カーボンナノチューブフィルム、及び超酸導入分散によるカーボンナノチューブフィルムの製造方法
カーボンナノチューブ(CNT)の薄膜を形成する新規な方法を提供する。カーボンナノチューブを超酸中に分散させ、この分散液組成物を基体上に付着させて、導電性で且つ透明なCNT網状体膜を製造する。超酸は脱プロトン化したアニオンの形態であり永久双極子モーメントを有する。超酸は純粋な超酸であるか又は追加の溶媒を含む。好ましくは、超酸溶液は酸化剤を含まない。さらに、高度に導電性で透明なカーボンナノチューブ(CNT)の薄膜も記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ(CNT)フィルム、及び超酸導入分散によるカーボンナノチューブフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)網状体は、溶液処理と可撓性が重要であるインジウム錫酸化物のような透明で導電性の金属酸化物に代替する可能性を有する。カーボンナノチューブは、その分散体を組成し次いでそれを溶液処理法により基体へ塗布することにより、種々の基体上に良好な接着力で可撓性のナノチューブ網状体を形成することができる。本発明のナノチューブ網状体は一次的には二次元性質を有し、数μmから数mの範囲で平面状に延びており、厚さは数nmから数百nmの範囲にある。
【0003】
薄い透明導体に対する性能指数(FOM)はそのバルクの導電率に比例し、その吸収係数に反比例する。CNT網状体はマット状のCNTより成る複合構造を有する。この場合に導電率と吸収係数はナノチューブの固有の特性、網状体の形態(morphology)、及びナノチューブ同士間の抵抗により影響される。例えば、バルクの導電率は個々のナノチューブの導電率のみならず、種々の形の接合部の抵抗からの寄与にも依存する。バルクの吸収係数は存在する種(典型的にはCNTと空気)の吸収係数と各成分の体積分率により決定される。導電率と性能指数は解束(束をほぐしてばらばらにすること)した形態と長いチューブ長とを有するCNT網状体を達成することにより向上する。
【0004】
薄膜に対しては、シート抵抗はしばしば導電率の最も関連性の高い尺度である。シート抵抗はバルクの導電率とフィルム厚さの関数である。シート抵抗は典型的には膜厚の増大と共に減少する。
【0005】
ナノチューブの電気的特性を損なうことなくCNTを解束して分散させることには困難が残る。一般にコロイド粒子の分散は吸引性のファンデルワールス相互作用、クーロン斥力または引力、及び溶媒和若しくは吸着層に起因する斥力相互作用に依存する。それらの長い長さ、高度な異方性、及び溶剤との貧弱な相容性のため、CNTの間の粒子間吸引ポテンシャルは大きい。CNTは、CNT間結合エネルギーが500meV/nm程度であるために、整列したチューブ間が凝集しやすい。CNTを分散させるための多くの方法が提案されている。典型的にはこれらの方法は大きいナノチューブ束を分散させるが、束中の個々のチューブの電気的及び形状的な構造はかなり変化を受ける。
【0006】
CNTの共有結合変性が、その官能性に依存して分散を達成するために使用されている。適当な条件下には高度の束状化が観測されている。しかし共有結合変性は破壊的であり、パイ結合を切断して飽和sp3炭素元素原子を導入するのでCNTの導電率はかなり損なわれる。
【0007】
表面活性剤、重合体、及び共有結合分散剤のような分散剤を使用して解束したCNT分散体を調製することが行われている。これらの薬剤は高い導電率を達成する目的でフィルム形成後に除去する必要がある。Rinzler外の米国特許出願公開第2004/0197546号には二工程で大部分の表面活性剤を除去することによりCNT網状体を製造することが記載されている。ある用途に対しては、スピン被覆法、浸漬被覆法、遠心被覆法、スクリーン印刷などの直接付着法に適した組成物にすることが望ましい。
【0008】
実際上すべての非共有結合分散法は分散を達成するために超音波処理を使用する。超音波処理はCNTを切断してそれらの長さを短くする。より短いチューブで作成されるCNT膜は等重量の充填に対して長いチューブよりもより高い抵抗を有することが予測される。短いナノチューブは小さいアスペクト比を有するので、浸透性の網状体を達成するにはより高い充填を必要とする。損傷は超音波処理中にも生じる。研究によると、長時間の超音波処理は不定形炭素の量、及び損傷したCNTの存在量を増す。本発明の好ましい方法では超音波処理はCNTの分散には使用されない。
【0009】
多くの分散法、例えば水性表面活性剤及びアミン類を使用する方法は、分散した束チューブ及び単独チューブが分布したものを生成する。束状チューブを単独チューブから分離するには高重力での遠心分離が必要である。遠心分離には高価な装置が必要であるが、総合的に低い収率(<10%)しか得られない。この方法は、非常に低濃度のナノチューブ(<100ppm)を含む分散体しか製造しないので、かかる分散体を使用する方法は大量の溶剤を必要とする。米国特許出願公開第2006/0099135号は水性界面活性剤中で高濃度の分散体を製造することを記載しているが、この方法で使用される超音波処理法はCNTの長さを約200mn以下に下げる。
【0010】
水性表面活性体溶液などからの解束した分散体は、分析目的でシリコンウエハや他の基体上へのスピン被覆又は溶剤蒸発により小規模に付着されている。しばしば個別チューブの領域がAFM(原子間力顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)のような分析方法により発見されている。しかし、5nm以上の厚さを有する導電性で浸透性の網状体膜の大規模な製膜中には、CNT網状体がしばしば20nmより厚いCNTの束で構成されていることが観察される。これは製膜中にCNTが束を再形成する再束化ために起きる。従って、網状体膜中に解束された状態を維持する分散方法と製膜方法が必要である。
【0011】
強酸が容易にSWNT(単層ナノチューブ)の束を開束して分散させることが示されている。CNTと酸に関するほとんどの研究は、CNTのオキシ官能化、カルボシル化、スルフォン化又は硝酸化を行う条件下で行われた。シブタ氏の米国特許出願第5,853,877号では、解束したCNT網状体が、CNTを、例えば硫酸や硫黄含有超酸などの硫黄含有強酸等の強酸と、硝酸、硝酸塩、過マンガン酸塩、クロム酸、クロメート、過酸化水素及び二酸化鉛などの酸化剤とを組み合わせて処理することにより製造されている。
【0012】
Smalley氏外は、巨大繊維を製造するためのニート(neat)超酸系構造(米国特許出願公開第2003/0170166号)、及びアレワイブ(alewive)構造(米国特許出願公開第2003/0133865号)を記載している。カーボンアレワイブ(同様に見える魚にちなんだ命名)は実質的に絡みや長いロープがない針状を有する。後者の公報には、水がCNTアレウイブの凝集体を沈殿させるのに使用されている。米国特許出願公開第2003/0170166号では水は使用されないで発煙硫酸が使用されて厚さ200〜400nmのロープが形成されている。これらの太いロープは、透明で高度に導電性の膜を製造するには望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0197546号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0099135号明細書
【特許文献3】米国特許出願第5,853,877号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0170166号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0133865号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は薄い導電性及び/又は透明CNT網状体を製造するための従来の組成物及び方法に関連した問題点と不利益を解決することを目的とする。CNTの化学的及び電気的構造はこの化学的処理または方法では破壊されない。本方法は分散を達成するのに超音波処理を必要としない。遠心処理は解束を達成するのに必要でないが、試料中の残留不純物を除去するためには場合により使用してよい。組成物は高濃度で且つ100%揮発系中で製造でき、それにより標準的な方法、例えばスピン被覆法やスクリーン印刷法を用いてCNT網状体膜を形成することが可能になる。高度に開束したCNT網状体は次いで重合体、ガラス、セラミック、シリコン、複合体その他の基体上に付着することができる。
【0015】
本発明は、溶液中で解束と分散を可能にし、CNT網状体の製造中に解束した状態を維持することができ、高い膜導電率に寄与するCNT網状体を形成でき、乾燥後に元のCNTの構造的及び電気的特性を保持することができる、可逆電荷移動反応を使用するものである。本方法では、非求核性溶媒中でCNTを安定化する可逆電荷移動反応複合体が形成される。
【0016】
従来、酸化性条件(例えば硝酸の使用下)がCNTを共有原子価的に変性できることが知られている。意外なことに、本発明者はCNT網状体膜に対する優れた分散性が、ナノチューブの恒久的な共有原子価的変性に導く副反応が回避される条件下で、得られることを発見した。
【0017】
分散体を不安定化し、膜形成中に再束化を引き起こす大きなファンデルワールス相互作用を克服するために、荷電したCNTと非共有結合した荷電種との間の錯体を形成することにより斥力が導入される。錯体は電気的に中性であり、大きい距離で分離されている荷電粒子間には正味のクーロン力は存在しない。短距離では二重層の拡散部分が相互侵入し、反発相互作用を発生する。それを超えるとこの重畳が起きる距離は、二重層の厚さと表面電位に依存する。
【0018】
CNTは強酸との反応により正に荷電した種に変換できる。適当な酸には、クロロスルホン酸やトリフロオロメタンスルホン酸などのブロンステッド超酸、アンチモンペンタフルオライドなどのルイス超酸、テトラ(水素スルファト)ボロン酸硫酸などの共役ブロンステッド−ルイス強酸、及びカロボラン酸がある。硝酸/硫酸のような強い酸化性酸の組み合わせは回避すべきである。
【0019】
超酸分散体から薄いCNT膜を製造する場合の重要な課題は、膜形成中に溶液からのCNTの脱混合を制御することである。これは、CNT−CNT凝集を制御して、解束してはいるがいまだ強く凝集している網状体の形成を容易にすることである。この脱混合工程はCNT−超酸電荷移動錯体を脱安定化する有機溶媒を使用することにより開始される。溶媒とCNTの間の相互作用は小さくあるべきであり、さもないと、溶媒はCNT網状体相中に、通常は接合部の間または束の間に取りこまれ、膜の品質と特性を低下させる。
【0020】
従来、強酸から流延した膜を水で洗浄すると、アレワイブ構造になることが知られている。本発明者は、適正な有機溶媒で洗浄するとCNTの小さい束から構成された連続膜が得られること示す。本発明は適当な有機溶剤で凝集する中間工程を含むCNT膜の製造方法を含む。
【0021】
CNT、超酸及び有機溶媒の三元系の熱力学、並びにその相分離の動力学の考察を行うに、主としてCNTを含有する相が生成できるが、束中には若干の超酸が残る。この酸は電荷移動錯体を通じてCNTと強い相互作用を行うので、弱い相互作用の有機溶媒との急速な凝集は過剰な酸を除去するであろうが、ナノチューブに直接会合しているこれらの過剰な酸を除去しないであろう。この方法はナノチューブが成膜工程中に効果的にドープされる膜を生じる結果となり、高い膜導電率を達成するために他の方法により形成される膜では必要であった別個のドーピング工程を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
一つの形態において、本発明は、基体上に配置した膜の形のCNT束の絡み合った塊より成るCNT網状体膜を提供する。ここにCNT束は20nm以下の質量基準平均直径と、500nm以上の質量基準平均長さを有し、膜が5000Ω/□以下のシート抵抗を有する程度に良好な繊維間結合度を示す。ちなみに、シート抵抗は繊維間結合度の最良の尺度であって、良好な結合度を定義するのに必要である。
【0023】
他の形態において、本発明は、CNT束を超酸中に分散させてCNT分散液組成物を形成し、このCNT分散液組成物を基体上に付着させ、ついで強酸を除去する工程を含むCNT網状体膜を形成する方法を提供する。超酸は、ゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、または超酸がプロトンを有しないルイス酸の場合にはゼロより大きい永久双極子モーメントを有するルイス酸である。ここに、「超酸が脱プロトン化したアニオンを有する」とは、脱プロトン化したアニオンが溶液中に存在することを必ずしも意味しないが、ここでは超酸の対称性を定義するために使用されている。しかし典型的には、溶液中で、脱プロトン化したアニオンが、例えば純粋なブロンステッド超酸または共役強酸の形で、プロトン化形態を支配する。ある好ましい実施形態では、脱プロトン化したアニオンは少なくとも1.0デバイの永久双極子モーメントを有する。
【0024】
好ましくは、分散したCNTを有する超酸溶液は、分散体中のCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含有する。「酸化剤」はCNTの構造を劣化し、硫酸または硫黄含有超酸中の酸性度を有する。酸化剤の例には硝酸、発煙硝酸、硝酸塩(例えば硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等)、オゾン、過マンガン酸塩(例えば過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸ナトリウム等)、クロム酸、クロメート、過酸化水素、及び二酸化鉛がある。
【0025】
本発明はまたここに記載する任意の方法で形成されるCNT網状体フィルムを含む。
【0026】
本発明の膜を製造する1つの方法は、CNTを選択し、強酸で電荷移動錯体を形成し、分散媒体に分散させ、基体(非多孔性でも、ろ過膜でもよい)上に初期CNT膜を形成し、次いで非水性ノンソルベントを使用して凝集させることにより解束したCNT構造を得る。別報として、最後の2工程は同時に行ってもよい。
【0027】
本発明は、本書に説明する特徴によりさらに説明できる。例えば、好ましい方法では、液体組成物は硫酸を含有しない。本発明の方法は膜を第2の基質に移行又は転写させる工程を含むことができる。ある好ましい実施形態では、分散したCNTを含有する超酸溶液は、分散体中のCNTを基準にして0.001重量%未満、好ましくは0.0001重量%未満の酸化剤を含むことができる。本発明の方法は処理前後のG/D比は30%未満である。またCNTをノンソルベント(例えばジエチルエーテルまたはニトロメタン等)で洗浄する工程を含むことができる。
【0028】
本発明の方法の他の好ましい特徴及び重要な利点は追加のドーピング工程を要しないで高度の導電性と透明膜が得られることである。CNTは膜形成後にドープ剤で処理する必要がない。この意外な結果は図10に示される。
【0029】
本発明の方法により製造された網状体の形態は特異な構成を有する。この網状体は(1)20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下、ある実施形態では3nm以下、ある他の実施形態では2〜10nmの平均粒子径を有する束からなり、(2)膜平面内の高度の異方性(すなわちCNT繊維がほぼ平面内に配列)を有し、(3)これらの比較的細い束が主として500nm、好ましくは1000nm以上の長さを有するCNTよりなり、(4)低抵抗で測定したとき強い束間相互作用を示し、そして、場合により(5)束間に電荷移動ドーピングを有する。その結果、網状体膜は、5000S/cm以上、好ましくは10000S/cm以上、さらに好ましくは13000S/cmの非常に高いバルク導電率を有する。膜は例えば550nmで98%Tの高い透明性と1100Ω/□の低いシート抵抗を有する。本書において「平均」とは、図3に示された炭素集塊等のCNTでない材料を除いたCNTの全質量を基準とした質量基準平均を意味する。
【0030】
他の形態において、本発明は、基体と、基体上のCNT網状体膜とよりなり、前記網状体膜が少なくとも50%の透明度と、5000Ω/□以下のシート抵抗と、532及び633の波数でのラマン励起バンドの平均値に基づくG/D比が少なくとも15であるCNT網状体を提供する。好ましくは、CNT網状体は少なくとも1cm×1cmの面積を有しそのシート抵抗は1cm×1cm正方形の面上で計測される。
