説明

カンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡並びに吸着質量センサ

【課題】 高感度、高分解能で小型化も可能な自己変位検出型のカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡並びに吸着質量センサを提供すること。
【解決手段】 板バネ特性を備えたレバー部2と、該レバー部2をその基端側で支持する本体部3と、レバー部2又はレバー部2と本体部3との間に設けられ絶縁部5aを挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した少なくとも一対の導体電極部5bを有する変位検出部5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度、高分解能な自己変位検出型のカンチレバー、これを用いたカンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡並びに吸着質量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセス等を用いたナノテクノロジーの進歩により、板バネ特性を備えたカンチレバーが種々の装置やセンサ等に採用され、形状観察、質量、粘弾性、磁気力等の様々な測定に用いられている。例えば、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)では、片持ち状態に支持されたカンチレバーを備え、該カンチレバー先端の探針(プローブ)で試料表面を走査し、探針−試料間に作用するトンネル電流、原子間力、磁気力、粘弾性等をカンチレバーの撓み量(変位)として測定することで、試料表面の形状や物性等を計測して画像化することが可能であり、幅広い分野で利用されている。
【0003】
この走査型プローブ顕微鏡におけるカンチレバーの撓み量、すなわちカンチレバーの変位を検出する手段として、従来、カンチレバーにレーザ光を照射して、その反射角の変化を測定することで変位を求める光てこ方式が用いられている。また、光てこ方式による外部検出の他に、自己変位検出型のカンチレバーを用いたプローブ顕微鏡も提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ピエゾレジスティブを使用した方法、すなわちカンチレバー上にピエゾ抵抗体を設け、その抵抗値の変動を計測することでカンチレバーの撓み量を検出する自己検知型SPM探針が記載されている。
また、特許文献2には、圧電体薄膜を使用した方法、すなわち圧電体薄膜と電極とからなるカンチレバー状の微小変位素子により圧電体薄膜の圧電効果を利用して微小変位を検出するトンネル電流検出装置が記載されている。
これらの自己変位検出型のカンチレバーの場合、光てこ方式に比べて比較的構造が簡易であると共に、光てこ方式特有のアライメント作業(レーザ光の光路調整作業)が不要となる利点がある。
【0005】
【特許文献1】特開2000−111563号公報
【特許文献2】特開平05−190617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来の自己変位検出型カンチレバーの場合、変位検出信号は、光てこを使用した外部検出の方法に比較して感度が低く、高い分解能で変位を検出することが困難であるという問題があった。また、従来の自己変位検出型カンチレバーで高感度な検出を行うためには、数十μm程度の広さの検出部分が必要である。近年、カンチレバーの共振周波数の高帯域化や高速走査対応を実現するため、カンチレバーの小型化が進んできているが、これまでの自己検知レバーの場合、制約が生じてしまう不都合があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高感度、高分解能で小型化も可能な自己変位検出型のカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡並びに吸着質量センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のカンチレバーは、板バネ特性を備えたレバー部と、該レバー部をその基端側で支持する本体部と、前記レバー部又は前記レバー部と前記本体部との間に設けられ絶縁部を挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した少なくとも一対の導体電極部を有する変位検出部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
このカンチレバーでは、レバー部又はレバー部と本体部との間に設けられ絶縁部を挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した少なくとも一対の導体電極部を有する変位検出部を備えているので、一対の導体電極部間に電圧を印加して流れるトンネル電流が、レバー部の変位に伴って変化する一対の導体電極部間の距離に対して指数関数的に大きく変動する。したがって、レバー部のわずかな変位でも、一対の導体電極部間に流れるトンネル電流が大きく変化して、このトンネル電流の変動又はこれに伴う電気的変化を測定することで、高い感度及び高い分解能で検出が可能になる。また、検出部分である変位検出部は、一辺が5.0〜0.1μm程度の小さな面積で構成することができ、小型かつ応答特性の高いカンチレバーに対応可能である。
