説明

カートリッジ式注射器

【課題】少量の内容物を一定量だけ注出するのに適し、少ない部品点数で生産性に優れたカートリッジ式注射器を提供する。
【解決手段】プランジャ30の外周面に設けられた先端側突起部36及び後端側突起部37の相互間で回転可能に保持されると共に通路22bに収納可能なスリーブ40を設け、外周面に、装填具20のスリット孔25に沿ってスリーブ40を進退させる突起部41を形成すると共に、その内周面に、プランジャ30に設けた後端側突起部37が合さることで、プランジャ30のみの押し込みを可能とするキー溝43を形成し、スリーブ40と装填具20との間に、スリーブ40の押し込みに対して復元力を与える弾性部材50を設け、シリンジ2の後端2bから突出させたピストン10の後端部13と、プランジャ30の先端部33とをそれぞれ、互いに着脱可能な嵌合形状に形作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容液の充填部分をカートリッジとして構成することで、使用時ごとに適宜交換可能なカートリッジ式注射器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のカートリッジ式注射器としては、ノズルを有する収納筒部(シリンジ)とピストンを備えるカートリッジを、本体筒(装填具)に装填した後、当該本体筒にロックパイプを嵌合させることで一体化させたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3747220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のカートリッジ式注射器は、カートリッジの収納筒部にノズルに通じる貫通孔を形成し、この貫通孔の後端部分にピストンを密嵌させる一方、ノズルの先端部分にキャップを密に被嵌させるものであって、その注出は、カートリッジのピストンを、操作ロッドで押し込むものにすぎない。このため、従来のカートリッジ式注射器では、内容液を外部から吸引して注射することができない。
【0005】
また、一般的には、ピストンの押し込みは、操作ロッドを介して直接押し込むだけで済むのに対し、その引き出しは、収納筒部を保持した状態で操作ロッドを引き出す必要がある。このため、内容液の吸引に際しては、その作業性に改善の余地がある。加えて、少量の内容液を注出する場合には、使用者が所望する分だけ、その注出量を適宜調整できることが好ましい。
【0006】
本発明の目的とするところは、内容液の充填交換を可能にしつつも、内容液を外部から容易に吸引することができ、その注出量の調整も容易な、新規のカートリッジ式注射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリンジと当該シリンジの貫通孔に摺動可能に保持されるピストン部材を備えるカートリッジと、当該カートリッジを装填する空間を有して当該空間に通じる通路が形成された装填具と、当該装填具の通路を通してピストン部材を押し込み可能なプランジャとを備えるカートリッジ式注射器であって、
プランジャの外周面に軸線方向に間隔を置いて設けられた先端側突起部及び後端側突起部の相互間で回転可能に保持されると共に装填具の通路に収納可能なスリーブ部材を設け、
当該スリーブ部材の外周面に、装填具に形成されたスリット孔に内側から合さって、当該スリット孔に沿ってスリーブ部材を進退させる突起部を形成すると共に、当該スリーブ部材の内周面に、プランジャに設けた後端側突起部が合さることで、当該プランジャのみの押し込みを可能とするキー溝を形成し、
スリーブ部材と装填具との間に、当該スリーブ部材の押し込みに対して復元力を与える弾性部材を設け、
シリンジの後端から突出させたピストン部材の後端部と、プランジャの先端部とをそれぞれ、互いに着脱可能な嵌合形状に形作ったことを特徴とするものである。
【0008】
ピストン部材の後端部と、プランジャの先端部とは、様々な嵌合形状を用いて連結することができるが、例えば、装填具に形成されたカートリッジの装填口を、当該装填具の先端から後端に向かって切り欠いた開口部で形作ると共に、ピストン部材の後端部を、フランジ部として構成する一方、プランジャの先端部に、フランジ部を引っ掛ける狭隘部を設けることができる。また、ピストン部材の後端部を、爪部を有する弾性舌片として構成する一方、プランジャの先端部に、爪部を引っ掛ける狭隘部を設けることもできる。
【0009】
