説明

ガスクロマトグラフ装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、試料気化室に液体試料を注入し、気化させてカラムに送出するガスクロマトグラフ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えばスプリット分析の場合、図3に示すように、制御部25は試料気化室14に一定流量のキャリヤガスを供給するようにキャリヤガス流量調節弁12を制御するとともに、圧力計16で検出される試料気化室14内の圧力が一定となるようにスプリット弁19の開度を調整する。これにより、スプリット比が一定に保持されるとともに、カラム22入口圧が所定の値に保持され、再現性の良いクロマトグラフィが行なわれる。スプリットレス分析(全量分析)の場合は、図4(b)に示すように、セプタムパージ流路15がスプリット弁19に接続されるが、試料気化室14内の圧力が一定となるようにスプリット弁19の制御を行なうという点はスプリット分析(図4(a))と同様である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】シリンジにより試料気化室14内に液体試料を注入すると、注入された液体試料はニードルの先から噴出する時点で霧化されるとともに、試料気化室周囲に設けられたヒータの熱により直ちに気化される。このとき、液体試料は大きな体積膨張を示す。
【0004】クロマトグラフィでは分析の精度を上げるためにピーク幅をできるだけ狭くすることが望まれる。このため、液体試料の注入は高速で行なわれるが、気化の際の体積膨張により、試料気化室内の圧力は注入直後に急激に上昇する。
【0005】上記の通り、分析の際にはカラム入口圧すなわち試料気化室14内の圧力が一定となるように制御が行なわれるため、このように試料気化室14内の圧力が上昇すると、制御部25はスプリット弁19の開度を大きくして試料気化室14内の圧力を下げようとする。しかし、スプリット分析を行なっている場合はこれによりスプリット比が変化し、所定以上の割合の試料がスプリット流路18から排出されることになるため、正しい分析値が得られなくなる可能性がある。また、スプリットレス分析の場合でも、セプタムパージ流路15から試料が排出される可能性があり、分析の精度が低下する。
【0006】本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、液体試料注入時の試料気化室内圧力の急激な上昇による圧力制御の攪乱を防止し、正確な分析を行なうことができるガスクロマトグラフ装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために成された本発明は、試料気化室に液体試料を注入し、気化させてカラムに送出するガスクロマトグラフ装置において、a)試料気化室に供給されるキャリヤガスの流量を調節するキャリヤガス流量調節手段と、b)試料気化室の圧力を検出する圧力検出手段と、c)試料気化室から排出されるガスの量を調節する排出ガス流量調節手段と、d)試料気化室に供給されるキャリヤガス流量を一定にしつつ、通常は試料気化室内の圧力が所定値となるように排出ガス流量調節手段を制御するとともに、液体試料が試料気化室に注入された直後は該圧力制御を一時停止する圧力制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】なお、上記圧力制御手段に、d1)該一時停止中の試料気化室内の圧力を記憶する圧力記憶手段と、d2)該一時停止が終了し通常制御に戻った際に、記憶した圧力の値に基づいて制御目標圧力値を変化させる目標値変更手段と、を設けることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態及び効果】圧力制御手段は、キャリヤガス流量調節手段を用いて試料気化室に一定の流量のキャリヤガスを供給しておく。そして通常時は、圧力検出手段で検出される試料気化室内の圧力をモニタし、それが所定値P0となるように、排出ガス流量調節手段を用いて試料気化室から排出されるガス(キャリヤガス、又はキャリヤガス+試料ガス)の流量を調節する。なお、所定値P0は一定であることもあり、プログラムにより変化する場合もある。これによりカラム入口圧が所定値P0となるように制御され、所期のクロマトグラフ分析が行なわれて、再現性のあるクロマトグラムが得られる。
【0010】しかし、液体試料の分析を開始する際、液体試料が試料気化室に注入されると、上記のように試料気化室内の圧力は急激に上昇する。このとき上記のような圧力制御が行なわれると、気化された試料がスプリット流路から必要以上に排出され、スプリット比が所定値から外れる。そこで本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、液体試料を注入した直後は上記通常の圧力制御を一時停止する。ここで言う「圧力制御の一時停止」とは、検出した圧力に基づいて排出ガスの流量を変化させるという制御を停止するということであり、スプリット流路の流路抵抗が、その一時停止直前の値に固定されるということである。これにより、スプリット分析のスプリット比が常に所定値に維持されるようになり、正確な分析が可能となる。
【0011】なお、圧力制御の一時停止の開始時点は、圧力制御手段が試料気化室内の圧力値(又はその変化)に基づいて判断してもよいし、自動試料注入装置を用いて液体試料の注入を行なう場合には、自動試料注入装置から注入開始信号を受け、それに基づいて決定してもよい。また、手動で液体試料の注入を行なう場合には、操作者のボタン操作等の手動操作に基づいて一時停止の開始時点を決定してもよい。
