説明

カロチノイドに富むパプリカ品種

10mg/g乾燥果実重量より高い総カロチノイド含有量を有する果実及び機械的収穫のために好適な分枝パターンを特徴とするパプリカ植物、及びかかるパプリカ植物を作成するための方法及びシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカロチノイドに富むパプリカ品種に関する。特に、本発明は高い果実収量を生産しかつ機械的収穫に適合されたカプシクム・アヌウムのカロチノイドに富む品種に関する。
【背景技術】
【0002】
パプリカ品種は食物着色剤として粉末、含油樹脂及び濃縮物を製造するために商業的に利用されている。これらの製品は通常、カロチノイドに極めて富む。カロチノイドはイソプレノイド化合物であり、広範囲に共役された二重結合系を有する。これらは次の二つの主要なクラスに分けられる;カロチン(非環状(リコピン)及び環状(ベータカロチン))、及びキサントフィル(例えばカプサンチン)である。純粋なポリエン炭化水素であるカロチンとは対照的に、キサントフィルは水酸基、エポキシ基及びケト基も含有する。カロチノイドは、黄色又は赤色を有する一群の色素を形成し、多くの食物及び化粧品に特徴的な色を与える。さらに、疫学的研究は、カロチノイドの頻繁かつ規則的な摂取は、心臓血管病を含む慢性病の危険を減少させ、ガンの予防に有利な効果を有することを示している。カロチノイドのこの保護的な機能は酸化防止剤としてのそれらの作用において、及びベータカロチンの場合はそれらのプロビタミンA活性においての両方で見られる(Journal of the American Dietetic Association,97:991−996(1997)参照)。特に、これらの3種のカロチノイドの混合物は特別な酸化防止特性を有するシステムを示す。従って、カロチノイドはそれらの栄養学的及び医薬的価値のために熱心に探求されている。
【0003】
パプリカのカロチノイドはベータカロチン、ゼアキサンチン、ルテイン、カプサンチン、カプソルビン及びクリプトカプシンを含み、これらは実質的な栄養学的及び医薬的価値を与える。疫学的研究は、パプリカのカロチノイドの如きカロチノイドの頻繁かつ規則的な摂取は、心臓血管病(Kohlmeier L et al.1995,Am,J.Clin.Nutr.62:137−146)又はガン(Murakoshi et al.,1992.Cancer Res.52:6583−6587;Levy et al.1995.Nutr.Cancer 24:257−267;及びTanaka et al.,1994.Carcinogenesis 15:15−19)の如き慢性病の危険を減少させることを示している。
【0004】
多くの公知の商業的なパプリカ品種中の総カロチノイド含有量は、1グラムの乾燥果実重量当たり2〜8ミリグラムである(Govindarajan,1986.Crit.Rev.Food Sci.Nutr.24:245−355;及びMingez−Mosquera et al.1992.J.Agric.Food Chem.40:2384−2388)。対照的に、カロチノイドに富むトマト品種は、1グラムの乾燥果実重量当たり0.15ミリグラム未満のカロチノイドを含む。カロチノイド含有量におけるこれらの実質的な差異は、栄養、栄養医薬及び医薬産業によって使用されるカロチノイドの好ましい源としてのパプリカ作物の高い価値を強調する。
【0005】
本発明を実施に移す際に、本発明者は高いカロチノイド含有量によって特徴付けられるパプリカの新品種を作成した。加えて、これらの品種は高い果実収量を生産しかつ機械的収穫に適合されている。従って、本発明のパプリカ品種は栄養学的及び/又は医薬的カロチノイド及び染色産業で使用されるカロチノイドの価値ある商業的な源を提供する。
【発明の開示】
【0006】
本発明の一側面によれば、10mg/g乾燥果実重量より高い総カロチノイド含有量を有する果実及び機械的収穫のために好適な分枝パターンを特徴とするパプリカ植物、又はその一部分が提供される。
【0007】
本発明の別の側面によれば、本発明のパプリカ植物の種子が提供される。
【0008】
本発明のなお別の側面によれば、本発明のパプリカ植物の再生可能な細胞の組織培養物が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の側面によれば、パプリカ植物又はその一部分を植物育種の材料源として用いる植物育種技術を使用して高カロチノイド含有量を有するパプリカ植物を作成する方法であって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.レハバ及びカプシクム・アヌウム系統4126を育種材料源として利用することを含む方法が提供される。
【0010】
本発明の追加の側面によれば、パプリカ植物又はその一部分を植物育種の材料源として用いる植物育種技術を使用してパプリカ植物を作成する方法であって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.1056(ATCCアクセッション番号:PTA−5147)又はカプシクム・アヌウム cv.1057(ATCCアクセッション番号:PTA−5148)を育種材料源として利用することを含む方法が提供される。
