説明

カーボンナノチューブ膜およびその製造方法、並びにそれを用いたキャパシタ

【課題】カーボンナノチューブ本来の機能を発現しつつ、厚膜化を実現し得るカーボンナノチューブ膜およびその製造方法、並びにそれを用いたキャパシタを提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブの集合体であり、これらが相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ群と、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブの集合体である第2のカーボンナノチューブ群とが、混交してなることを特徴とするカーボンナノチューブ膜およびその製造方法、並びに当該カーボンナノチューブ膜を分極性電極として用いた電気二重層キャパシタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ膜およびその製造方法に関する。
また、本発明は、かかるカーボンナノチューブ膜を利用した電気素子であるキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その特異な形状と構造に由来する多様な特性を発揮する次世代材料として様々な応用が期待されている。
カーボンナノチューブの形状は炭素原子の六員環で構成されるグラフェンシートを巻いた一次元性を有する筒状であり、グラフェンシートが1枚の構造のカーボンナノチューブを単層ナノチューブ(SWCNT)、多層構造のカーボンナノチューブを多層ナノチューブ(MWCNT)と称されている。
【0003】
SWCNTは直径約1nm程度であり、MWCNTは一般的に直径数十nm程度とされ、従来カーボンファイバーと称される物(直径数十〜1000nm)よりも極めて細い。
また、カーボンナノチューブは、マイクロメートル(μm)オーダーの長さを有し、直径に対する長さのアスペクト比が非常に大きいことが特徴的である。
【0004】
さらに、カーボンナノチューブは炭素原子の六員環の配列が螺旋構造をとることから、金属性と半導体性との両方の性質を有するという、極めて希有な特性を有する物質である。加えて、カーボンナノチューブの電気伝導性は極めて高く、電流密度に換算すると100MA/cm2以上の電流を流すことができる。
カーボンナノチューブは、電気的特性だけではなく、機械的性質についても優れた点を有する。すなわち、炭素原子のみで構成されているため、非常に軽量であるにもかかわらず、1TPaを越えるヤング率を有し、極めて強靱である。
【0005】
このように、カーボンナノチューブは様々な優れた性質を有するため、各種工業材料として極めて魅力的な物質であり、フラットパネルディスプレーやトランジスタなど、様々な電子デバイス(電子素子)としての応用が進められている。
実際にカーボンナノチューブをデバイスに応じて加工・成膜するためには、たとえば、気相成長法(CVD法)、電気泳動法、バインダーと混練してスクリーン印刷法などによって成膜・パターン形成する方法等が知られている。
【0006】
また、カーボンナノチューブを所望の位置に配線、加工、成膜するたに有効な成膜方法として、特許文献1〜3にはカーボンナノチューブを架橋する方法が開示されている。架橋されたカーボンナノチューブの膜は、複数のカーボンナノチューブが複数の架橋部位を介して三次元的な網目構造を構成する膜であり、カーボンナノチューブの特性(電気伝導性、熱伝導性、強靭性、光吸収特性など)を損なうことなく、また、バインダーを用いずに所定形状に成膜することができるものである。
【0007】
かかる技術による架橋されたカーボンナノチューブ(膜)を用いて、様々な電子デバイスが提案されている。具体的には、トランジスタ、抵抗素子、コンデンサ、電波吸収体、アンテナ、電子線発生装置等が挙げられる。その他の各種電子デバイスについても、架橋されたカーボンナノチューブ(膜)を用いての実現が研究されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−8861号公報
【特許文献2】特開2005−41835号公報
【特許文献3】特開2005−154887号公報
【特許文献4】特表2002−503204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブ本来の機能を発現しつつ、厚膜化を実現し得るカーボンナノチューブ膜を提供することを課題とする。
また、厚膜化による膜のひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を抑制したカーボンナノチューブ膜の製造方法を提供することを課題とする。
さらに、本発明のカーボンナノチューブ膜を用いた電子デバイス(具体的にはキャパシタ)を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の<1>〜<11>に示す本発明により達成される。
<1> カーボンナノチューブの集合体であり、これらが相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ群と、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブの集合体である第2のカーボンナノチューブ群とが、混交してなることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【0011】
<2> 第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が大きいカーボンナノチューブ群における当該径が、他方のカーボンナノチューブ群におけるカーボンナノチューブの径の5〜100倍であることを特徴とする<1>に記載のカーボンナノチューブ膜。
【0012】
<3> 第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が大きいカーボンナノチューブ群の存在比が、全カーボンナノチューブ量に対して、質量基準で5%〜95%の範囲内であることを特徴とする<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ膜。
【0013】
<4> 第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径が、第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径よりも大きいことを特徴とする<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ膜。
【0014】
<5> 第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径が、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径よりも大きいことを特徴とする<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ膜。
【0015】
<6> 第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブと共に、相互に架橋した網目構造を構成することを特徴とする<1または2に記載のカーボンナノチューブ膜。
【0016】
<7> 少なくとも、官能基を有するカーボンナノチューブからなる第1のカーボンナノチューブ群、および、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブからなる第2のカーボンナノチューブ群、を液媒体に溶解乃至分散してなる分散液を膜形成対象物の表面に供給する供給工程と、
前記官能基同士を化学結合させて、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を形成する架橋工程と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【0017】
<8> 供給工程で供給される分散液中の第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが官能基を有し、
架橋工程において、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブと、第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブとが相互に架橋した網目構造を形成することを特徴とする<7>に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【0018】
<9> セパレータの両面に、それぞれ<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ膜に電解液を含浸してなる一対の分極性電極が配され、さらにその外側に一対の集電極が配されてなることを特徴とするキャパシタ。
【0019】
<10> 前記カーボンナノチューブ膜中の第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が小さいカーボンナノチューブ群のカーボンナノチューブの径が、50nm以下であることを特徴とする<9>に記載のキャパシタ。
【発明の効果】
【0020】
単一の径のカーボンナノチューブにより架橋膜を形成すると、厚膜化するに従い膜形成時の体積収縮が外形に及ぶことによるひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念が高くなるところ、<1>にかかる発明は、大小2種類の径のカーボンナノチューブを膜中に存在させることで、小径のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブ本来の機能を発現しつつ、大径のカーボンナノチューブが膜の骨格の如き作用し、膜形成時の体積収縮による外形変形が抑えられ、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0021】
