説明

カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる銀担持触媒

【課題】容易に入手可能な原料を用いて、カルボン酸エステルを高い選択率でアルデヒドに還元できる触媒を提供する。
【解決手段】活性成分として銀が担体に担持されていることを特徴とする、カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる銀担持触媒である。銀は、担体に対して銀換算で0.1〜30重量%であり、担体のBET比表面積は5〜1000m2/gである。担体には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化亜鉛、酸化ニオブ及び活性炭からなる群より選択される銀担持触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸エステルを還元してアルデヒドを製造するのに用いる銀担持触媒、及び銀担持触媒の存在下で、カルボン酸エステルを還元することを特徴とする、アルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる触媒としては、酸化ジルコニウムとランタニド元素からなる触媒(特許文献1,2)、酸化ハフニウム触媒(特許文献3)、酸化ランタン触媒(特許文献4)、高純度酸化クロム触媒(特許文献5)等が知られている。
【0003】
しかし、これらの触媒は、有毒な重金属を含有したり、高価な希少金属や汎用的でない金属を含有するため、その調製や使用は簡便とはいえなかった。また、これらの触媒はいずれも、アセトアルデヒド等の脂肪族低級アルデヒドの製造に適しているものではなかった。なお、カルボン酸エステルのアルコールへの還元に用いる触媒としては、銅系触媒や周期表第8族元素系触媒が挙げられるが、これらの触媒によるアルデヒドへの還元は困難であった。
【0004】
さらに、カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる触媒としては、コバルトと酸化ジルコニウムからなる触媒(特許文献6)、鉄カルボニルから製造された鉄触媒(特許文献7)、チタンの酸化物質と一種以上の共存金属(銅、コバルト、ニッケル等)からなる触媒(特許文献8)、ルテニウム/スズ型バイメタル触媒(特許文献9)も知られている。しかし、特許文献6記載の触媒は芳香族アルデヒドの製造にのみ使用できるものであり、他の触媒も芳香族アルデヒドや脂環式アルデヒドの製造に好適なものではあるが、アセトアルデヒド等の脂肪族低級アルデヒドの製造に適しているものではなかった。また、担体等の触媒原料も、容易に入手可能とはいえず、簡便に触媒調製できるとはいえなかった。
【0005】
その他、酸化亜鉛−酸化クロム触媒により、酢酸、n−酪酸等の低級カルボン酸のエステルを水素化する方法(特許文献10)も知られているが、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド等の選択率は14〜33%程度と低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−231458号公報
【特許文献2】特開2002−12571号公報
【特許文献3】特開昭62−96445号公報
【特許文献4】特開2002−3431号公報
【特許文献5】特開平5−310630号公報
【特許文献6】特開昭61−115043号公報
【特許文献7】特開昭64−83040号公報
【特許文献8】特開平3−118344号公報
【特許文献9】特開平5−294882号公報
【特許文献10】特公昭47−38410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、容易に入手可能な原料を用いて、カルボン酸エステルを高い選択率でアルデヒドに還元できる触媒を提供することであり、また、該触媒の存在下でカルボン酸エステルを高い選択率で還元して、アルデヒドを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、触媒の活性成分として銀を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。銀は、通常、酸化反応の触媒に利用される金属であり、還元反応における利用はほとんど試みられていないが、本発明者らによって、意外にも、銀担持触媒により、カルボン酸エステルを高い選択率でアルデヒドに還元できることが見出された。
【0009】
