カーボンナノチューブ均一分散有機溶媒の製造方法及びカーボンナノチューブ均一分散ポリマー樹脂の製造方法
【課題】カーボンナノチューブを有機溶媒に分散可能とする方法を提供することを課題とし、さらに、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマーを提供することを課題とする。
【解決手段】カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させることで、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法、及び、当該製造方法により製造したカーボンナノチューブを均一に分散させた有機溶媒をポリマー樹脂に加えて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させることで、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法、及び、当該製造方法により製造したカーボンナノチューブを均一に分散させた有機溶媒をポリマー樹脂に加えて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの有機溶媒への分散方法及び当該方法によって樹脂中にカーボンナノチューブを分散させたまま配合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素を原料とした直径0.5〜50nm、長さμmオーダーの筒状物質である。これまで、グラファイトやフラーレンなどの炭素を原料とした材料が知られているが、それらよりも比重が低く、強度が高く、通電性に優れている等の有利な点が多い為、カーボンナノチューブを使用したフラットパネルディスプレイ、電子デバイス、走査型顕微鏡、複合材料など多くの用途開発が進められている。
【0003】
カーボンナノチューブは、このように様々な分野における機械的及び機能的材料として期待されており、これら材料を製造する際、カーボンナノチューブの特性を発現させる為に、カーボンナノチューブを高濃度でポリマー中に分散させることが望ましい。通常、カーボンナノチューブをポリマー中に分散させるには、カーボンナノチューブを直接ポリマーに添加した後に混練するか、又はカーボンナノチューブを有機溶媒などに分散させ、これをポリマーに混練した後に、有機溶媒を除去するなどの方法が用いられている。しかしながら、カーボンナノチューブは、単独では、ポリマーや有機溶媒に分散しにくいという欠点を有している為、いずれの方法でもカーボンナノチューブを高濃度で安定的、且つ均一にポリマーに分散させるのは困難となっている。これはカーボンナノチューブ相互の凝集力(ファンデルワールス力) によって、束状及び縄状に凝集してしまうためである。また、カーボンナノチューブの原子レベルでの滑らかな表面が溶媒に対する親和性を低下させる要因となっている。
【0004】
それゆえ、カーボンナノチューブの特異で有用な性質にもかかわらず、これを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、各分野への用途に対する大きな障壁となっている。その為、これまでにもカーボンナノチューブを安定的に均一に分散させる方法がいろいろと試されている。
【0005】
例えば、重縮合系の芳香族系界面活性剤を使用して、カーボンナノチューブを水に分散させる方法が試みられている(特許文献1)。しかしながら、溶媒が水である為、カーボンナノチューブ含有水溶液をポリマーに混練した場合、ポリマーの物性に悪影響を与えるおそれが大きい。
【0006】
また、カーボンナノチューブの表面を酸で酸化し、生成したカルボキシル基とアルコールを反応させ、アルキルエステル化する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法はカーボンナノチューブを表面修飾する工程であるため、煩雑であり、また酸処理はカーボンナノチューブ表面の構造を部分的に破壊するため、カーボンナノチューブ本来の特性を損なうおそれがあり、好ましくない。
【0007】
超音波をかけながらカーボンナノチューブをアセトン中に分散させるという方法も提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、超音波を照射している間は分散が可能であっても、照射が終了するとカーボンナノチューブの凝縮が起こってしまう。
【0008】
あるいはまた、アミド系極性有機溶媒及び非イオン性界面活性剤からなる溶液にカーボンナノチューブを分散させる方法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、この方法は、溶媒がアミド系有機溶媒である為、沸点がかなり高く留去をするのが困難である。
【0009】
さらに、特定の非イオン性界面活性剤、脂肪族アルコール及び脂肪酸ポリオールから選択される有機溶媒を主成分とした溶媒に、カーボンナノチューブを分散させる方法も提案されている(特許文献5)。
【0010】
しかし、これまでに試されてきた、例えば上記のような方法によっても、未だ十分にカーボンナチューブを溶媒に分散する方法は確立されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−263608号公報
【特許文献2】特開2005−133062号公報
【特許文献3】特開2000−086219号公報
【特許文献4】特開2005−075661号公報
【特許文献5】特開2007−254212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カーボンナノチューブを有機溶媒に分散可能とする方法を提供することを課題とし、さらに、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特に表面に疎水性領域を有するタンパク質をカーボンナノチューブ表面に吸着させ、さらに当該タンパク質の表面に非イオン性界面活性剤を結合させることで、カーボンナノチューブを有機溶媒中に均一に分散させることが可能であることを見出した。また、このようにして得られるカーボンナノチューブ分散液を用いて、ポリマー樹脂中にカーボンナノチューブを均一に分散させることができることも見出した。さらには、このような、カーボンナノチューブを均一分散したポリマー樹脂を用いてマイクロデバイスを作製することにも成功し、当該デバイスに光を照射することでマイクロチャネル内の溶液温度を超高速で制御可能であることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は特に以下の項1〜11に記載の方法及びマイクロデバイスに係る物である。
項1.カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させ、これを有機溶媒に分散させることを特徴とする、カーボンナノチューブが均一に分散した分散液を製造する方法。
項2.前記タンパク質が、表面に疎水性領域を有するタンパク質である、項1に記載の製造方法。
項3.前記タンパク質が、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストンからなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の製造方法。
項4.前記界面活性剤が、構造中に脂肪酸エステル部分とリン酸アニオン部分を有するものである、項1〜3に記載の製造方法。
項5.前記界面活性剤が、炭素数10〜20で不飽和結合を0〜4個有する脂肪酸をグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質である、項4に記載の製造方法。
項6.前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種である、項1〜5に記載の方法。
項7.請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によりカーボンナノチューブを均一に分散させた有機溶媒をポリマー樹脂に加えて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法。
項8.前記ポリマー樹脂が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリピロピレン、ポリエチレンからなる群より選択される1種である、項7に記載の製造方法。
項9.項7又は8に記載の製造方法にて製造した、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂からなるマイクロデバイス。
項10.項9に記載のマイクロデバイスにレーザーを照射し、当該マイクロデバイスのチャネル内の内容物の温度を0.03秒以内に特定温度へと上昇させる方法。
項11.レーザーが、近赤外レーザーである、項10に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、所定のタンパク質及び界面活性剤を用いてカーボンナノチューブの表面を修飾することにより、均一にカーボンナノチューブが有機溶媒中に分散した液を得ることができる。また、このようにして得られる液を用い、カーボンナノチューブを内部に均一に分散させたポリマー樹脂を製造することもできる。当該製造方法で得られるカーボンナノチューブを均一分散したポリマー樹脂は、弾力性、強度等の特性に優れており、また高い伝熱性を有するために、例えばマイクロデバイスにおいてチャネル内の溶液の超高速温度制御をも可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明は、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法に関するものであり、詳細にはカーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させることで、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法に関する。
【0017】
本発明で用いられるカーボンナノチューブには、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで、それぞれ目的に応じて使うことができる。本発明においては、好ましくは、シングルウォール・カーボンナノチューブ(SWNT)が用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、従来公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0018】
本発明で用いられるタンパク質は、カーボンナノチューブの表面に吸着するものであれば特に限定されるものではないが、特に表面に疎水性領域を有するものであることが好ましい。これは、カーボンナノチューブの表面は高い疎水性を有することから、表面に疎水性領域を有するタンパク質は、疎水性相互作用によってカーボンナノチューブの表面に比較的強く吸着し得るからである。特に、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストン等のタンパク質が好ましく本発明に用いられ、なかでもウシ血清アルブミン(BSA)が好ましい。
【0019】
なお、本発明では、上で例示したようなタンパク質をカーボンナノチューブに吸着させた後、さらに界面活性剤をこれらのタンパク質に結合させる。界面活性剤をタンパク質に結合させるにあたり、タンパク質のNH2基、COOH基、SH基などに共有結合させる方法を採用する場合は、カーボンナノチューブと吸着する領域(疎水性領域)以外の領域において、このような基を有するタンパク質を用いなければならない。
【0020】
本発明で用いられる界面活性剤は、有機溶媒中にカーボンナノチューブを均一に分散させるという本発明の効果を損なわない限り特に限定されるものではないが、その構造において、疎水性の脂肪酸エステル部分と親水性のリン酸アニオン部分を有するものであることが好ましい。なかでも、グリセリンを骨格に有するリン脂質であって、脂肪酸がグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質が好ましい。前記脂肪酸としては、カルボニル基のものを除いて、炭素数10〜30のものが好ましく、10〜20のものがより好ましく、14〜18のものがさらに好ましい。また、カルボニル基のものを除いて、不飽和結合を0〜6個有するものが好ましく、0〜4個有するものがより好ましく、0〜2個有するものがさらに好ましい。前記脂肪酸として特に好ましいものとしては、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。なお、C1及びC2部位にエステル結合する脂肪酸は、それぞれ同一又は異なってよく、(C1:C2)に結合するものの組み合わせとしては、特に(ステアリン酸:ステアリン酸)、(パルミチン酸:オレイン酸)、(ミリスチン酸:ミリスチン酸)、(パルミチン酸:パルミチン酸)、(オレイン酸:オレイン酸)が好ましい。
【0021】
なお、本発明において、アニオン性界面活性剤あるいはカチオン性界面活性剤等のイオン性界面活性剤を界面活性剤として用いるのは好ましくない。これは、イオン性界面活性剤を用いると、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質に作用し、カーボンナノチューブの表面から当該タンパク質を剥がしてしまうおそれが大きいからである。これは、おそらくは界面活性剤がタンパク質の立体構造を破壊するためにタンパク質表面に存在した疎水性領域がなくなり、カーボンナノチューブとの疎水性相互作用が失われてしまうためだと考えられる。
【0022】
本発明では、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質と界面活性剤とを結合させる。結合方法としては、有機溶媒中にカーボンナノチューブを均一に分散させるという本発明の効果を損なわない限り、限定されるものではないが、共有結合であることが好ましい。界面活性剤とタンパク質との共有結合は、定法に従えばよい。例えばタンパク質のSH基と反応して共有結合するマレイミド基、あるいはタンパク質のアミノ基と反応して共有結合するNHSエステル基を界面活性剤の親水性部分に付与しておき、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質と反応させ、共有結合させる方法が挙げられる。
【0023】
マレイミド基、NHSエステル基など、タンパク質との共有結合形成に必要である基が界面活性剤の親水性部分に結合した構造を有するものを使用するにあたっては、共有結合形成に必要である基とリン酸基との間に適当なスペーサーを設けることもできる。スペーサーとしては−(CH2)−基或いは−NHCO−基からなるものが好ましく、両基の数があわせて1〜15、好ましくは1〜10となる構造のものが好ましい。また、半数以上は−(CH2)−基であることが好ましい。
【0024】
例えば、界面活性剤としてリン脂質(PL)、共有結合形成用の修飾基としてNHSエステル基又はマレイミド基を用いる場合、下の式〈1〉
【0025】
【化1】
【0026】
〔式中、Xは、NH2基反応のための活性カルボン酸(NHS:次の式〈2〉)
【0027】
【化2】
【0028】
又はSH基反応のためのマレイミド(MAL)誘導体(次の式〈3〉)
【0029】
【化3】
【0030】
を示し、R1びR2は、R1COOH及びR2COOHの構造の場合に脂肪酸となるものを示す
。〕
の構造を有するものが好適に用いられる。このような、界面活性剤にスペーサー及び共有結合用基を有するものは一般に市販されているものも好適に用いることができ、例えばジステアロイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン
(DSPE-NHS; COATSOME FE-8080SU5; 日本油脂)、1-パラミトイル-2-オレオイルN-(スク
シンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(POPE-NHS; COATSOME FE-6081SU5; 日本油脂)、ジミリストイルN-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホス
ファチジルエタノールアミン(DMPE-NHS; COATSOME FE-4040SU5; 日本油脂)、ジパルミ
トイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE-NHS; COATSOME FE-6060SU5; 日本油脂)、ジオレオイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE-NHS; COATSOME FE-8181SU5; 日本油脂)、ジパルミトイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE-MAL; COATSOME FE-6060MA3; 日本油脂)、ジステアロイル N-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE-MAL; COATSOME FE-8080MA3; 日本油脂)、1-パラミトイル-2-オレオイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(POPE-MAL; COATSOME FE-081MA3; 日本油脂)、ジミリストイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE-MAL; COATSOME FE-4040MA3; 日本油脂)、ジオレオイル N-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE-MAL; COATSOME FE-81812MA3; 日本油脂)等が揚げられる。これらの市販品の例につき、一覧表を次の表1に示す。なお、表中のX、R1びR2は、式〈1〉に対応する。
【0031】
【表1】
【0032】
本発明に用いられる有機溶媒は、本発明の効果を損なわないもので一般的に溶媒として用いられる有機溶媒であればよく、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0033】
本発明により得られるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液は、特に光吸収性や樹脂への相互作用が優れている。
【0034】
本発明は、カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させて得られるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法にも関する。
【0035】
本発明では、カーボンナノチューブを上記方法で有機溶媒に均一に分散させた後、当該分散液をポリマー樹脂に添加し、有機溶媒を除き、架橋剤を添加して、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を得る。
【0036】
本発明に用いられるポリマー樹脂としては、ポリマー樹脂中にカーボンナノチューブが均一に分散する限り特に限定されるものではなく、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリピロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。なかでも、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。
【0037】
本発明に用いられる架橋剤としては、用いるポリマー樹脂に応じて適宜適当な物を選択して使用すればよい。例えば、ポリマー樹脂としてPDMSを用いる場合には、架橋剤として変性アミン、多官能フェノール、イミダゾール、メルカプタン、酸無水物等を用いることができる。
【0038】
本発明により得られるカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、強度、伝熱性、電気伝導性、耐薬品性、加工性等に優れている。
【0039】
本発明は、さらに上記方法によって得られるカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を用いて作製するマイクロデバイス、及び当該マイクロデバイスを用いてチャネル内の溶液温度を超高速で制御する方法に関する。
【0040】
本発明のマイクロデバイスは、上記方法によって得られたカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を用い、定法により作製することができる。例えば、ソフトリソグラフィー法が好適に用いられる。
【0041】
カーボンナノチューブが高い伝熱性を有することから、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂も高い伝熱性を有しており、当該樹脂を用いたマイクロデバイスのチャネル内の内容物を超高速で制御することが可能である。
【0042】
例えば、チャネル内に溶液を入れ、チャネル付近の一点にレーザー照射を行うと、高い伝熱性のためにマイクロデバイス全体の温度が短時間で上昇し、チャネル内の溶液全体の温度も短時間で上昇する。また、マイクロデバイスのチャネル内の液相空間が微少であり、熱容量が小さいことから、レーザー照射を止めるとチャネル内の溶液温度は短時間で低下する。このようにして、0.01〜0.05秒のレーザー照射により、チャネル内の溶液温度を制御することが可能である。例えば、マイクロチャネルの容量やレーザー出力を適宜調整することで、レーザー照射によりチャネル内の内容物温度を特定温度(特に25℃〜60℃範囲内の目的とする温度)へと上昇させることが可能である。
【0043】
また、マイクロデバイスの特定部分のみ、カーボンナノチューブ均一分散ポリマー樹脂を用いて作製することで、当該樹脂を用いた部分のみ超高速で温度制御することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
実施例1:PL−BSA−SWNT(リン脂質−ウシ血清アルブミン−単層カーボンナノチューブ)複合体の合成
単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube; SWNT)(4 mg)(純度>95%)(Hipco super-purified SWNTs; Carbon Nanotechnologies)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF; 32 mL) (Wako) 中で30 min間、超音波照射(USD-2R; AS ONE)を行った。SWNT/DMF溶液(2 mL)を遠心分離用マイクロチューブに入れ、ホウ酸ナトリウム緩衝液(0.1 M、pH 8.5)により溶媒を徐々に置換した。本溶液に牛血清アルブミン(bovine serum albumin; BSA)(40 mg)(Wako) を添加し、超音波照射(< 8 ℃、15 min)を施した。得られたBSA-SWNT 水溶液 (2 mL) を遠心分離(11000 rpm、3 min、4 ℃)(MX-301; Tomy)し、上澄み(1 mL)を注意深く回収した。これにホウ酸ナトリウム緩衝液(1 mL)を添加し、ボルテクスにより攪拌後、遠心分離(11000 rpm、3 min、4 ℃)を施した。上澄みがほとんど透明になるまで本操作を繰り返した後、限外ろ過(Millipore, 分画分子量 = 100 kDa)(6500 rpm、15 min、4 ℃)によりホウ酸ナトリウム緩衝液(10 mL)で6回洗浄することで余分なBSAを取り除いた。得られたBSA-SWNTを超音波処理(< 8 ℃、3 min)によってホウ酸ナトリウム緩衝液(50 mL)に再分散後、ジステアロイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(20 mg)(DSPE-NHS; COATSOME FE-8080SU5; 日本油脂)を添加した。攪拌(2 h、4 ℃)後、 限外ろ過(Millipore, 分画分子量 = 100 kDa)(6500 rpm、15 min、4 ℃)により余分なDSPE-NHS を取り除き、蒸留水(10 mL)により6回洗浄した。得られたPL-BSA-SWNT水溶液(50 mL)を液体窒素により予備凍結し、凍結乾燥(48 h)(EYELA Freeze Dryer FD-5N; Tokyo Rikakikai)することで粉末状のPL-BSA-SWNT複合体を得た。
【0046】
得られたPL-BSA-SWNT複合体の模式図を図1aに示す。
【0047】
また、SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を図1b-1に、BSA-SWNTをジクロ
ロメタンに分散させた状態の写真を図1b-2に、PL-BSA-SWNT複合体を各種有機溶媒に分散させた状態の写真を図1b-3〜b-6に(各種溶媒; b-3:ジクロロメタン 、b-4:クロロホルム、b-5:トルエン、b-6:酢酸エチル)、PL-BSA-SWNT複合体を水に分散させた状態の
写真を図1b-7に、それぞれ示す。b-1, b-2, b-7では全く分散が起こらず、SWNTが凝縮しているのに対し、 b-3〜b-6ではSWNTが均一に分散していた。b-1〜b-3を比較することで
、SWNT単体、或いはBSA-SWNTはジクロロメタンには分散しないのに対し、PL-BSA-SWNT複
合体となって初めてジクロロメタンに均一に分散することがわかった。また、b-3〜b-6より、PL-BSA-SWNT複合体は各種有機溶媒にも均一に分散することがわかった。
【0048】
実施例2:PL−BSA−SWNT複合体の吸収スペクトルの測定
分光光度計(V-630; JASCO) により、PL-BSA-SWNT複合体の吸収スペクトルを室温で解析した。サンプルは濃度が350 μg /mLになるように超音波処理(< 8℃、60 min)により
ジクロロメタンに分散させ、本溶液(1 mL)を石英セル(光路長= 1 cm)(S15-UV-10; GL Science)中でモニタリングした。得られた吸収スペクトルの結果を図1cに示す。
【0049】
一般的に、溶媒に分散化したSWNT(Hipco)は、第一金属バンド(M11:440-600 nm)
および第二半導体バンド(S22:550-800 nm)にピークが観察される。得られた吸収スペクトルにおいて、ジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTは、第一金属バンドおよび第
二半導体バンドが観察され、ジクロロメタンに良く分散していることが確認できた。
【0050】
実施例3:PL−BSA−SWNT複合体のAFM(原子間力顕微鏡)解析
実施例2で使用したジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTを、AFM(JSPM-4210; JEOL)により解析した。解析時、タッピングモードのカンチレバー(NSC35/no Al; MikroMasch)を使用した。結果を図1dに示す。図1d左図は、観察されたAFM像であり、マイカ基板上でPL-BSA-SWNTは孤立分散していることが確認できた。図1d右図(1)(2)(3)は、図1d左図に示した(1)(2)(3)の各バー部分における高さプロファイリングを示しており、バー部分の高さは10〜20nmであることがわかった。SWNTの直径が約1nmであり、BSAの大きさが約6.4nmであることを考えると、SWNT の表面両側にBSAが吸着した部分の高さは1+6.4+6.4=13.8nmなると概算でき、観察された値はこれとよく一致した。このことから、図1(a)に示した模式図のように、SWNT上にPL-BSAが吸着していることもわかった。なお、図1d左図においては、白く示した部分ほど高さが高いことを示している。(高さプロファイリングは、各SWNT上で白色で示された部分で行った。)
【0051】
実施例4:PL−BSA−SWNT複合体を用いた、カーボンナノチューブが均一に分散したPDMSの製造
PL-BSA-SWNT(2.5 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリジメチルシロキサン(PDMS)(25 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤を型上に注ぎ、オーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。
【0052】
このようにして製造したPL-BSA-SWNTを内包するPDMSコンポジット(PL-BSA-SWNT-PDMS
)は、図2a左図に示すように、当該コンポジットの反対側の紙上の「AIST」の字が
はっきりと認識できる程度に透明性を有し、また、図2a右図に示すように、優れた柔軟
性を示した。
【0053】
さらに、当該コンポジットを光学顕微鏡(倍率5倍)で観察したところ、図2b左図に
示すように、カーボンナノチューブの凝縮は観察されず、PL-BSA-SWNTはPDMSポリマーマ
トリクス中によく分散していることが確認できた。
【0054】
一方、PL-BSA-SWNTではなく、SWNTを用いた他は、上記PDMSコンポジット製造方法と同
様にして製造したコンポジット(すなわち、SWNTを内包するPDMSコンポジット;SWNT-PDMS)を、同様に光学顕微鏡で観察したところ、図2b右図に示すように、SWNTのみではPDMSと親和性がないために、カーボンナノチューブの凝縮物(黒い塊)が多数観察された。
【0055】
なお、PL-BSA-SWNT-PDMSについて、さらに光学顕微鏡の倍率を高倍率にして観察を行っても、カーボンナノチューブの凝縮は観察されなかった(図2c左図及び右図)。
【0056】
また、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット及びSWNT-PDMSコンポジットにおいて、各コンポ
ジット中のカーボンナノチューブの大きさを検討するために、レーザーラマン分光光度計(NRS-3100:JASCO)を用いてラマンラッピング解析を行った。結果を図2d左図及び右
図に示す。当該結果から、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブは非常に小さく(図2d左図)、一方、SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブは
比較的大きい(図2d右図)ことがわかった。このことからも、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットにおいては、カーボンナノチューブが凝縮を起こすことなく、コンポジット中に均一に分散されていることが確認できた。
【0057】
またさらに、PL-BSA-SWNT-PDMS中にカーボンナノチューブが含まれていることを確認するために、PL-BSA-SWNT-PDMS、SWNT-PDMS、及び通常のPDMS、それぞれのラマンスペクト
ルを測定した。結果を図2eに示す。
【0058】
PL-BSA-SWNT-PDMS及びSWNT-PDMSにおいて、通常のPDMSでは観察されないピーク(特に波数約3400cm-1及び2400cm-1付近に存在するピーク)、すなわちカーボンナノチューブに由来するピークが検出されたことから、PL-BSA-SWNT-PDMSにおいてカーボンナノチューブがほとんど観察されないのは、カーボンナノチューブが存在しないためではなく、均一によく分散しているためであることが裏付けられた。
【0059】
実施例5:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの製造1
PL-BSA-SWNT(2.5 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(25 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。1つの溶液注入口と3つの溶液排出口、くし型マイクロチャネル(深さ35 μm、720 pL)を有するマイクロチップはソフトリソグラフィー法により作製した。マスター基盤はシリコンウエハー上にフォトレジストパターニング(SU-8 50; MicroChem)することで調製した。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤をマスター上に注ぎ、フォトレジストパターニングしていないシリコンウエハー上に通常のPDMS/架橋剤を注いだ。これらをオーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。ポリマー硬化後、PL-BSA-SWNT-PDMSとPDMSを基盤からはがし、プラズマコーター(SC-708; Sanyu)によりこれらを接着させた。レーザー照射実験のために調製したマイクロチップをL時型に加工した。最後に、溶液の注入口と排出口にシリコンチューブを接着させた。当該マイクロチップの外観を図3aに示す。また、当該マイクロチップの設計図を図3bに示す。なお、コントロールとしてSWNT-PDMSマイクロチップとSWNTを含まないPDMSマイクロチップも同様の手法により作製した。但し、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップはジクロロメタンを用いずに作製した。
【0060】
