説明

カルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法

【課題】カルボキシル基含有アクリル単位の含有量が低い共重合体を重合するときに、スケールの生成を抑制するようにした製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を1重量%以上20重量%未満含有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中で重合するとき、この有機溶媒(B)が、カルボキシル基含有アクリル系単量体(C)およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体(D)を含む単量体混合物は溶解し、かつ、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下であり、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とし、芳香族基を含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、カルボキシル基含有アクリル単位の含有量が低い共重合体を重合するときに、スケールの生成を抑制するようにしたカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合物、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂などは、一般に、工業的に製造される場合には、その大部分が塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造され、ごく一部が溶液重合で製造されている。
【0003】
塊状重合、懸濁重合、乳化重合は、大量に生産する場合には好都合の製造方法であるが、重合形式から容易に推察されるとおり、共重合組成、分子量分布の制御が困難である場合が多い。さらに言えば、懸濁重合、乳化重合のように、水を媒体とする重合方法では、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有する不飽和単量体を共重合することが困難であり、ポリマーに機能性や他ポリマーとの相溶性を付与することができず、機能性ポリマーとしての展開やポリマーアロイとして物理的な性質、化学的な性質を改善することを困難としていた。さらに、塊状重合、懸濁重合、乳化重合では、重合速度の制御がきわめて難しく、巨大分子量ポリマーの生成を抑制することが困難である。このため、ポリマー中には異物としてこれら巨大分子量ポリマーが混在し、膜や成形物を成形としたとき、この巨大分子量ポリマーを核とする欠点(ブツ、フィッシュアイなど)が発生することがある。したがって、塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造されたポリマーは、透明性、均一性が高度に要求される光学用途では使用が制限されるといった問題点があった。
【0004】
一方、溶液重合では、共重合組成および分子量分布の制御が比較的容易であり、前記水溶性官能基を有する不飽和単量体の共重合も可能となるが、生成した共重合体を有機溶剤溶液から分離、回収するのがきわめて困難であり、多大な労力とエネルギーが必要になるといった問題点があった。
【0005】
このような問題点を解決する方法として、カルボキシル基含有アクリル共重合体を製造するに際し、特定の重合溶媒を用いることにより、共重合組成と分子量の精密制御を可能とし、成形加工特性、低異物を満足する高品質と、共重合体の溶媒との分離が容易で経済的にも優位なカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。その製造方法は、カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体を製造する際、芳香族基を含有しない有機溶媒であって、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物は溶解し、かつ、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒中で重合することを特徴とする。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の製造方法では、カルボキシル基含有アクリル共重合体中のカルボキシル基含有アクリル単位の含有量が低い場合、重合槽の壁面や攪拌翼に付着するスケールの生成量が多くなるという問題があった。重合槽のスケールは、ジャケットの伝熱係数の低下となり、その結果、昇温時間や降温時間の延長等、重合条件が変動することにより、得られるポリマーの特性が変動する。また得られる共重合体の共重合組成の分布が大きくなり、この共重合組成の分布のかたよりは、欠点(ブツ、フィッシュアイなど)となる可能性がある。
【特許文献1】特開2006−124437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、カルボキシル基含有アクリル単位の含有量が低い共重合体を重合するときに、重合槽のスケールの生成を抑制するようにしたカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法は、
(1)カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を1重量%以上20重量%未満含有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中で重合するとき、この有機溶媒(B)が、カルボキシル基含有アクリル系単量体(C)およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体(D)を含む単量体混合物は溶解し、かつ、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下であり、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とし、芳香族基を含有しないことを特徴とするカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法、
(2)前記共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上であることを特徴とする(1)のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法、
(3)前記共重合体(A)の溶解度パラメーターが9.0〜11.0であり、有機溶媒(B)の溶解度パラメーターが6.0〜8.0であることを特徴とする(1)または(2)のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法、
(4)前記有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルとの混合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法、
(5)前記脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルの重量比が70/30〜99/1であることを特徴とする(4)のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法、