【0031】
他の形態において、本発明は基体とその基体上のCNT網状体膜及び液体からなり、液体は超酸であるCNT網状体膜組成を提供する。超酸はゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、または超酸がルイス酸の場合にはプロトンを有しないルイス酸であってゼロより大きい永久双極子モーメントを有する。この形態は上に述べた対応する方法に類似しており、例えば、好ましい実施形態では、液体は超酸と、CNT網状体膜中のCNTの重量を基準にして、0.001重量%未満の酸化剤を含有する。「酸化剤」はCNTの構造を分解し、硫酸または硫黄含有超酸中の酸度を有する。この組成は次いで基体に付着できる中間体である。
【0032】
CNT網状体膜は更に各種の膜特性により特徴づけることができる。好ましくは、膜は少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の透過率を有する。ここに透過率(透明度ともいわれる)は特に断らない限り550nmで測定される。シート抵抗はもし可能ならば1cm×1cmの正方形上で測定すべきである。ある実施例では膜は少なくとも1cm×1cmの面積を有するが、ある場合には2cm×4cm、又は8cm×6cm、ある実施例では膜は少なくとも1cm2、より好ましくは8cm2の面積(表面積ではなくて幾何学的面積)を有し、広くは1cm2から1000cm2の面積を有する。好ましくはCNT網状体中のCNT束は良好は繊維間結合度を有し、そのため、膜は1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下のシート抵抗を有し、ある実施例では200〜3000Ω/□のシート抵抗を有する。膜は本書に記載のデータにより特徴づけられるもが、ここに記載の特性の任意の組合せに基づいても記述できる。例えば、膜は図1に示したデータにより記述でき、関数%T=9×log(抵抗率)+66(ここにlogは基底10)により記述できる。この関数は膜特性の上限又は下限、又は近似値を記述するのに使用できる。膜は又波数532及び633におけるラマン励起バンドの平均値に基づいてそれらの比G/Dにより記述でき、この比は好ましくは少なくとも15である。CNT網状体膜はまた厚さによっても記述でき、この厚さは好ましくは45nm以下であり、より好ましくは30nmであり、ある実施形態ではこの厚さは15nm以下、そしてある例では膜厚は少なくとも10nmである。
【0033】
用語
用語「カーボンナノチューブ」又は「CNT」は単一、二重又は多重壁の炭素チューブを含む。本発明は特定の型のCNTに限定されない。適当なカーボンナノチューブはHiPco法、アーク放電法、CVD法、及びレーザアブレーション法で製造される単一壁カーボンナノチューブを含む。また、二重壁カーボンナノチューブ(DWNT)、単一、二重、三重壁カーボンナノチューブ、多重壁カーボンナノチューブ及びこれらの材料の共有原子価変性物なども含まれる。CNT組成物はこれらの材料の任意の組合せでも良く、例えば単一壁CNTと多重壁CNTの混合物、又はDWNT及び/又はMWNTより成っていても良いし、或いはSWNTより成るものでも良い。
【0034】
解束したCNTは、好ましくは、5個のナノチューブ幅又はそれ以下である束、好ましくは3個のナノチューブ幅又はそれ以下である束、を主体として(CNT束の全質量に基づく大多数の束はこの幅寸法である)構成される。
【0035】
CNT網状体は、CNT(主に二次元方向にランダム配向したもの)と超酸を含む相である。超酸は好ましくは5重量%以下(CNTと超酸の全量を基準とする)の濃度で、主としての束間接合部と束間の隙間に存在している。CNT網状体膜はそれ自体で存在できるが、基体上に付着させても良く、或いは重合体等の材料内にカプセル化しても良いし、他の材料の層間に挟んでも良い。
【0036】
用語「含む」は他の成分を許容する。ある記載では、本発明は「よりなる」や「より実質的になる」の語はより限定的な意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明により製造されたHiPco SWNT網状体試料に対するシート抵抗と透過率野関係を示すグラフである。
【図2】本発明により製造されたSWNT−HiPco−SP CNT繊維のSEM(走査電子顕微鏡)像である。
【図3】本発明により製造されたSWNT−HiPco−SP CNT繊維のCNT網状体膜のSEM像である。
【図4】785nmでの励起で得たSWNT−HiPco−SPのラマンスペクトルである。
【図5】532nmで測定したSWNT−HiPcoのラマンスペクトルである。
【図6】クロロスルホン酸で処理する前のSWNT−HiPcoを532nmで測定したラマンスペクトルである。
【図7】クロロスルホン酸で処理する前のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである。
【図8】クロロスルホン酸で処理した後のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである。
【図9】従来の分散法により処理した後のSWNT−HiPcoを532nmで測定したラマンスペクトルである(比較例3)。
【図10】従来の分散法により処理した後のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである(比較例3)。
【図11】クロロスルホン酸に分散したSWNT−HiPcoのTGA(熱重量分析)からの重量損失の微分を表す。
【図12】水性界面活性剤溶液中で超音波処理したSWNT−HiPco対照のTGAからの重量損失の微分を表す(比較例3)。
【図13】従来技術のSDBS表面活性剤法により製造したCNT網状体膜の暗視野STEM(走査型透過電子顕微鏡)像を示す。
【図14】本発明の方法により製造されたCNT網状体膜の暗視野STEM像を示す。
【図15】従来技術のSDBS表面活性剤法により製造したCNT網状体膜の明視野TEM(透過電子顕微鏡)像を示す。
【図16】本発明の方法で製造したCNT網状体膜の明視野TEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
CNT網状体の形態及び構造は数種のパラメータにより記述される。CNTは長さと直径により記述できる。超音波処理、酸化、及び/又は原子価変性を使用する従来の方法はCNT構造を損なう傾向がある。本発明で使用される分散法及び超酸はCNTの構造を変えない。本発明で使用される網状体膜の分析は側壁の完全性とCNTの長さが長いことを示すであろう。網状体に含まれる個々のCNTの長さはTEM、TEM分析により確認できる。試料中のCNTの質量分率はSEM、TEMその他の適当な文先技術により測定できる。
【0039】
CNTはまた束寸法によっても記述できる。本発明では、長い拡散電気二重層を形成するCNT−酸電荷移動錯体によるCNTの再束化は阻止される。超酸又は超酸/溶媒混合物のような液体はCNT網状体の初期形成中に除去されるので、二重層の拡散部分は相互侵入し、CNT同士間に反発性の相互作用を生じる。この重畳が生じる距離は二重層の厚さと表面電位に依存する。高い誘電定数が解束した網状体構造を維持する。SEM、TEM、AFM或いはラマンスペクトルは束寸法の特性付けを与える。
【0040】
第3レベルの構造は束の特性により記述される。一般にCNTは半導電性及び金属性のチューブの混合物から成る。束は系の統計に従って両者の混合物を含む。ドーパントを使用することにより束を一層金属質性のものにすることが可能である。電気導電性のためには一般により金属製の挙動が望まれる。p−ドーパントのようなドーパントがしばしば第2工程で添加される。本発明ではドーパントは酸であり分散工程の部分で使用される。p−ドーパントの証拠は例えば光学吸収スペクトルを調べることによりスペクトル分析で決定できる。電子アクセプタによる充填状態の空乏はvan Hove遷移のブリーチングを生じ、主題の被覆によるpドーピングの証拠となる。pドーピングの証拠は、スペクトルを観察し、ついでヒドラジンのようなnドーパントによる処理後のスペクトルと比較することにより観測され、ブリーチ遷移であることの証拠となる。
【0041】
構造の最終レベルは束間の組織化と相互作用により記述される。束間の相互作用は膜内での接合を提供する。重合体膜とのアナロジーによれば、束間相互作用は束間の架橋に相当する。良好な膜形成と高い導電率のための好ましい構造は束間の接合部での強い相互作用である。本発明においては、束間相互作用はノンソルベントを使用して構造物を凝集させることにより高められる。束間相互作用はノンソルベントを分散体または初期CNT網状体に添加した際に起きる相分離工程の熱力学及び動力学因子を制御することにより調整される。ノンソルベントは酸と混合可能でなければならないが、CNTに対するノンソルベントである。ノンソルベントは、ノンソルベントとCNTの間の相互作用がCNTと酸との間、または酸とノンソルベントの間の相互作用よりもずっと弱くなるように選択される。これは解束した網状体状態において迅速な凝集を促進する。
【0042】
従来技術では、CNT−超酸分散体は、凝集剤としての水または希硫酸と共に使用されている。本発明者はノンソルベントとしての水の使用が付着性の解束したCNT膜の製造には有効でないことを見出した。これは水とCNTの間の強い相互作用が原因である。CNTと強く相互作用する水や他の分子はCNTの表面に吸着し、CNT間の強い相互作用を減少させる。意外なことに、ジエチルエーテルのような相互作用の乏しい溶媒を初期のCNT網状体へ添加すると、付着性の解束したCNT膜が得られた。本発明で製造される膜中の強い束間相互作用は、適当な溶媒に添加したときに生じるCNT網状体の収縮により実証された。実施例で示すように、収縮は優れた電気的および物理的特性を有する高密度の網状体を生じる。
【0043】
上記の本発明の方法は好ましくは、CNTの凝集のために水の使用を避け、ノンソルベントを使用する。この工程は基体上にCNTを分散させる前、同時、または後に行われる。適当でないノンソルベントは例えば水やアルコールのような高度の水素結合に対する高い能力を有するノンソルベントである。これらはそれらのハンセン(Hansen)溶解度パラメータの水素結合成分から決定できる。単純なエーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル)が適当であるが、ジグリムのような複数酸素を有するエーテルは水素結合が多すぎる。可能なノンソルベントの適格性又は不適格性を決定するための一つの基準は、ハンセン溶解度パラメータの水素結合成分の値を調べることである。本発明者は本発明の可能なノンソルベントに対してはδhが15(MPa)1/2であるべきことを見出した。
【0044】
酸に対するCNTの反応性はナノチューブの直径に依存する。純度と初期形態もまた反応性に重要な役目を有する。より広くは、本発明は一般にすべてのCNTに適用される。本発明の方法により分散できるCNTには、直線状の、湾曲した、または分岐した単一壁カーボンナノチューブ(SWNT)、直線状の、湾曲した、または分岐した多重壁カーボンナノチューブ(MWNT)、直線状の、湾曲した、または分岐した少数壁カーボンナノチューブ(FWNT、及びそれらの混合物がある。平均直径が0.5nm〜60nmのCNTが使用できる。反応性の差異が側壁の曲率により与えられれば、適当な酸の選択はCNT原料に依存する。CNTはまた超長CNT(>1cm)及び超純CNTも含むことができる。豆鞘形、置換ドープ型CNT、および充填型CNTも使用できる。
【0045】
ブロンステッド超酸は100%硫酸よりも強い酸として定義される。ルイス超酸は無水三塩化アルミニウムよりも強い酸として定義される。適当な酸にはハロ硫酸などのブロンステッド超酸(例えばクロロスルホン酸、フルオロスルホン酸)、及びパーフルオロアルカンスルホン酸(例えばトリフルオロメタンスルホン酸)、はアンチモンペンタフルオライド、ヒ素ペンタフルオライド、タンタルペンタフルオライド、ニオブペンタフルオライド適当なルイス超酸がある。適当な共役ブロンステッドールイス超酸にはテトラ(水素スルファト)ボロン酸硫酸、及びカルボラン酸(例えばCHB11R5CI6,CH B11R5Br6,and CH B11R5I6。ただしRはH又はCH3)がある。好ましい酸にはクロロスホン酸とトリフルオロメタンスルホン酸が含まれる。本発明はまたこれらの超酸の任意の組み合わせの混合物を含む。硝酸と硫酸のようなCNTの劣化を生じる強酸化性の酸の組み合わせは避けるべきである。発煙硫酸もまた本発明における組み合わせの酸として不適当である。
【0046】
特定の理論に拘束されないけれども、本発明に用いる酸又は酸の組み合わせが適切なことを決定するには二つの重要な因子があると考えられる。一つは個々のナノチューブの固有の導電率を低下させる欠陥を導入するのを防ぐため、酸がナノチューブを強く酸化してはならないことである。二つは酸が永久双極子を有するべきことである。プロトン酸に対しては、双極子モーメントの決定は脱プロトン状態にあるときになすべきである。酸が個々のナノチューブに溶剤和する際に、永久双極子モーメントは、酸がナノチューブに対して好ましい配向を有することを示す。脱プロトン化したクロロスルホン酸においては、双極子はS−Cl結合に沿って存在する。例えば、溶剤和した2個のナノチューブが接近したときに、もしもCSAの好ましい配向が、この双極子がナノチューブの表面に垂直で且つCl原子がナノチューブから離れた位置にあるような場合には、双極子間の強い反発がナノチューブ同士を分離した状態に維持することを助けるであろう。この相互作用は硫酸や発煙硫酸のような酸には存在しないであろう。
【0047】
また、特定の理論に拘束されるものではないが、本発明に適した化合物により示される望ましさは、部分的に、相対的な分散性、極性、ハンセン型溶解度パラメータの水素結合成分、及び相対的なオクタノール−水の分配係数{LogP)に依存するものと考えられる。たとえば、クロロスルホン酸とトリフリック酸(トリクロロメタンスルホン酸)のような適当な酸は、ハンセン溶解度パラメータが30〜40であり、その極性部分成分は20〜30であるが、不適当な化合物例えば硫酸はハンセン溶解度パラメータがほぼ70のはるかに高いであり、その極性部分成分がほぼ60の高い値である。これらの溶解度パラメータはそれ自体、表面張力のような特性に表われる。この場合、クロロスルホン酸とトリフリック酸が約100〜200ダインcmの範囲にありうるが、硫酸ではわずかに約30ダインcmであり、LogPはCSAとTFAが正(+)0.1〜0.6の範囲の推定値を有していて有機溶媒にはより良く溶解しうるが、硫酸は水性相中でLogP=負(−1)であって水性相に10倍も良く溶解しうる。好ましい実施形態では、超酸は好ましくはハンセン溶解度パラメータが40以下、ある実施形態では30〜40である。
【0048】
CNT電荷移動錯体は溶媒のような分散媒体に溶解しなければならない。CNT/酸電荷移動錯体に対する適当な溶媒にはニート超酸単独又はその混合物がある。ある実施形態では超酸は揮発性の超酸、例えばクロロスルホン酸、トリフルオロエタンスルホン酸、又はアンチモンペンタフルオライドなどから選ばれる。好ましい揮発性超酸は100℃で0.1気圧以上、より好ましくは80℃で0.5気圧以上の蒸気圧を有する。
【0049】
別法としてCNT/酸電荷移動錯体は、例えば液体SO2、SO2CIF、及びSO2F2のような低いCNT求核性溶媒、ジエチルエーテル、ニトロメタン、及びテトラヒドロフランのような典型的なフリーデル・クラフト溶媒、またはニトロベンゼンのような不活化芳香族溶媒などに溶解し得る。超酸/溶媒の組み合わせは大きな拡散電気二重層を維持するために十分に高い誘電定数を有しなければならない。好ましい実施例では、溶媒は低い嗅覚性と高い誘電率を有する。好ましくは、誘電定数は35より大きく、より好ましくは60以上である。
【0050】
分散体はCNTと超酸を、場合により溶媒で希釈し、不活性雰囲気中でCNTの反応性に依存した温度約78〜120℃にて混合する。より高い温度では、イオン強度が増すのでスクリーニング長さが増大し、それが斥力相互作用の有効距離を減少させることが予想される。超酸の温度安定性もまた考慮しなければならない。混合プロセスの温度と時間もCNTの側壁損傷が生じないように制御されなければならない。側壁損傷の程度は分散体をノンソルベントに分散させ、Measurement Issues in Single Wall Carbon Nanotubes.NIST Special Publication 960−19に記載されているように、ラマンスペクトル、NIRスペクトル、又はTGAによりCNTを分析することで監視できる。
