷却したところ、再びゲル化した。このことから、実施例11乃至15に係るゲル組成物は、熱可逆性であることが分かる。
【0037】
実験例3より、実施例1乃至5に係るカルボキシメチル化寒天にカチオンを加えるとゲル化が生じることが分かる。また、実施例11乃至15においては、即時にゲル化することはなく、徐々にゲル化し、均一のゲル組成物を得ることができた。比較例5においては、水溶液の状態でゲル化は生じなかった。
【0038】
実験例4
(実施例16,比較例6)
実施例9に係るカルボキシメチル化寒天3gを精製水300gに25℃にて溶解させた。これに、キトサン1重量%溶液(キトサン1g,クエン酸3gを水100gに溶解)を添加して実施例16に係るハイドロゲル組成物を得た。キトサンを添加しない以外は、実施例16と同様にして比較例6に係る組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0039】
(実施例17)
実施例9に係るカルボキシメチル化寒天3gを精製水300gに25℃にて溶解させた。これにカチオン化グアーガム2重量%溶液を100g添加して実施例17に係るハイドロゲル組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0040】
(実施例18,比較例7)
実施例4に係るカルボキシメチル化寒天90gに、乳酸カルシウム顆粒10gを添加して均一になるように混合した。これを2g精製水100gに溶解して実施例18に係るハイドロゲル組成物を得た。乳酸カルシウム顆粒を添加しない以外は、実施例18と同様にして比較例7に係る組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0041】
(実施例19)
実施例4に係るカルボキシメチル化寒天10.0g,塩化カルシウム(富田製薬社製)2.0g,及びメタリン酸ナトリウム(エフシー化学社製)3gを均一になるように混合した。これを3g精製水300gに溶解して実施例19に係るゲル組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
実施例17に係るハイドロゲル組成物について、90℃に加温したところ、ハイドロゲル組成物は溶解し溶液状となった。この溶液を20℃に冷却したところ、再びゲル化した。このことから、実施例17に係るハイドロゲル組成物は、熱可逆性であることが分かる。
【0044】
実験例4より、カチオンを添加しないとゲル化しないことが分かる。また、実施例16乃至19においては、即時にゲル化することはなく、徐々にゲル化し、均一のゲル組成物を得ることができた。
【0045】
実験例5
(比較例8)
カルボキシルメチル化寒天を用いる代わりに、コンニャクマンナンを用いた以外は、実施例4と同様にして、比較例8に係るカルボキシメチル化コンニャクマンナンを得た。実施例1と同様にして置換度及び透過率(25℃のみ)を測定した。結果を表6に示す。また、カルボキシメチル化寒天3.0gを用いる代わりに、比較例8に係るカルボキシメチル化コンニャクマンナン3.0gを用いた以外は、実施例11と同様にして、ゲル化を試みた。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
実験例5より、カルボキシメチル化コンニャクマンナンは、カチオンを添加してもゲル化しないことが分かる。
【0048】
実験例6
(実施例20)
モノクロロ酢酸の代わりに3−クロロプロピオン酸を用いた以外は実施例1と同様にして実施例20に係るカルボキシプロピル化寒天を得た。置換度及び透過率(25℃のみ)を実施例1と同様にして測定した。また、実施例20に係るカルボキシプロピル化寒天3.0gを精製水300gに25℃にて溶解させた。これに、精製水全体に対して塩化カルシウムのカチオン濃度が10mmol/Lとなるように(無機塩はすべて解離したものとした)、精製水10gに塩化カルシウムを溶解させたものを加え、実施例20に係るハイドロゲル組成物を得た。ゲル強度を実施例11と同様に測定した。結果を表7に示す。
【0049】
(実施例21〜24)
モノクロロ酢酸の代わりに3−クロロプロピオン酸を用いた以外は実施例2乃至5と同様にして実施例21乃至24に係るカルボキシエチル化寒天を得た。これらについて、実施例20と同様にして、実施例21乃至24に係るゲル組成物を得た。実施例20と同様に、置換度、透過率、及びゲル強度を測定した。結果を表7に示す。
【0050】
(実施例25〜29)
モノクロロ酢酸の代わりに4−クロロ酪酸を用いた以外は実施例1乃至5と同様にして実施例25乃至29に係るカルボキシプロピル化寒天を得た。これらについて、実施例20と同様にして、実施例25乃至29に係るゲル組成物を得た。実施例20と同様に、置換度、透過率、及びゲル強度を測定した。結果を表7に示す。
