カーボンナノチューブの処理方法、カーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブデバイス
【課題】金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとをより効果的にかつ大規模に分離することができるカーボンナノチューブを処理する方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブを高温の三酸化硫黄(SO3 )ガスで処理する。処理温度は385〜475℃、処理時間は10分〜2時間とする。処理時のSO3 ガスの分圧は8〜30%とする。カーボンナノチューブをSO3 ガスで処理した後、800〜1000℃で10〜30分アニールする。
【解決手段】カーボンナノチューブを高温の三酸化硫黄(SO3 )ガスで処理する。処理温度は385〜475℃、処理時間は10分〜2時間とする。処理時のSO3 ガスの分圧は8〜30%とする。カーボンナノチューブをSO3 ガスで処理した後、800〜1000℃で10〜30分アニールする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの処理方法、処理後のカーボンナノチューブ及び処理後のカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、一次元ナノ材料として、多くの優れた電気的、機械的及び化学的性質を有し、ますます関心が持たれている。このナノ材料に関する研究が継続されるにつれて、カーボンナノチューブの可能な様々の用途が次々と生まれている。例えば、カーボンナノチューブは、電子工学、光学、機械学、生命工学及びエコロジーの分野において応用可能であり、例えば、ナノ電界効果トランジスタ、電界放出源、水素貯蔵材料、高強力繊維、センサなどに用いることができる。
【0003】
カーボンナノチューブは、壁を構成する炭素原子層の数によって単層カーボンナノチューブ(SWNT)と多層カーボンナノチューブ(MWNT)に分類することができ、多層カーボンナノチューブは種々の直径を有する単層カーボンナノチューブを入れ子にすることにより形成されていると考えてもよい。研究及び応用においては単層カーボンナノチューブ及び原子層数の比較的少ない多層カーボンナノチューブはその優れた性能のため重要となる。
【0004】
また、カーボンナノチューブは、その伝導度によって金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブに分類することも可能であり、前者は、例えば電界放出源、電極材料などに用いることができ、後者は、例えばナノ電界効果トランジスタ、センサなどに使用することができる。非特許文献1において、サイトウらは、単層カーボンナノチューブの直径及びカイラル角により単層カーボンナノチューブの約1/3は金属性であり、その他の3/2は半導体性であると、理論的分析によって結論している。種々の調製条件、精製処理などのため、これら2種のカーボンナノチューブの比率は、実際の調製物では上記の理論値と厳密には一致しないことがある。炭素原子層数が増加するにつれて、カーボンナノチューブの金属性は次第に増大し、ついにはこのカーボンナノチューブは純粋に金属性となる。
【0005】
カーボンナノチューブを調製する従来の方法としては、グラファイトアーク放電法、化学気相蒸着法、レーザ蒸着法などが挙げられる。これらの方法により得られるカーボンナノチューブとしては一般に、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの両者の混成体が挙げられる。従って、こうした金属性及び半導体性カーボンナノチューブが応用されるための前提条件は、調製物中の互いに異なる伝導度を有するカーボンナノチューブを分離することである。このため、これらのカーボンナノチューブの分離は、研究における重要な主題の1つになっている。
【0006】
現在、金属性及び半導体性カーボンナノチューブ間の化学的、物理的性質の差違を利用してこれらのカーボンナノチューブを分離する多くの方法が提案されている。例えば、非特許文献2においてコリンズらは電気的破壊法を提案し、非特許文献3においてチュアンらは、金属性カーボンナノチューブを反応時にエッチングし、半導体性カーボンナノチューブを残すメタンプラズマ処理法を提案し、非特許文献4及び非特許文献5において、それぞれ、チェンら及びマエダらは選択的吸着法を提案し、非特許文献6においてクルッペらは電気泳動法を提案し、非特許文献7においてアーノルドらは密度勾配遠心分離法を提案した。
【0007】
【非特許文献1】サイトウほか、「マテリアル・サイエンス・エンジニアリング(Material Science and Engineering)」、1993年、B19:p.185−191
【非特許文献2】「電気的破壊を利用したカーボンナノチューブ及びナノチューブ回路の設計(Engineering Carbon Nanotubes and Nanotube Circuits Using Electrical Breakdown)」フィリップG.コリンズ(Philip G.Collins)ほか、サイエンス(Science)2001年、292:p.706−709
【非特許文献3】「気相反応による金属性カーボンナノチューブの選択的エッチング(Selective Etching of Metallic Carbon Nanotubes by Gas Phase Reaction)」グアンユー・チアン(Guangyu Zhang)ほか、サイエンス(Science)2006年11月10日号:p.974−977
【非特許文献4】「金属性又は半導体性SWNTにおける大量分離濃縮(BulkSeparative Enrichment in Metallic or Semiconducting SWNTs)」ザイホン・チェン(Zhihong Chen)ほか、ナノ・レターズ(Nano Lett.)2003年、3(9):p.1245−1249
【非特許文献5】「小直径SWNTの分散及び分離(Dispersion and separation of Small−Diameter SWNTs)」ユタカ・マエダ(Yutaka Maeda)ほか、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)2006年、128(37):p.12242
【非特許文献6】「半導体性SWNTからの金属性SWNTの分離(Separation of Metallic from Semiconducting SWNTs)」ラルフ・クルッペ(Ralph Krupke)ほか、サイエンス(Science)2003年7月18日号:p.344−347
【非特許文献7】「密度分別を利用した電子構造によるカーボンナノチューブの選別(Sorting carbon nanotubes by electronicstructure using density differentiation)」マイケルS.アーノルド(Michael S.Arnold)ほか、ネイチャー・ナノテクノロジー(Nat.Nanotechnol.)2006年、1:p.60−65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、それでもなお、カーボンナノチューブを処理してその特性をより効果的なものに改良する方法、例えば、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブをより効果的かつ大規模に分離する方法又は一定の直径を有するカーボンナノチューブを得る方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、選択的エッチングガスを用いてカーボンナノチューブを処理する方法を提供する。この処理は高温で行うことができる。この選択的エッチングガスは、カーボンナノチューブの特性に応じてカーボンナノチューブを選択的に除去することが可能であり、従ってこうした特性を有するカーボンナノチューブを濃縮させることができる。このようなカーボンナノチューブの特性としては導電性、カーボンナノチューブの直径などが挙げられる。上記選択的エッチングガスは、例えば三酸化硫黄(SO3 )ガス又は窒素酸化物(Nx Oy )ガスとすることができる。
【0010】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、このカーボンナノチューブをSO3 ガスを用いて高温で処理する。
【0011】
この高温は、好ましくは385〜475℃,より好ましくは400〜450℃、最も好ましくは410〜440℃の範囲、例えば413℃、425℃又は437℃とすることができる。
【0012】
処理時間は、好ましくは10分〜2時間、より好ましくは30分〜1時間の範囲、例えば45分とすることができる。
【0013】
好ましくは、上記処理を行う前に、カーボンナノチューブを実質的に無酸素の条件下で処理することができるように、例えば真空ポンプを用いて酸素を反応域外へ除去することができる。
【0014】
好ましくは、このSO3 による気相反応処理の後に、処理したカーボンナノチューブをさらにアニールすることにより残存カーボンナノチューブの壁面に吸着したSO3 を除去し、壁面の欠陥を修復するようにすることができる。このアニール処理は、好ましくは800〜1000℃の範囲の温度で実施することができ、その時間は10〜30分の範囲とすることができる。
【0015】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、処理したカーボンナノチューブは、好ましくは単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブとすることができる。さらに、好ましくは、この単層カーボンナノチューブの直径は、1nm未満とすることができる。
【0016】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、反応域中のSO3 ガスの分圧は8%〜30%であることが好ましい。
【0017】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法は、金属性カーボンナノチューブ、特に直径の小さいものの含量を増加させることによってカーボンナノチューブの導電性を効率的に制御することができるので、得られるカーボンナノチューブはカーボンナノチューブデバイスを作製するのに用いることができる。
【0018】
本発明の別の実施態様による処理方法では、カーボンナノチューブは窒素酸化物(Nx Oy )ガスを用い高温で処理する。この窒素酸化物(Nx Oy )ガスは、好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素又はこれらの混合気体とすることができる。
【0019】
本発明の第二の態様は、選択的エッチングガスで処理されているカーボンナノチューブを提供する。このカーボンナノチューブはSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【0020】
本発明の第三の態様は、選択的エッチングガスで処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイスを提供する。このカーボンナノチューブはSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【0021】
このカーボンナノチューブデバイスとしては、好ましくは、例えばカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源、トランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系(NEMS)、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ(例えば、高周波もしくは光バンド)、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ(例えば、ガス、グルコースもしくはイオン・センサ)又は触媒支持物質が含まれる。
【0022】