(6)前記脂肪族炭化水素(E)が、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素を複数種類含む混合物であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかのカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中でいわゆる沈殿重合法により重合するときに、有機溶媒(B)が芳香族基を含有せず、かつ側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とするようにしたので、カルボキシル基含有アクリル単位の含有量が低い共重合体を重合する場合でも、重合槽にスケールが生成するのを抑制することができる。この製造方法は、スケールの発生を抑制すると共に、比較的簡便な重合および後処理操作であり、高度な共重合組成および分子量の精密制御を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法について具体的に説明する。
【0011】
本発明のカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の製造方法は、カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を1重量%以上20重量%未満含有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中で重合するとき、この有機溶媒(B)が、カルボキシル基含有アクリル系単量体(C)およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体(D)を含む単量体混合物は溶解し、かつ、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下であり、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とし、芳香族基を含有しないことを特徴とする。
【0012】
本発明で使用されるカルボキシル基含有アクリル系単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれのカルボキシル基含有アクリル系単量体も使用可能である。好ましいカルボキシル基含有アクリル系単量体として、下記一般式(1)で表される化合物、マレイン酸及び無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【化1】

(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0013】
本発明で使用されるカルボキシル基含有アクリル系単量体と共重合可能なその他のアクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などのアクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルあるいはそれらの(フルオロ)アルキルエステル単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0014】
また、必要であれば、上記アクリル系単量体以外に、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリルなどの共重合可能なその他の不飽和単量体を使用してもよい。該その他の不飽和単量体は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0015】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、通常のアクリル重合体の顔料分散性を改善し、ナイロン、ポリカーボネートなどのポリマーとの相溶性を向上し、機能ポリマーアロイの実現を可能とする。さらには、カルボキシル基を利用した高分子反応により、アクリル重合体に感光性や現像性を付与するために有効な官能基として機能する。また、アクリル重合体の分子内反応を利用し耐熱性の向上や屈折率の調整が可能となる。
【0016】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位の割合が所望の値となるように共重合する。本発明の共重合体(A)の製造方法では、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位の含有量が1重量%以上20重量%未満となるように共重合させる。
【0017】
また、共重合体(A)の酸価は、5〜130mgKOHが好ましく、30〜100mgKOHがより好ましい。
【0018】
本発明の重合方法は、重合開始剤の存在下あるいは非存在下で、カルボキシル基含有アクリル系単量体(C)およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体(D)を含む単量体混合物は溶解し、かつ、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で重合し、共重合体(A)を沈殿させる、いわゆる「沈殿重合法」で得ることを特徴とする。この場合、重合後のスラリー溶液を濾過および乾燥することにより、該カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を単離することができる。尚、ここで、「共重合体(A)の溶解度」とは、共重合体(A)の有機溶媒(B)100gに対する、23℃で24時間、攪拌した後の溶解量を意味する。
【0019】
本発明に使用される有機溶媒(B)は、前述の沈殿重合法を可能とし、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とし、芳香族基を含有しない。脂肪族炭化水素(E)は主鎖と側鎖の炭素数の合計炭素数が10を超えるものであり、側鎖の数は限定されない。また側鎖の炭素数も限定されない。脂肪族炭化水素(E)としては、例えば、イソウンデカン、3−メチルデカン、4−メチルデカン、3−エチルノナン、2,2−ジメチルノナン、2,3−ジメチルノナン、3−イソプロピルオクタン、イソドデカン、3−メチルウンデカン、4−メチルウンデカン、3−エチルデカン、2,2−ジメチルデカン、2,3−ジメチルデカン、イソトリドデカン、3−メチルドデカン、4−メチルドデカン、3−エチルウンデカン、2,2−ジメチルウンデカン、2,3−ジメチルウンデカン、イソテトラドデカン、3−メチルトリデカン、4−メチルトリデカン、3−エチルドデカン、2,2−ジメチルドデカン、2,3−ジメチルドデカン、イソペンタドデカン、3−メチルテトラデカン、4−メチルテトラデカン、3−エチルトリデカン、2,2−ジメチルトリデカン、2,3−ジメチルトリデカンが挙げられる。なかでも、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカンが好ましい。
【0020】
脂肪族炭化水素(E)は、上述したもののいずれかを単一成分として使用してもよいが、これらのうちの複数種類を含む混合物であることが好ましい。有機溶媒(B)が複数種類の脂肪族炭化水素(E)の混合物を含むことにより、重合槽のスケールの生成が特に抑制される。
【0021】
有機溶媒(B)は脂肪族炭化水素(E)が主成分であれば、適宜他の有機溶媒との混合液であってもよい。脂肪族炭化水素(E)が主成分とは、有機溶媒(B)100重量%中、脂肪族炭化水素(E)が30重量%を超えることであり、好ましくは脂肪族炭化水素(E)が50重量%以上、より好ましくは脂肪族炭化水素(E)が70重量%以上である。
【0022】
他の有機溶媒としては、具体的には、脂肪族炭化水素(E)以外の脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、アルコール類から選ばれる1種以上などを挙げることができる。中でも、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上が好ましく、特に、カルボン酸エステルが好ましい。
