説明

カレンダー加工用樹脂組成物及びそれを用いた樹脂フィルム

【課題】十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることが可能であって、優れた成形加工性を有するカレンダー加工用樹脂組成物、並びにそれを用いた樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】温度175℃における溶融粘度が6000〜25000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第1の非結晶性ポリエステル(a1)25〜75質量%及び温度175℃における溶融粘度が35000〜85000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第2の非結晶性ポリエステル(a2)75〜25質量%からなる非結晶性ポリエステル組成物(A)と、温度175℃における溶融粘度が5000〜40000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が300%以上である軟質ポリエステル(B)と、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体である脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、滑剤(D)とを含有しており、
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、40/60〜90/10の範囲内にあり、且つ、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対する、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が3〜15質量部の範囲内にあり、前記滑剤(D)の含有量が0.1〜4質量部の範囲内にあることを特徴とするカレンダー加工用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カレンダー加工用樹脂組成物及びそれを用いた樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂フィルム(又はシート)は、食品や医薬品等の包装材、建築や家電等の積層用シート等の用途において、ポリ塩化ビニルフィルムに変わって使用されるようになりつつある。このような用途に使用されているポリエステル樹脂フィルムは、従来から一般的に押出成形法や射出成形法により成形されているが、これらの成形方法は生産効率が劣るという問題があった。そこで、これらの成形方法に代えて、一般的にポリ塩化ビニル等のフィルム成形方法として用いられているカレンダー加工法を用いることが検討されていた。このようなカレンダー加工法は、溶融樹脂を加熱した金属ロールで圧延して所望の厚さのフィルムに成形する方法であり、連続フィルムの成形に適しており、生産性の点で優れた方法である。そして、このようなカレンダー加工法を採用する場合、材料として、通常のポリエステルよりも加工性に優れる非結晶性ポリエステルが用いられていた。
【0003】
しかしながら、樹脂成分として非結晶性ポリエステルを単独で用いた場合、ポリ塩化ビニルのように可塑剤の添加で硬度調節可能なものと異なり、硬度の調節が困難であり、ステッカー等の用途に適した半硬質のフィルムを得ることが困難であった。また、樹脂成分として非結晶性ポリエステルを単独で用いて形成されたフィルムでは、耐熱ブロッキング性が不十分であり、経時により伸びが著しく低下するという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、例えば、特開2004−238534号公報(特許文献1)には、非結晶性ポリエステルを主成分とする樹脂100質量部に対し、オレフィン系ワックスと、脂肪酸エステルと、脂肪酸エステルのカルシウム塩と、を含有する滑剤0.1〜4質量部を配合してなる非結晶性ポリエステル樹脂組成物であって、前記オレフィン系ワックスの配合量が0.01〜1質量部であり、前記脂肪酸エステルの配合量が0.01〜0.5質量部であり、前記脂肪酸エステルのカルシウム塩の配合量が0.01〜2.5質量部である非結晶性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。また、特開2005−298660号公報(特許文献2)には、非結晶性ポリエステルと、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と、アクリル系樹脂と、からなる樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂が、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体であるフィルム用樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献等に記載のような樹脂組成物はカレンダー加工における成形加工性の点で未だ必ずしも十分なものでなく、また、このような樹脂組成物を用いて得られる樹脂フィルムは硬度及び透明性の点で未だ十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2004−238534号公報
