説明

カーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物およびその製造方法

【課題】樹脂にカーボンナノチューブ配合するに際して、加工性、飛散性やハンドリング性等の作業性・ポリマーマトリックスとの濡れ性や分散性、導電性、機械的物性を著しく向上できるマスターバッチとして使用可能な、カーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物を提供する。
【解決手段】ゴム100重量部に対して、100〜1500重量部のカーボンナノチューブが配合されており、かつ、カーボンナノチューブが前記ゴムでコーティングされていることを特徴とするカーボンナノチューブ高配合ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下CNTと記す)高配合ゴム粒状物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTは直径が数nm〜約500nmで、長さが10nm〜数10μm程度でアスペクト比が大きく、チューブ状構造の炭素の結晶である。その種類は多岐にわたり、単層構造を有するシングルウォールカーボンナノチューブ、多層構造を有するマルチウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブの範疇に入る二層のダブルウォールカーボンナノチューブなどがあり、また、その両端が封鎖されているものから、片末端のみが封鎖されているもの、両末端とも開いているものがあり、また、その丸め方の構造にもアームチェアー型等いくつか種類がある。CNTの製造方法もアーク放電型、触媒気相製造法、レーザーアブレーション法やその他の方法があり、それぞれ一長一短がある。
また、CNTは次世代材料として注目を浴びており、帯電防止剤や導電性付与材としての使用はもちろん、半導体、燃料電池電極、ディスプレーの陰極線等に用途開発されている。
【0003】
一般に、種々の合成樹脂(以下樹脂と略す)や各種ゴムにCNTを配合して、樹脂やゴムに電気伝導性や高強度、高弾性、熱伝導性等を付与することが知られている。
ところが、CNTは嵩密度が1〜5g/100ccと非常に低く、多量の空気を巻き込んでいるため飛散性が高い。製造業者においては、飛散による環境汚染に対する取り扱いの困難性、空送時等の貯蔵タンク内でのブリッジの発生、嵩密度の低さゆえ工程内での輸送時間および梱包時の充填時間が長い等安全上、作業上の多くの課題を抱えている。一方、使用する顧客においては、運搬時および樹脂や液体ポリマーマトリックスへの配合・混合・混練時における取り扱いにおいて定量性を確保することは困難である。さらに、CNTのポリマーマトリックスとの濡れ性が悪く、特に樹脂への配合においては、配合の初期段階において非常に馴染みにくいため、両者の混練には長時間を要し併せて分散性も悪い等の課題がある。
【0004】
CNTと同様に嵩密度の低い粉体としては、カーボンブラックがあり、これを樹脂やエラストマー等の固体もしくは液体エラストマーマトリックスへ高配合する場合、コンパクターに掛けたり、固体マトリックスをパウダー状態にしたりと様々な工夫がなされている。一方、カーボンブラックを始めとする導電性フィラーの製造者においては、従来これらを造粒化し嵩密度を上げ、粒硬度を高めて使用してきた。
【0005】
このような状況から、CNTの造粒化も容易に想像されるものの、一次粒子が球状であるカーボンブラックと比較してCNTは結晶構造が大きく発達しており、表面官能基が少なく、チューブ状かつ繊維状で大きなアスペクト比を持ち、弾力性が高く、嵩密度がカーボンブラックに比較してさらに低いため、造粒化技術には大きな課題があった。
この課題を解決するため、(特許文献1)には、「高速気流中でCNTの凝集体を解砕し、再凝集させた球状カーボンナノチューブ集合体及びその製造方法」が開示されている。
また、ゴムをCNTを混合したマスターバッチとして、(特許文献2)には、「エストラマー樹脂のベースと、カーボンナノチューブを5重量〜70重量%と、を混合した液体状のポリマー組成物をコンパウンディング装置中に導入し、混合して複合材料を形成する、エストラマーの複合材料の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−239531号公報