また、スリーブ部材は、その外周面に、装填具に形成された溝部に内側から合さって、当該溝部に沿ってスリーブ部材をプランジャと共に進退させる縦リブを形成することもできる。更に、プランジャに設けた先端側突起部は、弾性片として構成することが好ましい。また、スリーブ部材に設けた突起部も、弾性片として構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ピストン部材の後端部をプランジャの先端部に嵌合させることで、ピストン部材をプランジャで進退させることができる。このため、ピストン部材の後端部をプランジャの先端部に嵌合させるという簡単な操作により、外部からの内容液の吸引が可能になる。
【0011】
また、プランジャは、スリーブ部材を介して装填具に対して弾性部材で保持されているため、プランジャを押し込んだ後に指を離すだけで、プランジャは初期位置に自動的に復帰する。このため、プランジャを押し込んだ後に指を離すだけの簡単な操作により、外部からの内容液の吸引を自動的に行うことができる。
【0012】
加えて、本発明では、プランジャを軸線周りに時計回り又は反時計回りに回すことで、その後端側突起部をキー溝に一致させれば、弾性部材によらずに、キー溝に沿ってプランジャのみを別途押し込むことができる。このため、使用者は、弾性部材の付勢力にかかわらず、プランジャの押し込み量を調整することで、所望する分だけの内容液を適宜注出することができる。
【0013】
従って、本発明によれば、内容液の充填交換を可能にしつつも、内容液を外部から容易に吸引することができ、その注出量の調整も容易な、新規のカートリッジ式注射器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、本発明である、カートリッジ式注射器の第1の形態に係るカートリッジであって、その使用前の流通時における状態を側面から示す一部断面図であり、(b)は、同形態に係るカートリッジに装着されるニードルパーツを側面から示す断面図である。
【図2】同形態に係る、カートリッジの使用時における状態を側面から示す一部断面図である。
【図3】同形態に係る、操作器具を側面から示す一部断面図である。
【図4】同形態に係る、装填具であって、(a),(b)はそれぞれ、装填具を上方から示す側面図及び、その底面図であり、(a)のA−A端面、B−B端面、C−C端面及びD−D端面を合わせて示す。
【図5】(a)は、同形態に係る、プランジャを示す側面図であり、(b)は、同形態に係る、スリーブ部材を示す側面図、(c)は、(b)の底面図である。
【図6】(a)は、同形態に係る、注射器であって、その初期状態及び吸引状態を上方から示す一部断面図であり、(b)は、そのE−E断面図である。
【図7】(a)は、同形態に係る、注射器であって、その第1の押し込み状態を上方から示す一部断面図であり、(b)は、そのF−F断面図である。
【図8】(a)は、同形態に係る、注射器であって、その第2の押し込み状態を上方から示す一部断面図であり、(b)は、そのG−G断面図である。
【図9】(a)は、本発明である、カートリッジ式注射器の第2の形態に係るカートリッジであって、その使用時における状態を側面から示す一部断面図であり、(b)は、その要部底面図である。
【図10】同形態に係る、注射器であって、その初期状態を上方から示す一部断面図である。
【図11】同形態に係る、注射器であって、その押し込み状態を上方から示す一部断面図である。
【図12】同形態に係る、注射器であって、その吸引状態を上方から示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明である、カートリッジ式注射器の様々な形態を詳細に説明する。
【0016】
図1〜図8は、本発明の第1の形態である。図1(a)中、符号1は、オーバーキャップCが装着された使い捨てのカートリッジであり、符号2は、内容液が充填された合成樹脂製のシリンジである。シリンジ2は、ウエスト(括れ部)をなす胴部3と、この胴部3よりも外径の小さい先端部4と、この胴部3よりも外径の大きい後端部5を有し、先端部4には、環状壁6を介して先端部4を取り囲む筒体部7が一体に設けられている。
【0017】
また、シリンジ2には、その内側に、先端2aに形成された開口部A1と後端2bに形成された開口部A2とを通じさせる貫通孔8が形成されている。貫通孔8は、先端部4で取り囲まれた小径孔8aと、胴部3及び後端部5で取り囲まれた大径孔8bとを有し、小径孔8aと大径孔8bとの間には、拡径孔8cが形成されている。拡径孔8cは、その斜面8fが小径孔8aから大径孔8bに向かって拡径する段部を形成する。
【0018】
