説明

カロテン濃縮物の製造方法

【課題】
本発明は、カロテンを含有する油脂を低級モノアルコールでアルコリシスして得られたカロテンを含むエステルから、カロテンを高収率で回収でき、しかもクロマト工程で使用される充填剤の劣化を最小限に抑制できる、製造方法を提供するものである。
【解決手段】
カロテンを含有するエステルに、親水性溶媒:水の組成比が80:20〜60:40(質量比)の範囲に調整した混合溶媒を添加して混合し、加温した状態で静置分離することにより、カロテンを含有するエステルに含有される水溶性夾雑物を除去できることで、カロテンの高収率回収ならびに、クロマトカラム充填剤の劣化を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテン濃縮物の高回収率を実現可能とする製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黄色系のテルペノイド類の脂溶性色素であるカロテンは植物油脂等に含まれており、天然着色料として広く用いられ、ビタミンA前駆体としての機能も有している。このカロテを天然油脂から回収する方法としては、従来から様々な方法が提案されている。
【0003】
先行文献1には、カロテンを含有する油脂を低級モノアルコールでアルコリシスして、カロテンを含むエステルを生成させ、次いでエステルを除去することでカロテン濃縮物を得る製造法が開示されている。
しかしながら、未反応物や不純物などの水溶性夾雑物も濃縮されてしまい、カラムクロマト工程でカロテンを精製分離する際にカロテン回収率の低下や充填剤の劣化促進などの課題があった。
【0004】
先行文献2には油脂のアルコリシス化後、得られたエステルを減圧蒸留に付した後、残渣中の不純物を炭化水素系溶媒により再結晶化し、更に、メタノール水で洗浄する方法が開示されている。
しかしながらこの方法では、メタノール水中のメタノールに水溶性夾雑物と共にカロテンが溶解してしまい、カロテンの回収ロスになる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−115062号公報
【特許文献2】特開2004-131480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カロテンを含有する油脂を低級モノアルコールでアルコリシスして得られたカロテンを含むエステルから、カロテンを高収率で回収でき、しかもカラムクロマト工程で使用される充填剤の劣化を最小限に抑制できる、製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、カロテンを含有する油脂を低級モノアルコールでアルコリシスして得たカロテンを含むエステルに、特定の親水性溶媒と水の比率が80:20〜55:45の範囲にある混合溶媒を混合し、加温した状態で静置分離することで、カロテンを含むエステルから水溶性夾雑物を除去できることを見出し本発明に至った。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、下記構成からなるカロテン濃縮物の製造方法を提供する。
即ち、
(1)
(A)カロテンを含有してなる粗パーム油を低級アルコール及びアルカリ触媒を用いてエステル交換を行った後、カロテンを含有してなる粗パームアルキルエステルを得る工程
(B)前記エステルに対してメタノール/水混合比が質量比で80/20〜60/40からなる親水性溶媒を混合し、50〜80℃に加温して、カロテンを含むエステル相とメタノール/水相に分離する工程
(C)B工程で得られたカロテンを含むエステル相から、カラムクロマト法により精製
カロテンを得る工程
(2)
工程(B)において、メタノール/水質量比が75/25〜65/35、且つ、混合後の温度を65〜75℃にすることを特徴とする(1)記載のカロテン濃縮物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本製造法によれば、カロテンの回収ロスを防止できる。また、カラムクロマト工程に使用する分離カラムの劣化を防止できる。更に、前記親水性溶媒/水混合液は回収して再利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