【0011】
本発明のなお追加の側面によれば、育種技術を使用して高カロチノイド含有量を有するパプリカ植物を開発するためのシステムであって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.レハバ及びカプシクム・アヌウム系統4126又は前記パプリカ植物の一部分を育種材料源として含むシステムが提供される。
【0012】
本発明のさらに追加の側面によれば、育種技術を使用してパプリカ植物を開発するためのシステムであって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.1056(ATCCアクセッション番号:PTA−5147)又はカプシクム・アヌウム cv.1057(ATCCアクセッション番号:PTA−5148)を育種材料源として含むシステムが提供される。
【0013】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物の果実は1.5mg/g乾燥果実重量より高いベータカロチン含有量を特徴とする。
【0014】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物の分枝パターンは、主茎から40°を越えない分枝角度及び成熟した植物において地面から少なくとも30cm上の高さに生じる分枝点を特徴とする。
【0015】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は、同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ植物の平均高さを越える平均高さを有することによってさらに特徴付けられる。
【0016】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は、同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ植物の1植物当たりの果実数を越える1植物当たりの果実数を有することによってさらに特徴付けられる。
【0017】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は、同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ植物の乾燥果実収量を越える乾燥果実収量を有することによってさらに特徴付けられる。
【0018】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物はカプシクム・アヌウム cv.1056(その代表的な種子はATCCアクセッション番号:PTA−5147として寄託されている)である。
【0019】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物はカプシクム・アヌウム cv.1057(その代表的な種子はATCCアクセッション番号:PTA―5148として寄託されている)である。
【0020】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は成熟時に、90cmを越える植物高さ、少なくとも11cmの平均果実長さ、少なくとも2.9cmの平均果実幅、少なくとも3.5gの平均果実乾燥重量、少なくとも11.7個の果実の1植物当たりの平均果実数及び少なくとも0.65kg/mの平均果実乾燥重量収量からなる群から選択される少なくとも一つの形質によってさらに特徴付けられる。
【0021】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は成熟時に薄茶色の種子を有することによってさらに特徴付けられる。
【0022】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物は成熟時に薄黄色の種子を有することによってさらに特徴付けられる。
【0023】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物の再生可能な細胞の組織培養物はパプリカ植物の全ての形態的及び生理的特性を発現することができる。
【0024】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、本発明のパプリカ植物の再生可能な細胞の組織培養物は、種子、葉、茎、花粉、根、根端、葯、胚珠、花弁、花、胚、繊維及びさくからなる群から選択される組織の細胞又はプロトプラストから再生される。
【0025】
以下に記述される本発明の好ましい実施態様のなおさらなる特徴によれば、高カロチノイド含有量を有するパプリカ植物を作成する方法は、循環選抜、戻し交雑、系統育種、制限断片長多型増大選抜(restriction fragment length polymorphism enhanced selection)、遺伝子マーカー増大選抜(genetic marker enhanced selection)及び形質転換からなる群から選択される植物育種技術を使用することによって行われる。