なお、レバー部の撓み等の変位に応じて一対の導体電極部間の距離が変わってトンネル電流が変化する場合だけでなく、レバー部の撓み等の変位に応じて一対の導体電極部に応力が加わった場合でも、電子状態の変化によってトンネル電流が変化すると考えられ、この変化を測定することでも、レバー部の変位を測定することができる。
【0010】
また、本発明のカンチレバーは、前記変位検出部が、層状の前記導体電極部及び前記絶縁部が積層されて形成されていると共に、前記レバー部の変位方向と前記レバー部の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーでは、積層状の変位検出部が、レバー部の変位方向とレバー部の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されているので、仮想平面内でレバー部が変位するため、この変位方向に対して垂直に配された変位検出部に対して効果的に力が加わり、大きなトンネル電流の変化を得ることができる。
【0011】
また、本発明のカンチレバーは、前記変位検出部が、少なくとも2箇所に設けられていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーでは、変位検出部が、少なくとも2箇所に設けられているので、異なる位置の変位検出部によるトンネル電流の変化を選択又は比較することで、レバー部の変位状態に応じてさらに高精度な検出が可能になる。
【0012】
さらに、本発明のカンチレバーは、前記変位検出部が、前記レバー部の延在方向の異なる複数箇所に設けられていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーでは、変位検出部が、レバー部の延在方向の異なる複数箇所に設けられているので、基本周波数だけでなく、2次又は3次の共振周波数のときでも周波数に適した位置の変位検出部を選択してトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を検出することで、カンチレバー周波数に応じた検出が可能になる。
【0013】
また、本発明のカンチレバーは、前記レバー部が、先端部から基端側に二股に分かれて延在する一対の分岐支持部を有し、前記変位検出部が、前記一対の分岐支持部にそれぞれ設けられていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーでは、変位検出部が一対の分岐支持部にそれぞれ設けられているので、各分岐支持部の変位検出部で検出したトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を比較することで、レバー部のねじれも検出することができる。
【0014】
また、本発明のカンチレバーは、前記レバー部の近傍に、前記変位検出部と同じ構造のリファレンス部が設けられていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーでは、レバー部の近傍に、変位検出部と同じ構造のリファレンス部が設けられているので、変位検出部とリファレンス部とのトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化の差を検出することにより、温度、磁場、電場などの外的要因を補償して変位検出を行うことが可能になる。
【0015】
本発明のカンチレバーシステムは、上記本発明のカンチレバーと、前記変位検出部に電圧を印加する電圧印加部と、前記変位検出部に接続され前記導体電極部間に流れるトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定して前記レバー部の変位を検出する変位検出機構と、を備えていることを特徴とする。すなわち、このカンチレバーシステムでは、上記本発明のカンチレバーを備え、変位検出機構により変位検出部でのトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定してレバー部の変位を検出するので、レバー部へ加わる力によるレバー部の微小変位によって、種々の情報が高感度かつ高分解能で検出可能となる。
【0016】
本発明のプローブ顕微鏡は、上記本発明のカンチレバーシステムを備えていることを特徴とする。すなわち、このプローブ顕微鏡では、上記本発明のカンチレバーシステムを備えているので、自己変位検出型として光てこ方式に比べて簡易なカンチレバー構成で、高感度かつ高分解能に測定対象の表面形状等を測定することができる。
【0017】