【0051】
改善された艶、耐久性、その他の物理的・機械的な特性を改善するために添加剤を添加することができる。最高度の導電率を維持するためには、好ましくは、これらの添加剤は回避する。
【0052】
初期CNT網状体は公知の方法を使用して分散体を基体上に施すことにより形成できる。例えば、分散体を多孔質膜フィルタで濾別してCNTマットを形成する。膜フィルタは溶媒組み合わせと相容性でなければならない。適当な膜フィルタにはアルミナ、ガラス、PVDF、PTFE、PEEK、及びポリプロピレンから製造される膜がある。
【0053】
揮発性の超酸が使用される場合には、膜はスピンコート法、浸漬コート法、及びスクリーン印刷法等の直接付着法で成膜することができる。基体は酸と相容性があるように選択しなければならない。適当な基体はガラス、PTFE、PVDF、ポリプロピレン、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(Kevlar)、PEEK、セラミック、その他酸と相容性を有する他の材料を含む。
【0054】
付着性のCNT網状体の形成は、ノンソルベントをCNT膜に加えることにより実施できる。好ましいノンソルベントは超酸と混合可能であり、CNTとは弱い相互作用しか持たない。沸点が1気圧で80℃未満の揮発性溶媒が好ましい。ノンソルベントにはジエチルエーテル、THF、ニトロメタンなどの窒素含有化合物、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン等が含まれる。ノンソルベントは好ましくは水を含有しないものである(それらは非水性である)。
【0055】
付着性のCNT網状体膜は、一旦成膜されると、大きい強度を有し、必要なら第2工程で既知の方法を用いて、ガラス、ポリエステル、シリコン、ポリエチレン等の他の基体の上に移行できる。この方法には、限定ではないが、例えばフロート法、直接圧力転写、またはパッド印刷などの方法がある。
【0056】
ある実施例ではCNT網状体は良好な付着性、10nm未満の平均束寸法、及びp−ドープ性を有する。ある好ましい実施形態では試料は0.01重量%以下の硫黄を含有する。
【0057】
好ましい実施形態では、ナノチューブの凝集を防ぐために、分散工程及び製膜工程中に水その他の競合性の塩基または還元剤の使用を避けるべきである。たまたま存在する空気中の水分は製膜工程の時間程度では極端な束形成を引き起こさないが、窒素、アルゴン、またはその他の不活性ガス中での性膜が好ましい。CNTカチオンの恒久的な酸化状態への分解は、CNTの分散工程中に、また好ましくは製膜工程にも、120℃以下の温度に維持することにより避けることができる。本発明の方法では好ましくは超音波処理を使用しない。
【0058】
次の実施例は本発明を具体的に説明し、従来技術に対する利点を説明する。本発明の方法の一つの重要な特徴は、生成される網状体の形態が独特で、長いCNT(500nm以上)が非常に小さい束(好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下)に組織化され、強い束間付着力を示すという点にある。本発明の方法はCNT網状体の膜形成を促進する。これは種々のノンソルベントを使用する例を比較することにより示される。独特な形態は5nm以下の薄膜に対する優れた導電率と低いシート抵抗とを有する膜を生成する。これはポリエステル基体上に付着した膜フィルムのシート抵抗と光学的な透過率を測定することにより示される。超酸を使用するとCNTの分散と解束がそれらを破損することなく行われる。これは処理の前後でSWNTのラマンスペクトルと熱重量分析のデータを比較することにより確認される。本発明に特有の利点をよりよく区別するために、水性表面活性剤中で超音波処理する標準的な製膜法により調製した対照試料の例が用意される。本発明の他の利点はCNT膜の優れた電気特性が非常に低い充填度のCNTにより達成できることである。
【実施例】
【0059】
試料の特性の評価
CNT膜のシート抵抗はジャンデル万能プローブ(Jandel Universal Probe)及びコルウエア(Corrware)ソフトウエアにより測定した。この万能プローブは、1mm間隔で直線上に配列した先端が半径100μmの4本のピンからなる。膜をばね圧力25gでこれらのピンと接触させる。電流を−0.1mAから0.1mAまで0.01mA/秒の割合で増加させる。すべての試料はオーム的な応答を示した。シート抵抗は式Rs=4.532x(V/I)×GFCにより決定した。ここにV/Iは抵抗、GFCは膜厚とピン間隔の間の関係に基づく補正係数である。これらのフィルムの厚さが与えられると、補正係数は代表的には0.99となる。別法としてシート抵抗は銀塗料による2つの平行な電極を1インチ×1インチのCNT膜の対向した縁部に沿って塗布して形成することにより測定できる。シート抵抗はデジタルマルチメータにより決定できる。
【0060】
ナノチューブ膜の近赤外(NIR)及び可視光スペクトルを、バリアンケアリー(Varian Cary)5000UV/Vis/NIRスペクトルメータにより3000nm(3333cm-1)から400nmの範囲で測定した。スペクトルは、平均時間0.1秒あたり2nmのスペクトルバンド幅で、600nm/分の走査速度をもって取得した。一般に試料は空気を背景として走査された。CNTを含まないブランク基体もまた空気を背景として走査された。%透過率は、500nmにおいて、試料からの透過率とブランクからの透過率を比較することにより決定した。
【0061】
CNT膜のラマンスペクトルはスペクトル計Horiba−JY“Aramis”Raman Confocal Microspectrometerを使用し、633nm励起で、後方散乱モードで取得した。20倍の顕微鏡の対物レンズに試料の光学焦点を合わせた。ラマン信号はZ方向距離のさらなる調整機能を有するリアルタイムディスプレイ(Real Time Display)を使用して最適化した。試料の加熱効果が観測されないように試料に対してレーザ光を5mWまで減少した。Gバンドの安定性は加熱効果の分析に使用できる。データ取得のために1秒の取得時間と4cm-1の分解能を使用し、16本のスペクトル信号の平均を取った。スペクトルは試料上の数カ所で取得して固有のラマンバンドの平均強度を求めた。Dモード(532nm励起で約1322cm-1)及びGモード(532nm励起で1580cm-1)に対する積分強度を決定することによりG/D比を求めた。さらに最大強度の比を比較して同一の結果を得た。
【0062】
熱重量分析を分析装置Perkin Elmer Pyris 1 TGAにより実施した。パーカロイ(Perkalloy)とアルメル(Alumel)のキュリー温度遷移を使用して温度を較正し、秤には100mgの錘を使用して較正し、炉は分析ソフトを使用して50〜900℃から較正した。ほぼ7mgをPt皿に入れた。加熱速度は空気中10℃/分であった。
【0063】
成膜
実施例1 付着性の解束したCNT膜の形成−方法A
HiPco法により調整した精製級のSWNT(SWNT−HiPco)をCarbon Nanotechnologies,Incより入手した。このSWNTは灰分が15重量%未満であると報告されている。10mgのSWNT−HiPcoを50mLのクロロスルホン酸に添加し、室温で12時間撹拌すること(撹拌板上の棒磁石を使用)により分散体を調製した。既知量のこの分散体を真空の助けにより0.2μmアノディスク(Anodisc)膜で濾別して所望厚さの初期CNT網状体を得た。ある場合には、分散体をより多くの酸で希釈して非常に薄い膜を製作した。真空を維持しながらノンソルベントとして50mLのジエチルエーテルを添加した。水洗するとSWNT網状体の色が黄褐色から黒に変化した。ノンソルベントの種類と接合性の束間相互作用とにより、膜とアノディスクの間の界面に離型が観察されることがある。SWNT網状体膜は被覆された膜フィルタを水浴に浸漬することにより膜フィルタから離型された。SWNT網状体膜は水面に浮かび、ポリエステルやガラスのような基体にすくい上げることができた。膜を肉眼観察すると膜は均一であることを示した。
【0064】
実施例1、方法Aにより調製されたCNT被覆の光学透過率を波長550nmで決定した。光透過率は被覆中のナノチューブの体積分率と被膜の厚さに正比例する。浸透モデルに基づいて期待されるように、シート抵抗は透過率が増大するにつれて減少する。浸透の閾値近傍ではシート抵抗が劇的に増大することが予期される。浸透が達成される体積分率はナノチューブのアスペクト比に依存する。透過率とシート抵抗は試験範囲でほぼ直線関係にあるので、充填は明らかに浸透閾値よりも充分上にあるが、これは分散工程で短縮されなかった長いナノチューブが存在することと一致している。
【0065】
さらなる実施例の結果はここに提示したデータと比較されるである。図1に示した結果はほぼ直線で表すことができる。優れた性能を有する膜はこの線の上側又は左側に存在する。これに対して、性能の低い膜はこの線の下または右側にある。
【0066】
実施例2 付着性の解束したCNT膜−方法B
実施例1に記載した方法で分散体を調製した。既知容積の分散体を真空の補助によりPVDF膜フィルタにより濾別し、乾燥空気の流れを膜表面に流して乾燥し、初期の膜を得た。真空を維持しながら、ジエチルエーテルをノンソルベントして加えた。乾燥したSWNT網状体膜をマイラー(PET)のような重合体基体に接触させ、圧力を加えて網状体膜を基体に転写させた。膜の肉眼観察で膜が均質であることが示された。
【0067】
実施例3 付着性の解束されたCNT膜−方法C
ガラスのような相容性のある基体上に薄膜を形成するためにスピンコート法や浸漬コート法のような直接付塗布法が使用できる。例えば、薄膜はスピンコート法で形成できる。HiPco法(SWNT−HiPco)で製造される精製級のSWNTはCarbon Nanotechnologies,Inc.より入手した。SWNTは灰分が15重量%であることが報告されている。分散体は50mgのSWNT−HiPcoを10gのクロロスルホン酸に添加し、次いで室温で120時間撹拌することにより調製した。得られた粘稠な分散体を、アルゴン雰囲気中2500−5000rpmの速度で2分間、ガラス基体上にスピンコートすることにより塗布した。乾燥後、被覆済みのガラス基体(スライド)をジエチルエーテルで洗浄した。これらの試料のシート抵抗はそれぞれ176Ω/□、及び110Ω/□であり、透過率は550nmにおいて60%よりも大きかった。スピンコート法は他の方法よりも少ない溶媒で済み、小さいRMS粗さの光学品質の膜を生成する。膜を肉眼観察したところ均一であった。
【0068】
比較例1 ノンソルベントとして水を使用する場合
Smalley氏他は、巨大繊維(米国特許出願公開2003/0170166号)及びアレワイブ構造(米国特許出願公開2003/0133865号)の製造に、ニート超酸系を使用することを記載している。後者の文献には、配列したSWNTの凝集物を沈殿させるために水を使用している。分散体を実施例1に記載された方法で調製した。既知容積の分散体を0.2μmのアノディスク(Anodisc)膜で濾別して初期CNT網状体を形成した。真空を維持しながら50mLの水をノンソルベントとして添加した。水に浸漬して試料を浮遊させると、膜は分離しないで剪断され裂けた。これは束間付着性に乏しく、膜形成特性が貧弱であることを示している。したがって、水は付着性で解束したCNT膜を形成するための凝集剤としては使用できない。
【0069】
比較例2 発煙硫酸の使用
クロロスルホン酸の代わりに発煙硫酸を使用したほかは、実施例1に従って分散体を調製した。補助的に真空を用いて、既知量の分散体を0.2μmのアノディスク(Anodisc)膜で濾別して所望厚さの初期CNT網状体を形成した。真空を維持しながら50mLのジエチルエーテルをノンソルベントとして添加した。被覆された膜フィルタを水浴に浸漬して膜フィルタからSWNT網状体膜を分離した。SWNT網状体膜は水表面に浮かび、ポリエステルまたはガラスのような基体ですくい上げることができた。
【0070】
膜を肉眼観察したところ、膜は黒い斑点を有した。これら黒い斑点はノンソルベントの添加中に起きたCNTの相分離によるものである。付着性の、解束した網状体膜は発煙硫酸からは製造できない。
【0071】
発煙硫酸から調製した膜のシート抵抗は実施例1により製造した膜のものよりも大きかった。例えば、比較例2により製造された膜はシート抵抗592Ω/□であり、図1と比較して観察した透過率は80.1%であった。この値は線の右側にあるので、低い性能を表している。
【0072】
実施例3 種々のノンソルベントの使用
ジエチルエーテルの代わりに各種のノンソルベントを使用して実施例1、方法Aで調製した。
【0073】
溶媒による膜洗浄は次のとおりである。
エーテル 優秀、
THF 良好、
アセトン 良好、
メタノール 貧弱、
エタノール 貧弱、
イソプロパノール 貧弱、
ジグリム 貧弱、
クロロホルム 貧弱、
ニトロメタン 優秀、
ニトロベンゼン 貧弱。
【0074】
本発明に対する溶媒の適正性は、特にCNTとの相互作用、酸との相互作用、蒸発速度、及び疎水性を含む数種の因子により決定される。
【0075】
本発明の膜の特異な形態
実施例4 超精製HiPco SWNTのSEM及びラマンスペクトル
得られたCNT網状体の形態(morphology)はSEM及びラマンスペクトルの組みわせで特性づけることができる。高純度CNT原料からさえも解束したCNT網状体を製造できる本発明の方法の高い効率を示すために、超精製級ナノチューブ(SWNT−HiPco−SP)を選択した。低レベルの残留アモルファス炭素を含有する解束したCNT網状体は、しばしば解束及び分散の観点から大きな問題を生じる。
【0076】
HiPco法(SWNT−HiPco−SP)により調製された超精製級SWNTを、Carbon Nanotechnologies Incから入手した。SWNTは灰分5重量%以下であることが報告されている。0.3mgのSWNT−HiPco−SPを140mLのクロロスルホン酸に加え、室温で3時間、80℃で48時間撹拌して分散体を得た。実施例1の方法Aを使用してポリエステル基体に被覆を付着した。
【0077】
分散前のSWNT−HiPco−SPのSEM像を図2に示した。クロロスルホン酸分散体から調製した厚さ100nmのCNT網状体をSEM像図3に示す。粉末は絡み合った超ロープより成る濃密な集塊から構成される。分散と成膜を行った後のSEMは集塊と超ロープ構造の両者が分断されていることを示した。これらの試料は10nmより小さい束から成っている。大量の球状の不純物が両試料に存在している。これらは膜形成に先立つ分散体を遠心法で除去できる。
【0078】
ラマンスペクトル中に観測されるラジアル・ブリージンクグ・モード(RBM)は解束度の他の指標である。個々のSWNTの電子分散は凝集により変えられる。通常のID分散に直交する電子分散の発達はバンドを共鳴から外し、或いは共鳴にもたらしうる。例えば、(10,2)及び(13,2)型ナノチューブから生じる267cm-1と204cm-1のバンドは、ナノチューブが束にされると、785nmで共鳴する。高度に精製されたHiPco SWNTかれ調製される被覆のラマンスペクトルは図4に示されている。267cm-1にはバンドが観測されないが、これは高度に開束したSWNT試料と一致する。
【0079】
本発明により製造された膜中のCNTの構造
実施例5 クロロスルホン酸によるSWNT−HiPcoの処理
HiPco法(SWNT−HiPco)により製造した精製級SWNTをCarbon Nanotechnologies,Inc.から得た。このSWNTは灰分15重量%であることが報告されている。10mgのSWNT−HiPcoを50mLののクロロスルホン酸に加え、室温で12時間撹拌して分散体を得た。分散体を0.2μmアノディスク膜に通して捕集し、次いで150mLのジエチルエーテルで2回洗浄して、処理済みSWNTを得た。粉末を110℃で12時間、次いで真空中160℃で24時間乾燥した。次いで試料をラマンスペクトル計と熱重量分析により測定した。
【0080】
比較例3 SWNT−HiPcoの超音波処理(対照)