<2>にかかる発明は、カーボンナノチューブ径の大小について適切な隔たりとすることで、それぞれのカーボンナノチューブの役割分担が適切に為され、厚膜化と共に、膜に所望の機能性を付与することができる。
【0022】
<3>にかかる発明は、膜中における大小の径のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ群の存在比を適切な範囲とすることで、それぞれのカーボンナノチューブの役割が適切に発揮され、膜に所望の機能性と高い膜強度とを付与することができる。
【0023】
<4>にかかる発明は、より大径のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するので、当該網目構造が膜全体を形作る骨格の如き作用し、小径のカーボンナノチューブ群が体積収縮しても膜の外形が維持され、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0024】
<5>にかかる発明は、より小径のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するので、当該網目構造により膜の細部を形成する部分の強度が高くなり、大径のカーボンナノチューブが混交している状態の中、小径のカーボンナノチューブ群が体積収縮しても、大径のカーボンナノチューブが骨格の役割を担い小径のカーボンナノチューブがこれら骨格同士を結着するように作用して膜の外形が維持されると推測され、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0025】
<6>にかかる発明は、膜中における大小の径のカーボンナノチューブの双方ともが、相互に架橋した網目構造を構成し、全体として丈夫な骨格が形成されるため、小径のカーボンナノチューブ群が体積収縮しても膜の外形が維持され、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して特に厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0026】
<7>にかかる発明は、いずれかが官能基を有する大小2種類の径のカーボンナノチューブを溶解乃至分散してなる分散液により形成された液膜内部で、前記官能基同士を化学結合させて網目構造を形成するため、架橋工程の際あるいはその後、膜中に大小2種類の径のカーボンナノチューブが存在し、膜形成時の体積収縮による外形変形が抑えられ、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、小径のカーボンナノチューブがカーボンナノチューブ本来の機能を発現し得るカーボンナノチューブ膜でありながら、本発明の構成を有していない場合に比較して厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0027】
<8>にかかる発明は、分散液に含まれる大小いずれの径のカーボンナノチューブについても官能基を有し、架橋工程において、前記官能基同士を化学結合させて網目構造を形成することで、大小の径のカーボンナノチューブの双方ともが、相互に架橋した網目構造を構成し、全体として丈夫な骨格が形成されるため、架橋工程の際あるいはその後、小径のカーボンナノチューブ群が体積収縮しても膜の外形が維持され、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して特に厚膜化を実現することができるという効果を有する。
【0028】
<9>にかかる発明は、本発明のカーボンナノチューブ膜を用いた電子デバイス(具体的には蓄電デバイスである電気二重層キャパシタ)を実現する。電気二重層キャパシタの分極性電極としてカーボンナノチューブ膜を用いているので、カーボンナノチューブ本来の特性である大比表面積および細孔構造均一性から、分極性電極として活性炭を用いた場合に比較して、高容量および高速充放電を可能とする。
【0029】
すなわち、カーボンナノチューブは内壁および外壁を合わせた理論比表面積が非常に大きく、電気二重層キャパシタの分極性電極材料として優れた特性を発揮するものと期待されている。また、従来の活性炭がイオンの出入りが困難なサイズのミクロポア(<2nm)を多く含むのに対し、カーボンナノチューブ膜はメソポア(2〜50nm)を構成し、その細孔構造が均一であるため、活性炭では生ずるイオン篩効果が起こりにくく、電解質イオンの細孔への出入りがスムーズであると推測される。このことから、カーボンナノチューブを分極性電極材料として用いることで、理論上、高速充放電が可能な電気二重層キャパシタを提供できることがわかる。
【0030】
そして、相互に架橋することで網目構造を有するカーボンナノチューブ膜は、成膜するためのバインダーや内部抵抗を下げるための導電材などを必要としないため、キャパシタの電気容量を決める主要因であるカーボンナノチューブの比表面積を損なうことなく最大限に有効利用できるものである。
【0031】
しかも、<9>にかかる発明は、<1>または<2>の発明にかかるカーボンナノチューブ膜を分極性電極として用いているので、その厚膜化を実現することができ、本発明の構成を有していない場合に比較して高容量化(高静電容量化)を図ることができる。
【0032】
<10>にかかる発明は、分極性電極としてのカーボンナノチューブ膜中における大小の径のカーボンナノチューブの内の小径のカーボンナノチューブについて、極めて微細な径であるため、分極性電極の比表面積を大きく取ることができ、本発明の構成を有していない場合に比較して高速充放電並びに高容量化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明のカーボンナノチューブ膜およびその製造方法、並びにそれを用いたキャパシタについて順次詳細に説明する。
[カーボンナノチューブ膜]
本発明のカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブの集合体であり、これらが相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ群と、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブの集合体である第2のカーボンナノチューブ群とが、混交してなることを特徴とするものである。
【0034】
ここで「混交」とは、カーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ群の隙間に、第2のカーボンナノチューブ群のカーボンナノチューブが分散して存在する状態と、第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブと共に、相互に架橋した網目構造を構成する状態の双方を含む概念である。
【0035】
また、「網目構造」とは、複数のカーボンナノチューブが他のカーボンナノチューブと架橋し、結果として全体が網目状のネットワークを形成している状態を指す。ただし、必ずしも全てのカーボンナノチューブが他のカーボンナノチューブと架橋していることが要求されるわけではなく、全体としてネットワークが形成されていればよい。
【0036】
第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が大きいカーボンナノチューブ群におけるカーボンナノチューブ(以下、単に「大径カーボンナノチューブ」と称する場合がある。)と、他方のカーボンナノチューブ群におけるカーボンナノチューブ(以下、単に「小径カーボンナノチューブ」という場合がある。)のいずれかが、網目構造を構成してもよいし、両者が相互に架橋して全体で1つの網目構造を構成してもよい。一方のみが網目構造を構成する場合において、他方のカーボンナノチューブ群は、網目構造の隙間に分散配置された状態で混交されている。
【0037】
(カーボンナノチューブ)
まず、本発明におけるカーボンナノチューブについて説明する。
一般にカーボンナノチューブとは、炭素の6角網目のグラフェンシートが、チューブの軸に平行に管を形成したものを言う。カーボンナノチューブは、さらに分類され、グラフェンシートが1枚の構造のものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、一方、多層のグラフェンシートから構成されているものは多層カーボンナノチューブと呼ばれている。どのような構造のカーボンナノチューブが得られるかは、合成方法や条件によってある程度決定される。
【0038】
本発明に用いられるカーボンナノチューブ(以下、大径小径の別無く表記した場合には、小径カーボンナノチューブおよび大径カーボンナノチューブのいずれをも含むものとする。)は、単層カーボンナノチューブでも、グラフェンシートが二層以上の多層カーボンナノチューブでも構わない。いずれのカーボンナノチューブを用いるか、あるいは双方を混合するかは、採用する径により、形成されるカーボンナノチューブ膜の用途により、あるいはコストを考慮して、適宜、選択すればよい。
【0039】
また、カーボンナノコイル(全体としてスパイラル状をしているコイル型のもの)、カーボンナノビーズ(中心にチューブを有し、これがアモルファスカーボン等からなる球状のビーズを貫通した形状のもの)、カップスタック型カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンやアモルファスカーボンで外周を覆われたカーボンナノチューブ等、厳密に内部が中空のチューブ形状をしていないものも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。なお、本願で言うカーボンナノチューブの径は、ナノコイルにおいては“巻き”の径ではなく、コイルを形成するカーボンナノチューブそのものの径を意味する。また、ナノビーズにおいては、貫通する芯ではなく、もっとも太い部分を径とする。