本発明の第四の態様は、平面分子ガスで処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイスを提供する。このカーボンナノチューブは、平面分子性を有するSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブ処理方法は少なくとも以下の利点を有する。第一に、金属性カーボンナノチューブ、特に直径の小さい金属性カーボンナノチューブの含有量が増加し、その結果として金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとが分離される。第二に、反応時の高温処理はアニール効果を有し、これによりカーボンナノチューブの壁面の官能基が除去され、カーボンナノチューブ面の欠陥が修復される。第三に、本発明の処理方法は、遠心分離などの煩雑な後処理を必要としない。第四に、この反応で無定形炭素などの不純物を除去し、従ってカーボンナノチューブを純化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に示した詳細な説明から、本発明の適用可能性の更なる範囲が明らかになる。しかしながら、本発明の精神及び範囲内で様々な変更や修正を加えることができることは下記の詳細な説明から当業者に明瞭に理解されるであろうから、詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施態様を示すものではあるが、もっぱら例証として示されるものであることは理解されよう。
【0025】
本発明は、以下に示す図面を伴った詳細な説明によってより完全に理解されることになるが、これらはもっぱら例証として示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0026】
次に、本発明の例示的実施形態について添付の図に基づき説明する。
【0027】
本発明の実施態様は、選択的エッチングガスを用いてカーボンナノチューブを処理する方法を提供するが、その方法は高温で実施することができる。この選択的エッチングガスは、カーボンナノチューブの特性に応じてカーボンナノチューブを選択的に処理することが可能であり、従ってこうした特性を有するカーボンナノチューブを濃縮させることができる。このようなカーボンナノチューブの特性としてはカーボンナノチューブの導電性、直径などが挙げられる。この処理によって金属性カーボンナノチューブの比率を高めたカーボンナノチューブを得ることができる。さらに、本発明の実施態様による処理方法は、カーボンナノチューブを純化して、カーボンナノチューブ作製時に生じることのある無定形炭素、炭素ナノ粒子その他のデブリなどの不純物を除去するのに用いることができる。この選択的エッチングガスとしては三酸化硫黄(SO3 )ガス又は窒素酸化物(Nx Oy )ガスが挙げられる。
【0028】
上記方法で得られる、金属性カーボンナノチューブの比率を高めたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブデバイス、例えばカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源などを製造するのに用いることができる。
【0029】
第一の実施態様
【0030】
本発明の第一の実施態様は、SO3 ガスを用い高温でカーボンナノチューブを処理する方法に関する。処理後のカーボンナノチューブ中の金属性カーボンナノチューブの割合はSO3 ガスを用いた高温処理によって増加し、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの分離が実現される。この第一の実施態様の方法では、直径の小さい金属性単層カーボンナノチューブが濃縮されることが好ましい。第一の実施態様の方法により処理したカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを用いた電気デバイス、例えば電界放出源、導線、高性能導電性膜、ナノ電極などを製造するのにより効率的に用いることができる。
【0031】
図1は、本発明の実施態様による方法を実施するのに用いる例示的な反応炉を示す。この反応炉100は、例えば在来のマッフル炉又はカーボンナノチューブを作製するのに用いる化学気相蒸着(CVD)炉である。本発明の実施態様によるこの処理方法は、反応炉が本発明の処理方法を実施することができるような基本構造を有する限り、使用される炉の種類に限定されない。
【0032】
反応炉100は炉体110及び反応室120を含み、この炉体110は反応室120の温度を制御する制御装置、加熱用抵抗線、温度測定用熱電対などを有する。この概して均一な温度を有する反応域は、例えば、装置が作動中の場合、反応室120の中央部で得ることができる。反応室120は、高温及びSO3 エッチングに対して抵抗性がある管、例えば、石英管などとすることができる。反応室120には前部に1カ所以上の入口140及び後部に1カ所以上の出口150が設けられている。さらに、処理対象のカーボンナノチューブを入れるための反応槽、例えば、石英ボート130も反応室120中に設けることができる。
【0033】
処理対象のカーボンナノチューブは、アーク放電法、CVD法、レーザ蒸着法などの従来の方法によって作製することができる。しかしながら、本発明はこれらのカーボンナノチューブの作製方法に限定されない。さらに、処理対象のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、又は二層カーボンナノチューブもしくはさらに多くの炭素原子層を有するカーボンナノチューブなどの多層カーボンナノチューブとすることができ、こうしたカーボンナノチューブとしては金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの両者の混成体を挙げることができる。
【0034】
先ず、処理対象のカーボンナノチューブは、凝集を低下させ石英ボート130との粘着力を増大させるために、溶媒、例えばエタノールを用いて分散させることができる。次に、この懸濁液を反応槽である石英ボート130へ移した後、乾燥、蒸発させてエタノールを除去することにより、さらに処理することが可能なカーボンナノチューブを得ることができる。しかしながら、この前処理は必要ではなく、処理対象のカーボンナノチューブ粉末が石英ボート130にしっかりと粘着することができるならば、上記前処理は簡略化又は省略することができる。
【0035】
前処理後のカーボンナノチューブを入れた石英ボート130は、反応室120の反応域(例えば、中央部)内に入れる。大気中の酸素(O2 )は高温下のカーボンナノチューブに対してアブレーション作用を有するので、反応室120内の酸素ガス(又は空気)を排除して実質的に酸素の無い環境を得ることが一般に必要である。このために、先ず、反応室120をポンプで排気して真空とし、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを充満させて常圧に戻す。反応室120内に元々あった空気及び水分を外へ排除することができるように、この工程を数回(例えば、3回)繰り返すことができる。Arの他に、他の不活性ガス、例えばヘリウム(He)、窒素(N2 )なども用いることができる。
【0036】
反応室120の反応域(中央部)の温度を上げて高温、例えば385〜475℃とした後、SO3 ガスを反応室120へ供給して、反応を、例えば10分乃至2時間継続させ、次いでSO3 ガスの反応室への供給を止める。この時点で、ガス処理は完了する。その後、不活性ガス雰囲気下又は反応室120を再度ポンプで排気し真空として、上記の気相反応処理後のCNTを室温まで自然に冷却させることができ、又はこの処理後のCNTをさらにアニールしてもよい。
【0037】
上記の本発明の実施態様による処理方法における高温は385〜475℃、好ましくは400〜450℃、より好ましくは410〜440℃の範囲、例えば413℃、425℃又は437℃とすることができる。この温度が385℃未満である場合、反応はゆっくりと進行する。温度が500℃を超える場合には、残存産物は少なく、これはSO3 ガスが分解して酸素を発生し始めたであろうとの事実によるものと考えられるが、このようにして発生した酸素が高温で処理したカーボンナノチューブに対しアブレーションを生じさせる。
【0038】
上記の本発明の実施態様による処理方法における反応時間は10分〜2時間、好ましくは30分〜1時間、例えば45分とすることができる。反応時間が10分未満であると、処理効果はあるが明瞭ではなく、反応時間が2時間を超えると、残存カーボンナノチューブが少なくなる。
【0039】
上記SO3 ガスは、油剤を通してバブリングさせたキャリアガスとしてのArなどの不活性ガスと共に供給することができ、また、当該分野で既知の他の方法、例えばSO2 ガスの酸化によって供給することも可能である。このSO3 ガスの反応域における分圧は、反応状態で好ましくは8%〜20%である。SO3 (及びキャリアガス)を供給するための反応室120の入口並びに空気を排除するためにArを供給するための入口は同じであってもよく、2カ所に分かれていてもよい。SO3 ガスの分圧は、その入口に設けた弁(図には示されていない)でSO3 ガスの流量を調整することにより制御することが可能である。
【0040】
反応が完了した後、同反応室120内でSO3 処理したカーボンナノチューブに対しアニールを行うことが可能である。アニール温度は800〜1000℃、例えば900℃、時間は10〜30分とすることができる。このアニールによって残存金属性カーボンナノチューブの壁に吸着したSO3 ガス分子を除去し、反応時に金属性カーボンナノチューブの壁面にSO3 ガスにより蝕刻された穴傷などの損傷を修復することが可能であり、従って、品質の向上した製品を得ることができる。
実施例1
【0041】
6mgのHiPcoSWNTをエタノール中に10分間分散させて凝集をなくし、不純物を除去する。次いで、この懸濁液を石英ボート130に移し、90℃で乾燥及び蒸発させてエタノールを除去することにより、さらに処理することになる単層カーボンナノチューブを得る。この乾燥単層カーボンナノチューブの入った石英ボート130を、径22mmの反応炉100を有する反応室120の中央部に入れる。反応室120は、ポンプで排気して10-3Torrの真空とした後、Arで常圧に戻す。このポンプでの排気及びAr充満の操作を3回繰り返して反応室120内の残余の空気及び水分を実質的に除去する。次に、反応室120を425℃まで急速に加熱した後、キャリアガスとしてのAr(120sccm)を油剤で満たした瓶(図には示されていない)内でバブリングしSO3 ガスを供給する。45分後にSO3 ガスの供給を止める。反応室120を再度ポンプで排気して真空とし、室温まで自然に冷却する。最終的に、処理反応を施した約2.4mgの残存単層カーボンナノチューブが得られる。
【0042】
ここで、処理に用いたHiPco−SWNTは、カーボン・ナノテクノロジーズ社(Carbon Nanotechnologies Inc.)(米国)から購入することができる。HiPcoSWNTは、触媒として鉄を用い、高温・高圧下での一酸化炭素の分解で調製されるが、金属性SWNTの割合は元々約37%である。
【0043】
試験及び分析
【0044】
上記実施例で得られた単層カーボンナノチューブの特性をラマンスペクトル及び可視−近赤外(near−IR)吸収スペクトルで試験し、分析する。
【0045】
ラマンスペクトルを実施する前に、試験結果への単層カーボンナノチューブの凝集状態の影響を除くため、ラマンスペクトルに用いる全てのサンプルは、先ず以下のように処理することができる。即ち、これらのサンプルをエタノール中で5分以上超音波処理した後、得られる懸濁液を採取し、ガラススライド上に滴らして風乾する。
【0046】
図2a−2dはこれらのサンプルのラマンスペクトルを示す(JY LabRam HR800)。これらのラマンスペクトルでは、カーボンナノチューブの直径及び(n、m)指数は全て、ストラーノ(Strano)によってマイケルS.ストラーノ(Michael S. Strano)ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)2003年、125:p.16148に発表された改良片浦プロットから決定する。この(n、m)指数はカイラルベクトルと呼ばれ、単層カーボンナノチューブの構造を決定するのに用いることができ、また、この指数を用いて単層カーボンナノチューブの導電性を決定することもできる。
【0047】
ラマンスペクトルには、単層カーボンナノチューブの特性散乱モードの1つに相当するラジアル−ブリーシングモード(RBM:Radial−Breathing Mode)が130〜350cm-1の低周波数に出現する。このRBMモードの周波数は単層カーボンナノチューブの直径に反比例し、その関係はω=223.75/d+6.5と表すことができる(例えば、リュー(Lyu)S.C.;リウ(Liu)B.C.;リー(Lee)T.J.;リウ(Liu)Z.Y.;ヤン(Yang)C.W.;パーク(Park)C.Y.;リー(Lee)C.J.、ケミカル・コミュニケーションズ(Chem.