【0023】
すなわち、有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルとの混合物であることが好ましい。これにより、生成する共重合体(A)中のカルボキシル基含有アクリル系単量体単位のかたよりを抑制できる。
【0024】
また、脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルの重量比(脂肪族炭化水素(E)/カルボン酸エステル)は、好ましくは70/30〜99/1にし、より好ましくは80/20〜95/5にするとよい。
【0025】
有機溶媒(B)に含まれる脂肪族炭化水素(E)以外の脂肪族炭化水素としては、直鎖状のもの、脂環式のもの及び側鎖を有し炭素数が5〜10のものを挙げることができる。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンおよびそれらの種々の異性体、並びにn−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカンおよびそれらの種々の異性体を挙げることができる。
【0026】
本発明に好ましく使用されるカルボン酸エステルとは、飽和脂肪族カルボン酸および飽和アルコールからなるエステルであり、飽和カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを、また飽和アルコールとしては炭素数1〜10で直鎖状および分岐状のものを挙げることができる。好ましいカルボン酸エステルとしては、ギ酸−n−プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸−n−ペンチル、ギ酸−n−ヘキシル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−n−ペンチル、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−n−ヘプチル、酢酸−n−オクチル、酢酸−n−ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−n−ペンチル、プロピオン酸−n−ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸−n−ブチル、酪酸イソブチル、酪酸−n−ペンチル、酪酸−n−ヘキシルなどの種々の異性体を挙げることができる。
【0027】
有機溶媒(B)に含まれてもよいケトンとは、炭素数1〜10で直鎖状および分岐状の飽和脂肪族基からなるケトンであり、具体例としては、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0028】
なお、本発明の製造方法において沈殿重合する際、その重合反応系に水を用いると共重合組成の精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極く少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが最も好ましい。
【0029】
重合温度については、任意に設定することが可能であるが、好ましくは使用する有機溶媒の沸点以下の温度が好ましい。中でも、100℃以下の重合温度で重合することが好ましく、90℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0030】
また、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の熱安定性を向上させる点で好ましい。より好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0031】
また、これらの単量体混合物は、有機溶媒中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、生成するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0032】
本発明には重合開始剤として、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−4−メトキシ− 2 ,4−ジメチルバレロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2′−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0033】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物100重量部に対して、0.001〜2.0重量部が好ましく、とりわけ0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0034】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0035】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0036】
本発明においては、容易にカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を沈殿・析出させるため、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)と有機溶媒(B)に対する溶解度のバランスを考慮する必要がある。その観点から、各成分の溶解度パラメーターを考慮し、共重合種、共重合組成、反応溶媒等重合条件の設計を行うことが好ましい。
【0037】
本発明では、溶解度パラメーターδ((cal/cm1/2)として「POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION」、J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、およびE.A.GRULKE著、p.VII/675−714、WILEY INTERSCIENCE(1999)のTABLE7に記載のデータを採用する。なおTABLE7に記載されていない有機溶媒に関しては、前記文献に記載されているSmallの方法で算出した値を採用した。尚、Smallの方法とは前記文献のp.VII/675−714のTABLE2で与えられていたSmallの方法による特定の原子及び原子団の凝集エネルギー定数F(MPa1/2・cm・/mol)を採用し、密度をs(g/cm)、基本分子量をM(g/mol)とし、δ=(sΣF)/Mで溶解度パラメーターδ(MPa1/2)を算出するものである。尚、1(MPa1/2)=2.046(cal/cm1/2である。
【0038】
また、2種類以上の有機溶媒からなる混合物である場合の溶解度パラメーターδは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出する。
δ=Σ(δi×Xi/100)
また、共重合体の溶解度パラメーターδ((cal/cm1/2)は前記文献のp.VII/675−714のTABLE3の値より算出する。
【0039】
本発明においては、カルボキシル基含有アクリル重合体を共重合する際、上記のカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上となるような共重合組成、有機溶媒種を選択することが好ましい。ΔSPが、より好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上になる条件で重合を行うことが、重合中の重合槽壁面へ共重合体が付着することがなく、さらに生成する共重合体を粉体として容易に取り出す上で好ましい。また、上記のΔSPが1.0〜3.0の範囲、より好ましくは1.5〜2.8の範囲、さらに好ましくは2.1〜2.8の範囲で重合条件を設計することにより、重合開始前の仕込み単量体混合物組成と生成する共重合体の共重合組成に大きなずれを生じさせない精密な制御を行うこと、および分子量分布のより狭い、均一性の高い分子量制御を行うことができる点でより望ましい。
