説明

ガイドロール

【課題】ミスアライメントによる皺の発生を防止できるガイドロールを提供する。
【解決手段】ガイドロール10の表面に、ウエブWに対する滑り止め加工が施された滑り止め加工部16、16が、一又は複数の間隙20を介して複数形成され、かつ、複数の前記滑り止め加工部16、16が前記ガイドロール10の幅方向の中心に関して左右対称に形成され、前記滑り止め加工部16、16以外の表面が平滑に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエブを搬送するためのガイドロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛、フィルム、金属箔、紙などの長尺状のウエブに塗工液を塗工する塗工装置や、ウエブを加熱して熱処理を行う熱処理装置においては、ウエブを安定して搬送させるガイドロールを用いている。
【0003】
本出願人は、このウエブとガイドロールとの間の滑りを防止して皺の発生を防止するガイドロール100を提案した(特許文献1参照)。図9に示すように、このガイドロール100は、ガイドロール100の中央表面のみに、ウエブに対する滑り止め加工部102を形成し、その中央以外の両側部104,104の表面は平滑にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−62238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記ガイドロール100においても、当該ガイドロール100と、一つ手前のガイドロールとの間にミスアライメント(両軸心の角度誤差)が生じている場合には、ガイドロール100の中央表面に滑り止め加工部102を形成しても、ミスアライメントによって皺が発生する問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、ミスアライメントによる皺の発生を防止できるガイドロールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ガイドロールの表面に、ウエブに対する滑り止め加工が施された滑り止め加工部が、一又は複数の間隙を介して複数形成され、かつ、複数の前記滑り止め加工部が前記ガイドロールの幅方向の中心に関して左右対称に形成され、前記滑り止め加工部以外の表面が平滑に形成されている、ことを特徴とするガイドロールである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の滑り止め加工部を設けることにより、ミスアライメントによる皺の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に一実施例におけるガイドロールの平面図である。
【図2】ガイドロールを用いてウエブを搬送する説明図である。
【図3】皺の拡大図である。
【図4】変更例1のガイドロールの平面図である。
【図5】変更例2のガイドロールの平面図である。
【図6】変更例3のガイドロールの平面図である。
【図7】変更例4のガイドロールの平面図である。
【図8】変更例5のガイドロールの平面図である。
【図9】従来のガイドロールの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例のガイドロール10について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0011】
本実施例のガイドロール10は、図1に示すように、紙、布帛、金属箔、フィルムなどのウエブWを搬送するためのガイドロール10であって、ガイドロール10自身は駆動せず、ウエブWの力によって回転する他動式である。
【0012】
また、ガイドロール10は、図2に示すように、ウエブWの搬送路上に設けられ、1つ手前のガイドロール22から送られてきたウエブWを他の方向に回転させて搬送する。なお、このガイドロール10とガイドロール22との間には、ミスアライメントθが有るものとする。ここで「ミスアライメントθ」とは、図2に示すように、ガイドロール10の軸心とガイドロール22の軸心の角度誤差θを意味する。
【0013】
(1)ガイドロール10の構成
図1に示すように、ガイドロール10は、円柱状のロール本体12の両端部から左右一対の軸14,14が突出している。ガイドロール10の材質は、樹脂含浸を行ったカーボンファイバー、又は、金属製である。ガイドロール10の直径は、70〜200mm(好適には、100mm〜150mmである)であり、全幅M0=250mm〜5m(好適には1.5〜3mである)である。
【0014】
このロール本体12の表面には、2個の滑り止め加工部16,16が間隙20を介して設けられている。滑り止め加工部16,16は、螺旋状の溝を刻設することによって滑り止めを行う。滑り止め加工部16,16は、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設けられている。滑り止め加工部16,16の幅方向の長さM1,M2の合計M1+M2=Mは、ロール本体12の全幅をM0とした場合、MはM0に対し20〜70%、好適には40〜60%である。これにより、ウエブWとガイドロール10との間の滑りを防止して皺の発生を防止できる。
【0015】
ガイドロール10の滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θcrがミスアライメントθより大きく設定されている。これにより、ミスアライメントθによる皺が発生しない。この理由については後から説明する。
【0016】
ガイドロール10の滑り止め加工部16,16以外の両側部18,18と、2個の滑り止め加工部16,16の間にある間隙20には、平滑なメッキ加工がそれぞれ施されている。間隙20の幅方向の長さは、1〜10cmである。
【0017】
(3)2個の滑り止め加工部16,16を設ける理由
次に、本発明者が、2個の滑り止め加工部16,16を設ける構成に至った理由、すなわち、本実施例のガイドロール10において、2個の滑り止め加工部16,16を設けることによって、ミスアライメントθによる皺が発生しない理由について以下説明する。
【0018】
まず、ガイドロール10上のウエブWの限界座屈応力について説明する。ガイドロール10上のウエブWの限界座屈応力σzcrは、次の(1)式で表される。
【0019】

