説明

カールフィッシャー滴定法を利用した分析装置

【課題】カールフィッシャー滴定法を利用して同時に複数の分析が可能な分析装置であって、装置構成をより簡素化でき、製造コストを更に低減でき、一層の小型化を図り得る分析装置を提供する。
【解決手段】カールフィッシャー滴定法を利用した分析装置は、同時に複数の分析が可能な分析装置であり、本体ケーシング(1)に隣接して配置され且つカールフィッシャー反応により滴定を行う複数の滴定部(4)と、本体ケーシング(1)の内部に収容され且つ各滴定部(4)の操作を制御する1つの制御部と、本体ケーシング(1)の表側に付設され且つ表示部が備えられた操作盤(3)とから主に構成される。制御部は、1基のマイクロコンピュータにより構成され、操作盤(3)からの指示に応じて各滴定部(4)におけるそれぞれの滴定操作を制御する機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カールフィッシャー滴定法を利用した分析装置に関するものであり、詳しくは、カールフィッシャー滴定法を利用して種々の微量成分を分析する分析装置に関するものである。本発明の分析装置は、例えば水分計としても好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
試料中の微量成分の分析においては、各種滴定法を利用した分析装置が使用されており、例えば、カールフィッシャー滴定法を利用した水分計もその1つである。斯かる水分計は、カールフィッシャー反応を生じさせるための滴定部と、滴定部の操作を制御する制御部と、表示部を含む操作盤とから主に構成されており、水分測定においては、試料中の水分量のレベルの違いにより、容量滴定法または電量滴定法の何れかの滴定法が選択される。
【0003】
ところで、上記の様な水分計としては、適用する滴定法の違いも考慮し、多数の試料を効率的に処理するため、1つの装置で同時に複数の処理が可能な装置構成が提案されている。斯かる水分計は、操作盤と複数の制御部とを1つの本体ケーシング(筐体)に組み込み、本体ケーシングの外側に配置された複数の滴定部を各制御部によってそれぞれに制御すると共に、操作盤においてチャンネルを切り替えることにより、滴定部ごとの分析データを共通の表示部で切替表示する様にしたものであり、例えば2系統で同時に独立して水分分析を行えるため、複数の試料を短時間で処理できる。
【特許文献1】特開平10−62387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同時に複数の処理が可能な上記の水分計は、各滴定部ごとに個別の制御部により制御する様になされているため、装置構成、すなわち、本体ケーシング内部の基板や回路の構成が極めて複雑化し、その結果、製造コストが高くなり、また、保守管理も難しくなっている。本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カールフィッシャー滴定法を利用して同時に複数の分析が可能な分析装置であって、装置構成をより簡素化でき、製造コストを更に低減でき、しかも、一層の小型化を図ることの出来る様に改良された分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明では、1基のマイクロコンピュータにより構成された1つの制御部を本体ケーシングの内部に収容し、前記の1つの制御部によって複数の滴定部を制御する様にした。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、カールフィッシャー滴定法を利用して同時に複数の分析が可能な分析装置であって、本体ケーシングに隣接して配置され且つカールフィッシャー反応により滴定を行う複数の滴定部と、前記本体ケーシングの内部に収容され且つ前記各滴定部の操作を制御する1つの制御部と、前記本体ケーシングの表側に付設され且つ表示部が備えられた操作盤とから主に構成され、前記制御部は、1基のマイクロコンピュータにより構成され、前記操作盤からの指示に応じて前記各滴定部におけるそれぞれの滴定操作を制御する機能を備えていることを特徴とするカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置によれば、本体ケーシングの内部に収容され且つ1基のマイクロコンピュータにより構成された制御部により、複数の滴定部を制御するため、装置構成を簡素化でき、その結果、製造コストを更に低減でき、しかも、一層の小型化を図ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る分析装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置の外観を正面側から示した斜視図であり、図2は、本発明に係るカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置における制御系統を示すブロック図である。なお、以下の説明においては、カールフィッシャー滴定法を利用した分析装置を「分析装置」と略記する。
