説明

カレット原料、フツリン酸ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子それぞれの製造方法

【課題】原料の生産性を高めることを可能にするフツリン酸ガラス用のカレット原料の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともフッ素、酸素、リンを含む未ガラス化原料を熔融、ガラス化して、カレット原料を作製するカレット原料の製造方法において、未ガラス化原料中のリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pを3.5以上にして熔融、ガラス化し、フツリン酸ガラスを熔融するためのカレット原料を作製することを特徴とするカレット原料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフツリン酸ガラスの熔融に使用するカレット原料の製造方法、フツリン酸ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子それぞれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸ガラスは、超低分散性、異常分散性を示し、レンズ、プリズム、光学フィルターなどの材料として多用されている。
【0003】
こうしたフツリン酸ガラスを生産する方法として特許文献1に記載された方法が知られている。
【特許文献1】特開2002−128528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法は、主としてバッチ原料と呼ばれる化合物を調合して得られる未ガラス化原料を熔融容器内に導入しながら加熱、熔融し、得られた熔融ガラスを清澄槽、作業槽へと送り、脱泡、均質化した後にフィーダーから流出して成形するものである。
【0005】
この方法に対し、未ガラス化原料を熔融してガラス化し、得られたガラスを光学ガラスの原料として使用する方法がある。未ガラス化原料を熔融して得られるガラス原料はカレット原料と呼ばれる。そして、目的の光学特性、主として屈折率が得られるように複数種のカレット原料を調合して得られる調合物を熔融して所望の光学特性を有するガラスを製造する。
【0006】
ところで、熔融状態のフツリン酸ガラスは、非常に揮発性に富み、時間とともに易揮発性物質がガラスから失われ、屈折率が変動しやすい。そのため、ガラス化したカレット原料を用いても揮発による屈折率変動が生じたり、ガラス表面に脈理と呼ばれる光学的に不均一な部分が生じやすいなどの問題があった。
【0007】
また、熔融状態のフツリン酸ガラスは非常に反応性に富み、熔融容器を侵蝕し、侵蝕物をガラス中に異物として取り込みやすいという問題があった。また、カレット原料を得るため、熔融ガラスを水などの液体に導入すると激しく反応し、ガスを発生するなど作業性にも問題があった。
【0008】
本発明はこうした問題を解決するためになされたものであり、揮発性および反応性を抑制した熔融ガラスを作製し、この熔融ガラスからカレット原料を作製することにより、原料の生産性を高めることを可能にするフツリン酸ガラス用のカレット原料の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、上記方法でカレット原料を作製し、得られたカレット原料を用いてフツリン酸ガラスを製造する方法、前記方法でフツリン酸ガラスを作製し、前記ガラスからプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子それぞれを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、
(1) 少なくともフッ素、酸素、リンを含む未ガラス化原料を熔融、ガラス化して、カレット原料を作製するカレット原料の製造方法において、
未ガラス化原料中のリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pを3.5以上にして熔融、ガラス化し、フツリン酸ガラスを熔融するためのカレット原料を作製することを特徴とするカレット原料の製造方法、
(2) 未ガラス化原料を熔融して得た熔融ガラスを液体に導入して、冷却する上記(1)項に記載のカレット原料の製造方法。
(3) 上記(1)項または(2)項に記載の方法により複数のカレット原料を作製し、前記複数のカレット原料を調合し、熔融するフツリン酸ガラスの製造方法、
(4) 流出する熔融ガラスを鋳型に鋳込み、成形する上記(3)項に記載のフツリン酸ガラスの製造方法、
(5) 流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊を浮上させながら冷却、固化する過程で成形する上記(3)項に記載のフツリン酸ガラスの製造方法、
(6) 上記(4)項に記載の方法によりフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製し、前記ガラス成形体を加工してプレス成形用ガラス素材を作製するプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(7) 上記(5)項に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製するプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(8) 上記(6)項または(7)項に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形する光学素子ブランクの製造方法、
(9) 上記(3)項に記載の方法により熔融ガラスを作製して流出し、熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊をプレス成形する光学素子ブランクの製造方法、
(10) 上記(8)項または(9)項に記載の方法により光学素子ブランクを作製し、前記ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法、
(11) 上記(6)項または(7)項に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱し、精密プレス成形する光学素子の製造方法、