σzcr=L/(i×a){σ(1+ξ/L+ξ/L)−σ} ・・・(1)

上記の(1)式中の各符号は次の(1−1)式から(1−6)式で表される。
【0020】

σ=−T/t ・・・(1−1)

σ=π×DXX/(a×t) ・・・(1−2)

ξ=E/E、 ・・・(1−3)

ξ=4(1−νν)/{1+ν+(1+ν)/ξ}+ν+νξ
・・・(1−4)

XX=E/{12×(1−νν)} ・・・(1−5)

ZZ=E/{12×(1−νν)} ・・・(1−6)、

但し、Eは幅方向でのヤング率、Eは走行方向でのヤング率、LはウエブWの幅、Tは単位幅上の張力値、tはウエブWの厚み、νは走行方向でのポアソン比、νは幅方向でのポアソン比、aはロール間のスパン長である。
【0021】
そして、(1)式中のiは次の(2)式の条件を満たす整数値である。
【0022】

σ{1−i(i+1)ξ×a/L}<σ<σ{1−(i−1)ξ×a/L} ・・・(2)

皺発生時の臨界剪断応力τcrは、次の(3)式で表される。
【0023】

τcr=√(σzcr−σ×σzcr) ・・・(3)

臨界剪断応力τcrによるウエブWの臨界スキュー角θcrは、次の(4)式で表される。ここで「ウエブWの臨界スキュー角θcr」とは、臨界剪断応力τcrによる剪断皺がウエブWに発生しないミスアライメントθに対応した最大角度を意味する。
【0024】


θcr=6aτcr/(E×L) ・・・(4)

ウエブW上の剪断皺の発生条件としては、次の(5)式を満たす必要がある。
【0025】

θ>θcr ・・・(5)