Commun.)2003年、p.734参照)。式中、ωはcm-1を単位とするRBM周波数であり、dはnmを単位とする単層カーボンナノチューブの直径であり、また、凝集作用の影響も考慮された式である。130〜350cm-1のRBC周波数は0.6〜1.8nmの直径に相当する。しかしながら、1586cm-1の主ピーク(Gバンド)の左に出現する1552cm-1のショルダーピークは、グラファイトのE2gモードのスリットによるものである。さらに、このショルダーピークは単層カーボンナノチューブの特性散乱モードの1つでもある(例えば、A.カスヤ(Kasuya)、Y.ササキ(Sasaki)、Y.サイトー(Saito)、K.トージ(Tohji)、Y.ニシナ、フィジカル・レビュー・レターズ(Phys. Rev. Lett.)1997年、78:p.4433参照)。これらの特性ピークの他に、1320cm-1に出現するピークは欠陥によって誘発されるモード、即ち、Dバンドに相当し、これはサンプルに含まれる無定形炭素などの欠陥に相当する。さらに、このG/D比はSWNTの純度を評価するための指標であり、この比はSWNTの純度が増加するにつれて大きくなる(例えば、H.カタウラ(Kataura)、Y.クマザワ(Kumazawa)、Y.マニワ(Maniwa)、Y.オオツカ(Ohtsuka)、R.セン(Sen)、S.スズキ(Suzuki)、A.アチバ(Achiba)、カーボン(Carbon)2000年、38:p.1691参照)。
【0048】
図2a−2dにおいて、直径1.10nm未満(RBM周波数:約215−300cm-1)の単層カーボンナノチューブの場合、金属性SWNTが488nmの励起波長で検出される(図2a);633nmの励起波長を用いると、金属性SWNT(12,3)並びに半導体性SWNT(9,5)及び(11,1)がRBMピークを示す(図2c)。図2cから、直径1.10nm未満の半導体性SWNTはほぼ完全に除去されることが分かる。しかしながら、図2a及び2cから明らかなように、金属性SWNT(12,3)、(9,6)、(11,2)及び(8,5)は全て保存される。特に直径0.916nmの半導体性SWNT(11,1)は顕著に除去される(図2c)のに対し、直径が0.902nmよりわずかに小さい金属性SWNT(8,5)は出発SWNTとして保存される(図2a)。
【0049】
上記分析から、本発明の実施態様によるSO3 ガス処理は導電性及び直径選択性であることが分かる。さらに、この作用は、図2aにおける直径1.10nm超の半導体性SWNTから由来するピークの有意な減少及び図2cに示したような、その領域における金属性SWNTから由来するピークの残存強度によって確認することができる。
【0050】
さらに、図2dにおいて633nmの励起波長を用いて得られたGバンドはゆっくりとした減衰を示してスペクトルのベースラインに戻り(非対称ブライト−ウィグナー−フアノ(Breit−Wigner−Fano)(BWF)線形)、このことは上記共鳴半導体性SWNTが効果的に除去される事実と一致している。しかしながら、図2bにおいて488nmの励起波長を用いて得られたGバンドはシフトダウンを示し、このことからドナーからの荷電移動がSWNTに加わることが示唆される。図2dにおける半導体性SWNTを殆ど含有しない処理後のSWNTはこのGバンドのシフトダウンを示さない。図2bにおけるこのようなシフトダウンは、488nmの励起波長下での共鳴処理SWNT中の残存半導体性SWNTへのSO3 の選択的吸着によるものと考えられる。
【0051】
上記の比較により、本発明の実施態様による処理反応の考えられる原理は以下の通りであろうと推測される。SO3 の平面分子の構造は、以下の通りである。
【0052】
【化1】
【0053】
半導体性SWNTに対するSO3 分子の選択的吸着の原因は、π電子を有する平面SO3 分子の、より芳香性の半導体性SWNTとの優先的なπスタッキングからくると考えられる。従って、SO3 の分子は半導体性SWNTと選択的に吸着し、さらにこの半導体性SWNTの炭素原子壁と反応して破壊する。この破壊されたカーボンナノチューブは、先ず無定形炭素に変換され、次にこの無定形炭素はCO2 又はCOのようなガスに変換される。次いで、このガスは反応室120から排出される。一方、SO3 分子と金属性SWNTとの吸着は比較的弱く、高温ではより容易に脱着が生じ、アニールも起こる場合がある。最終的に、吸着と脱着の釣り合いは、高温で達成することができ、金属性SWTNの炭素原子壁が著しく破壊されることはないと考えられる。このガス反応時に、反応温度が475℃を超える、特に500℃を超えると、供給されたSO3 ガスは分解して酸素を発生し始め、この発生酸素はこの反応で全てのカーボンナノチューブに対してアブレーション作用を示し、これによりこの反応の収率の大きな低下がもたらされる。
【0054】
さらに、可視−近赤外吸収スペクトルを処理後の単層カーボンナノチューブに対して実施する(JASCO V−570)と、こうした試験からサンプル中の全てのカーボンナノチューブの導電性に関する情報を得ることができる。図3aは、出発単層カーボンナノチューブ及び処理後の単層カーボンナノチューブの吸収スペクトルを示すが、図3a及び3bの各ピークの意味については、ウー−ジェー・キム(Woo−Jae Kim)、モニカL.ウスレイ(Monica L.Usrey)、マイケルS.ストラーノ(Michael S.Strano)、ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chem.Mater.)2007年、19:p.1571を参照されたい。図3aでは、M11領域は金属性SWNTに相当し、S22及びS11領域は半導体性SWNTに相当する。図3aから、本発明の実施態様による処理後、処理されたSWNTのS11及びS22領域のピークの強度は著しく減少するが、M11領域のピークの強度は変化せず、このことは、半導体性SWNTは選択的に除去されるが、金属性SWNTは保存されることを意味することが分かる。
【0055】
導電性の異なるカーボンナノチューブに対する本発明の実施態様による処理の分離効率を測定するために、第1(S11)及び第2(S22)のファンホーヴェ特異点間の遷移に相当するそれぞれ1.1eV及び1.8eV近傍のピーク(図3b)の、ベースライン補正および直径範囲の指定を処理後のSWNTに対して行う。S11バンドはS22バンドより容易に乱されるので、先ず、図3bに破線長方形で記されている直径範囲を有する1.8eV付近のS22領域を用いて半導体性SWNTの除去効率を評価する。図3bから明らかなように、0.84乃至0.98nmの直径を有する半導体性SWNTに相当するピークはほぼ消失している。0.84nm未満の直径を有するカーボンナノチューブに関連づけられる2.0eV超のバンドギャップを有するS22領域がM11領域と重なるので、1.1eV近傍の破線長方形内にあるS11領域を用いて0.6nm〜0.84nmの直径を有する半導体性SWNTの除去効率を測定する。このS11領域のピークは著しく減少している。0.6乃至0.98nmの直径を有するSWNTでは、半導体性CNTは極めて効率的に除去されると結論することができる。
【0056】
これらの吸収ピークの相対面積への計算によれば、本発明の実施態様による方法では、1nm未満の直径を有する半導体性SWNTの約95%が除去される。一方、1nm超の直径を有する半導体性SWNTの場合、図2aのラマンスペクトルの相対強度から、この半導体性SWNTの割合は66%から34%に減少すると評価することができる。従って、全体として、半導体性SWNTの約75%が除去される。
【0057】
本発明の実施態様による方法では、金属性SWNTは処理後半導体性SWNTよりも多く保存され、この現象は従来の見解とは逆であり予想外の作用を生じる。従来の見解では、金属性SWNTが半導体性SWNTよりもフェルミ準位で大きな電子電荷密度を有するので、金属性SWNTは化学反応で活性がより高く、従ってより容易にエッチングされてなくなってしまう筈であると、一般に考えられている。しかしながら、SO3 ガスは気相反応において半導体性SWNTに選択的に吸着して半導体性SWNTをエッチングするので、金属性SWNTは、その代わりに気相反応においてより不活性であり保存される。
【0058】
第二の実施態様
【0059】
カーボンナノチューブ(CNT)ネットワーク、特にSWNTネットワークからなるCNT透明導電性フィルムは最近多くの注目を集めている。何故なら、直径、キラリティーなどの個々のCNTバリエーションが、多数のCNTを用いることによって全体として平均化され得るためである。このフィルムの導電性は、CNT間の接触抵抗、ネットワークの金属性CNT含量などの多くの因子によって決定され得る。従って、高い導電性を有するCNTフィルムを得るには、CNT間の接触抵抗をできる限り小さくすると共に、ネットワークの金属性CNT含量を増大させることが必要とされる。従って、CNT透明導電性フィルムは、本発明の実施態様による処理後のCNTを用いて製造することができる。
【0060】
本発明の第二の実施態様では、高温でSO3 ガスにより処理したCNTを用いてCNT透明導電性フィルムを作製し、その特性を試験、分析する。
【0061】
実施例2
【0062】
購入したままのHiPcoSWNTサンプル(カーボン・ナノテクノロジーズ社(Carbon Nanotechnologies Inc.)を出発原料として用いる。このSWNTサンプルを400°C及び425°CのSO3 ガスで処理する。このサンプル1mgをホーン超音波処理器((株)日本精機製作所製US−300T型)を用いて20分間50mlの1.0wt%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、バイオチェイン研究所社(Biochain Institute Inc.)製、Cat#Z5050012)水溶液に分散させる。次に、この溶液を25°Cで1時間50,000gで遠心分離機(シグマ社(Sigma)製、3K30C型)にかけ、溶液の上部の澄明部分を混合セルロースエステル膜フィルタ(ミリポア社(Millipore)製、GSWP02500、直径25mm、孔径0.22μm)により吸引濾過する。溶液が孔を通って落ちる時、CNTは膜フィルタの表面に捕捉され、CNTフィルムが形成される。このフィルム中の残存SDSは蒸留水で洗い流す。
【0063】
この膜フィルタを伴ったCNTフィルムを石英基板に接触させて置く。膜フィルタは上記フィルムを平坦に保つために多孔紙及び平面ガラス板でカバーしプレスされ、これらの紙及び板は、90℃、102 Pa(=1ミリバール)未満で1時間乾燥される。膜フィルタをアセトン中に浸漬することにより除去した後、CNTフィルムを150℃、102 Pa未満で5時間加熱してアセトンを除去すると共に上記基板へのこのフィルムの接着を向上させる。最後に、このフィルムを900℃、10-2Pa未満で30分間加熱する。
【0064】
得られたCNTフィルムのシート抵抗及び透過性について、それぞれ4−端子プローブ付抵抗値測定器(三菱化学社製LORESTA−EP MCP−T360及びMCP−TP06P)及び分光光度計(日立社製U−4000)を用いて測定する。ラマンスペクトルは473nmの励起波長で測定する(サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)製ニコレット・アルメガXP分散ラマン(Nicolet Almega XR dispersive Raman))。サンプルの形態は、加速電圧が3kVの走査電子顕微鏡(SEM、JEOL社製JSM−6700F)を用いて観察する。
【0065】
試験及び分析
【0066】