符号10は、合成樹脂製のピストン部材である。ピストン部材10は、小径孔8aに摺動可能に保持されるピストン本体11を有し、このピストン本体11とシリンジ2との間に形成された空間Rに、外部から内容液を充填することができる。ピストン本体11には、ピストン部材10を案内する案内部12が一体に設けられている。案内部12は、ピストン本体11を取り囲む、4枚の薄い板状部材で構成されており、その一部は、大径孔8b内を通って開口部A2から露出している。
【0019】
また、案内部12の下端には、ピストン部材10の後端部13が一体に設けられている。後端部13は、フランジ部として形作られている。これにより、後端部13の後端10bがピストン部材10を押し込むための押圧部として機能する一方、ピストン本体11の先端10aが内容液を圧送する加圧面として機能する。
【0020】
加えて、案内部12には、斜辺10fが形成されている。この斜辺10fは、後端部13に向かって拡径する段部を形成し、シリンジ2の段部(拡径孔8cの斜面8f)に接触してピストン部材10の押し込みを規制する。即ち、シリンジ2の斜面8f及びピストン部材10の斜辺10fも、内容液を一定量だけ注出させるために、ピストン部材10の押し込みを規制するストッパとして機能する。かかる構成は、内容液を一定量だけ注出させるのに役立つ。なお、本発明に従えば、シリンジ2及びピストン部材10の段部(8f,10f)とは、傾斜面に限定されることなく、垂直な面で構成されたものも含む。また、本発明に従えば、ピストン部材10をシリンジ2内に押し込むときに、後端部13がシリンジ2の後端2bに接触することでも、その押し込み量を規制できる。
【0021】
符号15は、シリンジ2の先端部4に装着可能な、合成樹脂製のニードルパーツである。ニードルパーツ15は、図1(b)に示すように、ニードル16とニードルホルダ17からなる。ニードルホルダ17は、その下端に開口部A3を有し、この開口部A3を通して外界に通じさせる凹部17nが形成されている。これにより、ニードルホルダ17は、その開口部A3を通して、シリンジ2の先端部4を凹部17nに嵌合保持させることができる。
【0022】
更に、ニードルホルダ17には、シリンジ2の筒体部7の内側に形成されたねじ部7sに螺合するフランジ部17sが設けられている。フランジ部17sは、ねじ部として機能している。これにより、ニードルホルダ17をシリンジ2に螺合させることで、図2に示すように、カートリッジ1に対してニードルパーツ15を装着させることができる。
【0023】
次に、図3中の符号Iは、本発明に従うカートリッジ1を適用可能な操作器具の一例であり、符号20は、カートリッジ1を収納する合成樹脂製の装填具である。装填具20は、図4に示すように、軸線Oを取り囲む周壁21を有してその内側に貫通孔22を形成する。貫通孔22も、小径孔22aとこの小径孔22aよりも内径の大きな大径孔22bと、これらの間に形成される中径孔22cを有し、小径孔22aと中径孔22cとの間には、軸線Oに対して垂直(径方向)に延在する段差部22dが形成されている。
【0024】
また、周壁21には、カートリッジ1を装填するための装填口A4が形成されている。本形態では、装填口A4は、図4に示すように、装填具20の先端20aから中径孔22cまで軸線O方向に切り欠いた開口部で構成する。これにより、小径孔22a及び中径孔22cを形作る周壁21は、A−A端面で示すように、その断面形状がC字状をなす。
【0025】
また、軸線O方向では、D−D端面で示すように、凸部23を構成し、軸線O周りに延在する。即ち、小径孔22aを形作る周壁21の内周面は、中径孔22cを形作る周壁21の内周面よりも径方向内側に突出した円弧状の凸部23として構成される。このため、凸部23は、軸線O方向において、シリンジ2の胴部3に合さって、凸部23の前端(装填具20の先端20a)と、凸部23の後端(段差部22d)で、シリンダ2の環状壁6及び後端部5を規制して、シリンジ2が装填具20に対して軸線O方向に移動しないように、シリンジ2の軸線O方向に対する移動を阻止する。
【0026】
加えて、装填口A4を形作る周壁21のうち、シリンジ2の胴部3に対応する部分(胴部側周壁)21aは、A−A端面で示すように、その断面形状がC字状をなし、その相互間の隙間は、胴部3の外径よりも狭くなっている。これにより、シリンジ2の胴部3は、胴部側周壁21aの相互間に形成された隙間に押し込まれることで、当該周壁21aそれぞれに引っ掛かって係止される。このため、シリンジ2を装填口A4に押し込むだけの簡単な作業で、装填口A4を通して凸部23に嵌合させることができる。特に、本形態では、周壁21aの縁部側内周面に係止突起21pが設けられている。なお、符号24は、周壁21に設けられた指掛け部である。
【0027】
