説明

カーボンナノファイバー及びその製造方法

【課題】簡便で効率の高いカーボンナノファイバー及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法を提供すること、及び当該製造法を用いて作製されたカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体を提供することである。
【解決手段】短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを加熱焼成すること、該フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤からなる組成物を、任意形状の容器内で乾燥させ、これを焼成することによって任意の外観形状を有するカーボンナノファイバー集合体を形成すること、また、当該組成物をガラスやセラミックスなどの耐熱性基材上に塗布した後、焼成を施すことによって、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバーの製造方法、カーボンナノファイバー集合体、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノファイバーとは、繊維状の炭素材料の中で直径が十〜数百nm程度のものであり、十nmのものは、カーボンナノチューブと呼ばれているが、以下、カーボンナノチューブも含めて、カーボンナノファイバーと総称する。近年、カーボンナノファイバーの優れた特性が注目され、盛んに研究が行われている。
【0003】
例えば、樹脂材料に導電性を付与したり、樹脂材料の機械的特性を向上したりする目的でフィラーとして用いられており、また、水素吸収、放出能やメタン吸収能を利用したガス吸蔵材料、燃料電池用負極材料、さらに、ディスプレイ用の電子放出材料等への応用が期待されている。
【0004】
このようなカーボンナノファイバーの製造法としては、アーク放電(例えば、特許文献1,2)、レーザー昇華(例えば、特許文献3)、化学気相(CVD)法(例えば、特許文献4〜8)等といった、気相法での製造法が良く知られている。しかしながら、これら気相法では、生産性が低く、ファイバー形状の制御性にも乏しいという欠点があった。
一方、これを改善するために、熱炭化性のポリマー材料を紡糸し、ファイバー状にして、これを焼成することにより、カーボンファイバーを得る方法が知られている。この方法では、例えば、フェノール樹脂やアクリロニトリル系ポリマー等の繊維を炭素化することによってカーボンファイバーを得るが、それらのポリマー繊維単独では、細い径での紡糸や、紡糸後の延伸が困難なため、μmオーダーの太いファイバーしか得ることができなかった。
【0005】
そこで、細線化されたカーボンナノファイバーを得るための手段として、熱炭化性ポリマーと、熱分解消失性ポリマーや溶媒溶解性ポリマーを組み合わせたブレンドポリマーを紡糸し、このファイバーから、加熱、もしくは溶媒抽出によって熱分解性ポリマーや溶媒溶解性ポリマー部を除去した後、炭化させることによってカーボンナノファイバーを得る方法が開示されている(特許文献9−11)。しかしながら、これらの方法は、2種以上のポリマー材料を溶融混練し、紡糸してファイバー状に成形した後に、その一部を除去し、さらに炭化してカーボンナノファイバーを得るという複雑な工程を経るものであった。
【0006】
また、従来の方法で得られたカーボンナノファイバーを、例えばガラスやセラミックス等の基材上に堆積させ導電膜を形成させる場合、カーボンナノファイバー自身の溶媒分散性が乏しいため、カーボンナノファイバー製造後に、さらに分散処理を施す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−165406号公報
【特許文献2】特開平7−197325号公報
【特許文献3】特開平10−273308号公報
【特許文献4】昭60−54998号公報
【特許文献5】昭60−27700号公報
【特許文献6】第2778434号特許公報
【特許文献7】特公平3−64606号公報
【特許文献8】特公平3−77288号公報
【特許文献9】特開2001−73226号公報
【特許文献10】特開2004−176236号公報
【特許文献11】特開2005−163329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、本発明は上記に鑑み、より簡便で効率の高いカーボンナノファイバー及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法を提供すること、及び当該製造法を用いて作製されたカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを加熱焼成することによって、良好なカーボンナノファイバーを得られること、また、該フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤からなる組成物を、任意形状の容器内で乾燥させ、これを焼成することによって任意の外観形状を有するカーボンナノファイバー集合体を形成できること、また、当該組成物をガラスやセラミックスなどの耐熱性基材上に塗布した後、焼成を施すという簡便な操作によって、容易に、基材上に導電膜を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボンナノファイバー、および、その集合体を簡便に効率良く製造することが可能であり、当該製造方法によって製造されたカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体は、樹脂材料に導電性を付与したり、樹脂材料の機械的特性を向上したりする目的でフィラーとして用いることが可能である。また、水素吸収、放出能やメタン吸収能を利用したガス吸蔵材料、燃料電池用負極材料としても利用可能であり、さらに、ディスプレイ用の電子放出材料や、触媒担持体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1におけるフタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1におけるフタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図5】実施例1で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型透過電子顕微鏡写真(a)、(a)に対応する位置での銅元素存在マッピング図(b)、及び(a)に対応する位置での炭素元素の存在マッピング図(c)である。
【図6】実施例2で石英基板上に形成されたカーボンナノファイバー集合体のAFM画像である。
【図7】実施例3で石英基板上に形成されたカーボンナノファイバー集合体のAFM画像である。
【図8】実施例4におけるフタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4におけるフタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図11】実施例4で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図12】実施例5で得られたフタロシアニンナノワイヤーの走査型電子微鏡写真である。
【図13】実施例5で得られたフタロシアニンナノワイヤーの走査型電子微鏡写真である。
【図14】実施例5で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図15】実施例5で得られたカーボンナノファイバー集合体の走査型電子微鏡写真である。
【図16】実施例6で得られた焼結体の走査型電子微鏡写真である。
【図17】実施例6で得られた焼結体の走査型電子微鏡写真である。
【図18】比較例2で得られた焼結体の走査型電子微鏡写真である。
【図19】比較例2で得られた焼結体の走査型電子微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
即ち、本発明は、
(1)短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程と、
(2)フタロシアニンナノワイヤー(A)を焼成する第二工程、
とを有することを特徴とするカーボンナノファイバーの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、
(1)短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程と、
(2)フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤とを必須成分とする組成物(B)を得る第二工程、
(3)組成物(B)を任意の基材上、もしくは容器内で乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体(C1)を得る第三工程
(4)フタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成する第四工程、
とを有することを特徴とするカーボンナノファイバー集合体の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、
(1)短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程と、
(2)フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤とを必須成分とする組成物(B)を得る第二工程、
(3)組成物(B)を任意の耐熱性基板上に塗布乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体膜(C2)を得る第三工程(c)
(4)フタロシアニンナノワイヤー集合体膜(C2)を焼成する第四工程(d)、
とを有することを特徴とするカーボンナノファイバー集合体膜の製造方法を提供するものである。
本発明は、さらに、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を前駆体として用い、これを焼成することによって得られるカーボンナノファイバー及び、カーボンナノファイバー集合体を提供するものである
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、カーボンナノファイバーとは、繊維状の炭素材料の中で直径が十〜数百nmのものを言い、カーボンナノファイバー集合体とは、該カーボンナノファイバーが複数本集合した状態で存在するものを意味する。また、該カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体は、そのラマンスペクトルに1580〜1590cm−1(G−band)、1350〜1360cm−1付近の炭素材料に特徴的なピークを有することによって同定することができる。さらに、該カーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体は、その表面や内部に金属微粒子を内包、もしくは、担持していても良い。
【0014】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法においては、その第一工程において、フタロシアニンとフタロシアニン誘導体を用いて、フタロシアニンナノワイヤーを製造する第一工程を有する。
【0015】
(フタロシアニンナノワイヤーに含有されるフタロシアニン)
本発明の第一工程において製造されるフタロシアニンナノワイヤーに含有されるフタロシアニンは、中心金属原子を有する公知慣用の金属フタロシアニン、および中心金属原子を有しない無金属フタロシアニンを用いることができる。中心金属原子としては、ナノワイヤーを構成するものであれば制限はないが、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)等を挙げることができ、中でも銅原子、亜鉛原子、鉄原子が特に好ましい。
【0016】
(フタロシアニンナノワイヤーに含有されるフタロシアニン誘導体)
本発明の第一工程で製造されるフタロシアニンナノワイヤーは、前記フタロシアニンと、下記一般式(1)又は(2)であるフタロシアニン誘導体を含有するフタロシアニンナノワイヤーである。
【0017】
【化1】

