カーボンナノ粒子及びカーボンカプセルの製造方法
【課題】 本発明の課題は、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法を提供することである。
【解決手段】 炭素で形成された電極間にアーク放電を行うことによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、泡沫中で前記電極間にアーク放電を行うことを特徴とするカーボンナノ粒子の製造方法。
【解決手段】 炭素で形成された電極間にアーク放電を行うことによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、泡沫中で前記電極間にアーク放電を行うことを特徴とするカーボンナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法、及びカーボンカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ粒子とは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ナノオニオン、フラーレン、ナノカプセル等のカーボンナノ材料を総称した概念である。これらのカーボンナノ材料は、単独純物質で得られることは殆どなく、これらの混合物として得られる。
【0003】
カーボンナノチューブは、炭素の同素体で、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒状であり、直径が約0.5nmないし10nmで、長さが約数μm程度の微細な材料である。多層カーボンナノチューブは、円筒が複数個、入れ子状につながったものである。カーボンナノチューブは、その電子物性が、螺旋の巻き方により、金属的性質から半導体的性質まで変化することが理論的に明らかにされている。カーボンナノチューブは、次世代の電子材料として有望視されており、ナノエレクトロニクス材料、高指向放射線源、軟X線源、一次元伝導材料、高熱伝導材料、水素貯蔵材料などへの応用が期待されている。表面の官能基化、金属被覆、異物質内包などの処理を加えることによって、カーボンナノチューブの用途は、さらに広がる可能性を秘めている。
よって、カーボンナノチューブを高純度で製造できる製造方法の開発が熱望されている。
【0004】
その他のカーボンナノ粒子についても、感光体、光電変換素子、太陽電池、オプティカルリミッター、トナー、非線形光学素子、スイッチング素子、超伝導体、トランジスタ、ジョセフソン素子、センサー、ダイオード、触媒、エミッタなどへの応用が期待されている。そのため、カーボンナノチューブと同様に、高純度で製造することのできる方法の開発が望まれている。
【0005】
従来、カーボンナノチューブは、(1)減圧下の不活性なガス雰囲気中に、触媒となる金属(コバルトやニッケルなど)を含むグラファイトのターゲットを置き、レーザ照射を施して炭素を蒸発させ、冷却した針状物の上にカーボンナノチューブを成長させるレーザ蒸発法や、(2)プラズマCVD法、(3)SiC結晶の熱酸化による方法、(4)炭素棒を電極に用いて、減圧下の不活性ガス雰囲気中においてアーク放電を施して、炭素棒の上にカーボンナノチューブを成長させるアーク放電法、などによって合成されている。これらの製造方法うち、アーク放電法は、C60フラーレンの大量合成法と認知されて以来、カーボンナノチューブの合成法にも転用され、広く用いられている。
【0006】
しかしながら、上記製造方法の中では収率の高いアーク放電法においても、実用に向けてはまだ収率が低い。また、精製によって不純物を除去する必要があり、精製に極めて時間がかかるという問題があった。
【0007】
アーク放電法では、へリウムガスや水素ガス雰囲気下で、2本の炭素電極間に直流アーク放電を発生させたときに、陽極側の炭素が蒸発し、陰極側の炭素電極表面に凝集した陰極堆積物中に多層カーボンナノチューブが形成される。このアーク放電法によれば、カーボンナノチューブを含む煤を大量に合成することができるが、蒸発した炭素の一部が、堆積物として陰極上に成長するため、結果として、カーボンナノチューブの収率を向上させることができないという問題があった。
【0008】
また、生成した煤には、カーボンナノチューブの他、黒鉛、アモルファスカーボンなどの不純物が含まれているため、精製によって不純物を除去する必要がある。精製は、通常、硝酸などの酸性溶液により、触媒金属を除去し、空気あるいは酸素処理によりアモルファスカーボンや黒鉛を除去することによって行われているが、1gの煤の精製に、3日以上も要するのが現状であり、効率的にカーボンナノチューブを得ることができないという問題があった。
【0009】
一方、新たなアーク放電によるフラーレン類の合成方法として、水中アーク放電の方法が提示された(例えば、非特許文献1参照。)。この方法は、水面に比較的軽量のナノ粒子が浮遊し、水底には多層カーボンナノチューブを含む比較的重い生成物が沈殿するというものである。
【0010】
水中アーク放電の方法では、生成物の中でも比較的重い生成物は、多層カーボンナノチューブと伴に水底に沈殿・堆積するため、必要としている多層カーボンナノチューブを得るには、精製の必要があり、このため容易に高純度でカーボンナノチューブを得ることが困難であるという問題があった。
【非特許文献1】佐野紀彰,真空協会,スパッタリングおよびプラズマプロセス技術部会,第87回定例会プロシーディングス,vol. 19, No. 1, pp. 11-20 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、本発明の目的は、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、泡沫中で、前記電極間にアーク放電を生じさせることを特徴とする。
本発明では、泡沫中でアーク放電を生じさせることにより、発生したカーボンナノ粒子が泡沫中に捕捉されるため、極めて確実に、かつ高純度でカーボンナノ粒子を製造することができる。