【0012】一方、圧力制御の一時停止の終了時点は、同様に圧力制御手段が試料気化室内の圧力の低下の度合いから判断してもよいし、一時停止を開始してから所定時間後としてもよい。
【0013】次に、圧力制御をこのように一時停止すると、その間、試料気化室内の圧力は所定値P0よりも高くなっている。すなわち、カラム入口圧が高くなるため、ガスクロマトグラフィの各成分の保持時間(リテンションタイム)は短い方に移動する。この保持時間の移動量は試料の注入量により変化するため、再現性の点で問題があり、各成分の同定に支障を来すおそれがある。そこで、一時停止中の試料気化室内の圧力(の経時変化)を圧力記憶手段に記憶させ、一時停止が終了して通常制御に戻った際に、記憶した圧力(の経時変化)の値に基づいて上記所定値(制御目標圧力値)P0を変化させる。具体的には、一時停止中は試料気化室内の圧力が上昇しているため、一時停止終了後制御目標値P0を低下させる。これにより、各成分の保持時間は長い方に移動する。従って、記憶された圧力値に基づいて制御目標値P0の低下の度合いを適切に定めることにより、最終的には各成分の保持時間が変化しないようにすることができる。
【0014】
【実施例】本発明の一実施例であるガスクロマトグラフ装置を図1、図3、図5により説明する。本実施例のガスクロマトグラフ装置の構成は図3に示すように基本的に従来のものと同様であり、キャリヤガス源11、キャリヤガス流量調節弁12、キャリヤガス流量計(F)13、試料気化室14、セプタムパージ流路15、圧力計(P)16、スプリット流路18、スプリット弁19及び制御部25等から成る。本実施例のガスクロマトグラフ装置でスプリット分析を行なう場合の制御部25の動作を図5のフローチャートに沿って次に説明する。
【0015】まず、分析条件であるカラム入口圧P0、スプリット比S0等を所定の分析条件ファイルから入力する(ステップS1)。もちろん、操作者がキーボード等から手動で入力してもよい。なお、この分析条件にはカラム温度等も含まれており、それに応じて制御部25はカラム22の周囲に設けたヒータを制御するが、ここでは圧力制御以外の部分については説明を省略する。
【0016】次に、与えられた分析条件を実現すべく、試料注入を行なう前の初期設定を行なう(ステップS2)。すなわち、与えられた分析条件及びカラム諸元(内径、長さ)よりカラム22のガス流量を算出し、その値とスプリット比S0に基づいてキャリヤガス流量調節弁12及びスプリット弁19の開度の初期値を決定する。そして、各弁12、19の開度をその初期値に設定した後、キャリヤガスを実際に流して試料気化室14の圧力を圧力計16で検出し、カラム入口圧がP0に、スプリット比がS0となるようにキャリヤガス流量調節弁12及びスプリット弁19の開度を調節する。その後、本実施例では、試料気化室14に導入するキャリヤガスの流量は固定しておき、スプリット弁19の開度を調節することによりカラム入口圧がP0で維持されるように制御する。以上のように分析条件が整った後、制御部25は初期設定が終了した旨の信号を出力する。これにより操作者は試料注入を行なうことができ、又は自動試料注入装置が注入動作を開始する。
【0017】初期設定終了後は上記の通り、制御部25は圧力計16の検出値Pmを入力し(ステップS3)、Pm=P0且つスプリット比S=S0となるように、スプリット弁19の開度を調節する(ステップS6)が、その間、検出圧力Pmの変化率[dPm/dt]が所定値cを超えるか否かを判定する(ステップS4)。液体試料の注入が行なわれると、図1に示すようにdPm/dtは急激に変化するため、ステップS4の判定結果がYESとなり、一時停止処理(ステップS5)に移行する。
【0018】一時停止処理では図5(b)に示すように、スプリット弁19の開度を直前の値に固定する(ステップS51)。これにより、液体試料注入直後の試料気化室14内の急激な圧力上昇に追従してスプリット弁19が過度に開放されるという事態が防止される。その後は、圧力計16からの圧力信号Pmを入力し(ステップS52)、所定の終了条件が満たされているか否かを判定する(ステップS53)。ここでは、一時停止処理の終了条件は、カラム入口圧Pmが所定値f(P0)以下になることとしている。所定値f(P0)は設定カラム入口圧P0の関数であり、例えば[f(P0)=P0×1.05]等とする。ステップS53で終了条件が満たされたと判定されると、制御部25は一時停止処理を終了し、本処理(図5(a))のステップS3に戻る。
【0019】本処理に戻った後は、ステップS4の条件を満たすような事態は通常生じないため、所定の分析終了条件(ステップS7。例えば、試料注入後所定の時間が経過した)が満たされるまでステップS6の圧力・スプリット比制御を行なう。
【0020】上記実施例では、圧力制御の一時停止を検出圧力Pmの変化率[dPm/dt]が所定値cを超えるか否かで判定したが、圧力値Pmが目標カラム入口圧P0の関数として定められる所定値g(P0)(例えば、g(P0)=P0×1.1)を超えるか否かで判定してもよい。
【0021】上記のように試料注入直後に圧力制御を一時停止した場合、図1のように、その間、試料気化室14内の圧力は上昇する。つまり、カラム入口圧が高くなるため、試料を乗せたキャリヤガスはカラム22内では設定条件以上の速度で移動し、各成分の保持時間(リテンションタイム)が変化する(短くなる)。そこで、圧力制御の一時停止処理が終了した後に、上記影響をキャンセルするような補償処理を行なうようにするとよい。これを図6及び図2により説明する。