【0018】
但し、式中、Xは、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)からなる群から選ばれる何れかであり、YからYは、フタロシアニン骨格とR〜Rを結合させる結合基を表し、
からYが結合基として存在しない場合には、R〜Rは、SOH、COH、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、
からYが、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−、又は−S(O)−で表される結合基である場合には、R〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0でない。
【0019】
本発明のフタロシアニン誘導体と錯体を形成する金属原子Xとしては、金属フタロシアニンの中心金属として公知慣用であれば特に限定はないが、好ましい金属原子として、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、マグネシウム、ケイ素、及び鉄から選ばれるいずれか一種の金属原子を挙げることができる。また、Xとして、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)が配位した金属フタロシアニンも用いることができる。ここで、一般式(2)で表されるフタロシアニン誘導体のように、中心金属Xを含まない化合物も本発明のフタロシアニン誘導体として用いることができる。
【0020】
からYは、フタロシアニン環とR〜Rを結合させる結合基であれば、特に制限なく使用することが可能である。このような結合基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、ビニレン結合、エチニレン、スルフィド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、ウレア基、ウレタン基、アミド基、アミノ基、イミノ基、ケトン基、エステル基等を挙げることができ、より具体的には、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−又は−S(O)−等である。また、フラーレン類も本発明の結合基として用いることができる。
【0021】
〜Rは、上記結合基YからYを介してフタロシアニン環と結合しえる官能基である。このような官能基としては、例えば、アルキル基、アルキルオキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、スルホン酸基、シリル基、シラノール基、ボロン酸基、ニトロ基、リン酸基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、ニトリル基、イソニトリル基、アンモニウム塩またはフラーレン類、フタルイミド基等を挙げることができ、より具体的には、フェニル基やナフチル基などのアリール基や、インドイル基、ピリジニル基などのヘテロアリール基やメリル基などを挙げることができる。この中でも具体的に好ましい基としては、SOH、COH、アルキル基、エーテル基若しくはアミノ基を有するアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類等を挙げることができる。
【0022】
上記置換基を有してもよいアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができるが、特にメチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基が好ましい。また、エーテル基若しくはアミノ基を有するアルキル基も好ましく、例えば、下記式
【0023】
【化2】

【0024】
(mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基である。)
で表される基も用いることができる。
【0025】
上記置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基としては、好ましくは、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいオリゴフェニレン基、又は置換基を有してもよいオリゴナフチル基等を挙げることができる。置換基としては、アリール基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0026】
上記置換基を有してもよい(オリゴ)ヘテロアリール基としては、好ましくは、置換基を有してもよいピロール基、置換基を有してもよいチオフェン基、置換基を有してもよいオリゴピロール基、置換基を有してもよいオリゴチオフェン基を挙げることができる。置換基としては、ヘテロアリール基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0027】
また、置換基を有してもよいフラーレン類としては、フラーレン類に通常公知の置換基を有するフラーレン類を挙げることができ、例えば、C60フラーレン、C70フラーレンやフェニルC61−酪酸メチル[60]フラーレン(PCBM)等を挙げることできる。
上記置換基を有してもよいフタルイミド基としては、例えば、
【0028】
【化3】

【0029】
(ここで、qは1〜20の整数である。)
で表される基を挙げることができる。置換基としては、フタルイミド基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0030】
また、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表わし、フタロシアニン環に置換するY〜Yの置換基数を示す。なお、フタロシアニン環に置換する置換基の数a〜dのうち少なくとも一つは0ではない。
【0031】
本発明の一般式(1)で表されるフタロシアニン誘導体の具体例としては以下が挙げられるが、これらに限らない。なお、ここで、フタロシアニン誘導体の式の括弧の横の数字はフタロシアニン分子に対する官能基の平均導入数を表している(実際の使用においては、置換基導入数の異なるものが混在している)。
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
(ここで、Xは、銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値である。)
【0040】
【化11】

【0041】
(ここで、Xは銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値であり、RからRは、各々独立に水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルチオ基を表す。)
【0042】
【化12】

【0043】
(ここで、Xは銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値であり、RからRは、各々独立に水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルチオ基を表す。)
また、一般式(2)で表される具体的化合物としては、上記式(4)〜(12)において中心金属が存在しないフタロシアニン誘導体も用いることができる。
【0044】
本発明の一般式(3)
【0045】
【化13】

【0046】
(但し、式中、Xは銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)からなる群から選ばれる何れかであり、Zは下記式(a)又は(b)で表される基であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0でない。)
【0047】
【化14】

【0048】
(ここで、nは4〜100の整数であり、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は炭素数1〜30の非環状炭化水素基である。)
【0049】
【化15】

【0050】
(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
で表されるフタロシアニン誘導体では、フタロシアニン環が少なくとも1個以上のスルファモイル基で置換された化合物を挙げることができる。導入されるスルファモイル基は、フタロシアニン環1個あたり少なくとも1個であれば特に限定なく用いることができるが、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個である。置換される位置は、特に限定はない。
【0051】
一般式(a)の分子量には特に制限は無く、アルキル基やエーテル基などの各種官能基でも、これらの官能基が数個の繰り返し単位を持つオリゴマーでも、さらに繰り返し単位の多いポリマーでもよい。ポリマーの場合は数平均分子量が10000以下であることが、ナノワイヤー化において、立体障害によるフタロシアニンの結晶成長が阻害されず、十分に長いナノワイヤーが得られるために好ましい。該ポリマーとしてアルキル基やビニル化合物の重合体からなるポリマーやウレタン結合やエステル結合、エーテル結合を有するポリマーなどを挙げることができる。
最も好ましい本発明の鎖状化合物Zとして、一般式(a)で表されるポリアルキレンオキシドコポリマーを挙げることができ、エチレンオキシドポリマー及びエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどのあらゆるポリアルキレンオキシドであり、ブロック重合したものでも、ランダム重合したものでも用いることができる。
ここで、Q’は、炭素数1〜30に非環状炭化水素基として、直鎖状炭化水素基でも分岐状炭化水素基でもどちらでもよく、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基のどちらでもよい。このような非環状炭化水素基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチル−ヘキシル基、n−ドデシル基、ステアリル基、n−テトラコシル基、n−トリアコンチル基等の直鎖状或いは分岐状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0052】
また、直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基としては、炭化水素基が二重結合又は三重結合を有してもよく、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソプレン基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ゲラニル基、エチニル基、2−プロピニル基、2−ペンテン−4−イニル基等の直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0053】
ポリアルキレンオキシド部分の繰り返し数nには特に制限はないが、分散溶媒との親和性即ち、得られるナノワイヤーの分散安定性の観点からは、4以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上80以下、更により好ましくは10以上50以下である。
本発明で用いる一般式(1)で表されるフタロシアニン誘導体は、公知慣用の方法を組み合わせることにより、例えば、銅フタロシアニンスルホニルクロライドとポリエーテル主鎖の末端にアミンを持つポリエーテルアミン(以下、「ポリエーテルモノアミン」と略記)とを反応させて製造できる。
【0054】
原料となる銅フタロシアニンスルホニルクロライドは、銅フタロシアニンとクロロスルホン酸又は塩化チオニルとの反応により得ることができる。他方の原料であるポリエーテルモノアミンは、公知慣用の方法で得ることができる。例えば、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基をニッケル/銅/クロム触媒を用いて還元的にアミノ化することにより得ることができるし、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基を光延反応(参考文献:Synthesis,1−28(1981))によりイミド化したのち、ヒドラジン還元によりアミノ化(参考文献:Chem.Commun.,2062−2063(2003))することにより得ることができる。
ポリエーテルモノアミンは市販品としても提供されており、例えばアメリカHuntsman Corporationから「JEFFAMINE(商品名)Mシリーズ」がある。
本発明で用いられる一般式(3)で表されるフタロシアニン誘導体としては、例えば[化16]式の化合物が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0055】
【化16】

【0056】
(但し、式中、Q及びRは水素原子又はメチル基を表す。nは4〜100の整数である。またスルファモイル結合を介してフタロシアニンに結合するポリアルキレンオキシド鎖の導入数mはフタロシアニンが有する4つのベンゼン環に対して、官能基の平均導入数を表わす0〜4の数値である。)
本発明で用いることができるフタロシアニン誘導体には前記のフタロシアニン誘導体のほか、一般式(b)で表される基を有していてもよい。
本誘導体は、上記の一般式(a)で表される基の導入に用いたポリエーテルアミンの替わりに
下記式で表されるアミンと反応させればよい。
【0057】
【化17】