【特許文献2】特開2005−298660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることが可能であって、優れた成形加工性を有するカレンダー加工用樹脂組成物、並びにそれを用いた樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の非結晶性ポリエステルの組み合わせからなる非結晶性ポリエステル組成物(A)と、軟質ポリエステル(B)と、脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、及び滑剤(D)とをそれぞれ特定の比率で含有している樹脂組成物によれば、カレンダー加工における優れた成形加工性を達成することができ、しかも十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物は、温度175℃における溶融粘度が6000〜25000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第1の非結晶性ポリエステル(a1)25〜75質量%及び温度175℃における溶融粘度が35000〜85000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第2の非結晶性ポリエステル(a2)75〜25質量%からなる非結晶性ポリエステル組成物(A)と、温度175℃における溶融粘度が5000〜40000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が300%以上である軟質ポリエステル(B)と、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体である脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、滑剤(D)とを含有しており、
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、40/60〜90/10の範囲内にあり、且つ、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対する、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が3〜15質量部の範囲内にあり、前記滑剤(D)の含有量が0.1〜4質量部の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物においては、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)が、前記第1の非結晶性ポリエステル(a1)33〜50質量%、及び前記第2の非結晶性ポリエステル(a2)67〜50質量%からなるものであることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物においては、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、50/50〜90/10の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
また、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物においては、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、3〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
本発明の樹脂フィルムは、前記樹脂組成物をカレンダー加工してなることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本明細書において、「フィルム」とはシート及びフィルムを含むものである。また、「カレンダー加工」とは、例えば、前記樹脂組成物をカレンダー加工機により混練しフィルム状又はシート状に加工することをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることが可能であって、優れた成形加工性を有するカレンダー加工用樹脂組成物、並びにそれを用いた樹脂フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物について説明する。すなわち、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物は、温度175℃における溶融粘度が6000〜25000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第1の非結晶性ポリエステル(a1)25〜75質量%及び温度175℃における溶融粘度が35000〜85000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第2の非結晶性ポリエステル(a2)75〜25質量%からなる非結晶性ポリエステル組成物(A)と、温度175℃における溶融粘度が5000〜40000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が300%以上である軟質ポリエステル(B)と、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体である脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、滑剤(D)とを含有しており、
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、40/60〜90/10の範囲内にあり、且つ、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対する、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が3〜15質量部の範囲内にあり、前記滑剤(D)の含有量が0.1〜4質量部の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0017】
本発明にかかる非結晶性ポリエステル組成物(A)は、以下説明する第1の非結晶性ポリエステル(a1)、及び第2の非結晶性ポリエステル(a2)からなるものである。また、本発明にかかる第1の非結晶性ポリエステル(a1)とは、温度175℃における溶融粘度が6000〜25000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である非結晶性のポリエステルのことをいう。また、本発明にかかる第2の非結晶性ポリエステル(a2)とは、温度175℃における溶融粘度が35000〜85000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である非結晶性のポリエステルのことをいう。そして、このような非結晶性のポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸100モル%からなるジカルボン酸成分と、エチレングリコール60〜80モル%及び1,4シクロヘキサンジメタノール40〜20モル%とからなるジオール成分との共重合体が挙げられる。なお、本明細書において溶融粘度とは、試料樹脂を所定の温度で溶融した際の粘度をJIS K−7210に記載された方法に準拠した方法により、フローテスタ(SHIMADZU社製、製品名「FLOWTESTER CFT−100」)にて測定した値のことをいう。また、本明細書において破断点伸度とは、特定のポリエステルのみを材料として試料フィルムを作製し、その試料フィルムの破断点伸度をJIS K−7161に記載された方法に準拠した方法により測定した値のことをいう。すなわち、特定のポリエステルのみを材料として、所定の厚み及び大きさ(厚み:0.1mm、幅:20mm、長さ:150mm)の試料フィルムを作製し、その試料フィルムの破断点伸度を引張試験機を用いて、引張速度が300mm/minの条件で測定した値のことをいう。