本発明の吸着質量センサは、上記本発明のカンチレバーシステムを備えていることを特徴とする。すなわち、この吸着質量センサでは、上記カンチレバーシステムを備えているので、自己変位検出型として光てこ方式に比べて簡易なカンチレバー構成で、レバー部の先端部等に検出対象の物質が吸着した際の質量変化を高感度かつ高分解能に測定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るカンチレバー及びカンチレバーシステムによれば、レバー部又はレバー部と本体部との間に設けられ絶縁部を挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した少なくとも一対の導体電極部を有する変位検出部を備えているので、レバー部のわずかな変位でも、一対の導体電極部間に流れるトンネル電流が大きく変化して、高い感度及び高い分解能で検出が可能になる。したがって、これを採用したプローブ顕微鏡や吸着質量センサによれば、自己変位検出型として光てこ方式に比べて簡易なカンチレバー構成で、高感度かつ高分解能に測定を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態のカンチレバー1は、図1の(a)(b)に示すように、板バネ特性を備えたレバー部2と、該レバー部2をその基端側で片持ち状態で支持する本体部3と、レバー部2又はレバー部2と本体部3との間に設けられレバー部2を加振するカンチレバー加振部24aと、レバー部2と本体部3との間に設けられ絶縁部5aを挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した一対の導体電極部5bを有する変位検出部5と、一対の導体電極部5bに接続された配線部6と、を備えている。なお、プローブ顕微鏡に採用される本実施形態のカンチレバー1では、レバー部2の先端側に探針2aが設けられている。
【0021】
上記変位検出部5は、層状の導体電極部5b及び絶縁部5aが積層されて形成されていると共に、レバー部2の変位方向(又は探針2aの突出方向)とレバー部2の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されている。すなわち、本実施形態では、変位検出部5の積層面がレバー部2の延在方向に沿って配されることにより、変位検出部5の積層面に対してレバー部2の撓みによる力が垂直方向に加わって、変位検出部5がレバー部2と共に撓む又は歪むように設置されている。
なお、変位検出部5は、レバー部2の撓みによる力を効果的に受けるように、レバー部2の基端部又はレバー部2と本体部3との間に設置することが好ましい。
【0022】
上記レバー部2は、半導体プロセスを用いて例えば略長方形板状等に作製され、例えばシリコン支持層である本体部3上に酸化層(シリコン酸化膜)4を形成し、さらに該酸化層4上にシリコン活性層を熱的に貼り合わせたSOI基板を利用して、シリコン支持層を除去することで薄板状に製造される。また、探針2aは、エッチング技術等によってレバー部2の先端部表面から突出して鋭い先端形状で形成されている。なお、SOI基板に限らず、その他の材料や手法でレバー部2及び本体部3を製造しても構わない。
【0023】
一対の導体電極部5b間の距離は、0.3nm〜20nmの範囲内に設定されている。なお、0.3nm以上とした理由は、現時点で、原子数個分の距離が作製上の限界であり、20nm以下とした理由は、トンネル電流の検出限界となるためである。
【0024】
上記絶縁部5aは、絶縁材料又は真空ギャップで構成される。例えば、絶縁材料としては、自己組織化膜、LB膜、蒸着膜、スパッタ膜、両親媒性分子、金属酸化膜、酸化マグネシウム、酸化アルミ、酸化チタン、酸化タンタル等が採用可能である。変位検出部5についてより具体的な例を挙げれば、例えばSi基板上にスパッタリングで形成された厚さ2nmのMgOで形成された絶縁部5aをCoFeBで形成された一対の導体電極部5bで挟んだ構造等が採用される。
上記配線部6は、例えばアルミニウムや銅等のパターン配線である。
【0025】
上記カンチレバー1を備えた本実施形態の走査型プローブ顕微鏡は、試料Sの表面形状や各種の物性を測定する装置であって、図2に示すように、上記カンチレバー1と、レバー部2を加振するレバー加振機構24と、試料Sを載置するステージ8と、該ステージ8をカンチレバー1に対して相対的に移動させる移動機構9と、変位検出部5に接続され導体電極部5b間に流れるトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定してレバー部2の変位を検出する変位検出機構10と、を備えている。なお、カンチレバー1、電圧印加部7及び変位検出機構10は、カンチレバーシステム11として機能する。
【0026】
上記カンチレバー1は、ステージ8上の試料Sに対向状態とされてカンチレバーホルダ12にセットされている。また、カンチレバー1は、カンチレバーホルダ12のカンチレバー取付側の面にカンチレバー加振部24aを介して設けられた斜面ブロック12bによって試料S表面に対してレバー部2が所定角度に傾斜して固定されている。
【0027】
上記レバー加振機構24は、ホルダ本体12aと斜面ブロック12bとの間に設けられたカンチレバー加振部24aと、該にカンチレバー加振部24aに交流電圧を印加する電圧印加部7と、を備えている。
上記カンチレバー加振部24aは、加振電圧を印加されて駆動され、カンチレバー1を厚み方向に一定周期で所望の振幅量で振動させる圧電素子等である。
【0028】
このカンチレバー加振部24aは、ホルダ本体12aのカンチレバー取付側の面に固定され、斜面ブロック12bは載置面を試料S側に向けた状態でカンチレバー加振部24aの下面に固定されている。そして、この載置面にカンチレバー1の本体部3が載置され、例えばワイヤ等によって斜面ブロック12bとカンチレバー1の本体部3とが固定されている。