【0058】
(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
好ましいR及びR’として、低級アルキル基、特にメチル基を挙げることができ、mとしては、1〜6の整数であるものが好ましい。具体的に好ましいフタロシアニン誘導体として以下が挙げられる。なお、ここで、フタロシアニン誘導体の式の括弧の横の数字はフタロシアニン分子に対する官能基の平均導入数を表している(実際の使用においては、置換基導入数の異なるものが混在している)。
【0059】
【化18】

【0060】
また、一般式(1)で表されるフタロシアニン誘導体のうち、R〜Rで表される基がSOH又はCOHである基を有するものであってもよく、SOH又はCOHである基の個数に制限はないが、1〜4個、より好ましくは1〜2個を挙げることができる。これらの基は、一種類の基を有していても2種類の基を有していてもどちらでもよい。SOH又はCOHの導入は公知慣用の方法で行うことができる。
一般式(3)で表されるフタロシアニン誘導体のスルファモイル基の個数に制限はないが、1〜4個、より好ましくは1〜2個を挙げることができる。これらの基は、一種類の基を有していても2種類の基を有していてもどちらでもよい。これらのフタロシアニン誘導体は、公知慣用の方法で合成することができる。
【0061】
上記のフタロシアニン誘導体の式の括弧の横の数字はフタロシアニン分子に対する平均的な官能基の導入数を表し、好ましい官能基の導入数は後述するナノワイヤー化機構の観点から、0.2から3.0、さらに好ましくは0.5から2.0の範囲にある。
前記の各種フタロシアニン誘導体は、フタロシアニン環に側鎖もしくは官能基を導入することにより、合成することができる。例えば[化16]記載の銅フタロシアニンスルファモイル化合物は前記の方法で合成することができ、[化4]、[化5]、[化6]記載のスルホン酸化銅フタロシアニンは銅フタロシアニンを発煙硫酸(三酸化硫黄濃度:20%)中で加熱することにより得ることができ、[化9]の化合物の合成は、例えば特許文献(米国特許2761868号)に開示の方法で合成することができる。
【0062】
該フタロシアニン誘導体は、例えば、特開2005−145896号広報、特開2007−39561号公報に記載のある公知公用のフタロシアニン類合成方法によっても得られ、例えば4−フェノキシ−フタロニトリルや4−フェニルチオ−フタロニトリル、4−(1,3−ベンゾチアゾール−2−イル)−フタロニトリルなどの各種フタロニトリル化合物を、置換基を有しないオルトフタロニトリルに対して任意の比率で混合し、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−エンなどの有機塩基存在下で硫酸銅(II)や塩化亜鉛(II)などの金属塩とともにエチレングリコール中で加熱することにより、前記の各種官能基を任意の比率で有するフタロシアニン誘導体を合成できる。ここで該フタロニトリル化合物を原料の一つとして合成できるフタロシアニン誘導体が有する前記の官能基の数は、該フタロニトリル化合物とオルトフタロニトリルとの混合比を変化させることにより任意に変えることができ、例えば平均してフタロシアニン分子あたり、1つの官能基を有するフタロシアニン誘導体を合成したい場合は、該フタロニトリル誘導体とオルトフタロニトリルとの混合を1:3にすればよく、平均して1.5導入したい場合は3:5の比率で、特許文献に記載の方法などを用いて合成することができる。また二種類以上のフタロニトリル化合物とオルトフタロニトリルから、複数種の官能基を有するフタロシアニン誘導体を合成することもできる。
【0063】
さらに置換基を有するフタロニトリル誘導体には前記以外に公知慣用の各種フタロニトリル誘導体が含まれるが、一例として、特開2007−519636号広報の0001段落の化2、特開2007−526881号公報の0006段落記載の化2を挙げることができ、さらには特開2006−143680号広報の0014段落の化2で記載されるオリゴチオフェン類が連結したフタロニトリル誘導体、特開2009−135237号公報の0021段落の化9記載のフラーレン類を連結したフタロニトリル誘導体なども、本発明で用いることができるフタロシアニン誘導体を合成するための原料に含まれる。
【0064】
第一工程(フタロシアニンナノワイヤー(A)の製造工程)
本発明の第一工程であるフタロシアニンナノワイヤーの製造方法(I)〜(III)について説明する。
【0065】
<製造方法(I)>
本製造方法は、
(1)フタロシアニンとフタロシアニン誘導体とを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて複合体を得る工程(a)と、
(2)前記複合体を微粒子化して、微粒子化複合体を得る工程(b)と、
(3)前記微粒子化複合体を有機溶媒に分散させて分散体を得る工程(c)と、
(4)前記分散体をナノワイヤー化する工程(d)と
を有するものである。
【0066】
・工程(a)
一般にフタロシアニン類は硫酸などの酸溶媒に可溶であることが知られており、本発明のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法においても、まず前記フタロシアニンと前記フタロシアニン誘導体とを硫酸、クロロ硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の酸溶媒に溶解させる。その後に水などの貧溶媒に投入して該フタロシアニンとフタロシアニン誘導体の複合体を析出させる。
【0067】
ここで、該フタロシアニン誘導体の該フタロシアニンに対する混合比は5質量%から200質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは30質量%から120質量%である。混合比が5質量%以上の場合は、該フタロシアニン誘導体が有する官能基あるいはポリマー側鎖の作用により、後述する工程を経て一方向に結晶成長して良好にナノワイヤー化する傾向を有しており、一方、200質量%以下の範囲にあれば該官能基やポリマー側鎖が結晶成長を阻害するほど多くないため、良好に一方向結晶成長を経てナノワイヤー化し、アモルファス状態もしくは粒子状となることはない。
【0068】
該フタロシアニンとフタロシアニン誘導体の酸溶媒に対する添加量は未溶解分が無く、完全に溶解できる濃度であれば特に制限はないが、該溶液が十分な流動性を有している程度の粘性を保つ範囲として、20質量%以下が好ましい。
【0069】
該フタロシアニンとフタロシアニン誘導体とを溶解させた溶液を水などの貧溶媒に投入して該フタロシアニンとフタロシアニン誘導体の複合体を析出させる際、該溶液は、貧溶媒に対して、0.01質量%から50質量%の範囲が好ましい。0.01質量%以上であれば、析出する該複合体の濃度も十分高いので、固形分回収が容易であり、50質量%以下であれば、すべての該フタロシアニンとフタロシアニン誘導体が析出して固体状の複合体となり、溶解成分がなく、回収が容易となる。
前記の貧溶媒に関してフタロシアニン及びフタロシアニン誘導体が不溶もしくは難溶性の液体であれば特に制限はないが、析出する複合体の均質性を高く保てることができ、かつ、後述する微細化工程に好適な環境負荷の少ない水もしくは水を主成分とする水溶液を最も好ましい貧溶媒として挙げることができる。
前記工程(a)で得られたフタロシアニンとフタロシアニン誘導体の複合体は透過型電子顕微鏡による観察結果から、アモルファス状態で均一に存在することを確認した。
【0070】
該複合体は濾紙及び、ブフナーロートを用いて濾過し、酸性水を除去するともに、濾液が中性になるまで水洗して、含水した該複合体を回収することができる。回収した複合体は、脱水・乾燥して水分を除去するか、又は次工程において湿式分散法にて微粒子化する場合には、含水状態のままであってもよい。
【0071】
・工程(b)
前記工程(a)を経て得られた複合体を微粒子化することができれば、その方法は特に限定されるものではないが、湿式分散法で前記複合体を微粒子化することが好ましい。例えば、工程(a)で得られた複合体をビーズミル、ペイントコンディショナーなどの微小ビーズを用いた湿式分散機や、プライミクス社製のT.K.フィルミックスに代表されるメディアレス分散機を用いて、水もしくは有機溶媒および含水有機溶媒などの分散溶媒とともに湿式分散して、該複合体を微粒子化する。ここで該複合体の分散溶媒に対する質量比に関しては特に制限はないが、分散効率の観点から、固形分濃度を1質量%から30質量%の範囲で分散処理することが好ましい。分散処理にジルコニアビーズなどの微小メディアを使用する場合は、該複合体の微粒子化の程度を鑑みて、そのビーズ径は0.01mmから2mmの範囲にあると考えてよい。また微小メディアは微粒子化の効率と回収効率の観点から、該複合体の分散液に対して、100質量%から1000質量%の範囲が最も好適に微粒子化できる。
【0072】
なお、得られた微粒子化複合体の水分散液を脱水、乾燥して水分を除去することが好ましい。脱水、乾燥の方法については特に制限はないが、ろ過や遠心分離、ロータリーエバポレーター等による蒸発を挙げることができる。さらに脱水後、さらに真空乾燥機などを用いて水分を完全に除去するまで乾燥してもよい。また前記工程(a)含水複合体を乾燥して水分を完全に除去した後、N−メチルピロリドンやジクロロベンゼンなどの有機溶媒中で湿式分散して、微粒子化複合体を得てもよい。
【0073】
・工程(c)
工程(b)を経て得られた微粒子化複合体をN−メチルピロリドンなどのナノワイヤー化に供される有機溶媒に分散させる。該有機溶媒に関してはフタロシアニン類との親和性が低いものでなければ特に制限はないが、例えば、フタロシアニン類との親和性が高いアミド系溶媒及び芳香族有機溶媒が好ましく、具体的には、フタロシアニンと特に親和性が高いN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンを最も好適な有機溶媒として挙げることができる。上記アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒は単独で用いることもできるが、該アミド系有機溶媒と該芳香族有機溶媒とを任意の比率で混合して使用することもでき、さらには他の有機溶媒と併用して用いることもできる。
【0074】
アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒と併用できる有機溶媒としては、後述する工程においてナノワイヤー化を促進させることができる点からエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類を挙げることができる。これらの有機溶媒は微粒子化複合体をアミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒に分散させた後に添加してもよいし、予め上記有機溶媒と混合してから微粒子化複合体を添加し分散させてもよい。