実施例6:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いた光熱変換効果の検証1
5-カルボキシテトラメチルローダミン スクシンイミジルエステル(5-TAMRA)は赤蛍光色を発し、温度が上昇すると消光する性質を有する。この消光現象は可逆的であり、温度を戻すと元の蛍光を発する。この原理を利用してPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの光熱変換効果を観察した。
【0061】
具体的には、5-TAMRA(110 nM)(Invitrogen)を含むPBS緩衝液(pH 7.3)(Oxoid)
を、実施例5で製造した各マイクロチップのマイクロチャネル内にシリンジを用いて注入した。マイクロチャネル側面に近赤外レーザー(1064 nm)を照射し、チャネル内の温度
は5-TAMRAの蛍光強度を画像解析(MetaMorph; Universal Imaging)により測定した。近
赤外レーザーは対物レンズ(UPlanApo; Olympus, ×20)により集光し、トリプルバンド
フィルター(DAPI/FITC/TRITC v2; Chroma Technology)を搭載した蛍光顕微鏡中のカラ
ーCCDカメラ(DC220; DAGE)により動画を撮影した。
【0062】
レーザー照射後、0.03 秒で5-TAMRAの消光現象がマイクロチャネル全体で観察された(図3c左図→中央図)。また、レーザー照射を止めると、これも0.03 秒以内に5-TAMRAの蛍光が観察された(図3c中央図→右図)。なお、レーザー照射部位は、図3c中央図における白矢印の先端部である。なお、コントロール実験としてSWNT-PDMSマイクロチップを用いた場合、5-TAMRAの消光は見られたもののSWNT凝集物の強力な光熱変換効果によってPDMSの破壊が起こった。また、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップの場合、5-TAMRAの消光は全く起こらなかった。
【0063】
以上の結果より、SWNTが良く分散しているPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップでのみ効率的にマイクロチャネル内の溶液の温度コントロールが可能であることがわかった。
【0064】
さらに、5-TAMRAの蛍光強度から温度を見積もった(蛍光強度測定部分は図3c中央図の白四角部分)ところ、レーザー出力が1、3、5 Wの各Wでは、25 °Cから 最大でそれぞれ30、35、44℃に温度上昇することがわかった(図3d)。いずれの場合も、レーザーの照
射開始と照射停止においてわずか0.03 秒で変化することが確認でき、0.01秒単位での温
度制御が可能であることがわかった。このような超高速の温度変化は、SWNTの桁違いに高い伝熱特性によるものと、マイクロチャネルの極めて小さな熱容量によるものと考えられる。
【0065】
実施例7:PL-BSA-SWNT-PDMS マイクロチップの光熱変換効果を利用したPNIPAMの相転移
の検討
ポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)は温度応答性のポリマーとして良く知られている。下限臨界温度(LCST)が32℃であり、32℃以下では水に良く溶解するが、32℃以上になると疎水性となり水溶液中で析出し、沈殿物を形成する。PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの光熱変換効果を利用することで、温度に応答するPNIPAMの相転移現象を起こすことが可能か、直接観察することで検討した。
【0066】
PNIPAM(100 mg) (Aldrich; 平均分子量 = 20,000-25,000, LCST 約32 °C) を蒸留水
に添加し、超音波処理(室温、10秒)後、不溶なPNIPAMをPVDF膜(Millipore; pore size
= 220 nm)により除去した。蛍光顕微鏡観察に際して、1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)(20 μM) (Invitrogen) を含む蒸留水(100 μL)をPNIPAM溶液(900 μL)
に添加した。上記溶液をシリンジを用いてマイクロチャネル内に注入し、PNIPAMの相転移をリアルタイムで観察した。実験装置は基本的には上記5と同様であるが、ANSの蛍光観察のためにカスタムフィルターセット[励起フィルター(BP 330-385; Olympus)、ダイクロイックミラー(FT 395; Zeiss)、発光フィルター(LP 397; Zeiss)]を搭載した。
【0067】
観察結果を図4に示す。明視野観察からレーザー照射(レーザー照射部位は、図4中央図における赤矢印の先端部)後、黒色のコントラスト像が浮かび上がり、レーザーを停止するとすぐに黒色のコントラスト像が消失した(図4上側)。蛍光観察も同様に、レーザーを照射すると青色のマイクロチャネルが突然浮かび上がり、レーザーを停止すると青色のマイクロチャネルがすぐに消失した(図4下側)。なお、コントロール実験としてSWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップを用いた場合、PDMSの相転移現象は全く観察されなかった。
【0068】
実施例8:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの製造2
PL-BSA-SWNT(6 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(50 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。1つの溶液注入口と1つの溶液排出口、及びこれらの口を結ぶマイクロチャネル(長さ36 mm、幅90μm、深さ50μm、容量16.2 pL)を有するマイクロチップをソフトリソグラフィー法により作製した。マスター基盤はシリコンウエハー上にフォトレジストパターニング(SU-8 50; MicroChem)することで調製した。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤をマスター上に注ぎ、フォトレジストパターニングしていないシリコンウエハー上に通常のPDMS/架橋剤を注いだ。これらをオーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。ポリマー硬化後、PL-BSA-SWNT-PDMSとPDMSを基盤からはがし、プラズマコーター(SC-708; Sanyu)によりこれらを接着させた。最後に、溶液の注入口と排出口にシリコンチューブを接着させた。当該マイクロチップの外観を図5aに示す。また、当該マイクロチップの設計図を図5bに示す。なお、実施例4に記載の方法(光学顕微鏡による観察、ラマンラッピング解析、及びラマンスペクトル測定)と同様にして、当該マイクロチップ内に、カーボンナノチューブが均一によく分散していることを確認した。
【0069】
また、コントロールとしてSWNT-PDMSマイクロチップとSWNTを含まないPDMSマイクロチップも同様の手法により作製した。但し、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップはジクロロメタンを用いずに作製した。
【0070】
なお、以下の実施例では、本実施例で製造したチップを用いた。
【0071】
実施例9:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いた光熱変換効果の検証2
5-TAMRA(22 μM)(Invitrogen)を含むPBS緩衝液(pH 7.3)(Oxoid)を、実施例8で製造した各マイクロチップのマイクロチャネル内にシリンジを用いて注入した。マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(1064 nm)を照射し、チャネル内の温度は5-TAMRAの蛍光強度を画像解析(MetaMorph; Universal Imaging)により測定した。近赤外レーザーは対物レンズ(UPlanApo; Olympus, ×20)により集光し、トリプルバンドフィルター(DAPI/FITC/TRITC v2; Chroma Technology)を搭載した蛍光顕微鏡中のカラーCCDカメラ(DC220; DAGE)により動画を撮影した。当該実験系の模式図を図6aに示す。
【0072】
レーザー照射後、0.03 秒で5-TAMRAの消光現象がマイクロチャネルで観察された(図6
b左図→中央図)。また、レーザー照射を止めると、これも0.03 秒以内に5-TAMRAの蛍光が観察された(図6b中央図→右図)。レーザー照射部位は、図6b左図における白矢印の先端部である。なお、コントロール実験としてSWNT-PDMSマイクロチップを用いた場合、5-TAMRAの消光は見られたもののSWNT凝集物の強力な光熱変換効果によってPDMSの破壊が起こった。また、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップの場合、5-TAMRAの消光は全く起こらなかった。
【0073】
さらに、5-TAMRAの蛍光強度から温度を見積もった(蛍光強度測定部分は図6b中央図
の白四角部分)ところ、レーザー出力が2、3、4、5 Wの各Wでは、25 °Cから 最大でそ
れぞれ約40、47、50、55℃に温度上昇することがわかった(図6c)。いずれの場合も、レーザーの照射開始と照射停止においてわずか0.03 秒で変化することが確認でき、当該マイクロチャネルにおいても、0.01秒単位での温度制御が可能であることがわかった。このような超高速の温度変化は、SWNTの桁違いに高い伝熱特性によるものと、マイクロチャネルの極めて小さな熱容量によるものと考えられる。
【0074】
なお、実施例6におけるレーザー照射に伴う温度上昇より、本実施例における温度上昇が大きいのは、実施例6で用いたチップのマイクロチャネル容量が720 pLなのに対し、本実施例のチップのマイクロチャネル容量が16.2 pLであり、熱容量が異なるためと考えられる。
【0075】
またさらに、レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたところ、その都度鋭敏に5-TAMRAの蛍光像が変化した(図6d)。この蛍光強度の変化を蛍光イメージングソフトウエアで解析して温度を見積もったところ、レーザースイッチの連続的なON、OFFの度に再現性よく温度が上昇、下降していることがわかった。さらに、レーザーの出力に応じた温度上昇が起こっていることも分かった(図6e)。
【0076】
当該結果から、光駆動カーボンナノチューブマイクロデバイスを用いることで、マイクロサイズの空間の超高精度のサーマルサイクル制御を達成できることを確認できた。
【0077】
実施例10:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたDNA複製反応の制御1
1,1'-(4,4,7,7-テトラメチル-4,7-ジアザウンデカメチレン-ビス-4-[3-メチル-2,3-ジ
ヒドロ-(ベンゾ-1,3-オキサゾル)-2-メチリデン]-キノリニウムテトライオダイド(YOYO-1)は、二本鎖DNAの相補鎖間に挿入されると緑蛍光色を発する性質を有する。この原理を利用して、光駆動PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、DNA複製反応を制御する検討を行った。
【0078】
DNA複製反応は、PCR 増幅キット(Takara)とTaqTMホットスタートバージョン(Takara)を用いて次のように行った。まず、配列番号1に示す塩基配列からなるテンプレートDNA(Fasmac)(245×10-3 μg/μl; 10 μl)、配列番号2に示す塩基配列からなるコントロールプライマー2(200 pmol; 10 μl)、TaqTMホットスタートバージョン(5 units /μl; 10 μl)、dNTP混合溶液(各25 mM; 40 μl)をPCR緩衝液[100 mM Tris-HCl (pH8.3)、500 mM KCl 及び15 mM MgCl2](50 μl)に氷上で加えた。そしてYOYO-1(10 μM; 2 μl)(Invitrogen)を当該溶液に添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射して蛍光強度を観察した。
【0079】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例6で用いた装置と同じものを用いて行った。但し、光学フィルターは、(U-MWIB3; Olympus) (励起波長 = 460-495 nm,
吸収波長> 510 nm, ダイクロイックミラー = 505 nm)を搭載した。
【0080】
マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(波長1064 nm)を出力5Wで照射して、0.03秒後にはYOYO-1の消光減少がマイクロチャネル内で観察された。また、レーザーの照射を止めると、0.03秒以内にYOYO-1の蛍光が観察された(図7c)。
【0081】
マイクロチャネル内に反応液を注入した時点で、YOYO-1の蛍光が観察される(図7c左図)のは、テンプレートDNAとプライマーDNAとがアニーリングして二本鎖となっており、YOYO-1が当該二本鎖部分に挿入されているためと考えられる。
【0082】
また、レーザー照射によって蛍光が消光する(図7c中央図)のは、YOYO-1が温度に応答して消光しているためと考えられる。
【0083】
また、レーザー照射停止後、特にマイクロチャネル壁面において蛍光が強くなることが観察された(図7(c)右図)が、これは、レーザー照射により、特に壁面が温められ、マイクロチャネル内の反応液のうち、当該壁面に接する部分の反応液の温度が最も高くなり、当該部分で最も効率良く抗Taq抗体が変性してTaqポリメラーゼが二本鎖DNAを合成したためと考えられる。また、レーザーの強度は照射側(図7cではチャネルの右側)の壁面よりも照射逆側(図7cではチャネルの左側)の壁面で強くなるように設定しているため、照射逆側の壁面で特に蛍光が強くなったものと考えられる。なお、抗体が結合した本Taqポリメラーゼは、約70℃以上になると活性を生じることが知られている。
【0084】
なお、レーザー照射停止から1分ほどかけて徐々に蛍光は消光した。これは、Taqポリ
メラーゼにより合成された二本鎖DNAに YOYO-1が挿入され、これが非特異的に壁面に吸着などしていたところ、徐々に脱着して拡散したためと考えられる。
【0085】
以上のことから、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、レーザー照射により抗Taq
抗体を変性させることで、Taqポリメラーゼの合成反応開始を達成できたと考えられる。
【0086】
実施例11:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたDNA複製反応の制御2
PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いて、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)反応を制御できるか検討した。
【0087】
ビス[N,N-ビス(カルボキシメチル)アミノメチル]フルオレセイン(カルセイン)は、マンガンイオンと結合しているときには消光しているが、LAMP反応が進行すると副産物として生成するピロリン酸イオンにマンガンイオンを奪われると緑色蛍光を発し、さらに反応溶液中のマグネシウムイオンと結合することで、その蛍光が増強される。この原理を利用して、以下のようにして検討を行った。
【0088】
LAMPには、LoopampDNA増幅試薬キット(Eiken)を用いた。ポジティブコントロールDNA(10 μl)、プライマー混合溶液[FIP(160 pmol)、BIP(160 pmol)、F3(20 pmol)
、B3(20 pmol)](10 μl)、Bst DNAポリメラーゼ(10 μl)を反応混合溶液[40 mM Tris-HCl(pH 8.8)、KCl(20 mM)、MgSO4(16 mM)、(NH4)2SO4(20 mM)、Tween 20(0.2 wet%)、Betaine(1.6 M)、dNTPs(2.8 mM each)](50 μl)に加えた。そして当該溶液にカルセイン(50 μM, 2 μl)(Eiken)を添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射して蛍光強度を観察した。