(12) 上記(3)項または(4)項に記載の方法によりフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製し、前記ガラス成形体を加工して光学素子を作製する光学素子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、揮発性および反応性を抑制した熔融ガラスを作製し、この熔融ガラスからカレット原料を作製することにより、原料の生産性を高めることを可能にするフツリン酸ガラス用のカレット原料の製造方法を提供すること、および、上記方法でカレット原料を作製し、得られたカレット原料を用いてフツリン酸ガラスを製造する方法、前記方法でフツリン酸ガラスを作製し、前記ガラスからプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子それぞれを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
フツリン酸ガラスの原料としては、一般にリン酸塩が用いられているが、アニオン成分としてフッ素(F)の導入量をなるべく多くするために、リン酸塩としては、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が小さい、メタリン酸塩(酸素原子/リン原子=3)が用いられている。
しかし、本発明者が検討したところ、上記メタリン酸塩を用いてガラスを作製した場合、熔融ガラス中において、原料に由来するメタリン酸とフッ素が反応することにより、揮発成分としてフッ化ホスホリル(POF)が発生してしまうのに対して、熔融ガラス中のリン1原子当たりの酸素原子の原子比を3.5以上(酸素原子/リン原子≧3.5)に調整すると、揮発成分の発生量が大幅に低減することが判明した。これは、熔融ガラス中に存在するリン酸として、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3であるメタリン酸よりも、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3.5である2リン酸の方が安定であるためと考えられる。
そこで、本発明は、フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上とすることによって、揮発成分であるフッ化ホスホリルの発生を抑制して、ガラス組成の変動に伴う品質のばらつきを低減するとともに、熔融状態のガラスの侵蝕性を低減、抑制する。
このようにして完成した本発明は、少なくともフッ素、酸素、リンを含む未ガラス化原料を熔融、ガラス化して、カレット原料を作製するカレット原料の製造方法において、
未ガラス化原料中のリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pを3.5以上にして熔融、ガラス化し、フツリン酸ガラスを熔融するためのカレット原料を作製することを特徴とするカレット原料の製造方法である。
【0013】
ここで、未ガラス化原料とは、リン酸塩、フッ化物などの化合物を調合して得られる、所謂、バッチ原料であり、カレット原料とはガラス化した原料である。
【0014】
熔融容器内に未ガラス化原料を導入すると、熔融反応がおきる。本発明では、未ガラス化原料中のリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pを3.5以上にすることにより、前述のようにガラスの揮発性、侵蝕性を低減、抑制することができる。
【0015】
メタリン酸塩とフッ化物のみで未ガラス化原料を構成すると、モル比O/Pは3となり3.5に達しない。そこで、未ガラス化原料を構成する化合物として酸化物を用いれば、Pの導入量とは独立してOの導入量を増加させることができ、モル比O/Pを3.5以上にすることができる。あるいは、未ガラス化原料を構成する化合物としてピロリン酸塩を用いることにより、モル比O/Pを高めて前記比を3.5にすることもできる。なお、未ガラス化原料を構成する化合物として酸化物とピロリン酸塩を併用してもよい。
【0016】
こうした点を踏まえさえすれば、モル比O/Pを3.5以上にしつつ、目的のカレット原料に応じた調合が可能になる。
【0017】
なお、上記酸素の含有量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOガス、NOガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。
例えば、未ガラス化原料として、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などを使用する場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物はガラス原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、未ガラス化原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素の含有量から除外する。
【0018】
炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
【0019】
カレット原料の作製において、ガラス中にガス成分を残すことが好ましい。カレット原料中にガス成分が残留することで、カレット原料から目的とするフツリン酸ガラスを作製する過程における清澄効果を高めることができる。そのため、カレット原料を作製する過程で熔融ガラスを清澄する必要はない。
【0020】
本発明によれば、このようにして、ガラスの揮発性を抑制することができるので、揮発によってガラス組成が変化し、屈折率が変動するのを抑制することができ、ほぼ一定の屈折率を有するカレット原料を安定して生産することができる。
【0021】
なお、本発明において未ガラス化原料を熔融するための熔融容器としては、白金ルツボ、白金合金ルツボ、金ルツボ、金合金ルツボなどを使用することができる。
【0022】
従来の方法でフツリン酸ガラスを熔融すると、ガラスによりルツボが侵蝕され、熔融ガラス中に混入するが、フツリン酸ガラスは、白金などのルツボ材料を比較的溶かし込みにくい。そのため、侵蝕によって混入したルツボ材料がカレット原料中に固形物として残り、異物として光の散乱源になり、最終製品である光学素子の性能を低下させてしまう。本発明によれば、ガラスの反応性を抑制することができるので、前記異物の混入を防止することができ、光学的に均質なガラスを得るために用いられるカレット原料を安定して生産することができる。
【0023】
また、本発明によれば、反応性を抑制した熔融ガラスを得ることができるので、熔融ガラスを水などの液体に導入して冷却、固化してもガラスと液体の激しい反応がおきることがない。したがって、未ガラス化原料を熔融して得た熔融ガラスを液体に滴下して、冷却し、カレット原料を効率よく製造することができる。使用する液体としては水などのほか、高温で分解せず、得られるカレット原料を汚染したり、不純物としてカレット原料中に混入しないものを用いることができる。
【0024】
本発明の方法によれば、ガラスの揮発性が極めて低いレベルにまで抑制されているので、次に示す特性を有するフツリン酸ガラスを生産することができる。