上述の微粒子化複合体に対する有機溶媒の添加量に関しては、適当な流動性を有し、かつ、凝集防止の観点から、該微粒子化複合体の該有機溶媒に対する固形分濃度が0.1%から20%の範囲にあり、さらに好ましくは1%から10%である。
【0075】
ここで、前記工程(b)で水分散によって微粒子化複合体を得た場合は遠心分離などによって脱水した該微粒子化複合体を上述の有機溶媒に分散することもでき、該分散液が水分を含んでいても後述する工程でナノワイヤーを得ることができる。
【0076】
・工程(d)
工程(c)を経て得られた微粒子化複合体の有機溶媒分散液を加熱、攪拌、もしくは静置することにより、フタロシアニンのナノワイヤーが製造できる。本工程におけるナノワイヤーの製造においては、加熱を行っても行わなくてもよい。加熱を行う場合には、加熱温度は、50℃から250℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは100℃から200℃である。加熱温度が50℃以上であれば、十分にフタロシアニン類の結晶成長を誘発することができ、目的とする一方向結晶成長により、ナノワイヤーへ成長可能であり、また250℃以下であればナノワイヤーの凝集、融着がほとんど見られず、幅方向に結晶成長して粗大化することもない。また加熱時間には特に限定は無いが、フタロシアニンナノワイヤーの長さが100nm以上に成長するまでに、少なくとも10分以上加熱することが好ましい。
【0077】
前記の工程(a)から工程(d)まで処理することにより、幅(短径)が100nm以下であり、ワイヤーの長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを製造することができる。フタロシアニンとフタロシアニン誘導体が工程(a)の晶析で複合化され、さらに工程(b)の微粒子化複合体を経て、工程(d)でナノワイヤー化する機構に関しては必ずしも明確ではないが、工程(b)で得られる微粒子化複合体の粒子径が10nmから20nmであり、該微粒子化複合体粒子が工程(d)により、フタロシアニンの結晶面方向に連結して、一方向にのみ結晶成長することにより、ナノワイヤー化するものと推測できる。この際、工程(c)の有機溶媒はフタロシアニンの良分散媒として機能しており、一方向結晶成長を誘発してナノワイヤー化をより促進しているものと考えられる。あるいは、加熱により微粒子複合体からフタロシアニンとフタロシアニン誘導体が一旦溶解し、複合体表面に再結晶化することにより、ナノワイヤー化するとも推測できる。この際、複合体表面には比較的溶解度の低いフタロシアニンが多く残留したドメインが存在し、このドメインがナノサイズであるが為に、ナノサイズの直径を持った結晶が得られると考えられる。
【0078】
<製造方法(II)>
本製造方法は、
1.(1)フタロシアニンとフタロシアニン誘導体とを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて複合体(A1)を得る工程(a)と、
(2)前記複合体(A1)を微粒子化して、微粒子化複合体(A2)を得る工程(b)と、
(3)前記微粒子化複合体(A2)を基材上に塗布する工程(c)と
(4)有機溶媒蒸気を暴露し、基材上でナノワイヤーを成長させる工程(d)と
を有することを特徴とするフタロシアニンナノワイヤー、及びナノワイヤー集合体の製造方法、である。
【0079】
製造方法(II)の工程(a)〜(b)においては、前記の製造方法(I)と同様の工程を経ることによって微粒子化複合体(b)を得ることができる。
【0080】
・工程(c)
工程(b)を経て得られた微粒子化複合体(A2)を、粉末あるいは有機溶媒分散体として基板に塗布し、微粒子化複合体塗布基材を得る。微粒子化複合体粉末の塗布方法としては、特に制限はなく、公知慣用の方式を採用することができ、具体的には静電粉体塗装、摩擦転写法、ラビング法等が挙げられる。一方、微粒子化複合体(A2)の有機溶媒分散体の製膜方法にも、特に制限はなく、公知慣用の方式を採用することができ、具体的には、インクジェット法、グラビア法、グラビアオフセット法、オフセット法、凸版法、凸版反転法、スクリーン法、マイクロコンタクト法、リバース法、エアドクターコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ロールコーター法、スクイズコーター法、含浸コーター法、トランスファーロールコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレイコーター法、ダイコーター法、スピンコーター法、バーコーター法、スリットコーター法、ドロップキャスト法等が挙げられる。
【0081】
工程(c)において、微粒子化複合体(A2)の有機溶媒分散体を基材に塗布する場合には、工程(b)を経て得られた微粒子化複合体を有機溶媒に分散して用いる。この分散体作製用の有機溶媒に関しては、フタロシアニン類との親和性が低いものでなければ特に制限はないが、例えば、フタロシアニン類との親和性が高いアミド系溶媒及び芳香族有機溶媒が好ましく、具体的には、フタロシアニンと特に親和性が高いN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンを最も好適な分散用有機溶媒として挙げることができる。上記アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒は単独で用いることもできるが、該アミド系有機溶媒と該芳香族有機溶媒とを任意の比率で混合して使用することもでき、さらには他の有機溶媒と併用して用いることもできる。
【0082】
アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒と併用できる有機溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類を挙げることができる。これらの有機溶媒は微粒子化複合体(A2)をアミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒に分散させた後に添加してもよいし、予め上記有機溶媒と混合してから微粒子化複合体を添加し分散させてもよい。
【0083】
上述の微粒子化複合体(A2)に対する有機溶媒の添加量に関しては、適当な流動性を有し、かつ、凝集防止の観点から、該微粒子化複合体の該有機溶媒に対する固形分濃度が0.1%から20%の範囲にあり、さらに好ましくは1%から10%である。
ここで、前記工程(b)で水分散によって微粒子化複合体(A2)を得た場合は、遠心分離などによって脱水した該微粒子化複合体を上述の有機溶媒に分散することもできる。
【0084】
微粒子化複合体(A2)を塗布する基板としては、塗布によって微粒子化複合体が基材上に固定化されるものであれば、特に制限はなく、金属、ガラスや無機酸化物、ポリマー材料を用いることができる。金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、タングステン、シリコンなどを用いることができ、また、無機酸化物としては、例えば、酸化アルミ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、シリカなどを用いることができる。またポリマー材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等を挙げることができる。
【0085】
・工程(d)
工程(c)を経て得られた微粒子化複合体塗布基材に有機溶媒の蒸気を暴露することによって、該基材上でフタロシアニンナノワイヤーを成長させる。工程(d)において、暴露に用いる有機溶剤としては、フタロシアニン類との親和性が低いものでなければ特に制限はないが、例えば、フタロシアニン類との親和性が高いアミド系溶媒及び芳香族有機溶媒が好ましく、具体的には、フタロシアニンと特に親和性が高いN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンを最も好適な有機溶媒として挙げることができる。上記アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒は単独で用いることもできるが、該アミド系有機溶媒と該芳香族有機溶媒とを任意の比率で混合して使用することもでき、さらには他の有機溶媒と併用して用いることもできる。
【0086】
アミド系有機溶媒及び芳香族有機溶媒と併用できる有機溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭素を挙げることができる。
【0087】
有機溶剤の蒸気温度は、0℃から200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは20℃から100℃である。蒸気温度が0℃以上であれば、ナノワイヤー化に十分な濃度の有機溶剤蒸気を発生させることができる。また暴露時間には特に限定は無いが、フタロシアニンナノワイヤーの長さが100nm以上に成長するまでに、少なくとも10分以上暴露することが好ましい。
前記の工程(a)から工程(d)までの処理を行うことにより、基材上に短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを作製することができる。また、微粒子化複合体(A2)の塗布時に何らかの応力が付与されると、その応力方向に配向成長した、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー集合体の膜を得ることができる。
【0088】
本発明において、塗布時に生じる応力とは、例えば、スピンコート法であれば、塗布回転時に基材中央から外端に生じる放射状の液流れに沿ったものであり、また、バーコートやアプリケーターによる塗布では、バーやアプリケーターの移動方向に生じる応力のことをいう。また、微粒子化複合体(A2)を基材上に塗布した後、別の基材を上部から押しつけて動かすことにより、表面に一定方向の応力を付与しても良い。
【0089】
また、塗布された微粒子化複合膜に応力を付与しない場合にも、溶媒蒸気を一定方向に流して暴露を行うことにより、フタロシアニンナノワイヤーを一定方向に成長させることが可能である。
本発明のカーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体の製造方法においては、後述する様に、フタロシアニンナノワイヤーもしくはフタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成する工程を含む。本フタロシアニンナノワイヤー、フタロシアニンナノワイヤー集合体の製造方法(II)によって得られたフタロシアニンナノワイヤー、もしくは、フタロシアニンナノワイヤー集合体は、基材上に形成された状態で、後工程の焼成過程に供しても良いし、基材上から剥離して、後述する組成物を作製しても良い。
【0090】
<製造方法(III)>
本製造方法は、水溶性多価アルコール中において、フタロシアニン誘導体の存在下、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させることを特徴とするものである。
【0091】
即ち、本製造方法では、水溶性多価アルコールに、フタロシアニン誘導体と、イソインドリン化合物と、金属イオンとを溶解させ、十分攪拌することにより、均一な混合溶液を得る。
撹拌時の温度が80℃よりも高い場合は混合が不十分な段階で一部に不均一な形状のフタロシアニン化合物が生成したり、収率が低下したりする場合もあるため、80℃以下で行うことが好ましい。
【0092】
該フタロシアニン誘導体、該イソインドリン化合物及び金属塩の多価アルコール溶液を80℃以下の温度で混合して混合溶液を得た後、この混合溶液を攪拌しながら80〜200、100〜180℃に加熱することによりイソインドリン化合物と金属イオンとを反応させて固形の反応生成物を得る。
【0093】
あるいは該フタロシアニン誘導体を溶解させた水溶性多価アルコール溶液に、該イソインドリン化合物及び金属塩を含む混合多価アルコール溶液を滴下し、上記と同じ温度範囲に設定しておくことで、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させて、固形の反応生成物を得ることもできる。
【0094】
該イソインドリン化合物と金属塩の混合比に関しては、化学量論的な観点から原料のフタロニトリル化合物4モルに対して金属イオンが1〜4モルになるように調整することが好ましい。
【0095】
本発明で用いることができる水溶性多価アルコールはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどのα−グリコール類及びグリセリンであり、その分子構造中の2つもしくは3つの水酸基が結合している炭素原子が隣接しているものが良い。
【0096】
本発明で用いるフタロシアニン誘導体としては、フタロシアニン環が少なくとも1個以上のスルファモイル基で置換され、かつ多価アルコールに対して溶解性を示す化合物を挙げることができ、より具体的には、前記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0097】
本製造方法における一般式(3)におけるZは、数平均分子量が1000以上の水溶性ポリマー鎖であれば特に制限は無いが、より好ましくは1000以上10000以下の水溶性ポリマーが挙げられる。この様な水溶性ポリマー鎖としては、水溶性を有し水溶性多価アルコールに対して親和性を示すものであれば特に限定無く用いることができるが、より具体的には、ポリアルキレンオキシドを部分構造として有するポリマーの残基が挙げられ、より詳しくは、エチレンオキシドポリマー及びエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどのあらゆるポリアルキレンオキシドを部分構造として有するポリマー鎖であり、ブロック重合したものでも、ランダム重合したものでも用いることができる。好ましくは、Zは前記一般式化14(a)で表される基であるアルキレンオキシドコポリマーに由来するポリマー鎖であり、用いる多価アルコールへの溶解性に応じて、その親水性や親油性を最適化するのが望ましい。ここで、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は、炭素数1〜30に非環状炭化水素基として、直鎖状炭化水素基でも分岐状炭化水素基でもどちらでもよく、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基のどちらでもよい。このような非環状炭化水素基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチル−ヘキシル基、n−ドデシル基、ステアリル基、n−テトラコシル基、n−トリアコンチル基等の直鎖状或いは分岐状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0098】
また、直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基としては、炭化水素基が二重結合又は三重結合を有してもよく、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソプレン基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ゲラニル基、エチニル基、2−プロピニル基、2−ペンテン−4−イニル基等の直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0099】
ポリアルキレンオキシド部分の繰り返し数nは4以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上80以下、更により好ましくは10以上50以下である。繰り返し数nは4未満では分散媒との親和性が不足し、100を超えると分散安定性が低下する傾向がある。
【0100】
前記一般式(3)で表されるフタロシアニン誘導体は、公知慣用の方法を注意深く組み合わせることにより、例えば、銅フタロシアニンスルホニルクロライドとポリエーテル主鎖の末端にアミンを持つポリエーテルアミン(以下、「ポリエーテルモノアミン」と略記)とを反応させて製造できる。原料となる銅フタロシアニンスルホニルクロライドは、銅フタロシアニンとクロロスルホン酸及び/又は塩化チオニルとの反応により得ることができる。他方の原料であるポリエーテルモノアミンは、公知慣用の方法で得ることができる。例えば、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基をニッケル/銅/クロム触媒を用いて還元的にアミノ化することにより得ることができるし、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基を光延反応(参考文献:Synthesis,1−28(1981))によりイミド化したのち、ヒドラジン還元によりアミノ化(参考文献:Chem.Commun.,2062−2063(2003))することにより得ることができる。ポリエーテルモノアミンは市販品としても提供されており、例えばアメリカHuntsman Corporationから「JEFFAMINE(商品名)Mシリーズ」がある。本発明で用いられる一般式(3)で表されるフタロシアニン誘導体としては、例えば前記化16の化合物が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
(但し、式中、Qは水素原子又はメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=30/70(モル比)、nの平均値=47である。)
本発明に用いるイソインドリン化合物は、公知の方法によって合成されうる。例えば、オルトフタロニトリルなどのフタロニトリル化合物をα−グリコール又はグリセリンなどの多価アルコールに加熱溶解させながら、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデック−7−エン(以下、「DBU」という)などの有機塩基や金属アルコキシドの存在下又は非存在下で反応させ、水溶性多価アルコールに可溶なフタロニトリル化合物と該多価アルコール反応生成物を合成する。該反応生成物の構造については、既に我々の研究によりイソインドリン化合物と推定されている。このため、本発明においては、以下、当該反応生成物をイソインドリン化合物と言う。
【0101】
本発明で用いることができるフタロニトリル化合物は、オルトフタロニトリルをはじめ、ベンゼン環又はナフタレン環のオルト位に−CN基を2つ有するものをいい、例えば、下記式[化197]
【0102】
【化19】