【特許文献2】特開2010−222582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来の技術においては、次の様な課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の技術においては、装置の本来の用途は、粉体母粒子表面に異種の粉体微粒子を高速気流衝撃により付着させるというものであり、一種類のCNTのみの造粒化は極めて困難であるだけでなく、もし出来たとしてもその造粒物の粒子径は200μm以下と非常に小さいものであり、ミリメートルオーダーの粒状化は困難であるという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に開示の技術においては、コンパウンディング装置中にCNTを導入するので、混合時に飛散しやすく、人体への安全性や環境汚染等の問題があるとともに、飛散性が高いので、合成ゴムや天然ゴムとの混合性が悪く、定量性が確保し難いという課題を有していた。
(3)10μm以上の凝集物を形成させずに、ゴム中に分散させることは極めて困難で、CNTの分散が悪いと、それから得られた複合物は脆く、ナノ亀裂を生じやすい。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、官能基の導入など煩雑な作業がなく、各種のゴムをバインダーとしてCNTを被覆(コーティング)し集合体の内部へ浸透させることで、CNTを高配合で粒状化させ、飛散性の大幅な低減とともに加工性・ハンドリング性等の作業性・ポリマーマトリックスとの濡れ性・分散性・導電性・機械的物性を著しく向上させたCNT高配合ゴム粒状物を提供する事を目的としている。
また、本発明は、官能基の導入など煩雑な作業がなく、各種のゴムをバインダーとしてCNTを被覆(コーティング)し、更にCNT内部へゴムを浸透させることで、CNTを高配合で粒状化させ、飛散性の大幅な低減とともに加工性・ハンドリング性等の作業性・ポリマーマトリックスとの濡れ性・分散性・導電性・機械的物性を著しく向上させ、低原価で量産性に優れたCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のCNT高配合ゴム粒状物及びその製造方法は以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のCNT高配合ゴム粒状物は、ゴム100重量部に対して、100〜1500重量部のカーボンナノチューブを配合し、前記カーボンナノチューブが前記ゴムでコーティングされた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)CNTの表面をゴムがコーティングし、更にCNTの集合体の内部にもゴムが浸透し被覆するので、CNTの粉体が粒状化されCNTの飛散度合が極端に低くなり、取扱性を著しく向上させる。
(2)本発明のCNT高配合ゴム粒状物はCNTの外表面はゴムで被覆されており、かつCNT−CNT間での強い凝集のない状態で嵩密度の大きい造粒物となっているので、分散媒体である合成樹脂やゴム等のポリマーマトリックス(以下基体樹脂または基体ゴムと記す)に分散させた場合、著しく優れた濡れ性・分散性を発揮する。
(3)基体樹脂や基体ゴムへ配合した場合、高い分散性や濡れ性のため高い導電性の付与や機械物性の向上などの優れた物性を付与することができ、また加工性に優れる。
(4)CNTの基体ゴム等への分散性が極めて良いので、ナノ亀裂の発生を防ぎ、物性の向上性に優れる。
【0010】
ここで、CNTをコーテイングするバインダーゴムとしては、固形状ゴムとゴムラテックスいずれでも使用できる。固形状ゴムとしては、ポリブタジエン、スチレンブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエンアクリロニトリル共重合体、フッ化ゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等が用いられ、ポリブタジエンの市販品の例としては、ポリブタジエンBR01(JSR社商標)等が挙げられる。また、ゴムラテックスとしては、例えば、ポリブタジエンラテックス0700(JSR社商標)やスチレンブタジエン共重合体ラテックスSBR2108(JSR社商標)等がある。これを希釈、分散する際の分散液としては、ほとんどの場合、水を用いるが有機溶媒を用いることもできる。
【0011】
本発明のCNT高配合ゴム粒状物中のCNT配合量は、ゴム100重量部に対して100〜1500重量部、好ましくは200〜1200重量部である。
本発明のCNT高配合ゴム粒状物(以下、ゴム粒状物と略す)は、例えばゴム粒状物がフィラーとして使用されるゴムと同種のゴムまたは異種のゴム、さらには、各種の基体樹脂と混練して用いられる。本発明のゴム粒状物中のCNT配合量が200重量部より少なくなるにつれ、基体ゴムや基体樹脂に混練する際に、マスターバッチとして利用する際に多量のゴム粒状物を要し、ハンドリング性に欠ける傾向があり、100重量部よりも少ないとその傾向が著しいので好ましくない。