【0025】
フツリン酸ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたとき、本発明の方法により作製されるフツリン酸ガラスでは、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となる。
【0026】
ガラスの揮発性、反応性、侵蝕性を抑制する上から、nd(2)−nd(1)の絶対値の好ましい範囲は0.00250以内、より好ましい範囲は0.00200以内、さらに好ましい範囲は0.00150以内、一層好ましい範囲は0.00120以内、より一層好ましい範囲は0.00100以内である。
【0027】
nd(2)−nd(1)の絶対値が上記範囲内に入るフツリン酸ガラスは、モル比O/Pを3.5以上にしないと生産困難である。
【0028】
フツリン酸ガラスにおいてフッ素はガラスの屈折率を相対的に低下させる成分なので、nd(2)−nd(1)の値は一般に正となる。
【0029】
nd(2)を測定するために行われる再熔融時の雰囲気は、ガラスと雰囲気の反応により揮発以外の要因によりガラスの屈折率が影響を受けないようにするため、窒素とする。再熔融は900℃で1時間の所定条件下で行われ、その後、ガラス転移温度まで冷却する。nd(2)の値は冷却時の降温速度にも影響を受けるので、冷却は毎時30℃の所定の降温速度で行われ、25℃まで冷却される。
【0030】
屈折率の測定は公知の方法を用いることができ、有効桁数6桁(小数点以下5桁)の精度で測定することが望ましい。屈折率の測定例としては、日本光学硝子工業会規格JOGIOS 01−1994「光学ガラスの屈折率の測定方法」を適用することができる。
【0031】
ガラスの形状、体積などによっては、例えばガラスが小さな球状であったり、肉薄のレンズに成形されている場合には、上記規格に定められた形状、寸法の試料にガラスを加工することができない場合もある。その場合には、ガラスを加熱、軟化してプレス成形し、アニールして2つの平面が所定の角度で交わるプリズム形状にする。そして、上記規格と同じ測定原理に基づき、屈折率を測定する。(屈折率測定法Aということにする。)プレス成形によるプリフォーム製造時の加熱温度は高々ガラスを軟化できればよい温度域であって、ガラスを熔融する温度よりも極めて低いから、揮発性物質の濃度への影響は無視できる程度であり、上記加熱前後の屈折率変化量は無視して差支えない。
【0032】
図1は、モル比O2−/P5+を3.0から4.0の間で変化させたときの屈折率変化量(nd(2)−nd(1))の絶対値△nd、フツリン酸ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の変化を示したものである。なお、ガラスの熔融は白金坩堝にて行った。
【0033】
図1より、モル比O2−/P5+を3.5以下とすることにより、フツリン酸ガラスの揮発性が抑制されて△ndが0.00300以下になるとともに、フツリン酸ガラスの侵蝕性が抑制されて白金異物の数密度を抑制できることがわかる。
【0034】
なお、本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が抑制されるので、モル比O2−/P5+とガラス原料中のリン原子の量Pに対する酸素原子の量Oのモル比O/Pとは等しくなる。
なお、上記ガラス原料中の酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOガス、NOガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。
【0035】
次に、フツリン酸ガラスの製造方法について説明する。
【0036】
本発明のフツリン酸ガラスの製造方法は、上記本発明の方法によりカレット原料を作製し、前記カレット原料を熔融するフツリン酸ガラスの製造方法である。
【0037】
具体的には、上記方法により目的とするフツリン酸ガラスの組成に近い複数種のカレット原料を作製する。複数種のカレット原料として、目的とするフツリン酸ガラスの屈折率よりも高い屈折率を有するカレット原料と、前記屈折率よりも低い屈折率を有するカレット原料を作製する。そして、目的とするフツリン酸ガラスの屈折率よりも高い屈折率を有するカレット原料と目的とするフツリン酸ガラスの屈折率よりも低い屈折率を有するカレット原料を所定の割合で調合し、目的とする屈折率を有するガラスが得られるようにカレット原料の調合を行う。カレット原料の屈折率調整は、目的とするフツリン酸ガラスの組成のフッ素導入量をコントロールすることによって行うことが好ましい。フッ素導入量を減少させることにより目的とするガラスの屈折率よりも高い屈折率を有するカレット原料を得ることができ、フッ素導入量を増加させることにより目的とするガラスの屈折率よりも低い屈折率を有するカレット原料を得ることができる。また、複数のカレット原料を調合する方法としては、他種の光学ガラスで一般に行われているカレット原料の調合方法を適用すればよい。すなわち、2種のカレット原料A、Bがあり、カレット原料Aの屈折率ndが目的とする値よりαだけ高く、カレット原料Bの屈折率ndが目的とする値よりβだけ低いとき、調合原料に導入するカレット原料Aの質量a、カレット原料Bの質量bを、α×a=β×bとなるようにすれば、目的の屈折率を有するフツリン酸ガラスを得ることができる。
【0038】
調合したカレット原料を白金ルツボ、白金合金ルツボ、金ルツボ、金合金ルツボなど熔融容器内に導入し、加熱、熔融し、熔融ガラスを得る。そして、温度を上昇させて清澄を行い、泡を切った後、攪拌、均質化して熔融容器に接続するパイプから流出する。清澄、均質化については、公知の方法を適用すればよい。
【0039】
この段階の熔融を本熔解と呼び、カレット原料を作製する際の熔融をラフメルトと呼ぶ。
【0040】
本発明によれば、ガラスの揮発性、反応性が抑制されているので、ラフメルト時と同様、本熔解においても揮発によるガラスの屈折率変動を抑制し、脈理などの光学的均一性を低下させる要素を排除することができる。また、反応性が抑制されたカレット原料を使用することにより、本熔解で使用する熔融容器やパイプの侵蝕も抑制され、ガラス中への異物混入を防止することができる。
【0041】
本発明の方法によれば、作製されるフツリン酸ガラスの屈折率ndの公差を±0.00050以内にすることができ、好ましくは±0.00020以内にすることができる。
【0042】
これに対し、従来の方法で作製されるフツリン酸ガラスの屈折率ndの公差を±0.00500程度である。
【0043】
このように、本発明の方法によればフツリン酸ガラスの屈折率変動を大幅に抑制することができる。
【0044】
次に、本発明の製造方法に好適なフツリン酸ガラスを例示する。