【0018】
また、前記第1の非結晶性ポリエステル(a1)としては、市販されているものを用いることができ、例えば、イーストマンケミカル社製の「CADENCE GS−2」、東洋紡社製の「FN305」が挙げられる。さらに、前記第2の非結晶性ポリエステル(a2)としては、市販されているものを用いることができ、例えば、イーストマンケミカル社製の「CADENCE GS−3」、東洋紡社製の「FN305BX−14」が挙げられる。
【0019】
本発明にかかる非結晶性ポリエステル組成物(A)においては、前記第1の非結晶性ポリエステル(a1)と前記第2の非結晶性ポリエステル(a2)との質量比〔第1の非結晶性ポリエステル(a1)の質量/第2の非結晶性ポリエステル(a2)の質量〕が、25/75〜75/25の範囲内にあることが必要である。質量比が25/75未満では、溶融粘度が高過ぎるために、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性が悪くなり、他方、75/25を超えると、溶融張力が低くなるために、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性が悪くなる。また、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性と得られる樹脂フィルムの硬度及び透明性とのバランスという観点から、前記第1の非結晶性ポリエステル(a1)と前記第2の非結晶性ポリエステル(a2)との質量比〔第1の非結晶性ポリエステル(a1)の質量/第2の非結晶性ポリエステル(a2)の質量〕は、33/67〜50/50の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明にかかる軟質ポリエステル(B)は、温度175℃における溶融粘度が5000〜40000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が300%以上であるポリエステルのことをいう。また、このような軟質ポリエステル(B)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするものであり、全ジオール成分中にエチレングリコールが60モル%以上(好ましくは、70モル%以上)含有されているジオール成分との共重合体が挙げられる。さらに、このような軟質ポリエステル(B)としては、市販されているものを用いることができ、例えば、ベルポリエステルプロダクツ社製の「FLX−92」が挙げられる。
【0021】
本発明のカレンダー加工用樹脂組成物においては、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、40/60〜90/10の範囲内にあることが必要である。質量比が40/60未満では、ロールへの粘着が過度となるために、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性が悪くなり、他方、90/10を超えると、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性が悪くなると共に、得られる樹脂フィルムの硬度が不十分となる。また、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性と得られる樹脂フィルムの硬度及び透明性とのバランスという観点から、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕は、50/50〜90/10の範囲内にあることが好ましく、60/40〜80/20の範囲内にあることがより好ましい。
【0022】
本発明にかかる脂肪族芳香族ポリエステル(C)は、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体であるポリブチレンアジペート・テレフタレート(PBAT)である。また、このような脂肪族芳香族ポリエステル(C)は、テレフタル酸50〜60モル%及びアジピン酸50〜40モル%からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオール100モル%とからなるジオール成分との共重合体であることが好ましい。さらに、このような脂肪族芳香族ポリエステル(C)としては、市販されているものを用いることができ、例えば、BASFジャパン社製の「ECOFLEX」、イーストマンケミカル社製の「Eastar Bio」が挙げられる。
【0023】
また、このような脂肪族芳香族ポリエステル(C)の温度175℃における溶融粘度は、4000〜8000の範囲内にあることが好ましい。さらに、このような脂肪族芳香族ポリエステル(C)の破断点伸度は、500%以上であることが好ましい。
【0024】