【0029】
上記電圧印加部7は、図示しない接続端子を介して接続されたカンチレバー加振部24aに対して加振電圧を印加して振動させ、レバー部2を周期的に変形させて振動させる機能を有する。
【0030】
このレバー加振機構24を有する走査型プローブ顕微鏡によれば、レバー加振機構24によってレバー部2の振動特性の安定性を向上させることができ、試料Sの表面形状の測定精度を向上させることができる。
【0031】
上記移動機構9は、上記ステージ8を上部に設置したXYスキャナ13と、該XYスキャナ13を上部に設置したZスキャナ14と、該Zスキャナ14を載置した防振台(図示略)と、XYスキャナ13及びZスキャナ14にこれらを駆動する電圧を印加するドライブ回路15と、を備えている。
上記XYスキャナ13及びZスキャナ14は、例えば、ピエゾ素子等の圧電素子であり、ドライブ回路15から電圧を印加されると、その電圧印加量及び極性に応じて、試料Sの表面に平行なXY方向及び試料Sの表面に垂直なZ方向にそれぞれ微小移動するようになっている。
【0032】
また、一対の配線部6には、変位検出部5の一対の導体電極部5bに検出電圧を印加して変位検出部5に流れるトンネル電流を検出すると共に、検出したトンネル電流に応じた出力信号を増幅して差分測定部16に出力する増幅回路17が接続されている。
【0033】
一方、差分測定部16には、増幅回路17から出力信号が入力されてくるだけでなく、基準発生部18から基準信号が入力される。この基準信号は、例えば、レバー部2の振動状態の変位量が“0”のときに、差分測定部16の出力を“0”とする信号である。そして、差分測定部16は、この基準信号と増幅回路17から送られてくる出力信号とを比較して、その差である誤差信号をZ電圧フィードバック回路19に出力するようになっている。すなわち、この誤差信号は、レバー部2の振動状態の変位量に対応する信号である。よって、この誤差信号をモニタすることで、レバー部2の振動状態の変位を測定することができる。
【0034】
すなわち、これら増幅回路17、差分測定部16及び基準発生部18は、変位検出部5に検出電圧を印加すると共に、該変位検出部5に流れるトンネル電流の変化に基づいてレバー部2の振動状態の変位を測定する変位検出機構10として機能する。
【0035】
また、このZ電圧フィードバック回路19には、制御部20が接続されており、該制御部20により、上記誤差信号に基づいて試料Sの表面形状を測定したり、振動周波数の位相の変化を検出して各種の物性情報(例えば、磁気力や電位等)を測定したりすることができるようになっている。
すなわち、これらZ電圧フィードバック回路19及び制御部20は、走査時に、探針2aと試料Sの表面との距離を、レバー部2の振動状態が一定となるように移動機構9を制御すると共に、測定データを取得する制御機構として機能する。なお、制御部20は、上述した各構成品を総合的に制御している。
【0036】
次に、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡による測定方法を説明する。
【0037】
まず、変位検出機構10によって検出電圧を変位検出部5に印加し、該変位検出部5に流れるトンネル電流をモニタしておく。そして、この状態で試料Sの走査を行う。このとき、探針2aと試料Sとの間に働く原子間力の作用によりレバー部2の振動状態が変位するので、図1の(b)に示すように、その変位量に応じて変位検出部5が撓む又は歪むことで一対の導体電極部5b間の距離が変化する。これにより、一対の導体電極部5b間に流れるトンネル電流が変化する。さらに、増幅回路17は、このトンネル電流の変化に応じた出力信号を差分測定部16に出力する。
【0038】
差分測定部16は、送られてきた出力信号と基準発生部18から送られてきた基準信号とを比較して、レバー部2の振動状態の変位量に応じた誤差信号を算出すると共に、該誤差信号をZ電圧フィードバック回路19に出力する。これにより、Z電圧フィードバック回路19は、レバー部2の振動状態の変位を測定することができる。
【0039】
そして、Z電圧フィードバック回路19は、誤差信号に基づいてステージ8をZ方向に移動させるようにドライブ回路15を制御し、探針2aと試料Sの表面との距離を一定にさせる。すなわち、誤差信号を“0”に近づけるようにステージ8を制御する。
その結果、検出されたレバー部2の振動状態の変位が一定となるように高さ制御しながらカンチレバー1を走査させることができ、試料SをDFM(共振モード測定:Dynamic Force Mode Microscope)測定することができる。
【0040】
このように本実施形態のカンチレバー1では、レバー部2と本体部3との間に設けられ絶縁部5aを挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した一対の導体電極部5bを有する変位検出部5を備えているので、一対の導体電極部5b間に電圧を印加して流れるトンネル電流が、レバー部2の変位に伴って変化する一対の導体電極部5b間の距離に対して指数関数的に大きく変動する。
【0041】