HiPco法で製造した精製級SWNTをCarbon Nanotechnologies,Incから入手した。このSWNTは灰分15重量%未満であると報告されている。分散体は、50mgのSWNT−HiPcoを50mLの0.62重量%ナトリウムドデシルベンゼンスルホン酸塩水溶液に添加し、次いで尖端ホーン(20kHz、225ワット)により30分間超音波処理することにより調製した。この分散体を0.2μmアノディスク膜に通し、次いでSWNTを多量の水により界面活性剤の泡が見えなくなるまで洗浄した。粉末を110℃で12時間、次いで真空中160℃で24時間乾燥した。次いでこの試料をラマンスペクトル計及び熱重量分析により測定した。
【0081】
膜調製の前後のSWNT−HiPcoのラマンスペクトルを実施例5と同様にして測定したものを図5〜8に示す。比較例3に記載したように成膜した後のSWNT−HiPcoのラマンスペクトルを図9、図10に示す。図5、図6及び図9は532nm励起でのラマンスペクトルである。図7、図8及び図10は、633nmでのラマンスペクトルである。ラマン分析はナノチューブの相対的な純度の有用な指標である。1600cm-1近傍でのGモードの、1325cm-1近傍でのDモードに対する積分強度比G/Dは純度が低下するに従って減少する。CNTへの損傷はDモードの強度が増すにつれて増す。試料に対する異なった励起波長でのD及びDバンドの積分強度は表1に示される。
【0082】
図面及び表に示したように、成膜前のSWNT−HiPcoは入手時の純度に関係した比較的小さいDバンドを示す。G/D強度比は、レーザ励起波長に依存して約24である。処理後にはG/D強度比は23になる。処理後には、レーザ励起波長の関数としてより多い散乱が観測されるが、しかしこれは方法の実験誤差の範囲にある。これらの結果は本発明の処理及び方法がCNTの化学構造を変えないことを示唆している。処理前後のG/D比の差は、30%よりも遙かに小さい。
【0083】
従来技術により分散処理(例えば比較例3)はG/Dの相当の減少を示している。G/Dの平均は20である。633nmの励起でのスペクトルを比較すると、本発明の方法が従来技術に比して優れていることが実証される。Dバンドの貢献は超音波処理が使用される場合にはるかに大きくなる。532nmでのスペクトルは、金属製ナノチューブにより引き起こされる線の先鋭さのため解釈がより困難になる。
【0084】
【表1】
【0085】
熱重量分析(TGA)もまたCNT試料中に存在する損傷のレベルの指標である。処理前後の粉末の熱重量分析(空気中10℃/分)はいずれも420℃近傍で分解が始まることを示す。結果は分散処理による損傷がほとんどまたは全然起きないことを示している。クロロスルホン酸による処理後の試料に対する重量損失曲線の一次導関数が図11に示されている。比較のため、従来の水性分散法により製造されたSWNT−HiPco試料(例えば比較例3)に対する導関数の曲線を図12に示した。この試料は分解の開始が358℃であることを示しており、試料にかなりの損傷が生じたことを示している。
【0086】
図13と図15は比較例3のように製造されたCNT膜に対するSTEM及びTEM像を示す。図14と図16は本発明の分散法により調製された膜に対するSTEM及びTEM像を示す。これらの像を比較すると、比較例の処理膜は酸で処理したものよりもはるかに密であること、本発明の膜中にははるかに細いファイバ及び束が観測されること、及び本発明の膜中ではより大きい束が多くの細いファイバまたは束により相互結合されていることが分かる。
【0087】
実施例6 CNT膜特性への遠心力の影響
遠心力は解束には不要であるが、CNT原料の純度を向上させるために任意に使用してもよい。球状不純物は遠心力を利用して棒状不純物から分離することができる。これはおそらく球と棒の拡散係数が異なるためであろう。
【0088】
パルスレーザ蒸発法により製造した原料SWNT(SWNT−PLV)をOakridge National Laboratoryから入手した。51.5mgのSWNT−PLV原料を10mLのクロロスルホン酸に加えて96時間撹拌することにより分散体を調製した。得られた粘稠な分散体を4000rpmで1時間遠心処理した。ペレットと上澄みを個々に集め、0.2μmのアノディスク膜フィルタに通し、アセトンで洗浄し、粉末を真空中120℃で24時間乾燥した。この粉末をラマンスペクトル分析と熱重量分析に掛けた。別に、上澄みを希釈し、実施例1の方法を使用してポリエステルフィルム(マイラー)上に膜を形成した。
【0089】
SWNT−PLV試料のDおよびGモードのラマン分析は表2に示した。Gモード領域とDmモード領域の分析により上澄みは初期サンプル及びペッレトよりも高純度であることが示され、遠心分離がPLVチューブから炭素質の不純物を除去するのに効果的であることが示された。
【0090】
【表2】
【0091】
このSWNT−PLV上澄みを再分散させ、透明膜を調製し、それをポリエステル基体に移した。空気中で48時間乾燥し、真空中で24時間100℃で乾燥し、再び空気に48時間曝した後に、表面抵抗を評価した。透過率を評価しそれをブランク基体と比較した。結果を表3に示す。この試料のシート抵抗と透過率(%)は実施例5のものと同様であった。
【0092】
【表3】
【0093】
比較例4 来技術の酸分散体との比較
超酸を含む酸と硝酸等の酸化剤との混合物はしばしばナノチューブの精製と軽い共有結合変性に使用される。これらの分散体は本発明のものよりも低い性能指数(FOM)を有する。この例では、クロロスルホン酸の代わりに硝酸を使用したほかは、実施例1の方法によりアノディスク(Anodisc)上にCNT膜を形成した。ラマンスペクトルはこれらの膜のG/D比が10より低いことを示した。これは試料中にかなりの損傷が起きたことを示している。
【0094】
本発明の好ましい膜のG/D比は15以上、好ましくは25以上である。ある実施例では本発明の膜のG/D比は図に示したのと同様である。
【0095】
異なったタイプのCNTの特性
実施例8 各種のナノチューブを有するCNT膜
本発明は広範囲の型及び純度のナノチューブに適している。直径の違いにより、異なったナノチューブ源のCNTカチオンへの変換は、より高い温度、より長い分散時間、またはより強い酸を必要とする。これらの条件は各CNT源に対して適正化しなければならない。実施例は各種の原料に対して示してあるが、最適化したものではなく、単に本発明の方法を広範囲のナノチューブ直径及び型へ適用できることを示すためのものである。
【0096】
SWNT−CVD
CVD法により調製した精製光学電子級のSWNTをUnidym社より得た。膜は実施例1及び方法Aにより製造した。膜はPET基体上に付着させた。
【0097】
S WNT−Arc
アーク放電(Arc)法により製造した、精製した低官能性級のSWNT(SWNT−Arc)をCarbon Solutions社より入手した。このSWNTは70〜90重量%の炭素質材料及び7〜10重量%の金属不純物を含むことが報告されている。19.5mgのSWNT−Arcを15mLのクロロスルホン酸に加え、室温で96時間撹拌することにより調製した。使用に先立って、濃縮物をガラスウール栓体に通し、3倍のクロロスルホン酸で希釈した。別法として被覆を実施例1の方法Aによりポリエステル基体に付着させた。同じく、被覆を実施例1の方法Bによりポリエステル基体に付着させた。
【0098】
MWNT−CVD<10nm:
CVD法により得たMWNT(MWNT−CVD<10nm)をHelix Material Solutions社から入手した。このMWNTは平均直径が10nm未満、長さ0.5〜40μm、純度95重量%以上であると報告されている。分散体を0.1mgのMWNT−CVD<10nmと10mLのC1SO3Hを室温で24時間混合撹拌することにより調製した。被覆を実施例1の方法Aを用いてポリエステル基体上に形成した。
【0099】
MWNT−CVD−35nm
CVD法で調製したMWNT(MWNT−CVD−35nm)をMaterials and Electrochemical Research Corporationより入手した。このMWNTは平均直径が35nm、長さが35μm、純度>90重量%であると報告されている。分散体を0.1mgのMWNT−CVD−35nmと10mLのC1SO3Hを室温で96時間混合撹拌することにより調製した。この分散体を使用前にガラスウールの栓体に通した。被覆を実施例1の方法Aを用いてポリエステル基体上に形成した。調製された種々の原料からのシート抵抗と透過率を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4の結果は、本発明の方法が膜の製造にきわめて有用であることを示している。極端に小さいシート抵抗を有し、非常に高い可視光透過率を有する膜が製造できる。膜厚に対する透過率の相関関係は、90%の透過率を有するSWNTが約10〜15nmの厚さを有することを示している。これらの結果は本発明により製造された膜のバルク導電率が11,000S/cmを超え、15,000S/cmすら超えることを示している。
【0102】
ドープ構造
実施例9 従来技術の分散方法により製造した膜のドーピング
従来技術の分散方法により形成される膜は、膜の導電性を向上するために別個のドーピング工程を要することが知られている。HiPco SWNT(CNI,精製級)をチップホーン式超音波処理により、D2Oに0.62重量%のナトリウムドデシルベンゼンスルホン酸を加えた溶液中に分散させた。分散体中のナノチューブの濃度は5.5mg/Lであった。分散体(6g)を0.02μm混合セルロースエステルフィルタに通し、次いで水洗した。得られたCNTマットを次のようにしてPET上に転写した。CNTマットをPETシートに接触させ、熱(80℃)と圧力(<10,000psi)(68.95MPa)を15分間加え、PETから、慎重に剥がすか又はアセトンで膨潤させることにより混合セルロースエステルを除去し、被覆されたPETを再度アセトンで洗浄した。
【0103】
試料を次の液体塩化チオニルの容器に2分間浸漬し、水分のない状態に維持した。試料を液から取り出し、塩化メチレンで洗浄し、次いで空気流により乾燥した。この膜は550nmにおいて74%の透過率を有した。ドーピング前のシート抵抗は532Ω/□であり、ドーピング後では133Ω/□であった。図1のデータと比較すると、ドープ後でさえも従来技術の膜は本発明の膜よりもはるかに小さい性能指数(FOM)を示した。
【0104】
実施例10 本発明の膜のドーピング
この例では、洗浄工程の後に1つの試料を水分のない状態に維持した塩化チオニル液の容器に2分間浸漬したほかは、実施例1の方法により、2種の膜を調製した。試料を液体から取り出し、塩化メチレンで洗浄し、次いで空気流中で乾燥した。これら2種の膜のシート抵抗を測定したところ、両者間に差異がなかった。これは本発明の製膜法を使用すると、二つのメカニズムにより膜の導電性が増大するとの仮説を維持している。すなわち一つは本発明の製膜法がより開束したCNT膜を形成し、より高い導電性をもたらす形態(morphology)を有すること、二つは本発明の製膜法が膜形成工程中に膜の自発的な(intrinsically)ドーピングを起こし、他にドーピング工程を必要としないことである。
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ(CNT)フィルム、及び超酸導入分散によるカーボンナノチューブフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)網状体は、溶液処理と可撓性が重要であるインジウム錫酸化物のような透明で導電性の金属酸化物に代替する可能性を有する。カーボンナノチューブは、その分散体を組成し次いでそれを溶液処理法により基体へ塗布することにより、種々の基体上に良好な接着力で可撓性のナノチューブ網状体を形成することができる。本発明のナノチューブ網状体は一次的には二次元性質を有し、数μmから数mの範囲で平面状に延びており、厚さは数nmから数百nmの範囲にある。
【0003】
薄い透明導体に対する性能指数(FOM)はそのバルクの導電率に比例し、その吸収係数に反比例する。CNT網状体はマット状のCNTより成る複合構造を有する。この場合に導電率と吸収係数はナノチューブの固有の特性、網状体の形態(morphology)、及びナノチューブ同士間の抵抗により影響される。例えば、バルクの導電率は個々のナノチューブの導電率のみならず、種々の形の接合部の抵抗からの寄与にも依存する。バルクの吸収係数は存在する種(典型的にはCNTと空気)の吸収係数と各成分の体積分率により決定される。導電率と性能指数は解束(束をほぐしてばらばらにすること)した形態と長いチューブ長とを有するCNT網状体を達成することにより向上する。
【0004】
薄膜に対しては、シート抵抗はしばしば導電率の最も関連性の高い尺度である。シート抵抗はバルクの導電率とフィルム厚さの関数である。シート抵抗は典型的には膜厚の増大と共に減少する。
【0005】
ナノチューブの電気的特性を損なうことなくCNTを解束して分散させることには困難が残る。一般にコロイド粒子の分散は吸引性のファンデルワールス相互作用、クーロン斥力または引力、及び溶媒和若しくは吸着層に起因する斥力相互作用に依存する。それらの長い長さ、高度な異方性、及び溶剤との貧弱な相容性のため、CNTの間の粒子間吸引ポテンシャルは大きい。CNTは、CNT間結合エネルギーが500meV/nm程度であるために、整列したチューブ間が凝集しやすい。CNTを分散させるための多くの方法が提案されている。典型的にはこれらの方法は大きいナノチューブ束を分散させるが、束中の個々のチューブの電気的及び形状的な構造はかなり変化を受ける。
【0006】
CNTの共有結合変性が、その官能性に依存して分散を達成するために使用されている。適当な条件下には高度の束状化が観測されている。しかし共有結合変性は破壊的であり、パイ結合を切断して飽和sp3炭素元素原子を導入するのでCNTの導電率はかなり損なわれる。
【0007】
表面活性剤、重合体、及び共有結合分散剤のような分散剤を使用して解束したCNT分散体を調製することが行われている。これらの薬剤は高い導電率を達成する目的でフィルム形成後に除去する必要がある。Rinzler外の米国特許出願公開第2004/0197546号には二工程で大部分の表面活性剤を除去することによりCNT網状体を製造することが記載されている。ある用途に対しては、スピン被覆法、浸漬被覆法、遠心被覆法、スクリーン印刷などの直接付着法に適した組成物にすることが望ましい。
【0008】
実際上すべての非共有結合分散法は分散を達成するために超音波処理を使用する。超音波処理はCNTを切断してそれらの長さを短くする。より短いチューブで作成されるCNT膜は等重量の充填に対して長いチューブよりもより高い抵抗を有することが予測される。短いナノチューブは小さいアスペクト比を有するので、浸透性の網状体を達成するにはより高い充填を必要とする。損傷は超音波処理中にも生じる。研究によると、長時間の超音波処理は不定形炭素の量、及び損傷したCNTの存在量を増す。本発明の好ましい方法では超音波処理はCNTの分散には使用されない。
【0009】
多くの分散法、例えば水性表面活性剤及びアミン類を使用する方法は、分散した束チューブ及び単独チューブが分布したものを生成する。束状チューブを単独チューブから分離するには高重力での遠心分離が必要である。遠心分離には高価な装置が必要であるが、総合的に低い収率(<10%)しか得られない。この方法は、非常に低濃度のナノチューブ(<100ppm)を含む分散体しか製造しないので、かかる分散体を使用する方法は大量の溶剤を必要とする。米国特許出願公開第2006/0099135号は水性界面活性剤中で高濃度の分散体を製造することを記載しているが、この方法で使用される超音波処理法はCNTの長さを約200mn以下に下げる。
【0010】
水性表面活性体溶液などからの解束した分散体は、分析目的でシリコンウエハや他の基体上へのスピン被覆又は溶剤蒸発により小規模に付着されている。しばしば個別チューブの領域がAFM(原子間力顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)のような分析方法により発見されている。しかし、5nm以上の厚さを有する導電性で浸透性の網状体膜の大規模な製膜中には、CNT網状体がしばしば20nmより厚いCNTの束で構成されていることが観察される。これは製膜中にCNTが束を再形成する再束化ために起きる。従って、網状体膜中に解束された状態を維持する分散方法と製膜方法が必要である。
【0011】