【0103】
(式中の環Aは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン基の置換基を有していてもよいベンゼン環又はナフタレン環を示す。)
が挙げられる。環Aがベンゼン環である場合に、その他の部位にハロゲン原子やアルキル基などの官能基が導入されているものでもよい。
【0104】
フタロニトリル化合物と水溶性多価アルコールの反応温度は有機塩基や金属アルコキシドを添加しない場合、80℃以上ならば問題ないが、高い温度では無金属フタロシアニン化合物を生じるので、濾過などの工程が必要になり好ましくない。また温度が低い場合は反応が長時間化する場合もあるので、実用上は100℃から130℃の範囲で15分から8時間反応させることが好ましく、さらに好ましくは1時間から3時間反応させるとよい。得られたイソインドリン化合物を含む溶液は反応終了後、直ちに80℃以下に冷却し、それ以上の反応の進行を停止させることが好ましい。また反応中は窒素雰囲気下に置くなど、大気中の水分の混入を避けることが好ましく、該水溶性多価アルコールもあらかじめ脱水しておくことが好ましい。
【0105】
DBUなどの有機塩基を添加してフタロニトリル化合物と多価アルコールを反応させる場合は、該有機塩基を用いない場合に比べてより低い温度で反応させることができ、無金属フタロシアニン化合物の生成を抑制する上でも都合がよい。具体的には30℃から100℃の範囲で10分から2時間で反応させるとよい。
【0106】
フタロニトリル化合物と水溶性多価アルコールとを反応させる際の質量比に関しては特に限定はないものの、フタロニトリル化合物の濃度が2%よりも低い場合は、後に金属フタロシアニン化合物を合成する際の生産性が低くなり、40%よりも高い場合は得られた溶液の粘度が著しく高くなり、かつ、無金属フタロシアニン化合物の生成量が多くなる場合もあるため、フタロニトリル化合物の濃度が2質量%から40質量%、特に5質量%から20質量%の範囲とすることが好ましい。
【0107】
本発明で用いることができる金属イオンとしては金属フタロシアニンの中心金属となり得るすべての金属イオンを挙げることができ、具体的には銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉄イオンなどが挙げられる。これらの金属イオンは、通常、金属塩を水溶性多価アルコールに溶解させることによって反応に供される。塩としては、ハロゲン化物や硫酸塩などを挙げることができる。例えば銅塩の場合は塩化銅(II)や硫酸銅(II)を好ましい塩として挙げることができる。
フタロシアニン誘導体の存在下で、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させる際、これらの化合物及び金属イオンを含む水溶性多価アルコール溶液に対して、グリコール系溶剤を加えてもよい。グリコール系溶剤は、生成する金属フタロシアニンナノワイヤーとの親和性及び加熱可能な温度を考慮すると、特にグリコールエステル系溶剤が好ましい。具体的な溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを挙げることができるが、これに限定されるものではない。グリコール系溶剤が好ましい理由として本発明のフタロシアニンをナノワイヤー化させるための一方向の結晶成長を促進させる作用を挙げることができる。
【0108】
上記で挙げた本発明のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法のうち、(I)及び(II)の製造方法が好ましく、生産性の観点から(I)の製造方法がより好ましい。上記フタロシアニンとフタロシアニン誘導体の配合を調整することにより、長さと短径が異なる種々のフタロシアニンナノワイヤーを適宜得ることができる。
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法の一形態においては、その第二工程において、フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤とを必須成分とする組成物(B)を得ることを特徴とする。
【0109】
(組成物)
前記、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを有機溶剤に分散させることにより、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体作製用組成物を得ることができる。
前記組成物(B)に用いられる溶剤種は、フタロシアニンナノワイヤーを安定分散させるものであれば特に限定されるものではなく、単独の有機溶剤であっても、二種以上を混合した有機溶剤を用いても良いが、フタロシアニンナノワイヤーを良好かつ安定に分散させることができる点からは、アミド系溶媒が好ましく、具体的には、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジエチルホルムアミドを挙げることができ、中でもN−メチルピロリドンが特に好ましい。
【0110】
また、フタロシアニンナノワイヤーに含有されるフタロシアニン誘導体の種類によって、組成物を構成する溶媒を適宜選択することができ、例えば、[化9]の誘導体を含有するフタロシアニンナノワイヤーを良好かつ安定に分散させることができる好ましい有機溶剤として、アミド系溶剤の他に、例えば、芳香族系溶剤として、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ハロゲン化芳香族系有機溶剤として、クロロベンゼン、又はジクロロベンゼン等の有機溶剤を挙げることができる。
また、ハロゲン系有機溶剤として、クロロホルム、塩化メチレン、又はジクロロエタン等の有機溶剤を挙げることができる。
【0111】
本発明の組成物において、印刷適性付与や良好な膜形成のためには、組成物中のフタロシアニンナノワイヤーの含有率を、0.05〜20質量%とすることが好ましく、特に、0.1〜10質量%とすることが好ましい。
【0112】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法の一形態においては、その第二工程において作製した組成物(B)を、任意の基材上、もしくは容器内で乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体(C1)を得る第三工程を有することを特徴とする。
【0113】
(フタロシアニンナノワイヤー集合体膜の作製)
前記のようにして得られた組成物を印刷もしくは塗工(ウェットプロセス)によって任意の基材上に製膜し、これを乾燥させることにより、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーを含有する集合体膜を得ることができる。
前記組成物(B)の製膜方法としては、特に制限なく公知慣用の方式を採用することができ、具体的には、インクジェット法、グラビア法、グラビアオフセット法、オフセット法、凸版法、凸版反転法、スクリーン法、マイクロコンタクト法、リバース法、エアドクターコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ロールコーター法、スクイズコーター法、含浸コーター法、トランスファーロールコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレイコーター法、ダイコーター法、スピンコーター法、バーコーター法、スリットコーター法、ドロップキャスト法等が挙げられるが、精密なパターニングが必要なときには、インクジェット法、凸版反転法、マイクロコンタクト法が好ましい。
【0114】
前記組成物(B)製膜後の乾燥には、特に制限は無く、インキを構成する有機溶媒の成分に応じて、適宜選択すれば良いが、常温、常圧で乾燥する方法の他、常圧での加熱乾燥、気流下での加熱乾燥、減圧乾燥などを適宜選択することができる。
【0115】
前記組成物(B)を塗布する基材としては、インキを構成する有機溶媒によって損傷を受けない材料であれば特に制限はなく、任意の材料を用いることができ、ガラス、金属、金属酸化物、ポリマー材料などの基材を用いることが可能であるが、基材上にカーボンナノファイバー、もしくは、カーボンナノファイバー集合体を形成させる場合には、後述する焼成過程で温度による損傷を受けない、耐熱性の基材を用いることが必要である。
【0116】
本発明における耐熱性基材とは、ガラス、金属、セラミックスなどを挙げることができ、特に、熱の影響を受けにくい、石英ガラス、アルミナ、酸化チタンなどを好適に用いることができる。
【0117】
(フタロシアニンナノワイヤー集合体の作製)
前記のようにして得られた組成物を任意の容器内で乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体(C1)を得る場合に用いる容器としては、インキを構成する有機溶媒によって損傷を受ける材料でなければ、特に制限無く用いることができ、ガラス、金属、金属酸化物、ポリマー材料の容器を用いることができる。また、容器の形状についても特に制限は無く、任意の形状のものを好適に用いることができる。
乾燥は、容器のふたを開けた状態、常温、常圧で静置する方法の他、常温で加熱、凍結乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥などの乾燥方法を適宜選択することが可能である。
【0118】
フタロシアニン集合体の作製は、例えば、ろ過によって、ろ紙上、もしくはガラスやポリマー等のフィルター上に、前記組成物(B)を展開することによって行っても良い。この場合、減圧ろ過を行うと作業効率が向上するので良い。