したがって、レバー部2のわずかな変位でも、一対の導体電極部5b間に流れるトンネル電流が大きく変化して、このトンネル電流の変動又はこれに伴う電気的変化を測定することで、高い感度及び高い分解能で検出が可能になる。また、検出部分である変位検出部5は、一辺が5.0〜0.1μm程度の小さな面積で構成することができ、レバー幅100nmで長さ1μm程度とされた小型かつ応答特性の高いカンチレバー1に対応可能である。
【0042】
また、積層状の変位検出部5が、レバー部2の変位方向(又は探針2aの突出方向)とレバー部2の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されているので、仮想平面内でレバー部2が変位するため、この変位方向に対して垂直に配された変位検出部5に対して効果的に力が加わり、大きなトンネル電流の変化を得ることができる。
【0043】
次に、本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第2〜第6実施形態について、図3〜図7を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0044】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、変位検出部5の積層面がレバー部2の延在方向に沿って配されているのに対し、第2実施形態のカンチレバー21では、図3の(a)に示すように、変位検出部5の積層面がレバー部2の延在方向に垂直に配されている点である。すなわち、第2実施形態のカンチレバー21でも、変位検出部5が、レバー部2の変位方向(又は探針2aの突出方向)とレバー部2の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されているので、変位検出部5に対して効果的に力が加わる。
【0045】
したがって、レバー部2が撓むと、図3の(b)に示すように、変位検出部5も効果的に撓むことで導体電極部5b間の距離が変わり、トンネル電流も変化することから、第1実施形態と同様にレバー部2の変位を高感度かつ高分解能で検出することができる。
【0046】
第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、略長方形板状のレバー部2の基端部に一つの変位検出部5が設けられているのに対し、第3実施形態のカンチレバー31では、図4に示すように、レバー部32が、探針2aが設けられた先端部から基端側に二股に分かれて延在する一対の分岐支持部32aを有し、変位検出部5が、一対の分岐支持部32aにそれぞれ設けられている点である。
【0047】
すなわち、第3実施形態では、レバー部32が、一対の分岐支持部32aからなるV字状に形成されており、左右の各分岐支持部32aの基端部にそれぞれ変位検出部5が設けられている。このため、レバー部32にねじれが生じた場合、左右の各分岐支持部32aにおける変位検出部5のトンネル電流の変化が互いに相違する。したがって、第3実施形態のカンチレバー31では、変位検出部5が一対の分岐支持部32aにそれぞれ設けられているので、各分岐支持部32aの変位検出部5で検出したトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を比較することで、レバー部32のねじれも検出することができる。
【0048】
第4実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、略長方形板状のレバー部2の基端部に一つの変位検出部5が設けられているのに対し、第4実施形態のカンチレバー41では、図5に示すように、変位検出部5が、レバー部2の延在方向の異なる2箇所に設けられている点である。すなわち、第4実施形態では、レバー部2の基端部と中間部との2箇所に変位検出部5がそれぞれ設けられている。
【0049】
したがって、第4実施形態のカンチレバー41では、変位検出部5が、レバー部2の延在方向の異なる2箇所に設けられているので、基本周波数だけでなく、2次又は3次の共振周波数のときでも周波数に適した位置の変位検出部5を選択してトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を検出することで、カンチレバー周波数に応じた検出が可能になる。なお、第4実施形態では、レバー部2の基端部と中間部との2箇所に変位検出部5をそれぞれ設けたが、変位検出部5を3箇所以上設けても構わない。
【0050】
第5実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、変位検出部5をレバー部の基端部に設置しているのに対し、第5実施形態のカンチレバー51では、図6に示すように、レバー部2の支持端、すなわち本体部3の先端に変位検出部5の中心が位置するように設置している点である。また、第5実施形態では、導体電極部5bに接続される配線部56が半導体プロセスにより作製された積層構造とされており、レバー部2及び本体部3上に絶縁層56aを挟んだ一対の配線部56が連続して積層されている。
【0051】
したがって、第5実施形態のカンチレバー51では、レバー部2の支持端に変位検出部5の中心が位置するように設置しているので、撓んだレバー部2の力が、最も効果的に変位検出部5に作用することから、より大きなトンネル電流の変化を得ることができ、さらに高感度、高分解能で測定が可能になる。