強酸が容易にSWNT(単層ナノチューブ)の束を開束して分散させることが示されている。CNTと酸に関するほとんどの研究は、CNTのオキシ官能化、カルボシル化、スルフォン化又は硝酸化を行う条件下で行われた。シブタ氏の米国特許出願第5,853,877号では、解束したCNT網状体が、CNTを、例えば硫酸や硫黄含有超酸などの硫黄含有強酸等の強酸と、硝酸、硝酸塩、過マンガン酸塩、クロム酸、クロメート、過酸化水素及び二酸化鉛などの酸化剤とを組み合わせて処理することにより製造されている。
【0012】
Smalley氏外は、巨大繊維を製造するためのニート(neat)超酸系構造(米国特許出願公開第2003/0170166号)、及びアレワイブ(alewive)構造(米国特許出願公開第2003/0133865号)を記載している。カーボンアレワイブ(同様に見える魚にちなんだ命名)は実質的に絡みや長いロープがない針状を有する。後者の公報には、水がCNTアレウイブの凝集体を沈殿させるのに使用されている。米国特許出願公開第2003/0170166号では水は使用されないで発煙硫酸が使用されて厚さ200〜400nmのロープが形成されている。これらの太いロープは、透明で高度に導電性の膜を製造するには望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0197546号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0099135号明細書
【特許文献3】米国特許出願第5,853,877号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0170166号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0133865号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は薄い導電性及び/又は透明CNT網状体を製造するための従来の組成物及び方法に関連した問題点と不利益を解決することを目的とする。CNTの化学的及び電気的構造はこの化学的処理または方法では破壊されない。本方法は分散を達成するのに超音波処理を必要としない。遠心処理は解束を達成するのに必要でないが、試料中の残留不純物を除去するためには場合により使用してよい。組成物は高濃度で且つ100%揮発系中で製造でき、それにより標準的な方法、例えばスピン被覆法やスクリーン印刷法を用いてCNT網状体膜を形成することが可能になる。高度に開束したCNT網状体は次いで重合体、ガラス、セラミック、シリコン、複合体その他の基体上に付着することができる。
【0015】
本発明は、溶液中で解束と分散を可能にし、CNT網状体の製造中に解束した状態を維持することができ、高い膜導電率に寄与するCNT網状体を形成でき、乾燥後に元のCNTの構造的及び電気的特性を保持することができる、可逆電荷移動反応を使用するものである。本方法では、非求核性溶媒中でCNTを安定化する可逆電荷移動反応複合体が形成される。
【0016】
従来、酸化性条件(例えば硝酸の使用下)がCNTを共有原子価的に変性できることが知られている。意外なことに、本発明者はCNT網状体膜に対する優れた分散性が、ナノチューブの恒久的な共有原子価的変性に導く副反応が回避される条件下で、得られることを発見した。
【0017】
分散体を不安定化し、膜形成中に再束化を引き起こす大きなファンデルワールス相互作用を克服するために、荷電したCNTと非共有結合した荷電種との間の錯体を形成することにより斥力が導入される。錯体は電気的に中性であり、大きい距離で分離されている荷電粒子間には正味のクーロン力は存在しない。短距離では二重層の拡散部分が相互侵入し、反発相互作用を発生する。それを超えるとこの重畳が起きる距離は、二重層の厚さと表面電位に依存する。
【0018】
CNTは強酸との反応により正に荷電した種に変換できる。適当な酸には、クロロスルホン酸やトリフロオロメタンスルホン酸などのブロンステッド超酸、アンチモンペンタフルオライドなどのルイス超酸、テトラ(水素スルファト)ボロン酸硫酸などの共役ブロンステッド−ルイス強酸、及びカロボラン酸がある。硝酸/硫酸のような強い酸化性酸の組み合わせは回避すべきである。
【0019】
超酸分散体から薄いCNT膜を製造する場合の重要な課題は、膜形成中に溶液からのCNTの脱混合を制御することである。これは、CNT−CNT凝集を制御して、解束してはいるがいまだ強く凝集している網状体の形成を容易にすることである。この脱混合工程はCNT−超酸電荷移動錯体を脱安定化する有機溶媒を使用することにより開始される。溶媒とCNTの間の相互作用は小さくあるべきであり、さもないと、溶媒はCNT網状体相中に、通常は接合部の間または束の間に取りこまれ、膜の品質と特性を低下させる。
【0020】
従来、強酸から流延した膜を水で洗浄すると、アレワイブ構造になることが知られている。本発明者は、適正な有機溶媒で洗浄するとCNTの小さい束から構成された連続膜が得られること示す。本発明は適当な有機溶剤で凝集する中間工程を含むCNT膜の製造方法を含む。
【0021】
CNT、超酸及び有機溶媒の三元系の熱力学、並びにその相分離の動力学の考察を行うに、主としてCNTを含有する相が生成できるが、束中には若干の超酸が残る。この酸は電荷移動錯体を通じてCNTと強い相互作用を行うので、弱い相互作用の有機溶媒との急速な凝集は過剰な酸を除去するであろうが、ナノチューブに直接会合しているこれらの過剰な酸を除去しないであろう。この方法はナノチューブが成膜工程中に効果的にドープされる膜を生じる結果となり、高い膜導電率を達成するために他の方法により形成される膜では必要であった別個のドーピング工程を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
一つの形態において、本発明は、基体上に配置した膜の形のCNT束の絡み合った塊より成るCNT網状体膜を提供する。ここにCNT束は20nm以下の質量基準平均直径と、500nm以上の質量基準平均長さを有し、膜が5000Ω/□以下のシート抵抗を有する程度に良好な繊維間結合度を示す。ちなみに、シート抵抗は繊維間結合度の最良の尺度であって、良好な結合度を定義するのに必要である。
【0023】
他の形態において、本発明は、CNT束を超酸中に分散させてCNT分散液組成物を形成し、このCNT分散液組成物を基体上に付着させ、ついで強酸を除去する工程を含むCNT網状体膜を形成する方法を提供する。超酸は、ゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、または超酸がプロトンを有しないルイス酸の場合にはゼロより大きい永久双極子モーメントを有するルイス酸である。ここに、「超酸が脱プロトン化したアニオンを有する」とは、脱プロトン化したアニオンが溶液中に存在することを必ずしも意味しないが、ここでは超酸の対称性を定義するために使用されている。しかし典型的には、溶液中で、脱プロトン化したアニオンが、例えば純粋なブロンステッド超酸または共役強酸の形で、プロトン化形態を支配する。ある好ましい実施形態では、脱プロトン化したアニオンは少なくとも1.0デバイの永久双極子モーメントを有する。
【0024】
好ましくは、分散したCNTを有する超酸溶液は、分散体中のCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含有する。「酸化剤」はCNTの構造を劣化し、硫酸または硫黄含有超酸中の酸性度を有する。酸化剤の例には硝酸、発煙硝酸、硝酸塩(例えば硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等)、オゾン、過マンガン酸塩(例えば過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸ナトリウム等)、クロム酸、クロメート、過酸化水素、及び二酸化鉛がある。
【0025】
本発明はまたここに記載する任意の方法で形成されるCNT網状体フィルムを含む。
【0026】
本発明の膜を製造する1つの方法は、CNTを選択し、強酸で電荷移動錯体を形成し、分散媒体に分散させ、基体(非多孔性でも、ろ過膜でもよい)上に初期CNT膜を形成し、次いで非水性ノンソルベントを使用して凝集させることにより解束したCNT構造を得る。別報として、最後の2工程は同時に行ってもよい。
【0027】
本発明は、本書に説明する特徴によりさらに説明できる。例えば、好ましい方法では、液体組成物は硫酸を含有しない。本発明の方法は膜を第2の基質に移行又は転写させる工程を含むことができる。ある好ましい実施形態では、分散したCNTを含有する超酸溶液は、分散体中のCNTを基準にして0.001重量%未満、好ましくは0.0001重量%未満の酸化剤を含むことができる。本発明の方法は処理前後のG/D比は30%未満である。またCNTをノンソルベント(例えばジエチルエーテルまたはニトロメタン等)で洗浄する工程を含むことができる。
【0028】
本発明の方法の他の好ましい特徴及び重要な利点は追加のドーピング工程を要しないで高度の導電性と透明膜が得られることである。CNTは膜形成後にドープ剤で処理する必要がない。この意外な結果は図10に示される。
【0029】
本発明の方法により製造された網状体の形態は特異な構成を有する。この網状体は(1)20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下、ある実施形態では3nm以下、ある他の実施形態では2〜10nmの平均粒子径を有する束からなり、(2)膜平面内の高度の異方性(すなわちCNT繊維がほぼ平面内に配列)を有し、(3)これらの比較的細い束が主として500nm、好ましくは1000nm以上の長さを有するCNTよりなり、(4)低抵抗で測定したとき強い束間相互作用を示し、そして、場合により(5)束間に電荷移動ドーピングを有する。その結果、網状体膜は、5000S/cm以上、好ましくは10000S/cm以上、さらに好ましくは13000S/cmの非常に高いバルク導電率を有する。膜は例えば550nmで98%Tの高い透明性と1100Ω/□の低いシート抵抗を有する。本書において「平均」とは、図3に示された炭素集塊等のCNTでない材料を除いたCNTの全質量を基準とした質量基準平均を意味する。
【0030】
他の形態において、本発明は、基体と、基体上のCNT網状体膜とよりなり、前記網状体膜が少なくとも50%の透明度と、5000Ω/□以下のシート抵抗と、532及び633の波数でのラマン励起バンドの平均値に基づくG/D比が少なくとも15であるCNT網状体を提供する。好ましくは、CNT網状体は少なくとも1cm×1cmの面積を有しそのシート抵抗は1cm×1cm正方形の面上で計測される。
【0031】
他の形態において、本発明は基体とその基体上のCNT網状体膜及び液体からなり、液体は超酸であるCNT網状体膜組成を提供する。超酸はゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、または超酸がルイス酸の場合にはプロトンを有しないルイス酸であってゼロより大きい永久双極子モーメントを有する。この形態は上に述べた対応する方法に類似しており、例えば、好ましい実施形態では、液体は超酸と、CNT網状体膜中のCNTの重量を基準にして、0.001重量%未満の酸化剤を含有する。「酸化剤」はCNTの構造を分解し、硫酸または硫黄含有超酸中の酸度を有する。この組成は次いで基体に付着できる中間体である。
【0032】
CNT網状体膜は更に各種の膜特性により特徴づけることができる。好ましくは、膜は少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の透過率を有する。ここに透過率(透明度ともいわれる)は特に断らない限り550nmで測定される。シート抵抗はもし可能ならば1cm×1cmの正方形上で測定すべきである。ある実施例では膜は少なくとも1cm×1cmの面積を有するが、ある場合には2cm×4cm、又は8cm×6cm、ある実施例では膜は少なくとも1cm2、より好ましくは8cm2の面積(表面積ではなくて幾何学的面積)を有し、広くは1cm2から1000cm2の面積を有する。好ましくはCNT網状体中のCNT束は良好は繊維間結合度を有し、そのため、膜は1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下のシート抵抗を有し、ある実施例では200〜3000Ω/□のシート抵抗を有する。膜は本書に記載のデータにより特徴づけられるもが、ここに記載の特性の任意の組合せに基づいても記述できる。例えば、膜は図1に示したデータにより記述でき、関数%T=9×log(抵抗率)+66(ここにlogは基底10)により記述できる。この関数は膜特性の上限又は下限、又は近似値を記述するのに使用できる。膜は又波数532及び633におけるラマン励起バンドの平均値に基づいてそれらの比G/Dにより記述でき、この比は好ましくは少なくとも15である。CNT網状体膜はまた厚さによっても記述でき、この厚さは好ましくは45nm以下であり、より好ましくは30nmであり、ある実施形態ではこの厚さは15nm以下、そしてある例では膜厚は少なくとも10nmである。
【0033】
用語
用語「カーボンナノチューブ」又は「CNT」は単一、二重又は多重壁の炭素チューブを含む。本発明は特定の型のCNTに限定されない。適当なカーボンナノチューブはHiPco法、アーク放電法、CVD法、及びレーザアブレーション法で製造される単一壁カーボンナノチューブを含む。また、二重壁カーボンナノチューブ(DWNT)、単一、二重、三重壁カーボンナノチューブ、多重壁カーボンナノチューブ及びこれらの材料の共有原子価変性物なども含まれる。CNT組成物はこれらの材料の任意の組合せでも良く、例えば単一壁CNTと多重壁CNTの混合物、又はDWNT及び/又はMWNTより成っていても良いし、或いはSWNTより成るものでも良い。
【0034】
解束したCNTは、好ましくは、5個のナノチューブ幅又はそれ以下である束、好ましくは3個のナノチューブ幅又はそれ以下である束、を主体として(CNT束の全質量に基づく大多数の束はこの幅寸法である)構成される。
【0035】
CNT網状体は、CNT(主に二次元方向にランダム配向したもの)と超酸を含む相である。超酸は好ましくは5重量%以下(CNTと超酸の全量を基準とする)の濃度で、主としての束間接合部と束間の隙間に存在している。CNT網状体膜はそれ自体で存在できるが、基体上に付着させても良く、或いは重合体等の材料内にカプセル化しても良いし、他の材料の層間に挟んでも良い。
【0036】
用語「含む」は他の成分を許容する。ある記載では、本発明は「よりなる」や「より実質的になる」の語はより限定的な意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明により製造されたHiPco SWNT網状体試料に対するシート抵抗と透過率野関係を示すグラフである。
【図2】本発明により製造されたSWNT−HiPco−SP CNT繊維のSEM(走査電子顕微鏡)像である。
【図3】本発明により製造されたSWNT−HiPco−SP CNT繊維のCNT網状体膜のSEM像である。
【図4】785nmでの励起で得たSWNT−HiPco−SPのラマンスペクトルである。
【図5】532nmで測定したSWNT−HiPcoのラマンスペクトルである。
【図6】クロロスルホン酸で処理する前のSWNT−HiPcoを532nmで測定したラマンスペクトルである。
【図7】クロロスルホン酸で処理する前のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである。
【図8】クロロスルホン酸で処理した後のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである。
【図9】従来の分散法により処理した後のSWNT−HiPcoを532nmで測定したラマンスペクトルである(比較例3)。
【図10】従来の分散法により処理した後のSWNT−HiPcoを633nmで測定したラマンスペクトルである(比較例3)。
【図11】クロロスルホン酸に分散したSWNT−HiPcoのTGA(熱重量分析)からの重量損失の微分を表す。
【図12】水性界面活性剤溶液中で超音波処理したSWNT−HiPco対照のTGAからの重量損失の微分を表す(比較例3)。
【図13】従来技術のSDBS表面活性剤法により製造したCNT網状体膜の暗視野STEM(走査型透過電子顕微鏡)像を示す。
【図14】本発明の方法により製造されたCNT網状体膜の暗視野STEM像を示す。