【0119】
なお、前記、フタロシアニンナノワイヤー及びフタロシアニンナノワイヤー集合体の製造方法(II)において、基材上でフタロシアニンナノワイヤー及びフタロシアニンナノワイヤー集合体を形成させた場合には、この基板を直接、後段の焼成工程に利用することが可能である。
【0120】
(フタロシアニンナノワイヤー、フタロシアニンナノワイヤー集合体の焼成工程)
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法は、前記のようにして得られたフタロシアニンナノワイヤー、もしくはフタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成する工程を有することを特徴とする。
【0121】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法において、加熱焼成温度は、500℃〜1800℃であることが好ましいが、焼成温度が低すぎると、フタロシアニンナノワイヤーが充分炭化せず、カーボンファイバーの形成不良が起こり、焼成温度が高すぎると、分解反応が起こって、カーボンファイバーが消失してしまうので、より好ましい焼成温度は、600℃〜1500℃であり、さらに好ましくは、700℃〜1200℃の範囲である。
【0122】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造方法において、焼成工程は、フタロシアニンナノワイヤーが熱分解して消失するのを防ぐために、酸素の少ない環境で行うことが好ましい。具体的には、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。
【0123】
前記、焼成工程は、公知慣用の設備、手法を用いて行うことができ、一般に知られているマッフル炉、雰囲気炉、赤外線炉等の各種の焼成炉の他、マイクロウェーブオーブン等も用いることができる。
【0124】
(カーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体)
本発明の一形態は、前記の工程を行うことにより得られるカーボンナノファイバー、及び該カーボンナノファイバーの集合体であり、該カーボンナノファイバーは、短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であることを特徴とする。
【0125】
該カーボンナノファイバーの集合体は、その製造工程において、フタロシアニンナノワイヤーの集合体が有する外観構造を反映する。すなわち、フタロシアニンナノワイヤーと有機溶媒とを含有する前記組成物(B)の乾燥工程によって形成された外観構造を反映する。具体的には、前記組成物(B)が基材上に塗布された場合には、基材上に膜状にカーボンナノファイバー集合体が形成され、サンプル管の様な円柱状容器内で乾燥した後に、焼成したものは、円柱状の外観を有するカーボンナノファイバー集合体となる。また、ろ過によってフィルター上に形成されたフタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成することによって得られるカーボンナノファイバー集合体は、円盤状の外観を示す。カーボンナノファイバーの外観形状は、使用目的によって適宜必要な形状のものを選択すればよい。
【0126】
種々の外観形状を有するカーボンナノファイバー集合体のうち、石英ガラスなど、耐熱性透明ガラス基板上に形成された薄膜状のカーボンナノファイバー集合体は、透明導電膜としての
応用が期待できる。
【0127】
(金属粒子担持カーボンナノファイバー、金属粒子担持カーボンナノファイバー集合体)
本発明のカーボンナノファイバー、及び、カーボンナノファイバー集合体は、フタロシアニンナノワイヤー、及びフタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成することによって得るものであるため、フタロシアニンナノワイヤーを構成するフタロシアニン、フタロシアニン誘導体の中心金属(X)を選択することによって、適宜、カーボンナノファイバー表面に、フタロシアニン分子の中心金属(X)由来の金属微粒子を担持させることが可能である。
【0128】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造に用いることができるフタロシアニンナノワイヤーを構成するフタロシアニン分子の中心金属(X)としては、前記の通り、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)などを好適に用いることができ、それぞれ焼成によって、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、マグネシウム、鉄、チタニル、バナジル、アルミなどの金属微粒子を担持したカーボンナノファイバーを製造することができる。
【0129】
本発明のカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体の製造において、前記、金属粒子担持カーボンナノファイバー、もしくは金属粒子担持カーボンナノファイバー集合体から、金属粒子を除去することによって金属粒子を担持しないカーボンナノファイバー、もしくはカーボンナノファイバー集合体とすることも可能である。この目的には、担持している金属粒子が溶解する溶媒、例えば酸性洗浄剤などをもちいることができる。酸性洗浄剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、スルファミン酸、リン酸、フッ酸などの無機酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、蟻酸、グリコール酸、酢酸などの有機酸を必要に応じて用いることができる。
【0130】
本発明の製造方法を用いることにより、カーボンナノファイバー、および、その集合体を簡便に効率良く製造することが可能であり、当該製造方法によって製造されたカーボンナノファイバー、及びカーボンナノファイバー集合体は、樹脂材料に導電性を付与したり、樹脂材料の機械的特性を向上したりする目的でフィラーとして用いることが可能である。また、水素吸収、放出能やメタン吸収能を利用したガス吸蔵材料、燃料電池用負極材料、透明導電膜用材料としても利用可能であり、さらに、ディスプレイ用の電子放出材料や、触媒担持体、として有用である。
【実施例】
【0131】
以下に、実施例を用いて本発明の詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例において、生成したカーボンナノファイバー集合体の形態観察は、キーエンス社製VE−9800リアルサーフェスビュー顕微鏡(SEM)を用いて行った。また、基材上に作製したカーボンナノファイバー集合体の形態観察は、SIIナノテクノロジー株式会社製の表面プローブ顕微鏡(SPI−4000、SPA―400)を用いた。
【0132】
(実施例1)第一工程 <フタロシアニンナノワイヤーの製造>
ポリエーテルモノアミンとして、Huntsman Corporation製「Surfonamine B−200」(商品名)(第一アミン−末端ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)(5/95)コポリマー、数平均分子量約2,000)692質量部と炭酸ナトリウム66質量部と水150質量部の混合物に、銅フタロシアニンスルホニルクロリド(スルホン化度=1)210質量部を投入し、5℃〜室温で6時間反応させた。得られた反応混合物を真空下で90℃に加熱して水を除去し、下記[化20]で表される銅フタロシアニンスルファモイル化合物を得た。
【0133】
【化20】