また、前記泡沫の泡膜が、液膜であることが好ましく、さらには前記カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブを含有することも特徴の一つである。液膜からなる泡沫を用いると、捕捉されたカーボンナノ粒子は精製することなく、極めて容易に採取できる。
【0013】
さらに、前記泡沫がビールの泡沫である場合には、カーボンナノ粒子を好適に製造できる。泡沫が二酸化炭素を含有する泡沫である場合に好適に製造できる。
【0014】
前記泡沫中に微粉末を含有させて、アーク放電を行うことにより、微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することもできる。
【0015】
すなわち、本発明のアーク放電によるカーボンナノ粒子及びカーボンカプセルの製造方法は、従来のアーク放電による製造方法と比較して、少なくとも以下の点で優れている。
【0016】
(1)製造雰囲気の調整の容易性
従来のアーク放電法は、ヘリウム、アルゴンなどの不活性なガス雰囲気で、かつ減圧下で行われていた。本発明の製造法では、大気下で行うことができる。勿論、不活性ガス雰囲気下でおこなってもよい。
【0017】
(2)高純度なカーボンナノチューブの生成
従来のアーク放電法では、炭素電極表面に堆積した煤の中からカーボンナノチューブ等を抽出しなければならない。
水中アーク放電においても、フラーレン等に比べれば多層カーボンナノチューブは質量が重いことから、水底に沈積し(水中アーク放電では、フラーレン等は水面に浮遊すると提示されている。)、沈積物の中からカーボンナノチューブを抽出する工程が必要である。
一方、本発明のアーク放電法では、泡沫の泡膜にカーボンナノチューブが付着するため、高純度なカーボンナノチューブを得ることができる。
【0018】
(3)精製の容易性
泡沫表面から掬い取ったカーボンナノ粒子には泡沫が付着しているが、この泡沫は液膜からなるため、精製することなく簡単に高純度のカーボンナノ粒子を得ることができる。
【0019】
(4)消費電力の低減
従来のアーク放電法では、大量に発生する煤の中から、極僅かに生成するカーボンナノチューブ等を取り出すため、多くの電力を必要としていた。本発明のアーク放電法では、カーボンナノチューブを発生するだけのエネルギーがあれば充分であり、かつ常圧で行えるため、従来の方法に比べて消費電力を格段に低減できる。
【0020】
(5)使用する装置の簡略
本発明では大気圧下で行えるため、装置は簡素で、かつ極めて安価である。煩雑な操作も不要である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法の提供が可能となる。
また、泡沫中に微粉末を含有させることにより、微粉末を内包したカーボンカプセルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<製造装置>
以下、図1を参照して、本発明のカーボンナノ粒子及びカーボンカプセルの製造方法を実施するための製造装置を説明する。カーボンナノ粒子の製造装置は、一対の炭素電極3,5、及び容器13を含んで構成されている。炭素電極3,5は、導電性の保持具11に保持され、一方の保持具は、スイッチ9を有する配線7を介して電源1と接続され、他方の保持具は直接電源1に接続されている。容器13の内部に、炭素電極3,5が挿入される。
【0023】
炭素電極3及び5は、グラファイト、又はニッケルや鉄等の金属微粉末を含有するもの等いずれであってもよい。
グラファイト電極を用いると、多層カーボンナノチューブを多く含むクラスターが、泡沫表面に付着する。ニッケル等の金属を含有する炭素電極を用いると、単層カーボンナノチューブを含むクラスターが泡膜に付着する。また、泡沫中に鉄等の微粉末を含有させると、微粉末内包のカーボンカプセルが泡膜に付着する。
【0024】
容器13は、溶出しない材質であれば特に問わず、ガラス、琺瑯、ステンレス等、汎用のものを用いることができる。
【0025】
<製造方法及びその条件>
次に、製造方法及びその条件について説明を行う。
容器13内に発泡液15を注入し、発泡させる。発泡液の液面には泡沫17が発生する。泡沫の部分に、炭素電極を挿入する。炭素電極どうしを接触させ、泡が消滅しないうちに、直流電圧を印加し、その後、電極間を僅かに離し、電極間でアーク放電を起こさせる。
印加電流、印加電圧、及び反応時間、直流・交流等の条件は、電極の大きさ、泡沫の種類、製造するカーボンナノ粒子の形状等によって、適宜変更する。泡沫中において炭素電極間でアーク放電が起これば、これらの条件は特に制限がない。
【0026】
本発明では、泡沫を用いることが特徴である。泡沫とは、気泡間に泡膜が形成されている状態をいう。泡沫の形状は、一般に2種類に分類される(吉田時行ら共著「界面活性剤ハンドブック」工学図書株式会社 3版、156頁〜、1996年)。一つは、相互に充分離れた球形気泡よりなる球形泡沫であり、他方は、気泡間に薄い平面の液膜をもつほぼ多面体形の気泡よりなる多面体泡沫である。球形泡沫は気泡の浮力の為に泡膜から流体力学的な排液が起こり、多面体泡沫へと移行する。本発明では、球形泡沫、多面体泡沫いずれの状態であっても良いが、カーボンナノ粒子の採取のし易さから、泡膜が液膜であることが好適である。
【0027】
また、少なくともアーク放電が行われている間は、泡沫の形状を保つ必要があり、泡沫は高い泡沫安定度を有することが望ましいが、アーク放電を行っている間に消滅しないものであれば、いずれの種類の泡沫をも使用できる。例えば、ビール、石鹸水、シェービングフォームなどを例示することができるが、これらに限定されない。アーク放電により発生した炭素粒子を捕捉でき、かつ泡膜が液膜である泡沫であれば、形状、組成等に限定されない。
通常、純粋な液では泡立たないため、発泡する液は少なくとも2成分以上でなければならない。一般に、界面活性剤を含有する溶液は発泡するが、蛋白質、その他の水溶性ポリマーを添加した溶液も安定な泡を生じ、塩類のような界面不活性物質を含む溶液でも泡立つ。非水系溶液においても安定な泡を生じ得る。その他、泡のサイズ等についての制限は、特にない。