フツリン酸ガラスのアッベ数νdを決める主要因は、ガラス中のフッ素成分量である。フッ素成分量を多くするとアッベ数νdは増加し、逆にフッ素成分量を少なくするとアッベ数νdは減少する。アッベ数νdが大きいガラス、すなわち、より低分散のガラスを得るには、アニオン成分中のフッ素成分の割合を高めざるを得ず、酸素成分量が相対的に減少する。その結果、モル比O/Pが小さくなる。アッベ数νdが70を超えるガラスでは、モル比O/Pの減少が顕著になるため、ガラスの揮発性、侵蝕性も顕著になる。このようなガラスの製造に本発明を適用することにより、ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制することができる。したがって、本発明の方法は、アッベ数νdが70を超えるフツリン酸ガラス(以下、フツリン酸ガラスIという。)の製造に好適であり、アッベ数νdが75を超えるフツリン酸ガラスの製造により好適であり、アッベ数νdが78を超えるフツリン酸ガラスの製造にさらに好適であり、アッベ数νdが80を超えるフツリン酸ガラスの製造に一層好適である。
これらガラスを製造するには、アッベ数νdが70を超えるように、あるいは、75を超えるように、あるいは78を超えるように、または80を超えるように、未ガラス化原料を調合すればよい。
【0045】
フツリン酸ガラスIの中で好ましいガラスは、カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超えるガラス(フツリン酸ガラスI−aという。)である。
カチオン成分として含まれる希土類元素の含有量が過剰になるとガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。特に、屈折率ndが1.53を超えるガラスで希土類元素の合計含有量が5カチオン%以上になると、ガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。本発明はモル比O2−/P5+を3.5以上にすることで、ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制しているが、熔解温度、液相温度、成形温度の上昇を抑制することはガラスの揮発性、侵蝕性をより一層抑制する上で有効である。また、液相温度が高いガラスで、流出温度や成形温度を低下しようとすると、流出時や成形時のガラスの粘性が高くなり、熔融ガラスから熔融ガラス塊や熔融ガラス滴を分離することが難しくなったり、成形が難しくなる。こうした理由から、上記希土類元素の合計含有量を5カチオン%未満とすることが好ましく、4カチオン%以下とすることがより好ましく、3カチオン%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
なお、ガラスを着色させず、熱的安定性を大幅に低下させないで屈折率を高めることができるという点から、フツリン酸ガラスI−aにおいて、希土類元素を導入する場合は、Y、La、Gd、Ybのいずれか1種以上を導入することが好ましい。すなわち、Y3+、La3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。中でもYは熱的安定性を維持しつつ、屈折率を高める効果に優れることから、Y3+の含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。
【0047】
また、フツリン酸ガラスIにおいて、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2以上になると、酸素含有量が相対的に低下し、モル比O2−/Fが減少してガラスの揮発性、侵蝕性が高まりやすくなる。本発明によれば、こうしたガラスでもモル比O2−/Fを3.5以上にすることにより、ガラスの揮発性、侵蝕性が抑制され、希土類元素の含有量を上記のように制限したこととあいまって、諸特性のばらつきが抑制された高品質のプリフォームからなるプリフォームロットを提供することができる。

なお、フツリン酸ガラスI−aは屈折率ndが1.53を超え、フツリン酸ガラスとしては高屈折率のガラスであるため、フツリン酸ガラスI−aからなるプリフォームを使用することにより、同じ焦点距離を有するレンズでも光学機能面の曲率半径の絶対値を大きくすることができ、精密プレス成形性を向上させることができるほか、高屈折率ガラスを使用することで、光学素子の高機能化、小型化や、光学素子を組み込んだ光学系のコンパクト化に有利となる。こうした観点から、フツリン酸ガラスI−aとして、屈折率ndが1.54以上のガラスが好ましく、屈折率ndが1.55以上のガラスがより好ましい。
【0048】
さらに本発明の製造方法が好適なガラスとして、カチオン%表示で、
5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計量が10%以上、
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In2+ 0〜20%、
を含有するとともに、アニオン%表示で、
20〜95%、
2− 5〜80%
を含有するフツリン酸ガラス(以下、フツリン酸ガラスIIという。)を示すことができる。
【0049】
フツリン酸ガラスIIを製造するには、上記範囲で組成を定め、前記組成のガラスが得られるように未ガラス化原料を調合すればよい。

以下、特記しない限り、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%で表示し、アニオン成分の含有量はアニオン%で表示するものとする。
フツリン酸ガラスIIにおいて、P5+ はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な成分であり3%未満ではガラスが極端に不安定になる。また、50%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3〜50%の範囲にすることが好ましい。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になる。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。各成分の好ましい含有量は、Mg2+は0〜10%、Ca2+は0〜30%、Sr2+は0〜30%、Ba2+は0〜40%である。
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの量を0〜30%、Naの量を0〜20%、Kの量を0〜20%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、2%以上導入することが特に好ましい。
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましい。