【0040】
また、共重合体(A)の溶解度パラメーターは、好ましくは9.0〜11.0にし、より好ましくは9.5〜10.5にするとよい。
【0041】
有機溶媒(B)の溶解度パラメーターは、好ましくは6.0〜8.0にし、より好ましくは7.0〜7.5にするとよい。
【0042】
共重合体(A)、有機溶媒(B)の溶解度パラメーターをこれらの範囲にすることで、重合時のスケールの生成を抑制することができる。
【0043】
本発明における特定の重合溶媒で重合されたカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を含む有機溶媒スラリーは、例えば、遠心分離機により固液分離することにより、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)と有機溶媒(B)とを分離・分別でき、さらに必要であれば、有機溶媒(B)を数%程度含有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しないカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を製造することも可能である。
【0044】
もっと簡便には、可能であれば、スプレードライヤーによりカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を回収すると同時に、乾燥ポリマーとし、有機溶媒(B)を回収することもできる。
【0045】
以上により製造されたカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の平均粒子径については、0.3μm以上100μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、0.5μm以上、80μm以下がより好ましく、1.0μm 以上、60μm以下がさらに好ましい。上記の範囲未満では得られるカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の粒子は、極めて微細なパウダーであり、ハンドリング性に劣る傾向を生じ、上記の範囲を越えると、粒子中に取り込まれた有機溶媒の乾燥除去に長時間あるいは高温を要し、熱分解による色調悪化を引き起こす場合がある。尚、ここで言う平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、1万倍で観察し、1次粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径を表す。
【0046】
以上により製造されたカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、2000〜1000000、より好ましくは、5000〜500000であることが望ましい。Mwが2000未満の場合には、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中に分散質として沈殿、析出できない場合があり、本発明の目的に沿わないことがある。また、重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にある。Mwが1000000を超える場合には、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。
【0047】
また、本発明では、特定の共重合組成、溶媒種を選択することにより、均質な分子量分布を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体が得られる。カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、前記好ましい態様の製造方法によれば、1.5〜5.0の範囲にあるものを得ることができ、より好ましい態様においては、1.7〜4.0の範囲にあるものを得ることができ、とりわけ好ましい態様においては、2.0〜3.5の範囲の範囲にあるものを得ることが可能である。このような分子量分布を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例および比較例をもって、本発明の態様を説明する。以下特に断りがない限り組成比は重量組成比を表すものとする。
(1)共重合体中の各成分組成
得られた共重合体を重ジメチルスルフォキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成を決定した。
(2)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒド
ロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型、Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL、東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(Mw、絶対分子量)、数平均分子量(Mn、絶対分子量)を測定した。分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出した。
(3)重合槽のスケール
重合槽壁面及び撹拌軸に生成したスケールの重量を測定し、得られた総ポリマーの重量に対する割合を算出した。得られた総ポリマー100重量%に対する重量が5重量%未満を極小、5重量%以上10重量%未満を小、10重量%以上を大として判定した。
【0049】
実施例1
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸(MAA);8重量部、メタクリル酸メチル(MMA);92重量部、ISOPAR−G(イソパラフィン系炭化水素、エクソンモービル社製);500重量部からなる混合物質(イ)を供給して、250rpmで攪拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を攪拌しながら95℃に昇温した。次に、ISOPAR−G;25重量部、ラウロイルパーオキサイド;0.8重量部からなる混合物質(ロ)を70分間で逐次添加し、さらに80分間保った後、重合を終了し、共重合体スラリー(a)を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。なお、ISOPAR−Gは、炭素数11のイソパラフィンを主成分とするイソパラフィン系炭化水素であり、その溶解度パラメーター(δ)は7.3である。
【0050】
得られたスラリー少量を定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し、100℃で12時間乾燥を行い、パウダー状の実施例1の共重合体(A)を得た。この共重合体(A)は、Mwが150,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.22であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=90/10であり、共重合体(A)(δp=10.1)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、2.8であった。スケールの割合は4重量%であった。