一方、本発明のCNT高配合ゴム粒状物中のCNT配合量が1200重量部を超えるにつれ、他の樹脂と混練するとき、粒状物が粉化しゴム粒状物中のCNTの一部が飛散し易くなり、環境面や安全面で好ましくない傾向があり、1500重量部を超えるとこの傾向が強まるので好ましくない。
本発明のゴム粒状物を異種の基体ゴムや基体樹脂と混練する場合には、異種の基体ゴムや基体樹脂に対する本発明のゴム粒状物の混合割合が多くなると、衝撃強度などの機械的物性が低下することがある。従って、基体ゴムや基体樹脂に対する本発明のゴム粒状物の混合割合は少ないことが望ましいが、本発明は、CNTが著しく高配合されたゴム粒状物なので本発明の組成物を少量配合するだけでCNTの配合量は可及的に多くすることができる。
【0012】
本発明のCNT高配合ゴム粒状物と基体ゴムや基体樹脂との混練は両者を適当な割合で配合し、130〜270℃に加熱してゴムや樹脂を柔軟または溶融させた状態でミキシングロール、エキストルーダー、バンバリーミキサー等を用いて行われる。
本発明のゴム粒状物を用いることにより、作業現場でのCNTの飛散がなく安全性に優れ、且つ、短い混練時間で基体樹脂や基体ゴムに所望量のCNTを高分散させることができ作業性に優れる
基体樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリルニトリルスチレン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、酢酸ビニル、アクリルニトリルスチレンブタジエン樹脂等が使用される。特にアクリルニトリルスチレンブタジエン樹脂やナイロン6、ナイロン66などの熱可塑性樹脂に本発明のCNT高配合ゴム粒状物を配合、混練すると熱可塑性樹脂の成型性の低下を防止できる。
基体ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン、スチレンブタジエン共重合体、ブタジエンアクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、ヒドリンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等が使用される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のCNT高配合ゴム粒状物であって、前記カーボンナノチューブの繊維径が1〜200nm、繊維長が1〜100μmである構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下の様な作用が得られる。
(1)CNTへのゴムによる被覆が斑なく、均一に行われ、この結果粒状化により嵩密度が増大し飛散性の改善が著しく、また、基体ゴムや基体樹脂への分散性を著しく向上させることができる。
なお、CNTの繊維径が200nm、または繊維長が100μmを超えると、造粒化は可能なものの、CNTによる導電性の付与・機械的物性の向上が低下する傾向があり、CNT高配合ゴム粒状物とした場合に基体ゴムや基体樹脂へ混錬等により配合しても物性を向上させることが出来ないので好ましくない。CNTの繊維径が1nm、または繊維長が1μmより小さくなるにつれ、生産性に欠ける傾向があり好ましくない。
【0014】
請求項3に記載の発明は、CNT高配合ゴム粒状物の製造方法であって、
(1)溶剤に固形状ゴムを溶解させてゴムバインダー溶液を調製する溶解工程と、(2)前記ゴムバインダー溶液中の前記固形状ゴム100重量部に対して100〜1500重量部に相当するカーボンナノチューブを水に添加し、均一に懸濁して懸濁液を得る懸濁工程と、(3)前記溶解工程で得られた前記ゴムバインダー溶液を前記懸濁工程で得られた前記懸濁液に添加して混合液を調製する混合工程と、(4)前記混合液を撹拌することで前記カーボンナノチューブを水相からゴム相へ移行させる移行工程と、(5)その後前記混合液から水相とゴム相とを分離除去し、ゴム相を乾燥することでカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物を得る分離・乾燥工程と、を備えた構成を有している。
この構成により以下の様な作用が得られる。
(1)固形状ゴムを溶解させて、CNTと水との均一懸濁液に添加・撹拌することで、十分に解きほぐされたCNTがフラッシング作用により、水相からゴム相へ移行し、このときCNTが十分に解きほぐされた状態でゴムバインダーによって被覆されながらこの移行が進行していくので、CNTの固形状ゴムによる被覆(コーティング)が斑なく均一に得られ易い。