図4a−4cは、それぞれ、実施例2による各種段階のSWNTサンプルのSEM像を示す。図から明らかなように、出発SWNTサンプルは、主にSWNTのバンドルからなる(図4a)。SO3 処理後(図4b)も900℃でのアニール処理後(図4c)も形態に有意な変化は認められない。
【0067】
図5a−5cは、出発SWNTサンプル、SO3 で処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたサンプルのラマンスペクトルを示す。SWNTのRBMは、100乃至400cm-1の周波数で明白に観察することができる。473nmの励起波長を用いると、半導体性SWNTに由来するRBMが150乃至220cm-1(1.1<d<1.7nm)及び350乃至400cm-1(0.6<d<0.7nm)で検出することができる。直径1.3nmの半導体性SWNTに由来する198cm-1におけるRBMの強度はSO3 処理後に低下するが、このことはこうした半導体SWNTがSO3 ガスによって部分的に除去又は損傷を受ける結果、ラマンシグナルが消失することを意味している。このラマンスペクトルは、前記実施例1の光吸収の結果と一貫性がある。直径が小さいSWNTほどひずみエネルギーが高いので、このようなSWNTは反応性が高い。250cm-1超(d<1.0nm)におけるRBMの強度はSO3 処理後に低下する。
【0068】
900℃でのアニール処理後、198cm-1のピーク強度は再びある程度増加するが、金属性SWNTに由来するピークは不変のままである。このことから、900℃でのアニールはSO3 処理により部分的に損傷を受けた半導体性SWNTの一部を修復することがあるが、金属性SWNTはSO3 処理により殆ど損傷を受けず、従ってこうした金属性SWNTのピークは修復による増加を示さないことが示唆される。このことは、上述のように、半導体性SWNTがSO3 処理により選択的に損傷を受け、除去されるという事実に従っている。
【0069】
前述のように、1350cm-1のDバンド(I1350)に対する1590cm-1のGバンド(I1590)の強度比、G/D=I1590/I1350、はサンプル中のSWNTの含量及び純度のよい指標となり得、この値はSWNT含量の減少と共に及び/又は無定形炭素含量の増加と共に減少する。図6a−6cは、それぞれ、実施例2における出発SWNTサンプル、SO3 で処理したSWNTサンプル及び900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。図6a−6cから明らかなように、このG/D値はSO3 処理により19から27へ増加し、900℃でのアニール処理後、20まで減少する。このことから、無定形炭素の一部はSO3 処理時に除去されるが、導電性フィルムを作製するのに用いられる残存膜フィルタは900℃でのアニール処理時の吸着SO3 分子の分解に由来する酸素により炭化され、これによってサンプル中に新たな無定形炭素が導入されることが示唆される。このアニール処理は10-2Pa未満で行うので、生じる無定形炭素はアニール処理時に酸素によって除去することができず、その結果、G/D値が減少する。
【0070】
図7は実施例2における550nmでの透過性の関数としてのシート抵抗を示す。SO3 処理SWNTサンプルを用いて作製したCNTフィルムは出発サンプルから作製したものよりも比較的高いシート抵抗を示す。SO3 処理後、SWNTはSO3 分子で覆われ、従ってSWNT間の接触抵抗がSO3 分子の吸着のため増加し、その結果、シート抵抗が増加する。900℃でのアニール処理後、シート抵抗は著しく減少するが、その理由としては、吸着したSO3 分子がSWNT間の接触抵抗を低下させるアニールにより除去され、部分的に損傷を受けたSWNTが修復され、処理サンプル中に金属性SWNTが増加することが挙げられる。例えば、90%の透過性に対してシート抵抗は22400Ω/sq.から16300Ω/sq.へ低下する。一方、SO3 ガスにより処理した導電性フィルムの透過性は3パーセント減少するが、この透過性の減少は900℃でのアニール処理時に生じる無定形炭素によるものと考えられる。前述したように、導電性フィルムを作製するのに用いた残存膜フィルタは、高温でのSO3 分子の分解から生じた酸素のアブレーションにより無定形炭素を生じるので、この無定形炭素を効果的に除去すれば、シート抵抗をさらに低下させることができると期待される。
【0071】
従って、シート抵抗の大きい透明導電性フィルムは、本発明の第二の実施態様によるSO3 ガスで処理したカーボンナノチューブを用いて得られる。
【0072】
第三の実施態様
【0073】
本発明の第三の実施態様として、高温でSO3 により処理したカーボンナノチューブを用いて電界放出ディスプレイの電界放出源として役立つカーボンナノチューブフィルムを製造する。このカーボンナノチューブ薄膜の製造は以下のようにして行うことができる。
【0074】
本発明の実施態様に従って処理したカーボンナノチューブをエタノール中に超音波で5時間分散させた後、エタノールを蒸発により除去する。テルピレノールとセルロースとの質量比95%:5%の混合物を有機溶媒として用い、分散カーボンナノチューブと混合してシルクスクリーン印刷用のスラリーを製造する。このスラリーにおける上記溶媒とカーボンナノチューブとの質量比は、例えば3:2である。
【0075】
このスラリーをシルクスクリーン印刷によりガラス基板上に印刷して所望のパターンを形成した後、焼結する。続いて、この焼結したカーボンナノチューブを活性化する。先ず、このカーボンナノチューブフィルムの表面を軽く磨くかエッチングし、カーボンナノチューブの末端を露出させる;その後、カーボンナノチューブ面にイオンエッチングを行って電子放出能力を高めてもよい。カーボンナノチューブの薄膜の導電性を確実にするために、この印刷用スラリーに銀粉を添加することができる。
【0076】
電界放出ディスプレイでは、カーボンナノチューブは陰極としての機能を果たし、蛍光粉末の層をコーティングしたインジウムスズ酸化物(ITO)薄膜は陽極としての機能を果たす。この陰極と陽極は、これらの間に配置したバリアリブで約0.15mm互いに隔間されている。例えば、制御回路の制御下に、この陰極と陽極の間に高電圧をかけることができ、陰極としてのカーボンナノチューブから電子を放出させることが可能であり、放出された電子は陽極へ送り込まれ、蛍光層を活性化して像を表示する。
【0077】
本発明の実施態様による処理方法を用いると、導電性の異なるカーボンナノチューブの分離を行って金属性カーボンナノチューブを濃縮させることができ、従って、この濃縮された金属性カーボンナノチューブはさらに種々の電子デバイス、例えば導電性フィルム及び電界放出源に用いることができ、本発明による処理されたカーボンナノチューブを用いる他の種類のカーボンナノチューブデバイス、例えばトランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系(NEMS)、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ(例えば、高周波もしくは光バンド)、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ(例えば、ガス、グルコースもしくはイオン・センサ)又は触媒支持物質に用いることもできる。本発明の別の実施態様は上記処理CNTを用いたカーボンナノチューブの製造に関する。
【0078】
第四の実施態様
【0079】
本発明の第四の実施態様として、高温で窒素酸化物(Nx Oy )ガスを用いてカーボンナノチューブに対し選択的処理を行うが、これによって金属性及び半導体性カーボンナノチューブの分離が可能となる。この処理の実施態様に用いる装置は図1に示したのと同様とすることができる。窒素酸化物としては、亜酸化窒素(N2 O)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2 )、四酸化二窒素(N2 O4 )、五酸化窒素(N2 O5 )又はこれらの混合物、好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素又はこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
上記の説明は前記実施例で処理された単層カーボンナノチューブに関して行ったが、本発明の処理方法が多層カーボンナノチューブ、特に直径が小さく壁数が比較的少ない(例えば、2層又は3層の)多層カーボンナノチューブに対しても同じ作用を生じることになり、金属性多層カーボンナノチューブと半導体性多層カーボンナノチューブとの分離および異なる直径を有するカーボンナノチューブの選択的除去を可能にすることは、当業者に理解されよう。
【0081】
本発明を以上のように説明してきたが、本発明を多くの点で変更することができることは明白であろう。このような変更は本発明の精神及び範囲からの逸脱と見なされるべきではなく、また、当業者には自明であると思われるような全ての修正は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施態様による処理方法を実施するのに用いる例示的な反応装置である。
【図2a】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2b】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2c】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2d】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図3a】実施例1における処理後のSWNTの可視近赤外(vis−NIR:visible near−infrared)吸収スペクトルである。
【図3b】実施例1における処理後のSWNTの可視近赤外(vis−NIR:visible near−infrared)吸収スペクトルである。
【図4】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのSEM写真を示す。
【図5】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。
【図6】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。
【図7】実施例2における550nmでの透過性の関数としてのシート抵抗を示す。
【符号の説明】
【0083】
100 反応炉
110 炉体
120 反応室
140 入口
150 出口
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの処理方法、処理後のカーボンナノチューブ及び処理後のカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、一次元ナノ材料として、多くの優れた電気的、機械的及び化学的性質を有し、ますます関心が持たれている。このナノ材料に関する研究が継続されるにつれて、カーボンナノチューブの可能な様々の用途が次々と生まれている。例えば、カーボンナノチューブは、電子工学、光学、機械学、生命工学及びエコロジーの分野において応用可能であり、例えば、ナノ電界効果トランジスタ、電界放出源、水素貯蔵材料、高強力繊維、センサなどに用いることができる。
【0003】
カーボンナノチューブは、壁を構成する炭素原子層の数によって単層カーボンナノチューブ(SWNT)と多層カーボンナノチューブ(MWNT)に分類することができ、多層カーボンナノチューブは種々の直径を有する単層カーボンナノチューブを入れ子にすることにより形成されていると考えてもよい。研究及び応用においては単層カーボンナノチューブ及び原子層数の比較的少ない多層カーボンナノチューブはその優れた性能のため重要となる。