【0089】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例10で用いた装置と同じものを用いて行った。また、蛍光強度測定は、実施例6で用いた装置及び解析ソフトと同じものを用いて行った。
【0090】
マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(1064 nm)を出力5Wで照射し、チャ
ネル内の蛍光強度を測定した。
【0091】
レーザー照射後、0.03秒後にはマイクロチャネル内に緑色蛍光が観察された。LAMPに用いられるBst DNAポリメラーゼの至適温度は約60℃であるため、レーザー照射により反応
液が温められLAMP反応が効率よく起こり、カルセインが蛍光を発したものと考えられる。また、レーザー照射を停止すると0.03秒後には蛍光が退色し、その後も徐々に退色して、1min以内に完全に消失した(図8a)。LAMP反応がストップし、さらにカルセインが拡散したものと考えられる。
【0092】
また、レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたところ、その都度鋭敏に緑色蛍光
強度が変化した(図8b)。
【0093】
なお、レーザーの出力を1、2、5Wとして、それぞれの場合の蛍光強度を検討したとこ
ろ、出力が大きいほど強い蛍光強度が得られることもわかった(図8c)。
【0094】
以上のことから、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、レーザー照射によりLAMP反応を超高速(0.01秒単位)で制御することが可能であることが確認できた。
【0095】
実施例12:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたシクロデキストリン(CD)合成反応の制御
PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップにおいて、シクロマルトデキストリン グルカノトラ
ンスフェラーゼ(CGTase)を用いたシクロデキストリン(CD)合成反応を制御できるか検討した。
【0096】
Thermoanaerobacter sp.由来のCGTase (EC 2.4.1.19)は耐熱酵素であり、デンプンからβ-シクロデキストリン(β-CD)を主に合成することが知られている。シクロデキストリンは数分子のD-グルコースが α(1→4) グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。D-グルコースの数が6個のものが α-シクロデキストリン(α-CD)、7個のものが β-シクロデキストリン(β-CD)、8個のものが γ-シクロデキスト
リン(γ-CD)と呼ばれる。
【0097】
また、シクロデキストリンの環状構造の内部は他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。特に、シクロデキストリンのヒドロキシ基はこの空孔の外側にあって空孔内部は疎水性となっているため、疎水性の分子を包接しやすい。この性質を利用して、疎水性の蛍光分子である1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)を包接させ、これを励起することで、シクロデキストリンの存在を確認することができる。
【0098】
なお、ANSは励起されると青色蛍光を発する。各CD(50 mg)(Katayama Chemical)をANS水溶液(20 μM; 5 ml)にそれぞれ加えた後、紫外線(FluorChem IS-8900, Alpha Innotech)を照射したときのイメージを図9aに示す。
【0099】
本検討は、以下のように行った。すなわち、可溶性デンプンを、CaCl2 (0.15 mM)を含
むクエン酸ナトリウム緩衝液(10 mM; 10 ml)(pH 6.0)に分散させた後、不溶なデンプンをPVDF膜(Millipore; pore size = 220 nm)により除去した。CGTase溶液(3 ×10-3 unit/ml; 250 μl)(Toruzyme 3.0L, Novozyme)を本デンプン溶液に氷上で加えた。そしてANS(20 μM; 100 μl)(wako)を当該溶液(500 μl)に添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射(出力5 W、波長1064 nm)して蛍光強度を観察した。
【0100】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例7で用いた装置と同じものを
用いて行った。
【0101】
結果を図9bに示す。図9b(1)はレーザー照射前、(2)は1 minレーザー照射後、(3)
は2 minレーザー照射後、(4) は3 minレーザー照射後のイメージである。なお、図9b(1)の白四角部分における蛍光強度を測定した結果を図9cに示す。これらの結果から、レーザーの照射時間が長くなるにつれ、より強い青色蛍光を発することがわかった。また、コントロール実験(PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップではなく、PDMSマイクロチップを用いて同様に行った実験)では、当該現象は確認できなかった。
【0102】
なお、蛍光顕微鏡及び明視野顕微鏡でマイクロチャネルを観察することで、3 min間の
レーザー照射によって大量の凝集物が形成されていることがわかった(図9d)。
【0103】
β-CDはα-CDおよびγ-CDに比較して水溶性が極めて低い(18.5 g/l)。ちなみにα-CDおよびγ-CDの水に対する溶解性は、それぞれ145 g/lおよび232 g/lである。当該知見、
及び、本実験で用いたCGTase (EC 2.4.1.19)がデンプンからβ-CDを主に合成するもので
あることから、本凝集物はβ-CDに属するものと考えられる。
【0104】
これらの結果から、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いることでCDの合成反応を達成することができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明により製造されるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いることで、触媒、ナノエレクトロニクスデバイス、ドラッグデリバリーシステム等への応用が可能である。また、本発明により製造される、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、超高強度繊維、エレクトロニクス素子、アクチュエータ素子、燃料電池、医療用材料等への応用が考えられる。さらに、本発明に係るマイクロデバイスによれば、マイクロチャネル内用物の超高速での温度制御が可能であり、精密有機合成、PCR・LAMP等の拡散増幅反応の制御あるいはCGTaseを用いたシクロデキストリン合成反応の制御等、耐熱性酵素を用いた反応の制御、分子マニピュレーション、1〜数個単位での細胞培養等に利用できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1a】PL-BSA-SWNT複合体の模式図を示す。
【図1b】SWNT複合体の分散試験の結果を示す。詳細には、SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を (b)-1に、BSA-SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を(b)-2に、PL-BSA-SWNT複合体を各種有機溶媒に分散させた状態の写真を(b)-3〜(b)-6に(各種溶媒; (b)-3:ジクロロメタン 、(b)-4:クロロホルム、(b)-5:トルエン、(b)-6:酢酸エチル)、PL-BSA-SWNT複合体を水に分散させた状態の写真を(b)-7に、それぞれ示す。
【図1c】ジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTの可視-近赤外(Vis-NIR)吸収スペクトル を示す(PL-BSA-SWNT 濃度 = 350 μg/mL)。
【図1d】PL-BSA-SWNT のAFM写真(左図)、及びAFM写真におけるバー(1)(2)(3)のそれぞれの部分における高さプロファイリング(右図)を示す。
【図2a】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット(フィルム状)の写真を示す。
【図2b】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットの光学顕微鏡写真を示す。左図がPL-BSA-SWNT-PDMS、右図はSWNT-PDMSのものであり、倍率は5倍である。
【図2c】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットの光学顕微鏡写真を示す。左図は倍率×5倍、右図は倍率×10倍である。なお、スケールバーは100μmを示す。
【図2d】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット及びSWNT-PDMSコンポジットにおけるラマンラッピング解析結果を示す。左図はPL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブを示し、右図はSWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブを示す。
【図2e】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット、SWNT-PDMSコンポジット、及び通常のPDMS、それぞれのラマンスペクトル測定結果を示す。矢印は、通常のPDMSでは観察されないピーク、すなわちカーボンナノチューブに由来するピークを示す。
【図3a】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの写真を示す。
【図3b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの設計図(仕様)を示す。
【図3c】超高速光熱変換現象の観察結果を示す。白色の囲いは温度解析位置を示し、白色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。
【図3d】マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。
【図4】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップにおけるPNIPAMの相転移現象の観察結果を示す。上側の図が明視野像を示し、下側の図が蛍光像を示す。赤色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は1W、波長は1064 nmである。
【図5a】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの写真を示す。なお、チップ中央部の、「AIST」と記載された赤丸は、チップ下部に置かれた紙に記載されたものであり、これがチップを通して観察されること、すなわちチップが透明であることを示すためのものである。
【図5b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの設計図(仕様)を示す。なお、図中の数字の単位はmmである。
【図6a】実施例9における実験系の模式図を示す。
【図6b】超高速光熱変換現象の観察結果イメージを示す。白色の囲いは温度解析位置を示し、白色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。また、白色スケールバーは100μmを示す。
【図6c】マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。
【図6d】レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたときの、超高速光熱変換現象の観察結果イメージを示す。
【図6e】レーザーを連続的にON、OFFにしたときの、マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。なお、赤色三角形はスイッチのONを、青色逆三角形はスイッチのOFFを示す。
【図7a】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験の模式図を示す。
【図7b】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験に用いた、テンプレートDNA及びプライマーDNAの配列を示す。なお、赤色下線で表した部分は、プライマー結合部位を示す。
【図7c】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験における、蛍光観察結果を示す。なお、白矢印はレーザー光線の位置及び照射方向を示す。また、白色スケールバーは100μmを表す。
【図7d】図7cの白四角で囲った部分の、拡大図を示す。
【図8a】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験における、蛍光観察結果イメージを示す。
【図8b】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験において、レーザーを連続的にON、OFFにしたときの、蛍光強度変化を示す。なお、赤色三角形はスイッチのONを、青色逆三角形はスイッチのOFFを示す。
【図8c】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験において、レーザー出力を変化させたときの、蛍光強度を示す。
【図9a】各種シクロデキストリン(CD)をANS水溶液にそれぞれ加えた後、紫外線(UV)を照射したときのイメージを示す。なお、Iはα-CD、IIはβ-CD、IIIはγ-CDをそれぞれANS水溶液に加えたものであり、IVはANS水溶液(コントロール)である。
【図9b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内の、CGTase、デンプン及びANS含有溶液にレーザーを照射した際のリアルタイム蛍光観察イメージを示す。(1)はレーザー照射前、(2)は1 minレーザー照射後、(3) は2 minレーザー照射後、(4) は3 minレーザー照射後のイメージである。なお、倍率は×10倍、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。また、白色矢印はレーザー光線の位置及び方向を、白色スケールバーは90μmを、白色四角は蛍光強度測定部位を、それぞれ示す。
【図9c】図9bの白色四角部位で測定した蛍光強度測定結果を示す。
【図9d】図9b(4)のイメージの拡大図を左に、当該イメージを得た観察部位を蛍光顕微鏡ではなく明視野顕微鏡で観察したときのイメージを右にしめす。
【配列表フリーテキスト】
【0107】
〔配列番号:1〕
テンプレートとして機能するよう設計されたオリゴヌクレオチド。
〔配列番号:2〕
プライマーとして機能するよう設計されたオリゴヌクレオチド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの有機溶媒への分散方法及び当該方法によって樹脂中にカーボンナノチューブを分散させたまま配合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素を原料とした直径0.5〜50nm、長さμmオーダーの筒状物質である。これまで、グラファイトやフラーレンなどの炭素を原料とした材料が知られているが、それらよりも比重が低く、強度が高く、通電性に優れている等の有利な点が多い為、カーボンナノチューブを使用したフラットパネルディスプレイ、電子デバイス、走査型顕微鏡、複合材料など多くの用途開発が進められている。
【0003】
カーボンナノチューブは、このように様々な分野における機械的及び機能的材料として期待されており、これら材料を製造する際、カーボンナノチューブの特性を発現させる為に、カーボンナノチューブを高濃度でポリマー中に分散させることが望ましい。通常、カーボンナノチューブをポリマー中に分散させるには、カーボンナノチューブを直接ポリマーに添加した後に混練するか、又はカーボンナノチューブを有機溶媒などに分散させ、これをポリマーに混練した後に、有機溶媒を除去するなどの方法が用いられている。しかしながら、カーボンナノチューブは、単独では、ポリマーや有機溶媒に分散しにくいという欠点を有している為、いずれの方法でもカーボンナノチューブを高濃度で安定的、且つ均一にポリマーに分散させるのは困難となっている。これはカーボンナノチューブ相互の凝集力(ファンデルワールス力) によって、束状及び縄状に凝集してしまうためである。また、カーボンナノチューブの原子レベルでの滑らかな表面が溶媒に対する親和性を低下させる要因となっている。