発泡する液としては特に制限なく、上記いずれの成分を含有するものであってもよいが、石鹸水、発泡酒、ビールは好適であり、ビールはより好ましい溶液である。これは、泡沫中の気体がビールから発生する二酸化炭素を含むことで、放電が良好に持続すると共に、カーボンナノチューブを気体中に近い環境で生成することができる。さらには、放電により蒸発したカーボンナノ粒子が泡沫に付着することにより、自動的に不純物との分離が行われ、容易にカーボンナノ粒子を採取することが可能になるためと推察される。
【0028】
また、泡沫中に微粉末を含有させると、その微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することができる。微粉末としては、金属、セラミックス、有機高分子等を用いることができ、金属は好適に用いることができる。
微粉末の大きさは、泡沫内から泡沫の下部に存在する発泡液に沈降しない程度の大きさであることが好ましい。
【0029】
泡沫の泡膜にカーボンナノ粒子が付着し、このカーボンナノ粒子にはカーボンナノチューブを多く含む。さらに、泡沫に捕捉されたカーボンナノ粒子は、泡沫が付着しているが、この泡沫は液膜からなるため、簡単に除去される。
よって、従来のアーク放電法によるカーボンナノチューブ等の製造方法のように、酸を用いて大量の煤からカーボンナノチューブを抽出する精製工程を要せずとも、高純度のカーボンナノチューブが得られる。
尚、本発明の製造方法においても、常法の精製工程を加えて、更に高純度なカーボンナノチューブ等を製造することもできる。
【0030】
<生成物>
本発明の泡沫を介するアーク放電では、主に次の3箇所において、黒色の生成物が発生・蓄積する。当該箇所とは、(1)泡沫の液膜表面、(2)陰極側の炭素電極表面、及び(3)泡沫の下部に存在する液体の底部、である。
【0031】
(1)の泡膜に付着した生成物は、その殆どがカーボンナノ粒子である。さらに当該カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブを高純度に含む。本発明の方法により得られるカーボンナノチューブをはじめとするカーボンナノ粒子は、電極間放電により高温で蒸発した炭素粒子が、瞬間的に冷却、再形成された後、泡膜に付着したものであると推測される。
また、本発明では、多層膜からなるカーボンが数回折れ曲がってとぐろ状に絡み合い、直径数100ナノメートル前後の球形を呈するカーボンナノ粒子も、泡沫に付着する場合がある。以下、この球状の物質をポリゴンナノ粒子と称する。ポリゴンナノ粒子を構成するカーボンは、数10層の層を成し、直径が数10ナノメートルである。ポリゴンナノ粒子は、アーク放電のエネルギーにより瞬間的に蒸発した炭素物質が微小気泡中において冷却され再結合したものと推測される。
【0032】
(2)の陰極側の炭素電極表面からは、不純物を多く含むカーボンナノチューブが得られる。炭素電極表面のカーボンナノチューブは、上記泡沫液膜上のカーボンナノチューブと異なり、折れ曲がった形状を呈する。電極表面において長時間、高密度の放電エネルギーを受けるためと推測される。
【0033】
(3)の液中底部の生成物には、直径数十マイクロメートルのカーボンファイバーが見られるが、カーボンファイバーの純度は極めて低い。
【0034】
したがって、カーボンナノチューブを効率良く得るには、泡膜上の黒色生成物を採取する。
【0035】
泡沫液膜上にカーボンナノチューブが多く発生するメカニズムについては、明らかになっていないが、以下のように推測する。但し、本発明は、当該メカニズムに限定されない。
【0036】
アーク放電により発生した炭素粒子が、放電エネルギーにより飛散する。質量の大きい炭素片はいくつもの泡膜を貫通し、重力に従って、泡沫下部の液中底部に沈殿する。一方、比較的質量の小さいナノ粒子は、いくつかの泡膜を通過する過程で、飛散エネルギーが減少し、泡膜に捕捉され、泡膜に付着し堆積する。
即ち、中空物質であるカーボンナノチューブと不純物、例えば巨大グラファイト物質、との密度差による質量の違い、或いは疎水性、親水性の違いを、泡膜を介することにより自動的に分離、選別されるものと推測される。
泡膜上に生成した生成物は、目視で観測可能な大きさのクラスターであり、簡単に掬い取ることができる。かつ、上述のように、カーボンナノチューブの純度も、従来の方法に比べ極めて高い。
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
<準備>
500CCのガラス製ビーカに生ビールサーバによりビールの泡沫を注ぎ、当該泡沫の部分に、直流電源と接続された炭素電極を配置した後、電極間に直流アーク放電を印加した。アーク放電は直流20V、15Aで、反応時間は数秒から30秒程度で行った。炭素電極には純度99.9%のグラファイト電極を用いた。
【0039】
<アーク放電>
炭素電極間に通電をおこなったところ、放電中心部において閃光とともに放電が開始し、電極間より蒸発する炭素気体により泡の上部表面が膨らみだしたが、泡膜間の表面張力により泡が破れることなく、蒸発気体が閉じ込められた状態でさらに放電が持続した。
【0040】
<生成物>
数秒後、放電中心部より発生した黒色の微粒子群が泡沫表面に上昇し多数付着した。
【0041】
<生成物の観察>
放電後の前記泡沫表面に付着した前記黒色の微粒子群を透過電子顕微鏡(以下TEM)で観察した。本製造方法により作製したナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を図2〜図16に示す。
図2は、泡沫表面に付着した黒色の微粒子群の全体を、TEMで観察したものである。図3は、図2の黒色の微粒子群を更に拡大したTEM写真である。図3より、黒色の微粒子群は、直径数マイクロメートルのクラスターであることが分かった。
【0042】
1.多層カーボンナノチューブ
高倍率でこれらのクラスターを観測したところ、図4に示すように、粒子を構成する物質のうち80パーセント前後が、多層カーボンナノチューブを高密度で含んでいた。図5は、図4のカーボンナノチューブの一部を更に拡大したTEM写真である。図5から、得られたカーボンナノチューブが、多層ナノチューブであることが確認された。
特に、当該クラスターの90パーセント前後が、直径数10ナノメートル前後で長さが数マイクロメートル前後の高アスペクト比をもつ直線状の多層カーボンナノチューブであった。