【0004】
また、カーボンナノチューブは、その伝導度によって金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブに分類することも可能であり、前者は、例えば電界放出源、電極材料などに用いることができ、後者は、例えばナノ電界効果トランジスタ、センサなどに使用することができる。非特許文献1において、サイトウらは、単層カーボンナノチューブの直径及びカイラル角により単層カーボンナノチューブの約1/3は金属性であり、その他の3/2は半導体性であると、理論的分析によって結論している。種々の調製条件、精製処理などのため、これら2種のカーボンナノチューブの比率は、実際の調製物では上記の理論値と厳密には一致しないことがある。炭素原子層数が増加するにつれて、カーボンナノチューブの金属性は次第に増大し、ついにはこのカーボンナノチューブは純粋に金属性となる。
【0005】
カーボンナノチューブを調製する従来の方法としては、グラファイトアーク放電法、化学気相蒸着法、レーザ蒸着法などが挙げられる。これらの方法により得られるカーボンナノチューブとしては一般に、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの両者の混成体が挙げられる。従って、こうした金属性及び半導体性カーボンナノチューブが応用されるための前提条件は、調製物中の互いに異なる伝導度を有するカーボンナノチューブを分離することである。このため、これらのカーボンナノチューブの分離は、研究における重要な主題の1つになっている。
【0006】
現在、金属性及び半導体性カーボンナノチューブ間の化学的、物理的性質の差違を利用してこれらのカーボンナノチューブを分離する多くの方法が提案されている。例えば、非特許文献2においてコリンズらは電気的破壊法を提案し、非特許文献3においてチュアンらは、金属性カーボンナノチューブを反応時にエッチングし、半導体性カーボンナノチューブを残すメタンプラズマ処理法を提案し、非特許文献4及び非特許文献5において、それぞれ、チェンら及びマエダらは選択的吸着法を提案し、非特許文献6においてクルッペらは電気泳動法を提案し、非特許文献7においてアーノルドらは密度勾配遠心分離法を提案した。
【0007】
【非特許文献1】サイトウほか、「マテリアル・サイエンス・エンジニアリング(Material Science and Engineering)」、1993年、B19:p.185−191
【非特許文献2】「電気的破壊を利用したカーボンナノチューブ及びナノチューブ回路の設計(Engineering Carbon Nanotubes and Nanotube Circuits Using Electrical Breakdown)」フィリップG.コリンズ(Philip G.Collins)ほか、サイエンス(Science)2001年、292:p.706−709
【非特許文献3】「気相反応による金属性カーボンナノチューブの選択的エッチング(Selective Etching of Metallic Carbon Nanotubes by Gas Phase Reaction)」グアンユー・チアン(Guangyu Zhang)ほか、サイエンス(Science)2006年11月10日号:p.974−977
【非特許文献4】「金属性又は半導体性SWNTにおける大量分離濃縮(BulkSeparative Enrichment in Metallic or Semiconducting SWNTs)」ザイホン・チェン(Zhihong Chen)ほか、ナノ・レターズ(Nano Lett.)2003年、3(9):p.1245−1249
【非特許文献5】「小直径SWNTの分散及び分離(Dispersion and separation of Small−Diameter SWNTs)」ユタカ・マエダ(Yutaka Maeda)ほか、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)2006年、128(37):p.12242
【非特許文献6】「半導体性SWNTからの金属性SWNTの分離(Separation of Metallic from Semiconducting SWNTs)」ラルフ・クルッペ(Ralph Krupke)ほか、サイエンス(Science)2003年7月18日号:p.344−347
【非特許文献7】「密度分別を利用した電子構造によるカーボンナノチューブの選別(Sorting carbon nanotubes by electronicstructure using density differentiation)」マイケルS.アーノルド(Michael S.Arnold)ほか、ネイチャー・ナノテクノロジー(Nat.Nanotechnol.)2006年、1:p.60−65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、それでもなお、カーボンナノチューブを処理してその特性をより効果的なものに改良する方法、例えば、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブをより効果的かつ大規模に分離する方法又は一定の直径を有するカーボンナノチューブを得る方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、選択的エッチングガスを用いてカーボンナノチューブを処理する方法を提供する。この処理は高温で行うことができる。この選択的エッチングガスは、カーボンナノチューブの特性に応じてカーボンナノチューブを選択的に除去することが可能であり、従ってこうした特性を有するカーボンナノチューブを濃縮させることができる。このようなカーボンナノチューブの特性としては導電性、カーボンナノチューブの直径などが挙げられる。上記選択的エッチングガスは、例えば三酸化硫黄(SO3 )ガス又は窒素酸化物(Nx Oy )ガスとすることができる。
【0010】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、このカーボンナノチューブをSO3 ガスを用いて高温で処理する。
【0011】
この高温は、好ましくは385〜475℃,より好ましくは400〜450℃、最も好ましくは410〜440℃の範囲、例えば413℃、425℃又は437℃とすることができる。
【0012】
処理時間は、好ましくは10分〜2時間、より好ましくは30分〜1時間の範囲、例えば45分とすることができる。
【0013】
好ましくは、上記処理を行う前に、カーボンナノチューブを実質的に無酸素の条件下で処理することができるように、例えば真空ポンプを用いて酸素を反応域外へ除去することができる。
【0014】
好ましくは、このSO3 による気相反応処理の後に、処理したカーボンナノチューブをさらにアニールすることにより残存カーボンナノチューブの壁面に吸着したSO3 を除去し、壁面の欠陥を修復するようにすることができる。このアニール処理は、好ましくは800〜1000℃の範囲の温度で実施することができ、その時間は10〜30分の範囲とすることができる。
【0015】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、処理したカーボンナノチューブは、好ましくは単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブとすることができる。さらに、好ましくは、この単層カーボンナノチューブの直径は、1nm未満とすることができる。
【0016】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法では、反応域中のSO3 ガスの分圧は8%〜30%であることが好ましい。
【0017】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブの処理方法は、金属性カーボンナノチューブ、特に直径の小さいものの含量を増加させることによってカーボンナノチューブの導電性を効率的に制御することができるので、得られるカーボンナノチューブはカーボンナノチューブデバイスを作製するのに用いることができる。
【0018】
本発明の別の実施態様による処理方法では、カーボンナノチューブは窒素酸化物(Nx Oy )ガスを用い高温で処理する。この窒素酸化物(Nx Oy )ガスは、好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素又はこれらの混合気体とすることができる。
【0019】
本発明の第二の態様は、選択的エッチングガスで処理されているカーボンナノチューブを提供する。このカーボンナノチューブはSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【0020】
本発明の第三の態様は、選択的エッチングガスで処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイスを提供する。このカーボンナノチューブはSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【0021】
このカーボンナノチューブデバイスとしては、好ましくは、例えばカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源、トランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系(NEMS)、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ(例えば、高周波もしくは光バンド)、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ(例えば、ガス、グルコースもしくはイオン・センサ)又は触媒支持物質が含まれる。
【0022】
本発明の第四の態様は、平面分子ガスで処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイスを提供する。このカーボンナノチューブは、平面分子性を有するSO3 ガスを用い高温で処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施態様によるカーボンナノチューブ処理方法は少なくとも以下の利点を有する。第一に、金属性カーボンナノチューブ、特に直径の小さい金属性カーボンナノチューブの含有量が増加し、その結果として金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとが分離される。第二に、反応時の高温処理はアニール効果を有し、これによりカーボンナノチューブの壁面の官能基が除去され、カーボンナノチューブ面の欠陥が修復される。第三に、本発明の処理方法は、遠心分離などの煩雑な後処理を必要としない。第四に、この反応で無定形炭素などの不純物を除去し、従ってカーボンナノチューブを純化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に示した詳細な説明から、本発明の適用可能性の更なる範囲が明らかになる。しかしながら、本発明の精神及び範囲内で様々な変更や修正を加えることができることは下記の詳細な説明から当業者に明瞭に理解されるであろうから、詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施態様を示すものではあるが、もっぱら例証として示されるものであることは理解されよう。