【0040】
さらに、カーボンナノチューブ中に金属等が内包されている金属内包カーボンナノチューブ、フラーレンまたは金属内包フラーレンがカーボンナノチューブ中に内包されるピーポッドカーボンナノチューブ等、何らかの物質をカーボンナノチューブ中に内包したカーボンナノチューブも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0041】
以上のように、本発明においては、一般的なカーボンナノチューブのほか、その変種や、種々の修飾が為されたカーボンナノチューブ等、いずれの形態のカーボンナノチューブでも問題なく使用することができる。したがって、本発明における「カーボンナノチューブ」には、これらのものが全て、その概念に含まれる。
【0042】
これらカーボンナノチューブの合成は、従来から公知のアーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD法のいずれの方法によっても行うことができ、本発明においては制限されない。これらのうち、高純度なカーボンナノチューブが合成できるとの観点からは、磁場中でのアーク放電法が好ましい。
【0043】
一般にカーボンナノチューブと称されるものは、その径の上限として100nm程度であるが、本発明において特に大径カーボンナノチューブとして用いるものについては、一般的にカーボンファイバーと称される範疇に含まれる100nm〜1000nm程度の径のものを用いても構わない。そのため、本発明における「カーボンナノチューブ」とは、炭素の6角網目のグラフェンシートがチューブの軸に平行に管を形成したものであって、径の上限が1000nmまでの物を称する。ただし、入手容易性等を考慮すると、カーボンナノチューブの径の上限としては、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0044】
一方、一般的にカーボンナノチューブの径の下限としては、その構造から見て0.3nm程度であるが、あまりに細すぎると合成時の収率が低くなる点で好ましくない場合もあるため、1nm以上とすることがより好ましく、3nm以上とすることがさらに好ましい。
【0045】
本発明においては、この範囲内で大径および小径を選択し、2つのカーボンナノチューブの集合体からなる群として、少なくとも一方の群についてはカーボンナノチューブの集合体であり、これらが相互に架橋した網目構造を構成する。網目構造を構成するのは、大小いずれの径のカーボンナノチューブの集合体であっても構わないし、双方とも網目構造を構成していてもよい。
【0046】
大小両径のカーボンナノチューブについて、それぞれの具体的な径は、上記範囲内であれば特に制限は無く、小径カーボンナノチューブと大径カーボンナノチューブのそれぞれに期待する機能性に応じて適宜選択すればよい。例えば、後述するキャパシタ(電気二重層キャパシタ)の分極性電極として本発明のカーボンナノチューブ膜を用いる場合には、高容量を確保するべく、小径カーボンナノチューブの径として、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。一方、キャパシタとして用いた場合の小径カーボンナノチューブの径の下限としては、用いる電解液のイオン径にも依存するが、イオンがスムーズに吸脱着するために、1nm以上が好ましく、2nm以上とすることがさらに好ましい。。
【0047】
単一の径のカーボンナノチューブにより架橋膜を形成すると、厚膜化するに従って膜形成時の体積収縮が外形に及ぶことによるひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念が高くなるが、大小2種類の径のカーボンナノチューブを膜中に存在させることで、小径のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブ本来の機能を発現しつつ、大径のカーボンナノチューブが膜の骨格の如く作用し、膜形成時の体積収縮による外形変形が抑えられ、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減することができる。
【0048】
このような観点からは、大径カーボンナノチューブの径が小径カーボンナノチューブの径の5倍〜100倍の範囲内であることが好ましく、10倍〜50倍の範囲内であることがより好ましく、19倍〜25倍の範囲内であることがさらに好ましい。なお、大小径のカーボンナノチューブの当該径の比を検証する場合においては、それぞれの数平均径を基準に論ずるものとする。実際の測定には、例えばカーボンナノチューブ膜をSEM(走査電子顕微鏡)で観察(例えば×30000)して、一定の視野領域(例えば5cm四方の領域)内の大小両径のカーボンナノチューブの径をそれぞれ実際にカウントする方法により数平均径を求めることができる。
【0049】
大小両径のカーボンナノチューブについて、その存在比としては、特に制限はないが、大径カーボンナノチューブが膜の骨格の如き作用する役割を担って、膜形成時の体積収縮による外形変形を抑制し、ひび割れや膜形成対象物からの脱落の懸念を軽減する観点と、小径カーボンナノチューブによる各種機能を期待する観点からは、大小両径の全カーボンナノチューブ中の大径カーボンナノチューブの存在比が、質量基準で5%〜95%の範囲内であることが好ましく、10%〜90%の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
かかる範囲内で、カーボンナノチューブ膜に求める機能に応じて、適宜大小両径のカーボンナノチューブの存在比を設定すればよい。例えば、キャパシタの分極性電極として本発明のカーボンナノチューブ膜を用いる場合であって、後述する本願実施例1に記載の大小両径のカーボンナノチューブの組み合わせを選んだ場合、大小両径の全カーボンナノチューブ中の大径カーボンナノチューブの存在比が、高容量を確保する観点から、質量基準で50%〜75%の範囲内であることが好ましく、55%〜70%の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
使用しようとするカーボンナノチューブの純度が高く無い場合には、後述する混合液の調製前に、予めカーボンナノチューブを精製して、純度を高めておくことが望ましい(精製工程)。カーボンナノチューブの精製方法に特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。
【0052】
(網目構造)
既述のように、第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、いずれか一方若しくは双方について、カーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成する。この網目構造について以下説明する。
【0053】
当該網目構造は、いわゆるネットワーク構造を構成するようにカーボンナノチューブ相互間を架橋して形成されていれば、如何なる方法で形成されたものであっても構わない。一例として、後述するカーボンナノチューブ膜の製造方法により形成されたものが挙げられる。
【0054】
大径カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群のみが網目構造を形成する場合には、大径カーボンナノチューブ相互間に架橋構造が形成され、小径カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群のみが網目構造を形成する場合には、小径カーボンナノチューブ相互間に架橋構造が形成される。また、両者とも網目構造を形成する場合には、両者混交した状態で大小径のカーボンナノチューブがランダムに架橋した状態になるように相互間に架橋構造が形成される。
【0055】
(カーボンナノチューブ膜の厚み)
本発明のカーボンナノチューブ膜は、厚膜化が可能であるとは言っても、用途に応じて、極薄いものから厚めのものまで、幅広く選択することができる。後述する[カーボンナノチューブ膜の製造方法]において使用する分散液中のカーボンナノチューブの含有量を下げ(単純には、薄めることにより粘度を下げ)、これを薄膜状に塗布すれば極薄い構造体となり、同様にカーボンナノチューブの含有量を上げれば厚めの構造体となる。
【0056】
さらに供給(塗布)を繰返せば、よりいっそう厚膜のカーボンナノチューブ膜を得ることもできる。本発明を適用しない場合は重ね塗りを繰り返すと、上の層が架橋・乾燥工程で体積収縮を起こす際に、先に塗った下の層が引きずられて結局ヒビ割れ剥れてしまう。本発明によれば1回で塗布できる厚さを大きくでき、さらに架橋・乾燥工程において外形の収縮を抑えることができるため、重ね塗りをした場合も、厚膜化に関してより有利となる。
【0057】
[カーボンナノチューブ膜の製造方法]
本発明のカーボンナノチューブ膜の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、供給工程と架橋工程とを含む。
供給工程では、径の異なるカーボンナノチューブの集合体からなる2種のカーボンナノチューブ群であって、一方若しくは双方のカーボンナノチューブに官能基が付加している物を液媒体に溶解乃至分散してなる分散液として用いる。
【0058】
この分散液については、特許文献3において、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブを含む溶液(架橋溶液)として開示されているものと近似している。特許文献3における架橋溶液に対して、それに含まれる「官能基が結合された複数のカーボンナノチューブ」とは径の異なるカーボンナノチューブの集合体からなるカーボンナノチューブ群をさらに別途添加したものが、本発明の製造方法における分散液である。その別途添加するカーボンナノチューブ群については、官能基を有する場合と有しない場合とがある。