【0026】
本発明は、高い果実収量を生産しかつ機械的収穫に適合されたカロチノイドに富むパプリカ品種及びかかるパプリカ品種を作成する方法及びシステムを提供することによって、現在公知の構成の欠点に成功裏に対処する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、例外的に高いカロチノイド含有量によって主に特徴付けられ、加えて、高い果実収量及び機械的収穫のために好適な形態によっても特徴付けられるパプリカ(カプシクム・アヌウム)品種の発明である。
【0028】
本発明の原理および操作は、付随する説明を参照して、より良好に理解することができる。
【0029】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施することができ、または様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであり、従って、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0030】
用語の定義
本明細書において、用語「系統」は、植物に含まれる遺伝的全量(genetic complement)を意味する。
【0031】
本明細書において、表現「育種系統」は、特定の品種を育種するために使用されることができる同型接合体植物系統を意味する。
【0032】
本明細書において、表現「同型接合体植物」は、染色体の両方の組が全ての位置において本質的に同一の対立遺伝子を含む植物を意味する。
【0033】
本明細書において、用語「品種」は、選択的な育種から生じかつ栽培によって維持される特定の系統の植物であって、形態的特性又は特定分子(例えばカロチノイド)の含有量の如きそれを特異的にする特性を有する植物を意味する。
【0034】
本明細書において、表現「十分な成熟」は、果実が濃い赤色になりかつ膨圧の損失を示す成長段階を意味する。
【0035】
パプリカは重要で価値ある農作物である。従って、パプリカの育種の主要な目的は、優れた変種を生じる形質を有する植物を選抜して開発することである。
【0036】
以下の実施例部分で示されるように、本発明者はパプリカ植物を食品、医薬及び染色産業のためのカロチノイドの源として使用するのに特に好適にする形質の組合せによって特徴付けられるパプリカ植物育種系統を作成した。
【0037】
従って、本発明の一側面によれば、10mg/g乾燥果実重量(dfw)より高い総カロチノイド含有量を有する果実及び機械的収穫のために好適な分枝パターンを特徴とするパプリカ植物が提供される。機械的収穫のために好適な分枝パターンは通常、地面から少なくとも30cm上から始まる分枝であって主茎から40°を越えない角度の分枝によって特徴付けられる。かかる分枝パターンを示す植物は、密集した豊富でない葉を作り出し、これは標準的なパプリカ収穫機械の限定された能力に適合する。さらに、果実は茎から容易に分離可能であるべきである。
【0038】
以下の実施例部分の実施例3でさらに示されるように、本発明のパプリカ植物の果実の分析は、総カロチノイド含有量及びベータカロチン含有量が標準的な商業用のパプリカ品種のものより実質的に高いことを明らかにした。本発明のパプリカ植物は公知の商業用の品種より少なくとも60%高い総カロチノイド含有量を示した。加えて、本発明のパプリカ植物は極めて高いベータカロチン含有量(1.5mg/g dfwより高い)を示し、これは商業用のパプリカ品種と比べてこの特定のカロチノイドが少なくとも200%増大していると言い換えられる。
【0039】
上述の通り、及び以下の実施例部分の実施例2に示される通り、本発明のパプリカ植物は機械的収穫のためにも極めて適合されており、これらの品種の商業上の適用性をさらに実証する。従って、成熟した植物は地面から少なくとも30cmの高さでかつ主茎から40°を越えない角度で密集して分枝する。加えて、成熟した果実は植物から容易に分離される。それ故、本発明のパプリカ植物は機械的に収穫されることができ、かくして大規模栽培のために好適である。
【0040】
従って、本発明のパプリカ植物はカロチノイドの源として極めて好適である。植物からカロチノイドを抽出して加工する技術は、例えば米国特許第2412707号、第2917539号、第3206316号、第4400398号、第4680314号、第5382714号、第5648564号、第5310554号、第5962756号及び第6380442号;並びにヨーロッパ特許出願第0242148号に記載されている。
【0041】