【0004】
それゆえ、カーボンナノチューブの特異で有用な性質にもかかわらず、これを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、各分野への用途に対する大きな障壁となっている。その為、これまでにもカーボンナノチューブを安定的に均一に分散させる方法がいろいろと試されている。
【0005】
例えば、重縮合系の芳香族系界面活性剤を使用して、カーボンナノチューブを水に分散させる方法が試みられている(特許文献1)。しかしながら、溶媒が水である為、カーボンナノチューブ含有水溶液をポリマーに混練した場合、ポリマーの物性に悪影響を与えるおそれが大きい。
【0006】
また、カーボンナノチューブの表面を酸で酸化し、生成したカルボキシル基とアルコールを反応させ、アルキルエステル化する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法はカーボンナノチューブを表面修飾する工程であるため、煩雑であり、また酸処理はカーボンナノチューブ表面の構造を部分的に破壊するため、カーボンナノチューブ本来の特性を損なうおそれがあり、好ましくない。
【0007】
超音波をかけながらカーボンナノチューブをアセトン中に分散させるという方法も提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、超音波を照射している間は分散が可能であっても、照射が終了するとカーボンナノチューブの凝縮が起こってしまう。
【0008】
あるいはまた、アミド系極性有機溶媒及び非イオン性界面活性剤からなる溶液にカーボンナノチューブを分散させる方法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、この方法は、溶媒がアミド系有機溶媒である為、沸点がかなり高く留去をするのが困難である。
【0009】
さらに、特定の非イオン性界面活性剤、脂肪族アルコール及び脂肪酸ポリオールから選択される有機溶媒を主成分とした溶媒に、カーボンナノチューブを分散させる方法も提案されている(特許文献5)。
【0010】
しかし、これまでに試されてきた、例えば上記のような方法によっても、未だ十分にカーボンナチューブを溶媒に分散する方法は確立されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−263608号公報
【特許文献2】特開2005−133062号公報
【特許文献3】特開2000−086219号公報
【特許文献4】特開2005−075661号公報
【特許文献5】特開2007−254212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カーボンナノチューブを有機溶媒に分散可能とする方法を提供することを課題とし、さらに、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特に表面に疎水性領域を有するタンパク質をカーボンナノチューブ表面に吸着させ、さらに当該タンパク質の表面に非イオン性界面活性剤を結合させることで、カーボンナノチューブを有機溶媒中に均一に分散させることが可能であることを見出した。また、このようにして得られるカーボンナノチューブ分散液を用いて、ポリマー樹脂中にカーボンナノチューブを均一に分散させることができることも見出した。さらには、このような、カーボンナノチューブを均一分散したポリマー樹脂を用いてマイクロデバイスを作製することにも成功し、当該デバイスに光を照射することでマイクロチャネル内の溶液温度を超高速で制御可能であることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は特に以下の項1〜11に記載の方法及びマイクロデバイスに係る物である。
項1.カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させ、これを有機溶媒に分散させることを特徴とする、カーボンナノチューブが均一に分散した分散液を製造する方法。
項2.前記タンパク質が、表面に疎水性領域を有するタンパク質である、項1に記載の製造方法。
項3.前記タンパク質が、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストンからなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の製造方法。
項4.前記界面活性剤が、構造中に脂肪酸エステル部分とリン酸アニオン部分を有するものである、項1〜3に記載の製造方法。
項5.前記界面活性剤が、炭素数10〜20で不飽和結合を0〜4個有する脂肪酸をグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質である、項4に記載の製造方法。
項6.前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種である、項1〜5に記載の方法。
項7.請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によりカーボンナノチューブを均一に分散させた有機溶媒をポリマー樹脂に加えて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法。
項8.前記ポリマー樹脂が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリピロピレン、ポリエチレンからなる群より選択される1種である、項7に記載の製造方法。
項9.項7又は8に記載の製造方法にて製造した、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂からなるマイクロデバイス。
項10.項9に記載のマイクロデバイスにレーザーを照射し、当該マイクロデバイスのチャネル内の内容物の温度を0.03秒以内に特定温度へと上昇させる方法。
項11.レーザーが、近赤外レーザーである、項10に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、所定のタンパク質及び界面活性剤を用いてカーボンナノチューブの表面を修飾することにより、均一にカーボンナノチューブが有機溶媒中に分散した液を得ることができる。また、このようにして得られる液を用い、カーボンナノチューブを内部に均一に分散させたポリマー樹脂を製造することもできる。当該製造方法で得られるカーボンナノチューブを均一分散したポリマー樹脂は、弾力性、強度等の特性に優れており、また高い伝熱性を有するために、例えばマイクロデバイスにおいてチャネル内の溶液の超高速温度制御をも可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明は、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法に関するものであり、詳細にはカーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させることで、カーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を製造する方法に関する。
【0017】
本発明で用いられるカーボンナノチューブには、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで、それぞれ目的に応じて使うことができる。本発明においては、好ましくは、シングルウォール・カーボンナノチューブ(SWNT)が用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、従来公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0018】
本発明で用いられるタンパク質は、カーボンナノチューブの表面に吸着するものであれば特に限定されるものではないが、特に表面に疎水性領域を有するものであることが好ましい。これは、カーボンナノチューブの表面は高い疎水性を有することから、表面に疎水性領域を有するタンパク質は、疎水性相互作用によってカーボンナノチューブの表面に比較的強く吸着し得るからである。特に、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストン等のタンパク質が好ましく本発明に用いられ、なかでもウシ血清アルブミン(BSA)が好ましい。
【0019】
なお、本発明では、上で例示したようなタンパク質をカーボンナノチューブに吸着させた後、さらに界面活性剤をこれらのタンパク質に結合させる。界面活性剤をタンパク質に結合させるにあたり、タンパク質のNH2基、COOH基、SH基などに共有結合させる方法を採用する場合は、カーボンナノチューブと吸着する領域(疎水性領域)以外の領域において、このような基を有するタンパク質を用いなければならない。
【0020】
本発明で用いられる界面活性剤は、有機溶媒中にカーボンナノチューブを均一に分散させるという本発明の効果を損なわない限り特に限定されるものではないが、その構造において、疎水性の脂肪酸エステル部分と親水性のリン酸アニオン部分を有するものであることが好ましい。なかでも、グリセリンを骨格に有するリン脂質であって、脂肪酸がグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質が好ましい。前記脂肪酸としては、カルボニル基のものを除いて、炭素数10〜30のものが好ましく、10〜20のものがより好ましく、14〜18のものがさらに好ましい。また、カルボニル基のものを除いて、不飽和結合を0〜6個有するものが好ましく、0〜4個有するものがより好ましく、0〜2個有するものがさらに好ましい。前記脂肪酸として特に好ましいものとしては、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。なお、C1及びC2部位にエステル結合する脂肪酸は、それぞれ同一又は異なってよく、(C1:C2)に結合するものの組み合わせとしては、特に(ステアリン酸:ステアリン酸)、(パルミチン酸:オレイン酸)、(ミリスチン酸:ミリスチン酸)、(パルミチン酸:パルミチン酸)、(オレイン酸:オレイン酸)が好ましい。
【0021】
なお、本発明において、アニオン性界面活性剤あるいはカチオン性界面活性剤等のイオン性界面活性剤を界面活性剤として用いるのは好ましくない。これは、イオン性界面活性剤を用いると、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質に作用し、カーボンナノチューブの表面から当該タンパク質を剥がしてしまうおそれが大きいからである。これは、おそらくは界面活性剤がタンパク質の立体構造を破壊するためにタンパク質表面に存在した疎水性領域がなくなり、カーボンナノチューブとの疎水性相互作用が失われてしまうためだと考えられる。
【0022】
本発明では、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質と界面活性剤とを結合させる。結合方法としては、有機溶媒中にカーボンナノチューブを均一に分散させるという本発明の効果を損なわない限り、限定されるものではないが、共有結合であることが好ましい。界面活性剤とタンパク質との共有結合は、定法に従えばよい。例えばタンパク質のSH基と反応して共有結合するマレイミド基、あるいはタンパク質のアミノ基と反応して共有結合するNHSエステル基を界面活性剤の親水性部分に付与しておき、カーボンナノチューブの表面に吸着したタンパク質と反応させ、共有結合させる方法が挙げられる。
【0023】
マレイミド基、NHSエステル基など、タンパク質との共有結合形成に必要である基が界面活性剤の親水性部分に結合した構造を有するものを使用するにあたっては、共有結合形成に必要である基とリン酸基との間に適当なスペーサーを設けることもできる。スペーサーとしては−(CH2)−基或いは−NHCO−基からなるものが好ましく、両基の数があわせて1〜15、好ましくは1〜10となる構造のものが好ましい。また、半数以上は−(CH2)−基であることが好ましい。
【0024】
例えば、界面活性剤としてリン脂質(PL)、共有結合形成用の修飾基としてNHSエステル基又はマレイミド基を用いる場合、下の式〈1〉
【0025】
【化1】
【0026】
〔式中、Xは、NH2基反応のための活性カルボン酸(NHS:次の式〈2〉)
【0027】
【化2】
【0028】
又はSH基反応のためのマレイミド(MAL)誘導体(次の式〈3〉)
【0029】
【化3】
【0030】
を示し、R1びR2は、R1COOH及びR2COOHの構造の場合に脂肪酸となるものを示す
。〕
の構造を有するものが好適に用いられる。このような、界面活性剤にスペーサー及び共有結合用基を有するものは一般に市販されているものも好適に用いることができ、例えばジステアロイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン
(DSPE-NHS; COATSOME FE-8080SU5; 日本油脂)、1-パラミトイル-2-オレオイルN-(スク
シンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(POPE-NHS; COATSOME FE-6081SU5; 日本油脂)、ジミリストイルN-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホス
ファチジルエタノールアミン(DMPE-NHS; COATSOME FE-4040SU5; 日本油脂)、ジパルミ
トイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE-NHS; COATSOME FE-6060SU5; 日本油脂)、ジオレオイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE-NHS; COATSOME FE-8181SU5; 日本油脂)、ジパルミトイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE-MAL; COATSOME FE-6060MA3; 日本油脂)、ジステアロイル N-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE-MAL; COATSOME FE-8080MA3; 日本油脂)、1-パラミトイル-2-オレオイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(POPE-MAL; COATSOME FE-081MA3; 日本油脂)、ジミリストイルN-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE-MAL; COATSOME FE-4040MA3; 日本油脂)、ジオレオイル N-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE-MAL; COATSOME FE-81812MA3; 日本油脂)等が揚げられる。これらの市販品の例につき、一覧表を次の表1に示す。なお、表中のX、R1びR2は、式〈1〉に対応する。
【0031】
【表1】
【0032】
本発明に用いられる有機溶媒は、本発明の効果を損なわないもので一般的に溶媒として用いられる有機溶媒であればよく、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0033】
本発明により得られるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液は、特に光吸収性や樹脂への相互作用が優れている。
【0034】
本発明は、カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させたものを、有機溶媒に分散させて得られるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いて、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を製造する方法にも関する。
【0035】
本発明では、カーボンナノチューブを上記方法で有機溶媒に均一に分散させた後、当該分散液をポリマー樹脂に添加し、有機溶媒を除き、架橋剤を添加して、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を得る。
【0036】