従来のアーク放電法では放電後に採取されるカーボンナノチューブを含む煤の状態で収集されるため、採取した煤を様々な方法により精製して不純物を除去し、カーボンナノチューブのみを分離する必要があった。しかしながら、本発明により泡沫表面から採取した生成物は、精製の過程を一切経ずとも高密度にカーボンナノチューブを得ることができた。
【0043】
2.その他のナノ粒子
前記粒子を構成する残りの20パーセント前後が、図6に示すようなナノホーンや(図7は図6のナノホーンの先端部分を拡大した写真である。)、図8に示すナノオニオン等のカーボンナノチューブ以外のナノ粒子であった。
泡沫表面には、図9に示すような球状の物質が密集する部分が存在した。電子顕微鏡の倍率を上げ観察したところ、図10に示すように、この球状物質は直径数100ナノメートルのポリゴンナノ粒子であった。ポリゴンナノ粒子は、直線状の物質が数回折れ曲がった状態でとぐろ状に絡み合い、球形を構成していた。図10を拡大した図11のTEM写真から、構成する直線状の物質は、直径が数10ナノメートルで、多層膜から形成されていることが判った。
【実施例2】
【0044】
500CCのガラス製ビーカー底部に鉄粉末5mgを散布した。その後、ビールを注ぐと鉄微粒子がビールと共にビーカ内を拡散し、泡沫と共に上昇した。直流電源と接続された炭素電極を該泡沫中に配置した後、電極間に直流アーク放電を印加した。アーク放電は直流20V、15Aで、反応時間は数秒から30秒程度で行った。炭素電極には純度99.9%のグラファイト電極を用いた。
【0045】
<生成物の観察>
アーク放電数秒後、放電中心部より発生した黒色の微粒子群が、泡沫表面に上昇し多数付着した。黒色の微粒子群を透過電子顕微鏡(以下TEM)により観察した。その様子を、図12〜図16に示した。
【0046】
<電子顕微鏡写真>
図12及び図13のTEM写真から、黒色の微粒子群には、多数の鉄微粒子内包のカーボンカプセルが存在することが判明した。図12の鉄微粒子内包のカーボンカプセルを拡大したTEM写真を、図14及び図15に示し、図13の拡大TEM写真を図16に示した。これらのTEM写真から、カーボンの多層膜が、鉄微粒子の周囲を被っていることが分かった。
また、多数の鉄微粒子内包カーボンカプセルのほか、実施例1と同様に、カーボンナノチューブ、ナノホーン及びナノオニオンも得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で用いた反応装置の概略を示す図である。
【図2】実施例1の泡膜に付着したクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図3】図2のクラスターを拡大したTEM写真である。。
【図4】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノチューブのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図5】図4のカーボンナノチューブを拡大したTEM写真である。
【図6】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノホーンのTEM写真の一例である。
【図7】図6のカーボンナノホーンを拡大したTEM写真である。
【図8】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノオニオンのTEM写真の一例である。
【図9】実施例1の泡膜に付着したポリゴンナノ粒子のクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図10】図9のポリゴンナノ粒子を拡大したTEM写真である。
【図11】図9のポリゴンナノ粒子を更に拡大したTEM写真である。
【図12】実施例2の泡膜に付着した鉄微粒子内包カーボンカプセルのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図13】実施例2の泡膜に付着した鉄微粒子内包カーボンカプセルのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図14】図12の鉄微粒子内包カーボンカプセルを拡大したTEM写真である。
【図15】図12の鉄微粒子内包カーボンカプセルを更に拡大したTEM写真である。
【図16】図13の鉄微粒子内包カーボンカプセルを拡大したTEM写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 電源
3 陽極のカーボン電極
5 陰極のカーボン電極
7 配線
9 スイッチ
11 電極保持具
13 容器
15 発泡液
17 泡沫
19 生成した微粒子
21 生成した粗粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法、及びカーボンカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ粒子とは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ナノオニオン、フラーレン、ナノカプセル等のカーボンナノ材料を総称した概念である。これらのカーボンナノ材料は、単独純物質で得られることは殆どなく、これらの混合物として得られる。
【0003】
カーボンナノチューブは、炭素の同素体で、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒状であり、直径が約0.5nmないし10nmで、長さが約数μm程度の微細な材料である。多層カーボンナノチューブは、円筒が複数個、入れ子状につながったものである。カーボンナノチューブは、その電子物性が、螺旋の巻き方により、金属的性質から半導体的性質まで変化することが理論的に明らかにされている。カーボンナノチューブは、次世代の電子材料として有望視されており、ナノエレクトロニクス材料、高指向放射線源、軟X線源、一次元伝導材料、高熱伝導材料、水素貯蔵材料などへの応用が期待されている。表面の官能基化、金属被覆、異物質内包などの処理を加えることによって、カーボンナノチューブの用途は、さらに広がる可能性を秘めている。