図3中の符号30は、装填具20内に収納されるプランジャである。プランジャ30は、装填具20の後端20bに形成された開口部A5を通して貫通孔22内に収納される。プランジャ30は、図5(a)に示すように、4枚の薄い板状部材31からなる十字断面形状のシャフトを構成し、その後端には、使用者が指で押圧する受圧部32が設けられている。
【0028】
また、プランジャ30は、装填口A4から突出する先端部33を有する。この先端部33には、ピストン部材10の後端部13を収納する凹部34と、ピストン部材10の案内部12を収納すると共に後端部13を引っ掛ける凹状の狭隘部35が設けられている。これにより、装填口A4を通してカートリッジ1を装填すると、ピストン部材10の後端部13がプランジャ30の先端部33に引っ掛かって係止されることで、ピストン部材10をプランジャ30で進退させることができる。なお、本発明に従えば、狭隘部35は、装填具20の胴部側周壁21aと同様の構成を採用することができる。
【0029】
更に、プランジャ30には、互いに軸線Oを挟んで対向する2枚の板状部材31にそれぞれ、軸線O方向に間隔を置いて、先端側突起部36及び後端側突起部37が設けられている。先端側突起部36は、後端に向かう従って広がる弾性片として構成されている。また、後端側突起部37は、板状部材31に形成された段差として構成されている。
【0030】
図3及び図5中、符号40は、貫通孔A6が形成された合成樹脂製のスリーブ部材である。スリーブ部材40の内径は、4枚の板状部材31からなる十字断面形状のシャフトを回転可能に保持する形状をなし、その先端40aが先端側突起部36との接触によって摺動可能に抜け止め保持されていると共に、その後端40bが後端側突起部37との接触によって摺動可能に抜け止め保持されている。これにより、スリーブ部材40は、図3に示すように、プランジャ30の外周面に軸線O方向に間隔を置いて設けられた先端側突起部36及び後端側突起部37の相互間で回転可能に保持される。
【0031】
また、スリーブ部材40の外径は、装填具20の通路(大径孔)22bに収納できる形状を有し、その外周面に、軸線Oを挟んで対向する位置にそれぞれ、2つの第1突起部41が形成されている。第1突起部41も、先端側突起部36と同様、後端に向かう従って広がる弾性片として構成され、装填具20に形成されたスリット孔25に内側から合さる。これにより、スリーブ部材40は、通路22b内をスリット孔25に沿って進退させることができ、その両側端面25eが第1突起部41と共にストッパとして機能する。
【0032】
加えて、スリーブ部材40の外周面には、突起部41から軸線O方向に間隔を置いて、4つの縦リブ42が形成されている。縦リブ42は、軸線O周りに間隔を置いて形成されている。縦リブ42はそれぞれ、図6(a)に示すように、装填具20に形成された溝部26に内側から合さる。これにより、スリーブ部材40は、通路22b内を溝部26に沿って進退させることができる。
【0033】
更に、スリーブ部材40の内周面には、図5(c)及び図7(b)に示すように、プランジャ30に設けた後端側突起部37が合さる4つのキー溝43が形成されている。キー溝43はそれぞれ、縦リブ42に対応するように、軸線O周りに間隔を置いて形成されている。キー溝43はそれぞれ、軸線Oに沿って延在する。これにより、プランジャ30は、スリーブ部材40に対して、軸線O周りに時計回り又は反時計回りに回転させることで、図8(b)に示すように、後端側突起部37がキー溝43に合さると、スリーブ部材40に対してキー溝43に沿って押し込むことができ、その先端側端縁37eがキー溝43の端面(突き当り面)43eに接触することで、キー溝43の端面43eと共にストッパとして機能する。
【0034】
また、符号50は、装填具20とスリーブ部材40との間に介在して、変形及び復元が可能な弾性部材である。弾性部材50は、スリーブ部材40の押し込みに対して復元力を与える。これにより、プランジャ30は、装填具20に対してプランジャ30を弾性部材50の弾性力に抗して押し込むと、弾性部材50の復元力により、自動的に初期の位置に復帰することができる。弾性部材50としては、例えば、コイルばねが挙げられるが、本発明に従えば、これに限定されるものではない。
【0035】
次に、本形態に係る、カートリッジ式注射器の操作について説明する。
【0036】
本形態では、使用者は、図1(a)に示す充填済みカートリッジ1からオーバーキャップCを取り外した後、ニードルパーツ15をねじ込むことで、図2に示すように、カートリッジ1にニードル16を装着する。
【0037】