抽出されたカロチノイドは栄養学的又は医薬的目的に利用されることができる。例えば、カロチノイドはビタミンA(レチノール)製造の源として使用されており、ガン予防剤としての使用が示唆されている[例えば、Bollag,1979.Cancer Chemother.Pharmacol.3:207−215;Sporn et al.,1981,In:Zedeck et al.,(eds),Inhibition of Tumor Induction and Development,pp.71−100,Plentum Publishing Corp.,New York;Bertram et al.,In:M.S.Arnot et al.,1982(eds.),Molecular Interactions of Nutrition and Cancer,pp.315−335,Raven Press,New York;及び米国特許第5705180号、第6200597号及び第6428816号参照]。加えて、天然カロチノイドの様々な形態が、ヒト又は動物の日常の飲食物における食品及び/又は飼料添加剤として、及び/又は例えばマーガリン及びバターのための着色剤の如き食品及び化粧品の天然着色剤として、少なくとも一世紀の間、使用されている。最近、色安定されたカロチノイド着色剤が開示されている(米国特許第5079016号)。
【0042】
本発明のパプリカ植物は、品種1056及び1057によって例示され、それらの代表的な種子はATCCアクセッション番号:PTA−5147及びPTA−5148としてそれぞれ寄託されている。
【0043】
これらの品種は、以下の実施例部分の実施例1に記述されているように、商業用の品種「レハバ(Lehava)」と育種系統4126を交配することから作成された。簡潔に述べると、育種系統4126は自然発生突然変異体から由来し、この突然変異体は高いカロチノイド含有量を有していたが、低い収量能力を有し、機械的収穫のためには好適でなかった。二つの系統4126とレハバは交配され、自家受粉され、六つの継続する世代にわたって選抜された。その結果、二つの同型接合体系統が選抜され、品種1056及び1057と名付けられた。これらの新しい品種は標準的な農業慣習の下で成熟するまで圃場で生育され、それらの形態的及び化学的特性について商業的な品種(レハバ)と比較して評価された。
【0044】
本発明のパプリカ植物は、標準的な商業的な品種レハバと比較して高い高さ、高い1植物当たりの果実数、及び高い果実収量を含む追加の形態的及び生理的特性も有する。
【0045】
ここに記述するパプリカ植物は、本発明のパプリカ植物の特性を示す追加の品種を作成するために使用されることができる。これらの品種のいずれかを他の植物と交配することから生じた植物は、本発明のパプリカ植物の特性及びいかなる他の望ましい形質を示す追加の品種を作成させるために、系統育種、形質転換及び/又は戻し交雑において利用されることができる。当該技術分野で周知の分子的又は生化学的手順を用いるスクリーニング技術は、求められている重要な商業的な特性が各育種世代において保存されていることを確実にするために使用されることができる。
【0046】
戻し交雑の目的は、循環親系統における単一の形質又は特性を変化又は置換させることである。これを達成するために、循環親系統の単一の遺伝子が非循環系統からの望ましい遺伝子で置換又は補足され、一方、本質的に全ての残りの望ましい遺伝子は保存され、それ故、元の系統の望ましい生理的及び形態的構成を保持する。特定の非循環親の選択は、戻し交雑の目的に依存するであろう。主要な目的の一つは、いくつかの商業的に望ましい農業的に重要な形質を植物に加えることである。正確な戻し交雑のプロトコールは、変化されるべき又は加えられるべき特性又は形質に依存し、好適なテストプロトコールを決定するであろう。移されるべき特性が優性対立遺伝子である場合は戻し交雑方法は単純化されるが、劣性対立遺伝子も移されることができる。この場合、望ましい特性が成功裏に移されたかどうか決定するために子孫のテストを導入することが必要であるかもしれない。同様に、トランス遺伝子(transgene)は、当業者には周知の様々な確立された形質転換方法のいずれを使用しても植物中に導入されることができる。これらの形質転換方法は例えば以下のものである:Gressel.,1985.Biotechnologically Conferring Herbicide Resistance in Crops:The Present Realities,In:Molecular Form and Function of the plant Genome,L van Vloten−Doting,(ed.),Plenum Press,New York;Huftner,S.L.,et al.,1992,Revising Oversight of Genetically Modified Plants,Bio/Technology;Klee,H.,et al.,1989,Plant Gene Vectors and Genetic Transformation:Plant Transformation Systems Based on the use of Agrobacterium tumefaciens,Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants;及びKoncz,C.,et al.1986,Molecular and General Genetics。