よって、カーボンナノチューブを高純度で製造できる製造方法の開発が熱望されている。
【0004】
その他のカーボンナノ粒子についても、感光体、光電変換素子、太陽電池、オプティカルリミッター、トナー、非線形光学素子、スイッチング素子、超伝導体、トランジスタ、ジョセフソン素子、センサー、ダイオード、触媒、エミッタなどへの応用が期待されている。そのため、カーボンナノチューブと同様に、高純度で製造することのできる方法の開発が望まれている。
【0005】
従来、カーボンナノチューブは、(1)減圧下の不活性なガス雰囲気中に、触媒となる金属(コバルトやニッケルなど)を含むグラファイトのターゲットを置き、レーザ照射を施して炭素を蒸発させ、冷却した針状物の上にカーボンナノチューブを成長させるレーザ蒸発法や、(2)プラズマCVD法、(3)SiC結晶の熱酸化による方法、(4)炭素棒を電極に用いて、減圧下の不活性ガス雰囲気中においてアーク放電を施して、炭素棒の上にカーボンナノチューブを成長させるアーク放電法、などによって合成されている。これらの製造方法うち、アーク放電法は、C60フラーレンの大量合成法と認知されて以来、カーボンナノチューブの合成法にも転用され、広く用いられている。
【0006】
しかしながら、上記製造方法の中では収率の高いアーク放電法においても、実用に向けてはまだ収率が低い。また、精製によって不純物を除去する必要があり、精製に極めて時間がかかるという問題があった。
【0007】
アーク放電法では、へリウムガスや水素ガス雰囲気下で、2本の炭素電極間に直流アーク放電を発生させたときに、陽極側の炭素が蒸発し、陰極側の炭素電極表面に凝集した陰極堆積物中に多層カーボンナノチューブが形成される。このアーク放電法によれば、カーボンナノチューブを含む煤を大量に合成することができるが、蒸発した炭素の一部が、堆積物として陰極上に成長するため、結果として、カーボンナノチューブの収率を向上させることができないという問題があった。
【0008】
また、生成した煤には、カーボンナノチューブの他、黒鉛、アモルファスカーボンなどの不純物が含まれているため、精製によって不純物を除去する必要がある。精製は、通常、硝酸などの酸性溶液により、触媒金属を除去し、空気あるいは酸素処理によりアモルファスカーボンや黒鉛を除去することによって行われているが、1gの煤の精製に、3日以上も要するのが現状であり、効率的にカーボンナノチューブを得ることができないという問題があった。
【0009】
一方、新たなアーク放電によるフラーレン類の合成方法として、水中アーク放電の方法が提示された(例えば、非特許文献1参照。)。この方法は、水面に比較的軽量のナノ粒子が浮遊し、水底には多層カーボンナノチューブを含む比較的重い生成物が沈殿するというものである。
【0010】
水中アーク放電の方法では、生成物の中でも比較的重い生成物は、多層カーボンナノチューブと伴に水底に沈殿・堆積するため、必要としている多層カーボンナノチューブを得るには、精製の必要があり、このため容易に高純度でカーボンナノチューブを得ることが困難であるという問題があった。
【非特許文献1】佐野紀彰,真空協会,スパッタリングおよびプラズマプロセス技術部会,第87回定例会プロシーディングス,vol. 19, No. 1, pp. 11-20 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、本発明の目的は、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、泡沫中で、前記電極間にアーク放電を生じさせることを特徴とする。
本発明では、泡沫中でアーク放電を生じさせることにより、発生したカーボンナノ粒子が泡沫中に捕捉されるため、極めて確実に、かつ高純度でカーボンナノ粒子を製造することができる。
また、前記泡沫の泡膜が、液膜であることが好ましく、さらには前記カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブを含有することも特徴の一つである。液膜からなる泡沫を用いると、捕捉されたカーボンナノ粒子は精製することなく、極めて容易に採取できる。
【0013】
さらに、前記泡沫がビールの泡沫である場合には、カーボンナノ粒子を好適に製造できる。泡沫が二酸化炭素を含有する泡沫である場合に好適に製造できる。
【0014】
前記泡沫中に微粉末を含有させて、アーク放電を行うことにより、微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することもできる。
【0015】
すなわち、本発明のアーク放電によるカーボンナノ粒子及びカーボンカプセルの製造方法は、従来のアーク放電による製造方法と比較して、少なくとも以下の点で優れている。
【0016】
(1)製造雰囲気の調整の容易性
従来のアーク放電法は、ヘリウム、アルゴンなどの不活性なガス雰囲気で、かつ減圧下で行われていた。本発明の製造法では、大気下で行うことができる。勿論、不活性ガス雰囲気下でおこなってもよい。
【0017】
(2)高純度なカーボンナノチューブの生成
従来のアーク放電法では、炭素電極表面に堆積した煤の中からカーボンナノチューブ等を抽出しなければならない。
水中アーク放電においても、フラーレン等に比べれば多層カーボンナノチューブは質量が重いことから、水底に沈積し(水中アーク放電では、フラーレン等は水面に浮遊すると提示されている。)、沈積物の中からカーボンナノチューブを抽出する工程が必要である。
一方、本発明のアーク放電法では、泡沫の泡膜にカーボンナノチューブが付着するため、高純度なカーボンナノチューブを得ることができる。
【0018】
(3)精製の容易性
泡沫表面から掬い取ったカーボンナノ粒子には泡沫が付着しているが、この泡沫は液膜からなるため、精製することなく簡単に高純度のカーボンナノ粒子を得ることができる。
【0019】
(4)消費電力の低減
従来のアーク放電法では、大量に発生する煤の中から、極僅かに生成するカーボンナノチューブ等を取り出すため、多くの電力を必要としていた。本発明のアーク放電法では、カーボンナノチューブを発生するだけのエネルギーがあれば充分であり、かつ常圧で行えるため、従来の方法に比べて消費電力を格段に低減できる。