【0009】
本発明の分析装置は、カールフィッシャー滴定法を利用して同時に複数の分析が可能な分析装置であり、例えば、容量滴定法または電量滴定法により試料中の水分量を測定する水分計として使用される。周知の通り、カールフィッシャー法による水分測定法は、ヨウ化物イオン、二酸化硫黄、アルコールを主成分とする電解液(カールフィッシャー試薬)がメタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用して物質中の水分を定量する方法であり、滴定の進め方により電量法と容量法とに分けられる。
【0010】
容量滴定法は、滴定槽に滴定溶剤を入れ、試料を滴定溶剤に溶解して試料中の水分を抽出した後、カールフィッシャー試薬で滴定し、滴定に使用した試薬量から水分量を求める方法である。これに対し、電量法は、電解酸化に要した電気量から直接水分量を換算する方法である。すなわち、電解液に試料を加えて電解酸化をすると、ヨウ素が発生してカールフィッシャー反応が起きるが、ヨウ素は「ファラデーの法則」に基づいて電気量に比例して生成するため、電解酸化に要したクーロン量から直ちに水分量が求められる。電量滴定法は,検出感度が非常に高く、測定範囲は数 g〜30mgHOまでの測定が可能である。通常、容量滴定法は、試料中の水分含有量が例えば10mgを超える場合に適用され、電量滴定法は、試料中の水分含有量が前記の量よりも少ない場合に適用される。
【0011】
以下、本発明の分析装置の構造について、水分計として構成された場合を例に挙げて説明する。本発明の分析装置は、図1に示す様に、本体ケーシング(1)に隣接して配置され且つカールフィッシャー反応により滴定を行う複数の滴定部(4)と、本体ケーシング(1)の内部に収容され且つ各滴定部(4)の操作を制御する1つの制御部(2)(図2参照)と、本体ケーシング(1)の表側に付設され且つ表示部が備えられた操作盤(3)とから主に構成される。
【0012】
本体ケーシング(1)は、制御回路、電源回路、操作盤(3)の回路などを収容でき且つ机上に搭載可能な筐体として形成されている。滴定部(4)は、図1に示す様に、本体ケーシング(1)の例えば両側に2基配置される。滴定部(4)は、前述の滴定を行うための機構であり、図2に示す様に、電量滴定法に適用される滴定部(4)は、スターラーの上に搭載された滴定槽、検出電極および電解電極によって構成され、また、容量滴定法に適用される滴定部(4)は、スターラーの上に搭載された滴定槽、検出電極、および、滴定剤の滴下を行うためのビュレットによって構成される。
【0013】
滴定槽は、ガラス製容器から成り、大気の湿分の混入を防ぐため、O−リング等のシール材を使用したり、すり合わせを調節することにより、蓋や電極ポートの密閉性が保持されている。検出電極は、滴定槽内の電解液(陽極液)の検出電圧をモニタリングする電極であり、斯かる電極としては、通常、双白金電極(直径約1mm、長さ約5mmの2本の白金線をガラス管に付設した電極)が使用される。電解電極は、検出電圧に比例して電解電流を流すための電極であり、白金網などの陽極、陰極、および、セラミック膜などの隔膜から構成され、そして、陰極側には、陽極液とは異なる陰極液が充填される。一方、容量滴定法に適用されるビュレット部は、滴定槽に挿入されたビュレットチップから検出電圧に比例して試薬を滴下する機構であり、パルスモーターによって滴下量を制御される様になされている。
【0014】
図2に示す様に、本体ケーシング(1)の内部には、上記の各滴定部(4)の操作を制御する1つの制御部(2)が収容される。本発明においては、装置構成を簡素化し、装置をよりコンパクトにするため、制御部(2)は、1基のマイクロコンピュータにより構成され、これに書き込まれたプログラムを実行することにより、複数の滴定部(4)を同時に制御する様になされている。
【0015】