【0134】
前記化合物において、Qは水素原子又はメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=29/6(モル比)、nの平均値=35である。
【0135】
・(晶析)
銅フタロシアニン(DIC(株)製、Fastogen Blue 5380E)1.0gとフタロシアニン誘導体のうち、[化20]で表される銅フタロシアニンスルファモイル化合物1.5gを濃硫酸(関東化学(株)製)81gに投入して完全に溶解させ、濃硫酸溶液を調製した。続いて蒸留水730gを1000mLのビーカーに投入し、これを氷水で十分、冷却した後、該蒸留水を撹拌しながら、先に調製した濃硫酸溶液を投入し、銅フタロシアニンと[化20]で表される銅フタロシアニンスルファモイル化合物をとからなる複合体を析出させた。
続いて得られた該複合体を、濾紙を用いてろ過し、蒸留水を用いて十分に洗浄し、含水した該複合体を回収した。この含水複合体の重量を測定したところ、12.4gであった。
【0136】
・(水分散)
工程(1)で得られた銅フタロシアニンと[化20]で表される銅フタロシアニンスルファモイル化合物からなる複合体2.5gを含む含水複合体12.4gを容量50mLのポリプロピレン製容器に投入し、さらに蒸留水を4.3g加えて、該複合体の水に対する重量比を15%とし、次いでφ0.5mmのジルコニアビーズ60gを加えて、ペイントシェイカーを用いて2時間、微分散した。続いて微粒子化した複合体をジルコニアビーズから分離回収し、さらに蒸留水を加えて重量50gの微粒子化複合体水分散液(固形物濃度5%)を得た。
【0137】
・(有機溶媒への分散)
工程(2)で得られた微粒子化複合体水分散液から10g分取し、さらに濃度5Nの塩酸水(和光純薬工業(株)社製)0.5gを加えて、2000回転で1時間、遠心分離したところ、該微粒子化複合体が沈殿した。上澄みの塩酸水を除去し、含水した該微粒子化複合体に4.5gのN−メチルピロリドン(和光純薬工業(株)社製)を加えて、よく振とうした。該分散液を100mLナスフラスコに投入し、さらにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(和光純薬工業(株)社製)を5.0g追加投入して、1時間撹拌した。
【0138】
(ナノワイヤー化)
該微粒子化複合体を分散したN−メチルピロリドンとエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む該ナスフラスコを、オイルバスを用いて加熱し、90分かけて145℃まで昇温した。145℃に到達後、そのままの温度でさらに30分間加熱を継続した。
【0139】
第二工程 <フタロシアニンナノワイヤー組成物の製造>
加熱後の分散液を、メンブレンフィルター(孔径0.1μm)を用いて濾過し、濾残をN−メチルピロリドンでよく洗浄した。該濾残を固形物濃度が2%になるようにN−メチルピロリドンに投入し、よく振とうして銅フタロシアニンナノワイヤー組成物(1)(N−メチルピロリドン分散液)を得た。
ここで得られたフタロシアニンナノワイヤー組成物(1)の固形分を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が約6nm、短径に対する長さの比率が80以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図1、2参照)。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたフタロシアニンナノワイヤーは鋭いX線回折ピークを示すことから、高い結晶性を有することが確認できた。また、フタロシアニンナノワイヤー組成物(1)は極めて安定で、フタロシアニンナノワイヤーの沈降は見られなかった。
【0140】
第三工程〜第四工程
第二工程によって得たフタロシアニンナノワイヤー組成物(1)を、ガラス容器中、80℃で真空加熱乾燥し、フタロシアニンナノワイヤー集合体を得た。このフタロシアニンナノワイヤー集合体を、窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、表面に微粒子を担持した、主として500nm以下の径を有するファイバー状の集合体を得た(図3、4)。このファイバー状集合体のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、この集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。また、X線回折、TEM観察の元素マッピング(図5)により、ファイバー表面に存在する微粒子は、銅の微結晶であることが確認された。
【0141】
(実施例2)
実施例1で得たフタロシアニンナノワイヤー組成物(1)を、スピンコート法により製膜し、石英基板上のフタロシアニンナノワイヤー集合体膜を得た。この青色の膜を窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、石英基板上の発色はほぼ透明となった。この表面のAFM観察を行うと、主として500nm以下の径を有するファイバー状の集合体が基板表面に存在することが確認できた(図6)。この膜のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、表面に存在するファイバー状集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。
【0142】
(実施例3)
実施例1で得たフタロシアニンナノワイヤー組成物(1)を、キャスト法により製膜し、石英基板上のフタロシアニンナノワイヤー集合体膜を得た。この青色の膜を窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、薄黒色の半透明膜となった。この膜の透過率は49.6%で、三菱化学社製、ロレスタGPにより測定した表面抵抗が1.2x10Ω/□を示す導電膜であった。この膜表面のAFM観察を行うと、主として500nm以下の径を有するファイバー状の集合体が基板表面に存在することが確認できた(図7)。この膜のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、表面に存在するファイバー状集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。
【0143】
(実施例4)
実施例1において銅フタロシアニンを1.67g、[化20]式に代えて[化5]式のフタロ
シアニン誘導体を0.83g用いる以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤー組成物(2)を得た。ここで得られたフタロシアニンナノワイヤー組成物中のフタロシアニンナノワイヤー固形分を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が約10nm、短径に対する長さの比率が50以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図8、図9参照)。さらに得られたフタロシアニンナノワイヤーは鋭いX線回折ピークを示すことから、高い結晶性を有することが確認でき、その分散液は極めて安定で、フタロシアニンナノワイヤーの沈降は見られなかった。
この組成物(2)を、実施例1と同様にして、ガラス容器中で真空加熱乾燥し、フタロシアニンナノワイヤー集合体を得た後、窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、表面に微粒子を担持した、200nm以下の径を有するファイバー状の集合体を得た(図10、11)。このファイバー状集合体のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、この集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。また、X線回折、TEMの元素マッピングにより、ファイバー表面に存在する微粒子は、銅の微結晶であることが確認された。
【0144】
(実施例5)
実施例1において銅フタロシアニンを1.67g、[化20]式に代えて[化9]式のフタロシアニン誘導体を0.83g用いる以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤー組成物(3)を得た。ここで得られたフタロシアニンナノワイヤー分散液中のフタロシアニンナノワイヤーを、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が約25nm、短径に対する長さの比率が20以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図12、13参照)。さらに得られたフタロシアニンナノワイヤーは鋭いX線回折ピークを示すことから、高い結晶性を有することが確認でき、その分散液は極めて安定で、フタロシアニンナノワイヤーの沈降は見られなかった。
【0145】
この組成物(3)を、実施例1と同様にして、ガラス容器中で真空加熱乾燥し、ロシアニンナノワイヤー集合体を得た後、窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、表面に微粒子を担持した、200nm以下の径を有するファイバー状の集合体を得た(図14、15)。このファイバー状集合体のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、この集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。また、X線回折、TEMの元素マッピングにより、ファイバー表面に存在する微粒子は、銅の微結晶であることが確認された。
【0146】
(実施例6)
実施例5で得たフタロシアニンナノワイヤー組成物(3)を、直径2.5cm、孔径0.1μmのメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上に直径約2cmの円板状フタロシアニンナノワイヤー集合体を得た。この円板状のフタロシアニンナノワイヤー集合体を、窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、黒色の円板状固体を得た。この固体のSEM観察を行うと、表面に多数の微粒子を担持した、主として500nm以下の径を有するファイバー状の集合体を得た(図16、17)。このファイバー状集合体のラマンスペクトルを測定すると、1590cm−1、1350cm−1にピークが観測され、この集合体がカーボンファイバーであることが確認できた。また、X線回折、TEM観察の元素マッピングにより、ファイバー表面に存在する微粒子は、銅の微結晶であることが確認された。
【0147】
(比較例1)
銅フタロシアニン(DIC(株)製、Fastogen Blue 5380E)の結晶粉末を窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、黒色の粉末を得た。SEM観察を行ったところ、数μ〜数十μmサイズの無定形塊状粒子が観察され、カーボンナノファイバーの存在は認められなかった。
【0148】
(比較例2)
[化9]式のフタロシアニン誘導体を窒素気流下、電気炉を用い、800℃で加熱焼成することによって、黒色の粉末を得た。この粉末は、数μ〜数十μmサイズの無定形塊状粒子であり、SEM観察を行ったところ、表面に微粒子が観察されるが、カーボンナノファイバーは認められなかった(図18、19)。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のカーボンナノファイバーは、樹脂材料に導電性を付与したり、樹脂材料の機械的特性を向上したりする目的でフィラーとして利用することができる。また、水素吸収、放出能やメタン吸収能を利用したガス吸蔵材料、燃料電池用負極材料として、さらにディスプレイ用の電子放出材料や触媒担持体としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン及びフタロシアニン誘導体を含有するフタロシアニンナノワイヤーを焼成して得られるカーボンナノファイバーにおいて、
(1)フタロシアニンが、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン又は鉄フタロシアニンであり、
(2)フタロシアニン誘導体が、一般式(1)、(2)又は(3)で表されるものであり、
【化1】