【0020】
(5)使用する装置の簡略
本発明では大気圧下で行えるため、装置は簡素で、かつ極めて安価である。煩雑な操作も不要である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、カーボンナノ粒子、特に、カーボンナノチューブを簡易かつ高純度で製造することのできるカーボンナノ粒子の製造方法の提供が可能となる。
また、泡沫中に微粉末を含有させることにより、微粉末を内包したカーボンカプセルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<製造装置>
以下、図1を参照して、本発明のカーボンナノ粒子及びカーボンカプセルの製造方法を実施するための製造装置を説明する。カーボンナノ粒子の製造装置は、一対の炭素電極3,5、及び容器13を含んで構成されている。炭素電極3,5は、導電性の保持具11に保持され、一方の保持具は、スイッチ9を有する配線7を介して電源1と接続され、他方の保持具は直接電源1に接続されている。容器13の内部に、炭素電極3,5が挿入される。
【0023】
炭素電極3及び5は、グラファイト、又はニッケルや鉄等の金属微粉末を含有するもの等いずれであってもよい。
グラファイト電極を用いると、多層カーボンナノチューブを多く含むクラスターが、泡沫表面に付着する。ニッケル等の金属を含有する炭素電極を用いると、単層カーボンナノチューブを含むクラスターが泡膜に付着する。また、泡沫中に鉄等の微粉末を含有させると、微粉末内包のカーボンカプセルが泡膜に付着する。
【0024】
容器13は、溶出しない材質であれば特に問わず、ガラス、琺瑯、ステンレス等、汎用のものを用いることができる。
【0025】
<製造方法及びその条件>
次に、製造方法及びその条件について説明を行う。
容器13内に発泡液15を注入し、発泡させる。発泡液の液面には泡沫17が発生する。泡沫の部分に、炭素電極を挿入する。炭素電極どうしを接触させ、泡が消滅しないうちに、直流電圧を印加し、その後、電極間を僅かに離し、電極間でアーク放電を起こさせる。
印加電流、印加電圧、及び反応時間、直流・交流等の条件は、電極の大きさ、泡沫の種類、製造するカーボンナノ粒子の形状等によって、適宜変更する。泡沫中において炭素電極間でアーク放電が起これば、これらの条件は特に制限がない。
【0026】
本発明では、泡沫を用いることが特徴である。泡沫とは、気泡間に泡膜が形成されている状態をいう。泡沫の形状は、一般に2種類に分類される(吉田時行ら共著「界面活性剤ハンドブック」工学図書株式会社 3版、156頁〜、1996年)。一つは、相互に充分離れた球形気泡よりなる球形泡沫であり、他方は、気泡間に薄い平面の液膜をもつほぼ多面体形の気泡よりなる多面体泡沫である。球形泡沫は気泡の浮力の為に泡膜から流体力学的な排液が起こり、多面体泡沫へと移行する。本発明では、球形泡沫、多面体泡沫いずれの状態であっても良いが、カーボンナノ粒子の採取のし易さから、泡膜が液膜であることが好適である。
【0027】
また、少なくともアーク放電が行われている間は、泡沫の形状を保つ必要があり、泡沫は高い泡沫安定度を有することが望ましいが、アーク放電を行っている間に消滅しないものであれば、いずれの種類の泡沫をも使用できる。例えば、ビール、石鹸水、シェービングフォームなどを例示することができるが、これらに限定されない。アーク放電により発生した炭素粒子を捕捉でき、かつ泡膜が液膜である泡沫であれば、形状、組成等に限定されない。
通常、純粋な液では泡立たないため、発泡する液は少なくとも2成分以上でなければならない。一般に、界面活性剤を含有する溶液は発泡するが、蛋白質、その他の水溶性ポリマーを添加した溶液も安定な泡を生じ、塩類のような界面不活性物質を含む溶液でも泡立つ。非水系溶液においても安定な泡を生じ得る。その他、泡のサイズ等についての制限は、特にない。
発泡する液としては特に制限なく、上記いずれの成分を含有するものであってもよいが、石鹸水、発泡酒、ビールは好適であり、ビールはより好ましい溶液である。これは、泡沫中の気体がビールから発生する二酸化炭素を含むことで、放電が良好に持続すると共に、カーボンナノチューブを気体中に近い環境で生成することができる。さらには、放電により蒸発したカーボンナノ粒子が泡沫に付着することにより、自動的に不純物との分離が行われ、容易にカーボンナノ粒子を採取することが可能になるためと推察される。
【0028】
また、泡沫中に微粉末を含有させると、その微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することができる。微粉末としては、金属、セラミックス、有機高分子等を用いることができ、金属は好適に用いることができる。
微粉末の大きさは、泡沫内から泡沫の下部に存在する発泡液に沈降しない程度の大きさであることが好ましい。
【0029】
泡沫の泡膜にカーボンナノ粒子が付着し、このカーボンナノ粒子にはカーボンナノチューブを多く含む。さらに、泡沫に捕捉されたカーボンナノ粒子は、泡沫が付着しているが、この泡沫は液膜からなるため、簡単に除去される。
よって、従来のアーク放電法によるカーボンナノチューブ等の製造方法のように、酸を用いて大量の煤からカーボンナノチューブを抽出する精製工程を要せずとも、高純度のカーボンナノチューブが得られる。
尚、本発明の製造方法においても、常法の精製工程を加えて、更に高純度なカーボンナノチューブ等を製造することもできる。
【0030】
<生成物>
本発明の泡沫を介するアーク放電では、主に次の3箇所において、黒色の生成物が発生・蓄積する。当該箇所とは、(1)泡沫の液膜表面、(2)陰極側の炭素電極表面、及び(3)泡沫の下部に存在する液体の底部、である。
【0031】
(1)の泡膜に付着した生成物は、その殆どがカーボンナノ粒子である。さらに当該カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブを高純度に含む。本発明の方法により得られるカーボンナノチューブをはじめとするカーボンナノ粒子は、電極間放電により高温で蒸発した炭素粒子が、瞬間的に冷却、再形成された後、泡膜に付着したものであると推測される。