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜10%にすることが好ましく、0〜5%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、導入しないことが特に好ましい。
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。フツリン酸ガラスIIにおいて、FとO2−が主要アニオン成分である。所要の光学特性と優れたガラス安定性を実現する上から、Fを20〜95%、O2−を5〜80%導入することが好ましい。
また、Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜3%とすることが好ましく、0.1〜3%とすることがより好ましい。
なお、発明の目的を達成する上から、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
【0050】
なお、フツリン酸ガラスIかつフツリン酸ガラスIIであるガラスも本発明の製造方法が好適なガラスである。
なお、フツリン酸ガラスI、IIは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、外割り添加でCu2+を0.5〜13%添加したガラス(フツリン酸ガラスIIIという。)も本発明の製造対象として好適である。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルタ材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
【0051】
フツリン酸ガラスI〜IIIをはじめとするフツリン酸ガラスに、Cl、Br、Iを、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する容器やフィーダー等の白金製物品、白金合金製物品、金製物品、金合金製物品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなり、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜3%とすることが好ましく、0.1〜3%とすることがより好ましい。
なお、発明の目的を達成する上から、上記いずれのガラスにおいても、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
ガラス原料の加熱、熔融は、窒素ガス等の不活性ガスや乾燥ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。このような雰囲気で熔融することにより、ガラスの品質を一層高めることができる。
本発明によれば、ガラスの侵蝕性を抑制することができるので、ラフメルト、本熔解ともにガラスに溶け込みにくい白金、白金合金、金、金合金のいずれかの材料からなる熔融容器を用いても、異物としてこれら材料が混入することを防止することができ、また、これら材料が溶け込むことによるガラスの着色も防止することができる。
【0052】
次に、本熔解で得た熔融ガラスを流出、成形する際の成形方法について説明する。
【0053】
第1の方法は、流出する熔融ガラスを鋳型に鋳込み、成形する方法である。鋳型に鋳込んで成形する方法自体は公知の方法を用いることができる。
【0054】
この方法で得たガラス成形体をアニールして歪を低減した後、切断、割断などの分割加工、研削、研磨加工を施すことによりプレス成形用ガラス素材を作製することもできるし、前記ガラス成形体を分割加工、研削、研磨加工して球面レンズやプリズムなどの光学素子を製造することもできる。
【0055】
第2の方法は、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊を浮上させながら冷却、固化する過程で成形する方法である。この方法は、精密プレス成形用プリフォームの成形などに好適である。例えば、プリフォーム1個分に相当する熔融ガラス塊を分離する。分離方法としては、フィーダーから熔融ガラス滴を滴下する方法、フィーダーから流出する熔融ガラス流の下端を支持体で支持し、表面張力によって熔融ガラス流にくびれを形成し、支持体を降下したり、支持を取り除くことにより、前記くびれよりも下の熔融ガラスを熔融ガラス塊として分離する方法などがある。熔融ガラス塊は成形型上で浮上状態で冷却、固化する過程でプレス成形用ガラス素材などのガラス成形体に成形される。
【0056】
熔融ガラス塊を浮上状態で成形することにより、ガラス表面に成形型との接触による急冷で生じるシワの発生を防止することができる。このようにして表面が滑らかなガラス成形体を得ることができる。
【0057】
前述の各方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、このガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形して光学素子ブランクを製造することもできる。光学素子ブランクは光学素子の形状に近似する形状を有する中間製品であり、研削、研磨を施すことにより光学素子に仕上げられる。
【0058】
光学素子ブランクは、以下の方法によっても製造することができる。前記本発明の方法により熔融ガラスを作製して流出し、熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊をプレス成形して光学素子ブランクを製造する。
【0059】
上記プレス成形は公知の方法を用いることができる。
【0060】
前記各方法により光学素子ブランクを作製し、前記ブランクを研削、研磨して光学素子を製造することもできる。
【0061】
さらに上記各方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱し、精密プレス成形して光学素子を製造することもできる。
【0062】
光学素子ブランクを研削、研磨して光学素子を製造する方法は、研磨加工が比較的容易な球面レンズ、プリズムなどの製造に好適であるのに対し、精密プレス成形して光学素子を製造する方法は、非球面レンズ、マイクロレンズ、回折格子付き光学素子などの製造に好適である。
【0063】
こうして得られる光学素子には反射防止膜などをコーティングしてもよい。
【0064】
また、前述のようにフツリン酸ガラスにCuを添加することにより作製した近赤外線吸収ガラスを用いれば、CCD、CMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正用フィルター機能を有する光学素子も製造することができる。
【0065】
以上の各方法によれば、屈折率などの光学特性のばらつきが極めて小さい、高品質のフツリン酸ガラスからなる光学素子を効率よく生産することができる。