次いで、図6に示すように、装填口A4を通して、ニードル付きカートリッジ1を装填具20内に収納する。シリンジ2は、その胴部3が装填口A4を形作る周壁21aの相互間に押し込まれることで、当該周壁21aそれぞれに引っ掛かって係止される。これにより、ニードル付きカートリッジ1は、装填口A4を閉じる部材を別途設けることなく、操作器具(装填具20)に取り付けることができる。
【0038】
このとき、同時に、ピストン部材10の後端部13が、装填口A4を通して露出するプランジャ30の先端部33に引っ掛かって係止されることで、ピストン部材10は、プランジャ30と一体化する。これにより、操作器具Iにカートリッジ1を装填するだけの簡単な作業で、ピストン部材10をプランジャ30で進退させることができる。なお、カートリッジ1は、胴部側周壁21aの縁部側内周面に係止突起21pを設けることで、胴部3に対する引っ掛かりを高めている。
【0039】
次に、アンプルに充填された内容液を吸引する等、外部から内容液を吸引するときは、以下のような操作を行う。
【0040】
先ず使用者は、図6(a)に示す状態にて、図6(b)に示すように、後端側突起部37がキー溝43に一致してないことを確認し、その後、プランジャ30を弾性部材50の付勢力に抗して図7(a)に示すように押し込む。次にこの状態のまま、ニードル16を内容液が充填されたアンプル等に挿し込んでプランジャ30の押し込みを解除すれば、ピストン部材10は、弾性部材50の復元力により、プランジャ30と共に図6(a)に示す初期の位置に自動的に復帰する。このとき、充填空間Rには負圧が生じることから、この負圧によって、内容液を充填空間R内に自動的に吸引することができる。
【0041】
実際に注入する段階では、以下の予備操作を行うことで、弾性部材50の付勢力の影響を受けることなく、プランジャ30の押し込み量を調整することができる。この場合、使用者は、プランジャ30を軸線O周りに時計回り又は反時計回りに回転させることで、図8(b)に示すように、後端側突起部37をキー溝43に一致させると、使用者は、図8(a)に示すように、弾性部材50の付勢力によらずに、キー溝43に沿ってプランジャ30のみを別途押し込むことができる。このため、使用者は、弾性部材50の付勢力にかかわらず、プランジャ30の押し込み量を調整することで、所望する分だけの内容液を適宜注出することができる。また、弾性部材50の付勢力が作用しないので、注出作業を途中で止めても、残りの分を改めて注出することができる。
【0042】
使用後は、シリンジ2の筒体部7を把持して、使用済みニードル付きカートリッジ1を外向きに引っ張ることで、操作器具Iから当該カートリッジ1のみを取り外すことができる。これにより、カートリッジ1を取り外した操作器具Iは、新たなニードル付きカートリッジ1を使用して繰り返し内容液を注入できる。
【0043】
更に、ニードルパーツ15は、カートリッジ1に対して軸線O周りに回してねじを緩めることで、カートリッジ1から取り外すことができる。これにより、ニードルパーツ15とカートリッジ1を分別廃棄することができる。カートリッジ1を廃棄するときには、図1(a)に示すように、オーバーキャップCを装着する。これにより、カートリッジ1を安全且つ衛生的に廃棄することができる。また、ニードルパーツ15については、従来と同様、ニードルホルダ17に別途オーバーキャップを装着すれば、安全且つ衛生的に分別廃棄することができる。
【0044】
なお、操作器具Iは、プランジャ30にスリーブ部材40の貫通孔A6を通して組み付けた後、このスリーブ部材40を備えたプランジャ30を装填具20の後端20bの開口部A5から挿入するだけの簡単な作業で、容易に組み立てることができる。
【0045】
特に、本形態では、プランジャ30に対して先端側突起部36を弾性片としたことで、この先端側突起部36が、プランジャ30をスリーブ部材40に挿入したとき弾性変形して、プランジャ30の押し込みを邪魔することなく、スリーブ部材40の上端40aに引っ掛かるため、後端側突起部37と共にスリーブ部材40を抜け止め保持できる。このため、プランジャ30とスリーブ部材40との組み付け作業を容易に行うことができる。
【0046】
また、スリーブ部材40に対しても第1突起部41を弾性片としたことで、この第1突起部41が、スリーブ部材40を装填具20に挿入したとき弾性変形して、スリーブ部材40の押し込みを邪魔することなく、スリット孔25の端面25eに引っ掛かるため、スリーブ部材40を抜け止め保持できる。このため、装填具20とスリーブ部材40を備えるプランジャ30との組み付け作業も容易に行うことができる。
【0047】
上述の通り、本形態では、ピストン部材10の後端部13をプランジャ30の先端部33に嵌合させることで、ピストン部材10をプランジャ30で進退させることができる。このため、ピストン部材10の後端部13をプランジャ30の先端部33に嵌合させるという簡単な操作により、外部からの内容液の吸引が可能になる。