(2)撹拌工程では、撹拌によってゴム相を整粒する効果が得られるので、CNT高配合ゴム粒状物が、CNTの取り扱い上有利となる大きさの粒状物にまで造粒化でき、使用時の飛散性の改善・ハンドリング性、作業性などの取扱性の向上・及び基体ゴムや基体樹脂中への成型時における分散性の向上を図ることができ、かつ後の分離・乾燥工程で水とCNT高配合ゴム粒状物の分離をごく簡単に行えるので生産性に優れる。
(3)CNTの周囲をゴムで被覆(コーティング)し造粒化しているので、粉体強度が高く飛散し難いCNTが高配合されたCNT高配合ゴム粒状物が得られる。
【0015】
溶剤は、固形状ゴムを溶解し得る種々任意のものを使用できる。溶解の程度を簡易的に調べる方法としては、アドバンテック社製の円形ろ紙#5Cで全ての液がろ過できる程度が目安となり、ろ過残が少しでも存在する場合は溶剤を変更する必要がある。
溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、シクロヘキサン、ナフチルアミン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、エチルベンゼン、クレゾール、クロロスルホン酸、クロロトルエン、クロロナフタレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジオキサン、シクロヘキサン、ジクロロベンゼン、フタル酸ジブチル、ジベンジルエーテル、ジペンテン、テトラリン、テルピネオール、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ニトロベンゼン、二硫化炭素、テトラクロロエチレン、ピネン、ピペリジン、ピリジン、フラン、ベンジン、チオール、モノクロロベンゼン、メタクリル酸メチル、四塩化炭素等の有機溶剤等がある。
【0016】
懸濁工程では、前記固形状ゴム100重量部に対し、100〜1500重量部、好ましくは200〜1200重量部に相当するCNTを水へ投入し、均一に懸濁する。懸濁液中のCNT濃度は、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。0.5重量%より少なくなるにつれ、CNTの基体樹脂への分散性や、基体ゴムや基体樹脂への混錬時間に長時間を要す傾向があり、0.1質量%以下ではその傾向が著しいので好ましくない。5重量%より多くなるにつれ、水―CNT懸濁液の粘度が上昇し、CNTの分散を十分に行うことができず大きなCNT凝集塊が出来やすくなり、樹脂被覆が十分に行えないためCNT高配合ゴム粒状物として性能が悪くなる傾向があり、10重量%以上ではその傾向が著しいので好ましくない。
CNTの水への分散の程度は、懸濁液をスポイトで硝子板上に取り、ヘラで展色(展開)し、未分散塊を目視と指で調べて、ザラザラとした質感・感触がなくなるまで懸濁させる。この処理によりCNTは凝集塊の状態から十分に解きほぐされた状態になる。
懸濁方法は、水等の分散媒に、CNTを機械的撹拌によって行うのが好ましい。また、超音波照射を併用してもよい。
この懸濁工程によって、CNTの凝集が解きほぐされゴム被覆が斑なく均一に行われ、CNTが高配合されたゴム粒状物になっても、基体ゴムや基体樹脂に混錬などにより分散する際、十分にCNTが解きほぐされた状態で均一に分散される。
【0017】
分離・乾燥工程では、CNT高配合ゴム粒状物がCNTの取り扱い上有利となるほどまでに大きな粒子に造粒化成長しているので、分離作業は篩を使用して簡単に行うことができる。乾燥は蒸気乾燥や真空乾燥などの方法で行うことができる。この際の温度としては蒸気乾燥器の場合は200℃以下または真空乾燥は150℃以下が好ましい。これよりも高い場合はCNTを被覆(コーティング)したゴムが劣化し、最終性能が悪くなる。この乾燥温度は、使用するゴムによって適宜適切な温度に設定する必要がある。また、乾燥機で乾燥する前に、バット等に造粒物を広げドラフト等で常温、自然乾燥させると後の工程が容易となる。
【0018】
請求項4記載の発明は、ゴムラテックスを用いたCNT高配合ゴム粒状物の製造方法であって、
(1)ゴムラテックスを水に分散させゴム分散液を作る分散工程と、(2)前記ゴムラテックス100重量部に対して100〜1500重量部に相当するカーボンナノチューブを水に添加し、均一に懸濁して懸濁液を得る懸濁工程と、(3)前記懸濁工程で得たカーボンナノチューブの前記懸濁液に前記分散工程で得た前記ゴム分散液を添加し、攪拌することで直径0.1〜3mmの羽毛状塊を生成する移行工程と、(4)前記羽毛状塊を脱水して、ゴムおよびカーボンナノチューブからなる組成物を得る脱水工程と、(5)脱水により含水率40〜80質量%とした塊状物を湿式造粒法により直径0.2〜2mmの粒状物を得る造粒工程と、(6)前記粒状物を乾燥する乾燥工程と、を備える構成を有している。