【0047】
パプリカ品種1056及び1057をそれらの親系統と比較すると(実施例部分を参照)、これらのパプリカ植物がそれらのそれぞれの親系統よりいくつかの経済的及び農業的に有利な形質を示すことが証明される。特に、高カロチノイド含有量(特に高ベータカロチン含有量)と機械的収穫のために好適な成長パターンとの組合せは、本発明のパプリカ植物を従来の商業的品種から区別する。
【0048】
一旦確立されると、本発明のパプリカ植物は種子から又は代わりに組織培養技術を使用することによって繁殖されることができる。
【0049】
本明細書において、表現「組織培養物」は、パプリカ植物が生成されることができる植物細胞又は植物部分を意味し、これは植物プロトプラスト、植物カリ(cali)、植物クランプ(clump)及び植物中で無傷の植物細胞、又は種子、葉、茎、花粉、根、根端、葯、胚珠、花弁、花、胚、繊維及びさくの如き植物の部分を含む。
【0050】
植物組織培養物の作成技術及び組織培養物から植物を再生する技術は当該技術分野では周知である。かかる技術は、Vasil.,1984.Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants,Vol I,II,III,Laboratory Procedures and Their Applications,Academic Press,New York;Green et al.,1987.Plant Tissue and Cell Culture,Academic Press,New York;Weissbach and Weissbach.1989.Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press;Gelvin et al.,1990,Plant Molecular Biology Manual,Kluwer Academic Publishers;Evans et al.,1983,Handbook of Plant Cell Culture,MacMillian Publishing Company,New York;及びKlee et al.,1987.Ann.Rev.of Plant Phys.38:467−486によって規定されている。
【0051】
組織培養物は、種子、葉、茎、花粉、根、根端、葯、胚珠、花弁、花、胚、繊維及びさくからなる群から選択される組織の細胞又はプロトプラストから作成されることができる。
【0052】
本発明の植物系統は、本発明のパプリカ植物の特性の少なくともいくつかを示す新しい植物系統を作成するために他のパプリカ植物と共に植物育種において使用されることができることは理解されるであろう。
【0053】
例えば、カプシクム・アヌウム cv.1056又は1057は他の公知のパプリカ品種と有性交配されることができ、生じた子孫は望ましい特性を有する植物についてスクリーニングされることができる。
【0054】
従って、本発明は新しいパプリカ品種、及びそれを作成するための種子及び組織培養物を提供する。本発明のこの側面は、かかるパプリカ植物を開発するためのシステム及び方法をさらに提供する。
【0055】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なお、これら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0056】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なお、これら実施例によって本発明は限定されない。
【0057】
実施例1
パプリカ品種1056及び1057の作成
品種育種:パプリカ品種 cv.1056及びcv.1057は、カプシクム・アヌウム cv.レハバ(イスラエルの主要な商業用パプリカ品種)と、例外的に高いカロチノイド含有量と成熟時に特徴的な濃赤色の莢と濃い色の種子を有するカプシクム・アヌウムの自然発生的突然変異体との間の交配から由来していた。突然変異体の3回の制御された自家受精後に、同型接合体の同系交配系統が得られ、4126と名付けられた(Levy et al.1995.Carotenoids pigments and beta carotenes in paprika fruits(Capsicum spp.)with different genotypes.J.Agric.Food.Chem.43:362−366)。4126系統は例外的に高いカロチノイド含有量(16.6mg/g果実乾燥重量)によって特徴付けられた。しかし、4126系統は、商業的な品種であるレハバと比較して比較的低い果実収量及び比較的強い茎に対する果実の付着によっても特徴付けられ、この系統を機械的収穫のために不適当としていた。
【0058】