具体的には、制御部(2)は、プロセッサ(CPU)、演算用のメインメモリ(RAM)、プログラム格納用のメモリ、コントローラ、信号の入出力機器(I/O)等が搭載されたロジックボードで構成され、予め書き込まれたプログラムにより、滴定の進行に応じて後述の滴定部(4)の各制御回路を制御する機能を備えている。すなわち、制御部(2)に予め書き込まれたプログラムは、操作盤(3)からの指示によって作動すると共に、滴定法の種類を識別し、滴定部(4)からのデータを解析し且つその滴定法に応じた操作手順を個別に実行する様に組み立てられている。
【0016】
上記の様に、制御部(2)は、操作盤(3)からの指示に応じて、各滴定部(4)におけるそれぞれの滴定操作を制御する機能を備えている。なお、各滴定部(4)と制御部(2)とは、本体ケーシング(1)に設けられた信号入出力用のポートを介して接続されるが、制御部(2)においては、各ポートで使用する信号端子を滴定の種類に応じて予め設定しておくことにより、滴定部(4)の仕様違い、換言すれば、滴定法の違いをプログラムにより識別させることが出来る。
【0017】
更に、本体ケーシング(1)の内部には、滴定部(4)を制御するための制御回路が収容される。斯かる制御回路は、検出電極の検出値をモニタリングする回路(検出電極モニタリング回路)、電解速度又は滴下速度を制御する回路(電解又はビュレット滴下制御回路)、滴定終点を検出する回路(終点検出回路)等から構成される。また、本体ケーシング(1)の内部には、後述する操作盤(3)の制御用電気回路が収容され、そして、上記の制御部(2)、滴定部(4)の制御回路および操作盤(3)の制御用電気回路に対し、電力を供給する電源モジュールが設けられる。
【0018】
本体ケーシング(1)の表側には、図1に示す様に、機器の作動を制御するための操作盤(3)が設けられる。操作盤(3)には、図1及び図2に示す様に、分析操作の開始、作動停止、表示の選択、印刷、外部へのデータ出力などの命令を入力するためのキーパネル、各滴定部(4)における分析の進行状況や分析結果を表示するための液晶ディスプレイから成る表示部、および、必要に応じて分析結果を印刷する例えばサーマル方式の小型プリンターが備えられている。図1に例示する様に、キーパネルは、本体ケーシング(1)正面の迫出し部分の略中央に配置され、表示部は、キーパネルの後方に立ち上げられた状態で配置され、プリンターは、キーパネルの右側に印字シートが繰り出される様に配置されている。
【0019】
上記の操作盤(3)に設けられた表示部は、操作盤(3)の制御用電気回路による制御により、キーパネルからの命令の入力に応じて、滴定部(4)における滴定の進行状況、滴定部(4)の滴定操作において得られた分析結果としての水分値を表示する様になされている。また、本発明においては、同時に複数の分析を確認し得る様に、制御部(2)は、これに書き込まれたプログラムによる機能として、後述の操作盤(3)の制御用電気回路を制御し、各滴定部(4)の分析データ(各滴定部(4)ごとに進行している分析状況、各滴定部(4)ごとの分析結果)を操作盤(3)の表示部に同時に表示させる機能を備えている。すなわち、上記の表示部が各滴定部(4)の分析データを同時に表示する様に構成されている。
【0020】
本発明の分析装置による水分の分析においては、図1に示す様に、例えば2基の滴定部(4)を本体に接続し、同時に滴定分析を行うことが出来る。その場合、2基の滴定部(4)において同一の滴定法による分析を行ってもよいし、あるいは、一方の滴定部(4)において1つの試料について容量滴定法による分析を行い、他方の滴定部(4)において前記とは異なる他の試料について電量滴定法による分析を行ってもよい。そして、操作盤(3)の表示部には、各滴定部(4)における分析データを個別に表示したり、並列して同時に表示することが出来る。また、得られた分析結果は、操作盤(3)のプリンターで出力することが出来る。
【0021】
上記の様に複数の滴定部(4)において同時に滴定操作を行う際、本発明においては、1基のマイクロコンピュータにより構成された1つの制御部(2)を本体ケーシング(1)の内部に収容し、1つの制御部(2)によって複数の滴定部(4)を各別に制御する。従って、本発明の分析装置においては、従来の分析装置に比べて、本体ケーシング(1)内部の電子部品や配線を極めて少なくすることが出来る。換言すれば、本発明の分析装置においては、装置構成を一層簡素化でき、その結果、製造コストを更に低減でき、一層の小型化を図ることが出来る。また、本体ケーシング(1)の内部を簡素化できるため、保守管理も容易である。
【0022】