【0025】
本発明は、以下に示す図面を伴った詳細な説明によってより完全に理解されることになるが、これらはもっぱら例証として示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0026】
次に、本発明の例示的実施形態について添付の図に基づき説明する。
【0027】
本発明の実施態様は、選択的エッチングガスを用いてカーボンナノチューブを処理する方法を提供するが、その方法は高温で実施することができる。この選択的エッチングガスは、カーボンナノチューブの特性に応じてカーボンナノチューブを選択的に処理することが可能であり、従ってこうした特性を有するカーボンナノチューブを濃縮させることができる。このようなカーボンナノチューブの特性としてはカーボンナノチューブの導電性、直径などが挙げられる。この処理によって金属性カーボンナノチューブの比率を高めたカーボンナノチューブを得ることができる。さらに、本発明の実施態様による処理方法は、カーボンナノチューブを純化して、カーボンナノチューブ作製時に生じることのある無定形炭素、炭素ナノ粒子その他のデブリなどの不純物を除去するのに用いることができる。この選択的エッチングガスとしては三酸化硫黄(SO3 )ガス又は窒素酸化物(Nx Oy )ガスが挙げられる。
【0028】
上記方法で得られる、金属性カーボンナノチューブの比率を高めたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブデバイス、例えばカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源などを製造するのに用いることができる。
【0029】
第一の実施態様
【0030】
本発明の第一の実施態様は、SO3 ガスを用い高温でカーボンナノチューブを処理する方法に関する。処理後のカーボンナノチューブ中の金属性カーボンナノチューブの割合はSO3 ガスを用いた高温処理によって増加し、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの分離が実現される。この第一の実施態様の方法では、直径の小さい金属性単層カーボンナノチューブが濃縮されることが好ましい。第一の実施態様の方法により処理したカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを用いた電気デバイス、例えば電界放出源、導線、高性能導電性膜、ナノ電極などを製造するのにより効率的に用いることができる。
【0031】
図1は、本発明の実施態様による方法を実施するのに用いる例示的な反応炉を示す。この反応炉100は、例えば在来のマッフル炉又はカーボンナノチューブを作製するのに用いる化学気相蒸着(CVD)炉である。本発明の実施態様によるこの処理方法は、反応炉が本発明の処理方法を実施することができるような基本構造を有する限り、使用される炉の種類に限定されない。
【0032】
反応炉100は炉体110及び反応室120を含み、この炉体110は反応室120の温度を制御する制御装置、加熱用抵抗線、温度測定用熱電対などを有する。この概して均一な温度を有する反応域は、例えば、装置が作動中の場合、反応室120の中央部で得ることができる。反応室120は、高温及びSO3 エッチングに対して抵抗性がある管、例えば、石英管などとすることができる。反応室120には前部に1カ所以上の入口140及び後部に1カ所以上の出口150が設けられている。さらに、処理対象のカーボンナノチューブを入れるための反応槽、例えば、石英ボート130も反応室120中に設けることができる。
【0033】
処理対象のカーボンナノチューブは、アーク放電法、CVD法、レーザ蒸着法などの従来の方法によって作製することができる。しかしながら、本発明はこれらのカーボンナノチューブの作製方法に限定されない。さらに、処理対象のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、又は二層カーボンナノチューブもしくはさらに多くの炭素原子層を有するカーボンナノチューブなどの多層カーボンナノチューブとすることができ、こうしたカーボンナノチューブとしては金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの両者の混成体を挙げることができる。
【0034】
先ず、処理対象のカーボンナノチューブは、凝集を低下させ石英ボート130との粘着力を増大させるために、溶媒、例えばエタノールを用いて分散させることができる。次に、この懸濁液を反応槽である石英ボート130へ移した後、乾燥、蒸発させてエタノールを除去することにより、さらに処理することが可能なカーボンナノチューブを得ることができる。しかしながら、この前処理は必要ではなく、処理対象のカーボンナノチューブ粉末が石英ボート130にしっかりと粘着することができるならば、上記前処理は簡略化又は省略することができる。
【0035】
前処理後のカーボンナノチューブを入れた石英ボート130は、反応室120の反応域(例えば、中央部)内に入れる。大気中の酸素(O2 )は高温下のカーボンナノチューブに対してアブレーション作用を有するので、反応室120内の酸素ガス(又は空気)を排除して実質的に酸素の無い環境を得ることが一般に必要である。このために、先ず、反応室120をポンプで排気して真空とし、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを充満させて常圧に戻す。反応室120内に元々あった空気及び水分を外へ排除することができるように、この工程を数回(例えば、3回)繰り返すことができる。Arの他に、他の不活性ガス、例えばヘリウム(He)、窒素(N2 )なども用いることができる。
【0036】
反応室120の反応域(中央部)の温度を上げて高温、例えば385〜475℃とした後、SO3 ガスを反応室120へ供給して、反応を、例えば10分乃至2時間継続させ、次いでSO3 ガスの反応室への供給を止める。この時点で、ガス処理は完了する。その後、不活性ガス雰囲気下又は反応室120を再度ポンプで排気し真空として、上記の気相反応処理後のCNTを室温まで自然に冷却させることができ、又はこの処理後のCNTをさらにアニールしてもよい。
【0037】
上記の本発明の実施態様による処理方法における高温は385〜475℃、好ましくは400〜450℃、より好ましくは410〜440℃の範囲、例えば413℃、425℃又は437℃とすることができる。この温度が385℃未満である場合、反応はゆっくりと進行する。温度が500℃を超える場合には、残存産物は少なく、これはSO3 ガスが分解して酸素を発生し始めたであろうとの事実によるものと考えられるが、このようにして発生した酸素が高温で処理したカーボンナノチューブに対しアブレーションを生じさせる。
【0038】
上記の本発明の実施態様による処理方法における反応時間は10分〜2時間、好ましくは30分〜1時間、例えば45分とすることができる。反応時間が10分未満であると、処理効果はあるが明瞭ではなく、反応時間が2時間を超えると、残存カーボンナノチューブが少なくなる。
【0039】
上記SO3 ガスは、油剤を通してバブリングさせたキャリアガスとしてのArなどの不活性ガスと共に供給することができ、また、当該分野で既知の他の方法、例えばSO2 ガスの酸化によって供給することも可能である。このSO3 ガスの反応域における分圧は、反応状態で好ましくは8%〜20%である。SO3 (及びキャリアガス)を供給するための反応室120の入口並びに空気を排除するためにArを供給するための入口は同じであってもよく、2カ所に分かれていてもよい。SO3 ガスの分圧は、その入口に設けた弁(図には示されていない)でSO3 ガスの流量を調整することにより制御することが可能である。
【0040】
反応が完了した後、同反応室120内でSO3 処理したカーボンナノチューブに対しアニールを行うことが可能である。アニール温度は800〜1000℃、例えば900℃、時間は10〜30分とすることができる。このアニールによって残存金属性カーボンナノチューブの壁に吸着したSO3 ガス分子を除去し、反応時に金属性カーボンナノチューブの壁面にSO3 ガスにより蝕刻された穴傷などの損傷を修復することが可能であり、従って、品質の向上した製品を得ることができる。
実施例1
【0041】
6mgのHiPcoSWNTをエタノール中に10分間分散させて凝集をなくし、不純物を除去する。次いで、この懸濁液を石英ボート130に移し、90℃で乾燥及び蒸発させてエタノールを除去することにより、さらに処理することになる単層カーボンナノチューブを得る。この乾燥単層カーボンナノチューブの入った石英ボート130を、径22mmの反応炉100を有する反応室120の中央部に入れる。反応室120は、ポンプで排気して10-3Torrの真空とした後、Arで常圧に戻す。このポンプでの排気及びAr充満の操作を3回繰り返して反応室120内の残余の空気及び水分を実質的に除去する。次に、反応室120を425℃まで急速に加熱した後、キャリアガスとしてのAr(120sccm)を油剤で満たした瓶(図には示されていない)内でバブリングしSO3 ガスを供給する。45分後にSO3 ガスの供給を止める。反応室120を再度ポンプで排気して真空とし、室温まで自然に冷却する。最終的に、処理反応を施した約2.4mgの残存単層カーボンナノチューブが得られる。
【0042】
ここで、処理に用いたHiPco−SWNTは、カーボン・ナノテクノロジーズ社(Carbon Nanotechnologies Inc.)(米国)から購入することができる。HiPcoSWNTは、触媒として鉄を用い、高温・高圧下での一酸化炭素の分解で調製されるが、金属性SWNTの割合は元々約37%である。
【0043】
試験及び分析
【0044】
上記実施例で得られた単層カーボンナノチューブの特性をラマンスペクトル及び可視−近赤外(near−IR)吸収スペクトルで試験し、分析する。
【0045】
ラマンスペクトルを実施する前に、試験結果への単層カーボンナノチューブの凝集状態の影響を除くため、ラマンスペクトルに用いる全てのサンプルは、先ず以下のように処理することができる。即ち、これらのサンプルをエタノール中で5分以上超音波処理した後、得られる懸濁液を採取し、ガラススライド上に滴らして風乾する。
【0046】
図2a−2dはこれらのサンプルのラマンスペクトルを示す(JY LabRam HR800)。これらのラマンスペクトルでは、カーボンナノチューブの直径及び(n、m)指数は全て、ストラーノ(Strano)によってマイケルS.ストラーノ(Michael S. Strano)ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)2003年、125:p.16148に発表された改良片浦プロットから決定する。この(n、m)指数はカイラルベクトルと呼ばれ、単層カーボンナノチューブの構造を決定するのに用いることができ、また、この指数を用いて単層カーボンナノチューブの導電性を決定することもできる。
【0047】
ラマンスペクトルには、単層カーボンナノチューブの特性散乱モードの1つに相当するラジアル−ブリーシングモード(RBM:Radial−Breathing Mode)が130〜350cm-1の低周波数に出現する。このRBMモードの周波数は単層カーボンナノチューブの直径に反比例し、その関係はω=223.75/d+6.5と表すことができる(例えば、リュー(Lyu)S.C.;リウ(Liu)B.C.;リー(Lee)T.J.;リウ(Liu)Z.Y.;ヤン(Yang)C.W.;パーク(Park)C.Y.;リー(Lee)C.J.、ケミカル・コミュニケーションズ(Chem.