(但し、式中、Xは、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子からなる群から選ばれる何れかであり、YからYは、フタロシアニン骨格とR〜Rを結合させる結合基を表し、
からYが結合基として存在しない場合には、R〜Rは、SOH、COH、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、
からYが、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−、又は−S(O)−で表される結合基である場合には、R〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【化2】

(但し、式中、Xは銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子からなる群から選ばれる何れかであり、Zは下記式(a)又は(b)で表される基であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【化3】

(ここで、nは4〜100の整数であり、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は炭素数1〜30の非環状炭化水素基である。)
【化4】

(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
(3)フタロシアニンナノワイヤーの短径が100nm以下であり、その短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上である、
ことを特徴とするカーボンナノファイバー。
【請求項2】
前記一般式(1)又は(2)における置換基を有してもよいアルキル基が、メチル基、エチル基又はプロピル基であり、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基が、置換基を有してもよい(オリゴ)フェニレン基又は置換基を有してもよい(オリゴ)ナフチレン基であり、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基が、置換基を有してもよい(オリゴ)ピロール基、置換基を有してもよい(オリゴ)チオフェン基、置換基を有してもよい(オリゴ)ベンゾピロール基又は置換基を有してもよい(オリゴ)ベンゾチオフェン基である請求項1に記載のカーボンナノファイバー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバーの製造方法において、
(1)短径が100nm以下であって、その短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程、
(2)フタロシアニンナノワイヤー(A)を焼成する第二工程、
を有することを特徴とするカーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバーの集合体の製造方法において、
(1)短径が100nm以下であって、その短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程、
(2)フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤とを必須成分とする組成物(B)を得る第二工程、
(3)組成物(B)を基材上、もしくは容器内で乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体(C1)を得る第三工程、
(4)フタロシアニンナノワイヤー集合体を焼成する第四工程、
を有することを特徴とするカーボンナノファイバーの集合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバーの集合体膜の製造方法において、
(1)短径が100nm以下であってその短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤー(A)を得る第一工程、
(2)フタロシアニンナノワイヤーと有機溶剤とを必須成分とする組成物(B)を得る第二工程、
(3)組成物(B)を耐熱性基板上に塗布乾燥させてフタロシアニンナノワイヤー集合体膜(C2)を得る第三工程(c)、
(4)フタロシアニンナノワイヤー集合体膜(C2)を焼成する第四工程(d)、
を有することを特徴とするカーボンナノファイバーの集合体膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−82544(P2012−82544A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228578(P2010−228578)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】