【0059】
したがって、本発明の製造方法における分散液についても、特許文献3に開示された内容(例えば、特許文献3の段落番号0071〜0117)がそのまま適用できる。但し、分散液に対するカーボンナノチューブの含有量は後述するように塗布方法に適するように調節する必要がある。
【0060】
すなわち、本発明の製造方法においてカーボンナノチューブの官能基同士を架橋させて網目構造を形成するには、前記分散液中に架橋剤を含ませておき、これにより複数の前記官能基間を架橋する第1の方法と、複数の前記官能基同士を直接化学結合させる第2の方法とが挙げられる。以下、概説する。
【0061】
<分散液の組成>
(第1の方法の場合)
架橋剤を用いて網目構造を形成する第1の方法では、カーボンナノチューブに接続される官能基としては、カーボンナノチューブに化学的に付加させることができ、かつ、何らかの架橋剤により架橋反応を起こし得るものであれば、特に制限されず、如何なる官能基であっても選択することができる。具体的な官能基としては、−COOR、−COX、−MgX、−X(以上、Xはハロゲン)、−OR、−NR12、−NCO、−NCS、−COOH、−OH、−NH2、−SH、−SO3H、−R’CHOH、−CHO、−CN、−COSH、−SR、−SiR’3(以上、R、R1、R2およびR’は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭化水素基である。これらは、好ましくはそれぞれ独立に、−Cn2n-1、−Cn2nまたは−Cn2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。中でも、より好ましくはメチル基またはエチル基である。)等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
官能基の導入量としては、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、官能基の種類、複合材の用途等により異なり、一概には言えない。
【0062】
第1の方法では、架橋剤が必須成分となる。当該架橋剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基と架橋反応を起こすものであればいずれも用いることができる。換言すれば、前記官能基の種類によって、選択し得る架橋剤の種類は、ある程度限定されてくる。また、これらの組み合わせにより、その架橋反応による硬化条件(加熱、紫外線照射、可視光照射、自然硬化等)も、自ずと定まってくる。
【0063】
具体的に好ましい前記架橋剤としては、グリセリンやエチレングリコール等のポリオール(OH基を2以上有する有機化合物の総称)、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤を選択することが好ましく、その場合、前記官能基として、選択された前記架橋剤と架橋反応を起こし得るものを選択する。
【0064】
前記架橋剤としては、グリセリンやエチレングリコール、ブテンジオール、ヘキシンジオール、ヒドロキノンおよびナフタレンジオール等の自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有していない非自己重合性の架橋剤でも、自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有している自己重合性の架橋剤(例えば、アルコキシド)でも構わない。
【0065】
前記分散液において、溶剤は、前記架橋剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。したがって、第1の方法の場合、液体状である架橋剤と必要に応じて添加する溶剤とが、分散液を構成する液媒体となる。
使用可能な溶剤としては、特に制限は無く、用いる架橋剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶剤や水、酸水溶液、アルカリ水溶液等が挙げられる。かかる溶剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよく、特に制限は無い。
【0066】
(第2の方法の場合)
架橋剤によらず、複数の前記官能基同士を直接化学結合させて架橋部位を形成する前記第2の方法では、カーボンナノチューブが有する官能基としては、カーボンナノチューブに化学的に付加させることができ、かつ、何らかの添加剤により、あるいは添加剤無しに官能基同士を反応させ得るものであれば、特に制限されず、如何なる官能基であっても選択することができる。
【0067】
具体的な官能基としては、−COOR、−COX、−MgX、−X(以上、Xはハロゲン)、−OR、−NR12、−NCO、−NCS、−COOH、−OH、−NH2、−SH、−SO3H、−R’CHOH、−CHO、−CN、−COSH、−SR、−SiR’3(以上、R、R1、R2およびR’は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭化水素基である。)等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
官能基同士を化学結合させる反応としては、脱水縮合、置換反応、付加反応、酸化反応が挙げられる。これら各反応別に上記官能基から例を挙げると以下のようになる。縮合反応では−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHOおよび−NH2、置換反応では−NH2、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSO2CH3および−OSO2(C64)CH3、付加反応では−OH、および−NCO、酸化反応では−SHが挙げられる。
また、これらの官能基を一部に含む分子をカーボンナノチューブに結合させ、前記官能基部分で化学結合させることも可能である。
【0069】
官能基同士を化学結合させるに際しては、前記官能基同士の化学結合を生じさせる添加剤を用いることができる。かかる添加剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基同士を反応させるものであればいずれも用いることができる。換言すれば、前記官能基の種類および反応の種類によって、選択し得る添加剤の種類は、ある程度限定されてくる。また、これらの組み合わせにより、その反応による硬化条件(加熱、紫外線照射、可視光照射、自然硬化等)も、自ずと定まってくる。
【0070】
前記官能基同士を化学結合させる反応が脱水縮合である場合には、前記添加剤として縮合剤を添加することができる。縮合剤の具体例としては、酸触媒、脱水縮合剤、たとえば硫酸、N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミド等を挙げることができる。その場合、前記官能基として、選択された縮合剤により官能基同士が反応を起こし得るものを選択する。
また、脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHOおよび−NH2等を挙げることができる。
【0071】
前記官能基同士を化学結合させる反応が置換反応である場合には、前記添加剤として塩基を添加することができる。添加可能な塩基としては、特に制限は無く、ヒドロキシル基の酸性度に応じて任意の塩基を選択すればよい。
塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジンおよびナトリウムエトキシド等を挙げることができる。その場合、前記官能基として、選択された塩基により官能基同士が置換反応を起こし得るものを選択する。
また、置換反応で用いる前記官能基としては、−NH2、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSO2CH3および−OSO2(C64)CH3等を挙げることができる。
【0072】
前記官能基同士を化学結合させる反応が付加反応である場合、必ずしも添加剤は必要としない。このとき前記官能基としては、−OHおよび−NCO等を挙げることができる。
前記官能基同士を化学結合させる反応が酸化反応である場合も、必ずしも添加剤は必要としないが、酸化反応促進剤を添加することができる。酸化反応促進剤の具体例としては、ヨウ素を挙げることができる。また、このとき前記官能基としては、−SHを挙げることができる。
【0073】
既述の好ましい前記官能基として例示された群より、それぞれ少なくとも2つの官能基が相互に反応を起こし得る組み合わせとなるように選択して、カーボンナノチューブに付加させることが好ましい。
【0074】
前記分散液における前記カーボンナノチューブの含有量の考え方としては、第1の方法の場合と基本的に同様である。
前記分散液における前記添加剤の含有量としては、前記添加剤の種類(自己重合性か非自己重合性かの別を含む)は勿論、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、溶剤やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えない。特に、グリセリンやエチレングリコールなどは、それ自身粘度があまり高くなく、溶剤の特性を兼ねさせることが可能であるため、過剰に添加することも可能である。
【0075】
前記分散液において、溶剤は、官能基結合用の前記添加剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。したがって、第2の方法の場合、液体状である添加剤と必要に応じて添加する溶剤とが、分散液を構成する液媒体となる。使用可能な溶剤としては、特に制限は無く、用いる添加剤の種類に応じて選択すればよい。具体的な溶剤の種類および添加量としては、第1の方法で述べた溶剤の場合と同様である。
【0076】
(第1の方法および第2の方法共通)