【0066】
このようなメリットを享受する上から、上記各方法によりプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子を量産することが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例は、上記説明に基づき本発明の全範囲に拡張、一般化することができる。
(実施例1)
表1−1〜表1−6に、目的とするフツリン酸ガラスNo.1〜No.59の組成、特性を示すとともに、各ガラスのP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+と、FとO2−の合計含有量に対するFの含有量の比(F/(F+O2−))を併記する。
[バッチ原料の調合]
このようなガラスを熔融するためのカレット原料を次のようにして作製した。
【0068】
フツリン酸ガラスNo.1〜No.59の各ガラスについて、目的とする屈折率よりも僅かに高い屈折率を有するカレット原料Aと僅かに低い屈折率を有するカレット原料Bを作製する。
【0069】
まず、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合して、未ガラス化原料あるいはバッチ原料と呼ばれる粉体状のガラス原料を調合する。
【0070】
なお、カレット原料Aを作るための未ガラス化原料の調合では、表1−1〜表1−6に示すガラス組成を基準とし、フッ素導入量、すなわち、フッ素成分量を減らし、カレット原料Bを作るための未ガラス化原料の調合では、表1−1〜表1−6に示すガラス組成を基準とし、フッ素導入量、すなわち、フッ素成分量を増やした。
[粗熔融(ラフメルト)によるカレット原料の作製]
このようにして得たカレット原料Aを得るための未ガラス化原料を白金もしくは白金合金製のルツボに導入し、900℃で1時間程度、加熱、熔融(粗熔融またはラフメルトという。)し、得られた熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラスブロックを成形し、アニールした後、屈折率ndを測定した。屈折率ndの測定値をαとする。屈折率測定後、得られたガラスブロックを粉砕し、カレット原料Aを得た。
【0071】
同様にしてカレット原料Bを得るための未ガラス化原料を熔融、成形、アニールした後、屈折率ndを測定した。屈折率ndの測定値をβとする。屈折率測定後、得られたガラスブロックを粉砕し、カレット原料Bを得た。
【0072】
なお、上記2種類のガラスブロックの内部を観察したところ、白金粒子などの異物は認められなかった。
[カレット原料の調合と本熔融]
αとβの相加平均が目的とするガラスの屈折率だったので、カレット原料Aとカレット原料Bを等重量、秤量し、十分混合して調合原料とした。
【0073】
次に、上記ガラス化した調合原料を白金もしくは白金合金製のルツボに導入し、900℃で1〜3時間、加熱、熔融(本熔融という。)した後、清澄、攪拌、均質化し、得られた熔融ガラスを流出、成形してフツリン酸ガラスNo.1〜No.59の各光学ガラスを作製した。
【0074】
得られた各ガラスとも脈理や異物は認められず、光学的に均質であった。
【0075】
なお、粗熔融、本熔融とも、ガラス原料中に含まれるリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pは3.5以上になるように原料調合がなされている。
【0076】
なお、上記酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOガス、NOガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。
未ガラス化原料が、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を含む場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物は未ガラス化原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、未ガラス化原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素原子の量から除外する。
【0077】
なお、ガラスの熔融、清澄、均質化において、雰囲気の交換は行っていない。
【0078】
このようにして得た59種のフツリン酸ガラス、すなわち、フツリン酸ガラスNo.1〜No.59のガラスにはいずも脈理は認められなかった。
【0079】
フツリン酸ガラスNo.1〜No.59の各ガラスは、表1−1〜表1−6に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比(O2−/P5+)が3.5になっている。各ガラスともモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することによって、揮発性および反応性が大幅に低減され、所望の光学特性、熱的特性を有する光学ガラスとなっている。
【0080】
本熔融、清澄、均質化して得た熔融ガラスを成形して得たフツリン酸ガラスNo.1〜No.59の各ガラスを徐冷降温速度−30℃/時で25℃まで冷却し、屈折率ndを測定した。こうして得られた屈折率ndを表1−1〜表1−6中にnd(1)として示す。次に、前記各ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、徐冷降温速度−30℃/時で25℃まで冷却した後の屈折率ndを測定した。得られた屈折率ndの値を表1−1〜表1−6にnd(2)として示す。表1−1〜表1−6には、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)とその絶対値を示す。
【0081】
表1−1〜表1−6に掲載する屈折率nd以外の特性は、以下のようにして測定した。
(1)アッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られたガラスの屈折率を測定し、測定値から算出した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)ガラス中の金属製異物の数
光学顕微鏡でガラス内部を100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の異物をカウントし、異物の数と観察エリアの体積から単位体積中の異物の数を算出した。
【0082】
なお、上記フツリン酸ガラスNo.1〜No.59に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよく、得られる近赤外線吸収ガラスには脈理、金属製異物は認められなかった。