【図15】従来技術のSDBS表面活性剤法により製造したCNT網状体膜の明視野TEM(透過電子顕微鏡)像を示す。
【図16】本発明の方法で製造したCNT網状体膜の明視野TEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
CNT網状体の形態及び構造は数種のパラメータにより記述される。CNTは長さと直径により記述できる。超音波処理、酸化、及び/又は原子価変性を使用する従来の方法はCNT構造を損なう傾向がある。本発明で使用される分散法及び超酸はCNTの構造を変えない。本発明で使用される網状体膜の分析は側壁の完全性とCNTの長さが長いことを示すであろう。網状体に含まれる個々のCNTの長さはTEM、TEM分析により確認できる。試料中のCNTの質量分率はSEM、TEMその他の適当な文先技術により測定できる。
【0039】
CNTはまた束寸法によっても記述できる。本発明では、長い拡散電気二重層を形成するCNT−酸電荷移動錯体によるCNTの再束化は阻止される。超酸又は超酸/溶媒混合物のような液体はCNT網状体の初期形成中に除去されるので、二重層の拡散部分は相互侵入し、CNT同士間に反発性の相互作用を生じる。この重畳が生じる距離は二重層の厚さと表面電位に依存する。高い誘電定数が解束した網状体構造を維持する。SEM、TEM、AFM或いはラマンスペクトルは束寸法の特性付けを与える。
【0040】
第3レベルの構造は束の特性により記述される。一般にCNTは半導電性及び金属性のチューブの混合物から成る。束は系の統計に従って両者の混合物を含む。ドーパントを使用することにより束を一層金属質性のものにすることが可能である。電気導電性のためには一般により金属製の挙動が望まれる。p−ドーパントのようなドーパントがしばしば第2工程で添加される。本発明ではドーパントは酸であり分散工程の部分で使用される。p−ドーパントの証拠は例えば光学吸収スペクトルを調べることによりスペクトル分析で決定できる。電子アクセプタによる充填状態の空乏はvan Hove遷移のブリーチングを生じ、主題の被覆によるpドーピングの証拠となる。pドーピングの証拠は、スペクトルを観察し、ついでヒドラジンのようなnドーパントによる処理後のスペクトルと比較することにより観測され、ブリーチ遷移であることの証拠となる。
【0041】
構造の最終レベルは束間の組織化と相互作用により記述される。束間の相互作用は膜内での接合を提供する。重合体膜とのアナロジーによれば、束間相互作用は束間の架橋に相当する。良好な膜形成と高い導電率のための好ましい構造は束間の接合部での強い相互作用である。本発明においては、束間相互作用はノンソルベントを使用して構造物を凝集させることにより高められる。束間相互作用はノンソルベントを分散体または初期CNT網状体に添加した際に起きる相分離工程の熱力学及び動力学因子を制御することにより調整される。ノンソルベントは酸と混合可能でなければならないが、CNTに対するノンソルベントである。ノンソルベントは、ノンソルベントとCNTの間の相互作用がCNTと酸との間、または酸とノンソルベントの間の相互作用よりもずっと弱くなるように選択される。これは解束した網状体状態において迅速な凝集を促進する。
【0042】
従来技術では、CNT−超酸分散体は、凝集剤としての水または希硫酸と共に使用されている。本発明者はノンソルベントとしての水の使用が付着性の解束したCNT膜の製造には有効でないことを見出した。これは水とCNTの間の強い相互作用が原因である。CNTと強く相互作用する水や他の分子はCNTの表面に吸着し、CNT間の強い相互作用を減少させる。意外なことに、ジエチルエーテルのような相互作用の乏しい溶媒を初期のCNT網状体へ添加すると、付着性の解束したCNT膜が得られた。本発明で製造される膜中の強い束間相互作用は、適当な溶媒に添加したときに生じるCNT網状体の収縮により実証された。実施例で示すように、収縮は優れた電気的および物理的特性を有する高密度の網状体を生じる。
【0043】
上記の本発明の方法は好ましくは、CNTの凝集のために水の使用を避け、ノンソルベントを使用する。この工程は基体上にCNTを分散させる前、同時、または後に行われる。適当でないノンソルベントは例えば水やアルコールのような高度の水素結合に対する高い能力を有するノンソルベントである。これらはそれらのハンセン(Hansen)溶解度パラメータの水素結合成分から決定できる。単純なエーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル)が適当であるが、ジグリムのような複数酸素を有するエーテルは水素結合が多すぎる。可能なノンソルベントの適格性又は不適格性を決定するための一つの基準は、ハンセン溶解度パラメータの水素結合成分の値を調べることである。本発明者は本発明の可能なノンソルベントに対してはδhが15(MPa)1/2であるべきことを見出した。
【0044】
酸に対するCNTの反応性はナノチューブの直径に依存する。純度と初期形態もまた反応性に重要な役目を有する。より広くは、本発明は一般にすべてのCNTに適用される。本発明の方法により分散できるCNTには、直線状の、湾曲した、または分岐した単一壁カーボンナノチューブ(SWNT)、直線状の、湾曲した、または分岐した多重壁カーボンナノチューブ(MWNT)、直線状の、湾曲した、または分岐した少数壁カーボンナノチューブ(FWNT、及びそれらの混合物がある。平均直径が0.5nm〜60nmのCNTが使用できる。反応性の差異が側壁の曲率により与えられれば、適当な酸の選択はCNT原料に依存する。CNTはまた超長CNT(>1cm)及び超純CNTも含むことができる。豆鞘形、置換ドープ型CNT、および充填型CNTも使用できる。
【0045】
ブロンステッド超酸は100%硫酸よりも強い酸として定義される。ルイス超酸は無水三塩化アルミニウムよりも強い酸として定義される。適当な酸にはハロ硫酸などのブロンステッド超酸(例えばクロロスルホン酸、フルオロスルホン酸)、及びパーフルオロアルカンスルホン酸(例えばトリフルオロメタンスルホン酸)、はアンチモンペンタフルオライド、ヒ素ペンタフルオライド、タンタルペンタフルオライド、ニオブペンタフルオライド適当なルイス超酸がある。適当な共役ブロンステッドールイス超酸にはテトラ(水素スルファト)ボロン酸硫酸、及びカルボラン酸(例えばCHB11R5CI6,CH B11R5Br6,and CH B11R5I6。ただしRはH又はCH3)がある。好ましい酸にはクロロスホン酸とトリフルオロメタンスルホン酸が含まれる。本発明はまたこれらの超酸の任意の組み合わせの混合物を含む。硝酸と硫酸のようなCNTの劣化を生じる強酸化性の酸の組み合わせは避けるべきである。発煙硫酸もまた本発明における組み合わせの酸として不適当である。
【0046】
特定の理論に拘束されないけれども、本発明に用いる酸又は酸の組み合わせが適切なことを決定するには二つの重要な因子があると考えられる。一つは個々のナノチューブの固有の導電率を低下させる欠陥を導入するのを防ぐため、酸がナノチューブを強く酸化してはならないことである。二つは酸が永久双極子を有するべきことである。プロトン酸に対しては、双極子モーメントの決定は脱プロトン状態にあるときになすべきである。酸が個々のナノチューブに溶剤和する際に、永久双極子モーメントは、酸がナノチューブに対して好ましい配向を有することを示す。脱プロトン化したクロロスルホン酸においては、双極子はS−Cl結合に沿って存在する。例えば、溶剤和した2個のナノチューブが接近したときに、もしもCSAの好ましい配向が、この双極子がナノチューブの表面に垂直で且つCl原子がナノチューブから離れた位置にあるような場合には、双極子間の強い反発がナノチューブ同士を分離した状態に維持することを助けるであろう。この相互作用は硫酸や発煙硫酸のような酸には存在しないであろう。
【0047】
また、特定の理論に拘束されるものではないが、本発明に適した化合物により示される望ましさは、部分的に、相対的な分散性、極性、ハンセン型溶解度パラメータの水素結合成分、及び相対的なオクタノール−水の分配係数{LogP)に依存するものと考えられる。たとえば、クロロスルホン酸とトリフリック酸(トリクロロメタンスルホン酸)のような適当な酸は、ハンセン溶解度パラメータが30〜40であり、その極性部分成分は20〜30であるが、不適当な化合物例えば硫酸はハンセン溶解度パラメータがほぼ70のはるかに高いであり、その極性部分成分がほぼ60の高い値である。これらの溶解度パラメータはそれ自体、表面張力のような特性に表われる。この場合、クロロスルホン酸とトリフリック酸が約100〜200ダインcmの範囲にありうるが、硫酸ではわずかに約30ダインcmであり、LogPはCSAとTFAが正(+)0.1〜0.6の範囲の推定値を有していて有機溶媒にはより良く溶解しうるが、硫酸は水性相中でLogP=負(−1)であって水性相に10倍も良く溶解しうる。好ましい実施形態では、超酸は好ましくはハンセン溶解度パラメータが40以下、ある実施形態では30〜40である。
【0048】
CNT電荷移動錯体は溶媒のような分散媒体に溶解しなければならない。CNT/酸電荷移動錯体に対する適当な溶媒にはニート超酸単独又はその混合物がある。ある実施形態では超酸は揮発性の超酸、例えばクロロスルホン酸、トリフルオロエタンスルホン酸、又はアンチモンペンタフルオライドなどから選ばれる。好ましい揮発性超酸は100℃で0.1気圧以上、より好ましくは80℃で0.5気圧以上の蒸気圧を有する。
【0049】
別法としてCNT/酸電荷移動錯体は、例えば液体SO2、SO2CIF、及びSO2F2のような低いCNT求核性溶媒、ジエチルエーテル、ニトロメタン、及びテトラヒドロフランのような典型的なフリーデル・クラフト溶媒、またはニトロベンゼンのような不活化芳香族溶媒などに溶解し得る。超酸/溶媒の組み合わせは大きな拡散電気二重層を維持するために十分に高い誘電定数を有しなければならない。好ましい実施例では、溶媒は低い嗅覚性と高い誘電率を有する。好ましくは、誘電定数は35より大きく、より好ましくは60以上である。
【0050】
分散体はCNTと超酸を、場合により溶媒で希釈し、不活性雰囲気中でCNTの反応性に依存した温度約78〜120℃にて混合する。より高い温度では、イオン強度が増すのでスクリーニング長さが増大し、それが斥力相互作用の有効距離を減少させることが予想される。超酸の温度安定性もまた考慮しなければならない。混合プロセスの温度と時間もCNTの側壁損傷が生じないように制御されなければならない。側壁損傷の程度は分散体をノンソルベントに分散させ、Measurement Issues in Single Wall Carbon Nanotubes.NIST Special Publication 960−19に記載されているように、ラマンスペクトル、NIRスペクトル、又はTGAによりCNTを分析することで監視できる。
【0051】
改善された艶、耐久性、その他の物理的・機械的な特性を改善するために添加剤を添加することができる。最高度の導電率を維持するためには、好ましくは、これらの添加剤は回避する。
【0052】
初期CNT網状体は公知の方法を使用して分散体を基体上に施すことにより形成できる。例えば、分散体を多孔質膜フィルタで濾別してCNTマットを形成する。膜フィルタは溶媒組み合わせと相容性でなければならない。適当な膜フィルタにはアルミナ、ガラス、PVDF、PTFE、PEEK、及びポリプロピレンから製造される膜がある。
【0053】
揮発性の超酸が使用される場合には、膜はスピンコート法、浸漬コート法、及びスクリーン印刷法等の直接付着法で成膜することができる。基体は酸と相容性があるように選択しなければならない。適当な基体はガラス、PTFE、PVDF、ポリプロピレン、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(Kevlar)、PEEK、セラミック、その他酸と相容性を有する他の材料を含む。
【0054】
付着性のCNT網状体の形成は、ノンソルベントをCNT膜に加えることにより実施できる。好ましいノンソルベントは超酸と混合可能であり、CNTとは弱い相互作用しか持たない。沸点が1気圧で80℃未満の揮発性溶媒が好ましい。ノンソルベントにはジエチルエーテル、THF、ニトロメタンなどの窒素含有化合物、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン等が含まれる。ノンソルベントは好ましくは水を含有しないものである(それらは非水性である)。
【0055】
付着性のCNT網状体膜は、一旦成膜されると、大きい強度を有し、必要なら第2工程で既知の方法を用いて、ガラス、ポリエステル、シリコン、ポリエチレン等の他の基体の上に移行できる。この方法には、限定ではないが、例えばフロート法、直接圧力転写、またはパッド印刷などの方法がある。
【0056】
ある実施例ではCNT網状体は良好な付着性、10nm未満の平均束寸法、及びp−ドープ性を有する。ある好ましい実施形態では試料は0.01重量%以下の硫黄を含有する。
【0057】
好ましい実施形態では、ナノチューブの凝集を防ぐために、分散工程及び製膜工程中に水その他の競合性の塩基または還元剤の使用を避けるべきである。たまたま存在する空気中の水分は製膜工程の時間程度では極端な束形成を引き起こさないが、窒素、アルゴン、またはその他の不活性ガス中での性膜が好ましい。CNTカチオンの恒久的な酸化状態への分解は、CNTの分散工程中に、また好ましくは製膜工程にも、120℃以下の温度に維持することにより避けることができる。本発明の方法では好ましくは超音波処理を使用しない。
【0058】
次の実施例は本発明を具体的に説明し、従来技術に対する利点を説明する。本発明の方法の一つの重要な特徴は、生成される網状体の形態が独特で、長いCNT(500nm以上)が非常に小さい束(好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下)に組織化され、強い束間付着力を示すという点にある。本発明の方法はCNT網状体の膜形成を促進する。これは種々のノンソルベントを使用する例を比較することにより示される。独特な形態は5nm以下の薄膜に対する優れた導電率と低いシート抵抗とを有する膜を生成する。これはポリエステル基体上に付着した膜フィルムのシート抵抗と光学的な透過率を測定することにより示される。超酸を使用するとCNTの分散と解束がそれらを破損することなく行われる。これは処理の前後でSWNTのラマンスペクトルと熱重量分析のデータを比較することにより確認される。本発明に特有の利点をよりよく区別するために、水性表面活性剤中で超音波処理する標準的な製膜法により調製した対照試料の例が用意される。本発明の他の利点はCNT膜の優れた電気特性が非常に低い充填度のCNTにより達成できることである。
【実施例】
【0059】
試料の特性の評価
CNT膜のシート抵抗はジャンデル万能プローブ(Jandel Universal Probe)及びコルウエア(Corrware)ソフトウエアにより測定した。この万能プローブは、1mm間隔で直線上に配列した先端が半径100μmの4本のピンからなる。膜をばね圧力25gでこれらのピンと接触させる。電流を−0.1mAから0.1mAまで0.01mA/秒の割合で増加させる。すべての試料はオーム的な応答を示した。シート抵抗は式Rs=4.532x(V/I)×GFCにより決定した。ここにV/Iは抵抗、GFCは膜厚とピン間隔の間の関係に基づく補正係数である。これらのフィルムの厚さが与えられると、補正係数は代表的には0.99となる。別法としてシート抵抗は銀塗料による2つの平行な電極を1インチ×1インチのCNT膜の対向した縁部に沿って塗布して形成することにより測定できる。シート抵抗はデジタルマルチメータにより決定できる。
【0060】
ナノチューブ膜の近赤外(NIR)及び可視光スペクトルを、バリアンケアリー(Varian Cary)5000UV/Vis/NIRスペクトルメータにより3000nm(3333cm-1)から400nmの範囲で測定した。スペクトルは、平均時間0.1秒あたり2nmのスペクトルバンド幅で、600nm/分の走査速度をもって取得した。一般に試料は空気を背景として走査された。CNTを含まないブランク基体もまた空気を背景として走査された。%透過率は、500nmにおいて、試料からの透過率とブランクからの透過率を比較することにより決定した。
【0061】