(A)工程
前記(A)工程は、カロテンを含有してなる粗パーム油を低級アルコール及びアルカ触媒を用いてエステル交換し、カロテンを含有してなるパームアルキルエステルを得て、主
としてグリセリンを含有する親水相と分離・回収する工程である。カロテンを含有してな
る粗パーム油を低級アルコール及びアルカリ触媒を用いてエステル交換を行うことによっ
て、前記粗パーム油はグリセリンと脂肪酸アルキルエステルに変換される。
【0011】
本発明の製造方法で原料として使用される粗パーム油の一例としては、アブラヤシの果肉を圧搾して得られ、炭素数16〜18の脂肪酸の油脂(脂肪酸トリグリセライド)を主成分とする(以下、主成分とは、少なくとも50質量%を占める成分のことを指す)未精製の混合物が挙げられる。前記粗パーム油には、通常、炭素数16〜18のトリグリセライドの他に、リン脂質を主成分とするガム質、カロテン、タンパク質、樹脂状物質、グリセリン、遊離している脂肪酸(以下、遊離脂肪酸という場合もある。)、炭素数20のトリグリセライドなどが含まれる。尚、粗パーム油としては、市販のものを使用できる。また、粗パーム油の組成(各成分の割合、油脂における脂肪酸組成)については、「基準油脂分析試験法2.4.2.1−1996 脂肪酸組成」等の従来公知の方法により確認できる。
【0012】
前記アルコールとしては、低級アルコールが好ましく、具体的には、エタノール、メタノール、プロパノール等が使用できる。特に好ましくはメタノールである。
【0013】
前記アルコールの使用量は、油脂の種類や、アルコールの種類等によって適宜決定できるが、例えば、前記粗パーム油に対しては0.05〜0.5質量倍の範囲であり、好ましくは0.2〜0.5質量倍の範囲であり、より好ましくは0.35〜0.45質量倍の範囲である。
【0014】
前記エステル交換は、触媒存在下で行うことが好ましく、前記触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒が使用できる。前記触媒の使用割合は、例えば、前記油脂に対して0.001〜0.01質量倍の範囲であり、好ましくは0.002〜0.008質量倍の範囲であり、より好ましくは0.003〜0.006質量倍の範囲である。
【0015】
前記エステル交換の反応温度は、例えば、温度30〜120℃の範囲であり、好ましくは50〜100℃の範囲であり、より好ましくは60〜80℃の範囲である。また、前記エステル交換の反応時間は、例えば、5〜120分の範囲であり、好ましくは60〜90分の範囲である。
【0016】
前記エステル交換後、グリセリン相(下層)と、カロテンを含有する脂肪酸エステル相(上層)とに分離して、前記脂肪酸エステル(上層)を分離回収する。前記分離回収方法は、例えば、静置分離でもよいし、遠心分離等による分離でもよい。

【0017】
(B)工程
前記(B)工程は、前記カロテン含有エステルから、カラムクロマト工程で使用される充填剤の劣化原因となり、カロテン回収率ロスの一因となる水溶性夾雑物を除去する工程である。
(A)工程で製造されたカロテン含有粗パームアルキルエステルに対して、メタノール/水混合比が質量比で80/20〜60/40の範囲、好ましくは75/25〜65/35の範囲からなる親水性溶媒を 質量比で好ましくは1〜5倍量、さらに好ましくは2.5〜3.5倍量混合する。その際、温度を50〜80℃、好ましくは65〜75℃に加温し、数分程度攪拌してから、静置する。静置時も前記攪拌時の加温条件を維持し、温度65〜75℃に保持するのが好ましい。温度を50℃未満にすると2層の分離効率が低くなり、80℃より高くしても夾雑物の抽出効果は向上しない。攪拌時間は5分以上が好ましく、静置時間は10分以上が好ましく、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。
【0018】
この操作によって、上層には夾雑物(たとえばグリセリン、モノグリセリド、ジグリセリド、石鹸など)を含有する(メタノール/水)相が、下層にはカロテン含有エステル相となり、二相分離する。下層のカロテン含有エステル相を回収するまでがB工程である。