また、このような脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量は、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、3〜15質量部の範囲内にあることが必要である。含有量が3質量部未満では、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性が悪くなり、他方、15質量部を超えると、得られる樹脂フィルムの透明性が不十分となる。また、得られる樹脂組成物のカレンダー加工における成形加工性と得られる樹脂フィルムの硬度及び透明性とのバランスという観点から、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量は、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、3〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる滑剤(D)としては、例えば、オレフィン系ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸エステルのカルシウム塩が挙げられる。これらの滑剤(D)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
また、このような滑剤(D)の含有量は、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜4質量部の範囲内にあることが必要である。含有量が0.1質量部未満では、滑性が不十分であるため、ロールへの粘着が過度となり、他方、4質量部を超えると、得られる樹脂フィルムにおいてブリードや透明性阻害の要因となる。
【0027】
さらに、このような滑剤(D)は、樹脂フィルムに成形した場合の印刷適性を良好なものに保ちつつ、カレンダー加工における加工成形性を向上させるという観点から、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、前記オレフィン系ワックス0.01〜1質量部と、前記脂肪酸エステル0.01〜0.5質量部と、前記脂肪酸エステルのカルシウム塩0.01〜2.5質量部とを含むものであることが好ましい。
【0028】
また、前記オレフィン系ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブチレンワックス等が挙げられるが、ロール滑性等のカレンダー加工性を良好なものとする観点から、数平均分子量が50,000以下のポリオレフィンワックスであることが好ましく、数平均分子量が30,000以下のポリオレフィンワックスであることがより好ましい。また、これらのポリオレフィンワックスの中でも、酸化等の方法によって分子中にカルボン酸基、水酸基を含有させたり、マレイン酸やエポキシ基含有化合物等を反応させて不飽和基を含有させたりした変性ポリオレフィンワックスが好ましく、JIS K−5902に記載された測定法による酸価が10以上であるものがより好ましい。これらのオレフィン系ワックスを用いることにより、カレンダー加工時のロール滑性が向上する傾向にある。これらのオレフィン系ワックスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
前記脂肪酸エステルとしては、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステルからなる合成ワックス、又は天然ワックス等が挙げられる。このような脂肪酸は炭素数20〜30の飽和脂肪酸であることが好ましく、例えば、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸の中でもモンタン酸であることが好ましい。このような脂肪酸を用いることにより、カレンダー加工時のロール滑性が向上する傾向にある。また、このような脂肪族アルコールは、炭素数2〜35の脂肪族飽和アルコールであることが好ましく、例えば、オクチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。このような脂肪酸及び脂肪族アルコールからなる脂肪酸エステルとしては、例えば、ベヘン酸オクチルエステル、ベヘン酸ステアリルエステル、ベヘン酸ラウリルエステル、セロチン酸セリルエステル、モンタン酸グリコールエステル等の合成ワックス;モンタンワックス、カルナウバワックス、ミツロウ等の天然ワックスが挙げられる。これらの脂肪酸エステルの中でもモンタン酸グリコールエステル、モンタンワックスを用いることが好ましい。これらの脂肪酸エステルを用いることにより、樹脂との混練操作が容易となる傾向にある。これらの脂肪酸エステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
前記脂肪酸エステルのカルシウム塩としては、前記脂肪酸エステルとカルシウムとの塩が挙げられ、前述したような炭素数20〜30の飽和脂肪酸及び炭素数2〜35の脂肪族飽和アルコールからなる脂肪酸エステルとカルシウムとの塩であることが好ましい。本発明においては、中でもモンタン酸グリコールエステルのカルシウム塩を用いることが好ましい。これらの脂肪酸エステルのカルシウム塩を用いることにより、得られる樹脂フィルムの外観や諸物性等を良好なものとすることができると共に、カレンダー加工時のロール滑性が向上する傾向にある。これらの脂肪酸エステルのカルシウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
本発明のカレンダー加工用樹脂組成物は、以上説明したように、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と、前記軟質ポリエステル(B)と、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、前記滑剤(D)とをそれぞれ所定の比率で含有するものである。このような樹脂組成物は、カレンダー加工における成形加工性が優れているだけでなく、このような樹脂組成物をカレンダー加工することにより、十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0032】
本発明のカレンダー加工用樹脂組成物においては、前記各成分(A)〜(D)の他に、必要に応じて、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、加工助剤、シリコーンオイル、染料や顔料等の着色剤、炭酸カルシウム等の充填剤、難燃剤等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。これらの添加剤の含有量としては、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、30質量部以下とすることが好ましい。