CNT膜のラマンスペクトルはスペクトル計Horiba−JY“Aramis”Raman Confocal Microspectrometerを使用し、633nm励起で、後方散乱モードで取得した。20倍の顕微鏡の対物レンズに試料の光学焦点を合わせた。ラマン信号はZ方向距離のさらなる調整機能を有するリアルタイムディスプレイ(Real Time Display)を使用して最適化した。試料の加熱効果が観測されないように試料に対してレーザ光を5mWまで減少した。Gバンドの安定性は加熱効果の分析に使用できる。データ取得のために1秒の取得時間と4cm-1の分解能を使用し、16本のスペクトル信号の平均を取った。スペクトルは試料上の数カ所で取得して固有のラマンバンドの平均強度を求めた。Dモード(532nm励起で約1322cm-1)及びGモード(532nm励起で1580cm-1)に対する積分強度を決定することによりG/D比を求めた。さらに最大強度の比を比較して同一の結果を得た。
【0062】
熱重量分析を分析装置Perkin Elmer Pyris 1 TGAにより実施した。パーカロイ(Perkalloy)とアルメル(Alumel)のキュリー温度遷移を使用して温度を較正し、秤には100mgの錘を使用して較正し、炉は分析ソフトを使用して50〜900℃から較正した。ほぼ7mgをPt皿に入れた。加熱速度は空気中10℃/分であった。
【0063】
成膜
実施例1 付着性の解束したCNT膜の形成−方法A
HiPco法により調整した精製級のSWNT(SWNT−HiPco)をCarbon Nanotechnologies,Incより入手した。このSWNTは灰分が15重量%未満であると報告されている。10mgのSWNT−HiPcoを50mLのクロロスルホン酸に添加し、室温で12時間撹拌すること(撹拌板上の棒磁石を使用)により分散体を調製した。既知量のこの分散体を真空の助けにより0.2μmアノディスク(Anodisc)膜で濾別して所望厚さの初期CNT網状体を得た。ある場合には、分散体をより多くの酸で希釈して非常に薄い膜を製作した。真空を維持しながらノンソルベントとして50mLのジエチルエーテルを添加した。水洗するとSWNT網状体の色が黄褐色から黒に変化した。ノンソルベントの種類と接合性の束間相互作用とにより、膜とアノディスクの間の界面に離型が観察されることがある。SWNT網状体膜は被覆された膜フィルタを水浴に浸漬することにより膜フィルタから離型された。SWNT網状体膜は水面に浮かび、ポリエステルやガラスのような基体にすくい上げることができた。膜を肉眼観察すると膜は均一であることを示した。
【0064】
実施例1、方法Aにより調製されたCNT被覆の光学透過率を波長550nmで決定した。光透過率は被覆中のナノチューブの体積分率と被膜の厚さに正比例する。浸透モデルに基づいて期待されるように、シート抵抗は透過率が増大するにつれて減少する。浸透の閾値近傍ではシート抵抗が劇的に増大することが予期される。浸透が達成される体積分率はナノチューブのアスペクト比に依存する。透過率とシート抵抗は試験範囲でほぼ直線関係にあるので、充填は明らかに浸透閾値よりも充分上にあるが、これは分散工程で短縮されなかった長いナノチューブが存在することと一致している。
【0065】
さらなる実施例の結果はここに提示したデータと比較されるである。図1に示した結果はほぼ直線で表すことができる。優れた性能を有する膜はこの線の上側又は左側に存在する。これに対して、性能の低い膜はこの線の下または右側にある。
【0066】
実施例2 付着性の解束したCNT膜−方法B
実施例1に記載した方法で分散体を調製した。既知容積の分散体を真空の補助によりPVDF膜フィルタにより濾別し、乾燥空気の流れを膜表面に流して乾燥し、初期の膜を得た。真空を維持しながら、ジエチルエーテルをノンソルベントして加えた。乾燥したSWNT網状体膜をマイラー(PET)のような重合体基体に接触させ、圧力を加えて網状体膜を基体に転写させた。膜の肉眼観察で膜が均質であることが示された。
【0067】
実施例3 付着性の解束されたCNT膜−方法C
ガラスのような相容性のある基体上に薄膜を形成するためにスピンコート法や浸漬コート法のような直接付塗布法が使用できる。例えば、薄膜はスピンコート法で形成できる。HiPco法(SWNT−HiPco)で製造される精製級のSWNTはCarbon Nanotechnologies,Inc.より入手した。SWNTは灰分が15重量%であることが報告されている。分散体は50mgのSWNT−HiPcoを10gのクロロスルホン酸に添加し、次いで室温で120時間撹拌することにより調製した。得られた粘稠な分散体を、アルゴン雰囲気中2500−5000rpmの速度で2分間、ガラス基体上にスピンコートすることにより塗布した。乾燥後、被覆済みのガラス基体(スライド)をジエチルエーテルで洗浄した。これらの試料のシート抵抗はそれぞれ176Ω/□、及び110Ω/□であり、透過率は550nmにおいて60%よりも大きかった。スピンコート法は他の方法よりも少ない溶媒で済み、小さいRMS粗さの光学品質の膜を生成する。膜を肉眼観察したところ均一であった。
【0068】
比較例1 ノンソルベントとして水を使用する場合
Smalley氏他は、巨大繊維(米国特許出願公開2003/0170166号)及びアレワイブ構造(米国特許出願公開2003/0133865号)の製造に、ニート超酸系を使用することを記載している。後者の文献には、配列したSWNTの凝集物を沈殿させるために水を使用している。分散体を実施例1に記載された方法で調製した。既知容積の分散体を0.2μmのアノディスク(Anodisc)膜で濾別して初期CNT網状体を形成した。真空を維持しながら50mLの水をノンソルベントとして添加した。水に浸漬して試料を浮遊させると、膜は分離しないで剪断され裂けた。これは束間付着性に乏しく、膜形成特性が貧弱であることを示している。したがって、水は付着性で解束したCNT膜を形成するための凝集剤としては使用できない。
【0069】
比較例2 発煙硫酸の使用
クロロスルホン酸の代わりに発煙硫酸を使用したほかは、実施例1に従って分散体を調製した。補助的に真空を用いて、既知量の分散体を0.2μmのアノディスク(Anodisc)膜で濾別して所望厚さの初期CNT網状体を形成した。真空を維持しながら50mLのジエチルエーテルをノンソルベントとして添加した。被覆された膜フィルタを水浴に浸漬して膜フィルタからSWNT網状体膜を分離した。SWNT網状体膜は水表面に浮かび、ポリエステルまたはガラスのような基体ですくい上げることができた。
【0070】
膜を肉眼観察したところ、膜は黒い斑点を有した。これら黒い斑点はノンソルベントの添加中に起きたCNTの相分離によるものである。付着性の、解束した網状体膜は発煙硫酸からは製造できない。
【0071】
発煙硫酸から調製した膜のシート抵抗は実施例1により製造した膜のものよりも大きかった。例えば、比較例2により製造された膜はシート抵抗592Ω/□であり、図1と比較して観察した透過率は80.1%であった。この値は線の右側にあるので、低い性能を表している。
【0072】
実施例3 種々のノンソルベントの使用
ジエチルエーテルの代わりに各種のノンソルベントを使用して実施例1、方法Aで調製した。
【0073】
溶媒による膜洗浄は次のとおりである。
エーテル 優秀、
THF 良好、
アセトン 良好、
メタノール 貧弱、
エタノール 貧弱、
イソプロパノール 貧弱、
ジグリム 貧弱、
クロロホルム 貧弱、
ニトロメタン 優秀、
ニトロベンゼン 貧弱。
【0074】
本発明に対する溶媒の適正性は、特にCNTとの相互作用、酸との相互作用、蒸発速度、及び疎水性を含む数種の因子により決定される。
【0075】
本発明の膜の特異な形態
実施例4 超精製HiPco SWNTのSEM及びラマンスペクトル
得られたCNT網状体の形態(morphology)はSEM及びラマンスペクトルの組みわせで特性づけることができる。高純度CNT原料からさえも解束したCNT網状体を製造できる本発明の方法の高い効率を示すために、超精製級ナノチューブ(SWNT−HiPco−SP)を選択した。低レベルの残留アモルファス炭素を含有する解束したCNT網状体は、しばしば解束及び分散の観点から大きな問題を生じる。
【0076】
HiPco法(SWNT−HiPco−SP)により調製された超精製級SWNTを、Carbon Nanotechnologies Incから入手した。SWNTは灰分5重量%以下であることが報告されている。0.3mgのSWNT−HiPco−SPを140mLのクロロスルホン酸に加え、室温で3時間、80℃で48時間撹拌して分散体を得た。実施例1の方法Aを使用してポリエステル基体に被覆を付着した。
【0077】
分散前のSWNT−HiPco−SPのSEM像を図2に示した。クロロスルホン酸分散体から調製した厚さ100nmのCNT網状体をSEM像図3に示す。粉末は絡み合った超ロープより成る濃密な集塊から構成される。分散と成膜を行った後のSEMは集塊と超ロープ構造の両者が分断されていることを示した。これらの試料は10nmより小さい束から成っている。大量の球状の不純物が両試料に存在している。これらは膜形成に先立つ分散体を遠心法で除去できる。
【0078】
ラマンスペクトル中に観測されるラジアル・ブリージンクグ・モード(RBM)は解束度の他の指標である。個々のSWNTの電子分散は凝集により変えられる。通常のID分散に直交する電子分散の発達はバンドを共鳴から外し、或いは共鳴にもたらしうる。例えば、(10,2)及び(13,2)型ナノチューブから生じる267cm-1と204cm-1のバンドは、ナノチューブが束にされると、785nmで共鳴する。高度に精製されたHiPco SWNTかれ調製される被覆のラマンスペクトルは図4に示されている。267cm-1にはバンドが観測されないが、これは高度に開束したSWNT試料と一致する。
【0079】
本発明により製造された膜中のCNTの構造
実施例5 クロロスルホン酸によるSWNT−HiPcoの処理
HiPco法(SWNT−HiPco)により製造した精製級SWNTをCarbon Nanotechnologies,Inc.から得た。このSWNTは灰分15重量%であることが報告されている。10mgのSWNT−HiPcoを50mLののクロロスルホン酸に加え、室温で12時間撹拌して分散体を得た。分散体を0.2μmアノディスク膜に通して捕集し、次いで150mLのジエチルエーテルで2回洗浄して、処理済みSWNTを得た。粉末を110℃で12時間、次いで真空中160℃で24時間乾燥した。次いで試料をラマンスペクトル計と熱重量分析により測定した。
【0080】
比較例3 SWNT−HiPcoの超音波処理(対照)
HiPco法で製造した精製級SWNTをCarbon Nanotechnologies,Incから入手した。このSWNTは灰分15重量%未満であると報告されている。分散体は、50mgのSWNT−HiPcoを50mLの0.62重量%ナトリウムドデシルベンゼンスルホン酸塩水溶液に添加し、次いで尖端ホーン(20kHz、225ワット)により30分間超音波処理することにより調製した。この分散体を0.2μmアノディスク膜に通し、次いでSWNTを多量の水により界面活性剤の泡が見えなくなるまで洗浄した。粉末を110℃で12時間、次いで真空中160℃で24時間乾燥した。次いでこの試料をラマンスペクトル計及び熱重量分析により測定した。
【0081】
膜調製の前後のSWNT−HiPcoのラマンスペクトルを実施例5と同様にして測定したものを図5〜8に示す。比較例3に記載したように成膜した後のSWNT−HiPcoのラマンスペクトルを図9、図10に示す。図5、図6及び図9は532nm励起でのラマンスペクトルである。図7、図8及び図10は、633nmでのラマンスペクトルである。ラマン分析はナノチューブの相対的な純度の有用な指標である。1600cm-1近傍でのGモードの、1325cm-1近傍でのDモードに対する積分強度比G/Dは純度が低下するに従って減少する。CNTへの損傷はDモードの強度が増すにつれて増す。試料に対する異なった励起波長でのD及びDバンドの積分強度は表1に示される。
【0082】
図面及び表に示したように、成膜前のSWNT−HiPcoは入手時の純度に関係した比較的小さいDバンドを示す。G/D強度比は、レーザ励起波長に依存して約24である。処理後にはG/D強度比は23になる。処理後には、レーザ励起波長の関数としてより多い散乱が観測されるが、しかしこれは方法の実験誤差の範囲にある。これらの結果は本発明の処理及び方法がCNTの化学構造を変えないことを示唆している。処理前後のG/D比の差は、30%よりも遙かに小さい。
【0083】
従来技術により分散処理(例えば比較例3)はG/Dの相当の減少を示している。G/Dの平均は20である。633nmの励起でのスペクトルを比較すると、本発明の方法が従来技術に比して優れていることが実証される。Dバンドの貢献は超音波処理が使用される場合にはるかに大きくなる。532nmでのスペクトルは、金属製ナノチューブにより引き起こされる線の先鋭さのため解釈がより困難になる。
【0084】
【表1】
【0085】
熱重量分析(TGA)もまたCNT試料中に存在する損傷のレベルの指標である。処理前後の粉末の熱重量分析(空気中10℃/分)はいずれも420℃近傍で分解が始まることを示す。結果は分散処理による損傷がほとんどまたは全然起きないことを示している。クロロスルホン酸による処理後の試料に対する重量損失曲線の一次導関数が図11に示されている。比較のため、従来の水性分散法により製造されたSWNT−HiPco試料(例えば比較例3)に対する導関数の曲線を図12に示した。この試料は分解の開始が358℃であることを示しており、試料にかなりの損傷が生じたことを示している。
【0086】
図13と図15は比較例3のように製造されたCNT膜に対するSTEM及びTEM像を示す。図14と図16は本発明の分散法により調製された膜に対するSTEM及びTEM像を示す。これらの像を比較すると、比較例の処理膜は酸で処理したものよりもはるかに密であること、本発明の膜中にははるかに細いファイバ及び束が観測されること、及び本発明の膜中ではより大きい束が多くの細いファイバまたは束により相互結合されていることが分かる。
【0087】
実施例6 CNT膜特性への遠心力の影響
遠心力は解束には不要であるが、CNT原料の純度を向上させるために任意に使用してもよい。球状不純物は遠心力を利用して棒状不純物から分離することができる。これはおそらく球と棒の拡散係数が異なるためであろう。
【0088】
パルスレーザ蒸発法により製造した原料SWNT(SWNT−PLV)をOakridge National Laboratoryから入手した。51.5mgのSWNT−PLV原料を10mLのクロロスルホン酸に加えて96時間撹拌することにより分散体を調製した。得られた粘稠な分散体を4000rpmで1時間遠心処理した。ペレットと上澄みを個々に集め、0.2μmのアノディスク膜フィルタに通し、アセトンで洗浄し、粉末を真空中120℃で24時間乾燥した。この粉末をラマンスペクトル分析と熱重量分析に掛けた。別に、上澄みを希釈し、実施例1の方法を使用してポリエステルフィルム(マイラー)上に膜を形成した。
【0089】
SWNT−PLV試料のDおよびGモードのラマン分析は表2に示した。Gモード領域とDmモード領域の分析により上澄みは初期サンプル及びペッレトよりも高純度であることが示され、遠心分離がPLVチューブから炭素質の不純物を除去するのに効果的であることが示された。
【0090】
【表2】
【0091】
このSWNT−PLV上澄みを再分散させ、透明膜を調製し、それをポリエステル基体に移した。空気中で48時間乾燥し、真空中で24時間100℃で乾燥し、再び空気に48時間曝した後に、表面抵抗を評価した。透過率を評価しそれをブランク基体と比較した。結果を表3に示す。この試料のシート抵抗と透過率(%)は実施例5のものと同様であった。
【0092】
【表3】
【0093】
比較例4 来技術の酸分散体との比較
超酸を含む酸と硝酸等の酸化剤との混合物はしばしばナノチューブの精製と軽い共有結合変性に使用される。これらの分散体は本発明のものよりも低い性能指数(FOM)を有する。この例では、クロロスルホン酸の代わりに硝酸を使用したほかは、実施例1の方法によりアノディスク(Anodisc)上にCNT膜を形成した。ラマンスペクトルはこれらの膜のG/D比が10より低いことを示した。これは試料中にかなりの損傷が起きたことを示している。
【0094】
本発明の好ましい膜のG/D比は15以上、好ましくは25以上である。ある実施例では本発明の膜のG/D比は図に示したのと同様である。
【0095】
異なったタイプのCNTの特性
実施例8 各種のナノチューブを有するCNT膜