メタノール/水混合比を前記適切な範囲に選択することによって、カロテンの収率ロスを防ぐことが可能となる。メタノール/水混合比の水分が20質量%未満では、粗パームエステル中のカロテンがメタノール/水混合液に一部溶解してしまい、カロテンの回収ロスが生じる。一方、水分が45質量%を超えるとメタノール/水の比重が変化して上層と下層が一部逆転するため、分離不良が生じて下層の抜き取りが困難となる。
【0019】
前記二層分離した上層の水溶性夾雑物含有メタノール/水については、冷却し、一定時間の静置を行い、水溶性夾雑物が含有された相と、メタノール水相に分離するので、メタノール/水をリサイクルすることが可能となる。
【0020】
尚、(B)工程は、(A)工程で得られた脂肪酸アルキルエステルを短工程蒸留によって取り除いてから行っても構わない。
【0021】
(C)工程
前記(C)工程は、固相成分が充填されたカラムを用いて、(B)工程によって回収されたカロテン含有エステル相からカロテンを精製分取するクロマト工程である。
(B)工程で分離回収したカロテン含有エステルに対して、ヘキサン等の炭化水素系溶媒と少量の極性溶媒(例えばアセトン)の混合液を質量比が1:1になるように混合し、加
熱攪拌しながら、固相成分(例えばシリカゲルやアルミナ)が充填されたカラムへ混合液
を添加する。温度は40〜60℃が好ましく、攪拌は10分以上が好ましく、30分以上
がより好ましい。
【0022】
次いで、カラムの展開液として前記炭化水素系溶媒を連続的に通液する。カラム出口付近の紫外線検出器(UV計)にて、吸光度の値で管理しながら分取の開始と終了を行う。次いで、分取したカロテン分画より溶媒の除去を行い、精製カロテンを得る。

【0023】
(C)工程で得られる、UV計での吸光度ピークの形状は充填剤に蓄積する不純物により、影響を受ける。蓄積する不純物量が少ないほど、ピークはシャープになる。図1、図2にイメージで示したように、シャープなピークであれば、分取時間が短くなるため、使用する溶媒量が削減でき、溶媒除去にかかるエネルギー量が抑えられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例ならびに比較例を説明するが、本発明は、以下の実施例等に限定されるものではない。また、以下の例において、特に示さない限り、「%」は「質量%」とする。
以下の実施例および比較例において、回収率、カラム寿命は下記の方法により評価した。
(回収率の算定)
原料となる粗パームアルキルエステル中の質量、カロテン濃度%、B工程処理後の下層中のカロテン含有エステル質量、カロテン濃度%を測定し、以下の式にて回収率を算出した。
回収率(%)=((1)/(2))×100
上式において
(1)B工程処理で分離したカロテン含有エステルの、質量×カロテン濃度%
(2)A工程で得られたカロテン含有粗パームアルキルエステルの、質量×カロテン濃度%
ここで、カロテン濃度は、サンプル100mgをシクロヘキサンで500〜1000倍に希釈定容し、分光光度計により448nmの吸光度を測定し、次式にて求めた。
カロテン濃度(%)=(希釈倍率×吸光度)/(サンプル質量×2500)
尚、式中の2500はオールトランス体のβカロテンの吸光係数である。
【0025】
(カラム寿命)
カロテンを精製するクロマト工程において、前記炭化水素系溶媒をカラムの展開液と
して連続的に通液する前後のカラム内シリカゲルを取り出し、60℃で60分間、乾燥
させた後、BET法により比表面積を測定した。装置は柴田科学(株)社製、形式P−85
0を使用した。カラム寿命の評価は比表面積の低下度によって評価し、低下度が大きい
ほど、カラム寿命に悪影響するとした。
比表面積(m/g)
使用前:470 m/g
使用後:469〜420m/g (合格) ○
419〜370m/g (不合格)△
369m/g以下 (不合格)×
【0026】
実施例1について説明する。
(A)工程
600ppmのカロテンを含有する粗パーム油に、メタノールおよび水酸化ナトリウムを、質量比が前記粗パーム油:メタノール:水酸化ナトリウム=73.7:25.8:0.3になるように混合し、アルコリシス化反応を行った。生成したカロテン含有エステル相を採取し、これに前記粗パーム油の体積に対し1/5倍量の水を添加して洗浄した後、常法により脱水を行った。
【0027】
(B)工程