この構成によって、以下の様な作用を得ることができる
(1)ゴムラテックスの希釈や分散に水を使用できるので、製造コスト面でも環境面でもまた、設備コスト面でも極めて有利なCNT高配合ゴム粒状物を得ることができる。
【0019】
この構成をさらに詳しく説明する。
本発明のゴム粒状物を製造するには、まず水に分散したゴム、いわゆるゴムラテックスを、ゴム100重量部に対し100〜1500重量部、好ましくは200〜1200重量部となる範囲で水にCNTを添加して攪拌して得られたCNTと水の均一懸濁液に、ゴムラテックスを加えて撹拌する。懸濁液中のCNT濃度は、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量%である。
水媒体に分散されたゴムラテックスをCNTと水の均一懸濁液に添加し、攪拌するとゴム相と水相の2相が形成される。CNTは、初めは主に水相中に存在するが、さらに攪拌を続けると水相中のCNTの周囲にゴムが付着し、直径0.1〜3mmの羽毛状塊が生成する。羽毛状塊が生成したのち、脱水して、ゴムおよびCNTをからなる組成物を得る。脱水は、たとえば、羽毛状塊を含む水溶液をろ過し、次いでこれを真空脱水または遠心脱水することにより行われる。このとき、脱水により含水率40〜80重量%の塊状物とし、さらに、これを湿式造粒法により0.2〜2mmのゴム粒状物とすれば、ハンドリング性が良好となる。湿式造粒は、例えば、攪拌ピンを有するシャフトを備えたドラム内部に含水率40〜80重量%の塊状物を入れ、シャフトを回転させることにより行うか、又は、小さい孔から強制的に上記塊状物を押し出すことによって行うことができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、CNT高配合ゴム粒状物の製造方法であって、請求項3に記載の製造方法において、前記溶剤の添加量が、前記カーボンナノチューブのDBP吸収量(JIS K 6221A法)の0.8〜1.5倍容量添加することを特徴とする構成を有している。
この構成によって、請求項3で得られる作用の他以下の様な作用を得ることができる。
(1)請求項3に記載のCNT高配合ゴム粒状物の製造方法において、固形状ゴムによるCNTへのゴム被覆とその組成物の造粒化は、添加した溶剤の量に左右され、CNTのDBP吸収量の0.8倍容量より少ないとCNT内部への溶剤浸透が弱く、ゴムのコーティング性が悪くなる。1.5倍容量より多いとエマルジョン化して、造粒化が困難となってしまう。しかし、CNTのDBP吸収量の0.8〜1.5倍容量の間で添加することによって、CNT周辺を極めて薄いゴムの層でコーティングし、さらに造粒化することが可能となることがわかった。
【0021】
前記撹拌工程の後、整粒工程を備えた場合、以下の様な作用が得られる。
(1)整粒工程を有することによって造粒物の形状を均一に揃え、これによって生成されたCNT高配合ゴム粒状物の使用時における飛散性の改善・ハンドリング性、作業性などの取扱性の向上・及び分散性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の様に、本発明のCNT高配合ゴム粒状物によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)粉体状で存在するCNTを単に粒状化し安全性を高めるだけではなく、CNT粒子の周りを極めて少量のゴムでコーテイング(マイクロカプセル化)した造粒物とすることにより、CNT自体の飛散度合いが極端に低くなり、取り扱い性が著しく向上する結果、CNT製造業者およびこれを使用する顧客における、取り扱い現場での作業環境が大幅に改善され、さらに、定量供給を要するさまざまな工程で著しい定量精度を確保できる様なCNT高配合ゴム粒状物を提供することができる。
(2)ポリマーマトリックスとの濡れ性が飛躍的に改善され、マトリックスへの濡れが良くなり分散時間が短縮でき、破断を抑えることもできるうえ、ゴムを被覆(コーテイング)していない造粒物や非造粒化物と比較して安定して高い導電性や他の物性を得ることができるし、ポリマーマトリックス中への高配合が可能となる、工業的利用価値が極めて高い、CNT高配合ゴム粒状物を提供することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、