Commun.)2003年、p.734参照)。式中、ωはcm-1を単位とするRBM周波数であり、dはnmを単位とする単層カーボンナノチューブの直径であり、また、凝集作用の影響も考慮された式である。130〜350cm-1のRBC周波数は0.6〜1.8nmの直径に相当する。しかしながら、1586cm-1の主ピーク(Gバンド)の左に出現する1552cm-1のショルダーピークは、グラファイトのE2gモードのスリットによるものである。さらに、このショルダーピークは単層カーボンナノチューブの特性散乱モードの1つでもある(例えば、A.カスヤ(Kasuya)、Y.ササキ(Sasaki)、Y.サイトー(Saito)、K.トージ(Tohji)、Y.ニシナ、フィジカル・レビュー・レターズ(Phys. Rev. Lett.)1997年、78:p.4433参照)。これらの特性ピークの他に、1320cm-1に出現するピークは欠陥によって誘発されるモード、即ち、Dバンドに相当し、これはサンプルに含まれる無定形炭素などの欠陥に相当する。さらに、このG/D比はSWNTの純度を評価するための指標であり、この比はSWNTの純度が増加するにつれて大きくなる(例えば、H.カタウラ(Kataura)、Y.クマザワ(Kumazawa)、Y.マニワ(Maniwa)、Y.オオツカ(Ohtsuka)、R.セン(Sen)、S.スズキ(Suzuki)、A.アチバ(Achiba)、カーボン(Carbon)2000年、38:p.1691参照)。
【0048】
図2a−2dにおいて、直径1.10nm未満(RBM周波数:約215−300cm-1)の単層カーボンナノチューブの場合、金属性SWNTが488nmの励起波長で検出される(図2a);633nmの励起波長を用いると、金属性SWNT(12,3)並びに半導体性SWNT(9,5)及び(11,1)がRBMピークを示す(図2c)。図2cから、直径1.10nm未満の半導体性SWNTはほぼ完全に除去されることが分かる。しかしながら、図2a及び2cから明らかなように、金属性SWNT(12,3)、(9,6)、(11,2)及び(8,5)は全て保存される。特に直径0.916nmの半導体性SWNT(11,1)は顕著に除去される(図2c)のに対し、直径が0.902nmよりわずかに小さい金属性SWNT(8,5)は出発SWNTとして保存される(図2a)。
【0049】
上記分析から、本発明の実施態様によるSO3 ガス処理は導電性及び直径選択性であることが分かる。さらに、この作用は、図2aにおける直径1.10nm超の半導体性SWNTから由来するピークの有意な減少及び図2cに示したような、その領域における金属性SWNTから由来するピークの残存強度によって確認することができる。
【0050】
さらに、図2dにおいて633nmの励起波長を用いて得られたGバンドはゆっくりとした減衰を示してスペクトルのベースラインに戻り(非対称ブライト−ウィグナー−フアノ(Breit−Wigner−Fano)(BWF)線形)、このことは上記共鳴半導体性SWNTが効果的に除去される事実と一致している。しかしながら、図2bにおいて488nmの励起波長を用いて得られたGバンドはシフトダウンを示し、このことからドナーからの荷電移動がSWNTに加わることが示唆される。図2dにおける半導体性SWNTを殆ど含有しない処理後のSWNTはこのGバンドのシフトダウンを示さない。図2bにおけるこのようなシフトダウンは、488nmの励起波長下での共鳴処理SWNT中の残存半導体性SWNTへのSO3 の選択的吸着によるものと考えられる。
【0051】
上記の比較により、本発明の実施態様による処理反応の考えられる原理は以下の通りであろうと推測される。SO3 の平面分子の構造は、以下の通りである。
【0052】
【化1】
【0053】
半導体性SWNTに対するSO3 分子の選択的吸着の原因は、π電子を有する平面SO3 分子の、より芳香性の半導体性SWNTとの優先的なπスタッキングからくると考えられる。従って、SO3 の分子は半導体性SWNTと選択的に吸着し、さらにこの半導体性SWNTの炭素原子壁と反応して破壊する。この破壊されたカーボンナノチューブは、先ず無定形炭素に変換され、次にこの無定形炭素はCO2 又はCOのようなガスに変換される。次いで、このガスは反応室120から排出される。一方、SO3 分子と金属性SWNTとの吸着は比較的弱く、高温ではより容易に脱着が生じ、アニールも起こる場合がある。最終的に、吸着と脱着の釣り合いは、高温で達成することができ、金属性SWTNの炭素原子壁が著しく破壊されることはないと考えられる。このガス反応時に、反応温度が475℃を超える、特に500℃を超えると、供給されたSO3 ガスは分解して酸素を発生し始め、この発生酸素はこの反応で全てのカーボンナノチューブに対してアブレーション作用を示し、これによりこの反応の収率の大きな低下がもたらされる。
【0054】
さらに、可視−近赤外吸収スペクトルを処理後の単層カーボンナノチューブに対して実施する(JASCO V−570)と、こうした試験からサンプル中の全てのカーボンナノチューブの導電性に関する情報を得ることができる。図3aは、出発単層カーボンナノチューブ及び処理後の単層カーボンナノチューブの吸収スペクトルを示すが、図3a及び3bの各ピークの意味については、ウー−ジェー・キム(Woo−Jae Kim)、モニカL.ウスレイ(Monica L.Usrey)、マイケルS.ストラーノ(Michael S.Strano)、ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chem.Mater.)2007年、19:p.1571を参照されたい。図3aでは、M11領域は金属性SWNTに相当し、S22及びS11領域は半導体性SWNTに相当する。図3aから、本発明の実施態様による処理後、処理されたSWNTのS11及びS22領域のピークの強度は著しく減少するが、M11領域のピークの強度は変化せず、このことは、半導体性SWNTは選択的に除去されるが、金属性SWNTは保存されることを意味することが分かる。
【0055】
導電性の異なるカーボンナノチューブに対する本発明の実施態様による処理の分離効率を測定するために、第1(S11)及び第2(S22)のファンホーヴェ特異点間の遷移に相当するそれぞれ1.1eV及び1.8eV近傍のピーク(図3b)の、ベースライン補正および直径範囲の指定を処理後のSWNTに対して行う。S11バンドはS22バンドより容易に乱されるので、先ず、図3bに破線長方形で記されている直径範囲を有する1.8eV付近のS22領域を用いて半導体性SWNTの除去効率を評価する。図3bから明らかなように、0.84乃至0.98nmの直径を有する半導体性SWNTに相当するピークはほぼ消失している。0.84nm未満の直径を有するカーボンナノチューブに関連づけられる2.0eV超のバンドギャップを有するS22領域がM11領域と重なるので、1.1eV近傍の破線長方形内にあるS11領域を用いて0.6nm〜0.84nmの直径を有する半導体性SWNTの除去効率を測定する。このS11領域のピークは著しく減少している。0.6乃至0.98nmの直径を有するSWNTでは、半導体性CNTは極めて効率的に除去されると結論することができる。
【0056】
これらの吸収ピークの相対面積への計算によれば、本発明の実施態様による方法では、1nm未満の直径を有する半導体性SWNTの約95%が除去される。一方、1nm超の直径を有する半導体性SWNTの場合、図2aのラマンスペクトルの相対強度から、この半導体性SWNTの割合は66%から34%に減少すると評価することができる。従って、全体として、半導体性SWNTの約75%が除去される。
【0057】
本発明の実施態様による方法では、金属性SWNTは処理後半導体性SWNTよりも多く保存され、この現象は従来の見解とは逆であり予想外の作用を生じる。従来の見解では、金属性SWNTが半導体性SWNTよりもフェルミ準位で大きな電子電荷密度を有するので、金属性SWNTは化学反応で活性がより高く、従ってより容易にエッチングされてなくなってしまう筈であると、一般に考えられている。しかしながら、SO3 ガスは気相反応において半導体性SWNTに選択的に吸着して半導体性SWNTをエッチングするので、金属性SWNTは、その代わりに気相反応においてより不活性であり保存される。
【0058】
第二の実施態様
【0059】
カーボンナノチューブ(CNT)ネットワーク、特にSWNTネットワークからなるCNT透明導電性フィルムは最近多くの注目を集めている。何故なら、直径、キラリティーなどの個々のCNTバリエーションが、多数のCNTを用いることによって全体として平均化され得るためである。このフィルムの導電性は、CNT間の接触抵抗、ネットワークの金属性CNT含量などの多くの因子によって決定され得る。従って、高い導電性を有するCNTフィルムを得るには、CNT間の接触抵抗をできる限り小さくすると共に、ネットワークの金属性CNT含量を増大させることが必要とされる。従って、CNT透明導電性フィルムは、本発明の実施態様による処理後のCNTを用いて製造することができる。
【0060】
本発明の第二の実施態様では、高温でSO3 ガスにより処理したCNTを用いてCNT透明導電性フィルムを作製し、その特性を試験、分析する。
【0061】
実施例2
【0062】
購入したままのHiPcoSWNTサンプル(カーボン・ナノテクノロジーズ社(Carbon Nanotechnologies Inc.)を出発原料として用いる。このSWNTサンプルを400°C及び425°CのSO3 ガスで処理する。このサンプル1mgをホーン超音波処理器((株)日本精機製作所製US−300T型)を用いて20分間50mlの1.0wt%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、バイオチェイン研究所社(Biochain Institute Inc.)製、Cat#Z5050012)水溶液に分散させる。次に、この溶液を25°Cで1時間50,000gで遠心分離機(シグマ社(Sigma)製、3K30C型)にかけ、溶液の上部の澄明部分を混合セルロースエステル膜フィルタ(ミリポア社(Millipore)製、GSWP02500、直径25mm、孔径0.22μm)により吸引濾過する。溶液が孔を通って落ちる時、CNTは膜フィルタの表面に捕捉され、CNTフィルムが形成される。このフィルム中の残存SDSは蒸留水で洗い流す。
【0063】
この膜フィルタを伴ったCNTフィルムを石英基板に接触させて置く。膜フィルタは上記フィルムを平坦に保つために多孔紙及び平面ガラス板でカバーしプレスされ、これらの紙及び板は、90℃、102 Pa(=1ミリバール)未満で1時間乾燥される。膜フィルタをアセトン中に浸漬することにより除去した後、CNTフィルムを150℃、102 Pa未満で5時間加熱してアセトンを除去すると共に上記基板へのこのフィルムの接着を向上させる。最後に、このフィルムを900℃、10-2Pa未満で30分間加熱する。
【0064】
得られたCNTフィルムのシート抵抗及び透過性について、それぞれ4−端子プローブ付抵抗値測定器(三菱化学社製LORESTA−EP MCP−T360及びMCP−TP06P)及び分光光度計(日立社製U−4000)を用いて測定する。ラマンスペクトルは473nmの励起波長で測定する(サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)製ニコレット・アルメガXP分散ラマン(Nicolet Almega XR dispersive Raman))。サンプルの形態は、加速電圧が3kVの走査電子顕微鏡(SEM、JEOL社製JSM−6700F)を用いて観察する。
【0065】
試験及び分析
【0066】
図4a−4cは、それぞれ、実施例2による各種段階のSWNTサンプルのSEM像を示す。図から明らかなように、出発SWNTサンプルは、主にSWNTのバンドルからなる(図4a)。SO3 処理後(図4b)も900℃でのアニール処理後(図4c)も形態に有意な変化は認められない。
【0067】
図5a−5cは、出発SWNTサンプル、SO3 で処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたサンプルのラマンスペクトルを示す。SWNTのRBMは、100乃至400cm-1の周波数で明白に観察することができる。473nmの励起波長を用いると、半導体性SWNTに由来するRBMが150乃至220cm-1(1.1<d<1.7nm)及び350乃至400cm-1(0.6<d<0.7nm)で検出することができる。直径1.3nmの半導体性SWNTに由来する198cm-1におけるRBMの強度はSO3 処理後に低下するが、このことはこうした半導体SWNTがSO3 ガスによって部分的に除去又は損傷を受ける結果、ラマンシグナルが消失することを意味している。このラマンスペクトルは、前記実施例1の光吸収の結果と一貫性がある。直径が小さいSWNTほどひずみエネルギーが高いので、このようなSWNTは反応性が高い。250cm-1超(d<1.0nm)におけるRBMの強度はSO3 処理後に低下する。
【0068】
900℃でのアニール処理後、198cm-1のピーク強度は再びある程度増加するが、金属性SWNTに由来するピークは不変のままである。このことから、900℃でのアニールはSO3 処理により部分的に損傷を受けた半導体性SWNTの一部を修復することがあるが、金属性SWNTはSO3 処理により殆ど損傷を受けず、従ってこうした金属性SWNTのピークは修復による増加を示さないことが示唆される。このことは、上述のように、半導体性SWNTがSO3 処理により選択的に損傷を受け、除去されるという事実に従っている。
【0069】