【0033】
次に、本発明の樹脂フィルムについて説明する。すなわち、本発明の樹脂フィルムは、前述した本発明のカレンダー加工用樹脂組成物をカレンダー加工してなることを特徴とするものである。
【0034】
このようなカレンダー加工の方法としては、例えば、前記カレンダー加工用樹脂組成物を、カレンダー加工機を用いて混練し、フィルム状又はシート状に加工する方法を採用することができる。なお、前記カレンダー加工用樹脂組成物を予めヘンシェルミキサー等で混合してから、カレンダー加工機を用いて混練及びカレンダー加工を行ってもよい。また、カレンダー加工機としては、2本以上の金属ロールを備えるカレンダー加工機であればよく、適宜公知のものを用いることができる。さらに、このようなカレンダー加工機におけるロール表面温度は、例えば、160〜190℃の範囲とすることが好ましい。
【0035】
また、このようにして得られる本発明の樹脂フィルムの使用方法は特に制限されず、従来のポリエチレンテレフタレートシートや、ポリ塩化ビニルシートと同様、食品や医薬品等の包装材、建築や家電等の積層用シート、ステッカー用のシート等として使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
第1の非結晶性ポリエステルとしてイーストマンケミカル社製の「CADENCE GS−2」〔175℃における溶融粘度:6000mPa・s、破断点伸度(縦方向/横方向):3.7%/3.2%〕を20質量部、第2の非結晶性ポリエステルとしてイーストマンケミカル社製の「CADENCE GS−3」〔175℃における溶融粘度:50000mPa・s、破断点伸度(縦方向/横方向):3.7%/3.2%〕を40質量部、軟質ポリエステルとしてベルポリエステルプロダクツ社製の「FLX−92」〔175℃における溶融粘度:5000mPa・s、破断点伸度(縦方向/横方向):504%/452%〕を40質量部、脂肪族芳香族ポリエステルとしてBASFジャパン社製の「ECOFLEX」(テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体、175℃における溶融粘度:5000mPa・s)を5質量部、並びに滑剤としてアデカ社製のポリエチレン酸化型ワックス0.5質量部、モンタン酸エチレングリコールエステルのカルシウム塩0.5質量部、及びモンタン酸エチレングリコールエステル0.2質量部を配合し、これらをバンバリーミキサーにて温度150℃で10分間溶融及び混練して、カレンダー加工用樹脂組成物を得た。
【0038】
次いで、得られたカレンダー加工用樹脂組成物をカレンダー加工機に投入し、ロール表面温度175℃の条件にてカレンダー加工を行い、厚み0.1mm、幅1200mmの樹脂フィルムを得た。
【0039】
(実施例2)
第1の非結晶性ポリエステル及び第2の非結晶性ポリエステルの配合量をそれぞれ15質量部及び45質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0040】
(実施例3)
脂肪族芳香族ポリエステルの配合量を10質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0041】
(実施例4)
第1の非結晶性ポリエステル、第2の非結晶性ポリエステル及び軟質ポリエステルの配合量をそれぞれ17質量部、33質量部及び50質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0042】
(比較例1)
脂肪族芳香族ポリエステルを用いなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0043】
(比較例2)
第1の非結晶性ポリエステルを用いずに、第2の非結晶性ポリエステル及び軟質ポリエステルの配合量をそれぞれ60質量部及び40質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0044】
(比較例3)
第2の非結晶性ポリエステルを用いずに、第1の非結晶性ポリエステル及び軟質ポリエステルの配合量をそれぞれ60質量部及び40質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0045】
(比較例4)
軟質ポリエステルを用いずに、第1の非結晶性ポリエステル及び第2の非結晶性ポリエステルの配合量をそれぞれ33質量部及び67質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0046】
(比較例5)
第1の非結晶性ポリエステル、第2の非結晶性ポリエステル及び軟質ポリエステルの配合量をそれぞれ10質量部、20質量部及び70質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0047】
(比較例6)
脂肪族芳香族ポリエステルの配合量を20質量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0048】
(比較例7)
第2の非結晶性ポリエステルとしてイーストマンケミカル社製の「CADENCE GS−3」〔175℃における溶融粘度:6000mPa・s、破断点伸度(縦方向/横方向):3.7%/3.2%〕を80質量部、軟質ポリエステルとして東洋紡社製の「GM900」(融点:110〜120℃)を20質量部、脂肪族芳香族ポリエステルとしてBASFジャパン社製の「ECOFLEX」(テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体、175℃における溶融粘度:5000mPa・s)を5質量部、並びに滑剤としてアデカ社製のポリエチレン酸化型ワックス0.5質量部、モンタン酸エチレングリコールエステルのカルシウム塩0.5質量部、及びモンタン酸エチレングリコールエステル0.2質量部を配合し、これらをバンバリーミキサーにて温度150℃で10分間溶融及び混練して、カレンダー加工用樹脂組成物を得た。
【0049】
次いで、得られたカレンダー加工用樹脂組成物をカレンダー加工機に投入し、ロール表面温度175℃の条件にてカレンダー加工を行い、厚み0.1mm、幅1200mmの樹脂フィルムを得た。
【0050】
<カレンダー加工用樹脂組成物の加工性、並びに樹脂フィルムの硬度及び透明性の評価>