従って、系統4126からの高カロチノイド含有量という望ましい形質を、品種レハバからの高い収量及び機械的収穫に対する好適性と組合せることを目的とする育種プログラムが実行された。従って、品種レハバと系統4126が交配され(F1)、次に自家受精されてF2−F6世代にわたって系統育種を用いて選抜された。この育種プログラムにより、望ましい形質を保持する同型接合体系統が開発された。その後、二つの品種がこれらの系統から選抜され、カプシクム・アヌウム cv.1056及びカプシクム・アヌウム cv.1057と名付けられた。
【0059】
実施例2
品種1056及び1057の形態的特性決定
圃場評価手順:新品種1056及び1057の形態的及び化学的特性が、標準の商業的品種レハバと比較して評価された。
【0060】
各々7.68mの面積の三つの無作為化された圃場区画が実験として用いられた。三つの品種の種子は春に、1.92m幅の土壌床に50cm離して3列で播種された。発芽後、苗は1m当たり6〜7個の苗にまで間引きされた。区画は750mの累積量の水で灌漑され、1000m当たりそれぞれ23kgの窒素及び7.5kgのカリウムで施肥された。
【0061】
収穫直後に植物は高さ、果実寸法、果実数及び果実重量について測定された。加えて、果実はそれらのカロチノイド含有量について化学的に分析された。
【0062】
結果:両品種1056及び1057の植物は、レハバ品種より背が高く(それぞれ44.0%及び25.3%高かった)、レハバ品種とは区別できる密集した豊富でない分枝を有し、それ故、機械的収穫のために極めて好適であることが見出された。品種1056は薄茶色の種子を有していたが、品種1057及びレハバはそれぞれ薄黄色及び象牙色の種子を有していた。さらなる特性決定(以下の表1に要約される)は、品種1056及び1057の平均果実長さ、幅及び乾燥重量値はレハバ品種の値と同様であるか、又はレハバ品種の値よりわずかに低いことを示した。他方、品種1056及び1057の1植物当たりの果実の数はレハバ品種のものより高く、実質的に高い1植物当たりの果実乾燥収量をもたらした(それぞれ31.0%及び43.1%)。
【0063】

【0064】
実施例3
品種1056及び1057の化学的特性決定
パプリカ変種からのカロチノイドの分離及び定量化:
ここで記述される品種のパプリカ果実は完全な成熟時に、即ち、果実が赤くなりかつ膨圧の損失を示した時に収穫された。果実の果皮は凍結乾燥によって脱水され、コーヒー粉砕機によって粉砕されて微粉末にされた。粉末は、化学的抽出及び分析に用いられるまで密封された瓶中で−20℃で保存された。
【0065】
総カロチノイド含有量は25mgのパプリカ粉末サンプルを25mlのアセトン中に18時間室温で暗黒中で溶解させることによって決定された。抽出物溶液は次に分光光度計(HP 8452A)によって474nmのカロチノイド色素色強度について分析された。総カロチノイド濃度は次に1%のカプサンチン吸光係数=1905Aに基づいて推定された。
【0066】
分離されたカロチノイドの含有量はY.Ittah et al.,1993によって記述されている手順を用いて分析された(Hydrolysis study of carotenoids pigments of paprika by HPLC/photodiode array detection.J.Agric.Food.Chem.41:889−901)。簡潔に述べると、パプリカ粉末(30mg)は7.5mlの無水エタノール中の2%BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)中に懸濁され、次に1.25mlの60%KOH水溶液が添加された。懸濁物は次に窒素下で37℃で30分間撹拌され、その直後に氷上で10分間冷却された。次に水(5ml)が抽出物に添加され、抽出物中に色が観察されなくなるまで5mgの少量のヘキサンが繰返し添加された。組合せられたヘキサン抽出物は次に無水硫酸ナトリウム上で乾燥され、窒素下で蒸発させられ、乾燥させられた抽出物は1mlのアセトン(HPLCグレード)に添加され、0.2μmフィルターを通過させられ、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)カラム(LiChrospher(登録商標)100逆相C18カラム、250/4mm;粒子寸法−5μm)中に注入された。このHPLCカラムは光ダイオードアレー検出器(SPD−M10Avp)及びソフトウェアシステムに接続されており、このソフトウェアシステムは全ての設備を制御し、データ統合及び処理を実行した(CLASS−VP,Shimadzu)。HPLC条件は以下の通りであった:流速1ml/分、注入容量10μl;溶出は(以下の)表2の溶媒勾配を用いて行われ、検出は474nmで行われた。
【0067】

【0068】
HPLC分離後、サンプル抽出物中の特定カロチノイドの濃度が化合物ピークの積分面積を用いて推定され、総カロチノイドから計算された。各サンプルのASTA値は1mlアセトン溶液中の1mgのパプリカ粉末の光学濃度値を164倍することによって決定された。