【0083】
また、図1に示すようにモル比O2−/P5+が3.4、3.3、3.2、3.1、3.0の5種類のフツリン酸ガラスを作製し、nd(1)、nd(2)、ガラス中の粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。その結果、いずれのガラスもnd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300を超え、金属粒子の数密度も増大した。また、これらのガラスにはいずれも脈理が認められた。
【0084】
【表1−1】

【0085】
【表1−2】

【0086】
【表1−3】

【0087】
【表1−4】

【0088】
【表1−5】

【0089】
【表1−6】

(実施例2)
次に、カレット原料Aを作るための未ガラス化原料を白金もしくは白金合金製のルツボに導入し、加熱、熔融し、得られた熔融ガラスをパイプから流出させ、水中に流し込んで急冷、固化させた後、乾燥させる。こうして得られるガラスは実施例1のように砕かなくても粒状になっているので、カレット原料として使用することができる。
【0090】
このようにしてカレット原料Aを作製するが、本実施例では、熔融ガラスの反応性が抑制されているので、熔融ガラスを水中に導入してもガラスと水の激しい反応を抑えることができ、激しい反応による刺激性ガスの発生も防ぐことができる。
【0091】
同様にしてカレット原料Bを作るための未ガラス化原料を熔融し、水中に滴下してカレット原料Bを作製した。
【0092】
カレット原料A、Bの屈折率については、屈折率測定用試料として、得られた熔融ガラスの一部を鋳型に鋳込んで成形し、アニールした後、測定すればよい。
【0093】
実施例1と同様、αとβの相加平均が目的とするガラスの屈折率だったので、カレット原料Aとカレット原料Bを等重量、秤量し、十分混合して調合原料とした。
【0094】
次に、上記ガラス化した調合原料を白金もしくは白金合金製のルツボに導入し、加熱、熔融した後、清澄、攪拌、均質化し、得られた熔融ガラスを流出、成形してフツリン酸ガラスNo.1〜No.59の各光学ガラスを作製した。
【0095】
得られた各ガラスとも脈理や異物は認められず、光学的に均質であった。
【0096】
得られた各ガラスの特性を測定したところ、実施例1で得た結果を同じ結果が得られた。
(実施例3)
次に、実施例1および実施例2において得られる清澄、均質化した熔融ガラスを流出して鋳型に連続して鋳込みながら、鋳型側面に設けたガラス取り出し口から水平方向に成形したガラス成形体を連続的に取り出し、連続式アニール炉内を通過させ、−30℃/時の条件でアニールし、炉内から出たガラス成形体の先端部分を所望の長さに切断して、ガラス板を次々に作製した。
【0097】
こうして得たガラス板を賽の目状に切断してカットピースと呼ばれるガラス片を複数作製し、カットピースを研削、研磨して多数個の精密プレス成形用ガラス素材を作製した。
【0098】
なお、上記工程の最初に得たガラス板、途中で得たガラス板、最後に得たガラス板から屈折率測定用の試料を作製し、屈折率ndを測定し、屈折率公差を算出したところ、その結果は±0.00020以内であった。
【0099】
従来の方法では、屈折率ndの公差が±0.00500程度であったのに対し、本発明によれば、フツリン酸ガラスの屈折率変動を極めて小さくすることができる。
(実施例4)
実施例3で作製したカットピースをバレル研磨し、多数個のプレス成形用ガラス素材を作製した。
(実施例5)
次に、実施例1および実施例2において得られる清澄、均質化した熔融ガラスを流出し、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を次々に分離し、得られたガラス塊を順次、浮上させながら精密プレス成形用ガラス素材に成形し、多数個のガラス素材を得た。
【0100】
熔融ガラス塊の分離は、流出する熔融ガラスの下端を成形型で支持し、フィーダーと成形型の間で熔融ガラスにくびれを形成し、成形型を急降下することによりガラスの表面張力で前記くびれから下の熔融ガラスを熔融ガラス塊として分離する。分離した熔融ガラス塊は上記成形型上で成形型から噴出するガスにより上向きの風圧を受けて浮上状態で精密プレス成形用ガラス素材に成形される。
【0101】
最初に得たガラス素材、量産の途中で得たガラス素材、最後に得たガラス素材の屈折率ndを屈折率測定法Aにより測定し、屈折率公差を算出したところ、その結果は±0.00020以内であった。
【0102】
従来の方法では、屈折率ndの公差が±0.00500程度であったのに対し、本発明によれば、フツリン酸ガラスの屈折率変動を極めて小さくすることができる。
(実施例6)
次に、実施例1および実施例2おいて得られる清澄、均質化した熔融ガラスを流出し、流出する熔融ガラスをプレス成形型を構成する下型の成形面上で受け、フィーダーと下型成形面の間の所望に位置でシアと呼ばれる切断刃を用いて切断し、下型成形面上に熔融ガラス塊を得る。次いで、熔融ガラス塊を載せた下型をフィーダーの下方からプレス成形型を構成する上型が上方で待機する位置に移動し、上型を下降して上下型で熔融ガラス塊をプレス成形し、成形品をアニールして、レンズ形状に近似する形状の光学素子ブランクを作製した。
(実施例7)
実施例4で作製したプレス成形用ガラス素材の表面に粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布し、加熱、軟化した後、プレス成形型内に導入し、プレス成形し、成形品をアニールしてレンズ形状に近似する形状の光学素子ブランクを作製した。
(実施例8)
実施例6および実施例7で作製した光学素子ブランクの表面を研削、研磨して両凸レンズ、平凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凹レンズなどの各種球面レンズを作製した。
【0103】
こうして得た光学素子の内部には脈理や、白金粒子、金粒子などの異物は認められなかった。なお、光学素子の光学機能面には必要に応じて反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
(実施例9)
次に、実施例3で作製したガラス板を切断、研削、研磨して両凸レンズ、平凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凹レンズなどの各種球面レンズやプリズムを作製した。
【0104】
こうして得た光学素子の内部には脈理や、白金粒子、金粒子などの異物は認められなかった。なお、光学素子の光学機能面には必要に応じて反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
(実施例10)