【0051】
(実施例30〜34)
モノクロロ酢酸の代わりに3−クロロ酪酸を用いた以外は実施例1乃至5と同様にして実施例30乃至34に係るカルボキシイソプロピル化寒天を得た。これらについて、実施例20と同様にして、実施例30乃至34に係るゲル組成物を得た。実施例20と同様に、置換度、透過率、及びゲル強度を測定した。結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【0053】
実験例6より、置換基としてカルボキシメチル基以外に、他のカルボキシアルキル基を用いても同様の効果を得られることが分かる。また、アルキル基が短いほうが、透過率、及びゲル強度が高いことが分かる。
【0054】
実験例7
(実施例35)
実施例1に係るカルボキシメチル化寒天3.0gを精製水300gに入れ、97℃にて溶解した。前記溶液を20℃まで冷却して、24時間放置後、レオメーター(COMPAC−100,サン化学社製,プランジャー1cm円柱状,侵入速度20mm/分、測定温度25℃)でゲル強度を測定した。また、前記溶液5mLを試験管にとり、温度計を差込み溶液が固まりはじめる温度を凝固点として測定した。さらに、前記溶液を20℃まで冷却して、24時間放置後、約90℃まで加温し、完全に溶液になる温度を融点として測定した。結果を表8に示す。
【0055】
(実施例36〜38,比較例9〜10)
実施例1に係るカルボキシメチル化寒天を用いる代わりに、実施例2、6、7、寒天A、及び寒天Bに係る寒天を用いて、それぞれ実施例35と同様にして、ゲル強度、凝固点、及び融点を測定した(実施例36、37、及び38、比較例9、及び10)。結果を表8に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
実験例7から、カルボキシメチル化寒天をゲル化剤として用いると、通常の寒天をゲル化剤として用いる場合に比べ、ゲル組成物の凝固点、及び融点が低下することが分かる。
【0058】
実験例8
実施例4に係るカルボキシメチル化寒天3.0gを精製水300gに25℃にて溶解させた。これに、CuClをカチオン濃度として精製水全体が10mmol/L(無機塩はすべて解離したものとした)となるように、CuClが溶解した10gの精製水を加え、経過時間とゲル強度の関係を調べた。ゲル強度は、レオメーター(COMPAC−100,サン化学社製,プランジャー1cm円柱状,侵入速度20mm/分、測定温度25℃)で測定した。結果を表9及び図1に示す。
【0059】
【表9】

【0060】
実験例8より、本発明に係るカルボキシメチル化寒天は、カチオンとの反応で即時的にゲルが形成されるのではなく、経時的にゲルを形成することが分かる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天をカルボキシアルキル化したカルボキシアルキル化寒天において、カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であることを特徴とするカルボキシアルキル化寒天。
【請求項2】
請求項1記載のカルボキシアルキル化寒天を含む水溶液がカチオンによりゲル化されたことを特徴とするハイドロゲル組成物。
【請求項3】
前記カチオンが、2価若しくは3価の金属イオン、カチオン化された多糖類、又は酸性アミノ酸よりも塩基性アミノ酸を多く含むペプチド若しくはタンパク質であることを特徴とする請求項2記載のハイドロゲル組成物。
【請求項4】
カルボキシアルキル基の置換度が0.25〜1.0であるカルボキシアルキル化寒天を水に加えて溶解させる溶解工程と、
前記水にカチオンを加える添加工程と
を備えることを特徴とするハイドロゲル組成物の製造方法。
【請求項5】
前記溶解工程において、前記水に、加熱処理することなく前記カルボキシアルキル化寒天を溶解させることを特徴とする請求項4記載のハイドロゲル組成物の製造方法。
【請求項6】
前記カチオンが、2価若しくは3価の金属イオン、カチオン化された多糖類、又は酸性アミノ酸よりも塩基性アミノ酸を多く含むペプチド若しくはタンパク質であることを特徴とする請求項4又は5記載のハイドロゲル組成物の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−94091(P2011−94091A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252229(P2009−252229)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】