前記分散媒には、以上説明した官能基を有するカーボンナノチューブの他、それとは径の異なるカーボンナノチューブの集合体であるカーボンナノチューブ群を添加する。このとき添加するカーボンナノチューブ群は、官能基を有していてもいなくてもよく、製造しようとするカーボンナノチューブ膜の構造に応じて選択する。別途添加する径の異なるカーボンナノチューブとして、官能基を有するものを添加する場合には、径が異なることの他はいずれも同様の官能基が結合されたカーボンナノチューブを用い、かつ必要に応じて対応する架橋剤や添加剤を添加すればよい。
【0077】
大小両径のカーボンナノチューブ共に官能基を有するものを用いる場合には、カーボンナノチューブへの官能基の導入を、大小両径のカーボンナノチューブの存在下で同時に行うことができる。
大小両径のカーボンナノチューブの配合割合としては、所望とするカーボンナノチューブ膜中の両カーボンナノチューブの存在比に合わせればよい。
【0078】
前記分散液におけるカーボンナノチューブの含有量(カーボンナノチューブ濃度)としては、大小径のカーボンナノチューブの存在(配合)比率、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、架橋剤もしくは官能基同士の結合のための添加剤の種類・量、溶剤やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えない。
【0079】
さらに分散液の塗布方法によっても最適な濃度は異なってくる。最も一般的な塗布法であるスピンコート法や浸漬塗布法、スプレー塗布法などでは比較的低濃度の分散液が望ましい。この場合の具体的なカーボンナノチューブの割合としては、既述の如く一概には言えないが、官能基の質量は含めないで、分散液全量に対し大小径のカーボンナノチューブの総量で0.01〜10g/l程度の範囲から選択され、0.1〜5g/l程度の範囲が好ましく、0.5〜1.5g/l程度の範囲がより好ましい。
【0080】
また、スキージ塗布法、スクリーン印刷法、ワイヤーバーコート法などは比較的高濃度の分散液が適しており、この場合の具体的なカーボンナノチューブの割合としては、大小径のカーボンナノチューブの総量で10〜500g/l程度の範囲から選択され、20〜200g/l程度の範囲が好ましく、40〜150g/l程度の範囲がより好ましい。
【0081】
(その他の添加剤)
前記架橋溶液(第1の方法と第2の方法の双方を含む)においては、粘度調整剤、分散剤、架橋促進剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
粘度調整剤は、前記架橋剤もしくは官能基結合用の添加剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。使用可能な粘度調整剤としては、特に制限は無く、用いる架橋剤や官能基結合用の添加剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、THF等が挙げられる。
【0082】
これら粘度調整剤の中には、その添加量によっては溶剤としての機能を有するものがあるが、両者を明確に区別することに意義は無い。かかる粘度調整剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよく、特に制限は無い。
【0083】
分散剤は、前記架橋溶液中でのカーボンナノチューブないし架橋剤もしくは官能基結合用の前記添加剤の分散安定性を保持するために添加するものであり、従来公知の各種界面活性剤、水溶性有機溶剤、水、酸水溶液やアルカリ水溶液等が使用できる。ただし、前記架橋溶液の成分は、それ自体分散安定性が高いため、分散剤は必ずしも必要ではない。また、最終的に得られる本発明のカーボンナノチューブ膜の用途によっては、分散剤等の不純物が含まれないことが望まれる場合もあり、その場合には勿論、分散剤は、添加しないか、極力少ない量のみしか添加しない。
【0084】
<分散液の調製方法>
次に、本発明の製造方法に用いる前記分散液の調製方法について説明する。
前記分散液は、少なくとも一方が官能基を有するカーボンナノチューブの集合体である大小径のカーボンナノチューブ群に、前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤、あるいは、官能基同士を化学結合させる添加剤を必要に応じて混合し攪拌することにより、本発明の製造方法に用いる前記分散液が調製される。
【0085】
当該分散液中において、カーボンナノチューブは基本的に分散状態となるが、官能基を有するカーボンナノチューブについては一部溶解したとみなし得る状態となる。なお、以降の説明においては、この分散と溶解とを明確に区別せず、「分散」と表現することにする。
【0086】
官能基を有するカーボンナノチューブについてはこれを出発原料とすれば、上記操作により前記分散液が調製されるが、通常のカーボンナノチューブそのものを出発原料とする場合には、上記操作に先立ちカーボンナノチューブに官能基を導入する工程を含んでもよい。
以下、カーボンナノチューブに官能基を導入する工程(付加工程)から順に、前記分散液の調製方法について説明する。
【0087】
(付加工程)
付加工程は、カーボンナノチューブに所望の官能基を導入する工程である。大小径のいずれかのカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群にのみ官能基を導入する場合には、当該付加工程は、かかるカーボンナノチューブ群に対してのみ施される操作となり、大小両径のカーボンナノチューブ群に対していずれも官能基を導入する場合には、所望の配合割合となるように両カーボンナノチューブ群を予め混合し、これに対して当該付加工程の操作を施せばよい。勿論、両者別々に当該付加工程の操作を施しても構わない。
【0088】
官能基の種類によって導入方法が異なり、一概には言えない。直接的に所望の官能基を付加させてもよいが、一旦、付加が容易な官能基を導入した上で、その官能基ないしその一部を置換したり、その官能基に他の官能基を付加させたり等の操作を行い、目的の官能基としても構わない。
【0089】
また、カーボンナノチューブにメカノケミカルな力を与えて、カーボンナノチューブ表面のグラフェンシートをごく一部破壊ないし変性させて、そこに各種官能基を導入する方法もある。
さらに、製造時点から表面に欠陥を多く有する、カップスタック型のカーボンナノチューブや気相成長法により生成されるカーボンナノチューブを用いると、官能基を比較的容易に導入できる。
【0090】
付加工程の操作としては、特に制限は無く、公知のあらゆる方法を用いて構わない。その他、特許文献4に各種方法が記載されており、目的に応じて、本発明においても利用することができる。
以下、前記官能基として、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−Cn2n-1、−Cn2nまたは−Cn2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)を導入する方法を例に挙げて説明する。
カーボンナノチューブに−COOR(Rは上記同様)を導入するには、一旦、カーボンナノチューブにカルボキシル基を付加し(i)、さらにこれをエステル化(ii)すればよい。
【0091】
(i)カルボキシル基の付加
カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入するには、酸化作用を有する酸とともに還流すればよい。この操作は比較的容易であり、しかも反応性に富むカルボキシル基を付加することができるため、好ましい。当該操作について、簡単に説明する。
【0092】
酸化作用を有する酸としては、濃硝酸、過酸化水素水、硫酸と硝酸の混合液、王水等が挙げられる。特に濃硝酸を用いる場合には、その濃度としては、5質量%以上から選択される。還流は、常法にて行えばよい。例えば、還流温度としては、例えば濃硝酸では120〜130℃程度であり、還流の時間としては、30分〜20時間の範囲程度である。
【0093】
還流の後の反応液には、カルボキシル基が付加したカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブカルボン酸)が生成しており、室温まで冷却し、必要に応じて分離操作ないし洗浄を行うことで、目的のカーボンナノチューブカルボン酸が得られる。
【0094】
(ii)エステル化
得られたカーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールを添加し脱水してエステル化することで、目的の官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)を導入することができる。
【0095】
前記エステル化に用いるアルコールは、上記官能基の式中におけるRに応じて決まる。すなわち、RがCH3であればメタノールであるし、RがC25であればエタノールである。
一般にエステル化には触媒が用いられるが、本発明においても従来公知の触媒、例えば、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸等を用いることができる。
【0096】
前記エステル化は、カーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールと触媒とを添加し、適当な温度で適当な時間還流すればよい。このときの温度条件および時間条件は、触媒の種類、アルコールの種類等により異なり一概には言えないが、還流温度としては、例えばメタノールでは60〜70℃程度であり、還流の時間としては、1〜20時間の範囲程度である。
【0097】
エステル化の後の反応液から反応物を分離し、必要に応じて洗浄することで、官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)が付加したカーボンナノチューブを得ることができる。