(1)CNTのゴム被覆を阻害されることがないので、CNT内部まで全体的に均一にゴム被覆することが可能となり、物性が安定化するので、飛散性・分散性・取扱性・定量供給性に優れたCNT高配合ゴム粒状物を提供することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、
(1)CNTの固形状ゴムによるコーティングが斑なく均一に得られ易いので、物性が安定化し、他のバインダーを使用しないCNT造粒化物や粉体物よりも飛散性・分散性・取扱性が著しく向上するうえ、定量供給を要するさまざまな工程で著しい定量精度を確保できる様なCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。
(2)CNTが十分に解きほぐされた状態でゴムにより被覆され、かつ嵩密度を高く造粒化でき、そのうえCNT−CNT間の強い凝集がないので、従来のCNTゴム組成物に比べて著しくCNTを高配合でき、かつ基体樹脂や基体ゴムへの分散性に優れたCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。
(3)懸濁液中のCNTをほとんど失うことなく高収率でコーティングしてCNT高配合固形状ゴム粒状物を生成し、かつ被覆に使用するゴムが従来のCNTゴム組成物に比べて少なくて済むので生産性に優れたCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。
【0025】
請求項4の発明によれば、請求項3の効果に加え、
(1)ゴムラテックスの希釈、分散に水を使用できるので、製造コスト面でも環境面でもまた、設備コスト面でも極めて有利なCNT高配合ゴム粒状物を得るCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、請求項3の効果に加え、
(1)固形状ゴムを溶解する溶剤量の条件を定めることで、CNT周辺をごく薄いゴムの層で被覆(コーティング)してCNTを高配合させたゴム組成物を生成し、かつCNTの取り扱い上有利となる大きさの粒状物にまで造粒化されたCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
CNTとして、触媒気相製造法により製造された表1に示すA、B2種類を準備した。尚、マルチウォールカーボンナノチューブについては、その直径や長さが製法や後処理法により分布をもちうるが、ここでは、その平均値を、そのCNTの直径と長さとして表記する。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例1)
バインダー用の固形状ゴムとして、スチレンブタジエン共重合体ゴム(JSR社の商品名JSRドライSBR1502)を常温のトルエンに溶解し、3重量%のゴムを含む分散液を作ったゴムバインダー溶液を調整した(溶解工程)。この液は、円形濾紙#5Cで濾過した結果、濾過残物は皆無であった。
次に、表1に示したAのCNT50gと純水4950gを10Lのステンレス製丸型容器に入れホモジナイザー型撹拌機を用い6000rpmで30分撹拌し懸濁させ、懸濁液を得た(懸濁工程)。CNT分散液を数滴スポイトで硝子板上に取りヘラで展色し、未分散塊を目視と指で調べた結果ザラザラした未分散塊は皆無であった。
次いで、撹拌機の羽根をパドル翼に変更し、1000rpmで撹拌しながら、スチレンブタジエン共重合体を溶解したゴムバインダー溶液300gを均一速度で5分間滴下し混合した(混合工程)。全て滴下後撹拌機の回転を600rpmに落とし約5分間撹拌を続け(移行工程)、ゴム粒状物を整粒し(整粒工程)、1.0〜1.2mm径のCNT高配合ゴム粒状物を得た。得られた該ゴム粒状物を60mesh篩で水とCNTを分離後、ドラフト内で常温にて約20時間自然乾燥した後、真空乾燥機を用い90〜110℃で加熱し溶媒と残存する水が、150℃1時間における加熱減量として0.5%以下になるまで乾燥しCNT高配合ゴム粒状物を得た(分離・乾燥工程)。次いで、このゴム粒状物を表2に示す基体樹脂や基体ゴムに配合して混練した。
【0030】
【表2】

【0031】
(実施例2)
CNTとして表1に示したBを用い、ゴムバインダー溶液の添加量は147gとする以外は実施例1と同様にした。
【0032】
(実施例3)
スチレンブタジエン共重合体ラテックス(JSR社製の商品名JSRラテックス2108。固形分濃度4.0重量%)を水で希釈し、ゴム含有量3重量%のゴムラテックス分散液を作った。
次いで、表1のAのCNTと水とを実施例1と同様な条件、方法でCNT濃度1重量%の均一懸濁液を作った。この懸濁液を攪拌しながら、上記のゴムラテックス分散液を添加した。全体をさらに攪拌していくことでCNTとゴムが結合した羽毛状塊を生成させた。