【0051】
実施例2
混合物質(イ)のメタクリル酸(MAA)の添加量を8重量部から4重量部、メタクリル酸メチル(MMA)の添加量を92重量部から96重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例2の共重合体(A)を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。共重合体(A)のMwは、148,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.23であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=95/5であり、共重合体(A)(δp=10.0)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、2.7であった。スケールの割合は6重量%であった。
【0052】
実施例3
混合物質(イ)および(ロ)のISOPAR−GをISOPAR−G/酢酸ブチル(80重量%/20重量%)の混合溶剤に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例3の共重合体(A)を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。共重合体(A)のMwは、149,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.22であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=90/10であった。スケールの割合は3重量%であった。
【0053】
比較例1
混合物質(イ)および(ロ)のISOPAR―Gをシクロヘキサンに変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例1の共重合体を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系であった。重合槽壁面への付着が多く、均一な撹拌も難しくなった。共重合体のMwは、147,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.26であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=90/10であり、共重合体(A)(δp=10.1)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、1.9であった。スケールの割合は20重量%であった。
【0054】
比較例2
混合物質(イ)のメタクリル酸(MAA)の添加量を8重量部から20重両部、メタクリル酸メチル(MMA)の添加量を92重両部から80重両部に変更した以外は比較例1と同様の方法で比較例2の共重合体を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。共重合体のMwは、150,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.26であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=75/25であり、共重合体(A)(δp=10.2)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、2.0であった。スケールの割合は4重量%であった。
【0055】
比較例3
混合物質(イ)および(ロ)のシクロヘキサンをシクロヘキサン/酢酸ブチル(80重量%/20重量%)の混合溶剤に変更した以外は比較例2と同様の方法で比較例3の共重合体を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。共重合体のMwは、149,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.22であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=75/25であり、共重合体(A)(δp=10.2)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、1.9であった。スケールの割合は3重量%であった。
【0056】
比較例4
混合物質(イ)および(ロ)のシクロヘキサンを酢酸ブチルに変更した以外は比較例1と同様の方法で比較例4の共重合体を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着は少なく、良好に重合が進行した。共重合体のMwは、149,000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.24であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=90/10であり、共重合体(A)(δp=10.1)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、2.0であった。スケールの割合は35重量%であった。
【0057】
実施例1〜4および比較例1〜4の結果を纏めたものを表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜4および比較例1〜4から、得られるポリマーのカルボキシル基含有アクリル系単量体単位の含有量が所定範囲であるポリマーは、特定のSP値の溶剤中で重合することにより、スケールの生成も少なく得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を1重量%以上20重量%未満含有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中で重合するとき、この有機溶媒(B)が、カルボキシル基含有アクリル系単量体(C)およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体(D)を含む単量体混合物は溶解し、かつ、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下であり、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素(E)を主成分とし、芳香族基を含有しないことを特徴とするカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターとの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上であることを特徴とする請求項1に記載のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体(A)の溶解度パラメーターが9.0〜11.0であり、有機溶媒(B)の溶解度パラメーターが6.0〜8.0であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルとの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素(E)とカルボン酸エステルの重量比が70/30〜99/1であることを特徴とする請求項4に記載のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪族炭化水素(E)が、側鎖を有する炭素数が10を超える脂肪族炭化水素を複数種類含む混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカルボキシル基含有アクリル共重合体の製造方法。