【0098】
(混合工程)
混合工程は、得られた官能基を有するカーボンナノチューブによるカーボンナノチューブ群に、それとは径の異なるカーボンナノチューブ群や、前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤あるいは官能基結合用の添加剤を必要に応じて混合し、架橋溶液を調製する工程である。付加工程で、大小両径のカーボンナノチューブ群を予め混合し、これに対して官能基を導入した場合には、別途官能基を有さないカーボンナノチューブを添加する必要は無い。
【0099】
混合工程においては、2種類のカーボンナノチューブ群、架橋剤あるいは官能基結合用の添加剤、および溶剤のほか、(その他の添加剤)の項で既に説明したその他の添加剤等を必要に応じて混合する。そして、好ましくは、塗布適性を考慮して各種配合割合を調整することで、基体への供給(塗布)直前の架橋溶液を調製する。
【0100】
混合に際しては、単にスパチュラで攪拌したり、乳鉢またはサンドミルやビーズミルなどの各種湿式分散機、攪拌羽式の攪拌機、マグネチックスターラーあるいは攪拌ポンプで攪拌するのみでも構わないし、より均一にカーボンナノチューブを分散させて、保存安定性を高めたり、カーボンナノチューブの架橋による網目構造を全体にくまなく張り巡らせることを企図して、超音波分散機やホモジナイザーなどで強力に分散させても構わない。
以上のようにして、本発明の製造方法に供する分散液が調製される。
【0101】
<カーボンナノチューブ膜製造の各工程>
以上のようにして得られた分散液を用いて、既述の通り供給工程と架橋工程とを含む本発明の製造方法の操作を施すことにより、本発明のカーボンナノチューブ膜を製造することができる。
【0102】
本発明の製造方法における各工程の操作についても、特許文献3に開示された内容(例えば、特許文献3の段落番号0141〜0146)がそのまま適用できる。
以下、各工程に分けて概説する。
【0103】
<供給工程>
供給工程では、上記のようにして調製した分散液を膜形成対象物の表面に供給する。なお、供給工程で前記分散液は、前記膜形成対象物の表面の全面に供給しなければならないわけではない。
本工程において供給は、簡便には、それを前記膜形成対象物表面に塗布すればよい。
【0104】
当該塗布方法に制限はなく、単に液滴を垂らしたり、それをスキージで塗り広げたりする方法から、一般的な塗布方法まで、幅広くいずれの方法も採用することができる。一般的な塗布方法としては、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、キャストコート法、ロールコート法、刷毛塗り法、浸漬塗布法、スプレー塗布法、カーテンコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0105】
<架橋工程>
架橋工程では、官能基を有するカーボンナノチューブの当該官能基同士を化学結合させて、カーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を形成する。官能基を有するのが大小径のカーボンナノチューブ群の一方であれば、当該カーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブ同士が、大小径のカーボンナノチューブ群の双方とも官能基を有するのであれば、それら全てのカーボンナノチューブ同士が、相互に架橋して網目構造を形成する。
【0106】
当該架橋工程の操作によりカーボンナノチューブの層に液媒体が残存する場合には、これを乾燥させることによりカーボンナノチューブ膜が完成する。当該架橋工程における化学結合のための操作にもよるが、例えば加熱硬化させる場合には、そのまま加熱を続けることにより液媒体を揮発させて乾燥すればよい。
なお、架橋工程で前記分散液を硬化して、カーボンナノチューブ膜を形成すべき領域は、所望の領域を含んでさえいればよく、前記膜形成対象物の表面に供給された前記分散液を全て硬化しなければならないわけではない。
【0107】
架橋工程における操作は、前記官能基と前記架橋剤との組み合わせ(前記第1の方法の場合)、前記官能基の種類乃至それと官能基結合用の前記添加剤との組み合わせ(前記第2の方法の場合)に応じて、自ずと決まってくる。例えば、熱硬化性の組み合わせであれば、各種ヒータ等により加熱すればよいし、紫外線硬化性の組み合わせであれば、紫外線ランプで照射したり、日光下に放置しておけばよい。勿論、自然硬化性の組み合わせであれば、そのまま放置しておけば十分であり、この「放置」も本発明における架橋工程で行われ得るひとつの操作と解される。
【0108】
例えば、官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。)が付加したカーボンナノチューブと、ポリオール(グリセリン、エチレングリコール等)との組み合わせの場合には、加熱による硬化(エステル交換反応によるポリエステル化)が行われる。加熱により、エステル化したカーボンナノチューブカルボン酸の−COORと、ポリオールのR’−OH(R’は、置換または未置換の炭化水素基である。)とがエステル交換反応する。そして、かかる反応が複数多元的に進行し、カーボンナノチューブが架橋していき、最終的にカーボンナノチューブが相互に接続してネットワーク状となったカーボンナノチューブ膜が形成される。カーボンナノチューブ相互間に架橋構造を有しているため、全体として強固な構造体を形成しうる。
【0109】
[キャパシタ]
本発明のカーボンナノチューブ膜の応用例の1つである本発明のキャパシタについて説明する。本発明のキャパシタは、いわゆる電気二重層キャパシタであって、その構成部材である分極性電極に上記説明した本発明のカーボンナノチューブ膜を用いたものである。
【0110】
図1は、本発明のキャパシタの例示的一態様である実施形態のキャパシタを示す断面図である。図1に示されるように、本実施形態のキャパシタ10は、セパレータ(分離層)2の両面に、一対の分極性電極4a,4bが配され、さらにその外側に一対の集電極6a,6bが配されてなり、分極性電極4a,4bとして上記説明した本発明のカーボンナノチューブ膜に電解液を含浸したものを用いている。
【0111】
カーボンナノチューブ膜は、既述のようにして形成されるが、その際集電極6a,6bを膜形成対象物とし、別個にカーボンナノチューブ膜を形成して一対の分極性電極4a,4bを作製した上で、これをセパレータ2を介して貼り合せれば本実施形態のキャパシタ10を得ることができる。
【0112】
カーボンナノチューブ膜の厚みに特に制限は無いが、高容量化を実現するにはある程度の厚みがあることが望まれ、5μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。一方、カーボンナノチューブ膜の厚みの上限としては、ひび割れや剥がれ防止の観点より、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
【0113】
さらに、カーボンナノチューブ膜が同じ厚さであっても、比表面積が大きいことが高容量化には重要となる。すなわち電解液イオンが吸着できる面積が広いことが重要であり、そのためカーボンナノチューブの径は小さい方が有利である。カーボンナノチューブの径の下限としては、その構造から見て0.3nm程度であるが、電解液のイオンがスムーズに吸脱着するためには、用いるイオン径にも依存するが2nm以上が好ましい。またカーボンナノチューブの径の上限としては、大きな比表面積を得るために50nm以下が好ましい。
【0114】
セパレータ2には、それを介する両電極の電気的な接触を防ぎつつ、イオンの流通は妨げないという機能が求められ、具体的には、紙製セパレータ、ガラス繊維セパレータ、樹脂製セパレータ(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)など)、不織布等の微多孔性フィルムが用いられる。
集電極6a,6bは、各種導電性材料が用いられ、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、白金、ステンレス等の各種金属や導電性樹脂が挙げられ、これらの板状体、薄膜、箔を用いることができる。
【0115】
カーボンナノチューブ膜に含浸させる電解液は、分極性電極表面に吸着して電気二重層を形成するイオンを含む液体を指し、一般的に電気二重層キャパシタの電解液として用いられる材料を用いることができる。当該電解液としては、具体的には、硫酸(H2SO4)、水酸化カリウム(KOH)等の水系電解液や、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA)、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEMA)等をプロピレンカーボネートなどの溶媒と混合させた有機系電解液を挙げることができる。また、常温溶融塩(常温で液体の塩)であるイオン性液体、具体的にはブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMI−BF4)、プロピルピリジニウムテトラフルオロボレート(PP−BF4)なども挙げることができる。
【0116】
キャパシタの基本構成は以上の通りであるが、外気や水分の浸入を防止するため、キャパシタとしての自立性を確保するため、あるいは電解液の漏洩乃至揮発を防止するために、キャパシタ全体をラミネートフィルム包材に封入したり、アルミニウム製ケーシングなどの何らかの密閉容器に封入したり、あるいは樹脂材料で周囲を封印したり等、外装材によって保護して用いるのが一般的である。また、集電極6a,6bを何らかの基板表面に薄膜状に形成して、これを用いてキャパシタ10を作製し、基板の周囲をシールすることでキャパシタ10を封印することとしても構わない。キャパシタのセル構造は、その使用用途に合わせて適宜選択されるものであり、代表的には、高電圧としては積層型、小型用としてはコイン型、大容量用としては基本構成を巻回して作製する円筒型、低抵抗・軽量タイプとしては角型(ラミネート)などがそれぞれ挙げられる。