また、分析の際は電子天秤によって試料の重量を測定するが、複数の制御部により各滴定部をそれぞれに制御していた従来の分析装置においては、各滴定部での分析に必要な電子天秤の重量データを各制御部ごとに取り込まなければならず、滴定部と同等の数の電子天秤を設置する必要があった。これに対し、本発明の分析装置では、1つの制御部(2)によって複数の滴定部(4)を制御して各別に分析を行うため、図1及び図2に示す様に、共用の1台の電子天秤(5)を接続し、斯かる電子天秤(5)から得られた重量データを各滴定部(4)の分析ごとに対応させて利用することが出来る。すなわち、複数の分析にそれぞれ必要な試料の重量データを1台の電子天秤(5)から得ることが出来る。従って、分析システム全体として、1台の電子天秤(5)を設置するだけでよく、一層のコストダウンを図ることが出来、実験台の専有面積もより低減できる。
【0023】
更に、図2に示す様に、本発明の分析装置では、得られた分析データをデータベース等に取り込むため、外部のコンピュータ(6)に前記の分析データを出力することも出来る。その場合も、複数の分析データを1つの制御部(2)から出力するため、1台のコンピュータ(6)を準備するだけで多数の分析データを処理でき、後処理に要するコストも低減することが出来、また、省スペース化を図ることも出来る。
【0024】
なお、本発明の分析装置において、滴定部(4)は、固体試料中の水分測定のための加熱気化装置を組み合わせたものでもよい。更に、電量滴定法用の滴定部(4)を使用し、電解液として臭素指数測定用の電解液を充填することにより、水分と臭素指数の測定を同時に行うことも出来る。
【0025】
また、本発明においては、制御部(2)のプログラムの条件を変更し、試薬を選択することにより、炭化水素(飽和、不飽和化合物)、アルコール、多価アルコール、フェノール類(一部)、エーテル、安定ケトン(ジイソプロピルケトン、ベンゾフェノンなど)、安定アルデヒド(ホルムアルデヒド、クロラールなど)、有機酸、ヒドロキシ酸、アミノ酸、酸無水物、エステル、ラクトン、無機酸エステル、オルトエステル、アミン(弱塩基、pKa9以下)、アミノアルコール、蛋白質、アマイド、アニリド、ニトリル、シアンヒドリン、シアン酸誘導体、ニトロ化合物、オキシム、ヒドロキサム酸、チオシアネート、チオエーテル、チオエステル、チオシアン酸、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化アシル、糖類、有機酸塩とその水和物などの滴定分析を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置の外観を正面側から示した斜視図である。
【図2】本発明に係るカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置における制御系統を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
1:本体ケーシング
2:制御部
3:操作盤
4:滴定部
5:電子天秤
6:コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カールフィッシャー滴定法を利用して同時に複数の分析が可能な分析装置であって、本体ケーシングに隣接して配置され且つカールフィッシャー反応により滴定を行う複数の滴定部と、前記本体ケーシングの内部に収容され且つ前記各滴定部の操作を制御する1つの制御部と、前記本体ケーシングの表側に付設され且つ表示部が備えられた操作盤とから主に構成され、前記制御部は、1基のマイクロコンピュータにより構成され、前記操作盤からの指示に応じて前記各滴定部におけるそれぞれの滴定操作を制御する機能を備えていることを特徴とするカールフィッシャー滴定法を利用した分析装置。
【請求項2】
制御部は、各滴定部の分析データを表示部に同時に表示させる機能を備えている請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
容量滴定法または電量滴定法により試料中の水分量を測定する水分計である請求項1又は2に記載の分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−278919(P2007−278919A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107323(P2006−107323)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(595111929)株式会社ダイアインスツルメンツ (8)