(I)評価方法
以下の方法によって、カレンダー加工用樹脂組成物の加工性、並びに樹脂フィルムの硬度及び透明性を評価又は測定した。
【0051】
(i)カレンダー加工用樹脂組成物の加工性
カレンダー加工により樹脂フィルムを形成する際のロールの閉め具合を、ロールの間隔調整のしやすさの観点から評価し、以下の基準に基づいてカレンダー加工用樹脂組成物の加工性を判定した。
○:溶融粘度及び溶融張力が適当であり、フィルム成形が順調に行える。
△:溶融粘度がやや低く又はやや高いために、フィルム成形がやや困難である。
×:溶融粘度もしくは溶融張力が低く又は高いために、フィルム成形が困難である。
【0052】
(ii)樹脂フィルムの硬度
JIS K−7161に記載された方法に準拠して、樹脂フィルムの10%ひずみ時引張応力を測定することにより、樹脂フィルムの硬度を評価した。すなわち、樹脂フィルムを幅20mm、長さ150mmの大きさに切断して試料とした。そして、試料の10%ひずみ時引張応力を引張試験機(ORIENTEC社製、製品名「TENSILON」)を用いて測定し、以下の基準に基づいて樹脂フィルムの硬度を判定した。
○:10%ひずみ時引張応力の値が25MPa未満である。
△:10%ひずみ時引張応力の値が25MPa以上で且つ35MPa未満である。
×:10%ひずみ時引張応力の値が35MPa以上である。
【0053】
(iii)樹脂フィルムの透明性
JIS K−7136に記載された方法に準拠して、樹脂フィルムのヘイズ値を測定することにより、樹脂フィルムの透明性を評価した。すなわち、樹脂フィルムのヘイズ値をヘイズコンピュータ(スガ試験機社製、製品名「HGM−2D」)を用いて測定し、以下の基準に基づいて樹脂フィルムの透明性を判定した。
○:ヘイズ値が5未満である。
△:ヘイズ値が5以上で且つ10未満である。
×:ヘイズ値が10以上である。
【0054】
(II)評価結果
実施例1〜4及び比較例1〜7で得られたカレンダー加工用樹脂組成物の加工性、並びにそれらを用いて得られた樹脂フィルムの硬度及び透明性を評価又は測定した。得られた結果を表2に示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜7におけるカレンダー加工用樹脂組成物の組成を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物(実施例1〜4)は、カレンダー加工性が優れたものであった。また、本発明のカレンダー加工用樹脂組成物を用いて得られた樹脂フィルムは、硬度及び透明性が優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、十分な硬度及び透明性を有する樹脂フィルムを得ることが可能であって、優れた成形加工性を有するカレンダー加工用樹脂組成物、並びにそれを用いた樹脂フィルムを提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度175℃における溶融粘度が6000〜25000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第1の非結晶性ポリエステル(a1)25〜75質量%及び温度175℃における溶融粘度が35000〜85000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が5%以下である第2の非結晶性ポリエステル(a2)75〜25質量%からなる非結晶性ポリエステル組成物(A)と、温度175℃における溶融粘度が5000〜40000mPa・sの範囲内にあり且つ破断点伸度が300%以上である軟質ポリエステル(B)と、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びアジピン酸からなる共重合体である脂肪族芳香族ポリエステル(C)と、滑剤(D)とを含有しており、
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、40/60〜90/10の範囲内にあり、且つ、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対する、前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が3〜15質量部の範囲内にあり、前記滑剤(D)の含有量が0.1〜4質量部の範囲内にあることを特徴とするカレンダー加工用樹脂組成物。
【請求項2】
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)が、前記第1の非結晶性ポリエステル(a1)33〜50質量%、及び前記第2の非結晶性ポリエステル(a2)67〜50質量%からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のカレンダー加工用樹脂組成物。
【請求項3】
前記非結晶性ポリエステル組成物(A)と前記軟質ポリエステル(B)との質量比〔非結晶性ポリエステル組成物(A)の質量/軟質ポリエステル(B)の質量〕が、50/50〜90/10の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のカレンダー加工用樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族芳香族ポリエステル(C)の含有量が、前記非結晶性ポリエステル組成物(A)及び前記軟質ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、3〜10質量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のカレンダー加工用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のカレンダー加工用樹脂組成物をカレンダー加工してなることを特徴とする樹脂フィルム。

【公開番号】特開2009−108214(P2009−108214A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282746(P2007−282746)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】