前述のように、1350cm-1のDバンド(I1350)に対する1590cm-1のGバンド(I1590)の強度比、G/D=I1590/I1350、はサンプル中のSWNTの含量及び純度のよい指標となり得、この値はSWNT含量の減少と共に及び/又は無定形炭素含量の増加と共に減少する。図6a−6cは、それぞれ、実施例2における出発SWNTサンプル、SO3 で処理したSWNTサンプル及び900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。図6a−6cから明らかなように、このG/D値はSO3 処理により19から27へ増加し、900℃でのアニール処理後、20まで減少する。このことから、無定形炭素の一部はSO3 処理時に除去されるが、導電性フィルムを作製するのに用いられる残存膜フィルタは900℃でのアニール処理時の吸着SO3 分子の分解に由来する酸素により炭化され、これによってサンプル中に新たな無定形炭素が導入されることが示唆される。このアニール処理は10-2Pa未満で行うので、生じる無定形炭素はアニール処理時に酸素によって除去することができず、その結果、G/D値が減少する。
【0070】
図7は実施例2における550nmでの透過性の関数としてのシート抵抗を示す。SO3 処理SWNTサンプルを用いて作製したCNTフィルムは出発サンプルから作製したものよりも比較的高いシート抵抗を示す。SO3 処理後、SWNTはSO3 分子で覆われ、従ってSWNT間の接触抵抗がSO3 分子の吸着のため増加し、その結果、シート抵抗が増加する。900℃でのアニール処理後、シート抵抗は著しく減少するが、その理由としては、吸着したSO3 分子がSWNT間の接触抵抗を低下させるアニールにより除去され、部分的に損傷を受けたSWNTが修復され、処理サンプル中に金属性SWNTが増加することが挙げられる。例えば、90%の透過性に対してシート抵抗は22400Ω/sq.から16300Ω/sq.へ低下する。一方、SO3 ガスにより処理した導電性フィルムの透過性は3パーセント減少するが、この透過性の減少は900℃でのアニール処理時に生じる無定形炭素によるものと考えられる。前述したように、導電性フィルムを作製するのに用いた残存膜フィルタは、高温でのSO3 分子の分解から生じた酸素のアブレーションにより無定形炭素を生じるので、この無定形炭素を効果的に除去すれば、シート抵抗をさらに低下させることができると期待される。
【0071】
従って、シート抵抗の大きい透明導電性フィルムは、本発明の第二の実施態様によるSO3 ガスで処理したカーボンナノチューブを用いて得られる。
【0072】
第三の実施態様
【0073】
本発明の第三の実施態様として、高温でSO3 により処理したカーボンナノチューブを用いて電界放出ディスプレイの電界放出源として役立つカーボンナノチューブフィルムを製造する。このカーボンナノチューブ薄膜の製造は以下のようにして行うことができる。
【0074】
本発明の実施態様に従って処理したカーボンナノチューブをエタノール中に超音波で5時間分散させた後、エタノールを蒸発により除去する。テルピレノールとセルロースとの質量比95%:5%の混合物を有機溶媒として用い、分散カーボンナノチューブと混合してシルクスクリーン印刷用のスラリーを製造する。このスラリーにおける上記溶媒とカーボンナノチューブとの質量比は、例えば3:2である。
【0075】
このスラリーをシルクスクリーン印刷によりガラス基板上に印刷して所望のパターンを形成した後、焼結する。続いて、この焼結したカーボンナノチューブを活性化する。先ず、このカーボンナノチューブフィルムの表面を軽く磨くかエッチングし、カーボンナノチューブの末端を露出させる;その後、カーボンナノチューブ面にイオンエッチングを行って電子放出能力を高めてもよい。カーボンナノチューブの薄膜の導電性を確実にするために、この印刷用スラリーに銀粉を添加することができる。
【0076】
電界放出ディスプレイでは、カーボンナノチューブは陰極としての機能を果たし、蛍光粉末の層をコーティングしたインジウムスズ酸化物(ITO)薄膜は陽極としての機能を果たす。この陰極と陽極は、これらの間に配置したバリアリブで約0.15mm互いに隔間されている。例えば、制御回路の制御下に、この陰極と陽極の間に高電圧をかけることができ、陰極としてのカーボンナノチューブから電子を放出させることが可能であり、放出された電子は陽極へ送り込まれ、蛍光層を活性化して像を表示する。
【0077】
本発明の実施態様による処理方法を用いると、導電性の異なるカーボンナノチューブの分離を行って金属性カーボンナノチューブを濃縮させることができ、従って、この濃縮された金属性カーボンナノチューブはさらに種々の電子デバイス、例えば導電性フィルム及び電界放出源に用いることができ、本発明による処理されたカーボンナノチューブを用いる他の種類のカーボンナノチューブデバイス、例えばトランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系(NEMS)、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ(例えば、高周波もしくは光バンド)、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ(例えば、ガス、グルコースもしくはイオン・センサ)又は触媒支持物質に用いることもできる。本発明の別の実施態様は上記処理CNTを用いたカーボンナノチューブの製造に関する。
【0078】
第四の実施態様
【0079】
本発明の第四の実施態様として、高温で窒素酸化物(Nx Oy )ガスを用いてカーボンナノチューブに対し選択的処理を行うが、これによって金属性及び半導体性カーボンナノチューブの分離が可能となる。この処理の実施態様に用いる装置は図1に示したのと同様とすることができる。窒素酸化物としては、亜酸化窒素(N2 O)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2 )、四酸化二窒素(N2 O4 )、五酸化窒素(N2 O5 )又はこれらの混合物、好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素又はこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
上記の説明は前記実施例で処理された単層カーボンナノチューブに関して行ったが、本発明の処理方法が多層カーボンナノチューブ、特に直径が小さく壁数が比較的少ない(例えば、2層又は3層の)多層カーボンナノチューブに対しても同じ作用を生じることになり、金属性多層カーボンナノチューブと半導体性多層カーボンナノチューブとの分離および異なる直径を有するカーボンナノチューブの選択的除去を可能にすることは、当業者に理解されよう。
【0081】
本発明を以上のように説明してきたが、本発明を多くの点で変更することができることは明白であろう。このような変更は本発明の精神及び範囲からの逸脱と見なされるべきではなく、また、当業者には自明であると思われるような全ての修正は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施態様による処理方法を実施するのに用いる例示的な反応装置である。
【図2a】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2b】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2c】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図2d】実施例1における処理後のSWNTのラマンスペクトルである。
【図3a】実施例1における処理後のSWNTの可視近赤外(vis−NIR:visible near−infrared)吸収スペクトルである。
【図3b】実施例1における処理後のSWNTの可視近赤外(vis−NIR:visible near−infrared)吸収スペクトルである。
【図4】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのSEM写真を示す。
【図5】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。
【図6】実施例2における、それぞれ、出発SWNTサンプル、SO3 処理したSWNTサンプル及びさらに900℃でアニールしたSWNTサンプルのラマンスペクトルを示す。
【図7】実施例2における550nmでの透過性の関数としてのシート抵抗を示す。
【符号の説明】
【0083】
100 反応炉
110 炉体
120 反応室
140 入口
150 出口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の三酸化硫黄ガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【請求項2】
前記高温が385〜475℃の範囲にある請求項1の方法。
【請求項3】
前記高温が400〜450℃の範囲にある請求項2の方法。
【請求項4】
前記処理が10分〜2時間行われる請求項2の方法。
【請求項5】
前記処理が30分〜1時間行われる請求項4の方法。
【請求項6】
三酸化硫黄ガスで処理された前記カーボンナノチューブに対してアニールを行うこと
をさらに含む請求項1の方法。
【請求項7】
前記アニールが800〜1000℃の範囲のアニール温度で行われる請求項6の方法。
【請求項8】
前記アニールが10分〜30分間行われる請求項6の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである請求項1の方法。
【請求項10】
前記三酸化硫黄ガスを供給するためのキャリアガスとして不活性ガスが用いられる請求項1の方法。
【請求項11】
前記三酸化硫黄ガスの分圧が前記処理時に8%〜30%である請求項1の方法。
【請求項12】
請求項1の方法で処理されているカーボンナノチューブ。
【請求項13】
請求項1の方法で処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイス。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブデバイスがカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源、トランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ又は触媒支持物質を包含する請求項13のカーボンナノチューブデバイス。
【請求項15】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の選択的エッチングガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【請求項16】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の平面分子ガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【請求項1】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の三酸化硫黄ガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【請求項2】
前記高温が385〜475℃の範囲にある請求項1の方法。
【請求項3】
前記高温が400〜450℃の範囲にある請求項2の方法。
【請求項4】
前記処理が10分〜2時間行われる請求項2の方法。
【請求項5】
前記処理が30分〜1時間行われる請求項4の方法。
【請求項6】
三酸化硫黄ガスで処理された前記カーボンナノチューブに対してアニールを行うこと
をさらに含む請求項1の方法。
【請求項7】
前記アニールが800〜1000℃の範囲のアニール温度で行われる請求項6の方法。
【請求項8】
前記アニールが10分〜30分間行われる請求項6の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである請求項1の方法。
【請求項10】
前記三酸化硫黄ガスを供給するためのキャリアガスとして不活性ガスが用いられる請求項1の方法。
【請求項11】
前記三酸化硫黄ガスの分圧が前記処理時に8%〜30%である請求項1の方法。
【請求項12】
請求項1の方法で処理されているカーボンナノチューブ。
【請求項13】
請求項1の方法で処理されているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブデバイス。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブデバイスがカーボンナノチューブ導電性膜、電界放出源、トランジスタ、導線、スピン伝導デバイス、ナノ電気機械系、ナノカンチレバー、量子計算デバイス、発光ダイオード、太陽電池、表面電界ディスプレイ、フィルタ、薬物送達システム、宇宙エレベータ、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、燃料電池、センサ又は触媒支持物質を包含する請求項13のカーボンナノチューブデバイス。
【請求項15】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の選択的エッチングガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【請求項16】
カーボンナノチューブを処理する方法であって、
高温の平面分子ガスで前記カーボンナノチューブを処理すること
を含む方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−132605(P2009−132605A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300320(P2008−300320)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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