本発明に用いられるポリマー樹脂としては、ポリマー樹脂中にカーボンナノチューブが均一に分散する限り特に限定されるものではなく、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリピロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。なかでも、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。
【0037】
本発明に用いられる架橋剤としては、用いるポリマー樹脂に応じて適宜適当な物を選択して使用すればよい。例えば、ポリマー樹脂としてPDMSを用いる場合には、架橋剤として変性アミン、多官能フェノール、イミダゾール、メルカプタン、酸無水物等を用いることができる。
【0038】
本発明により得られるカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、強度、伝熱性、電気伝導性、耐薬品性、加工性等に優れている。
【0039】
本発明は、さらに上記方法によって得られるカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を用いて作製するマイクロデバイス、及び当該マイクロデバイスを用いてチャネル内の溶液温度を超高速で制御する方法に関する。
【0040】
本発明のマイクロデバイスは、上記方法によって得られたカーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂を用い、定法により作製することができる。例えば、ソフトリソグラフィー法が好適に用いられる。
【0041】
カーボンナノチューブが高い伝熱性を有することから、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂も高い伝熱性を有しており、当該樹脂を用いたマイクロデバイスのチャネル内の内容物を超高速で制御することが可能である。
【0042】
例えば、チャネル内に溶液を入れ、チャネル付近の一点にレーザー照射を行うと、高い伝熱性のためにマイクロデバイス全体の温度が短時間で上昇し、チャネル内の溶液全体の温度も短時間で上昇する。また、マイクロデバイスのチャネル内の液相空間が微少であり、熱容量が小さいことから、レーザー照射を止めるとチャネル内の溶液温度は短時間で低下する。このようにして、0.01〜0.05秒のレーザー照射により、チャネル内の溶液温度を制御することが可能である。例えば、マイクロチャネルの容量やレーザー出力を適宜調整することで、レーザー照射によりチャネル内の内容物温度を特定温度(特に25℃〜60℃範囲内の目的とする温度)へと上昇させることが可能である。
【0043】
また、マイクロデバイスの特定部分のみ、カーボンナノチューブ均一分散ポリマー樹脂を用いて作製することで、当該樹脂を用いた部分のみ超高速で温度制御することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
実施例1:PL−BSA−SWNT(リン脂質−ウシ血清アルブミン−単層カーボンナノチューブ)複合体の合成
単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube; SWNT)(4 mg)(純度>95%)(Hipco super-purified SWNTs; Carbon Nanotechnologies)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF; 32 mL) (Wako) 中で30 min間、超音波照射(USD-2R; AS ONE)を行った。SWNT/DMF溶液(2 mL)を遠心分離用マイクロチューブに入れ、ホウ酸ナトリウム緩衝液(0.1 M、pH 8.5)により溶媒を徐々に置換した。本溶液に牛血清アルブミン(bovine serum albumin; BSA)(40 mg)(Wako) を添加し、超音波照射(< 8 ℃、15 min)を施した。得られたBSA-SWNT 水溶液 (2 mL) を遠心分離(11000 rpm、3 min、4 ℃)(MX-301; Tomy)し、上澄み(1 mL)を注意深く回収した。これにホウ酸ナトリウム緩衝液(1 mL)を添加し、ボルテクスにより攪拌後、遠心分離(11000 rpm、3 min、4 ℃)を施した。上澄みがほとんど透明になるまで本操作を繰り返した後、限外ろ過(Millipore, 分画分子量 = 100 kDa)(6500 rpm、15 min、4 ℃)によりホウ酸ナトリウム緩衝液(10 mL)で6回洗浄することで余分なBSAを取り除いた。得られたBSA-SWNTを超音波処理(< 8 ℃、3 min)によってホウ酸ナトリウム緩衝液(50 mL)に再分散後、ジステアロイル N-(スクシンイミジルグルタリル)-L-α-ホスファチジルエタノールアミン(20 mg)(DSPE-NHS; COATSOME FE-8080SU5; 日本油脂)を添加した。攪拌(2 h、4 ℃)後、 限外ろ過(Millipore, 分画分子量 = 100 kDa)(6500 rpm、15 min、4 ℃)により余分なDSPE-NHS を取り除き、蒸留水(10 mL)により6回洗浄した。得られたPL-BSA-SWNT水溶液(50 mL)を液体窒素により予備凍結し、凍結乾燥(48 h)(EYELA Freeze Dryer FD-5N; Tokyo Rikakikai)することで粉末状のPL-BSA-SWNT複合体を得た。
【0046】
得られたPL-BSA-SWNT複合体の模式図を図1aに示す。
【0047】
また、SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を図1b-1に、BSA-SWNTをジクロ
ロメタンに分散させた状態の写真を図1b-2に、PL-BSA-SWNT複合体を各種有機溶媒に分散させた状態の写真を図1b-3〜b-6に(各種溶媒; b-3:ジクロロメタン 、b-4:クロロホルム、b-5:トルエン、b-6:酢酸エチル)、PL-BSA-SWNT複合体を水に分散させた状態の
写真を図1b-7に、それぞれ示す。b-1, b-2, b-7では全く分散が起こらず、SWNTが凝縮しているのに対し、 b-3〜b-6ではSWNTが均一に分散していた。b-1〜b-3を比較することで
、SWNT単体、或いはBSA-SWNTはジクロロメタンには分散しないのに対し、PL-BSA-SWNT複
合体となって初めてジクロロメタンに均一に分散することがわかった。また、b-3〜b-6より、PL-BSA-SWNT複合体は各種有機溶媒にも均一に分散することがわかった。
【0048】
実施例2:PL−BSA−SWNT複合体の吸収スペクトルの測定
分光光度計(V-630; JASCO) により、PL-BSA-SWNT複合体の吸収スペクトルを室温で解析した。サンプルは濃度が350 μg /mLになるように超音波処理(< 8℃、60 min)により
ジクロロメタンに分散させ、本溶液(1 mL)を石英セル(光路長= 1 cm)(S15-UV-10; GL Science)中でモニタリングした。得られた吸収スペクトルの結果を図1cに示す。
【0049】
一般的に、溶媒に分散化したSWNT(Hipco)は、第一金属バンド(M11:440-600 nm)
および第二半導体バンド(S22:550-800 nm)にピークが観察される。得られた吸収スペクトルにおいて、ジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTは、第一金属バンドおよび第
二半導体バンドが観察され、ジクロロメタンに良く分散していることが確認できた。
【0050】
実施例3:PL−BSA−SWNT複合体のAFM(原子間力顕微鏡)解析
実施例2で使用したジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTを、AFM(JSPM-4210; JEOL)により解析した。解析時、タッピングモードのカンチレバー(NSC35/no Al; MikroMasch)を使用した。結果を図1dに示す。図1d左図は、観察されたAFM像であり、マイカ基板上でPL-BSA-SWNTは孤立分散していることが確認できた。図1d右図(1)(2)(3)は、図1d左図に示した(1)(2)(3)の各バー部分における高さプロファイリングを示しており、バー部分の高さは10〜20nmであることがわかった。SWNTの直径が約1nmであり、BSAの大きさが約6.4nmであることを考えると、SWNT の表面両側にBSAが吸着した部分の高さは1+6.4+6.4=13.8nmなると概算でき、観察された値はこれとよく一致した。このことから、図1(a)に示した模式図のように、SWNT上にPL-BSAが吸着していることもわかった。なお、図1d左図においては、白く示した部分ほど高さが高いことを示している。(高さプロファイリングは、各SWNT上で白色で示された部分で行った。)
【0051】
実施例4:PL−BSA−SWNT複合体を用いた、カーボンナノチューブが均一に分散したPDMSの製造
PL-BSA-SWNT(2.5 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリジメチルシロキサン(PDMS)(25 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤を型上に注ぎ、オーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。
【0052】
このようにして製造したPL-BSA-SWNTを内包するPDMSコンポジット(PL-BSA-SWNT-PDMS
)は、図2a左図に示すように、当該コンポジットの反対側の紙上の「AIST」の字が
はっきりと認識できる程度に透明性を有し、また、図2a右図に示すように、優れた柔軟
性を示した。
【0053】
さらに、当該コンポジットを光学顕微鏡(倍率5倍)で観察したところ、図2b左図に
示すように、カーボンナノチューブの凝縮は観察されず、PL-BSA-SWNTはPDMSポリマーマ
トリクス中によく分散していることが確認できた。
【0054】
一方、PL-BSA-SWNTではなく、SWNTを用いた他は、上記PDMSコンポジット製造方法と同
様にして製造したコンポジット(すなわち、SWNTを内包するPDMSコンポジット;SWNT-PDMS)を、同様に光学顕微鏡で観察したところ、図2b右図に示すように、SWNTのみではPDMSと親和性がないために、カーボンナノチューブの凝縮物(黒い塊)が多数観察された。
【0055】
なお、PL-BSA-SWNT-PDMSについて、さらに光学顕微鏡の倍率を高倍率にして観察を行っても、カーボンナノチューブの凝縮は観察されなかった(図2c左図及び右図)。
【0056】
また、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット及びSWNT-PDMSコンポジットにおいて、各コンポ
ジット中のカーボンナノチューブの大きさを検討するために、レーザーラマン分光光度計(NRS-3100:JASCO)を用いてラマンラッピング解析を行った。結果を図2d左図及び右
図に示す。当該結果から、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブは非常に小さく(図2d左図)、一方、SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブは
比較的大きい(図2d右図)ことがわかった。このことからも、PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットにおいては、カーボンナノチューブが凝縮を起こすことなく、コンポジット中に均一に分散されていることが確認できた。
【0057】
またさらに、PL-BSA-SWNT-PDMS中にカーボンナノチューブが含まれていることを確認するために、PL-BSA-SWNT-PDMS、SWNT-PDMS、及び通常のPDMS、それぞれのラマンスペクト
ルを測定した。結果を図2eに示す。
【0058】
PL-BSA-SWNT-PDMS及びSWNT-PDMSにおいて、通常のPDMSでは観察されないピーク(特に波数約3400cm-1及び2400cm-1付近に存在するピーク)、すなわちカーボンナノチューブに由来するピークが検出されたことから、PL-BSA-SWNT-PDMSにおいてカーボンナノチューブがほとんど観察されないのは、カーボンナノチューブが存在しないためではなく、均一によく分散しているためであることが裏付けられた。
【0059】
実施例5:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの製造1
PL-BSA-SWNT(2.5 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(25 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。1つの溶液注入口と3つの溶液排出口、くし型マイクロチャネル(深さ35 μm、720 pL)を有するマイクロチップはソフトリソグラフィー法により作製した。マスター基盤はシリコンウエハー上にフォトレジストパターニング(SU-8 50; MicroChem)することで調製した。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤をマスター上に注ぎ、フォトレジストパターニングしていないシリコンウエハー上に通常のPDMS/架橋剤を注いだ。これらをオーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。ポリマー硬化後、PL-BSA-SWNT-PDMSとPDMSを基盤からはがし、プラズマコーター(SC-708; Sanyu)によりこれらを接着させた。レーザー照射実験のために調製したマイクロチップをL時型に加工した。最後に、溶液の注入口と排出口にシリコンチューブを接着させた。当該マイクロチップの外観を図3aに示す。また、当該マイクロチップの設計図を図3bに示す。なお、コントロールとしてSWNT-PDMSマイクロチップとSWNTを含まないPDMSマイクロチップも同様の手法により作製した。但し、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップはジクロロメタンを用いずに作製した。
【0060】
実施例6:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いた光熱変換効果の検証1
5-カルボキシテトラメチルローダミン スクシンイミジルエステル(5-TAMRA)は赤蛍光色を発し、温度が上昇すると消光する性質を有する。この消光現象は可逆的であり、温度を戻すと元の蛍光を発する。この原理を利用してPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの光熱変換効果を観察した。
【0061】
具体的には、5-TAMRA(110 nM)(Invitrogen)を含むPBS緩衝液(pH 7.3)(Oxoid)
を、実施例5で製造した各マイクロチップのマイクロチャネル内にシリンジを用いて注入した。マイクロチャネル側面に近赤外レーザー(1064 nm)を照射し、チャネル内の温度
は5-TAMRAの蛍光強度を画像解析(MetaMorph; Universal Imaging)により測定した。近
赤外レーザーは対物レンズ(UPlanApo; Olympus, ×20)により集光し、トリプルバンド
フィルター(DAPI/FITC/TRITC v2; Chroma Technology)を搭載した蛍光顕微鏡中のカラ
ーCCDカメラ(DC220; DAGE)により動画を撮影した。
【0062】
レーザー照射後、0.03 秒で5-TAMRAの消光現象がマイクロチャネル全体で観察された(図3c左図→中央図)。また、レーザー照射を止めると、これも0.03 秒以内に5-TAMRAの蛍光が観察された(図3c中央図→右図)。なお、レーザー照射部位は、図3c中央図における白矢印の先端部である。なお、コントロール実験としてSWNT-PDMSマイクロチップを用いた場合、5-TAMRAの消光は見られたもののSWNT凝集物の強力な光熱変換効果によってPDMSの破壊が起こった。また、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップの場合、5-TAMRAの消光は全く起こらなかった。
【0063】
以上の結果より、SWNTが良く分散しているPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップでのみ効率的にマイクロチャネル内の溶液の温度コントロールが可能であることがわかった。
【0064】