本発明は、活性成分として銀が担体に担持されていることを特徴とする、カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる銀担持触媒に関する。また、本発明は、銀が、銀及び/又は銀化合物として担体に担持されている、上記の銀担持触媒に関し、銀が、担体に対して銀換算で0.1〜30重量%である、上記の銀担持触媒に関する。さらに、本発明は、担体が、BET比表面積5〜1000m/gである、上記の銀担持触媒に関し、担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化亜鉛、酸化ニオブ及び活性炭からなる群より選択される、上記の銀担持触媒に関する。加えて、本発明は、銀塩を担体に付着させ、次いで焼成して得られる、上記の銀担持触媒に関し、銀塩を担体に付着させ、次いで焼成した後、還元処理をして得られる、上記の銀担持触媒に関する。
【0010】
さらに、本発明は、上記のいずれかの銀担持触媒の存在下で、カルボン酸エステルを還元することを特徴とする、アルデヒドの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、銀という容易に入手可能な原料を用いた触媒でありながら、カルボン酸エステルを高い選択率でアルデヒドに還元することができる。本発明の銀担持触媒は、特にアセトアルデヒド等の脂肪族アルデヒドの製造に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる銀担持触媒であり、銀を活性成分として用いることが特徴的である。本発明の銀担持触媒において、銀は、金属銀として担持されていても、銀化合物として担持されていてもよく、好ましくは金属銀として担持されている。銀化合物としては、銀塩(硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀等の無機酸塩、シュウ酸銀等の有機酸塩)、酸化銀(AgO、AgO)等が挙げられる。銀は、好ましくは、分散担持されている。
【0013】
銀は、担体を100重量%とした場合、銀換算で0.1〜30重量%とすることができ、良好な活性及び高いアルデヒド選択性の点から1〜20重量%であることが好ましい。
【0014】
銀を担持させる担体としては、特に限定されず、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化亜鉛、酸化ニオブ、モレキュラーシーブ、ゼオライト、珪藻土、軽石、スピネル及び活性炭等が挙げられ、高いアルデヒド選択性の点から、活性アルミナ、酸化亜鉛が好ましい。
【0015】
担体は、BET比表面積が5〜1000m/gであるものを使用することができ、入手容易性の点から、5〜300m/gのものが好ましい。
【0016】
銀を担持させる手法は、特に限定されず、一般的に用いられる手法により行うことができる。
【0017】
例えば、銀含有溶液を、担体に加え、含浸法、蒸発乾固法、ポアフィリング法等により担持させることができる。
【0018】
銀含有溶液としては、銀塩(硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀等の無機酸塩、シュウ酸銀等の有機酸塩)を、溶媒(水、アンモニア水等)に溶解した溶液が挙げられる。特に、取り扱いの容易性の点から硝酸銀の水溶液が好ましい。銀含有溶液の濃度は、0.01〜0.5mol/lであることが好ましい。
【0019】
銀担持触媒の製造においては、銀含有溶液を担体に加えた後、乾燥工程及び焼成工程に付すことが好ましい。すなわち、銀含有溶液を担体に加えた時点では、水、アンモニア水等の溶媒を含んでいるため、乾燥工程に付して乾燥させることが好ましい。このとき、乾燥工程のやり方は特に限定されず、真空乾燥機、熱風乾燥機等の公知の手段を用いることができる。また、乾燥温度は溶媒を除去することができ、かつ本発明の目的を損なわない温度であれば限定されず、例えば、80〜200℃とすることができる。乾燥雰囲気や乾燥時間も、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。
【0020】
乾燥工程の後、さらに焼成工程に付して、酸化銀として、銀を固定化することが好ましい。このとき、焼成工程のやり方は特に限定されず、電気炉等の各種焼成炉で、空気雰囲気下で焼成することができる。焼成温度は、例えば、250〜600℃とすることができる。焼成時間は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。
【0021】
上記のようにして、高活性・高いアルデヒド選択性の銀担持触媒を得ることができる。この銀担持触媒は、反応に供する前に、還元処理を行うことが好ましい。還元処理により、金属銀とすることができる。このとき、還元処理のやり方は特に限定されず、触媒を反応器に充填して、反応開始前に水素と接触させて行うことができる。還元処理の温度や時間は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されず、例えば、水素流通下、100〜400℃、1〜10時間程度の処理に付すことができる。
【0022】