【0117】
以上、本発明のカーボンナノチューブ膜およびその製造方法、並びにそれを用いたキャパシタについて説明したが、本発明はこれら具体例に限定されるものではなく、従来公知の知見に従い種々の変更や改良を加えることができる。勿論、本発明の構成を具備する限り、各種変更や改良を加えても本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。
【実施例】
【0118】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。勿論、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(1−1:小径カーボンナノチューブへの官能基導入)
多層カーボンナノチューブ粉末500mg(アルドリッチ社製、純度:90%、径5〜30nm(数平均径8nm)、長さ0.5〜200μm)と濃硝酸(60質量%水溶液、関東化学製)50mlとを120℃の条件で1時間還流させて、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加した。この反応スキームを図2に示す。なお、図2中カーボンナノチューブ(CNT)の部分は、2本の平行線で表している(反応スキームに関する他の図に関しても同様)。
【0119】
反応液の液温を室温に戻したのち、5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した。回収した沈殿物を純水10mlに分散させて、再び5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した(以上で、洗浄操作1回)。この洗浄操作をさらに5回繰り返し、最後に沈殿物を回収した。
【0120】
回収された沈殿物について、赤外吸収スペクトルを測定した。また、比較のため、用いた多層カーボンナノチューブ原料自体の赤外吸収スペクトルも測定した。両スペクトルを比較すると、多層カーボンナノチューブ原料自体においては観測されていない、カルボン酸に特徴的な1735cm-1の吸収が、前記沈殿物の方には観測された。このことから、硝酸との反応によって、カーボンナノチューブにカルボキシル基が導入されたことがわかった。すなわち、沈殿物がカーボンナノチューブカルボン酸であることが確認された。
【0121】
また、回収された沈殿物を中性の純水に添加してみると、分散性が良好であることが確認された。この結果は、親水性のカルボキシル基がカーボンナノチューブに導入されたという、赤外吸収スペクトルの結果を支持する。
このようにして得られたカーボンナノチューブカルボン酸490mgを、メタノール(和光純薬製)50mlに加えた後、濃硫酸(98質量%、和光純薬製)2mlを加えて、65℃の条件で4時間還流させて、メチルエステル化した。以上の反応スキームを図3に示す。
【0122】
反応液の温度を室温に戻したのち、ろ過して沈殿物を水洗した後回収した。回収された沈殿物について、赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、エステルに特徴的な1735cm-1および1000〜1300cm-1の領域における吸収が観測されたことから、カーボンナノチューブカルボン酸がエステル化されたことが確認された。このようにしてメチルエステル化カーボンナノチューブAを得た。
【0123】
(1−2:大径カーボンナノチューブへの官能基導入)
径の大きい多層カーボンナノチューブについても、上記と同様に官能基を導入した。具体的には、用いたカーボンナノチューブを、多層カーボンナノチューブ粉末(MTR社製:純度90%、径150〜300nm(数平均径200nm)、長さ5〜200μm)としたこと以外は、(1−1:小径カーボンナノチューブへの官能基導入)と同様にして、メチルエステル化カーボンナノチューブBを得た。
【0124】
(2:分散液の調製)
以上のようにして作製したメチルエステル化カーボンナノチューブAを8mgと、メチルエステル化カーボンナノチューブBを8mgと、グリセリン0.2mlとを乳鉢で混合して、ペースト状の官能化カーボンナノチューブ分散液J1を調製した。
【0125】
(カーボンナノチューブ膜の形成)
得られた官能化カーボンナノチューブ分散液J1を、2枚のアルミニウム箔集電極(幅10mm、長さ20mm、厚さ30μm)表面にそれぞれ、スキージを用いて0.5mmの厚さに塗布した。
【0126】
更に、塗布された官能化カーボンナノチューブ分散液J1の液膜を、アルミニウム箔集電極とともに180℃で2時間加熱することにより、グリセリンとメチルエステル化カーボンナノチューブAおよびBの−COOCH3基とを架橋反応させた。この反応スキームを図4に示す。
【0127】
同時に反応に携わらなかったグリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブ膜から成る分極性電極(電解液を含まない状態)を形成した。ここで、得られたカーボンナノチューブ膜の膜厚および膜構造を調べるため、同様にして分極性電極を作製し、アルミニウム箔集電極からカーボンナノチューブ膜を剥がして、SEM(走査型電子顕微鏡)によりその断面を観察した。カーボンナノチューブ膜断面のSEM観察写真(拡大倍率×150)を図5に示す。図5のSEM写真より、カーボンナノチューブ膜の厚さは67μmであった。
また、その拡大写真を図6(拡大倍率×5000)および図7(拡大倍率×30000)に示す。大径カーボンナノチューブの網目構造が構成する空間を埋めるように小径カーボンナノチューブが微細な網目構造を構成していることがわかる。
【0128】
(3:キャパシタの組立)
以上のようにして得られた、アルミニウム箔集電極表面に分極性電極としてのカーボンナノチューブ膜が形成された物2枚を、真空下280℃で2時間乾燥した。
【0129】
さらに露点−55℃に保たれたグローブボックス内で、これら2枚をカーボンナノチューブ膜が内側になるように配置し、紙製セパレータ(ニッポン高度紙社製、TF40−35)を介して重ねた。これをラミネートフィルム包材に挿入し、電解液(BMI−BF4:1−Buthyl−3−methylimidazolium tetrafluoroborate)を0.2ml注入した後、ヒートシール機で周囲のフィルムを溶着し、電気二重層キャパシタを作製した。
【0130】
(4−1:充放電測定)
得られたキャパシタを0Vから2.5Vまで充放電して特性を評価した。充電および放電電流は10mAとした。その結果、セル(10mm×20mm=2cm2)当たりの容量(静電容量)は49mFであった。
【0131】
(4−2:厚膜化試験)
(2:分散液の調製)の項において調製した官能化カーボンナノチューブ分散液J1を、スキージ(ギャップ:1000μm)を用いて、傾斜させた基体上(傾斜角0.76°)へ塗布することで、膜厚が徐々に増加するようにスライドガラス(25mm×75mm×1mm)表面に液膜を形成した。液膜の厚みは、0〜1000μmの範囲(乾燥膜厚:0〜300μmの範囲)で漸次変化させた。
【0132】
得られた液膜をスライドガラスとともに180℃で2時間加熱することにより、グリセリンとメチルエステル化カーボンナノチューブAおよびBの−COOCH3基とを架橋反応させ、かつ乾燥させた。
得られたカーボンナノチューブ膜において、ひび割れが生じている箇所のうち最も膜厚の薄い部位の膜厚を計測した。その結果92μmであった。
【0133】
<実施例2〜3および比較例1〜2>
(1−2:大径カーボンナノチューブへの官能基導入)の工程までは、実施例1と同様にしてメチルエステル化カーボンナノチューブAおよびBを得た。
(2:分散液の調製)の項においては、下記表1に示す組成でそれぞれの官能化カーボンナノチューブ分散液を調製した。
【0134】
【表1】

【0135】
続いて、それぞれの官能化カーボンナノチューブ分散液を用いて、実施例1における(カーボンナノチューブ膜の形成)と同様にしてカーボンナノチューブ膜を形成し、(3:キャパシタの組立)と同様にしてキャパシタを組立て、(4−1:充放電測定)と同様にしてセル当たりの容量を測定した。結果は上記表1に示す通りである。
また、それぞれの官能化カーボンナノチューブ分散液を用いて、実施例1における(4−2:厚膜化試験)と同様にして厚膜化試験を実施した。結果は上記表1に示す通りである。
【0136】
実施例1を含めて、厚膜化試験の結果を図8のグラフに示す。図8のグラフにおいて、横軸は大径カーボンナノチューブの存在比(質量%)、縦軸はカーボンナノチューブ膜の厚さ(μm)であり、厚膜化試験の結果を黒三角印でプロットした上で、それらプロット点を通る曲線を引いている。また、キャパシタの組立に用いたカーボンナノチューブ膜の厚さ(ひび割れを生じていないもの)についても、黒丸印でプロットしている。
なお、比較例2については、この厚膜化試験の条件の範囲内では膜にひび割れは生じなかった。
【0137】
実施例1を含めて、キャパシタのセル当たりにおける容量の測定結果を図9のグラフに示す。図9のグラフにおいて、横軸はカーボンナノチューブ膜(分極性電極)の厚さ(μm)、縦軸はセル当たりの容量(mF)であり、測定結果を黒三角印でプロットした上で、それらプロット点を通る曲線を引いている。
【0138】
<実施例4>
実施例1において、(1―2:大径カーボンナノチューブへの官能基導入)の工程の操作を行わず、(2:分散液の調製)の操作において、代わりに官能基を導入していない多層カーボンナノチューブを用いたこと以外は、実施例1と同様にして(2:分散液の調製)までの操作を行った。
すなわち、(2:分散液の調製)以降の操作は、以下に示す通りである。
【0139】
実施例1と同様にして調製したメチルエステル化カーボンナノチューブAを8mgと、多層カーボンナノチューブ粉末(MTR社製:純度90%、径150〜300nm、(数平均径200nm)、長さ5〜200μm)を8mgと、グリセリン0.2mlとを乳鉢で混合して、ペースト状の官能化カーボンナノチューブ分散液J4を調製した。