【0069】
以下の表3に要約されるように、品種1056及び1057の総カロチノイド含有量はそれぞれ134及び124.4mg/10g乾燥果実重量(dfw)であった。レハバ品種を特徴付ける77.6mg/10g dfwの総カロチノイド含有量と比較すると、本発明の品種は72.7%(1056)及び60.3%(1057)の総カロチノイド含有量の増加を示した。さらに、品種1056及び1057のベータカロチン含有量はそれぞれ17.6及び18.4mg/10g dfwであり、これはレハバ品種において見出されるほんの5.5mg/10g dfwと比較すると、それぞれ220%及び234.5%の増加に換算される。品種1056及び1057の総カロチノイド含有量及びベータカロチン含有量は、パプリカ果実で報告されている値の中でも最高である(Govindarajan,1986.Crit.Rev.Food Sci.Nutr.24:245−355;及びMingez−Mosquera et al.1992.J.Agric.Food Chem.40:2384−2388)。
【0070】

【0071】
従って、パプリカ品種1056及び1057は、現存の商業的な品種と比較して実質的に高い総カロチノイド含有量及びベータカロチン含有量を示した(Almela et al.,1991.J.Agric.Food Chem.39:1606−1609;Levi el al.,1995.J.Agric.Food Chem.43:362−366)。加えて、これらの二つの新品種は高収量であり、かつ機械的収穫のために好適であることが見出された。それ故、品種1056及び1057は、現存の商業的なパプリカ品種より優れており、特に栄養学的及び/又は医薬用のカロチノイドの源として優れている。
【0072】
分かりやすくするため別個の実施態様で説明されている本発明のいくつもの特徴は、組み合わせて単一の実施態様にして提供することもできることは分かるであろう。逆に簡略化するため単一の実施態様で説明されている本発明の各種特徴は、別個に又は適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0073】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの変形と変更が当業技術者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような変形と変更をすべて含むものである。本明細書に記載のすべての刊行物、特許、及び特許願は、あたかも、個々の刊行物、特許、及び特許願が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0074】
種子の寄託
本発明のパプリカ植物品種の繁殖材料は、以下の寄託番号:PTA−5147及びPTA−5148で2003年4月22日からAmerican Type Culture Collection(Manassas,Va.20110)によって維持されている。この寄託へのアクセスは、本願の係属中は37CFR1.14及び35 USC 122の下、米国特許商標庁長官によって決定された人にのみ可能である。本願のいずれかの特許請求の範囲が許可された後は、変種の公衆への利用可能性に対する全ての制限は、これらの変種の少なくとも2500個の種子の生殖質の寄託に対するアクセスを与えることによって不可逆的に除去されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10mg/g乾燥果実重量より高い総カロチノイド含有量を有する果実及び機械的収穫のために好適な分枝パターンを特徴とするパプリカ植物、又はその一部分。
【請求項2】
パプリカ植物の前記果実が1.5mg/g乾燥果実重量より高いベータカロチン含有量を特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項3】
前記分枝パターンが、主茎から40°を越えない分枝角度、及び成熟した植物において地面から少なくとも30cm上の高さに生じる分枝点を特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項4】
同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ(Capsicum annuum cv.Lehava)植物の平均高さを越える平均高さを有することをさらに特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項5】
同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ)植物の1植物当たりの果実数を越える1植物当たりの果実数を有することをさらに特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項6】
同様の条件下で成長させられた同様の齢のカプシクム・アヌウム cv.レハバ植物の乾燥果実収量を越える乾燥果実収量を有することをさらに特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項7】
