説明

カーボン・ナノチューブを溶解させる方法およびその使用

本発明は、カーボン・ナノチューブを溶解させる方法であって、負に荷電したナノチューブが正のカウンターイオンと共に得られるようにしてナノチューブを還元する工程を包含する方法に関する。前記本発明は、特に、化合物またはカーボン・ナノチューブのフィルムを調製するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、カーボン・ナノチューブを溶解させる方法およびその利用、特に、複合材の製造およびナノチューブの精製のための利用である。
【0002】
溶液の形態のナノチューブを得ることは、それらの工業的な利用のため、特に、所与の使用のためにそれらを形成するために非常に有益である。このような溶液は、ナノチューブフィルムを形成する、あるいは、含浸によって、ナノチューブを含む複合材を製造するために容易に用いられ得る。それらはまた、ナノチューブを精製するための途を開く。
【背景技術】
【0003】
現在、カーボン・ナノチューブは、最も一般的には、界面活性剤またはポリマー分散剤の添加、および超音波への露出または機能付加によって分散させられる。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、それぞれ、ナノチューブに損傷を与える、および、それらを変性させる、という欠点を有している。
【0005】
第1の方法では、界面活性剤は、ナノチューブの表面から容易に脱着させられ得ず、このことは、特にそれらの電子特性を活用するための本質的なチューブ間接触を妨げる。これらの溶液は、一般に、ナノチューブを溶解させるために高ドーズの超音波を受けさせなければならず、この結果、ナノチューブは、より短い、したがって、異方性がより少ないフラグメントに切り刻まれ、これにより、カーボン・ナノチューブの欠かせないかつ特定の特徴が減少させられる。結果として、ナノチューブの特性が損なわれる。最終的には、得られる系は、熱力学的観点からは準安定性であり、時間とともに再凝集する傾向を有する。
【0006】
第2の方法により、ナノチューブの表面上およびそれらの端部上に官能基が形成され、そのために変性が生じ、これは、再度、ナノチューブの異例な機械的、電気的および光学的な特性の完全な活用を不可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らによる研究は、界面活性剤またはポリマー分散剤および超音波を用いることなく、かつ酸処理を行うことなくナノチューブを溶解させる方法を探すことを目的とした。この結果、これらの目的は、ナノチューブの試験体を(例えば、化学的または電気化学的に)還元することによって達成され得ることが分かった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ナノチューブの完全性(integrity)を可能にし、それにより、それらの特性が失われない、ナノチューブを溶解させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、カーボン・ナノチューブを溶解させる方法は、ナノチューブを還元し、その結果、負に荷電したナノチューブを正のカウンターイオンと共に生じさせる工程を包含することを特徴とする。
【0010】
好ましい実施態様によると、カウンターイオンはアルカリ金属カチオンである。
【0011】
本発明はまた、カーボン・ナノチューブを溶解させる方法であって、ナノチューブに電荷を帯びさせるために、嫌気条件下でナノチューブへ式:

(ここで、
− Aは、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンのカチオンを示し、
− Bは、多環芳香族化合物のアニオンを示す)
の塩を添加する工程を包含し、多環芳香族化合物のアニオンは、これらのナノチューブのための還元剤であることを特徴とする方法に関する。
【0012】
ナノチューブの塩は、ろ過によって媒体から分離され、乾燥させられる。第2工程において、極性溶媒が加えられ、この結果、ナノチューブを含む溶解相および未溶解の相が生じる。ナノチューブ溶液は、次いで、例えば固体残留物の遠心分離によって分離される。
【0013】
この溶液の処理(上記に強調されるように、この処理は、カーボン・ナノチューブデバイスを製造する技術的な選択肢を増加させる)により、ナノチューブは変性しないことが留意されるべきである。
【0014】
特に、現行技術により得られる特性と同等またはそれより優れた特性(例えば、透明フィルム)を得るために、マトリクス中により少ないナノチューブを配置するのに十分であり、ナノチューブの長さが維持されることが分かるだろう
有利には、多環芳香族化合物は、ナフタレン、ベンゾフェノン、フルオレノンおよびアントラキノンから選ばれる。
【0015】
本発明を実施するための適切な極性有機溶媒は、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−ジメチルピロリドンおよびN−メチルホルムアミドを含む。
【0016】
本発明の一つの変形によると、ナノチューブは、カーボンの置換物としてホウ素を含む。
【0017】
本発明の一実施形態では、用いられるナノチューブは、単壁状ナノチューブである。
【0018】
別の実施形態では、ナノチューブは、多壁状ナノチューブである。
【0019】
想定される適用に応じて、用いられるナノチューブは空のナノチューブであるか、そうでなければ、それらは、分子、例えば、感光性分子またはフラーレン、塩(アルカリ金属ハライド等)、その他の金属元素を含む。
【0020】
カーボン・ナノチューブを溶解させる方法は、本発明にしたがって、ナノチューブの精製工程をさらに包含してもよい。
【0021】
本方法はまた、ナノチューブの表面または端部の機能化工程を包含してもよい。
【0022】
有利には、本発明にしたがって得られた溶液は、ポリマーに含浸させるため、帯電防止プラスチックを製造するためまたは機械強化材用、または電磁遮蔽用のために用いられ、そうでなければ、それらは、電気光学特性を有する薄い(場合によっては配向した)フィルムを形成するために基板上に堆積させられる。
【0023】
これらの溶液から開始すると、ナノチューブを精製すること(例えば、結晶化/沈殿、クロマトグラフィー、電気泳動等による)、ナノチューブの中間相(液晶)、バッキー・ペーパーを得ることおよび一般に、カーボン・ナノチューブの非常に有益な機械的、電気的および光学的特性を十分に引き出すあらゆるタイプのデバイスをもたらす形成操作を行うことが可能である。
【0024】
特に、これらの溶液を、有機溶媒に可溶なポリマーと混合するか、または、モノマーと混合し、次いで、ポリマー化するかのいずれかをすることにより透明なコーティングが行われるに至る。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、後に続く実施例において、単一の図を参照しながら与えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施例1:カーボン・ナノチューブのリチウム塩の合成)
手順は、制御された雰囲気中(例えばアルゴン中)で実施された。この塩は、P.PetitらのChemical Physics Letters,1999,305,370-374およびE.JougueletらのChemical Physics Letters,2000,318,561-564からの改変法を用いてナフタレン塩、すなわち、NaphLi(Naph=ナフタレン)が溶解させられたカーボン・ナノチューブのTHF懸濁液の反応によって得られた。
【0027】
特に、NaphLi塩は、ナフタレンを過剰のリチウムとTHF中で、非常に濃い緑(ほぼ黒)の色になるまで反応させることによって調製された。
【0028】
このNaphLi溶液は、次いで、アーク法によって得られた粗カーボン・ナノチューブに加えられ、数時間にわたり攪拌しながら放置された。ナノチューブは、次いで、ろ過され、ナノチューブと接触しているろ過後のTHFの全ての着色が消失するまでTHFにより洗浄処理された。それらは、次いで、室温で真空乾燥させられた。
【0029】
実例として、研究室スケールで行われた合成例が報告される:全ての取り扱い操作は、グローブ・ボックスにおいて、乾燥アルゴン雰囲気(O含有量:<5ppm;HO含有量:<1ppm)中で行われた。
【0030】
250ccのフラスコ中に320ミリグラムのナフタレンが配置され、これに、光沢面の小片状形態の30ミリグラムのリチウム(使用の直線に円刃刀により表皮が剥離された)、次いで、約100ccのTHFが加えられた。フラスコは、溶液が非常に濃い緑色になるまで加熱還流させられ、数時間にわたり還流状態に放置された。この溶液は、次いで、フィルターを介して(過剰の固体リチウムを回避するため)、180ミリグラムの粗ナノチューブ(アーク法によって合成された)上に注がれた。集合物全体は、室温で数時間にわたり攪拌しながら放置された。あるいは、NaphLi濃度の低下は、UV/可視分光分析によってモニタリングされ得た。この溶液は、Millipore(登録商標)タイプの膜(0.45ミクロン孔)によってろ過された。溶液は、THF(リチウム/ナフタレン混合物上で蒸留された)により、フィルターを通過した後にTHFが無色のままであるまで数回洗浄処理された。固体は、次いで、室温で真空乾燥させられた。それは、制御された雰囲気中で少なくとも数箇月を超えて良好な貯蔵安定性を示した。
【0031】
別の実験では、手順は上記と同様であるが、390mgのナフタレン、120mgのナトリウム金属および220mgの粗ナノチューブが用いられ、次に、これは、全て、約15時間にわたり攪拌された。
【0032】
(溶液の調製)
種々の極性有機溶媒(スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)が、ドーピングされたナノチューブに加えられた。数分〜数時間後に、多少暗い溶液が得られた。暗さは溶媒中のナノチューブの溶解性に依存する。
【0033】
(ナノチューブ中性特性の再生)
ナノチューブが帯電されることを必要としない適用のために開放空気中でナノチューブが容易に取り扱われ得るように、溶液を空気に露出することによって、または、方法をスピードアップするために、水またはトルエンを加えることによって、それらの中性の状態が回復させされた。
【0034】
全ての場合において、ナノチューブは再凝集させられ、その時点で、不溶性のフラクションを回収するために溶液をろ過するのに十分であった。
【0035】
(可溶化の実施例)
16ccのDMSO中の40mgのナトリウムをドーピングしたナノチューブが約14時間にわたり、制御された雰囲気中において室温で攪拌された。得られた溶液は、4000rpmで1時間にわたり遠心分離され、次いで、デカンテーションされた。ナノチューブの均一な溶液、すなわち、光学顕微鏡(1000倍拡大)で見える凝集物を含まないものが得られた。ナトリウムがドーピングしたナノチューブの溶解性:DMSOのグラム当たり2mgが得られた。
【0036】
(機能化の実施例)
有機基Rは、下記反応を行うことによってナノチューブに付加された:
(LiNTx−+x(R−Br) → NT(R)+xLiBr
ここで、NTはナノチューブを示し、xは化学量論に対応する整数を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】走査型電子顕微鏡によって撮影されたカーボン・ナノチューブのDMSO溶液から得られた固形物の画像を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン・ナノチューブを溶解させる方法であって、
ナノチューブを還元し、結果として、負に荷電したナノチューブを正のカウンターイオンと共に生じさせる工程を包含することを特徴とする、方法。
【請求項2】
カウンターイオンはアルカリ金属カチオンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノチューブに電荷を帯びさせるために、嫌気条件下、ナノチューブに式:

(ここで、
− Aは、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンのカチオンを示し;
− Bは、多環芳香族化合物のアニオンを示す)
の塩を添加する工程を包含することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
芳香族化合物は、ナフタレン、ベンゾフェノン、フルオレノンおよびアントラキノンから選ばれることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
極性有機溶媒は、スルホラン、ジメチルスルホホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびN−メチルホルムアミドから選ばれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
ナノチューブは、炭素の置換物としてホウ素を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
用いられるナノチューブは、単壁状ナノチューブであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
ナノチューブは、多壁状ナノチューブであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
用いられるナノチューブは、空のナノチューブであることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
用いられるナノチューブは、分子(例えば、感光性分子またはフラーレン)、塩(アルカリ金属ハライド等)またはその他の金属元素を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
ナノチューブの精製工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
ナノチューブの表面または端部の機能化工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
改良された特性を有する複合材、またはカーボン・ナノチューブの配向型または非配向型の薄状フィルム、または複合フィルムの調製への、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法の適用。
【請求項14】
機械強化材、帯電防止材料および電磁遮蔽用材料としての、請求項13に記載の適用。
【請求項15】
導電透明コーティングとしての請求項13に記載の適用。


【公表番号】特表2007−516925(P2007−516925A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546257(P2006−546257)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/FR2004/003383
【国際公開番号】WO2005/073127
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(500049369)サーントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シャーンティフィク (14)
【Fターム(参考)】