本発明の銀担持触媒には、銀成分に加えて、反応に供した時の銀の凝集抑制の点から、亜鉛、鉄、マンガン、クロム等の金属酸化物を含有することができる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、二酸化マンガン、酸化クロム等が挙げられる。金属酸化物は、単独であっても、複数であってもよい。金属酸化物の担持量は、銀1モルに対して、好ましくは0.01〜3モルであり、さらに好ましくは0.05〜1モルである。
【0023】
本発明の銀担持触媒により、カルボン酸エステルを還元して、対応するアルデヒドを製造することができる。
【0024】
また、本発明は、活性成分として銀が担持されている銀担持触媒を用いてカルボン酸エステルを還元するアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、銀が、銀及び/又は銀化合物として担体に担持されている銀担持触媒を用いる上記のアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、銀が、担体に対して銀換算で0.1〜30重量%担持されている銀担持触媒を用いる上記のアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、担体が、BET比表面積5〜1000m/gである銀担持触媒を用いる上記のアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化亜鉛、酸化ニオブ及び活性炭からなる群より選択される1種以上である銀担持触媒を用いる上記のアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、銀塩を担体に付着させ、次いで焼成して得られる銀担持触媒を用いる上記のアルデヒドの製造方法に関する。本発明は、上記のいずれかのアルデヒドの製造方法に用いる銀担持触媒に関する。
【0025】
カルボン酸エステルとしては、脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式のカルボン酸のエステルが挙げられるが、その中では、脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステルが好ましい。エステル部分のアルキル基は、反応性及び反応生成物の精製のしやすさの観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0026】
脂肪族カルボン酸エステルとしては、脂肪族モノカルボン酸のアルキルエステルが挙げられ、好ましくは炭素数2〜12の脂肪族モノカルボン酸のアルキルエステルであり、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、吉草酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、ウンデカン酸等のアルキルエステルが挙げられる。エステル部分のアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましく、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、ピバリン酸メチル、吉草酸メチル、ヘキサン酸メチル、へプタン酸メチル、オクタン酸メチル、2−エチルヘキサン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル等である。
【0027】
脂肪族カルボン酸エステルとしては、さらに、脂肪族ポリカルボン酸のアルキルエステルが挙げられ、好ましくは炭素数2〜12の脂肪族ポリカルボン酸のアルキルエステルであり、具体的にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、デカン二酸等のアルキルエステルが挙げられる。エステル部分のアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましく、例えばシュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、デカン二酸ジメチル等も挙げられる。
【0028】
脂環式カルボン酸エステルとしては、シクロアルカンカルボン酸のアルキルエステルが挙げられ、好ましくは炭素数3〜10のシクロアルカンモノカルボン酸又はシクロアルカンポリカルボン酸のアルキルエステルであり、具体的にはシクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のアルキルエステルである。エステル部分のアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましく、例えば、シクロペンタンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。
【0029】