【0140】
得られた官能化カーボンナノチューブ分散液J4を用いて、実施例1の(カーボンナノチューブ膜の形成)と同様の操作でカーボンナノチューブ膜を形成した。形成されたカーボンナノチューブ膜の膜厚は、160μmであった。
次いで、実施例1の(3:キャパシタの組立)と同様の操作でキャパシタを作製し、さらに実施例1の(4−1:充放電測定)と同様の操作でセル当たりの容量を測定した。その結果、セル容量は54mFであった。
【0141】
<実施例5>
実施例1において、(1―1:小径カーボンナノチューブへの官能基導入)の工程の操作を行わず、(2:分散液の調製)の操作において、代わりに官能基を導入していない多層カーボンナノチューブを用いたこと以外は、実施例1と同様にして(2:分散液の調製)までの操作を行った。
すなわち、(2:分散液の調製)の操作は、以下に示す通りである。
【0142】
多層カーボンナノチューブ粉末(アルドリッチ社製:純度90%、数平均径8nm、平均長さ0.5〜200μm)を8mgと、実施例1で調製したメチルエステル化カーボンナノチューブBを8mgと、グリセリン0.2mlとを乳鉢で混合して、ペースト状の官能化カーボンナノチューブ分散液J5を調製した。
【0143】
得られた官能化カーボンナノチューブ分散液J5を用いて、実施例1の(カーボンナノチューブ膜の形成)と同様の操作でカーボンナノチューブ膜を形成した。形成されたカーボンナノチューブ膜の膜厚は、120μmであった。
次いで、実施例1の(3:キャパシタの組立)と同様の操作でキャパシタを作製し、さらに実施例1の(4−1:充放電測定)と同様の操作でセル当たりの容量を測定した。その結果、セル容量は49mFであった。
【0144】
<実施例6>
実施例1において、(1−2:大径カーボンナノチューブへの官能基導入)の工程までは、実施例1と同様にしてメチルエステル化カーボンナノチューブAおよびBを得た。
(2:分散液の調製)以降の操作は、以下に示す通りである。
【0145】
実施例1と同様にして調製したメチルエステル化カーボンナノチューブAを1mgと、同様にメチルエステル化カーボンナノチューブBを9mgと、グリセリン0.1mlとを乳鉢で混合して、ペースト状の官能化カーボンナノチューブ分散液J6を調製した。
【0146】
得られた官能化カーボンナノチューブ分散液J6を用いて、実施例1の(カーボンナノチューブ膜の形成)と同様の操作でカーボンナノチューブ膜を形成した。形成されたカーボンナノチューブ膜の膜厚は、240μmであった。
次いで、実施例1の(3:キャパシタの組立)と同様の操作でキャパシタを作製し、さらに実施例1の(4−1:充放電測定)と同様の操作でセル当たりの容量を測定した。その結果、セル容量は34mFであった。
【0147】
また、得られたカーボンナノチューブ膜断面のSEM観察写真(拡大倍率×30000)を図10に示す。小径カーボンナノチューブが大径カーボンナノチューブ相互の接点に絡むように存在する部分が多く認められ、膜強度の向上に寄与することが推測される。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明のカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブ本来の機能を損なわずに厚膜化が求められる、各種電気・電子分野や機械分野、物理分野、化学分野、生物分野その他の科学分野における素子・部品・部材・材料等として、様々な利用可能性を秘めた物であり、その有用性は計り知れない。具体的には、厚膜化によって電波吸収効率の高い電波吸収体や、導電性の高い抵抗素子の実現が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】本発明のキャパシタの例示的一態様である実施形態のキャパシタを示す断面図である。
【図2】実施例1中の(小径カーボンナノチューブへの官能基導入)におけるカーボンナノチューブカルボン酸の合成の反応スキームである。
【図3】実施例1中の(小径カーボンナノチューブへの官能基導入)におけるエステル化の反応スキームである。
【図4】実施例1中の(小径カーボンナノチューブへの官能基導入)におけるエステル交換反応による架橋の反応スキームである。
【図5】実施例1で得られたカーボンナノチューブ膜断面の走査顕微鏡観察写真(拡大倍率×150)である。
【図6】実施例1で得られたカーボンナノチューブ膜断面の走査顕微鏡観察写真(拡大倍率×5000)である。
【図7】実施例1で得られたカーボンナノチューブ膜断面の走査顕微鏡観察写真(拡大倍率×30000)である。
【図8】実施例および比較例における厚膜化試験の結果を示すグラフであり、横軸は大径カーボンナノチューブの存在比(質量%)、縦軸はカーボンナノチューブ膜の厚さ(μm)である。
【図9】実施例および比較例におけるキャパシタのセル当たりの容量の測定結果を示すグラフであり、横軸はカーボンナノチューブ膜(分極性電極)の厚さ(μm)、縦軸はセル当たりの容量(mF)である。
【図10】実施例6で得られたカーボンナノチューブ膜断面の走査顕微鏡観察写真(拡大倍率×30000)である。
【符号の説明】
【0150】
2:セパレータ、 4a,4b:分極性電極、 6a,6b:集電極、 10:キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの集合体であり、これらが相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ群と、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブの集合体である第2のカーボンナノチューブ群とが、混交してなることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【請求項2】
第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が大きいカーボンナノチューブ群における当該径が、他方のカーボンナノチューブ群におけるカーボンナノチューブの径の5〜100倍であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項3】
第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が大きいカーボンナノチューブ群の存在比が、全カーボンナノチューブ量に対して、質量基準で5%〜95%の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項4】
第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径が、第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項5】
第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径が、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブの径よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項6】
第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブと共に、相互に架橋した網目構造を構成することを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項7】
少なくとも、官能基を有するカーボンナノチューブからなる第1のカーボンナノチューブ群、および、前記カーボンナノチューブとは径の異なるカーボンナノチューブからなる第2のカーボンナノチューブ群、を液媒体に溶解乃至分散してなる分散液を膜形成対象物の表面に供給する供給工程と、
前記官能基同士を化学結合させて、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を形成する架橋工程と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項8】
供給工程で供給される分散液中の第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブが官能基を有し、
架橋工程において、第1のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブと、第2のカーボンナノチューブ群に含まれるカーボンナノチューブとが相互に架橋した網目構造を形成することを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項9】
セパレータの両面に、それぞれ請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ膜に電解液を含浸してなる一対の分極性電極が配され、さらにその外側に一対の集電極が配されてなることを特徴とするキャパシタ。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ膜中の第1のカーボンナノチューブ群および第2のカーボンナノチューブ群の内、含まれるカーボンナノチューブの径が小さいカーボンナノチューブ群のカーボンナノチューブの径が、50nm以下であることを特徴とする請求項9に記載のキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−44820(P2008−44820A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222550(P2006−222550)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】