さらに、5-TAMRAの蛍光強度から温度を見積もった(蛍光強度測定部分は図3c中央図の白四角部分)ところ、レーザー出力が1、3、5 Wの各Wでは、25 °Cから 最大でそれぞれ30、35、44℃に温度上昇することがわかった(図3d)。いずれの場合も、レーザーの照
射開始と照射停止においてわずか0.03 秒で変化することが確認でき、0.01秒単位での温
度制御が可能であることがわかった。このような超高速の温度変化は、SWNTの桁違いに高い伝熱特性によるものと、マイクロチャネルの極めて小さな熱容量によるものと考えられる。
【0065】
実施例7:PL-BSA-SWNT-PDMS マイクロチップの光熱変換効果を利用したPNIPAMの相転移
の検討
ポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)は温度応答性のポリマーとして良く知られている。下限臨界温度(LCST)が32℃であり、32℃以下では水に良く溶解するが、32℃以上になると疎水性となり水溶液中で析出し、沈殿物を形成する。PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの光熱変換効果を利用することで、温度に応答するPNIPAMの相転移現象を起こすことが可能か、直接観察することで検討した。
【0066】
PNIPAM(100 mg) (Aldrich; 平均分子量 = 20,000-25,000, LCST 約32 °C) を蒸留水
に添加し、超音波処理(室温、10秒)後、不溶なPNIPAMをPVDF膜(Millipore; pore size
= 220 nm)により除去した。蛍光顕微鏡観察に際して、1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)(20 μM) (Invitrogen) を含む蒸留水(100 μL)をPNIPAM溶液(900 μL)
に添加した。上記溶液をシリンジを用いてマイクロチャネル内に注入し、PNIPAMの相転移をリアルタイムで観察した。実験装置は基本的には上記5と同様であるが、ANSの蛍光観察のためにカスタムフィルターセット[励起フィルター(BP 330-385; Olympus)、ダイクロイックミラー(FT 395; Zeiss)、発光フィルター(LP 397; Zeiss)]を搭載した。
【0067】
観察結果を図4に示す。明視野観察からレーザー照射(レーザー照射部位は、図4中央図における赤矢印の先端部)後、黒色のコントラスト像が浮かび上がり、レーザーを停止するとすぐに黒色のコントラスト像が消失した(図4上側)。蛍光観察も同様に、レーザーを照射すると青色のマイクロチャネルが突然浮かび上がり、レーザーを停止すると青色のマイクロチャネルがすぐに消失した(図4下側)。なお、コントロール実験としてSWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップを用いた場合、PDMSの相転移現象は全く観察されなかった。
【0068】
実施例8:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの製造2
PL-BSA-SWNT(6 mg)をジクロロメタン(25 mL)(Wako)に添加後、超音波処理(< 8℃、60 min)を施した。得られたPL-BSA-SWNT/ジクロロメタン溶液をポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(50 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、超音波処理(< 8℃、15 min)を施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりジクロロメタンを室温で除去した。次に本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。1つの溶液注入口と1つの溶液排出口、及びこれらの口を結ぶマイクロチャネル(長さ36 mm、幅90μm、深さ50μm、容量16.2 pL)を有するマイクロチップをソフトリソグラフィー法により作製した。マスター基盤はシリコンウエハー上にフォトレジストパターニング(SU-8 50; MicroChem)することで調製した。PL-BSA-SWNT/PDMS/架橋剤をマスター上に注ぎ、フォトレジストパターニングしていないシリコンウエハー上に通常のPDMS/架橋剤を注いだ。これらをオーブン(70℃、45 min)に入れ、PDMSを硬化させた。ポリマー硬化後、PL-BSA-SWNT-PDMSとPDMSを基盤からはがし、プラズマコーター(SC-708; Sanyu)によりこれらを接着させた。最後に、溶液の注入口と排出口にシリコンチューブを接着させた。当該マイクロチップの外観を図5aに示す。また、当該マイクロチップの設計図を図5bに示す。なお、実施例4に記載の方法(光学顕微鏡による観察、ラマンラッピング解析、及びラマンスペクトル測定)と同様にして、当該マイクロチップ内に、カーボンナノチューブが均一によく分散していることを確認した。
【0069】
また、コントロールとしてSWNT-PDMSマイクロチップとSWNTを含まないPDMSマイクロチップも同様の手法により作製した。但し、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップはジクロロメタンを用いずに作製した。
【0070】
なお、以下の実施例では、本実施例で製造したチップを用いた。
【0071】
実施例9:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いた光熱変換効果の検証2
5-TAMRA(22 μM)(Invitrogen)を含むPBS緩衝液(pH 7.3)(Oxoid)を、実施例8で製造した各マイクロチップのマイクロチャネル内にシリンジを用いて注入した。マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(1064 nm)を照射し、チャネル内の温度は5-TAMRAの蛍光強度を画像解析(MetaMorph; Universal Imaging)により測定した。近赤外レーザーは対物レンズ(UPlanApo; Olympus, ×20)により集光し、トリプルバンドフィルター(DAPI/FITC/TRITC v2; Chroma Technology)を搭載した蛍光顕微鏡中のカラーCCDカメラ(DC220; DAGE)により動画を撮影した。当該実験系の模式図を図6aに示す。
【0072】
レーザー照射後、0.03 秒で5-TAMRAの消光現象がマイクロチャネルで観察された(図6
b左図→中央図)。また、レーザー照射を止めると、これも0.03 秒以内に5-TAMRAの蛍光が観察された(図6b中央図→右図)。レーザー照射部位は、図6b左図における白矢印の先端部である。なお、コントロール実験としてSWNT-PDMSマイクロチップを用いた場合、5-TAMRAの消光は見られたもののSWNT凝集物の強力な光熱変換効果によってPDMSの破壊が起こった。また、SWNTを含まない従来のPDMSマイクロチップの場合、5-TAMRAの消光は全く起こらなかった。
【0073】
さらに、5-TAMRAの蛍光強度から温度を見積もった(蛍光強度測定部分は図6b中央図
の白四角部分)ところ、レーザー出力が2、3、4、5 Wの各Wでは、25 °Cから 最大でそ
れぞれ約40、47、50、55℃に温度上昇することがわかった(図6c)。いずれの場合も、レーザーの照射開始と照射停止においてわずか0.03 秒で変化することが確認でき、当該マイクロチャネルにおいても、0.01秒単位での温度制御が可能であることがわかった。このような超高速の温度変化は、SWNTの桁違いに高い伝熱特性によるものと、マイクロチャネルの極めて小さな熱容量によるものと考えられる。
【0074】
なお、実施例6におけるレーザー照射に伴う温度上昇より、本実施例における温度上昇が大きいのは、実施例6で用いたチップのマイクロチャネル容量が720 pLなのに対し、本実施例のチップのマイクロチャネル容量が16.2 pLであり、熱容量が異なるためと考えられる。
【0075】
またさらに、レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたところ、その都度鋭敏に5-TAMRAの蛍光像が変化した(図6d)。この蛍光強度の変化を蛍光イメージングソフトウエアで解析して温度を見積もったところ、レーザースイッチの連続的なON、OFFの度に再現性よく温度が上昇、下降していることがわかった。さらに、レーザーの出力に応じた温度上昇が起こっていることも分かった(図6e)。
【0076】
当該結果から、光駆動カーボンナノチューブマイクロデバイスを用いることで、マイクロサイズの空間の超高精度のサーマルサイクル制御を達成できることを確認できた。
【0077】
実施例10:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたDNA複製反応の制御1
1,1'-(4,4,7,7-テトラメチル-4,7-ジアザウンデカメチレン-ビス-4-[3-メチル-2,3-ジ
ヒドロ-(ベンゾ-1,3-オキサゾル)-2-メチリデン]-キノリニウムテトライオダイド(YOYO-1)は、二本鎖DNAの相補鎖間に挿入されると緑蛍光色を発する性質を有する。この原理を利用して、光駆動PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、DNA複製反応を制御する検討を行った。
【0078】
DNA複製反応は、PCR 増幅キット(Takara)とTaqTMホットスタートバージョン(Takara)を用いて次のように行った。まず、配列番号1に示す塩基配列からなるテンプレートDNA(Fasmac)(245×10-3 μg/μl; 10 μl)、配列番号2に示す塩基配列からなるコントロールプライマー2(200 pmol; 10 μl)、TaqTMホットスタートバージョン(5 units /μl; 10 μl)、dNTP混合溶液(各25 mM; 40 μl)をPCR緩衝液[100 mM Tris-HCl (pH8.3)、500 mM KCl 及び15 mM MgCl2](50 μl)に氷上で加えた。そしてYOYO-1(10 μM; 2 μl)(Invitrogen)を当該溶液に添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射して蛍光強度を観察した。
【0079】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例6で用いた装置と同じものを用いて行った。但し、光学フィルターは、(U-MWIB3; Olympus) (励起波長 = 460-495 nm,
吸収波長> 510 nm, ダイクロイックミラー = 505 nm)を搭載した。
【0080】
マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(波長1064 nm)を出力5Wで照射して、0.03秒後にはYOYO-1の消光減少がマイクロチャネル内で観察された。また、レーザーの照射を止めると、0.03秒以内にYOYO-1の蛍光が観察された(図7c)。
【0081】
マイクロチャネル内に反応液を注入した時点で、YOYO-1の蛍光が観察される(図7c左図)のは、テンプレートDNAとプライマーDNAとがアニーリングして二本鎖となっており、YOYO-1が当該二本鎖部分に挿入されているためと考えられる。
【0082】
また、レーザー照射によって蛍光が消光する(図7c中央図)のは、YOYO-1が温度に応答して消光しているためと考えられる。
【0083】
また、レーザー照射停止後、特にマイクロチャネル壁面において蛍光が強くなることが観察された(図7(c)右図)が、これは、レーザー照射により、特に壁面が温められ、マイクロチャネル内の反応液のうち、当該壁面に接する部分の反応液の温度が最も高くなり、当該部分で最も効率良く抗Taq抗体が変性してTaqポリメラーゼが二本鎖DNAを合成したためと考えられる。また、レーザーの強度は照射側(図7cではチャネルの右側)の壁面よりも照射逆側(図7cではチャネルの左側)の壁面で強くなるように設定しているため、照射逆側の壁面で特に蛍光が強くなったものと考えられる。なお、抗体が結合した本Taqポリメラーゼは、約70℃以上になると活性を生じることが知られている。
【0084】
なお、レーザー照射停止から1分ほどかけて徐々に蛍光は消光した。これは、Taqポリ
メラーゼにより合成された二本鎖DNAに YOYO-1が挿入され、これが非特異的に壁面に吸着などしていたところ、徐々に脱着して拡散したためと考えられる。
【0085】
以上のことから、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、レーザー照射により抗Taq
抗体を変性させることで、Taqポリメラーゼの合成反応開始を達成できたと考えられる。
【0086】
実施例11:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたDNA複製反応の制御2
PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いて、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)反応を制御できるか検討した。
【0087】
ビス[N,N-ビス(カルボキシメチル)アミノメチル]フルオレセイン(カルセイン)は、マンガンイオンと結合しているときには消光しているが、LAMP反応が進行すると副産物として生成するピロリン酸イオンにマンガンイオンを奪われると緑色蛍光を発し、さらに反応溶液中のマグネシウムイオンと結合することで、その蛍光が増強される。この原理を利用して、以下のようにして検討を行った。
【0088】
LAMPには、LoopampDNA増幅試薬キット(Eiken)を用いた。ポジティブコントロールDNA(10 μl)、プライマー混合溶液[FIP(160 pmol)、BIP(160 pmol)、F3(20 pmol)
、B3(20 pmol)](10 μl)、Bst DNAポリメラーゼ(10 μl)を反応混合溶液[40 mM Tris-HCl(pH 8.8)、KCl(20 mM)、MgSO4(16 mM)、(NH4)2SO4(20 mM)、Tween 20(0.2 wet%)、Betaine(1.6 M)、dNTPs(2.8 mM each)](50 μl)に加えた。そして当該溶液にカルセイン(50 μM, 2 μl)(Eiken)を添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射して蛍光強度を観察した。
【0089】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例10で用いた装置と同じものを用いて行った。また、蛍光強度測定は、実施例6で用いた装置及び解析ソフトと同じものを用いて行った。
【0090】
マイクロチャネル側面に近赤外(NIR)レーザー(1064 nm)を出力5Wで照射し、チャ
ネル内の蛍光強度を測定した。
【0091】
レーザー照射後、0.03秒後にはマイクロチャネル内に緑色蛍光が観察された。LAMPに用いられるBst DNAポリメラーゼの至適温度は約60℃であるため、レーザー照射により反応
液が温められLAMP反応が効率よく起こり、カルセインが蛍光を発したものと考えられる。また、レーザー照射を停止すると0.03秒後には蛍光が退色し、その後も徐々に退色して、1min以内に完全に消失した(図8a)。LAMP反応がストップし、さらにカルセインが拡散したものと考えられる。
【0092】
また、レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたところ、その都度鋭敏に緑色蛍光
強度が変化した(図8b)。
【0093】
なお、レーザーの出力を1、2、5Wとして、それぞれの場合の蛍光強度を検討したとこ
ろ、出力が大きいほど強い蛍光強度が得られることもわかった(図8c)。
【0094】
以上のことから、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用い、レーザー照射によりLAMP反応を超高速(0.01秒単位)で制御することが可能であることが確認できた。
【0095】
実施例12:PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いたシクロデキストリン(CD)合成反応の制御
PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップにおいて、シクロマルトデキストリン グルカノトラ
ンスフェラーゼ(CGTase)を用いたシクロデキストリン(CD)合成反応を制御できるか検討した。
【0096】