ついで、25質量%の水を含むメタノール水溶液を前記エステル相に対して3.5体積倍量混合した。その後、70℃まで昇温して5分間攪拌、30分間静置した。静置によって、下層へカロチンを含有するエステル相(画分A)が相分離し、その相を回収した。このエステル相中のカロテン濃度は610ppmであった。尚、B工程によって、水溶性夾雑物の大部分は上層のメタノール/水相中に移行していた。
【0028】
(C)工程
粒径40〜70μmのシリカゲルをカラムに充填したクロマトカラムを用意し、アセトンを3500ppm含むヘキサン展開溶液を流して、クロマトカラムを調製した。次いで、(B)工程で得られたカロチン含有エステルをヘキサン/アセトン混合溶媒(アセトン4000ppm)を用いて、温度55℃で希釈液を調製した。混合比率はエステル:ヘキサン/アセトン混合溶媒=1:50とした。
このカラムに前記カロチン含有希釈液を添加した後、前記展開溶媒を流して展開を開始した。出口液の濃度をUV計によって連続的に測定し、カロテンが検出された画分(吸光度値1.0で分取開始し、後に再度1.0まで下降した時点で分取終了)のみを別途取り分けた。前記画分にひまわり油を、99.5/0.5の質量比率となるよう混合した後、溶媒除去槽にて、45℃、3kPaの条件で減圧操作を行って、展開溶媒を留去した。
【0029】
実施例2、比較例1と3は前記メタノール水溶液の水分量を35%、13%、50%に変えた以外は、実施例1と同様にしてカロテンを分離した。
また、実施例3は(A)工程でアルコリシス化後に生成したカロテン含有エステル中のエステルを短工程蒸留により一部留去してから(B)工程を行ったものである。比較例2は、前記メタノール/水溶液を水のみで行ったものである。
【0030】
結果を表1に示す。表1において、カラムクロマトの分取時間は吸光度値1.0で分取開始し、後に再度1.0まで下降した時点までの時間である。また、総合評価については回収率が98.5%以上かつ分取時間45分以内かつカラム寿命評価が○のものについて、評価を○、それ以外を×とした。
【0031】
(表1)





【0032】
表1から、親水性溶媒と水の混合液の水分を25〜35%の範囲に調製した実施例については回収率が高く、カラムクロマトの分取時間は短く、カラム寿命(シリカゲルの比表面積)も良好であったことが分る。これに対して、水分が20%未満の範囲に調製した比較例1では、カロテン回収率が低かった。また、水分が40%より多いもしくは水のみを用いた比較例2、3では回収率は高いものの、カラムにおける分取時間が長くなり、カラム寿命が著しく低下した。これはカラム充填剤の比表面積が低下したためである。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明にかかる(C)工程で得られるUV計での吸光度ピーク形状のうち、シャープなピークのイメージである。
【図2】図2は本発明にかかる(C)工程で得られるUV計での吸光度ピーク形状のうち、ブロードなピークのイメージである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)工程、(B)工程および(C)工程を含むカロテン濃縮物の製造方法。
(A)カロテンを含有してなる粗パーム油を低級アルコール及びアルカリ触媒を用いてエステル交換を行った後、カロテンを含有してなる粗パームアルキルエステルを得る工程
(B)前記エステルに対してメタノール/水混合比が質量比で80/20〜60/40からなる親水性溶媒を混合し、50〜80℃に加温して、カロテンを含むエステル相とメタノール/水相に分離する工程
(C)B工程で得られたカロテンを含むエステル相から、カラムクロマト法により精製
カロテンを得る工程
【請求項2】
工程(B)のメタノール/水質量比が75/25〜65/35、且つ、混合後の温度を65〜75℃にすることを特徴とする請求項1記載のカロテン濃縮物の製造方法
























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−240991(P2012−240991A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115339(P2011−115339)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】