【0048】
また、プランジャ30は、スリーブ部材40を介して装填具20に対して弾性部材50で保持されているため、プランジャ30を押し込んだ後に指を離すだけで、プランジャ30は初期の位置に自動的に復帰する。このため、プランジャ30を押し込んだ後に指を離すだけの簡単な操作により、外部からの内容液の吸引を自動的に行うことができる。
【0049】
加えて、本形態では、プランジャ30を軸線O周りに時計回り又は反時計回りに回すことで、その後端側突起部37をキー溝43に一致させれば、弾性部材40によらずに、キー溝43に沿ってプランジャ30のみを別途、キー溝端面43eまで押し込むことができる。このため、使用者は、弾性部材50の付勢力にかかわらず、プランジャ30の押し込み量を調整することで、所望する分だけの内容液を適宜注出することができる。
【0050】
従って、本形態によれば、内容液の充填交換を可能にしつつも、内容液を外部から容易に吸引することができ、その注出量の調整も容易な、新規のカートリッジ式注射器を提供することができる。
【0051】
ところで、上述の第1の形態では、ニードル16付きカートリッジ1をプランジャ30に連結した後、内容液の吸引を行っていたが、本発明に従えば、内容液の吸引操作と同時に、プランジャ30をピストン部材10に連結することができる。
【0052】
図9〜図12は、本発明の第2の形態である。なお、本形態において、第1の形態と同一の部分は、同一の符号をもって、その説明を省略する。
【0053】
本形態に係るカートリッジ1では、図9に示すように、ピストン部材10の後端部13を、変形及び復元の可能な複数の弾性舌片13aとして構成する。弾性舌片13aはそれぞれ、外向きの爪部13bを有し、軸線Oを取り囲むように配置されている。
【0054】
次に、本形態に係る、カートリッジ式注射器にて、カートリッジ1とプランジャ30の連結及び、内容液の吸引について説明する。なお、それ以外の操作については、第1の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0055】
本形態では先ず、第1の形態と同様に、図9に示すように、カートリッジ1にニードルパーツ15を取り付けた後、図10に示すように、開口部A4を通して操作器具Iに装填する。
【0056】
次いで、プランジャ30を弾性部材50の付勢力に抗して、先端側に向かって押し込むと、ピストン部材10の後端部10bは、プランジャ30の先端部33と接触する。このとき、外向きの爪部13bを有する弾性舌片13aに変形が生じることから、その爪部13bは狭隘部35を通って凹部34に至ると、この凹部34内で復元することで、ピストン部材10の後端部13がプランジャ30の先端部33に引っ掛かって係止される。これにより、ピストン部材10の後端部10bは、図11に示すように、プランジャ30の先端部33に一体に連結される。
【0057】
従って、図11に示す状態のままで、ニードル16を内容液が充填されたアンプル等に挿し込んでプランジャ30の押し込みを解除すれば、弾性部材50の復元力により、第1の形態と同様、内容液を充填空間R内に自動的に吸引することができる。これにより、カートリッジ1とプランジャ30の連結及び、内容液の吸引を容易に行うことができる。
【0058】
なお、本形態では、実質的にピストン部材10の後端部10bをプランジャ30の先端部33に圧入嵌合させるのと同様であるため、プランジャ30の先端部33に形成した狭隘部35を貫通孔として構成することも可能である。また、実際に注入する段階での操作は、第1の形態と同様である。
【0059】
上述したところは、本発明の一形態を示したにすぎず、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。例えば、装填口A4は、装填具20の先端20aから軸線Oに沿って切り欠いた形状とすることで、装填具20の先端20aを胴部3との引っ掛かりに利用しているが、これに限定されるものではない。例えば、周壁3の内周面に別途、環状の凸部23を設け、その部分に対応(対向)する位置に、装填口A4を形成すれば、装填具20の先端20aを胴部3との引っ掛かり使用する必要はない。この場合、筒体部7が装填具20内に収納されると、この筒体部7と共に、これに取り囲まれる先端部4の外径も更に小径化するため、更に、少量の注出が可能となる。また、ニードルパーツ15は、ニードル16に代えて、パイプやノズルを採用することができる。更に、本発明に従えば、各形態の構成要素は、各形態の相互間で転用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、シリンジと当該シリンジの貫通孔に摺動可能に保持されるピストン部材を備えるカートリッジと、当該カートリッジを装填する空間を有して当該空間に通じる通路が形成された装填具と、当該装填具の通路を通してピストン部材を押し込み可能なプランジャとを備えるカートリッジ式注射器であれば、様々なものに適用することができる。また、内容物の種類についても、限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1 カートリッジ