次に、ウエブWの幅Lと臨界スキュー角θcrの具体的な関係について、上記(1)式〜(4)式を用いた計算例で説明する。
【0026】
第1の計算例では、ウエブWの幅L=1000mm、ウエブWの厚みt=40μm、ポアソン比ν=ν=0.3、ヤング率E=E=2.5(GPa)、スパンa=1000mm、ウエブWの張力T=400N/mとすると、θcr=0.04773(°)となる。
【0027】
第2の計算例では、ウエブWの幅L=500mm、ウエブWの厚みt=40μm、ポアソン比ν=ν=0.3、ヤング率E=E=2.5(GPa)、スパンa=1000mm、ウエブWの張力T=400N/mとすると、θcr=0.190984(°)となる。
【0028】
2つの計算結果よりウエブWの幅Lが小さい方が、ウエブWの臨界スキュー角θcrは大きいことがわかる。材料力学の観点からみれば、ウエブWの幅Lが小さくなることによって、幅方向上の2次モーメント値は小さくなる。それによって同じスキュー角に対し、狭いウエブWの幅の方で生じた剪断応力は小さくてすむからである。そのため、狭い幅のウエブWの方はより大きな臨界スキュー角θcrとなる。
【0029】
一方、ガイドロールの回転中で、ウエブWとガイドロールの運動によって、ウエブWとガイドロールの間に空気膜層が形成される。空気層の厚みによって、ウエブWとガイドロール間の接触状態が変化する。ウエブWとガイドロール間の接触状態の変化によって、ガイドロールとウエブW間の摩擦係数は低下し、ガイドロールを回転する必要な駆動力を確保できないこともありうる。そのとき、ガイドロールとウエブWの間にスリップが発生し、ウエブWに損傷を与えることになる。
【0030】
ガイドロールとウエブW間のスリップを避け、ガイドロールとウエブW間の摩擦力を確保するために、ガイドロール表面に滑り止め加工が行われる。但し、ガイドロールとウエブW間の摩擦力が大きすぎると皺の発生原因になる。そこで、特許文献1に示すように、その皺の発生を防止するために、図9に示すように、ガイドロール100の中央表面に滑り止め加工部102を設けた。
【0031】
しかし、特許文献1のガイドロール100では、中央表面に滑り止め加工部102を設けているため、ウエブWとガイドロール100の接触部分は1つ連続的な区域となる。したがって、上記で説明したように、この中央にある滑り止め加工部102とウエブWとが接触することによる臨界スキュー角θcrが小さくなる。そのため、この臨界スキュー角θcrがミスアライメントθより小さくなって皺が発生しやすくなる。なお、この場合に滑り止め加工部102以外の両側部104,104は平滑加工が施されているので、この両側部104,104とウエブWとは滑り、臨界スキュー角θcrに影響を与えない。
【0032】
そこで、本実施例では、ガイドロール10の表面の滑り止め加工部16,16の総加工面積を特許文献1における滑り止め加工部102と変化させずに、かつ、ウエブWの走行方向上の中心線に対し、左右対称に2個の滑り止め加工部16,16を設けて、接触幅を分割している。この分割することによって、1個当りの滑り止め加工部16の接触幅は小さくなって、各滑り止め加工部16に対応した臨界スキュー角θcrが、ガイドロール10,22間のミスアライメントθより大きくなり、皺が発生しにくくなる。
【0033】
以上の説明した理由で、2個の滑り止め加工部16,16を設けると共に、滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θcrがミスアライメントθより大きく設定されていることによって、ガイドロール10の回転に対して必要な摩擦力を確保しながら、ガイドロール10,22間のミスアライメントθによる皺の発生を防止できる。
【0034】
ところで、本実施例のガイドロール10においては、間隙20を設けることにより、2個の滑り止め加工部16を設けているが、間隙20の長さxは、図3に示すようにウエブWの皺の最大幅yよりも大きければよいが、加工精度の問題から1cm〜10cmが好適である。x>yにする理由は、皺の最大幅yより間隙xが小さいと、ウエブWが2個の滑り止め加工部16,16を1つの滑り止め加工部として接触するためである。なお、滑り止め加工部16,16に刻設された溝の間隔は1〜500ミクロンであり、前記間隔20よりも充分に小さい。
【0035】
(3)効果
本実施例によれば、2個の滑り止め加工部16,16を設けると共に、滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θcrが、ガイドロール10,22間のミスアライメントθより大きく設定されているので、ミスアライメントθによる皺の発生を防止できる。
【0036】
また、ガイドロール10であると、滑り止め加工部16,16の幅方向の長さM1,M2の合計M1+M2=Mは、ロール本体12の全幅M0の20〜70%に設定しているため、ガイドロール10とウエブWの間に必要な摩擦力が確保され、ガイドロール10とウエブWとの間に滑りが生じず、ウエブWが傷つくことがない。
【0037】
また、滑り止め加工部16,16は、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設けられているので、ウエブWの走行中に左右にぶれたりすることがない。
【0038】
また、ガイドロール10の両側部18,18は、平滑なメッキ加工を施しているため、その部分における摩擦力が少なくなり、ウエブWやこのウエブWを搬送する装置に歪みがあっても、両側部18,18の摩擦力が少ないため幅方向にずれて、歪みによる皺が発生しない。
【0039】
(4)変更例
本発明は上記各実施例に限らず、その主旨を逸脱しない限り種々に変更することができる。
【0040】
上記実施例では、滑り止め加工部16を2個設けたが、これに限らず、変更例1では、図4に示すように、間隙20を2個設け、滑り止め加工部16を3個設けている。この場合にも、上記実施例と同様に、滑り止め加工部16,16,16の合計の長さM1+M2+M3=Mが、ロール本体12の全幅M0に対し20〜70%の範囲にあればよい。また、滑り止め加工部16,16,16を設ける位置も、上記実施例と同様に、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設ける。
【0041】
上記実施例では、滑り止め加工部16における溝は螺旋状の溝を設けたが、これに限らず、変更例2では、図5に示すような平行な溝を設けている。
【0042】
変更例3では、図6に示すような中央部を対称にした螺旋状の溝を設けている。
【0043】
変更例4では、図7に示すような格子状の溝を設けている。
【0044】
変更例5では、滑り止め加工部16は、図8に示すような梨地状に加工を施している。
【符号の説明】
【0045】
10 ガイドロール
12 ロール本体
14 軸
16 滑り止め加工部
18 両側部
20 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドロールの表面に、ウエブに対する滑り止め加工が施された滑り止め加工部が、一又は複数の間隙を介して複数形成され、かつ、複数の前記滑り止め加工部が前記ガイドロールの幅方向の中心に関して左右対称に形成され、
前記滑り止め加工部以外の表面が平滑に形成されている、
ことを特徴とするガイドロール。
【請求項2】
前記各滑り止め加工部に対応したそれぞれの臨界スキュー角が、ミスアライメントより大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドロール。
【請求項3】
前記間隙が、1cm〜10cmである、
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドロール。
【請求項4】
前記滑り止め加工が、梨地状加工、又は、溝加工である、
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドロール。
【請求項5】
前記両側部の表面は、平滑なメッキ加工が施されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドロール。
【請求項6】
前記ガイドロールの材質が、金属製、又は、樹脂を含浸させたカーボンファイバーである、
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドロール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−245411(P2011−245411A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120488(P2010−120488)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000240341)株式会社ヒラノテクシード (58)
【Fターム(参考)】