また、本発明では、多層膜からなるカーボンが数回折れ曲がってとぐろ状に絡み合い、直径数100ナノメートル前後の球形を呈するカーボンナノ粒子も、泡沫に付着する場合がある。以下、この球状の物質をポリゴンナノ粒子と称する。ポリゴンナノ粒子を構成するカーボンは、数10層の層を成し、直径が数10ナノメートルである。ポリゴンナノ粒子は、アーク放電のエネルギーにより瞬間的に蒸発した炭素物質が微小気泡中において冷却され再結合したものと推測される。
【0032】
(2)の陰極側の炭素電極表面からは、不純物を多く含むカーボンナノチューブが得られる。炭素電極表面のカーボンナノチューブは、上記泡沫液膜上のカーボンナノチューブと異なり、折れ曲がった形状を呈する。電極表面において長時間、高密度の放電エネルギーを受けるためと推測される。
【0033】
(3)の液中底部の生成物には、直径数十マイクロメートルのカーボンファイバーが見られるが、カーボンファイバーの純度は極めて低い。
【0034】
したがって、カーボンナノチューブを効率良く得るには、泡膜上の黒色生成物を採取する。
【0035】
泡沫液膜上にカーボンナノチューブが多く発生するメカニズムについては、明らかになっていないが、以下のように推測する。但し、本発明は、当該メカニズムに限定されない。
【0036】
アーク放電により発生した炭素粒子が、放電エネルギーにより飛散する。質量の大きい炭素片はいくつもの泡膜を貫通し、重力に従って、泡沫下部の液中底部に沈殿する。一方、比較的質量の小さいナノ粒子は、いくつかの泡膜を通過する過程で、飛散エネルギーが減少し、泡膜に捕捉され、泡膜に付着し堆積する。
即ち、中空物質であるカーボンナノチューブと不純物、例えば巨大グラファイト物質、との密度差による質量の違い、或いは疎水性、親水性の違いを、泡膜を介することにより自動的に分離、選別されるものと推測される。
泡膜上に生成した生成物は、目視で観測可能な大きさのクラスターであり、簡単に掬い取ることができる。かつ、上述のように、カーボンナノチューブの純度も、従来の方法に比べ極めて高い。
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
<準備>
500CCのガラス製ビーカに生ビールサーバによりビールの泡沫を注ぎ、当該泡沫の部分に、直流電源と接続された炭素電極を配置した後、電極間に直流アーク放電を印加した。アーク放電は直流20V、15Aで、反応時間は数秒から30秒程度で行った。炭素電極には純度99.9%のグラファイト電極を用いた。
【0039】
<アーク放電>
炭素電極間に通電をおこなったところ、放電中心部において閃光とともに放電が開始し、電極間より蒸発する炭素気体により泡の上部表面が膨らみだしたが、泡膜間の表面張力により泡が破れることなく、蒸発気体が閉じ込められた状態でさらに放電が持続した。
【0040】
<生成物>
数秒後、放電中心部より発生した黒色の微粒子群が泡沫表面に上昇し多数付着した。
【0041】
<生成物の観察>
放電後の前記泡沫表面に付着した前記黒色の微粒子群を透過電子顕微鏡(以下TEM)で観察した。本製造方法により作製したナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を図2〜図16に示す。
図2は、泡沫表面に付着した黒色の微粒子群の全体を、TEMで観察したものである。図3は、図2の黒色の微粒子群を更に拡大したTEM写真である。図3より、黒色の微粒子群は、直径数マイクロメートルのクラスターであることが分かった。
【0042】
1.多層カーボンナノチューブ
高倍率でこれらのクラスターを観測したところ、図4に示すように、粒子を構成する物質のうち80パーセント前後が、多層カーボンナノチューブを高密度で含んでいた。図5は、図4のカーボンナノチューブの一部を更に拡大したTEM写真である。図5から、得られたカーボンナノチューブが、多層ナノチューブであることが確認された。
特に、当該クラスターの90パーセント前後が、直径数10ナノメートル前後で長さが数マイクロメートル前後の高アスペクト比をもつ直線状の多層カーボンナノチューブであった。
従来のアーク放電法では放電後に採取されるカーボンナノチューブを含む煤の状態で収集されるため、採取した煤を様々な方法により精製して不純物を除去し、カーボンナノチューブのみを分離する必要があった。しかしながら、本発明により泡沫表面から採取した生成物は、精製の過程を一切経ずとも高密度にカーボンナノチューブを得ることができた。
【0043】
2.その他のナノ粒子
前記粒子を構成する残りの20パーセント前後が、図6に示すようなナノホーンや(図7は図6のナノホーンの先端部分を拡大した写真である。)、図8に示すナノオニオン等のカーボンナノチューブ以外のナノ粒子であった。
泡沫表面には、図9に示すような球状の物質が密集する部分が存在した。電子顕微鏡の倍率を上げ観察したところ、図10に示すように、この球状物質は直径数100ナノメートルのポリゴンナノ粒子であった。ポリゴンナノ粒子は、直線状の物質が数回折れ曲がった状態でとぐろ状に絡み合い、球形を構成していた。図10を拡大した図11のTEM写真から、構成する直線状の物質は、直径が数10ナノメートルで、多層膜から形成されていることが判った。
【実施例2】
【0044】
500CCのガラス製ビーカー底部に鉄粉末5mgを散布した。その後、ビールを注ぐと鉄微粒子がビールと共にビーカ内を拡散し、泡沫と共に上昇した。直流電源と接続された炭素電極を該泡沫中に配置した後、電極間に直流アーク放電を印加した。アーク放電は直流20V、15Aで、反応時間は数秒から30秒程度で行った。炭素電極には純度99.9%のグラファイト電極を用いた。
【0045】
<生成物の観察>
アーク放電数秒後、放電中心部より発生した黒色の微粒子群が、泡沫表面に上昇し多数付着した。黒色の微粒子群を透過電子顕微鏡(以下TEM)により観察した。その様子を、図12〜図16に示した。
【0046】
<電子顕微鏡写真>