次に各フツリン酸ガラスにCuを添加した近赤外線吸収ガラスからなるガラス板を実施例3と同様にして作製し、ガラス板をスライスして薄板化し、この薄板の所望の大きさにカットし、対向する一対の主表面を研削、研磨してCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色感度を補正するフィルターを作製した。
【0105】
こうして得たフィルターの内部には脈理や、白金粒子、金粒子などの異物は認められなかった。なお、フィルター表面には必要に応じて反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
(実施例11)
次に、実施例3および実施例5で作製した精密プレス成形用ガラス素材を精密プレス成形して各種光学素子を作製した。
【0106】
具体的には、図2に示すように、実施例8および実施例10で作製した精密プレス成形用ガラス素材(プリフォーム4)4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで冷却してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。
【0107】
このようにして、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作製した。
【0108】
なお図2において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型・胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
【0109】
このようにして得られた光学素子には脈理などの光学的に不均質な部分は認められず、白金粒子や金粒子などの異物も認められなかった。
【0110】
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
【0111】
なお、本実施例で得られた光学素子の光学機能面に反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
(実施例12)
次に、実施例11において、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱し、一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形し、プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得るという点を除き、実施例11と同様にしてコート済み非球面レンズを量産した。得られた各非球面レンズは、屈折率のばらつきがなく、極めて高い面精度を有するものであった。
【0112】
本実施例でも実施例と同様、プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作ることができる。
【0113】
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
【0114】
なお、本実施例で得られた光学素子の光学機能面に反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】フツリン酸ガラスのモル比O2−/P5+、nd(2)−nd(1)の絶対値、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例で用いた精密プレス成形装置の概略図である。
【符号の説明】
【0116】
1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型・胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素、酸素、リンを含む未ガラス化原料を熔融、ガラス化して、カレット原料を作製するカレット原料の製造方法において、
未ガラス化原料中のリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pを3.5以上にして熔融、ガラス化し、フツリン酸ガラスを熔融するためのカレット原料を作製することを特徴とするカレット原料の製造方法。
【請求項2】
未ガラス化原料を熔融して得た熔融ガラスを液体に導入して、冷却する請求項1に記載のカレット原料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により複数のカレット原料を作製し、前記複数のカレット原料を調合し、熔融するフツリン酸ガラスの製造方法。
【請求項4】
流出する熔融ガラスを鋳型に鋳込み、成形する請求項3に記載のフツリン酸ガラスの製造方法。
【請求項5】
流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊を浮上させながら冷却、固化する過程で成形する請求項3に記載のフツリン酸ガラスの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法によりフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製し、前記ガラス成形体を加工してプレス成形用ガラス素材を作製するプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製するプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形する光学素子ブランクの製造方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法により熔融ガラスを作製して流出し、熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊をプレス成形する光学素子ブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法により光学素子ブランクを作製し、前記ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項6または7に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱し、精密プレス成形する光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項3または4に記載の方法によりフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製し、前記ガラス成形体を加工して光学素子を作製する光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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