【0022】図6のフローチャートは、図5(b)の一時停止処理(ステップS51〜S53)にステップS521、S54〜S58を付加したものである。すなわち、一時停止処理(ステップS51〜S53)中は、検出した圧力値Pmのデータを制御部25内のメモリ(図示せず)に記憶しておく(ステップS521)。一時停止処理の終了条件が満たされた(ステップS53)後は、直ちに本処理に戻るのではなく、次のような圧力補償処理を行なう。まず、一時停止処理中にメモリに格納された圧力検出値Pmのデータを全て読み出し、[Pm−P0]の和を算出する(ステップS54)。この和は、一時停止処理期間中の圧力増加分の時間積分[∫(Pm−P0)dt]に相当し、カラム内のガスの運動量を増加させる力積に相当する。次に、この圧力積分値を相殺するための目標圧力値Pc及び時間tcを決定する(ステップS55)。もちろん、Pc<P0である。そして、時間tcの間、目標圧力はPcとされ、圧力及びスプリット比制御が行なわれる(ステップS56〜S58)。この処理により、一時停止処理期間中のカラム22内のガスの運動量の増加分が相殺され、注入された試料の各成分がカラム22から出るときには、所定の保持時間通りに出るようになる。
【0023】なお、上記ではスプリット制御の例で本発明を説明したが、本発明はスプリットレス分析(全量分析)の場合にも同様に適用することができる。図4(a)、(b)に示すように、図3の構成を有するガスクロマトグラフ装置は、三方弁21を切り替えることにより、スプリット分析とスプリットレス分析(全量分析)の双方を行なうことができる。従って上記同様、図5R>5のフローチャートのようにスプリット弁開度の制御を行なうことにより、注入試料がセプタムパージ流路15から排出されるという不都合が防止される。また、同様に、図6のフローチャートのように一時停止及び圧力補償処理を行なうことにより、保持時間の変化も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施例のガスクロマトグラフ装置の試料気化室内の圧力の変化及びスプリット弁の開度制御の変化を示すグラフ。
【図2】 第2の実施例のガスクロマトグラフ装置の試料気化室内の圧力の変化及びスプリット弁の開度制御の変化を示すグラフ。
【図3】 本発明の実施例のガスクロマトグラフ装置の概略構成図。
【図4】 実施例のガスクロマトグラフ装置によりスプリット分析(a)及びスプリットレス分析(b)を行なう場合のキャリヤガスの流れを示す流路図。
【図5】 第1の実施例のガスクロマトグラフ装置における分析の際の試料気化室内の圧力制御処理(a)及びその一時停止処理(b)のフローチャート。
【図6】 第2の実施例のガスクロマトグラフ装置における圧力制御の一時停止処理及びその後の圧力補償処理のフローチャート。
【符号の説明】
11…キャリヤガス源
12…キャリヤガス流量調節弁
14…試料気化室
15…セプタムパージ流路
16…圧力計
18…スプリット流路
19…スプリット弁
21…三方弁
22…カラム
25…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 試料気化室に液体試料を注入し、気化させてカラムに送出するガスクロマトグラフ装置において、a)試料気化室に供給されるキャリヤガスの流量を調節するキャリヤガス流量調節手段と、b)試料気化室の圧力を検出する圧力検出手段と、c)試料気化室から排出されるガスの量を調節する排出ガス流量調節手段と、d)試料気化室に供給されるキャリヤガス流量を一定にしつつ、通常は試料気化室内の圧力が所定値となるように排出ガス流量調節手段を制御するとともに、液体試料が試料気化室に注入された直後は該圧力制御を一時停止する圧力制御手段と、を備えることを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】 上記圧力制御手段が、d1)該一時停止中の試料気化室内の圧力を記憶する圧力記憶手段と、d2)該一時停止が終了して通常制御に戻った際に、記憶した圧力の値に基づいて制御目標圧力値を変化させる目標値変更手段と、を有することを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【特許番号】特許第3424432号(P3424432)
【登録日】平成15年5月2日(2003.5.2)
【発行日】平成15年7月7日(2003.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−108477
【出願日】平成8年4月3日(1996.4.3)
【公開番号】特開平9−274026
【公開日】平成9年10月21日(1997.10.21)
【審査請求日】平成14年3月14日(2002.3.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【参考文献】
【文献】特開 平5−288737(JP,A)
【文献】特開 平8−233792(JP,A)
【文献】特開 平8−240577(JP,A)
【文献】特開 平9−96628(JP,A)
【文献】特開 平8−297115(JP,A)
【文献】特開 平8−327618(JP,A)
【文献】特開 平9−264887(JP,A)
【文献】実開 平5−27668(JP,U)