図12及び図13のTEM写真から、黒色の微粒子群には、多数の鉄微粒子内包のカーボンカプセルが存在することが判明した。図12の鉄微粒子内包のカーボンカプセルを拡大したTEM写真を、図14及び図15に示し、図13の拡大TEM写真を図16に示した。これらのTEM写真から、カーボンの多層膜が、鉄微粒子の周囲を被っていることが分かった。
また、多数の鉄微粒子内包カーボンカプセルのほか、実施例1と同様に、カーボンナノチューブ、ナノホーン及びナノオニオンも得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で用いた反応装置の概略を示す図である。
【図2】実施例1の泡膜に付着したクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図3】図2のクラスターを拡大したTEM写真である。。
【図4】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノチューブのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図5】図4のカーボンナノチューブを拡大したTEM写真である。
【図6】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノホーンのTEM写真の一例である。
【図7】図6のカーボンナノホーンを拡大したTEM写真である。
【図8】実施例1の泡膜に付着したカーボンナノオニオンのTEM写真の一例である。
【図9】実施例1の泡膜に付着したポリゴンナノ粒子のクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図10】図9のポリゴンナノ粒子を拡大したTEM写真である。
【図11】図9のポリゴンナノ粒子を更に拡大したTEM写真である。
【図12】実施例2の泡膜に付着した鉄微粒子内包カーボンカプセルのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図13】実施例2の泡膜に付着した鉄微粒子内包カーボンカプセルのクラスターを示すTEM写真の一例である。
【図14】図12の鉄微粒子内包カーボンカプセルを拡大したTEM写真である。
【図15】図12の鉄微粒子内包カーボンカプセルを更に拡大したTEM写真である。
【図16】図13の鉄微粒子内包カーボンカプセルを拡大したTEM写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 電源
3 陽極のカーボン電極
5 陰極のカーボン電極
7 配線
9 スイッチ
11 電極保持具
13 容器
15 発泡液
17 泡沫
19 生成した微粒子
21 生成した粗粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、
泡沫中で前記電極間にアーク放電を生じさせることを特徴とするカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記泡沫の泡膜が、液膜であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ粒子が、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記泡沫が、ビールの泡沫であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記泡沫が、二酸化炭素を含有する泡沫であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンカプセルを製造するカーボンカプセルの製造方法であって、
微粉末を含有する泡沫中で、前記電極間にアーク放電を生じさせることにより、微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することを特徴とするカーボンカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記微粉末が、金属微粉末又はセラミックス微粉末であることを特徴とする請求項6に記載のカーボンカプセルの製造方法。
【請求項1】
炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンナノ粒子を製造するカーボンナノ粒子の製造方法であって、
泡沫中で前記電極間にアーク放電を生じさせることを特徴とするカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記泡沫の泡膜が、液膜であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ粒子が、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記泡沫が、ビールの泡沫であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記泡沫が、二酸化炭素を含有する泡沫であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
炭素で形成された電極間にアーク放電を生じさせることによりカーボンカプセルを製造するカーボンカプセルの製造方法であって、
微粉末を含有する泡沫中で、前記電極間にアーク放電を生じさせることにより、微粉末を内包するカーボンカプセルを製造することを特徴とするカーボンカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記微粉末が、金属微粉末又はセラミックス微粉末であることを特徴とする請求項6に記載のカーボンカプセルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−52104(P2006−52104A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233790(P2004−233790)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)
【Fターム(参考)】
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