芳香族カルボン酸エステルとしては、安息香酸、トルイル酸、シクロへキシル安息香酸、フェニル安息香酸、ナフトエ酸、フタル酸等の芳香環に1個以上のカルボキシ基が結合したカルボン酸のアルキルエステルが挙げられ、このエステル部分のアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましい。芳香族カルボン酸エステルとして、具体的には、安息香酸メチル、トルイル酸メチル、シクロヘキシル安息香酸メチル、フェニル安息香酸メチル、ナフトエ酸メチル、フタル酸ジメチル等が挙げられる。
【0030】
複素環式カルボン酸エステルとしては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラン環、ピリジン環、キノリン環、ピリミジン環等の複素環に、1個以上のカルボキシ基が結合したカルボン酸のアルキルエステルが挙げられ、このエステル部分のアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましい。複素環式カルボン酸エステルとして、具体的には、これら複素環式カルボン酸エステルのメチルエステルがそれぞれ挙げられる。
【0031】
カルボン酸エステルのカルボン酸部分を構成する炭化水素基又は複素環部分は、反応に不活性な置換基(アリール基、アルコキシ基等)を有していてもよい。
【0032】
特に、炭素数2〜4の脂肪族低級カルボン酸(例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸)のアルキルエステル(例えば、メチルエステル又はエチルエステル)に好適に使用することができる。
【0033】
カルボン酸エステルの還元(アルデヒドの製造)は、本発明の銀担持触媒の存在下、カルボン酸エステルを水素と気相又は液相で接触させることにより行うことができる。
【0034】
銀担持触媒の存在下、液体のカルボン酸エステルと水素ガスとを気相で接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、液体のカルボン酸エステル中に水素ガスを通過させることにより、カルボン酸エステルの気体を水素ガスに同伴させて銀担持触媒に接触させる方法;液体のカルボン酸エステル中にキャリアーガスを通過させることにより、カルボン酸エステルの気体をキャリアーガスに同伴させて、カルボン酸エステル含有キャリアーガスと水素ガスとを混合して銀担持触媒に接触させる方法;液体のカルボン酸エステルを加熱気化させて、気体のカルボン酸エステルと水素ガス(及び場合によりキャリアーガス)とを混合して銀担持触媒に接触させる方法;液体のカルボン酸エステルを入れた容器を減圧して、気化したカルボン酸エステルと水素ガスとを混合して銀担持触媒に接触させる方法;液体のカルボン酸エステルを入れた容器を減圧して、気化したカルボン酸エステルを水素ガス雰囲気下で銀担持触媒に接触させる方法、が挙げられる。
【0035】
銀担持触媒の存在下、カルボン酸エステルと水素ガスとを液相で接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、銀担持触媒とカルボン酸エステルの存在下に、水素ガスを接触させる方法等が挙げられる。
【0036】
カルボン酸エステルとの接触に当り、水素は、単独で、又は窒素等の不活性ガスで希釈して使用することができる。
【0037】
反応温度は、気相反応であれば、220〜500℃とすることができ、好ましくは270〜400℃である。液相反応であれば、50〜300℃とすることができ、好ましくは、80〜200℃である。
【0038】
反応圧力は、常圧、加圧、減圧のいずれでもよく、反応形式等により適宜選択される。例えば、気相反応であれば、反応圧力(全圧)は0.5〜10atmとすることができ、好ましくは、1〜3atmである。水素分圧は全圧の1/1000以上とすることができる。
【0039】
気相反応の場合、ガス空間速度(GHSV)は、500〜8000hr−1とすることができ、好ましくは、800〜5000hr−1である。水素濃度は原料を除き0.5〜100容量%とすることができる。液相反応の場合、触媒使用量は、カルボン酸エステルに対して、銀換算で好ましくは0.001〜0.2倍モルとすることができ、好ましくは、0.01〜0.1倍モルである。触媒の形状や粒径等は反応形式に適合したものであれば、特に限定されない。反応装置は、気相又は液相で反応させることができるものであればよく、例えば、通常の固定床流通式反応器や懸濁床回分式反応器が挙げられる。また、トリクルベッド式反応器も使用することができ、この場合、GHSVを100〜2000h−1、LHSV0.1〜2h−1とすることが好ましい。
【0040】