この後、この羽毛状塊を減圧式脱水機または遠心脱水機を用いて脱水し、含水率を80重量%以下とした。
続いて、この羽毛状塊を造粒機により造粒して、直径が0.8〜1.5mmの粒状体とし、この粒状体を熱風乾燥機にて90℃で5時間乾燥することでCNT高配合ゴム粒状物を作成した。
【0033】
(実施例4)
ゴムバインダーの添加量を250g、ゴムバインダー溶液中のゴム濃度を10wt%とする以外は、実施例1と同様にした。
【0034】
(実施例5)
ゴムバインダーの添加量を167g、ゴムバインダー溶液中のゴム濃度を2wt%とする以外は、実施例1と同様にした。
【0035】
(比較例1、2)
実施例1に対し、ゴムバインダー溶液中のゴム濃度とゴムバインダー溶液の添加量を変えることにより、対DBP吸収量を比較例1は1.66、比較例2は0.67とした以外は実施例1と同様した。 しかし、比較例1は泥状の懸濁液になり粒状とならなかった。また、比較例2はCNTが水分散液から溶剤側に移行せず粒状とならなかった。
実施例1〜5及び比較例1及び2の結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(実施例6〜9、比較例3及び4)
実施例1、2、4、5のCNT高配合ゴム粒状物とABS樹脂(三井化学社製の商品名UT61)とを直径3インチの前ロールおよび後ロールの二本のロール(ロール間隙1.5mm)を有するミキシングロールを用いて混練し、それぞれ実施例6〜9とした。混練方法としては、まず、ミキシングロールの前ロールおよび後ロールをそれぞれ15rpmおよび17rpm回転させた。次いで、前ロールに幅10cmで50gの基体樹脂を巻きつけ、両ロール間に本発明のCNT高配合ゴム粒状物を少量ずつ投入しながら、両ロールの回転により160℃で基体樹脂とゴム粒状物の混練を行った。比較例3及び4は、ゴム粒状物でない表1のA、Bをそのまま、実施例6〜9と同様に混練して得た。
所定量のゴム粒状物を両ロール間に投入するのに要する時間を配合所要時間とした。また、混練後、得られた混練物を、150〜180℃、15〜20tのプレス機により押圧し、それぞれCNT含有合成樹脂(ゴムと配合する場合は、CNT含有ゴム)の試験片(100×100×2mm)を作成し体積固有抵抗を測定した。
【0038】
(実施例10、比較例5)
実施例10として、実施例3のCNT高配合ゴム粒状物をPVC樹脂(ヴィテック社製の商品名P450。ジオクチルフタレート30wt%含有)に混練(混練温度130℃)する以外、実施例6〜9と同様とした。また、表1のAのCNTをゴム粒状物化せず、上記PVC樹脂と混練したものを比較例5とした。
【0039】
(実施例11及び12、比較例6)
実施例1及び3の高配合ゴム粒状物をスチレンブタジエン共重合体ゴム(JSR社の商品名JSRドライSBR1502)に混練する以外、実施例6〜9と同様にした。また、表1のAのCNTをゴム粒状化せず、上記スチレンブタジエン共重合体ゴムに混練したものを比較例6とした。
【0040】
〈試験例1(体積固有抵抗の測定)〉
体積固有抵抗は、試験片の抵抗が106Ω以上の場合は、ハイレスターUP(HT−450)(三菱化学製)を、また106Ω以下の場合はロレスターGP(T610)(三菱化学製)を用いて25℃、湿度60%の雰囲気で測定し、これより下記式に従って算出した。
体積固有抵抗(Ω・cm)=試験片の抵抗×RCF×t(cm)
RCF:抵抗率補正係数
t :試験片の厚み(cm)
【0041】
〈試験例2(飛散率の測定)〉
混煉作業時に飛散したCNTの飛散率(D)を以下の数1により求めた。
(数1)
D=((R+C)−K)/(R+C)×100
ここで、Dは飛散量(%)、Rは基体樹脂の重量(g)、Cは本発明ゴム粒状物又はCNT配合重量(g)、KはCNT配合後の樹脂全重量(g)である。
【0042】
〈試験例3(CNTの流動性測定)〉
最細部の内径が5mmパイのガラス製ロートを100ccビーカーの上にセットした後、ロートに10gのCNTを入れ、全てがビーカーに流出するまでの時間を測定した。この際、粒状化処理をしていない粉状のCNTは流出性が悪かったのでロートに振動を与え流出させた。
実施例6〜12及び、比較例3〜6の試験結果を表4及び表5に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
表4及び表5から、本発明のCNT高配合ゴム粒状物とポリマーマトリックスとの濡れ性・分散性が著しく高いので、ゴムバインダーを用いなかったCNTと同じCNT配合濃度でも導電性が高く優れていることが分かった。