2 シリンジ
3 シリンジ胴部
4 シリンジ先端部
5 シリンジ後端部
6 環状壁
7 筒体部
7s ねじ部
8 貫通孔
8a 小径孔
8b 大径孔
8c 拡径孔
8f 斜面
10 ピストン部材
10a ピストン先端
10b ピストン後端
11 ピストン本体
12 案内部
12f 斜辺
13 ピストン後端部
15 ニードルパーツ
16 ニードル
17 ニードルホルダ
17s フランジ部(ねじ部)
20 装填具
20a 装填具先端
20b 装填具後端
21 装填具周壁
21a 胴部側周壁
21e 周壁縁部
21p 係止突起
22 貫通孔
22a 小径孔
22b 大径孔(通路)
22c 中径孔
22d 段部
23 凸部
25 スリット孔
25e スリット孔端面
30 プランジャ
30a プランジャ先端
30b プランジャ後端
31 板状部材
32 受圧部
33 プランジャ先端部
34 狭隘部
35 凹部
36 先端側突起部
37 後端側突起部
40 スリーブ部材
41 第1突起部
42 縦リブ
43 キー溝
43e キー溝端面
50 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジと当該シリンジの貫通孔に摺動可能に保持されるピストン部材を備えるカートリッジと、当該カートリッジを装填する空間を有して当該空間に通じる通路が形成された装填具と、当該装填具の通路を通してピストン部材を押し込み可能なプランジャとを備えるカートリッジ式注射器であって、
プランジャの外周面に軸線方向に間隔を置いて設けられた先端側突起部及び後端側突起部の相互間で回転可能に保持されると共に装填具の通路に収納可能なスリーブ部材を設け、
当該スリーブ部材の外周面に、装填具に形成されたスリット孔に内側から合さって、当該スリット孔に沿ってスリーブ部材を進退させる突起部を形成すると共に、当該スリーブ部材の内周面に、プランジャに設けた後端側突起部が合さることで、当該プランジャのみの押し込みを可能とするキー溝を形成し、
スリーブ部材と装填具との間に、当該スリーブ部材の押し込みに対して復元力を与える弾性部材を設け、
シリンジの後端から突出させたピストン部材の後端部と、プランジャの先端部とをそれぞれ、互いに着脱可能な嵌合形状に形作ったことを特徴とするカートリッジ式注射器。
【請求項2】
請求項1において、装填具に形成されたカートリッジの装填口を、当該装填具の先端から後端に向かって切り欠いた開口部で形作ると共に、ピストン部材の後端部を、フランジ部として構成する一方、プランジャの先端部に、フランジ部を引っ掛ける狭隘部を設けたことを特徴とするカートリッジ式注射器。
【請求項3】
請求項1において、ピストン部材の後端部を、爪部を有する弾性舌片として構成する一方、プランジャの先端部に、爪部を引っ掛ける狭隘部を設けたことを特徴とするカートリッジ式注射器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、スリーブ部材の外周面に、装填具に形成された溝部に内側から合さって、当該溝部に沿ってスリーブ部材をプランジャと共に進退させる縦リブを形成したことを特徴とするカートリッジ式注射器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、プランジャに設けた先端側突起部を弾性片として構成したことを特徴とするカートリッジ式注射器。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項において、スリーブ部材に設けた突起部を弾性片として構成したことを特徴とするカートリッジ式注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−249713(P2012−249713A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122894(P2011−122894)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】