Thermoanaerobacter sp.由来のCGTase (EC 2.4.1.19)は耐熱酵素であり、デンプンからβ-シクロデキストリン(β-CD)を主に合成することが知られている。シクロデキストリンは数分子のD-グルコースが α(1→4) グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。D-グルコースの数が6個のものが α-シクロデキストリン(α-CD)、7個のものが β-シクロデキストリン(β-CD)、8個のものが γ-シクロデキスト
リン(γ-CD)と呼ばれる。
【0097】
また、シクロデキストリンの環状構造の内部は他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。特に、シクロデキストリンのヒドロキシ基はこの空孔の外側にあって空孔内部は疎水性となっているため、疎水性の分子を包接しやすい。この性質を利用して、疎水性の蛍光分子である1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)を包接させ、これを励起することで、シクロデキストリンの存在を確認することができる。
【0098】
なお、ANSは励起されると青色蛍光を発する。各CD(50 mg)(Katayama Chemical)をANS水溶液(20 μM; 5 ml)にそれぞれ加えた後、紫外線(FluorChem IS-8900, Alpha Innotech)を照射したときのイメージを図9aに示す。
【0099】
本検討は、以下のように行った。すなわち、可溶性デンプンを、CaCl2 (0.15 mM)を含
むクエン酸ナトリウム緩衝液(10 mM; 10 ml)(pH 6.0)に分散させた後、不溶なデンプンをPVDF膜(Millipore; pore size = 220 nm)により除去した。CGTase溶液(3 ×10-3 unit/ml; 250 μl)(Toruzyme 3.0L, Novozyme)を本デンプン溶液に氷上で加えた。そしてANS(20 μM; 100 μl)(wako)を当該溶液(500 μl)に添加して反応液とした。この反応液をPL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内へシリンジを用いて注入し、レーザーを照射(出力5 W、波長1064 nm)して蛍光強度を観察した。
【0100】
なお、当該実験におけるリアルタイム蛍光観察は、実施例7で用いた装置と同じものを
用いて行った。
【0101】
結果を図9bに示す。図9b(1)はレーザー照射前、(2)は1 minレーザー照射後、(3)
は2 minレーザー照射後、(4) は3 minレーザー照射後のイメージである。なお、図9b(1)の白四角部分における蛍光強度を測定した結果を図9cに示す。これらの結果から、レーザーの照射時間が長くなるにつれ、より強い青色蛍光を発することがわかった。また、コントロール実験(PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップではなく、PDMSマイクロチップを用いて同様に行った実験)では、当該現象は確認できなかった。
【0102】
なお、蛍光顕微鏡及び明視野顕微鏡でマイクロチャネルを観察することで、3 min間の
レーザー照射によって大量の凝集物が形成されていることがわかった(図9d)。
【0103】
β-CDはα-CDおよびγ-CDに比較して水溶性が極めて低い(18.5 g/l)。ちなみにα-CDおよびγ-CDの水に対する溶解性は、それぞれ145 g/lおよび232 g/lである。当該知見、
及び、本実験で用いたCGTase (EC 2.4.1.19)がデンプンからβ-CDを主に合成するもので
あることから、本凝集物はβ-CDに属するものと考えられる。
【0104】
これらの結果から、PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップを用いることでCDの合成反応を達成することができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明により製造されるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いることで、触媒、ナノエレクトロニクスデバイス、ドラッグデリバリーシステム等への応用が可能である。また、本発明により製造される、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、超高強度繊維、エレクトロニクス素子、アクチュエータ素子、燃料電池、医療用材料等への応用が考えられる。さらに、本発明に係るマイクロデバイスによれば、マイクロチャネル内用物の超高速での温度制御が可能であり、精密有機合成、PCR・LAMP等の拡散増幅反応の制御あるいはCGTaseを用いたシクロデキストリン合成反応の制御等、耐熱性酵素を用いた反応の制御、分子マニピュレーション、1〜数個単位での細胞培養等に利用できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1a】PL-BSA-SWNT複合体の模式図を示す。
【図1b】SWNT複合体の分散試験の結果を示す。詳細には、SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を (b)-1に、BSA-SWNTをジクロロメタンに分散させた状態の写真を(b)-2に、PL-BSA-SWNT複合体を各種有機溶媒に分散させた状態の写真を(b)-3〜(b)-6に(各種溶媒; (b)-3:ジクロロメタン 、(b)-4:クロロホルム、(b)-5:トルエン、(b)-6:酢酸エチル)、PL-BSA-SWNT複合体を水に分散させた状態の写真を(b)-7に、それぞれ示す。
【図1c】ジクロロメタンに分散化したPL-BSA-SWNTの可視-近赤外(Vis-NIR)吸収スペクトル を示す(PL-BSA-SWNT 濃度 = 350 μg/mL)。
【図1d】PL-BSA-SWNT のAFM写真(左図)、及びAFM写真におけるバー(1)(2)(3)のそれぞれの部分における高さプロファイリング(右図)を示す。
【図2a】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット(フィルム状)の写真を示す。
【図2b】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットの光学顕微鏡写真を示す。左図がPL-BSA-SWNT-PDMS、右図はSWNT-PDMSのものであり、倍率は5倍である。
【図2c】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジットの光学顕微鏡写真を示す。左図は倍率×5倍、右図は倍率×10倍である。なお、スケールバーは100μmを示す。
【図2d】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット及びSWNT-PDMSコンポジットにおけるラマンラッピング解析結果を示す。左図はPL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブを示し、右図はSWNT-PDMSコンポジット中のカーボンナノチューブを示す。
【図2e】PL-BSA-SWNT-PDMSコンポジット、SWNT-PDMSコンポジット、及び通常のPDMS、それぞれのラマンスペクトル測定結果を示す。矢印は、通常のPDMSでは観察されないピーク、すなわちカーボンナノチューブに由来するピークを示す。
【図3a】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの写真を示す。
【図3b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの設計図(仕様)を示す。
【図3c】超高速光熱変換現象の観察結果を示す。白色の囲いは温度解析位置を示し、白色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。
【図3d】マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。
【図4】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップにおけるPNIPAMの相転移現象の観察結果を示す。上側の図が明視野像を示し、下側の図が蛍光像を示す。赤色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は1W、波長は1064 nmである。
【図5a】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの写真を示す。なお、チップ中央部の、「AIST」と記載された赤丸は、チップ下部に置かれた紙に記載されたものであり、これがチップを通して観察されること、すなわちチップが透明であることを示すためのものである。
【図5b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップの設計図(仕様)を示す。なお、図中の数字の単位はmmである。
【図6a】実施例9における実験系の模式図を示す。
【図6b】超高速光熱変換現象の観察結果イメージを示す。白色の囲いは温度解析位置を示し、白色の矢印はレーザー照射における方向と位置を示す。なお、倍率は10倍であり、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。また、白色スケールバーは100μmを示す。
【図6c】マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。
【図6d】レーザーのスイッチを連続的にON、OFFにしたときの、超高速光熱変換現象の観察結果イメージを示す。
【図6e】レーザーを連続的にON、OFFにしたときの、マイクロチャネル中の温度測定結果を示す。なお、赤色三角形はスイッチのONを、青色逆三角形はスイッチのOFFを示す。
【図7a】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験の模式図を示す。
【図7b】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験に用いた、テンプレートDNA及びプライマーDNAの配列を示す。なお、赤色下線で表した部分は、プライマー結合部位を示す。
【図7c】実施例10にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験における、蛍光観察結果を示す。なお、白矢印はレーザー光線の位置及び照射方向を示す。また、白色スケールバーは100μmを表す。
【図7d】図7cの白四角で囲った部分の、拡大図を示す。
【図8a】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験における、蛍光観察結果イメージを示す。
【図8b】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験において、レーザーを連続的にON、OFFにしたときの、蛍光強度変化を示す。なお、赤色三角形はスイッチのONを、青色逆三角形はスイッチのOFFを示す。
【図8c】実施例11にて行った、DNA複製反応の制御の検討実験において、レーザー出力を変化させたときの、蛍光強度を示す。
【図9a】各種シクロデキストリン(CD)をANS水溶液にそれぞれ加えた後、紫外線(UV)を照射したときのイメージを示す。なお、Iはα-CD、IIはβ-CD、IIIはγ-CDをそれぞれANS水溶液に加えたものであり、IVはANS水溶液(コントロール)である。
【図9b】PL-BSA-SWNT-PDMSマイクロチップのマイクロチャネル内の、CGTase、デンプン及びANS含有溶液にレーザーを照射した際のリアルタイム蛍光観察イメージを示す。(1)はレーザー照射前、(2)は1 minレーザー照射後、(3) は2 minレーザー照射後、(4) は3 minレーザー照射後のイメージである。なお、倍率は×10倍、レーザー出力は5 W、波長は1064 nmである。また、白色矢印はレーザー光線の位置及び方向を、白色スケールバーは90μmを、白色四角は蛍光強度測定部位を、それぞれ示す。
【図9c】図9bの白色四角部位で測定した蛍光強度測定結果を示す。
【図9d】図9b(4)のイメージの拡大図を左に、当該イメージを得た観察部位を蛍光顕微鏡ではなく明視野顕微鏡で観察したときのイメージを右にしめす。
【配列表フリーテキスト】
【0107】
〔配列番号:1〕
テンプレートとして機能するよう設計されたオリゴヌクレオチド。
〔配列番号:2〕
プライマーとして機能するよう設計されたオリゴヌクレオチド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させ、これを有機溶媒に分散させることを特徴とする、カーボンナノチューブが均一に分散した分散液を製造する方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、表面に疎水性領域を有するタンパク質である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質が、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、構造中に脂肪酸エステル部分とリン酸アニオン部分を有するものである、請求項1〜3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が、炭素数10〜20かつ不飽和結合を0〜4個有する脂肪酸をグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種である、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項1】
カーボンナノチューブ表面にタンパク質を吸着させ、さらに当該タンパク質に界面活性剤の親水部分を結合させ、これを有機溶媒に分散させることを特徴とする、カーボンナノチューブが均一に分散した分散液を製造する方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、表面に疎水性領域を有するタンパク質である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質が、アルブミン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、構造中に脂肪酸エステル部分とリン酸アニオン部分を有するものである、請求項1〜3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が、炭素数10〜20かつ不飽和結合を0〜4個有する脂肪酸をグリセリンのC1及びC2位にそれぞれエステル結合した構造を有するリン脂質である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種である、請求項1〜5に記載の方法。
【図1c】
【図3c】
【図6d】
【図8a】
【図1a】
【図1b】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図3a】
【図3b】
【図3d】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6e】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図3c】
【図6d】
【図8a】
【図1a】
【図1b】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図3a】
【図3b】
【図3d】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6e】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【公開番号】特開2011−26199(P2011−26199A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229230(P2010−229230)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【分割の表示】特願2008−181358(P2008−181358)の分割
【原出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【分割の表示】特願2008−181358(P2008−181358)の分割
【原出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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