また、本発明のCNT高配合ゴム粒状物は、ポリマーマトリックスへの濡れ性に優れ、飛散性が著しく低く、さらに流動性にも優れていること等から取扱性に優れているので、樹脂バインダーを用いなかったCNTよりも配合所要時間も配合時の飛散率も大幅に低減できていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、CNTの内部や外表面を固形状ゴムやゴムラテックスで被覆(コーティング)することにより、CNTのハンドリング性が著しく向上し、基体樹脂や基体ゴムとの密着性が著しく向上し電気的物性などが良くなり、さらに混錬時のCNTの定量供給性が著しく向上するので、コンパウンドのロット内の品質バラツキが著しく安定し、また飛散性を大幅に低減するのでCNTのロスがなくなり、CNTを理論上の配合率まで確実に配合できるのでコンパウンドの物性が向上し、かつ人体に対する安全性も向上すると共に、粒状物の機械的強度が大きくハンドリング性・作業性などの取扱性に優れ、CNTのポリマーマトリックスとの濡れ性や分散性向上による、マトリックスへの分散時間の短縮と、ポリマーマトッリクスに配合した際に高い導電性や機械物性などの物性に優れたCNT高配合ゴム粒状物を提供することができ、また、飛散させることなくCNTを定量でポリマーマトリックス中に供給できるとともに、ポリマーマトリックスとの濡れ性や分散性に優れ、ポリマーマトリックスの電気的・機械的物性を著しく向上させるCNT高配合ゴム粒状物を低原価で量産できるCNT高配合ゴム粒状物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100重量部に対して、100〜1500重量部のカーボンナノチューブを配合し、前記カーボンナノチューブが前記ゴムでコーティングされていることを特徴とするカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの繊維径が1〜200nm、繊維長が1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物。
【請求項3】
(1)溶剤に固形状ゴムを溶解させてゴムバインダー溶液を調製する溶解工程と、(2)前記ゴムバインダー溶液中の前記固形状ゴム100重量部に対して100〜1500重量部に相当するカーボンナノチューブを水に添加し、均一に懸濁して懸濁液を得る懸濁工程と、(3)前記溶解工程で得られた前記ゴムバインダー溶液を前記懸濁工程で得られた前記懸濁液に添加して混合液を調製する混合工程と、(4)前記混合液を撹拌することで前記カーボンナノチューブを水相からゴム相へ移行させる移行工程と、(5)その後前記混合液から水相とゴム相とを分離除去し、ゴム相を乾燥することでカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物を得る分離・乾燥工程と、を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物の製造方法。
【請求項4】
(1)ゴムラテックスを水に分散させゴム分散液を作る分散工程と、(2)前記ゴムラテックス100重量部に対して100〜1500重量部に相当するカーボンナノチューブを水に添加し、均一に懸濁して懸濁液を得る懸濁工程と、(3)前記懸濁工程で得たカーボンナノチューブの前記懸濁液に前記分散工程で得た前記ゴム分散液を添加し、攪拌することで直径0.1〜3mmの羽毛状塊を生成する移行工程と、(4)前記羽毛状塊を脱水して、ゴムおよびカーボンナノチューブからなる組成物を得る脱水工程と、(5)脱水により含水率40〜80質量%とした塊状物を湿式造粒法により直径0.2〜2mmの粒状物を得る造粒工程と、(6)前記粒状物を乾燥する乾燥工程と、を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物の製造方法。
【請求項5】
前記非水溶性の溶剤の添加量が、前記カーボンナノチューブのDBP吸収量(JIS K 6221A法)の0.8〜1.5倍容量添加することを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブ高配合ゴム粒状物の製造方法。

【公開番号】特開2012−126853(P2012−126853A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281046(P2010−281046)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(509170279)株式会社ナノストラクチャー研究所 (3)
【Fターム(参考)】