【0052】
第6実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、本体部3に1本のレバー部2及びこれに設けられた1つの変位検出部5を備えているのに対し、第6実施形態のカンチレバー61では、図7に示すように、レバー部2の近傍に、変位検出部5と同じ構造のリファレンス部65が設けられている点である。すなわち、第6実施形態では、レバー部2に隣接して該レバー部2と同様の材質や層構造で構成されたリファレンス突出部62が本体部3から片持ち状態に支持され、該リファレンス突出部62の基端にリファレンス部65が形成されている。
【0053】
また、第6実施形態では、変位検出部5及びリファレンス部65の各導体電極部5bが、増幅回路17に代えてホイートストンブリッジ回路67に接続されている。
このホイートストンブリッジ回路67は、変位検出部5及びリファレンス部65に流れるトンネル電流を比較して差分を算出し、算出した差分の電流値に応じた出力信号を増幅した後、差分測定部16に出力するようになっている。つまり、この場合の変位検出機構10は、差分したトンネル電流の変化に基づいて、レバー部2の振動状態の変位を測定するようになっている。
【0054】
ここで、変位検出部5は、レバー部2の変位とは別に温度変化等によってもトンネル電流が変化してしまう。しかしながら、ホイートストンブリッジ回路67は、リファレンス部65側の導体電極部5bに流れるトンネル電流を参照しているので、温度変化等による不要なトンネル電流変化分をキャンセルすることができ、温度等の影響をなくすことができる。したがって、温度等の補償が可能になり、より高精度に試料Sを測定することができ、測定結果の信頼性を高めることができる。
【0055】
なお、変位検出部5及びリファレンス部65に接続されている4つの配線部6のうち、2つはグランド端子であるが、この部分を共通の配線部6となるように配線部6を途中で合流させても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
なお、補償用のリファレンス部65を用いる場合、リファレンス突出部62は、レバー部2よりも高い共振周波数を持つものを使用することが好ましい。このようにすることで、レバー部2の共振周波数以下でリファレンス突出部62が共振してしまうことを防止することができる。したがって、安定にした動作を行わせることができる。
また、リファレンス突出部62とレバー部2との厚みが同じ場合には、リファレンス突出部62の長さをレバー部2よりも短くすると良い。ただし、極端に短くしてしまうと、熱的な特性に差が出てしまうので、レバー部2の長さの1/5〜4/5の間に収まる長さにすると良い。
【0057】
このように第6実施形態のカンチレバー61では、レバー部2の近傍に、変位検出部5と同じ構造のリファレンス部65が設けられているので、変位検出部5とリファレンス部65とのトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化の差を検出することにより、温度、磁場、電場などの外的要因を補償して変位検出を行うことが可能になる。
【0058】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0059】
例えば、上記各実施形態では、本発明のカンチレバー及びカンチレバーシステムを採用した走査型プローブ顕微鏡について記載したが、その他の装置として、上記各実施形態のカンチレバー及びカンチレバーシステムを備えた吸着質量センサであっても構わない。
この場合、図1に示す上記走査型プローブ顕微鏡と同様の構造であるが、吸着質量センサとして装置を機能させる際、例えばカンチレバー1の探針2aに検出対象の物質と相互作用する物質を予め形成しておく。
【0060】
これにより、当該物質がレバー部に吸着又は付着した際に、レバー部の荷重変化に伴ってレバー部の振動周波数が変化することでレバー部が撓み、このときの撓み量(変位)に応じた変位検出部のトンネル電流の変化から吸着又は付着した物質の質量や飛来量を測定することができる。例えば、レバー部に気体中に含まれる特定のガス成分である有機化合物分子を吸着するポリマー薄膜をコーティングすることで、気体中の特定のガス成分を検出可能なガスセンサとして吸着質量センサを機能させることができる。
【0061】
より詳細な例としては、D−フェニルアラニン、ポリエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン等をターゲット材料として、レバー部の先端部表面に高周波スパッタ法によりプラズマ有機薄膜を吸着膜として形成し、所定温度で飽和蒸気圧に保持された水蒸気飽和層で飽和水蒸気圧となったガス試料をレバー部へ導き、所定の相対湿度にさせて有機薄膜表面の吸着水成分の状態を定常化させた後、レバー部の共振周波数を測定することで、口臭の原因となるppm以下の揮発性硫化物を検知かつ識別する吸着質量センサとすることも可能である。
【0062】
このように、本発明を採用した吸着質量センサによれば、自己変位検出型として光てこ方式に比べて簡易なカンチレバー構成で、レバー部に検出対象の物質が吸着した際の質量変化を高感度かつ高分解能に測定することができる。