本発明は広範囲の型及び純度のナノチューブに適している。直径の違いにより、異なったナノチューブ源のCNTカチオンへの変換は、より高い温度、より長い分散時間、またはより強い酸を必要とする。これらの条件は各CNT源に対して適正化しなければならない。実施例は各種の原料に対して示してあるが、最適化したものではなく、単に本発明の方法を広範囲のナノチューブ直径及び型へ適用できることを示すためのものである。
【0096】
SWNT−CVD
CVD法により調製した精製光学電子級のSWNTをUnidym社より得た。膜は実施例1及び方法Aにより製造した。膜はPET基体上に付着させた。
【0097】
S WNT−Arc
アーク放電(Arc)法により製造した、精製した低官能性級のSWNT(SWNT−Arc)をCarbon Solutions社より入手した。このSWNTは70〜90重量%の炭素質材料及び7〜10重量%の金属不純物を含むことが報告されている。19.5mgのSWNT−Arcを15mLのクロロスルホン酸に加え、室温で96時間撹拌することにより調製した。使用に先立って、濃縮物をガラスウール栓体に通し、3倍のクロロスルホン酸で希釈した。別法として被覆を実施例1の方法Aによりポリエステル基体に付着させた。同じく、被覆を実施例1の方法Bによりポリエステル基体に付着させた。
【0098】
MWNT−CVD<10nm:
CVD法により得たMWNT(MWNT−CVD<10nm)をHelix Material Solutions社から入手した。このMWNTは平均直径が10nm未満、長さ0.5〜40μm、純度95重量%以上であると報告されている。分散体を0.1mgのMWNT−CVD<10nmと10mLのC1SO3Hを室温で24時間混合撹拌することにより調製した。被覆を実施例1の方法Aを用いてポリエステル基体上に形成した。
【0099】
MWNT−CVD−35nm
CVD法で調製したMWNT(MWNT−CVD−35nm)をMaterials and Electrochemical Research Corporationより入手した。このMWNTは平均直径が35nm、長さが35μm、純度>90重量%であると報告されている。分散体を0.1mgのMWNT−CVD−35nmと10mLのC1SO3Hを室温で96時間混合撹拌することにより調製した。この分散体を使用前にガラスウールの栓体に通した。被覆を実施例1の方法Aを用いてポリエステル基体上に形成した。調製された種々の原料からのシート抵抗と透過率を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4の結果は、本発明の方法が膜の製造にきわめて有用であることを示している。極端に小さいシート抵抗を有し、非常に高い可視光透過率を有する膜が製造できる。膜厚に対する透過率の相関関係は、90%の透過率を有するSWNTが約10〜15nmの厚さを有することを示している。これらの結果は本発明により製造された膜のバルク導電率が11,000S/cmを超え、15,000S/cmすら超えることを示している。
【0102】
ドープ構造
実施例9 従来技術の分散方法により製造した膜のドーピング
従来技術の分散方法により形成される膜は、膜の導電性を向上するために別個のドーピング工程を要することが知られている。HiPco SWNT(CNI,精製級)をチップホーン式超音波処理により、D2Oに0.62重量%のナトリウムドデシルベンゼンスルホン酸を加えた溶液中に分散させた。分散体中のナノチューブの濃度は5.5mg/Lであった。分散体(6g)を0.02μm混合セルロースエステルフィルタに通し、次いで水洗した。得られたCNTマットを次のようにしてPET上に転写した。CNTマットをPETシートに接触させ、熱(80℃)と圧力(<10,000psi)(68.95MPa)を15分間加え、PETから、慎重に剥がすか又はアセトンで膨潤させることにより混合セルロースエステルを除去し、被覆されたPETを再度アセトンで洗浄した。
【0103】
試料を次の液体塩化チオニルの容器に2分間浸漬し、水分のない状態に維持した。試料を液から取り出し、塩化メチレンで洗浄し、次いで空気流により乾燥した。この膜は550nmにおいて74%の透過率を有した。ドーピング前のシート抵抗は532Ω/□であり、ドーピング後では133Ω/□であった。図1のデータと比較すると、ドープ後でさえも従来技術の膜は本発明の膜よりもはるかに小さい性能指数(FOM)を示した。
【0104】
実施例10 本発明の膜のドーピング
この例では、洗浄工程の後に1つの試料を水分のない状態に維持した塩化チオニル液の容器に2分間浸漬したほかは、実施例1の方法により、2種の膜を調製した。試料を液体から取り出し、塩化メチレンで洗浄し、次いで空気流中で乾燥した。これら2種の膜のシート抵抗を測定したところ、両者間に差異がなかった。これは本発明の製膜法を使用すると、二つのメカニズムにより膜の導電性が増大するとの仮説を維持している。すなわち一つは本発明の製膜法がより開束したCNT膜を形成し、より高い導電性をもたらす形態(morphology)を有すること、二つは本発明の製膜法が膜形成工程中に膜の自発的な(intrinsically)ドーピングを起こし、他にドーピング工程を必要としないことである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に付着したフィルムの形態の絡み合ったCNT(カーボンナノチューブ)束の塊を有するCNT網状体において、前記CNT束は、質量基準平均直径が20nm以下であり、質量基準平均長さが500nm以上であり、そして繊維間結合度が、前記フィルムのシート抵抗で表して5000Ω/□以下である、CNT網状体膜。
【請求項2】
550nmでの光透過率が80%以上である、請求項1に記載のCNT網状体膜。
【請求項3】
CNT束が、シート抵抗で表して1000Ω/□以下の繊維間結合度を有する、請求項1又は2に記載のCNT網状体膜。
【請求項4】
少なくとも90%の透過率を有する請求項1〜3のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項5】
CNT束が、シート抵抗で表して500Ω/□以下の繊維間結合度を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のCNT網状体膜。
【請求項6】
CNT束が、シート抵抗で表して200〜3000Ω/□の繊維間結合度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のCNT網状体膜。
【請求項7】
少なくとも90%の透過率を有する請求項1〜6のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項8】
前記膜は少なくとも1cm×1cmの面積を有する1〜7のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項9】
波数532及び633での平均ラマン励起バンドに基づくG/D比が少なくとも15である請求項1〜8のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項10】
CNT束を超酸中に分散させてCNT分散液組成物を形成し、このCNT分散液組成物を基体上に付着させ、ついで超酸を除去する工程を含むCNT網状体膜を形成する工程を含み、前記超酸は、ゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、またはプロトンを有しないルイス酸であってゼロより大きい永久双極子モーメントを有するルイス酸であり、分散液組成物はそれに含まれるCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含有する、CNT網状体膜を製造する方法。
【請求項11】
前記超酸は、クロロスルホン酸を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10の方法により製造されたCNT網状体膜。
【請求項13】
前記液体組成物は硫酸を含まない請求項10の方法。
【請求項14】
さらに、前記膜を第2の基体に移行させる工程を有する請求項10、11及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記分散したCNTを含んでいる超酸溶液は前記分散したCNTを基準にして0.0001重量%未満の酸化剤を含む、請求項10、11、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記分散したCNTを含んでいる超酸溶液は前記分散体中のCNTを基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含む、請求項10、11、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
処理前後のG/D比が30%未満である請求項10、11、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
基体への付着工程に続いて、さらに、前記組成物をジエチルエーテルまたはニトロメタンで洗浄する、請求項10、11、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
基体上のCNT網状体膜とよりなり、前記網状体膜は少なくとも50%の透明度と、5000Ω/□以下のシート抵抗と、532及び633の波数でのラマン励起バンドの平均値に基づくG/D比が少なくとも15であり、前記CNT網状体膜は11000S/cmを超えるバルク導電率を有するCNT網状体膜。
【請求項20】
基体上のCNT網状体膜と、前記基体上の液体とを含み、前記液体は揮発性の超酸を含み、前記揮発性の超酸は、脱プロトン化したアニオンを有し、前記脱プロトン化したアニオンはゼロより大きい永久双極子モーメントを有するCNT網状体膜。
【請求項21】
前記液体は、超酸と,前記CNT網状体膜中のCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含んでいる請求項20のCNT網状体膜。
【請求項1】
基体上に付着したフィルムの形態の絡み合ったCNT(カーボンナノチューブ)束の塊を有するCNT網状体において、前記CNT束は、質量基準平均直径が20nm以下であり、質量基準平均長さが500nm以上であり、そして繊維間結合度が、前記フィルムのシート抵抗で表して5000Ω/□以下である、CNT網状体膜。
【請求項2】
550nmでの光透過率が80%以上である、請求項1に記載のCNT網状体膜。
【請求項3】
CNT束が、シート抵抗で表して1000Ω/□以下の繊維間結合度を有する、請求項1又は2に記載のCNT網状体膜。
【請求項4】
少なくとも90%の透過率を有する請求項1〜3のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項5】
CNT束が、シート抵抗で表して500Ω/□以下の繊維間結合度を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のCNT網状体膜。
【請求項6】
CNT束が、シート抵抗で表して200〜3000Ω/□の繊維間結合度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のCNT網状体膜。
【請求項7】
少なくとも90%の透過率を有する請求項1〜6のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項8】
前記膜は少なくとも1cm×1cmの面積を有する1〜7のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項9】
波数532及び633での平均ラマン励起バンドに基づくG/D比が少なくとも15である請求項1〜8のいずれか一項のCNT網状体膜。
【請求項10】
CNT束を超酸中に分散させてCNT分散液組成物を形成し、このCNT分散液組成物を基体上に付着させ、ついで超酸を除去する工程を含むCNT網状体膜を形成する工程を含み、前記超酸は、ゼロより大きい永久双極子モーメントを有する脱プロトン化したアニオンを有するか、またはプロトンを有しないルイス酸であってゼロより大きい永久双極子モーメントを有するルイス酸であり、分散液組成物はそれに含まれるCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含有する、CNT網状体膜を製造する方法。
【請求項11】
前記超酸は、クロロスルホン酸を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10の方法により製造されたCNT網状体膜。
【請求項13】
前記液体組成物は硫酸を含まない請求項10の方法。
【請求項14】
さらに、前記膜を第2の基体に移行させる工程を有する請求項10、11及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記分散したCNTを含んでいる超酸溶液は前記分散したCNTを基準にして0.0001重量%未満の酸化剤を含む、請求項10、11、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記分散したCNTを含んでいる超酸溶液は前記分散体中のCNTを基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含む、請求項10、11、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
処理前後のG/D比が30%未満である請求項10、11、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
基体への付着工程に続いて、さらに、前記組成物をジエチルエーテルまたはニトロメタンで洗浄する、請求項10、11、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
基体上のCNT網状体膜とよりなり、前記網状体膜は少なくとも50%の透明度と、5000Ω/□以下のシート抵抗と、532及び633の波数でのラマン励起バンドの平均値に基づくG/D比が少なくとも15であり、前記CNT網状体膜は11000S/cmを超えるバルク導電率を有するCNT網状体膜。
【請求項20】
基体上のCNT網状体膜と、前記基体上の液体とを含み、前記液体は揮発性の超酸を含み、前記揮発性の超酸は、脱プロトン化したアニオンを有し、前記脱プロトン化したアニオンはゼロより大きい永久双極子モーメントを有するCNT網状体膜。
【請求項21】
前記液体は、超酸と,前記CNT網状体膜中のCNTの重量を基準にして0.001重量%未満の酸化剤を含んでいる請求項20のCNT網状体膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2011−500504(P2011−500504A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531323(P2010−531323)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/081394
【国際公開番号】WO2009/055831
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(504306714)バッテル メモリアル インスティテュート (26)
【氏名又は名称原語表記】BATTELLE MEMORIAL INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】505 King Avenue, Columbus, OH 43201−2693 (US)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/081394
【国際公開番号】WO2009/055831
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(504306714)バッテル メモリアル インスティテュート (26)
【氏名又は名称原語表記】BATTELLE MEMORIAL INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】505 King Avenue, Columbus, OH 43201−2693 (US)
【Fターム(参考)】
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