なお、水素化は無溶媒下で可能であるが、必要に応じて、カルボン酸エステルと溶媒を混合して、気相又は液相で、反応器に供給又は仕込むことにより、溶媒存在下で行ってもよい。溶媒はそれ自身が水素化されるものでなければ特に限定されず、例えば、アルコール類、エーテル類、炭化水素類(トルエン、キシレン等)を使用することができる。溶媒の使用量は、特に限定されず、生産性や経済性を考慮して、適宜、決定することができる。反応終了後、アルデヒドは蒸留等の通常行われる方法により分離精製できる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、反応装置は、反応管の一端(ガス入口)が流量制御バルブを介して水素配管に接続され、他端(ガス出口)が反応ガス分析用のガスクロマトグラフに接続されていて、反応管のガス入口と流量制御バルブとの間には切替えコック付きのコールドトラップが接続され、これにカルボン酸エステルを入れて水素ガスを流すことによりカルボン酸エステルが反応管へ導入されるようにしたガラス製U字反応管を電気炉に装着したものを使用した。
【0042】
〔実施例1〕
〔触媒調製〕
純水200mlに硝酸銀1.6gを溶解し、この溶液に活性アルミナ(BET比表面積180m/g)20.0gを加えて、室温下でゆるやかに1時間攪拌した。引き続き、ゆるやかに攪拌しながら加熱して溶液を蒸発乾固させ、得られた乾固物を空気雰囲気下に450℃で2時間焼成した。
【0043】
次いで、内径6mmのガラス製U字反応管に前記焼成物0.3ml(0.03g)を充填し、水素を1NL/hrの流量で流しながら昇温して250℃で2時間還元処理を行った。銀担持量は担体に対して5重量%であった。
【0044】
〔酢酸メチルの水素化〕
還元処理終了後、前記コールドトラップに酢酸メチルを入れてトラップを氷冷し、内温が0℃になったところで水素ガスがトラップ内を流れるようにコックを切り替えて反応管に酢酸メチルを含んだ水素ガスを流通させた。このとき、水素ガス流量は20Nml/hr(GHSVは4000hr−1)で、ガス中の酢酸メチル濃度は0.92容量%であった。この状態で触媒層の温度(反応温度)を300℃に設定して反応を行なった結果、酢酸メチル転化率は35%、アセトアルデヒド選択率は酢酸メチル基準で90%であった。
【0045】
ここで、選択率は次式により算出した。
【数1】

【0046】
実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1の触媒を調製し、酢酸メチルの還元反応を行った。結果を表1に示す。実施例5〜7の各担体のBET比表面積は次のとおりである。ZnO:10m/g、ZrO:20m/g、CeO:260m/g。なお、実施例3〜7では、純水200mlに硝酸銀3.2gを溶解した溶液を使用し、比較例1では、純水200mlに硝酸銅3.95gを溶解した溶液を使用した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示されるように、銅担持触媒を使用した比較例1のアルデヒド選択率は15%であったのに対し、本発明の銀担持触媒を使用した実施例1〜7は、いずれもアルデヒド選択率が42%以上であり、良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、銀という容易に入手可能な原料を用いた触媒でありながら、カルボン酸エステルをアルデヒドに高い選択率で還元でき、特にアセトアルデヒド等の脂肪族低級アルデヒドの製造に好適であり、産業上の有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として銀が担体に担持されていることを特徴とする、カルボン酸エステルのアルデヒドへの還元に用いる銀担持触媒。
【請求項2】
銀が、銀及び/又は銀化合物として担体に担持されている、請求項1記載の銀担持触媒。
【請求項3】
銀が、担体に対して銀換算で0.1〜30重量%である、請求項1又は2記載の銀担持触媒。
【請求項4】
担体が、BET比表面積5〜1000m/gである、請求項1〜3のいずれか1項記載の銀担持触媒。
【請求項5】
担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化亜鉛、酸化ニオブ及び活性炭からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項記載の銀担持触媒。
【請求項6】
銀塩を担体に付着させ、次いで焼成して得られる、請求項1〜5のいずれか1項記載の銀担持触媒
【請求項7】
銀塩を担体に付着させ、次いで焼成した後、還元処理をして得られる、請求項1〜5のいずれか1項記載の銀担持触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の銀担持触媒の存在下で、カルボン酸エステルを還元することを特徴とする、アルデヒドの製造方法。

【公開番号】特開2010−227893(P2010−227893A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80799(P2009−80799)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】