なお、本発明のカンチレバー及びカンチレバーシステムを吸着質量センサとして採用する場合、レバー部の探針は必ずしも必要としない。
【0063】
また、上記各実施形態では、本発明のカンチレバーを振動させて測定を行う振動モードの走査型プローブ顕微鏡に採用したが、カンチレバーを振動させない走査型プローブ顕微鏡に本発明を採用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡並びに吸着質量センサの第1実施形態において、カンチレバーを示す要部断面図及び変位検出部の撓み前後の断面を示す概念図である。
【図2】第1実施形態において、走査型プローブ顕微鏡を示す全体の構成図である。
【図3】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第2実施形態において、カンチレバーを示す要部断面図及び変位検出部の撓み前後の断面を示す概念図である。
【図4】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第3実施形態において、カンチレバーを示す要部平面図である。
【図5】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第4実施形態において、カンチレバーを示す要部平面図である。
【図6】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第5実施形態において、カンチレバーを示す要部断面図である。
【図7】本発明に係るカンチレバー、カンチレバーシステム及びプローブ顕微鏡の第6実施形態において、カンチレバーを示す平面図とホイートストンブリッジ回路を示す回路図とを組み合わせた図である。
【符号の説明】
【0065】
1,21,31,41,51,61…カンチレバー、2a…探針、2,22…レバー部、3…本体部、5…変位検出部、5a…絶縁部、5b…導体電極部、7…電圧印加部、8…ステージ、9…移動機構、10…変位検出機構、11…カンチレバーシステム、12…カンチレバーホルダ、32a…分岐支持部、62…リファレンス突出部、65…リファレンス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板バネ特性を備えたレバー部と、
該レバー部をその基端側で支持する本体部と、
前記レバー部又は前記レバー部と前記本体部との間に設けられ絶縁部を挟んで電圧が印加されると共にトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定可能な間隔で離間した少なくとも一対の導体電極部を有する変位検出部と、を備えていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項2】
請求項1に記載のカンチレバーにおいて、
前記変位検出部が、層状の前記導体電極部及び前記絶縁部が積層されて形成されていると共に、前記レバー部の変位方向と前記レバー部の延在方向とを含む仮想平面に対して積層面が垂直に配設されていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカンチレバーにおいて、
前記変位検出部が、少なくとも2箇所に設けられていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項4】
請求項3に記載のカンチレバーにおいて、
前記変位検出部が、前記レバー部の延在方向の異なる複数箇所に設けられていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項5】
請求項3に記載のカンチレバーにおいて、
前記レバー部が、先端部から基端側に二股に分かれて延在する一対の分岐支持部を有し、
前記変位検出部が、前記一対の分岐支持部にそれぞれ設けられていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のカンチレバーにおいて、
前記レバー部の近傍に、前記変位検出部と同じ構造のリファレンス部が設けられていることを特徴とするカンチレバー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のカンチレバーと、
前記変位検出部に電圧を印加する電圧印加部と、
前記変位検出部に接続され前記導体電極部間に流れるトンネル電流の変化又はこれに伴う電気的変化を測定して前記レバー部の変位を検出する変位検出機構と、を備えていることを特徴とするカンチレバーシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のカンチレバーシステムを備えていることを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項7に記載のカンチレバーシステムを備えていることを特徴とする吸着質量センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−54310(P2010−54310A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218863(P2008−218863)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)