パプリカ植物が、代表的な種子がATCCアクセッション番号:PTA−5147として寄託されているカプシクム・アヌウム cv.1056であることを特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項8】
パプリカ植物が、代表的な種子がATCCアクセッション番号:PTA―5148として寄託されているカプシクム・アヌウム cv.1057であることを特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項9】
請求項1に記載のパプリカ植物の種子。
【請求項10】
請求項1に記載のパプリカ植物の再生可能な細胞の組織培養物。
【請求項11】
組織培養物が、パプリカ植物の全ての形態的及び生理的特性を発現することができる植物を再生することを特徴とする請求項10に記載の組織培養物。
【請求項12】
組織培養物が、種子、葉、茎、花粉、根、根端、葯、胚珠、花弁、花、胚、繊維及びさくからなる群から選択される組織の細胞又はプロトプラストから再生されることを特徴とする請求項10に記載の組織培養物。
【請求項13】
パプリカ植物が、成熟時に、90cmを越える植物高さ、少なくとも11cmの平均果実長さ、少なくとも2.9cmの平均果実幅、少なくとも3.5gの平均果実乾燥重量、少なくとも11.7個の果実の1植物当たりの平均果実数及び少なくとも0.65kg/mの平均果実乾燥重量収量からなる群から選択される少なくとも一つの形質をさらに特徴とする請求項1に記載のパプリカ植物。
【請求項14】
パプリカ植物が、成熟時に茶色の種子を有することをさらに特徴とする請求項13に記載のパプリカ植物。
【請求項15】
パプリカ植物が、成熟時に薄黄色の種子を有することをさらに特徴とする請求項13に記載のパプリカ植物。
【請求項16】
パプリカ植物又はその一部分を植物育種の材料源として用いる植物育種技術を使用して高カロチノイド含有量を有するパプリカ植物を作成する方法であって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.レハバ及びカプシクム・アヌウム系統4126を育種材料源として利用することを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
植物育種技術が、循環選抜、戻し交雑、系統育種、制限断片長多型増大選抜、遺伝子マーカー増大選抜及び形質転換からなる群から選択されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
育種技術を使用して高カロチノイド含有量を有するパプリカ植物を開発するためのシステムであって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.レハバ及びカプシクム・アヌウム系統4126又は前記パプリカ植物の一部分を育種材料源として含むことを特徴とするシステム。
【請求項19】
パプリカ植物又はその一部分を植物育種の材料源として用いる植物育種技術を使用してパプリカ植物を作成する方法であって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.1056(ATCCアクセッション番号:PTA−5147)又はカプシクム・アヌウム cv.1057(ATCCアクセッション番号:PTA−5148)を育種材料源として利用することを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
植物育種技術が、循環選抜、戻し交雑、系統育種、制限断片長多型増大選抜、遺伝子マーカー増大選抜及び形質転換からなる群から選択されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
育種技術を使用してパプリカ植物を開発するためのシステムであって、パプリカ植物カプシクム・アヌウム cv.1056(ATCCアクセッション番号:PTA−5147)又はカプシクム・アヌウム cv.1057(ATCCアクセッション番号:PTA−5148)を育種材料源として含むことを特徴とするシステム。

【公表番号】特表2007−527701(P2007−527701A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516791(P2006−516791)
【出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000331
【国際公開番号】WO2005/000771
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(506000287)ザ ステート オブ イスラエル−ミニストリー オブ アグリカルチャー アンド ルーラル ディヴェロプメント, アグリカルチュラル リサーチ オーガニゼーション (4)
【Fターム(参考)】